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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】炭素質材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240904BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240904BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024501064
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2023002634
(87)【国際公開番号】W WO2023157610
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2022024678
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/218250(WO,A1)
【文献】特開2021-120331(JP,A)
【文献】特開2021-116198(JP,A)
【文献】特開2021-116197(JP,A)
【文献】特開2021-116196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
JSTPlus/JST7580/JSTchina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRに対する、XPS法により求めた硫黄元素含有量SXPSの比(SXPS/SNDIR)は、0.20以上、0.78以下であり、
BET法により求めた比表面積は1.0m /g以上、40m/g以下である、炭素質材料。
【請求項2】
NDIRは、炭素質材料の総質量に対して2.00質量%以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
XPSは、炭素質材料の総質量に対して1.40質量%以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項4】
体積平均粒径は2μm以上、40μm以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項5】
CuKα線を用いて測定される前記炭素質材料の(002)面の面間隔d002は3.75Å以上、3.95Å以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項6】
前記炭素質材料のラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅は200cm-1以上、270cm-1以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項7】
ヘリウム法により求めた真密度ρHeに対する、ブタノール法により求めた真密度ρBtの比(ρBt/ρHe)は、0.71以上、0.85以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項8】
請求項1に記載の炭素質材料を含む、電極。
【請求項9】
請求項に記載の電極を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は日本国特許出願第2022-024678(出願日:2022年2月21日)についてパリ条約上の優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、炭素質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素質材料は、鉛炭素電池のような水系電解質電池、リチウムイオン電池およびナトリウムイオン電池のような非水系電解質電池、全固体電池、並びに燃料電池等の様々な電池の電極に用いられており、用途に応じた特性を有する炭素質材料が求められている。例えば、電気自動車またはハイブリッド自動車に搭載される非水系電解質電池には、制限された空間および質量の要件を満たすことに加えて、より航続距離の長い電池を該自動車に搭載するために高い放電容量が求められる。また、そのような電池の充放電はブレーキおよびアクセルの踏込み時に行われるため、抵抗が低い電池における短時間での急速な充放電が求められる。
【0003】
非水系電解質電池の電極に、難黒鉛化炭素由来の炭素質材料が使用されている。これまで難黒鉛化炭素の炭素源としては、石油ピッチまたは石炭ピッチ等が用いられていた。しかし近年、地球環境への影響並びに石油の埋蔵量の減少を懸念して、これらに代わる炭素源を利用した炭素質材料が求められている。製紙業のパルプの製造工程で、副生成物として大量に排出されるリグニンを炭素源として用いた炭素質材料は、その一例である。
【0004】
例えば、非特許文献1には、アセトン抽出したリグニンを、窒素雰囲気下300℃で加熱することにより安定化し、次いで窒素雰囲気下800℃で加熱することにより炭化し、その後800℃で水素還元することにより得られた炭素質材料が記載されており、非特許文献2には、リグニンおよびメラミンをホルムアルデヒドに溶解して調製したリグニン-メラミン樹脂を、炭化および焼結して得られた炭素質材料が記載されている。特許文献1には、硫黄元素含有量が0.8質量%以上であり、ブタノール法により求められた真密度が1.48g/cm以上、1.62g/cm以下である炭素質材料が記載されており、炭素質材料の出発原料として、硫黄元素含有量が0.1質量%以上であるリグニンを使用できることが記載されている。
また、特許文献2には、炭素前駆体または該炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800~1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成して炭素質材料を得る焼成工程、並びに粉砕および/または分級により、窒素吸着BET3点法により求めた前記炭素質材料の比表面積を20~75m/gに調整する後粉砕工程および/または後分級工程を含む、非水電解質二次電池用炭素質材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/218250号
【文献】特開2017-084707号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Electrochimica Acta、2015年、第176巻、p.1352-1357
【文献】Journal of Energy Chemistry、2018年、第27巻、第1号、p.1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によれば、非特許文献1および2に記載の炭素質材料は、不可逆容量が大きく、リチウム効率が低いという問題がある。特許文献1には、炭素質材料が、特定の硫黄元素含有量および特定の真密度を有することにより、該炭素質材料を含んでなる電極を含む電池が、放電容量、充放電効率、抵抗および出力特性に優れることは記載されているが、炭素質材料における硫黄元素の分布状態に関する記載はない。また、特許文献2には、硫黄元素含有量に関する記載はない。
そして、より高い電池特性に対する要求は常に存在しており、上記したいずれの特許文献に記載の炭素質材料についても、更に向上した電池特性(例えば、放電容量、充放電効率、抵抗および放電容量維持率)が求められる場合があった。
従って、本発明の課題は、向上した放電容量、充放電効率、抵抗(例えば初期直流抵抗)および放電容量維持率を有する電池をもたらす炭素質材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために、炭素質材料について詳細に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の好適な実施態様を包含する。
[1]NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRに対する、XPS法により求めた硫黄元素含有量SXPSの比(SXPS/SNDIR)は、0.20以上、0.78以下であり、BET法により求めた比表面積は40m/g以下である、炭素質材料。
[2]SNDIRは、炭素質材料の総質量に対して2.00質量%以下である、前記[1]に記載の炭素質材料。
[3]SXPSは、炭素質材料の総質量に対して1.40質量%以下である、前記[1]または[2]に記載の炭素質材料。
[4]BET法により求めた比表面積は1.0m/g以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の炭素質材料。
[5]体積平均粒径は2μm以上、40μm以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の炭素質材料。
[6]CuKα線を用いて測定される前記炭素質材料の(002)面の面間隔d002は3.75Å以上、3.95Å以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の炭素質材料。
[7]前記炭素質材料のラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅は200cm-1以上、270cm-1以下である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の炭素質材料。
[8]ヘリウム法により求めた真密度ρHeに対する、ブタノール法により求めた真密度ρBtの比(ρBt/ρHe)は、0.71以上、0.85以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の炭素質材料。
[9]前記[1]~[8]のいずれかに記載の炭素質材料を含む、電極。
[10]前記[9]に記載の電極を含む、電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、向上した放電容量、充放電効率、抵抗(例えば初期直流抵抗)および放電容量維持率を有する電池をもたらす炭素質材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施態様について、詳細に説明する。なお、以下は本発明の実施態様を例示する説明であって、本発明を以下の実施態様に限定することは意図されていない。
【0011】
[炭素質材料]
本発明の炭素質材料において、NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRに対する、XPS法により求めた硫黄元素含有量SXPSの比(SXPS/SNDIR)は、0.20以上、0.78以下であり、BET法により求めた比表面積は40m/g以下である。
【0012】
<硫黄元素含有量>
硫黄元素含有量SNDIRとは、酸素気流中燃焼(高周波誘導加熱炉方式)-非分散赤外吸収法(NDIR法)により測定される硫黄元素含有量を意味する。NDIR法では、試料を高周波誘導加熱炉で燃焼させることにより生じたガスにおける硫黄元素含有量を測定するので、測定される硫黄元素含有量は、試料全体における硫黄元素含有量に相当する。硫黄元素含有量SNDIRは、例えば後述の実施例に記載の方法により測定できる。
一方、硫黄元素含有量SXPSとは、X線光電子分光法(XPS法)により測定される硫黄元素含有量を意味する。XPS法では表面に存在する元素が分析されるため、測定される硫黄元素含有量は、試料表面における硫黄元素含有量に相当する。硫黄元素含有量SXPSは、例えば後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0013】
