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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ミリ波用高速通信低誘電基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20240905BHJP
   B29B 15/12 20060101ALI20240905BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
H05K1/03 610T
H05K1/03 610R
H05K1/03 610H
B29B15/12
B29K105:08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021013654
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022117128
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263569(JP,A)
【文献】特開2008-019534(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004225(WO,A1)
【文献】特開2019-155853(JP,A)
【文献】特開2019-194285(JP,A)
【文献】特開2018-014387(JP,A)
【文献】特開2018-041998(JP,A)
【文献】特開2019-127494(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241902(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065940(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
B29B 15/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスクロスと有機樹脂を含むミリ波用高速通信低誘電基板であって、前記石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であり、前記有機樹脂が前記石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有し、かつ前記有機樹脂の10GHzにおける誘電率が前記石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有し、
前記有機樹脂がポリテトラフルオロエチレン誘導体であり、前記ミリ波用高速通信低誘電基板の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0005、誘電率が10GHzで2.2~3.7であることを特徴とするミリ波用高速通信低誘電基板。
【請求項2】
更に平均粒径が30μm以下のシリカ粉体を含むものであることを特徴とする請求項に記載のミリ波用高速通信低誘電基板。
【請求項3】
前記シリカ粉体の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であることを特徴とする請求項に記載のミリ波用高速通信低誘電基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスクロスと低誘電特性の有機樹脂を含む基板であって、ミリ波用高速通信低誘電基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、5Gなどの高速通信化に伴い、ミリ波などの高周波を使用しても伝送損失やスキューの少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。またスマートフォン等の情報端末においては配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。
特に、25GHzを超える高速基板では、従来技術の延長では信号品質を確保することがむずかしくなってきている。
【0003】
5Gなどの高速通信向けにはDガラス、NEガラス、Lガラスなどの低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂、更には低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂などを含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。しかし、Dガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスであるが、誘電正接はいずれのガラスにおいても10GHz以上の高周波領域において0.002~0.005程度と大きく、且つ誘電率は5前後と大きな値である。通信にミリ波などの高周波を使用した場合、伝送損失を低減するためマトリックスとなる有機樹脂の誘電正接と誘電率の低減を図っているが、一方では上記した低誘電ガラスの誘電特性と乖離が大きくなりスキューや伝送損失が大きく正確な情報を送れなくなる。
【0004】
スキューに関しては、ミリ波などの高周波信号では波長が短くなることから差動ペアの各配線上下の樹脂、ガラスクロスの分布により2線間の伝搬時間に差が生じ、信号品質劣化の要因となっている。
従来はこのスキュー低減のためガラスクロスの繊維方向に対して信号配線を傾けて配線する手法や、扁平したガラス繊維束で編まれた解繊ガラスクロスを使用して、樹脂とガラスクロスの分布を均一化することで誘電率差の大きい部分を減少化させる手法で対応している。
これらいずれの手法においてもコストアップとなり、かつ樹脂とガラスクロスの誘電率や誘電正接の差が残るため、ミリ波などの高速信号の伝送を考えると上記した対策が必要となっており、高性能なミリ波対応基板としては十分なものではない。
【0005】
なお、信号の伝送損失はEdward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られている。上記式が示すように、特に誘電正接の影響が大きい。
【0006】
プリント配線板などの有機樹脂基板の低誘電正接化として、有機樹脂よりも誘電正接の低い無機粉体やガラスクロスを用いる方法が一般的である。しかし、このような基板においてはミクロに見た場合、バインダーとなる樹脂と無機粉体やガラスクロスとの誘電特性が異なり、均一な誘電特性を持った低誘電基板を得ることができない。特に誘電正接が高周波領域で0.0015未満、且つ誘電率も4.0以下の均一な誘電特性を持った基板はほとんど知られていない。
【0007】
代表的な低誘電特性の無機材料の一つであるシリカ粉体や石英ガラスクロスは、樹脂に添加する無機粉体や基板の補強材として膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料である。一般的に石英ガラスクロスやシリカ粉体は誘電特性が非常に優れていることが知られているが、現在石英ガラスクロスやシリカ粉体は任意に誘電正接の値を調整することができない。
【0008】
一般的に石英ガラスやシリカ粉体においては、その中に残存する水酸基(OH)量は製造方法や熱処理によって異なり、OH濃度の違いにより様々な物性の違いをもたらすことが知られている(非特許文献1)。
【0009】
特許文献1では、加熱処理により低シラノールシリカの製造を行っているものの、シラノール基(Si-OH)の減少率しか言及されておらず、処理後のシリカのシラノール量も測定されていない上に、誘電正接との相関についても言及はされていない。
【0010】
特許文献2では、シリカガラス繊維中の水分量と誘電正接の関係は示されているものの、シラノール量についての記載がなく、誘電正接についてもガラス繊維とPTFEを用いたプリント基板で測定した値であるため、シラノール量とガラス繊維の誘電正接の相関については明らかにされていない。
【0011】
誘電正接を向上させるために高温処理によってOH基を所定量まで減らすことは知られていない。また、石英ガラスやシリカ粉体を高温で加熱処理すると歪量が増大し、特にガラス表面で歪が増大(非特許文献2)するため、強度が大きく低下する。そのため、実用化はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平2-289416号公報
【文献】特開平5-170483号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】熱処理に伴うシリカガラス中のOH基濃度変化 2011年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【文献】シリカガラスブロックの熱処理による構造変化 2005年2月 福井大学工学研究科博士前期課程論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
