(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】界磁子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
(21)【出願番号】P 2022553300
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037147
(87)【国際公開番号】W WO2022070306
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】菅 悟
(72)【発明者】
【氏名】平野 広昭
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 浩成
(72)【発明者】
【氏名】浅野 巧
(72)【発明者】
【氏名】古山 元庸
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/059603(WO,A1)
【文献】特開平11-098795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粒子を熱硬化性樹脂で結合してなる円筒状のボンド磁石が、略有底筒状のケース内に固定されてなる界磁子の製造方法であって、
熱硬化処理後の該ボンド磁石を再加熱して軟化させる軟化工程と、
該軟化したボンド磁石を該ケースの一方側にある開口から該ケース内へ圧入する圧入工程とを備え、
該ケースは、少なくとも該ボンド磁石の固定部が磁性材からなる円筒部と、該円筒部の他方側に結合された蓋部とを有し、
該圧入工程は、該ケースを傾動または横移動させつつ該ボンド磁石を他方側へ相対的に移動させて、該ボンド磁石を該円筒部内へ送入する界磁子の製造方法。
【請求項2】
前記圧入工程は、前記ケースの他端部を支持して該ケースの他方側への移動を規制してなされる請求項1に記載の界磁子の製造方法。
【請求項3】
前記ケースの他端部は、前記蓋部の他端部である請求項2に記載の界磁子の製造方法。
【請求項4】
前記蓋部は、かしめまたは溶接により前記円筒部の他端側に結合されている請求項1~3のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【請求項5】
前記圧入工程は、前記ケースの傾動および横移動を拘束しない治具を用いてなされる請求項1~4のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【請求項6】
前記円筒部は、前記固定部よりも一方側に、一方側に向かって内周面が拡径するテーパー状の導入部を有する請求項1~5のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【請求項7】
前記軟化工程は、前記熱硬化処理
中の最高温度(T
0)に対して100℃高い温度(T
0+100℃)より低温で、前記ボンド磁石を加熱してなされる請求項1~6のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【請求項8】
前記ケースは、電動機用である請求項1~7のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【請求項9】
前記圧入工程は、前記ケースの他方側への移動を規制する受け治具と、該ケース内へ前記ボンド磁石を送入する送り治具とを用いてなされ、
該受け治具は、該ケースの他端部と接する突部を少なくとも1つ有する請求項1~8のいずれかに記載の界磁子の製造方法。
【請求項10】
前記送り治具は、前記ケースの他端部を前記突部に接触させたまま、該ケース内へ前記ボンド磁石を送入する請求項9に記載の界磁子の製造方法。
【請求項11】
前記突部は、互いに離間した3つ以上からなる請求項9または10に記載の界磁子の製造方法。
【請求項12】
前記送り治具は、前記突部の隣接間を直線で結んで形成される領域に、前記ボンド磁石の中心軸を交差させた状態で該ボンド磁石を送入する請求項11に記載の界磁子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース内に界磁源であるボンド磁石が固定された界磁子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を界磁源とする界磁子は、例えば、円筒状のボンド磁石(界磁用永久磁石)を、ヨークまたはヨークを兼ねたケース(適宜、単に「ヨーク」という。)内に圧着させて製造される。このような界磁子の製造方法に関連した記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-184642号公報
【文献】WO2006/1304号公報
【文献】WO2011/126026号公報
【文献】特開2005-33844号公報
【文献】WO2006/059603号公報
【文献】特開2006-311661号公報
