(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ワークを処理する方法およびワークを処理するシステム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240904BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
H01L21/78 V
H01L21/78 B
H01L21/78 Q
H01L21/304 611Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022080454
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2020094559の分割
【原出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】10 2019 207 990.3
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】星野 仁志
(72)【発明者】
【氏名】アルギロフ、ツァニミール
(72)【発明者】
【氏名】湯平 泰吉
(72)【発明者】
【氏名】カール、ハインツ、プリーワッサー
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-270516(JP,A)
【文献】特開2003-230978(JP,A)
【文献】特開2019-024038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面(4,104)と、前記第1の面(4,104)に対向する第2の面(6,106)と、前記第1の面(4,104)と前記第2の面(6,106)との間に延在する第3の面(8,108)とを有するワーク(2,102)を処理する方法であって、前記方法が、
前記ワーク(2,102
)内に複数の孔領域を形
成するステップであって、
各孔領域が、改質領域(16)と前記改質領域(16)内の開口部(18)とで構成され、前記開口部(18)が、前記第1の面(4,104)、前記第2の面(6,106)および前記第3の面(8,108)のうちの少なくとも1つにまで延在
し、
各改質領域(16)が非晶質領域を含むか、または前記非晶質領域で構成される、ステップと、
前記ワーク(2,102
)内に前記
孔領域を形成した後に、液体媒体(20,120)を少なくともいくつかの前記開口部(18)に導入するステップと、
前記液体媒体(20,120)を少なくともいくつかの前記開口部(18)に導入した後に、外部刺激を前記液体媒体(20,120)に加えて前記液体媒体(20,120)の体積を増加させるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記
孔領域を前記ワーク(2,102
)内に形成するステップが、レーザ光(LB)を前記ワーク(2,102)に照射するステップを含むか、または前記レーザ光(LB)を前記ワーク(2,102)に照射する前記ステップで構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ワーク(2,102)が前記レーザ光(LB)に対して透過性のある材料で作られ、前記レーザ光(LB)の焦点が前記ワーク(2,102)の内側に位置する状態、または、前記レーザ光(LB)の前記焦点が第1の面(4,104)上、第2の面(6,106)上または第3の面(8,108)上に位置する状態で、前記レーザ光(LB)が前記ワーク(2,102)に照射される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記外部刺激を液体媒体(20,120)に加えるステップが、前記液体媒体(20,120)を加熱するかもしくは冷却するステップを含むか、または前記液体媒体(20,120)を加熱するかもしくは冷却する前記ステップで構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記外部刺激を前記液体媒体(20,120)に加えるステップが、電界および/または磁界を前記液体媒体(20,120)に印加するステップを含むか、または前記電界および/または前記磁界を前記液体媒体(20,120)に印加する前記ステップで構成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記外部刺激を前記液体媒体(20,120)に加えるステップが、前記液体媒体(20,120)の相転移を誘発して、前記液体媒体(20,120)の体積を増加させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記液体媒体(20,120)または前記液体媒体(20,120)の蒸気を、前記開口部(18)が延在する前記第1の面(4,104)、前記第2の面(6,106)および前記第3の面(8,108)のうちの少なくとも1つに加えることによって、前記液体媒体(20,120)が少なくともいくつかの前記開口部(18)に導入され、これにより、前記液体媒体(20,120)の少なくとも一部が、前記開口部(18)に少なくとも部分的に入る、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記液体媒体(20,120)が水である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記液体媒体(20,120)が界面活性剤を含有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の面(4,104)と、前記第1の面(4,104)に対向する第2の面(6,106)と、前記第1の面(4,104)と前記第2の面(6,106)との間に延在する第3の面(8,108)とを有するワーク(2,102)を処理するシステムであって、前記システムが、
前記ワーク(2,102
)内に複数の孔領域を形
成するように構成された改質領域形成手段であって、
各孔領域が、改質領域(16)と前記改質領域(16)内の開口部(18)とで構成され、前記開口部(18)が、前記第1の面(4,104)、前記第2の面(6,106)および前記第3の面(8,108)のうちの少なくとも1つにまで延在
し、
各改質領域(16)が非晶質領域を含むか、または前記非晶質領域で構成される、改質領域形成手段と、
液体媒体(20,120)を少なくともいくつかの開口部(18)に導入するように構成された液体媒体供給手段と、
外部刺激を少なくともいくつかの前記開口部(18)に導入された前記液体媒体(20,120)に加えて、前記液体媒体(20,120)の体積を増加させるように構成された外部刺激付与手段と
を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の面と、第1の面に対向する第2の面と、第1の面と第2の面との間に延在する第3の面とを有するウエハ、基板またはインゴットなどのワークを処理する方法に関する。さらに、本発明は、この方法を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハが例として挙げられるウエハなどの基板上には、集積回路(IC)、大規模集積回路(LSI)、発光ダイオード(LED)などの素子が、基板の表面に素子層を設けることによって形成される。基板は、例えば炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ガリウムヒ素(GaAs)、シリコン(Si)などで作られたウエハであってもよい。素子は、例えば半導体素子、光学素子または電気部品であってもよい。
【0003】
