(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル、成形品、及び液晶ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/87 20060101AFI20240905BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20240905BHJP
C08G 63/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08G63/87
C08G63/60
C08G63/00
(21)【出願番号】P 2021542992
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032307
(87)【国際公開番号】W WO2021039885
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019157024
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】大友 新治
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009161(WO,A1)
【文献】特開2005-089558(JP,A)
【文献】特開2013-028700(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142692(WO,A1)
【文献】特開昭63-105027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸と、下記式(II)で表される芳香族ジオールとを、(N)成分:窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物の存在下に、炭素数9以下の脂肪酸無水物でアシル化して、アシル化物を得る工程(i)、及び、
前記アシル化物と、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸とをエステル交換して、液晶ポリエステルを得る工程(ii)
を有する液晶ポリエステルの製造方法であって、
前記工程(i)は、前記(N)成分の使用量を、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸と前記芳香族ジオールとの総質量に対し、350質量ppm超1500質量ppm以下として、前記アシル化を行う操作を含む、液晶ポリエステルの製造方法。
HO-Ar
1
-COOH ・・・(I)
HO-Ar
2
-OH ・・・(II)
HOOC-Ar
3
-COOH・・・(III)
[式中、Ar
1
及びAr
3
は、それぞれ独立に、置換されていてもよいアリーレン基を表す。Ar
2
は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。]
【化1】
[式中、R
1
及びR
2
は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2
-、-CO-、-C
6
H
10
-又はアルキレン基を表す。]
【請求項2】
前記(N)成分は、下記一般式(N-1)で表されるイミダゾール化合物である、請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【化2】
[式中、Rn
1
~Rn
4
は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、炭素数2~5のシアノアルキル基、炭素数2~5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はホルミル基を表す。]
【請求項3】
前記工程(i)において、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)の使用量が、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)、芳香族ジオール(II)、芳香族ジカルボン酸(III)の合計量に対して、30~80モル%である、請求項1又は2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記工程(i)において、芳香族ジオール(II)の使用量が、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)、芳香族ジオール(II)、芳香族ジカルボン酸(III)の合計量に対して、10~35モル%である、請求項1又は2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記工程(ii)において、芳香族ジカルボン酸(III)の使用量が、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)、芳香族ジオール(II)、芳香族ジカルボン酸(III)の合計量に対して、10~35モル%である、請求項1又は2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル、成形品、及び液晶ポリエステルの製造方法に関する。
本願は、2019年8月29日に日本に出願された、特願2019-157024号に基づき優先権主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
芳香族環骨格からなる液晶ポリエステルは、耐熱性及び引張り強度に優れた材料として、近年、電気、電子分野で用いられている。液晶ポリエステルは、例えば、パラヒドロキシ安息香酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/または4、4’―ヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオールのフェノール性水酸基に、無水酢酸を加えてフェノール性水酸基をアシル化して得られたアシル化物と、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とをエステル交換する方法などにより製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のイミダゾール化合物の存在下にエステル交換する液晶ポリエステルの製造方法が開示されている。該製造方法により得られる液晶ポリエステルは、耐熱性及び機械強度に優れており、品質のバラツキも少ないので、電気・電子部品の材料として好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の製造方法により得られる液晶ポリエステルは、溶融滞留時に増粘してしまう等、滞留安定性が十分でなく、射出成形を行う際に成形不良が発生してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、滞留安定性に優れた液晶ポリエステルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]窒素の含有量が15~100質量ppmである、液晶ポリエステル。
[2]窒素の含有量が15~50質量ppmである、[1]に記載の液晶ポリエステル。
[3]流動開始温度が200℃以上である、[1]又は[2]に記載の液晶ポリエステル。
[4][1]~[3]のいずれか一項に記載の液晶ポリエステルを含む、成形品。
