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特許7549348データ処理装置、データ処理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】データ処理装置、データ処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/377 20210101AFI20240904BHJP
【FI】
A61B5/377
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021006536
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110854
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大池 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 仁
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-078890(JP,A)
【文献】特表2022-534851(JP,A)
【文献】国際公開第2020/220564(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/103994(WO,A1)
【文献】特表2002-503972(JP,A)
【文献】米国特許第05601091(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体が反応を示す刺激の大きさの閾値を決定するためのデータ処理を行うデータ処理装置であって、
前記生体に対して前記刺激を与えた場合に前記生体から得られる第1反応データと、前記生体に対して前記刺激を与えない場合に前記生体から得られる第2反応データと、の間に有意差があるか否かを、前記刺激の大きさ毎、および、前記刺激に関する周波数毎に示す有意差データを生成する有意差判定部と、
前記有意差データに前記刺激の大きさおよび前記周波数に関する、互いに異なる複数の範囲を設定し、前記複数の範囲毎に前記有意差の有無に基づいて前記閾値の候補である閾値候補を取得する閾値候補取得部と、
前記閾値候補と所定の基準閾値との相関係数が最大となる範囲を前記複数の範囲の中から抽出し、抽出した範囲を前記閾値を決定するために用いられる設定範囲として設定する範囲設定部と、
を備える、データ処理装置。
【請求項2】
前記閾値候補取得部は、異なる複数の前記範囲が互いに組み合わせられた組み合わせ範囲毎に、前記有意差の有無に基づいて前記閾値候補を取得し、
前記範囲設定部は、前記閾値候補と前記基準閾値との前記相関係数が最大となる組み合わせ範囲を複数の前記組み合わせ範囲の中から抽出し、前記設定範囲として設定する、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記閾値候補取得部は、前記組み合わせ範囲において、1つの前記範囲から取得される第1の閾値候補と、他の前記範囲から取得される第2の閾値候補との差分が所定差分値以下である場合、前記第1の閾値候補を前記組み合わせ範囲の閾値候補を前記閾値候補として取得する、
請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記閾値候補取得部は、前記生体から得られたデータにおいて、全ての前記組み合わせ範囲の数に対する、前記第1の閾値候補と前記第2の閾値候補との差分が前記所定差分値より大きくなる組み合わせ範囲の数の割合が、所定割合以上である場合、前記生体から得られたデータから得られる前記閾値候補を全て破棄する、
請求項3に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
生体が反応を示す刺激の大きさの閾値を決定するためのデータ処理を行うデータ処理方法であって、
前記生体に対して前記刺激を与えた場合に前記生体から得られる第1反応データと、前記生体に対して前記刺激を与えない場合に前記生体から得られる第2反応データと、の間に有意差があるか否かを、前記刺激の大きさ毎、および、前記刺激に関する周波数毎に示す有意差データを生成し、
前記有意差データに前記刺激の大きさおよび前記周波数に関する、互いに異なる複数の範囲を設定し、
前記複数の範囲毎に前記有意差の有無に基づいて前記閾値の候補である閾値候補を取得し、
前記閾値候補と所定の基準閾値との相関係数が最大となる範囲を前記複数の範囲の中から抽出し、
抽出した範囲を、前記閾値を設定するために用いられる設定範囲として設定する、
データ処理方法。
【請求項6】
生体が反応を示す刺激の大きさの閾値を決定するためのデータ処理を行うコンピュータが実行するプログラムであって、
前記生体に対して前記刺激を与えた場合に前記生体から得られる第1反応データと、前記生体に対して前記刺激を与えない場合に前記生体から得られる第2反応データと、の間に有意差があるか否かを、前記刺激の大きさ毎、および、前記刺激に関する周波数毎に示す有意差データを生成し、
前記有意差データに前記刺激の大きさおよび前記周波数に関する、互いに異なる複数の範囲を設定し、
前記複数の範囲毎に前記有意差の有無に基づいて前記閾値の候補である閾値候補を取得し、
