(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】不燃木材、不燃木材の製造方法、及び木材を含む構造物の不燃化方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20240905BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20240905BHJP
B32B 21/08 20060101ALI20240905BHJP
B05D 7/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B27K3/02 C
B27K5/00 G
B32B21/08
B05D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2019239408
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594191261
【氏名又は名称】株式会社セブンケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真弘
(72)【発明者】
【氏名】久保田 信二
(72)【発明者】
【氏名】島袋 省三
(72)【発明者】
【氏名】奈良 利男
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-105011(JP,A)
【文献】特開2001-220549(JP,A)
【文献】特開2012-040724(JP,A)
【文献】特開2019-098538(JP,A)
【文献】特開2019-069538(JP,A)
【文献】河原崎政行,薬剤処理防火木材の白華防止への塗装の効果,林産試だより,2018年9月号,日本,地方独立行政法人北海道立総合研究機構,2018年09月,P4-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
B32B 21/08
B05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不燃薬剤含有木材と、
前記不燃薬剤含有木材の表面に設けられ、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層と、を有し、
前記保護層は、伸び率が100%以上1000%以下であり、
溶媒又は分散媒として、アルコール、グリコール、及び炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる有機溶剤を含む保護層形成用組成物、又は、湿気硬化型ウレタン樹脂、2液反応型のウレタン樹脂、及び2液反応型のアクリルウレタン樹脂から選ばれる無溶媒系樹脂を含む保護層形成用組成物の硬化物である、
不燃木材。
【請求項2】
不燃薬剤含有木材と、
前記不燃薬剤含有木材の表面に設けられ、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層と、を有し、
前記保護層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第一の層と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第二の層とを少なくとも有する重層構造であり、
前記第一の層は、伸び率が100%以上1000%以下であり、
前記第二の層は、前記不燃薬剤含有木材と前記第一の層との間に位置し、溶媒又は分散媒として、アルコール、グリコール、及び炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる有機溶剤を含む第二の保護層形成用組成物、又は、湿気硬化型ウレタン樹脂、2液反応型のウレタン樹脂、及び2液反応型のアクリルウレタン樹脂から選ばれる無溶媒系樹脂を含む第二の保護層形成用組成物の硬化物である、
不燃木材。
【請求項3】
前記第二の層は、アクリルシリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む請求項2に記載の不燃木材。
【請求項4】
前記保護層は、前記第一の層と、前記第二の層と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第三の層とを少なくとも有する重層構造であり、
前記第三の層は、前記第一の層の、前記不燃薬剤含有木材側とは反対側に位置する請求項2又は請求項3に記載の不燃木材。
【請求項5】
前記保護層は、前記不燃薬剤含有木材側から、前記第二の層と、前記第一の層と、前記第三の層とをこの順に有する重層構造であ
る請求項
4に記載の不燃木材。
【請求項6】
木材に不燃薬剤を含浸させ、乾燥させて不燃薬剤含有木材を得る工程Aと、
前記不燃薬剤含有木材に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下であり、伸び率が100%以上1000%以下である保護層を形成する工程Bと、
を有し、
前記工程Bは、工程Aで得た不燃薬剤含有木材の表面に、溶媒又は分散媒として、アルコール、グリコール、及び炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる有機溶剤を含む保護層形成用組成物、又は、湿気硬化型ウレタン樹脂、2液反応型のウレタン樹脂、及び2液反応型のアクリルウレタン樹脂から選ばれる無溶媒系樹脂を含む保護層形成用組成物を付与する工程である、不燃木材の製造方法。
【請求項7】
木材に不燃薬剤を含浸させ、乾燥させて不燃薬剤含有木材を得る工程Aと、
前記不燃薬剤含有木材に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下であり、伸び率が100%以上1000%以下である保護層を形成する工程Bと、
を有し、
前記保護層を形成する工程Bは、第一の層を形成する工程B-1、及び第二の層を形成する工程B-2を有し、
前記工程B-1は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第一の層形成用樹脂組成物を用いて前記第一の層を形成する工程であり、
前記工程B-2は、前記工程B-1に先立ち、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒として、アルコール、グリコール、及び炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる有機溶剤を含む第二の層形成用樹脂組成物、又は、湿気硬化型ウレタン樹脂、2液反応型のウレタン樹脂、及び2液反応型のアクリルウレタン樹脂から選ばれる無溶媒系樹脂を含む第二の層形成用樹脂組成物を、前記不燃薬剤含有木材上に付与して第二の層を形成する工程である不燃木材の製造方法。
【請求項8】
前記保護層を形成する工程Bは、前記工程B-1の後に、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第三の層形成用樹脂組成物を、前記第一の層上に付与して第三の層を形成する工程B-3をさらに有する請求項7に記載の不燃木材の製造方法。
【請求項9】
不燃薬剤含有木材を含んで構成された構造物の、前記不燃薬剤含有木材の表面に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下であり、伸び率が100%以上1000%以下であり、溶媒又は分散媒として、アルコール、グリコール、及び炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる有機溶剤を含む保護層形成用組成物、又は、湿気硬化型のウレタン樹脂、2液反応型のウレタン樹脂、及び2液反応型のアクリルウレタン樹脂から選ばれる無溶媒系樹脂を含む保護層形成用組成物の硬化物である保護層を形成する工程Cを有する木材を含む構造物の不燃化方法。
【請求項10】
前記不燃薬剤含有木材は、木材を加工してなる木製部材に、不燃薬剤を含浸させ、乾燥させてなる木製部材である請求項9に記載の木材を含む構造物の不燃化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不燃木材、不燃木材の製造方法、及び木材を含む構造物の不燃化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な日本建築の建造物に多用される木材は、独特の風合い等を有し、現在でも、住宅等に用いられている。近年、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律が施行されるなど、木材の利用促進に関する取り組みが行われている。特に、日本国全体の建築インフラ形成の方向性として、新国立競技場などの大規模木造建築の施工が注目されている。
このように、木材は、大規模建築から、戸建て住宅の如き小規模住宅までの活用が望まれている。
木造建築に用いられる木材は、可燃性であるため、不燃化技術が各種検討されている。一般的には、ホウ酸などのホウ素系不燃薬剤、リン酸アンモニウム等のリン酸系不燃薬剤等を木材に塗布又は注入する方法が挙げられる。木材が上記の如き不燃薬剤を含むことで、木材表面に炎が接触した場合、木材に含まれる不燃薬剤が加熱され、発泡することで、炎と接触した箇所にガラス質の層が形成される。形成されたガラス質の層により、酸素と熱が遮断され、木材が燃えることが抑制される。
不燃薬剤は、通常、水性であり、木材への親和性が良好で、深部まで浸透しやすいため、不燃薬剤の種類、有効成分の濃度等を制御することで、簡易に木材の不燃化を行うことができる。
【0003】
不燃薬剤の付与による木材の不燃化は、木材を用いた構造物の火災対策として有用である。
しかしながら、不燃薬剤が水性であることなどに起因して、不燃薬剤を含む木材は経時により、空気中の水分、雨水等の影響を受けて、不燃薬剤が潮解し、木材表面からの溶脱、木材表面の白華等が発生するという問題がある。不燃薬剤の溶脱、白華等が生じた場合、木材の外観及び触感を損なうだけではなく、不燃性能を低下させる場合があり好ましくない。
ここで、「溶脱」とは、不燃薬剤が木材表面に浸出してべたつき、液だれ等を生じる現象を指し、「白華」とは、木材表面に浸出した不燃薬剤が結晶化して、木材表面の外観が析出した難燃薬剤の結晶により白くなる現象をいう。
【0004】