[5]下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸と、下記式(II)で表される芳香族ジオールとを、(N)成分:窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物の存在下に、炭素数9以下の脂肪酸無水物でアシル化して、アシル化物を得る工程(i)、及び、前記アシル化物と、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸とをエステル交換して、液晶ポリエステルを得る工程(ii)を有する液晶ポリエステルの製造方法であって、前記工程(i)は、前記(N)成分の使用量を、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸と前記芳香族ジオールとの総質量に対し、350質量ppm超1500質量ppm以下として、前記アシル化を行う操作を含む、液晶ポリエステルの製造方法。
HO-Ar1-COOH ・・・(I)
HO-Ar2-OH ・・・(II)
HOOC-Ar3-COOH・・・(III)
[式中、Ar1及びAr3は、それぞれ独立に、置換されていてもよいアリーレン基を表す。Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。]
【0008】
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、滞留安定性に優れた液晶ポリエステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(液晶ポリエステル)
本実施形態の液晶ポリエステルは、窒素の含有量が15~100質量ppmのものである。
上記窒素の含有量は、液晶ポリエステルについて、JIS-2609:原油及び石油製品―窒素分試験方法、化学発光法に準拠して、微量全窒素分析装置(三菱化学アナリテック社製、TN-2100H)を用いてアルゴンガスの流通下、液晶ポリエステルを熱分解した後に酸素ガスにより燃焼酸化して生成する一酸化窒素を、脱水分条件下でオゾンガスと酸化反応させて検出される波長590~2500nmにおける発光強度を測定し、その発光強度の面積値から窒素の含有量を求めることができる。
【0011】
本実施形態の液晶ポリエステルにおける窒素の含有量は、15~50質量ppmが好ましく、15~40質量ppmがより好ましく、15~35質量ppmがさらに好ましく、15~30質量ppmが特に好ましい。
本実施形態の液晶ポリエステルにおける窒素の含有量が上記好ましい下限値以上であれば、より滞留安定性に優れる。
本実施形態の液晶ポリエステルにおける窒素の含有量が上記好ましい上限値以下であれば、所望の溶融粘度の液晶ポリエステルを製造しやすい。
【0012】
窒素の含有量が上記範囲内である液晶ポリエステルを製造する方法としては、例えば、液晶ポリエステルを製造する際に、窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物を触媒として用いる方法が挙げられる。これにより、液晶ポリエステルの一部が該窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物と結合して、液晶ポリエステルにおける窒素の含有量が上記範囲内となるように製造することができる。
【0013】
本実施形態の液晶ポリエステルの流動開始温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは270℃以上400℃以下、さらに好ましくは280℃以上380℃以下、特に好ましくは300℃以上350℃以下である。
液晶ポリエステルの流動開始温度が前記の範囲にあると、耐熱性や強度・剛性が良好であり、成形時に熱劣化しにくく、また、溶融時の粘度が高くなりにくいために流動性が低下しにくくなる傾向がある。
【0014】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0015】
本実施形態の液晶ポリエステルの350℃で30秒間滞留させた後の溶融粘度は、例えば、好ましくは350Pa・s以上500Pa・s以下であり、より好ましくは400Pa・s以上500Pa・s以下であり、さらに好ましくは440Pa・s以上500Pa・s以下である。
【0016】
本実施形態の液晶ポリエステルの350℃で10分間滞留させた後の溶融粘度は、例えば、好ましくは350Pa・s以上600Pa・s以下であり、より好ましくは400Pa・s以上550Pa・s以下であり、さらに好ましくは440Pa・s以上520Pa・s以下である。
なお、溶融粘度は、液晶ポリエステルの錠剤状の成形品について、レオメーターを用いて測定することができる。
【0017】
本実施形態の液晶ポリエステルとしては、下記式(1)で表される構成単位(以下、構成単位(1)ともいう)、下記式(2)で表される構成単位(以下、構成単位(2)ともいう)、および下記式(3)で表される構成単位(以下、構成単位(3)ともいう)を含む液晶ポリエステルであって、該液晶ポリエステルの主鎖末端に、窒素原子を含む化合物が結合しているものが挙げられる。
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-O-Ar2-O-
(3)-CO-Ar3-CO-
[式(1)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
式(2)中、Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。Ar2に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
式(3)中、Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。Ar3に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。]
【0018】
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【0019】
<構成単位(1)>
構成単位(1)は、上記式(1)で表される構成単位である。
上記式(1)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
【0020】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0021】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能な炭素数1~10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0022】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能な炭素数6~20のアリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基等の単環式芳香族基;1-ナフチル基、2-ナフチル基等の縮環式芳香族基が挙げられる。
【0023】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その置換数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0024】
構成単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位である。
