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特許7549574自転車タイヤ用補強部材および自転車タイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】自転車タイヤ用補強部材および自転車タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20240904BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20240904BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240904BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240904BHJP
   D03D 19/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B60C9/18 B
B60C9/00 B
D03D1/00 A
D03D15/283
D03D19/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021519339
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017479
(87)【国際公開番号】W WO2020230573
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019090836
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】竹本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】頼光 周平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潮
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓志
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0068614(US,A1)
【文献】中国実用新案第201136412(CN,Y)
【文献】特開平03-241061(JP,A)
【文献】特開平10-016523(JP,A)
【文献】特開2006-265745(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0237749(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル繊維糸で構成された織物を含む自転車タイヤ用の補強部材であって、前記繊維糸は本以上の単繊維で構成され、前記単繊維の平均繊維径が25μm以上であり、前記繊維糸中の単繊維本数(本)と前記平均繊維径(μm)の積が1700以下であり、前記織物の上下に配設された未加硫ゴムシートが織物と共に加熱加圧により加硫されて一体化した厚さ2mmの供試体の貫通試験による最大荷重が850N以上である、補強部材。
【請求項2】
請求項1に記載の補強部材であって、前記織物が平織物またはスダレ織物である、補強部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の補強部材であって、前記液晶ポリエステル繊維糸で構成された偏平な経糸および/または緯糸を備える、補強部材。
【請求項4】
請求項に記載の補強部材であって、前記経糸および/または緯糸の糸幅が0.1~3.0mmである、補強部材。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の補強部材であって、前記液晶ポリエステル繊維糸が互いに交差する織物である、補強部材。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の補強部材であって、前記液晶ポリエステル繊維糸の撚り数が、1~30回/10cmである、補強部材。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の補強部材であって、前記単繊維の本数が29本以下である、補強部材。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の補強部材であって、前記単繊維の平均繊維径が40μm以上である、補強部材。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の補強部材であって、さらに、単繊維の平均繊維径が45μm以下である、複数の単繊維で構成されたポリビニルアルコール系繊維糸の織物を備える、補強部材。
【請求項10】
自転車タイヤとの接地面に配設されたトレッド部と、トレッドの内側に配設されたカーカス部とを少なくとも備える自転車タイヤであって、前記トレッド部と前記カーカス部の間、前記カーカス部内部、および前記トレッド部内部から選択された少なくとも一箇所において、請求項1からのいずれか一項に記載の補強部材が配設されている、自転車タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2019年5月13日に出願した特願2019-090836の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、自転車タイヤの耐破壊性を向上させる補強部材、および耐破壊性に優れる自転車タイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