本発明の炭素質材料は、硫黄元素含有量SNDIRに対する硫黄元素含有量SXPSの比が0.20以上、0.78以下であることを特徴の1つとする。この硫黄元素含有量比が0.20未満であるか、または0.78より大きいと、所望の電池特性を有する電池をもたらす炭素質材料を得ることは困難である。
この硫黄元素含有量比は、好ましくは0.21以上、より好ましくは0.22以上、特に好ましくは0.23以上であり、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下、特に好ましくは0.65以下(例えば、0.55以下、0.45以下、0.35以下)である。硫黄元素含有量比が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、所望の電池特性を有する電池をもたらす炭素質材料を得やすい。その理由は明らかではないが、非限定的な下記作用機構が考えらえる。
【0014】
炭素質材料内に硫黄が存在すると、炭素質材料の構造に歪みが生じる。よって、炭素質材料の表面近傍および内部(特に表面近傍)に硫黄が存在すると、炭素質材料にリチウムが入り込みやすくなる。即ち、炭素質材料に含まれる硫黄、特に炭素質材料の表面近傍に存在する硫黄は、リチウムの誘導因子になり得る。その一方で、表面近傍に存在する硫黄とリチウムとは反応して反応物が溶出してしまうことがあるため、炭素質材料の表面近傍に多すぎる硫黄が存在すると、炭素質材料を含む電極を用いて作製した電池の充放電効率の低下を招き得る。硫黄元素含有量比が0.20以上、0.78以下である炭素質材料では、硫黄が炭素質材料の表面近傍および内部にバランスよく存在し、その結果、そのような炭素質材料は所望の電池特性を有する電池をもたらすことができると考えられる。
【0015】
炭素質材料の硫黄元素含有量比は、例えば、炭素質材料を製造する際に使用する(硫黄元素を含有する)出発材料の選択、後述する第一の炭化工程の温度の調整、後述する第二の炭化工程の温度の調整、縮合剤の使用、および/または熱分解性物質の使用により、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。
【0016】
本発明の好ましい一実施態様では、SNDIRは、炭素質材料の総質量に対して、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.80質量%以下、更に好ましくは1.70質量%以下、更に好ましくは1.50質量%以下、より更に好ましくは1.10質量%以下、特に好ましくは1.00質量%以下であり、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上、更に好ましくは0.50質量%以上、より更に好ましくは0.70質量%以上、特に好ましくは0.80質量%以上である。SNDIRが前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、炭素骨格に歪みが生じて電池容量が増加し、熱安定性に優れる電池がもたらされる傾向にある。
【0017】
本発明の好ましい一実施態様では、SXPSは、炭素質材料の総質量に対して、好ましくは1.40質量%以下、より好ましくは1.00質量%以下、更に好ましくは0.80質量%以下、特に好ましくは0.70質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上である。SXPSが前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、リチウムイオンの利用効率と放電容量とのバランスがよく、高い電池容量を有する電池がもたらされやすい。
【0018】
NDIRおよびSXPSは、例えば、炭素質材料を製造する際に使用する(硫黄元素を含有する)出発材料を(例えば苛性ソーダ水溶液と一緒に加熱する等の方法により)加水分解すること、出発材料を硫酸等の硫黄元素含有成分で変性し、その変性量を調整すること、第一の炭化工程の温度の調整、第二の炭化工程の温度の調整、縮合剤の使用、および/または熱分解性物質の使用により、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。
【0019】
<BET法により求めた比表面積>
炭素質材料の、BET法により求めた比表面積(以下において、単に「比表面積」とも称する)は40m/g以下である。比表面積が40m/gより大きいと、電解液の分解反応が抑制されにくいため、所望の電池特性を有する電池をもたらす炭素質材料を得ることは困難である。
比表面積は、好ましくは30m/g以下、より好ましくは25m/g以下、更に好ましくは20m/g以下(例えば、15m/g以下)である。比表面積はまた、通常1.0m/g以上、好ましくは1.5m/g以上、より好ましくは2.0m/g以上、より更に好ましくは3.0m/g以上、特に好ましくは4.0m/g以上(例えば、5.0m/g以上、6.0m/g以上、10m/g以上)である。比表面積が前記上限値以下であり、前記下限値以上であると、電解液の分解反応が抑制されやすいため、所望の電池特性(特に、高い充放電効率および低い初期直流抗性)を有する電池をもたらす炭素質材料を得やすい。
比表面積は、例えば、加熱温度(例えば、第一の炭化工程の温度若しくは第二の炭化工程の温度)の調整、または熱分解性物質を添加する場合のその添加量により、前記上限値以下および前記下限値以上に調整できる。比表面積は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0020】
<体積平均粒径>
炭素質材料は、粒状であることが好ましい。
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料の体積平均粒径は、好ましくは2μm以上、より好ましくは2.2μm以上、特に好ましくは2.5μm以上であり、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下、特に好ましくは20μm以下(例えば、15μm以下、10μm以下)である。体積平均粒径が前記下限値以上であると、炭素質材料の比表面積の増大の要因である微粉が少なくなる傾向にあり、炭素質材料と電解液との過剰な反応が抑制されやすくなる。その結果、充電しても放電しない容量である不可逆容量が低下しやすくなり、正極の容量が無駄になることが抑制されやすい。体積平均粒径が前記上限値以下であると、炭素質材料内での金属イオンまたは水素イオンの拡散自由行程が小さくなる傾向にあり、また、電子を伝導する導電材としての炭素質材料間の接触率が高くなる傾向にあるため好ましい。体積平均粒径は、例えば、炭素質材料を製造する際に使用する出発材料の選択、または出発材料若しくは炭素前駆体若しくは炭素質材料の粉砕(および任意に分級)によって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。体積平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱法またはコールター法によって測定できる。
【0021】
<CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料のCuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002(以下において、単に「面間隔d002」とも称する)は、好ましくは3.75Å以上、より好ましくは3.78Å以上であり、好ましくは3.95Å以下、より好ましくは3.92Å以下である。面間隔d002が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、低温での電池容量維持率に優れた電池をもたらす炭素質材料を得やすい。また、イオンの進入がより容易になるため、リチウムイオン二次電池のみならず、ナトリウムイオン二次電池および鉛電池にも好適な電極を得やすい。面間隔d002は、例えば、加熱温度(例えば、第一の炭化工程の温度若しくは第二の炭化工程の温度)の調整により、前記上限値以下および前記下限値以上に調整できる。面間隔d002は、X線回折で求めることができる。
【0022】
<ラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅>
炭素質材料をレーザーラマン分光法に付した場合、通常は1360cm-1付近にピークを有する。このピークは、一般にDバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造の乱れおよび欠陥に起因して発現する。1360cm-1付近のDバンドの半値幅(以下において、単に「Dバンドの半値幅」とも称する)は、この乱れた構造および欠陥の量を表している。
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料のDバンドの半値幅は、好ましくは200cm-1以上、より好ましくは210cm-1以上であり、好ましくは270cm-1以下、より好ましくは260cm-1以下、更に好ましくは250cm-1以下である。Dバンドの半値幅が、前記下限値以上および前記上限値以下であると、末端構造が多すぎず、電気抵抗の増加が抑制されやすくなるため、不可逆容量が低減し、かつ、サイクル耐久性が向上する傾向にある。Dバンドの半値幅は、例えば、加熱温度(例えば、第一の炭化工程の温度若しくは第二の炭化工程の温度)を比較的低く調整することによって、または、出発材料であるリグニンを縮合剤で縮合した後、熱分解が抑制される温度で炭化することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。炭素質材料のDバンドの半値幅は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0023】
<ブタノール法により求めた真密度ρBt
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料のブタノール法により求めた真密度(以下において、「ρBt」とも称する)は、好ましくは1.40g/cm以上、より好ましくは1.45g/cm以上であり、好ましくは1.70g/cm以下、より好ましくは1.65g/cm以下、特に好ましくは1.60g/cm以下である。ρBtが前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、より優れた電池容量を有する電池をもたらす炭素質材料を得やすい。ρBtは、例えば、加熱温度(例えば、第一の炭化工程の温度若しくは第二の炭化工程の温度)の調整により、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。ρBtは、JIS R 7212:1995に準拠して測定される。
【0024】
<ヘリウム法により求めた真密度ρHe
ヘリウムガスを置換媒体として測定した真密度(以下において、「ρHe」とも称する)は、炭素質材料におけるヘリウムガス拡散性の指標である。この値がより大きく、黒鉛状炭素の理論密度2.27g/cmに近いことは、ヘリウムが進入できる細孔が炭素質材料に多く存在することを意味する。即ち、開孔が豊富に存在することを意味する。一方、ヘリウムは非常に小さな原子径(0.26nm)を有することから、ヘリウムが進入できない細孔は閉孔であると考えることができ、ヘリウムガス拡散性が低いということは、細孔が存在していても閉孔が多いということを意味する。
