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特許7549326スメクチック液晶構造を有する複合半透膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】スメクチック液晶構造を有する複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/44 20060101AFI20240904BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/66 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20240904BHJP
   B01D 71/20 20060101ALI20240904BHJP
   C08F 16/32 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B01D71/44
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/42
B01D71/48
B01D71/50
B01D71/52
B01D71/56
B01D71/66
B01D71/68
B01D71/16
B01D71/20
C08F16/32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020105484
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021194633
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-06-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)、産業技術競争力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】濱口 和馬
(72)【発明者】
【氏名】片山 浩之
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 将太郎
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-163710(JP,A)
【文献】特開2016-221482(JP,A)
【文献】特開2011-255255(JP,A)
【文献】特開平08-073572(JP,A)
【文献】国際公開第2004/060531(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜と該微多孔性支持膜上に設けられた高分子化された液晶薄膜からなる複合半透膜であって、前記高分子化された液晶薄膜が、以下の式(1)で表される化合物が高分子化してなるスメクチック液晶構造を有することを特徴とする、複合半透膜。
【化1】
(式中、Xは、ビニル基を有する重合性基であり;Yは、-O-(CH-O-あり、ここで、rは1~10の整数であり;Zは、Cl、Br、I、F、BF 、PF 、CFSO 及び(CFSOよりなる群から選択されるアニオンであり;
は、いずれも酸素原子であり、及びLは、いずれもエステル基あり;
は、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、及びハロゲン原子から選択される1~3の基であり;Rは、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又はビニル基であり;
mは、1~20の整数であり;nは、1~10の整数である。)
【請求項2】
Xが、ビニル基、ビニルオキシ基、プロペニル基、ブタジエニル基、エチニル基、エチニルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、又はアクリルアミド基である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記スメクチック液晶構造の層間距離が、30~60Åの範囲である、請求項1又は2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
透水量が、0.5m/m/日以上である、請求項1~のいずれか1に記載の複合半透膜。
【請求項5】
ウイルス阻止率(LRV)が、4.5以上である、請求項1~のいずれか1に記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記微多孔性支持膜が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、又はこれらの組み合わせよりなる、請求項1~のいずれか1に記載の複合半透膜。
【請求項7】
水処理に用いるための、請求項1~のいずれか1に記載の複合半透膜。
【請求項8】
溶液中に存在するウイルスを除去処理するための、請求項1~のいずれか1に記載の複合半透膜。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1に記載の複合半透膜を含む、流体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性支持膜と該微多孔性支持膜上に設けられた高分子化された液晶薄膜からなる複合半透膜、及び、かかる複合半透膜を含む流体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒(例えば水)に含まれる有害物や病原体を除去・無害化するための技術としては、ろ過や沈殿により対象物を物理的に分離する手法と、紫外線照射や薬剤により対象物の化学構造を変化させる手法の二つに大別される。ろ過等により有害物を分離・除去する手法は、化学反応により有害な副生成物が生じるおそれがなく、また、薬剤や紫外線に耐性のある病原体も除去可能であるという長所がある。一方で、小さなサイズの有害物の除去が困難であるという短所があった。
【0003】
一般に、ナノろ過膜や逆浸透膜の形態としては、膜に物理的強度を与える微多孔性支持膜と、実質的な分離性能を与える分離機能層とからなる複合半透膜が主流となっており、微多孔性支持膜および分離機能層についてそれぞれ最適な素材を選択できる利点がある。実用的に使用するための透水性と高い除去性能を両立するろ過膜のためには、透水流路となるナノ孔が均一かつ適切な大きさを有し、流路部分が膜中において占める割合が多いことが望ましい。かかる観点から、液晶分子は自己組織化によって規則的な周期構造を形成することが知られているため、分離機能層の材料として用いることで、均一な大きさの孔を有する高性能なろ過膜の作製が可能であると考えられる。
