(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】粒子解析装置および粒子解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2251 20180101AFI20240903BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G01N23/2251
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2023523814
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2021020018
(87)【国際公開番号】W WO2022249343
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 明子
(72)【発明者】
【氏名】大南 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松本 絵里乃
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-142143(JP,A)
【文献】特開2014-224793(JP,A)
【文献】特開2017-72593(JP,A)
【文献】特開2014-7032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0189369(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被解析対象となる所定の粒子を器材に載せて電子顕微鏡で解析するための粒子解析装置であって、
前記粒子解析装置は、電子顕微鏡画像における明るさに関する第1標準値および第2標準値を取得し、
前記粒子解析装置は、前記器材および前記粒子に電子ビームを照射することを介して生成された電子顕微鏡画像および信号プロファイルを取得し、
前記粒子解析装置は、前記第1標準値と、前記第2標準値と、前記信号プロファイルとに基づき、前記電子顕微鏡画像の明るさを調整
し、
前記器材は、前記電子顕微鏡で観察した場合に、前記粒子とは明るさが異なる第1領域と、前記粒子および前記第1領域とは明るさが異なる第2領域とを備え、
前記第1標準値は、前記第1領域の明るさに基づいて決定された値であり、
前記第2標準値は、前記第2領域の明るさに基づいて決定された値である、
粒子解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子解析装置であって、
前記粒子解析装置は、粒子の種類および器材の種類を取得し、前記粒子の種類および前記器材の種類に基づいて前記第1標準値および前記第2標準値を取得する、
粒子解析装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の粒子解析装置であって、
前記第1領域を構成する材料と、前記第2領域を構成する材料とは異なる、
粒子解析装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の粒子解析装置であって、
前記第1領域および前記第2領域は、前記器材の立体構造において互いに異なる部分である、
粒子解析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の粒子解析装置であって、
前記粒子は染色された粒子である、
粒子解析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の粒子解析装置であって、
前記器材および前記粒子に電子ビームを照射する電子銃と、
前記電子ビームの照射によって生じる電子を検出する検出器と、
明るさが調整された後の電子顕微鏡画像を出力する画像出力部と、
を備える粒子解析装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の粒子解析装置であって、
オフラインで前記電子顕微鏡画像の明るさを調整する、
粒子解析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の粒子解析装置であって、
前記器材は、前記器材を貫通する貫通穴を有し、前記貫通穴の径は前記粒子の短径より小さい、
粒子解析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の粒子解析装置であって、
前記粒子解析装置は、前記信号プロファイルを出力し、
前記粒子解析装置は、第1目標値および第2目標値を取得し、
前記粒子解析装置は、前記信号プロファイルにおいて前記第1標準値を前記第1目標値に変換し、前記第2標準値を前記第2目標値に変換するための変換式を決定し、
前記粒子解析装置は、前記電子顕微鏡画像の明るさに前記変換式を適用することにより、前記電子顕微鏡画像の明るさを調整する、
粒子解析装置。
【請求項10】
被解析対象となる所定の粒子を器材に載せて電子顕微鏡で解析するための粒子解析方法であって、
電子顕微鏡画像における明るさに関する第1標準値および第2標準値を取得することと、
前記器材および前記粒子に電子ビームを照射することを介して生成された電子顕微鏡画像および信号プロファイルを取得することと、
前記第1標準値と、前記第2標準値と、前記信号プロファイルとに基づき、前記電子顕微鏡画像の明るさを調整することと、
を備
え、
前記器材は、前記電子顕微鏡で観察した場合に、前記粒子とは明るさが異なる第1領域と、前記粒子および前記第1領域とは明るさが異なる第2領域とを備え、
前記第1標準値は、前記第1領域の明るさに基づいて決定された値であり、
