(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/04 20060101AFI20240904BHJP
C08F 20/14 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08F8/04
C08F20/14
(21)【出願番号】P 2023511115
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022013921
(87)【国際公開番号】W WO2022210254
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2021059923
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】和田 健二
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101775102(CN,A)
【文献】特表2015-505881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーと、アルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物とを含有する混合液に光を照射して、前記ポリマーから前記チオカルボニルチオ基を除去する工程
(ただし、RAFT重合ポリマーと光開始剤とエタノールとを含有する混合液に光を照射して前記光開始剤を光分解してフリーラジカルを発生させ、これを前記RAFT重合ポリマーに反応させて、チオカルボニルチオ基を除去する工程を除く。)を有する、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記混合液が、前記ポリマーのチオカルボニルチオ基に対して1~2.5のモル比で光開始剤を含む混合液を除いた混合液である、請求項1に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の水酸基含有化合物がフェノール化合物である、請求項1又は2に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記除去する工程を、50℃を超えて150℃以下の温度範囲で行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記光源が発光ダイオードである、請求項1
~4のいずれか1項に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記光源が波長300~500nmの光を発光する発光ダイオードである、請求項1
~5のいずれか1項に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記チオカルボニルチオ基を有するポリマーが可逆的付加-開裂連鎖移動重合ポリマーである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する下記工程を有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
[チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する工程]
鉛直方向に対して傾斜する回転軸を持ち、該回転軸を中心に反応容器
を連続回転させる回転型光重合反応装置を用いて、可逆的付加-開裂連鎖移動剤の存在下でモノマーを可逆的付加-開裂連鎖移動重合反応させて、チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する工程であって、
モノマーと可逆的付加-開裂連鎖移動剤とを含有する混合液を収容した前記反応容器を
、前記回転軸を中心に連続回転させることにより、前記混合液を攪拌しつつ反応容器の内壁に前記混合液を膜状に展延させて、膜状に展延した前記混合液に光源から光を照射する工程
【請求項9】
前記合成する工程で得られた重合反応物と前記アルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物とを混合して、前記除去する工程に供する前記混合液を調製する、請求項
8に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物の重合方法の1種である、可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)重合法は、分子量、分子量分布等を制御できる精密な重合反応を実現可能しうるリビングラジカル重合法として知られている。このRAFT重合法は、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物をRAFT剤といわれる連鎖移動剤の存在下で重合する方法であり、ポリマーの主鎖の末端にRAFT剤の開裂残基が結合した可逆的付加-開裂連鎖移動重合ポリマー(RAFT重合ポリマーともいう。)が得られる。例えば、RAFT重合法に好適に用いられるRAFT剤はチオカルボニルチオ基を含む化合物であるため、得られるRAFT重合ポリマーは主鎖の一方の末端に開裂残基としてチオカルボニルチオ基(-S-C(=S)-Z:ZはRAFT剤の種類によって定まる置換基を示す。)が結合している。
【0003】
RAFT重合法は、分子量等の特性に優れたRAFT重合ポリマーを製造できる点で有用な合成法であるが、RAFT重合ポリマーの化学構造に起因する、実用化に向けて解決すべき問題がある。すなわち、RAFT重合ポリマーに導入されるチオカルボニルチオ基は、RAFT重合ポリマーに色を呈する原因となる。また、経時により分解(劣化)しやすく、硫黄臭のある揮発性化合物を発生させる。そのため、RAFT重合ポリマーは、各種の用途はもちろん、優れた分子量等の優れた特性を活用した、光学用途、パターニング材料、ライフサイエンス用途等への実用化に至っていないのが現状である。
上記問題の解決に向けて種々の技術が研究、検討されている。例えば、特許文献1等には、溶媒にRAFTポリマーを含む溶液にフリーラジカル開始剤と水素原子ドナー源とを供給してラジカル誘起性のチオカルボニルチオ基を除去する方法、また、溶媒にRAFTポリマーを含む溶液にアミン、水酸化物、チオール等の求核試薬を供給してチオカルボニルチオ基を除去する方法、更には、溶媒にRAFTポリマーを含む溶液に紫外線を照射する方法等が記載されている。また、非特許文献1には、RAFTポリマーと、次亜リン酸塩等の水素ドナーと、開始剤とを含有する溶液を加熱することにより、チオカルボニルチオ基をラジカル誘起還元して除去する方法等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Macromolecules 2007, 40, p.4446‐4455
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び非特許文献1に記載の技術をRAFT重合ポリマーに適用することにより、上記問題をある程度解決することができると期待される。
しかし、これらの技術は、チオカルボニルチオ基を除去するのに、強還元性の反応条件が必要であり、また複数種の化合物を用いることもあって、温和な条件下においてチオカルボニルチオ基を高い除去率で簡便に除去できるとはいえず、改善の余地がある。更に、チオカルボニルチオ基の除去によりRAFT重合ポリマーの特性を損なうという懸念もある。
【0007】
本発明は、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーに光照射することにより、温和な条件下にも関わらず、高いチオカルボニルチオ基の除去率で簡便に、しかもポリマーの特性を維持した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを、製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、光RAFT重合法について検討を進めたところ、チオカルボニルチオ基を含むRAFT剤が光照射により分解してラジカル種を発生してRAFT重合反応が生起しうることを見出している。本発明者は、この知見を足掛かりとして、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーにおいても光照射によりチオカルボニルチオ基が光分解反応を起こす可能性に着目し、その系内に水素源となる化合物(水素元素(例えばラジカル、イオン等)を発生する化合物)を共存させれば、この化合物から発生する水素元素がポリマーに優先的(選択的)に結合して、ポリマーからチオカルボニルチオ基を除去(置換)ないしは変性(切断、変性)することが可能になることを着想した。
この着想を実現すべく、光照射によるチオカルボニルチオ基の分解反応の生起、及び共存させる化合物について本発明者は更に検討を重ねた結果、チオカルボニルチオ基を有するポリマーに光照射する際にアルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物を共存させることにより、光照射という温和で簡便な操作にもかかわらず、チオカルボニルチオ基を有するポリマーからチオカルボニルチオ基を高い除去率で、しかもチオカルボニルチオ基を有するポリマーの優れた特性を大きく損なわずに、除去できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーと、アルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物とを含有する混合液に光を照射して、ポリマーからチオカルボニルチオ基を除去する工程を有する、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
<2>光源が発光ダイオードである、<1>に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
<3>光源が波長300~500nmの光を発光する発光ダイオードである、<1>又は<2>に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
<4>チオカルボニルチオ基を有するポリマーが可逆的付加-開裂連鎖移動重合ポリマーである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
<5>チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する下記工程を有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
[チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する工程]
連続回転する反応容器を備えた回転型光重合反応装置を用いて、可逆的付加-開裂連鎖移動剤の存在下でモノマーを可逆的付加-開裂連鎖移動重合反応させて、チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する工程であって、
モノマーと可逆的付加-開裂連鎖移動剤とを含有する混合液を収容した反応容器を垂直方向に対して傾斜する回転軸を中心に連続回転させることにより、混合液を攪拌しつつ反応容器の内壁に混合液を膜状に展延させて、膜状に展延した混合液に光源から光を照射する工程
<6>上記合成する工程で得られた重合反応物とアルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物とを混合して、除去する工程に供する混合液を調製する、<5>に記載の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法は、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーからチオカルボニルチオ基を、光照射による温和な条件で簡便に、しかも高い除去率であるにもかかわらずポリマーの特性を損なわずに、除去できる。
すなわち、本発明は、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーに光照射することにより、温和な条件下にも関わらず、高いチオカルボニルチオ基の除去率で簡便に、しかもポリマーの特性を維持した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを、製造する方法を提供できる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本発明において、化合物の含有量、反応条件等について数値範囲を複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は特定の上限値及び下限値の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。
本発明において化合物(ポリマーを含む。)の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本発明において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。より具体的には、置換又は無置換を明記していない「アルキル基」は、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)と、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)とを包含する。このことは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
本発明において、ポリマーは、重合体を意味するが、いわゆる高分子化合物と同義である。
【0012】
[脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法]
<チオカルボニルチオ基を除去する工程>
本発明の、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの製造方法(本発明の製造方法ということがある。)は、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーと、アルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物とを含有する混合液に光を照射して、チオカルボニルチオ基を有するポリマーからチオカルボニルチオ基を除去する工程(単に除去する工程ということがある。)を行う。
除去する工程では、好ましくは温調しながら、後述する混合液に光を照射する。
なお、除去する工程は、所定量の混合液を反応容器に収容してチオカルボニルチオ基を除去する回分法で行うこともでき、また混合液を反応容器に連続若しくは間欠的に投入してチオカルボニルチオ基を除去する連続法で行うこともできる。
【0013】
上記除去する工程により、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマー(以下、チオカルボニルチオ基含有ポリマーということがある。)の特性を(大きく損なうことなく、又は同等以上に)維持しながらも、このポリマーから温和な条件下にも関わらず高い除去率で簡便にチオカルボニルチオ基を除去することが可能になる。
本発明の製造方法における、チオカルボニルチオ基の除去率は、水酸基含有化合物の使用量、反応条件等の変更により変動することもあるが、チオカルボニルチオ基含有ポリマーが含有するチオカルボニルチオ基の総量を100モル%のうち、95モル%以上を達成でき、好ましくは、後述する実施例の確認・同定方法では検出ないしは判別できないほどの高い除去率、例えば100モル%に近い除去率を達成できる。
本発明において、除去されるチオカルボニルチオ基(-S-C(=S)-Z:ZはRAFT剤等の種類によって定まる置換基を示す。)としては、特に制限されない。例えば、RAFT剤に由来する基としては、ジチオベンゾエート基、トリチオカルボネート基、ジチオカルバメート基、ジチオカルボネート基、キサンタート基等が挙げられる。
本発明において、「チオカルボニルチオ基を除去する(脱チオカルボニルチオ基化)」とは、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの主鎖の末端に結合しているチオカルボニルチオ基を他の基若しくは原子で置換すること、他の基若しくは原子に変換すること、又は不飽和結合を生成しつつチオカルボニルチオ基が脱離することをいう。具体的には、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの「チオカルボニルチオ基」をそのまま(一体として)除去(水素原子で置換)又は他の基若しくは原子に変換する態様に加えて、チオカルボニル基の一部を除去又は変換(チオカルボニルチオ基を切断若しくは変性)する態様(例えばチオカルボニルチオ基を切断して-SH基が残存する態様、チオカルボニルチオ基とβ位の水素原子が脱離して二重結合を生成する態様)も包含する。
【0014】
除去する工程は、通常の反応装置を用いて行うことができる。例えば、いずれも特に制限されない、反応容器と攪拌装置と光源とを用いて行うことができる。一例を挙げると、フラスコ等の反応容器内に投入した混合液を、磁気攪拌子又はメカニカルスターラーによる攪拌下に、反応容器の外部に設置した光源から光を反応容器(混合液)に向けて照射することができる。後述する合成する工程と連続実施、更には1ポット製造が可能となる点で、後述する回転型光重合反応装置を用いて行うことが好ましい。
【0015】
(反応条件)
除去する工程において、混合液への光の照射条件は、特に制限されず、チオカルボニルチオ基を光分解可能な条件に適宜に設定することができる。例えば、照度としては、0.1mW/cm2以上とすることができ、通常、0.1~10mW/cm2とする。
また、除去する工程においては、光源から照射される光以外の光、例えば外部光(装置設置環境における自然光又は人工光)を遮断することもできる。外部光を遮断する場合、暗室での実施、又は反応容器の煙幕被覆等が挙げられる。
【0016】
除去する工程においては混合液への光照射に際して、混合液を温調することが好ましい。混合液の温調(反応温度)は、特に制限されないが、より短時間で脱チオカルボニルチオ基化反応が進行する点で、室温(25℃)を超える温度(加熱下)であることが好ましく、例えば、40~150℃であることがより好ましく、50~90℃であることが更に好ましい。
除去する工程においては、反応容器内を脱気(脱酸素化)し、不活性ガスで置換することが好ましい。これにより、脱チオカルボニルチオ基化反応を阻害しうる酸素ガス等を除去して、不活性ガス雰囲気下で脱チオカルボニルチオ基化反応を速やかかつ均一に進行させることができ、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの特性の維持、更には高い再現性を実現できる。特に、除去する工程において、脱酸素化、更に不活性ガス置換すると、スケールアップしても、また工業設備での実施においても、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを、高い除去率を維持しつつも高い再現性で製造できる。不活性ガス置換は、反応容器内に充填する態様と、反応容器内に流通させる態様とを包含し、適宜の態様を選択できる。不活性ガスを流通する態様において、流通量は適宜に決定される。用いる不活性ガスとしては、通常用いられる各種ガスが挙げられ、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0017】
除去する工程における反応時間(光照射開始から反応停止までに要する時間)は、反応スケール、反応温度等を考慮して、脱チオカルボニルチオ基化反応の進行状況に応じて、例えば所定の除去率に到達するまでの時間に、決定すればよい。例えば、1~8時間とすることができる。
【0018】
除去する工程において、後述する回転型光重合反応装置を用いる場合、反応容器を連続回転させる条件は、特に制限されないが、後述する合成する工程での製造条件を適宜に適用できる。ただし、除去する工程においては、後述する、混合液量及び容器充填率を満たす必要はない。
【0019】
