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特許7548931測定又は検査装置及び表面を測定又は検査する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】測定又は検査装置及び表面を測定又は検査する方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/84 20120101AFI20240903BHJP
【FI】
G03F1/84
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021556661
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2020056667
(87)【国際公開番号】W WO2020187690
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】102019203880.8
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ホルデラー フーベルト
(72)【発明者】
【氏名】マルクス オエル
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン スキャッパー
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】松川 直樹
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-175324(JP,A)
【文献】特開2010-139593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0195376(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017202244(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F1/00-1/86
G03F7/20
G01N21/84
G01B11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定又は検査対象の物体(2)の表面(2a)を測定又は検査するレンズ(4)と、
前記物体(2)の前記表面(2a)と前記レンズ(4)との間の中間空間(17)にパージガス流(16)を供給するパージデバイス(15)と
前記物体(2)と前記レンズ(4)の最終物体側光学素子(8)との間に取り付けられた板状の流れガイド素子を形成するコンポーネント(18)と
を備えた、測定又は検査装置(1)であって、
前記コンポーネント(18)は、金属、半導体を含む群から選択される前記物体(2)の前記表面(2a)の材料に応じて、前記物体(2)の前記表面(2a)と同じ材料でできた表面(18a)を有するコンポーネント(18)が選択され
前記パージデバイス(15)は、前記中間空間(17)への前記パージガス流(16)の導入前に前記コンポーネント(18)の前記表面(18a)に沿って前記パージガス流(16)を導くよう設計される測定又は検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定又は検査装置において、前記コンポーネント(18)は、前記レンズ(4)に着脱可能に固定される測定又は検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の測定又は検査装置において、0.2mm未満のギャップ幅(B)を有する環状ギャップ(23)が、前記流れガイド素子(18)と前記最終物体側光学素子(8)との間に形成される測定又は検査装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の測定又は検査装置において、前記流れガイド素子(18)は、前記中間空間(17)に前記パージガス流(16)を供給するための中央の開口(24)を有する測定又は検査装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の測定又は検査装置において、前記最終物体側光学素子(8)を少なくとも部分的に環状に囲む環状空間(22)に前記パージガス流(16)を供給するための少なくとも1つのさらなる入口開口(20)を有する、環状のさらなるコンポーネント(19)をさらに備えた測定又は検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の測定又は検査装置において、前記さらなるコンポーネント(19)は、前記環状空間(22)を向いたその表面(19a)及び/又は前記入口開口(20)の内側(19b)が、測定又は検査対象の前記物体(2)の前記表面(2a)と同じ材料でできている、さらなるコンポーネント(19)が選択される測定又は検査装置。