自転車タイヤは、タイヤの骨格を形成するカーカス部を内部に備え、地面とタイヤとの接地面側にトレッド部を備えている。また、地面に存在する石やガラス、金属片などからタイヤを保護するために、自転車タイヤには補強部材が設けられる。一方、補強部材が存在すると自転車タイヤに求められる軽量性が実現できないという課題があるため、例えば、特許文献1(欧州特許第1682362号明細書)には、熱可塑性液晶ポリエステルフィラメントを30本超で含むマルチフィラメントで構成された補強部材と、トレッド部と、カーカス部とを含む自転車タイヤが開示されている。
【0004】
この文献には、熱可塑性液晶ポリエステルフィラメントを30本超で含むマルチフィラメントで補強部材を構成することにより、タイヤの軽量化とともに、耐切創性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第1682362号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、刃物状スタイラス(Stichel)をタイヤに押し当てることによる耐切創性を確認しているにすぎない。一方、タイヤのパンクには、数々の原因が存在している。例えば、自転車は路面の凹凸や段差に乗り上げると、自転車タイヤには、リム打ちパンクと言われるパンクが発生したり、タイヤ自体が破壊することがあるが、このようなパンク・破壊は、自転車タイヤが十分な耐破壊性を有しないために発生する。そのため石や突起物などの凹凸が存在する悪路を走行した場合でも故障が発生しにくいタイヤ、即ち、耐破壊性が高いタイヤが求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、自転車タイヤの耐破壊性を向上させる補強部材、および耐破壊性に優れる自転車タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、自転車タイヤの補強部材として、液晶ポリエステル繊維糸を含む織物を用い、前記液晶ポリエステル繊維糸を構成する単繊維の平均繊維径を特定の値にするだけでなく、この繊維径と繊維糸中の単繊維本数とが特定の関係を有する場合、液晶ポリエステル繊維糸で構成された織物は、予想外に自転車タイヤの耐破壊性を向上できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
液晶ポリエステル繊維糸で構成された織物を含む自転車タイヤ用の補強部材であって、前記繊維糸は3本以上(好ましくは5本以上、より好ましくは7本以上、例えば、60本以下、好ましくは40本以下、より好ましくは29本以下)の単繊維で構成され、前記単繊維の平均繊維径が25μm以上(好ましくは28μm以上、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは40μm以上、特に好ましくは42μm以上、例えば、500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下)であり、前記繊維糸中の単繊維本数(本)と前記平均繊維径(μm)の積が1700以下(好ましくは250~1700程度、より好ましくは300~1500程度)である、補強部材。
〔態様2〕
態様1に記載の補強部材であって、前記織物の上下に加熱圧着して加硫された加硫ゴムが存在する厚さ2mmの供試体の貫通試験による最大荷重が850N以上(好ましくは870N以上、さらに好ましくは900N以上、例えば、3000N以下)である補強部材。
〔態様3〕
態様1または2に記載の補強部材であって、前記織物が平織物またはスダレ織物である、補強部材。
〔態様4〕
態様1から3のいずれか一態様に記載の補強部材であって、前記液晶ポリエステル繊維糸で構成された偏平な経糸および/または緯糸を備える、補強部材。
〔態様5〕
態様4に記載の補強部材であって、前記経糸および/または緯糸の糸幅が0.1~3.0mm(好ましくは、0.15~2.0mm)である、補強部材。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか一態様に記載の補強部材であって、前記液晶ポリエステル繊維糸が互いに交差する織物である、補強部材。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか一態様に記載の補強部材であって、前記液晶ポリエステル繊維糸の撚り数が、1~30回/10cm(好ましくは2~20回/10cm、より好ましくは3~18回/10cm)である、補強部材。
〔態様8〕
態様1から7のいずれか一態様に記載の補強部材であって、前記単繊維の本数が29本以下である、補強部材。
〔態様9〕
態様1から8のいずれか一態様に記載の補強部材であって、前記単繊維の平均繊維径が40μm以上である、補強部材。
〔態様10〕
態様1から9のいずれか一態様に記載の補強部材であって、さらに、単繊維の平均繊維径が45μm以下である、複数の単繊維で構成されたポリビニルアルコール系繊維糸の織物を備える、補強部材。
〔態様11〕
自転車タイヤとの接地面に配設されたトレッド部と、トレッドの内側に配設されたカーカス部とを少なくとも備える自転車タイヤであって、前記トレッド部と前記カーカス部の間、前記カーカス部内部、および前記トレッド部内部から選択された少なくとも一箇所において、態様1から10のいずれか一態様に記載の補強部材が配設されている、自転車タイヤ。
