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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】垂直外部共振器型面発光レーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240904BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20240904BHJP
   H01S 3/11 20230101ALI20240904BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/14
H01S3/11
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021555993
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040375
(87)【国際公開番号】W WO2021095523
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2019207122
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 哲至
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚史
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-126040(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0281309(US,A1)
【文献】特開2005-039093(JP,A)
【文献】Savitski V.G et al,Cavity-dumping of a semiconductor disk laser for the generation of wavelength-tunable microjoule nanosecond pulses,OPTICS EXPRESS,米国,2010年05月24日,vol.18, no.11,11933-11941
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚のミラーを有する共振器と、
前記共振器内に配置される半導体レーザ媒質と、
前記共振器に設けられるQスイッチと、
を有し、
前記Qスイッチは、前記半導体レーザ媒質によって増幅された光のパワーが所定のレベルに達したときに、前記共振器のQ値を第1のレベルから、前記第1のレベルよりも低い第2のレベルに下げることで光パルスを出力し、
前記Q値が前記第1のレベルから前記第2のレベルに切り替えられる前に、前記共振器を構成する前記ミラーの1枚は前記半導体レーザ媒質に対向する面と反対側の面から注入同期光を入射する、垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項2】
前記共振器の共振器長が前記注入同期光の波長の整数倍に設定されていることを特徴とする、請求項に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項3】
前記Qスイッチは、前記パワーが定常値に近づくか、または定常値に達したときに前記Q値を前記第2のレベルに切り替えることを特徴とする、請求項1または2に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項4】
前記Qスイッチは、機械的、音響的、または電気光学的に前記Q値を切り替えることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項5】
前記共振器を構成する前記ミラーの1枚と前記半導体レーザ媒質は、同一チップ上に形成されていることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項6】
前記半導体レーザ媒質は前記共振器を構成する前記ミラーの1枚に接合された活性層であることを特徴とする請求項に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項7】
前記半導体レーザ媒質を励起する励起光源、
をさらに有する請求項1~のいずれか一項に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【請求項8】
前記半導体レーザ媒質を励起する電流源、