構成単位(1)としては、Ar1が1,4-フェニレン基であるもの(4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位)、及びAr1が2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位)が好ましい。
【0025】
<構成単位(2)>
構成単位(2)は、上記式(2)で表される構成単位である。
上記式(2)中、Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は上記式(4)で表される基を表す。Ar2に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
Ar2で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、アルキル基及びアリール基は、Ar1表される上記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基と同じものである。
【0026】
Ar2で表される前記基中の1個以上の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その置換数は、Ar2で表される前記基毎に、互いに独立に、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。なお、Ar2は、置換されていないことがさらに好ましい。
【0027】
構成単位(2)は、所定の芳香族ジオールに由来する構成単位である。
構成単位(2)としては、Ar2が1,4-フェニレン基であるもの(ヒドロキノンに由来する構成単位)、Ar2が1,3-フェニレン基であるもの(1,3-ベンゼンジオールに由来する構成単位)、Ar2が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ジヒドロキシナフタレンに由来する構成単位に由来する構成単位)、Ar2が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位)、又はAr2がジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルに由来する構成単位)が好ましく、Ar2が1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、2,6-ナフチレン基又は4,4’-ビフェニリレン基であるものがより好ましい。
【0028】
<構成単位(3)>
構成単位(3)は、上記式(3)で表される構成単位である。
上記式(3)中、Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は上記式(4)で表される基を表す。Ar3に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。 Ar3で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、アルキル基及びアリール基は、Ar1表される上記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基と同じものである。
【0029】
Ar3で表される前記基中の1個以上の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その置換数は、Ar3で表される前記基毎に、互いに独立に、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。なお、Ar3は、置換されていないことがさらに好ましい。
【0030】
前記炭素数1~10のアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基及び2-エチルヘキシリデン基等が挙げられ、その炭素数は1~10であることが好ましい。
【0031】
構成単位(3)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位である。
構成単位(3)としては、Ar3が1,4-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する構成単位)、Ar3が1,3-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構成単位)、Ar3が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位)、Ar3が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジカルボキシビフェニルに由来する構成単位)、又はAr3がジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルに由来する構成単位)が好ましく、Ar3が1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、2,6-ナフチレン基又は4,4’-ビフェニリレン基であるものがより好ましい。
【0032】
本実施形態における液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(1)で表される構成単位の含有量が30~80モル%であることが好ましく、50~70モル%であることがより好ましく、55~65モル%であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態における液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(2)で表される構成単位の含有量が10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~27.5モル%であることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態における液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(3)で表される構成単位の含有量が10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~27.5モル%であることがさらに好ましい。
【0035】
本実施形態における液晶ポリエステルの主鎖末端に結合している窒素原子を含む化合物としては、後述する(N)成分:窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の液晶ポリエステルとして、より具体的には、下記の製造方法により得られるものが挙げられる。
【0037】
本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法としては、下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸と、下記式(II)で表される芳香族ジオールとを、(N)成分:窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物の存在下に、炭素数9以下の脂肪酸無水物でアシル化して、アシル化物を得る工程(i)、及び、前記アシル化物と、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸とをエステル交換して、液晶ポリエステルを得る工程(ii)を有する液晶ポリエステルの製造方法であって、前記工程(i)は、前記(N)成分の使用量を、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸と前記芳香族ジオールとの総質量に対し、350質量ppm超1500質量ppm以下として、前記アシル化を行う操作を含む、液晶ポリエステルの製造方法が挙げられる。