前記第2標準値は、前記第2領域の明るさに基づいて決定された値である、
粒子解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子解析装置および粒子解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料分野からバイオ分野、環境分野に至るまで、百ナノメートルから数百マイクロメートル程度の粒子の解析および評価が非常に重要となっている。材料分野では、近年のナノ・マイクロテクノロジーの発展から、粒子を利用する産業が増加している。例えば、電子回路の微細化に伴うコンデンサに使う誘電体粒子や、電池の大容量化に伴う電極材に使う導電性微粒子などである。製造の観点では、これら粒子の性状評価とともに、材料製造プロセスで混入する異物粒子の解析が重要である。またバイオ・メディカル分野では、例えば、がん細胞、血球、細菌、ウイルス、凝集体などの粒子が、臨床検査などで解析される。一方、環境分野では、産業の発展の負の側面として、例えば、アスベスト、マイクロプラスチック、微小粒子状物質(PM2.5)などの環境・健康問題を引き起こす粒子が解析される。このように、粒子の解析は、粒子自体を産業利用するのみならず、製造プロセス、疾患、環境などの評価指標としても重要である。
【0003】
例に挙げた粒子に限らず、微細な粒子を詳細に解析するためには、電子顕微鏡を用いることができる。電子顕微鏡はナノメートルサイズの分解能を持つため、前述の粒子の解析に必要な性能を有している。特許文献1では、微粒子一個一個を捕集したままで電子ビームを照射することにより粒子を解析する方法が開示されている。
【0004】
一般的に、電子顕微鏡を用いた解析では、真空環境の試料室に標本を設置して電子ビームを照射するため、空気中や溶液中に分散した状態の粒子をそのまま解析することは困難である。そこで、空気中や溶液中に分散した状態の粒子を電子顕微鏡で解析するためには、電子顕微鏡試料室に導入可能な器材に、被解析対象の粒子を捕集して、乾燥した標本を作製し、器材上の粒子に電子ビームを照射する方法が用いられることが多い。
【0005】
特許文献2では、分級器によって分級された特定の粒子径以下の大気中微粒子を、トラックエッチドメンブレンフィルター上に捕集し、トラックエッチドメンブレンフィルター上の微粒子に電子ビームなどを照射することにより、微粒子を分析する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、ペーストに含まれる粒子を分離して乾燥塗膜として標本を作製し、走査電子顕微鏡で観察して、画像解析によって粒子を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-163872号公報
【文献】特開2017-72593号公報
【文献】特開2015-161536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、電子顕微鏡画像の明るさの調整が困難であるという課題があった。
【0009】
電子顕微鏡で粒子を解析する際には、前述した特許文献2のように、粒子を器材に載せた標本を作製することが一般的である。さらにある条件に置かれた粒子を対照の粒子と比較して検査する場合には、条件ごとに粒子をサンプリングしてそれぞれの標本を作製し、標本ごとに電子顕微鏡で解析して、各画像を比較することが多い。つまり、同一画像内で異なる条件に置かれた粒子を比較するのではなく、異なる複数の画像間で比較することが多い。
【0010】
例えば異なる製造プロセスで生成された微粒子を比較して検査する場合、製造プロセスごとに生成された微粒子の一部をサンプリングして器材に載せた標本を作製し、各標本の電子顕微鏡画像を取得する。あるいは細胞のような生物由来粒子の大きさや形などの異常度を検査する場合には、正常細胞と異常細胞を器材に載せた標本を作製し、各標本の電子顕微鏡画像を取得する。また細胞などの経時変化を検査する場合には、ある条件に置かれた細胞集団の一部を経時的にサンプリングしてそれぞれを器材に載せた標本を作製し、各標本の電子顕微鏡画像を取得する。また、環境中の微粒子濃度の変化などをモニタリングする場合には、経時的にサンプリングしてそれぞれを器材に載せた標本を作製し、各標本の電子顕微鏡画像を取得する。
【0011】
例に挙げたような検査やモニタリングでは、被解析対象の粒子や解析目的に合わせて、ある決まった種類の標本用器材や解析装置を用いて解析する場合が多い。そして、対照の標本、あるいは異なる条件でサンプリングされた複数の粒子標本などの複数の画像を、ある基準を以て、比較することが多い。
【0012】
ここで、複数の画像をある基準を以て比較するための電子顕微鏡画像取得条件として、別々に取得された画像間で、明るさやコントラストなどの画像調整条件が揃っていることが望ましい。
【0013】
その理由として、画像解析の容易さが挙げられる。例えば、電子顕微鏡画像に器材と粒子の領域が混在する場合に、粒子の画像領域を抽出する方法として、背景である器材領域と粒子領域を分割できる閾値で画像を二値化することにより、粒子領域を抽出する方法が知られている。
【0014】
ここで、ある粒子を解析する時に、同じ種類の器材に載せて、画像の明るさとコントラスト調整を一定にしていれば、別々に取得された画像でも、原理的には同じ閾値で画像を二値化することができる。
【0015】
あるいは、人工知能を用いて画像を解析する場合にも、学習画像や評価画像の取得条件が一定であれば、より精度の高い画像解析結果を得ることが可能になる。
【0016】