例えば光学素子の製造工程では、例えばn型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層で構成される光学素子層が、炭化ケイ素基板、窒化ガリウム基板またはサファイア基板などの単結晶基板の表面に形成される。光学素子層は、発光ダイオードおよびレーザダイオードなどの光学素子がそれぞれ形成される別個の領域を画定するように、交差する分割線(「ストリート」とも呼ばれる)によって区画される。単結晶基板の表側に光学素子層を設けることによって、光学素子ウエハが形成される。光学素子ウエハは、光学素子が形成される別個の領域を分割するように分割線に沿って例えば切断されるなどして分離され、それによって個々の光学素子がチップもしくはダイとして得られる。
【0004】
従来、このような光学素子ウエハまたは他の種類のウエハは、例えば機械的ブレードダイシング、アブレーションレーザダイシング、ステルスレーザダイシングまたはプラズマダイシングによって、個々のチップもしくはダイに分割される。
【0005】
ステルスレーザダイシング、つまりレーザ光を照射することで改質領域をウエハ内に形成することにより、分割線の幅を低減することが可能になり、これにより、ウエハから得ることができるチップもしくはダイの数が増加する。しかし、既知の方法では、ダイシング工程において、いくつかのチップもしくはダイが互いに少なくとも完全に分離されない場合があるという問題がある。この問題は、大きさが小さいチップもしくはダイの場合に特に顕著である。チップもしくはダイの完全な分離を確実にするために追加の破断具を使用した場合、ウエハが受ける機械的応力は増大し、結果としてチップもしくはダイが損傷する可能性がある。
【0006】
素子層が上に形成されるウエハなどの基板は、通常、インゴットなどのワークを切断することによって得られる。ワークを切断するとき、ウエハなどの基板を切断する場合について上記で特定されたものと同様の問題が発生する場合がある。特に、基板がワークの残りの部分から適切に分離されない、および/または切断工程において損傷を受ける可能性があるという危険性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ウエハ、基板またはインゴットなどのワークを処理する方法であって、ワークを効率的で確実な態様で処理することを可能にする方法、およびこのような方法を行うシステムが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の目的は、ウエハ、基板またはインゴットなどのワークを処理する方法であって、ワークを効率的で確実な態様で処理することを可能にする方法を提供することである。さらに、本発明は、この方法を行うワーク処理システムを提供することを目的とする。これらの目標は、請求項1の技術的特徴を含むワーク処理方法と、請求項12の技術的特徴を含むワーク処理システムとによって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に従う。
【0009】
本発明は、第1の面と、第1の面に対向する第2の面と、第1の面と第2の面との間に延在する第3の面とを有するワークを処理する方法を提供する。この方法は、ワークの内側に改質領域を形成して開口部をワーク内に作成することを含む。開口部は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在する。この方法は、ワークの内側に改質領域を形成した後に、液体媒体を少なくともいくつかの開口部に導入することと、液体媒体を少なくともいくつかの開口部に導入した後に、外部刺激を液体媒体に加えて、媒体の体積を増加させることとをさらに含む。
【0010】
本発明の方法では、改質領域がワークの内側もしくは内部に形成される。改質領域は、例えば、レーザ光を使用することによって放射線などの外部刺激を加えることで改質されたワークの領域である。改質領域は、ワーク材料の構造が改質されたワークの領域であってもよい。改質領域は、ワークが損傷したワークの領域であってもよい。
【0011】
改質領域は、ワークの完全に内側もしくは内部に配置されるように、すなわち、第1の面、第2の面および第3の面のうちのいずれか1つにまで延在しないように形成されてもよい。改質領域は、少なくともいくつかまたは全ての改質領域が、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在するように形成されてもよい。
【0012】
開口部は、改質領域から、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在してもよい。
【0013】
本発明の方法は、ワークの内側に改質領域を形成して開口部をワーク内に作成することを含む。開口部は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在しており、すなわち、開口部は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに開口している。したがって、液体媒体は、ワークの外側から開口部に入ることができる。
【0014】
ワークの内側に改質領域を形成した後、液体媒体は少なくともいくつかまたは全ての開口部に導入される。液体媒体を少なくともいくつかまたは全ての開口部に導入した後、外部刺激が液体媒体に加えられて媒体の体積が増加する。外部刺激は、少なくともいくつかまたは全ての開口部に導入された液体媒体に加えられて、開口部内の媒体の体積が増加する。
【0015】
開口部に受け入れられる媒体の体積を増加させることにより、開口部が延在する1つまたは複数の表面に沿った開口部の大きさもしくは拡張が増加する。したがって、開口部が存在する領域におけるワークの強度は著しく低下する。したがって、これらの領域は、効率的な分離もしくは分割の開始点もしくは開始領域として機能することができ、ワークの分割工程を著しく容易にする。外部刺激を加えることによる媒体の体積の増加は、ワークの完全な分割または分離を引き起こしかねない。
【0016】
したがって、結果として得られるチップもしくはダイなどのワークの分離部品を損傷させることなく、ワークが完全に分割されることを確実に保証することができる。
【0017】
したがって本発明は、ワークを処理する方法であって、ワークを効率的で確実な態様で処理することを可能にする方法を提供する。
【0018】
外部刺激を液体媒体に加えて、媒体の比体積を増加させてもよい。
【0019】
ワークは、例えばウエハ、基板またはインゴットであってもよい。
【0020】
本発明の方法を、例えば、ワークとしてのウエハもしくは基板を、チップもしくはダイなどの複数の別個の構成要素に分割するために使用してもよい。
【0021】
本発明の方法を、例えば、インゴットもしくはより厚い基板、すなわち、得られる基板もしくはウエハよりも厚い基板などの、基板もしくはウエハをワークから得るために使用してもよい。
【0022】
インゴットもしくはより厚い基板などのワークの厚さは、1mm以上または2mm以上であってもよい。ワークの厚さは、ワークの第1の面から第2の面に向かう方向において決定される。
【0023】
ワークの第1の面および第2の面は、互いに略平行であってもよい。ワークの第3の面は、ワークの第1の面および/または第2の面に対して略垂直であってもよい。
【0024】
ワークは、例えば、半導体、ガラス、サファイア(Al2O3)、アルミナセラミックなどのセラミック、石英、ジルコニア、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、ポリカーボネート、光学結晶材料などで作られてもよい。
【0025】
特に、ワークは、例えば炭化ケイ素(SiC)、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化インジウム(InAs)、リン化インジウム(InP)、窒化ケイ素(SiN)、タンタル酸リチウム(LT)、ニオブ酸リチウム(LN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ケイ素(SiO2)などで作られてもよい。
【0026】
ワークは、単結晶ワーク、ガラス製ワーク、例えばSiC、GaAsもしくはGaN製のワークが例として挙げられる化合物半導体ワークなどの化合物ワーク、またはセラミックワークなどの多結晶ワークであってもよい。