【0010】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の補強部材によれば、特定の単繊維平均繊維径を有するとともに、前記平均繊維径が単繊維本数と特定の関係を有する液晶ポリエステル繊維糸を用いて織物を形成することにより、自転車タイヤの耐破壊性を向上させることができ、その結果、自転車タイヤの耐破壊性不足により発生するパンク、特にリム打ちパンクを良好に予防できる。特に、本発明の補強部材は、液晶ポリエステル繊維糸の単繊維繊維径が大きい場合、自転車タイヤの耐破壊性をより向上させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】本発明の一実施形態の自転車タイヤを示す概略断面図である。
図2】本発明の別の実施形態の自転車タイヤを示す概略断面図である。
図3】本発明の別の実施形態の自転車タイヤを示す概略断面図である。
図4】補強部材の貫通試験を説明するための定速貫通試験機の一部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[補強部材]
本発明の補強部材は、液晶ポリエステル繊維糸の織物で少なくとも構成された自転車タイヤ用の補強部材であって、前記繊維糸は3本以上の単繊維で構成される。なお、補強部材は、一層または複数層の織物で構成されていてもよい。複数層の織物の場合、液晶ポリエステル繊維糸の織物のみで構成してもよいし、液晶ポリエステル繊維糸の織物と、液晶ポリエステル繊維糸以外の織物とを組み合わせて構成してもよい。
【0014】
(液晶ポリエステル繊維糸)
液晶ポリエステル繊維糸は、単繊維3本以上の液晶ポリエステル繊維で構成される。液晶ポリエステル繊維は、光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなる繊維であればよいが、例えば、熱可塑性である全芳香族ポリエステル繊維(ポリアリレート繊維)が好ましい。
【0015】
液晶ポリエステル繊維(例えば、全芳香族ポリエステル繊維)は、液晶ポリエステル(例えば、全芳香族ポリエステル)を溶融紡糸することにより得ることができる。全芳香族ポリエステルとしては、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、全芳香族ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0016】
【表1】
【0017】
表1の構成単位において、mは0~2の整数であり、式中のYは、1~置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などが挙げられる。
【0018】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示しうる構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
【表4】
【0022】
表2、表3および表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、YおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などであってもよい。これらのうち、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が好ましい。
【0023】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0024】
【化1】
【0025】
全芳香族ポリエステルは、好ましくは、ナフタレン骨格を構成単位として有する組み合わせであってもよい。なお、ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)と、ヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含むことが、特に好ましい。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融成形性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である全芳香族ポリエステルが好ましい。
【0029】
本発明で好適に用いられる全芳香族ポリエステルの融点は250~360℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは260~320℃である。なお、ここでいう融点とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走熱量計(DSC)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを10~20mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100mL/分流し、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで50℃/分で昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、80℃/分の降温速度で50℃まで降温し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0030】
なお、上記液晶ポリエステル(特に全芳香族ポリエステル)には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0031】
本発明における液晶ポリエステル繊維は、加熱により繊維表面の一部を融解することができる性質を有する限り、その繊維化の方法は限定されないが、通常、溶融紡糸により得られる繊維を用いることができる。溶融紡糸は公知または慣用の方法により行うことができ、例えば、押出機において液晶ポリエステル繊維を得るための繊維形成樹脂を溶融させた後、所定の紡糸温度でノズルから吐出して得ることができる。