をさらに有する請求項1~のいずれか一項に記載の垂直外部共振器型面発光レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直外部共振器型面発光レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
Qスイッチレーザは、光共振器の内部にレーザ媒質とQスイッチを配置し、Qスイッチによって共振器の増幅率を切り替えることで光パルスを出力するレーザである。レーザ媒質として、光が共振器を反復する周期よりも十分に長い寿命をもつ活性物質(Yb,Ndなどの希土類イオン)を含む単結晶(YAG:Yttrium Aluminium Garnetなど)やガラスとする構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、レーザ媒質の端面を光共振器の一方の反射面として用い、レーザ媒質を励起し、光共振器の内部のQスイッチを切り替えてパルス発振させる構成が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0004】
一般的に、QスイッチはQ値を低い方から高い方へ切り替えることで、ゲイン媒質中に反転分布として蓄積されたエネルギーを、高エネルギーの光パルスに変換して出力する。そのため、媒質として、光が共振器を反復する周期よりも十分に長い寿命をもつ活性物質が望ましい。
【0005】
垂直外部共振器型面発光レーザ(Vertical External-cavity Surface-emitting Lasers:以下「VECSEL」ともいう)は、光励起もしくは電流励起によってレーザ発振する面発光レーザである。面発光半導体チップ(VECSELチップ)から発生した光を、少なくとも1枚以上の鏡によって構成される光共振器によって増幅して発振をさせる。光半導体の励起寿命はサブナノ秒(ns)程度であり、この寿命は、光共振器を反復する周期よりも短いことが多い。したがって、VECSELでQスイッチレーザを構築して高ピークパワーのパルスを得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-177226号公報
【文献】特開平4-42979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高ピークパワーのパルスを出力する面発光半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面では、垂直外部共振器型面発光半導体レーザは、少なくとも2枚のミラーを有する共振器と、前記共振器内に配置される半導体レーザ媒質と、前記共振器に設けられるQスイッチと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
高ピークパワーのパルスを出力する垂直外部共振器型面発光レーザが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の一実施形態に係る基本原理を説明する図であり、共振器への光パワーの蓄積を示す図である。
図1B】本発明の一実施形態に係る基本原理を説明する図であり、高Qから低Qへの切り替えを示す図である。
図2】第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの模式図である。
図3図2のVECSELチップの構成例を示す図である。
図4】第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの動作を説明する図である。
図5A】第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの共振器特性(光のパワー透過率)を示す図である。
図5B】第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの共振器特性(共振器内パワー)を示す図である。
図5C】第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの共振器特性(共振器出力)を示す図である。
図6A図5Aのパルス出力点近傍の拡大図である。
図6B図5Bのパルス出力点近傍の拡大図である。
図6C図5Cのパルス出力点近傍の拡大図である。
図7A】第2実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの基本動作を説明する図であり、共振器への光パワーの蓄積を示す図である。
