IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許7550004共役ジエン系グラフト重合体、及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】共役ジエン系グラフト重合体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/02 20060101AFI20240905BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240905BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08F279/02
C08L51/04
C08J3/24 Z CEQ
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020157312
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051052
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神原 浩
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敦
(72)【発明者】
【氏名】馬 昭明
(72)【発明者】
【氏名】高井 順矢
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-028718(JP,B1)
【文献】特開2003-321510(JP,A)
【文献】特表2011-520018(JP,A)
【文献】特開2016-023311(JP,A)
【文献】特開2016-027157(JP,A)
【文献】特開2014-025030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/02
C08L 51/00
C08L 51/04
C08J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a)が、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体からなる側鎖(b)と、主鎖(a)に含まれる分岐部分となる単量体単位において結合した共役ジエン系グラフト重合体であり、
該共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)の下記式(2)より求められる側鎖密度が2.0モル%以上であり、
前記分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まず、
前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない、
共役ジエン系グラフト重合体。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数)/[(主鎖(a)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
主鎖(a)のMnは、主鎖の構成要素となる共役ジエン系重合体(M)のGPCの測定から求めた標準ポリスチレン換算のMnである。
【請求項2】
(A-1)極性化合物の存在下、共役ジエン単位を含む重合体(M)と有機リチウム化合物を反応させることにより、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する工程;
(B)共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト重合体を作製する工程;及び
(C)得られた共役ジエン系グラフト重合体を回収する工程;
を含む、下記式(2)より求められる側鎖(b)の側鎖密度が2.0モル%以上である共役ジエン系グラフト重合体の製造方法。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数)/[(主鎖(a)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
主鎖(a)のMnは、主鎖の構成要素となる共役ジエン系重合体(M)のGPCの測定から求めた標準ポリスチレン換算のMnである。
【請求項3】
さらに、工程(A-1)の後に、
(A-2)ルイス酸を添加する工程;
を含む、請求項2に記載の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法。
【請求項4】
工程(A-1)におけるリチオ化後の重合体(M)の1H-NMR測定において、4.0~5.7ppmの範囲のピーク面積を100とした場合に、5.7~6.4ppmの範囲のピーク面積が、0.1~10の範囲である、請求項2又は3に記載の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の共役ジエン系グラフト重合体を含有する、重合体組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の重合体組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
請求項5に記載の重合体組成物を架橋してなる架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が高い物が得られ、かつ、せん断安定性に優れる共役ジエン系グラフト重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料の動的粘弾性測定により得られるtanδ(損失正接)は、力学的エネルギーを熱等のエネルギーに散逸させてエネルギーを減衰する性能の指標であり、制振性能、グリップ性能に優れる材料として、tanδの高い材料が求められている。特に、より広い温度域、周波数域で高いtanδを示す材料は、様々な使用環境に適用できることからより好ましい。異なる温度域にtanδのピークを持つ複数の材料をブレンドすることにより、tanδの温度域を広くすることは可能であるが、各tanδのピーク強度はブレンド比に応じて低下してしまう。そのため、ガラス転移に由来するメインピークの強度を低下させずに、tanδの温度域を広くできる技術が求められていた。
【0003】
上記課題を解決するために、高分子材料中に含まれる、流動性に乏しい構造体(例えば、高分子架橋物に含まれる三次元ネットワーク構造部分、結晶性高分子に含まれる結晶構造部分、ブロック共重合体に含まれる常温では流合しない重合体ブロックに由来する相分離構造部分)にその一方が結合しながらも、他方がその構造体部分に結合をしていない重合体鎖である、ダングリング鎖の緩和を利用することが提案されている。例えば、ダングリング鎖を有するアクリル系高分子の架橋物は、ガラス転移に由来するメインピークの強度を低下させることなく、メインピークの高温側にダングリング鎖に由来するtanδのピークを発現することが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、ダングリング鎖を形成するために、あらかじめ合成した単官能、及び2官能性のUV硬化性官能基を有する重合体を混合してUV硬化させる必要があるため、工程が非常に煩雑であり、適用範囲に制限があった。
【0004】
より簡便に高分子材料中に含まれるダングリング鎖による緩和を発現させる方法として、主鎖と側鎖を有するグラフト重合体を含む物から、ダングリング鎖と流動性に乏しい構造体を含む物を作製し、これを利用する方法が考えられる。グラフト重合体の合成方法としては、例えば、テトラメチルエチレンジアミン存在下であらかじめ合成した主鎖を構成する重合体と有機アルカリ金属化合物とを反応させることで主鎖をリチオ化した後に、側鎖の構成単位となる単量体を重合する方法(特許文献1参照))などが挙げられる。しかしながら、特許文献1に記載のグラフト重合体は側鎖密度が低く、またそのグラフト重合体を含む物から作製された、ダングリング鎖と流動性に乏しい構造体を含む物(典型的にはダングリング鎖を有する架橋体)では、ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度が低いことが問題であった。
【0005】
グラフト重合体を合成する他の方法として、あらかじめ合成した主鎖の構成要素となる重合体を官能基で変性し、該官能基変性重合体と側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法(非特許文献2参照)や、マクロモノマー(側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端に、重合性官能基を有する化合物を反応させて得られるマクロモノマー)と主鎖の構成単位となる単量体とを重合する方法(非特許文献3参照)が挙げられる。これらのグラフト重合体は特許文献1に記載のグラフト重合体よりも側鎖密度が高いが、非特許文献2に記載のグラフト重合体は、主鎖/側鎖を結ぶ分岐点にケイ素を含むことからせん断安定性に問題があり、また、非特許文献3に記載のグラフト重合体は、主鎖/側鎖を結ぶ分岐点にマクロモノマーに由来するスチレン様のユニットを含むことから、せん断安定性に問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8623980号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Macromolecules,2011,44,8829
【文献】Macromolecules,1997,30,5602
【文献】Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,2007,45,3513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が高い物が得られ、かつ、せん断安定性に優れる共役ジエン系グラフト重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a)に、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体からなる側鎖(b)が結合した共役ジエン系グラフト重合体であり、さらにその主鎖(a)と側鎖(b)の結合の仕方が特定の条件を満たすグラフト重合体から、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が高く、かつ、せん断安定性に優れる物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1]共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a)が、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体からなる側鎖(b)と、主鎖(a)に含まれる分岐部分となる単量体単位と結合した共役ジエン系グラフト重合体であり、
該共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)の側鎖密度が2.0モル%以上であり、
前記分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まず、
前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない、
共役ジエン系グラフト重合体。
【0011】
[2](A-1)極性化合物の存在下、共役ジエン単位を含む重合体(M)と有機リチウム化合物を反応させることにより、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する工程;
(B)共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト重合体を作製する工程;及び
(C)得られた共役ジエン系グラフト重合体を回収する工程;
を含む、側鎖(b)の側鎖密度が2.0モル%以上である共役ジエン系グラフト重合体の製造方法。
[3]さらに、工程(A-1)の後に、
(A-2)ルイス酸を添加する工程;
を含む、[2]に記載の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法。
[4]工程(A-1)におけるリチオ化後の重合体(M)の1H-NMR測定において、4.0~5.7ppmの範囲のピーク面積を100とした場合に、5.7~6.4ppmの範囲のピーク面積が、0.1~10の範囲である、[2]又は[3]に記載の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法。
【0012】
[5][1]に記載の共役ジエン系グラフト重合体を含有する、重合体組成物。
[6][5]に記載の重合体組成物を成形してなる成形品。
