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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】熱対流生成用チップ及び反応方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240904BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240904BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240904BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20240904BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20240904BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
G01N37/00 101
G01N35/00 D
C12M1/34 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021534010
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027955
(87)【国際公開番号】W WO2021015145
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019136539
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 直哉
(72)【発明者】
【氏名】甲田 大介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 博
(72)【発明者】
【氏名】植森 良彰
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真人
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014966(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174429(WO,A1)
【文献】特開2017-215288(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170753(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158831(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/037255(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/043196(WO,A1)
【文献】ANAL. CHEM.,2017年,Vol. 89,pp. 12797-12804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/686
G01N 37/00
G01N 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口が形成されるとともに、供給路と熱対流用流路との組複数組形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路それぞれにより、対応する前記熱対流用流路に供給し、複数の前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、
前記回転体に、前記導入口に連通する円筒状の液体受容部が形成され、
前記液体受容部の内側面と内底面とが鋭角を成して接し、
複数の前記供給路の各々は、前記液体受容部の前記内底面上に底辺を配置して前記内側面に開口した液体流入口を有する熱対流生成用チップ。
【請求項2】
前記導入口及び前記液体受容部の中心軸が前記回転体の回転中心軸上に配置され、
前記液体受容部の内側面は、前記回転中心軸から等距離に配置され、
前記液体受容部の内側面の少なくとも下部は、低位置ほど広がるテーパー面で形成され、
前記テーパー面に前記供給路それぞれの前記液体流入口が開口している請求項に記載の熱対流生成用チップ。
【請求項3】
入口が形成されるとともに、供給路と熱対流用流路との組複数組形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路それぞれにより、対応する前記熱対流用流路に供給し、複数の前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、