【文献】特開2007-28714号公報
【文献】特開2003-70194号公報
【文献】特開2000-37054号公報
【文献】実開昭55-178276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~7では、接着剤を用いずに、ボンド磁石がヨーク内に直接圧着されている。具体的にいうと、特許文献1では、ヨーク内に配設したボンド磁石が加熱により酸化膨張することを利用して、両者を圧着させている。特許文献2では、成形体(熱硬化前のボンド磁石)をキャビティからヨーク内へ直接的に圧入し、その成形体のスプリングバックを利用して、両者を圧着させている。特許文献3では、温間状態の成形体(熱硬化前のボンド磁石)をヨーク内へ直接的に圧入した後、熱硬化処理(キュアー処理)時に生じる成形体の膨張量を利用して、両者を圧着させている。特許文献1~3は、成形体をヨーク内に配置または嵌入した後に、熱硬化処理している点で共通している。
【0005】
特許文献4~7では、キュアー処理後に再加熱したボンド磁石(成形体)を、筐体(ヨーク)へ圧入して両者を圧着させている。この圧入は、それら特許文献には詳述されていないが、ボンド磁石が再加熱により軟化していることを考慮して、所望の精度(同軸度、真円度、円筒度等)が確保されている筐体の外周側を拘束してなされていた。なお、筐体の外周面の精度は、モータの性能への影響が小さいため、ボンド磁石を筐体へ組み付けるためだけに確保されていた。
【0006】
ちなみに、特許文献8~10にも、磁石のヨークへの取り付け方法について記載がある。しかし、特許文献8には、熱硬化性樹脂を用いたボンド磁石やその取付け時の加熱について何ら記載がない。また特許文献9および特許文献10には、そもそも、ボンド磁石自体について記載がない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、円筒状のボンド磁石を用いた界磁子の生産コスト低減を図れる新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、複数部材を結合して製作したケース内へ、軟化させた円筒状のボンド磁石を圧入することにより、所望の仕様を満たす界磁子を低コストで生産することに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《界磁子の製造方法》
(1)本発明は、磁石粒子を熱硬化性樹脂で結合してなる円筒状のボンド磁石が、略有底筒状のケース内に固定されてなる界磁子の製造方法であって、熱硬化処理後の該ボンド磁石を再加熱して軟化させる軟化工程と、該軟化したボンド磁石を該ケースの一方側にある開口から該ケース内へ圧入する圧入工程とを備え、該ケースは、少なくとも該ボンド磁石の固定部が磁性材からなる円筒部と、該円筒部の他方側に結合された蓋部とを有し、該圧入工程は、該ボンド磁石と該ケースの相対的な姿勢変動を許容しつつ、該ボンド磁石を該円筒部内へ相対的に送入する界磁子の製造方法である。
【0010】
(2)本発明の製造方法によれば、要求仕様を満たす界磁子を低コストで生産し得る。この理由は、次のように考えられる。
【0011】
先ず、円筒部に蓋部を結合してなるケース(適宜「結合ケース」という。)は、深絞り成形等により一体化されたケース(適宜「一体ケース」という。)よりも、低コストで生産され得る。具体的にいうと、結合ケースにより、例えば、材料歩留まりの向上、設備(金型等)の費用低減、不良率の低減等が実現される。また、ケース(円筒部)は、基本的に、ボンド磁石が圧入される内周面の精度(円筒度、真円度等)が確保されていれば足り、その外周面や端部等は必ずしも高精度である必要がない。このような点も、結合ケースの生産コスト低減に寄与し得る。
【0012】
次に、本発明では、そのような結合ケースへボンド磁石を圧入する際に、軟化させたボンド磁石を、相対的な姿勢変動が許容された円筒部内へ送入している。これにより、ボンド磁石は、ケース(円筒部)内へ安定して圧入され、その内周面はケースの内周面に応じた所望の精度となり得る。こうして、要求仕様を満たしつつ、生産コスト低減が図られた界磁子が得られる。
【0013】
ちなみに、本発明の製造方法により、ボンド磁石の圧入安定化とその内周面の精度確保が両立される理由は、次のように考えられる。
【0014】
ボンド磁石は、磁石粒子と加熱されて軟化または溶融した樹脂との混合物を、成形型のキャビティで固化した成形体からなる。成形体は、通常、完全に冷却凝固する前にキャビティから取り出される。このような成形体は、強度や剛性が必ずしも十分ではないため、キャビティからの取出時やその後の搬送時等のハンドリングに起因して、僅かながら変形(歪み)を生じ得る。この歪みは、その後の熱硬化処理(キュアー処理)でも修復されず、ボンド磁石に承継されて残存し得る。熱硬化処理後のボンド磁石は強度や剛性が十分なため、そのままケースへ強引に圧入することも可能である。しかし、歪みが残存したボンド磁石をケースへそのまま圧入すると、ボンド磁石の内周面の精度が確保されないおそれがある。
