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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240904BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20240904BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240904BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/105
C08K5/098
C08K5/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021042035
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142054
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】田島 康宏
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 謙介
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-301785(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049776(WO,A1)
【文献】特開平10-273345(JP,A)
【文献】特開2002-138107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂(A)、カリウム化合物(B)及び多量体アルデヒド化合物(C)を含み、カリウム化合物(B)の含有量がカリウム換算で0.01μg/g以上100μg/g以下であり、多量体アルデヒド化合物(C)の含有量が0.5μg/g以上100μg/g以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
カリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量が、多量体アルデヒド化合物(C)100質量部に対して0.05質量部以上300質量部以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
カリウム化合物(B)が、カルボン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウム、ハロゲン化カリウム及びリン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
多量体アルデヒド化合物(C)がパラアルデヒドである、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度が30モル%以上100モル%以下、粘度平均重合度が150以上5,000以下である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール樹脂、カリウム化合物及び多量体アルデヒド化合物を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニルを重合、けん化することで得られるポリビニルアルコール樹脂(以下、ポリビニルアルコール樹脂をPVAと略記することがある)は、数少ない結晶性の水溶性高分子である。PVAは、優れた界面特性及び強度特性を有することから、紙加工、繊維加工及びエマルジョン用の安定剤に利用されているほか、PVA系フィルム及びPVA系繊維等の原料としても使用されている。
【0003】
PVAは、不純物として酢酸を含む場合があり、これが臭気の原因となることがある。このような臭気を抑える手段として、PVAに一定量の多量体アルデヒド化合物を含有させる方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2019/049776号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載されたPVAを含む樹脂組成物は、着色が問題となる場合がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、PVA及び多量体アルデヒド化合物を含みながらも、着色が抑制された樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、
[1]ポリビニルアルコール樹脂(A)、カリウム化合物(B)及び多量体アルデヒド化合物(C)を含み、カリウム化合物(B)の含有量がカリウム換算で0.01μg/g以上100μg/g以下であり、多量体アルデヒド化合物(C)の含有量が0.5μg/g以上100μg/g以下である、樹脂組成物;
[2]カリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量が、多量体アルデヒド化合物(C)100質量部に対して0.05質量部以上300質量部以下である、[1]の樹脂組成物;
[3]カリウム化合物(B)が、カルボン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、水酸化カリウム、ハロゲン化カリウム及びリン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]の樹脂組成物;
[4]多量体アルデヒド化合物(C)がパラアルデヒドである、[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物;
[5]ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度が30モル%以上100モル%以下、粘度平均重合度が150以上5,000以下である、[1]~[4]のいずれかの樹脂組成物