【0032】
液晶ポリエステル繊維糸は、3本以上の単繊維で構成され、前記単繊維の平均繊維径が25μm以上である。ただし、液晶ポリエステル繊維糸が補強部材で耐破壊性を発揮するために、液晶ポリエステル繊維糸を構成する単繊維の平均繊維径と単繊維本数とは所定の関係にあり、繊維糸中の単繊維本数(本)と前記平均繊維径(μm)の積が1700以下である。これは、補強部材として耐破壊性を発揮する上で、平均繊維径と単繊維本数との間には反比例の関係が成立することを示している。
【0033】
すなわち、本発明では、単繊維の平均繊維径が25μm以上であると、これらの単繊維で構成される繊維糸により支えることができる荷重は増加させることが可能であるが、一方、自転車タイヤ用の補強部材である関係から、繊維糸を構成する上で平均繊維径の大きさや、繊維糸を構成する単繊維の本数には上限が存在する。しかしながら、平均繊維径の大きさと繊維糸を構成する単繊維本数とを所定の範囲により調整すると、繊維糸として良好に織物を形成しつつも、補強部材としての耐破壊性を向上させることが可能である。
【0034】
液晶ポリエステル繊維糸を構成する液晶ポリエステル単繊維の平均繊維径は、好ましくは28μm以上であってもよく、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは40μm以上、特に好ましくは42μm以上であってもよい。また、液晶ポリエステル単繊維の平均繊維径の上限は、液晶ポリエステル単繊維の単繊維本数との関係で適宜設定することが可能であるが、例えば、500μm以下であってもよく、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下程度であってもよい。平均繊維径は、後述する実施例に記載された方法により測定された値である。なお、液晶ポリエステル単繊維が異形断面である場合、その単繊維の繊維径は、断面形状の外接円径により測定される値であってもよい。
【0035】
液晶ポリエステル繊維糸を構成する液晶ポリエステル単繊維の本数は、液晶ポリエステル単繊維の平均繊維径に応じて適宜設定することが可能であるが、好ましくは5本以上であってもよく、より好ましくは7本以上であってもよい。また、前記単繊維本数の上限は、液晶ポリエステル単繊維の平均繊維径との関係で適宜設定することが可能であるが、例えば、60本以下、好ましくは40本以下、より好ましくは29本以下であってもよい。
【0036】
また、繊維糸中の単繊維本数(本)と前記平均繊維径(μm)の積は、平均繊維径と単繊維本数の値に応じて適宜設定することが可能であるが、好ましくは250~1700程度、より好ましくは300~1500程度であってもよい。
【0037】
繊維糸は、織糸として使用できる限り特に制限されず、フィラメント糸、紡績糸、複合糸などのいずれであってもよいが、フィラメント糸であるのが好ましい。
【0038】
繊維糸は、無撚糸であっても、撚糸であってもよい。撚糸の場合、撚り数は、例えば1~30回/10cm、好ましくは2~20回/10cm、より好ましくは3~18回/10cmであってもよい。また、経糸と緯糸の撚り方向は、経糸と緯糸で同一であっても、異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。ここで、撚り数(回/10cm)は、繊維糸10cmの間の撚りの回数を示しており、後述する実施例に記載された方法により測定された値である。
【0039】
例えば、液晶ポリエステル繊維糸の繊維強度は、例えば、15cN/dtex以上であってもよく、好ましくは18cN/dtex以上であってもよく、さらに好ましくは20cN/dtex以上であってもよい。繊維強度の上限は特に限定されないが、繊維強度は、例えば、50cN/dtex以下、または40cN/dtex以下であってもよい。なお、繊維強度は、後述する実施例に記載された方法により測定された値である。
【0040】
液晶ポリエステル繊維糸には、必要に応じて後加工が行われていてもよい。後加工としては、かさ高加工が好ましく、たとえば、かさ高加工としては、加撚-熱固定-解撚加工、仮撚り加工、押し込み加工、賦形加工、擦過加工、タスラン加工などが挙げられる。これらのうち繊維の伸縮を生じさせないタスラン加工が好ましく、タスラン加工では、引き揃えた状態のマルチフィラメントに対して、乱気流の高圧エアーを与えることにより糸の配列を乱れさせ、糸にかさ高性を付与することができる。
【0041】
織物は、経糸と緯糸を一定の規則で交差させてシート状にすればよく、例えば、織物組織としては、平織、斜文織、朱子織、スダレ織などが挙げられる。好ましい織物としては平織物、およびスダレ織物が挙げられる。また、液晶ポリエステル繊維糸は、経糸、緯糸の双方に用いられてもよく、一方のみに用いられてもよい。好ましくは、液晶ポリエステル繊維糸は、少なくとも経糸に用いられ、より好ましくは、液晶ポリエステル繊維糸が互いに交差しており、最も好ましくは、織物は全て液晶ポリエステル繊維糸で構成される。
【0042】
また、織物を構成する経糸および/または緯糸は、偏平な形状〔例えば、経糸および/または緯糸の糸の厚み(繊維糸の最小径)に対して、経糸および/または緯糸の糸幅(繊維糸の最大径)が2~10倍である形状など〕が好ましい。例えば、経糸および/または緯糸の糸幅は、0.1~3.0mm程度であってもよく、より好ましくは、0.15~2.0mm程度であってもよい。
【0043】
織物の経糸密度は、織目に隙間が発生するのを抑制する観点から、例えば、40本/2.54cm以上であってもよく、好ましくは45本/2.54cm以上であってもよい。また、織物の種類に応じて経糸密度の上限は適宜設定することができるが、例えば、90本/2.54cm以下であってもよい。ここで、経糸密度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0044】