除去する工程において、脱チオカルボニルチオ基化反応は、光照射の停止(光源の除去)等により停止させることもできる。
【0020】
(製造スケール)
除去する工程は、光照射による簡便な方法であるため、後述する合成する工程とともに、製造スケールを大きくすること(工業的製造)もできる。具体的には、後述する合成する工程で説明した通りである。
すなわち、除去する工程を含む本発明の製造方法は、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを、高い除去率を維持しつつも、高い再現性でスケールアップ(工業的製造)を可能とする簡便な方法である。特に、後述する合成する工程と除去する工程とを含む本発明の製造方法は、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを高い再現性で、かつ工業的製造スケールで製造することができる。
【0021】
(混合液)
除去する工程においては、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーと、アルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物と、好ましくは溶媒とを含有する混合液を用いる。
- 主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマー -
除去する工程に用いる、主鎖の末端にチオカルボニルチオ基を有するポリマーは、単独重合体又は共重合体からなる主鎖の少なくとも一方の末端にチオカルボニルチオ基が結合しているものであれば特に制限されない。チオカルボニルチオ基含有ポリマーの主鎖は、公知の各種単独重合体又は共重合体からなるものを採用することができ、連鎖重合ポリマーからなる重合鎖を含むものが好ましく、後述する、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(モノマー)の単独重合体又は共重合体からなる重合鎖であることがより好ましい。
ここで、主鎖とは、ポリマーを構成する、それ以外のすべての分子鎖が、主鎖に対して枝分れ鎖若しくはペンダント基とみなしうる線状分子鎖をいう。枝分れ鎖若しくはペンダント基とみなす分岐鎖の質量平均分子量にもよるが、典型的には、ポリマーを構成する分子鎖のうち最長鎖が主鎖となる。ただし、ポリマーの末端が有する末端基は主鎖に含まない。一方、ポリマーの側鎖とは、主鎖以外の分岐鎖をいい、短鎖及び長鎖を含む。
また、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの製造方法も、特に制限されず、単独重合体又は共重合体に応じて適宜の製造方法を採用できる。チオカルボニルチオ基を主鎖の末端に導入でき、優れた特性を示す点で、チオカルボニルチオ基を含有するRAFT剤を用いてモノマーをRAFT重合する方法が好ましい。
【0022】
除去する工程に用いるチオカルボニルチオ基含有ポリマーとしては、後述する、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(モノマー)の単独重合体又は共重合体であって、単独重合体又は共重合体からなる主鎖の少なくとも一方の末端にチオカルボニルチオ基が結合しているものが好ましく挙げられる。チオカルボニルチオ基を主鎖の末端に導入でき、優れた特性を示す点で、チオカルボニルチオ基を含むRAFT剤を用いてモノマーをRAFT重合させて得られるRAFT重合ポリマーがより好ましく挙げられる。このRAFT重合ポリマーは、通常主鎖の一方の末端にチオカルボニルチオ基が結合している。RAFT重合法は公知のRAF重合方法を特に制限されることなく適用できるが、簡便で高い転化率を実現でき、しかも上記除去する工程との連続実施、更には1ポット製造を可能とする点で、後述する回転型光重合反応装置を用いたRAFT重合方法が好ましい。なお、回転型光重合反応装置を用いたRAFT重合方法で重合したRAFT重合ポリマーは、一旦単離精製して用いることもできる。後述する回転型光重合反応装置を用いたRAFT重合方法によって得られるRAFT重合ポリマーについては、後述する合成する工程において説明するポリマーと同義である。
混合液が含有するチオカルボニルチオ基含有ポリマーは1種でも2種以上でもよい。
【0023】
- 水酸基含有化合物 -
除去する工程においては、チオカルボニルチオ基の除去剤として水酸基含有化合物を用いる(チオカルボニルチオ基含有ポリマーと共存させる)。
本工程に用いる化合物は、アルコール化合物及びフェノール化合物の少なくとも1種の水酸基含有化合物である。チオカルボニルチオ基含有ポリマーへの光照射時に上記水酸基含有化合物を共存させると、チオカルボニルチオ基含有ポリマーからチオカルボニルチオ基を除去できる。チオカルボニルチオ基含有ポリマーの光照射によって、チオカルボニルチオ基含有ポリマーと水酸基含有化合物の水素原子が結合するためと考えられる。
【0024】
アルコール化合物としては、脂肪族飽和炭化水素又は脂肪族不飽和炭化水素のアルコール化合物が挙げられ、具体的には、脂肪族飽和炭化水素又は脂肪族不飽和炭化水素の1級、2級若しくは3級の炭素原子に水酸基が結合した化合物が挙げられる。
1級若しくは2級アルコール化合物を形成する脂肪族飽炭化水素若しくは脂肪族不飽和炭化水素の構成炭素原子数は、それぞれ、特に制限されず、例えば、1(2)~20とすることができ、3~18であることが好ましく、4~12であることがより好ましい。3級アルコール化合物を形成する脂肪族飽炭化水素若しくは脂肪族不飽和炭化水素の構成炭素原子数は、特に制限されず、例えば、4~20とすることができ、4~18であることが好ましく、4~12であることがより好ましい。1分子の1級アルコール化合物、2級アルコール化合物又は3級アルコール化合物が有する水酸基の数は、特に制限されないが、1~20個であることが好ましく、1~10個であることがより好ましく、1個又は2個が更に好ましい。1級アルコール化合物、2級アルコール化合物及び3級アルコール化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては下記置換基Zが挙げられる。
脂肪族飽和炭化水素及び脂肪族不飽和炭化水素は、それぞれ、炭素原子及び水素原子のみで構成される脂肪族化合物をいうが、本発明においては、各炭化水素を構成するメチレン基(-CH2-)の少なくとも1つを酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子で置換されていてもよい。すなわち、本発明に用いるアルコール化合物としては、アルキレングリコールの重合化合物若しくはモノアルキルエーテル化合物等を包含する。
【0025】
1級アルコール化合物としては、特に制限されず、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、2-エチルヘキサノール、2-プロピルヘプタノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-トリデカノール、n-エイコサノール、エチレングリコール等が挙げられる。
2級アルコール化合物としては、特に制限されず、具体的には、例えば、イソプロパノール、2-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、更には、s-ペンタノール、s-ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、s-ヘプタノール、s-オクタノール、s-ノナノール、s-デカノール、s-トリデカノール等が挙げられる。
3級アルコール化合物としては、特に制限されず、具体的には、例えば、tert-ブタノール、1-アダマンタノール、tert-アミルアルコール等が挙げられる。
【0026】
フェノール化合物としては、ベンゼン環、又はベンゼン環を含む多環が縮合した芳香族縮合環のベンゼン環に結合した水酸基を有する化合物等が挙げられる。中でも、ベンゼン環に結合した水酸基を有する化合物が好ましく、水素源の供給能(発生能)が高い、重合禁止剤(重合防止剤)として機能する化合物がより好ましい。フェノール化合物は水酸基以外の置換基Zを有していてもよい。置換基Zとしては、特に制限されないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基、イミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、スルホ基、スルファモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロ環基等が挙げられる。更に、置換基を有するフェノール化合物として、例えば、カルボキシ基を少なくとも1つ有するフェノール化合物、及びその水和物(ヒドロキシ安息香酸化合物)が挙げられる。
フェノール化合物としては、具体的には、ヒドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(ジブチルヒドロキシトルエン)、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、p-メトキシフェノール、4-tert-ブチルカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、2.4-ジニトロフェノール、1,8,9-トリヒドロキシアントラセン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、ケルセチン等が挙げられる。また、ヒドロキシ安息香酸化合物としては、具体的には、2-、3-若しくは4-ヒドロキシ安息香酸、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-若しくは3,6-等のジヒドロキシ安息香酸、2,3,4-、2,4,6-若しくは3,4,5-等のトリヒドロキシ安息香酸、又はこれらの水和物等が挙げられる。ここで、水和物が有する水分子の数は、各ヒドロキシ安息香酸がとりうる範囲であればよく、例えば1~3分子(1~3水和物)が挙げられる。
【0027】
水酸基含有化合物としては、水素源の供給能が高く、しかもチオカルボニルチオ基含有ポリマーの特性(狭い分子量分布)等を維持しながら高い除去率で脱チオカルボニルチオ基化できる点で、フェノール化合物が好ましく、ジブチルヒドロキシトルエン、p-メトキシフェノール、4-tert-ブチルカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキシ安息香酸化合物等がより好ましい。
混合液が含有する水酸基含有化合物は1種でも2種以上でもよく、アルコール化合物とフェノール化合物とを併用することもできる。
【0028】
- 溶媒 -
除去する工程に用いる混合液は、脱チオカルボニルチオ基化反応を均一に行える点で、好ましくは溶媒を含有する。
溶媒としては、チオカルボニルチオ基含有ポリマー及び水酸基含有化合物を溶解し、かつ脱チオカルボニルチオ基化反応を阻害しないものであれば特に制限されず、通常用いられるものを用いることができる。例えば、後述する、RAFT重合ポリマーの合成に用いる溶媒を挙げることができる。除去する工程を後述する合成する工程で得られた重合反応物を用いて行う場合、除去する工程に用いる混合液が含有する溶媒は、後述する合成する工程で用いた溶媒に由来するもの、更に後述する合成する工程とは別に本工程で新たに用いる溶媒も含む。なお、除去する工程に用いる溶媒は、後述する合成する工程で用いた溶媒と同じでも異なっていてもよい。
混合液が含有する溶媒は1種でも2種以上でもよい。
【0029】
- その他の成分 -
除去する工程は、混合液として、チオカルボニルチオ基含有ポリマー及び水酸基含有化合物、好ましくは溶媒を含有していればよく、その他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、特に制限されないが、ポリマーの製造に通常用いる成分、例えば、ラジカル重合開始剤、増感剤等が挙げられる。
ただし、除去する工程は、水酸基含有化合物の存在下で光照射により脱チオカルボニルチオ基化反応を行うため、混合液はチオカルボニルチオ基含有ポリマー及び水酸基含有化合物以外の成分を含有しないことが好ましい。本発明において、含有しないとは、混合液中の含有率量が1質量%以下で含有する態様を包含する。混合液がその他の成分を含有していないと、脱チオカルボニルチオ基化反応後に脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを簡便な精製作業で精製でき、高純度の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを得ることができる。特に、本発明は水酸基含有化合物の共存下に光照射することによってチオカルボニルチオ基を除去できるため、特許文献1(段落[0080])等に記載の開始剤を混合液に含有させる(反応系に共存させる)必要はない。
【0030】
混合液中の、チオカルボニルチオ基含有ポリマー及び水酸基含有化合物、更にその他の成分の合計含有量は、特に制限されず、例えば、10~90質量%であることが好ましく、混合液の粘度低下により脱チオカルボニルチオ基化反応がより均一に進行する点で、10~50質量%であることがより好ましい。
混合液中の、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの含有量は、上記合計含有量を考慮して適宜に設定され、例えば、5~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることが更に好ましい。除去する工程においては、後述する合成する工程で得られた重合反応物をそのまま用いて行うこともできるが、重合反応物を溶媒で希釈して上記範囲の含有量に設定することが、脱チオカルボニルチオ基化反応をより均一に進行させる点で、好ましい。
混合液中の、水酸基含有化合物の含有量は、チオカルボニルチオ基含有ポリマーにおけるチオカルボニルチオ基の含有量、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの使用量、更には上記合計含有量等を考慮して適宜に決定される。例えば、水酸基含有化合物は、チオカルボニルチオ基の含有量1モルに対して、1~500モルであることが好ましく、5~500モルであることがより好ましく、10~500モルであることが更に好ましい。
【0031】
混合液は、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、水酸基含有化合物と、チオカルボニルチオ基含有ポリマー(好ましくは後述する合成する工程で得られた重合反応物)と、好ましくは溶媒と、適宜にその他の成分とを、例えば通常用いる各種の混合機で予め混合することにより、調製することができる。
【0032】
(その他の工程)
本発明の製造方法においては、除去する工程の前に、チオカルボニルチオ基含有ポリマーを準備又は合成する工程を行うこともできる。チオカルボニルチオ基含有ポリマーとしってRAFT重合ポリマーを用いる場合、後述する合成する工程で合成することが好ましい。
また、除去する工程の後に脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを通常の方法により回収する。その際に、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを精製する工程を行うこともできる。反応終了後の不純物(副生物)としては、未反応の水酸基含有化合物、チオカルボニルチオ基の分解物等が想定されるが、本発明の製造方法では、不純物を分離しやすく、特に混合液がその他の成分を含有していない場合、不純物量は少なく、簡便な方法で精製でき、高純度の脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを得ることができる。脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの精製法としては、ポリマーの精製法として通常採用される各種方法を特に制限されることなく適用することができ、例えば、沈殿法(再沈法)、膜分離法等が挙げられる。
【0033】
(脱チオカルボニルチオ基化ポリマー)
次いで、本発明の製造方法(除去する工程)で得られる脱チオカルボニルチオ基化ポリマーについて説明する。
このポリマーは、チオカルボニルチオ基含有ポリマーのチオカルボニルチオ基が除去されていること以外は、チオカルボニルチオ基含有ポリマーと同じ分子構造(主鎖構造、側鎖構造)を有している。チオカルボニルチオ基が除去されているとは上述の通りであり、例えば、チオカルボニルチオ基が水素原子で置換されている態様、チオカルボニルチオ基が水素原子で置換された後に末端近傍の部分構造が不均化反応を起こして変性(異性体化、例えば末端ビニル基に変性)している態様、チオカルボニルチオ基とβ位の水素原子が脱離して二重結合を生成している態様、更にはチオカルボニルチオ基を切断してチオール基(-SH基)に変性されている態様(チオカルボニル基がチオール基で置換されている態様)、又はこれらが混合している態様等が挙げられる。ただし、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーとしてRFAT重合ポリマーを用いる場合、チオカルボニルチオ基以外のRAFT重合剤の開裂残基は、通常、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの他方の主鎖末端に結合している。
【0034】
脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、チオカルボニルチオ基を高い除去率で除去されているため、チオカルボニルチオ基に起因する着色及び分解の発生を防止できる。しかも、温和な条件で簡便な処理を施されて得られるため、チオカルボニルチオ基含有ポリマーの特性(例えば所定の分子量)、特に、狭い分子量分布で単峰性を維持している。具体的には、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布としては、RAFT重合ポリマーについて後述する数平均分子量及び分子量分布と同じ範囲を有する。そのため、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、分散材用途、接着材用途、エラストマー材用途、多孔質材料用途、ドラッグデリバリー用途、表面修飾剤用途等に用いることもできるが、光学用途、パターニング材料、ライフサイエンス用途等に好適に適用することができる。中でも、近年の高精度な微細パターンの形成が求められるレジスト用途(例えば、極紫外線(EUV光:Extreme Ultravioletを用いた高分解能レジスト)に特に好適に用いられる。
【0035】
<チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する工程>
チオカルボニルチオ基を有するポリマーを合成する工程(単に合成する工程ということがある。)は、特に制限されず、例えば、公知のRAF重合方法を特に制限されることなく適用できる。簡便で高い転化率を実現でき、しかも上記除去する工程との連続実施、更には1ポット製造が可能となる点で、以下に説明する、回転型光重合反応装置を用いたRAFT重合法を利用する工程が好ましい。
【0036】
(回転型光重合反応装置)
回転型光重合反応装置を用いたRAFT重合法を利用した合成する工程に用いる回転型光重合反応装置について、説明する。
【0037】
この工程に用いる回転型光重合反応装置は、垂直方向に対して傾斜する回転軸を持ち、この回転軸を中心に反応容器を連続回転させる中心軸体と、この中心軸体に着脱可能な反応容器とを備えている。この回転型光重合反応装置は、反応容器(特に、連続回転中に膜状液を形成させる容器上部)に光を照射する光源を備えていることが好ましい。光源の設置個所は、適宜に決定することができ、反応容器の内部に設置してもよく、反応容器の外部に設置してもよい。また、回転型光重合反応装置は、反応容器内の混合液の温度を調整する温調器、通常加熱器を備えていることが好ましく、温調器は、通常、反応容器の外部、例えば、後述する「混合液の液溜まり部」近傍の下部に配置される。
上記回転型光重合反応装置を用いると、反応容器を連続回転させるという簡便な方法及び条件で、しかも再現性よく後述する展延再混合攪拌状態を実現できる。
【0038】
