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  • 特許-ロフィン構造を有する高分子化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ロフィン構造を有する高分子化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/00 20060101AFI20240904BHJP
   C08G 77/388 20060101ALI20240904BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20240904BHJP
   C07F 7/10 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08G77/00
C08G77/388
C08G77/50
C07F7/10 S CSP
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020519618
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018895
(87)【国際公開番号】W WO2019221051
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018095708
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 公開1 ▲1▼発行日 : 平成30年(2018年)6月19日 ▲2▼刊行物 : 「MACRO 2018」学会(Cairns Convention Centre、オーストラリア、2018年7月1日~5日開催)のポスター発表予稿集(Poster Abstracts) ▲3▼公開者 : 岡美奈実、本多智、豊田太郎 ▲4▼公開された発明の内容: 岡美奈実らが、「MACRO 2018」の予稿集にて、本多智及び豊田太郎が発明したロフィン構造を有する高分子化合物に関する研究の一部を公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (2) 公開2 ▲1▼開催日 : 平成30年(2018年)7月2日 ▲2▼集会名、開催場所 : 「MACRO 2018」学会、Cairns Convention Centre、オーストラリア ▲3▼公開者 : 岡美奈実、本多智、豊田太郎 ▲4▼公開された発明の内容: 岡美奈実らが、「MACRO 2018」にて、本多智及び豊田太郎が発明したロフィン構造を有する高分子化合物に関する研究の一部を公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】本多 智
(72)【発明者】
【氏名】豊田 太郎
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061579(WO,A1)
【文献】特開2009-276760(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0038988(KR,A)
【文献】Nature Communications,2017年,Vol.8,No.1,p.1-8
【文献】Materials Letters,2003年,Vol.57,No.13-14,p.2116-2119
【文献】Thin Solid Films,2006年,Vol.515,No.4,p.1748-1752
【文献】Comptes Rendus Chimie,2015年,Vol.18,No.8,p.883-890
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C07F 7/02- 7/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含ケイ素ポリマーよりなる主鎖構造を有し、前記主鎖構造の末端又は側鎖に以下の式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物の製造方法であって
【化1】
(式中、*は、主鎖構造との結合点を表し;Lは、直接結合、1以上のシロキサン結合又はシルメチレン結合を有する2価の基である含ケイ素スペーサー基、又はC~Cアルキレン基あり;Rは、それぞれ独立に、C~Cアルキル基であり;Rは、ベンゼン環に1~4個結合している置換基であって、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択され同一又は異なる置換基であり;R及びRは、それぞれ、ベンゼン環に1~5個結合している置換基であって、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択され同一又は異なる置換基である。);
ビニル基を有する含ケイ素ポリマーと、以下の式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物
【化2】
(式中、L、R、R、R及びRは、式(1)と同じ定義である。)
を反応させて、前記高分子化合物を得る工程を含む、該製造方法。
【請求項2】
前記反応が、遷移金属触媒の存在下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属触媒が、白金錯体である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記含ケイ素ポリマーが、ポリシロキサンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記含ケイ素ポリマーが、三分岐構造又は四分岐構造を有する含ケイ素ポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
以下の式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物。
【化3】
(式中、Lは、直接結合、1以上のシロキサン結合又はシルメチレン結合を有する2価の基である含ケイ素スペーサー基、又はC~Cアルキレン基あり;Rは、それぞれ独立に、C~Cアルキル基であり;Rは、ベンゼン環に1~4個結合している置換基であって、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択され同一又は異なる置換基であり;R及びRは、それぞれ、ベンゼン環に1~5個結合している置換基であって、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択され同一又は異なる置換基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロフィン構造を有する含ケイ素高分子化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒を含まず、室温において外部刺激によって流動・非流動状態を制御可能な物質は、再利用可能な樹脂や接着剤への応用が期待される。こうした試みの一つとして、光刺激によって低分子化合物の結晶化・融解を利用した例が報告されており、接着剤等への応用が検討されてきた(例えば、特許文献1や非特許文献1)。しかしながら、特許文献1における流動状態の変化は、規則的に並んだ分子の結晶性を光刺激によって低下させることで流動状態を獲得したに過ぎず、材料としての強度及び接着性の高さを期待できるものではなく、分子構造の設計の幅も限られていた。また、特許文献1や非特許文献1の化合物では、アゾベンゼンの光異性化反応が用いているが、側鎖に導入されたアゾベンゼンの異性化を通じて流動性が制御されるため、側鎖を改変する余地は少なく、適用可能な高分子に限りがあった。