織物の目付は、耐破壊性の観点から、好ましくは70g/m以上、より好ましくは80g/m以上、さらに好ましくは90g/m以上であってもよい。一方、タイヤ重量の軽量化の観点から、織物の目付は、好ましくは300g/m以下、より好ましくは250g/m以下、さらに好ましくは200g/m以下であってもよい。ここで、目付は後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0045】
また、タイヤ1本あたりに使用される織物の重量(単位:g)は、軽量性の観点から、タイヤの周長(単位:m)をLとする場合、例えば15×L以下、好ましくは10×L以下、より好ましくは5×L以下であってもよく、例えば、2×L以上であってもよい。一般的な自転車では、織物の重量は、例えば、30g以下、より好ましくは20g以下、さらに好ましくは10g以下であってもよく、例えば、5g以上であってもよい。
【0046】
織物の厚さは、耐破壊性と薄さを両立させる観点から、例えば、0.10~1.00mm程度であってもよく、好ましくは0.15~0.80mm程度、より好ましくは0.20~0.60mm程度であってもよい。
【0047】
また、補強部材は、前記液晶ポリエステル繊維糸で構成された織物に加えて、さらに、単繊維の平均繊維径が45μm以下である、複数の単繊維で構成されたポリビニルアルコール系繊維糸の織物を備えていてもよい。前記ポリビニルアルコール系繊維糸の織物は、耐刺通性に優れるため、そのような補強部材は、耐破壊性と耐刺通性とを両立することができる。前記ポリビニルアルコール系繊維糸の織物は、前記液晶ポリエステル繊維糸で構成された織物の製造条件に合わせて製造することができる。
【0048】
得られた織物は、補強部材としてそのまま用いてもよく、必要に応じて、(i)織物に対してレゾルシン・ホルマリン(ホルムアルデヒド)・ラテックス(RFL)処理などの前処理を行ってもよく、および/または、(ii)織物の少なくとも一方の面にゴム層を配設してもよい。上記(i)の前処理を行うことで、ゴム層との接着性を向上することができる。
【0049】
RFL処理は、RFL処理液を織物に対して浸漬、塗布などすることにより行うことができる。前記処理液には、クロルフェノール系接着剤等のポリエステル繊維用接着性向上剤を加えてもよい。このようなポリエステル繊維用接着性向上剤は、例えば、ナガセケムテックス株式会社のデナボンド(商品名)等として上市されている。RFL処理液中、R(レゾルシン)/F(ホルマリン)のモル比は、例えば、1.0/1.0~1.0/4.5、好ましくは、1.0/1.3~1.0/3.5、より好ましくは、1.0/1.5~1.0/2.0であってもよい。さらに、RF(レゾルシン・ホルマリン)/L(ラテックス)の重量比は、例えば、1/2~1/8、好ましくは、1/3~1/7、より好ましくは、1/4~1/6であってもよい。RFL/ポリエステル繊維用接着性向上剤の固形分重量比は、例えば、10/1~10/10、好ましくは10/2~10/7であってもよい。
【0050】
ラテックスとしては、各種ゴムラテックスを用いることができ、例えば、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、エチレン・プロピレン・非共役ジエン系三元共重合体ゴムラテックスなどが挙げられ、これらを単独または混合して使用することができる。なかでも、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン三元共重合体ゴムラテックスが好ましい。
【0051】
なお、RFL処理に先立って、必要に応じて、エポキシ化合物、イソシアネート化合物による下処理を行ってもよい。下処理では、エポキシ化合物、イソシアネート化合物は、公知または慣用の化合物を水または有機溶媒に混合し、織物に対して、得られた処理液を浸漬または塗布することにより適用してもよい。水溶性の脂肪族エポキシ樹脂としてはナガセケムテックス株式会社のデナコールシリーズなどを用いることができる。
【0052】
また、織物にゴム層を組み合わせて補強部材とする場合、例えば、ゴム層は、織物の一方の面のみに設けてもよいし、織物の両面に設けてもよい。ゴム層は、例えば、厚さ0.10~1.50mm程度、好ましくは0.20~1.30mm程度、さらに好ましくは0.30~1.20mm程度のシート状物であってもよい。また、ゴム層は織物を被覆しているのが好ましい。
【0053】
ゴム層を形成するゴムは、例えば、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・非共役ジエン系三元共重合体ゴムなどの単体またはブレンド体からなるゴムであってもよい。ゴムは加硫性ゴムであるのが好ましく、密着性の観点からは、加熱加圧された加硫ゴム層であるのが好ましい。
【0054】
RFL処理した織物に対してゴム層を設ける場合、RFL処理で使用したゴムラテックスと、補強部材のゴム層を形成するゴムとは、同じ種類であっても異なる種類であってもよいが、同じ種類であるのが好ましい。
【0055】
ゴム層を設ける場合、織物とゴム層とを含む補強部材の総厚さとして、例えば、0.20~3.50mm、好ましくは0.40~3.00mm、さらに好ましくは0.60~2.50mmであってもよい。
【0056】