のいずれかを提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、PVA及び多量体アルデヒド化合物を含みながらも、着色が抑制された樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量など)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0010】
本開示の樹脂組成物は、ポリビニルアルコール樹脂(A)(以下、PVA(A)と略記することがある)、カリウム化合物(B)及び多量体アルデヒド化合物(C)を含む。
【0011】
[ポリビニルアルコール樹脂(A)]
PVA樹脂(A)は、ビニルエステル単量体を重合させて得られるビニルエステル重合体のけん化物である。
【0012】
PVA(A)のけん化度は特に制限はないが、30モル%以上100モル%以下であることが好ましい。PVA(A)のけん化度の下限は、40モル%が好ましく、50モル%がより好ましく、60モル%がさらに好ましく、70モル%が好ましい場合もある。一方、PVA(A)のけん化度の上限は、99.9モル%又は99.5モル%が好ましい場合もある。PVA(A)のけん化度は、JIS K6726:1994に準じて測定した値である。
【0013】
PVA(A)の粘度平均重合度は特に制限はないが、150以上5,000以下であることが好ましい。PVA(A)の粘度平均重合度の下限は、好ましくは300である。一方、PVA(A)の粘度平均重合度の上限は、4,000が好ましく、3,000又は2,500が好ましい場合もある。PVA(A)の粘度平均重合度が150以上5,000以下であると、PVA(A)の製造が容易となる。PVA(A)の粘度平均重合度は、JIS K6726:1994に準じて測定した値である。すなわち、PVA(A)の粘度平均重合度は、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dL/g)から次式により求めることができる。
粘度平均重合度=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0014】
PVA(A)は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、ビニルエステル単量体と共重合可能な他の不飽和単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、例えばエチレン等のα-オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのモノ又はジアルキルエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物等が挙げられる。このうち、1種または2種以上を含んでいてもよい。PVA(A)における上記他の不飽和単量体に由来する構造単位の含有量は、20モル%未満が好ましく、15モル%以下又は10モル%以下が好ましい場合もある。一方、PVA(A)における上記他の不飽和単量体に由来する構造単位の含有量は、0.1モル%以上又は1モル%以上であってもよい。
【0015】
PVA(A)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いて、ビニルエステル単量体を重合させて得られるビニルエステル重合体をけん化することにより製造することができる。
【0016】
ビニルエステル単量体としては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも、工業的観点から酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
ビニルエステル単量体の重合方法としては、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等が挙げられ、工業的観点から、溶液重合法、乳化重合法又は分散重合法が好ましい。ビニルエステル単量体の重合は、回分法、半回分法及び連続法のいずれの重合方式であってもよい。
【0018】
ビニルエステル単量体の重合に際しては、PVA樹脂(A)の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させてもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、中でもアルデヒド又はケトンが好ましい。連鎖移動剤の添加量は、この連鎖移動剤の連鎖移動定数、達成すべきPVAの重合度等に応じて決定すればよい。
【0019】
ビニルエステル重合体のけん化反応としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又はp-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解ないし加水分解反応を適用できる。カリウム化合物(B)(例えば、水酸化カリウム)を含有する塩基性触媒を用いることにより、カリウム化合物(B)を含むPVAを製造し、該PVAを用いることで本開示の樹脂組成物を得ることもできる。このとき、塩基性触媒として、水酸化カリウム及び他の塩基性触媒を併用することが好ましい。他の塩基性触媒としては、水酸化ナトリウムが好ましい。塩基性触媒における水酸化カリウムの含有量は、1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.2重量%以下がさらに好ましい場合もある。塩基性触媒における水酸化カリウムの含有量は、0.01重量%以上が好ましい場合もある。
【0020】
けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素などが挙げられ、これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。中でも、メタノール又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0021】