【請求項7】
請求項5に記載の測定又は検査装置において、前記環状空間(22)は、前記レンズ(4)の内部(25)に前記パージガス流(16)の一部(16a)を供給するための少なくとも1つのさらなる入口開口(26)を有する測定又は検査装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の測定又は検査装置において、前記流れガイド素子(18)と測定又は検査対象の前記物体(2)との間の距離(A)は、2.0mm以下である測定又は検査装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の測定又は検査装置において、前記最終物体側光学素子はレンズ素子(8)を形成する測定又は検査装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の測定又は検査装置において、前記コンポーネント(18)及び/又は前記さらなるコンポーネント(19)は、測定又は検査対象の前記物体の前記表面(2a)と同じ材料でできたコーティングを有する測定又は検査装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の測定又は検査装置において、前記コンポーネント(18)及び/又は前記さらなるコンポーネント(19)は、測定又は検査対象の前記物体の前記表面(2a)と同じ材料でできている測定又は検査装置。
【請求項12】
体(2)を測定又は検査する方法であって、
レンズ(4)の物体面(3)に配置された測定又は検査対象の前記物体(2)の表面(2a)を測定又は検査するステップと、
測定又は検査対象の前記物体(2)の前記表面(2a)と前記レンズ(4)との間の中間空間(17)にパージガス流(16)を供給するステップと
を含む方法において、
測定又は検査対象の前記物体の前記表面(2a)の材料は、金属、半導体を含む群から選択され、
前記中間空間(17)への前記パージガス流(16)の導入前に該パージガス流(16)をコンポーネント(18)の表面(18a)に沿って導き、該表面(18a)は測定又は検査対象の前記物体(2)の前記表面(2a)と同じ材料でできており、前記コンポーネントは、前記レンズ(4)の最終物体側光学素子(8)と前記物体(2)との間に取り付けられた板状の流れガイド素子(18)を形成することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記物体の前記表面(2a)の測定又は検査前に前記コンポーネント(18)を前記レンズ(4)に着脱可能に固定するステップ
をさらに含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2019年3月21日の独国特許出願第10 2019 203 880.8号の優先権を主張し、その全開示を参照により本願の内容に援用する。
【0002】
本発明は、測定又は検査対象の物体と、物体の表面を測定又は検査するレンズと、物体の表面とレンズとの間の中間空間にパージガス流を供給するパージデバイスとを備えた、測定又は検査装置、特にマスク検査装置に関する。本発明は、物体、特にマスクを検査又は測定する方法であって、レンズの物体面に配置された測定又は検査対象の物体の表面を測定又は検査するステップと、測定又は検査対象の物体の表面とレンズとの間の中間空間にパージガス流を供給するステップとを含む方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
半導体産業用の表面の、特に、例えばEUV波長域用のミラー、レンズ素子、ウェーハ、及びリソグラフィマスクの測定、結像、及び検査には、UV及び可視波長域用のレンズが概して用いられる。これらのレンズは、多様な光学設計に従って設計することができる(屈折、反射、反射屈折)。物体の表面を検査する場合、表面上に(例えば粒子の形態の)特徴があるか否かが判定される。測定中に、特徴の実際のサイズが測定される(例えば、線幅等)。
【0004】
このようなレンズは、特に、保護されていない表面の測定又は検査に用いることができる。検査又は測定対象の物体は、ケイ素、銅、アルミニウム等の金属材料からなる場合もある。銅等のこれらの材料のいくつかは、硫黄等の特定の不純物に非常に敏感に反応する。物体をこれ又は他の不純物から保護するために、物体又は物体の表面とレンズとの間の中間空間にパージガス流を導入することができる。パージガスは、通常は不活性ガス、例えば窒素、又は希ガスである。