不燃薬剤の溶脱及び白華を抑制するため、種々の検討がなされている。
例えば、不燃薬剤として、低吸湿型の薬剤を用い、且つ、木材表面をウレタン樹脂系塗料で被覆する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
また、被覆塗料として、難燃薬剤の浸透し難い緻密な膜を形成できる立体分子構造を有するウレタン系の塗料を塗布する方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】河原崎「薬剤処理防火木材の白華防止への塗装の効果」 林産試だより 2018年9月号 pp.4-5
【文献】高橋ら「不燃木材の難燃剤溶出抑制技術の開発 その2」 日本建築学会学術講演概要集 2018年9月号 pp.1295-1296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の方法は、木材に塗膜を形成することで、木材の吸湿速度を低減することを意図した方法であり、一般に用いられる防火木材用のウレタン樹脂塗料を使用して塗膜を形成しているが、塗膜の物性に対する着目はなく、白華防止と不燃性とをバランスよく両立し、且つ、不燃性及び外観維持効果を長期間持続させるという観点からは効果が不十分である。
また、非特許文献2に記載の技術も同様に、主としてウレタン系の塗料を木材に塗布して皮膜を形成することを意図した技術であるが、塗料による皮膜の物性に対する着目はなく、屋外に木材を暴露した場合、条件によっては塗料と木材との間に不燃薬剤が析出して塗膜に膨れが発生するなど、耐久性に問題があった。
【0007】
本発明の一実施形態の課題は、不燃性と木材の良好な外観が長期間に亘り維持される、耐久性に優れた不燃木材及びその製造方法を提供することである。
本発明の別の実施形態の課題は、既存の不燃薬剤含有木材を含んで構築された構造物に対しても適用することができ、木材を用いた構造物に対し、長期間に亘り、不燃性と良好な外観を維持することができる木材を含む構造物の不燃化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1> 不燃薬剤含有木材と、不燃薬剤含有木材の表面に設けられ、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層と、を有する不燃木材。
<2> 保護層は、第一の層を少なくとも有し、第一の層は伸び率が100%以上1000%以下である<1>に記載の不燃木材。
<3> 保護層は、第一の層を少なくとも有し、第一の層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第一の層を有する<1>又は<2>に記載の不燃木材。
【0009】
<4> 保護層は、第一の層と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第二の層とを少なくとも有する重層構造であり、第二の層は、不燃薬剤含有木材と第一の層との間に位置する<2>又は<3>に記載の不燃木材。
<5> 第二の層は、アクリルシリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む<4>に記載の不燃木材。
<6> 保護層は、第一の層と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第三の層とを少なくとも有する重層構造であり、第三の層は、第一の層の、不燃薬剤含有木材側とは反対側に位置する<2>~<5>のいずれか1つに記載の不燃木材。
<7> 保護層は、不燃薬剤含有木材側から、第二の層と、第一の層と、第三の層とをこの順に有する重層構造である<2>~<6>のいずれか1つに記載の不燃木材。
【0010】
<8> 木材に不燃薬剤を含浸させ、乾燥させて不燃薬剤含有木材を得る工程Aと、不燃薬剤含有木材に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層を形成する工程Bと、を有する不燃木材の製造方法。
<9> 保護層を形成する工程Bは、第一の層を形成する工程B-1を有し、工程B-1は、伸び率が100%以上1000%以下である第一の層を形成する工程を有する<8>に記載の不燃木材の製造方法。
<10> 保護層を形成する工程Bは、第一の層を形成する工程B-1を有し、
工程B-1は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第一の層形成用樹脂組成物を、不燃薬剤含有木材上に付与して、第一の層を形成する工程を有する<8>又は<9>に記載の不燃木材の製造方法。
<11> 保護層を形成する工程Bは、工程B-1に先立ち、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第二の層形成用樹脂組成物を、不燃薬剤含有木材上に付与して第二の層を形成する工程B-2をさらに有する<9>又は<10>に記載の不燃木材の製造方法。
<12> 保護層を形成する工程Bは、工程B-1の後に、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第三の層形成用樹脂組成物を、第一の層上に付与して第三の層を形成する工程B-3をさらに有する<9>~<11>のいずれか1つに記載の不燃木材の製造方法。
【0011】
<13> 不燃薬剤含有木材を含んで構成された構造物の、不燃薬剤含有木材の表面に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層を形成する工程Cを有する木材を含む構造物の不燃化方法。
<14> 不燃薬剤含有木材は、木材を加工してなる木製部材に、不燃薬剤を含浸させ、乾燥させてなる木製部材である<13>に記載の木材を含む構造物の不燃化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、不燃性と木材の良好な外観が長期間に亘り維持される、耐久性に優れた不燃木材及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明の別の実施形態によれば、既存の不燃薬剤含有木材を含んで構築された構造物に対しても適用することができ、木材を用いた構造物に対し、長期間に亘り、不燃性と良好な外観を維持することができる木材を含む構造物の不燃化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の不燃木材の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1で示す不燃木材の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、不燃薬剤含有木材として、丸太材を用いた本開示の不燃木材の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、第一の層のみからなる単層の保護層を有する本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分概略断面図である。
【
図5】
図5は、第一の層と第二の層とを有する2層の重層構造からなる保護層を有する本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分概略断面図である。
【
図6】
図6は、第一の層と第二の層と第三の層とを有する3層の重層構造からなる保護層を有する本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
さらに、本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
また、「置換基」の表記は、特に断りのない限り、無置換のもの、置換基を更に有するものを包含する意味で用いられ、例えば「アルキル基」と表記した場合、無置換のアルキル基と置換基を更に有するアルキル基の双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0015】
本開示における不燃木材とは、通常の火炎による加熱が加えられた場合、燃焼せず、防火上有害な変形、溶解、亀裂などを生じず、有毒な煙またはガスを発生しない木材を指し、以下に示す不燃材料、準不燃材料及び難燃材料を包含する意味で用いられる。
国土交通省検査機関による規定では、通常の火炎による加熱が加えられた場合、20分以上燃焼しないものを不燃材料、10分以上燃焼しないものを準不燃材料、5分以上燃焼しないものを難燃材料としている。ISO-5660に準拠してコーンカロリーメータによる試験において、総発熱量が8MJ/m2以下であることが規定されている。
【0016】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
【0017】
以下、本開示の不燃木材及びその製造方法等について、より具体的な実施形態を挙げて説明する。しかし、本開示の不燃木材及びその製造方法等は、以下の実施形態には限定されず、本開示の趣旨を超えない限り、種々の変型例を実施可能である。
【0018】
〔不燃木材〕
本開示の不燃木材は、不燃薬剤含有木材と、不燃薬剤含有木材の表面に設けられ、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層と、を有する。
本開示においては、不燃薬剤を含む木材を「不燃薬剤含有木材」と称し、保護層が設けられた不燃薬剤含有木材を「不燃木材」と称し、不燃薬剤を含ませる前の木材を単に「木材」と称して、これらを区別している。
【0019】
本開示の不燃木材について、図を参照して説明する。
図1は、本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分斜視図である。
図1に示す不燃木材10は、不燃薬剤含有木材12、及び不燃薬剤含有木材12の表面に保護層を有する。
図2は、
図1に示す不燃木材10の概略断面図である。
図1及び
図2に示す実施形態では、不燃薬剤含有木材として角材を用いた例が示される。
不燃木材10を、柱、梁等の構造材料として用いる場合には、
図1及び
図2に示す如く、不燃薬剤含有木材12の全周に保護層14を有することが好ましい。また、図示されていないが、不燃性の観点からは、角材の周囲のみならず、両側端の端面にも保護層を有することが好ましい。
なお、木材の端面が外部に露出しておらず、火炎に接する可能性が低い箇所については、保護層の形成を省略することができる。