[7][5]に記載の重合体組成物を架橋してなる架橋物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が高い物が得られ、かつ、せん断安定性に優れる共役ジエン系グラフト重合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、
共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a)が、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体からなる側鎖(b)と、主鎖(a)に含まれる分岐部分となる単量体単位と結合した共役ジエン系グラフト重合体であり、
該共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)の側鎖密度が2.0モル%以上であり、
前記分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まず、
前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない。
なお、本発明でグラフト重合体とは、高分子鎖からなる主鎖を幹、高分子鎖からなる側鎖を枝、として有する重合体をいい、主鎖となる高分子鎖を構成する単量体単位と、側鎖となる高分子鎖を構成する単量体単位とは、同一でも異なっていてもよい。
【0015】
<主鎖(a)>
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a)を有する。なお、本発明の共役ジエン系グラフト重合体に含まれる主鎖とは、主鎖を構成する共役ジエン単位を含む全単量体単位に由来する部分全体を指す。後述するあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)に由来する部分全体を指す。例えば、本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、そのあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)にビニル結合をした1,3-ブタジエン単位が含まれる場合、重合体骨格(-(C-C)n-)中の炭素原子に接合する-CH=CH2部分までを含めて主鎖という。
【0016】
主鎖(a)は、その重合体を構成する単量体単位として共役ジエン単位を含む。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン;2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニルブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、及びクロロプレン等の1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン及びミルセン以外の共役ジエンが挙げられる。これら共役ジエンの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン及びミルセンが好ましく、1,3-ブタジエン及びイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンがさらに好ましい。上記共役ジエン単位となる共役ジエンは1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0017】
主鎖(a)は、その重合体を構成する全単量体単位のうち、40質量%以上が共役ジエン単位であることが好ましい一態様である。共役ジエン単位の合計含有量は、主鎖(a)の全単量体単位に対して50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましい。
【0018】
主鎖(a)は、その重合体を構成する全単量体単位のうち、40質量%以上が1,3-ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位であることが好ましい一態様である。1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位の合計含有量は、主鎖(a)の全単量体単位に対して50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましい。
【0019】
主鎖(a)に含まれ得る1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位以外の他の単量体単位としては、前述した1,3-ブタジエン及びイソプレン以外の共役ジエン単位、芳香族ビニル化合物単位などが挙げられる。
【0020】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。これら芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、及びα-メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル化合物単位となる芳香族ビニル化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0021】
主鎖(a)における、1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位以外の他の単量体単位の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。例えば、芳香族ビニル化合物単位が上記範囲以下であると、得られる共役ジエン系グラフト重合体の加工性が向上する傾向にある。
【0022】
主鎖(a)の重量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上500,000以下がより好ましく、3,000以上100,000以下がさらに好ましい。本発明において主鎖(a)のMwは、後述するあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)のMwである。上記主鎖(a)のMwが前記範囲内であると、本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本発明において、特に断りがない限り、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0023】
主鎖(a)のビニル含量は特に制限されないが、90モル%以下であることが好ましい一態様であり、70モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。主鎖(a)のビニル含量は、0.5モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましい。本発明において、「ビニル含量」とは、重合体に含まれる、共役ジエン単位の合計100モル%中、1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位(1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)以外で結合をしている共役ジエン単位)の合計モル%を意味する。ビニル含量は、1H-NMRを用いて1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位由来のピークと1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位に由来するピークの面積比から算出する。
【0024】
主鎖(a)のビニル含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、ビニル含量が50モル%未満であると、後述する主鎖(a)のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる共役ジエン系グラフト重合体の流動性や低温特性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト重合体の反応性に優れる傾向にある。
【0025】
なお、主鎖(a)のビニル含量は、例えば、本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、後述するあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)を製造する際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0026】
主鎖(a)のガラス転移温度(Tg)は、1,3-ブタジエン単位、イソプレン単位及び1,3-ブタジエン単位、イソプレン単位以外の共役ジエン単位のビニル含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。なお、本発明において、Tgは示差走査熱量測定(DSC)測定により求めた、DDSCのピークトップの値である。
【0027】
<側鎖(b)>
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体からなる側鎖(b)を有する。
【0028】
側鎖(b)は、その重合体を構成する単量体単位として共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む。
【0029】
側鎖(b)の単量体単位を構成し得る共役ジエンの具体例は、主鎖(a)の単量体単位を構成する共役ジエンの具体例と同一である。側鎖(b)に含まれる共役ジエン単位となる共役ジエンの中では、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン及びミルセンが好ましく、1,3-ブタジエン及びイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンがさらに好ましい。上記共役ジエン単位となる共役ジエンは1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0030】
側鎖(b)の単量体単位を構成し得る芳香族ビニル化合物の具体例は、主鎖(a)の単量体単位を構成し得る芳香族ビニル化合物の具体例と同一である。これら芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、及び4-メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル化合物単位となる芳香族ビニル化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0031】
側鎖(b)はその重合体鎖の骨格が、共役ジエン単位1種若しくは芳香族ビニル化合物単位1種のみからなる単独重合体、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる2種以上の単量体単位からなる共重合体、又は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる1種以上の単量体単位と共役ジエン及び芳香族ビニル化合物以外のビニル単量体の単量体単位との共重合体であってもよい。また、側鎖(b)を構成する重合体は1種単独でもよく、異なる構造を有する2種以上であってもよい。
【0032】
側鎖(b)を構成し得る共役ジエン単位の比率は特に制限されず、目的に応じて設計することが可能であるが、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。共役ジエン単位の比率が50質量%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト重合体の加工性が向上する傾向にある。
【0033】
側鎖(b)を構成し得る芳香族ビニル化合物単位の比率は特に制限されず、目的に応じて設計することが可能であるが、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。芳香族ビニル化合物単位の比率が50質量%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト重合体の力学特性が向上する傾向にある。
【0034】
側鎖(b)が共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位を含む場合、共役ジエン単位の含有量と芳香族ビニル化合物単位の含有量の重量比(共役ジエン単位)/(芳香族ビニル化合物単位)は、30/70~99/1であることが好ましく、40/60~95/5であることがより好ましく、50/50~90/10であることが特に好ましい。共役ジエン単位の含有量と芳香族ビニル化合物単位の含有量の重量比が上記範囲であると、得られる共役ジエン系グラフト重合体の加工性が向上する傾向にある。
【0035】