【0003】
一方で、シリコーン等のポリシロキサン類は、エラストマー類、グリース類からオイルに至るまで、様々な用途で利用されている含ケイ素高分子材料である。本願発明者らは、かかるポリシロキサン類を機能化することにより流動化・非流動化することを検討している(例えば、非特許文献2)。しかしながら、従来の手法では、機能化ポリシロキサン樹脂の合成が煩雑であり、多段階の工程を要するという課題があった。また、機能化修飾のために分子内にシリルエーテル結合(Si-O-C)が形成される場合には、酸(H)やF等の存在によって容易に結合が開裂してしまい、ポリシロキサン分子の安定性に劣るという問題もあった。それゆえ、製造工程の簡略化を図り、既存のポリシロキサン系材料に対しても簡便に適用可能であり、分子の安定性にも優れた機能化方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-256291号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Adv.Mater.、2012、24、2353-2356
【文献】Nat. Commun.、2017、 8、502
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ポリシロキサン等の含ケイ素高分子に対して光刺激によって流動性を制御可能な特性を付与した新規機能性含ケイ素高分子化合物を提供すること、及びかかる高分子化合物をより少ない工程で効率的に、かつ分子安定性を維持しつつ合成可能な方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ポリシロキサン等の含ケイ素高分子からシリルエーテルを排除することで安定性を維持出来ることを見出した。また、ヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物を用いることで、ポリシロキサン等の含ケイ素高分子の側鎖又は末端にロフィン構造を効率的に導入できることを見出した。さらに、かかるロフィン部位を修飾した含ケイ素高分子は、ロフィン部位の共有結合により分子間で互いに連結でき、光刺激の有無によって可逆的に分子形状を変えることで当該高分子の粘弾性や流動状態を制御できることを見出した。これらの知見により本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1>含ケイ素ポリマーよりなる主鎖構造を有し、前記主鎖構造の末端又は側鎖に以下の式(1)で表される部分構造をN個有すること(Nは2以上である。)を特徴とする、高分子化合物;
【化1】
(式中、*は、主鎖構造との結合点を表し;Lは、直接結合、含ケイ素スペーサー基、又はシロキサン連鎖又はC~Cアルキレン基であり;Rは、それぞれ独立に、C~Cアルキル基であり;Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~4の同一又は異なる置換基であり;R及びRは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~5の同一又は異なる置換基である。)
<2>前記含ケイ素ポリマーが、ポリシロキサンである、上記<1>に記載の高分子化合物;
<3>前記含ケイ素ポリマーが、三分岐構造を有する含ケイ素ポリマーである、上記<1>に記載の高分子化合物;
<4>Nが2~20000である、上記<1>~<3>のいずれか1に記載の高分子化合物;
<5>式(1)で示される部分構造が、前記主鎖構造における1以上の末端に存在する、上記<1>~<4>のいずれか1に記載の高分子化合物;及び
<6>式(1)で示される部分構造が、前記主鎖構造における全ての末端に存在する、上記<1>~<5>のいずれか1に記載の高分子化合物
を提供するものである。
【0009】
別の態様において、本発明は、上記高分子化合物が分子間で互いに連結した構造を有する多量体化合物及びそれを含む組成物にも関する。すなわち、本発明は、
<7>上記<1>~<6>のいずれか1に記載の高分子化合物が互いに複数連結した多量体化合物であって、
それぞれの前記高分子化合物における前記式(1)の部分構造中のロフィン基同士の反応によって生成するヘキサアリールビイミダゾール(HABI)基を介して共有結合によって分子間で結合した構造を有しており、
前記分子間の結合が外部からの光刺激又は力学刺激によって可逆的に開裂し得ることを特徴とする、該多量体化合物;
<8>前記光刺激が紫外線の照射である、上記<7>に記載の多量体化合物;
<9>上記<7>又は<8>に記載の多量体化合物を含む、組成物;
<10>環状構造を有する含ケイ素ポリマーをさらに含む、上記<9>に記載の組成物;
<11>前記環状構造を有する含ケイ素ポリマーが分子内にHABI基を有する、上記<10>に記載の組成物;及び
<12>接着剤、粘着剤、及び粘度調整剤よりなる群から選択される、上記<9>~<11>のいずれか1に記載の組成物
を提供するものである。
【0010】
別の態様において、本発明は、上記高分子化合物及び上記多量体化合物の状態変化を用いて高分子材料の粘弾性や流動性を可逆的に制御する方法にも関する。すなわち、本発明は、
<13>高分子材料の流動性を可逆的に制御する方法であって、
上記<7>に記載の多量体化合物を含む高分子材料に光刺激を付与することにより、前記HABI基を介した分子間の結合を開裂させ、トリフェニルイミダゾリルラジカルを有する単量体化合物を生成させる工程を含むことを特徴とする、該方法;
<14>前記光刺激が、紫外線の照射である、上記<13>に記載の方法;及び
<15>前記光刺激又は力学刺激を停止することによって再びHABI基を介した分子間の結合を形成させ多量体化合物に戻す工程をさらに含む、上記<13>又は<14>に記載の方法
を提供するものである。
【0011】
更なる態様において、本発明は、上記高分子化合物の製造方法及び当該製造方法の開始剤として用いられるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物にも関する。すなわち、本発明は、
<16>含ケイ素ポリマーよりなる主鎖構造を有し、前記主鎖構造の末端又は側鎖に以下の式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物の製造方法であって
【化2】
(式中、*は、主鎖構造との結合点を表し;Lは、直接結合、含ケイ素スペーサー基、又はC~Cアルキレン基であり;Rは、それぞれ独立に、C~Cアルキル基であり;Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~4の同一又は異なる置換基であり;R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~5の同一又は異なる置換基である。);