【0015】
これに対して、熱硬化処理後の再加熱により軟化したボンド磁石は可塑性が復元するため、ケースの円筒部へ圧入されたボンド磁石の内周面は、その円筒部の内周面に沿った形状となり得る。その結果、ボンド磁石の内周面には、円筒部の内周面の精度に応じた精度が確保され得る。
【0016】
但し、軟化したボンド磁石は、硬化したボンド磁石よりも強度(抗折力等)や剛性が小さい。このため、そのようなボンド磁石をケースへ強引に圧入すると、過度な曲げ応力等によりボンド磁石は変形するおそれがある。そこで本発明では、ケースとの相対的な姿勢変動を許容した状態でボンド磁石を圧入している。ケースとボンド磁石の相対的な姿勢変動により、両者は自動的に調心されて、圧入時にボンド磁石に曲げ応力等が過度に作用することが抑制される。こうして軟化したボンド磁石であっても、過度な応力集中を受けることなく、円筒部内へ安定して圧入され得る。
【0017】
こうして、本発明の製造方法によれば、ボンド磁石をケース内へ安定して圧入できると共に、圧入後のボンド磁石の内周面の精度も確保できるようになり、界磁子の生産コスト低減を図れるようになったと考えられる。
【0018】
《その他》
(1)本明細書では、便宜上、圧入体(ボンド磁石)がある側を一方側、被圧入体(ケース)がある側を他方側という。ケースについて観ると、ボンド磁石が導入される開口側が一方側、その反対側が他方側となる。ボンド磁石について観れば、ケース内に嵌入(送入)される先側(奥側)が他方側、その後側(手前側)が一方側となる。例えば、ボンド磁石の上方からケースを圧入する場合なら、下方が一方側、上方が他方側となる。
【0019】
(2)本明細書でいう「姿勢変動」は、ケースとボンド磁石の少なくとも一方が、そのもの自体の形態(形状)をほぼ維持したまま、全体的に移動(回転、スライド等)することを意味する。この点で、姿勢変動は、そのもの自体の形状変化または部分的な変位を伴う変形(塑性変形、弾性変形)と異なる。
【0020】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1B】その界磁子の縦断面図(A-A断面図)である。
【
図2A】リング磁石のケースへの圧入初期(一例)を模式的に示す断面図である。
【
図2B】リング磁石のケースへの圧入終期(一例)を模式的に示す断面図である。
【
図3A】円筒部と蓋部との中心軸がずれているケースへリング磁石を圧入する一状態例を模式的に示す断面図である。
【
図3B】その別な状態例を模式的に示す断面図である。
【
図4】圧入に用いた受け治具の内面側を示す横断面図(B-B断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を、上述した本発明の構成に付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。製造方法に関する構成は物に関する構成となり得る。
【0023】
《ケース》
ケースは、円筒部と、その他方側(特に他端側)にある蓋部とを少なくとも有する。円筒部と蓋部は、一体成形ではなく、別部材を結合して形成される。円筒部と蓋部の結合は、例えば、かしめ、溶接(スポット溶接を含む)等によりなされる。蓋部は、円筒部の他端側以外に結合されてもよい。ケースは、円筒部や蓋部の他に別な部位や部材を有してもよい。
【0024】
円筒部は、例えば、所定長さの管材で構成されても、所定形状の板片を円筒状に丸めて構成されてもよい。丸めた板片は、両端部をかしめや溶接等により接合して円筒状とされてもよいし、リングを外挿して円筒状に保持されてもよい。なお、円筒部の内周面は、例えば、精度(円筒度等)が確保された円柱状の芯金の外周面に密着させて成形されてもよい。これにより、円筒部の内周面に所望の精度が付与され得る。また円筒部の外周面は、円筒面でもよいし非円筒面でもよい。ちなみに、ボンド磁石が圧入されて固定される円筒部の部位(固定部)はヨークを兼ねる。このため、少なくとも固定部が磁性材からなるとよい。
【0025】
円筒部は、その開口側に、一方側に向かって内周面が拡径するテーパー状の導入部(「テーパー部」ともいう。)を有するとよい。これにより、ボンド磁石のケース内への滑らかな圧送が可能となる。テーパー部の傾角は、例えば、中心軸に対して5~12°さらには6~10°とすればよい。
【0026】
蓋部は、例えば、略円板状、曲面状、鍔付き円筒状等のいずれでもよい。また蓋部は、円筒部の他端側を閉塞するだけでもよいし、界磁子内に配設される電機子の軸受または軸受の保持部等を構成してもよい。蓋部と円筒部は、材質や厚みが同じでも異なっていてもよい。
【0027】
《ボンド磁石》
ボンド磁石は、磁石粒子と熱硬化性樹脂からなる円筒状の成形体が、熱硬化処理されてなる。
【0028】