【0027】
ワークはウエハであってもよい。例えばワークは、接合ウエハ、すなわち2つ以上のウエハ材料が一体に接合されたウエハであってもよい。接合ウエハのウエハ材料は、同一のウエハ材料であってもよいし、異なるウエハ材料であってもよい。接合ウエハのウエハ材料は、上述の材料から選択されてもよい。
【0028】
少なくとも1つの分割線または複数の分割線は、例えばワークの第1の面上に形成されてもよい。
【0029】
改質領域は、少なくとも1つの分割線または複数の分割線に沿った複数の位置でワークの内側に形成されてもよい。
【0030】
複数の素子を含む素子領域は、例えばワークの第1の面上に形成されてもよい。素子は、少なくとも1つの分割線によって、または複数の分割線によって区画されてもよい。素子領域は、半導体素子、光学素子、電気部品などの素子を含んでもよい。素子は、例えばMOSFETまたは絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などのトランジスタ、または、例えばショットキーバリアダイオードなどのダイオードを含むか、またはそれらであってもよい。
【0031】
改質領域をワークの内側に形成することは、レーザ光をワークに照射することを含むか、またはそれで構成されてもよい。このようにして、改質領域を特に効率的な態様で形成することができる。
【0032】
改質領域は、レーザ光の照射によって改質されたワークの領域であってもよい。例えば改質領域は、ワーク材料の構造がレーザ光の照射によって改質されたワークの領域であってもよい。改質領域は、ワークがレーザ光の照射によって損傷したワークの領域であってもよい。
【0033】
レーザ光は、パルスレーザ光であってもよい。パルスレーザ光は、例えば1fs~1000nsの範囲のパルス幅を有してもよい。
【0034】
レーザ光は、ワークの第1の面の側からワークに照射されてもよい。レーザ光は、ワークの第2の面の側からワークに照射されてもよい。レーザ光は、ワークの第3の面の側からワークに照射されてもよい。
【0035】
レーザ光は、少なくとも1つの分割線または複数の分割線に沿った少なくとも複数の位置でワークに照射されてもよい。
【0036】
ワークは、レーザ光に対して透過性のある材料で作られていてもよい。したがって、レーザ光は、レーザ光がワークを透過することができる波長を有してもよい。レーザ光は、レーザ光の焦点がワークの内側または内部に位置する状態でワークに照射されてもよい。あるいは、レーザ光の焦点がワークの第1の面もしくは第1の面の上、第2の面もしくは第2の面の上、または第3の面もしくは第3の面の上に位置する状態で、レーザ光はワークに照射されてもよい。
【0037】
あるいは、レーザ光は、レーザ光の焦点がワークの外側に位置する状態でワークに照射されてもよい。
【0038】
レーザ光をワークに照射して、複数の孔領域をワーク内に形成してもよい。各孔領域は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに延在している、すなわち開口している改質領域および改質領域内の開口部から構成されてもよい。改質領域は、開口部を取り囲んでもよい。
【0039】
外部刺激を液体媒体に加えることは、液体媒体を加熱するかもしくは冷却することを含むか、またはそれで構成されてもよい。このようにして、外部刺激を簡単かつ効率的な態様で加えることができる。
【0040】
例えば液体媒体を加熱して、液体媒体の体積、特に比体積を増加させてもよい。
【0041】
外部刺激を液体媒体に加えることは、電界および/または磁界を液体媒体に印加することを含むか、またはそれで構成されてもよい。外部刺激を液体媒体に加えることは、電気的影響および/または磁気的影響を液体媒体に与えることを含むか、またはそれで構成されてもよい。例えば液体媒体が液晶を含むか、またはそれで構成される場合に、この手法を採用してもよい。
【0042】
電界および/または磁界を液体媒体に印加して、液体媒体の体積、特に比体積を増加させてもよい。
【0043】
外部刺激を液体媒体に加えることにより、液体媒体の相転移を誘発して、媒体の体積を増加させてもよい。外部刺激を液体媒体に加えて、液体媒体の相転移を誘発してもよい。液体媒体の相転移は、液相から固相への転移、または液相から蒸気相もしくは気相への転移であってもよい。
【0044】
液体媒体の相転移を誘発するように外部刺激を液体媒体に加えることにより、媒体の体積を特に効率的な態様で増加させることが可能になる。
【0045】
液体媒体を冷却して、媒体の液相から固相への相転移を誘発してもよい。例えば、媒体を冷却することによって液体媒体を凍結してもよい。例えば液体媒体が脱イオン水などの水を含むか、またはそれで構成される場合に、この手法を採用してもよい。
【0046】
液体媒体を加熱して、媒体の液相から気相もしくは蒸気相への相転移を誘発してもよい。例えば、媒体を加熱することによって液体媒体を蒸発させてもよい。例えば液体媒体が、イソプロパノール、または液体二酸化炭素(CO2)もしくは液体窒素(N2)などの液体ガスを含むか、またはそれらで構成される場合に、この手法を採用してもよい。
【0047】
ワークに作成された開口部は、ワーク内のクラックである場合がある。クラックは、ワークの内側に形成された改質領域に起因する場合がある。クラックは、改質領域から、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在してもよい。
【0048】
例えば改質領域は、ワーク材料の構造が改質されたおよび/またはワークが損傷したワークの領域であってもよい。構造の改質および/または損傷は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在するクラックの形成を引き起こす場合がある。
【0049】
クラックに受け入れられる媒体の体積を増加させることにより、クラックが延在する1つまたは複数の表面に沿ったクラックの大きさもしくは拡張が増加し、クラックが1つまたは複数の表面に沿って伝播する原因となる。したがって、クラックが存在する領域におけるワークの強度を、特に効率的な態様で低下させることができる。
【0050】
液体媒体または液体媒体の蒸気を、開口部が延在する第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに加えることによって、液体媒体が少なくともいくつかまたは全ての開口部に導入されてもよく、これにより、液体媒体の少なくとも一部が、開口部に少なくとも部分的にまたは完全に入る。液体媒体の蒸気が第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに加えられる場合、蒸気は、蒸気が加えられる表面上および/または開口部内で凝縮することがある。
【0051】
例えば液体媒体は、開口部が延在する第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに噴霧されるかまたは注がれてもよい。
【0052】
ワークは、液体媒体中に完全にまたは部分的に浸漬されてもよい。例えば、液体媒体はタンクなどの容器に受け入れられてもよく、ワークは容器内に置かれてもよい。あるいは、壁などの液体バリアをワークの周囲に設けてもよく、液体バリアによって囲まれた空間は、少なくとも部分的にまたは完全に液体媒体で満たされてもよい。
【0053】
ワークに塗布された液体媒体は、毛細管力によって開口部に引き込まれることがある。
【0054】
液体媒体は液晶を含んでもよく、またはそれで構成されてもよい。液体媒体は、イソプロパノール、または液体二酸化炭素(CO2)もしくは液体窒素(N2)などの液体ガスを含むか、またはそれらで構成されてもよい。
【0055】
液体媒体は、例えば純水または脱イオン水などの水を含むか、またはそれで構成されてもよい。特に好ましくは、液体媒体は水である。この場合、本発明の方法を特に簡単かつ効率的な態様で行うことができる。