上記回転軸体は、上記機能を果たすものであれば特に限定されず、筒状体、管状体等が挙げられる。この回転軸体は、上記回転軸を中心に反応容器を連続回転させる駆動装置に接続されており、装着した反応容器とともに自ら連続回転するものが好ましい。この回転軸体としては、混合液に対する耐性を有する材質(例えば、樹脂、ガラス、金属)で形成されたものを好適に挙げられる。回転軸の傾斜角は、反応容器の内壁面上で混合液を膜状に展延でき、かつ混合液が反応容器外に流出しない限り、特に制限されず、垂直方向に対して90°(水平)以上に設定することもできるが、例えば、0°(垂直)を超え90°未満に設定することが好ましく、10~80°に設定することがより好ましく、30~70°が更に好ましい。回転軸体(反応容器)の回転数は、反応容器内の混合液、特に後述する液溜まり部を攪拌でき、かつ反応容器の内壁面上で混合液を膜状に展延できる回転数に設定され、反応容器のサイズ、反応容器への混合液の収容量(後述する容器充填率)、更には混合液の粘度、重合温度等に応じて、適宜に決定される。本発明においては、例えば、5~1000rpm(回転/分)とすることができ、10~500rpmが好ましく、30~300rpmがより好ましい。
【0039】
反応容器は、通常用いられる容器が選択され、その材質は光源からの射出光を透過する材料、例えばガラス、石英、透明樹脂が選択される。例えば、反応容器としては、ガラス製の、各種のフラスコ、試験管等の管状体等が挙げられる。本発明において、光源からの射出光を透過するとは、例えばフラスコの材料となるガラス等の、混合中のRAFT剤を光分解反応させる照度を有する程度に透過するものであればよく、透過率100%に限られない。
【0040】
光源は、RAFT剤を光分解(開裂反応)させる波長をもつ光を含む射出光を発光するものであればよく、通常用いられる光源を特に制限されることなく用いることができる。RAFT剤を開裂反応させる波長は、RAFT剤の種類等に応じて決定され、例えば300~500nmの波長が選択される。チオカルボニルチオ基を有するRAFT剤に対しては400~500nmの波長が好ましく選択される。なお、光源が発光する光の特性は、後述する照射条件を実現できるものであれば、特に制限されない。このような光源としては、例えば、太陽光、蛍光管、発光ダイオード(LED)、水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、レーザー等が挙げられ、半値幅、光強度、寿命、コストの観点からLEDが好ましい。
また、光源は、1つ又は複数配置することができ、均一な照射を可能とする点で、反応容器の上部に対して複数配置することが好ましい。各光源は、射出される光が反応容器の上部(混合液が展延された部分)に向けて射出される状態に配置される。例えば、各光源の設置位置は、反応容器からの最短距離を0.5~20cmとすることができ、1~5cmとすることが好ましい。複数の光源の設置位置(間隔)等は適宜に決定できる。
なお、本発明においては、光源は回転型光重合反応装置の構成要素として説明しているが、回転型光重合反応装置とは別体に用いられる装置とすることもできる。
【0041】
温調器は、混合液の温度を調整可能なものであればよく、通常用いられる温調器を特に制限されることなく用いることができる。例えば、水浴、油浴、ヒーター、冷却装置等が挙げられる。
【0042】
上記構造を有する回転型光重合反応装置としては、公知の各種回転型反応装置を、そのまま、又は適宜に改良して、転用することができる。例えば、水平円筒型回転装置、V型回転装置、二重円錐型回転装置等の容器回転型装置(化学工学会編 化学工学便覧参照)、更には、ロータリーエバポレーター、クーゲルロール(ガラスチューブオーブン)又はこれらの改良装置が挙げられる。中でも、汎用性が高く、反応条件及び反応スケールに柔軟に対応できるロータリーエバポレーター又はその改良装置が好ましい。
【0043】
(合成する工程)
次に、合成する工程について具体的に説明する。
合成する工程では、後述する混合液を反応容器に投入若しくは収容して上記回転型光重合反応装置の中心軸体に装着する。又は上記回転型光重合反応装置の中心軸体に装着した反応容器に後述する混合液を投入若しくは収容する。
装着した反応容器の連続回転前又は連続回転後に、反応容器外に光源を設置し、必要に応じて反応容器の下部に温調器を配置して混合液を温調する。
次いで、駆動装置を起動して、垂直方向に対して傾斜する回転軸を中心にして反応容器を連続回転させながら、反応容器に対して光源から光を照射する。
【0044】
混合液の粘度、回転数等にもよるが、通常、上記一連の操作により、反応容器内に収容した混合液は攪拌されながら、その一部が回転する反応容器の内壁に膜状に展延される。より具体的には、混合液が反応容器内の垂直方向下方に集合して液溜まり部を形成し、液溜まり部から出現(回転浮上)する反応容器の内壁(面)に、液溜まり部に集合している混合液の一部が付着して、(薄)膜状に展延される。こうして展延された膜状液は、反応容器の内壁に付着したまま反応容器とともに回転して最終的に液溜まり部に再混合(合流、流入、混入)する。合成する工程ではこのような回転による混合液の展延(分離)及び再混合(展延再混合攪拌状態ということがある。)が繰り返して行われる。このとき、液溜まり部は、反応容器の連続回転と膜状液の再混合とにより、攪拌され、流動状態(混合状態)となる。この展延再混合攪拌状態は、混合液を収容した反応容器を上記回転型光重合反応装置に装着して連続回転させる際に、例えば混合液の濃度、回転数等を調整することにより、実現することができる。
膜状液の形成及び液溜まり部への再混合が連続して繰り返される合成する工程において、反応容器の内壁に混合液が膜状に展延するとは、内壁の全表面に混合液が付着して液膜を形成する態様だけでなく、内壁表面の一部に混合液が膜状、線状、液滴状等に付着している態様を包含する。すなわち、合成する工程においては、反応容器の内壁に付着した混合液が液溜まり部に再混合することにより、液溜まり部においてRAFT重合反応を生起させる程度のラジカル種を発生させる状態に混合液が反応容器の内壁に付着していればよいことを意味する。したがって、膜状液の形成量(内壁面積率)及び厚さは、特に制限されない。例えば、厚さとしては、マイクロメートルオーダーからミリメートルオーダーの範囲で適宜に設定される。
【0045】
合成する工程では、この連続回転状態(展延再混合攪拌状態)において、膜状液に光を照射する。これにより、膜状液中のRAFT剤が光分解(開裂)反応を起こして、ラジカル種を発生させ、液溜まり部に再混合することによりRAFT重合反応が進行する。このとき、液溜まり部は、光照射される必要はないが、膜状液を透過した光が照射されてもよい。
合成する工程は、所定量の混合液を反応容器に収容してRAFT重合反応させる回分法で行うこともでき、混合液を反応容器に連続若しくは間欠的に投入してRAFT重合反応させる連続法で行うこともできる。
【0046】
上記一連の操作により、狭い分子量分布、好ましくは所定の分子量を有するRAFT重合ポリマーとしてチオカルボニルチオ基含有ポリマーを高い転化率で簡便に製造できる。
転化率(反応率ともいう。)は、モノマーの転化率を示し、モノマーについて、反応容器内に供給された供給量に対する、RAFT重合反応が進行して反応した反応量との百分率:(反応量/供給量)×100(%)を示す。
合成する工程において(メタ)アクリルポリマーを製造する場合、転化率は、94%以上を達成でき、好ましくは96%以上を達成できる。ポリスチレンを製造する場合、転化率は、70%以上を達成でき、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上を達成できる。
本発明において、転化率は、NMR測定又は後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で求めることができる。通常、NMR測定で求めるが、NMR測定できない場合、NMR測定で転化率を算出できない場合、転化率を追跡する場合等のNMR測定が適切ではない場合等については、GPC測定で求める。いずれの方法においても、得られたチャートにおけるモノマーのピーク面積とRAFT重合ポリマーのピーク面積との合計に対する、RAFT重合ポリマーのピーク面積の割合(%)を算出することにより、決定する。NMR測定法においては、例えば、モノマーとしてメタクリル酸メチルを用いてポリマー(ポリメタクリル酸メチル)を製造する場合、重クロロホルム中で1H-NMRスペクトルチャートを取得し、モノマー及びポリマーそれぞれのメチルエステルのピーク面積(積分値)を用いて、転化率を計算する。NMRスペクトルチャートでモノマー及びポリマーそれぞれのピークが分割できず、転化率を算出できない場合等、GPC測定により転化率を算出する。
合成する工程で製造されるRAFT重合ポリマーの分子量及び分子量分布については、後述する。
【0047】
合成する工程により、狭い分子量分布を有するRAFT重合ポリマーを高い転化率で簡便に製造できる理由の詳細はまだ明らかではないが、推定を含めると、次のように考えられる。すなわち、本発明の製造方法では、RAFT重合反応がリビングラジカル重合反応に特有のラジカル種が失活しにくい利点を利用して、上述のように、RAFT剤の光分解反応(開始反応)を膜状液中で生起させ、各反応(成長反応、連鎖移動反応等)を主に液溜まり部で生起させることができる。そして、上記の、混合液の連続回転状態において、展延された膜状液内で発生させたラジカル種が再混合することによって、効果的に攪拌されている液溜まり部において、光分解反応に引き続いて生起する各反応が均一に進行することができるためと、考えられる。
【0048】
合成する工程においては、RAFT重合反応終了後、RAFT重合ポリマーを回収してもよく、反応終了後の反応混合物をそのまま上記除去する工程に用いることもできる。RAFT重合ポリマーを回収する場合、RAFT重合ポリマーを精製する工程を行うこともできる。反応終了後の不純物(副生物)としては、未反応のモノマーが想定されるが、合成する工程ではモノマーの転化率が高いため、特に混合液がその他の成分を含有していない場合、不純物量は少なく、除去する工程での反応を阻害しにくい。そのため、上記除去する工程にそのまま用いることができる。また、合成する工程で得られたRAFT重合ポリマーを、簡便な方法で精製でき、高純度で得ることができる。RAFT重合ポリマーの精製法としては、ポリマーの精製法として通常採用される各種方法を特に制限されることなく適用することができ、例えば、沈殿法(再沈法)、膜分離法等が挙げられる。
【0049】
(製造条件)
合成する工程において、反応容器を連続回転させる条件は、上記の連続回転状態を実現できる条件であればよく、適宜に設定されるが、好ましくは下記条件に設定される。
反応容器に収容する混合液量、及び容器充填率([混合液の収容量(mL)/反応容器の体積(mL)]×100(%))は、いずれも、反応容器の形状、体積、回転数、また中心軸の傾斜角、更には混合液の粘度(濃度)等を考慮して、適宜に設定される。混合液量(全量)としては、例えば、100mLの反応容器に対して混合液量3~80mL(容器充填率では3~80%)とすることができ、混合液量5~40mL(容器充填率では5~40%)とすることが好ましい。
反応容器の傾斜角及び回転数は、回転型光重合反応装置における回転軸の傾斜角と同義である。
【0050】
反応温度は、特に制限されないが、より短時間で製造できる点で、室温(25℃)を超える温度(加熱下)であることが好ましく、例えば、40~150℃であることがより好ましく、50~90℃であることが更に好ましい。
合成する工程においては、反応容器内を脱気(脱酸素化)し、不活性ガスで置換することが好ましい。これにより、RAFT重合反応を阻害しうる酸素ガス等を除去して、不活性ガス雰囲気下でRAFT重合反応を速やかかつ均一に進行させることができ、狭い分子量分布、更には高い再現性を実現できる。特に、合成する工程において、脱酸素化、更に不活性ガス置換すると、スケールアップしても、また工業設備での実施においても、狭い分子量分布を有するRAFT重合ポリマーを、高い転化率を維持しつつも、高い再現性で製造できる。不活性ガス置換は、反応容器内に充填する態様と、反応容器内に流通させる態様とを包含し、適宜の態様を選択できる。不活性ガスを流通する態様において、流通量は適宜に決定される。用いる不活性ガスとしては、通常用いられる各種ガスが挙げられ、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0051】
光の照射条件は、特に制限されず、RAFT剤を光分解させる条件に適宜に設定することができる。例えば、照度としては、0.1mW/cm2以上とすることができ、通常、0.1~10mW/cm2とする。発光極大波長としては300~500nmが好ましい。
なお、光源から射出された光は、好ましくは上記照射条件で膜状液に照射されれば、この膜状液を通過して液溜まり部に入射してもよい。
また、合成する工程においては、光源から照射される光以外の光、例えば外部光(装置設置環境における自然光又は人工光)を遮断することもできる。外部光を遮断する場合、暗室での実施、又は反応容器の煙幕被覆等が挙げられる。
【0052】
RFAT重合反応時間(光照射開始から反応停止までに要する時間)は、反応スケール、反応温度等を考慮して、RAFT重合反応の進行状況に応じて、例えば所定の転化率に到達するまでの時間に、決定すればよい。合成する工程ではRAFT重合反応を速やかに進行させることができるため、比較的短時間に設定することができる。例えば、1~8時間とすることができる。
【0053】
合成する工程において、RAFT重合反応は、モノマーの消費により停止するが、光照射の停止(光源の除去)等により停止させることもできる。
【0054】
(製造スケール)
合成する工程では、RAFT重合反応を均一に進行させることができるため、製造スケールを大きくすること(工業的製造)もできる。例えば、グラム単位の製造はもちろん、10グラム単位から100グラム単位での製造も可能となり、回転型光重合反応装置の規模によってはキログラムスケール以上での製造も可能となる。合成する工程は、スケールアップをしても、狭い分子量分布、好ましくは所定の分子量を有するRAFT重合ポリマーを、高い転化率を維持しつつ簡便に製造することができる。
【0055】
(混合液)
合成する工程に用いる混合液は、モノマーと、RAFT剤と、好ましくは溶媒と、適宜にその他の成分とを含有する。
【0056】
- モノマー -
モノマーは、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物であればよく、RAFT重合反応に通常用いられるモノマー、各種用途に適したRAFT重合ポリマーを形成可能なモノマーを、特に制限されることなく、用いることができる。
このようなモノマーとしては、(メタ)アクリルモノマー、芳香族ビニルモノマー、カルボン酸ビニルエステル、共役ジエンモノマー、オレフィンモノマー、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン等のビニルモノマーが挙げられるが、その反応性の観点から(メタ)アクリルモノマーであることが好ましい。
【0057】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
1-メチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-エチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-イソプロピルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-プロピルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-メチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、1-エチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、1-イソプロピルシクロへキシル(メタ)アクリレート、1-プロピルシクロへキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;
γ-ブチロラクトン(メタ)アクリレート等の環状エステル基を有する(メタ)アクリレート;
3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジルアクリレート、オキセタニル(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有する(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロカクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエチレングリコール(メタ)アクリレート類;
等を挙げることができる。
【0058】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、アルキルスチレン(o-、m-及びp-メチルスチレン等のビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン等のビニルキシレン、p-エチルスチレン、p-イソプロピルスチレン、p-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等)、α-アルキルスチレン(α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等)、アルコキシスチレン(o-、m-及びp-メトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン等)、ハロスチレン(o-、m-及びp-クロロスチレン、p-ブロモスチレン等)、スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩等を挙げることができる。
【0059】
カルボン酸ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の炭素数3~10のカルボン酸ビニルエステル等を挙げることができる。
【0060】
共役ジエンモノマーとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ネオプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ピペリエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、フェニル-1,3-ブタジエン等の炭素数4~16の共役ジエン等を挙げることができる。
【0061】
オレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(イソブテン等)等の炭素数2~10アルケン等を挙げることができる。
【0062】
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル等を挙げることができる。
ハロゲン化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等を挙げることができる。
【0063】
本発明は、分子量分布の狭いRAFT重合ポリマー及び脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造することができるため、(フォト)レジスト用ポリマーの製造に特に適している。そのため、モノマーは、酸の作用によりその一部が脱離して極性基を生じる基(「酸分解性基」ということがある。)を有するモノマーを含むことが好ましい。これにより、酸の作用により極性が増大してアルカリ現像液に対する溶解度が増大して、レジスト用ポリマーとして機能する。
【0064】
本発明の製造方法で製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーをレジスト用ポリマーとして用いる場合、好ましいレジスト用ポリマー、及びそれを構成する繰り返し単位について、以下に、具体的に説明する。本発明の製造方法に用いるモノマーは、後述する各繰り返し単位を導くビニルモノマー(エチレン性不飽和結合を含有するモノマー)であり、通常、各繰り返し単位のうち、レジスト用ポリマーの主鎖に組み込まれている炭素-炭素単結合構造をエチレン性不飽和結合(炭素-炭素二重結合構造)に置き換えた化合物である。