(1)磁石粒子の少なくとも一部は、希土類磁石粒子であるとよい。これによりボンド磁石ひいてはモータの高性能化や小型化等が可能となる。磁石粒子は、等方性でも異方性でもよい。少なくとも等方性磁石粒子からなるボンド磁石は、ケースへの圧入後に、着磁されるとよい。異方性磁石粒子からなるボンド磁石は、磁場配向中で成形された成形体からなるとよい。この場合、さらに着磁がなされてもよい。
【0029】
希土類磁石粒子は、例えば、Nd-Fe-B系磁石粒子、Sm-Fe-N系磁石粒子、Sm-Co系磁石粒子等である。磁石粒子は、一種のみならず、複数種が混在したものでもよい。複数種の磁石粒子は、例えば、成分組成が異なるものでも、粒径分布が異なるものでも、それら両方が異なるものでもよい。
【0030】
(2)バインダ樹脂である熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン等である。なお、本明細書では、硬化剤や硬化助剤等が熱硬化に必要なときは、それらを含めて熱硬化性樹脂という。
【0031】
ボンド磁石中には、適宜、軟化または溶融した熱硬化性樹脂と磁石粉末との濡れ性や密着性等を改善する種々の添加剤が含まれてもよい。このような添加剤として、例えば、アルコール系等の潤滑剤、チタネート系もしくはシラン系のカップリング剤などがある。
【0032】
(3)熱硬化処理の条件は、熱硬化性樹脂の種類やボンド磁石のサイズ等に応じて、適宜調整される。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂なら、その種類にも依るが、例えば、加熱温度:80~200℃、加熱時間:10~60分間の範囲内で調整されるとよい。加熱雰囲気は、大気雰囲気でもよいが、非酸化雰囲気(Ar、N2、真空等)なら、酸化によるボンド磁石(磁石粒子)の劣化を抑制できる。
【0033】
《軟化工程》
軟化工程は、熱硬化処理したボンド磁石を再加熱して軟化させる。軟化は、ボンド磁石がケースの内周面に沿った円筒状となる可塑性と、ボンド磁石のケースへの圧入が可能な程度の機械的特性(強度、剛性等)とが両立する程度であるとよい。
【0034】
ボンド磁石の再加熱温度は、熱硬化性樹脂の種類、その質量割合、熱履歴等に応じて、適宜調整される。通常、ボンド磁石は、その熱硬化処理温度(T0)+100度よりも低温で加熱されるとよい。例えば、その温度は、T0+70℃以下、T0+40℃以下、T0+10℃以下、T0以下、T0-20℃以下であるとよい。また、その温度は、40℃以上さらには50℃以上であるとよい。一例として、熱硬化性樹脂がフェノールノボラック型のエポキシ樹脂なら、その温度は、例えば、270~40℃、240~40℃、210~50℃、180~60℃、150~90℃、140~100℃さらには130~110℃とするとよい。また、一例として、熱硬化性樹脂がビスフェノールA型のエポキシ樹脂なら、その温度は、例えば、150~40℃、120~40℃、90~40℃、80~50℃さらには70~55℃とするとよい。
【0035】
再加熱温度が過大になると、ボンド磁石の機械的特性が低下して、圧入が難くなる。再加熱温度が過小では、ボンド磁石の可塑性が不十分となり、ボンド磁石がケースの内周面に沿って変形し難くなる。なお、本明細書でいうボンド磁石の加熱温度は、加熱炉等の雰囲気温度である。熱硬化処理温度が変化するとき、または熱硬化処理が多段階でなされるとき、熱硬化処理中の最高温度を、再加熱温度の基準(T0)とするとよい。
【0036】
ボンド磁石の加熱時間は、その大きさ(肉厚)、熱硬化性樹脂の種類や質量割合等により適宜調整され得る。例えば、再加熱は、10秒~1時間さらには20秒~30分間程度なされるとよい。
【0037】
《圧入工程》
圧入工程は、ボンド磁石とケースの相対的な姿勢変動を許容しつつ、ボンド磁石をケース内へ相対的に送入する。
【0038】
(1)姿勢変動は、ケースに対してボンド磁石が送入されていく前提において、ボンド磁石とケースの少なくとも一方が、送入方向以外に可動であればよい。このような姿勢変動が可能なら、ボンド磁石またはケースは、完全な非拘束状態(フリーな状態)でも、一部がガイド等で支持された状態でもよい。
【0039】
姿勢変動は、例えば、傾動(回転運動)または横移動(並進運動)のみでも、両者の組み合わせでもよい。なお、横移動(スライド)は、送入方向に交差する方向(例えば略直交方向)への移動である。便宜上、略送入方向への移動を縦移動ともいう。
【0040】
ちなみに、傾動は、特定点(例えば、ケースと治具の接触点等)を中心とした回転でもよいし、変化する瞬間中心まわりの回転でもよい。傾動は、送入方向(円筒部の内周面またはボンド磁石の内周面に関する軸方向)に対する振れ(揺動)でも、その送入方向まわりの回転(回動/首振り)でもよい。なお、姿勢変動は、ケースとボンド磁石の一方の運動により実現されてもよいし、両者の運動(連動)により実現されてもよい。
【0041】