しかしながら、複数の標本を解析するために複数の検査装置を並列して使用する場合や、あるいは電子ビームを照射する電子銃の状態の変化、あるいはその他の要因により、同じ明るさとコントラスト調整で別々の画像を取得することは容易ではない。この問題に対処する方法の一つとして、予め用意された標準試料を用いて、画像調整条件を合わせる方法がとられている。しかしながら、この場合は、被解析対象粒子とは別に作製した標準試料を電子顕微鏡試料室に出し入れをしたり、あるいは視野を変更したりして、調整を繰り返さなければならない場合がある。
【0017】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、電子顕微鏡画像の明るさの調整をより容易にする、粒子解析装置および粒子解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る粒子解析装置の一例は、
被解析対象となる所定の粒子を器材に載せて電子顕微鏡で解析するための粒子解析装置であって、
前記粒子解析装置は、電子顕微鏡画像における明るさに関する第1標準値および第2標準値を取得し、
前記粒子解析装置は、前記器材および前記粒子に電子ビームを照射することを介して生成された電子顕微鏡画像および信号プロファイルを取得し、
前記粒子解析装置は、前記第1標準値と、前記第2標準値と、前記信号プロファイルとに基づき、前記電子顕微鏡画像の明るさを調整する。
【0019】
本発明に係る粒子解析方法の一例は、
被解析対象となる所定の粒子を器材に載せて電子顕微鏡で解析するための粒子解析方法であって、
電子顕微鏡画像における明るさに関する第1標準値および第2標準値を取得することと、
前記器材および前記粒子に電子ビームを照射することを介して生成された電子顕微鏡画像および信号プロファイルを取得することと、
前記第1標準値と、前記第2標準値と、前記信号プロファイルとに基づき、前記電子顕微鏡画像の明るさを調整することと、
を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る技術によれば、電子顕微鏡画像の明るさの調整がより容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施例1による標本の構成と標本画像の例の概略図
【
図3】実施例1による画像の明るさおよびコントラスト調整例の概略図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
実施例1では、電子顕微鏡で粒子を解析する際に、粒子を器材に載せた標本を作製する。
【0024】
粒子とは以下のものを含むが、これらに限定されない。
‐粉砕、焼結、または結晶化により形成される粒子
‐腐食によって、メッキによって、または電池等の化学反応によって、表面に析出または形成される段差や模様などの立体構造
‐材料の劣化またはエッチングにより発生する空孔または傷
‐外部要因として生成される異物
‐有機物であるファイバー、マイクロプラスチック、花粉、血球、細胞、細菌、ウイルス、蛋白質凝集体、またはそれらの複合体
【0025】
本実施例では、器材としてプラスチックやセルロース系の膜を例に挙げるが、それらに限られることはない。本実施例の器材は、被解析対象となる粒子の電子顕微鏡画像を得られる面を有しており、例えば金属板、ガラス板、シリコン基板、金属メッシュなどでもよく、また被解析対象の粒子よりも十分に小さい立体構造がある面でも構わない。
【0026】
本実施例の説明では、器材の中にあって器材背景とは画像の明るさが異なる領域として、膜に貫通した穴や繊維の重なりなどの、立体構造を由来とする画像明るさの違いを例に挙げるが、それらに限られることはない。例えば異なる素材を組み合わせて作った領域、プリントされたもの、またはそれらを複合したものも含まれる。
【0027】
<粒子解析装置の構成例>
本実施例の装置で解析する粒子標本の構成と標本画像の例を
図1を用いて説明する。
図1(a)において、101は標本内の被解析対象粒子であり、102は器材の上面図であり、103は被解析対象粒子の側面図であり、104は器材の側面図であり、105はSEM(走査型電子顕微鏡)試料ステージである。なお
図1および以降の図において、視線方向が異なる図に現れる同一の構成要素に異なる符号を付して示す場合がある。
【0028】
図1(b)において、106は、
図1(a)とは異なる複数標本用の器材上面図である。
【0029】
図1(c)において、107は標本内の被解析対象粒子のSEM画像の模式図であり、108は器材の背景領域のSEM画像の模式図であり、109は器材内の明るさが異なる領域のSEM画像の模式図である。この図は、必ずしも
図1(a)または
図1(b)の器材に対応するものではない。
【0030】
被解析対象粒子101、103は、器材102,104、106の上面に載っており、さらに器材はSEMの試料ステージ105に載っている。1枚の器材上に、粒子が載っている領域は一か所でも複数箇所でもよい。
図1(a)の例では一か所であり、
図1(b)の例では複数箇所(5列4段)である。
【0031】
粒子101を載せた領域をSEMで観察したときの標本画像の一例として、
図1(c)に、粒子107と、粒子107よりも画像明るさが暗い器材背景108と、背景よりさらに暗い領域109が存在する画像を示す。背景より暗い領域は、整列した同じサイズの複数の粒子状パターン(i)、整列していない同じサイズの複数の粒子状パターン(ii)、整列していない異なるサイズの粒子状パターン(iii)、整列した異なるサイズの粒子状パターン(iv)、および繊維状のパターン(v)の概略図を例としたが、これに限らない。
【0032】
また、器材背景と、器材の中にあって明るさが異なる領域として、被解析対象の粒子より暗い例を示したが、被解析対象の粒子と明るさが異なれば、両方あるいはいずれかが、被解析対象の粒子よりも明るくても構わない。
【0033】