図7B】第2実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの基本動作を説明する図であり、高Qから低Qへの切り替えを示す図である。
図8】第2実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの構成例を示す図である。
図9】第2実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
半導体レーザのような励起寿命の短いレーザ媒質では、非平衡状態のエネルギーを十分にため込むことができず、一般的な動作のQスイッチで高ピークパワーのパルスを発振できないおそれがある。他方で、半導体レーザは例えば安価で小型、低消費電力、波長設計可能かつ使い易いなどのメリットを有し、高ピークパワーのパルス出力が可能な半導体レーザの実現が望まれる。
【0012】
実施形態では、レーザ媒質として半導体レーザを用いる。レーザ媒質にエネルギーを蓄積するのではなく、共振器内に光エネルギーを蓄積する。共振器内に十分なエネルギーが蓄積されたところで、共振器のQ値を高い方から低い方へと切り替えて、光パルスを出力する。高Q値にするためには共振器の光学ロスが多いと難しいため、光学ロスの少ない、例えばVECSELや光励起半導体レーザ(Optically Pumped Semiconductor Laser:以下「OPSL」ともいう)のような面発光レーザに適している。外部から注入同期光を入射することで、パルス出力の中心波長のコントロールも可能になる。
【0013】
<基本原理>
図1A及び図1Bは、本発明の一実施形態に係る基本原理を説明する図である。垂直外部共振器型面発光レーザ10は、少なくとも2枚のミラー11及び12で形成される共振器13と、共振器13の中に配置される半導体レーザ媒質14と、共振器13に設けられるQスイッチ15とを有する。
【0014】
半導体レーザ媒質14のキャリアが伝導帯へ励起されると、再結合によって光を放出する。誘導放出により反転分布が得られると半導体レーザ媒質14から光が放出される。放出された光は、ミラー11とミラー12の間を往復し、増幅される。この間、図1Aに示すようにQスイッチの透過率は高く設定され、共振器13のQ値は高く維持される。共振器13に蓄積されるパワーが一定レベル以上になったところで、図1Bに示すように、Q値を低い側に切り替えて、共振器13内に蓄積されたパワーを放出する。
【0015】
Q値は、共振する系の振動の持続特性を表わす無次元量であり、一般的に、共振周波数の線幅(FWHM)に対する、共振周波数の比で表される。Q値が高いほど系は安定して共振し、内部のエネルギーが増大する。
【0016】
Qスイッチ15は、共振器13の内部のエネルギーが十分に高くなったところで、一気にQ値を下げ、エネルギーを放出する。これにより、垂直外部共振器型面発光レーザ10から高エネルギーの光パルスが出力される。
【0017】
この構成は、一般的なQスイッチレーザの構成、すなわち、ゲイン媒質内に光エネルギーを蓄積する間はQ値を低く維持し、エネルギーが蓄えられたところでQ値を上げて発振させる構成と、根本的に異なる。
【0018】
半導体レーザ媒質14は、半導体の材料、組成、量子井戸層の膜厚、積層数等を制御することで、所望の基本波長で発振することができ、小型化が容易である。共振器13での光の増幅と、高Q値から低Q値への切り替えによって、小型で安価な半導体レーザ媒質14を用いて、高パワーのパルス光を出力することができる。
【0019】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザ10Aの模式図である。垂直外部共振器型面発光レーザ10Aは、VECSELチップ20と、ミラー12と、Qスイッチ15を有する。
【0020】
VECSELチップ20は、一例として、ヒートシンク16と、分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:以下「DBR」ともいう)ミラー11Aと、VECSEL活性層14Aがこの順で積層された構成を有する。VECSEL活性層14Aは励起吸収層と活性層を交互に積み重ねたゲイン媒質であり、半導体レーザ媒質14の一例である。DBRミラー11Aは、ミラー12とともに共振器13Aを形成する。
【0021】
VECSEL活性層14Aは、たとえば所望の基本波長に設計された面発光レーザであり、外部からの光照射、もしくは電流注入によって励起される。Qスイッチ15は、共振器13Aの内部に蓄積される光パワーが所定値以上に高まったときに、Q値を低い方に切り替えて、蓄積された光パワーを一気に放出する。図2の模式図では、Qスイッチ15は便宜上、ミラー12とVECSELチップ20の間に描かれているが、この例に限定されず、ミラー12がQスイッチ15の機能を有していてもよい。