(2)送入は、ケースとボンド磁石の一方を移動させてなされても、それら両方を移動させてなされてもよい。通常、ケースとボンド磁石の一方の移動を規制しつつ、その他方を移動させる送入がなされる。例えば、ケースを支持してケースの他方側への移動を規制しつつ、ケース内へボンド磁石が送入される。このとき、ケースの支持状態は、点状、線状、面状またはそれら二以上の複合でもよい。相対的な姿勢変動が可能な限り、ケースの支持(移動の規制)は、他端部でなされても、それ以外の部位(例えば中間部)でなされてもよい。支持されるケースの他端部は、円筒部の他端部でも、蓋部の他端部でもよい。支持される蓋部の他端部は、外縁部でも中央部でもよい。
【0042】
締め代(圧入代)は、ボンド磁石やケースの肉厚、ボンド磁石の剛性、モータの用途等に応じて、適宜調整される。締め代は、少なくとも、圧入工程後に、ボンド磁石がケースから脱落しない程度であるとよい。
【0043】
《界磁子》
本発明の製造方法により得られる界磁子は、例えば、直流(DC)モータや交流(AC)モータ等の電動機(発電機を含む)に用いられる。このような界磁子は、通常、固定子(ステーター)を構成する。
【実施例】
【0044】
ケースにリング磁石(ボンド磁石)を圧入して、モータ用界磁子を製造する場合を例にとり、本発明をより具体的に説明する。
【0045】
《界磁子》
一例であるモータ用界磁子F(単に「界磁子F」という。)を
図1Aに示した。また、
図1Aに示したA-A断面を
図1Bに示した。界磁子Fは、ケース1と、ケース1内に接着剤を用いずに固定されたリング磁石2とからなる。これらの詳細は次の通りである。なお、本実施例では、説明の便宜上、上下方向、左右方向、送入方向または横方向は各図に示す方向とする。各図に示す下方(側)と上方(側)は、それぞれ、本明細書でいう一方(側)と他方(側)に相当し、下方から上方へ向かう鉛直方向が送入方向となる。また、既述した部材については同符号を付して、適宜、それらの説明を省略した。
【0046】
(1)ケース1は、円筒部11と、その他方側に固定された蓋部12とからなる。円筒部11は、さらに一方側から順に、開口部111、テーパー部112(導入部)、固定部113、爪部114を有する。開口部111は固定部113よりも拡径している。両者の中間にあるテーパー部112(導入部)は、両者の内外周面を滑らかに接続する。なお、開口部111の固定部113に対する拡径具合(直径差)は、説明の便宜上、誇張して図示しているが、実際は僅か(例えば直径差で1mm以下)である。
【0047】
爪部114は、固定部113の他端側から延在する3つの突起である。爪部114は、後述する蓋部12の切欠部124と対応して形成されている。
【0048】
蓋部12は、鍔部121と、鍔部121の中央付近から他方側へ突出した円筒状の保持部122とを有する。鍔部121の外周縁側には、3つの切欠部124が略120°間隔で均等に形成されている。保持部122の内筒部123には、モータの回転軸を支承するベアリングが嵌挿される。なお、蓋部12は円筒部11の他方側を閉塞している。すなわち、円筒部11と蓋部12とによりケース1は略有底円筒状となっている。
【0049】
円筒部11も蓋部12も、軟鉄鋼板(磁性材)を所望形状に切断または打ち抜いた板片からなる。円筒部11は、板片を円筒状に巻回し、その端部を溶接またはかしめにより接合した接合円筒体からなる。接合円筒体の上端側にできた突起(爪部114の前身)に、蓋部12の切欠部124を嵌めて、その突起を内側に折り曲げると、円筒部11の他方側で蓋部12が爪部114によりかしめ固定された状態となる。蓋部12の固定後または蓋部12の固定と同時に、円筒部11の開口部111、テーパー部112および固定部113と、蓋部12の保持部122とが、芯金(パンチ)により成形される。これにより各部の内周面は所望の精度となる。ちなみに、円筒部11の外周面や蓋部12の上面(他端部)の精度は、内周面の精度と比較して、界磁子Fの性能への影響が十分に小さいため、それらに各内周面のような厳しい寸法公差や幾何公差は設定されていない。
【0050】
(2)リング磁石2は、希土類磁石粒子と熱硬化性樹脂からなるコンパウンドを円筒状に圧縮成形した成形体を、熱硬化処理したボンド磁石からなる。リング磁石2は、円筒部22と、その一方側にある環状の端面21と、その他方側にある環状の端面23とを有する。
【0051】
熱硬化処理後の段階では、円筒部22の内周面22aや外周面22bについて、厳しい寸法公差や幾何公差は設定されていない。但し、円筒部22の内周長または肉厚(横方向/径方向)は所定の範囲内とされる。
【0052】
《治具》
ケース1へリング磁石2を圧入する際に用いる受け治具3と送り治具4を
図2Aと
図2B(両者を併せて単に「
図2」という。)に示した。それらの詳細は次の通りである。
【0053】
(1)受け治具3は、工具鋼からなる略有底円筒体である。受け治具3は、一方側に開口部31と、円筒部32と、底部33とを備える。円筒部32の内径は、ケース1の円筒部11(開口部111)の外径よりも大きい。このため、受け治具3の内周面32aとケース1の外周面11bとの間には隙間があり、ケース1はその隙間の範囲内で、傾動や横移動等の姿勢変動が可能となっている。