前記回転体に、前記導入口に連通する円筒状の液体受容部が形成され、
複数の前記供給路の各々は、前記液体受容部内の液体を毛細管現象により吸引する吸引通路を有し、
前記吸引通路は、秤量空間を有し、
前記吸引通路は、前記回転体を回転させたときの遠心力により、前記秤量空間内の液体が他の領域内の液体から分離して、対応する前記熱対流用流路に供給されよう構成され、
前記回転体は、複数の前記供給路と複数の前記熱対流用流路とが形成された基板を有し、
前記基板は、前記秤量空間のそれぞれの前記熱対流用流路側の出口に連通する開口を有し、
前記秤量空間のそれぞれ前記口のは、対応する前記基板の前記開口の縁からそれぞれ離間して開口している熱対流生成用チップ。
【請求項4】
前記秤量空間のそれぞれの前記出口は、対応する前記基板の前記開口にそれぞれ対向する、請求項3に記載の熱対流生成用チップ。
【請求項5】
熱対流用流路、導入口及び供給路が形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路により前記熱対流用流路に供給し前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、
前記回転体に、前記導入口に連通する液体受容部が形成され、
前記供給路は、前記液体受容部内の液体を毛細管現象により吸引する吸引通路を有し、
前記吸引通路は、秤量空間を有し、
前記吸引通路は、前記回転体を回転させたときの遠心力により、前記秤量空間内の液体が他の領域内の液体から分離して前記熱対流用流路に供給されよう構成され、
前記遠心力により前記秤量空間内の液体から分離した液体が貯留される余剰液貯留部が、前記回転体に形成されている熱対流生成用チップ。
【請求項6】
前記余剰液貯留部の流路断面は、丸みがつけられた角部を有する請求項5に記載の熱対流生成用チップ。
【請求項7】
前記余剰液貯留部は、底面から上に突出し両側側面間を横断するダム部を有する請求項5又は請求項6に記載の熱対流生成用チップ。
【請求項8】
前記ダム部と前記両側側面とでつくる角部は、丸みがつけられている請求項7に記載の熱対流生成用チップ。
【請求項9】
熱対流用流路、導入口及び供給路が形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路により前記熱対流用流路に供給し前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、
前記回転体に、前記供給路とは別に、前記供給路の前記熱対流用流路との接続部に連通した封止剤用空間が形成され、
前記封止剤用空間に常温で固形の封止剤が保持され、
前記供給路により液体が供給された前記熱対流用流路を閉塞するために、前記封止剤用空間の前記封止剤を加温し、溶融させて、前記回転体を回転させたときの遠心力により、前記接続部に移送し充填可能にされている熱対流生成用チップ。
【請求項10】
請求項に記載の熱対流生成用チップを用い、
一つの前記導入口を通して前記液体受容部に、検体及び反応試薬を含有した溶液を導入し、同溶液を複数の前記熱対流用流路に分配供給し、当該各熱対流用流路で熱対流させてポリメラーゼ連鎖反応又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を行う反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱対流生成用チップ及び反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子増幅方法として、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、以下「PCR」と略す。)が知られている。PCRは、極めて微量のDNAサンプルから特定のDNA断片を短時間に大量に増幅できる方法であり、基礎研究のみならず、臨床遺伝子診断から食品衛生検査、犯罪捜査に至るまで、幅広い分野で利用されている。
PCRを促進する方法として、熱対流PCRが提案されている。特許文献1には、遠心促進型熱対流PCRを行うための円環流路を有するディスク状マイクロ流路チップが開示されている。