【0056】
開口部が延在する第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つは、液体媒体を含む1つまたは複数の表面の湿潤性を高めるように処理されてもよく、例えば前処理されてもよい。
【0057】
代替的に、または追加的に、液体媒体の組成もしくは材料は、液体媒体を含む1つまたは複数の表面の高湿潤性を達成するように選択されてもよい。このようにして、液体媒体が1つまたは複数の表面上に効率的に広がって、開口部に確実に入ることを保証することができる。
【0058】
液体媒体は純正液体であってもよく、例えば脱イオン水などの水であってもよい。
【0059】
液体媒体は、複数の、例えば2つ以上の成分を含有するか、またはそれで構成されてもよい。
【0060】
液体媒体は界面活性剤を含有してもよい。例えば液体媒体は、水および界面活性剤を含有するか、またはそれらで構成されてもよい。
【0061】
界面活性剤を含有する液体媒体を選択することにより、液体媒体を含むワークの1つまたは複数の表面の特に高い湿潤性を達成することができ、したがって、液体媒体が開口部に効率的かつ確実に導入されることが保証される。界面活性剤を含有する液体媒体を使用することは、例えばワークがSiCで作られている場合、特に有益となり得る。
【0062】
改質領域は、非晶質領域もしくはクラックが形成された領域を含むか、またはその領域であってもよい。
【0063】
改質領域は、例えば空洞などの空間をワーク材料の内側にそれぞれ含んでもよく、この空間は、非晶質領域もしくはクラックが形成される領域によって取り囲まれている。
【0064】
改質領域は、それぞれ、ワーク材料の内側の例えば空洞などの空間と、この空間を取り囲む非晶質領域もしくはクラックが形成される領域とで構成されてもよい。
【0065】
改質領域が、クラックが形成された領域を含むかまたはその領域である場合、すなわち、クラックが形成されている場合、クラックは微小クラックであってもよい。クラックは、μmの範囲の例えば長さおよび/または幅などの寸法を有してもよい。例えば、クラックは、0.1μm~50μmの範囲の幅および/または10μm~2000μmの範囲の長さを有してもよい。
【0066】
改質領域は、直径が0.1μm~30μm、好ましくは2μm~20μm、より好ましくは3μm~10μmの範囲であってもよい。
【0067】
本発明の方法は、ワークを分割するかまたは分離することをさらに含んでもよい。外部刺激を液体媒体に加えた後に、ワークを分割するかまたは分離するステップを行って媒体の体積を増加させてもよい。例えばワークは、複数のチップもしくはダイに分割されるウエハもしくは基板であってよい。あるいは、ワークは、例えば基板もしくはウエハが分離されるインゴットであってもよい。
【0068】
ワークを分割するかまたは分離すること、特に、ワークを完全に分割するかまたは分離することは、ワークに外力を加えることを含むか、またはそれで構成されてもよい。例えば、ワークを拡張テープに取り付け、かつ拡張テープを径方向に拡張することによって、外力をワークに加えてもよい。
【0069】
開口部に受け入れられる媒体の体積を増加させることにより、開口部が延在する1つまたは複数の表面に沿った開口部の大きさもしくは拡張が増加し、したがって、開口部が存在する領域におけるワークの強度が著しく低下する。したがって、これらの領域は、効率的な分離もしくは分割の開始点もしくは開始領域として機能し、ワークの分割工程を著しく容易にする。特に、例えば拡張テープを使用して外力がワークに加えられた場合、ワークはこれらの領域に沿って確実に分割される。
【0070】
上述したように、外部刺激を加えることによる媒体の体積の増加は、ワークの完全な分割または分離を引き起こす可能性がある。この場合、ワークを分割するかまたは分離する追加のステップは必要ではない。それにもかかわらず、ワークは拡張テープに取り付けられる場合がある。媒体の体積を増加させた後、チップもしくはダイなどのワークの分離された構成要素間の距離を増大させるために、拡張テープを径方向に拡張してもよい。このようにして、意図しない相互の接触または摩擦によるこれらの構成要素の任意の損傷を確実に防止することができる。
【0071】
本発明は、第1の面と、第1の面に対向する第2の面と、第1の面と第2の面との間に延在する第3の面とを有するワークを処理するシステムをさらに提供する。このシステムは、ワークの内側に改質領域を形成して開口部をワーク内に作成するように構成された改質領域形成手段を含み、開口部は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在する。このシステムは、液体媒体を少なくともいくつかの開口部に導入するように構成された液体媒体供給手段と、外部刺激を少なくともいくつかの開口部に導入された液体媒体に加えて、媒体の体積を増加させるように構成された外部刺激付与手段とをさらに含む。
【0072】
本発明のワーク処理システムは、本発明のワーク処理方法を行うように構成されたシステムである。したがって、ワーク処理システムは、ワーク処理方法について上記で既に詳述した技術的な効果および利点を提供する。
【0073】
本発明のワーク処理方法について上述した特徴は、本発明のワーク処理システムにも適用される。
【0074】
ワーク、改質領域、開口部、液体媒体および外部刺激は、上述と同じであってもよい。
【0075】
ワーク処理システムは、システムの構成要素を制御する制御部を含んでもよい。制御部は、複数の制御ユニット、例えばシステムの異なる構成要素を制御する制御ユニットを含んでもよい。
【0076】
制御部は、ワーク処理システムを制御して本発明のワーク処理方法を行うように構成されてもよい。
【0077】
制御部は、改質領域形成手段を制御して、ワークの内側に改質領域を形成し、かつ開口部をワーク内に作成するように構成されてもよく、開口部は、第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つにまで延在する。制御部は、ワークの内側に改質領域を形成した後に、液体媒体供給手段を制御して、液体媒体を少なくともいくつかの開口部に導入するように構成されてもよい。制御部は、外部刺激付与手段を制御して、外部刺激を少なくともいくつかの開口部に導入された液体媒体に加え、かつ媒体の体積を増加させるように構成されてもよい。
【0078】
改質領域形成手段は、レーザ光をワークに照射するように構成されたレーザ光照射手段を含むか、またはそれで構成されてもよい。改質領域をワークの内側に形成することは、レーザ光をワークに照射することを含むか、またはそれで構成されてもよい。
【0079】
レーザ光照射手段によってワークに照射されるレーザ光は、レーザ光がワークを透過することができる波長を有してもよい。レーザ光照射手段は、レーザ光を、レーザ光の焦点がワークの内側または内部に位置する状態でワークに照射するように構成されてもよい。
【0080】
レーザ光照射手段は、レーザ光の焦点がワークの第1の面または第1の面上、第2の面または第2の面上、あるいは第3の面または第3の面上に位置する状態で、レーザ光はワークに照射するように構成されてもよい。レーザ光照射手段は、レーザ光を、レーザ光の焦点がワークの外側に位置する状態でワークに照射するように構成されてもよい。
【0081】
レーザ光照射手段は、パルスレーザ光をワークに照射するように構成されてもよい。パルスレーザ光は、例えば1fs~1000nsの範囲のパルス幅を有してもよい。
【0082】
レーザ光照射手段は、ワークの第1の面の側からレーザ光をワークに照射するように構成されてもよい。レーザ光照射手段は、ワークの第2の面の側からレーザ光をワークに照射するように構成されてもよい。レーザ光照射手段は、ワークの第3の面の側からレーザ光をワークに照射するように構成されてもよい。
【0083】
レーザ光照射手段は、レーザ光を、ワークの第1の面上に形成された少なくとも1つの分割線または複数の分割線に沿った少なくとも複数の位置でワークに照射するように構成されてもよい。