既存の石英ガラスクロスやシリカ粉体の誘電特性、特に誘電正接を本来の石英ガラスのレベルである0.0015未満程度に下げることができれば、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体などの封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板などの補強材や充填剤として幅広い用途に展開できる。一方で、このような基板の誘電体は、上記のように石英ガラスクロスとシリカ粉体などの無機粉体と樹脂の複合材料から構成されているために基板の内部構造が不均一となっている。基板に設けられた配線は周囲の環境(材質、誘電特性等)の影響を受けるため、かかる基板の不均一性が、差動配線ペアにおける各配線で信号の伝播速度に差異を生じさせる原因となっている。
【0015】
しかし、従来は石英ガラスクロスやシリカ粉体は任意に誘電正接の値を調整することができなかったため、有機樹脂基板を構成する部材(有機樹脂、シリカ粉体やガラスクロスなど)の誘電特性が互いに異なっている基板しか得られなかった。このような基板においては、微視的にみると誘電特性が異なる部材から構成される部分ごとに誘電特性がばらついてしまうため、均一な誘電特性を持った低誘電基板を得ることができない。特に、通信にミリ波などの高周波を使用した場合、伝送損失を低減するためマトリックスとなる有機樹脂の誘電正接と誘電率の低減が必要になるが、上記したように有機樹脂基板を構成する部材間の誘電特性の乖離が大きいため、差動配線間で生じる伝播遅延時間差であるスキューや伝送損失が無視できないレベルとなって正確な情報を送れなくなるという問題があった。
【0016】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、石英ガラスクロスと低誘電樹脂及び必要に応じて添加されるシリカ粉体を含む低誘電基板であって、各種配線上下の樹脂や石英ガラスクロスの分布が不均一な基板でも配線間の伝搬時間に差がなく安定した品質の良好な信号を送ることができ、且つ部材による誘電正接の差を減らして伝送損失を少なくしたミリ波用高速通信低誘電基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明では、石英ガラスクロスと有機樹脂を含むミリ波用高速通信低誘電基板であって、前記石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であり、前記有機樹脂が前記石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有し、かつ前記有機樹脂の10GHzにおける誘電率が前記石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有するものであることを特徴とするミリ波用高速通信低誘電基板を提供する。
【0018】
このようなミリ波用高速通信低誘電基板であれば、各配線上下の樹脂や石英ガラスクロスの分布が不均一な基板であっても、配線間の伝搬時間に差がなく安定した品質の良好な信号を送ることができ、且つ部材による誘電正接の差を減らして伝送損失を少なくすることができる。
【0019】
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、更に平均粒径が30μm以下のシリカ粉体を含むものであることができる。
【0020】
このようなシリカ粉体を含むことにより、基板の膨張係数や弾性率などを調整することができる。
【0021】
この場合、前記シリカ粉体の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であることが好ましい。
【0022】
このようなミリ波用高速通信低誘電基板であれば、シリカ粉体充填で基板の膨張係数や弾性率などを調整しつつ、石英ガラスクロスや有機樹脂との誘電特性の差を少なくして誘電特性を著しく向上させることができる。また、伝送損失をさらに少なくすることができる。
【0023】
また、本発明では、前記有機樹脂の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0020、誘電率が10GHzで2.0~4.0であることが好ましい。
【0024】
このような有機樹脂が、基板の低誘電化に好適であり、部材間の誘電正接をより近接することで伝送損失をさらに少なくできる。
【0025】
また、本発明のミリ波用高速通信低誘電基板の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで2.0~3.8であることが好ましい。
【0026】
このようなミリ波用高速通信低誘電基板は、5Gなどの高速通信用途に好適である。
【0027】
また、本発明では、前記有機樹脂がフッ素系樹脂であることが好ましい。
【0028】
このような有機樹脂が低誘電特性の観点から優れている。
【0029】
この場合、前記フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレン誘導体であり、前記ミリ波用高速通信低誘電基板の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0005、誘電率が10GHzで2.2~3.7であることが好ましい。
【0030】
このようなものであれば、特に低誘電特性に優れ、ミリ波などを用いる高速通信において、伝送損失やスキューの非常に少ない理想的な基板となる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明のミリ波用高速通信低誘電基板であれば、石英ガラスクロスと有機樹脂及び必要に応じて添加されるシリカ粉体を含み、石英ガラスクロスと有機樹脂それぞれの誘電特性(誘電正接及び誘電率)が所定の条件を満たすことにより、各配線上下の樹脂や石英ガラスクロスの分布が不均一な基板でも配線間の伝搬時間に差がなく安定した品質の良好な信号を送ることができ、且つ部材による誘電正接の特性差が減少し、極限化した伝送損失のないミリ波用高速通信低誘電基板とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上述のように、ミリ波などを用いる高速通信において、伝送損失やスキューの非常に少ない理想的な樹脂基板の開発が求められていた。
【0033】
本発明者らは、既存のシリカ粉体や石英ガラスクロスの誘電特性、特に誘電正接を本来の石英ガラスのレベルに下げることができれば、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体などの封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板などの補強材や充填剤として幅広い用途に展開できると考え、種々検討を行ってきた。
【0034】
そして、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特に低誘電化について検討を行った結果、誘電率はシリカや石英ガラスクロスの純度を極力高めることで低減することができるが、誘電正接はシリカ粉体や石英ガラスクロスを500℃~1500℃の温度に加熱することが誘電正接の低減に有効であり、また、シリカ粉体や石英ガラスクロスの表面をわずかにエッチング処理することで表面が強固になり樹脂との接着が改善されること、更に石英ガラスクロスにおいてはクロスの引張強さが大きく向上することを見出した。
【0035】
更に、石英ガラスクロス、シリカ粉体の誘電正接を任意に可変できることを見出し、低誘電樹脂の誘電正接特性に合わせた誘電正接を保有する石英ガラスクロスとシリカ粉体との組み合わせで、上記目的の部材間での誘電正接特性のばらつきが少ないミリ波用高速通信低誘電基板となることを見出し、本発明を完成した。
【0036】
即ち、本発明は、石英ガラスクロスと有機樹脂を含むミリ波用高速通信低誘電基板であって、前記石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であり、前記有機樹脂が前記石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有し、かつ前記有機樹脂の10GHzにおける誘電率が前記石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有するものであることを特徴とするミリ波用高速通信低誘電基板である。
【0037】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、石英ガラスクロスと有機樹脂(低誘電樹脂)を含む。必要に応じて。シリカ粉体などの無機粉体や他の成分を含んでもよい。以下、基板を構成する部材(成分)について説明する。