側鎖(b)の数平均分子量(Mn)は500以上であることが好ましい一態様であり、1,000以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましく、3,000以上が特に好ましい。また、1,00,000以下であることが好ましい一態様であり、50,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましく、15,000以下が特に好ましい。本発明において側鎖(b)のMnは、例えば、本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、後述する工程(A)におけるリチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と、工程(B)における側鎖の構成単位となる単量体の仕込み比より算出される。側鎖(b)のMnが前記範囲内であると、ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。また、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。
【0036】
側鎖(b)の好ましい数平均分子量(Mn)は、側鎖(b)を構成する重合体の絡み合い点間分子量との比により表される。すなわち、側鎖(b)の数平均分子量(Mn)は、側鎖(b)を構成する重合体の絡み合い点間分子量の5倍以下であることが好ましい一態様であり、3倍以下がより好ましく、2倍以下がさらに好ましく、1.5倍以下がさらに好ましく、1倍以下が特に好ましい。また、0.01倍以上が好ましく、0.05倍以上がより好ましく、0.1倍以上がさらに好ましく、0.2倍以上が特に好ましい。側鎖(b)のMnが前記範囲内であると、後述するダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。また、本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本明細書において、絡み合い点間分子量は、POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1992,32,823に記載の理論式より求めた値である。
【0037】
側鎖(b)のビニル含量は特に制限されないが、99モル%以下であることが好ましい一態様であり、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましい。側鎖(b)のビニル含量は、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、30モル%以上が特に好ましい。本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、側鎖(b)のビニル含量は、1H-NMRスペクトルにより算出した共役ジエン系グラフト重合体のビニル含量と、上述した主鎖(a)のビニル含量、及び主鎖、側鎖を構成する単量体単位の仕込み比より算出できる。
【0038】
側鎖(b)のビニル含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、ビニル含量が50モル%未満であると、後述する側鎖(b)のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる共役ジエン系グラフト重合体の流動性や低温特性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト重合体の反応性に優れる傾向にある。
【0039】
なお、側鎖(b)のビニル含量は、例えば、本発明の製造方法により共役ジエン系グラフト重合体を製造する場合には、後述する工程(B)において、側鎖(b)を重合する際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物やルイス酸、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0040】
側鎖(b)のガラス転移温度(Tg)は、共役ジエン単位のビニル含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。
【0041】
<共役ジエン系グラフト重合体>
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a)が、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体からなる側鎖(b)と、主鎖(a)に含まれる分岐部分となる単量体単位と結合した共役ジエン系グラフト重合体であり、
該共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)の側鎖密度が2.0モル%以上であり、
前記分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まず、
前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない。
【0042】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の主鎖(a)中には、分岐部分となる単量体単位が含まれる。この分岐部分で主鎖(a)が、側鎖(b)と結合している。この分岐部分となる単量体単位は、ヘテロ原子を含まない。分岐部分にヘテロ原子を含む場合、せん断安定性や熱安定性が悪化する傾向にあることから好ましくない。
なお、上記分岐部分が側鎖(b)と結合とは、上記主鎖中に分岐部分となる単量体単位を構成する原子(典型的には炭素原子)の1つと、側鎖を構成する原子が、結合することを意味する。分岐部分と側鎖(b)とを結合させる方法としては、以下共役ジエン系グラフト重合体の製造方法の一例として詳細に説明するが、例えば、主鎖(a)となる重合体の分岐部分となる単量体単位に含まれるアニオン活性を有する炭素原子を含む部位をリチオ化し、そのリチオ化部分を起点として、単量体を付加重合させ側鎖(b)を形成する方法が挙げられる。
【0043】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まない。共役ジエン系グラフト共重合体が、上記分岐部分などの分岐点にヘテロ原子を含む場合、せん断安定性や熱安定性が悪化する傾向にあることから好ましくない。
【0044】
例えば、上記非特許文献2に記載のグラフト重合体は、あらかじめ合成した主鎖の構成要素となる重合体を、ケイ素原子を含む化合物で変性して官能基変性重合体とし、該官能基変性重合体と側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法により、合成される。この官能基変性重合体に由来するケイ素原子等のヘテロ原子が、主鎖と側鎖を結ぶ分岐点に含まれる。また、特許第5089007号公報に記載のグラフト重合体は、主鎖の構成要素となる2つの活性末端を有する重合体と側鎖の構成要素となる1つの活性末端を有する重合体の混合物を調製し、この混合物に3以上の反応性部位を有するケイ素原子を含むカップリング剤を加えて反応させる方法により合成される。このカップリング剤に由来するケイ素原子等のヘテロ原子が主鎖と側鎖を結ぶ分岐点に含まれる。後述する本発明の共役ジエン系グラフト重合体では、主鎖(a)に含まれる分岐部分にはヘテロ原子が含まれておらず、側鎖(b)に直接結合している。したがって、本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、上述の従来の文献に記載される重合体のように、主鎖と側鎖とが結合している部分(連結点)にはヘテロ原子が含まれてない。
【0045】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体では、主鎖(a)に含まれる、分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない。ここでいう、芳香族基とは、芳香族ビニル化合物が有する、CH2=CR(Rは、水素、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基)以外の芳香環を含む基を意味する。
ここで「連結部分が、芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない」とは、
主鎖に含まれる分岐部分となる単量体単位自体が、芳香族ビニル化合物以外の単量体(例えば共役ジエン)に由来する単量体単位であること、あるいは
主鎖に含まれる分岐部分となる単量体単位自体が、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位であっても、その芳香族ビニル化合物が有する芳香族基に、側鎖(b)が結合していないこと、を意味する。
以下、具体例で説明をする。芳香族ビニル化合物が例えば、芳香族基中にアニオン活性が高い(有機リチウム化合物との反応性が高い)置換基を有する4-メチルスチレンの場合は、4-メチルスチレン由来のメチル基の部分の反応性が高く、このメチル基の部分に側鎖(b)が結合してしまう。
一方、アニオン活性が高い置換基を芳香族基中には有さない芳香族ビニル化合物、例えばスチレンの場合は、主鎖(a)の骨格となる、スチレンに由来する単量体単位の(-CH2-CH2-)部分に含まれる、ベンゼン環が結合するCH2に隣接するCH2の部分に側鎖(b)が結合する。この場合、スチレン由来のベンゼン環には、側鎖(b)が結合しておらず、主鎖(a)に含まれる分岐部分中の連結部分が、芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではないことになる。
【0046】
【化1】
【0047】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体では、上述のとおり、主鎖(a)に含まれる、分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない。連結部分が前記芳香族基である場合には、せん断安定性や熱安定性が悪化する。
【0048】
例えば、上記非特許文献3、又は特許第5508066号公報に記載のグラフト重合体は、マクロモノマー(側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端に、芳香族基に結合したCH2=C-以外の重合性官能基を有する芳香族ビニル化合物を、直接反応させて得られるマクロモノマー)と主鎖の構成単位となる単量体とを重合する方法により合成される。このマクロモノマーに由来して、主鎖(a)中の分岐部分に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は、芳香族基となる。そして、本発明のグラフト重合体では、例えば以下詳述するそのグラフト重合体の製造方法の一例でも明らかなように、主鎖(a)中の分岐部分に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は、芳香族基ではない。
【0049】
共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、15以上であることが特に好ましい。共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数は、例えば、後述する製造方法により本発明のグラフト重合体を製造する場合には、その工程(A)におけるリチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と主鎖の構成単位となる共役ジエン系重合体の仕込み比より算出される。共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数が前記範囲内であると、本発明の共役ジエン系グラフト重合体を含む物から得られる、ダングリング鎖を含む物でのダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。
【0050】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、側鎖(b)の側鎖密度が2.0モル%以上であり、3.0モル%以上がより好ましく、4.5モル%以上がさらに好ましく、6.0モル%以上が特に好ましい。共役ジエン系グラフト重合体の側鎖密度が前記範囲内であると、本発明の共役ジエン系グラフト重合体を含む物から得られる、ダングリング鎖を含むダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。
【0051】
本発明において、側鎖(b)の側鎖密度は、共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数と主鎖(a)の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(2)より求める。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数)/[(主鎖(a)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