以下に記載する構成要件等の説明については、代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様には、限定されない。
本発明において、「有機基」とは、少なくとも1個の炭素原子を含む基をいう。
置換基としては、特に断らない限り、1価の置換基が好ましい。
【0065】
本発明において、「活性光線」又は「放射線」とは、例えば、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線(EUV光:Extreme Ultraviolet)、X線、及び、電子線(EB:Electron Beam)を意味する。
また、本発明において、「光」とは活性光線又は放射線を意味する。
本発明において、「露光」とは、特に断らない限り、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線、X線、及び、EUV光等による露光のみならず、電子線、及び、イオンビーム等の粒子線による描画も含む。
【0066】
本発明において、表記される2価の基の結合方向は、特に断らない限り制限されない。例えば、「X-Y-Z」なる式で表される化合物中の、Yが-COO-である場合、Yは、-CO-O-であってもよく、-O-CO-であってもよい。また、上記化合物は「X-CO-O-Z」であってもよく、「X-O-CO-Z」であってもよい。
【0067】
本発明において、酸解離定数(pKa)とは、水溶液中でのpKaを表し、具体的には、下記ソフトウェアパッケージ1を用いて、ハメットの置換基定数及び公知文献値のデータベースに基づいた値を、計算により求められる値である。
ソフトウェアパッケージ1: Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V8.14 for Solaris (1994-2007 ACD/Labs)。
また、pKaは、分子軌道計算法によっても求められる。この具体的な方法としては、熱力学サイクルに基づいて、水溶液中におけるH+解離自由エネルギーを計算することで算出する手法が挙げられる。H+解離自由エネルギーの計算方法については、例えばDFT(密度汎関数法)により計算することができるが、他にも様々な手法が文献等で報告されており、これに制限されるものではない。なお、DFTを実施できるソフトウェアは複数存在するが、例えば、Gaussian16が挙げられる。
本発明において、pKaとは、上述した通り、ソフトウェアパッケージ1を用いて、ハメットの置換基定数及び公知文献値のデータベースに基づいた値を計算により求められる値を指すが、この手法によりpKaが算出できない場合には、DFT(密度汎関数法)に基づいてGaussian16により得られる値を採用するものとする。
また、本発明において、pKaは、上述した通り「水溶液中でのpKa」を指すが、水溶液中でのpKaが算出できない場合には、「ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中でのpKa」を採用するものとする。
【0068】
「固形分」とは、レジスト膜を形成する成分を意味し、溶剤は含まれない。また、レジスト膜を形成する成分であれば、その性状が液体状であっても、固形分とみなす。
【0069】
<酸分解性樹脂>
レジスト用ポリマーとして好ましく用いられるポリマーは、酸分解性樹脂(以下、「樹脂(A)」ともいう。)であり、通常、この樹脂(A)を含むレジスト組成物として、用いられる。
なお、レジスト組成物は、ポジ型のレジスト組成物であっても、ネガ型のレジスト組成物であってもよい。また、アルカリ現像用のレジスト組成物であっても、有機溶剤現像用のレジスト組成物であってもよい。レジスト組成物は、典型的には、化学増幅型のレジスト組成物である。
【0070】
樹脂(A)は、通常、酸の作用により分解し極性が増大する基(以下「酸分解性基」ともいう。)を含み、酸分解性基を有する繰り返し単位を含むことが好ましい。
したがって、パターン形成方法において、典型的には、現像液としてアルカリ現像液を採用した場合には、ポジ型パターンが好適に形成され、現像液として有機系現像液を採用した場合には、ネガ型パターンが好適に形成される。
酸分解性基を有する繰り返し単位としては、後述する不飽和結合を含む酸分解性基を有する繰り返し単位が好ましい。
【0071】
(酸分解性基を有する繰り返し単位)
酸分解性基とは、酸の作用により分解して極性基を生じる基をいう。酸分解性基は、酸の作用により脱離する脱離基で極性基が保護された構造を有することが好ましい。つまり、樹脂(A)は、酸の作用により分解し、極性基を生じる基を有する繰り返し単位を有する。この繰り返し単位を有する樹脂は、酸の作用により極性が増大してアルカリ現像液に対する溶解度が増大し、有機溶剤に対する溶解度が減少する。
極性基としては、アルカリ可溶性基が好ましく、例えば、カルボキシル基、フェノール性水酸基、フッ素化アルコール基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、スルホニルイミド基、(アルキルスルホニル)(アルキルカルボニル)メチレン基、(アルキルスルホニル)(アルキルカルボニル)イミド基、ビス(アルキルカルボニル)メチレン基、ビス(アルキルカルボニル)イミド基、ビス(アルキルスルホニル)メチレン基、ビス(アルキルスルホニル)イミド基、トリス(アルキルカルボニル)メチレン基、及び、トリス(アルキルスルホニル)メチレン基等の酸性基、並びに、アルコール性水酸基が挙げられる。
中でも、極性基としては、カルボキシル基、フェノール性水酸基、フッ素化アルコール基(好ましくはヘキサフルオロイソプロパノール基)、又は、スルホン酸基が好ましい。
【0072】
酸の作用により脱離する脱離基としては、例えば、式(Y1)~(Y4)で表される基が挙げられる。
式(Y1):-C(Rx1)(Rx2)(Rx3)
式(Y2):-C(=O)OC(Rx1)(Rx2)(Rx3)
式(Y3):-C(R36)(R37)(OR38)
式(Y4):-C(Rn)(H)(Ar)
【0073】
式(Y1)及び式(Y2)中、Rx1~Rx3は、それぞれ独立に、アルキル基(直鎖状若しくは分岐鎖状)、シクロアルキル基(単環若しくは多環)、アルケニル基(直鎖状若しくは分岐鎖状)、又は、アリール基(単環若しくは多環)を表す。なお、Rx1~Rx3の全てがアルキル基(直鎖状若しくは分岐鎖状)である場合、Rx1~Rx3のうち少なくとも2つはメチル基であることが好ましい。
中でも、Rx1~Rx3は、それぞれ独立に、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表すことが好ましく、Rx1~Rx3は、それぞれ独立に、直鎖状のアルキル基を表すことがより好ましい。
Rx1~Rx3の2つが結合して、単環又は多環を形成してもよい。
Rx1~Rx3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、及び、t-ブチル基等の炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
Rx1~Rx3のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、並びに、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、及び、アダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。
Rx1~Rx3のアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、及び、アントリル基が挙げられる。
Rx1~Rx3のアルケニル基としては、ビニル基が好ましい。
Rx1~Rx3の2つが結合して形成される環としては、シクロアルキル基が好ましい。Rx1~Rx3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくは、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくは、アダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましく、炭素数5~6の単環のシクロアルキル基がより好ましい。
Rx1~Rx3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基は、環を構成するメチレン基の1つが、酸素原子等のヘテロ原子、カルボニル基等のヘテロ原子を含む基、又は、ビニリデン基で置き換わっていてもよい。また、これらのシクロアルキル基は、シクロアルカン環を構成するエチレン基の1つ以上が、ビニレン基で置き換わっていてもよい。
式(Y1)又は式(Y2)で表される基は、例えば、Rx1がメチル基又はエチル基であり、Rx2とRx3とが結合して上述のシクロアルキル基を形成している態様が好ましい。
レジスト組成物が、例えば、EUV露光用レジスト組成物である場合、Rx1~Rx3で表されるアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、及び、Rx1~Rx3の2つが結合して形成される環は、更に、置換基として、フッ素原子又はヨウ素原子を有しているのも好ましい。
【0074】
式(Y3)中、R36~R38は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。R37とR38とは、互いに結合して環を形成してもよい。1価の有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び、アルケニル基が挙げられる。R36は水素原子であることも好ましい。
なお、上記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及び、アラルキル基には、酸素原子等のヘテロ原子及び/又はカルボニル基等のヘテロ原子を含む基が含まれていてもよい。例えば、上記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及び、アラルキル基において、メチレン基の1つ以上が、酸素原子等のヘテロ原子及び/又はカルボニル基等のヘテロ原子を含む基で置き換わっていてもよい。
また、R38は、繰り返し単位の主鎖が有する別の置換基と互いに結合して、環を形成してもよい。R38と繰り返し単位の主鎖が有する別の置換基とが互いに結合して形成する基は、メチレン基等のアルキレン基が好ましい。
レジスト組成物が、例えば、EUV露光用レジスト組成物である場合、R36~R38で表される1価の有機基、及び、R37とR38とが互いに結合して形成される環は、更に、置換基として、フッ素原子又はヨウ素原子を有しているのも好ましい。
【0075】
式(Y4)中、Arは、芳香環基を表す。Rnは、アルキル基、シクロアルキル基、又は、アリール基を表す。RnとArとは互いに結合して非芳香族環を形成してもよい。Arとしては、アリール基が好ましい。
レジスト組成物が、例えば、EUV露光用レジスト組成物である場合、Arで表される芳香環基、並びに、Rnで表されるアルキル基、シクロアルキル基、及び、アリール基は、置換基としてフッ素原子又はヨウ素原子を有しているのも好ましい。
【0076】
繰り返し単位の酸分解性が優れる点から、極性基を保護する脱離基において、極性基(又はその残基)に非芳香族環が直接結合している場合、上記非芳香族環中の、上記極性基(又はその残基)と直接結合している環員原子に隣接する環員原子は、置換基としてフッ素原子等のハロゲン原子を有さないのも好ましい。
【0077】
酸の作用により脱離する脱離基は、他にも、3-メチル-2-シクロペンテニル基のような置換基(アルキル基等)を有する2-シクロペンテニル基、及び、1,1,4,4-テトラメチルシクロヘキシル基のような置換基(アルキル基等)を有するシクロヘキシル基でもよい。
【0078】
酸分解性基を有する繰り返し単位としては、式(A)で表される繰り返し単位も好ましい。
【0079】
【0080】
L1は、フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい2価の連結基を表し、R1は水素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、フッ素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいアルキル基、又は、フッ素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいアリール基を表し、R2は酸の作用によって脱離し、フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい脱離基を表す。ただし、L1、R1、及びR2のうち少なくとも1つは、フッ素原子又はヨウ素原子を有する。
L1は、フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい2価の連結基を表す。フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい2価の連結基としては、-CO-、-O-、-S-、-SO-、-SO2-、フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい炭化水素基(例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、及び、アリーレン基等)、及び、これらの複数が連結した連結基が挙げられる。中でも、L1としては、-CO-、アリーレン基、又は、-アリーレン基-フッ素原子若しくはヨウ素原子を有するアルキレン基-が好ましく、-CO-、又は、-アリーレン基-フッ素原子若しくはヨウ素原子を有するアルキレン基-がより好ましい。
アリーレン基としては、フェニレン基が好ましい。
アルキレン基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。アルキレン基の炭素数は特に制限されないが、1~10が好ましく、1~3がより好ましい。
フッ素原子又はヨウ素原子を有するアルキレン基に含まれるフッ素原子及びヨウ素原子の合計数は特に制限されないが、2以上が好ましく、2~10がより好ましく、3~6が更に好ましい。
【0081】
R1は、水素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、フッ素原子若しくはヨウ素原子が有していてもよいアルキル基、又は、フッ素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいアリール基を表す。
アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。アルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~10が好ましく、1~3がより好ましい。
フッ素原子又はヨウ素原子を有するアルキル基に含まれるフッ素原子及びヨウ素原子の合計数は特に制限されないが、1以上が好ましく、1~5がより好ましく、1~3が更に好ましい。
上記アルキル基は、ハロゲン原子以外の酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0082】
R2は、酸の作用によって脱離し、フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい脱離基を表す。フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい脱離基としては、上述した式(Y1)~(Y4)で表され、かつ、フッ素原子又はヨウ素原子を有する脱離基が挙げられる。
【0083】
酸分解性基を有する繰り返し単位としては、式(AI)で表される繰り返し単位も好ましい。
【0084】
【0085】
式(AI)において、Xa1は、水素原子、又は、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。Tは、単結合、又は、2価の連結基を表す。Rx1~Rx3は、それぞれ独立に、アルキル基(直鎖状又は分岐鎖状)、シクロアルキル基(単環又は多環)、アルケニル基(直鎖状又は分岐鎖状)、又は、アリール(単環又は多環)基を表す。ただし、Rx1~Rx3の全てがアルキル基(直鎖状、又は分岐鎖状)である場合、Rx1~Rx3のうち少なくとも2つはメチル基であることが好ましい。
Rx1~Rx3の2つが結合して、単環又は多環(単環又は多環のシクロアルキル基等)を形成してもよい。
【0086】
Xa1により表される、置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基又は-CH2-R11で表される基が挙げられる。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子等)、水酸基、又は、1価の有機基を表し、例えば、ハロゲン原子が置換していてもよい炭素数5以下のアルキル基、ハロゲン原子が置換していてもよい炭素数5以下のアシル基、及び、ハロゲン原子が置換していてもよい炭素数5以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素数3以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。Xa1としては、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基が好ましい。
【0087】
Tの2価の連結基としては、アルキレン基、芳香環基、-COO-Rt-基、及び、-O-Rt-基が挙げられる。式中、Rtは、アルキレン基、又は、シクロアルキレン基を表す。
Tは、単結合又は-COO-Rt-基が好ましい。Tが-COO-Rt-基を表す場合、Rtとしては、炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、-CH2-基、-(CH2)2-基、又は、-(CH2)3-基がより好ましい。
【0088】
Rx1~Rx3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、及び、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
Rx1~Rx3のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、及び、アダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。
Rx1~Rx3のアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、及び、アントリル基が挙げられる。
Rx1~Rx3のアルケニル基としては、ビニル基が好ましい。
Rx1~Rx3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基が好ましい。また、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、及び、アダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。中でも、炭素数5~6の単環のシクロアルキル基が好ましい。
Rx1~Rx3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基は、例えば、環を構成するメチレン基の1つが、酸素原子等のヘテロ原子、カルボニル基等のヘテロ原子を含む基、又は、ビニリデン基で置き換わっていてもよい。また、これらのシクロアルキル基は、シクロアルカン環を構成するエチレン基の1つ以上が、ビニレン基で置き換わっていてもよい。
式(AI)で表される繰り返し単位は、例えば、Rx1がメチル基又はエチル基であり、Rx2とRx3とが結合して上述のシクロアルキル基を形成している態様が好ましい。
【0089】
上記各基が置換基を有する場合、置換基としては、例えば、アルキル基(炭素数1~4)、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基(炭素数1~4)、カルボキシル基、及び、アルコキシカルボニル基(炭素数2~6)が挙げられる。置換基中の炭素数は、8以下が好ましい。