同文献に記載の熱対流生成用チップにあっては、溶液導入口(同文献中「受入部121」)が3つあり、ひとつは検体液、ひとつはPCR液、ひとつは蒸発抑制用液体(ミネラルオイル)が導入される。そこからマイクロ流路(同文献中「引通路122」)が伸長してV字型流路形状をしていて、下流側に溶液を貯える秤量用空間領域(同文献中「第1領域122a」)がある。検体液用領域とPCR液用領域の容量を合わせると円環流路(同文献中「熱対流用流路11」)と同容量になる。導入口(同文献中「受入部121」)から導入された各液体は、マイクロ流路内を毛細管現象によって進入して秤量用空間領域を満たす。このとき遠心することによってV字構造の谷部を起点に、秤量用領域の液体が円環流路に移送され、また余剰分は導入口側にもどることで円環流路に必要な容量の液体が供給される。また、秤量用V字型流路が複数配置され、それぞれ分岐した下流に円環流路を配置させることで、一つの検体に対して複数種の遺伝子を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/170753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし以上の従来技術にあっては、溶液導入から遠心促進型熱対流PCRを行うまでの各段階において、マイクロ流路中の液体を予定した領域に流動、安定させて制御するにはさらなる改良の余地があり、熱対流用流路への液体供給量に過不足が生じる恐れがあった。
【0005】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、熱対流用流路への液体供給量の精度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、熱対流用流路、導入口及び供給路が形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路により前記熱対流用流路に供給し前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、前記回転体に、前記導入口に連通する液体受容部が形成され、前記液体受容部の内側面と内底面とが鋭角を成して接し、前記供給路は、前記液体受容部の前記内底面上に底辺を配置して前記内側面に開口した液体流入口を有する。
【0007】
また本発明の第2態様は、熱対流用流路、導入口及び供給路が形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路により前記熱対流用流路に供給し前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、前記回転体に、前記導入口に連通する液体受容部が形成され、前記供給路は、前記液体受容部内の液体を毛細管現象により吸引する吸引通路を有し、前記吸引通路は、秤量空間を有し、前記吸引通路は、前記回転体を回転させたときの遠心力により、前記秤量空間内の液体が他の領域内の液体から分離して前記熱対流用流路に供給されよう構成され、前記秤量空間の前記熱対流用流路側の出口は、当該出口の縁を前記回転体が形成する平面の縁から離間して当該平面に開口している。
【0008】
また本発明の第3の態様は、熱対流用流路、導入口及び供給路が形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路により前記熱対流用流路に供給し前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、前記回転体に、前記導入口に連通する液体受容部が形成され、前記供給路は、前記液体受容部内の液体を毛細管現象により吸引する吸引通路を有し、前記吸引通路は、秤量空間を有し、前記吸引通路は、前記回転体を回転させたときの遠心力により、前記秤量空間内の液体が他の領域内の液体から分離して前記熱対流用流路に供給されよう構成され、前記遠心力により前記秤量空間内の液体から分離した液体が貯留される余剰液貯留部が、前記回転体に形成されている。
【0009】
また本発明の第4の態様は、熱対流用流路、導入口及び供給路が形成された回転体を備え、前記導入口に導入された液体を前記供給路により前記熱対流用流路に供給し前記熱対流用流路で熱対流させる熱対流生成用チップであって、前記回転体に、前記供給路とは別に、前記供給路の前記熱対流用流路との接続部に連通した封止剤用空間が形成され、前記封止剤用空間に常温で固形の封止剤が保持され、前記供給路により液体が供給された前記熱対流用流路を閉塞するために、前記封止剤用空間の前記封止剤を加温し、溶融させて、前記回転体を回転させたときの遠心力により、前記接続部に移送し充填可能にされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、供給路への液体の導入が確実になり、供給不足を防げるから、熱対流用流路への液体供給量の精度を向上することができる。
本発明の第2の態様によれば、供給量を秤量する秤量空間から熱対流用流路側への液体の意図しない漏出が防がれるから、熱対流用流路への液体供給量の精度を向上することができる。
本発明の第3の態様によれば、余剰液が余剰液貯留部に保持されるから、熱対流用流路への液体供給量の精度を向上することができる。