このように、本実施例に係る粒子解析装置は、被解析対象となる所定の粒子を器材に載せて電子顕微鏡で解析するための装置である。器材は、電子顕微鏡で観察した場合に、粒子とは明るさが異なる第1領域(たとえば背景108)と、粒子および第1領域とは明るさが異なる第2領域(たとえば背景より暗い領域109)とを備える。
【0034】
第1領域を構成する材料と、第2領域を構成する材料とは異なっていてもよい。および/または、第1領域および第2領域は、器材の立体構造において互いに異なる部分であってもよい。このようにすると、電子顕微鏡画像における各領域の判別が容易である。
【0035】
粒子解析装置の概略構成を
図2を用いて説明する。
図2において、103は被解析対象粒子であり、104は器材であり、105は試料ステージであり、201はSEM試料室であり、202は鏡筒であり、203は器材および粒子に電子ビームを照射する電子銃であり、204は電子ビームであり、205は反射電子および二次電子であり、206は電子ビームの照射によって生じる電子を検出する検出器であり、207は電子光学系であり、208は検出信号であり、209は画像生成部であり、210はSEM制御部であり、211は画像調整部であり、212は画像出力部であり、213はモニターであり、214は画像解析部であり、215はデータベースである。モニター213は、後述するように、明るさが調整された後の電子顕微鏡画像を出力する画像出力部として機能する。このような構成を備えることにより、粒子解析装置は、電子顕微鏡画像を生成することができる。
【0036】
被解析対象粒子103と器材104とSEM試料ステージ105は、SEM試料室201内に設置される。SEM鏡筒202内には、電子銃203から放出された電子ビーム204が粒子に照射されることにより生じた反射電子や二次電子の信号205を検出する検出器206、電子ビーム204を制御する電子光学系207があり、さらに信号208を画像データに変換する画像生成部209で、器材の上に載った粒子の画像が生成される。生成された画像の器材背景と器材の中の明るさが異なる領域の境界線画像を利用して、SEM制御部210により、SEMのフォーカスを調整する。
【0037】
器材の種類、器材の画像明るさ、さらに以下に述べる画像調整、画像解析パラメータなどの、粒子解析装置の設定情報を、データベース215に蓄積することもできる。さらにデータベースに蓄積された情報を解析することにより、画像調整部211と画像解析部214の設定が更新されてもよい。
【0038】
画像調整部211における明るさおよびコントラストの調整について、
図3を用いて説明する。
図3において、301は器材背景の画像であり、302は器材の明るさが違う領域の画像であり、303は被解析対象粒子の画像であり、304は状態が変化した粒子の画像であり、305および306は画像の二値化によって器材画像と分離した粒子画像である。
【0039】
粒子解析装置は、電子顕微鏡画像における明るさに関する第1標準値および第2標準値を記憶している(図中では単に「標準1」「標準2」と示す)。これらの標準値は、予め粒子解析装置の使用者が決定し入力しておくことができる。以下、これらの標準値の決定方法の具体例を説明する。
【0040】
たとえば、第1標準値は、器材の第1領域の明るさに基づいて決定することができ、第2標準値は、器材の第2領域の明るさに基づいて決定することができる。粒子を載せる器材には、器材画像において、背景301と、背景301とは明るさが異なる領域302とがある。背景301の明るさを第1標準値、明るさが異なる領域302の明るさを第2標準値として、第1標準値と第2標準値を、画像全体の明るさヒストグラムにおいて異なる適切な位置に設定することにより、生成する画像の明るさとコントラストを適切に調整することができる。なお、画像の明るさおよびコントラストの具体的な調整方法については、実施例2および3において詳述する。
【0041】
被解析対象の粒子303、304の画像を生成する時、
図3(a)に示すように、画像調整部において、前述の第1標準値と第2標準値を利用して明るさおよびコントラストの調整を一定に設定することにより、生成した複数の画像において、器材領域の画像明るさを一定にすることができる。
【0042】
図3(b)に示すように、器材の背景301と、背景とは明るさが異なる領域302、さらに被解析対象の粒子303,304の明るさが異なることを利用して、画像の明るさを二値化する際の閾値を決定することができる。画像解析部では、生成した画像の明るさを二値化することにより、粒子画像領域と器材画像領域を分離し、粒子解析を行う。
【0043】
このとき、前述の様に、複数の画像でも器材領域の画像明るさが一定であることから、ある一定の明るさ閾値で二値化することにより、
図3(c)に示すように、粒子画像と器材画像を分離することができる。さらに状態が変化した粒子304が出現した場合にも、第1標準値、第2標準値、粒子303の画像明るさは一定であることから、閾値1で画像を二値化することにより305、306の領域を分離でき、閾値2で画像を二値化することにより粒子306を分離できる。このようにして粒子を分離した後、粒子の大きさ、面積、数、密度、などを解析できる。
【0044】
ここで、画像解析部で画像を二値化する時の閾値は、予め最適化された一定の閾値を記憶しておくことも可能であり、さらに被解析対象の粒子と器材の画像の明るさヒストグラムから、適切な閾値を自動計算することも可能である。
【0045】
明るさおよびコントラストの調整後に生成された画像は、画像出力部を介してモニターに表示される。画像解析部で粒子画像と器材画像を分離するときに用いた閾値などのパラメータをデータベースに蓄積することができ、さらに画像調整部にフィードバックすることにより、画像調整の設定に利用することもできる。