【0039】
[石英ガラスクロス]
本発明で使用する石英ガラスクロスの素材は、天然で産出される不純物の少ない石英や四塩化ケイ素などを原料とする合成石英などを主に使用することができる。
【0040】
石英ガラス素材中の不純物の濃度が、アルカリ金属であるNa、K、Liの総和が10ppm以下、Bが1ppm以下、Pが1ppm以下、放射線による誤動作を防止するためにはUやThの含有量が0.1ppb以下であることがより好ましい。上記不純物の濃度は原子吸光光度法や、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法などにより測定することができる。例えば、ICP-AES、ICP-MS等の装置により予め濃度既知の試料を用いて作成した検量線から求めることができる。
【0041】
本発明の石英ガラスクロスは下記のような製法で得られる石英インゴットを原料としてフィラメント、ヤーンを製造して製織することで製造することができる。
【0042】
石英インゴットは、天然で産出する石英を原料とした電気溶融法、火炎溶融法、又は四塩化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法、又はアルキルシリケートを原料としたゾルゲル法等で製造することができる。
【0043】
例えば本発明で使用する直径100~300μmの石英糸はインゴットを1700~2300℃で溶融させ延伸し巻き取ることで製造することができる。
なお、本明細書では、上述した石英糸を引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維を石英ガラスフィラメント、石英ガラスフィラメントを束ねたものを石英ガラスストランド、石英ガラスフィラメントを束ねて更に撚りをかけたものを石英ガラスヤーンと定義する。
【0044】
石英ガラスフィラメントの場合、その直径は3μm~20μmであることが好ましく、3.5μm~9μmがより好ましい。石英ガラスフィラメントの製造方法としては上述した石英糸を電気溶融、酸水素火炎による延伸法等が挙げられるが、石英ガラスフィラメント径は3μm~20μmであればこれらの製造方法に限定されるものではない。
【0045】
前記石英ガラスフィラメントは10本~400本の本数で束ねて石英ガラスストランドを製造するが、好ましく、40本~200本であることがより望ましい。
【0046】
また、本発明に使用する石英ガラスクロスは前述した石英ガラスヤーンやストランドを製織して製造することができる。ガラスクロスの製織方法は特に制限はなく、例えば、レピア織機によるもの、シャトル織機によるもの、エアジェットルームによるものなどが挙げられる。
【0047】
この種の製造方法で得られる現在入手可能な石英ガラスクロスは低誘電ガラスとして知られているLEガラスなどより優れた誘電特性を持っている。低誘電ガラスとして知られているLEガラスは誘電率が4.4,誘電正接が0.0020であり、本来の石英の誘電率3.7に比べ約20%大きく,誘電正接は0.0001より一桁大きな値となっている。
【0048】
このため、ミリ波用高速通信基板に使用する場合、基板のマトリックスとなる有機樹脂の誘電率が3.0以下と小さくなることから、現在入手可能な低誘電LEガラスでは誘電率を近似させることができない。
【0049】
[低誘電石英ガラスクロス]
本発明に使用する石英ガラスクロスは、石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であり、適用する有機樹脂が前記石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有し、かつ前記有機樹脂の10GHzにおける誘電率が前記石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有するものであればよく、他の特性は特に限定されない。しかしながら、以下の知見に基づく低誘電石英ガラスクロスを使用することが誘電特性と機械的強度の点から好ましい。
【0050】
本発明者らは、高周波領域における誘電正接が10GHzで0.0010未満、誘電率が3.0~3.8、引張強さがクロス重量(g/m)あたり2.7N/25mm以上である石英ガラスクロスを500℃以上の温度で高温処理した後、クロスを構成する繊維表面の歪層を除去した低誘電石英ガラスクロスを使用すれば誘電特性に優れた樹脂基板を製造できることを見出した。
【0051】
本発明では、上記の石英ガラスクロスを高温で加熱処理し石英中に存在する水酸基を除去した後、石英ガラス表面に発生した歪層を溶解除去し、カップリング剤などで石英ガラス表面を処理した低誘電石英ガラスクロスを使用することが好ましい。
【0052】
石英中の水酸基を除去する加熱温度は500℃~1500℃で、加熱時間は10分~24時間でよい。なお、加熱後の室温までの冷却は、徐冷でも急冷でも問題はないが、条件によっては溶融状態の石英ガラスが一部結晶化することがあることから加熱温度や冷却条件は最適化したほうが良い。加熱雰囲気としては、空気中、窒素などの不活性ガス中で常圧、真空中や減圧下でも特に限定されるものではないが、通常はコストなども考え空気中で行う。加熱処理による水酸基の減少度合いは赤外分光分析などで分析することで所望の誘電特性に達したかどうかの確認をすることができる。
【0053】
この工程により、加熱温度と加熱時間を調整することで誘電率は変動せずに、10GHzでの誘電正接を本来の石英のレベルである0.0001~0.0015まで自由に制御することができる。低誘電基板とするためにはより好ましい誘電正接は0.0001~0.0010、より好ましくは0.0001~0.0008、更には0.0001~0.0005にすることができる。
【0054】
上記処理によっても石英ガラスクロスの誘電率は処理前とほとんど変わらず3.0~3.8と優れた特性を示している。
【0055】
石英ガラスクロスは500℃以上の温度で熱処理すると強度が低下する場合がある。この原因は高温で加熱処理した後の石英ガラスクロスの表面層にはわずかに歪が残り、これが起点となって容易に破断することによると考えられる。そこで、このような場合にはこの歪層を除去し強度を回復させた低誘電石英ガラスクロスを使用することが好ましい。
【0056】
石英ガラスクロスの歪層の除去はエッチング液などにクロスを浸漬することで容易に歪層を除去することができる。
【0057】
また、プリプレグを製造する際に、樹脂とガラスクロス表面の接着を強固にするために、シランカップリング剤による表面処理を行うことができる。表面処理は、石英ガラスクロスの高温処理、エッチング処理後、石英ガラスクロスを洗浄したのち、ガラスクロスの表面をシランカップリング剤で被覆する。
【0058】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、アルコキシシランが好ましく、代表的なシランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-903)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-603)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-903)などのアミノ系シランカップリング剤、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-1003)、ビニルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-1003)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-503)、p-スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-1403)などの不飽和基含有シランカップリング剤、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-7103)、パーフルオロポリエーテル含有トリアルコキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:X-71-195、KY-1901、KY-108)などのフッ素原子含有シランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-403)、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-403)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-803)、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-9007)、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(信越化学工業(株)製;商品名:X-12-967C)、また上記アミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマーなどの群から選択される1種又は2種以上が好ましく、特にアミノ系シランカップリング剤や不飽和基含有シランカップリング剤がより好ましい。