【0004】
特許文献1、特許文献2には液晶を分離機能層に用いた分離膜が開示されている。また、特許文献3には、双連続キュービック液晶構造を呈することを特徴とする複合半透膜が開示されており、透水性、分離性の改善が図られている。
【0005】
しかしながら、これらの文献に開示された従来の分離膜は、透水性あるいは分離性能が低いために水処理用の分離膜として実用的に十分ではなく、さらなる性能の向上や安定性が求められる。特に、ウイルスのろ過除去には、現在、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などが用いられているが、より高い除去率(99.99%以上)でウイルス除去を可能とする膜材料が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2004/060531号
【文献】米国特許出願公開第2009/173693号明細書
【文献】特開2011-255255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、高い透水性と分離特性を安定的に示し得る複合半透膜を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、透水部分が大きいスメクチック液晶構造を示し、かつ架橋重合が可能となる双頭型の液晶分子を活用することにより、ウイルス等のナノサイズの粒子に対する高い分離特性と高い透水性とを両立した水処理用の複合半透膜を提供できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1>微多孔性支持膜と該微多孔性支持膜上に設けられた高分子化された液晶薄膜からなる複合半透膜であって、前記高分子化された液晶薄膜が、以下の式(1)で表される化合物が高分子化してなるスメクチック液晶構造を有することを特徴とする、複合半透膜
【化1】
(式中、Xは、ビニル基を有する重合性基であり;Yは、-O-(CH-O-、又は-(CH-であり、ここで、rは1~10の整数であり;Zは、Cl、Br、I、F、BF 、PF 、CFSO 及び(CFSOよりなる群から選択されるアニオンであり;L及びLは、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、酸素原子、アミド基、エステル基、エーテル基、アルキレン基、及びフェニレン基よりなる群から選択される連結基であり;Rは、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、及びハロゲン原子から選択される1~3の基であり;Rは、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又はビニル基であり;mは、1~20の整数であり;nは、1~10の整数である。);
<2>Xが、ビニル基、ビニルオキシ基、プロペニル基、ブタジエニル基、エチニル基、エチニルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、又はアクリルアミド基である、上記<1>に記載の複合半透膜;
<3>Lが酸素原子であり、Lがアミド基又はエステル基である、上記<1>又は<2>に記載の複合半透膜;
<4>前記スメクチック液晶構造の層間距離が、30~60Åの範囲である、上記<1>~<3>のいずれか1に記載の複合半透膜;
<5>透水量が、0.5m/m/日以上である、上記<1>~<4>のいずれか1に記載の複合半透膜;
<6>ウイルス阻止率(LRV)が、4.5以上である、上記<1>~<5>のいずれか1に記載の複合半透膜;
<7>前記微多孔性支持膜が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、又はこれらの組み合わせよりなる、上記<1>~<6>のいずれか1に記載の複合半透膜;
<8>水処理に用いるための、上記<1>~<7>のいずれか1に記載の複合半透膜;及び
<9>溶液中に存在するウイルスを除去処理するための、上記<1>~<7>のいずれか1に記載の複合半透膜
を提供するものである。
【0010】
別の態様において、本発明は、
<10>上記<1>~<9>のいずれか1に記載の複合半透膜を含む、流体処理装置
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い透水性とナノサイズの粒子に対する高い分離特性とを両立した水処理用の複合半透膜を提供することができる。特に、本発明の複合半透膜によればウイルスを効率的に分離することができるため、従来技術では困難であったウイルスを含む水溶液からウイルスを除去するための水処理の用途において、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、液晶の種類と規則構造に関する説明図である。
図2図2は、本発明における双頭型スメクチック液晶分子の一般構造を示す模式図である。
図3図3は、本発明の複合半透膜の断面写真である。
図4図4は、本発明の双頭型スメクチック液晶分子の相転移挙動を示すグラフである。
図5図5は、本発明の双頭型スメクチック液晶分子により形成されるシスメチック液晶構造(SmA相)のX線構造解析スペクトルである。
図6図6は、本発明の双頭型スメクチック液晶分子により構成されるシスメチック液晶構造の模式図である。
図7図7は、本発明の複合半透膜及び比較例のウイルス阻止率(LRV)を示すグラフである。
図8図8は、本発明の複合半透膜及び比較例の膜透過流束(Flux)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明にお拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0014】
1.本発明の複合半透膜
本発明の複合半透膜は、微多孔性支持膜と、この微多孔性支持膜上に設けられた高分子化された液晶薄膜により構成されており、当該液晶薄膜が、架橋橋重合可能な双頭型の液晶分子から構成されたスメクチック液晶構造を有することを特徴とするものである。
【0015】
1-1.液晶薄膜(分離機能層)
本発明の複合半透膜におけるスメクチック液晶構造を有する液晶薄膜は、複合半透膜において、ウイルス等の除去対象物に対する分離性能を主として提供する層(分離機能層)である。ここで、「スメクチック液晶構造」とは、液晶分子の長軸方向を層状に配列してなる液晶構造を意味する。一般に、層の法線方向(層法線方向)と液晶分子の長軸方向とが一致している液晶を「スメクチックA相」、法線方向と一致していない液晶を「スメクチックC相」と呼ぶ場合もある。スメクチック液晶構造(スメクチック相)は、他の液晶構造の形態であるキュービック相やカラムナー相よりも親水部が多いことを特徴とする(図1)。