HO-Ar1-COOH ・・・(I)
HO-Ar2-OH ・・・(II)
HOOC-Ar3-COOH・・・(III)
[式中、Ar1及びAr3は、それぞれ独立に、置換されていてもよいアリーレン基を表す。Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。]
【0038】
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【0039】
[工程(i)]
工程(i)では、下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸(以下、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)ともいう)と、下記式(II)で表される芳香族ジオール(以下、芳香族ジオール(II)ともいう)とを、(N)成分:窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物の存在下に、炭素数9以下の脂肪酸無水物でアシル化して、アシル化物を得る。これにより、エステル交換反応の反応性が高いアシル基が結合したアシル化物を得ることができる。また、得られるアシル化物に、(N)成分由来の窒素を含ませることができる。
HO-Ar1-COOH ・・・(I)
HO-Ar2-OH ・・・(II)
[式中、Ar1は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。]
【0040】
【化4】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【0041】
・上記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸
上記式(I)中、Ar1は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。
該アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
アリーレン基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基等で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0042】
本実施形態における芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)として、具体的には、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2―ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、2―ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、1―ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、2,6-ジクロロ-パラヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-パラヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-パラヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸等が挙げられる。
上記の中でも、入手容易であるということから、パラヒドロキシ安息香酸、2―ヒドロキシ-6-ナフトエ酸が好ましく、パラヒドロキシ安息香酸がより好ましい。
【0043】
本実施形態における芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)は、上記の化合物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
・上記式(II)で表される芳香族ジオール
上記式(II)中、Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は上記式(IV)で表される2価の連結基を表す。
アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
アリーレン基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアシルオキシ基、フェニル基、ニトロ基等で置換されていてもよい。
ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基としては、上記式(I)中のAr1で説明した内容と同じものが挙げられる。
炭素数1~6のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピルオキシ基等が挙げられる。
【0045】
上記式(IV)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基としては、上記式(I)中のAr1で説明した内容と同じものが挙げられる。
炭素数1~6のアシルオキシ基としては、上記式(II)中のAr2で説明した内容と同じものが挙げられる。
【0046】
上記式(IV)中、Xは、-O-、-S-、-SO2-、-CO-、-C6H10-又はアルキレン基を表す。該アルキレン基としては、分岐鎖状又は直鎖状のアルキレン基が挙げられる。直鎖状のアルキレン基としては、メチレン基[-CH2-]、エチレン基[-(CH2)2-]、トリメチレン基[-(CH2)3-]、テトラメチレン基[-(CH2)4-]、ペンタメチレン基[-(CH2)5-]等が挙げられる。分岐鎖状のアルキレン基としては、-CH(CH3)-、-CH(CH2CH3)-、-C(CH3)2-等のアルキルメチレン基;-CH(CH3)CH2-、-C(CH2CH3)2-CH2-等のアルキルエチレン基;-CH(CH3)CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-等のアルキルトリメチレン基;-CH(CH3)CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2CH2-等のアルキルテトラメチレン基などのアルキルアルキレン基等が挙げられる。
【0047】
上記式(II)中、Ar2としては、例えば、下記の基が挙げられる
【0048】
【0049】
本実施形態における芳香族ジオール(II)として、具体的には、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、2,3,5-トリメチルヒドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-4,4’-ビフェノール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2―ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2―ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2―ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、2,2―ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2―ビス(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)プロパン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)ケトン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)ケトン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどが挙げられる。