なお、主鎖(a)のMnは、後述する主鎖の構成要素となるあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)の標準ポリスチレン換算のMnである。
【0052】
共役ジエン系グラフト重合体に含まれる主鎖(a)となる重合体と側鎖(b)となる重合体の組合せは特に制限されず、同一でも異なっていてもよく、目的に応じて設計することが可能である。主鎖(a)となる重合体と側鎖(b)となる重合体が異なるとは、以下(i)~(iv)からなる群より選ばれる少なくとも1つが異なることを意味する。
(i)主鎖(a)となる重合体の分子量が、側鎖(b)となる重合体の分子量と異なる。
(ii)主鎖(a)となる重合体の単量体単位の種類又は種類の組み合わせが、側鎖(b)となる重合体の単量体単位の種類又は種類の組み合わせと異なる。
(iii)主鎖(a)及び側鎖(b)が、それぞれ複数の同一種の単量体単位を含んでいる場合、主鎖(a)となる重合体の単量体単位組成比が側鎖(b)となる重合体の単量体単位組成比と異なる。
(iv)主鎖(a)及び側鎖(b)が、それぞれ共役ジエン単位を含んでいる場合、主鎖(a)となる重合体の共役ジエン単位のビニル含量が、側鎖(b)となる重合体の共役ジエン単位のビニル含量と異なる。
【0053】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、その重合体を構成する全単量体単位のうち、40質量%以上が1,3-ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位であることが好ましい一態様である。1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位の合計含有量は、共役ジエン系グラフト重合体の全単量体単位に対して50~100質量%であることがより好ましく、60~100質量%であることがさらに好ましい。
【0054】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体における、1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位以外の他の単量体単位の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。例えば、芳香族ビニル化合物単位が上記範囲以下であると、本発明の共役ジエン系グラフト重合体の加工性が向上する傾向にある。
【0055】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の重量平均分子量(Mw)は5,000以上2,000,000以下であることが好ましい一態様であり、30,000以上1,500,000以下が好ましく、100,000超1,000,000以下がより好ましい。共役ジエン系グラフト重合体のMwが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。また、共役ジエン系グラフト重合体を含む重合体組成物の加工性が向上する傾向にある。
【0056】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.0~20.0が好ましく、1.0~10.0がより好ましく、1.0~5.0がさらに好ましく、1.0~2.0が特に好ましい。Mw/Mnが前記範囲内であると、共役ジエン系グラフト重合体の粘度のばらつきが小さく、より好ましい。なお、本発明において、Mnは数平均分子量を意味し、MnはGPCの測定から求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCの測定により求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)を意味する。
【0057】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の38℃で測定した溶融粘度は、0.1~3,000Pa・sが好ましく、0.1~2,000Pa・sがより好ましく、0.1~1,500Pa・sがさらに好ましい。共役ジエン系グラフト重合体の溶融粘度が前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本発明において共役ジエン系グラフト重合体の溶融粘度は、38℃においてブルックフィールド型粘度計により測定した値である。
【0058】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体のビニル含量は特に制限されないが、99モル%以下であることが好ましい一態様であり、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましい。共役ジエン系グラフト重合体のビニル含量は、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましい。
【0059】
共役ジエン系グラフト重合体のビニル含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、ビニル含量が50モル%未満であると、後述する共役ジエン系グラフト重合体のガラス転移温度(Tg)が低くなり、共役ジエン系グラフト重合体の流動性や低温特性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、共役ジエン系グラフト重合体の反応性に優れる傾向にある。
【0060】
共役ジエン系グラフト重合体のガラス転移温度(Tg)は、1,3-ブタジエン単位、イソプレン単位及び1,3-ブタジエン単位、イソプレン単位以外の共役ジエン単位のビニル含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。
【0061】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体における主鎖と側鎖の質量比は、1/99~90/10の範囲が好ましく、3/97~80/20の範囲がより好ましく、5/95~70/30の範囲がさらに好ましい。主鎖と側鎖の質量比が上記範囲であると、共役ジエン系グラフト重合体を含む重合体組成物の加工性が向上する傾向にある。
【0062】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、その製造に用いる重合触媒に由来する触媒残渣量が、金属換算で0~200ppmの範囲にあることが好ましい。例えば、共役ジエン系グラフト重合体を製造するための重合触媒として、後述するような有機リチウム化合物等の有機アルカリ金属を用いた場合には、触媒残渣量の基準となる金属は、リチウム等のアルカリ金属になる。触媒残渣量が上記範囲にあることにより、加工等する際にタックが低下せず、また本発明の共役ジエン系グラフト重合体の耐熱性が向上する。共役ジエン系グラフト重合体の製造に用いる重合触媒に由来する触媒残渣量としては、金属換算で、より好ましくは0~150ppm、さらに好ましくは0~100ppmである。なお、触媒残渣量は、例えば誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)や偏光ゼーマン原子吸光分光光度計を用いることにより測定できる。
【0063】
共役ジエン系グラフト重合体の触媒残渣量をこのような特定の量とする方法としては、共役ジエン系グラフト重合体を精製し、触媒残渣を十分に除去する方法などが挙げられる。精製する方法としては、水若しくは温水、又はメタノール、アセトンなどに代表される有機溶媒若しくは超臨界流体二酸化炭素による洗浄が好ましい。洗浄回数としては、経済的な観点から1~20回が好ましく、1~10回がより好ましい。また、洗浄温度としては、20~100℃が好ましく、40~90℃がより好ましい。また重合反応前に、重合の阻害を行うような不純物を蒸留や吸着剤により除去し、単量体の純度を高めた後に重合を行うことによっても、必要な重合触媒量が少なくてすむため、触媒残渣量を低減することができる。
【0064】
<共役ジエン系グラフト重合体の製造方法>
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法は、下記工程(A-1)、工程(B)、及び工程(C)を含む。
(A-1)極性化合物の存在下で共役ジエン単位を含む重合体(M)と有機リチウム化合物を反応させることにより、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する工程;及び
(B)共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト重合体を作製する工程;及び
(C)得られた共役ジエン系グラフト重合体を回収する工程
【0065】
[工程(A-1)]
上記工程(A-1)における主鎖の構成要素となる共役ジエン単位を含む重合体(M)の製造方法は特に制限されないが、例えば、乳化重合法、溶液重合法が好ましく、得られる重合体の分子量分布の観点から、溶液重合法がより好ましい。共役ジエン単位を含む重合体(M)が本発明の共役ジエン系グラフト重合体の主鎖(a)となる。
【0066】
共役ジエン単位を含む重合体(M)を構成する単量体単位となる共役ジエンの具体例、好適例、及びその好適含有量、並びに、共役ジエン以外の他の単量体(芳香族ビニル化合物)の具体例、好適例、好適含有量等の説明は、共役ジエン系グラフト重合体の主鎖(a)に関する説明と同様である。また、共役ジエン単位を含む重合体(M)の重量平均分子量(Mw)、ビニル含量、Tgの好適態様等の説明は、共役ジエン系グラフト重合体の主鎖(a)に関する説明と同様である。
【0067】
共役ジエン単位を含む重合体(M)の製造方法の一例である上記乳化重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、所定量の共役ジエンを含む単量体を乳化剤の存在下に分散媒中に乳化分散し、ラジカル重合開始剤により乳化重合する。
【0068】
乳化剤としては、例えば炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩及びロジン酸塩などが挙げられる。長鎖脂肪酸塩としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸のカリウム塩又はナトリウム塩などが挙げられる。
【0069】
分散媒としては通常、水が使用される。重合時の安定性が阻害されない範囲で、分散媒はメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0070】
ラジカル重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムのような過硫酸塩、有機過酸化物、過酸化水素等が挙げられる。
【0071】
得られる共役ジエン単位を含む重合体(M)の分子量を調整するため、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、チオグリコール酸、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0072】
乳化重合の温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類などにより適宜設定できるが、通常0~100℃の範囲、好ましくは0~60℃の範囲である。重合様式は、連続重合、回分重合のいずれでもよい。
【0073】
重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、イソプロピルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ヒドロキノンやベンゾキノン等のキノン系化合物、亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。
【0074】
重合反応停止後、必要に応じて老化防止剤を添加してもよい。重合反応停止後、得られたラテックスから必要に応じて未反応単量体を除去し、次いで、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩を凝固剤とし、必要に応じて硝酸、硫酸等の酸を添加して凝固系のpHを所定の値に調整しながら、上記共役ジエン単位を含む重合体(M)を凝固させた後、分散媒を分離することによって重合体を回収する。次いで水洗、及び脱水後、乾燥することで、上記共役ジエン単位を含む重合体(M)が得られる。なお、凝固の際に、必要に応じて予めラテックスと乳化分散液にした伸展油とを混合し、油展した共役ジエン単位を含む重合体(M)として回収してもよい。
【0075】
共役ジエン単位を含む重合体(M)の製造方法の一例である上記溶液重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、溶媒中で、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒、又はアニオン重合可能な活性金属若しくは活性金属化合物を開始剤として使用して、必要に応じて極性化合物の存在下で、共役ジエンを含む単量体を重合する。