【0022】
図3は、VECSELチップ20の構成例である。DBRミラー11AとVECSEL活性層14Aを含む積層体25は、ヒートシンク16の上に支持されている。ヒートシンク16は、VECSELチップ20全体を支持することができ、かつ熱を逃がすことのできる任意の基板である。基板上の積層体25に用いられる半導体材料の種類にもよるが、基板として、GaAs、InP、GaInP、GaAsN、GaN、Si、Ge、Al23、MgO、SiC等を用いることができる。ここでは、一例としてGaAs基板を用いる。
【0023】
DBRミラー11Aは、ヒートシンク16として機能する基板上に、屈折率の異なる半導体層を1/4波長程度の厚さで交互に積層して形成される。一例として、GaAlAsとGaAsの薄膜を交互に積層して、反射率が99.9%のミラーを形成する。
【0024】
VECSEL活性層14Aは、一例として、量子井戸構造を有する励起吸収層であり、面発光が可能なレーザ媒質である。量子井戸層の材料を選択することで、広い範囲で発振波長を設計することができる。長距離の光通信用に用いる場合は、伝送損失の少ない1.3μm帯~1.6μm帯の面発光レーザを設計することができる。中距離の光ファイバ通信に用いる場合は、0.8μm帯から1.0μm帯の面発光レーザを設計することができる。ここでは、たとえば厚さ8nmのInGaAs/GaAsPの量子井戸を10層繰り返して、多重量子井戸を形成する。
【0025】
VECSEL活性層14Aの最表面に、光閉じ込め層17を配置してもよい。光閉じ込め層17により、自然放出により生じた光が散逸するのを防止して、効率良く誘導放出へと導く。VECSELチップ20は、すでに確立された半導体技術を用いて作製可能であり、ウェハから大量のVECSELチップを切り出すことができる。
【0026】
図4は、VECSELチップ20を用いたゲイン部の動作を説明する図である。垂直外部共振器型面発光レーザ10Aは、たとえば、基本発振波長が980nmのレーザ媒質を用いる。レーザ媒質は、図3を参照して説明したように、DBRミラー11Aとともに積層体25に組み込まれた面発光型のVECSEL活性層14Aである。
【0027】
図4の例では、VECSELチップ20は、励起光源3の照射によって励起される。励起光源3は、たとえば、波長808nmの励起光を出力するCW(連続波)レーザ、または疑似連続発振(連続発振時間がマイクロ秒以上)が可能な間欠CWレーザである。励起光源3から出力された光は、集光レンズ2によってビーム径が絞られて、VECSELチップ20のVECSEL活性層14Aに入射する。
【0028】
励起光源3によって励起されVECSEL活性層14Aから放出された光は、ミラー12と、積層体25の中のDBRミラー11Aの間を往復する。ミラー12は、光が共振器13Aを一往復したときに元の光路に重なる位置に配置されている。共振器13Aを構成するミラーの数は2枚に限定されず、2枚以上のミラーを組み合わせて、リング型の共振器を構成してもよい。この場合も、各ミラーは光が共振器を一周したときに元の光路に重なるように配置される。
【0029】
光がミラー12とDBRミラー11Aの間を往復する間、Qスイッチ15により、共振器13A内のQ値は高く維持されている。この共振器13AのQ値は、
Q≡ν/Δν (1)
と定義される。ここで、νは周波数スペクトルの中心周波数、Δνは周波数スペクトルのFWHM(半値全幅)である。振動や熱膨張などの外部からの影響が十分小さい時、Δνは、
Δν=hνΘ(1-ART)/4πTRT 2intra (2)
と書けることが知られている。ここで、hはプランク定数、Θは自然放出光因子(自然放出と誘導放出の発生比)、TRTは光が共振器を周回する時間、Pintraは共振器内の光パワーである。ARTは、Qスイッチ15の光パワーの最大透過率AQ MAXを含む、共振器1周分の光減衰の積である。Q値はARTが1に近いほど高くなるが、ARTはAQ MAXによって制限される。ARTは、AQ MAXにその他の光減衰を乗算することで求められるからである。
【0030】
共振器13Aの内部に、光パワーが所定レベル以上に蓄積されると、Qスイッチ15はQ値の高い側から低い側に切り替えられて、蓄積された光パワーをいっきに放出する。これによって、垂直外部共振器型面発光レーザ10Aからパルス光が出力される。
【0031】