【0005】
しかしながら、パージガス流自体が不純物、例えば少量の硫黄原子を含む可能性を否定できない。レンズに用いる光学ガラスを保持する金属マウントに低硫黄鋼を用いるにもかかわらず、極少量の硫黄、特に個々の硫黄原子がマウントを離れてパージガス流を介して物体に達する可能性を否定できないので、レンズ自体も不純物源を形成する可能性があり得る。物体への個々の硫黄原子の堆積さえも、硫黄原子が堆積する領域を使用不可能にする可能性があり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、測定又は検査中の物体の表面への不純物の堆積を可及的に回避する、測定又は検査装置、特にマスク検査装置、及び物体を測定又は検査する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできた表面を有する(少なくとも)1つのコンポーネントを有し、且つパージデバイスが中間空間へのパージガスの導入前にコンポーネントの表面に沿ってパージガスを導くよう設計される、前述のタイプの測定又は検査装置により達成される。
【0008】
本発明によれば、測定又は検査対象の物体の、例えばミラー又はミラー基板又はマスクの表面を取り巻くパージガス流の、したがって雰囲気の後洗浄を実行することが提案される。この目的で、パージガス流は、測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできた少なくとも1つのさらなるコンポーネントに沿って導かれる。パージガス流が含有しており、そのままではレンズと物体との間の中間空間に入って物体の表面、通常はミラー、マスク等の表面に堆積してしまう不純物が、コンポーネントの表面を用いて回収される。パージガス流を表面に沿って導くことは、パージガス流を表面に接触させることを意味すると理解され、したがってパージガス流がコンポーネントの表面と実質的に平行に進む必要は必ずしもなく、パージガス流は、表面に対して実質的に垂直にコンポーネントに当たることもできる。
【0009】
できるだけ多くの不純物を回収するために、物体の表面と同じ材料でできたコンポーネントの表面が最大限の表面積を有すれば有利である。測定又は検査対象の物体表面と同じ材料でできた表面は、本願の意味では、各表面の材料が同じ化学組成を有する、すなわち両方の表面が例えばCu、Si、SiC、又はAlでできていることを意味すると理解される。言うまでもなく、コンポーネントの表面の材料は、例えば硫黄の形態の不純物を表面が吸収する前に存在する材料を意味すると理解される。コンポーネントの表面は、コンポーネントの片側全体に、例えばその表側全体又は裏側全体に延び得るが、表面がコンポーネントの各側の部分領域のみを覆うことも可能である。
【0010】
一実施形態において、コンポーネントは、レンズに特に着脱可能に固定される。原理上は、コンポーネントをレンズに固定する必要は必ずしもなく、すなわち、コンポーネントを測定又は検査装置の別の保持構造に固定してもよい。しかしながら、概して、コンポーネントはレンズに固定され、必要であればコンポーネントの交換を可能にするために、特に、例えばねじ接続、スナップ接続等を介した着脱可能な固定が有利であることが分かっている。これは例えば、コンポーネントの表面が非常に多くの不純物を吸収したので表面がそれ以上不純物を吸収せず、したがって不純物回収機能を失った場合に必要であり得る。異なる材料でできた表面を有する物体を測定又は検査する場合に、コンポーネントを交換することもできるか、又は交換しなければならない場合がある。
【0011】
さらに別の実施形態において、コンポーネントは、レンズの最終物体側光学素子と物体との間に取り付けられた板状の流れガイド素子を形成する。このような流れガイド素子は、例えば、円形又は環状の板又はディスクの形態で設計され得る。流れガイド素子は、約3mm未満、通常は約1mmという小さな厚さを通常は有する。レンズの最終物体側光学素子は、比較的大きな直径を有するので、流れガイド素子も、例えば約60mm以上という比較的大きな直径を有し得る。パージガス流は、流れガイド素子の表側に沿って、すなわち流れガイド素子のうち最終物体側光学素子を向いた側に沿って通常は導かれる。したがって、この表面は、通常は測定又は検査対象の表面と同じ材料でできていると共に比較的大きな表面積を有し、これがパージガス流の洗浄効果を高める。
【0012】