【0046】
このように、実施例1に係る粒子解析装置によれば、電子顕微鏡画像の明るさの調整がより容易になる。
【0047】
またデータベースおよび画像解析部が、粒子解析装置の内部に一体化されている例を示したが、付属装置として接続されていてもよい。
【実施例2】
【0048】
以下、本発明の実施例2について説明する。実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0049】
<トラックエッチドメンブレン>
粒子を載せる器材で、器材背景と、明るさが異なる領域を有する例を
図4を用いて説明する。
図4(a)および
図4(b)において、401はトラックエッチドメンブレンの上面図であり、402はトラックエッチドメンブレンの貫通穴であり、403は被解析対象の粒子であり、404は
図4(a)の線Aにおけるメンブレン断面模式図であり、405はメンブレンを貫通する穴の断面であり、406は電子ビームであり、407は反射電子であり、408は反射電子検出器であり、409はトラックエッチドメンブレンの画像であり、410はトラックエッチドメンブレンの貫通穴の画像であり、411は被解析対象の粒子の画像である。
【0050】
例えば器材は、器材を貫通する貫通穴402、405を有するメンブレン401、404である。貫通穴402、405の径は、粒子の短径より小さくすると、粒子が貫通穴402、405から漏出せず好適である。また、たとえば粒子を分散させた液体や気体を器材に載せたときに、器材の片面に粒子を捕集し、その他の溶媒や粒子よりも小さい夾雑物を穴から排出して分離できるので好適である。
【0051】
なお、貫通穴402、405の径とは、たとえば貫通穴の断面が円形である場合には直径である。また、「粒子の短径」とは、粒子が球状である場合にはその直径であり、粒子が楕円体である場合には最も短い軸の長さであり、粒子の大きさが一定でない場合には、粒子の径が最小となる方向における径である。
【0052】
電子ビーム406を照射したとき、器材と粒子で生じた反射電子407は、検出器408で検出され、メンブレン画像409と粒子画像411が生成される。一方、貫通穴405の部分は電子ビームが通過するため反射電子が検出器408に届かず、生成された画像では貫通穴の画像410は最暗部となる。
【0053】
図4(c)に、このような器材の一例として、穴径200nmのポリカーボネート製トラックエッチドメンブレンを、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率7000倍で観察した場合の例を示す。
図4(c)において、412、413、414は、ポリカーボネート製トラックエッチドメンブレンを用いた反射電子像である。
【0054】
各画像における明るさのヒストグラムを、対応する画像の左側に示す。ヒストグラムにおいて、横軸は画素の明るさ値であり、縦軸は頻度(画像においてその明るさ値を持つ画素の数)である。
【0055】
反射電子像412、413、414は、同じ視野を撮影した1つの画像から明るさを変換して得られる画像の例である。反射電子像412は、元画像の各画素の明るさに第1変換式を適用して得られたものであり、反射電子像413は、元画像の各画素の明るさに第2変換式を適用して得られたものであり、反射電子像414は、元画像の各画素の明るさに第3変換式を適用して得られたものである。
【0056】
たとえば、ポリカーボネートメンブレンの画像明るさのヒストグラムにおいて頻度ピークを示す明るさを第1標準値とし、貫通穴の最暗部の明るさを第2標準値とする。反射電子像412に対して適用される第1変換式は、第1標準値を第1目標値に変換し、第2標準値を第2目標値に変換する。この第1変換式を、すべての画素の明るさについて適用することにより、すべての画素の明るさが変換され、結果として反射電子像412が生成される。
【0057】
同様に、反射電子像413に対して適用される第2変換式は、第1標準値を第3目標値(ただし第1目標値より小さい)に変換し、第2標準値を第4目標値(ただし第2目標値より小さい)に変換する。
【0058】
反射電子像414に対して適用される第3変換式は、第1標準値を第5目標値(ただし第3目標値より小さい)に変換し、第2標準値を第6目標値(ただし第4目標値より小さい)に変換する。
【0059】
変換式は、目標値に基づいて自動的に決定することができる。たとえば、粒子解析装置は、信号プロファイルを出力し、これに応じた入力を促すことにより第1目標値および第2目標値を取得することができる。なお、本実施例において「信号プロファイル」とは、明るさ値ごとにその明るさ値を有する画素の数を表す情報を含み、たとえば
図4(c)に示すヒストグラムの形式で表される。モニター213が信号プロファイルを表示してもよい。
【0060】
ヒストグラムにおいて第1標準値および第2標準値を示してもよい。ここで、粒子解析装置の使用者は、ヒストグラムを見て適切な第1目標値および第2目標値を決定して入力することができる。そして、粒子解析装置は、信号プロファイルにおいて、第1標準値を第1目標値に変換し、第2標準値を第2目標値に変換するための変換式を決定する。このような変換式は公知の手法により決定可能である。たとえば第1標準値、第1目標値、第2標準値、第2目標値がいずれもスカラー量である場合には、線形変換を用いてもよい。そして、粒子解析装置は、電子顕微鏡画像の明るさ(各画素の明るさ値)に変換式を適用することにより、電子顕微鏡画像の明るさを調整し、これによって反射電子像412、413、414を生成する。
【0061】
このようにして、明るさおよびコントラストの異なる3つの画像が生成される。このように、第1標準値と第2標準値を変換した後の目標値を変えることにより、画像の明るさおよびコントラストを任意に調整することができる。