【0059】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.1質量%~5質量%の間の希薄水溶液で使用されるが、特に0.1質量%~1質量%の間で使用するのが効果的である。このような石英ガラスクロスを用いることで、上記シランカップリング剤が均一に付着しガラスクロス表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、プリプレグを製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない塗布が可能となる。
【0060】
[有機樹脂]
ミリ波用高速通信低誘電基板に用いる有機樹脂としては、上記石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有し、かつ前記有機樹脂の10GHzにおける誘電率が上記石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有する有機樹脂であれば特に限定されない。例えば、誘電率(10GHz)が2.0~4.0、誘電正接(10GHz)で0.0020以下、望ましくは0.0015以下の熱硬化性や熱可塑性の低誘電特性の有機樹脂であればいずれも使用可能である。また、それぞれの樹脂を混合して併用することもできる。
【0061】
熱可塑性樹脂としてはポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂(フッ素系樹脂)などが代表例として例示される。なかでも低誘電特性からフッ素系樹脂が望ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、エチレン(Et)-TFE共重合体〔ETFE〕、Et-クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、CTFE-TFE共重合体、TFE-HFP共重合体〔FEP〕、TFE-PAVE共重合体〔PFA〕、及び、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でもポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕やTFE-HFP共重合体〔FEP〕、TFE-PAVE共重合体〔PFA〕が誘電正接の点から望ましいものである。なお、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマーと共重合体をまとめてポリテトラフルオロエチレン誘導体ともいう。
【0062】
熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂が例示される。なかでも下記の一般式(1)で示されるビスマレイミド樹脂が低誘電化に好適な有機樹脂として使用される。
【化1】
(前記式中、Aは独立して芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
【0063】
代表的なビスマレイミド樹脂としてはSLK-シリーズ(信越化学工業(株)製、SLK-6895、SLK-3000、SLK-2600など)がある。また、熱硬化性のシクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂も高耐熱性・低誘電樹脂として使用可能である。代表例としてはSLK-250シリーズ(信越化学工業(株)製)である。
【0064】
本発明では、前記有機樹脂の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0020、誘電率が10GHzで2.0~4.0であることが好ましい。
このような有機樹脂が、基板の低誘電化に好適であり、部材による誘電正接の差をより一層減らして伝送損失をさらに少なくできる。
【0065】
また、低誘電特性が優れていることから、有機樹脂としてはフッ素系樹脂が好ましいが、この場合、フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレン誘導体であり、ミリ波用高速通信低誘電基板の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0005、誘電率が10GHzで2.2~3.7であることが好ましい。
このようなものであれば、特に低誘電特性に優れ、ミリ波などを用いる高速通信において、伝送損失やスキューの非常に少ない理想的な基板となる。
【0066】
[シリカ粉体]
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、必要に応じて無機粉体を含んでもよい。代表的な無機粉体の一つであるシリカ粉体は、樹脂に添加することで基板の補強材として機能し、膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料である。このため、無機粉体としてはシリカ粉体を用いることが好ましい。
【0067】
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、更に平均粒径が30μm以下のシリカ粉体を含むものであることができる。これにより、基板の膨張係数や弾性率などを調整することができる。好ましくは、平均粒径0.1~30μmである。
【0068】
シリカ粉体は、その内部及び表面の一部又は全面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属及び/又はその酸化物が金属換算で200ppm以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下含まれてもよい。更に、前記したシリカ粉体中のBが1ppm以下、Pが1ppm以下、UおよびThの含有量がそれぞれ0.1ppb以下であるシリカ粉体も低誘電シリカ粉体として使用可能である。
なお、本発明において、最大粒径及び平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD-3100:島津製作所製など)により測定することができ、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として求めることができる。
【0069】
[低誘電シリカ粉体]
本発明では、低誘電化の観点から、特に誘電正接の値が低いシリカ粉体(低誘電シリカ粉体)を用いることが好ましい。
【0070】
本発明で使用するシリカ粉体は、好ましくは、誘電正接(10GHz)が0.0001~0.0015、誘電率(10GHz)が3.0~3.8である。
このようなシリカ粉体を含むミリ波用高速通信低誘電基板であれば、充填するシリカ粉体自体も低誘電正接であるため、基板の膨張係数や弾性率などを調整しつつ、誘電特性を著しく向上させることができる。また、部材による誘電正接の差をより減らして伝送損失をさらに少なくすることができる。平均粒径は0.1~30μmが好ましい。
【0071】
本発明で使用する低誘電シリカ粉体は、好ましくは、シリカ粉体を500℃~1500℃の温度で加熱処理することで低誘電化したもの、更には前記シリカ粉体表面を塩基性水溶液、更に望ましくはpH12以上のアルカリ電解水でエッチング処理した誘電シリカ粉体である。
【0072】
本発明において好ましいシリカ粉体は、水酸基(Si-OH)含有量が300ppm以下のもので、このような含有量であれば十分低誘電正接が得られる。上記加熱処理により、シリカ粉体が含有する水酸基量が300ppm以下、好ましくは280ppm以下、更に好ましくは150ppm以下となり、低誘電正接の特性を有する低誘電シリカ粉体となる。
【0073】
本発明で使用する低誘電シリカ粉体は平均粒径0.1~30μmで、好ましくは最大粒径が100μm以下のシリカ粉体であり、高速通信用基板の充填剤として使用する場合は平均粒径が0.1~5μmで最大粒径が20μm、より望ましくは0.1~3μmで最大粒径が10μm以下である。
【0074】
低誘電シリカ粉体は、500℃から1500℃の温度で加熱処理することでシリカ粉体の誘電率が3.0~3.8、誘電正接(10GHz)が0.0001~0.0015、好ましくは0.0001~0.0010、より好ましくは0.0001~0.0005のものである。
【0075】