【0016】
本発明では、かかるスメクチック液晶構造が、双頭型の液晶分子が高分子化(重合)されて形成されている(これを「双頭型スメクチック液晶」と呼ぶ場合もある。)。本発明で用いられる双頭型の液晶分子は、図2に示すように、疎水部を中心に有し、その一方の末端に親水部、他の末端に重合基(重合部)を有する2本の鎖状分子が、疎水部で連結した構造を有する。親水部と疎水部のナノレベルでの相分離によって、それぞれの部位が自己組織的に集合し、スメクチック液晶構造が形成される。親水部の集合により親水性の透水流路が形成され、疎水部の集合により疎水性の透水流路の隔壁となる層が形成される。
【0017】
より具体的には、本発明における双頭型の液晶分子は、式(1)で表される構造を有する化合物である。すなわち、本発明の複合半透膜における液晶薄膜は、以下の式(1)で表される化合物を高分子化して得られるスメクチック液晶構造を有する。
【0018】
【化2】
【0019】
式(1)において、Xは、図2における重合基末端に相当するものであり、ビニル基を有する重合性基である。そのような重合性基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、プロペニル基、ブタジエニル基、エチニル基、エチニルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、又はアクリルアミド基を挙げることができ、これらの組み合わせであることもできる。
【0020】
また、Yは、図2における疎水部を連結しているスペーサーに相当する部分であり、具体的には、-O-(CH-O-、又は-(CH-である。ここで、rは1~10の整数である。好ましくは、Yは、-O-(CH-O-であり、rは、1~5の整数である。かかるYで、疎水部である2つのベンゼン環を連結することによって、式(1)の化合物は双頭型の構造を有する。
【0021】
式(1)の化合物は、図2の親水部としてイミダゾリウム構造を採用し正電荷を有しているため、カウンターアニオンZとイオン対を形成している。Zは、Cl、Br、I、F、BF 、PF 、CFSO 及び(CFSOよりなる群から選択されるアニオンである。好ましくは、Zは、BF である
【0022】
及びLは、それぞれ疎水部と、両端の重合基又は親水部との間のスペーサー(アルキル基)とを接続する連結基である。L及びLは、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、酸素原子、アミド基、エステル基、エーテル基、アルキレン基、及びフェニレン基よりなる群から選択される。好ましい態様では、Lが酸素原子であり、Lがアミド基又はエステル基である。
【0023】
は、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、及びハロゲン原子から選択される1~3の基である。好ましくは、Rは、いずれも水素原子である。
【0024】
は、イミダゾリウム構造を含む親水部の末端官能基であるが、図2の右図に示すように重合性のビニル基をさらに有することもできる。したがって、Rは、それぞれ独立に同一でも異なってもよく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又はビニル基であることができる。
【0025】
また、式(1)における「-(CH-」及び「-(CH-」は、疎水部と、両端の重合基又は親水部との間のスペーサー鎖であるが、mは、1~20の整数であり;nは、1~10の整数である。当該スペーサー鎖の長さは、所望の疎水性等の観点から適宜調整することができる。
【0026】
式(1)で表される双頭型液晶化合物の代表例としては、以下の構造を有する化合物を挙げることができる。ただし、これに限定されるものではない。
【化3】
【0027】
式(1)の化合物は、1種類を単独で用いて高分子化してもよい、かかる式(1)に含まれる2種以上を組み合わせて高分子化することもできる。
【0028】
本発明の複合半透膜において、式(1)の化合物により形成される高分子化液晶薄膜は、厚みが5~500nmの範囲内にあることが好ましい。液晶薄膜の厚みの下限としてはより好ましくは10nmであり、上限としてより好ましくは200nmである。液晶薄膜を薄膜化することによりクラックが入りにくくなり、クラックで発生する膜の欠陥による溶質除去性能の低下を回避できる。さらにそのように薄膜化した液晶薄膜は高い透水性を有する。
【0029】
また、好ましくは、式(1)の化合物により形成される高分子化液晶薄膜は、スメクチック液晶構造の層間距離が30~60Åの範囲、より好ましくは、35~50Åの範囲であることができる。
【0030】
1-2.微多孔性支持膜
本発明の複合半透膜を構成する微多孔性支持膜は、実質的にイオンやウイルス等の分離性能を有する上述の液晶薄膜(分離機能層)に強度を与えるための部材である。本発明に用いる微多孔性支持膜の表面の孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一な細孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな細孔を持ち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが1nm以上100nm以下であるような支持膜が好ましい。微多孔性支持膜表面の細孔径がこの範囲であれば、得られる複合半透膜が高い透水性を有し、かつ加圧運転中に分離機能層が微多孔性支持膜の孔内に落ち込むことなく構造を維持できる。
【0031】
ここで、微多孔性支持膜表面の細孔径は、例えば、電子顕微鏡写真により算出することができる。細孔径は、電子顕微鏡により微多孔性支持膜の表面を写真撮影し、観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めた値を指す。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることができる。別の手段としては、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができ、石切山他、ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス、171巻、p103、アカデミック・プレス・インコーポレーテッド(1995)にその詳細が記載されている。
【0032】