前記閾値候補と所定の基準閾値との相関係数が最大となる範囲を前記複数の範囲の中から抽出し、
抽出した範囲を、前記閾値を設定するために用いられる設定範囲として設定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に対して与えた刺激に対して生体が反応を示したかを判定するためのデータ処理装置、データ処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
聴力を客観的に測定する方法として、聴性脳幹反応(Auditory Brainstem Response:ABR)検査がある。ABR検査は、被験者の脳波を測定可能とした状態で被験者に音刺激を与え、脳波の反応に基づいて被験者が聞こえているか否かを判定する検査である。
【0003】
従来、ABR検査において、判定者が脳波の波形を目視で観察し、聞こえているか否かの閾値を適宜決定することが行われてきた。しかし、判定者が目視により閾値を決定する場合、判定者の主観が入るため、判定者が変わると判定結果も変わってしまう事態が生じうる。また、人による判定では、多くの被験者に対する検査を一度に行うような、大規模な処理が困難な場合がある。これらの事情から、脳波の波形に基づいて閾値を自動的に決定するとともに、被験者が聞こえているか否かの判定を自動的に行いたい、という要望がある。
【0004】
特許文献1には、被験者からの応答信号をフーリエ変換した後、F統計量を使用して聴覚信号の確率を算出すること、算出した聴覚信号に基づいて検査結果を自動判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-503972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ABR検査では、検査環境、すなわち脳波を測定する機械の種類や条件設定等が異なると、得られる脳波の波形が大きく異なることが知られている。例えば特許文献1に開示された技術では、脳波に含まれるノイズを低減するために除去閾値を設定して一部を除去している。検査条件が変わるとこの除去閾値自体を変える必要が生じるため、新たな検査条件に特許文献1の技術を適用するためには、閾値の調整等に大きな労力を要する。
【0007】
このような事情から、生体が刺激に反応しているか否かを検査する場合に、検査条件が変わっても生体からの反応の有無を自動的に、かつ精度よく判定することが要望されている。
【0008】
本開示は、生体に対して与えられた刺激に生体が反応しているか否かを、自動的に、かつ精度よく判定するためのデータ処理装置、データ処理方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るデータ処理装置は、生体が反応を示す刺激の大きさの閾値を決定するためのデータ処理を行うデータ処理装置であって、前記生体に対して前記刺激を与えた場合に前記生体から得られる第1反応データと、前記生体に対して前記刺激を与えない場合に前記生体から得られる第2反応データと、の間に有意差があるか否かを、前記刺激の大きさ毎、および、前記刺激に関する周波数毎に示す有意差データを生成する有意差判定部と、前記有意差データに前記刺激の大きさおよび前記周波数に関する、互いに異なる複数の範囲を設定し、前記複数の範囲毎に前記有意差の有無に基づいて前記閾値の候補である閾値候補を取得する閾値候補取得部と、前記閾値候補と所定の基準閾値との相関係数が最大となる範囲を前記複数の範囲の中から抽出し、抽出した範囲を前記閾値を決定するために用いられる設定範囲として設定する範囲設定部と、を備える。
【0010】
本開示に係るデータ処理方法は、生体が反応を示す刺激の大きさの閾値を決定するためのデータ処理を行うデータ処理方法であって、前記生体に対して前記刺激を与えた場合に前記生体から得られる第1反応データと、前記生体に対して前記刺激を与えない場合に前記生体から得られる第2反応データと、の間に有意差があるか否かを、前記刺激の大きさ毎、および、前記刺激に関する周波数毎に示す有意差データを生成し、前記有意差データに前記刺激の大きさおよび前記周波数に関する、互いに異なる複数の範囲を設定し、前記複数の範囲毎に前記有意差の有無に基づいて前記閾値の候補である閾値候補を取得し、前記閾値候補と所定の基準閾値との相関係数が最大となる範囲を前記複数の範囲の中から抽出し、抽出した範囲を、前記閾値を設定するために用いられる設定範囲として設定する。
【0011】
本開示に係るプログラムは、生体が反応を示す刺激の大きさの閾値を決定するためのデータ処理を行うコンピュータが実行するプログラムであって、前記生体に対して前記刺激を与えた場合に前記生体から得られる第1反応データと、前記生体に対して前記刺激を与えない場合に前記生体から得られる第2反応データと、の間に有意差があるか否かを、前記刺激の大きさ毎、および、前記刺激に関する周波数毎に示す有意差データを生成し、前記有意差データに前記刺激の大きさおよび前記周波数に関する、互いに異なる複数の範囲を設定し、前記複数の範囲毎に前記有意差の有無に基づいて前記閾値の候補である閾値候補を取得し、前記閾値候補と所定の基準閾値との相関係数が最大となる範囲を前記複数の範囲の中から抽出し、抽出した範囲を、前記閾値を設定するために用いられる設定範囲として設定する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、生体に対して与えられた刺激に生体が反応しているか否かを、自動的に、かつ精度よく判定するためのデータ処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施の形態に係るデータ処理装置の構成の一例を示す図