ビニル基を有する含ケイ素ポリマーと、以下の式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物
【化3】
(式中、L、R、R、R及びRは、式(1)と同じ定義である。)
を反応させて、前記高分子化合物を得る工程を含む、該製造方法;
<17>前記反応が、遷移金属触媒の存在下で行われる、上記<16>に記載の製造方法;
<18>前記遷移金属触媒が、白金錯体である、上記<17>に記載の製造方法;
<19>前記含ケイ素ポリマーが、ポリシロキサンである、上記<16>~<18>に記載の製造方法;
<20>前記含ケイ素ポリマーが、三分岐構造を有する含ケイ素ポリマーである、上記<16>~<18>に記載の製造方法;及び
<21>以下の式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物
【化4】
(式中、Lは、直接結合、含ケイ素スペーサー基、又はC~Cアルキレン基であり;Rは、それぞれ独立に、C~Cアルキル基であり;Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~4の同一又は異なる置換基であり;R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~5の同一又は異なる置換基である。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリシロキサン等の含ケイ素高分子の側鎖又は末端にロフィン構造を効率的かつ安定的に導入し、光刺激によって流動性を制御可能な特性を付与した新規機能性含ケイ素高分子化合物を提供することができる。かかる機能化により、光刺激のオン-オフ操作だけで共有結合の切断・再形成が可能であるため、分子内の光異性化反応を用いる従来技術のように流動性の制御に際し照射する光の波長範囲を変化させる必要もないという利点を有する。
【0013】
また、本発明の製造方法は、既存のポリシロキサン等の含ケイ素高分子材料のヒドロシリル化に利用可能であり、1ステップの簡便な反応で、かつ不安定なシリルエーテル結合(Si-O-C)を含むことなく、ロフィン構造等の機能性官能基を付与することができる。さらに、その後の温和な酸化反応によって、かかる高分子化合物を分子間で連結させた多量体化合物を得ることができる。得られる多量体化合物の前駆体である高分子化合物の分子量は揃っているため、連結の切断と再生により粘性等の大きな物性変化をもたらすことができる。
【0014】
本発明の高分子材料を接着剤、接着剤、粘度調整剤、或いは成形材料として用いることで、外部からの光刺激により分子量を変化させることができ、接着性、粘着性、成形性等の物性を所望のタイミングで可逆的に制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例6-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した本発明の多量体化合物を用いて光照射に伴う粘着性の変化を観測した結果を示す画像である。
図2図2は、実施例4-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した本発明の多量体化合物について、光照射オン・オフの繰り返しに伴う貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の変化を示すグラフである。
図3図3は、実施例6-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した本発明の多量体化合物について、光照射オン・オフの繰り返しに伴う貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例12で得た網目状多量体化合物(N)と実施例4-2で得た環状PDMS(C)の混合比を、重量比で、N/C=[0/100]~[50/50」の範囲とした計7種類に混合物について、光照射オン・オフの繰り返しに伴う貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0017】
1.定義
本明細書中において、「アルキル又はアルキル基」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~20個(C1~20)、炭素数1~15個(C1~15)、炭素数1~10個(C1~10)である。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。例えば、C1~8アルキルには、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル等が含まれる。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルコキシ基、アリールアルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0018】
本明細書中において、「アルキレン」とは、直鎖状または分枝状の飽和炭化水素からなる二価の基であり、例えば、メチレン、1-メチルメチレン、1,1-ジメチルメチレン、エチレン、1-メチルエチレン、1-エチルエチレン、1,1-ジメチルエチレン、1,2-ジメチルエチレン、1,1-ジエチルエチレン、1,2-ジエチルエチレン、1-エチル-2-メチルエチレン、トリメチレン、1-メチルトリメチレン、2-メチルトリメチレン、1,1-ジメチルトリメチレン、1,2-ジメチルトリメチレン、2,2-ジメチルトリメチレン、1-エチルトリメチレン、2-エチルトリメチレン、1,1-ジエチルトリメチレン、1,2-ジエチルトリメチレン、2,2-ジエチルトリメチレン、2-エチル-2-メチルトリメチレン、テトラメチレン、1-メチルテトラメチレン、2-メチルテトラメチレン、1,1-ジメチルテトラメチレン、1,2-ジメチルテトラメチレン、2,2-ジメチルテトラメチレン、2,2-ジ-n-プロピルトリメチレン等が挙げられる。
【0019】
本明細書中において、ある官能基について「置換されていてもよい」と定義されている場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらの置換基にはさらに置換基が存在していてもよい。このような例として、例えば、ハロゲン化アルキル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0020】
本明細書中において、「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有している直鎖又は分枝鎖の炭化水素基をいう。例えば、ビニル、アリル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタンジエニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1,3-ペンタンジエニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル及び1,4-ヘキサンジエニル)を含む。二重結合についてシス配座またはトランス配座のいずれであってもよい。