微多孔性支持膜の厚みは、1μm~5mmの範囲内にあることが好ましく、10~100μmの範囲内にあることがより好ましい。厚みが小さいと微多孔性支持膜の強度が低下しやすく、その結果、複合半透膜の強度が低下する傾向にある。厚みが大きいと微多孔性支持膜およびそれから得られる複合半透膜を曲げて使うときなどに取り扱いにくくなる。また、複合半透膜の強度を上げるため、微多孔性支持膜は布、不織布、紙などで補強されていてもよい。これら補強する材料の好ましい厚みは50~150μmである。
【0033】
微多孔性支持膜に用いる素材は特に限定されない。たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネートなどのホモポリマーあるいはコポリマーが使用できる。これらのポリマーを単独で、またはブレンドして用いることができる。上記のうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが例示される。ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが好ましいものとして例示される。中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。さらに、これらの素材の中でも、化学的安定性、機械的強度、熱安定性が高く、成型が容易であるポリスルホン、ポリエーテルスルホンを用いることが特に好ましい。
【0034】
1-3.複合半透膜の特性
本発明の複合半透膜は、以上に説明した構成を有することにより、高い透水性と、ウイルス等のナノサイズ粒子に対する高い分離特性とを兼ね備えるものである。より具体的には、本発明の複合半透膜の透水量は、好ましくは、0.5m/m/日以上である。また、好ましくは、本発明の複合半透膜は、ウイルス阻止率(LRV)が4.5以上であることができる。
【0035】
ここで、ウイルス阻止率LRV(Log Reduction Value)とは、対象サンプル中におけるウイルス濃度を「Cfeed」、複合半透膜による処理後のウイルス濃度を「Cfiltrate」とした場合に、以下の式から算出することができる。
【数1】
【0036】
そして、複合半透膜のろ過処理によりウイルスの除去(%)は、100×(1-10-LRV)で表すことができる。したがって、LRV=4とは、対象ウイルスが99.99%除去されることを意味する。
【0037】
2.本発明の複合半透膜の製造方法
本発明の複合半透膜は、微多孔性支持膜上に液晶薄膜を形成し、次いで、液晶を重合して高分子化することによって製造することができる。
【0038】
微多孔性支持膜上に液晶薄膜を形成する方法はとしては、例えば、液晶溶液を微多孔性支持膜上に塗布後、溶媒を除去する方法、剥離性基材上に形成した液晶薄膜を微多孔性支持膜上へ転写する方法などを用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0039】
液晶溶液を微多孔性支持膜上に塗布する場合、均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、液晶溶液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの装置を用いて塗布する方法が挙げられる。液晶溶液の溶媒としては、微多孔性支持膜を溶解せず、液晶および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば、特に限定されない。液晶溶液の溶媒除去は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが、液晶の自己組織化を妨げないように加熱や減圧によって十分に除去することが好ましい。
【0040】
剥離性基材上に形成した液晶薄膜を微多孔性支持膜上へ転写する場合には、液晶濃度等の塗布条件により液晶薄膜の膜厚を容易に制御することができる。また剥離性基材としては、ガラス、金属、シリコンウェハ、高分子等の材料が特に限定されることなく使用できる。また、必要に応じて、シリコンコートやコロナ放電等により表面処理された剥離性基材を用いることもできる。液晶溶液を剥離性基材上に塗布する方法は特に限定されないが、均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、液晶の溶液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの装置を用いて塗布する方法が挙げられる。液晶溶液の溶媒としては、剥離性基材を溶解せず、液晶および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば、特に限定されない。液晶溶液の溶媒除去は公知の方法により可能であり、特に限定されるものではないが、液晶の自己組織化を妨げないように加熱や減圧によって十分に除去することが好ましい。
【0041】
つづいて、剥離性基材上に形成した液晶薄膜の表面と微多孔性支持膜の表面を接触させてから、液晶を重合して高分子化した後、剥離性基材を剥離することにより、目的とする複合半透膜が得られる。
【0042】
液晶を重合して高分子化する方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射などが挙げられる。ここで電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法は適宜最適な選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも赤外線照射や紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に赤外線または紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御し易さなどの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
【0043】
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などを用いて発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合が進行するものであれば特に制限されないが、装置及び取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。本発明に係る分離機能層の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても大きく変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により変化することがある。そのためこれらの条件は適宜最適化を行う必要がある。特に、反応温度は液晶の秩序構造を維持するために重要な因子であり、液晶の構造に応じて液晶相を呈する温度範囲内に制御する必要がある。