図3は、不燃薬剤含有木材として、丸太材を用いた本開示の不燃木材の一実施形態を示す概略断面図である。
図3に示す実施形態では、不燃薬剤含有木材(丸太材)12の全周に亘り保護層14を有する。
図3においても、不燃性の観点から、丸太材の両端の端面にも保護層を有することが好ましい。
【0020】
<不燃薬剤含有木材>
不燃木材における不燃薬剤含有木材は、木材に不燃薬剤を付与することで得ることができる。
不燃薬剤含有木材の製造に用い得る木材としては、柱、梁、壁面などに一般に使用される無垢の角材、丸太材、板材などが挙げられる。無垢の木材とは、原木から使用する形状に切り出された木材を意味する。
木材に用いられる原木の種類には特に制限はなく、スギ、ヒノキ、ブナ、タモ等、構造物の構築等に通常に使用される原木であれば、いずれも使用することができる。
なお、本開示における木材には、無垢の木材に加え、木材を切削して成形された組み立て用の木製部材〔パーツ〕、及び木材を主成分として含む合板、集成材などの木製部材が含まれる。
【0021】
不燃薬剤には特に制限はなく、公知の木材用不燃薬剤であれば、制限なく使用することができる。
不燃薬剤としては、例えば、リン酸系、ホウ酸系、ホウ酸/リン酸複合系、リン窒素系、塩素系、臭素系、シリコーン系の不燃薬剤、水和金属系化合物、チッ素含有化合物等が挙げられる。
なかでも、リン酸系、ホウ酸系、ホウ酸/リン酸複合系、リン窒素系の不燃薬剤が、不燃効果が良好であり、木材と親和性が高い水性組成物を形成し易いという観点から好ましい。
リン酸系不燃薬剤は、火炎に接触すると炭化層を形成し、酸素、熱を遮断する機能を有する。ホウ酸系不燃薬剤としては、例えば、ポリホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩化合物が挙げられ、リン酸系と同様に火炎に接触すると炭化層を形成し、酸素、熱を遮断する機能を有する。
不燃薬剤含有木材は、不燃薬剤を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
木材に付与する不燃薬剤組成物は、不燃薬剤と、水を含む水系溶媒とを含有する組成物であることが、木材との親和性の観点から好ましい。
木材に不燃薬剤を付与する方法としては、木材を不燃薬剤組成物に含浸する方法、不燃薬剤組成物を木材に塗布する方法等が挙げられる。
なお、角材、丸太材など、厚み、断面積などが比較的大きい木材を用いる場合には、加圧により木材に不燃薬剤を深部まで浸透させる方法をとることもできる。
【0022】
不燃薬剤含有木材における不燃薬剤の含有量は、不燃木材の使用目的に応じて決定され、必要な不燃性又は難燃性を発現しうる量に調整すればよい。
木材に対する不燃薬剤の含有量は、不燃薬剤組成物に用いる不燃薬剤の種類、含有量、浸透させる方法などを制御することで適宜調整することができる。
【0023】
<保護層>
本開示の不燃木材における保護層は、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層である。
【0024】
(厚み)
保護層の厚みは、0.1mmを超え2.0mm以下であり、0.3mm~2.0mmが好ましく、0.5mm~2.0mmがより好ましい。保護層の厚みが上記範囲であることで、保護層が木材の変形に対する追従性が良好となり、亀裂、ピンホールなどの形成が抑制されて、保護層の耐久性が向上する。なお、耐久性の観点からは、伸び率の上限に制限はなく、より厚みが大きくても効果の観点からは特に支障はないが、得られた不燃木材を取り扱う際の作業性の観点から、厚みの上限は2.0mm以下とする。
保護層の厚みは、不燃薬剤含有木材に対する保護層形成用組成物の付与量で調整することができる。不燃薬剤含有木材の面に保護層を形成する方法については、以下に詳述する。
【0025】
-厚みの測定-
本開示における保護層の厚みは、不燃木材の断面を光学写真で撮影し、撮影した写真の視野角内で保護層の厚みを5箇所撮影し、測定値を算術平均して得た値を採用している。
また、不燃薬剤含有木材が有する保護層の厚みを測定する他の方法としては、不燃薬剤含有木材の面上に形成するものと同様の設計の保護層を、離型処理された仮支持体上に形成し、仮支持体から保護層を剥離して、マイクロメーター等で測定する方法が挙げられる。
【0026】
(ひび割れ追従性)
保護層は、以下に記載の方法で測定したひび割れ追従性が1mm以上10mm以下であり、1mm以上10mm以下であることが好ましく、3mm以上10mm以下であることがより好ましい。
ひび割れ追従性が上記範囲にあることで、保護層が不燃薬剤含有木材の膨張又は収縮によく追従し、例えば、温度変化などにより木材にひびが入った場合でも、ひび割れ部の被覆を維持することができ、不燃薬剤含有木材を水分等から遮断する効果が長期間維持される。伸ひび割れ追従性の上限には特に制限はないが、ひび割れ追従性が10mm以下であることにより、保護層表面への埃、ゴミ等の付着がより抑制され、不燃木材の取り扱い性がより良好となるといった観点から、ひび割れ追従性の上限として好ましい10mm以下に設定する。
【0027】
-ひび割れ追従性の測定-
木目に平行する方向を横として、縦75mm×横100mm×厚み3mmのスギ板(木材)を用意して測定試料とする。試料であるスギ板の一方の面の縦長さ半分の位置に、カッターナイフで、縦方向と直交する方向に深さ約2mmの切れ目を入れる。
次に、スギ板の切れ目を入れた面とは反対側の面に評価用の保護層形成用組成物を塗布し、所定の時間を乾燥させて、乾燥後の厚さ0.5mmの保護層を形成する。
保護層とは反対側の面に形成した切れ目を外側にして試験体を折り曲げ、形成された保護層が破断しないようにスギ板を割り、杉板の両端部をそれぞれ引張試験機(品名:AUTOGRAPH、製造元;株式会社島津製作所)に取り付ける。
スギ板同士を離間する方向に2mm/分の速度で引っ張り試験を実施し、保護層が破断し始めたところで停止し、停止時の変位を測定し、変位した値を本開示における耐ひび割れ追従性とする。
【0028】
なお、既に完成された不燃木材のひび割れ追従性を測定する場合には、保護層を有する不燃薬剤含有木材を、可能な限り縦75mm×横100mmに近い値に切断し、不燃薬剤含有木材部分を削って木材の厚みを3mmとしたものを、測定試料として、上記と同様の方法で測定した値を、不燃薬剤含有木材上に形成された保護層の「ひび割れ追従性」とする。
【0029】
保護層のひび割れ追従性を好ましい範囲にするためには、柔軟で、且つ、破断強度が比較的高い硬化膜を形成することが重要である。そのような観点からは、以下に詳述するように、保護層を形成するために用いる樹脂の種類及び量を選択すること、例えば、可塑剤等の、形成される保護層に柔軟性を付与する添加剤を併用すること等が好ましい対応として挙げられる。
【0030】
(保護層の層構成)
本開示における保護層は、上記物性を満たす以外に特に制限はない。保護層は、単層構造でも、2層以上の異なる物性の層を含む重層構造であってもよい。
【0031】
保護層は、第一の層を少なくとも有し、第一の層は伸び率が100%以上1000%以下であることが好ましい。
第一の層の伸び率が上記範囲であることで、保護層のひび割れ追従性がより良好となると考えられる。
【0032】
(伸び率)
第一の層は、伸び率は100%以上1000%以下であることが好ましく、150%以上800%以下がより好ましく、200%以上600%以下がさらに好ましい。
伸び率が100%以上であることで、保護層が不燃薬剤含有木材の膨張又は収縮に応じて伸縮することができ、保護層表面に埃、ゴミ等が付着し難くなる。伸び率の上限には特に制限はないが、伸び率が1000%以下であることにより、形成された保護層の柔軟性と耐傷性がより良好となり、保護層表面への埃、ゴミ等の付着がより抑制され、不燃木材の取り扱い性がより良好となるといった観点から、伸び率の上限として1000%以下であることが好ましい。
第一の層の伸び率は、第一の層形成用組成物に含まれる成分の種類及び量の少なくともいずれかを調整することで制御することができる。
【0033】
-伸び率の測定-
本開示における第一の層の伸び率は、不燃薬剤含有木材の面上に形成するものと同様の設計の第一の層を、離型処理された仮支持体上に形成し、仮支持体から剥離した第一の層を試料として、JIS A 6021(2011年)に記載される標線間の伸び率を採用している。第一の層の伸び率は試験時温度23℃にて測定する。
また、保護層が第一の層からなる単層構造である場合には、不燃木材から保護層としての第一の層を剥離して評価することができる。
【0034】
また、保護層は、第一の層を少なくとも有し、第一の層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
本開示における保護層は、第一の層のみからなる単層構造とすることができる。
図4は、不燃薬剤含有木材12上に第一の層18のみからなる単層の保護層14を有する本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分概略断面図である。
【0035】
第一の層に含まれる樹脂は、上記物性を満たす保護層に適用できれば特に制限はない。なかでも、上記物性を満たす保護層を形成しやすいとの観点から、第一の層には、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、アクリル樹脂、及びアクリルシリコーン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことがより好ましい。
【0036】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を含む単独重合体及び共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0037】
アクリルシリコーン樹脂としては、シリコーン変性されたアクリル樹脂が挙げられる。アクリルシリコーン樹脂としては、主鎖がアクリル樹脂であり、側鎖にシロキサン構造を含む樹脂グラフト共重合体の如き樹脂であってもよく、主鎖に(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構造単位と、シロキサン構造を有する単量体に由来する構造単位とを含むブロック共重合体、ランダム共重合体等の樹脂のいずれであってもよい。シロキサン構造を有する構造単位としては、ジメチルシロキサン構造単位等が挙げられる。