【0062】
さらに、画像生成時のみではなく、出力後であっても、同じ器材に載せた粒子の画像であれば、器材の明るさ第1標準値と第2標準値を利用して、画像の明るさおよびコントラストを、画像解析部において調整することが可能である。
【0063】
例えば画像解析ソフトなどを用いて、出力した複数の画像の明るさのヒストグラムを表示し、第1標準値と第2標準値を一定の目標値に変換することにより、画像の明るさおよびコントラストの調整を行う。ここで、全体的に明るい画像となる器材については第1標準値および第2標準値を大きく設定し、全体的に暗い画像となる器材については第1標準値および第2標準値を小さく設定しておけば、異なる明るさの器材に対して同じ目標値を入力することにより、全体的な画像の明るさを揃えることができる。その後、複数の画像を同じ閾値で二値化することにより、すべての画像において適切に粒子画像と器材画像を分離することができる。
【実施例3】
【0064】
以下、本発明の実施例3について説明する。実施例1または2と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0065】
粒子解析方法のフローの一例を
図5に示す。粒子解析装置の使用者は、被解析対象となる粒子の種類を決定し(S1)、さらに器材の種類を決定する(S2)。これに応じて、粒子解析装置は、粒子の種類および器材の種類を取得する。ここで種類とは、たとえば粒子または器材の性状を表すものであってもよい。
【0066】
そして、粒子解析装置はデータベースを参照し、様々な情報を取得する。取得される情報は、例として以下のものを含むが、これらに限らない。
‐粒子の種類に関連付けられた明るさの信号プロファイルの例
‐器材の種類に関連付けられた明るさの信号プロファイルの例
‐粒子の種類と器材の種類との組み合わせに関連付けられた標本作製条件
‐粒子の種類と器材の種類との組み合わせに関連付けられた電子顕微鏡観察条件
‐粒子の種類と器材の種類との組み合わせに関連付けられた第1標準値および第2標準値
‐粒子の種類と器材の種類との組み合わせに関連付けられた第1目標値および第2目標値
‐粒子の種類と器材の種類との組み合わせに関連付けられた、二値化のための閾値
【0067】
とくに、粒子解析装置は、粒子の種類および器材の種類に基づいて第1標準値および第2標準値を取得する。これによって、同一種類の粒子および器材の組み合わせに対しては、常に同一の標準値を取得することができる。
【0068】
ここで、使用者は、粒子とは異なる画像明るさを示す器材を選択すると好適である。また、被解析対象となる粒子の種類がデータベースに存在しない場合には、被解析対象粒子を構成する元素とは異なる元素で構成された器材を選択すると好適である。あるいは、粒子が染色された粒子である場合には、粒子とは異なる画像明るさを示す器材を選択すると好適である。あるいは立体構造などにより、粒子とは異なる画像明るさを示す器材を選択すると好適である。
【0069】
なお、一変形例において、粒子解析装置は、粒子と器材の明るさから画像二値化の閾値を自動設定する機能を備えてもよく、そのような機能を実現するアルゴリズムをデータベースから取得してもよい。
【0070】
次に、使用者は、粒子を器材に載せた標本を作製し(S3)、標本作製条件に応じて金属を含む染色剤などにより粒子を染色し、染色された粒子を用いる(S4)。染色により器材との区別がより容易になる。さらに粒子や器材が非導電性の物質である場合には、必要に応じて金属コーティング等により導電処理を施す(S5)。なお染色と導電処理は、粒子を器材に載せる前に行ってもよい。
【0071】
次に、使用者は、粒子を載せた器材を、電子顕微鏡の試料台に載せて電子顕微鏡試料室に挿入し、観察を開始する(S6)。データベースに、粒子と器材の組み合わせによって、電子顕微鏡の加速電圧、電流値、観察倍率、真空度などの観察条件が登録されている場合は、粒子解析装置はこれを利用してSEMを制御してもよい。粒子解析装置は、モニターに表示された画像において、器材の中で明るさが異なる領域の境界を利用して、画像のフォーカスを合わせる(S7)。このようなフォーカス手法は公知技術に基づいて適宜設計可能である。
【0072】
ここで、粒子解析装置は、器材および粒子に電子ビームを照射することを介して生成された電子顕微鏡画像および信号プロファイルを取得する。
【0073】
続いて、粒子解析装置は、画像明るさおよびコントラストを調整する(S8)。この調整は、たとえば電子顕微鏡の検出器の設定を変更することにより実現可能である。たとえば、粒子解析装置は、実施例2において説明したように、第1標準値と、第2標準値と、信号プロファイルとに基づき、たとえば変換式を用いて電子顕微鏡画像の明るさを調整する。また、明るさを調整することにより、コントラストを調整する。
【0074】
次に、粒子解析装置は、明るさが調整された後の電子顕微鏡画像に基づき、被解析対象粒子にフォーカスを合わせてもよい。次に、粒子解析装置は、粒子解析に用いるための粒子画像を生成する(S9)。この粒子画像の明るさについても、S8で用いた明るさの変換式を適用して調整することができる。また、粒子解析装置は、使用者の操作に応じて、観察位置、倍率を変えた画像を生成し、出力、保存する(S10)。走査電子顕微鏡の場合には、倍率を変えても画像の明るさおよびコントラストの調整は変化しないことから、倍率の異なる複数の画像も、同じ条件で画像を生成、出力することができる。
【0075】
続いて、出力された画像の解析を行う(S11)。たとえば、粒子と器材の領域を識別する場合、さらに粒子の種類を識別する場合などの目的に応じて、粒子と器材の明るさから画像二値化の閾値を自動設定してもよい。または、閾値は、データベースに登録されている値を参照してもよい。