Qスイッチ15は、光パルスを取り出すとともに、光のパワー透過率AQを変化させることにより共振器13AのQ値を制御することができる。共振器のへの光パワーの閉じ込め効率はQ値が高いほど向上する。したがって、Qスイッチ15の特性としては、応答速度が速く、光パワーの最大透過率AQ MAXが大きいことが望ましい。AQ MAXが小さいとARTも小さくなり、式(1)と式(2)からQ値を高く設定することができないからである。
【0032】
Qスイッチ15は、機械的なスイッチング素子、音響的なスイッチング素子、電気光学的なスイッチング素子、磁性体のスイッチング素子など、その種類を問わない。機械的Qスイッチは、たとえば回動可能なミラーであり、ミラーの角度を機械的に変化させることで、共振器13Aの外にパルスを出力する。機械的Qスイッチは、高速の応答速度が要求されない用途(ミリ秒程度)に用いられる。最大透過率AQ MAXは、配置によっては99.9%以上にできる。
【0033】
音響的Qスイッチは、パルス出力のタイミングで結晶に超音波を印加して結晶のフォノンを励起し、光を回折させる。応答速度は比較的速いが(数百ナノ秒)、最大透過率AQ MAXは95%程度となる。
【0034】
電気光学的Qスイッチは、たとえば、電気光学結晶と、偏光ビームスプリッタ(PBS)の組み合わせで構成される。電気光学結晶に電圧、電流、電気信号などを印加し、電気光学効果を利用して偏光を回転させ、PBSでいずれか一方の偏光成分を取り出す。応答速度は非常に速く(数ナノ秒)、最大透過率AQ MAXは99%程度である。
【0035】
あるいは、ミラー12を反射率可変とすることにより、Qスイッチ15として機能させてもよい。スイッチの応答速度、最大透過率AQ MAX等の特性に応じて、用途に適したQスイッチ15を用いることができる。垂直外部共振器型面発光レーザ10Aが電流励起される場合も、同様の動作が行われる。
【0036】
図5A図5Cは、第1実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザ10Aの共振器特性を示す図である。シミュレーションのパラメータは以下のとおりである。
・共振器長は1m(往復2m)、
・VECSELチップ20のVECSEL活性層14Aの発光波長は980nm、ゲイン係数は2000cm-1、DBRミラーの反射率は99.9%、
・共振器の周期利得構造の縦方向の光閉じ込め係数は2.0、
・Qスイッチ15の応答速度1ナノ秒、最大透過率AQ MAXは99%、
・励起光源3は、波長808nm、出力パワー100WのCWレーザ、
・VECSELチップ20の発光面でのスポット径は100μm。
【0037】
図5AはQスイッチのパワー透過率AQ図5Bは共振内のパワー、図5Cは共振器の出力である。いずれも横軸は時間(s)である。共振器内のパワーがほぼ0の状態から計算を開始する。図5Aにおいて、パワー透過率AQの初期値は最大透過率AQ MAX(AQ MAX=0.99)に設定されており、Q値は高く設定されている。時間0で励起を開始する。
【0038】
図5Bにおいて、励起光の入射開始と同時に共振器中のパワー(W)は徐々に上昇する。共振器内パワーが定常値に近づくか、定常値に達したところで(2マイクロ秒またはその近傍)、AQ値を約1ナノ秒の時間で0まで下げて、パルス光を取り出す。共振器のQ値及び共振器内パワーはいっきに低下し、パルス出力が得られる。図5Cにおいて、スイッチング直後に、3500Wのパルス出力が得られる。
【0039】
図6A図6Cは、それぞれ図5A図5Cの2マイクロ秒近傍の拡大図である。図5A図5Cに対応して、図6Aはパワー透過率AQ図6Bは共振器内パワー、図6Cは共振器出力である。Qスイッチ切り替え直後、すなわちAQ値の切り替え直後に、共振器内のパワーは一気に低下し、共振器から最大3500Wのパルスが出力される。パルス出力は、そこから約7ナノ秒で1/eになっている。これは共振器を周回する時間とほぼ一致する。
【0040】
図5A図5C、及び図6A図6Cから、安価なVECSELチップ20を用いたVECSEL10Aで、高パワーのパルス出力が得られることがわかる。
【0041】
<第2実施形態>
図7A及び図7Cは、第2実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザ10Bの基本動作を示す。第2実施形態では励起源と別に、注入同期のためのシード光源31を用いる。注入同期とは、エネルギーの高い自励発振器に、周波数の安定した単一波長の外部光を注入することで、発振出力を外部光に同期させる技術である。注入同期を行うことで、垂直外部共振器型面発光レーザ10Bの共振器13Bから出力される光パルスの中心波長を制御することができる。
【0042】