【0044】
本発明の複合半透膜の製造においては、重合反応速度を高める目的で液晶に重合開始剤、重合促進剤等を添加することができる。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、液晶の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。重合開始剤の添加量は、多すぎると液晶の自己組織化を阻害してしまうため、液晶に対して5重量%以下であることが好ましい。
【0045】
重合開始剤としては、使用する溶媒に溶解するものであれば、公知のものを特に制限無く用いることができる。例えば、電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α-ジケトン(例えば、9,10-フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’-ジクロロベンジルキノンおよび4,4’-ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’-
アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス-(4-シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert-ブチル、過安息香酸tert-ブチルもしくはジ-(tert-ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンなどが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’-ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
【0046】
過酸化物およびα-ジケトンは、開始反応を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系とも呼ばれる。このような系の例としては、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチル-アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有する系も用いることができる。
【0047】
このようにして得られた複合半透膜はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
【0048】
上記の方法により形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0049】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体処理装置を構成することができる。したがって、本発明は、別の側面において、上記複合半透膜を含む、流体処理装置にも関する。この処理装置置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0050】
流体分離装置の操作圧力は高い方が有害物質の阻止率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.1MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩阻止率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0051】
本発明の複合半透膜によって処理される原水としては、例えば、海水、かん水、排水等の500mg/L~100g/Lの塩を含有する液状混合物が挙げられる。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
1.双頭型液晶分子の合成
以下の合成スキームにより、双頭型液晶分子1を合成した。
【化4】
【0054】
S1の合成
ブタノン(30 mL)中の12-ヨード-ドデカ-1,3-ジエン(1.12 g、3.85 mmol)、2,4-ジヒドロキシ安息香酸メチル(0.73 g、4.33 mmol)およびK2CO3(1.07 g、7.76 mmol)の混合物 を、75℃で17時間撹拌した。なお、12-ヨード-ドデカ-1,3-ジエンは、文献(Kato el al., Advanced Science, 2018, 5, 1700405)に従い合成したものを用いた。溶媒を留去した後、反応混合物を飽和NH4Cl水溶液に注ぎ、酢酸エチルで2回抽出した。有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン/ジクロロメタン=80/20から70/30の勾配)によって精製し、メタノールから再結晶して、化合物S1を白色固体として得た(0.78g、2.35mmol、収率61%)。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 10.96 (s, 1H), 7.72 (q, J = 3.2 Hz, 1H), 6.41-6.44 (m, 2H), 6.26-6.36 (m, 1H), 6.05 (dd, J = 15.0, 10.4 Hz, 1H), 5.67-5.74 (m, 1H), 5.08 (d, J= 17.2 Hz, 1H), 4.95 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 3.97 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.91 (s, 3H), 2.08 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 1.74-1.81 (m, 2H), 1.32-1.44 (m, 10H)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 170.42, 165.18, 163.72, 137.32, 135.52, 131.12, 130.86, 114.60, 107.93, 105.17, 101.08, 68.22, 51.93, 32.50, 29.34, 29.23, 29.12, 29.07, 28.95, 25.91
MS (MALDI-TOF): calcd for [M + H]+, 333.21; found: 332.92.