【0090】
式(AI)で表される繰り返し単位としては、酸分解性(メタ)アクリル酸3級アルキルエステル系繰り返し単位(Xa1が水素原子又はメチル基を表し、かつ、Tが単結合を表す繰り返し単位)が好ましい。
【0091】
酸分解性基を有する繰り返し単位の具体例を以下に示すが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、式中、Xa1は、H、CH3、CF3、又は、CH2OHを表し、Rxa及びRxbは、それぞれ独立に、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
樹脂(A)は、酸分解性基を有する繰り返し単位として、不飽和結合を含む酸分解性基を有する繰り返し単位を有していてもよい。
不飽和結合を含む酸分解性基を有する繰り返し単位としては、式(B)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0098】
【0099】
式(B)において、Xbは、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。Lは、単結合、又は、置換基を有してもよい2価の連結基を表す。Ry1~Ry3は、それぞれ独立に、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、単環状若しくは多環状のシクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又は、単環若しくは多環のアリール基を表す。ただし、Ry1~Ry3のうち少なくとも1つはアルケニル基、アルキニル基、単環若しくは多環のシクロアルケニル基、又は、単環若しくは多環のアリール基を表す。
Ry1~Ry3の2つが結合して、単環又は多環(単環又は多環のシクロアルキル基、シクロアルケニル基等)を形成してもよい。
【0100】
Xbにより表される、置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基又は-CH2-R11で表される基が挙げられる。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子等)、水酸基、又は、1価の有機基を表し、例えば、ハロゲン原子が置換していてもよい炭素数5以下のアルキル基、ハロゲン原子が置換していてもよい炭素数5以下のアシル基、及び、ハロゲン原子が置換していてもよい炭素数5以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素数3以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。Xbとしては、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基が好ましい。
【0101】
Lの2価の連結基としては、-Rt-基、-CO-基、-COO-Rt-基、-COO-Rt-CO-基、-Rt-CO-基、及び、-O-Rt-基が挙げられる。式中、Rtは、アルキレン基、シクロアルキレン基、又は、芳香環基を表し、芳香環基が好ましい。
Lとしては、-Rt-基、-CO-基、-COO-Rt-CO-基、又は、-Rt-CO-基が好ましい。Rtは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。芳香族基が好ましい。
【0102】
Ry1~Ry3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、及び、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
Ry1~Ry3のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又はノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、及び、アダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。
Ry1~Ry3のアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、及び、アントリル基が挙げられる。
Ry1~Ry3のアルケニル基としては、ビニル基が好ましい。
Ry1~Ry3のアルキニル基としては、エチニル基が好ましい。
Ry1~Ry3のシクロアルケニル基としては、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基の一部に二重結合を含む構造が好ましい。
Ry1~Ry3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、及び、アダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。中でも、炭素数5~6の単環のシクロアルキル基がより好ましい。
Ry1~Ry3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基、又は、シクロアルケニル基は、例えば、環を構成するメチレン基の1つが、酸素原子等のヘテロ原子、カルボニル基、-SO2-基及び-SO3-基等のヘテロ原子を含む基、ビニリデン基、又は、それらの組み合わせで置き換わっていてもよい。また、これらのシクロアルキル基又はシクロアルケニル基は、シクロアルカン環又はシクロアルケン環を構成するエチレン基の1つ以上が、ビニレン基で置き換わっていてもよい。
式(B)で表される繰り返し単位は、例えば、Ry1がメチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、又は、アリール基であり、Ry2とRx3とが結合して上述のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基を形成している態様が好ましい。
【0103】
上記各基が置換基を有する場合、置換基としては、例えば、アルキル基(炭素数1~4)、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基(炭素数1~4)、カルボキシル基、及び、アルコキシカルボニル基(炭素数2~6)が挙げられる。置換基中の炭素数は、8以下が好ましい。
【0104】
式(B)で表される繰り返し単位としては、好ましくは、酸分解性(メタ)アクリル酸3級エステル系繰り返し単位(Xbが水素原子又はメチル基を表し、かつ、Lが-CO-基を表す繰り返し単位)、酸分解性ヒドロキシスチレン3級アルキルエーテル系繰り返し単位(Xbが水素原子又はメチル基を表し、かつ、Lがフェニル基を表す繰り返し単位)、酸分解性スチレンカルボン酸3級エステル系繰り返し単位(Xbが水素原子又はメチル基を表し、かつ、Lが-Rt-CO-基(Rtは芳香族基)を表す繰り返し単位)である。
【0105】
不飽和結合を含む酸分解性基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、その上限値としては、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下が特に好ましい。
【0106】
不飽和結合を含む酸分解性基を有する繰り返し単位の具体例を以下に示すが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、式中、Xb及びL1は上記記載の置換基、連結基のいずれかを表し、Arは芳香族基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、水酸基、アルコキシ基、アシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン原子、エステル基(-OCOR’’’又は-COOR’’’:R’’’は炭素数1~20のアルキル基又はフッ素化アルキル基)、又は、カルボキシル基等の置換基を表し、R’は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、単環状若しくは多環状のシクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又は、単環若しくは多環のアリール基を表し、Qは酸素原子等のヘテロ原子、カルボニル基、-SO2-基及び-SO3-基等のヘテロ原子を含む基、ビニリデン基、又はそれらの組み合わせを表し、n及びmは0以上の整数を表す。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
酸分解性基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、その上限値としては、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましく、60モル%以下が特に好ましい。
【0112】
樹脂(A)は、以下のA群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位、及び/又は、以下のB群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を含んでいてもよい。
A群:以下の(20)~(29)の繰り返し単位からなる群。
(20)後述する、酸基を有する繰り返し単位
(21)後述する、酸分解性基及び酸基のいずれも有さず、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有する繰り返し単位
(22)後述する、ラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位
(23)後述する、光酸発生基を有する繰り返し単位
(24)後述する、式(V-1)又は下記式(V-2)で表される繰り返し単位
(25)後述する、式(A)で表される繰り返し単位
(26)後述する、式(B)で表される繰り返し単位
(27)後述する、式(C)で表される繰り返し単位
(28)後述する、式(D)で表される繰り返し単位
(29)後述する、式(E)で表される繰り返し単位
B群:以下の(30)~(32)の繰り返し単位からなる群。
(30)後述する、ラクトン基、スルトン基、カーボネート基、水酸基、シアノ基、及びアルカリ可溶性基から選ばれる少なくとも1種類の基を有する繰り返し単位
(31)後述する、脂環式炭化水素構造を有し、酸分解性を示さない繰り返し単位
(32)後述する、水酸基及びシアノ基のいずれも有さない、式(III)で表される繰り返し単位
【0113】
樹脂(A)は、酸基を有しているのが好ましく、後述するように、酸基を有する繰り返し単位を含むことが好ましい。なお、酸基の定義については、後段において酸基を有する繰り返し単位の好適態様と共に説明する。樹脂(A)が酸基を有する場合、樹脂(A)と光酸発生剤から発生する酸との相互作用性とがより優れる。この結果として、酸の拡散がより一層抑制されて、形成されるパターンの断面形状がより矩形化し得る。
【0114】
レジスト組成物がEUV用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合、樹脂(A)は上記A群からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有することが好ましい。
また、レジスト組成物がEUV用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合、樹脂(A)は、フッ素原子及びヨウ素原子の少なくとも一方を含むことが好ましい。樹脂(A)がフッ素原子及びヨウ素原子の両方を含む場合、樹脂(A)は、フッ素原子及びヨウ素原子の両方を含む1つの繰り返し単位を有していてもよいし、樹脂(A)は、フッ素原子を有する繰り返し単位とヨウ素原子を含む繰り返し単位との2種を含んでいてもよい。
また、レジスト組成物がEUV用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合、樹脂(A)が、芳香族基を有する繰り返し単位を有するのも好ましい。
レジスト組成物がArF用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合、樹脂(A)は上記B群からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有することが好ましい。
なお、レジスト組成物がArF用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合、樹脂(A)は、フッ素原子及び珪素原子のいずれも含まないことが好ましい。
また、レジスト組成物がArF用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合、樹脂(A)は、芳香族基を有さないことが好ましい。
【0115】
(酸基を有する繰り返し単位)
樹脂(A)は、酸基を有する繰り返し単位を有していてもよい。
酸基としては、pKaが13以下の酸基が好ましい。上記酸基の酸解離定数は、13以下が好ましく、3~13がより好ましく、5~10が更に好ましい。
樹脂(A)が、pKaが13以下の酸基を有する場合、樹脂(A)中における酸基の含有量は特に制限されないが、0.2~6.0mmol/gの場合が多い。中でも、0.8~6.0mmol/gが好ましく、1.2~5.0mmol/gがより好ましく、1.6~4.0mmol/gが更に好ましい。酸基の含有量が上記範囲内であれば、現像が良好に進行し、形成されるパターン形状に優れ、解像性にも優れる。
酸基としては、例えば、カルボキシル基、フェノール性水酸基、フッ化アルコール基(好ましくはヘキサフルオロイソプロパノール基)、スルホン酸基、スルホンアミド基、又はイソプロパノール基が好ましい。
また、上記ヘキサフルオロイソプロパノール基は、フッ素原子の1つ以上(好ましくは1~2つ)が、フッ素原子以外の基(アルコキシカルボニル基等)で置換されてもよい。
酸基としては、このように形成された-C(CF3)(OH)-CF2-も好ましい。また、フッ素原子の1つ以上がフッ素原子以外の基に置換されて、-C(CF3)(OH)-CF2-を含む環を形成してもよい。
酸基を有する繰り返し単位は、上述の酸の作用により脱離する脱離基で極性基が保護された構造を有する繰り返し単位、及び後述するラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位とは異なる繰り返し単位であるのが好ましい。
酸基を有する繰り返し単位は、フッ素原子又はヨウ素原子を有していてもよい。
【0116】
酸基を有する繰り返し単位としては、以下の繰り返し単位が挙げられる。
【0117】
【0118】
酸基を有する繰り返し単位としては、下記式(1)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0119】
【0120】
式(1)中、Aは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子、又はシアノ基を表す。Rは、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、又はアリールオキシカルボニル基を表し、複数個ある場合には同じであっても異なっていてもよい。複数のRを有する場合には、互いに共同して環を形成していてもよい。Rとしては水素原子が好ましい。aは1~3の整数を表す。bは0~(5-a)の整数を表す。
【0121】
以下、酸基を有する繰り返し単位を以下に例示する。式中、aは1又は2を表す。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
なお、上記繰り返し単位の中でも、以下に具体的に記載する繰り返し単位が更に好ましい。式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、aは2又は3を表す。
【0127】
【0128】
【0129】
酸基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。また、その上限値としては、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下が更に好ましい。
【0130】
(酸分解性基及び酸基のいずれも有さず、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有する繰り返し単位)
樹脂(A)は、上述した「酸分解性基を有する繰り返し単位」及び「酸基を有する繰り返し単位」とは別に、酸分解性基及び酸基のいずれも有さず、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有する繰り返し単位(以下、単位Xともいう。)を有していてもよい。また、ここで言う「酸分解性基及び酸基のいずれも有さず、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有する繰り返し単位」は、後述の「ラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位」、及び「光酸発生基を有する繰り返し単位」等の、A群に属する他の種類の繰り返し単位とは異なるのが好ましい。
【0131】
単位Xとしては、式(C)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0132】
【0133】
L5は、単結合、又はエステル基を表す。R9は、水素原子、臭素原子、フッ素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいアルキル基を表す。R10は、水素原子、臭素原子、フッ素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいアルキル基、フッ素原子、臭素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいシクロアルキル基、フッ素原子、臭素原子若しくはヨウ素原子を有していてもよいアリール基、又はこれらを組み合わせた基を表す。
【0134】
単位Xの含有量は、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、0モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、その上限値としては、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、50モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましく、40モル%以下が更に好ましい。
【0135】
樹脂(A)の繰り返し単位のうち、フッ素原子、臭素原子及びヨウ素原子の少なくとも1つを含む繰り返し単位の合計含有量は、樹脂(A)の全繰り返し単位に対して、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましく、40モル%以上が特に好ましい。上限値は特に制限されないが、例えば、樹脂(A)の全繰り返し単位に対して、100モル%以下である。
なお、フッ素原子、臭素原子及びヨウ素原子の少なくとも1つを含む繰り返し単位としては、例えば、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有し、かつ、酸分解性基を有する繰り返し単位、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有し、かつ、酸基を有する繰り返し単位、及びフッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を有する繰り返し単位が挙げられる。
【0136】
(ラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位)
樹脂(A)は、ラクトン基、スルトン基、及びカーボネート基からなる群から選択される少なくとも1種を有する繰り返し単位(以下、「単位Y」ともいう。)を有していてもよい。
単位Yは、水酸基、及びヘキサフルオロプロパノール基等の酸基を有さないのも好ましい。
【0137】