【0021】
本明細書中において、「アリール又はアリール基」は単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含んでいてもよい。この場合、これを「ヘテロアリール」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。アリールが単環および縮合環のいずれである場合も、すべての可能な位置で結合しうる。本明細書において、アリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む他の置換基(例えばアリールオキシ基やアリールアルキル基など)のアリール部分についても同様である。
【0022】
本明細書中において用いられる「アミド又はアミド基」とは、RNR’CO-(R=アルキルの場合、アルキルアミノカルボニル-)およびRCONR’-(R=アルキルの場合、アルキルカルボニルアミノ-)の両方を含む。
【0023】
本明細書中において用いられる「エステル又はエステル基」とは、ROCO-(R=アルキルの場合、アルコキシカルボニル-)およびRCOO-(R=アルキルの場合、アルキルカルボニルオキシ-)の両方を含む。
【0024】
本明細書中において、「含ケイ素スペーサー基」とは、Si原子を含む置換基で形成される結合を含むスペーサーを意味し、例えば、シロキサン結合やシルメチレン結合を含む連鎖のことを指す。
【0025】
2.ロフィン修飾高分子化合物
本発明の高分子化合物は、含ケイ素ポリマーよりなる主鎖構造を有し、その主鎖構造の末端又は側鎖に以下の式(1)で表されるロフィン基を含む部分構造を有する。すなわち、ロフィン基がSi-炭素結合によって主鎖構造に導入された構造であることを特徴とする。ここで、「ロフィン基」は、2,4,5-トリフェニルイミダゾール基を意味し、その各ベンゼン環上に任意の置換基を有するものもこれに含まれる。
【化5】
【0026】
式(1)中、*は、主鎖構造との結合点を表し、上述のように主鎖構造の末端又は側鎖に連結することができる。そして、N個の式(1)の部分構造が、結合点を介して主鎖構造に導入されることができる。式(1)の部分構造が連結することにより後述の多量体構造を取るために、当該部分構造は複数存在することが望ましい。具体的には、Nは2以上であり、好ましくは、2~20000、より好ましくは、例えば、2~15000、2~2000であることができる。
【0027】
同じく、式(1)中、Lは、直接結合、含ケイ素スペーサー基又はC~Cアルキレン基であり、好ましくは直接結合である。含ケイ素スペーサー基は、例えば、1以上のシロキサン結合又はシルメチレン結合を有する2価の基であることができる。Rは、それぞれ独立に、C~Cアルキル基であり、好ましくはメチル基である。いずれもメチル基であることが好ましい。
【0028】
は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~4の同一又は異なる置換基である。後述の多量化のためのロフィン基間の連結に支障がない限り、Rは、好ましくはいずれも水素原子(すなわち、無置換)であることができるが、特に制限されない。
【0029】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、スルホ基、カルボキシ基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、ジチオカーボネート基、トリチオカーボネート基、カーバメート基、チオカーバメート基、ジチオカーバメート基、エーテル基、ヒドロキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、シリル基、アミノ基、又はアミド基よりなる群から選択される1~5の同一又は異なる置換基である。R及びRは、好ましくはいずれも水素原子(すなわち、無置換)であることができるが、後述の多量化のためのロフィン基間の連結に支障がない限り、Rも特に制限されない。
【0030】
特に好ましい態様では、Lは、直接結合であり;Rは、いずれもメチル基であり;R、R及びRは、いずれも水素原子である。
【0031】
主鎖構造を形成する「含ケイ素ポリマー」とは、Si原子を分子内に含むモノマーが重合した繰り返し単位を含む主鎖構造を意味する。したがって、Si原子を分子内に含む複数の異なるモノマーが重合した構造であってもよい。Si原子を分子内に含むモノマー以外の更なるモノマーを含む共重合体であってもよい。好ましくは、主鎖構造を形成する含ケイ素ポリマーは、ポリシロキサン、ポリシルメチレン、ポリカルボシラン、ポリカルボシラザンである。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)等を挙げることができる。また、かかる主鎖構造としては、直鎖状のものだけでなく、分岐構造を有する構造であってもよい。例えば、三分岐構造又は四分岐構造を有する含ケイ素ポリマーを用いることができる。例えば、三分岐構造又は四分岐構造を有するポリシロキサンを用いることができる。
【0032】
後述のように、式(1)の部分構造は、含ケイ素ポリマー上のビニル基との反応により導入されるものであるため、上記Si原子を分子内に含むモノマーはビニル基を有するモノマーであることが好ましい。
【0033】
式(1)の部分構造は、好ましくは、前記主鎖構造における1以上の末端に存在し、より好ましくは、前記主鎖構造における全ての末端に存在する。例えば、三分岐構造を有するポリシロキサンの場合には、3つの分岐鎖のそれぞれの末端にロフィン基を導入することができる。なお、そのような場合でも、それら末端に加えて、主鎖構造の側鎖にも任意の位置において存在することができる。かかる式(1)の部分構造の導入数は、高分子化合物における所望の物性等に応じて変更することができる。
【0034】
本発明における式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物の非限定的な具体例としては、直鎖状主鎖構造の両末端に式(1)で表される部分構造を有する以下のポリシロキサン化合物を挙げることができる(いずれの式中でも、nは、2~20000であり、好ましくは、2~2000である。)。
【化6】
【化7】
【0035】
また、三分岐構造のポリシロキサンの主鎖構造の末端に式(1)で表される部分構造を導入した具体例としては、以下のポリシロキサン化合物を挙げることができる(式中、nは、2~20000であり、好ましくは、2~2000である。)。三官能性のシラノールを開始剤とすることで不安定なシリルエーテル結合(Si-O-C)を含まない三分岐構造のポリシロキサンを得ることが出来る。
【化8】
【0036】
なお、式中3つの分岐鎖はいずれも同じ構造を有しているが、必ずしも全ての分岐鎖の末端に式(1)で表される部分構造を有する必要はない。また、分岐鎖の長さ、すなわちnの値も各分岐鎖において必ずしも同一である必要はなく、異なるものとすることもできる。
【0037】