シード光源31は、たとえば、単一縦モードのCWレーザであり、一例として、所望の周波数にチューニングされた周波数安定なECDL(External Cavity Diode Laser:外部共振器半導体レーザ)である。図7Aにおいて、シード光源31から出力される注入同期光は、共振器13BのQ値がQスイッチ15によって高Q値から低Q値に切り替えられる前に、アイソレータ32を介して共振器13Aに入力される。
【0043】
この例では、注入同期光は、共振器13Bを構成するミラー12Bの、VECSEL活性層14Aと対向する面と反対側の面から入射する。ミラー12BのVECSEL活性層14Aと対向する面には、たとえば高反射膜が形成され、ミラー12BのVECSEL活性層14Aとの対向面と反対側の面には、反射防止膜が形成されている。アイソレータ32は、注入同期光を一方向にだけ通すように制御し、かつ、共振器13Aからの漏れ光がシード光源31に入射することを防止する。
【0044】
共振器13Bは、例えば、VECSELチップ20のヒートシンク16上に形成されたDBRミラー11Aと、ミラー12Bによって形成される。VECSELチップ20の構成は、たとえば第1実施形態で用いたVECSELチップ20と同様であり、図3のようにDBRミラー11Aの上部に積層された量子井戸型のVECSEL活性層14Aを有する。
【0045】
後述するように、共振器13Bの共振器長は、注入同期光の波長の整数倍に設定されている。共振器長を注入同期光の波長の整数倍に維持するために、ミラー12BとVECSELチップ20の少なくとも一方に、共振器長の調整のための駆動メカニズム(たとえばアクチュエータ)が設けられていてもよい。
【0046】
共振器13Bの内部のVECSEL活性層14Aは、外部からの励起光または注入電流によって励起され、光が放出される。放出された光は、共振器13Aの内部を往復し、増幅される。この間、共振器13AのQ値は高く維持されており、共振器13Aはエネルギーの高い自励発振器の状態になっている。
【0047】
Qスイッチ15によって、Q値が低い値に切り替えられる前に注入同期光が注入されると、共振器13Aの内部を往復する光の波長が、注入同期光の波長に同期する。
【0048】
図7Bにおいて、共振器13Bの内部の光パワーが十分に高くなったところで、Qスイッチ15が低Q値側に切り替えられて、共振器13Bから高パワーの光パルスが出力される。この光パルスの中心波長は、注入同期光の波長に一致している。図7A及び図7Bの構成をとることで、安価なVECSELチップ20を用いて、所望の波長に制御された高パワーの光パルスを出力することができる。
【0049】
図8は、垂直外部共振器型面発光レーザ10Cの構成例である。垂直外部共振器型面発光レーザ10Cは、互いに対向するミラー12Bと、VECSELチップ20を有する。VECSELチップ20のヒートシンク16上に形成される積層体25には、図7A及び図7Bを参照して説明したように、DBRミラー11Aと、VECSEL活性層14Aがこの順で積層されている。DBRミラー11Aとミラー12Bで共振器13Bが形成される。
【0050】
VECSEL活性層14Aは、外部の励起光源3から入射する励起光によって励起される。励起光は、集光レンズ2によってビーム径が絞られてVECSEL活性層14Aに入射する。光励起によってVECSEL活性層14Aから放出される光は、共振器13Bによって増幅される。
【0051】
共振器13Bには、Qスイッチ15が設けられている。上述のように、Qスイッチ15は、機械的スイッチ、音響的スイッチ、電気光学的スイッチなど、共振器13AのQ値を高Q値から低Q値に切り替えることのできる任意の構成を取り得る。あるいは、ミラー12BをQスイッチ15として機能させてもよい。
【0052】
垂直外部共振器型面発光レーザ10Cは、注入同期光を出力するシード光源31と、共振器13Bに入射する注入同期光の横モードを調整する横モード調整用の光学系7を有する。注入同期光と共振器13Bの共振周波数を一致させる縦モード調整用のフィードバック系8が設けられていてもよい。この場合、たとえばミラー12Bに、共振器13Bの共振周波数をフィードバック制御するためのアクチュエータ18が設けられていてもよい。
【0053】
横モード調整用の光学系7は、たとえば、レンズ71、レンズ72、及びミラー73を含み、注入同期光が共振器13Bに結合するように、注入同期光の横モードを整形する。横モード調整用の光学系7は、図8の配置例に限定されない。適切な光学素子を適切に配置して、Q値が低Q値側に切り替えられる前に共振器13Bに入射する注入同期光の横モードを調整できる。
【0054】