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料のρHeは、限定されるものではないが、好ましくは1.80g/cm以上、より好ましくは1.90g/cm以上である。ρHeが前記下限値以上であると、炭素構造が発達して十分な量の開孔が存在するために、リチウムイオン脱挿入時に副反応の起点となる部分が低減される傾向にあり、その結果、より向上したサイクル特性を有する電池を得やすい。また、ρHeは、限定されるものではないが、通常は2.30g/cm以下、好ましくは2.20g/cm以下である。ρHeは、例えば、第二の炭化工程の温度の調整により、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。ρHeは、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0025】
<ヘリウム法により求めた真密度ρHeに対する、ブタノール法により求めた真密度ρBtの比(ρBt/ρHe)>
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料のヘリウム法により求めた真密度ρHeに対する、ブタノール法により求めた真密度ρBtの比(以下において、「真密度比」または「ρBt/ρHe」とも称する)は、好ましくは0.71以上、より好ましくは0.72以上であり、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.83以下、特に好ましくは0.80以下である。
上述したとおり、ρHeは開孔の多さに伴い増大するが、この開いている細孔には、炭素質材料の吸湿に大きく関与する比較的大きい細孔だけでなく、リチウムイオンの吸蔵および放出への関与の度合いが高いと考えられる大きさの細孔も包含される。このため、ρHeは、吸湿性と、体積当たりの充電容量および放電容量との双方に影響を与える。一方、ρBtが上述した下限値以上であり、上限値以下であると、リチウムイオンの吸蔵および放出に好ましく関与する大きさの開孔が多く存在することを意味すると考えられる。そして、真密度比ρBt/ρHeには、ブタノールは進入できないがヘリウムは進入できる大きさの細孔の多さが反映されており、このような大きさの細孔は、雰囲気中での吸湿に関与するより、リチウムイオンの吸蔵および放出に関与する度合いが高いと考えられる。即ち、真密度比ρBt/ρHeが前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、炭素質材料の十分低い吸湿性に起因して保存安定性が確保されやすい点と、体積当たりの向上した充電容量および放電容量が得られやすい点とのバランスがよいため好ましいと考えられる。真密度比は、例えば、出発材料に含まれる硫黄の量、出発物質としてリグニンを用いた場合のリグニンの水可溶分および/または第一の炭化温度の調整により、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。
【0026】
[炭素質材料の製造方法]
本発明の炭素質材料は、例えば、
硫黄元素を含む出発材料を非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、炭素前駆体を得る第一の炭化工程、および
前記炭素前駆体を非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、炭素質材料を得る第二の炭化工程
を含む製造方法により製造できる。
【0027】
<出発材料>
硫黄元素を含む出発材料は、特に限定されない。
出発材料の、NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRは、出発材料の分子量の低下を抑制しやすく、その結果、炭素縮合が十分に進みやすい観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上である。また、出発材料のSNDIRは、使用する機器を腐食する可能性のある二酸化硫黄等の排出が抑制されやすい観点、および所望の電池特性(特に、充放電効率、初期直流抵抗および/または放電容量維持率)を有する電池をもたらしやすい観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。出発材料のSNDIRは、例えば、硫黄元素を含有する出発材料を(例えば苛性ソーダ水溶液と加熱する等の方法により)加水分解することにより、或いは出発材料を硫酸等の硫黄元素含有成分で変性し、その変性量を調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。出発材料のSNDIRは、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0028】
出発材料は、粒状であることが好ましい。
本発明の好ましい一実施態様では、出発材料の体積平均粒径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは10μm以上(例えば15μm以上)であり、好ましくは50μm未満、より好ましくは45μm以下、更に好ましくは35μm以下、より更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下(例えば、20μm以下)である。別の好ましい一実施態様では、例えば後続の工程で粉砕を行う実施態様では、出発材料の体積平均粒径は、好ましくは50μm以上、より好ましくは75μm以上、更に好ましくは100μm以上であり、好ましくは50mm以下、より好ましくは20mm以下、更に好ましくは10mm以下、より更に好ましくは5mm以下、特に好ましくは3mm以下(例えば、1mm以下、500μm以下、300μm以下、100μm以下)である。体積平均粒径が前記下限値以上であると、作業者の粉塵の吸引または粉塵爆発等が起こりにくい。体積平均粒径が前記上限値以下であると、炭化時に発生する水により出発材料が酸化されて炭素物性が損なわれる問題が回避されやすく、所望の硫黄元素含有量比を得やすい。体積平均粒径が前記下限値以上であり、前記上限値以下である出発材料を用いてもよいし、粉砕により体積平均粒径を前記下限値以上および前記上限値以下に調整した後の出発材料を用いてもよい。体積平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱法またはコールター法によって測定できる。
本発明の好ましい一実施態様では、第一の炭化工程は出発材料がほとんどまたは全く収縮しない条件下で実施する。この場合、第一の炭化工程前後で体積平均粒径はほとんどまたは全く変化しない。また、粉砕する場合の粉砕機は、特に限定されず、後述の<粉砕工程>の段落で例示する粉砕機を使用できる。また、後述の<分級工程>の段落に記載の手順と同様に、粉砕物を分級工程に付してもよい。
【0029】
使用できる出発材料として、例えば、スルホン酸型イオン交換樹脂、リグニン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
中でも、非水溶性で、融点が好ましくは200℃以上であるリグニンが好ましい。このようなリグニンは、一般的にはクラフトリグニンと称されており、製紙業においてセルロース抽出後の廃棄物として得られる。具体的には、例えばパルプの製造過程で生成した黒液を酸性化し、析出した沈殿を洗浄して調製される。このようにして得られたリグニンは、調製工程中で、その主要な結合であるエーテル結合が切断され、著しく低分子化されるので、その数平均分子量は通常3500~4500である。また、通常、クラフトリグニンは他の方法で得られたリグニンに比べ、多量のフェノール性水酸基を有しており、化学的活性に富んでいる。このように、クラフトリグニンは、廃棄物利用の観点、および高い化学的活性に起因して高い密度の炭素質材料を得やすい観点から好ましい。第一の炭化工程の昇温過程の初期段階で融解して融解時に結晶状態の密度が高い状態に変化しやすく、その結果、優れた充放電効率および低い抵抗を有する電池を得やすい観点から、融点が好ましくは210℃以上、より好ましくは230℃以上であるリグニンを使用することが特に好ましい。融点は、例えば、示差走査熱量測定または融点測定装置により測定できる。
【0030】
リグニンは、リグニンの総質量に対して、好ましくは14質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下の水可溶分を有する。リグニンの総質量に対する水可溶分は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。リグニンが前記上限値以下であり、前記下限値以上の水可溶分を有すると、第二の炭化に伴う適度な構造収縮ため、所望の電池特性(特に電池容量(特に放電容量))を有する電池をもたらす炭素質材料を得やすい。水可溶分は、例えば、パルプ製造工程からの取り出し時の加熱乾燥または使用前の加熱処理により、前記上限値以下および前記下限値以上に調整できる。水可溶分は、例えば、ソックスレー抽出により測定できる。
【0031】
リグニンは1種のみを使用してもよいし、硫黄元素含有量、融点、水可溶分、分子量および揮発性成分含有量の1つ以上が異なる2種以上のリグニンを組み合わせて使用してもよい。2種以上のリグニンを組み合わせて使用する場合、そのうちの少なくとも1種のリグニンは、好ましくは、上述した好ましい硫黄元素含有量、融点および/または水可溶分を有する。
リグニンは、酸性水で洗浄することによりリグニン中に存在する金属を低減させた後に出発材料として用いてもよい。
【0032】
<第一の炭化工程>
第一の炭化工程では、好ましくは、硫黄元素を含む出発材料を非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、より好ましくは、NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRが0.1質量%以上であり、水可溶分が14質量%以下であるリグニンを、非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、炭素前駆体を得る。
【0033】
非酸化性ガスとしては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴンおよびそれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。非酸化性ガス中に酸化性ガスが含まれていてもよい。その場合、酸化性ガス(特に酸素)の含有量は、低いほど好ましく、通常1体積%以下、好ましくは0.1体積%以下である。酸化性ガスの含有量が前記上限値以下であると、炭素前駆体の生成過程で、酸化が進行しにくく、所望の構造構築が進みやすく、また、生成した構造の酸化分解が起きにくい。非酸化性ガスが酸化性ガスを含まないことが好ましい。これは、酸化性ガスの量が、通常の測定方法(例えば、ガスクロマトグラフ法)の検出限界値未満であることを意味する。
【0034】
非酸化性ガスの供給量(流通量)は、特に限定されない。出発材料または出発材料と縮合剤との縮合物の1g当たり、通常1mL/分以上、好ましくは10mL/分以上、より好ましくは30mL/分以上であり、通常1500mL/分以下(例えば、1200mL/g以下、1000mL/分以下、500mL/分以下)である。また、第一の炭化工程は、減圧下で、例えば10KPa以下で行うこともできる。
【0035】