【0076】
溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0077】
上記開始剤としては、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物が好ましく、アニオン重合可能な活性金属化合物がより好ましい。
【0078】
アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これらの中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
【0079】
アニオン重合可能な活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。これら有機アルカリ金属化合物の中でも有機リチウム化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物がより好ましい。
【0080】
上記開始剤の使用量は、共役ジエン単位を含む重合体(M)の溶融粘度、分子量などに応じて適宜設定できるが、共役ジエンを含む全単量体100質量部に対して、通常0.01~3質量部の量で使用される。
【0081】
有機アルカリ金属化合物を開始剤として用いる場合には、上記有機アルカリ金属化合物は、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミンなどの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして使用することもできる。
【0082】
極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン部位のミクロ構造(ビニル含量)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0083】
溶液重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0084】
上記溶液重合の重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。得られた重合反応液をメタノール等の貧溶媒に注いで、共役ジエン単位を含む重合体(M)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記共役ジエン単位を含む重合体(M)を単離できる。なお、リチオ化反応に影響を及ぼさない範囲において、重合停止後の重合反応液をそのままリチオ化反応に用いてもよい。また、必要に応じて、溶媒を一部除去したり、溶媒を追加して重合反応液を希釈してもよい。
【0085】
工程(A-1)では、上述のようにして得られた重合体(M)に含まれるアニオン活性部位を、極性化合物の存在下、有機リチウム化合物と反応させることによりリチオ化する。
このような条件でのリチオ化により、アニオン活性部位、特に重合体(M)に含まれるビニル結合タイプの共役ジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合部分がリチオ化される。また、特に重合体(M)に含まれるアニオンに対して高い反応性を有する置換基を芳香族基中には有さない芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位、例えばスチレンに由来する単量体単位の主鎖(a)の骨格となる(-CH2-CH2-)部分に含まれる、ベンゼン環が結合するCHに隣接するCH2部分がリチオ化される。
この製造方法により得られるグラフト重合体では、そのため、分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない。なお、より確実に共役ジエン単位をリチオ化するためには、重合体(M)に芳香族ビニル化合物単位が含まれる場合には、その芳香族ビニル化合物単位にアニオン活性が高い官能基(有機リチウム化合物と反応性の高い官能基)を芳香族基中に含まないことが望ましい。かかる官能基を含む芳香族基を有するスチレンとしては、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレンなどが挙げられる。
【0086】
上記工程(A-1)で重合体(M)のリチオ化に用いる有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;が挙げられる。これら有機リチウム化合物の中でも有機モノリチウム化合物が好ましく、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムがより好ましく、sec-ブチルリチウムが特に好ましい。
【0087】
上記有機リチウム化合物の使用量は、上述した共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)の平均本数に応じて適宜設定できる。例えば、(有機リチウム化合物の仕込み量(モル数))/(共役ジエン単位を含む重合体(M)の仕込み量(モル数))=4/1の場合、側鎖(b)の平均本数は4本となる。
【0088】
上述の通り、側鎖密度は下記式(2)より求める。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数)/[(主鎖(a)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
すなわち、上記有機リチウム化合物の使用量は、目的とする側鎖密度となるように、主鎖(a)の数平均分子量Mnと共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数を設計することで、自ずと決めることができる。
【0089】
上記工程(A-1)で重合体(M)のリチオ化の際に用いる極性化合物は、リチオ化反応を促進するために用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。これら極性化合物の中でも、3級アミンが好ましく、テトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。極性化合物の使用量は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上が特に好ましい。また、100モル以下が好ましく、50モル以下がより好ましく、10モル以下が特に好ましい。0.01モル未満の場合は反応速度に劣る傾向にあり、100モル超の場合は経済性に劣る傾向にある。
【0090】
上記工程(A-1)のリチオ化は、通常、重合体(M)を溶媒に溶解した状態で行う。その溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0091】
上記工程(A-1)のリチオ化の反応温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。0℃未満では反応速度に劣る傾向にあり、100℃超の場合は分解等の副反応が増加する傾向にある。
【0092】
上記工程(A-1)のリチオ化の反応時間は、反応の進行に応じて適宜設定できるが、0.01~100時間が好ましく、0.1~50時間がより好ましく、0.2~20時間が特に好ましい。
【0093】
工程(A-1)におけるリチオ化後の重合体(M)の1H-NMR測定において、4.0~5.7ppmの範囲のピーク面積を100とした場合に、5.7~6.4ppmの範囲のピーク面積が、0.1~10の範囲であることが好ましく、0.3~5の範囲であることがより好ましく、0.5~4の範囲であることが特に好ましい。ピーク面積がこの範囲にあることにより、リチオ化反応が適正に進行しているといえ、得られる共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)の平均本数が適正な範囲となる。
【0094】
[工程(A-2)]
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法は、側鎖(b)のビニル含量を所望の範囲に調整するために、工程(A-1)の後に、
(A-2)ルイス酸を添加する工程;
を含むことが好ましい一態様である。
【0095】
上記ルイス酸は、リチオ化反応を促進するために添加した上記極性化合物の作用を減らし、後述する工程(B)における側鎖のビニル含量を所望の範囲に調整するために添加する。ルイス酸としては、上記工程(A-1)にて生成したリチオ化点を失活させないアルキル金属化合物が好ましく、例えば、トリメチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-へキシルアルミニウム、及び、トリオクチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム化合物;ブチルエチルマグネシウム、ジ-n-ブチルマグネシウム、及び、ジ-n-へキシルマグネシウム等のアルキルマグネシウム化合物;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジ-n-プロピル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、及び、ジ-n-ブチル亜鉛等のアルキル亜鉛化合物が挙げられる。これらアルキル金属化合物の中でも、アルキルアルミニウム化合物、若しくはアルキル亜鉛化合物が好ましく、アルキルアルミニウム化合物がより好ましく、トリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。
【0096】
上記ルイス酸の使用量は、所望の側鎖(b)のビニル含量によって適宜調整できるが、例えば、上記工程(A-1)に用いる有機アルカリ金属化合物1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上が特に好ましい。また、10モル以下が好ましく、5モル以下がより好ましく、1モル以下が特に好ましい。0.01モル未満の場合はルイス酸の添加効果に乏しく所望のビニル化度に調整することが困難であり、10モル超の場合は側鎖重合の重合速度が低下する傾向があり、また、経済性に劣る傾向にある。また、上記工程(A-1)に用いる極性化合物1モルに対して、0.02モル以上が好ましく、0.1モル以上がより好ましく、0.2モル以上が特に好ましい。また、20モル以下が好ましく、10モル以下がより好ましく、2モル以下が特に好ましい。0.02モル未満の場合はルイス酸の添加効果に乏しく所望のビニル化度に調整することが困難であり、20モル超の場合は側鎖重合の重合速度が低下する傾向があり、また、経済性に劣る傾向にある。
【0097】
上記ルイス酸を添加するタイミングは、工程(A-1)の後であれば、後述する工程(B)の前であっても、また、工程(B)の途中の任意のタイミングであってもよく、所望の側鎖(b)のビニル含量によって任意に選択できる。
【0098】
[工程(B)]
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法は、
(B)共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト重合体を作製する工程;
を含む。上記工程(B)において重合した単量体が本発明の共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)となる。工程(B)において重合される重合体を構成する単量体単位となる共役ジエンの具体例、好適例、及びその好適含有量、並びに、共役ジエン以外の他の単量体(芳香族ビニル化合物)の具体例、好適例、好適含有量等の説明は、共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)に関する説明と同様である。また、工程(B)において重合される重合体の重量平均分子量(Mw)、ビニル含量、Tgの好適態様等の説明は、共役ジエン系グラフト重合体の側鎖(b)に関する説明と同様である。
【0099】
上記工程(B)において、側鎖(b)のビニル含量を所望の範囲に調整するために、極性化合物をさらに添加してもよい。また、ビニル含量を所望の範囲に調整するために、上述の通りルイス酸を添加してもよい。
【0100】
上記工程(B)において使用可能な溶媒は、上記工程(A-1)における溶媒の好適例と同様である。必要に応じて、工程(A-1)の後の任意のタイミングで、溶媒をさらに添加してもよい。
【0101】
上記工程(B)の重合温度としては、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。0℃未満では重合速度に劣る傾向にあり、100℃超の場合は分解等の副反応が増加する傾向にある。
【0102】