さらに別の発展形態において、0.2mm未満、特に0.1mm未満のギャップ幅を好ましくは有する環状ギャップが、流れガイド素子と最終物体側光学素子との間に形成される。最終物体側光学素子の半径に実質的に対応する径方向のギャップの長さは、ギャップの幅に比べて比較的大きいので、測定又は検査対象の物体の表面に堆積し得る事実上全ての原子がある時点で流れガイド素子の表面と接触し、代わりにその表面に堆積する確率が高くなる。
【0013】
さらに別の発展形態において、流れガイド素子は、中間空間にパージガス流を供給するための特に中央の開口を有する。概して、ギャップ内のパージガス流は、実質的に径方向に外側から内側へ進み、ギャップを離れて中央開口を通り中間空間へ至る。流れガイド素子は、物体の測定又は検査に用いる放射線に対して透明ではない材料で通常はできている。よって、流れガイド素子の開口は、物体の表面を測定又は検査するために放射線を通過させる働きもする。
【0014】
さらに別の発展形態において、測定又は検査装置はさらに、最終物体側光学素子を少なくとも部分的に環状に囲む環状空間にパージガス流を供給するための少なくとも1つのさらなる入口開口を有する、さらなる特に環状のコンポーネントを備える。パージデバイスは、概してパージガス貯留部を有し、そこからパージガスが取り出されて1つ又は複数の供給ラインを介してレンズに供給される。この場合、パージガス流は、環状コンポーネントの1つ又は複数の通常は径方向に延びる入口開口を介して環状空間に供給される。環状空間から、パージガス流は、最終物体側光学素子の円形外周全体にわたってギャップに入ることができるのが理想的であり、その結果として、実質的に均一なパージガス流がギャップ内で径方向に発生する。しかしながら、板状の流れガイド素子の開口を通り中間空間に入るパージガス流に優先方向があり、すなわち、開口の中心に向かって均一に流れないことが有利であると分かっている。これは、そうでなければ開口の中心に、又は測定又は検査対象の物体の表面に、パージガス流の流速が事実上ゼロであるよどみ点が形成されるからである。
【0015】
さらに別の発展形態において、さらなるコンポーネントは、環状空間を向いたその表面及び/又は入口開口の内側が、測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできている。流れガイド素子の代替として又はそれに加えて、パージガス流を導くレンズの他のコンポーネントがレンズに、例えばレンズのハウジングに着脱可能に固定される場合に特に、これらのコンポーネントも、測定又は検査対象の表面と同じ材料でできた表面を有することができる。これは一般に、板状の流れガイド素子が通常取り付けられる又は固定されるさらなる環状コンポーネントに当てはまる。流れガイド素子は、環状コンポーネントに特に永久接続され得る。この場合、さらなる環状コンポーネントは、通常はレンズに着脱可能に接続され、その結果として、さらなるコンポーネントの固定が解除されると板状の流れガイド素子もレンズから取り外される。
【0016】
さらに別の発展形態において、環状空間は、レンズの内部にパージガス流の一部を供給するための少なくとも1つのさらなる入口開口を有する。この場合、一部がパージガス流から分岐してレンズの内部のパージに用いられる。レンズの内部は、マウントとレンズの光学素子との間の中間空間により形成される。レンズと測定又は検査対象の表面との間の中間空間のパージと、レンズの内部のパージとに環状空間を同時に用いることが有利であることが判明している。
【0017】
さらに別の発展形態において、流れガイド素子と測定又は検査対象の物体との間の距離は、2.0mm以下である。例えばマスク又はミラーの形態の物体の表面の測定又は検査に用いられるレンズは、比較的大きな物体側開口数を有するべきなので、この目的には小さな作動距離が概して要求される。
【0018】
さらに別の発展形態において、最終物体側光学素子はレンズ素子である。異なる光学設計のレンズは、物体側の開口が異なる。必要な光学有効径(optically free diameter)は、コンポーネントにより覆われないことがここでは重要である。
【0019】
一実施形態において、コンポーネント及び/又はさらなるコンポーネントは、測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできたコーティングの形態の表面を有する。コーティングは、概して測定又は検査対象の物体の表面とは異なる材料でできたコンポーネントの本体の各表面に付与される。コーティングは、従来のコーティング法、例えば気相からの堆積、特にスパッタリング等を用いて付与される。コーティングの付与が特に有用なのは、例えばコーティングの材料がケイ素等の半導体である場合に、この材料が適切な機械的特性を有しないのでコンポーネント全体をこの材料から製造するのに適さない場合である。
【0020】