けん化反応後、得られた重合体の洗浄を行ってもよい。洗浄に用いる洗浄液は、上記けん化反応に用いられる溶媒と同じものを使用できる。中でも、メタノールが好ましい。上述のように、塩基触媒にカリウム化合物(B)を含有させることによりカリウム化合物(B)を含むPVAを製造し、該PVAを用いることで本開示の樹脂組成物を得る場合には、洗浄工程を行わないか、常法よりも洗浄回数及び/又は洗浄液の使用量を減らす手段を取ることもできる。また、洗浄液として酢酸カリウム等のカリウム化合物(B)を溶解させた溶媒を用いることにより、カリウム化合物(B)を含むPVAを製造し、該PVAを用いることにより本開示の樹脂組成物を得ることもできる。カリウム化合物(B)の使用量は、洗浄するPVAの重量に対して、0.1~10重量%程度が好ましい。
【0022】
[カリウム化合物(B)]
本開示の樹脂組成物は、カリウム化合物(B)をカリウム換算で0.01μg/g以上100μg/g以下含む。すなわち、本開示の樹脂組成物は、樹脂組成物1gあたり、カリウム換算で0.01μg以上100μg以下のカリウム化合物(B)を含む。カリウム化合物(B)の含有量がカリウム換算で0.01μg/g未満であると、樹脂組成物の着色を十分に抑制することができない。一方、カリウム化合物(B)の含有量がカリウム換算で100μg/g超であると、樹脂組成物が着色する場合があり、また、樹脂組成物がゲル化し、加工安定性が悪化するおそれもある。カリウム化合物(B)の含有量の下限は、カリウム換算で0.05μg/gが好ましく、0.1μg/gがより好ましく、0.2μg/gがさらに好ましく、0.3μg/gが特に好ましい。一方、カリウム化合物(B)の含有量の上限は、カリウム換算で70μg/gが好ましく、50μg/gがより好ましく、30μg/gがさらに好ましく、20μg/gが特に好ましく、10μg/g、8μg/g又は5μg/gが好ましい場合もある。
【0023】
本開示の樹脂組成物におけるカリウム化合物(B)の含有量を上記範囲内とする方法は特に制限はないが、例えば(1)PVAの製造におけるけん化工程で、カリウム化合物(B)を含有する塩基性触媒を用い、該カリウム化合物(B)がPVA中に残存するようにPVAの洗浄方法を調整する方法、(2)PVAの製造における洗浄工程で、カリウム化合物(B)を含有する洗浄液を用いる方法、(3)PVAに適量のカリウム化合物(B)を添加して溶融混練する方法等が挙げられる。これらの方法を単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0024】
本開示の樹脂組成物におけるカリウム化合物(B)の含有量の測定方法は、常法の化学分析が適用できる。一例として、樹脂組成物を空気中で強熱し、残分(灰分)を回収してICP発光分析にてカリウムの吸収波長の強度を測定し、標準試料で検量して含有量を測定できる。具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
カリウム化合物(B)としては、例えば、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム等のカルボン酸カリウム;炭酸カリウム;炭酸水素カリウム;硫酸カリウム;硝酸カリウム;水酸化カリウム;塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化カリウム;リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等のリン酸カリウムが挙げられる。中でも、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、カルボン酸カリウム又は水酸化カリウムが好ましく、カルボン酸カリウム又は水酸化カリウムがより好ましく、酢酸カリウム又は水酸化カリウムがさらに好ましい。カリウム化合物(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
特定量のカリウム化合物(B)を含むことで、本開示の樹脂組成物の着色が抑制される理由は定かでないが、カリウム化合物(B)の添加により樹脂組成物のアルカリ度(pKa)が変化することで、多量体アルデヒド化合物(C)の分解による、より低分子量の不飽和アルデヒド類の生成を抑制できることが一因であると推測される。
【0027】
[多量体アルデヒド化合物(C)]
本開示の樹脂組成物は、多量体アルデヒド化合物(C)を0.5μg/g以上100μg/g以下含む。すなわち、本開示の樹脂組成物は、樹脂組成物1gあたり、0.5μg以上100μg以下の多量体アルデヒド化合物(C)を含む。多量体アルデヒド化合物(C)の含有量の下限は、0.7μg/g又は1μg/gであってもよい。一方、多量体アルデヒド化合物(C)の含有量の上限は、20μg/g又は10μg/gであってもよい。
【0028】
本開示の樹脂組成物における多量体アルデヒド化合物(C)の含有量を上記範囲内とする方法は特に制限はないが、例えば(1)PVAに適量の多量体アルデヒド化合物(C)を添加し、溶融混練する方法、(2)PVAを含む溶媒に適量の多量体アルデヒド化合物(C)を添加し、溶媒を除去する方法、(3)PVAの固体(粉末等)及び適量の多量体アルデヒド化合物(C)の固体(粉末等)を混合する方法、(4)PVAの製造における洗浄工程で、多量体アルデヒド化合物(C)を含有する洗浄液を用いる方法等が挙げられる。これらの方法を単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0029】
本開示において、多量体アルデヒド化合物とは、2つ以上のアセトアルデヒドを重合させた構造を有する環状の複合体を意味する。多量体アルデヒド化合物(C)としては、例えば、パラアルデヒド、メタアルデヒド等が挙げられ、中でもパラアルデヒドが好ましい。多量体アルデヒド化合物(C)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本開示の樹脂組成物におけるカリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量は、多量体アルデヒド化合物(C)100質量部に対して0.05質量部以上300質量部以下であることが好ましい。カリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量の下限は、多量体アルデヒド化合物(C)100質量部に対して0.1質量部がより好ましく、1質量部がさらに好ましく、3質量部、4質量部、5質量部、6質量部又は7質量部が特に好ましい場合もある。一方で、カリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量の上限は、多量体アルデヒド化合物(C)100質量部に対して200質量部がより好ましく、150質量部がさらに好ましく、100質量部、80質量部、60質量部、50質量部又は40質量部が特に好ましい場合もある。カリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量が上記範囲内であることにより、樹脂組成物の着色を十分に抑制しやすくなる。