上記工程(B)の重合時間としては、反応の進行に応じて適宜設定できるが、0.01~100時間が好ましく、0.1~50時間がより好ましく、0.2~20時間が特に好ましい。
【0103】
上記工程(B)における重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0104】
[工程(C)]
本発明の共役ジエン系グラフト重合体の製造方法は、
(C)得られた共役ジエン系グラフト重合体を回収する工程;
を含む。
【0105】
工程(C)では、得られた本発明の共役ジエン系グラフト重合体を回収する。共役ジエン系グラフト重合体の回収方法は特に制限はないが、共役ジエン系グラフト重合体を含む溶液を工程(B)で得ている場合は、例えば、得られた溶液をメタノール等の貧溶媒に注いで、共役ジエン系グラフト重合体を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記共役ジエン系グラフト重合体を単離することにより回収できる。
【0106】
[重合体組成物]
本発明の重合体組成物は、本発明の共役ジエン系グラフト重合体(以下共役ジエン系グラフト重合体(α)とも称する。)を含む。また上記重合体組成物は、さらに共役ジエン系グラフト重合体(α)以外の他の重合体(β)を含んでもよい。他の重合体(β)は、熱可塑性重合体(β1)であっても、硬化性重合体(β2)であってもよい。
【0107】
上記熱可塑性重合体(β1)としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エステル重合体又は共重合体などのアクリル系樹脂;ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;スチレン-メタクリル酸メチル共重合体;スチレン-メタクリル酸メチル-無水マレイン酸共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリビニルアルコール;エチレン-ビニルアルコール共重合体;ポリアセタール;ポリフッ化ビニリデン;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド;シリコーンゴム変性樹脂;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;SEPS、SEBS、SIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDM等のオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
【0108】
硬化性重合体(β2)としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、エステル(メタ)アクリレート樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、アリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂が挙げられる。これらの中でも、入手性及び硬化物の基本物性の観点や、また、気泡の抜け性、得られる硬化物の靱性により一層優れる重合体組成物が得られるなどの観点から、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びエポキシ(メタ)アクリレート樹脂が好ましく、中でも、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂であることがさらに好ましい。硬化性重合体(β2)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
上記重合体組成物に、共役ジエン系グラフト重合体(α)と他の重合体(β)が含まれる場合、共役ジエン系グラフト重合体(α)と他の重合体(β)との質量比(α)/(β)が、1/99~99/1であることが好ましい。
【0110】
また、本発明の重合体組成物には、本発明の効果を損なわない程度に、種々の添加剤を添加してもよい。例えば、他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、かかる添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、ガラス繊維、クレーなどの補強剤又は充填剤、プロセスオイル、ポリエチレングリコール、グリセリン、フタル酸エステルなどの可塑剤を添加剤として用いることができる。また、その他の添加剤として、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、滑剤、界面活性剤などが挙げられる。さらに、該添加剤として発泡剤が挙げられ、発泡剤と熱可塑性重合体(β1)を含む重合体組成物からは発泡体を作製することが可能である。
例えば、他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、かかる添加剤としては、硬化剤、硬化促進剤、公知のゴム、熱可塑性エラストマー、コア-シェル粒子等の衝撃改質剤、充填剤(シリカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機粒子など)、難燃剤、消泡剤、顔料、染料、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤などが挙げられる。
【0111】
本発明の重合体組成物は、共役ジエン系グラフト重合体(α)と他の重合体(β)などの各成分の組成比等に応じ、通常の高分子物質の混合方法により調製できる。
【0112】
他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、例えば、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混合装置により重合体組成物が作製できる。特に本発明においては、これら混合装置を用いて、溶融混練する方法が好ましい一態様である。
【0113】
他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、例えばミキサーなどで十分混合し、次いでミキシングロール、押出し機等によって溶融混練したあと、冷却、粉砕する方法により重合体組成物は作製できる。
【0114】
本発明の重合体組成物は、共役ジエン系グラフト重合体(α)を含む架橋性の重合体組成物であってもよい。かかる重合体組成物の場合、さらに、架橋剤を含んでいる。
架橋剤としては、硫黄、硫黄化合物、過酸化水素、有機過酸化物等の過酸化物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、キノン及びキノンジオキシム誘導体、ハロゲン化合物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、エポキシ化合物、金属ハロゲン化物及び有機金属ハロゲン化物、シラン化合物などが挙げられる。
架橋剤として、硫黄、硫黄化合物等が含まれている場合には、さらに加硫促進剤、加硫助剤を含んでいてもよい。
また、上記架橋性の重合体組成物には、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等の固形ゴム(共役ジエン系グラフト重合体(α)を除く)、カーボンブラック、シリカ等のフィラー、架橋助剤、オイル等の軟化剤、粘着付与樹脂、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、スコーチ防止剤、官能基含有化合物、ワックス、滑剤、可塑剤、加工助剤、顔料、色素、染料、その他着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料、分散剤、溶剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0115】
本発明の重合体組成物は、従来から知られている各種の成形法により、成形品とすることが可能である。
【0116】
他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、重合体組成物を、例えば押出成形、射出成形、中空成形、圧縮成形、真空成形、カレンダー成形等により成形することにより、成形品が作製できる。これら方法によって各種形状の成形品、シート、フィルムなどが得られる。また、メルトブロー法、スパンボンド法等の方法により、不織布、繊維状物となった成形品を作製することもできる。
【0117】
他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、重合体組成物を、例えば、トランスファー成形法により、熱により硬化した成形品が作製できる。硬化性重合体(β2)を重合体組成物が含む場合のその他の成形方法としては、例えば、インジェクション成形法、圧縮成形法が挙げられる。
【0118】
また本発明の重合体組成物が架橋性の重合体組成物である場合は、架橋することにより架橋物として用いることができる。架橋性の重合体組成物の架橋条件は、その用途、使用する架橋剤に応じて適宜設定できる。例えば架橋剤が過酸化物の場合、130℃~250℃の温度範囲で、10分~60分間架橋反応を行うことにより、架橋物を作製することができる。例えば、架橋剤が硫黄又は硫黄化合物である場合は、加硫金型を用いて加硫温度120~200℃及び加硫圧力0.5~20MPaの条件で行うことができる。
【0119】
他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、重合体組成物から得られる成形品の用途としては、例えば、バンパー、インパネなどの自動車用内外装品、テレビ、ステレオ、掃除機等の家電用のハウジング材、コネクターなどの電気・電子部品、電線ケーブル用素材、食肉鮮魚用トレー、青果物パック、冷凍食品容器等の食品包装材若しくは食品容器、工業資材等の包装材料、スポーツシューズ素材などのスポーツ用品、布帛若しくは皮革製品、玩具、サンダルなどの日用雑貨、各種フィルム、シート、成形品のラミネート材、粘・接着剤、紙おむつなどに用いられる伸縮材料、ホース、チューブ、ベルト等の各種ゴム製品、医療用品などが挙げられる。
【0120】
他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、重合体組成物、その硬化物又は成形品の用途としては、例えば、繊維補強複合材用接着剤(コンクリート用繊維補強複合材料用接着剤、自動車・鉄道車両・航空機といった運輸運送装置用繊維補強複合材料用接着剤、各種スポーツ用品用繊維補強複合材料用接着剤等)、組み立て用接着剤(自動車・鉄道車両・航空機といった運輸運送装置における部品組み立て用接着剤等)などの各種接着剤;上下水道用防食・防水塗料、金属用防食塗料などの各種塗料;建築土木用塗装プライマー、自動車・鉄道車両・航空機といった運輸運送装置用の塗装プライマーなどの各種塗装プライマー;金属用ライニング材、コンクリート用ライニング材、タンク類用ライニング材などの各種ライニング材;コンクリート用亀裂補修材などの各種補修材;プリント配線基板、絶縁ボード、半導体封止材、パッケージ材などの各種電気電子部品などが挙げられる。
【0121】
上記架橋性の重合体組成物及び該重合体組成物の架橋物を使用できる用途としては、タイヤ、ベルト、防振ゴム、電線被覆ゴム、ロール、靴、シーリング剤、粘接着剤、グリース、刷版材、OCR、OCA、塗料、防舷材、コーティング剤、ガスケット、ホース、ブレーキパッドなどが挙げられる。
【0122】
上記架橋性の重合体組成物又は該重合体組成物の架橋物は、例えばタイヤの一部として好適に用いられる。
上記重合体組成物及び該重合体組成物の架橋物を使用できるタイヤの部位としては、例えば、トレッド(キャップトレッド、アンダートレッド)、サイドウォール、ランフラットタイヤ用ゴム補強層(ライナーなど)、リムクッション、ビードフィラー、ビードインシュレーション、ビードエイペックス、クリンチエイペックス、ベルト、ベルトクッション、ブレーカー、ブレーカークッション、チェーファー、チェーファーパッド、ストリップエイペックスなどが挙げられる。
【実施例
【0123】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において共役ジエン系グラフト重合体の物性は次の方法により評価した。
【0124】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、共役ジエン系グラフト重合体、及びその製造の各段階における重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を標準ポリスチレン換算で求めた。なお、側鎖(b)の数平均分子量(Mn)に関しては、側鎖の構成単位となる重合体の重合に用いる開始剤と側鎖の構成単位となる単量体の仕込み比より算出した。
装置:東ソー株式会社製 GPC装置「HLC-8220」
分離カラム:東ソー株式会社製 「TSKgel SuperMultiporeHZ-M(カラム径=4.6mm、カラム長=15cm)」(2本を直列に繋いで使用)