シード光源31が単一横モードの場合、光軸と直交する断面での光の強度分布はガウス分布になっている(TEM00モード)。この断面のうち水平方向の強度分布(水平横モード)と垂直方向の強度分布(垂直横モード)の双方が、共振器13Bの内部で共振する光の横モード分布と一致していることが望ましい。
【0055】
横モード調整用の光学系7を用いずに、シード光源31と共振器13Bを適切に設計し適切な位置に配置することで横モードを一致させてもよい。
【0056】
フィードバック系8は、光取り出し用のミラー37と、光検出器38と、フィードバック回路39を含む。光検出器38は、注入同期光の一部と、共振器13Bを往復する光の一部との干渉光を検出して、電気信号に変換する。フィードバック回路42は、電気信号からシード光源31の周波数と共振器13Bの共鳴周波数の差を特定し、その差分がゼロまたは最小になるように、アクチュエータ18を制御する。
【0057】
アクチュエータ18は、ミラー12Bの位置を微調整して、共振器長(光が一往復または一周する長さ)を注入同期光の波長の整数倍に設定する。図8の構成例では、注入同期光と共振周波数の差分情報は共振器13Bのアクチュエータ18にフィードバックされているが、差分情報は、シード光源31にフィードバックされてもよい。
【0058】
垂直外部共振器型面発光レーザ10Cの動作特性は、図5A図5C、及び図6A図6Cを参照して説明した第1実施形態の特性と同様である。これに加えて、第2実施形態では、低Q値への切り替えによって出力される光パルスの中心波長が所望の波長に制御されている。
【0059】
図9は、図8の変形例である垂直外部共振器型面発光レーザ10Dの模式図である。垂直外部共振器型面発光レーザ10Dは、電流励起されることを除いて、図8の垂直外部共振器型面発光レーザ10Cと基本動作が同じである。
【0060】
VECSELチップ20に電流源41が接続されている。ヒートシンク16の少なくとも一部を導電性材料で形成して電流注入用の電極として用いてもよい。他方の電極は、たとえば積層体25の表面の光の反復を妨げない位置に設けられてもよい。電流注入により励起されたキャリアの再結合で生成された光がVECSEL活性層14Aから放出され、共振器13Bの内部を往復して増幅され、共振器13B内に光エネルギーが蓄積される。共振器13B内に蓄積された光パワーが十分なレベルに達したところで、Qスイッチ15が低Q側に切り替えられ、光パルスが出力される。
【0061】
以上、特定の実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した構成例に限定されない。たとえば、Qスイッチ15が設けられる共振器13Bは、2枚のミラーに限定されず、3枚のミラーを用いた三角リング型の共振器、4枚のミラーを用いたボウタイ型の共振器であってもよい。共振器の少なくとも一部に光ファイバを適用してもよい。図4の垂直外部共振器型面発光レーザ10Aを、電流励起型にしてもよい。
【0062】
シード光源と共振器の間の横モード、及び/または縦モードの調整は、図示した例に限定されず、共振器の配置構成に応じて、適切な制御機構を採用し得る。Qスイッチ15の動作としては、あらかじめ共振器内のパワーが定常値に達する時間を観測しておき、その時間間隔でQスイッチ15に駆動パルスを印加してもよい。あるいは、共振器を構成するミラーの一部にモニタ用の光検出器を設けて、共振器内の光パワーをモニタしてもよい。
【0063】
第1実施形態と第2実施形態のいずれにおいても、安価、高信頼性、低ノイズ、モード品質が良いなどの良好な特性を備える面発光レーザ媒質を用いて、高パワーのパルスを効率的に出力することができる。実施形態の垂直外部共振器型面発光レーザは、特殊材料の切断、加工、光学測定、光励起など、多様な分野への応用が可能である。
【0064】
この出願は、2019年11月15日に出願された日本国特許出願第2019-207122号に基づいて、その優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を参照によりここに含む。
【符号の説明】
【0065】
2 集光レンズ
3 励起光源
7 横モード調整用の光学系
8 フィードバック系
10、10A、10B,10C、10D 垂直外部共振器型面発光レーザ
11、12、12B ミラー
11A DBRミラー
13、13A、13B 共振器
14 半導体レーザ媒質
14A VECSEL活性層
15 Qスイッチ
16 ヒートシンク
18 アクチュエータ
20 VECSELチップ
31 シード光源
32 アイソレータ
41 電流源
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9