本発明の第4の態様によれば、適切なタイミングでの加温と回転により、熱対流生成用チップ内に既設の封止剤で熱対流用流路を閉塞できるから、熱対流用流路への液体供給量の精度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの上面斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの上面斜視図であって、上蓋を外した状態を示す。
図3】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの底面斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの底面斜視図であって、底蓋を外した状態を示す。
図5】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの上面図であって、上蓋を外した状態を示す。
図6】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの底面図であって、底蓋を外した状態を示す。
図7】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの中央部縦断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの部分拡大上面斜視図であって、上蓋を外した状態を示す。
図9】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの部分拡大上面斜視図であって、上蓋を外した状態を示す。図8とは異なる角度から見た斜視図である。
図10】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの部分拡大上面図であって、上蓋を外した状態を示す。
図11】本発明の一実施形態に係る熱対流生成用チップの部分拡大底面斜視図であって、底蓋を外した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態につき図1から図11を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0013】
図1等に示すように本実施形態の熱対流生成用チップ1は、ディスク状マイクロ流路チップであり、ディスク1aと上部円筒1bとを同軸Aで連接した構造の回転体1cを本体とする。
ディスク1aは、コア基板2と、上部円筒1bを挿入できるリング状の上蓋3と、底蓋4と備える。コア基板2は、上面2Aと下面2Bとを有する。コア基板2に流路等を構成する溝が形成され、その溝の上面開口が上蓋3で閉じられ、下面開口が底蓋4で閉じられることで流路と空気路が形成される。但し、上面に設けられた空気口100は、開放されている。
ディスク1aの外縁部には、回転時等に保持される切り欠き99が形成されている。
【0014】
また、熱対流生成用チップ1は、12チャンネルのPCR用のマイクロ流路チップであり、ディスク1aに、12組の熱対流用流路5と、これに溶液を供給する供給路10が中心角を12等分して分割した範囲に配設されている。熱対流用流路5は、円環状に形成された流路である。
上部円筒1bの上端開口は導入口50である。導入口50の下の空間は、導入口50に連通する液体受容部51である。液体受容部51の底面は、底蓋4の上面により構成されている。
導入口50に導入された液体を、12の供給路10により12の熱対流用流路5に分配供給し、各熱対流用流路5で熱対流させる。
【0015】
供給路10の構成を、最上流の液体受容部51から最下流の熱対流用流路5までの順番で挙げると次の通りである。
すなわち、供給路10は、上流端が液体受容部51に接続した第1通路11、次に第2通路12、さらに秤量空間13、最後に導入室14と連なった構成であり、導入室14の下流端が熱対流用流路5に接続する。
液体受容部51、第1通路11、第2通路12、秤量空間13、導入室14、熱対流用流路5の順で直列に連続している。
第1通路11、第2通路12及び秤量空間13は、液体受容部51内の液体を毛細管現象により吸引する吸引通路に相当する。したがって、液体受容部51内の液体は、毛細管現象により第1通路11、第2通路12と通って、秤量空間13に充填される。
第1通路11は、径方向外方に遷移する流路である。第2通路12は、径方向内方に遷移する流路である。秤量空間13は、径方向外方に遷移する流路である。なお、「径方向」というときは、回転体1cの回転中心軸Aを中心とした径方向を指す。
さらに、秤量空間13より径方向外方に導入室14が配置される。導入室14より径方向外方に熱対流用流路5が配置される。
【0016】
秤量空間13の上流端部の上面に空気導入口13aが開口している。秤量空間13の下流端部の上面に出口13bが開口している。
回転体1cの静止状態においては、毛細管現象により秤量空間13を満たす液体は、空気導入口13a及び出口13bに表面を張る形で止まる。