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
注入量:10μl
濃度:1mg/1cc(共役ジエン系グラフト重合体/THF)
【0125】
(2)ビニル含量、スチレン単位含有量
1H-NMRによって、共役ジエン系グラフト重合体、及びその製造の各段階における重合体のビニル含量、及びスチレン単位含有量を算出した。得られたスペクトルのビニル化された共役ジエン単位由来の二重結合のピークと、ビニル化されていない共役ジエン単位由来の二重結合のピークとの面積比からビニル含量を算出し、スチレン単位に由来する芳香環のピークと、共役ジエン単位由来の二重結合のピークとの面積比からスチレン単位含有量を算出した。
装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置 「JNM-ECX400」
溶媒: 重クロロホルム
測定温度:50℃
積算回数:1024回
【0126】
(3)絡み合い点間分子量
POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1992,32,823に記載の理論式より、側鎖(b)を構成する重合体の絡み合い点間分子量を算出した。
【0127】
(4)共役ジエン系グラフト重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数
共役ジエン系グラフト重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数は、後述するあらかじめ合成した共役ジエン系重合体をテトラメチルエチレンジアミン存在下で有機アルカリ金属化合物と反応させることで主鎖をリチオ化した後に、側鎖の構成単位となる単量体を重合する方法で製造する場合には、リチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と主鎖の構成単位となる共役ジエン系重合体の仕込み比より算出した。また、後述するあらかじめ合成した主鎖の構成要素となる重合体を官能基で変性し、該官能基変性重合体と側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法で製造する場合には、カップリング反応における側鎖(b)の構成要素となる活性末端重合体と官能基変性共役ジエン系重合体の仕込み比より算出した。
【0128】
(5)側鎖(b)の側鎖密度
側鎖(b)の側鎖密度は、共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数と主鎖(a)の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(2)より算出した。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト重合体1分子あたり側鎖(b)の平均本数)/[(主鎖(a)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
【0129】
(6)ダングリング鎖の緩和に由来するtanδの強度
ダングリング鎖の緩和に由来するtanδの強度は、下記の条件にて作製した加硫物の動的粘弾性測定により得られるtanδの温度分散曲線を以下の条件にて解析することにより算出する。
・加硫物の作製条件
共役ジエン系グラフト重合体100質量部に対して、亜鉛華3.5質量部、ステアリン酸2質量部、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド1.2質量部、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン1質量部、及び硫黄を添加して混合した。該未加硫物をプレス成形(厚さ2mm、温度:150℃、圧力:2MPa、時間:60分)することで加硫物を得て、その後、後述する動的粘弾性測定に必要な20mm×5mm×2mmの短冊片を切り出した。硫黄の添加量は、後述する加硫物の動的粘弾性測定により得られるtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化した際の80℃のtanδの値が0.06となるように調整した。
・動的粘弾性の測定条件
株式会社ユービーエム製「Rheogel-E4000」を使用し、引張りモードにて、-100℃~150℃の温度範囲(昇温速度3℃/分)、周波数11Hzなる条件にて測定した。
・ダングリング鎖の緩和に由来するtanδの強度の算出方法
上記動的粘弾性測定により得られたtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化した。最大強度に対して強度が0.5以上であるデータのみを用いて最小二乗法によって前記ガウス関数にフィッテイングさせた。なお、ガウス関数として、Y=exp(-[(X-u)2/w2])で表される関数を用いた。前記ガウス関数において、Yは規格化されたtanδの温度分散曲線の強度値、Xは温度、w及びuは変数であり、uの初期値として最大強度値を示すときの温度を用いた。wの初期値は最小二乗法の計算のために任意の数値を用いた。上記のフィッテイング条件により求めた近似曲線と、前記規格化した温度分散曲線の差分からなる曲線において、前記規格化した温度分散曲線において最大強度を示す温度よりも高温領域における最大強度をダングリング鎖の緩和に由来するtanδの強度とした。
【0130】
(7)せん断安定度
共役ジエン系グラフト重合体のせん断安定度は、下記の条件にて作製した油組成物を用いて、JPI-5S-29-2006に準拠してせん断試験を実施することで評価した。目視によるせん断試験前後の粘度変化より、以下の指標でせん断安定度を評価した。
A:目視による粘度変化無し
B:目視による粘度変化有り
・油組成物の調製方法
ExxonMobil社製グループIベースオイル「AP/E CORE 150」を
基油として用い、基油/共役ジエン系グラフト重合体の重量比が95/5となるように窒素置換した耐圧容器中に仕込み、加熱温度120℃、回転速度350rpmの条件で6時間混合することにより、油組成物を得た。
【0131】
[実施例1]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1590g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)60gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン1350gを逐次添加して、1時間重合した。その後メタノール3.5gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系重合体(M-1)を得た。得られた共役ジエン系重合体(M-1)の分析により、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-1)の主鎖(a)の重量平均分子量、ビニル含量を求めることができる。得られた共役ジエン系重合体(M-1)の重量平均分子量は28,000、ビニル含量は10モル%であった。
【0132】
(工程(2))
続いて、十分に乾燥した5Lオートクレーブ中に、工程(1)で得られた共役ジエン系重合体(M-1)131gを仕込み、60℃で3時間撹拌をしながら重合体の窒素脱気、及びオートクレーブ内の窒素置換を行った。シクロヘキサン1460gを仕込み、40℃に昇温した後、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)108g、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン10.5gを逐次添加して、40℃で1時間リチオ化反応を実施した。リチオ化反応終了後、シクロヘキサン820gを添加して反応液を希釈し、再度40℃まで昇温した。該リチオ化後の反応液をサンプリングし、1H-NMR測定により、4.0~5.7ppmの範囲のピーク面積を100とした場合における、5.7~6.4ppmの範囲のピーク面積を求めたところ、1.52であった。
【0133】
(工程(3))
重合温度を40℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン470gを逐次添加して、2時間重合した。その後メタノール29gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。
工程(3)における試薬の仕込み量、及び工程(3)における重合体溶液の分析により、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-1)の側鎖(b)の数平均分子量、ビニル含量、スチレン単位含有量を求めることができる。共役ジエン系グラフト重合体(G-1)の側鎖(b)の数平均分子量は5,000、ビニル含量は75モル%、スチレン単位含有量は0質量%であった。
【0134】
(工程(4))
得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系グラフト重合体(G-1)を得た。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-1)の重量平均分子量は128,000、Mw/Mnは1.5、共役ジエン系グラフト重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数は20本、側鎖密度は7.4モル%であった。また、分岐部分となる単量体単位にはヘテロ原子は無く、側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物由来の芳香族基ではない。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-1)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0135】
[実施例2~9]
工程(1)~(4)で使用する各試薬の種類、量を表1に記載されるように変更したこと以外は、実施例1と同じ方法によって、共役ジエン系グラフト重合体(G-2)~(G-9)を得た。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-2)~(G-9)の分子仕様、物性を表2に示す。なお、工程(2)でトリイソブチルアルミニウム(TIBA)を使用する場合、その使用するTIBAは20.0質量%n-ヘキサン溶液であり、リチオ化反応終了後、シクロヘキサンを添加して反応液を希釈し、再度40℃まで昇温した後、このTIBAの溶液を添加した。
【0136】
[比較例1]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1590g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)60gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン1350gを逐次添加して、1時間重合した。その後メタノール3.5gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系直鎖重合体(L-1)を得た。得られた共役ジエン系重合体(L-1)の重量平均分子量は28,000、ビニル含量は10モル%であった。得られた共役ジエン系グラフト重合体(L-1)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0137】
[比較例2]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1570g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)78gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン1350gを逐次添加して、1時間重合した。その後メタノール4.6gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、未変性共役ジエン系重合体(F’-1)を得た。
【0138】
(工程(2))