【0084】
液体媒体供給手段は、液体媒体または液体媒体の蒸気を、開口部が延在する第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに加えるように構成されてもよい。液体媒体供給手段は、液体媒体または液体媒体の蒸気を、開口部が延在する第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに加えることによって、少なくともいくつかの開口部に液体媒体を導入するように構成されてもよい。
【0085】
例えば、液体媒体供給手段は、液体媒体を、開口部が延在する第1の面、第2の面および第3の面のうちの少なくとも1つに噴霧するかまたは注ぐように構成されてもよい。
【0086】
液体媒体供給手段は、ワークを液体媒体中に完全にまたは部分的に浸漬させるように構成されてもよい。
【0087】
例えば液体媒体供給手段は、液体媒体が受け入れられるタンクなどの容器を含むか、またはそれで構成されてもよい。液体媒体供給手段は、ワークを容器内に置くように構成されてもよい。液体媒体供給手段は、ワークを、容器に受け入れられた液体媒体中に完全にまたは部分的に浸漬させるように構成されてもよい。
【0088】
液体媒体供給手段は、ワークの周囲に設けられる壁などの液体バリアを含んでもよい。液体媒体供給手段は、液体バリアで囲まれた空間を少なくとも部分的にまたは完全に液体媒体で満たすように構成されてもよい。
【0089】
外部刺激付与手段は、加熱手段および/または冷却手段を含むか、またはそれで構成されてもよい。加熱手段は、液体媒体を加熱するように構成されてもよい。冷却手段は、液体媒体を冷却するように構成されてもよい。
【0090】
外部刺激付与手段は、電界印加手段および/または磁界印加手段を含むか、またはそれで構成されてもよい。電界印加手段は、電界を液体媒体に印加するように構成されてもよい。
【0091】
磁界印加手段は、磁界を液体媒体に印加するように構成されてもよい。外部刺激付与手段は、電界および磁界の複合印加手段を含むか、またはそれで構成されてもよい。電界および磁界の複合印加手段は、電界および磁界を液体媒体に印加するように構成されてもよい。
【0092】
外部刺激付与手段は、外部刺激を液体媒体に加えて、液体媒体の相転移を誘発するように構成されてもよい。液体媒体の相転移は、液相から固相への転移、または液相から蒸気相もしくは気相への転移であってもよい。
【0093】
冷却手段は、液体媒体を冷却して、媒体の液相から固相への相転移を誘発するように構成されてもよい。例えば、冷却手段は媒体を凍結するように構成されてもよい。
【0094】
加熱手段は、液体媒体を加熱して、媒体の液相から気相もしくは蒸気相への相転移を誘発するように構成されてもよい。例えば、加熱手段は液体媒体を蒸発させるように構成されてもよい。
【0095】
ワークを処理するシステムは、ワークを分割するかまたは分離するように構成された分割手段をさらに含んでもよい。分割手段は、外部刺激を液体媒体に加えた後にワークを分割するかまたは分離して、媒体の体積を増加させるように構成されてもよい。
【0096】
分割手段は、外力付与手段を含むか、またはそれで構成されてもよい。外力付与手段は、外力をワークに加えるように構成されてもよい。外力付与手段は、ワークが取り付けられた拡張テープを径方向に拡張することによって、外力をワークに加えるように構成されていてもよい。
【0097】
ワークを処理するシステムは、拡張テープ、特に、ワークが取り付けられた拡張テープを径方向に拡張するように構成された径方向拡張手段をさらに含んでもよい。
【0098】
以下、本発明の非限定的な例を、図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】本発明の第1の実施形態による方法によって処理されるワークとしてのウエハを示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態による方法において、レーザ光をウエハに照射し、それによって改質領域をウエハの内側に形成するステップを示す断面図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例による方法において、レーザ光をウエハに照射し、それによって改質領域をウエハの内側に形成するステップを示す断面図である。
【
図5】第1の実施形態のさらなる変形例による方法において、レーザ光をウエハに照射し、それによって改質領域をウエハの内側に形成するステップを示す断面図である。
【
図6】第1の実施形態のさらに別の変形による方法において、レーザ光をウエハに照射し、それによって改質領域をウエハの内側に形成するステップを示す断面図である。
【
図7】第1の実施形態による方法において、ウエハを液体媒体に浸漬させるステップを示す断面図である。
【
図8】第1の実施形態による方法において、ウエハを分割するステップの結果を示す断面図である。
【
図9】第1の実施形態のさらなる変形例による方法において、ウエハを液体媒体に浸漬させるステップを示す断面図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態による方法において、レーザ光をワークとしてのインゴットに照射し、それによって改質領域をインゴットの内側に形成するステップを示す断面図である。
【
図11】改質領域を形成した後の
図10のインゴットを示す斜視透視図である。
【
図12】第2の実施形態による方法において、インゴットを液体媒体に浸漬させるステップを示す断面図である。
【
図13】第2の実施形態による方法において、インゴットを分割するステップの結果を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。好ましい実施形態は、ワークを処理する方法およびこれらの方法を行うワーク処理システムに関する。
【0101】
図1~
図9を参照して、本発明の第1の実施形態を以下に説明する。
【0102】
第1の実施形態では、本発明の方法は、ワークとしてのウエハ2上で行われる(例えば、
図1および
図2参照)。特に、ウエハ2は、SiウエハまたはSiCウエハなどの半導体ウエハであってもよい。
【0103】
しかし、上記で詳述したように、異なる種類のワーク、特に、異なるワーク材料を使用してもよい。
【0104】
図1に示すように、ウエハ2は、第1の面4すなわち表面と、第1の面4に対向する第2の面6すなわち裏面とを有する。第1の面4および第2の面6は、互いに略平行である。さらにウエハ2は、ウエハ2の円周に沿って第1の面4と第2の面6との間に延在する第3の面8、すなわち側面を有する。
【0105】
第1の面4上には、複数の素子12を含む素子領域10が形成される。素子12は、第1の面4上にも形成された複数の分割線14によって区画されている。分割線14は、略格子状に配置されている。素子12は、例えばMOSFETまたは絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などのトランジスタ、または、例えばショットキーバリアダイオードなどのダイオードを含むか、またはそれらであってもよい。
【0106】
図3において矢印で示すように、パルスレーザ光LBは第1の面4の側からウエハ2に照射される。パルスレーザ光LBは、例えば1fs~1000nsの範囲のパルス幅を有してもよい。
【0107】
パルスレーザ光LBは、本発明の実施形態によるワーク処理システム(図示せず)のレーザ光照射手段(図示せず)によって、ウエハ2に照射される。この実施形態では、レーザ光照射手段は、システムの改質領域形成手段を構成する。
【0108】
図3に示すように、パルスレーザ光LBをウエハ2に照射する工程の間、ウエハ2は、シート15および環状フレーム17によって支持される。具体的には、ウエハ2の第2の面6はシート15に取り付けられる。シート15は、拡張テープ、ダイシングテープ、または、例えば保護フィルムもしくは薄板を含むかまたはそれからなる保護シートであってもよい。シート15は、その周縁部が環状フレーム17によって支持されており、シート15によって環状フレーム17の内側開口部を塞いでいる。