【0031】
本開示における多量体アルデヒド化合物(C)の含有量は、凍結粉砕したサンプルを用いてヘッドスペース付きGC/MC(ガスクロマトグラフ質量分析計)で測定した値である。具体的には、実施例に記載の方法により求めた値である。GC/MSで検出された該当するピークの面積値から絶対検量線法で求めることができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0033】
[カリウム化合物(B)の含有量(カリウム換算)の測定]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、ICP-OES(Inductive Coupling Plasma Optical Emission Spectrometer)発光分析計(PerkinElmer社製、Avio 500)を用いて、ICP発光分光分析法により、カリウムの定量を行った。得られた結果より、樹脂組成物におけるカリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量を算出した。
【0034】
[多量体アルデヒド化合物(C)の含有量の測定]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を凍結させた後、粉砕した。得られた試料0.1gについて、ヘッドスペースサンプラー(アジレント・テクノロジー社製、Agilent G1888 Network Headspace Sampler)を備えるGC/MS(アジレント・テクノロジー社製、6890N GC System、5975C MSD)を用いて下記の条件で測定を行い、多量体アルデヒド化合物(C)の定量を行った。得られた結果より、樹脂組成物における多量体アルデヒド化合物(C)の含有量を算出した。
<ヘッドスペースサンプラー条件>
オーブン温度:120℃
ループ温度:200℃
トランスファーライン温度:200℃
キャリアガス:ヘリウム
ヘッドスペースバイアル圧力:104kPa
Shake:LOW
定量方法:MHE(Multiple Headspace Extraction)法([120℃×20分]×5回)
<GC/MS条件>
カラム:アジレント・テクノロジー社製、DB-WAX UI(0.25mmφ×30m、膜厚0.5μm)
オーブン温度:40度で5分間保持、10℃/分で220℃まで昇温、220℃で12分間保持
注入口温度:200℃
スプリット比:20/1(20:1)
キャリアガス:ヘリウム
検出器:MSD(質量選択検出器)
検出方法:SCANモード(質量範囲:m/z=20~350)、SIMモード(質量設定:m/z=131(パラアルデヒド))
【0035】
[実施例1]
酢酸ビニルを原料として、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。これをメタノール溶液として、水酸化ナトリウムを触媒として用いてけん化反応を行った。得られた樹脂100gに対し、酢酸カリウム1gおよびパラアルデヒド1mgを溶解させたメタノール溶液100mLで洗浄し、乾燥して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物に含まれるPVAの平均重合度は1,700であり、けん化度は98モル%であった。得られた樹脂組成物中のカリウム化合物(B)の含有量(カリウム換算)及びパラアルデヒドの含有量を上述の方法で求めたところ、カリウム化合物(B)の含有量(カリウム換算)は1μg/g、パラアルデヒドの含有量は3μg/gであった。
【0036】
[実施例2-5]
PVAの平均重合度及びけん化度、カリウム化合物(B)のカリウム換算での含有量(洗浄液における酢酸カリウムの濃度を変更することにより調整)並びにパラアルデヒドの含有量(添加するパラアルデヒドの量を変更することにより調整)を表1のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0037】
[実施例6]
酢酸ビニルを原料として、常法に従いポリ酢酸ビニルを合成した。該ポリ酢酸ビニルの40質量%メタノール溶液を調製し、アルカリ混合触媒(水酸化ナトリウム/水酸化カリウム=99.9/0.1)を添加してけん化反応を行った。アルカリ混合触媒量は、ポリ酢酸ビニル量に対して0.1モル量となるようにしてけん化反応を行った。得られた樹脂を、パラアルデヒド1mgを添加したメタノール100mLで洗浄し、乾燥してPVA樹脂組成物を得た。このPVAの平均重合度は1,700であり、けん化度は98モル%であった。得られた樹脂組成物中のカリウム化合物(B)の含有量(カリウム換算)及びパラアルデヒドの含有量を上述の方法で求めたところ、カリウム化合物(B)の含有量(カリウム換算)は0.5μg/g、パラアルデヒドの含有量は5μg/gであった。
【0038】
[比較例1]
けん化後の洗浄液に酢酸カリウムを添加しない以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0039】
[比較例2]
けん化後の洗浄液に酢酸カリウムを過剰(酢酸カリウム30g/100mL)に加えた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。該樹脂組成物はは乾燥後にややゲル化していた。
【0040】
[色相評価方法]
得られた樹脂組成物の30/42メッシュ(355~500μm)の粒度範囲を分取して、目視で観察した。
A:白色
B:薄いクリーム色
【0041】
[加工性評価]
A:樹脂組成物は通常どおり製造できた。
B:樹脂組成物が乾燥後にややゲル化した。
【0042】
【表1】