さらに、四分岐構造のポリシロキサンの主鎖構造の末端に式(1)で表される部分構造を導入した具体例としては、以下のポリシロキサン化合物を挙げることができる(式中、nは、2~20000であり、好ましくは、2~2000である。)。
【化9】
【0038】
なお、式中4つの分岐鎖はいずれも同じ構造を有しているが、必ずしも全ての分岐鎖の末端に式(1)で表される部分構造を有する必要はない。また、分岐鎖の長さ、すなわちnの値も各分岐鎖において必ずしも同一である必要はなく、異なるものとすることもできる。
【0039】
3.ロフィン修飾高分子化合物の製造方法
上記の式(1)で表される部分構造を有するロフィン修飾高分子化合物は、
ビニル基を有する含ケイ素ポリマーと、以下の式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物との反応により、1ステップで得ることができる。
【化10】
(式中、L、R、R、R及びRは、上記式(1)と同じ定義である。)
【0040】
式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物におけるSi-H部分と、含ケイ素ポリマー上のビニル基を反応させることで、機能性官能基であるロフィン構造等を導入することができる。
【0041】
当該反応は、遷移金属触媒の存在下で行うことができ、当該遷移金属触媒は好ましくは、白金錯体である。典型的には、カールステッド(Karstedt)触媒とも呼ばれる1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体が好適である。
【0042】
上記ビニル基を有する含ケイ素ポリマーとしては、上述のとおり、Si原子を分子内に含むモノマーが重合した繰り返し単位よりなる構造を有するポリマーである。Si原子を分子内に含む複数の異なるモノマーが重合した構造であってもよい。また、Si原子を分子内に含むモノマー以外の更なるモノマーを含む共重合体であってもよい。また、含ケイ素ポリマーにおけるビニル基は、繰り返し単位の任意の位置に存在することができ、好ましくは末端に存在することができる。
【0043】
好ましくは、ビニル基を有する含ケイ素ポリマーは、ポリシロキサンであり、そのようなポリシロキサンとしては市販のものを用いることができる。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)や種々の変性シリコーンを用いることができる。また、かかる含ケイ素ポリマーとしては、直鎖状のものだけでなく、分岐構造を有する構造であってもよい。例えば、三分岐構造又は四分岐構造を有するポリシロキサンを用いることができる。
【0044】
そのような含ケイ素ポリマーは、好ましくは1,000~1,000,000の範囲、より好ましくは3,000~100,000の範囲の分子量(数平均分子量)を有する。
【0045】
式(2)で表されるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物の非限定的な具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【化11】
【0046】
当該ヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物は、本願の実施例で示すように、安価な原料から公知の反応を用いて合成することができる。具体的には、ハロゲン化アリールイミダゾール化合物を合成し、これをヒドロシリル化することで得ることができる。
【0047】
4.多量体化合物及び流動性の制御
本発明は、上記式(1)で表される部分構造を有するロフィン修飾高分子化合物が互いに複数連結した多量体化合物にも関する。当該多量体化合物は、ロフィン修飾高分子化合物におけるロフィン基が別のロフィン基と反応することでヘキサアリールビイミダゾール(HABI)基を形成し、共有結合によって分子間で結合した構造(広義の架橋構造)を有している。ロフィン修飾高分子化合物同士の反応によってHABI基を介して分子間で連結した多量体とすることによって、分子量が増大した異なる粘弾性等の特性を有する高分子化合物となる。
【0048】
そして、当該多量体化合物に光刺激又は力学刺激を付与することによって、前記HABI基における連結(共有結合)が開裂して分子間連結が解消され、トリフェニルイミダゾリルラジカル(TPIR)を有する単量体の高分子化合物が生成することを特徴とする。さらに、当該光刺激又は力学刺激を停止し室温で放置することによって、自発的に再度連結が形成されて、HABI基を介して連結した多量体化合物に戻ることができる。かかる反応を利用して、架橋高分子の流動性を光刺激や力学刺激等の外部刺激によって可逆的に制御することができる。
【0049】
上記式(1)で表される部分構造を有するロフィン修飾高分子化合物から、それらが互いにHABI基を介して複数連結した多量体化合物を得る反応は、当該技術分野において通常の条件において進行させることができるが、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の塩基、およびフェリシアン化カリウム等の酸化剤の存在下で行われる。
【0050】
かかる可逆制御の反応機構として、三分岐型のポリシロキサンを主鎖構造とするロフィン修飾高分子化合物及びその多量体の場合の非限定的な例を以下に示す。
【化12】
【0051】
三分岐型ポリシロキサンが、そのHABI基を介して分子間で連結した多量体の場合には分子量が大きく、また網目状であるために非流動状態である。これに紫外光(UV)等を照射することで、当該HABI基の連結が解消されて、TPIR基が生成し、粘弾性の低い単量体に変化する。さらに、紫外光等の照射を停止すると、また元のHABI基を介して分子間で連結した多量体に戻る。
【0052】
したがって、本発明は、更なる実施態様において、上述の高分子化合物(単量体)と多量体化合物における光刺激による結合形成及び開裂の反応を利用した、高分子材料の流動性を可逆的に制御する方法にも関する。より詳細には、かかる方法は、上述の多量体化合物を含む高分子材料に光刺激又は力学刺激を付与することにより、前記HABI基を介した分子間の結合を開裂させることで、TPIR基を有する単量体化合物を生成させる工程を含むことを特徴とする。
【0053】
前記光刺激には、紫外光および可視光を利用することが出来、好ましくは紫外線を利用する。紫外線の波長範囲は、10~400nmであり、好ましくは、200~400nm、より好ましくは315~400nmであることができる。また、光刺激の付与は、-20~100℃の温度条件下で行うことが好ましい。また、前記物理刺激としては、高分子主鎖を切断するだけのせん断力を印加可能な力学的刺激を利用することができ、好ましくは超音波を利用する。
【0054】
また、本発明の方法は、前記光刺激又は物理刺激を停止することによって再びHABI基を介した分子間の結合を形成させ、多量体化合物に戻す工程を更に含むことができる。当該工程では、光刺激又は物理刺激を停止し室温で放置することによって、自発的に再度TPIR基が分子間で結合したHABI基が形成されて、非流動状態の多量体化合物に戻ることができる。これらの工程を繰り返すことによって、多量体化合物の流動性を可逆的に制御することが可能となる。
【0055】