続いて、撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた5Lセパラブルフラスコに、工程(1)で得られた未変性共役ジエン系重合体(F’-1)700g、シクロヘキサン1400g、白金-1,3-ジビニル-1,1 ,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の2%キシレン溶液(Petrarch System社製「PC072」)5.6mL、トリメチルクロロシラン120gを仕込んで、終夜でこれらを撹拌した。その後、この中に、ジメチルクロロシラン66gを滴下した後に、内温が70℃になるまで徐々に加熱し、内温を70℃に保ったまま還流下で24時間撹拌した。撹拌終了後、減圧濃縮及び濾過し、官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)を得た。得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の分析により、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-10)の主鎖(a)の重量平均分子量、ビニル含量を求めることができる。得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の重量平均分子量は20,000、ビニル含量は10モル%であった。得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)にシクロヘキサン1790gを加えて濃度30質量%に希釈し、後述のカップリング反応で使用する官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の希釈溶液を得た。
【0139】
(工程(3))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1850g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)47gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン820gを逐次添加して、1時間重合し活性末端重合体(I-1)を得た。工程(3)における重合体溶液をサンプリングして分析することで、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-10)の側鎖(b)の数平均分子量、ビニル含量、スチレン単位含有量を求めることができる。得られた活性末端重合体(I-1)の数平均分子量は20,000、ビニル含量は10モル%、スチレン単位含有量は0質量%であった。
【0140】
(工程(4))
続いて、工程(3)で得た活性末端重合体(I-1)を含む溶液に、工程(2)で得た官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の希釈溶液270gを添加し50℃で2時間カップリング反応をさせた。その後、n-ブチルリチウム(15質量%ヘキサン溶液)24gを添加し6時間反応させて残存するアルコキシ基の一部を封止した。その後メタノール5.3gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。
【0141】
(工程(5))
得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系グラフト重合体(G-10)を得た。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-10)の重量平均分子量は220,000、Mw/Mnは1.5、共役ジエン系グラフト重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数は10本、側鎖密度は5.4モル%であった。また、分岐部分となる単量体単位には、官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)に由来して、ヘテロ原子であるSi原子が含まれており、側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物由来の芳香族基ではない。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-10)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0142】
[比較例3]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、ベンゼン2090g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)31gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン540gを逐次添加して、1時間重合し活性末端重合体(I-2)を得た。工程(1)における重合体溶液をサンプリングして分析することで、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-11)の側鎖(b)の数平均分子量、ビニル含量、スチレン単位含有量を求めることができる。得られた活性末端重合体(I-2)の数平均分子量は20,000、ビニル含量は10モル%、スチレン単位含有量は0質量%であった。
【0143】
(工程(2))
続いて、工程(2)で得た活性末端重合体(I-2)を含む溶液に、2-(ジクロロメチルシリル)エチルクロロメチルシリル-4-スチレン5.7gを添加し50℃で5時間反応させて、マクロモノマーを含む重合体溶液を得た。
【0144】
(工程(3))
続いて、工程(2)で得たマクロモノマーを含む重合体溶液に、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)8.7g、カリウム2,3-ジメチル-3-ペンチルオキシド67gを添加した後に、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン360gを逐次添加して、5時間重合した。その後メタノール2.3gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。工程(3)における試薬の仕込み量、及び工程(3)における重合体溶液の分析により、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-11)の主鎖(a)の重量平均分子量、ビニル含量を求めることができる。共役ジエン系グラフト重合体(G-11)の主鎖(a)の重量平均分子量は47,000、ビニル含量は10モル%であった。
【0145】
(工程(4))
得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系グラフト重合体(G-11)を得た。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-11)の重量平均分子量は127,000、Mw/Mnは1.5、共役ジエン系グラフト重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数は4本、側鎖密度は0.9モル%であった。また、分岐部分となる単量体単位には、マクロモノマーに由来して、ヘテロ原子であるSi原子が含まれており、また、側鎖(b)と結合する連結部分は、マクロモノマーに由来する芳香族基である。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-11)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0146】
[比較例4]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1570g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)78gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン1350gを逐次添加して、1時間重合した。その後メタノール4.6gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系重合体(M-10)を得た。得られた共役ジエン系重合体(M-10)の分析により、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-12)の主鎖(a)の重量平均分子量、ビニル含量を求めることができる。得られた共役ジエン系重合体(M-10)の重量平均分子量は20,000、ビニル含量は10モル%であった。
【0147】
(工程(2))
続いて、十分に乾燥した5Lオートクレーブ中に、工程(1)で得られた共役ジエン系重合体(M-10)495gを仕込み、60℃で3時間撹拌をしながら重合体の窒素脱気、及びオートクレーブ内の窒素置換を行った。シクロヘキサン1480gを仕込み、40℃に昇温した後、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)61g、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン5.9gを逐次添加して、40℃で1時間リチオ化反応を実施した。リチオ化反応終了後、シクロヘキサン850gを添加して反応液を希釈し、再度40℃まで昇温した。
【0148】
(工程(3))
重合温度を40℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン110gを逐次添加して、2時間重合した。その後メタノール16gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。
工程(3)における試薬の仕込み量、及び工程(3)における重合体溶液の分析により、後述する共役ジエン系グラフト重合体(G-12)の側鎖(b)の数平均分子量、ビニル含量、スチレン単位含有量を求めることができる。側鎖(b)の数平均分子量は2,000、ビニル含量は75モル%、スチレン単位含有量は0質量%であった。
【0149】
(工程(4))
得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系グラフト重合体(G-12)を得た。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-12)の重量平均分子量は26,000、Mw/Mnは1.5、共役ジエン系グラフト重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数は3本、側鎖密度は1.6モル%であった。また、分岐部分となる単量体単位にはヘテロ原子は無く、側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物由来の芳香族基ではない。得られた共役ジエン系グラフト重合体(G-12)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0150】
実施例1~9における工程(1)~(4)で使用した各試薬の種類、量を以下の表1に、実施例1~9及び比較例1~4で得られた共役ジエン系グラフト重合体、及び共役ジエン系直鎖重合体の物性を表2に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
表1中、略字はそれぞれ下記を示す
SBL:sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)
TMEDA:N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン
TIBA:トリイソブチルアルミニウム(20.0質量%n-ヘキサン溶液)
Bd:1,3-ブタジエン
Ip:イソプレン
St:スチレン
【0153】
【表2】
【0154】
表2より、側鎖密度が2.0mol%以上であり、前記分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まず、前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない実施例1~9の共役ジエン系グラフト重合体は、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が高く、かつ、せん断安定性に優れることがわかる。
一方で、直鎖状の共役ジエン系重合体である比較例1の共役ジエン系重合体は、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が低い。また、前記分岐部分となる単量体単位がSi原子を含む比較例2の共役ジエン系グラフト重合体は、せん断安定性に劣る。また、前記分岐部分となる単量体単位がSi原子を含み、前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基である比較例3の共役ジエン系グラフト重合体は、せん断安定性に劣る。また、側鎖密度は1.6モル%である比較例4の共役ジエン系グラフト重合体は、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が低い。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の共役ジエン系グラフト重合体は、ダングリング鎖に由来するtanδのピーク強度が高く、かつ、せん断安定性に優れることから、自動車用内外装品、電気・電子部品、包装材料、スポーツ用品、日用雑貨、ラミネート材、伸縮材料、各種ゴム製品、医療用品、各種接着剤、各種塗装プライマーなど幅広い分野に有効に使用することができる。