【0038】
ウレタン樹脂としては主鎖にウレタン結合を有する樹脂が挙げられ、より具体的には、ポリオール又はジオールとイソシアネート化合物とがウレタン結合した構造を含む樹脂が挙げられる。
ウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリール等が挙げられる。ウレタン樹脂を得るために用いられるポリオールは、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
ウレタン樹脂を構成するジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジメチロールペンタン、ジメチロールヘプタン等の炭素数2~10の脂肪族ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の脂環族ジオールが挙げられる。ウレタン樹脂を得るために用いられるジオールは、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
イソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート等が挙げられる。ウレタン樹脂を得るために用いられるイソシアネート化合物は、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0039】
第一の層に含まれる樹脂は、市販品であってもよい。第一の層の形成に用い得る市販品としては、例えば、高圧ガス工業(株)製の合成樹脂エマルジョンであるペガール(登録商標)752等が挙げられる。
【0040】
保護層は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第一の層形成用組成物を、不燃薬剤含有木材に付与して形成することができる。
第一の層形成用組成物には、既述の樹脂に加え、その他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、樹脂を溶解又は分散させる溶媒及び分散媒から選ばれる少なくとも1種、粘度調整剤、界面活性剤、造膜助剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色剤等が挙げられる。
本開示における保護層において、ひび割れ追従性を上記物性の範囲とし易いといった観点からは、例えば、可塑剤等の、第一の層に柔軟性を付与する添加剤を用いることが好ましく、一方で、例えば、架橋剤を多く含むことは第一の層の伸び率を低下させるという観点からは好ましくない。
本開示の第一の層は、乾燥後の残膜率(NV値)が20質量%~100質量%であることが、第一の層の耐久性の観点から好ましい。
ここで、乾燥後の残膜率とは、塗料業界でNV(Non Volatile Organic Compound)値として知られる値であり、以下の式から算出される。
NV値=〔(乾燥後の膜の質量)/(乾燥前の膜形成用組成物の質量)〕×100
例えば、第一の層を例にとれば、単位面積あたりに形成された第一の層の質量を(I-1)とし、単位面積あたりに塗布された第一の層形成用組成物の質量を(I-2)とすると、〔(I-1)/(I-2)〕×100で算出される値である。
形成された第一の層は、主として、樹脂が含まれ、さらに所望により第一の層形成用組成物に用いられる各種の添加剤などが含まれ、さらに僅かに溶媒が残存していることがある。
なお、不燃木材の製造方法の詳細については、後述する。
【0041】
本開示における保護層は、第一の層と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第二の層とを少なくとも有する重層構造であり、第二の層は、不燃薬剤含有木材と第一の層との間に位置する態様とすることができる。
図5は、2層の重層構造からなる保護層を有する本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分概略断面図である。
図5では、不燃薬剤含有木材12に、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第二の層16と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第一の層18とをこの順に有しており、保護層14は、第一の層18と第二の層16とを有する。
【0042】
第二の層がアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことで、第二の層は、第一の層と不燃薬剤含有木材との密着性を向上させることができる。第二の層は、プライマー層としての機能を有することが好ましい。
第二の層が含むことができるアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂は、既述の第一の層におけるアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂と同様の樹脂を挙げることができる。
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるビスフェノールA型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
なかでも、疎水性がより高く、より緻密な構造の層を形成しうるという観点からは、樹脂として、アクリルシリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
第二の層の疎水性がより高いことで、不燃薬剤含有木材からの不燃薬剤の析出抑制効果がより良好となり、第一の層の処方の自由度が高くなる。即ち、第一の層として、疎水性がより低い層、例えば、水系の組成物により形成された第一の層を採用することも可能となるという利点を有する。
第二の層は、樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
【0043】
第二の層を形成する第二の層形成用組成物には、不燃薬剤の析出抑制効果がより向上し、第一の層と不燃薬剤含有木材との密着性がより良好となるという観点から、溶媒又は分散媒として、アルコール、グリコール、炭化水素系溶剤等の有機溶剤を含むことが好ましい。
【0044】
第一の層と第二の層を有し、第二の層がプライマー層として機能する場合、不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能が0.7N/mm2以上であることが好ましく、1.0N/mm2以上であることがより好ましい。
【0045】
(付着性能)
不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は、JIS K 5600(2014年) 5-7に記載のプルオフ試験にて測定される付着力で評価する。本開示においては、試験機として、サンコー テクノ(株)、テクノテスター R-20000NDにより測定した値を採用している。
【0046】
本開示における保護層の別の態様として、第一の層と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第三の層とを少なくとも有する重層構造であり、第三の層は、第一の層の、不燃薬剤含有木材側とは反対側に位置する態様を挙げることができる。
第三の層がアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことで、第三の層は、第一の層の表面を保護し、耐候性、耐傷性、汚れ付着防止性、外観などの性能をさらに向上させることができる。第三の層は、保護層の表面層としての機能を有することが好ましい。
第三の層に含まれる樹脂としては、上記観点から、アクリルシリコーン樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0047】
第三の層が含むことができるアクリル樹脂、及びアクリルシリコーン樹脂は、既述の第一の層におけるアクリル樹脂、及びアクリルシリコーン樹脂と同様のものを挙げることができる。
フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂等を挙げることができる。
なかでも、保護層表面の汚れ付着防止性を向上させる観点から、第三の層は、アクリルシリコーン樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、第三の層に用いられるアクリルシリコーン樹脂は、第1の層に用いられる樹脂と同じであってもよいが、シリコーンを含む構造単位の含有量がより多いことが好ましい。
第三の層は、樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
【0048】
また、第三の層には、保護層の耐久性を向上させる、外観を調整するという観点から、樹脂に加え、紫外線吸収剤、着色剤、無機粒子、有機粒子等を含むことができる。
第三の層が紫外線吸収剤を含むことで、保護層の耐久性がより向上する。
第三の層が着色剤を含むことで、不燃薬剤含有木材の外観に所望の色相を付与することができる。着色剤としては、染料でも顔料でもよいが、耐候性、耐久性の観点から、顔料が好ましい。顔料としては、可視光透過性及び着色効果の両立という観点から、平均一次粒子径が0.5μm~100μmの顔料が好ましい。着色剤の含有量は、目的に応じて適宜選択することができる。顔料の平均一次粒子径は、走査型顕微鏡(SEM)、又は透過型顕微鏡(TEM)で撮影した写真から凝集箇所を除いて単分散した顔料の粒子径を30個測定し、算術平均した値を採用している。
着色剤を適量含有することで、保護層の透明性(可視光透過性)を確保し、木材の外観を生かしつつ、所望の色相を不燃木材に付与することができる。
顔料としては、公知の有機顔料、無機顔料を適宜選択して使用することができる。
第三の層が、無機粒子、有機粒子等の粒子を含むことで、形成された第三の層の表面が粗面となり、光反射によるテカリなどの不自然な光沢の発生が抑制され、外観がより良好となる。
無機粒子としては、シリカ粒子等が挙げられる。有機粒子としては、ポリエチレンワックス、ポリエチレンビーズ等が挙げられる。
【0049】
本開示における保護層の別の態様として、不燃薬剤含有木材側から、第二の層と、第一の層と、第三の層とをこの順に有する重層構造である態様を挙げることができる。