第一の炭化工程の昇温速度は特に限定されない。加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上であり、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは18℃/分以下である。昇温速度が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、良好な生産性を得やすく、経済性の観点からも好ましい。また、発生する乾留ガスによる賦活の進行が抑制されやすく、良好な炭素密度を得やすい。
【0036】
第一の炭化工程の温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは380℃以上であり、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下、更に好ましくは600℃未満、より更に好ましくは550℃以下、特に好ましくは500℃以下である。後述する、場合により使用してよい縮合剤および熱分解性物質を使用しない実施態様では、第一の炭化工程の温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは380℃以上であり、好ましくは600℃未満、より好ましくは550℃以下、特に好ましくは500℃以下である。本発明者らは、第一の炭化工程の温度が、第一の炭化工程に付す材料における硫黄の移動に影響を及ぼすことを見出した。即ち、第一の炭化工程に付すことにより、材料に含まれている硫黄が材料の表面の方に移動する傾向にある一方で、比較的低い温度で炭化することにより、硫黄が材料の内部の方に留まる傾向にあることを見出した。また、この傾向は、縮合剤を使用しない場合に、より明確に現れることも見出した。
第一の炭化工程の温度が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、所望の物性(特に硫黄元素含有量比)を有する炭素質材料を得やすく、所望の電池特性(特に、放電容量、初期直流抵抗および/または放電容量維持率)を有する電池がもたらされやすい。
【0037】
第一の炭化工程の温度の保持時間は、特に限定されない。保持時間は、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上であり、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下、更に好ましくは10時間以下、より更に好ましくは5時間以下である。保持時間が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、炭化が十分に進行しやすいため、炭素質材料を製造する過程で炭化物の発火が生じにくくなる。また、経済性の観点から、適度な時間であるため好ましい。
【0038】
<縮合剤>
出発材料としてリグニンを用いる場合、第一の炭化工程の前に、リグニンを縮合剤により縮合してもよい。この実施態様では、炭素質材料の製造方法は、第一の炭化工程の前に、リグニンと縮合剤とを混合する混合工程、および得られた混合物においてリグニンを縮合させる縮合工程を含む。この実施態様における第一の炭化工程では、得られた縮合物を第一の炭化工程に付す。本発明者らは、縮合剤によるリグニンの縮合により、第一の炭化工程における、リグニンに含まれている硫黄の、混合物の表面の方への移動が抑制される傾向にあることを見出した。これは、縮合によって炭素骨格の三次元構造がより早く確定することにより、硫黄が表面の方へ移動しにくくなり、その結果、炭化物の表面および表面近傍における硫黄元素量が低減するものと考えられる。リグニンを縮合剤で縮合することにより、所望の物性(特に硫黄元素含有量比)を有する炭素質材料を得やすい。
縮合剤としては、例えば、アミン、アルデヒドおよびそれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0039】
必要に応じて、リグニンと過剰のアミンとを反応させてリグニンのアンモニウム塩を生成させることにより、リグニンを水溶性にすることができる。ここで、アミンはリグニンを縮合する際の触媒として働き得る。また、アミンの一部はアルデヒドと反応することもあり、イミン構造を形成することによって、アルデヒドによる架橋速度を増大させやすい。リグニンを架橋することにより、炭化時の融解による炭化物の構造欠陥の発生、または装置の汚染若しくは腐食を防ぐこともできる。架橋は室温においても進行し得るが、加温により促進させることができる。また、より均一に架橋反応を進行させるために、アルデヒド添加前に、アミンによるリグニンの水溶化を実施することが好ましい。
【0040】
使用できるアミンは、特に限定されない。例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミンおよびアニリン等の第一級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルアミン等の第二級アミン、エチレンジアミンおよびポリエチレンイミン等のポリアミン、メラミンまたはアンモニアを使用できる。これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。入手性、経済性および炭化効率の観点から、メラミンおよび/またはアンモニアの使用が好ましい。
【0041】
アミンを使用する場合、その使用量は、特に限定されず、使用するリグニンおよびアルデヒドの種類に応じて適宜選択すればよい。架橋効率および水溶性の観点からは、アミンの使用量は、リグニン100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、より更に好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、特に好ましくは100質量部以下である。
【0042】
使用できるアルデヒドは、特に限定されない。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナールおよびベンズアルデヒド等のモノアルデヒド、またはグリオキサール、1,4-ブタンジアール、1,6-ヘキサンジアール、1,9-ノナンジアール、オルトフタルアルデヒド、メタフタルアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のジアルデヒド等を使用できる。これらは、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。入手性、経済性および炭化効率の観点からは、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサールおよび/またはテレフタルアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒドがより好ましい。水に難溶なアルデヒドを使用する場合には、有機溶媒を使用してもよい。使用する有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、およびアセトン等のケトン類を用いることができる。使用する有機溶媒の量は、アルデヒドの種類により適宜調整すればよいが、通常、アルデヒドの質量に対して2~100倍の質量であることが好ましい。
【0043】
アルデヒドを使用する場合、その使用量は、特に限定されず、使用するリグニンに応じて適宜選択すればよい。アルデヒドの反応性および架橋効率の観点からは、アルデヒドの使用量は、リグニン100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、より更に好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、特に好ましくは100質量部以下である。
【0044】
リグニンを水溶化する場合、リグニン水溶液中のリグニンの濃度は特に限定されない。次工程で水を除去する効率の観点からは、リグニンの濃度は、リグニン水溶液の質量に対して、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.2~30質量%、更に好ましくは0.5~20質量%である。
【0045】
リグニンを縮合剤と混合する温度は、特に限定されないが、通常は5~90℃の範囲の温度である。反応性および揮発性の観点からは、好ましくは10~70℃、より好ましくは20~60℃である。混合時間も限定されないが、通常0.1~10時間、好ましくは0.2~9時間、より好ましくは0.3~8時間である。
【0046】
アルデヒドを用いる場合、アルデヒドによる架橋反応を円滑に進行させるために、触媒として酸を添加してもよい。酸を使用する場合、その使用量は特に限定されず、使用するリグニンの種類および使用するアルデヒドの種類によって適宜選択すればよい。酸の使用量は、アルデヒド100質量部に対して、通常は0.1~50質量部、好ましくは0.5~30質量部である。使用できる酸は、特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸およびホウ酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸および酒石酸等の有機酸を使用できる。これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。経済性および反応性の観点からは、塩酸または酢酸の使用が好ましい。
【0047】
リグニンと縮合剤との混合物を常圧下または減圧下で加熱することにより、リグニンの縮合を促進させることができる。混合物が溶媒を含む場合は、縮合をより迅速に行うために、加熱により溶媒を除去し、混合物を固化することが好ましい。固化する温度は、好ましくは溶液を調製する温度以上であり、より好ましくは90~300℃、更に好ましくは100~250℃である。固化のために加熱する方法は特に限定されず、熱風、電気ヒーターおよびエバポレーター等を使用できる。蒸発乾固が好ましい。また、加熱を常圧下で行う場合は、不活性ガス下、例えば窒素下で行うことが、安全性の観点から好ましい。
【0048】
<第二の炭化工程>
第一の炭化工程の後に実施する第二の炭化工程では、好ましくは、炭素前駆体を非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、より好ましくは、炭素前駆体を非酸化性ガス雰囲気下、700℃以上、1400℃以下の温度で炭化して、炭素質材料を得る。
【0049】
非酸化性ガスの例としては、ヘリウム、窒素、アルゴンおよびそれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。また、塩素等のハロゲンガスを前記非酸化性ガスと混合したガス雰囲気下で、第二の炭化工程を行ってもよい。非酸化性ガス中に酸化性ガスが含まれていてもよい。その場合、酸化性ガス(特に酸素)の含有量は、低いほど好ましく、通常1体積%以下、好ましくは0.1体積%以下である。酸化性ガスの含有量が前記上限値以下であると、炭素質材料の生成過程で、酸化が進行しにくく、所望の構造構築が進みやすく、また、生成した構造の酸化分解が起きにくい。非酸化性ガスが酸化性ガスを含まないことが好ましい。
【0050】
非酸化性ガスの供給量(流通量)は、特に限定されない。炭素前駆体1g当たり、通常1mL/分以上、好ましくは10mL/分以上、更に好ましくは100mL/分以上であり、通常1500mL/分以下(例えば、1200mL/分以下、1000mL/分以下)である。また、第二の炭化工程は、減圧下で、例えば10KPa以下で行うこともできる。
【0051】