Elemental analysis (%) calcd. for C20H28O4: C, 72.26; H, 8.49; found: C, 72.27; H, 8.58.
【0055】
S2の合成
乾燥DMF(30 mL)中のS1(0.75 g、2.26 mmol)とK2CO3(0.63 g、4.56 mmol)の混合物に1,3-ジブロモプロパン(0.22 g、1.07 mmol)を加え、混合物を75℃で15時間撹拌した。反応混合物を飽和NH4Cl水溶液に注ぎ、酢酸エチルで3回抽出した。有機相を飽和NaCl水溶液で3回洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン/酢酸エチル= 95 / 5からヘキサン/酢酸エチル= 90 / 10の勾配)により精製して、化合物S2を白色固体として得た(0.48g、0.68mmol、収率63%)。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 7.81 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.52 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 6.46 (dd, J = 9.1, 2.3 Hz, 2H), 6.26-6.35 (m, 2H), 6.04 (dd, J = 15.0, 10.4 Hz, 2H), 5.66-5.74 (m, 2H), 4.94-5.10 (m, 4H), 4.29 (t, J = 5.9 Hz, 4H), 3.96 (t, J = 6.6 Hz, 4H), 3.81 (s, 6H), 2.32-2.38 (m, 2H), 2.08 (q, J = 6.9 Hz, 4H), 1.73-1.80 (m, 4H), 1.32-1.44 (m, 20H)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 166.12, 163.80, 160.73, 137.31, 135.50, 133.70, 130.86, 114.61, 112.07, 105.51, 100.27, 68.16, 65.17, 51.48, 32.50, 29.36, 29.27, 29.12, 29.09, 25.94
MS (MALDI-TOF): calcd for [M + Na]+, 727.42; found: 727.40.
Elemental analysis (%) calcd. for C43H60O8: C, 73.26; H, 8.58; found: C, 73.34; H, 8.63.
【0056】
S3の合成
THF(20 mL)、メタノール(10 mL)および水(5 mL)中のS2(0.48 g、0.68 mmol)およびKOH(0.21 g、3.78 mmol)の溶液を、65°Cで6時間撹拌した。溶媒を留去した後、混合物を5%HCl水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで3回抽出した。有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。残留物を酢酸エチルからの再結晶により精製して、化合物S3を白色固体として得た(0.42g、0.62mmol、収率91%)。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ =10.13 (br, 2H), 8.09 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.63 (dd, J = 8.8, 2.0 Hz, 2H), 6.53 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 6.26-6.35 (m, 2H), 6.04 (dd, J = 15.0, 10.4 Hz, 2H), 5.66-5.74 (m, 2H), 5.08 (d, J = 16.3 Hz, 2H), 4.95 (d, J = 11.3 Hz, 2H), 4.42 (t, J = 5.9 Hz, 4H), 4.00 (t, J = 6.3 Hz, 4H), 2.48-2.54 (m, 2H), 2.05-2.11 (m, 4H), 1.75-1.82 (m, 4H), 1.33-1.49 (m, 20H)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3): δ =166.21, 164.77, 159.06, 137.30, 135.47, 135.39, 130.87, 114.63, 110.29, 107.35, 99.94, 68.56, 65.86, 32.49, 29.34, 29.24, 29.11, 29.08, 29.00, 28.78, 25.89
MS (MALDI-TOF): calcd for [M + Na]+, 699.39; found: 699.18.
Elemental analysis (%) calcd. for C41H56O8: C, 72.75; H, 8.34; found: C, 73.08; H, 8.45.