【0054】
底部33の内面側には、中央から下方側(一方側)へ突出した円柱状のガイドピン34と、湾曲面からなる3つの突起35(突部)とが形成されている。各突起35は、ガイドピン34の外周下方側に均等に配置されている。なお、受け治具3は、ガイドピン34が鉛直方向(送入方向)となるように配設(固定)される。
【0055】
(2)送り治具4は、工具鋼からなる段付き円柱体である。送り治具4は、円柱状の基部41と、基部41から上方(他方側)に延在する円柱状の内挿部42とを備える。基部41の外径は、リング磁石2(外周面22b)の外径よりも僅かに小さい。内挿部42の外径は、基部41の外径よりも小さく、さらに、リング磁石2(内周面22a)の内径よりも小さい。リング磁石2は、基部41と内挿部42の間にできる環状の下面411上に、端面21を接面させて載置される。内挿部42の外周面42bとリング磁石2の内周面22aとの間にも隙間があり、リング磁石2はその隙間の範囲内で、僅かな姿勢変動(傾動または横移動等)が可能となる。
【0056】
なお、内挿部42はリング磁石2よりも上下方向の長さが短く、内挿部42の上面421が送り治具4に載置されたリング磁石2の端面23から突出しない。このため、送り治具4は、リング磁石2の端面23が蓋部12の下面12a(ケース1の内底面)に当接する位置またはその近傍まで、リング磁石2を送入することも可能である。
【0057】
送り治具4の一方側には、油圧シリンダ(図略)が配設されており、油圧シリンダへの供給油圧の制御により、送り治具4は所望の速度で、所定位置まで移動し得る。
【0058】
ちなみに、
図2に示すように、本実施例では、受け治具3と送り治具4を、両者の中心軸を略一致させたまま直線状に相対移動させた。受け治具3と送り治具4は、少なくとも一方の中心軸を傾動、揺動等させつつ相対移動してもよい。つまり、受け治具3と送り治具4の少なくとも一方も、圧入方向に関して姿勢変動してもよい。例えば、少なくとも一方の治具を、圧入方向に延在する自在継手(universal joint)等を介して揺動等させてもよい。このように、ケース1とリング磁石2の間の姿勢変動と共に、またはそれに替えて、受け治具3と送り治具4の少なくとも一方の姿勢変動がなされてもよい。
【0059】
《組付け》
(1)軟化工程
リング磁石2を予め加熱炉(大気雰囲気)で、熱硬化処理温度よりも低い温度で加熱する。これによりリング磁石2は、圧入に必要な強度や剛性を保持しつつ、軟化して可塑性を発現する。
【0060】
(2)セット工程
軟化したリング磁石2を、上方から内挿部42へ差し入れて、送り治具4にセットする(
図2A参照)。既述したように、リング磁石2の内周面22aと送り治具4の内挿部42との間には隙間があるため、その隙間の範囲内で、リング磁石2は横移動等できる。
【0061】
そのリング磁石2へ上方から、ケース1の開口部111を差し入れる。このとき、ケース1は、例えば、テーパー部112の内周面をリング磁石2の端面23の外周縁に当接させて、鉛直方向から少し傾いた状態で保持される(
図2A参照)。
【0062】
(3)圧入工程
リング磁石2上にケース1を被せた状態のまま、油圧シリンダを稼働させて送り治具4を上方へ移動させる。これにより、先ず、ケース1が受け治具3内へ進入する。ケース1の外周面11bと受け治具3の内周面32aとの間には隙間があるため、その隙間の範囲内で、ケース1は姿勢変動(横移動、傾動等)できる。
【0063】
送り治具4の上昇につれて、
図2Aに示すように、受け治具3のガイドピン34がケース1の保持部122に嵌挿されると共に、受け治具3のいずれかの突起35がケース1の鍔部121の上面(蓋部の他端部)と点状に接触し始める。
【0064】
ケース1は、ガイドピン34と保持部122の間にできる隙間の範囲内で、鍔部121の上面と突起35の接触点を中心にして、鉛直方向(送入方向)へ傾動したり、横移動(滑動/摺動)したりする。こうして、ケース1とリング磁石2は自動的に調心された状態(固定部113とリング磁石2の中心軸がほぼ一致した状態)となる。そして蓋部12の上面が他の突起35にも当接して、ケース1の上方(他方)への移動が規制される。
【0065】
送り治具4がさらに上昇すると、
図2Bに示すように、リング磁石2は、ケース1に調心された状態のまま固定部113内に送入される。このとき、リング磁石2は軟化状態であるため、その内周面22aは固定部113の内周面113aに沿って再成形される。こうして、リング磁石2の内周面22aは、固定部113の内周面113aと略同等な精度(真円度等)となる。なお、リング磁石2は、その端面23が蓋部12の下面12aに当接するまで送入されてもよいし、その当接前の中間位置で留められてもよい。
【0066】
このようにして、ケース1へ圧入されたリング磁石2の内周面22aが所望の精度(真円度等)を満たす界磁子Fが得られる。上述した工程から明らかなように、その内周面22aの精度は、ケース1の外周面11bや蓋部12の精度には依存していない。