ラクトン基又はスルトン基としては、ラクトン構造又はスルトン構造を有していればよい。ラクトン構造又はスルトン構造は、5~7員環ラクトン構造又は5~7員環スルトン構造が好ましい。中でも、ビシクロ構造若しくはスピロ構造を形成する形で5~7員環ラクトン構造に他の環構造が縮環しているもの、又はビシクロ構造若しくはスピロ構造を形成する形で5~7員環スルトン構造に他の環構造が縮環しているもの、がより好ましい。
樹脂(A)は、下記式(LC1-1)~(LC1-21)のいずれかで表されるラクトン構造、又は下記式(SL1-1)~(SL1-3)のいずれかで表されるスルトン構造の環員原子から、水素原子を1つ以上引き抜いてなるラクトン基又はスルトン基を有する繰り返し単位を有することが好ましい。
また、ラクトン基又はスルトン基が主鎖に直接結合していてもよい。例えば、ラクトン基又はスルトン基の環員原子が、樹脂(A)の主鎖を構成してもよい。
【0138】
【0139】
上記ラクトン構造又はスルトン構造は、置換基(Rb2)を有していてもよい。好ましい置換基(Rb2)としては、炭素数1~8のアルキル基、炭素数4~7のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、及び酸分解性基が挙げられる。n2は、0~4の整数を表す。n2が2以上の時、複数存在するRb2は、異なっていてもよく、また、複数存在するRb2同士が結合して環を形成してもよい。
【0140】
式(LC1-1)~(LC1-21)のいずれかで表されるラクトン構造、又は式(SL1-1)~(SL1-3)のいずれかで表されるスルトン構造を含む基を有する繰り返し単位としては、例えば、下記式(AI)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0141】
【0142】
式(AI)中、Rb0は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Rb0のアルキル基が有していてもよい好ましい置換基としては、水酸基、及びハロゲン原子が挙げられる。
Rb0のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。Rb0は、水素原子又はメチル基が好ましい。
Abは、単結合、アルキレン基、単環又は多環の脂環式炭化水素構造を有する2価の連結基、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボキシル基、又はこれらを組み合わせた2価の基を表す。中でも、Abとしては、単結合、又は-Ab1-CO2-で表される連結基が好ましい。Ab1は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、又は単環若しくは多環のシクロアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、シクロヘキシレン基、アダマンチレン基、又はノルボルニレン基が好ましい。
Vは、式(LC1-1)~(LC1-21)のいずれかで表されるラクトン構造の環員原子から水素原子を1つ引き抜いてなる基、又は式(SL1-1)~(SL1-3)のいずれかで表されるスルトン構造の環員原子から水素原子を1つ引き抜いてなる基を表す。
【0143】
ラクトン基又はスルトン基を有する繰り返し単位に、光学異性体が存在する場合、いずれの光学異性体を用いてもよい。また、1種の光学異性体を単独で用いても、複数の光学異性体を混合して用いてもよい。1種の光学異性体を主に用いる場合、その光学純度(ee)は90以上が好ましく、95以上がより好ましい。
【0144】
カーボネート基としては、環状炭酸エステル基が好ましい。
環状炭酸エステル基を有する繰り返し単位としては、下記式(A-1)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0145】
【0146】
式(A-1)中、RA
1は、水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基(好ましくはメチル基)を表す。nは0以上の整数を表す。RA
2は、置換基を表す。nが2以上の場合、複数存在するRA
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Aは、単結合又は2価の連結基を表す。上記2価の連結基としては、アルキレン基、単環又は多環の脂環式炭化水素構造を有する2価の連結基、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボキシル基、又はこれらを組み合わせた2価の基が好ましい。Zは、式中の-O-CO-O-で表される基と共に単環又は多環を形成する原子団を表す。
【0147】
単位Yを以下に例示する。下記単位においてMeはメチル基を表す。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
単位Yの含有量は、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、1モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。また、その上限値としては、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、85モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましく、60モル%以下が特に好ましい。
【0152】
(光酸発生基を有する繰り返し単位)
樹脂(A)は、上記以外の繰り返し単位として、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基(以下、「光酸発生基」ともいう)を有する繰り返し単位を有していてもよい。
光酸発生基を有する繰り返し単位としては、式(4)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0153】
【0154】
R41は、水素原子又はメチル基を表す。L41は、単結合、又は2価の連結基を表す。L42は、2価の連結基を表す。R40は、活性光線又は放射線の照射により分解して側鎖に酸を発生させる構造部位を表す。
光酸発生基を有する繰り返し単位を以下に例示する。
【0155】
【0156】
そのほか、式(4)で表される繰り返し単位としては、例えば、特開2014-041327号公報の段落[0094]~[0105]に記載された繰り返し単位、及び国際公開第2018/193954号公報の段落[0094]に記載された繰り返し単位が挙げられる。
【0157】
光酸発生基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましい。また、その上限値としては、樹脂(A)中の全繰り返し単位に対して、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0158】
(式(V-1)又は下記式(V-2)で表される繰り返し単位)
樹脂(A)は、下記式(V-1)、又は下記式(V-2)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
下記式(V-1)、及び下記式(V-2)で表される繰り返し単位は上述の繰り返し単位とは異なる繰り返し単位であるのが好ましい。
【0159】
【0160】
式(V-1)及び下記式(V-2)において、
R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アシロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン原子、エステル基(-OCOR又は-COOR:Rは炭素数1~6のアルキル基又はフッ素化アルキル基)、又はカルボキシル基を表す。アルキル基としては、炭素数1~10の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が好ましい。
n3は、0~6の整数を表す。
n4は、0~4の整数を表す。
X4は、メチレン基、酸素原子、又は硫黄原子である。
式(V-1)又は(V-2)で表される繰り返し単位としては、例えば、国際公開第2018/193954号の段落[0100]に記載された繰り返し単位が挙げられる。
【0161】
(主鎖の運動性を低下させるための繰り返し単位)
樹脂(A)は、発生酸の過剰な拡散又は現像時のパターン崩壊を抑制できる点から、ガラス転移温度(Tg)が高い方が好ましい。Tgは、90℃より大きいことが好ましく、100℃より大きいことがより好ましく、110℃より大きいことが更に好ましく、125℃より大きいことが特に好ましい。なお、現像液への溶解速度が優れる点から、Tgは400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましい。
なお、本発明において、樹脂(A)等のポリマーのガラス転移温度(Tg)(以下「繰り返し単位のTg」)は、以下の方法で算出する。まず、ポリマー中に含まれる各繰り返し単位のみからなるホモポリマーのTgを、Bicerano法によりそれぞれ算出する。次に、ポリマー中の全繰り返し単位に対する、各繰り返し単位の質量割合(%)を算出する。次に、Foxの式(Materials Letters 62(2008)3152等に記載)を用いて各質量割合におけるTgを算出して、それらを総和して、ポリマーのTg(℃)とする。
Bicerano法は、Prediction of polymer properties, Marcel Dekker Inc, New York(1993)に記載されている。また、Bicerano法によるTgの算出は、ポリマーの物性概算ソフトウェアMDL Polymer(MDL Information Systems, Inc.)を用いて行うことができる。
【0162】
樹脂(A)のTgを大きくする(好ましくは、Tgを90℃超とする)には、樹脂(A)の主鎖の運動性を低下させることが好ましい。樹脂(A)の主鎖の運動性を低下させる方法は、以下の(a)~(e)の方法が挙げられる。
(a)主鎖への嵩高い置換基の導入
(b)主鎖への複数の置換基の導入
(c)主鎖近傍への樹脂(A)間の相互作用を誘発する置換基の導入
(d)環状構造での主鎖形成
(e)主鎖への環状構造の連結
なお、樹脂(A)は、ホモポリマーのTgが130℃以上を示す繰り返し単位を有することが好ましい。
なお、ホモポリマーのTgが130℃以上を示す繰り返し単位の種類は特に制限されず、Bicerano法により算出されるホモポリマーのTgが130℃以上である繰り返し単位であればよい。なお、後述する式(A)~式(E)で表される繰り返し単位中の官能基の種類によっては、ホモポリマーのTgが130℃以上を示す繰り返し単位に該当する。
【0163】
上記(a)の具体的な達成手段の一例としては、樹脂(A)に下記式(A)で表される繰り返し単位を導入する方法が挙げられる。
【0164】
【0165】
式(A)中、RAは、多環構造を含む基を表す。Rxは、水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。多環構造を含む基とは、複数の環構造を含む基であり、複数の環構造は縮合していても、縮合していなくてもよい。
式(A)で表される繰り返し単位の具体例としては、国際公開第2018/193954号の段落[0107]~[0119]に記載のものが挙げられる。
【0166】
上記(b)の具体的な達成手段の一例としては、樹脂(A)に下記式(B)で表される繰り返し単位を導入する方法が挙げられる。
【0167】
【0168】
式(B)中、Rb1~Rb4は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表し、Rb1~Rb4のうち少なくとも2つ以上が有機基を表す。
また、有機基の少なくとも1つが、繰り返し単位中の主鎖に直接環構造が連結している基である場合、他の有機基の種類は特に制限されない。
また、有機基のいずれも繰り返し単位中の主鎖に直接環構造が連結している基ではない場合、有機基の少なくとも2つ以上は、水素原子を除く構成原子の数が3つ以上である置換基である。
式(B)で表される繰り返し単位の具体例としては、国際公開第2018/193954号の段落[0113]~[0115]に記載のものが挙げられる。
【0169】
上記(c)の具体的な達成手段の一例としては、樹脂(A)に下記式(C)で表される繰り返し単位を導入する方法が挙げられる。
【0170】
【0171】
式(C)中、Rc1~Rc4は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表し、Rc1~Rc4のうち少なくとも1つが、主鎖炭素から原子数3以内に水素結合性の水素原子を含む基である。中でも、樹脂(A)の主鎖間の相互作用を誘発するうえで、原子数2以内(より主鎖近傍側)に水素結合性の水素原子を有することが好ましい。
式(C)で表される繰り返し単位の具体例としては、国際公開第2018/193954号の段落[0119]~[0121]に記載のものが挙げられる。
【0172】
上記(d)の具体的な達成手段の一例としては、樹脂(A)に下記式(D)で表される繰り返し単位を導入する方法が挙げられる。
【0173】
【0174】
式(D)中、「cyclic」は、環状構造で主鎖を形成している基を表す。環の構成原子数は特に制限されない。
式(D)で表される繰り返し単位の具体例としては、国際公開第2018/193954号の段落[0126]~[0127]に記載のものが挙げられる。
【0175】
上記(e)の具体的な達成手段の一例としては、樹脂(A)に下記式(E)で表される繰り返し単位を導入する方法が挙げられる。
【0176】
【0177】
式(E)中、Reは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。有機基としては、例えば、置換機を有してもよい、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びアルケニル基が挙げられる。
「cyclic」は、主鎖の炭素原子を含む環状基である。環状基に含まれる原子数は特に制限されない。
式(E)で表される繰り返し単位の具体例としては、国際公開第2018/193954号の段落[0131]~[0133]に記載のものが挙げられる。
【0178】
(ラクトン基、スルトン基、カーボネート基、水酸基、シアノ基、及びアルカリ可溶性基から選ばれる少なくとも1種類の基を有する繰り返し単位)
樹脂(A)は、ラクトン基、スルトン基、カーボネート基、水酸基、シアノ基、及びアルカリ可溶性基から選ばれる少なくとも1種類の基を有する繰り返し単位を有していてもよい。
樹脂(A)が有するラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位としては、上述した「ラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位」で説明した繰り返し単位が挙げられる。好ましい含有量も上述した「ラクトン基、スルトン基、又はカーボネート基を有する繰り返し単位」で説明した通りである。
【0179】
樹脂(A)は、水酸基又はシアノ基を有する繰り返し単位を有していてもよい。これにより基板密着性、現像液親和性が向上する。
水酸基又はシアノ基を有する繰り返し単位は、水酸基又はシアノ基で置換された脂環式炭化水素構造を有する繰り返し単位であることが好ましい。
水酸基又はシアノ基を有する繰り返し単位は、酸分解性基を有さないことが好ましい。水酸基又はシアノ基を有する繰り返し単位としては、特開2014-098921号公報の段落[0081]~[0084]に記載のものが挙げられる。
【0180】
樹脂(A)は、アルカリ可溶性基を有する繰り返し単位を有していてもよい。
アルカリ可溶性基としては、カルボキシル基、スルホンアミド基、スルホニルイミド基、ビスルスルホニルイミド基、及びα位が電子求引性基で置換された脂肪族アルコール(例えば、ヘキサフロロイソプロパノール基)が挙げられ、カルボキシル基が好ましい。樹脂(A)がアルカリ可溶性基を有する繰り返し単位を含むことにより、コンタクトホール用途での解像性が増す。アルカリ可溶性基を有する繰り返し単位としては、特開2014-098921号公報の段落[0085]及び[0086]に記載のものが挙げられる。
【0181】
(脂環式炭化水素構造を有し、酸分解性を示さない繰り返し単位)
樹脂(A)は、脂環式炭化水素構造を有し、酸分解性を示さない繰り返し単位を有してもよい。これにより液浸露光時にレジスト膜から液浸液への低分子成分の溶出が低減できる。このような繰り返し単位として、例えば、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ジアマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、又はシクロヘキシル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0182】
(水酸基及びシアノ基のいずれも有さない、式(III)で表される繰り返し単位)
樹脂(A)は、水酸基及びシアノ基のいずれも有さない、下記式(III)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
【0183】
【0184】
式(III)中、R5は少なくとも1つの環状構造を有し、水酸基及びシアノ基のいずれも有さない炭化水素基を表す。
Raは水素原子、アルキル基又は-CH2-O-Ra2基を表す。式中、Ra2は、水素原子、アルキル基又はアシル基を表す。
水酸基及びシアノ基のいずれも有さない、式(III)で表される繰り返し単位としては、特開2014-098921号公報の段落[0087]~[0094]に記載のものが挙げられる。
【0185】
(その他の繰り返し単位)
更に、樹脂(A)は、上述した繰り返し単位以外の繰り返し単位を有してもよい。
例えば樹脂(A)は、オキサチアン環基を有する繰り返し単位、オキサゾロン環基を有する繰り返し単位、ジオキサン環基を有する繰り返し単位、及びヒダントイン環基を有する繰り返し単位からなる群から選択される繰り返し単位を有していてもよい。
このような繰り返し単位を以下に例示する。
【0186】
【0187】
樹脂(A)は、上記の繰り返し構造単位以外に、ドライエッチング耐性、標準現像液適性、基板密着性、レジストプロファイル、解像性、耐熱性、及び感度等を調節する目的で様々な繰り返し構造単位を有していてもよい。
【0188】
樹脂(A)としては、(特に、レジスト組成物がArF用の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物として用いられる場合)繰り返し単位の全てが、エチレン性不飽和結合を有する化合物に由来する繰り返し単位で構成されることが好ましい。特に、繰り返し単位の全てが(メタ)アクリレート系繰り返し単位で構成されるのも好ましい。この場合、繰り返し単位の全てがメタクリレート系繰り返し単位であるもの、繰り返し単位の全てがアクリレート系繰り返し単位であるもの、繰り返し単位の全てがメタクリレート系繰り返し単位とアクリレート系繰り返し単位とによるもののいずれのものでも用いることができ、アクリレート系繰り返し単位が全繰り返し単位の50モル%以下であることが好ましい。
【0189】
混合液が含有するモノマーは、1種でも2種以上でもよい。2種以上のモノマーを含有する場合、それらの含有量比は、得られるRAFT重合ポリマーの特性、物性に応じて適宜に設定される。
【0190】
- RAFT剤 -
本発明の製造方法に用いる混合液は、連鎖移動剤としてRAFT剤を含有する。
RAFT剤としては、RAFT重合反応に通常用いられるRAFT剤を、特に制限されることなく、用いることができる。
このようなRAFT剤としては、例えば、チオカルボニルチオ(-C(=S)-S-)基を含む連鎖移動剤(シアノ基及びチオカルボニルチオ基を含む連鎖移動剤、シアノ基を含まず、チオカルボニルチオ基を含む連鎖移動剤)等が挙げられる。具体的には、ジチオベンゾエート連鎖移動剤、トリチオカルボネート連鎖移動剤、ジチオカルバメート連鎖移動剤、ジチオカルボネート連鎖移動剤、キサンタート連鎖移動剤等が挙げられる。RAFT剤としては、Aust. J. Chem.2012,65,p.985-1076に記載のものを用いることができ、この文献に記載の内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。中でも、重合活性、連鎖移動剤の保存安定性、ポリマーの保存安定性、コストの点で、トリチオカルボネート連鎖移動剤が好ましい。