さらに、別の側面において、本発明では、上記式(1)で表される部分構造を有するロフィン修飾高分子化合物が互いに複数連結した多量体化合物に、さらに環状構造を有する含ケイ素ポリマーを混合した組成物とすることで、その粘弾性と光応答性を制御できることも見出した。これは、網目状の多量体化合物中に環状構造ポリマーが存在することによって、網目の密度が変化し、その結果、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)に代表される粘弾性特性が変化することによるものと考えられる。これにより、所定の構造を有するロフィン修飾高分子化合物をその都度合成することなく、特定比率の環状構造ポリマーを混合させるだけで、所望の粘弾性特性が得られるという利点が提供される。
【0056】
前記環状構造を有する含ケイ素ポリマーは、市販のポリジメチルシロキサン等から合成したものを用いることができる。好ましくは、分子内にHABI基を有し、かかるHABI基を連結基として環状構造を形成しているものである。より好ましくは、前記環状構造を有する含ケイ素ポリマーは、上記式(1)で表される部分構造を直鎖状高分子化合物がHABI基を介して環状に連結した多量体化合物を用いることができる。また、上記式(1)で表される部分構造を有するロフィン修飾高分子化合物よりなる網目状多量体化合物(N)と環状構造を有する含ケイ素ポリマー(C)の比率は、所望の粘弾性特性に応じて適宜変更することができるが、好ましくは、重量比で、N/C=[0/100]~[50/50」の範囲とすることができる。
【0057】
3.用途
本発明は、一態様において、上記多量体化合物を含む組成物にも関する。そのような組成物は、光刺激によって流動性を制御するという特性が有益であるものであれば幅広い用途において適用することができる。例えば、接着剤、粘着剤、及び粘度調整剤よりなる群から選択される組成物であることができる。接着剤及び粘着剤の用途では、光刺激等の外部刺激によって遠隔的に接着・剥離を制御できるという利点を有し、また、加熱が望ましくない環境での接着や耐熱性の低い材料同士の接着に適用できるという利点も有する。また、粘度調整剤としては、光刺激等の外部刺激によって遠隔的に分子量を改変することで所望の粘度に調節できるとともに、そのような改変後の化合物を再度利用することができるため、環境調和性に優れた高性能の粘度調整剤を提供できるという利点を有する。
【実施例
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0059】
実施例1:ヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物の合成
以下の反応により、含ケイ素ポリマーにロフィン構造を導入するために用いるヒドロシラン置換型アリールイミダゾール化合物を合成した。
【0060】
[2-(4-ブロモフェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾールの合成]
【化13】
【0061】
4-ブロモベンズアルデヒド(37g)、ベンジル(42g)、酢酸アンモニウム(31g)、及びメタノール(200mL)を反応容器に加え、80℃で18時間還流した。室温に戻したのちに反応混合物を濾過し、結晶状の濾物をメタノールで洗浄して集めた。濾液を濃縮した後に再度濾過し、結晶状の濾物をメタノールで洗浄して集めた。得られた結晶状の濾物をあわせて減圧で乾燥し、白色の結晶を62g得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は2-(4-ブロモフェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾールであることを確認した。
【0062】
[2-(4-(ジメチルシリル)フェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾールの合成]
【化14】
【0063】
2-(4-ブロモフェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール(20g)とテトラヒドロフラン(230mL)を反応容器に加えて溶解させ、反応容器を-80℃に冷却した。この反応溶液にn-ブチルリチウム(2.3M、シクロヘキサン溶液)(58mL)をゆっくり加えた。80分攪拌した後にクロロジメチルシラン(6.5mL)を加えて反応容器を室温に戻し、さらに7時間攪拌を続けた。反応容器に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)を加えて反応を停止させ、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過して濾液を集め、減圧下でテトラヒドロフランを留去して白色粉末15gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は2-(4-(ジメチルシリル)フェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾールであることを確認した。
【0064】
実施例2:ビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサンの合成
以下の反応により、ビニル基を含有するポリジメチルシロキサン(PDMS)を合成した。
【化15】
【0065】
ヘキサメチルシクロトリシロキサン(11.1g)とテトラヒドロフラン(9mL)を反応容器に加えて混合したのちに、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(100mg)と水(90μL)のテトラヒドロフラン溶液(1mL)をこの反応容器に素早く混合して室温で70分攪拌した。次いで、ピリジン(6.1mL)およびクロロジメチルビニルシラン(6.8mL)をこの順に加えてさらに1時間攪拌した。反応混合物にヘキサン(100mL)を加え、水で洗浄した後に硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で揮発成分を留去して得られた油状粗生成物をアセトンに溶解し-40℃に冷却して相分離させた。アセトン相を取り除いて得られた油相を減圧下で乾燥して無色の油状化合物4.45g得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有する両末端ビニル型直鎖状PDMSであることが分かった。
【0066】
実施例3-1:ロフィン修飾PDMSの合成例1
以下の反応により、末端にロフィン構造を導入したポリジメチルシロキサンを合成した。
【化16】
【0067】
実施例2で得た末端ビニル型直鎖状PDMS(2.46g)、実施例1で得た2-(4-(ジメチルシリル)フェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール(2.62g)、テトラヒドロフラン(10mL)、および白金(0) -1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(100μL)を加え80℃で5時間攪拌した。減圧下でテトラヒドロフランを留去した後にメタノールを加え、メタノール相を取り除いた。残った油相をメタノールで洗浄した後に減圧下で乾燥させてフィルム状の固体2.83gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は両末端ロフィン型直鎖状PDMSであることを確認した。