例えば、織物の上下に配設された未加硫ゴムシートが織物と共に加熱加圧により加硫されて一体化した供試体(縦15cm×横15cm、厚さ約2mm)に対して、供試体の中心部の直径40mmの円を除いて周囲を固定した状態において、プランジャー(直径8mmの先端球状の円柱状物)を用いてこの中心部に貫通試験を行った場合、その最大荷重は、例えば、850N以上であるのが好ましく、より好ましくは870N以上、さらに好ましくは900N以上であってもよい。また、最大荷重は高ければ高いほど好ましいが、通常は3000N程度である。ここで、最大荷重は、後述する実施例に記載された方法により測定される値であってもよい。なお、この供試体は、金型により加熱加圧することにより、厚さが約2mm(1.9~2.3mm)に調整されている。
【0057】
[自転車タイヤ]
本発明の自転車タイヤは、自転車タイヤの接地面に配設されたトレッド部と、トレッド部の内側に配設されたカーカス部とで少なくとも構成される自転車タイヤであって、前記トレッド部と前記カーカス部の間、前記カーカス部内部、および前記トレッド部内部から選択された少なくとも一か所において、前記補強部材が配設されている。自転車タイヤの接地面での肉厚は、例えば、1.0~10.0mmであってもよく、好ましくは1.2~7.0mm、より好ましくは1.5~5.0mmであってもよい。
【0058】
トレッド部は通常ゴムで形成されている。カーカス部は、少なくとも織物で構成されるが、必要に応じて、この織物の周囲はゴム層で被覆されていてもよい。補強部材のゴム層を形成するゴムと、補強部材が接触するトレッド部および/またはカーカス部を形成するゴムとは、同じ種類であっても異なる種類であってもよいが、同じ種類であるのが好ましい。
【0059】
補強部材は、織物の経糸方向が、タイヤ断面の円周方向における中心線に対して斜め方向になるよう配設されるのが好ましい。織物の経糸方向は、前記中心線に対して、例えば、30~60°、好ましくは40~50°であってもよい。
【0060】
以下、本発明の自転車タイヤの各実施形態について図を参照しながら説明する。ただし、本発明は、図示の形態に限定されるものではない。また、図1図3において、共通する形態においては、共通する番号を付し、説明を省略している。
【0061】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る自転車タイヤを示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る自転車タイヤ100は、地面と接触するトレッド部12と、タイヤの骨格部にあたるカーカス部16を備えている。トレッド部12から、自転車タイヤの回転軸に向かう方向に、カーカス部16が設けられ、トレッド部12とカーカス部16の間には、前記補強部材14が配設されている。
【0062】
カーカス部16は、例えば、一層または複数層のカーカス織物に対して所定の厚みのゴム層を被覆して形成されてもよい。必要に応じて、カーカス部16の両端において、カーカス織物がビードワイヤ18を包み込んでいてもよい。なお、ビードワイヤ18は、金属製ワイヤ、または有機繊維ないし無機繊維ロープなどで構成されていてもよい。
【0063】
例えば、図1に示した自転車タイヤ100は、オープンサイドタイプのタイヤであり、カーカス部16は、タイヤの側面であるサイドウォール部15およびリム(図示せず)への固定部分であるビード部17を含んでいる。ビード部17では、カーカス部16を構成するカーカス織物(図示せず)が、ビードワイヤ18を包み込み、カーカス織物とビードワイヤ18とは、外側からゴムで被覆することにより、ビード部17において一体化している。
【0064】
なお、トレッド部12は、直接路面に接する部分に設けられていればよいが、必要に応じて、サイドウォール部15に向かって延出していてもよい。軽量化の観点からは、トレッド部はタイヤの接地部分を中心として配設され、サイドウォール部への延出割合は、サイドウォール部の幅の半分以下であるのが好ましい。
【0065】
補強部材14が、カーカス部16の外側であってトレッド部12の内側に配設される場合(すなわち、補強部材14が、カーカス部16とトレッド部12の間に配設される場合)、補強部材14は、図1に示すタイヤ断面の円周方向Xにおける中心線Yを略中心として、トレッド部12の幅以下の範囲で配設されるのが好ましく、例えば、補強部材14の幅は、トレッド部12の幅の70~100%の範囲、好ましくは75~98%、より好ましくは80~95%の範囲であってもよい。なお、それぞれの幅は、前記タイヤ断面の円周方向Xにおける各部の両端間の長さ(すなわち、幅方向を直線状に伸ばした時の幅の長さ)を意味している。
【0066】
また、図2は、本発明の第2の実施形態に係る自転車タイヤを示す概略断面図である。図2に示すように、本発明の第2の実施形態に係る自転車タイヤ200は、地面と接触するトレッド部22と、タイヤの骨格部にあたるカーカス部26を備えている。前記補強部材24は、カーカス部26の内部に配設されている。
【0067】
カーカス部26は、少なくとも補強部材24を配設する箇所において、複数のカーカス織物(図示せず)を備えていてもよく、この場合、補強部材24は、カーカス部26内において、カーカス織物の間に挟みこまれていてもよく、好ましくは、補強部材24はカーカス部26の内部において、図2に示すタイヤ断面の円周方向Xにおける中心線Yを略中心として配設される。例えば、補強部材24の幅は、トレッド部22の幅の70~200%の範囲、好ましくは75~150%、より好ましくは80~130%の範囲であってもよい。ここで、それぞれの幅は、前記タイヤ断面の円周方向Xにおける各部の両端間の長さを意味している。
【0068】
また、図3は、本発明の第3の実施形態に係る自転車タイヤを示す概略断面図である。図3に示すように、本発明の第3の実施形態に係る自転車タイヤ300は、地面と接触するトレッド部32と、タイヤの骨格部にあたるカーカス部36を備えている。前記補強部材34は、トレッド部32の内部に配設されている。