図2】脳波信号の波形の例を示す図
図3】検査データに基づき算出された、周波数毎のパワースペクトル密度の推定値の例を示す図
図4】有意差の有無を判定している様子を示すイメージ図
図5】ある被検体の有意差データについて例示した図
図6図5に示す有意差データにおいて、パラメータAを500Hzに、パラメータBを1に設定した場合に規定される範囲を例示した図
図7図5に示す有意差データにおいて、パラメータCを1000Hzに、パラメータDを2に設定した場合に規定される範囲を例示した図
図8図5に示す有意差データにおいて、パラメータCを1000Hzに、パラメータDを7に設定した場合に規定される範囲を例示した図
図9】組み合わせ範囲の1つである(A,B,C,D)=(1000,2,1000,4)における閾値候補と閾値データとをグラフにプロットした様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明、例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明等は省略する場合がある。また、以下の説明および参照される図面は、当業者が本発明を理解するために提供されるものであって、本開示の請求の範囲を限定するためのものではない。
【0015】
本開示のデータ処理装置は、生体に対して大きさが異なる刺激を与えたときに、どの大きさまで生体が反応を返すかを判定するためのデータ処理を行うものである。以下の実施の形態では、一例として、生体に対して音刺激を与え、脳波に基づいて生体が音刺激に反応しているか否かを検査する聴性脳幹反応(ABR)検査に用いる閾値(一般的には、聴覚閾値、最小可聴値等と呼ばれる。以下の説明では、聴覚閾値と記載する)を決定するためのデータ処理を行うデータ処理装置1について説明する。
【0016】
データ処理装置1は、ABR検査をこれまで行ってきた検査機関等に設置され、過去のABR検査データに基づいて、新たなABR検査データから聴覚閾値を自動的に決定するためのパラメータを設定する装置である。このため、データ処理装置1は、検査機関毎に蓄積されている過去のABR検査データを用いて、以下に説明する各種の動作を行う。
【0017】
データ処理装置1は、例えばPC(Personal Computer)等の一般的なコンピュータである。すなわち、データ処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)等の演算および制御装置と、メモリやストレージ等の記憶装置と、キーボードやマウス等の入力装置と、ディスプレイやスピーカ等の出力装置と、を備えている。また、データ処理装置1は、検査データおよび閾値データ等の各種データが記録されている記憶媒体からこれらのデータを読み出す読み出し装置またはネットワーク経由でこれらのデータを受信する通信装置等のインターフェースを備えている。以下で説明するデータ処理装置1の動作は、CPUが記憶装置からプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0018】
ABR検査とは、例えばイヤホンやヘッドホン、スピーカー等を通じて、被検体(例えば人間や家畜等の生体)に音刺激を与え、そのとき被検体から得られる脳波に基づいて、被検体が聞こえているか否かを判定する検査である。音刺激の例としては、500Hz~8000Hz程度の広い周波数スペクトル分布を有するクリック音や、周波数特異性の高いトーンピップやトーンバーストが挙げられる。本実施の形態では、検査データの例として、8000Hzのトーンバースト刺激を10dBから10dB刻みで100dBまで変化させた場合の検査データを用いて説明を行うが、これらの数値は一例であり、例えば5dB刻みであってもよい。
【0019】
図1は、本開示の実施の形態に係るデータ処理装置1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、データ処理装置1は、データ取得部11と、前処理部12と、有意差判定部13と、閾値候補取得部14と、範囲設定部15と、を備える。
【0020】
データ取得部11は、検査機関のデータベース等から、その検査機関で過去に被検体(例えば人間や家畜等の生体)に対して行われたABR検査の検査データ、および、その検査データに基づいて検査技師等が設定した被検体の聴覚閾値に関する閾値データを取得する。検査データとは、被検体のそれぞれに対する検査により得られたデータであり、例えば、被検体の頭部から取得された電位波形信号(脳波信号)である。閾値データとは、検査機関の検査技師等が検査データを目で見て過去に設定した聴覚閾値に関するデータである。本開示では、被検体の数については1人でも複数人でも対応が可能である。
【0021】