図6は、3層の重層構造からなる保護層を有する本開示の不燃木材の一実施形態を示す部分概略断面図である。
図6では、不燃薬剤含有木材12の面に、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第二の層16と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第一の層18と、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む第三の層20と、をこの順に有している。本実施形態では、保護層14は、第一の層18と第二の層16と第三の層とを有する重層構造を有する。
【0050】
図6に示す不燃木材22では、重層構造の保護層14が、不燃薬剤含有木材を、雨水、空気中の水分等から遮断し、不燃薬剤の溶出、白華を防止し、木材自体の経時劣化をも抑制することができる。重層構造の保護層14における第二の層16は、不燃薬剤含有木材に直接接する層となり、不燃薬剤含有木材に含まれる不燃薬剤、なかでも、リン酸塩系結晶水等の水性の混和物の潮解に伴う水分移動を効果的に遮断する、プライマー層として機能し、不燃薬剤の不燃木材表面への浸出を効果的に抑制する。
第二の層16上に形成された第一の層18は十分な厚みを有し、木材の膨張又は収縮によく追従し、ピンホールの発生、木材のひび割れに起因する亀裂の発生が効果的に抑制され、外部からの水分侵入の抑制効果が良好となり、不燃木材に含まれる不燃薬剤の潮解が効果的に抑制される。上記観点から、第一の層は伸び率が100%以上1000%以下であることが好ましい。
【0051】
また、第三の層20は、外気に接する不燃木材の最表面の層となり、第三の層20に所望により、紫外線吸収剤を含有させて、太陽光による保護層の変退色および第二の層に含まれる樹脂の劣化を防止することができる。また、第三の層20に、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂を用いることで、保護層14表面の汚れ付着防止機能がより高まり、耐候性もより良好となる。さらに、第三の層20に、シリカなどの粒子を含有させて、艶消し効果を付与し、微細表面の平滑化による高反射状態を防ぐことができる。また、無機粒子及び着色剤の少なくとも1種を含ませることで、木材の持つ光沢及び風合いなどの外観をより向上させ、意匠性及び高級感をより高めることもできる。
このように、保護層14を重層構造とし、重層構造の各層のそれぞれを異なる処方とすることで、保護層14に、簡易に所望の機能を与えることができる。
【0052】
3層の重層構造を有する保護層14の場合には、
図6に示すように、不燃薬剤含有木材12から、第二の層16、第一の層18及び第三の層20をこの順に有することが好ましい。
なお、「この順に有する」とは、不燃薬剤含有木材上に、上記の3層がこの順に存在することを意味するが、上記の3層以外の層の存在を妨げるものではない。
【0053】
重層構造の保護層を形成する場合には、隣接する層に含まれる樹脂として、互いに異なる物性の樹脂を用いる、互いに親和性を有する樹脂を用いるなどの種々の態様をとることができる。
第二の層と、第一の層との重層構造を有する保護層の場合の好ましい例を挙げれば、第二の層における樹脂としてウレタン樹脂を用い、第一の層における樹脂としてウレタン樹脂を用いる組み合わせが挙げられる。この組み合わせの場合、第一の層と第二の層、第二の層と不燃薬剤含有木材との密着性がそれぞれより良好となるため好ましい。また、別の例として、第二の層における樹脂としてアクリル樹脂又はアクリルシリコーン樹脂を用い、第一の層における樹脂としてアクリル樹脂又はアクリルシリコーン樹脂を用いる組み合わせが挙げられる。この組み合わせの場合、第一の層と第二の層との密着性がより良好となり、透明性がより良好となるとなるため好ましい。
【0054】
即ち、保護層は、既述の第一の層、第二の層、第三の層に加え、効果を損なわない範囲において、その他の層をさらに有していてもよい。
その他の層としては、各層の密着性向上のための接着層、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、着色剤を含む意匠層等が挙げられる。
【0055】
なお、保護層として、不燃薬剤含有木材との密着性が良好であり、不燃薬剤含有木材との界面が十分に疎水性であって、不燃薬剤含有木材に含まれる不燃薬剤の浸出が抑制される第一の層を用いる場合には、
図4に示す如き、単層構造の保護層であっても、本開示における効果を発現することはいうまでもない。単層の保護層とする場合には、既述の方法で測定した不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能が0.7N/mm
2以上であることが好ましい。
保護層に十分な疎水性を与える場合には、第一の層の形成に際して、油性もしくは無溶剤の第一の層形成用組成物を用いることも好ましい態様のひとつである。
【0056】
本開示の不燃木材は、上記構成としたため、不燃性と木材の良好な外観が長期間に亘り維持され、耐久性に優れる。このため、構造材、外気に暴露される外装材、大規模建造物、戸建て住宅などの、不燃薬剤含有木材を用いる種々の用途に好適に使用することができる。
【0057】
〔不燃木材の製造方法〕
本開示の不燃木材の製造方法は、木材に不燃薬剤を含浸させ、乾燥させて不燃薬剤含有木材を得る工程Aと、不燃薬剤含有木材に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層を形成する工程Bと、を有する。
【0058】
工程Aでは、まず、不燃木材の原料となる木材に、不燃薬剤を含有させる。
不燃薬剤としては、特に制限はなく、既述の、リン酸系、ホウ酸系、ホウ酸/リン酸複合系、リン窒素系、塩素系、臭素系、シリコーン系の不燃薬剤、水和金属系化合物、チッ素含有化合物等が挙げられる。
なかでも、リン酸系、ホウ酸系、ホウ酸/リン酸複合系、リン窒素系の不燃薬剤が好ましい。これらの不燃薬剤を木材に付与するに際しては、不燃薬剤を適切な溶剤に溶解させて得た不燃薬剤含有組成物を調製することが好ましい。
得られた不燃薬剤含有組成物を、木材に付与する方法としては、木材に不燃薬剤含有組成物を塗布する方法、木材を不燃薬剤含有組成物に浸漬する方法などが挙げられる。加工に際しては、加圧して木材に浸透させる方法をとることもできる。
【0059】
不燃薬剤を含有した木材を乾燥させて不燃薬剤含有木材を得る。
不燃薬剤含有木材を得るための工程Aは、公知の不燃薬剤含有木材の製造方法により行うことができる。また、市販の不燃薬剤含有木材を準備することも、工程Aに包含される。
【0060】
次に、工程Bでは、工程Aで得た不燃薬剤含有木材に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層を形成する。
保護層の形成は、樹脂及び溶媒又は分散媒を含む保護層形成用組成物を、不燃薬剤含有木材に付与し、乾燥することで行うことができる。
保護層形成用組成物に含まれる樹脂は、上記物性を達成できる限り、特に制限はない。
【0061】
保護層を形成する工程Bは、第一の層を形成する工程B-1を有し、工程B-1は、伸び率が100%以上1000%以下である第一の層を形成する工程を有することが好ましい。
また、好ましい態様の一つとして、保護層を形成する工程Bは、第一の層を形成する工程B-1を有し、工程B-1は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第一の層形成用樹脂組成物を、不燃薬剤含有木材上に付与して、第一の層を形成する工程を有する態様が挙げられる。
【0062】
上記保護層の物性をより達成し易いという観点から、保護層における第一の層の形成工程である工程B-1において用いられる第一の層形成用組成物には、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
第一の層形成用組成物における溶媒又は分散媒としては、水;アルコール、グリコール、炭化水素系溶剤等の有機溶剤などが挙げられる。
溶媒又は分散媒は、1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
例えば、保護層形成用組成物は、溶媒又は分散媒として、アルコール、グリコール、及び炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる有機溶剤、水と有機溶剤との混合溶媒などを含む水性組成物でもよい。
なお、第一の層形成用組成物には、溶媒又は分散媒は必ずしも必須の成分ではない。第一の層形成用組成物として、例えば、湿気硬化型又は2液反応型のウレタン樹脂、2液反応型のアクリルウレタン樹脂等の無溶媒系の組成物を用いることもできる。
【0063】
保護層の厚さは、乾燥後の膜厚で0.1mmを超え2.0mm以下の範囲であり、目的に応じて適宜選択することができる。保護層の厚さの好ましい例は、不燃木材の項において記載したとおりである。なお、保護層が第一の層のみからなる単層構造の場合には、保護層の厚さは、第一の層の厚さと同じである。即ち、工程Bは、工程B-1と同一の工程となる。
保護層の厚さは、不燃薬剤含有木材に付与する保護層形成用組成物の量で制御することができる。不燃薬剤含有木材の面上に保護層形成用組成物を塗布し、乾燥する作業を複数回繰り返すことにより、保護層の膜厚をより厚くすることができる。塗布の回数は1回のみであってもよく、目的に応じて2回以上繰り返してもよい。
【0064】
保護層を仮支持体上に形成し、その後、木材表面に転写することで、不燃薬剤含有木材上に保護層を形成することもできる。しかし、木材と保護層との付着性能を向上させるという観点からは、不燃薬剤含有木材に保護層形成用組成物を塗布して、保護層を形成する方法が好ましい。
保護層形成用組成物を塗布する場合には、公知の塗布法を適用することができる。塗布法としては、例えば、刷毛、ローラー等による塗布、吹付け工具等を用いた塗布などが挙げられる。
塗布後の保護層は所定の時間、乾燥させる。乾燥は室温で行ってもよく、温風を吹き付けるなど、加熱乾燥してもよい。なお、木材の変形を抑制する観点から、加熱乾燥の際の加熱温度は50℃以下とすることが好ましい。
保護層形成用組成物を刷毛、ローラー等で薬剤含有木材に塗布する際は、最終仕上げの塗布は、木材の木目に沿って塗り仕上げることが望ましい。これにより、塗りむらを木目と調和させ、見た目の塗りむらを目立たなくさせることができる。