【0076】
同じ明るさおよびコントラスト調整(たとえば同じ変換式)で生成した複数の画像の場合、画像解析ソフトのマクロ機能などを用いることにより、迅速に二値化画像を生成し、粒子の大きさ、面積などを解析することができる。
【0077】
図5の各ステップで選択または設定した条件と、出力された解析と評価結果は、出力されデータベースに登録される(S12)。粒子解析装置は、登録されたデータを解析することにより、粒子解析フローの最適条件を求め、粒子解析装置の設定にフィードバックしてもよい。
【0078】
図5に示したフローは、本実施例による粒子解析方法の例であり、本実施例のフローは
図5に限定されるものではない。
【0079】
たとえば、本実施例では粒子解析装置はオンラインで電子顕微鏡画像の明るさを調整するが、変形例として、オフラインで電子顕微鏡画像の明るさを調整してもよい。すなわち、まずSEMを制御して電子顕微鏡画像を取得して保存し、その後、SEMの制御を終了して(たとえばSEMの電子銃203および検出器206の動作を停止した状態で、またはSEMの電源をオフにした状態で)、保存された電子顕微鏡画像を取得し、その明るさを調整してもよい。このようにすると、使用者の利便性が向上する。
【実施例4】
【0080】
以下、本発明の実施例4について説明する。実施例1~3のいずれかと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0081】
<血球の解析>
本実施例を用いて血球を解析した例を
図6を用いて説明する。ヒト血液を生理食塩水で希釈し、直径200nmの貫通穴があるトラックエッチドメンブレンフィルターに載せた。メンブレン表面には、予め白金パラジウムを蒸着することによって標本に伝導性を付与しておいた。
【0082】
メンブレン上の血球を、グルタルアルデヒドなどのタンパク架橋作用がある固定液で固定してから、金属を含む染色液を用いて血球を染色し、水で余分な染色液を洗い流してから乾燥した後に、走査電子顕微鏡試料室に挿入し、5000倍で反射電子像を観察した。
【0083】
図6(a)の画像1はメンブレン画像であり、貫通穴の輪郭でフォーカスを合わせた後、明るさヒストグラムの中で、メンブレン素材の明るさに対応する頻度ピークの明るさを第1標準値とし、貫通穴である最暗部に対応する明るさを第2標準値として、第1標準値と第2標準値の横軸の値を設定することにより、画像の明るさおよびコントラストを調整した。
【0084】
図6(b)の画像2は赤血球1個の画像である。
図6(c)の画像3は赤血球と赤血球とは明るさが異なる血球の画像である。
図6(d)の、画像4は画像3と中心が同じ領域の倍率500倍の画像である。
図6(a)~
図6(d)の画像の右側に示すヒストグラムでは、第1標準値および第2標準値は同じ値である。
【0085】
画像解析ソフトを用いて、画像2、3、4のマスクを作成した。マスク1は、各画像の明るさヒストグラムの第1閾値(閾値1)で二値化した後、粒子解析アルゴリズムで血球よりも著しく小さい粒子を除去して作成したマスク画像である。マスク2は、ヒストグラムの閾値2で、画像を二値化した後、粒子解析アルゴリズムで血球よりも著しく小さい粒子を除去して作成したマスク画像である。
【0086】
粒子解析で面積を求めた結果、画像4のマスク1の面積率(%Area)は9.97%であり、マスク2の面積率は0.32%であることから、約3%の血球が、明るさの異なる血球であることが示された。
【実施例5】
【0087】
以下、本発明の実施例5について説明する。実施例1~4のいずれかと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0088】
<細胞増殖の解析>
本実施例を用いて、細胞の増殖率を求めた例を、
図7を用いて説明する。
図7において、701は細胞培養液であり、702は漏斗であり、703はトラックエッチドメンブレンフィルターであり、704は細胞捕集領域であり、705は画像生成領域である。
【0089】
細胞培養容器から、一定時間ごとに定量の細胞培養液701をサンプリングし、細胞捕集デバイスを用いて、メンブレンフィルター上の一定の領域に捕集した。メンブレン表面には、予め白金パラジウムを蒸着することによって標本に伝導性を付与しておいた。
【0090】
図7(a)に示すように、細胞捕集デバイスは、漏斗状の容器702の底面に、細胞の短径よりも小さい直径200nmの貫通穴があるトラックエッチドメンブレンフィルター703を設置した構造である。サンプリングした細胞培養液701を漏斗部分に注入し、メンブレンフィルターの反対側から液を吸引することにより、液を排出して、
図7(b)に示すように、細胞をメンブレンフィルター上面704に捕集した。
【0091】
細胞が変化しないように、2.5%グルタルアルデヒドなどのタンパク架橋作用がある固定液で固定した後、金属を含む染色液を用いて細胞を染色した。
図7(c)に示すように、水で余分な染色液を洗い流してから、細胞捕集デバイスからメンブレンフィルターを取り出して乾燥させた後に、SEMで反射電子像を観察した。
【0092】
観察の工程として、まず標本の中の細胞が載っていない領域で、倍率7000倍に設定して、SEMのオートフォーカス機能を用い、トラックエッチドメンブレンの穴の輪郭で画像のフォーカスを合わせた。次に実施例2に従って画像の明るさとコントラストを調整した。経時的にサンプリングするすべての標本の画像で、明るさヒストグラムにおいてポリカーボネートメンブレンの明るさの頻度ピークを示す明るさを第1標準値、穴の部分の明るさの頻度ピークを示す明るさを第2標準値として、同じ変換式を適用して調整した。第1標準値と第2標準値の値は、予備検討の段階で、細胞画像と器材画像を二値化によって分離するのに適切な値を決めておいた。