【0191】
シアノ基及びチオカルボニルチオ基を含む連鎖移動剤としては、例えば、
2-シアノ-2-プロピル4-シアノベンゾジチオエート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジルエステル等のシアノ基を含むジチオベンゾエート連鎖移動剤;
4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノール、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル 4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノエート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(4-シアノ-4-ペンタノエートドデシルトリチオカーボネート)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(4-シアノ-4-ペンタノエートドデシルトリチオカーボネート)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(4-シアノ-4-ペンタノエートドデシルトリチオカーボネート)、シアノメチルドデシルトリチオカーボネート等のシアノ基を含むトリチオカルボネート連鎖移動剤;
シアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオエート、シアノメチルジフェニルカルバモジチオエート、1-スクシンイミジル-4-シアノ-4-[N-メチル-N-(4-ピリジル)カルバモチオイルチオ]ペンタノエート、2-シアノプロパン-2-イルN-メチル-N(ピリジン-4-イル)カルバモジチオエート、2’-Cyanobutan-2’-yl 4-Chloro-3,5-dimethylpyrazole-1-carbodithioate、シアノメチルメチル(4-ピリジル)カルバモジチオエート等のシアノ基を含むジチオカルバメート連鎖移動剤;
シアノ基を含むキサンタート連鎖移動剤等が挙げられる。
【0192】
シアノ基を含まず、チオカルボニルチオ基を含む連鎖移動剤としては、例えば、
2-フェニル-2-プロピルベンゾジチオエート、1-(メトキシカルボニル)エチルベンゾジチオエート、ベンジルベンゾジチオエート、エチル-2-メチル-2-(フェニルチオカルボニルチオ)プロピオネート、メチル-2-フェニル-2-(フェニルカルボノチオイルチオ)アセテート、エチル-2-(フェニルカルボノチオイルチオ)プロピオネート、ビス(チオベンゾイル)ジスルフィド等のシアノ基を含まないジチオベンゾエート連鎖移動剤;
2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、メチル-2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオネート、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(2-メチル-2-プロピオン酸ドデシルトリチオカーボネート)、ポリ(エチレングリコール)ビス[2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオネート]、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル2-(ドデシルチオカルボニルチオオイルチオ)-2-メチルプロピオネート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル 2-(ドデシルチオカルボニルチオオイルチオ)-2-メチルプロピオネート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル 2-(ドデシルチオカルボニルチオオイルチオ)-2-メチルプロピオネート、ポリ(エチレングリコール)ビス[2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオネート]、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィド、2-Methyl-2-[(dodecylsulfanylthiocarbonyl) sulfanyl]propanoic acid等のシアノ基を含まないトリチオカルボネート連鎖移動剤;
ベンジル 1H-ピロール-1-カルボジチオ酸、メチル2-プロピオネートメチル(4-ピリジニル)カルバモジチオエート、N,N’-ジメチルN,N’-ジ(4-ピリジニル)チウラムジスルフィド等のシアノ基を含まないジチオカルバメート連鎖移動剤;
シアノ基を含まないキサンタート連鎖移動剤等が挙げられる。
【0193】
混合液が含有するRAFT剤は、1種でも2種以上でもよい。
【0194】
- 溶媒 -
本発明の製造方法に用いる混合液は、RAFT重合反応を更に均一に行える点で、好ましくは溶媒を含有する。
溶媒としては、モノマー及びRAFT剤を溶解し、かつRAFT重合反応を阻害しないものであれば特に制限されず、通常用いられるものを用いることができる。
このような溶媒としては、例えば、グリコール、エステル、ケトン、エーテル、アミド、スルホキシド、炭化水素等の各化合物の溶媒、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0195】
グリコール化合物の溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。エステル化合物の溶媒としては、例えば、乳酸エチル等の乳酸エステル化合物の溶媒;3-メトキシプロピオン酸メチル等のプロピオン酸エステル化合物の溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物の溶媒等が挙げられる。
ケトン化合物の溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
エーテル化合物の溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル等が挙げられる。
アミド化合物の溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
スルホキシド化合物の溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
炭化水素化合物の溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン等の、上記脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素のハロゲン化物等が挙げられる。
この中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール化合物の溶媒;乳酸エチル等のエステル化合物の溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン化合物の溶媒;ジメチルアセトアミド等のアミド化合物の溶媒;クロロベンゼン等の炭化水素化合物の溶媒;及びこれらの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0196】
混合液が含有する溶媒は1種でも2種以上でもよい。
【0197】
- その他の成分 -
合成する工程は、混合液として、モノマー及びRAFT剤、好ましくは溶媒を含有していればよく、その他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、特に制限されないが、ポリマーの製造に通常用いる成分、例えば、ラジカル重合開始剤、増感剤等が挙げられる。
ただし、合成する工程は、光照射によりRAFT剤を分解してRAFT重合ポリマーを製造するため、混合液はモノマー及びRAFT剤以外にRAFT重合反応に関与する成分を含有しないことが好ましい。本発明において、含有しないとは、混合液中の含有率量が1質量%以下で含有する態様を包含する。混合液がモノマー及びRAFT剤以外にRAFT重合反応に関与する成分を含有していないと、RAFT重合反応後にRAFT重合ポリマーを簡便な精製作業で精製でき、高純度のRAFT重合ポリマーが得られる。
【0198】
混合液中の、モノマー及びRAFT剤、更にその他の成分の合計含有量は、特に制限されず、例えば、10~100質量%であることが好ましく、20~90質量%であることがより好ましい。合成する工程ではRAFT重合反応を均一に進行させることができるため、混合液中の上記合計含有量を高く(高濃度に)設定することができ、例えば、30質量%以上とすることができ、好ましくは30~90質量%とすることができる。
混合液中の、モノマーの含有量は、上記合計含有量を考慮して適宜に設定され、例えば、20~90質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましい。本発明の製造方法では、モノマーの含有量を高く設定することもでき、例えば、30質量%以上とすることができ、好ましくは30~90質量%とすることができる。
混合液中の、RAFT剤の含有量は、上記合計含有量を考慮して適宜に設定され、例えば、0.1~30質量%であることが好ましく、0.2~20質量%であることがより好ましい。また、混合液において、モノマーの含有量とRAFT剤の含有量とのモル比[モノマーの含有量(モル)/RAFT剤の含有量(モル)]は、上記各含有量を考慮して適宜に設定され、例えば、10~10000であることが好ましく、20~1000であることがより好ましく、20~500であることがより好ましい。
その他の成分の含有量は、特に制限されず、適宜に設定され、例えば上記合計含有量中、0~5質量部とすることができる。
【0199】
混合液は、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、モノマー及びRAFT剤、好ましくは溶媒、適宜にその他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で予め混合することにより、調製することができる。また、反応容器に上記各成分を投入した後に連続回転することにより、反応容器内で調製することもできる。
【0200】
- RAFT重合ポリマー -
次いで、本発明の製造方法で得られるRAFT重合ポリマーについて説明する。
このRAFT重合ポリマーは、上記モノマーの単独重合体又は共重合体であり、モノマーの種類に応じて種々のポリマーとなる。例えば、連鎖重合ポリマーが挙げられ、(メタ)アクリルポリマー、ビニルポリマー、炭化水素ポリマー、ハロゲン化ポリマー等が挙げられる。RAFT重合ポリマーの分子構造は、通常のRAFT重合法で製造可能な分子構造を採ることができ、例えば、直鎖状、分岐状(グラフト構造、多分岐構造)等が挙げられ、RAFT重合ポリマーの特性、用途等に応じて適宜に選択される。
【0201】
RAFT重合ポリマーは、通常のRAFT重合法で製造されるポリマーと同様に、モノマーの重合鎖の端部にRAFT剤の開裂残基が結合している。RAFT剤の開裂残基はRAFT剤の種類によって決定される。例えば、チオカルボニルチオ基を含むRAFT剤を用いる場合、RAFT重合ポリマーの主鎖の一方の端部には、開裂残基としてチオカルボニルチオ基が結合し、他方の端部には、チオカルボニルチオ基以外の開裂残基が結合している。
例えば、RAFT剤として、上記の、シアノ基及びチオカルボニルチオ基を含む連鎖移動剤を使用した場合に得られるRAFT重合ポリマーは、チオカルボニルチオ基以外の開裂残基としてシアノ基を含む残基を末端(ポリマー末端)に有するポリマーである。合成する工程においては、分子量分布の狭いRAFT重合ポリマーが得られるため、溶媒(例えばレジスト用溶媒)に対する溶解性が高くなる。
一方、RAFT剤として、上記の、シアノ基を含まず、チオカルボニルチオ基を含む連鎖移動剤を使用した場合、シアノ基を含む残基を末端に有しないRAFT重合ポリマーが得られる。
【0202】
合成する工程で得られるRAFT重合ポリマーの数量平均分子量(Mn)は特に限定されないが、例えば、1000~50000であることが好ましく、2000~50000であることがより好ましく、3000~40000であることが更に好ましく、3000~20000であることが特に好ましい。
RAFT重合ポリマーの分子量分布(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、狭くすることができ、例えば、1.23以下とすることができ、1.20以下であることが好ましい。
本発明の製造方法で得られるRAFT重合ポリマーの分子量分布のピーク形状は、通常、単峰性となる。
【0203】
- 分子量の測定 -
本発明において、ポリマーの質量平均分子量(Mw)又は数平均分子量(Mn)は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算して得られた質量平均分子量又は数平均分子量をいう。その測定法としては、下記方法及び条件により測定した値とする。
装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
検出器:示差屈折計(RI(Refractive Index)検出器)
プレカラム:TSKGUARDCOLUMN HXL-L 6mm×40mm(東ソー社製)
サンプル側カラム:以下3本を順に直結(全て東ソー社製)
・TSK-GEL GMHXL 7.8mm×300mm
・TSK-GEL G4000HXL 7.8mm×300mm
・TSK-GEL G2000HXL 7.8mm×300mm
リファレンス側カラム:TSK-GEL G1000HXL 7.8mm×300mm
恒温槽温度:40℃
移動層:THF
サンプル側移動層流量:1.0mL/分
リファレンス側移動層流量:1.0mL/分
試料濃度:0.1質量%
試料注入量:100μL
データ採取時間:試料注入後5分~45分
サンプリングピッチ:300msec
【実施例】
【0204】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0205】
<回転型光重合反応装置の準備>
本発明の製造方法の実施において、基本装置構成としてロータリーエバポレーター(N-1110、EYELA製)を採用し、このロータリーエバポレーターに装着する反応容器の下部に水浴を設置するとともに、LED照明(TLWA165x41-22BD-4、9.6W、アイテック社製)2基を反応容器の上部に光照射可能となるように反応容器から最短距離2cmの位置に並列に設置して、回転型光重合反応装置を組み立てた。光源の発光スペクトルは、発光極大波長462nm、半値全幅(FWHM)が21nm、発光範囲430~510nmである。USB4000小型ファイバ光学分光器(オーシャンオプティクス社製)を用い、フラスコ表面の照度を測定した結果、波長462nmで0.4mW/cm2であった。
この回転型光重合反応装置における回転軸及び反応容器の傾斜角を垂直方向に対して60°に設定した。
【0206】
<実施例1>
(チオカルボニルチオ基含有ポリマーを合成する工程)
反応容器として採用した100mLナスフラスコに、メタクリル酸メチル(MMA)5.62g、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル(RAFT-1)234mg、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.62gを投入した。混合液中のモノマーの含有量とRAFT剤の含有量とのモル比[モノマーの含有量(モル)/RAFT剤の含有量(モル)]は100.2であり、反応容器の体積を実測した値を用いて算出した容器充填率(以下。同じ)は7%であった。
このナスフラスコを暗室に設置した上記回転型光重合反応装置に装着し、この装置内を脱気-窒素パージを3回繰り返して行った後、窒素気流下、80℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数190rpmで連続回転させた(これにより混合液を調製した)。連続回転しているナスフラスコ中において、混合液は、その大部分が反応容器内の下部に液溜まり部となり、混合液の一部が液溜まり部から出現するナスフラスコの内壁面に付着して薄膜状に展延され、液溜まり部に再混合する「展延再混合攪拌状態」となっていた。
ナスフラスコの連続回転を引き続き行って混合液の上記展延再混合攪拌状態を維持しながら、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を薄膜状の混合液(膜状液)に向かって3時間照射して、RAFT重合反応を行った。その後、水浴を除去して、ナスフラスコを引き続き連続回転させながら重合反応物を室温まで放冷した。
ナスフラスコの回転を止めて、チオカルボニルチオ基を有するRAFT重合ポリマーを含む重合反応物(RAFT重合ポリマー溶液1)を得た。このRAFT重合ポリマー溶液1の一部をサンプリングして、核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定して転化率を算出し、更に上記測定方法及び条件で得られたRAFT重合ポリマーの平均分子量(Mw及びMn)を測定して分子量分布を算出した。その結果、モノマーの転化率は94%であり、合成したRAFT重合ポリマーの、数平均分子量(Mn)は8850、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.19の単峰性あった。
【0207】
(除去する工程)
上記「合成する工程」で得られたRAFT重合ポリマー溶液1を収容する上記フラスコに、水酸基含有化合物としてジブチルヒドロキシトルエン2.81g(チオカルボニルチオ基1モルに対して23モル)、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート16.85gを加えて、上記回転型光重合反応装置に再度装着した。その後、フラスコ内を脱気-窒素パージして、アルゴン気流下で、80℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数190rpmで連続回転させた(これにより混合液を調製した)。
ナスフラスコを引き続き連続回転させながら、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を混合液に向かって3時間照射して、脱チオカルボニルチオ基化(チオカルボニルチオ基の除去)反応を行った。その後、反応混合液を室温まで放冷した後に、メタノール230mL中に10分かけて滴下し、析出した粉体をろ取、乾燥した。
こうして、チオカルボニルチオ基が除去されたポリマーを白色粉体として5.44g得た。
上記RAFT重合ポリマーと同様にして測定した結果、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は11000、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.09(単峰性)であった。また、核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR、400MHz、DMSO-d6)を測定したところ、チオカルボニルチオ基に含まれるドデシル基のシグナルが確認されなかった。マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS測定)からポリマー末端は、一方がRAFT剤の開始剤側ユニット(ニトリルを含む側)であり、他方が不均化末端(末端ビニル基)であることが確認できた。これらの結果からRAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基を除去できたことが分かる。
【0208】
<実施例2~5>
実施例1の「除去する工程」において、水酸基含有化合物の種類及び使用量を表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、いずれの実施例においても、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として表1に示す収量で得た。