【0065】
木材の外観を生かすという観点からは、保護層、なかでも、保護層における第一の層は、可視光透過性が良好であることが好ましく、波長400nm以上700nm以下の波長帯域(可視光域)における光透過率は、80%以上が望ましい。
波長400nm以上700nm以下の光透過率は、例えば、日本分光(株)、分光光度計V-700シリーズなどを用いて測定することができる。
なお、既述のように保護層には木材の外観を制御するなどの目的で、着色剤などを含有させてもよい。従って、保護層の可視光透過性は、必ずしも80%以上である必要はない。
【0066】
保護層は、既述のように、重層構造を有していてもよい。
保護層を形成する工程Bは、工程B-1に先立ち、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第二の層形成用樹脂組成物を、不燃薬剤含有木材上に付与して第二の層を形成する工程B-2をさらに有することが、好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0067】
工程B-2において、不燃薬剤含有木材に対する浸透性及び疎水性の高い第二の層を形成することにより、不燃薬剤含有木材からの不燃薬剤の溶出、潮解などをより効果的に抑制することができる。
第二の層を形成することは、保護層と不燃薬剤含有木材との密着性がより向上するため好ましい。第二の層を有する保護層の不燃薬剤含有木材との付着性能は0.7N/mm2以上であることが好ましい。
工程B-2において、第二の層を形成する方法としては、既述の樹脂と溶媒又は分散媒とを含む第二の層形成用組成物を、既述の第一の層の不燃薬剤含有木材側の面に塗布し、乾燥する方法が挙げられる。塗布方法としては、第一の層の形成工程である工程B-1で述べた方法と同じ方法が適用できる。
第二の層形成用組成物に用いる溶媒又は分散媒は、アルコール、グリコール、炭化水素系溶剤等の有機溶剤とすることが、効果の観点から好ましい。
第二の層においても、木材の外観を生かすという観点からは、第一の層と同様に、可視光透過性が良好であることが好ましい。
【0068】
第二の層形成用組成物を塗布する場合には、第一の層形成用組成物の塗布方法と同じ方法を適用することができる。
第二の層形成用組成物を塗布した後は、所定の時間、乾燥させる。乾燥方法も、第一の層形成における方法と同じである。なお、第二の層は通常、第一の層よりも膜厚は薄いため、用いる樹脂、溶媒、分散媒等の種類にもよるが、乾燥時間は適宜調整してより短時間とすることができる。
不燃薬剤含有木材の面上に、第二の層と第一の層とを形成する場合には、第二の層の厚さは、第一の層よりも薄いことが好ましく、具体的には、保護層の全厚さに対する第二の層の厚さは20%以下であることが好ましく、5%~10%の範囲であることがより好ましい。
【0069】
保護層を形成する工程Bは、工程B-1の後に、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、溶媒及び分散媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含む第三の層形成用樹脂組成物を、第一の層上に付与して第三の層を形成する工程B-3をさらに有することも好ましい態様の一つである。
工程B-3において、第一の層上に、第三の層を形成することで、不燃木材の耐候性をより向上させることができる。また、第三の層に含まれる樹脂の種類及び量の少なくともいずれかを選択することにより、保護層の表面における、汚れ、埃、ゴミ等の付着をより効果的に抑制できる。
【0070】
第三の層形成用組成物は、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂から選ばれる少なくとも1種を含み、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及び無機有機複合樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことが、表面の撥水性を高め、汚れなどの付着をより効果的に抑制できる観点から好ましい。
第三の層形成用組成物は、分散媒として、水;水とアルコール、グリコール等を用いる水性組成物であるか、溶媒として、アルコール、グリコール、炭化水素系溶剤等を含む有機溶剤性組成物とすることができる。
【0071】
第三の層形成用組成物を塗布する場合には、第一の層形成用組成物の塗布方法と同じ方法を適用することができる。
第三の層形成用組成物を塗布した後は、所定の時間乾燥させる。乾燥方法も、第一の層形成における方法と同じである。なお、第三の層は通常、第一の層よりも膜厚は薄いため、用いる樹脂、溶媒、分散媒等の種類にもよるが、乾燥時間は適宜調整してより短時間とすることができる。
なお、不燃薬剤含有木材の面上に、第一の層と第三の層とを形成する場合には、第三の層の厚さは、第一の層よりも薄いことが好ましく、具体的には、保護層の全厚さに対する第三の層の厚さは20%以下であることが好ましく、5%~15%の範囲であることがより好ましい。
【0072】
第三の層形成用組成物に紫外線吸収剤を含有させることで、第一の層の経時による変色及び劣化をより抑制することができる。
第三の層形成用組成物に粒子を含有させることで、第三の層に艶消し効果を持たせることができる。また、着色剤を含有させることで、木材の持つ光沢、風合いを損なわずに、所望の色相を付与することができる。
これらの方法により、不燃木材の意匠性及び外観の高級感をより高めることができる。なお、第三の層に意匠性を付与することで、第一の層上に第三の層を形成する際に塗り残しを容易に見分け、所望の領域に対して確実に第三の層を形成することができるという利点をも有する。
【0073】
保護層を、不燃薬剤含有木材側から、第二の層と、第一の層と、第三の層とをこの順に有する重層構造とする場合には、既述の不燃木材の製造方法における工程A、工程B-2、工程B-1及び工程B-3を順次行えばよい。
【0074】
本開示の不燃木材の製造方法によれば、不燃性と木材の良好な外観が長期間に亘り維持される、耐久性に優れた不燃木材を簡易に製造することができ、その応用範囲は広い。
【0075】
〔木材を含む構造物の不燃化方法〕
本開示の木材を含む構造物の不燃化方法は、不燃薬剤含有木材を含んで構成された構造物の、不燃薬剤含有木材の表面に、樹脂を含み、厚さが0.1mmを超え2.0mm以下であり、且つ、ひび割れ追従性が1mm以上10mm以下である保護層を形成する工程Cを有する方法である。
即ち、本開示の木材を含む構造物の不燃化方法では、既述の不燃木材の製造方法における工程Bと同様の工程Cを、既存の不燃薬剤含有木材を含む構造物に適用することで、既に構築されている木材を含む構造物の不燃化を行うことができる。
【0076】
なお、工程Bの好ましい態様と同様に、保護層を形成する工程Cは、第一の層を形成する工程C-1を有し、工程C-1は、伸び率が100%以上1000%以下である第一の層を形成する工程を有することが好ましい。
工程Cでは、既存の不燃薬剤含有木材を含む構造物に対して、本開示の不燃木材の製造方法における工程Bと同様の工程Cを行うことで、既存の不燃薬剤含有木材を含む構造物の不燃化を達成することができる。
なお、不燃薬剤を含有しない木材を含む構造物については、工程Cに先立ち、木材を含む構造物に対して、不燃薬剤を塗布または含浸させて木材を不燃薬剤含有木材とする工程を行い、その後、工程Cを行うことで、既存の木材を含む構造物の不燃化を達成することができる。
本開示の不燃化方法における工程Cは、既述の本開示の不燃木材の製造方法における工程Bと同様にして行えばよく、好ましい態様も工程Bと同様である。
【0077】
木材を含む構造物の不燃化方法における不燃薬剤含有木材は、木材を加工してなる木製部材に、不燃薬剤を含浸させ、乾燥させてなる木製部材であってもよい。
即ち、木材を含む構造物の不燃化に際しては、構造物の構築に際して用いられる、構造物の構成部材としての木製部材が不燃薬剤含有木材である場合には、本開示の不燃木材の製造方法を適用し、不燃薬剤含有木材である木製部材に保護層を形成し、形成された不燃化木製部材を用いて構造物を構築することで、構造物の所望の部分の不燃化を達成することができる。
木材を加工してなる木製部材は、柱材の如き構造材であってもよい。また、木製の壁材、或いは、装飾を施した梁材などの木製部材としての不燃薬剤含有木材を用いる場合には、構造物において部分的に形成された木製部材に不燃化処理を行うことができ、種々の分野に応用することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本実施形態の修復方法を詳細に説明するが、以下の実施例は本実施形態の一態様に過ぎず、これに限定されない。
なお、以下の実施例において、室温とは、25℃であることを意味し、室内にて整地して行われる乾燥は、室内において25℃の雰囲気下で自然乾燥することを指す。
【0079】
〔実施例1〕
木目に平行する方向を縦、木目に直交する方向を横として、縦150×横60×厚み14mmの不燃薬剤含有木材(角材に不燃薬剤としてホウ素系化合物、及びリン酸塩化合物を含有させたもの)を用意した。(工程A)
不燃薬剤含有木材の表面にアクリルシリコーン樹脂系の第二の層形成用組成物を約0.1kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて2時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.03mmの第二の層を形成した。
第二の層形成用組成物はアクリルシリコーン樹脂(シロキサン架橋型アクリルシリコーン)35質量%、有機溶剤(ミネラルスピリッツ、高沸点芳香族ナフサ等)64質量%、及び消泡剤(ポリマー系消泡剤)1質量%を含む組成物である。(工程B-2)
【0080】
次に、第二の層の表面に、以下に示す第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に4時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.2mmの第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。乾燥後、第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜の面上に、さらに第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に24時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.2mmの乾燥塗布膜を形成した。この工程により、第二の層の面上に、乾燥膜厚0.4mmの第一の層を形成した。