さらに別の一実施形態において、コンポーネント及び/又はさらなるコンポーネントは、測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできている。この場合、コンポーネント全体、又は多部品コンポーネントの場合は表面を有するコンポーネントの少なくとも1つの部品は、測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできており、コーティングを付与する必要がないことを意味する。物体の表面の材料が金属材料、例えば銅である場合、例えば板状の流れガイド素子の形態のコンポーネントを製造するのに十分な機械的安定性を通常は有するので、これは通常有利である。
【0021】
一実施形態において、測定又は検査対象の物体の表面の材料は、金属、特に銅、半導体、特にケイ素、炭化ケイ素、又はアルミニウムを含む群から選択される。物体の測定又は検査は、コーティングされていない物体で行うことができる。物体の表面の材料は、この場合は物体全体を形成する材料に相当する。物体が複数の層又はプライを有する場合、物体の表面の材料は、物体の最上層の材料に相当する。原理上はコーティングされた物体で測定又は検査を実行することも可能である。この場合、表面の材料は、コーティングの最上プライの材料に相当する。
【0022】
本発明は、中間空間へのパージガス流の導入前にパージガス流をコンポーネントの表面に沿って導き、上記表面は測定又は検査対象の物体の表面と同じ材料でできている、前述のタイプの方法にも関する。このように、そのままでは物体の表面に堆積してしまう不純物がコンポーネントの表面に回収されることにより、物体の測定又は検査中にパージガス流の後洗浄を実行することができる。
【0023】
一変形形態において、本方法は、物体の表面の測定又は検査前にコンポーネントをレンズに着脱可能に固定するステップを含む。この場合、測定又は検査対象の各物体の表面の材料に応じて、パージガス流を導く表面の材料がそれぞれ異なるいくつかのコンポーネントの群から、同じ材料でできた表面を有する各コンポーネントを選択することが可能である。しかしながら、概して、銅は他の材料でできた物体の汚染物質となるので、銅物体の測定又は検査に用いたレンズは、このような物体、例えばSi物体の測定又は検査に用いられることはない。表面上の不純物を収容又は吸収する能力を超えた場合に、コンポーネントを交換することもできる。
【0024】
本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明に不可欠な詳細を示す図面を参照した以下の本発明の例示的な実施形態の説明と特許請求の範囲とから明らかである。個々の特徴は、本発明の一変形形態において単独で又は複数を任意に組み合わせてそれぞれ実施することができる。
【0025】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下の説明で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】検査対象の表面がレンズの物体面に配置された、マスクの形態の物体を検査するレンズを有するマスク検査装置の概略図を示す。
図2】検査対象の表面と同じ材料でできた表面を有する板状の流れガイド素子と、流れガイド素子の表面に沿ってパージガス流を導くパージデバイスとを備えたレンズの詳細図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図面の以下の説明では、同一の参照符号を同一又は機能的に同一のコンポーネントに用いる。
【0028】
図1は、マスクの形態の物体2を検査する検査装置1を概略的に示す。物体2、より正確には検査対象の物体2の表面2aが、反射屈折レンズ4の物体面3に配置される。レンズ4は、物体面3に隣接して配置された光学アセンブリ5を有する。
【0029】
レンズ4は、検査対象の表面2aを結像するための複数のミラー5a、b及び複数のレンズ素子6、7、8を有する。レンズ4の個々のレンズ素子6、7、8及び/又はミラー5a、bは、この場合はレンズ4の中心軸13に対して対称に配置され得る。レンズ4のレンズ素子及びミラーの数は、図示の数に限定されないことに留意されたい。より多くの又はより少ないレンズ素子及び/又はミラーを設けることもできる。さらに、ミラー5a、bは、ビーム整形のために表側が概して湾曲している。特に、ミラー5a、bをなくしてもよく、すなわちレンズ4を屈折型に設計してもよい。
【0030】
レンズ4に加えて、マスク検査装置1は、レンズ4の上流のビーム経路に配置された屈折及び/又は透過光学素子を有するが、これらは簡単のために図1には図示しない。図1に示すレンズ4は、400nm未満、300nm未満、又は場合によっては200nm未満の広帯域UV放射線で動作するよう設計される。広帯域UV放射線は、通常は数ナノメートル、場合によっては数十ナノメートルの波長域を包含することを意味すると理解される。