上記の中でも、入手容易であるということから、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,2―ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルホンが好ましく、4,4’-ジヒドロキシビフェニルがより好ましい。
【0050】
本実施形態における芳香族ジオール(II)は、上記の化合物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
・(N)成分:窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物
窒素原子を含む複素環状有機塩基化合物とは、その化学構造中に塩基として作用し得る窒素原子を含む複素環状有機化合物である。
該複素環状有機塩基化合物は、環構造中に窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子等)を含んでいてもよい。
【0052】
(N)成分は単環式であっても、多環式であってもよい。
単環式の(N)成分としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、ピリミジン、トリアジン、テトラジン、ピロリジン、ピペリジン等が挙げられる。
多環式の(N)成分としては、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、キナゾリン、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。
【0053】
また上記単環式及び多環式の(N)成分は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、炭素数2~5のシアノアルキル基、炭素数2~5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基、ホルミル基等が挙げられる。
【0054】
炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
炭素数2~5のシアノアルキル基としては、シアノメチル基、シアノエチル基、シアノプロピル基等が挙げられる。
炭素数2~5のシアノアルコキシ基としては、例えば、シアノメトキシ基、シアノエトキシ基、シアノブトキシ基等が挙げられる。
【0055】
炭素数1~4のアミノアルキル基としては、例えば、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基等が挙げられる。
炭素数1~4のアミノアルコキシ基としては、例えば、アミノメトキシ基、アミノエトキシ基、アミノブトキシ基等が挙げられる。
【0056】
本実施形態における(N)成分は、上記の中でも、下記一般式(N-1)で表されるイミダゾール化合物が好ましい。
【0057】
【化6】
[式中、Rn
1~Rn
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、炭素数2~5のシアノアルキル基、炭素数2~5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はホルミル基を表す。]
【0058】
式(N-1)中のRn1~Rn4は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、炭素数2~5のシアノアルキル基、炭素数2~5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はホルミル基を表す。
具体的には、(N)成分が有してもよい置換基として挙げた基と同様の基が挙げられる。
【0059】
上記一般式(N-1)で表されるイミダゾ-ル化合物として、具体的には、イミダゾ-ル、1-メチルイミダゾ-ル、2-メチルイミダゾ-ル、4-メチルイミダゾ-ル、1-エチルイミダゾ-ル、2-エチルイミダゾ-ル、4-エチルイミダゾ-ル、1,2-ジメチルイミダゾ-ル、1,4-ジメチルイミダゾ-ル、2,4-ジメチルイミダゾ-ル、1-メチル-2-エチルイミダゾ-ル、1-メチル-4エチルイミダゾ-ル、1-エチル-2-メチルイミダゾ-ル、1-エチル-2-エチルイミダゾ-ル、1-エチル-2-フェニルイミダゾ-ル、2-エチル-4-メチルイミダゾ-ル、2-フェニルイミダゾ-ル、1-ベンジル-2-メチルイミダゾ-ル、2-フェニル-4-メチルイミダゾ-ル、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾ-ル、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾ-ル、4-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾ-ル、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾ-ル、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾ-ル、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾ-ル、1-アミノエチル-2-エチルイミダゾ-ル、4-ホルミルイミダゾ-ル、2-メチル-4-ホルミルイミダゾ-ル、4-メチル-5-ホルミルイミダゾ-ル、2-エチル-4-メチル-5-ホルミルイミダゾ-ル、2-フェニル-4-メチル-4-ホルミルイミダゾ-ル等が挙げられる。その中でも入手の容易性、取り扱い性の観点から、1-メチルイミダゾ-ル、2-メチルイミダゾ-ルが好ましい。
【0060】
・炭素数9以下の脂肪酸無水物
本実施形態における炭素数9以下の脂肪酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸(無水酪酸)、無水2-メチルプロピオン酸(無水イソ酪酸)、無水ペンタン酸(無水吉草酸)、無水2,2-ジメチルプロピオン酸(無水ピバル酸)、無水2-エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水ペンタン-1,5-ジカルボン酸(無水グルタル酸)、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β-ブロモプロピオン酸等が挙げられる。
【0061】
本実施形態における工程(i)において、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)の使用量は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)、芳香族ジオール(II)、芳香族ジカルボン酸(III)の合計量に対して、30~80モル%であることが好ましく、40~70モル%であることがより好ましく、50~65モル%であることがさらに好ましい。