【0057】
1の合成
1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(0.30 g、1.42 mmol)を2つ口丸底フラスコに加え、1時間加熱しながら真空乾燥した。アルゴン置換後、乾燥ジクロロメタン(20 ml)中のS3(0.41 g、0.61 mmol)および4-(N、N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(0.068 g、0.56 mmol)の溶液をシリンジでフラスコに加えた 。次に、乾燥したアセトニトリル(10ml)をシリンジで加えた。撹拌溶液に、シリンジを介してN、N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(0.50 mL、3.21 mmol)を加え、混合物を室温で20時間撹拌した。真空中で溶媒を除去した後、残留物をメタノールから再結晶化し、冷メタノールで3回洗浄して、化合物1を白色固体として得た(0.37 g、0.35 mmol、収率57%)。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 8.80 (s, 2H), 7.81 (d, J = 9.1 Hz, 2H), 7.46 (d, J = 1.8 Hz, 2H), 7.31 (d, J = 1.4 Hz, 2H), 6.56 (dd, J = 8.6, 2.3 Hz, 2H), 6.48 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 6.26-6.35 (m, 2H), 6.04 (dd, J = 15.4, 10.4 Hz, 2H), 5.66-5.74 (m, 2H), 5.08 (d, J = 17.2 Hz, 2H), 4.95 (d, J = 10.4 Hz, 2H), 4.45 (s, 8H), 4.30 (t, J = 5.9 Hz, 4H), 3.99 (t, J = 6.6 Hz, 4H), 3.93 (s, 6H), 2.23-2.29 (m, 2H), 2.08 (q, J = 6.6 Hz, 4H), 1.74-1.81 (m, 4H), 1.25-1.45 (m, 20H)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 164.87, 164.39, 160.25, 137.32, 136.76, 135.51, 134.44, 130.87, 123.60, 122.90, 114.63, 110.96, 106.16, 100.73, 68.44, 65.09, 62.44, 48.61, 36.20, 32.51, 29.38, 29.31, 29.14, 29.12, 28.30, 25.94
MS (MALDI-TOF): calcd for [M - BF4]+, 981.55; found: 981.30.
Elemental analysis (%): calcd. for C53H74B2F8N4O8: C, 59.56; H, 6.98; N, 5.24; found: C, 59.33; H, 6.91; N, 5.35.
【実施例2】
【0058】
2.複合半透膜の作製
実施例1で合成した双頭型液晶分子1を用いて、以下の手順に従い、ポリスルホン支持膜(多孔質支持膜)とモノマー状態の双頭型液晶分子1を貼り合わせた後に液晶状態で重合し、複合半透膜を作製した。
【0059】
液晶薄膜(LC膜)は、光重合法を用いて行った。モノマー溶液は、双頭型液晶分子1(1 wt%)を、ジクロロメタン中の光ラジカル重合開始剤2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(0.01 wt%)と混合して調製した。LC複合膜は、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)の犠牲層を使用した転写法によって、LC複合膜を作成した。10%PVAの水溶液をポリ(エチレンテレフタレート)(PET)フィルムにバーコーティングし、周囲条件下で24時間乾燥させた。
【0060】
次に、予備混合したモノマー溶液(1 mL)をPVAコーティングされたPETフィルムに700 rpmで30秒間スピンコーティングした。 LC / PVA / PETフィルムを手動プレスによりポリスルホン支持膜(多孔質支持膜)に転写した。複合フィルムを60°Cの等方性状態に加熱し、1分間安定させた。フィルムを40°Cに冷却し、1分間安定させた後、LEDランプを使用して、複合材料にUV光(約365 nm)を10分間照射した。試料を水に浸すことによりPVA層を除去し、得られた支持膜を所望のサイズに切断し、10%イソプロピルアルコール/ MilliQ水溶液中に保存した。得られた複合半透膜の断面写真を図3に示す。
【実施例3】
【0061】
3.スメクチック液晶相の評価