第二の炭化工程の昇温速度は特に限定されない。加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上であり、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは18℃/分以下である。昇温速度が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、良好な生産性を得やすく、経済性の観点からも好ましい。また、発生する乾留ガスによる賦活の進行が抑制されやすく、良好な炭素密度を得やすい。
【0052】
第二の炭化工程の温度は、好ましくは700℃以上、より好ましくは750℃以上、更に好ましくは800℃以上(例えば、850℃以上、900℃以上)であり、好ましくは1400℃以下、より好ましくは1380℃以下、更に好ましくは1350℃以下である。第二の炭化工程の温度が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、炭素質材料の官能基の残存量を減らしやすく、不可逆容量の増大を招き得る炭素質材料とリチウムとの反応を抑制しやすい。また、炭素六角平面の選択的配向性の増大による放電容量の低下および放電容量維持率の低下を抑制しやすい。更に、炭素質材料の所望の物性(例えば、硫黄元素含有量比、面間隔d002および/またはDバンドの半値幅)を得やすい。
【0053】
第二の炭化工程の温度の保持時間は、特に限定されない。例えば800℃以上に保持する時間は、通常0.05時間以上10時間以下であり、好ましくは0.05時間以上3時間以下、より好ましくは0.05時間以上1.5時間以下である。保持時間が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、炭素質材料の所望の物性(例えば、比表面積、面間隔d002、Dバンドの半値幅、ρBt、ρHeおよび/または真密度比)を得やすい。また、経済性の観点から、適度な時間であるため好ましい。
【0054】
<熱分解性物質>
第二の炭化工程において、炭素前駆体に代えて、炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を炭化してもよい。
炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を炭化することにより、炭素質材料の表面および表面近傍における硫黄元素量を低減できることを、本発明者らは見出した。即ち、炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を炭化することにより、所望の物性(特に硫黄元素含有量比)を有する炭素質材料を得やすい。また、炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を炭化することにより、得られる炭素質材料の比表面積を所望の値に低減させることができる。
【0055】
炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を炭化することによって、炭素質材料の表面および表面近傍における硫黄元素量、および炭素質材料の比表面積を低減できる作用機構は、詳細には解明されていないが、非限定的な作用機構として、以下が考えられる。
炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を炭化することにより、炭素前駆体の表面に、熱分解性物質の熱処理により得られる炭素質被覆が形成される。この炭素質被覆の存在により、炭素質材料の表面および表面近傍における硫黄元素量、および炭素質材料の比表面積が低減されると考えられる。
【0056】
炭素前駆体と熱分解性物質との混合物を第二の炭化工程で炭化することにより、所望の物性(特に、硫黄元素含有量比および比表面積)を有する炭素質材料を得やすい。
比表面積が所望の値であると、炭素質材料とアルカリ金属(例えば、リチウムまたはナトリウム)との反応によるSEI(Solid Electrolyte Interphase)と称される被覆の形成反応が抑制されやすくなるため、不可逆容量の低減が期待できる。また、生成した炭素質被覆もリチウムまたはナトリウムをドープおよび脱ドープすることができるため、容量が増加する効果も期待できる。
【0057】
熱分解性物質は、好ましくは、揮発性物質(例えば、炭化水素系ガスおよびタール成分)を十分発生できる有機物である。
【0058】
熱分解性物質の残炭率は、第二の炭化工程を実施する機器の安定稼働の観点および炭素質材料の特性の均一性の観点(即ち、局所的に特性の異なる炭素質材料が生成しにくい観点)から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
残炭率は、熱分解性物質を800℃で灰化した場合の残炭率である。残炭率は、試料を不活性ガス雰囲気下で強熱した後の強熱残分の炭素量を定量することにより測定できる。具体的には、試料およそ1g〔この正確な質量をW(g)とする〕を坩堝に入れ、20L/分で窒素を流通させながら坩堝を電気炉にて10℃/分の昇温速度で室温から800℃に昇温させ、次いで800℃で1時間強熱する。得られた残存物が強熱残分であり、その質量〔W(g)〕を測定する。
その後、上記強熱残分について、JIS M8819に定められた方法に準拠して元素分析を行い、炭素の質量割合P(質量%)を測定する。残炭率P(質量%)は下記式により算出できる。
=P×W/W
【0059】
そのような熱分解性物質の例としては、例えば熱可塑性樹脂および低分子有機化合物が挙げられる。
熱可塑性樹脂の例としては、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂および(メタ)アクリル酸系樹脂が挙げられる。オレフィン系樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとのランダム共重合体、およびエチレンとプロピレンとのブロック共重合体等が挙げられる。スチレン系樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、およびスチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数は1~12、好ましくは1~6)との共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸系樹脂の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体(アルキル基の炭素数は1~12、好ましくは1~6)等が挙げられる。なお、この明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。
【0060】
低分子有機化合物の例としては、例えば炭素数が1~20の炭化水素化合物が挙げられる。炭化水素化合物の炭素数は、好ましくは2~18、より好ましくは3~16である。炭化水素化合物は、飽和炭化水素化合物でも不飽和炭化水素化合物でもよく、鎖状炭化水素化合物でも環式炭化水素化合物でもよい。炭化水素化合物が不飽和炭化水素化合物の場合、不飽和結合は二重結合でも三重結合でもよく、1分子に含まれる不飽和結合の数も特に限定されない。例えば、鎖状炭化水素化合物は、脂肪族炭化水素化合物であり、その例としては、直鎖状または分枝状のアルカン、アルケンまたはアルキンが挙げられる。環式炭化水素化合物の例としては、脂環式炭化水素化合物(例えば、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキン)および芳香族炭化水素化合物が挙げられる。脂肪族炭化水素化合物の具体的な例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンおよびアセチレン等が挙げられる。脂環式炭化水素化合物の具体的な例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロプロパン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、デカリン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、およびノルボルナジエン等が挙げられる。芳香族炭化水素化合物の具体的な例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ブチルベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、tert-ブチルスチレン、エチルスチレン等の単環芳香族化合物、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等の3環~6環の縮合多環芳香族化合物が挙げられるが、好ましくは縮合多環芳香族化合物であり、より好ましくはナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンである。ここで、前記炭化水素化合物は、任意の置換基を有していてよい。置換基は特に限定されない。置換基の例としては、炭素数1~4のアルキル基(好ましくは炭素数1~2のアルキル基)、炭素数2~4のアルケニル基(好ましくは炭素数2のアルケニル基)、および炭素数3~8のシクロアルキル基(好ましくは炭素数3~6のシクロアルキル基)が挙げられる。
【0061】
熱分解性物質は、混合の容易さおよび均一分散性の観点から、常温で固体であることが好ましく、例えばポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレン等の常温で固体の熱可塑性樹脂、または、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレン等の常温で固体の低分子有機化合物がより好ましい。第二の炭化工程の温度下で揮発および熱分解した際に、炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンがより好ましい。低分子有機化合物としては、常温下で揮発性がより小さいことが安全上好ましいことから、炭素数1~20の炭化水素化合物が好ましく、縮合多環芳香族化合物がより好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンが更に好ましい。更に、炭素前駆体との混合しやすさの観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂がより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンが更に好ましく、ポリエチレンおよびポリスチレンが特に好ましい。
【0062】
炭素前駆体と熱分解性物質とを混合する際の炭素前駆体と熱分解性物質との質量比は、特に限定されない。炭素前駆体と熱分解性物質との質量比は、好ましくは97:3~40:60、より好ましくは95:5~60:40、更に好ましくは93:7~80:20である。例えば、熱分解性物質が炭素前駆体100質量部に対して3質量部以上であると、比表面積を十分に低減させやすい。また、熱分解性物質が炭素前駆体100質量部に対して60質量部以下であると、比表面積の低減効果が飽和に達しているにもかかわらず過剰に存在する熱分解性物質が消費される無駄を回避できるため、工業的に有利である。
【0063】
炭素前駆体と熱分解性物質との混合は、第一の炭化工程と第二の炭化工程との間に行う。第一の炭化工程と第二の炭化工程との間に、後述する粉砕工程を行う場合は、前記混合は、粉砕工程の前または粉砕工程の後のいずれに行ってもよい。
粉砕工程の前に炭素前駆体と熱分解性物質とを混合する場合には、炭素前駆体と常温で液体または固体の熱分解性物質とを計量しながら、粉砕装置に同時に供給することにより粉砕と混合とを同時に行うことができる。