【0017】
次に、液体受容部51から熱対流用流路5までの直列系統以外の流路、空間について説明する。
第1通路11の下流端及び第2通路12の上流端は、余剰液貯留部15の上流端に接続している。
余剰液貯留部15の上流端部には、ダム部15aが形成されている。
余剰液貯留部15は、熱対流用流路5の径方向外側を迂回して、自身の径方向最外端15eを跨るように円弧状に延在している。余剰液貯留部15の下流端部は、径方向最外端15eより径方向内方で、空気路16aに接続する。空気路16a、フィルター設置室17、空気路18の順で連続する。
導入室14には、封止剤供給路19を介して封止剤用空間20が連通する。封止剤用空間20は、遠心力での封止剤の供給を可能にするため、導入室14より径方向内方に配置されている。
また、秤量空間13の空気導入口13a及び封止剤用空間20の径方向内端は、空気路16bに接続する。空気路16b、フィルター設置室17、空気路18の順で連続する。
空気路18の上蓋3で塞がれない部分が空気口100である。空気口100からの液体漏洩を防ぐため、空気口100は秤量空間13及び封止剤用空間20から径方向内方に離れた位置に設置されている。フィルター設置室17には、空気を通し、液体を通さない性質のフィルターが設置される。
【0018】
以上の構成により、回転体1cを回転させたときの遠心力により、秤量空間13内の液体が他の領域(11、12)内の液体から分離して熱対流用流路5に供給される。このとき、空気路16bからの空気導入により、秤量空間13内の液体と第2通路12内の液体との分離が促進される。
【0019】
図7に示すように液体受容部51の内側面51aと内底面51bとが鋭角を成して接している。
供給路10は、液体受容部51の内底面51b上に底辺を配置して内側面51aに開口した液体流入口11aを有する。内底面51bは、底蓋4の上面で構成されている。液体流入口11aは、第1通路11の上流端開口である。第1通路11の内底面も底蓋4の上面で構成されているから、液体受容部51の内底面51bと、第1通路11の内底面とは同じ高さレベルである。したがって、液体流入口11aの底辺は液体受容部51の内底面51b上に配置されている。
以上のように、液体流入口11aが開口する面(内側面51a)が、液体受容部51の内底面51bに対して鋭角に接して連続し、液体流入口11aの手前に、隣り合う面が鋭角をつくる狭小空間を形成することで、そこに毛細管現象を生じさせ、液体受容部51内の液体を素早く液体流入口11aに流入させることができる。
これにより供給路10への液体の導入が迅速、確実になり、供給不足を防げるから、熱対流用流路5への液体供給量の精度を向上することができる。
【0020】
本実施形態にあっては、複数組の供給路10の液体流入口11aが、一つの液体受容部51の内側面51aに同様に開口して設けられている。これにより、一つの液体受容部51から溶液を分配することが可能である。
また、導入口50及び液体受容部51の中心軸Aが回転体1cの回転中心軸A上に配置され、液体受容部51の内側面51aは、回転中心軸Aから等距離に配置されている。さらに、液体受容部51の内側面51aの少なくとも下部は、低位置ほど広がるテーパー面で形成され、当該テーパー面に液体流入口11aが開口している。これにより、液体を一つの液体受容部51から複数組の供給路10に均等かつ同時に分配することが容易である。
【0021】
図10に示すように秤量空間13の熱対流用流路5側の出口13bは、当該出口13bの縁を回転体1cが形成する平面13dの縁から離間して当該平面13dに開口している。これにより、出口13bを取り囲む周囲の面は、当該出口13bの開口面を含む平面上に配置される。そのため、出口13bまで到達した液体が、出口13bの外側の面に接触することが防がれ、出口13bから液体が漏れ出すことが防がれる。仮に出口13bから漏れ出した液体がある場合、同液体は熱対流用流路5に導入されてしまうから、秤量精度が落ちる。したがって、出口13bから液体が漏れ出すことが防がれることで、秤量精度が向上する。
秤量空間13の空気導入口13aも、同様に当該空気導入口13aの縁を回転体1cが形成する平面13cの縁から離間して当該平面13cに開口している。
したがって、空気導入口13aから液体が漏れ出すことも防がれ、秤量精度が向上する。
以上のようにして、秤量空間13を満たす容量の液体のみが熱対流用流路5に供給されるので、熱対流用流路5への液体供給量の精度を向上することができる。
なお、本実施形態においては、出口13bが開口する平面13d及び空気導入口13aが開口する平面13cは、いずれも上向きの水平面とされているが、上記の液体の漏れ出しを防ぐ効果を得るためには、出口13bや空気導入口13aの開口面の角度は、どのような角度でもよい。例えば、出口13bや空気導入口13aを垂直面や下向きの水平面に開口するようにしても同様の効果が得られる。