なお、検査データとしては、被検体毎に、様々な音圧毎の音刺激ありの場合のデータと、音刺激なし(無音の)場合のデータと、が用意されているものとする。図2は、複数回の同一音刺激に対する反応を加算平均した脳波信号の波形(誘発電位波形)の例を示す図である。図2の横軸は時間、縦軸は1対の測定電極間の電位差である。図2に示す例は、1体の被検体に対して、8000Hz、の音刺激を100dBから10dB刻みで小さくした音刺激を連続的に与えて得られた脳波信号を並べたものである。図2に示す複数の線は、それぞれ異なる音圧に対して得られる脳波信号に対応している。
【0022】
前処理部12は、検査データを用いてデータ解析を行うために、検査データに対して前処理を行う。具体的には、前処理は、脳波信号に窓関数を掛け合わせた後、フーリエ変換を施して周波数毎のパワースペクトル密度の推定値を算出する処理である。図3は、検査データに基づき算出された、周波数毎のパワースペクトル密度の推定値の例を示す図である。図3において、横軸は周波数、縦軸はパワースペクトル密度の推定値(相対値)である。前処理部12は、例えば100Hzから10000Hzまで、100Hzの周波数毎にパワースペクトル密度の推定値を取得する。これは、経験的に、10000Hzを超える値はノイズとみなしてよいことが分かっているからである。
【0023】
有意差判定部13は、音刺激ありの場合の検査データから算出されたパワースペクトル密度の推定値と、音刺激なしの場合の検査データから算出されたパワースペクトル密度の推定値と、の比較を行い、周波数毎の有意差の有無を判定する。比較には、例えばF検定を用いればよい。図4は、有意差の有無を判定している様子を示すイメージ図である。図4の上側のグラフは音刺激ありの場合の周波数毎のパワースペクトル密度を示しており、図4の下側のグラフは音刺激がない場合の周波数毎のパワースペクトル密度を示している。なお、以下の説明において、音刺激ありの場合の検査データから算出されたパワースペクトル密度の推定値を第1反応データと記載し、音刺激なしの場合の検査データから算出されたパワースペクトル密度の推定値を第2反応データと記載する。
【0024】
有意差判定部13は、被検体に与えられる音刺激の大きさ(音圧)毎に、このような比較を行う。その結果、有意差判定部13は、音刺激の大きさ毎、および周波数毎に、音刺激ありとなしの場合でパワースペクトル密度の推定値に有意差があるか否かを示す有意差データを、被検体毎に生成することができる。
【0025】
図5は、ある被検体の有意差データについて例示した図である。図5に示すように、有意差データは、音圧毎、および周波数毎に、有意差の有無を示したデータである。図5には、行が変わると音刺激の大きさ(音圧)が変わり、列が変わると周波数が変わるようなマトリクス形式で有意差データが示されている。図5では、100Hzから10000Hzまでの周波数のうち、一部が省略されて示されている。各セルに〇が記入されている場合、そのセルの周波数および音圧に対応する第1反応データと第2反応データとの間に有意差があることを意味している、反対に、各セルに何も記入されていない場合、そのセルの周波数および音圧に対応する第1反応データと第2反応データとの間に有意差がないことを意味している。
【0026】
図5において、右端の列には、音圧毎に〇が記入されている(言い換えると、第1反応データと第2反応データとの間に有意差がある)セルを計数した数が記入されている。以下の説明において、この数を、有意差数と記載する。図5に示す例では、10dBから50dBまでは有意差数は0であり、60dBから100dBまでは1より大きい値となっている。
【0027】
音刺激ありの場合のパワースペクトル密度の推定値と、音刺激なしの場合のパワースペクトル密度の推定値との間の有意差があるということは、その被検体がその音刺激に対して反応している、言い換えるとその音が聞こえていることを意味している。したがって、基本的には、有意差数が0である音圧と1以上である音圧との境目が、その被検体が聞こえている音圧の閾値、すなわち聴覚閾値であるということができる。
【0028】
ただし、図5に示した例は、説明のため、有意差があるセルが互いに隣接しており、有意差があるセルの集合とないセルの集合との境目がわかりやすい例である。しかし、実際に得られるデータは、ノイズ等の影響により、境目がわかりにくいデータであることが多い。具体的には、例えば200Hzでの有意差があるセルが40dB、70dB、90dBであり、300Hzでの有意差のあるセルが40dB、60dB、100dBであるように、飛び飛びであったり、連続していなかったりするデータが実際には得られやすい。
【0029】
このような不連続性の高い有意差データの場合、周波数によって有意差数が0である音圧と1以上である音圧とが大きく異なり、どの音圧を聴覚閾値とすべきか判断しにくい場合がある。また、単純に有意差数が0である音圧と1以上である音圧との境目を聴覚閾値として決定してしまうと、決定された聴覚閾値の信頼性が低くなってしまう恐れがある。例えば、実際には50dBが聴覚閾値である被検体から得られたデータにおいて、ノイズにより20dBでの有意差があった場合、実際には被検体には聞こえていないにもかかわらず、20dBが聴覚閾値として決定されてしまう恐れがある。
【0030】