粉砕工程の後に炭素前駆体と熱分解性物質とを混合する場合には、混合は両者が均一に混合される手法であれば、公知の方法で実施できる。熱分解性物質が常温で固体の場合、熱分解性物質は好ましくは粒子状である。その場合、粒子の形または粒径は特に限定されないが、熱分解性物質と粉砕された炭素前駆体とを均一に分散させやすい観点からは、熱分解性物質の体積平均粒径は好ましくは0.1~2000μm、より好ましくは1~1000μm、更に好ましくは2~600μmである。
熱分解性物質が常温で気体の場合、熱分解性物質を含む非酸化性ガスを、第二の炭化工程を実施する機器内に流通させ熱分解させることにより、該機器内に導入された炭素前駆体と混合させる方法を用いることができる。
【0064】
炭素前駆体と熱分解性物質との混合物は、炭素前駆体および熱分解性物質以外の他の成分を含んでもよい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、金属系材料、合金系材料および酸化物系材料からなる群から選択される1以上の成分を含んでよい。炭素前駆体と熱分解性物質との混合物がそのような成分を含む場合、そのような成分の含有量は、特に限定されるものではなく、混合物100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0065】
<粉砕工程>
炭素質材料の製造方法は、必要に応じて、第一の炭化工程後または第二の炭化工程後に粉砕工程を含んでいてもよい。この工程では、炭化により凝集した炭化物(炭素前駆体または炭素質材料)を粉砕し、目的の大きさに調整することができる。
粉砕工程を行う場合、第一の炭化工程後に行うことが好ましい。その理由は、粉砕により表面積を大きくすることで、第二の炭化工程で発生する分解ガスによる構造変化の影響を最小限にでき、また、粉砕により新たな表面を適度に形成することで、所望の硫黄元素含有量比を得やすくなるからである。また、別の理由は、第二の炭化工程後に粉砕を実施した場合には、粉砕によって新たに生じた結晶面が電池内で電解液等と反応し、電池機能が損なわれる可能性があるからである。従って、本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料の製造方法は、炭素前駆体を粉砕して、体積平均粒径が好ましくは45μm以下、より好ましくは35μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下(例えば、20μm以下、15μm以下)の粉砕物を得る粉砕工程を更に含む。前記体積平均粒径は、好ましくは2μm以上、より好ましくは2.2μm以上、特に好ましくは2.5μm以上(例えば2.8μm以上)である。しかしながら、第二の炭化工程の後に粉砕することは排除されない。
【0066】
粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されない。例えば、ジェットミル、ミキサーミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を単独でまたは組み合わせて使用することができる。微粉の発生が少ないという観点からは、分級機能を備えたジェットミルが好ましい。一方、ミキサーミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を用いる場合は、粉砕後に分級を行うことで微粉を除くことができる。
【0067】
<分級工程>
炭素質材料の製造方法は、必要に応じて行ってよい粉砕工程の後に分級を実施してもよい。分級によって、炭素前駆体若しくは炭素質材料の体積平均粒径をより正確に調整することができる。また、分級によって、特定の寸法より小さい(例えば体積平均粒径が1μm以下の)炭素前駆体若しくは炭素質材料、および/または特定の寸法より大きい(例えば体積平均粒径が30μm以上の)炭素前駆体若しくは炭素質材料を除去することもできる。
【0068】
分級の例としては、篩による分級、湿式分級、または乾式分級が挙げられる。湿式分級機としては、例えば、重力分級、慣性分級、水力分級、または遠心分級等の原理を利用した分級機が挙げられる。乾式分級機としては、例えば、沈降分級、機械的分級、または遠心分級の原理を利用した分級機が挙げられる。
【0069】
粉砕工程後に分級を行う場合、上述したように、粉砕と分級は、1つの装置(例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミル)を用いて行うことができる。或いは、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもでき、この場合、粉砕と分級とは連続して行ってもよいし、不連続に行ってもよい。
【0070】
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料は、
NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRが0.1質量%以上であり、水可溶分が14質量%以下であるリグニンを、非酸化性ガス雰囲気下、300℃以上、600℃未満の温度で炭化して、炭素前駆体を得る第一の炭化工程、
好ましくは、前記炭素前駆体を粉砕し、体積平均粒径が45μm以下である粉砕物を得る粉砕工程、および
前記炭素前駆体または前記粉砕物を、非酸化性ガス雰囲気下、700℃以上、1400℃以下の温度で炭化して、炭素質材料を得る第二の炭化工程
を含む製造方法により製造できる。
【0071】
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料は、
NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRが0.1質量%以上であり、水可溶分が14質量%以下であるリグニンと縮合剤とを混合する混合工程、
得られた混合物においてリグニンを縮合させる縮合工程、
得られた縮合物を非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、炭素前駆体を得る第一の炭化工程、
好ましくは、前記炭素前駆体を粉砕し、体積平均粒径が45μm以下である粉砕物を得る粉砕工程、および
前記炭素前駆体または前記粉砕物を、非酸化性ガス雰囲気下、700℃以上、1400℃以下の温度で炭化して、炭素質材料を得る第二の炭化工程
を含む製造方法により製造できる。
【0072】
本発明の好ましい一実施態様では、炭素質材料は、
NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIRが0.1質量%以上であり、水可溶分が14質量%以下であるリグニンを、非酸化性ガス雰囲気下で炭化して、炭素前駆体を得る第一の炭化工程、
好ましくは、前記炭素前駆体を粉砕し、体積平均粒径が45μm以下である粉砕物を得る粉砕工程、
前記炭素前駆体または前記粉砕物と熱分解性物質とを混合する混合工程、および
得られた混合物を、非酸化性ガス雰囲気下、700℃以上、1400℃以下の温度で炭化して、炭素質材料を得る第二の炭化工程
を含む製造方法により製造できる。
【0073】
上述した3つの本発明の好ましい一実施態様の製造方法におけるリグニン、第一の炭化工程、縮合剤、第二の炭化工程、熱分解性物質、粉砕工程および分級工程には、先の<出発材料>、<第一の炭化工程>、<縮合剤>、<第二の炭化工程>、<熱分解性物質>、<粉砕工程>および<分級工程>の段落に記載の好ましい実施態様がそれぞれ適用され得る。
【0074】
[電極]
本発明の炭素質材料は電極に使用できる。従って、本発明はまた、本発明の炭素質材料を含む電極も対象とする。
【0075】
[電極の製造方法]
本発明の電極は、例えば、炭素質材料、結合剤(バインダー)および溶媒を混練することにより電極合剤を調製し、該電極合剤を、金属板等からなる集電板の片面若しくは両面に塗布して乾燥し、得られた電極活物質層付き集電板を加圧成形することにより、製造できる。
【0076】
結合剤は、電解液と反応しないものであれば特に限定されない。結合剤の例としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等が挙げられる。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得るために好ましい。PVDFを溶解してスラリーを生成するために、N-メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒が好ましく用いられるが、SBR等の水性エマルションまたはCMCの水溶液を用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互および集電材との結合が不十分となり好ましくない。結合剤の好ましい添加量は、使用する結合剤の種類によっても異なるが、PVDF系の結合剤では、炭素質材料および結合剤の総質量に対して、好ましくは2~13質量%であり、より好ましくは2~10質量%である。一方、溶媒に水を使用する結合剤では、SBRとCMCとの混合物等、複数の結合剤を混合して使用することが多く、使用する結合剤の総添加量は、炭素質材料および結合剤の総質量に対して、好ましくは0.5~5質量%であり、より好ましくは1~4質量%である。
【0077】
本発明の炭素質材料を用いることにより、特に導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができるが、更に高い導電性を付与することを目的に、必要に応じて電極合剤を調製する際に導電助剤を添加してよい。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、およびナノチューブ等を単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性を得にくいので好ましくなく、多すぎると電極合剤中での分散が悪くなるので好ましくない。このような観点から、導電助剤を添加する場合の導電助剤の割合は、好ましくは0.5~10質量%[ここで、活物質(炭素質材料)量+結合剤量+導電助剤量=100質量%とする]であり、より好ましくは0.5~7質量%、更に好ましくは0.5~5質量%である。
【0078】
電極活物質層は、通常は集電板の両面に形成するが、必要に応じて片面に形成してもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板およびセパレータ等が少なくて済むため高容量化には好ましいが、電極活物質層が厚すぎると、電極内のイオン拡散抵抗が増大し、入出力特性が低下するため好ましくない。好ましい電極活物質層(片面当たり)の厚さは、10~80μmであり、より好ましくは20~75μm、更に好ましくは20~60μmである。
【0079】
[電池]
本発明はまた、本発明の電極を含む電池も対象とする。本発明の電池、例えば非水電解質二次電池は本発明の炭素質材料を用いた負極を用いて製造されるため、向上した放電容量、充放電効率、初期直流抵抗および放電容量維持率を有することができる。
【0080】
本発明における非水電解質二次電池において、本発明の電極(負極)以外の材料、即ち、正極材料、セパレータおよび電解液等の材料は特に限定されず、非水電解質二次電池において従来使用され、または提案されている種々の材料を使用することが可能である。