【0109】
シート15には、シート15をウエハ2の第2の面6に取り付けるための接着剤層(図示せず)を設けてもよい。接着剤層は、シート15の表面全体に配置されてもよく、またはシート15の表面の周縁領域にのみ配置されてもよい。接着剤層がシート15の表面の周縁領域にのみ配置される場合、シート15の表面の中央領域では、シート15の表面および第2の面6は互いに直接接触している。したがって、ウエハ2上の接着剤層もしくは接着剤残留物の接着力のために第2の面6が汚染されるかもしくは損傷する可能性があるという危険性を、著しく低減させるかまたは排除することさえできる。
【0110】
あるいは、シート15の表面全体および第2の面6が互いに直接接触していてもよい。この場合、特に接着剤などの材料は、シート15の表面全体と第2の面6との間に存在しない。シート15を第2の面6に貼付する間および/または後に外部刺激をシート15に加えることによって、シート15を第2の面6に取り付けてもよい。外部刺激をシート15に加えることは、シート15を加熱すること、および/またはシート15を冷却すること、および/またはシート15を真空引きすること、および/または例えばレーザ光を使用して光などの放射線でシート15を照射することを含むか、またはそれらで構成されてもよい。外部刺激は、化学化合物および/または電子線もしくはプラズマの照射および/または圧力、摩擦もしくは超音波の付与などの機械的処理および/または静電気を含むか、またはそれらであってもよい。
【0111】
シート15および環状フレーム17を使用することにより、ウエハ2の取扱いおよび輸送が容易になる。さらに、例えば拡張テープがシート15として使用される場合、
図8を参照して以下にさらに詳述するように、ウエハ2を完全に分割するために、またはウエハ2の分割された構成要素を互いに離間させるために、シート15を、後の段階で径方向に拡張することができる。
【0112】
例えばSiまたはSiCなどのウエハ2の材料は、パルスレーザ光LBがウエハ2を通過するように、パルスレーザ光LBに対して透過性がある。パルスレーザ光LBは、パルスレーザ光LBの焦点がウエハ2の内側に位置する状態でウエハ2に照射される。
【0113】
パルスレーザ光LBは、分割線14に沿った複数の位置でウエハ2に照射される。さらに、分割線14の各々に沿って、パルスレーザ光LBの焦点はウエハ2内の3つの異なる深さに配置され、すなわち、焦点の位置はウエハ2の厚さ方向に沿って移動する。ウエハ2の厚さ方向は、第1の面4から第2の面6に向かって延びている。
【0114】
他の実施形態では、分割線14の各々に沿って、パルスレーザ光LBの焦点は、ウエハ2内の単一の深さ、2つの異なる深さまたは4つ以上の異なる深さに配置されてもよい。一般に、分割線14の各々に沿って、パルスレーザ光LBの焦点はウエハ2内の単一または複数の深さに配置されてもよい。
【0115】
このようにしてパルスレーザ光LBをウエハ2に照射することにより、3列の改質領域16が各分割線14に沿って形成される。分割線14に沿って延在する改質領域16の列は、ウエハ2の厚さ方向に交互に配列され、すなわち、この厚さ方向において第1の面4とは異なる距離に配置される。改質領域16は、非晶質領域またはクラックが形成された領域であってもよい。
【0116】
改質領域16をウエハ2内に形成することにより、改質領域16が形成される領域のウエハ2に応力が誘発される。この応力は、
図3に示すように、改質領域16から第1の面4まで延在するウエハ2内にクラック18が生じる原因となる。クラック18は、改質領域16が形成されるウエハ2の領域に存在し、したがって分割線14に沿って配置されている。クラック18はウエハ2内の開口部の例であり、第1の面4に開口している。
【0117】
本発明の他の実施形態では、例えばパルスレーザ光などのレーザ光をウエハ2に照射して、複数の孔領域をウエハ2内に形成してもよく、各孔領域は、改質領域と、第1の面4にまで延在する改質領域内の開口部とで構成されてもよい。
【0118】
第1の実施形態の変更による方法において、パルスレーザ光LBをウエハ2に照射し、それによって改質領域16をウエハ2の内側に形成するステップを
図4に示す。このステップは、シート15の大きさおよび形状がウエハ2と実質的同じであるという点、および、環状フレーム17などの環状フレームが、パルスレーザ光LBの照射中にウエハ2を支持するために使用されないという点においてのみ、第1の実施形態の方法の対応するステップ(
図3参照)とは異なる。あるいは、シート15の大きさはウエハ2の大きさより小さくてもよく、または大きくてもよい。特に、シート15の直径は、例えば2mm以下、3mm以下、4mm以下、5mm以下、6mm以下、8mm以下または10mm以下など数ミリメートルだけ、ウエハ2の直径よりも小さくてもよく、または大きくてもよい。例えば、変更された方法では、シート15が取り付けられたウエハ2は、ワーク処理システムのチャックテーブルなどの支持部材(図示せず)によって支持されてもよい。
【0119】
第1の実施形態のさらなる変更による方法では、シート15および環状フレーム17などのシートおよび環状フレームは、パルスレーザ光LBの照射中にウエハ2を支持するために使用されなくてもよい。例えば、このさらに変更された方法では、ウエハ2は、ワーク処理システムのチャックテーブルなどの支持部材(図示せず)によって支持されてもよい。
【0120】
第1の実施形態のさらなる変更による方法において、パルスレーザ光LBをウエハ2に照射し、それによって改質領域16をウエハ2の内側に形成するステップを
図5に示す。このステップは、パルスレーザ光LBが第2の面6の側からウエハ2に照射されるという点で、第1の実施形態の方法の対応するステップ(
図3参照)とは異なる。さらに、
図4に示す変更された方法のように、シート15の大きさおよび形状はウエハ2と実質的に同じであり、環状フレームは、パルスレーザ光LBの照射中にウエハ2を支持するために使用されない。シート15は、ウエハ2の第1の面4に取り付けられる。
【0121】
あるいは、シート15の大きさはウエハ2の大きさより小さくてもよく、または大きくてもよい。特に、シート15の直径は、例えば2mm以下、3mm以下、4mm以下、5mm以下、6mm以下、8mm以下または10mm以下など数ミリメートルだけ、ウエハ2の直径よりも小さくてもよく、または大きくてもよい。
【0122】
図5に示す変更された方法では、改質領域16の形成によってウエハ2に誘発された応力により、改質領域16から第2の面6まで延材するウエハ2にクラック18が生じる。
【0123】
図5に示す変更による方法は、シート15を省くことによってさらに変更されてもよい。この場合、シート15および環状フレーム17などのシートおよび環状フレームは、パルスレーザ光LBの照射中にウエハ2を支持するために使用されない。例えば、このさらに変更された方法では、ウエハ2は、ワーク処理システムのチャックテーブルなどの支持部材(図示せず)によって支持されてもよい。
【0124】
図5に示す変更された方法は、パルスレーザ光LBの照射中にウエハ2を支持するためにシート15および環状フレーム17(
図9参照)などのシートおよび環状フレームを使用することによって、さらに変更されてもよい。このさらなる変更を
図6に示す。ウエハ2の第1の面4は、
図3を参照して上述した方法と実質的に同じ態様でシート15に取り付けられてもよい。
図6に示すように、シート15は、その周縁部が環状フレーム17によって支持されており、シート15によって環状フレーム17の内側開口部を塞いでいる。
【0125】
第1の実施形態の方法では、
図7に示すように、改質領域16をウエハ2の内側に形成し、ひいてはクラック18がウエハ2内に生じた後、ウエハ2は液体媒体20中に完全に浸漬する。具体的には、環状壁状の液体バリア22がウエハ2の周囲に設けられ、液体バリア22およびシート15によって囲まれた空間が液体媒体20で満たされる。