【0022】
余剰液貯留部15は、回転体1cの回転による遠心力により秤量空間13内の液体から分離した液体(通路11,12内の液体)が貯留される空間である。空気路16aを介した排気により、余剰液貯留部15への液体の流入が促進される。余剰液貯留部15は、熱対流用流路5と径方向同位置から外側に及んでいるので、回転体1cの回転による遠心力が、熱対流用流路5と同等以上に作用する。回転体1cの回転による遠心力が働いているとき、余剰液貯留部15の径方向最外端15eを中心に液体が保持されやすくされており、余剰液貯留部15の下流端部の空気路16bまでには液体が移動し難くされている。
【0023】
ダム部15aは、余剰液貯留部の底面から上に突出し両側側面間を横断するように形成されている。ダム部15aは、余剰液貯留部15から流出しようとする液体を堰き止める作用がある。ダム部15aは、径方向最外端15eより径方向内方に設けられる。ダム部15aを2重以上に設けてもよい。
余剰液貯留部15の流路断面は、丸みがつけられた角部15Rを有する。丸みがつけられた角部15Rは、ダム部15aにおいては、ダム部15aと両側側面とでつくる角部である。それ以外では、余剰液貯留部15の天面と両側側面とでつくる角部は丸みがつけられた角部15Rである。上蓋3又は底蓋4と、コア基板2とでつくる角部は、成形の都合上、丸みをつけることができないためである。
シャープな角部は毛細管現象を生じさせる。角部15Rに丸みがつけられていることで、毛細管現象による逆流を抑えることができる。そのため、余剰液貯留部15に一旦流入した余剰液が、再び第1通路11や第2通路12の方へ逆流することが防がれる。また、余剰液貯留部15は毛細管現象による流動が抑えられているので、回転体1cの静止状態において液体受容部51の液体が毛細管現象により第1通路11、第2通路12を通って秤量空間13に導入される際、余剰液貯留部15への当該液体の流入も抑えられる。そのため、12チャンネルあるうちの一部の余剰液貯留部15に液体が偏って多く流入することにより、12チャンネルに対し不均等に液体が分配される事態を防ぐ効果がある。
ダム部15aが設けられることにより、天面側のみならず底面側にも丸みをつけた角部15Rを設けることができるので、角部に沿って逆流しようとする液体は、丸みがつけられたいずれかの角部15Rに阻まれる。角部15Rの曲率半径は0.1mm以上が好ましい。
以上により、余剰液が余剰液貯留部15に確実に保持されるから、熱対流用流路5への液体供給量の精度を向上することができる。
【0024】
流路断面の角部(15R)の曲率半径と、当該角部を辿った流動距離との関係を調べた実験内容を以下に開示する。
樹脂板の上面に深さ0.5mm、幅2.5mm、長さ30.0mmの溝を必要本数形成し、この溝を実験用の流路とした。したがって、実験用の流路は、底面と一方の側面とでつくる角部、底面と他方の側面とでつくる角部があり、上面は開放されている。
実験用の流路として、その2つの角部の曲率半径Rを、0.0、0.05、0.1、0.2、0.3とした5種を用意した。
樹脂板を水平に保ち、各実験用の流路の長手方向の端部に色付き溶液を同量(5μリットル)注入し、観察した。すると、色付き溶液が、流路の両側角部に沿って延びるように移動した。注入から90秒後の移動距離は以下の通りとなった。
R=0.0の流路では、22.3mm
R=0.05の流路では、14.1mm
R=0.1の流路では、7.0mm
R=0.2の流路では、3.2mm
R=0.3の流路では、2.8mm
【0025】
また、ダム部15a及びその前部15b、後部15cは、後部15cよりさらに流入方向下流の貯留部15dに対して流路幅が拡幅している。これにより、角部を辿った逆流経路は長くなるから、さらに余剰液貯留部15内の液体が逆流して第1通路11や第2通路12の方へ流出することは難しくなる。
なお、前部15b及び後部15cの流路断面には、コア基板2を上下に貫通するので、丸みをつけた角部15Rは設けられていない。しかし、前部15b及び後部15c内の縦方向の角部15Uは丸みがつけられている。角部15Uの曲率半径の軸が回転体1cの回転中心軸Aに平行である。丸みがつけられた角部15Rに加え、丸みがつけられた角部15Uがあることによって、さらに余剰液貯留部15における毛細管現象による流動が抑えられており、意図しない流入や逆流が防がれる。
ダム部15a及び貯留部15dには丸みをつけた角部15Rが設けられている。
【0026】
上述したように、回転体1cに、供給路10とは別に、供給路10の熱対流用流路5との接続部、すなわち、導入室14に連通した封止剤用空間20が形成されている。
封止剤用空間20に常温で固形の封止剤としてパラフィン等が予め装填され、その後に上蓋3及び底蓋4がコア基板2に付けられる。