シリカ粉体は500℃以上の温度で熱処理すると粒子表面に歪層ができて強度が低下する場合がある。そのため、本発明で使用する低誘電シリカ粉体はこの歪層を除去したものを使用することが望ましい。シリカ粉体の歪層の除去は前述した石英ガラスクロスと同様にエッチング液などにシリカ粉体を浸漬することで容易に歪層を除去することができる。
【0076】
シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で被覆することでプリプレグを製造する際に、樹脂と石英ガラスクロスやシリカ粉体表面の接着を強固にすることができる。
【0077】
シランカップリング剤としては、前記した石英ガラスクロスで使用する公知のシランカップリング剤を用いることができる。
【0078】
特に低誘電率、低誘電正接の樹脂を基板のマトリックス樹脂として使用した場合、石英ガラスクロスのバスケットホール(ガラスクロスのよこ糸とたて糸に挟まれた隙間)には樹脂のみが充填されるため石英ガラスクロスとの誘電特性差が大きくなる。このためシリカ粉体を添加し誘電率を石英ガラスクロスに近似させることが好ましい。シリカ粉体の量は、樹脂成分の総和100質量部に対し、0~1000質量部であり、50~800質量部が好ましく、特に100~700質量部が更に好ましい。50質量部以上であれば、十分に誘電特性の調整ができ、硬化物の熱膨張率(CTE)が大きくなりすぎず、十分な強度を得ることができるため、50質量部以上の添加が好ましい。ただ、有機樹脂の種類や用途によって、非添加系での使用もある。1000質量部以下であれば、プリプレグ製造時に柔軟性が失われたり、外観不良が発生したりすることはない。なお、このシリカ粉体は、樹脂全体の10~90質量%、特に15~85質量%の範囲で含有することが好ましい。このシリカ粉体は流動性や加工性など特性向上のため、異なる平均粒径のシリカ粉体をブレンドしても良いが、バスケットホールに充填するため、有機樹脂が含有するシリカ粉体は上記した平均粒径が0.1~5μmで最大粒径が20μm、より好ましくは0.1~3μmで最大粒径が10μm以下のシリカ粉体が好ましい。
【0079】
この低誘電シリカ粉体は前記した石英ガラスクロス、特に低誘電石英ガラスクロスと併用することで高速通信基板、アンテナ基板など基板向けの充填剤として好適である。
【0080】
[その他の成分]
本発明の低誘電基板には、上記各成分に加え、上述のシランカップリング剤や、必要に応じて、染料、顔料、難燃剤や接着助剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0081】
-ミリ波用高速通信低誘電基板-
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、上述した石英ガラスクロス、有機樹脂を必須成分とし、任意成分であるシリカ粉体を含有してもよい有機樹脂プリプレグの積層基板である。本発明のミリ波用高速通信低誘電基板(有機樹脂積層基板)において、絶縁層の厚さは、本発明のミリ波用高速通信低誘電基板の用途等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは20~2,000μm、より好ましくは50~1,000μmである。
【0082】
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板としては、石英ガラスクロスと有機樹脂を含むものであって、前記石英ガラスクロスの誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで3.0~3.8であり、前記有機樹脂が前記石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有し、かつ前記有機樹脂の10GHzにおける誘電率が前記石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有するものであれば特に限定されないが、例えば、以下の2つのタイプが挙げられる。
(1)上記低誘電特性の石英ガラスクロスと、石英ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の80%~150%の範囲内の誘電正接を有すると共に10GHzにおける誘電率が石英ガラスクロスの誘電率の50%~110%の範囲内の誘電率を有する有機樹脂を選択し、石英ガラスクロスに前記有機樹脂を含浸したプリプレグを調製し、石英ガラスクロスを含むプリプレグを加圧加熱してなる樹脂基板
(2)上記石英ガラスクロスに更に低誘電シリカ粉体を含有する有機樹脂を含浸したプリプレグを調製し、石英ガラスクロスを含むプリプレグを加圧加熱してなる樹脂基板
【0083】
ミリ波用高速通信低誘電基板の誘電正接が10GHzで0.0001~0.0015、誘電率が10GHzで2.0~3.8であることが好ましい。
このようなミリ波用高速通信低誘電基板は、5Gなどの高速通信用途に好適である。
【0084】
-ミリ波用高速通信低誘電基板の製造方法-
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、その製造方法に特に制限はないが、例えば以下のようにすることで得ることができる。
-有機樹脂プリプレグの製造方法-
有機樹脂を石英ガラスクロスに含浸させてプリプレグを作製する方法は特に限定されない。また、更にシリカ粉体等の無機粉体を用いる場合も特に限定されない。
上記低誘電特性の有機樹脂(シリカ粉体を含有及び/又は非含有してなる有機樹脂組成物)を溶剤に溶解・分散された状態で石英ガラスクロスに含浸させ、次に、石英ガラスクロスから前記溶剤を蒸発させて除去し、プリプレグを得る。得られたプリプレグを加圧加熱硬化させることにより低誘電基板を得ることができる。ここでシリカ粉体として、有機樹脂100質量部当り1000質量部以下(0~1000質量部)の範囲であり、50~800質量部の範囲であることがより好ましい。
【0085】
例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水溶液を用いる場合は、シリカ粉体をあらかじめ水溶液に所定量混合しスラリー化した後、石英ガラスクロスに含浸処理、乾燥することでフッ素樹脂とシリカ粉体を含んだ石英ガラスクロス含有プリプレグが得られる。
ここで得られた石英ガラスクロス含有プリプレグを所定の温度・時間・加圧してフッ素樹脂を含む低誘電基板を作製する。フッ素樹脂微粉末水溶液の系では有機系の界面活性剤などが含まれていることから、300~400℃で5分~1時間加熱して、界面活性剤を除去することが好ましい。フッ素樹脂を含む低誘電基板を作製する際の温度・時間・加圧条件は、後述の金属張積層基板を作製する場合の条件とすることができる。
【0086】
-溶剤-
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板を製造する場合には、上述した低誘電樹脂組成物を溶解・分散させることができ、かつ、該組成物が未硬化または半硬化の状態に保持される温度で蒸発させることができる溶剤であれば特に限定されず、例えば、沸点が50~200℃、好ましくは80~150℃の溶剤が挙げられる。溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系非極性溶剤、エーテル類、エステル類等の炭化水素系極性溶剤が挙げられる。また、溶解しにくい有機樹脂では、界面活性剤と水で水系分散液として使用することも可能である。溶剤の使用量は、上述した有機樹脂組成物が溶解・分散し、得られた溶液または分散液を石英ガラスクロスに含浸させることができる量であれば特に制限されず、該有機樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは、10~200質量部、より好ましくは20~100質量部である。
【0087】
上述した有機樹脂組成物の溶液または分散液は、例えば、石英ガラスクロスを該溶液または分散液に含浸させ、乾燥炉中で好ましくは50~150℃、より好ましくは60~120℃で溶剤を除去することにより有機樹脂プリプレグを得る。水系分散液の場合は、界面活性剤を除去するために、更に300~400℃で5分~1時間加熱することが好ましい。
【0088】
-金属張積層基板-
ミリ波用高速通信低誘電基板は、上述した低誘電石英ガラスクロス、低誘電特性の有機樹脂を必須成分とし、任意成分であるシリカ粉体を含有してもよい有機樹脂プリプレグを用いて積層基板とすることもできる。このような有機樹脂積層基板において、絶縁層の厚さは、基板の用途等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは20~2,000μm、より好ましくは50~1,000μmである。
【0089】
このような有機樹脂積層基板としては、金属張積層基板を挙げることができる。
上述した低誘電石英ガラスクロス、低誘電特性の有機樹脂を必須成分とし、任意成分であるシリカ粉体を含有してもよい有機樹脂プリプレグを用いた金属張積層基板は、以下のようにして製造することができる。