【0081】
第一の層形成用組成物はアクリル樹脂(アクリル酸エステル共重合体)45質量%、水46質量%、造膜助剤(テキサノール:2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート)5質量%、増粘剤(高分子非イオン型増粘剤)1質量%、消泡剤(シリコーン系消泡剤)1質量%、紫外線吸収剤1質量%、及び紫外線安定剤1質量%を含む組成物である。
第一の層形成用組成物を使用して形成した第一の層の乾燥後のNV値は約50質量%であった。(工程B-1)
【0082】
次に、第一の層の面上に、第三の層を設けた。工程B-1で形成した第一の層の面上に、第三の層形成用組成物を約0.1kg/m2量で刷毛塗りし、室内にて2時間静置することで乾燥させ、平均膜厚が0.03mmの第三の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。形成した乾燥塗布膜の面上に、さらに第三の層形成用組成物を約0.1kg/m2量で刷毛塗りし、室内にて室内に24時間静置することで乾燥させ、平均膜厚0.06mmの第三の層を形成した。
使用した第三の層形成用組成物はフッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン)15質量%、アクリル樹脂(アクリル酸エステル共重合体)15質量%、水63質量%、造膜助剤(n-ブチルカルビトールアセテート)5質量%、増粘剤(高分子非イオン型増粘剤)1質量%、消泡剤(シリコーン系消泡剤)1質量%を含む。(工程B-3)
【0083】
以上の工程B-2、工程B-1及び工程B-3を、工程Aで得た不燃薬剤含有木材の6面全てに施し、実施例1の不燃木材を得た。
【0084】
(不燃木材の評価)
1.厚さ
第二の層、第一の層及び第三の層からなる実施例1の保護層の厚さを、既述の方法で測定したところ、0.49mmであった。
【0085】
2.第一の層の伸び率
剥離処理した仮支持体上に、実施例1と同様にして、上記工程B-1を行うことにより、第一の層を形成し、仮支持体より剥離して測定試料を得た。既述の方法にて測定した第一の層の伸び率は300%~500%の範囲内であった。
【0086】
3.ひび割れ追従性
実施例1の不燃木材から、木材の厚みが3mmとなるように、試料を削り出し、既述の方法にてひび割れ追従性を評価したところ、3mm~5mmの範囲であった。
【0087】
4.付着性能
既述の方法で、不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能を評価した。その結果、0.7N/mm2以上であり、保護層は不燃薬剤含有木材に対し、十分な付着性能を示すことがわかった。
【0088】
5.耐候性試験
実施例1の不燃木材について、以下の条件で屋外暴露試験を行い、不燃木材の質量の変化、色差、及び目視による外観の変化を観察した。
耐候性試験は、ASTM G154 cycle2に記載の方法に準じて行った。
装置としては、ATKAS社のUV促進暴露試験機(UVTest)にランプUVB-313を備えたものを使用した。
60℃にて、紫外線(照射強度:0.71W/m2)を4時間照射し、紫外線照射を行わず、50℃にて4時間放置の2ステップを1サイクルとして、1000時間の耐久性試験を実施した。
試験後の不燃木材について、経時による質量変化、変退色の有無、不燃薬剤の析出による潮解及び白華の有無を目視にて観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
【0089】
(5-1.質量変化:木材基材の劣化)
A:質量変化は5質量%以下
B:質量変化は5質量%を超え10%質量以下
C:質量変化は10%を超えた
【0090】
(5-2.変退色)
A:耐候性試験前の試料と比較し、木材の色相の変化は殆どなかった
B:耐候性試験前の試料と比較し、木材がやや色があせた
C:耐候性試験前の試料と比較し、木材の退色が著しかった
【0091】
(5-3.白華の有無)
A:不燃薬剤含有木材と保護層との界面に変化は見られなった
B:不燃薬剤含有木材と保護層との界面に不燃薬剤の析出に起因する保護層の浮きが見られた
C:不燃薬剤含有木材と保護層との界面に不燃薬剤の析出に起因する白華が見られた
【0092】
(5-4.意匠性)
A:不燃木材は、用いた木材の外観がよく反映されていた
B:不燃木材は、用いた木材に比較し、色相及び外観のいずれかが変化していた
【0093】
(5-5.施工作業性)
A:不燃木材は、保護層を有さない不燃薬剤含有木材に比較して、木材としての施工作業性の低下は認められなかった
B:不燃木材は、保護層を有さない不燃薬剤含有木材に比較して、木材としての施工作業性が低下した
【0094】
〔実施例2〕
実施例1で使用した不燃薬剤含有木材表面に、第二の層形成用組成物を約0.1kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて2時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.03mmの第二の層を形成した。
第二の層形成用組成物はアクリルシリコーン樹脂(シロキサン架橋型アクリルシリコーン)35質量%、有機溶剤(ミネラルスピリッツ、高沸点芳香族ナフサ等)64質量%、及び消泡剤(ポリマー系消泡剤)1質量%を含む組成物である。(工程B-2)
【0095】
次に、第二の層の表面に、以下に示す第一の層形成用組成物を、約0.3kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に4時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.1mmの第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。乾燥後、第一の層形成用組成物の乾燥塗膜の面上に、さらに第一の層形成用組成物を、約0.3kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内にて乾燥する工程を2回繰り返した。この工程により、第二の層の面上に、乾燥膜厚0.3mmの第一の層を形成した。
【0096】
第一の層形成用組成物はウレタン樹脂(ポリカーボネート系ポリウレタン)30質量%、水62質量%、造膜助剤(N-メチル-2-ピロリドン)3質量%、増粘剤(高分子非イオン型増粘剤)2質量%、消泡剤(鉱物油系消泡剤)1質量%、紫外線吸収剤1質量%、及び紫外線安定剤1質量%を含む組成物である。
第一の層形成用組成物を使用して形成した第一の層のNV値は約35質量%であった。(工程B-1)
上記工程B-2及び工程B-1以外は、実施例1と同様にして、実施例2の不燃木材を得た。
【0097】
得られた実施例2の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
実施例2の保護層の厚さは、0.39mmであった。
実施例2における保護層のひび割れ追従性は3mm~5mmであった。また、第一の層の伸び率は、250%~350%であった。
実施例2の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
【0098】
〔実施例3〕
実施例1で使用した不燃薬剤含有木材表面に、第二の層形成用組成物を約0.1kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて2時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.03mmの第二の層を形成した。
第二の層形成用組成物はウレタン樹脂(HDI系湿気硬化型ウレタン)30質量%、有機溶剤(トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等)69質量%、触媒(ジラウリン酸ジブチルすず)1質量%を含む組成物である。(工程B-2)
【0099】
次に、第二の層の表面に、実施例1で用いた第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に4時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.2mmの第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。乾燥後、第一の層形成用組成物の乾燥塗膜の面上に、さらに第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内にて乾燥する工程を2回繰り返した。この工程により、第二の層の面上に、乾燥膜厚0.4mmの第一の層を形成した。(工程B-1)
【0100】
上記工程B-2及び工程B-1以外は、実施例1と同様にして、実施例3の不燃木材を得た。
【0101】
得られた実施例3の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
実施例3の保護層の厚さは、0.49mmであった。
実施例3における保護層のひび割れ追従性は3mm~5mmであった。
実施例3の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
【0102】
〔実施例4〕
実施例1の工程B-1において、第一の層形成用組成物を約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に4時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.2mmの第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。乾燥後、第一の層形成用組成物の乾燥塗膜の面上に、さらに第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内にて乾燥する工程を2回繰り返した。この工程により、第二の層の面上に、乾燥膜厚0.4mmの第一の層を形成した。