【0068】
実施例3-2:PDMS多量体の合成例1
以下の反応により、実施例3-1で得たロフィン修飾PDMSの多量体を合成した。
【化17】
【0069】
実施例3-1で得た末端ロフィン型直鎖状PDMS(800mg)のヘキサン溶液(20mL)に、水酸化カリウム(500mg)、及びフェリシアン化カリウム(2.93g)の水溶液(20mL)、を加え、室温で90分間激しく攪拌した。反応混合物の有機層を水で洗浄して硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後に濾液を減圧で乾燥させることで粘性の高い油状化合物660mgを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物はHABI基を介してPDMSが複数連結した上記構造を有する多量体化合物であることが分かった。
【0070】
実施例4-1:ロフィン修飾PDMSの合成例2
以下の反応により、市販の変性シリコーンを用いて、その末端にロフィン構造を1ステップで導入可能であることを確認した。
【化18】
【0071】
市販の末端ビニル型直鎖状PDMS(5.0g、Aldrich製、CAS番号68083-19-2)、実施例1で得た2-(4-(ジメチルシリル)フェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール(750mg)、テトラヒドロフラン(20mL)、および白金(0) -1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(50μL)を加え80℃で19時間攪拌した。減圧下でテトラヒドロフランを留去した後にアセトンを加え、アセトン相を取り除いた。残った油相をアセトンで洗浄した後に減圧下で乾燥させて油状液体4.75gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有する両末端ロフィン型直鎖状PDMSであることを確認した。
【0072】
実施例4-2:PDMS多量体の合成例2
以下の反応により、実施例4-1で得たロフィン修飾PDMSの多量体を合成した。
【化19】
【0073】
実施例4-1で得た末端ロフィン型直鎖状PDMS(2.1g)のヘキサン溶液(20mL)に、水酸化カリウム(500mg)、及びフェリシアン化カリウム(2.93g)の水溶液(10mL)、を加え、室温で60分間激しく攪拌した。反応混合物の有機層を水で洗浄して硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後に濾液を減圧で乾燥させることで粘性の高い油状化合物1.83gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物はHABI基を介してPDMSが複数連結した上記構造を有する多量体化合物であることを確認した。
【0074】
実施例5:ビニル基含有三分岐型ポリジメチルシロキサンの合成
以下の反応により、ビニル基を含有する三分岐型ポリジメチルシロキサン(PDMS)を合成した。
【化20】
【0075】
ヘキサメチルシクロトリシロキサン(11.1g)およびテトラヒドロフラン(20mL)を反応容器に入れて混合し、1,3,5-トリス(ジメチルヒドロキシシリル)ベンゼン(300mg)と1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(100mg)のテトラヒドロフラン溶液(3mL)と素早く混合した。室温で80分攪拌した後に、ピリジン(3.6mL)およびクロロジメチルビニルシラン(4.1mL)をこの順に加えてさらに30分攪拌した。反応混合物にヘキサン(100mL)を加え、水で洗浄した後に有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で揮発成分を留去して得られた油状粗生成物をアセトンで洗浄した後に減圧下で乾燥して無色の油状化合物7.85gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有する三分岐型PDMSであることを確認した。
【0076】
実施例6-1:ロフィン修飾三分岐型PDMSの合成例
以下の反応により、三分岐型ポリジメチルシロキサンの末端にロフィン構造を導入した化合物を合成した。
【化21】
【0077】
実施例5で得た末端ビニル型三分岐型PDMS(5.0g)、実施例1で得た2-(4-(ジメチルシリル)フェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール(2.86g)、テトラヒドロフラン(20mL)、および白金(0) -1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(100μL)を加え80℃で15時間攪拌した。減圧下でテトラヒドロフランを留去した後にメタノールでの洗浄を経て減圧下で乾燥させることで油状液体4.17gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有する末端ロフィン修飾三分岐型PDMSであることを確認した。
【0078】
実施例6-2:三分岐型PDMS多量体の合成例
以下の反応により、実施例6-1で得たロフィン修飾三分岐型PDMSの多量体を合成した。
【化22】
【0079】
実施例6-1で得たロフィン修飾三分岐型PDMS(1.5g)をヘキサン/テトラヒドロフラン溶液(40mL/5mL)に、水酸化カリウム(500mg)、及びフェリシアン化カリウム(2.93g)の水溶液(10mL)、を加え、室温で2時間激しく攪拌した。反応混合物の有機層を水で洗浄して硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後に濾液を減圧で乾燥させることでフィルム状の固体1.22gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有するHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物であることを確認した。
【0080】
実施例7:粘着性の制御
実施例6-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物を用いて、光照射に伴う粘着性の変化を観測した。結果を図1に示す。
【0081】
実施例6-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物(約5mg)を紙とスライドガラスの間に挟み、紙の裏側を壁に固定した。網目状多量体化合物の粘着性によってスライドガラスは落下することなく十分な時間壁に固定されていた(図1A)。続いて、接着部分に対してUV(365nm)を照射した。その結果、すぐにスライドガラスが剥離しはじめ(図1B)、数十秒以内に完全に剥離した(図1C)。これらのことから、HABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物の粘着性が光照射によって制御されることを確認した。