【0093】
倍率7000倍にした理由は、フォーカス合わせの時にトラックエッチドメンブレンの輪郭が明確に画像化できる倍率として選んだが、これに限定されるものではない。
【0094】
続いて倍率500倍に変更し、
図7(d)に示すように、メンブレン上の細胞を捕集した領域内で等間隔に6つの画像705を取得した。この時、SEMに内蔵されている電動試料ステージと、自動連続撮影機能を用いることにより、簡便に複数の画像を生成することができる。
【0095】
撮像倍率を500倍にした理由は,少ない画像枚数で広い領域を撮像するために低倍率とし,なおかつ細胞の形を見てノイズと分別できる倍率が望ましいため,1ピクセルが細胞の直径より十分小さい500倍を選択したが、この倍率に限定するものではない。また画像枚数は、細胞を捕集した領域内の密度の偏りを平均化するため例えば6枚としたが、この枚数に限定するものではない。
【0096】
出力後の画像をオフラインで画像解析部に入力し、画像解析ソフトを用いて、一定の閾値ですべての画像を二値化したのち、粒子部分の画像面積率を求めた。画像解析ソフトに付与されているマクロ機能を用いることにより、予め最適化された一定の閾値で二値化する工程と、粒子部分の面積を求める工程を数秒で行うことが可能である。
【0097】
2種類の培地で培養している細胞を、経時的に5回サンプリングして、標本あたり6画像、30枚の画像を取得する工程を、独立して3回繰り返すことにより、180枚の画像を生成した。
【0098】
図7(e)のグラフに、本実施例の方法を用いて細胞の増殖を解析した結果を示した。培地1で培養した場合には、細胞は指数関数的に増殖した。グラフ中の点線は培地1の面積率を近似する指数関数を表す。一方、培地2で培養した場合(実線)には増殖が抑制された。このように、本実施例の方法を用いることにより、培養細胞の増殖を、簡便に解析することが可能である。
【実施例6】
【0099】
以下、本発明の実施例6について説明する。実施例1~5のいずれかと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0100】
<アスベストの解析>
建材にアスベスト繊維が含まれている建築物の解体現場では、アスベストの漏洩を監視するため、大気濃度測定が行われる場合がある。作業環境の大気を一定時間フィルターに吸引し、フィルター表面を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて、アスベスト繊維濃度が測定される。一方、アスベストによる健康被害の例として中皮腫が挙げられ、患者救済の根拠とするために患者検体の溶解液に含まれるアスベスト繊維をニトロセルロースメンブレンフィルターなどに回収して定量する場合がある。このようなアスベストの解析において、本実施例の装置と方法を適用することが可能である。
【0101】
例えばニトロセルロースメンブレンの成分は、アスベストに含まれる珪素、マグネシウム、鉄などに比べると軽い元素で構成されているため、SEMで取得した反射電子像においては、アスベストよりも暗い画像になる。ニトロセルロースメンブレンに、明るさの異なる領域を1種類以上設けることにより、ニトロセルロースの明るさの頻度ピークを示す明るさを第1標準値とし、これとは明るさの異なる領域の明るさの頻度ピークを示す明るさを第2標準値として、画像取得時の明るさおよびコントラストを調整する。
【0102】
異なる標本の画像を取得する際にも、明るさが異なる領域を設けたニトロセルロースメンブレンを用いて、画像の明るさおよびコントラストを調整する。このようにして生成した複数の画像を、画像解析部において、適切な閾値で二値化することにより、器材と器材上の明るい繊維の画像を分離することができる。
【0103】
実際の検体中には、アスベスト以外の繊維状異物が多く含まれている場合が多い。またアスベストの種類により構成元素や繊維の太さが異なることにより画像明るさが異なる。これらを分類するため、画像解析部において、複数の閾値を用いて段階的に画像を二値化することにより、反射電子画像の明るさにより繊維画像を分類することができる。
予め蓄積したアスベストの反射電子画像の明るさに関するデータと照合することにより、アスベストが含まれる明るさの範囲の繊維画像を抽出する。このようにして抽出された繊維について、SEMを用いた元素分析を行うことにより、アスベストを同定して定量することができる。
【符号の説明】
【0104】
101…粒子
102…器材の上面図
103…粒子の側面図
104…器材の側面図
105…試料ステージ
103…粒子
104…器材
105…試料ステージ
201…SEM試料室
202…鏡筒
203…電子銃
204…電子ビーム
205…反射電子および二次電子
206…検出器
207…電子光学系
208…検出信号
209…画像生成部
210…SEM制御部
211…画像調整部
212…画像出力部
213…モニター(画像出力部)
214…画像解析部
215…データベース
301…器材背景の画像
302…器材の明るさが違う領域の画像
303…粒子の画像
304…状態が変化した粒子の画像
305、306…画像の二値化によって器材画像と分離した粒子画像
401…トラックエッチドメンブレンの上面図
402…トラックエッチドメンブレンの貫通穴
403…粒子
404…メンブレン断面模式図
405…メンブレンを貫通する穴の断面
406…電子ビーム
407…反射電子の信号
408…反射電子検出器
409…トラックエッチドメンブレンの画像
410…トラックエッチドメンブレンの貫通穴の画像
411…被解析対象の粒子の画像
412、413、414…反射電子像
701…細胞培養液
702…漏斗
703…トラックエッチドメンブレンフィルター
704…細胞捕集領域
705…画像生成領域