本開示のデータ処理装置1では、このように聴覚閾値の信頼性が低下することを防止し、精度よく聴覚閾値を決定するため、有意差データの中から一部の範囲のデータを抽出し、抽出した範囲に基づいて、その被検体の聴覚閾値を決定する。本開示のデータ処理装置1では、抽出する範囲を過去のデータに基づいて妥当性が高い範囲とすることにより、聴覚閾値を精度よく決定することができる。以下では、妥当性が高い範囲を抽出するために、閾値候補取得部14および範囲設定部15が行う動作について説明する。
【0031】
閾値候補取得部14は、有意差データの中に複数の範囲を設定し、範囲毎に閾値候補を取得する。そして、閾値候補取得部14は、2つの範囲から取得される2つの閾値候補の差分があらかじめ設定された所定差分値より小さい場合に、2つの閾値候補のうち1つを範囲設定部15に出力する。
【0032】
閾値候補取得部14が、2つの閾値候補のうちいずれを閾値候補として範囲設定部15に出力するかについては、例えばあらかじめ決められていればよい。すなわち、閾値候補取得部14は、2つの閾値候補のうち、例えばより大きい方を閾値候補として範囲設定部15に出力してもよいし、より小さい方を閾値候補として範囲設定部15に出力してもよい。または、閾値候補取得部14は、2つの閾値候補の中間値を閾値候補として範囲設定部15に出力するようにしてもよい。
【0033】
具体例を挙げて説明する。閾値候補取得部14は、有意差データの中から、周波数100Hz以上AHz以下、かつ有意差数がB個より大きい範囲を抽出し、抽出した範囲に含まれる最小の音圧を、閾値候補とする。以下の説明において、これらの数A,Bを、以下の説明ではパラメータA,Bと記載する。また、周波数100Hz以上AHz以下、かつ有意差数がB個より大きい範囲を、パラメータ(A,B)により規定される範囲と記載する。
【0034】
図6は、図5に示す有意差データにおいて、パラメータAを500Hzに、パラメータBを1に設定した場合に規定される範囲を例示した図である。図6に示す例では、規定された範囲に含まれる最小の音圧は60dBであるため、(A,B)=(500,1)により規定される範囲から取得される閾値候補は、60dBである。
【0035】
さらに、閾値候補取得部14は、有意差データの中から、周波数100Hz以上CHz以下、かつ有意差数がD個より大きい範囲を抽出し、抽出した範囲に含まれる最小の音圧を、第2の閾値候補とする。以下の説明において、これらの数C,Dを、以下の説明ではパラメータC,Dと記載する。また、周波数100Hz以上CHz以下、かつ有意差数がD個より大きい範囲を、パラメータC,Dにより規定される範囲と記載する。
【0036】
図7は、図5に示す有意差データにおいて、パラメータCを1000Hzに、パラメータDを2に設定した場合に規定される範囲を例示した図である。図7に示す例では、抽出された範囲に含まれる最小の音圧は60dBであるため、(C,D)=(1000,2)に対応する範囲から取得される閾値候補は、60dBである。
【0037】
そして、閾値候補取得部14は、パラメータA~Dを種々の値に変化させながら、それぞれの値により規定される範囲毎に閾値候補を決定する。本実施の形態では、閾値候補取得部14は、パラメータA,Cについては100Hzから10000Hzまで、100Hzずつ変化させ、パラメータB,Dについては1個から100個まで、1個ずつ変化させる。
【0038】
言い換えると、閾値候補取得部14は、パラメータA,B,C,Dの取りうるすべての値の組み合わせ毎に、パラメータ(A,B)により規定される第1の範囲から取得される第1の閾値候補と、パラメータ(C,D)により規定される第2の範囲から取得される第2の閾値候補と、をそれぞれ取得する。図6および図7に示す例では、閾値候補取得部14は、パラメータ(A,B,C,D)=(500,1,1000,2)に対して、第1の閾値候補として60dBを、第2の閾値候補として60dBを、それぞれ取得する。以下の説明において、異なる複数の範囲(例えば第1の範囲と第2の範囲)が互いに組み合わせられた範囲を組み合わせ範囲と記載する。組み合わせ範囲とは、例えば、パラメータ(A,B)により規定される範囲と、パラメータ(C,D)により規定される範囲とが組み合わせられて生成される新たな範囲である。上記の例では、(A,B,C,D)=(100,1,100,1)から(A,B,C,D)=(10000,100,10000,100)まで、各パラメータがとりうる値は100ずつであるため、組み合わせ範囲は1億通りが存在する。
【0039】
なお、パラメータA,Bにより規定される第1の範囲、およびパラメータC,Dにより規定される第2の範囲は、本開示の閾値候補取得部によって設定される、互いに異なる複数の範囲の一例である。また、パラメータ(A,B)により規定される範囲とパラメータ(C,D)により規定される範囲との組み合わせにより生成される組み合わせ範囲は、本開示の組み合わせ範囲の一例である。
【0040】
続いて、閾値候補取得部14は、組み合わせ範囲毎に、第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分があらかじめ設定された所定差分値以下であるか否かを判定する。閾値候補取得部14は、第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分が所定差分値以下である場合、第1の閾値候補と第2の閾値候補のいずれかをその組み合わせ範囲の閾値候補として決定する。閾値候補取得部14は、第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分があらかじめ設定された所定差分値より大きい場合、第1の閾値候補と第2の閾値候補をいずれも破棄する。