次に、以下の第三の層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして第三の層を形成した。
第三の層形成用組成物はアクリルシリコーン樹脂(ポリシロキサン複合アクリル)30質量%、水68質量%、増粘剤(高分子非イオン型増粘剤)1質量%、及び消泡剤(鉱物油系消泡剤)1質量%を含む組成物である。(工程B-2)
上記工程B-1及び工程B-2以外は、実施例1と同様にして、実施例4の不燃木材を得た。
【0103】
得られた実施例4の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
実施例4の保護層の厚さは、0.49mmであった。
実施例4における保護層のひび割れ追従性は3mm~5mmであった。第一の層の伸び率は、300%~500%であった。
実施例3の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
【0104】
〔実施例5〕
実施例1で使用した不燃薬剤含有木材表面に、第二の層を形成することなく、直接、第一の層形成用組成物を約0.4kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて4時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.2mmの第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。乾燥後、第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜の面上に、さらに第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に24時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.2mmの乾燥塗布膜を形成した。この工程により、第二の層の面上に、乾燥膜厚0.4mmの第一の層を形成した。
第一の層形成用組成物は2液混合型アクリルウレタン樹脂(イソシアネート重合型アクリル)50質量%、有機溶剤(トルエン、酢酸ブチル)50質量%を含む組成物である。(工程B-1)
第一の層形成用組成物を使用して形成した第一の層のNV値は50質量%であった。(工程B-1)
次に、第一の層の面上に、以下に記載のアクリルシリコーン樹脂系の第三の層形成用組成物を約0.1kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて2時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.03mmの第三の層形成用組成物の塗布膜を形成した。その後、さらに、第三の層形成用組成物の乾燥塗布膜上に、第三の層形成用組成物を約0.1kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて24時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.06mmの第三の層を形成した。
第三の層形成用組成物はアクリルシリコーン樹脂(シロキサン架橋型アクリルシリコーン)35質量%、有機溶剤(ミネラルスピリッツ、高沸点芳香族ナフサ等)64質量%、消泡剤(ポリマー系消泡剤)1質量%を含む組成物である。(工程B-3)
上記工程B-1及び工程B-3を行い、工程B-2を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、実施例5の不燃木材を得た。
【0105】
得られた実施例5の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
実施例5の保護層の厚さは、0.46mmであった。
実施例5における保護層のひび割れ追従性は1mm~3mmであった。第一の層の伸び率は、150%~250%であった。
実施例5の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
【0106】
〔実施例6〕
実施例1で使用した不燃薬剤含有木材表面に、第二の層を形成することなく、直接、実施例5と同様にして第一の層を形成した(平均膜厚:0.4mm)。
その後、第三の層を形成することなく、さらに室内に24時間静置して室温(25℃)にて乾燥させ、保護層を形成して実施例6の不燃木材を得た。(工程B-1)
得られた実施例6の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
実施例6の保護層の厚さは、0.40mmであった。
実施例6における保護層のひび割れ追従性は1mm~3mmであった。第一の層の伸び率は、150%~250%であった。
実施例6の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
【0107】
〔比較例1〕
実施例1の工程Aで得た不燃薬剤含有木材に何らの保護層を設けず、比較例1の不燃木材とした。
得られた比較例1の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
その結果、屋外暴露試験後は、経時により質量の減少を確認した。これは、木材自体の劣化に加え、不燃薬剤の潮解による溶出があったためと考えられる。また、木材の表面において不燃薬剤の潮解によるベタツキが生じていることを確認した。
木材の表面には、灰色変色が認められた。
【0108】
〔比較例2〕
実施例1の工程Aで得た不燃薬剤含有木材の表面に市販アルキド樹脂系塗料(株式会社アサヒペン製)を約0.2kg/m2量、刷毛で塗布し、室温にて2時間乾燥させて平均膜厚0.04mmの第一の層形成用組成物乾燥膜を得た。その後、同じアルキド樹脂系塗料を約0.2kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて24時間乾燥させて、第一の層としての平均膜厚0.08mmの保護層を形成して比較例2の不燃木材を得た。(工程B-1)
上記工程B-1を6面全てに施し、試験体とした。
得られた比較例2の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
比較例2における保護層の伸び率は、20%以下であり、ひび割れ追従性は0.2mm以下であり、いずれも実用上問題となるレベルであった。
比較例2の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
耐候性試験では、木材の色相が灰色に変化し、且つ、不燃薬剤の析出に起因する白華が認められた。
【0109】
〔比較例3〕
実施例1の工程Aで得た不燃薬剤含有木材の表面に、実施例1と同様にして第二の層を形成した(平均膜厚:0.03mm)。
次に、以下に示す第一の層形成用組成物を約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に4時間静置して乾燥させ、平均膜厚が0.2mmの第一の層形成用組成物の乾燥塗布膜を形成した。乾燥後、第一の層形成用組成物の乾燥塗膜の面上に、さらに第一の層形成用組成物を、約0.4kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内にて乾燥する工程を2回繰り返した。この工程により、第二の層の面上に、乾燥膜厚0.45mmの第一の層を形成した。
第一の層形成用組成物は、硬質型アクリルシリコーン樹脂(シリコーン変性アクリル)40質量%、水51質量%、造膜助剤(テキサノール)5質量%、及び消泡剤(シリコーン系消泡剤)1質量%、紫外線吸収剤1質量%、紫外線安定剤1質量%、増粘剤(高分子非イオン型増粘剤)1質量%、を含む組成物である。
第一の層形成用組成物を使用して形成した第一の層のNV値は45質量%であった。(工程B-1)
その後、実施例1と同様にして第三の層を形成し、比較例3の不燃木材を得た。(工程B-3)
【0110】
得られた比較例3の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
比較例3における第一の層の伸び率は、硬質型の樹脂を用いているいため、30%以下であり、ひび割れ追従性は0.4mm以下であり、いずれも実用上問題となるレベルであった。
比較例3の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
耐候性試験では、保護層が木材の膨張収縮に追従できなかったことに起因して保護層にピンホールが生じ、ピンホールから、不燃薬剤が析出して白華が認められた。
【0111】
〔比較例4〕
実施例1の工程Aで得た不燃薬剤含有木材の表面に、実施例1と同様の第二の層形成用組成物を約0.03kg/m2量、刷毛で塗布し、室内にて2時間静置することで乾燥させ、乾燥後の平均膜厚が0.01mmの第二の層を形成した。(工程B-2)
次に、以下に示す第一の層形成用組成物の塗布量を約0.06kg/m2の量で刷毛塗りにより塗布し、室内に4時間静置して室温(25℃)にて乾燥させ、平均膜厚が0.03mmの第一の層を形成した。(工程B-1)
次に、第一の層の面上に、第三の層を設けた。工程B-1で形成した第一の層の面上に、実施例1と同様の第三の層形成用組成物を約0.03kg/m2量で刷毛塗りし、室内にて24時間静置することで乾燥させ、平均膜厚0.01mmの第三の層を形成した。(工程B-3)
【0112】
得られた比較例4の不燃木材を、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
比較例4の保護層の厚さは、0.05mmであった。
比較例4における第一の層の伸び率は、150%~250%であった。しかし、ひび割れ追従性は0.5mm以下であった。
比較例4の不燃木材における不燃薬剤含有木材と保護層との付着性能は0.7N/mm2以上であった。
耐候性試験では、保護層が薄すぎるため、木材の膨張収縮に追従できなかったことに起因して保護層にピンホールが生じ、ピンホールから、不燃薬剤が析出して白華が認められた。
【0113】
【0114】
表1より、実施例1~6の不燃木材は、不燃性と木材の良好な外観が長期間に亘り維持され、耐久性に優れることがわかる。
一方、比較例1~4の木材は、いずれも不燃薬剤の析出による白華を抑制できなかった。
【符号の説明】
【0115】
10 不燃木材
12 不燃薬剤含有木材
14 保護層
16 第一の層
18 第二の層
20 第三の層