実施例1で合成した双頭型液晶分子1について、相転移挙動を測定した結果を図4に示す。その結果、20℃~50℃付近において、スメクチックA相(SmA)が安定的に形成されることが分かった。また、SmA相のX線構造解析により、双頭型液晶分子1により構成されるスメクチック液晶構造は、41Å(4.1nm)程度の層間距離を有することが分かった(図5及び図6)。図5は、SmA相のX線構造解析スペクトルであり、図6は、双頭型液晶分子1により構成されるスメクチック液晶構造の模式図である。また、層間距離は、液晶の重合後においても41Åであり、重合の前後で同じ値であることから、重合による構造変化が抑制されることが分かった。
【実施例4】
【0062】
4.複合半透膜によるウイルス除去試験
実施例2で作製した複合半透膜を用いて、ウイルス阻止率と膜透過流束を測定した。ウイルスとして、バクテリオファージQβ(Qβ)を用いた。Qβは、直径が約25nmの球に近い形状をしており、ウイルスとしては比較的小さいものである。大腸菌に感染するが、人間に対しては非病原性のウイルスである。ウイルス阻止能は、以下の手順で、約107 pfu / mLの濃度の供給水を、温度25℃、操作圧力0.3MPaで供給して膜ろ過処理を行い、透過水と供給水におけるウイルス濃度の変化を測定することで行った。
【0063】
Qβは、Escherichia coli K-12株を宿主として事前培養した。培養したウイルスストックは、遠心分離及び0.2μmの滅菌ADVANTEC酢酸セルロースメンブレンを通過させて精製し、残った細胞破片を除去した。また、実験の直前に、遠心セファクリルゲルカラム(GE illustra MicroSpin S-300 HR)を使用してさらに精製し、残留有機物を除去した。複合半透膜をMilli-Q水に15分間浸した。ウイルス除去試験は、ミリQ水の供給溶液を含むリザーバー(ADVANTEC RP-2)に接続された4つの25 mm膜ろ過セル(ADVANTEC UHP-25K)を使用して行った。精製したQβをフィード溶液に接種し、よく混合して約107 pfu / mLの濃度とした。ここで、pfuは、ウイルスの濃度単位(プラーク形成ユニット))であり、当該濃度は、混合後にサンプリングすることで確認した。0.1 ppm未満のCO2を含む純粋な空気ガスを使用して、攪拌セルに入る供給溶液に0.3 MPaの圧力を供給した。
【0064】
濾液サンプルは、0~1時間、1~2時間、2~4時間、及び4~6時間の期間にわたって捕集した。これらの透過物サンプルの質量を測定して、膜を通過する水の流束を決定した。また、サンプル中のウイルスは、寒天オーバーレイ法を使用して定量化した。すなわち、サンプルを段階的に希釈し、0.1または1 mlのアリコートを滅菌寒天プレート(溶原性培養液(LB)、1.2%)寒天に加えてから、細菌宿主として対数期の大腸菌K-12を含むトップ寒天溶液(LB、0.9%寒天)を適用した。プレートを固化させ、一晩インキュベートした後、透過液に残っているウイルスに起因するプラークを数えた。
【0065】
ウイルス阻止率と膜透過流束は、以下の式で算出した。
[ウイルス阻止率(LRV)]=Log10(供給水中のウイルス濃度/透過水中のウイルス濃度)
[膜透過流束(Flux)]=単位時間当たりに膜を透過した水の体積(m-1)/膜の面積(m
【0066】
液晶分子を実施例1で合成した双頭型液晶分子1に替えて、表1に示すスメクチック液晶分子を形成する直鎖状分子を用いた比較例1、及び双連続キュービック液晶を形成する分子を用いた比較例2についても同様のろ過試験を行った。
【0067】
【表1】
【0068】
得られたウイルス阻止率(LRV)及び膜透過流束(Flux)の結果を、それぞれ、図7及び図8に示す。図7及び図8の結果をまとめたのが、以下の表2である。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、双頭型液晶分子1を用いた本発明の複合半透膜では、供給水中のウイルスを検出限界以下であるLRV>6.6まで除去することができ、かつ、高い透水性をも有することが分かった。一方、比較例1及び2では、ウイルス阻止率と透水性の両立が十分ではなかった。
【0071】
また、直鎖状分子でスメクチック液晶を形成させた比較例1の膜では、液晶膜の厚さが400nmとなり(図9)、図3に示した実施例1の双頭型液晶分子1を用いた場合(150nm)よりも大幅に厚い液晶膜となった。この結果は、本発明の双頭型液晶分子1の場合には、末端に重合基が2つ存在するため架橋重合が可能となり、その結果、膜の強度が高く、比較例1の直鎖状分子よりも薄く製膜でき、流束の向上が得られることを示唆するものである。
【0072】
さらに、本発明の双頭型液晶分子1を用いた膜では、上述のように、層間距離が重合前後で変化せず、いずれも4.1nmであったのに対し、比較例1の膜では、重合の前後で、層間距離が3.8nmから、3.5nm及び5.4nmが混在したものに変化した。このことから、本発明の双頭型液晶分子1を用いた複合半透膜は、重合による構造変化が抑制でき、より規則的かつ均一なナノ構造膜が得られることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8