【0090】
まず、ミリ波用高速通信低誘電基板と同様にしてプリプレグを調製する。
得られたプリプレグを、絶縁層の厚みに応じた枚数を重ね、加圧加熱して積層基板とすることができる。プリプレグに金属箔を重ねて、5~50MPaの圧力、70~400℃の温度の範囲で真空プレス機等を用いて加圧加熱により金属張積層基板が製造される。金属箔としては特に限定されないが、電気的、経済的に銅箔が好ましく用いられる。この金属張積層板をサブトラクト法や穴あけ加工などの通常用いられる方法により加工することで印刷配線板を得ることができる。
【0091】
溶剤に溶解しづらい熱可塑性樹脂の場合は薄膜の樹脂フィルム、銅箔と(A)石英ガラスクロスを加熱圧着することでプリプレグを作製することもできる。
例えば、フッ素樹脂基板を作製する場合は、あらかじめ成形され表面処理がなされたフッ素樹脂のフィルムとガラスクロス及び銅箔を加熱下で圧着する方法がある。加熱下での熱圧着は通常250~400℃の範囲内で、1~20分間、0.1~10メガパスカルの圧力で行うことが出来る。熱圧着温度に関しては、フッ素樹脂の軟化温度によるが高温になると樹脂のしみ出しや、厚みの不均一化が起こる懸念があり、340℃未満であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。熱圧着はプレス機を用いてバッチ式に行うこともでき、また高温ラミネーターを用いて連続的に行うこともできる。プレス機を用いる場合は空気の挟み込みを防ぎ、フッ素樹脂がガラスクロス内へ入り込みやすくするために、真空プレス機を用いることが好ましい。
【0092】
以上の製造方法で本発明の出発材料であるフッ素樹脂基板を作製することができる。
【0093】
表面処理を行ったフッ素樹脂フィルムは、単体では表面粗度の低い銅箔に対して十分に接着することができず、熱圧着時に銅箔から染み出し、厚みの均一化も図れないが、上述の通り、ガラスクロスと複合化した場合は、線膨張率が十分下がり、さらに樹脂の染み出しも低減し、表面粗度Raが0.2μm未満である銅箔に対しても高い接着性を発現する。
【0094】
積層体の構成は2枚の銅箔の間に、n枚のフッ素樹脂フィルムとn-1枚のガラスクロスを交互に積層したもの(nは2~10の整数)からなるが、nの値は8以下が好ましく、6以下が更に好ましい。フッ素樹脂フィルムの厚さや石英ガラスクロスの種類、及びnの値を変えることによって本発明の樹脂積層基板のXY方向の線膨張率を変えることが出来るが、線膨張率の値は5~50ppm/℃の範囲内が好ましく、10~40ppm/℃の範囲内が更に好ましい。誘電体層の線膨張率が50ppm/℃以下であれば銅箔と誘電体層との密着性が低くならず、また銅箔エッチング後に基板の反りや波打ちなどの不具合を生じることもない。
【0095】
金属張積層基板の電極パターンは、公知の方法で作製すればよく、例えば、本発明の低誘電樹脂積層基板と、該積層基板の片面または両面に設けられた銅箔とを有する銅張積層基板に対してエッチング等を行うことにより作製することができる。
【0096】
以上のように、本発明者らは、ミリ波用高速通信基板を製造するため、誘電率が最も低い石英ガラスクロスを高温加熱処理した後、クロスを構成する石英繊維表面の歪層を除去することで、高周波領域における誘電正接を本来の石英レベルである0.0015未満に調整し、引張強さをクロス重量(g/m)あたり2.1N/25mm以上とした石英ガラスクロスと、石英ガラスクロスのバスケットホール内の低誘電樹脂の誘電率が石英ガラスクロスより著しく小さい場合は石英ガラスクロスの誘電率に近似させる為に低誘電樹脂と誘電率が3.5~3.9、誘電正接(10GHz)が0.0015未満に調整した平均粒径30μm以下のシリカ粉体を混合し、石英ガラスクロス、低誘電樹脂、シリカ粉体の誘電率値の相違差を-50%+10%以内、誘電正接値の相違差を-20%~+50%の範囲内に合わせることで誘電特性が著しく向上し、基板内部でのバラツキの少ない低誘電基板を製造することができることを見出した。望ましくは各成分の誘電正接値の相違差が±20%以内、より望ましくは±10%以内である。低誘電基板の厚みが薄くなればなるほど各構成成分の誘電正接の値が近接している必要がある。
【0097】
本発明のミリ波用高速通信低誘電基板は、石英ガラスクロスと低誘電樹脂及び必要に応じて添加されるシリカ粉体からなる低誘電基板であって、各配線上下の樹脂やガラスクロスの誘電特性差がミクロ的に見ても小さいことから、配線周囲の樹脂やガラスクロスの分布が不均一な基板でも配線間の伝搬時間に差がなく安定した品質の良好な信号を送ることができ、且つ各種部材間の誘電正接特性のばらつき及び相違が少ない誘電正接を有する。更に高周波信号の伝送特性にも優れた低誘電率、低誘電正接な多層プリント基板などの配線板材料としても有用である。
【実施例
【0098】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下における特性値(引張強さ、誘電正接(tanδ)、誘電率、平均粒径)の測定は、特に断らない限り、以下の方法で行った。
【0099】
1.引張強さの測定
JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定した。
【0100】
2.誘電正接の測定
2.1 ガラスクロス、有機樹脂、樹脂基板
特に明示した場合を除いて、ネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、試料の周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0101】
2.2 シリカ粉体
(1)シリカ粉体100質量部を、低誘電マレイミド樹脂であるSLK-3000(信越化学工業社製)100質量部と硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)2.0質量部を含むアニソール溶剤100質量部に混合、分散、溶解してワニスを作製した。このとき、シリカ粉体は樹脂に対して体積%で33.3%である。同様にして、シリカ粉体を上記樹脂100質量部に対して体積%で0%、11.1%、66.7%となるように配合してワニスを作製した。
作製したワニスをバーコーターで厚さ200μmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0102】
(2)調製した各未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。樹脂硬化シートを50mm×50mmの大きさに切り、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー株式会社製)を用いて10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0103】
(3)横軸にシリカ粉体の体積%を、縦軸に測定した誘電正接を取ることで得られるプロットからシリカ粉体の体積%vs誘電正接の直線を作成した。この直線を外挿し、シリカ粉体100%の誘電正接をシリカ粉体の誘電正接の値とした。
【0104】
なお、シリカ粉体を直接測定できるとする測定器もあるが、測定ポットの中にシリカ粉体を充填して測定するため、混入した空気の除去が困難である。特に比表面積の大きいシリカ粉体は混入空気の影響が大きいため、なおさら困難である。そこで混入した空気の影響を排除し、実際の使用態様に近い状態での値を得るために本発明では、上述した測定方法によりシリカ粉体の誘電正接を求めた。
【0105】
3.誘電率の測定
ガラスクロス、有機樹脂、樹脂基板については、特に明示した場合を除いて、ネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、試料の周波数10GHzにおける誘電率を測定した。
シリカ粉体については、上記誘電正接と併せて測定した。
【0106】
4.平均粒径の測定
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定し、粒度分布における質量平均値D50を平均粒径とした。
【0107】
<低誘電石英ガラスクロスの製造>
(調製例1:石英ガラスクロス(SG1)の製造例)
石英ガラス糸を高温で延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径7.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.2回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が60本/25mm、よこ糸密度が58本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.086mm、クロス重量が85.5g/mであった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。なお、調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロスをSG1とした。SG1の周波数が10GHzでの誘電率が3.6、誘電正接は0.0011で引張強さは80N/25mmあった。