【0041】
所定差分値は、要求されるABR検査の精度等に基づいてあらかじめ設定された値である。精度の高い検査が要望される場合、所定差分値は、比較的小さな値、例えば0に設定される。この場合、閾値候補取得部14は、第1の閾値候補と第2の閾値候補が同じ値でなければ、第1と第2の閾値候補をいずれも破棄する。高い精度が要求されない場合、所定差分値は、比較的大きな値、例えば20dBに設定される。この場合、閾値候補取得部14は、第1と第2の閾値候補の差分が20dB以下であれば、第1と第2の閾値候補のうちのいずれかをその組み合わせ範囲の閾値候補として決定する。一方、閾値候補取得部14は、第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分が20dBより大きい場合には、その組み合わせ範囲からは適切な閾値候補が得られないとして、その組み合わせから取得した第1の閾値候補と第2の閾値候補をいずれも破棄する。
【0042】
所定差分値が小さいほど、破棄されずに取得される閾値候補の数が少なくなる一方、後述する相関係数の値は大きくなる。つまり、過去に検査技師等が検査データを目で見て行った検査の結果と、データ処理装置1を用いて行われる検査の結果がより一致しやすくなる。ただし、取得される閾値候補の数が少なくなると、自動で閾値を決定するという目的の達成度が低下する。よって、所定差分値は、過去に検査技師等が検査データを目で見て行った検査の結果により一致するように、かつ、破棄される検査データができるだけ少なくなるように、決定されればよい。
【0043】
図6および図7に示す例では、パラメータ(A,B,C,D)=(500,1,1000,2)である場合、第1の閾値候補(60dB)と第2の閾値候補(60dB)とが同じである。このため、閾値候補取得部14は、パラメータ(A,B,C,D)=(500,1,1000,2)により規定される組み合わせ範囲の閾値候補を60dBに決定する。
【0044】
図8は、図5に示す有意差データにおいて、パラメータCを1000Hzに、パラメータDを7に設定した場合に規定される範囲を例示した図である。図8に示す例では、規定された範囲に含まれる最小の音圧は80dBであるため、(C,D)=(1000,7)により規定される範囲から取得される閾値候補は、80dBである。
【0045】
したがって、図6および図8に示す例では、パラメータ(A,B,C,D)=(500,1,1000,7)である場合、第1の閾値候補(60dB)と第2の閾値候補(80dB)とは20dB異なる。あらかじめ第1の閾値候補と第2の閾値候補との所定差分値が20dB未満、例えば10dBに設定されていた場合には、閾値候補取得部14は、パラメータ(A,B,C,D)=(500,1,1000,7)により規定される組み合わせ範囲から取得された第1の閾値候補および第2の閾値候補をいずれも破棄する。
【0046】
あらかじめ第1の閾値候補と第2の閾値候補との所定差分値が20dB以上、例えば20dBに設定されていた場合には、閾値候補取得部14は、パラメータ(A,B,C,D)=(500,1,1000,7)により規定される組み合わせ範囲から取得された第1の閾値候補と第2の閾値候補のいずれかを、その組み合わせ範囲の閾値候補とする。例えばより小さい方を閾値候補とする場合、閾値候補取得部14は、より小さい第1の閾値候補(60dB)をその組み合わせ範囲の閾値候補とする。
【0047】
閾値候補取得部14が行う上記処理において、パラメータによっては、パラメータ(A,B)または(C,D)により規定される範囲の大きさが0になってしまうことがある。例えば図5に示す例では、有意差数の最大値が20であるため、パラメータBを1にした場合には音圧として60dBから100dBまでが抽出される範囲に含まれるが、パラメータBを21以上とした場合、どの音圧も抽出される範囲に含まれなくなってしまう。このような場合は、当該パラメータに対応する閾値候補はないものとして処理を進めればよい。
【0048】
また、被検体によっては、第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分が所定差分値より大きくなる組み合わせ範囲が、他の被検体より多くなる場合がある。閾値候補取得部14は、組み合わせ範囲全体に対して、第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分が所定差分値より大きくなる組み合わせ範囲の割合を被検体毎に算出し、当該割合が所定割合より大きい被検体については、その被検体からは適切な閾値候補が得られないとして、閾値候補を全て破棄するようにしてもよい。これにより、より適切な閾値候補を取得できる可能性が高い被検体から優先的に閾値候補を取得することができる。また、所定差分値および所定割合の大きさを適宜調整することにより、より適切な閾値候補を取得することを優先するか、より多くの被検体から閾値候補を取得することを優先するかを変更することができ、データ処理装置1の柔軟な運用が可能となる。
【0049】