各実施例において製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0209】
<実施例6>
実施例1の「除去する工程」において、上記回転型光重合反応装置に設置したLED照明1基を取り外して反応条件を表1に変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として5.30g得た。
本実施例において製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0210】
<実施例7>
実施例1の「除去する工程」において、水酸基含有化合物の種類及び使用量、更にPGMEAの使用量(添加量)を表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として5.30g得た。
本実施例において製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0211】
<実施例8>
実施例1の「除去する工程」において、水酸基含有化合物の種類及び使用量を表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として5.30g得た。
本実施例において製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0212】
<実施例9>
実施例9は、「除去する工程」を、上記回転型光重合反応装置を用いずに磁気攪拌子を用いたマグネットスターラー法にて混合液を攪拌しながら、行った。
すなわち、実施例1の「合成する工程」で得られたRAFT重合ポリマー溶液1を収容する上記フラスコに、水酸基含有化合物としてジブチルヒドロキシトルエン2.81g(チオカルボニルチオ基1モルに対して23モル)、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート16.85gを加え、更に磁気攪拌子(長さ:20mm)を投入した。このナスフラスコを暗室に設置したマグネットスターラー(商品名:KF-82M、矢沢科学社製)上に固定して、フラスコ内を脱気-窒素パージして、アルゴン気流下で、80℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数200rpmで攪拌した(これにより混合液を調製した)。この状態で、LED照明(TLWA165x41-22BD-4、アイテック社製)をフラスコ側面から2cmの位置に並列に2基設置して、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を混合液に5時間を照射し、脱チオカルボニルチオ基化を行った。その後、反応混合液を室温まで放冷した後に、メタノール230mL中に10分かけて滴下し、析出した粉体をろ取、乾燥した。
こうして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として5.38g得た。
製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0213】
<実施例10>
(合成する工程)
実施例1の「合成する工程」において、RAFT剤の種類及び使用量を表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1の「合成する工程」と同様にして、チオカルボニルチオ基を有するRAFT重合ポリマーを含む重合反応物(RAFT重合ポリマー溶液2)を得た。なお、「合成する工程」における、なお、モノマーの含有量とRAFT剤の含有量とのモル比[モノマーの含有量(モル)/RAFT剤の含有量(モル)]は100.3であった。実施例1と同様にして測定したところ、モノマーの転化率は96%であり、合成したRAFT重合ポリマーの、数平均分子量(Mn)は9000、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.19の単峰性であった。
(除去する工程)
次いで、実施例1の「除去する工程」において、得られた重合反応物(RAFT重合ポリマー溶液2)を収容するフラスコを用いて光の照射時間を5時間に変更して脱チオカルボニルチオ基化反応を行った後、室温まで放冷した反応混合液をメタノール300mL中に10分かけて滴下したこと以外は、実施例1の「除去する工程」と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として5.40g得た。
製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0214】
<実施例11>
(合成する工程)
実施例1の「合成する工程」において、RAFT剤の種類及び使用量を表1に示す内容に変更し、光の照射時間を4時間としたこと以外は、実施例1の「合成する工程」と同様にして、チオカルボニルチオ基を有するRAFT重合ポリマーを含む重合反応物(RAFT重合ポリマー溶液3)を得た。なお、「合成する工程」における、なお、モノマーの含有量とRAFT剤の含有量とのモル比[モノマーの含有量(モル)/RAFT剤の含有量(モル)]は99.9であり、容器充填率は6%であった。実施例1と同様にして測定したところ、モノマーの転化率は96%であり、合成したRAFT重合ポリマーの、数平均分子量(Mn)は9000、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.16の単峰性であった。
(除去する工程)
次いで、実施例1の「除去する工程」において、得られた重合反応物(RAFT重合ポリマー溶液3)を収容するフラスコを用いて光の照射時間を4時間に変更して脱チオカルボニルチオ基化反応を行った後、室温まで放冷した反応混合液をメタノール280mL中に10分かけて滴下したこと以外は、実施例1の「合成する工程」と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として5.30g得た。
製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0215】
<実施例12、13、15及び16>
実施例1の「除去する工程」において、水酸基含有化合物の種類及び使用量を表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。その結果、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを白色粉体として表1に示す収量で得た。
実施例12、13、15及び16において製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、いずれも、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0216】
<実施例14>
(合成する工程)
200mLナスフラスコに、3,5-bis(1,1,1,3,3,3-hexafluoro-2-hydroxypropan-2-yl)cyclohexyl methacrylateを3.50g、1-methylcyclopentyl methacrylateを5.25g、3-cyano-2-oxohexahydro-2H-3,5-methanocyclopenta[b]furan-6-yl methacrylateを2.92g、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル(RAFT-1)を1.04g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを27.23g投入して、暗室に設置した上記回転型光重合反応装置に装着し、この装置内を脱気-窒素パージを3回繰り返して行った後、窒素気流下、80℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数190rpmで連続回転させた(これにより混合液を調製した)。連続回転しているナスフラスコ中において、混合液は、上述の「展延再混合攪拌状態」となった。なお、モノマーの含有量とRAFT剤の含有量とのモル比[モノマーの含有量(モル)/RAFT剤の含有量(モル)]は20.0であり、容器充填率は10%であった。
ナスフラスコの連続回転を引き続き行って混合液の上記展延再混合攪拌状態を維持しながら、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を薄膜状の混合液に向かって6時間照射して、RAFT重合反応を行った。その後、水浴を除去して、ナスフラスコを引き続き連続回転させながら重合反応物を室温まで放冷した。
得られた重合反応物をヘプタン320mLに10分かけて滴下し、析出した粉体をろ取、乾燥して、黄白色粉体としてチオカルボニルチオ基を有するRAFT重合ポリマー11.5gを得た。実施例1の「合成する工程」と同様にして、本工程における転化率を算出し、また、RAFT重合ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を求めた。その結果を表1に示す。
【0217】
(除去する工程)
上記「合成する工程」で得られたRAFT重合ポリマー全量を200mLナスフラスコに投入し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート46gに溶解し、ジブチルヒドロキシトルエン5.75gを加えて、上記回転型光重合反応装置に再度装着した。その後、フラスコ内を脱気-窒素パージし、アルゴン気流下で、80℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数190rpmで連続回転させた(これにより混合液を調製した)。
ナスフラスコを引き続き連続回転させながら、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を混合液に向かって6時間照射して、脱チオカルボニルチオ基化反応を行った。その後、反応混合液を室温まで放冷した後に、ヘプタン460mL中に10分かけて滴下し、析出した粉体をろ取、乾燥した。
こうして、チオカルボニルチオ基が除去されたポリマーを白色粉体として10.2g得た。
製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0218】
<比較例1>
実施例1の「除去する工程」において、LED照明からの光照射をしなかったこと(80℃加熱反応)以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。
こうして、白色粉体としてポリマーを5.46g得た。このポリマーは、NMR測定(ピーク積分値から算出)により、RAFT重合ポリマーが有するチオカルボニルチオ基のうち98モル%が残存していた(除去率2モル%)。また、得られたポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0219】
<比較例2>
比較例2は、水酸基含有化合物に代えてアミノ化合物を用いて除去する工程を行った。
すなわち、実施例1の「除去する工程」において、水酸基含有化合物をフェノチアジンに変更し、かつ使用量を3.00gに変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造した。
こうして、黄白色粉体としてポリマーを5.21g得た。このポリマーは、NMR測定(ピーク積分値から算出)により、RAFT重合ポリマーが有するチオカルボニルチオ基のうち80モル%が残存していた(除去率20モル%)。また、得られたポリマーの数平均分子量及び分子量分布を測定した結果を表1に示す。
【0220】
【0221】
表1において、「Mn」は製造したポリマーの数平均分子量を、「Mw/Mn」は製造したポリマーの分子量分布を、ピーク形状は分子量測定で得られた曲線の形状を、それぞれ示す。また、「モル量」は、水酸基含有化合物の、チオカルボニルチオ基1モルに対するモル量」を示す。
<表1中の略号>
RAFT-1:4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル(CAS No.870532-87-9)
RAFT-2:2-メチル-2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸(CAS No.461642-78-4)
RAFT-3:2-フェニル-2-プロピルベンゾジチオエート(CAS No.201611-77-0)
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
pMOP:p-メトキシフェノール
TBC:4-tert-ブチルカテコール
TBHQ:tert-ブチルヒドロキノン
IPA:イソプロパノール
tBA:tert-ブタノール
nBA:n-ブタノール
BHA:3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール
PG:没食子酸プロピル
PTA:フェノチアジン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0222】
<実施例17>
(合成する工程)
(チオカルボニルチオ基含有ポリマーを合成する工程)
反応容器として採用した100mLナスフラスコに、メタクリル酸メチル(MMA)5.62g、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル(RAFT-1)1054mg、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)11.2gを投入した。なお、モノマーの含有量とRAFT剤の含有量とのモル比[モノマーの含有量(モル)/RAFT剤の含有量(モル)]は22.2であり、容器充填率は7%であった。
このナスフラスコを暗室に設置した上記回転型光重合反応装置に装着し、この装置内を脱気-窒素パージを3回繰り返して行った後、窒素気流下、80℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数190rpmで連続回転させた。連続回転しているナスフラスコ中において、混合液は、上述の「展延再混合攪拌状態」となった。ナスフラスコの連続回転を引き続き行って混合液の上記展延再混合攪拌状態を維持しながら、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を薄膜状の混合液(膜状液)に向かって6時間照射して、RAFT重合反応を行った。その後、水浴を除去して、ナスフラスコを引き続き連続回転させながら重合反応物を室温まで放冷した。
ナスフラスコの回転を止めて、チオカルボニルチオ基を有するRAFT重合ポリマーを含む重合反応物(RAFT重合ポリマー溶液4)を得た。このRAFT重合ポリマー溶液4の一部をサンプリングして、核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定して転化率を算出し、更に上記測定方法及び条件で得られたRAFT重合ポリマーの平均分子量(Mw及びMn)を測定して分子量分布を算出した。その結果、モノマーの転化率は96%であり、合成したRAFT重合ポリマーの、数平均分子量(Mn)は3160、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.13の単峰性であった。
このポリマー溶液4をメタノール/水(50/50 w/w)179gに滴下し、析出した固体をろ過した。ろ取した固体を40℃、12時間で真空乾燥し、6.07gの白黄色粉末を得た。こうして合成したRAFT重合ポリマーの、数平均分子量(Mn)は3150、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.13の単峰性であった。
【0223】
(除去する工程)
上記「合成する工程」で得られたRAFT重合ポリマー1.0gを50mLナスフラスコに投入し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート4.0gに溶解し、没食子酸一水和物1.54g(チオカルボニルチオ基に対するモル量は21.7モル)を加えて、上記回転型光重合反応装置に再度装着した。その後、フラスコ内を脱気-窒素パージし、アルゴン気流下で、120℃に設定した水浴中にナスフラスコを浸漬させて、回転数190rpmで連続回転させた。ナスフラスコを引き続き連続回転させながら、LED照明2基から照度0.4mW/cm2の青色光を混合液に向かって4時間照射して、脱チオカルボニルチオ基化反応を行った。その後、反応混合液を室温まで放冷した後に、メタノール/水(50/50 w/w)66ml中に10分かけて滴下し、析出した粉体をろ取、乾燥した。こうして、チオカルボニルチオ基が除去されたポリマーを白色粉体として0.7g得た。
製造した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、NMR測定でドデシル基のシグナルが確認されなかったことから、RAFT重合ポリマーからチオカルボニルチオ基が除去されていることが分かる。また、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの数平均分子量(Mn)は2950、及び分子量分布(Mw/Mn)は1.13の単峰性であった。
【0224】
表1に示す結果及び実施例17の結果から次のことが分かる。
除去する工程において光照射せずに加熱した比較例1は、チオカルボニルチオ基を含有するRAFT重合ポリマーに対してチオカルボニルチオ基をほとんど除去できず、分子量も増大する。また、水酸基含有化合物に代えて水素原子供給能を有するフェノチアジンを用いた比較例2は、チオカルボニルチオ基を除去率20モル%でしか除去できず、しかも分子量が大幅に大きくなる。更に除去する工程で得られたポリマーはアミン化合物又はその残基を含んでいるためレジスト用途への適用は通常できない。
【0225】
これに対して、水酸基含有化合物として特定の化合物を用いて光照射条件で除去する工程を行った実施例1~16は、いずれも、温和な条件で行う簡便な製造方法であるにもかかわらず、RFAT重合ポリマーのチオカルボニルチオ基をほぼ100%の除去率で除去できる。しかも、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、分子量がやや大きくなる傾向があるものの、分子量分布は単峰性を維持しつつも狭くなり、RAFT重合ポリマーと同等以上の特性を示す。また、合成する工程で得たRAFT重合ポリマーを一旦単離した後に除去する工程を行う実施例17においても、実施例1~16と同様に、温和な条件でありながらも、高いチオカルボニルチオ基の除去率で簡便に、しかもポリマーの特性を維持した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを製造できる。そのため、各実施例で得られた脱チオカルボニルチオ基化ポリマーは、いずれも、白色であり、経時による呈色、分解物の発生は確認できず、レジスト用途をはじめ種々の用途への実用化が期待できる。
水酸基含有化合物としてアルコール化合物を選択する場合には、アルコール化合物の級数に関わらず上述の結果が得られる。特に、水酸基含有化合物としてフェノール化合物を選択すると、脱チオカルボニルチオ基化ポリマーの分子量の増大を抑えつつも分子量分布を更に狭くすることができる。また、回転型光重合反応装置を用いて除去する工程を行う場合には、合成する工程と連続する製造、好ましくは1ポット製造が可能となるうえ、分子量の増大を抑えつつ分子量分布を狭くすることができる。
このように、本発明によれば、チオカルボニルチオ基を有するポリマーに光照射することにより、温和な条件下にも関わらず、高いチオカルボニルチオ基の除去率で簡便に、しかもポリマーの特性を維持した脱チオカルボニルチオ基化ポリマーを、製造できる。
【0226】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0227】
本願は、2021年3月31日に日本国で特許出願された特願2021-059923に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。