【0082】
実施例8:流動性の制御
実施例4-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した多量体化合物を用いて、光照射オン・オフの繰り返しに伴う流動性の変化をレオメーターで観測した。結果を図2に示す。
【0083】
実施例4-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した多量体化合物に対して、光照射に伴う貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の変化を測定した。まず、光照射下(図2中網掛け部分)および光非照射下(図2中網掛けのない部分)ともにG’’がG’よりも大きく、HABI基を介してPDMSが複数連結した多量体化合物が流動的な性質を持つことが分かった。続いて、光照射に伴ってG’およびG’’がともに急激に低下し、とりわけG’は元の10分の1程度にまで低下した。光照射のオン・オフを繰り返すと、一連のG’およびG’’の変化も可逆的に繰り返された。さらに、光照射に伴うG’およびG’’の低下は2分以内に完了し、光照射の停止によるG’およびG’’の増加は4分以内に完了することが分かった。これらのことから、HABI基を介してPDMSが複数連結した多量体化合物の流動性を光照射によって制御できることを確認した。
【0084】
実施例9:粘弾性の制御
実施例6-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物を用いて、光照射オン・オフの繰り返しに伴う粘弾性の変化をレオメーターで観測した。結果を図3に示す。
【0085】
実施例6-2で得たHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物に対して、光照射に伴うG’とG’’の変化を測定した。まず、光照射下(図3中網掛け部分)および光非照射下(図3中網掛けのない部分)ともにG’がG’’よりも大きく、HABI基を介してPDMSが複数連結した多量体化合物が非流動的な固体としての性質を持つことが分かった。続いて、光照射に伴ってG’およびG’’はともに低下し、光照射を停止すると増加した。光照射のオン・オフを繰り返すと、一連のG’およびG’’の変化も可逆的に繰り返された。さらに、光照射に伴うG’およびG’’の低下は2分以内に完了し、光照射の停止によるG’およびG’’の低下・増加はともに2分以内にほぼ完了することが分かった。これらのことから、HABI基を介してPDMSが複数連結した多量体化合物の粘弾性を光照射によって制御できることを確認した。
【0086】
実施例10:末端ビニル型四分岐星型PDMSの合成
以下の反応により、ビニル基を含有する四分岐PDMSを合成した。
【化23】
【0087】
ヘキサメチルシクロトリシロキサン(3.0g)およびテトラヒドロフラン(6mL)を反応容器に入れて混合し、(メタンテトライルテトラキスベンゼン-4,1-ジイル))テトラキス(ジメチルシラノール)(48mg)と1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(22mg)のテトラヒドロフラン溶液(8mL)と素早く混合した。室温で80分攪拌した後に、ピリジン(0.76mL)およびクロロジメチルビニルシラン(0.42mL)をこの順に加えてさらに終夜で攪拌した。反応混合物にヘキサン(100mL)を加え、水で洗浄した後に有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で揮発成分を留去して得られた油状粗生成物をアセトンで洗浄した後に減圧下で乾燥して無色の油状化合物1.66gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有する四本腕PDMSであることを確認した。
【0088】
実施例11:末端ロフィン型四分岐星型PDMSの合成例
以下の反応により、末端ビニル型四分岐星型PDMSの末端にロフィン構造を導入した化合物を合成した。
【化24】
【0089】
実施例10で得た末端ビニル型四分岐星型PDMS(1.6g)、実施例1で得た2-(4-(ジメチルシリル)フェニル)-4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール(990mg)、テトラヒドロフラン(10mL)、および白金(0) -1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(100μL)を加え80℃で終夜攪拌した。減圧下でテトラヒドロフランを留去した後にメタノールおよびアセトンでの洗浄を経て減圧下で乾燥させることで油状液体1.12gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有する末端ロフィン型四分岐星型PDMSであることを確認した。
【0090】
実施例12:四分岐PDMS多量体の合成例
以下の反応により、実施例11で得た末端ロフィン型四分岐星型PDMSの多量体を合成した。
【化25】
【0091】
実施例11で得た末端ロフィン型四分岐星型PDMS(1.0g)をヘキサン/テトラヒドロフラン溶液(50mL/5mL)に、水酸化カリウム(561mg)、及びフェリシアン化カリウム(3.29g)の水溶液(50mL)、を加え、室温で2時間激しく攪拌した。反応混合物の有機層を水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した後に濾液を減圧で乾燥させることでフィルム状の固体を約1gを得た。H-NMRによる分析の結果、生成物は上記構造を有するHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物であることを確認した。
【0092】
実施例13:末端ロフィン型四分岐星型PDMSを元に合成した網目状多量体化合物と環状PDMSとの混合による粘弾性制御
実施例12において末端ロフィン型四分岐星型PDMSから合成した網目状多量体化合物に、実施例4-2において末端ロフィン型直鎖状PDMSから合成した多量体化合物(環状PDMS)を添加して混合物としたうえで、当該混合物について光照射に伴う粘弾性の変化を観測した。ここで、網目状多量体化合物(N)と環状PDMS(C)の混合比を、重量比で、N/C=[0/100]~[50/50」の範囲とした計7種類に混合物について測定を行った。光照射に伴うG’とG’’の変化の測定結果を図4に示す。
【0093】
混合物中における実施例12の網目状多量体化合物と環状PDMSとの混合比を変化させることにより粘弾性およびその光応答性がともに変化した。また、環状PDMSの比率が75%(N/C=25/75)であるときに貯蔵弾性率と損失弾性率の大小関係が光照射によって繰り返し入れ替わった。このことは、液体状態と固体状態をも繰り返し変化させることがで出来ることを表している。これらのことから、異種分岐様式を混合させることでHABI基を介してPDMSが複数連結した網目状多量体化合物の粘弾性とその光応答性を制御できることが分かった。
図1
図2
図3
図4