【0031】
図2は、レンズ4の最終物体側光学素子を形成し且つ物体2の表面2aに対向して配置された光学素子としてのレンズ素子8の1つにより、図1からのレンズの詳細を非常に概略的に示す。検査装置1は、図2に非常に概略的に示すパージデバイス15も有する。パージデバイス15は、レンズ4と検査対象の物体2の表面2aとの間の中間空間17にパージガス流16を供給する働きをする。パージデバイス15は、パージガス貯留部(図示せず)を有し、そこから例えば窒素の形態のパージガスを取り出すことができる。パージガス又はパージガス流16は、供給ライン(図示せず)を介してパージデバイス15によりレンズ4に供給される。
【0032】
図2に示す例では、板状の流れガイド素子18の形態のコンポーネントがレンズ4に取り付けられる。流れガイド素子18は、さらなる環状コンポーネント19に取り付けられ、これは、レンズ4にパージガス流16を供給するための複数の径方向に延びる入口開口20を有する。さらなるコンポーネント19は、ねじ接続等を介してレンズ4に、より正確にはレンズ4の実質的に円筒形のハウジング21に着脱可能に接続される。流れガイド素子18及び環状コンポーネント19は、レンズ4から(非破壊的に)一緒に取り外すことができる。板状の流れガイド素子18は、レンズ4の閉鎖素子として、すなわち周囲に対するレンズ4の仕切りとして働く。
【0033】
パージデバイス15により入口開口20を介して環状コンポーネント19に供給されたパージガス流16は、最初に環状空間22に入り、これは、最終物体側光学素子8の全高には及ばないがレンズ4の最終物体側光学素子8をリングの形状で囲む。環状空間22から始まり、パージガス流16は、レンズの最終物体側光学素子8の裏側8bとレンズ4の最終物体側光学素子8の裏側8bを向いた板状の流れガイド素子18の表面18aとの間に形成された環状ギャップ23に入る。環状ギャップ23は、通常は約0.2mm未満の実質的に一定のギャップ幅Bを有する。パージガス流16は、ギャップ23から板状の流れガイド素子18に形成された中央開口24を介して中間空間17に入る。流れガイド素子18の中央開口24は、物体2の表面2aに入射するUV放射線が流れガイド素子18により遮られないように最終物体側光学素子8の光学有効径よりもわずかに大きな直径を有する。
【0034】
環状空間22は、通常は環状ギャップ23よりも高さが大きく、環状空間22の高さは、例えば約0.6mm以上の大きさであり得る。環状空間22では、マウント25と最終物体側光学素子8との間にさらなる入口開口26が形成され、これを通してパージガス16の一部16aが分岐してレンズ4をパージするためにその内部27に供給される。しかしながら、言うまでもなく、レンズ4のパージは、図2に示す分岐パージガス流16aを用いて行われる必要はなく、所望であれば他のパージガス流をこの目的で用いることができる。
【0035】
図2でも分かるように、流れガイド素子18、より正確には物体2を向いた流れガイド素子18の裏側18bと物体2の表側の検査対象の表面2aとの間の距離Aは、比較的小さく、概して約2.0mm以下である。距離Aは、パージガス流16が流れガイド素子18の中央開口24を介して供給される中間空間17の幅に対応する。図2に示す例では、パージガス流16は、ギャップ23を介して完全に径方向に対称に開口24を通過するのではなく、優先方向を有する。このような優先方向は、例えば、最終物体側光学素子8の裏側8a及び/又は板状の流れガイド素子18の表側を適切に構造化することにより発生させることができる。パージガス流16の優先方向の発生は、開口24の領域におけるパージガス流16のよどみ点の形成を防止するためのものである。
【0036】
パージガス流16は、物体2の表面2a上の不純物を確実になくすためのものである。しかしながら、パージガス流16自体が不純物、例えば少量の硫黄を含み得る。これらの不純物は、例えば少量の硫黄を含有するレンズ4の金属マウントに迷光が入射すると、例えばパージデバイス15の供給ライン又はレンズ4で放出され得る。
【0037】
したがって、パージガス流16が流れガイド素子18の開口24を介して中間空間17に導入される前に、パージガス流16は、板状の流れガイド素子18の表側に沿って導かれることにより後洗浄される。図2に示す例では、流れガイド素子18の表側の表面18aは、物体2の表面2aと同じ材料からなるコーティングとして設計され、すなわち、流れガイド素子18の表面18aは、不純物のコレクタ(「ゲッタ」)として働く。よって、パージガス流16が洗浄されない場合、物体2の表面2a上と同じ不純物が流れガイド素子18の表面18aに堆積する。図2に示す例では、物体2は銅を含有するマスクであり、板状の流れガイド素子18の表側の表面18a又はコーティングも銅でできている。代替として、物体2はミラー、例えば銅ミラー、又は例えば銅でできたミラー用の基板であり得る。