例えば、正極材料としては、層状酸化物系[LiMO(ここで、Mは金属を表す)で表されるもの:例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、またはLiNiCoMo(ここで、x、y、zは組成比を表わす)]、オリビン系[LiMPO(ここで、Mは金属を表す)と表されるもの:例えばLiFePO等]、およびスピネル系[LiM(ここで、Mは金属を表す)で表されるもの:例えばLiMn等]の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらの複合金属カルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。例えば、これらの正極材料を適当な結合剤と電極に導電性を付与するための炭素質材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより、正極を製造できる。
【0081】
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に、非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ-ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3-ジオキソラン等の有機溶媒の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiAsF、LiCl、LiBr、LiB(C、またはLiN(SOCF等を用いることができる。
【0082】
非水電解質二次電池は一般に、上述したようにして製造した正極と負極とを、必要に応じて透過性セパレータ(例えば、不織布、またはその他の多孔質材料等)を介して対向させ、電解液中に浸漬させることにより製造される。セパレータに代えて、またはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【0083】
好ましい一実施態様において、本発明の電池の放電容量は、好ましくは420mAh/g以上、より好ましくは450mAh/g以上、更に好ましくは480mAh/g以上、特に好ましくは520mAh/g以上である。
好ましい別の一実施態様において、本発明の電池の充放電効率は、好ましくは75%以上、より好ましくは78%以上、特に好ましくは80%以上である。
好ましい別の一実施態様において、本発明の電池の初期直流抵抗は、好ましくは700Ω以下、より好ましくは660Ω以下、特に好ましくは610Ω以下である。
好ましい別の一実施態様において、本発明の電池の1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の維持率(放電容量維持率)は、好ましくは83%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。 放電容量、充放電効率、初期直流抵抗および放電容量維持率は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【実施例
【0084】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0085】
[分析方法]
<NDIR法により求めた硫黄元素含有量SNDIR
株式会社堀場製作所製の「炭素・硫黄分析装置EMIA-920V2」を用いて、NDIR法により、炭素質材料の硫黄元素含有量の測定を行った。この装置における検出方法は、酸素気流中燃焼(高周波誘導加熱炉方式)-非分散赤外吸収法(NDIR法)である。
測定試料(炭素質材料)に250℃で約10分間脱水処理を施すことにより、前処理を行った。前処理後の測定試料50mg、並びに(共に助燃剤である)粒子状タングステン1.5gおよび粒子状スズ0.3gを、アルミナ坩堝に秤取した。アルミナ坩堝を装置に設置して30秒間脱ガスを実施した後、純酸素気流下で高周波を用いて加熱燃焼を行い、発生したガスを分析することにより、硫黄元素含有量を求めた。
また、測定試料を用いず粒子状タングステンおよび粒子状スズのみを用いたブランク測定、炭素質材料に代えて日本鉄鋼認証標準物質であるJSS152-18[C:0.277質量%、S:0.0056質量%]を用いた測定、および炭素質材料に代えて日本鉄鋼認証標準物質であるJSS150-16[S:0.0296質量%]を用いた測定を実施して、校正を行った。
各炭素質材料について3検体を測定し、その平均値を、その炭素質材料のSNDIRとした。
また、出発材料として用いたリグニンの硫黄元素含有量についても、同様に測定した。
【0086】
<XPS法により求めた硫黄元素含有量SXPS
アルバック・ファイ株式会社製の「走査型X線光電子分光分析装置PHI Quantera SXM」を用いて、炭素質材料のC1s、Si2p、O1s、N1sおよびS1s由来のピークを観測し、炭素質材料を構成する元素の組成比を確認した。この組成比から、硫黄元素含有量を求めた。各炭素質材料について3検体を測定し、その平均値を、その炭素質材料のSXPSとした。詳細な測定条件は以下の通りである。
X線源:単色化AlKα(1486.6eV)
X線ビーム径:100μmΦ(25W、15kV)
測定範囲:1000μm×300μm
信号の取り込み角:45°
帯電中和条件:中和電子銃、Ar+イオン銃
真空度:1×10-6Pa
【0087】
<SNDIRに対するSXPSの比>
各炭素質材料のSNDIRおよびSXPSから、SNDIRに対するSXPSの比を求めた。
【0088】
<比表面積>
以下に、BETの式から誘導された近似式を示す。
【数1】
上記の近似式を用いて、液体窒素温度における窒素吸着による3点法によりvを求め、次式により試料の比表面積を計算した。
【数2】
ここで、vは試料表面に単分子層を形成するのに必要な窒素吸着量(cm/g)、vは実測される窒素吸着量(cm/g)、pは飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×1023、a(nm)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
具体的には、炭素質材料を入れた試料管を、日本BELL社製「BELSORP MINI」に設置し、-196℃に冷却した状態で一旦減圧し、その後、窒素(純度99.999%)を導入し、所定の相対圧で炭素質材料に窒素を吸着させた。各相対圧にて平衡圧に達した時点での炭素質材料に吸着した窒素の量を、窒素吸着量vとした。
【0089】
<体積平均粒径>
界面活性剤(和光純薬工業株式会社製「Triton X100」)を0.3質量%含む水溶液に炭素質材料を投入し、超音波洗浄器で10分間以上処理し、炭素質材料を水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、レーザー回折・散乱式粒径・粒度分布測定器(日機装株式会社製「マイクロトラックM T3000」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒径であり、この値を体積平均粒径として用いた。
【0090】
<(002)面の面間隔d002
試料を導入した試料ホルダーを、株式会社リガク製のデスクトップ型X線回折装置「MiniFlexII」に設置した。Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源として用い、X線回折図形を得た。X線回折図形のピーク位置を、重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正を行った。CuKα線の波長を0.15418nmとし、下記のBraggの公式により面間隔d002を算出した。
【数3】
【0091】
<ラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅>
株式会社堀場製作所製の「LabRAM ARAMIS」を用い、レーザー波長532nmの光源を用いて、ラマンスペクトルを測定した。具体的には、各炭素質材料から、無作為に3箇所の試料をサンプリングし、サンプリングした各試料について2箇所ずつ測定を行った。測定条件は、波長範囲50~2000cm-1、積算回数100回であり、計6箇所の平均を、その炭素質材料のラマンスペクトルとして採用した。
得られたラマンスペクトルに対し、ガウス関数でのフィッティングを実施することにより、Dバンド(1360cm-1付近)とGバンド(1590cm-1付近)とのピーク分離を実施し、その後、Dバンドの半値幅を求めた。
【0092】
<ヘリウム法により求めた真密度ρHe
各炭素質材料について、株式会社カンタクローム製の「Ultrapyc 1200e」を用い、ヘリウムを置換媒体とするヘリウム真密度の測定を行った。
【0093】
<ブタノール法により求めた真密度ρBt
JIS R 7212:1995に準拠して、ブタノール法により、炭素質材料の真密度ρBtを測定した。具体的な手順を以下に示す。
約40mL容の側管付比重瓶の質量(m)を正確に秤量した。次に、側管付比重瓶の底部からの試料の厚さが約10mmになるよう試料を平らに導入した後、試料入りの側管付比重瓶の質量(m)を正確に秤量した。側管付比重瓶の底部から液面までの深さが20mm程度になるよう1-ブタノールを静かに加えた。次いで、側管付比重瓶に軽い振動を加えて、大きな気泡が発生しなくなったのを確かめた後、側管付比重瓶を真空デシケーター内に入れ、徐々に排気して真空デシケーター内の圧力を2.0~2.7kPaにした。この圧力を20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後に側管付比重瓶を取り出した。この側管付比重瓶に1-ブタノールを更に加え、栓をして(30±0.03℃に調節した)恒温水槽に15分間以上浸し、1-ブタノールの液面を標線に合わせた。続いて、側管付比重瓶を取り出して外側をよくぬぐって室温まで冷却した後、質量(m)を正確に秤量した。
次に、同じ側管付比重瓶に1-ブタノールだけを満たし、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線に合わせた後、質量(m)を量った。
更に、使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重瓶に導入し、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線に合わせた後、質量(m)を量った。
真密度ρBtは下記式により計算した。ここで、dは、水の30℃における比重(0.9946)である。
【数4】
【0094】
<ρHeに対するρBtの比>
各炭素質材料のρHeおよびρBtから、ρHeに対するρBtの比(ρBt/ρHe)を求めた。
【0095】
[実施例1]
NDIR法により求めた硫黄元素含有量が2質量%であり、融点が250℃であり、水可溶分が2.7質量%であるリグニン18.0gを舟形坩堝に入れ、この舟形坩堝を株式会社モトヤマ製の管状炉(管径200mmφ×管長1800mm)に導入した。5L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から400℃に昇温(昇温速度2.5℃/分)させ、400℃で1時間保持し(第一の炭化工程)、400℃から室温に自然放冷した後、炭素前駆体を取り出した。8.18gの炭素前駆体を得た(回収率45.4質量%)。
得られた炭素前駆体をミキサーミルで粉砕し、体積平均粒径が5.0μmの粉砕物を得た。
粉砕物7.00gおよびポリスチレン0.70gを混合して得た混合物を舟形坩堝に入れ、再び、上記管状炉に導入した。5L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から1000℃に昇温(昇温速度10℃/分)させ、1000℃で30分間保持し(第二の炭化工程)、12時間かけて1000℃から室温まで冷却した後、炭素質材料を取り出した。6.30gの炭素質材料を得た(回収率90.0質量%)。
得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0096】