上述したように、毛細管現象による秤量空間13への液体導入と、その後の回転体1cの回転により、熱対流用流路5に液体受容部51からの液体が導入された後、次のようにして熱対流用流路5を閉塞する。
すなわち、封止剤用空間20の封止剤を加温し、溶融させて、回転体1cを回転させたときの遠心力により、接続部(導入室14)に移送し充填する。このとき、空気路16bからの空気導入により、封止剤用空間20からの封止剤の流出が促進される。
これにより、導入室14が封止剤で満たされ、熱対流用流路5が閉塞される。したがって、導入室14は、秤量空間13より下流で熱対流用流路5に隣接し、封止剤の充填により熱対流用流路5の入口を閉じるための空間でもある。熱対流用流路5が閉塞されるため、熱対流用流路5内の液体の蒸発等による漏出が防がれる。
以上のように、適切なタイミングでの加温と回転により、熱対流生成用チップ1内に既設の封止剤で熱対流用流路5を閉塞できるから、熱対流用流路5への液体供給量の精度を維持することができる。
【0027】
改めて、液体導入から熱対流反応までの手順を説明すると次の通りである。
予め、各熱対流用流路5には、プライマーDNAやプローブDNAが乾燥した状態で配置されている。これにより多種のDNA(菌種)に対応する。
まず、所定の反応試薬溶液を収容した検体容器に、採取した生体物質である検体を混入して、検体及び反応試薬を含有した溶液とする。同検体容器としては、下端開口がアルミ箔等でラミネートされているものを用いる。
液体受容部51の中央には、上に尖った開封用突起52が設けられている。
同検体容器を導入口50から液体受容部51に挿入し、開封用突起52によりラミネートを破って同検体容器を開封して、同検体容器内の検体及び反応試薬を含有した溶液を、液体受容部51に導入する。
【0028】
すると、上述したように秤量空間13までは溶液の自重と毛細管現象により同溶液が導入される。
秤量空間13が同溶液で満たされた後、回転体1cを回転させて、秤量空間13内の溶液のみ熱対流用流路5に供給する。
各組の供給路10及び熱対流用流路5で同様の流動が起こるので、溶液を複数組の熱対流用流路5に分配供給したことになる。
次に、上述した封止剤による熱対流用流路5の閉塞を行った後、当該各熱対流用流路5で溶液を各所定条件で熱対流させてポリメラーゼ連鎖反応又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を行う。
【0029】
以上説明したように本実施形態の熱対流生成用チップによれば、熱対流用流路5への液体供給量の精度を向上することができる。
さらに、導入口50への検体容器の装填から熱対流反応までの作業を自動化することが容易であり、複数の熱対流用流路5での反応を同時に実施できるから、作業性を向上することができる。なお、導入口50への検体容器の装填は人手作業で実施してもよいが、機械に行わせることで、より安定した作業動作の制御と、より広範囲の自動化を実現することができる。特に、熱対流生成用チップ1には固形の封止剤が既設であり、検体容器の装填部が一か所(導入口50)であり、導入口50へ検体容器を装填した後は、回転体1cの回転と各部の温度の制御で実施可能であるので、作業性が向上し、自動化した場合による機械の作業負担も少なく自動化が容易である。
以上の実施形態の熱対流生成用チップでは、チャンネル数(熱対流用流路の数)を12チャンネルとしたが、チャンネル数に制限はなく、12チャンネルより多くする、12チャンネルより少なくするなど任意にチャンネル数を選択して実施し得る。これにより、必要チャンネル数に幅広く対応することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、熱対流生成用チップ及び反応方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 熱対流生成用チップ
1a ディスク
1b 上部円筒
1c 回転体
2 コア基板
2A コア基板の上面
2B コア基板の下面
3 上蓋
4 底蓋
5 熱対流用流路
10 供給路
11 第1通路
11a 液体流入口
12 第2通路
13 秤量空間
13a 空気導入口
13b 出口
13c 平面
13d 平面
14 導入室
15 余剰液貯留部
15R 角部
15a ダム部
15b ダム部の前部
15c ダム部の後部
15d 貯留部
15e 余剰液貯留部の径方向最外端
16a 空気路
16b 空気路
17 フィルター設置室
18 空気路
19 封止剤供給路
20 封止剤用空間
50 導入口
51 液体受容部
51a 内側面
51b 内底面
52 開封用突起
99 切り欠き
100 空気口
A 回転中心軸
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