【0108】
(調製例2(SG2)の製造例)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロスを700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
次いで、上記石英ガラスクロスを、40℃に加熱したpH13のアルカリ電解水に入れ48時間浸漬しエッチング処理を行った。エッチング後、イオン交換水で洗浄し、乾燥することで低誘電、高強度の石英ガラスクロス(SG2)を作製した。石英ガラスクロスSG2の誘電率が3.3,誘電正接は0.0002で、引張強さは105N/25mmであった。
【0109】
(調製例1~2製造の石英ガラスクロス含有金属不純物及びシランカップリング剤処理)
石英ガラスクロス中のアルカリ金属はSG1、SG2ともに0.5ppm、P(リン)は0.1ppm、UおよびThの含有量はそれぞれ0.1ppbであった。各元素の含有量は原子吸光法により測定した(質量換算)。
SG1、SG2の石英ガラスクロスを0.5質量%のシランカップリング剤KBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃、20分間加熱乾燥させて表面処理を行った。
調製した石英ガラスクロスの特性を表1に示す。
【0110】
(調製例3~6:石英ガラスクロス(SG3~SG6)の製造例)
調製例2のSG2の電気炉での加熱温度と加熱時間を変更した以外、加熱処理/エッチング処理/CF(カーボンファンクショナル)シラン処理を同様にして調製した石英ガラスクロスの特性を表1に示す
【0111】
【表1】
*1:500℃以上加熱:加熱処理;○、 未処理;×
*2:アルカリ電解水:エッチング処理;○、 未処理;×
*3:KBM-903:処理あり;○
【0112】
<低誘電シリカ粉体の製造>
(調製例7)
平均粒径1.5μm、誘電正接0.0011(10GHz)のシリカ(アドマテックス社製 SO-E5)を5Kgアルミナ容器に入れ、マッフル炉(アズワン社製)において空気中で900℃、12時間加熱後、室温まで6時間かけて冷却しシリカを得た。加熱処理後のシリカをpH13のアルカリ電解水20リットルの入ったプラスチック容器に入れて60℃に加熱しながら2時間攪拌することでシリカ粉体表面の歪層を除去した。その後、遠心分離装置でシリカを分離した後、メタノールで洗浄して乾燥した。乾燥したシリカをボールミルで解砕したシリカの誘電率は3.3、誘電正接は0.0002(10GHz)であった。ここで得られた低誘電シリカ粉体(SP1)をシランカップリング剤、KBM-503(信越化学工業(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行ない、樹脂基板の製造に使用した。
【0113】
【表2】
*1:500℃以上加熱:加熱処理;○、 未処理;×
*2:アルカリ電解水:エッチング処理;○、 未処理;×
*3:KBM-503:処理あり;○
【0114】
[実施例1]フッ素樹脂プリプレグと積層基板
誘電正接が10GHzで0.0002のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子が60質量%、非イオン界面活性剤が6質量%、水が34質量%からなるポリテトラフルオロエチレン微粒子水系分散液(PTFE水系分散液)を、調製例2で示した石英ガラスクロス(SG2)に付着量が46質量%になるように調整し含浸して塗布した後、100℃の乾燥炉で10分乾燥させ水分を飛ばした。次いで、作製したプリプレグを真空減圧プレス機で380℃、1.5MPaで5分間成形した。更に380℃の乾燥機で5分間放置してフッ素樹脂基板を作製した。
フッ素樹脂基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、作製したフッ素樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接と誘電率を測定した。
フッ素樹脂基板は成型不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0002、誘電率は3.3と優れた誘電特性を有するものであった。表3に結果を示す。
【0115】
[比較例1]
実施例1と同様にして、調製例1の石英ガラスクロス(SG1)に上記PTFE水系分散液を付着量が46質量%になるように調整し含浸して塗布した後、実施例1と同様に乾燥、加圧・加温して成形し、更に加熱してフッ素樹脂基板を作製した。
フッ素樹脂基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、作製したフッ素樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接と誘電率を測定した。表3に結果を示す。
フッ素樹脂基板は成型不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0007、誘電率は3.5とバルクの値としては低誘電となっているが、ミクロに見るとポリテトラフルオロエチレンと石英ガラスクロスの部分では誘電正接として乖離しており、ミリ波以上の高周波を用いた通信ではフッ素樹脂主体の個所とガラスクロス主体の個所で誘電正接に違いがあることから後述するようにスキュー値のバラツキが大きく問題となる。
【0116】
【表3】
*1 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
*2 基板の均一性 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
【0117】
[実施例2~3]フッ素樹脂プリプレグとフッ素樹脂基板
実施例1と同様にして、10GHzの誘電率が2.1、誘電正接が0.0002のPTFE水系分散液を、調製例2で示した石英ガラスクロス(SG2)に付着量が50~54質量%になるように調整し含浸して塗布した後、実施例1と同様に乾燥、加圧・加温して成形し、更に加熱してフッ素樹脂基板を作製した。
フッ素樹脂基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、作製したフッ素樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接と誘電率を測定した。表4に結果を示す。
【0118】
[比較例2~3]フッ素樹脂プリプレグとフッ素樹脂基板
実施例2と同様にして、10GHzの誘電率が2.1、誘電正接が0.0002のPTFE水系分散液を、調製例1で示した石英ガラスクロス(SG1)に付着量が50~54質量%になるように調整し含浸して塗布した後、実施例2と同様に乾燥、加圧・加温して成形し、更に加熱してフッ素樹脂基板を作製した。
フッ素樹脂基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、作製したフッ素樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接と誘電率を測定した。表4に結果を示す。
【0119】
【表4】
*1 基板に占める樹脂の充填量
【0120】
石英ガラスクロスの誘電正接と低誘電樹脂(PTFE)の誘電正接の差が少ない(実施例1~3)系では、基板中の石英ガラスクロスと樹脂との割合が異なっても誘電正接は同等となり、バラツキのない誘電特性を示す。即ち、各種部材量が異なっても基板内での誘電正接が一致していることが証明された。
一方、各種部材間の誘電正接の差が大きい(比較例1~3)系では、石英ガラスクロスと樹脂の割合によって誘電正接にバラツキがでる。即ち、ミクロでは、不均一な基板となる。このような隣接する部材で誘電特性がばらついている基板では、後述するように配線角度が変わると差動配線間で伝播遅延時間差(スキュー)が生じてしまうため、スキュー値にばらつきが大きくなり問題がある。
【0121】
[実施例4]フッ素樹脂プリプレグとフッ素樹脂基板
10GHzの誘電率2.1、誘電正接が0.0008の厚さ50μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)フィルム(TFE/PPVE=98.5/1.5(モル%)、MFR(メルトフローレート):14.8g/10分、融点:305℃)を2枚、調製例3で示した石英ガラスクロス(SG3)を1枚用意し、それぞれPFAフィルム/石英ガラスクロス/PFAフィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃で30分間熱プレスすることにより、フッ素樹脂基板を作製した。