【0069】
補強部材34は、トレッド部32の内部において、図3に示すタイヤ断面の円周方向Xにおける中心線Yを略中心として配設され、例えば、補強部材34の幅は、トレッド部32の幅の60~95%の範囲、好ましくは65~90%、より好ましくは70~85%の範囲であってもよい。ここで、それぞれの幅は、前記タイヤ断面の円周方向Xにおける各部の両端間の長さを意味している。
トレッド部32に溝部が形成される場合、補強部材34は溝部から露出しない範囲で配設されるのが好ましい。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0071】
[平均繊維径(μm)]
X線CT装置を用いて織物の経糸および緯糸から無作為に採取した5本の繊維糸の断面の二次元像を取得した。この断面二次元像において、1本の繊維糸につき無作為に選択した10本の単繊維について繊維径を測定し、得られた合計50個の繊維径データの平均値を平均繊維径として求めた。なお、1本の繊維糸を構成する単繊維が10本未満の場合には、繊維糸中の全ての単繊維の繊維径を測定し、5本の繊維糸で得られる全ての繊維径データの平均値を平均繊維径とする。
【0072】
[繊維強度(cN/dtex)]
JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」の8.5.1に準じて、繊維強度を測定した。
【0073】
[糸幅(mm)]
織物を平らな台の上に置き、不自然なしわ及び張力を除いて、異なる3か所について測定機能を有するデジタルマイクロスコープ(キーエンス製、VHX-2000)で観察し、1か所あたり5本の糸幅を計測した合計15本の平均値から繊維糸1本あたりの糸幅を求めた。
【0074】
[経糸密度(本/2.54cm)]
JIS L 1096「一般織物試験方法」の8.6.1に準じて、織物の経糸密度を測定した。
【0075】
[撚り数(回/10cm)]
JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」の8.13を参考にして、検撚機のつかみ間隔を10cmとして、繊維糸の10cm当たりの撚り数を測定した。
【0076】
[目付(g/m)]
JIS L 1096「一般織物試験方法」の8.3.2に準じて、織物の目付を測定した。
【0077】
[厚さ(mm)]
JIS L 1096「一般織物試験方法」の8.4に準じて、織物の厚さを測定した。
【0078】
[最大荷重(N)]
織物の両面を硫黄を含む未加硫ゴムシート((天然ゴムRSS#3、SBRゴム商品名「Nipol 1500」)を重量比1/1で混合、厚さ:1mm)で挟み、厚さ2mmの供試体を作製できる金型に入れ、温度150℃、圧力50kg/cm下30分間加熱加圧し、ゴムシートを加硫させるとともに織物に対して熱圧着させることにより一体化した供試体(縦15cm×横15cm、厚さ2mm)を得た。織物は事前にRFL処理(R/Fのモル比が1/1.7で、RF/Lの重量比が1/5)したものを用いた。なお、「ベクトラン」(TM)と「ケブラー」(TM)については、RFL処理液にポリエステル用接着向上剤としてナガセケムテックス株式会社製デナボンド(商品名)を添加(RFL/デナボンドの固形分重量比が10/4)した処理液を用いた。得られた供試体を用いて、図4に示すように、プランジャー(球状先端の直径:8mm)を備える定速貫通試験機を用いて貫通試験を行った。
【0079】
図4は、定速貫通試験機の概略断面図を示している。供試体53は、織物51と、織物51の上下面に加硫ゴム層52,52を備えている。一方、定速貫通試験機は、定速で降下するプランジャー54と、供試体53を上下面で固定する固定盤56,56を備えている。プランジャー54による貫通部を中心とした直径40mmの円を除いて、供試体53は周囲を固定盤56,56により固定され、1分間当たり5cmの速度で降下するプランジャー54が、供試体53を突き破る強さを測り、その強さを最大荷重とした。
【0080】
(実施例1)
液晶ポリエステル繊維糸として、株式会社クラレ製「ベクトラン」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:49μm、単繊維本数:10本、撚り数:10回/10cm、繊維強度:22.9cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いて平織物を作製した。得られた平織物では、経糸および緯糸が偏平形状であった。得られた平織物の性能評価を表5に示す。
【0081】
(実施例2)
液晶ポリエステル繊維糸として、株式会社クラレ製「ベクトラン」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:30μm、単繊維本数:27本、撚り数:10回/10cm、繊維強度:22.9cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いて平織物を作製した。得られた平織物では、経糸および緯糸が偏平形状であった。得られた平織物の性能評価を表5に示す。
【0082】
(実施例3)
液晶ポリエステル繊維糸として、株式会社クラレ製「ベクトラン」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:43μm、単繊維本数:27本、撚り数:15回/10cm、繊維強度:22.9cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いてスダレ織物を作製した。得られたスダレ織物では、経糸が偏平形状であった。得られたスダレ織物の性能評価を表5に示す。