【0126】
液体媒体20は、ワーク処理システム(図示せず)の液体媒体供給手段(図示せず)によって、液体バリア22およびシート15によって囲まれた空間に供給される。液体媒体供給手段は、液体バリア22を含んでもよい。
【0127】
本実施形態では、液体媒体20は、例えば脱イオン水などの水である。しかし、上記で詳述したように、イソプロパノール、または例えば液体二酸化炭素(CO2)もしくは液体窒素(N2)などの液体ガスなど、他の種類の液体媒体を使用してもよい。いくつかの実施形態では、液体媒体20は界面活性剤を含有してもよい。例えば液体媒体20は、水および界面活性剤を含有するか、またはそれらで構成されてもよい。
【0128】
ウエハ2が浸漬している液体媒体20は、毛細管力によってウエハ2のクラック18に引き込まれ、したがってこれらのクラック18に導入される。
【0129】
第1の実施形態の方法では、液体媒体20をクラック18に導入するために、ウエハ2は液体媒体20中に完全に浸漬する。しかし、他の実施形態では、液体媒体20は、上記で詳述したように異なる方法でクラック18に導入されてもよい。例えば液体媒体20は、第1の面4上に噴霧されるかまたは注がれてもよい。
【0130】
ウエハ2を液体媒体20に浸漬させ、それによって液体媒体20をクラック18に導入した後、外部刺激を液体媒体20に加えて、クラック18内の媒体20の体積を増加させる。具体的には、
図7に示すウエハ2、シート15、環状フレーム17、液体媒体20および液体バリア22の組合せを冷凍室(図示せず)内に置き、それによって、クラック18に導入された液体媒体20を冷却して、媒体20の液相から固相への相転移を誘発する。例えば媒体20に浸漬したウエハ2は、冷凍室に1時間超保管されてもよい。いくつかの実施形態では、浸漬したウエハ2は、冷凍室に1時間以下保管されてもよい。したがって、媒体20が冷却されることによって液体媒体20が凍結し、すなわち、水状の液体媒体20は氷になる。液体媒体20のこのような相転移を誘発することによって、クラック18内の媒体20の体積は特に効率的な態様で増加する。
【0131】
あるいは、ウエハ2は、例えばウエハ2を浸漬槽から取り出した後、ペルチェ冷却素子などの熱電冷却素子が例として挙げられる冷却素子(図示せず)上に置かれてもよい。また、このようにして、クラック18に導入された液体媒体20が冷却されて、媒体20の液相から固相への相転移が誘発される。このような冷却素子を使用することによって、相転移を誘発するのに必要な冷却時間を、例えば数秒から数分の範囲の時間に大幅に短縮することができる。
【0132】
液体媒体20を冷却するために液体二酸化炭素(CO2)または液体窒素(N2)などの単一または複数の液体ガスを使用することによって、必要な冷却時間を例えば数秒にさらに短縮することができる。このようにして、媒体20の相転移を特に迅速かつ効率的な態様で誘発することができる。
【0133】
ウエハ2、シート15、環状フレーム17、媒体20および液体バリア22の組合せは、例えば1時間超冷凍室に保管された後に冷凍室から取り出され、ウエハ2は解凍される。特に、ウエハ2を加熱して、液体媒体20を凍結することで生成された氷を融解させてもよい。いくつかの実施形態では、液体媒体20を凍結するステップおよび凍結した液体媒体20を融解させるステップは、1回以上、好ましくは2回以上繰り返されてもよい。このようにして、液体媒体20がクラック18に完全に浸透することを特に確実に保証することができる。
【0134】
その後、融解した液体媒体20をウエハ2から除去してもよい。
【0135】
冷凍室は、液体媒体20を冷却するように構成された冷却手段の一例である。本実施形態では、冷凍室は、ワーク処理システム(図示せず)の外部刺激付与手段を構成する。
【0136】
ペルチェ冷却素子などの熱電冷却素子が例として挙げられる冷却素子は、液体媒体20を冷却するように構成された冷却手段のさらなる例である。いくつかの実施形態では、冷却素子は、ワーク処理システムの外部刺激付与手段を構成する。
【0137】
冷却手段のさらなる例は、液体二酸化炭素(CO2)または液体窒素(N2)などの単一または複数の液体ガスを使用することによって、液体媒体20を冷却するように構成されてもよい。また、このような冷却手段は、ワーク処理システムの外部刺激付与手段を構成してもよい。
【0138】
上記で詳述した態様でクラック18に受け入れられる媒体20の体積を増加させることにより、第1の面4に沿ったクラック18の拡張が増加し、クラック18が第1の面4に沿って伝播する原因となる。本実施形態では、冷却工程によって媒体20の体積が増加することにより、クラックが第1の面4に沿って伝播し、ウエハ2が完全に分割される原因となる。具体的には、
図8に示すように、ウエハ2は分割線14に沿って複数のダイ24に分割される。したがって、ウエハ2を分割するかまたは分離する追加のステップは必要ではない。
【0139】
このようにしてウエハ2が完全に分割された後、隣接するダイ24の間の距離を増大させるために、例えば拡張ドラム(図示せず)を使用することによってシート15を径方向に拡張してもよい。このようにして、意図しない相互の接触または摩擦によるダイ24の任意の損傷を確実に防止することができる。続いてダイ24は、さらなる処理、輸送または保管のためにシート15から取り上げられてもよい。
【0140】
他の実施形態では、クラック18に受け入れられる媒体20の体積を増加させることによって、ただしウエハ2を完全に分割することなく、クラック18が存在する領域、すなわち分割線14に沿った領域におけるウエハ2の強度を低下させてもよい。この場合、ウエハ2を分割するさらなるステップ、すなわちウエハ2を完全に分割するさらなるステップを行ってもよい。このステップは、外力をウエハ2に加えることを含むか、またはそれで構成されてもよい。特に、外力は、シート15を径方向に拡張してウエハ2を別個のダイ24に分割することによって、ウエハ2に加えられてもよい。
【0141】
第1の実施形態の方法では、外部刺激を液体媒体20に加えることは、液体媒体20を冷却することで構成される。しかし、上記で詳述したように、異なる種類の外部刺激を使用してもよい。例えば、外部刺激を液体媒体20に加えることは、液体媒体20を加熱することを含むか、またはそれで構成されてもよく、あるいは、電界および/または磁界を液体媒体20に印加することを含むか、またはそれで構成されてもよい。
【0142】
第1の実施形態のさらなる変更による方法(
図6参照)においてウエハ2を液体媒体20に浸漬させるステップを、
図9に示す。このステップは、ウエハ2内のクラック18が改質領域16から第2の面6にまで延在しており、それにより、液体媒体20が第2の面6を介してクラック18に導入されるという点で、第1の実施形態の方法の対応するステップ(
図7参照)とは異なる。
【0143】
図10~
図13を参照して、本発明の第2の実施形態を以下に説明する。
【0144】
第2の実施形態では、本発明の方法は、ワークとしてのインゴット102上で行われる(例えば、
図10および
図11参照)。特に、インゴット102は、SiインゴットもしくはSiCインゴットなどの半導体インゴットであってもよい。しかし、上記で詳述したように、異なる種類のワーク、特に、異なるワーク材料を使用してもよい。
【0145】
図10に示すように、インゴット102は、第1の面104すなわち表面と、第1の面104に対向する第2の面106すなわち裏面とを有する。第1の面104および第2の面106は、互いに略平行である。さらに、インゴット102は、インゴット102の円周に沿って第1の面104と第2の面106との間に延在する第3の面108、すなわち側面を有する。本実施形態では、インゴット102の第1の面104に素子は形成されない。しかし、他の実施形態では、素子を含む素子領域はインゴット102の第1の面104上に存在してもよい。
【0146】
パルスレーザ光LBは、インゴット102の第1の面104の側からインゴット102に照射される(