このようにして、閾値候補取得部14は、パラメータ(A,B,C,D)により規定される全ての組み合わせ範囲について、閾値候補を出力する。上記の例の場合、パラメータの組み合わせは1億通りである。ただし、パラメータ(A,B)と(C,D)とは互いに対称であって、破棄される閾値候補も存在するため、閾値候補取得部14が出力する閾値候補の数は、被検体1人につき5000万個より少ない数となる。
【0050】
閾値候補取得部14が上記の処理を行う検査データが多くなるほど、後述の範囲設定部15により決定されるパラメータの妥当性が向上する。
【0051】
範囲設定部15は、閾値候補取得部14から出力された、複数の被検体毎、かつ組み合わせ範囲毎の閾値候補に基づいて、全ての組み合わせ候補の中から最も妥当性が高い組み合わせ範囲(有意差データにおける範囲)を抽出し、抽出した範囲を閾値決定のために用いる設定範囲として設定する。設定範囲の詳細については後述する。妥当性が高い組み合わせ範囲の設定方法は、例えば以下のとおりである。
【0052】
具体的には、範囲設定部15は、組み合わせ範囲毎の閾値候補と、過去に検査技師等が目で見て設定した閾値データとを比較し、相関係数を算出する。相関係数の算出方法については、既知の方法を採用すればよい。過去に検査技師等が目で見て設定した閾値データは、本開示の基準閾値の一例である。
【0053】
図9は、組み合わせ範囲の1つである(A,B,C,D)=(1000,2,1000,4)における閾値候補と閾値データとをグラフにプロットした様子を示す図である。縦軸は閾値候補取得部14から出力された閾値候補の大きさを、横軸は過去に検査技師等が目で見て設定した閾値データ(基準閾値)における閾値の大きさを、それぞれ示している。図9に示す例では、1286の被検体に関するデータがプロットされている。ただし、そのうち136については第1の閾値候補と第2の閾値候補との差分が所定差分値より大きくなる組み合わせの割合が所定割合より高いため、閾値候補が破棄されている。
【0054】
図9に示される各点は、その点に対応する値の閾値候補および閾値データが存在することを示している。また、図9に示される各点の大きさは、その点に対応する値の閾値候補および閾値データの量に対応している。図9に示す例では、(A,B,C,D)=(1000,2,1000,4)における閾値候補と閾値データとは多くの被検体でほぼ同じ大きさとなっており、これらの相関係数は0.91である。
【0055】
範囲設定部15は、全ての組み合わせ範囲に対して、このように閾値候補と閾値データとの相関係数を算出する。そして、範囲設定部15は、相関係数が最も高い組み合わせ範囲を抽出し、抽出した組み合わせ範囲を設定範囲とする。
【0056】
本開示のデータ処理装置1によって設定された設定範囲は、検査機関毎に蓄積された過去の検査データおよび閾値データに基づいて、検査技師等が検査データを目で見て決定した閾値と近い閾値を自動的に導出できるように設定された範囲である。設定範囲には、パラメータA,B,C,Dそれぞれの値が1つずつ含まれる。言い換えると、本開示のデータ処理装置1によって設定された設定範囲は、検査機関毎に蓄積された検査データおよび閾値データに基づいており、その検査機関に最適化された範囲であると言える。
【0057】
以上説明したようにしてデータ処理装置1が確定させた設定範囲(パラメータ(A,B,C,D)の組み合わせ)は、以後、その検査機関や類似の検査環境において新たに行われるABR検査を自動化するために用いられる。例えばその検査環境においてABR検査を自動で行う自動検査装置は、設定範囲を用いて、例えば以下のような動作を行う。まず、自動検査装置は、被検体から取得した検査データ(様々な音圧での音刺激ありの脳波信号、および音刺激なしの脳波信号)に対して、上述したデータ処理装置1と同様に、データ解析のための前処理を行い、有意差データを生成する。自動検査装置は、有意差データから、設定範囲を抽出し、その設定範囲における最小音圧をその被検体の聴覚閾値として決定する。具体的には、自動検査装置は、設定範囲に含まれるパラメータ(A,B,C,D)に基づいて、パラメータ(A,B)により規定される範囲から第1の閾値を、パラメータ(C,D)により規定される範囲から第2の閾値を、上述したデータ処理装置1と同様の動作によって取得する。そして、自動検査装置は、第1の閾値と第2の閾値との差分が所定差分値以下であった場合、第1の閾値と第2の閾値のいずれかを当該被検体の閾値として決定する。自動検査装置が用いる所定差分値は、上述したデータ処理装置1が用いる所定差分値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。これにより、自動検査装置は、ABR検査を自動的に、かつ精度よく行うことができる。このような自動化により、多数の被検体のABR検査を行う必要が生じても、容易に対応が可能となる。
【0058】
<変形例>
上述した実施の形態にて説明した事項は一例であり、本開示はこれに限定されるものではない。本開示は、例えば、以下のような変形例にも適用が可能である。
【0059】
上述した実施の形態では、閾値候補取得部14は、有意差データの中から、パラメータ(A,B)により規定される範囲から取得される第1の閾値候補と、パラメータ(C,D)により記載される範囲から取得される第2の閾値候補と、が所定差分値以下である場合に、パラメータ(A,B,C,D)により記載される組み合わせ範囲から取得される閾値候補として、第1の閾値候補と第2の閾値候補のいずれかを決定していた。