【0067】
《変形例》
(1)受け治具3の突起35は、爪部114と接触してもよい。受け治具3の内底面側とケース1の上端面側とは、点状接触の他、線状接触や面状接触でもよい。なお、受け治具3のガイドピン34や突起35は無くても、上述したような圧入は可能である。
【0068】
また、受け治具3の突起35は、蓋部12の保持部122と接触してもよい。すなわち、保持部122等でも、蓋部12の他方側に位置する部位であれば蓋部12の他端部となりうる。さらにケース1の支持(移動規制)は、例えば、円筒部11の中間部(テーパー部112の外周面側等)でなされてもよい。なお、テーパー部112の外周面でケース1を支持する場合、開口部111と固定部113との直径差を実施形態で記載した寸法例よりもさらに大きくしてもよい。
【0069】
リング磁石2の軸方向の一端部は、テーパー部112に差し掛かったり、固定部113から露出しても(はみだしても)よい。この場合でも、固定部113に圧入されたリング磁石2の内周面の精度(真円度等)は確保され得る。
【0070】
受け治具3および送り治具4とは別に、テーパー部112の代替機能を有する第3治具を設けてもよい。第3治具は、ケース1の開口側に設けられ、ケース1と一体で受け治具3に対して姿勢変動できればよい。
【0071】
(2)
図3Aと
図3B(両者を併せて単に「
図3」という。)に示すように、ケース1を構成する円筒部11の中心軸L1と蓋部12(内筒部123)の中心軸L2とが交差している場合がある。このような場合でも、本発明の製造方法によれば、リング磁石2がケース1の円筒部11内へ、適切に圧入され得る。これらについて以下説明する。なお、円筒部11の中心軸L1と蓋部12(内筒部123)の中心軸L2との交差は、例えば、両者をかしめて組み付けたときに発生し得る。
【0072】
なお、
図3に示した円筒部11と蓋部12の固定状態(中心軸L1と中心軸L2の交差)は、説明の便宜上、誇張して示している。また
図3に示した中心軸L0は、受け治具3(ガイドピン34)、送り治具4(内挿部42)またはリング磁石2の中心軸を示している。
図3では、説明の便宜上、それらの中心軸が一致している状態を示したが、それぞれの中心軸は左右方向にずれていてもよい。ちなみに、蓋部12の中心軸L2は、通常、鍔部121の端面と略直交している。
【0073】
ケース1へリング磁石2を圧入するために、送り治具4を受け治具3に向けて移動させると、蓋部12の他端面が受け治具3の突起35に接触し得る。このとき、リング磁石2は、円筒部11に片当たりするため、ケース1は、回転方向や横方向へ向かう力を受け得る。
【0074】
これにより、例えば、円筒部11の中心軸L1が送り治具4(またはリング磁石2)の中心軸L0と略一致していない状態(
図3A)から、それら中心軸L1が中心軸L0に略一致する状態(
図3B)となる。このとき、蓋部12の鍔部121における他方側の面は、受け治具3の突起35の1つまたは2つとだけ接触した状態となる。換言すると、鍔部121における他方側の面は、突起35が3つ以上あるときでも、それら突起35の3つ以上と接触しない。このとき、ケース1は、鍔部121に接触している1つまたは2つの突起35により上方への移動が規制された状態となる。また、円筒部11の中心軸L1は送り治具4またはリング磁石2の中心軸L0と略一定または略平行な状態となる。この状態(
図3B)から送り治具4をさらに上方へ移動させると、リング磁石2は円筒部11へ適切に圧入される。
【0075】
なお、受け治具3に突起35が有る場合と無い場合とを比較すると、突起35が有る方がより小さい荷重でケース1の姿勢変動が生じ得る。これは次のように考えられる。まず、回転について考察すると、受け治具3に突起35が無い場合、ケース1の回転中心は蓋部12における鍔部121の外縁部になる。一方、突起35が有る場合、ケース1の回転中心は、突起35と蓋部12との接触部になる。したがって、突起35が有る方が、ケース1の回転中心が径方向内側つまり中心軸L0寄りになる。
【0076】
両者を比較すると、回転中心になる位置(外縁部、突起35)と荷重を受ける位置(ケース1のテーパー部112とリング磁石2の接触部)との角度が異なる。つまり、突起35が有る場合の方が、より小さい荷重で大きな回転モーメントが得られる。このため、リング磁石2に作用する荷重を低減させつつケース1へリング磁石2を圧入できるようになり、圧入時のリング磁石2の変形が抑制される。
【0077】
また、横移動について考察すると、突起35が有る場合、突起35と蓋部12とは点接触に近い状態となる。一方、突起35が無い場合、受け治具3と蓋部12とは面接触に近い状態となる。従って、両者を比較すると、突起35が有る場合の方が、蓋部12にかかる摩擦抵抗を十分に小さくできる。言い換えると、ケース1にかかる荷重の反力としてリング磁石2にかかる荷重もより小さくなり、この点でもリング磁石2の変形が抑制される。