図10参照)。パルスレーザ光LBは、例えば1fs~1000nsの範囲のパルス幅を有してもよい。パルスレーザ光LBは、パルスレーザ光LBがインゴット102を透過することができる波長を有する。パルスレーザ光LBは、パルスレーザ光LBの焦点が第1の面104から第2の面106に向かう方向において第1の面104から離れた位置にある状態、すなわちインゴット102の内側に位置する状態で、第1の面104に沿った複数の位置においてインゴット102に照射される(
図10参照)。
【0147】
パルスレーザ光LBは、本発明の実施形態によるワーク処理システム(図示せず)のレーザ光照射手段(図示せず)によって、インゴット102に照射される。この実施形態では、レーザ光照射手段は、システムの改質領域形成手段を構成する。レーザ光照射手段は、第1の実施形態の方法で使用したものと同じであってもよい。パルスレーザ光LBをインゴット102に照射する工程の間、インゴット102は、ワーク処理システムの支持部材(図示せず)によって支持されてもよい。
【0148】
このようにパルスレーザ光LBをインゴット102に照射することにより、改質層110がインゴット102の内側に形成される(
図10および
図11参照)。改質層110は、複数の改質領域(図示せず)で構成される。改質層110は第1の面104に面しており、すなわち、改質層110は、第1の面104から第2の面106に向かう方向において第1の面104に対向している。改質層110は、第1の面104と略平行になるように形成される。
【0149】
改質層110の改質領域は、パルスレーザ光LBの照射によって改質されたインゴット102の領域である。特に、改質領域は、インゴット材料の構造がパルスレーザ光LBの照射によって改質された、および/またはインゴット102がパルスレーザ光LBの照射によって損傷した、インゴット102の領域であってもよい。改質層110の改質領域は、第1の実施形態の方法において形成された改質領域16と実質的に同じであってもよい。特に、改質層110の改質領域は、非晶質領域またはクラックが形成された領域であってもよい。
【0150】
図10および
図11に示すように、改質層110は、インゴット102の断面全体にわたって実質的に形成され、断面は、インゴット102の厚さ方向に対して略垂直である。改質層110は、インゴット102の厚さ方向において、第2の面106よりも第1の面104に近くなるように形成される。
【0151】
インゴット102内の改質領域で構成される改質層110を形成することにより、改質層110が形成される領域内のインゴット102に応力が誘発される。この応力は、改質領域から第3の面108まで延在するインゴット102内にクラック(図示せず)が生じる原因となる。クラックはインゴット102内の開口部の例であり、第3の面108に開口している。
【0152】
改質領域で構成される改質層110をインゴット102内に形成し、ひいてはクラックがインゴット102内に生じた後、インゴット102は、
図12に示すように液体媒体120に完全に浸漬される。具体的には、液体媒体120は容器122に受け入れられ、インゴット102は容器122内に置かれる。
【0153】
液体媒体120は、ワーク処理システム(図示せず)の液体媒体供給手段(図示せず)によって容器122に供給される。液体媒体供給手段は、容器122を含んでもよい。
【0154】
本実施形態では、液体媒体120は、例えば脱イオン水などの水である。しかし、上記で詳述したように、イソプロパノール、または例えば液体二酸化炭素(CO2)もしくは液体窒素(N2)などの液体ガスなど、他の種類の液体媒体を使用してもよい。いくつかの実施形態では、液体媒体120は界面活性剤を含有してもよい。例えば液体媒体120は、水および界面活性剤を含有するか、またはそれらで構成されてもよい。
【0155】
インゴット102が浸漬している液体媒体120は、毛細管力によってインゴット102のクラックに引き込まれ、したがってこれらのクラックに導入される。
【0156】
第2の実施形態の方法では、液体媒体120をクラックに導入するために、インゴット102は液体媒体120中に完全に浸漬する。しかし、他の実施形態では、液体媒体120は、上記で詳述したように異なる方法でクラックに導入されてもよい。例えば液体媒体120は、第3の面108上に噴霧されるかまたは注がれてもよい。
【0157】
インゴット102を液体媒体120に浸漬させ、それによって液体媒体120をクラックに導入した後、外部刺激を液体媒体120に加えて、クラック内の媒体120の体積を増加させる。具体的には、インゴット102を浸漬槽から取り出し、かつインゴット102を冷凍室(図示せず)内に置くことによって、クラックに導入された液体媒体120を冷却して、媒体120の液相から固相への相転移を誘発する。例えばインゴット102は、冷凍室に1時間超保管されてもよい。いくつかの実施形態では、インゴット102は、冷凍室に1時間以下保管されてもよい。したがって、媒体120が冷却されることによって液体媒体120が凍結し、すなわち、水状の液体媒体120は氷になる。液体媒体120のこのような相転移を誘発することによって、クラック内の媒体120の体積は特に効率的な態様で増加する。
【0158】
あるいは、
図12に示すインゴット102、容器122および液体媒体120の組合せを冷凍室に置き、それによって、クラックに導入された液体媒体120を冷却して、媒体120の液相から固相への相転移を誘発してもよい。例えばこの組合せは、冷凍室に1時間超保管されてもよい。いくつかの実施形態では、この組合せは、冷凍室に1時間以下保管されてもよい。
【0159】
インゴット102を例えば1時間超冷凍室に保管した後、インゴット102は冷凍室から取り出されて解凍される。特に、インゴット102を加熱して、液体媒体120を凍結することで生成された氷を融解させてもよい。いくつかの実施形態では、液体媒体120を凍結するステップおよび凍結した液体媒体120を融解させるステップは、1回以上、好ましくは2回以上繰り返されてもよい。このようにして、液体媒体120がクラックに完全に浸透することを特に確実に保証することができる。
【0160】
その後、溶融した液体媒体120をインゴット102から除去してもよい。
【0161】
冷凍室は、液体媒体120を冷却するように構成された冷却手段の一例である。本実施形態では、冷凍室は、ワーク処理システム(図示せず)の外部刺激付与手段を構成する。
【0162】
上記で詳述した態様でクラックに受け入れられる媒体120の体積を増加させることにより、第3の面108に沿ったクラックの拡張が増加し、クラックが第3の面108に沿って伝播する原因となる。本実施形態では、冷却工程によって媒体120の体積が増加することにより、クラックが第3の面108に沿って伝播し、インゴット102が改質層110に沿って完全に分離される原因となる。このようにしてインゴット102を分離することによって、ウエハなどの基板124が得られる。具体的には、
図13に示すように、基板124はインゴット102の残りの部分126から分離される。したがって、インゴット102を分割するかまたは分離する追加のステップは必要ではない。
【0163】
他の実施形態では、クラックに受け入れられる媒体120の体積を増加させることによって、ただしインゴット102を完全に分離することなく、クラックが存在する領域におけるインゴット102の強度を低下させてもよい。この場合、インゴット102を分離するさらなるステップ、すなわちインゴット102を完全に分離するさらなるステップを行ってもよい。このステップは、外力をインゴット102に加えることを含むか、またはそれで構成されてもよい。
【0164】
第2の実施形態の方法では、外部刺激を液体媒体120に加えることは、液体媒体120を冷却することで構成される。しかし、上記で詳述したように、異なる種類の外部刺激を使用してもよい。例えば、外部刺激を液体媒体120に加えることは、液体媒体120を加熱することを含むか、またはそれで構成されてもよく、あるいは、電界および/または磁界を液体媒体120に印加することを含むか、またはそれで構成されてもよい。