【0060】
しかし、本開示では、例えば閾値候補取得部がパラメータ(A,B)により規定される範囲から取得される第1の閾値候補を、そのままその範囲の閾値候補としてもよい。言い換えると、本開示では、パラメータ(A,B)により規定される範囲とパラメータ(C,D)により規定される範囲とを組み合わせずに、パラメータ(A,B)により規定される範囲からのみ閾値候補を取得してもよい。この場合、範囲設定部により設定される設定範囲には、パラメータA,Bそれぞれの値が1つずつ含まれる。パラメータ(A,B)により規定される範囲からのみ取得される閾値候補を当該範囲の閾値候補とした場合、上述した実施の形態のようにパラメータ(A,B)により規定される範囲から取得される第1の閾値候補とパラメータ(C,D)により規定される第2の閾値候補のいずれかを当該組み合わせ範囲の閾値候補とする場合と比較して、ノイズ等の影響により妥当でない閾値候補が取得される可能性は若干高くなる。しかしながら、前者の場合、計算量が少なくてすむため、例えば処理能力が高くないデータ処理装置に対しても本開示を適用し、比較的短時間で自動的に閾値候補を取得することができる。
【0061】
さらに、本開示のデータ処理装置は、パラメータ(A,B)により規定される範囲と、パラメータ(C,D)により規定される範囲の2つだけではなく、2つ以上の範囲を組み合わせて組み合わせ範囲としてもよい。具体的には、本開示のデータ処理装置は、有意差データにおいて規定される3つ以上の範囲のそれぞれから閾値候補を取得し、これらの閾値候補同士の差分が所定差分値以下である場合に、これらの閾値候補のいずれかを3つ以上の範囲を組み合わせた組み合わせ範囲の閾値候補としてもよい。例えばパラメータ(A,B)、パラメータ(C,D)に加えてパラメータ(E,F)を使用する場合、組み合わせ範囲は(A,B)、(C,D)、(E,F)それぞれにより規定される範囲の組み合わせとなる。その場合、範囲設定部により設定される設定範囲には、パラメータA,B、C,D,E,Fそれぞれの値が1つずつ含まれる。これにより、計算量は増大するものの、設定される設定範囲をより妥当性の高いものとすることができる。
【0062】
上述した実施の形態では、データ処理装置1が、1つの検査機関毎に設置され、当該1つの検査機関において得られた新たなABR検査データおよび、当該検査機関毎に蓄積されている過去のABR検査データを用いて、聴覚閾値を新たに決定するためのパラメータを設定する例について説明した。しかし、本開示のデータ処理装置は、複数の検査機関から得られたABR検査データおよび過去のABR検査データを用いて、聴覚閾値を新たに決定するためのパラメータを設定するようにしてもよい。この場合、例えば類似の検査環境(例えば、同じメーカーの検査機器を使用している等)にある複数の検査機関からのABRデータを用いれば、それらの検査機関での新たなABR検査において共通して使用可能な聴覚閾値を一括で設定することも可能である。
【0063】
上述した実施の形態では、データ処理装置1は聴覚閾値を決定するためのパラメータB,Dとして、有意差数を用いていた。上述した実施の形態では、有意差数は、所定の周波数範囲毎に第1反応データと第2反応データとの間に有意差があるか否かを判定し、音圧毎に有意差がある周波数範囲の数を単に計数したものであった(図5等参照)。本開示では、例えば周波数毎に重み付けを行った上で有意差数の計数を行うようにしてもよい。具体的には、例えば500Hzにおける有意差が閾値判定に重要である場合、500Hzの有意差数に3倍の重み付けをするようにしてもよい。図5の70dBにおける有意差数を例に挙げると、図5では70dBの有意差数は6であるが、500Hzに3倍の重み付けをした場合には、有意差数は8となる。このような処理を全音圧において行うことにより、計算量は多くなるものの、500Hzにおける有意差の有無により大きな影響を受けた有意差数とすることが可能となるため、より適切な聴覚閾値を決定するためのパラメータB,Dを設定することができるようになる。
【0064】
上述した実施の形態では、データ処理装置1はABR検査の際に被検体から得られる脳波信号に基づいてデータ処理を行っているが、本開示は刺激に対する生体の反応の有無の検査であれば、どのような誘発電位検査に対しても適用が可能である。例えば、眼に対して光等の刺激を与え、網膜電図や視覚誘発電位を計測すれば、被検体が光に反応しているか否かを判定する検査にも適用が可能である。また、その他にも、本開示は、例えば鼻に対する刺激(嗅覚誘発電位)、舌に対する刺激(味覚誘発電位)、皮膚に対する刺激(体性感覚誘発電位)、あるいは、痛覚関連誘発電位、運動誘発電位、事象関連電位のデータ処理にも適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示は、生体が刺激に反応しているか否かを検査するためのデータ処理に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 データ処理装置
11 データ取得部
12 前処理部
13 有意差判定部
14 閾値候補取得部
15 範囲設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9