【0078】
こうして、本実施例(変形例を含む。)によれば、送入に伴うリング磁石2の変形を避けられる。言い換えると、リング磁石2は円筒部11へ適切に圧入され、所望の要求仕様を満たす界磁子Fが得られる。なお、蓋部12と円筒部11の間で生じる軸ずれの形態は様々であるため、蓋部12の中心軸L2を挟む少なくとも2か所に、突起35が設けられると良い。勿論、突起35が3箇所以上あるとより好ましく、それらが等角度間隔に配置されるとさらに好ましい。なお、本実施例では、突起35と蓋部12とを点接触に近い状態としたが、突起35の先端形状は、点状でも、線状でも、面状でも同様である。
【0079】
本発明の製造方法によれば、ケース1を構成する円筒部11と蓋部12の間に製造誤差(組付け誤差等)があっても、所望の界磁子Fを得ることができる。なお、ケース1の製造時に生じる誤差は、当然、界磁子Fとしての要求仕様を満たす許容範囲内である。この限りにおいて、ケース1は、複数の部材からなる場合に限らず、当然、深絞り成形等により一体成形されたケース1でもよい。一体成形品でも、製造誤差(例えば、円筒部11と蓋部12の軸ずれ等)が生じ得る。
【0080】
(3)
図4(
図3A中のB-B断面)に示すように、受け治具3の内面側には3つの突起35が、略均等(等角度間隔)に配置されている。隣接する各突起35間を直線で結んでできる領域内に、送り治具4またはリング磁石2の中心軸L0があるとよい。これにより、円筒部11と蓋部12との組み付け状態によらず、受け治具3内でケース1が中心軸L0に対して大きく傾くことが抑制される。ひいては、送り治具4を受け治具3へ送入すれば、円筒部11と蓋部12との組み付け状態によらず、リング磁石2はケース1に適正に圧入される。
【0081】
なお、突起35の数や大きさは適宜調整され得る。例えば、略同じ大きさの突起35が3つ以上あると、蓋部12がいずれかの突起35と安定して接触し得る。但し、突起35が多くなると、ケース1の姿勢変動範囲は小さくなり得る。
【0082】
《評価例》
(1)ケースとリング磁石
実際に製作したケース1とリング磁石2を用いて、上述した軟化工程と圧入工程の効果を確認した。
【0083】
ケース1は冷間圧延鋼板製とし、その固定部113は外径:φ34.0mm、内径:φ30.0mm、長さ:70.0mmとした。テーパー部112の内周面は、中心軸に対する傾角を8°とした。固定部113の内周面113aの真円度は0.10mmとした。なお、真円度の測定はJIS B0021に沿って行った(以下同様)。
【0084】
リング磁石2は次のようにして製作した。原料には、NdFeB系希土類異方性磁石粒子(愛知製鋼株式会社マグファイン磁石粉末MF15P)とエポキシ樹脂からなるコンパウンドを用いた。なお、コンパウンド全体に対するエポキシ樹脂量は3質量%であった。また、エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型であり、その熱硬化温度は150℃であった。
【0085】
そのコンパウンドを金型のキャビティ内で加熱しつつ圧縮して(150℃×130MPa×6秒間)、円筒状の成形体(外径:30.2φmm×内径:φ28.1mm×長さ:30mm)を得た。この成形体を大気雰囲気の加熱炉で加熱して、熱硬化処理した(150℃×40分間)。こうしてボンド磁石からなるリング磁石2を用意した。
【0086】
(2)組付け
先ず、
図2Aに示した受け治具3と送り治具4を用いて、軟化工程後のリング磁石2をケース1へ組み込んだ(圧入工程)。軟化工程は、リング磁石2を大気雰囲気の加熱炉で加熱した(150℃×30秒間)。圧入工程は、荷重:985N、移動速度:30mm/secとして行った。
【0087】
こうしてケース1に組み込まれたリング磁石2の内周面22aは、真円度が0.12mmであった。
【0088】
(3)比較例
軟化工程を施さないリング磁石2に対して、上述した圧入工程を行った場合、リング磁石2の内周面22aにひび(クラック)が発生することがあった。また、ケース1とリング磁石2の姿勢変動を許容しないで、上述した軟化工程後のリング磁石2をケース1へ送入した場合、荷重異常となり圧入できなかった。
【0089】
(4)評価
それぞれの測定結果(真円度)から、軟化させたリング磁石2を、姿勢変動を許容した状態でケース1へ圧入することにより、リング磁石2の内周面22aを所望の精度にできることが確認された。逆に、軟化工程を省略したり、姿勢変動を許容せずに圧入工程を行ったりすると、リング磁石2をケース1へ安定的に圧入し難いこともわかった。
【0090】
また、蓋部12と円筒部11が軸ずれした状態で組み付いたケース1についても同様な評価を行った。その結果、上記のごとく姿勢変動を許容した状態で圧入することで、同様に、リング磁石2の内周面22aを所望の精度にできることが確認された。
【符号の説明】
【0091】
1 ケース
11 円筒部
12 蓋部
2 リング磁石(ボンド磁石)
3 受け治具
4 送り治具