フッ素樹脂基板は成型不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0008、誘電率は3.4と優れた特性を有するものであった。表5に結果を示す。
【0122】
[実施例5~7、比較例4、5]
実施例1の石英ガラスクロス(SG2)の代わりに、表1の調製例3~6の石英ガラスクロス(SG3~6)に変更し、フッ素樹脂としてPTFE水系分散液を使用して、実施例1と同様にしてフッ素樹脂基板を作製した(実施例5~7、比較例4)。また、実施例4の石英ガラスクロス(SG3)の代わりに、調製例2の石英ガラスクロス(SG2)に変更し、実施例4と同様にしてフッ素樹脂基板を作製した(比較例5)。その結果を実施例1、比較例1と併せて表5に示す。
【0123】
【表5】
*1 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
*2 基板の均一性 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
【0124】
比較例1、比較例4、比較例5に示すように、これらの基板の誘電正接は実施例4より低く優れるが、各部材間の誘電正接に差があるため、基板内の誘電正接にバラツキがある。このため、この場合もスキュー値のバラツキが大きく問題となり、基板としてバルクでの誘電正接が低くても信頼性に欠ける。
【0125】
[実施例8、比較例6、7]ビスマレイミド樹脂であるSLKシリーズを使用したプリプレグと基板
(A)環状イミド化合物
(A-1):下記式(2)で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物(SLK-3000、信越化学工業(株)製)
【化2】
n≒3(平均値)
【0126】
(A-2):下記式(3)で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物(SLK-2500、信越化学工業(株)製)
【化3】
n≒3、m≒3
(ともに平均値)
【0127】
<スラリーの調製>
(調製例8)
SLK-3000を100質量部、調製例7で示した低誘電シリカ粉体SP1を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが均一に分散した環状イミドスラリー組成物を調製した。
【0128】
(調製例9)
SLK-3000を100質量部、シリカ粉体として、アドマテックス社製 SO-E5を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが一律に分散した環状イミドスラリー組成物を調製した。
【0129】
(調製例10)
SLK-2500を100質量部、調製例7で示した低誘電シリカ粉体SP1を100質量部、ジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油製)を2質量部加え、溶剤としてアニソールに入れ、攪拌機で予備混合して60%のスラリー溶液を作製し、フィラーが一律に分散した環状イミドスラリー組成物を調製した。
【0130】
<プリプレグと樹脂基板の作製>
上記組成物それぞれを表6に示すように石英ガラスクロスSG1又はSG2に含浸させた後、120℃5分間乾燥させることでプリプレグを作製した。その際、付着量は46%になるように調整した。その後、作製したプリプレグを3枚積層して真空減圧プレス機を用い150℃で1時間、さらに180℃で2時間のステップキュアを行うことで硬化させ、樹脂基板を作製した。その後、ネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、上記硬化した樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電率と誘電正接を測定した。表6にその結果を示す。
【0131】
【表6】
*1 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
*2 基板の均一性 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
【0132】
実施例8は、比較例6と同じマレイミド樹脂を用いているが、配合したシリカ粉体の誘電正接の値が大きいため、比較例よりも誘電正接が高い基板となっている。しかし、各部材(石英ガラスクロス、樹脂、シリカ粉体)間の誘電正接の差は小さいため、基板内の誘電正接にバラツキがなく、基板として信頼性が高いものとなっている。
一方、比較例6,7は、マレイミド樹脂で誘電正接が低い基板ではあるが、基板内の誘電正接にバラツキがあり、基板としてバルクでの誘電正接が低くても信頼性に欠ける。
【0133】
[実施例9]シリカ含有フッ素樹脂基板
実施例1のPTFE水系分散液100質量部に、調製例7で作製した低誘電シリカ粉体(SP1)を40質量部添加混合してシリカ含有PTFE分散液を調製した。この分散液を調製例2で示した石英ガラスクロス(SG2)に付着量が46質量%になるように調整し含浸して塗布した後、100℃の乾燥炉で10分乾燥させ水分を飛ばした。次いで、作製したプリプレグを真空減圧プレス機で380℃、1.5MPaで5分間成形した。更に380℃の乾燥機で5分間放置してフッ素樹脂基板を作製した。
シリカ粉体含有フッ素樹脂基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、作製したフッ素樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接と誘電率を測定した。表7に結果を示す。
フッ素樹脂基板は成型不良もなく、熱膨張率が小さく強度が強いフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0002、誘電率は3.4と優れた誘電特性を有し、基板内で誘電正接のバラツキのない基板であった。
【0134】
[比較例8]低誘電ガラスクロスによるシリカ含有フッ素樹脂基板
実施例1のPTFE水系分散液100質量部に、調製例7で作製した低誘電シリカ粉体(SP1)を40質量部添加混合してシリカ含有PTFE分散液を調整した。この分散液を10GHzで誘電率が4.4、誘電正接が0.0020の低誘電LEガラスクロス(LEG)に付着量が46質量%になるように調整し含浸して塗布した後、100℃の乾燥炉で10分乾燥させ水分を飛ばした。次いで、作製したプリプレグを真空減圧プレス機で380℃、1.5MPaで5分間成形した。更に380℃の乾燥機で5分間放置してフッ素樹脂基板を作製した。
シリカ粉体含有フッ素樹脂基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製 E5063A)とSPDR共振器を接続し、作製したフッ素樹脂基板の周波数10GHzにおける誘電正接と誘電率を測定した。表7に結果を示す。
フッ素樹脂基板は成型不良もなく、熱膨張率が小さく強度が強いフッ素樹脂基板が得られた。10GHzでの誘電正接は0.0012、誘電率は3.9と伝送損失の大きい誘電特性を有し、基板内で誘電正接のバラツキが大きく、信頼性に欠ける基板であった。
【0135】
【表7】
*1 低誘電LEガラスクロス
*2 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
*3 基板の均一性 誘電正接差が-20%~+50%の範囲内 ○、
-20%~+50%の範囲外 ×
【0136】
[実施例10~12、比較例9]スキューによる伝送特性評価
実施例1、実施例4、実施例8と比較例1のプリプレグを用いて下記のような評価基板を作製し、差動配線の角度とスキューの関係を調べた。その結果を表8に示す。
【0137】
基板仕様と評価パラメータ
1)使用プリプレグ;A(実施例1)、B(実施例4)、C(実施例8)、D(比較例1)
2)配線仕様 ;差動100Ω (L/S=0.12mm/0.25mm)
3)配線長 ;200mm
4)配線角度 ;0度、10度
【0138】
【表8】
【0139】
表8に示すように、実施例1、実施例4及び実施例8の各プリプレグからなる誘電率、誘電正接差の少ない本発明基板(実施例10~12)は、配線角度によるスキュー値に対する影響はほとんどなく配線基板の製造を容易に行うことができる。比較例1のプリプレグから作製した基板(比較例9)はスキュー値にばらつきが大きく、基板製造において材料、設計、製造の総合的な対応が必要である。
【0140】
以上のように、本発明のミリ波用高速通信低誘電基板を用いることでミリ波などを用いる高速通信において、伝送損失やスキューの非常に少ない理想的な基板を作製することができる。
【0141】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。