【0038】
最終物体側光学素子8と板状の流れガイド素子18との間のギャップ23は、比較的小さなギャップ幅Bを有し、さらに最終物体側光学素子8は、例えば約30mm以上という比較的大きな半径(環状空間22から中心軸13までの径方向のギャップ23の長さに略対応する)を有するので、個々の硫黄原子がある時点で板状の流れガイド素子18の銅表面18aに入射してそこに付着する確率が非常に高い。よって、硫黄は、物体2の銅表面2aに達する前に板状の流れガイド素子18の表面18aの銅材料により捕捉される。コーティングの形態の表面18aの上記構成の代替として、板状の流れガイド素子18全体、又は場合によっては特にその表側の一部が、物体2の表面2aと同じ材料でできていてもよい。例えば、板状の流れガイド素子18は、銅板として設計され得る。図示の例では、流れガイド素子18は、レンズ素子8の曲率に適合した円錐部をギャップ23の領域に有する。言うまでもなく、平面状の裏側8bを有する最終光学素子の場合、流れガイド素子18の円錐部を省くことができる。
【0039】
板状の流れガイド素子18の銅表面18aが、新たな硫黄が物体2の表面2aに再到達するほど多くの硫黄をある時点で吸収してしまった場合、板状の流れガイド素子18をレンズ4から取り外して、まだ硫黄を吸収していない別の板状の流れガイド素子18と交換することにより、板状の流れガイド素子18を取り換えることができる。この目的で、特にさらなる環状コンポーネント19をレンズ4から取り外すことができる。
【0040】
異なるタイプの物体2又は表面2aの材料が異なる物体2を検査装置1により検査しようとする場合、銅表面18aを有する図2に示す板状の流れガイド素子18は、異なる材料でできた流れガイド素子18と交換することもできる。例えば、ケイ素表面2aを有する物体2の検査には、ケイ素でできた物体2の表面2aに堆積すべきでない原子又は分子の形態の不純物を捕捉するために、板状の流れガイド素子18の表側にケイ素表面18a又はケイ素のコーティングを設けることができる。
【0041】
銅は、物体2を通常形成する他の大半の材料にとって、例えばアルミニウム、又は半導体、例えばSi、SiC等にとって不純物となるので、通常は、銅でできた物体2の検査又は測定に用いたレンズ4は、他のタイプの物体2の検査又は測定に用いられることはない。したがって通常は、レンズ4が他のタイプの物体2の検査又は測定ではなく銅物体2の検査又は測定のみに用いられることが確実である場合にのみ、銅表面18aを有する板状の流れガイド素子18がレンズ4に取り付けられる。レンズ4の製造中には、レンズ4が銅物体の測定又は検査に用いられるかどうか分からないので、レンズ4の製造時の銅の使用は賢明ではない。こうした理由からも、流れガイド素子18がレンズ4に着脱可能に取り付けられれば有利である。
【0042】
板状の流れガイド素子18に加えて又はその代替として、レンズ4の他のコンポーネントにも物体2の表面2aの材料に対応する材料でできた表面を設けることができる。例えば、板状の流れガイド素子18が固定される環状コンポーネント19は、環状開口22を向いたその表面19a及び/又は入口開口26の内側19bに、物体2の表面2aと同じ材料を有し得る。環状コンポーネント19もレンズ4に着脱可能に固定されるので、これは有利である。しかしながら、言うまでもなく、レンズ4に永久接続されたコンポーネントも、パージガス流16が流れ且つ不純物の捕捉に用いることができる表面を任意に有することができる。
【0043】
検査装置1又はレンズ4は、図1に示す光学設計を必ずしも有しなくてもよく、任意に異なる方法で設計することができることも理解される。最終物体側光学素子8の直径が大きいほど、板状の流れガイド素子18の表面18aが大きくなり、パージガス流16が(同じギャップ幅Bで)よりよく洗浄される。リソグラフィマスクミラー、例えばEUVミラーの形態の物体2ではなく、検査装置1を用いて、半導体産業で用いる他の物体、例えばレンズ素子、ミラー、例えばEUVミラー又はそれに類するものを検査することもできる。検査装置1を用いた、例えば表面2aに存在する粒子に関する物体2の検査ではなく、適切に設計された測定装置を用いて物体2を測定することもできる。このような測定により、線幅等の物体2の幾何学的特徴を求める又は測定することができる。
図1
図2