【0083】
(実施例4)
液晶ポリエステル繊維糸として、株式会社クラレ製「ベクトラン」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:32μm、単繊維本数:50本、撚り数:15回/10cm、繊維強度:22.9cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いてスダレ織物を作製した。得られたスダレ織物では、経糸が偏平形状であった。得られたスダレ織物の性能評価を表5に示す。
【0084】
(比較例1)
液晶ポリエステル繊維糸として、株式会社クラレ製「ベクトラン」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:23μm、単繊維本数:48本、撚り数:10回/10cm、繊維強度:22.9cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いて平織物を作製した。得られた平織物では、経糸および緯糸が偏平形状であった。得られた平織物の性能評価を表5に示す。
【0085】
(比較例2)
ポリアミド系繊維糸として、東レ株式会社製ナイロン66フィラメント(単繊維の平均繊維径:27μm、単繊維本数:72本、撚り数:20回/10cm、繊維強度:9.2cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いて平織物を作製した。得られた平織物では、経糸および緯糸が偏平形状であった。得られた平織物の性能評価を表5に示す。
【0086】
(比較例3)
芳香族ポリアミド系繊維糸として、東レ・デュポン株式会社製「ケブラー」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:12μm、単繊維本数:267本、撚り数:15回/10cm、繊維強度:20.4cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いて平織物を作製した。得られた平織物では、経糸および緯糸が偏平形状であった。得られた平織物の性能評価を表5に示す。
【0087】
(比較例4)
ポリビニルアルコール系繊維糸として、株式会社クラレ製ビニロンフィラメント(単繊維の平均繊維径:16μm、単繊維本数:200本、撚り数:15回/10cm、繊維強度:10.2cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いて平織物を作製した。得られた平織物では、経糸および緯糸が偏平形状であった。得られた平織物の性能評価を表5に示す。
【0088】
(比較例5)
液晶ポリエステル繊維糸として、株式会社クラレ製「ベクトラン」(TM)フィラメント(単繊維の平均繊維径:23μm、単繊維本数:100本、撚り数:15回/10cm、繊維強度:22.9cN/dtex)を、経糸および緯糸に用いてスダレ織物を作製した。得られたスダレ織物では、経糸が偏平形状であった。得られたスダレ織物の性能評価を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
表5に示すように、平織物である実施例1および2と、比較例1とを比べた場合、これらはいずれも液晶ポリエステル繊維糸の平織物であり、目付も同程度であったが、比較例1と比べて、実施例1および2は、良好な耐破壊性を有していた。特許文献1には、単繊維が細いほどゴム化合物と良好な接着性が生まれるため耐久性が向上すると記載されていることを鑑みると、比較例1よりも繊維径が太い織物を用いた実施例1および2において、平織物の両面に加硫ゴム層を備える補強部材であっても、耐破壊性が向上することは意外な効果である。
【0091】
また、スダレ織物である実施例3および4と、比較例5とを比べた場合、これらはいずれも液晶ポリエステル繊維糸のスダレ織物であり、目付も同程度であったが、比較例5と比べて、実施例3および4は、良好な耐破壊性を有していた。特に、比較例5では、単繊維の細さを克服するために、単繊維の本数を増加させたにもかかわらず、実施例3および4の耐破壊性の方が比較例5よりも高いのは意外な効果である。
【0092】
また、繊維強度が実施例1および2よりも低い比較例2および4では、やはり耐破壊性が実施例よりも劣っていたが、繊維強度が実施例1および2と同等である比較例3においても、耐破壊性が劣る結果となったのは、予想外の結果である。
【0093】
なお、比較例4に示されるビニロン繊維糸で構成された織物は、プランジャーに変えて注射針(太さ:18G(針の外径:1.2mm)、長さ:38mm、針先形状:レギュラーベベル(先端部の刃面の角度:12度)で貫通試験を行った場合、良好な耐刺通性を有しているため、液晶ポリエステル繊維糸で構成された織物と組み合わせた場合、補強部材は耐破壊性および耐刺通性の双方を両立すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の補強部材は、自転車タイヤの耐破壊性を向上させるために有用に用いることができ、シティサイクル、電動補助自転車、ロードレーサー、マウンテンバイク、クロスバイク、ランドナー、リカンベント、折り畳み自転車などの各種自転車の自転車タイヤにおいて、好適に用いることができる。
【0095】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
100,200,300・・・自転車タイヤ
12,22,32・・・トレッド部
14,24,34・・・補強部材
16,26,36・・・カーカス部
15・・・サイドウォール部
17・・・ビード部
18・・・ビードワイヤ
図1
図2
図3
図4