[実施例2]
第二の炭化工程の温度を1000℃から900℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.7μmであり、炭素質材料の回収率は88.3質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0097】
[実施例3]
第二の炭化工程の温度を1000℃から800℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.6μmであり、炭素質材料の回収率は88.4質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0098】
[実施例4]
第二の炭化工程の温度を1000℃から1300℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.8μmであり、炭素質材料の回収率は86.9質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0099】
[実施例5]
ポリスチレンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.7μmであり、炭素質材料の回収率は98.4質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0100】
[実施例6]
1L容のセパラブルフラスコに、NDIR法により求めた硫黄元素含有量が2質量%であり、融点が250℃であり、水可溶分が4質量%であるリグニン60gを秤量した。そこに、イオン交換水570mLを添加し、メカニカルスターラーで撹拌しながら、アンモニア水(28質量%)を200mL添加した。更にそこに、ホルムアルデヒド水溶液(36質量%)20.4mL、並びにアンモニア水(28質量%)5mLおよび酢酸0.5gの混合溶液を添加し、室温で20分間撹拌した。次いで、セパラブルフラスコを(80℃に調節した)オイルバスに設置し、セパラブルフラスコの内温80℃で1.5時間撹拌した。その後、撹拌しながら室温に冷却し、リグニン水溶液を得た。
得られた水溶液を、エバポレーターを用いてバス温度80℃、3kPaの減圧下で蒸留し、水400gを留去した。得られた濃縮液を、1L容のビーカーに移し、防爆熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥して固化した。得られた固化物は45g(回収率75質量%)であった。
得られた固化物10.0gを舟形坩堝に入れ、この舟形坩堝を株式会社モトヤマ製の管状炉(管径200mmφ×管長1800mm)に導入した。10L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から600℃に昇温(昇温速度2.5℃/分)させ、600℃で1時間保持し(第一の炭化工程)、600℃から室温に自然放冷した後、炭素前駆体を取り出した。5.8gの炭素前駆体を得た(回収率58.0質量%)。
得られた炭素前駆体をミキサーミルで粉砕し、体積平均粒径が5.5μmの粉砕物を得た。
粉砕物5.0gを舟形坩堝に入れ、再び、上記管状炉に導入した。5L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から1200℃に昇温(昇温速度10℃/分)させ、1200℃で30分間保持し(第二の炭化工程)、12時間かけて1200℃から室温まで冷却した後、炭素質材料を取り出した。4.52gの炭素質材料を得た(回収率90.4質量%)。
得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0101】
[比較例1]
第二の炭化工程の温度を1000℃から1420℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.7μmであり、炭素質材料の回収率は83.1質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0102】
[比較例2]
NDIR法により求めた硫黄元素含有量が6質量%であり、融点が182℃であり、水可溶分が15質量%であるリグニンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.8μmであり、炭素質材料の回収率は83.1質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0103】
[比較例3]
NDIR法により求めた硫黄元素含有量が2質量%であり、融点が232℃であり、水可溶分が15質量%であるリグニン18.0gを舟形坩堝に入れ、この舟形坩堝を株式会社モトヤマ製の管状炉(管径200mmφ×管長1800mm)に導入した。10L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から600℃に昇温(昇温速度2.5℃/分)させ、600℃で1時間保持し(第一の炭化工程)、600℃から室温に自然放冷した後、炭素前駆体を取り出した。8.18gの炭素前駆体を得た(回収率45.4質量%)。
得られた炭素前駆体をミキサーミルで粉砕し、体積平均粒径が8.2μmの粉砕物を得た。
粉砕物7.06gを舟形坩堝に入れ、再び、上記管状炉に導入した。5L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から1000℃に昇温(昇温速度10℃/分)させ、1000℃で30分間保持し(第二の炭化工程)、12時間かけて1000℃から室温まで冷却した後、炭素質材料を取り出した。6.37gの炭素質材料を得た(回収率90.2質量%)。
得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0104】
[比較例4]
第二の炭化工程の温度を1000℃から1200℃に変更したこと以外は比較例3と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は8.2μmであり、炭素質材料の回収率は84.4質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0105】
[比較例5]
NDIR法により求めた硫黄元素含有量が2質量%であり、融点が217℃であり、水可溶分が15質量%であるリグニンを用いたこと、および第一の炭化工程における窒素の流量を5L/分から10L/分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。炭素前駆体の回収率は51.0質量%であり、粉砕物の体積平均粒径は7.8μmであり、炭素質材料の回収率は87.3質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0106】
[比較例6]
第一の炭化工程における窒素の流量を5L/分から10L/分に変更したこと、第一の炭化工程の温度を400℃から600℃に変更したこと、およびポリスチレンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。粉砕物の体積平均粒径は4.7μmであり、炭素質材料の回収率は89.1質量%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
[ドープ-脱ドープ試験]
実施例および比較例で得た炭素質材料を用いて、負極電極および非水電解質二次電池を作製し、性能の評価を行った。
【0109】
<負極電極の作製>
炭素質材料95質量部、導電性カーボンブラック(TIMCAL製「Super-P(登録商標)」)2質量部、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)3質量部およびN-メチル-2-ピロリドン90質量部を混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ45μmの電極を得た。
【0110】
<非水電解質二次電池の作製>
電池活物質の放電容量(脱ドープ量)および不可逆容量(非脱ドープ量)を、対極の性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として用い、上記手順に従い作製した負極電極を用いて非水電解質二次電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:1:1となるように混合して得た溶媒に、電解質LiPFを溶解した溶液(濃度1mol/L)を用いた。セパレータとしては、ポリプロピレン膜を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、コインセルを作製した。
【0111】
<非水電解質二次電池の充放電試験>
作製した非水電解質二次電池について、充放電試験装置(株式会社東洋システム製「TOSCAT」)を用いて25℃にて充放電試験を行った。
具体的には、炭素極へのリチウムのドープ反応を定電流定電圧法により行い、脱ドープ反応を定電流法により行った。ここで、正極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのリチウムのドープ反応が「充電」と称され、本発明の試験用電池のように対極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのドープ反応が「放電」と称され、用いる対極により同じ炭素極へのリチウムのドープ反応の呼び方が異なる。そこで、ここでは、便宜上、炭素極へのリチウムのドープ反応を「充電」と記載することにする。逆に「放電」とは試験用電池では充電反応であるが、炭素質材料からのリチウムの脱ドープ反応であるため、便宜上「放電」と記載することにする。定電流定電圧法では、具体的には、初期直流抵抗(Ω)を測定した後に端子電圧が0mVになるまで0.5mA/cmで定電流充電を行い、端子電圧が0mVに達した後、端子電圧0mVで定電圧充電を行い電流値が20μAに達するまで充電を継続した。このときの充電全容量を電極の炭素質材料の質量で除した値を、炭素質材料の単位質量当たりの充電容量(mAh/g)と定義する。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後、放電を行った。放電は0.5mA/cmで定電流放電を行い、終止電圧を1.5Vとした。このとき放電した電気量を電極の炭素質材料の質量で除した値を、炭素質材料の単位質量当たりの放電容量(mAh/g)と定義する。充電容量に対する放電容量の比(放電容量/充電容量)を、充放電効率(%)と定義し、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。更に、この充放電を50サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の維持率(放電容量維持率)を求め、電池性能の安定化の指標とした。
結果を表2にまとめる。
【0112】
【表2】
【0113】
表2の結果から、本発明の炭素質材料を使用することにより、向上した放電容量、充放電効率、初期直流抵抗および放電容量維持率を有する電池を製造できることが分かる。
一方、比較例の炭素質材料は、放電容量、充放電効率、初期直流抵抗および放電容量維持率の少なくとも1つが劣っている電池しかもたらさないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の炭素質材料を含んでなる電極を含む電池は、向上した放電容量、充放電効率、初期直流抵抗および放電容量維持率を有することができる。従って、様々な電池に適用できる可能性がある。