【0062】
本実施形態における工程(i)において、芳香族ジオール(II)の使用量は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)、芳香族ジオール(II)、芳香族ジカルボン酸(III)の合計量に対して、10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~25モル%であることがさらに好ましい。
【0063】
本実施形態における工程(i)において、炭素数9以下の脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基に対して1.01~1.15倍当量であることが好ましく、1.05~1.12倍当量であることがより好ましい。
脂肪酸無水物の使用量が、上記好ましい下限値以上であれば、アシル化時の平衡が脂肪酸無水物側に移動してポリエステルへの重合の進行がより早くなる。
また、脂肪酸無水物の使用量が、上記好ましい上限値以下であれば、得られる液晶ポリエステルの着色等の劣化をより抑制することができる。
【0064】
本実施形態における工程(i)において、(N)成分の使用量を、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)と、芳香族ジオール(II)との総質量に対し、350質量ppm超1500質量ppm以下として、上記アシル化を行うことが好ましく、400~1400質量ppmとして、上記アシル化を行うことがより好ましく、500~1300質量ppmとして、上記アシル化を行うことがさらに好ましく、600~1300質量ppmとして、上記アシル化を行うことが特に好ましい。
(N)成分の使用量が上記好ましい下限値以上であれば、アシル化反応が十分に進行し、かつ、得られる液晶ポリエステルの窒素の含有量が15質量ppm以上となりやすい。
(N)成分の使用量が上記好ましい上限値以下であれば、反応の制御がより容易となる。
(N)成分は、工程(i)の少なくとも一期間に存在していればよい。
【0065】
(N)成分の添加方法は、特に限定されず、反応、物性に影響を与えない溶剤に混合してから添加してもよい。該溶剤としては、例えば、酢酸などが挙げられる。
【0066】
本実施形態における工程(i)は、120~150℃で10分から3時間行うことが好ましく、135~150℃で20分から1時間行うことがより好ましい。
【0067】
[工程(ii)]
工程(ii)では、上述した工程(i)で得られるアシル化物と、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸(以下、芳香族ジカルボン酸(III)ともいう)とをエステル交換して、液晶ポリエステルを得る。
HOOC-Ar3-COOH・・・(III)
[式中、Ar3は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。]
【0068】
上記式(III)中のAr3は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。
該アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
アリーレン基は、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基等で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0069】
本実施形態における芳香族ジカルボン酸(III)として、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸等が挙げられる。その中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0070】
本実施形態における芳香族ジカルボン酸(III)の使用量は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)、芳香族ジオール(II)、芳香族ジカルボン酸(III)の合計量に対して、10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~25モル%であることがさらに好ましい。
【0071】
本実施形態における工程(ii)は、120~150℃から300~350℃までを、0.1~10℃/分かけて昇温しながら反応させることが好ましく、130~135℃から280~330℃までを、0.3~5℃/分の割合で昇温しながら反応させることがより好ましい。
【0072】
アシル化された脂肪酸エステルと芳香族ジカルボン酸とをエステル交換反応させる際、平衡をずらすために、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させて系外へ留去することが好ましい。
【0073】
本実施形態における工程(ii)において、上述した(N)成分を用いてもよい。
工程(ii)において、(N)成分を用いる場合、(N)成分の使用量を、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)と、芳香族ジオール(II)の総質量に対し、0~2000質量ppm以下として、上記アシル化を行うことが好ましく、0~1000質量ppmとして、エステル交換を行うことがより好ましく、0~500質量ppmとして、エステル交換を行うことがさらに好ましい。
【0074】
(N)成分の使用量が上記好ましい下限値以上であれば、エステル交換反応がより進行しやすい。
(N)成分の使用量が上記好ましい上限値以下であれば、反応の制御がより容易となる。
【0075】
[その他の工程]
本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法は、上述した工程(ii)により得られる液晶ポリエステルの塊状物を粉砕して粉砕物(粉末)を得て、該粉砕物を固相重合させて粉末状の液晶ポリエステルを得る工程(iii)を有してもよい。
【0076】
上述した工程(ii)により得られる液晶ポリエステルの塊状物を粉砕する方法としては、ハンマーミル、ピンミル、ボールミルなどの衝撃圧縮型粉砕機;ロールクラッシャー、ディスククラッシャーなどの圧縮型粉砕機;リングローラーミルなどの摩擦粉砕型粉砕機;振動ミルなどの振動型粉砕機;ジェットミル、コロイドミルなどの粉砕機などを用いて行う方法が挙げられる。
【0077】
上記粉砕物を固相重合させる際の温度は、220~350℃が好ましく、250~320℃がより好ましい。
固相重合させる際の温度が上記の好ましい範囲内であれば、重合がより十分に進行する。
【0078】
本実施形態の液晶ポリエステルとして、具体的には、パラヒドロキシ安息香酸(芳香族ヒドロキシカルボン酸(I))と、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(芳香族ジオール(II))とを、1-メチルイミダゾ-ルの存在下に、無水酢酸でアシル化して、アシル化合物を得て、該アシル化合物と、テレフタル酸及びイソフタル酸(芳香族ジカルボン酸(III))とをエステル交換して、得られるものが挙げられる。すなわち、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位と、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位と、テレフタル酸及びイソフタル酸に由来する繰返し単位とを有し、かつ、1-メチルイミダゾ-ルに由来する窒素(窒素分)を含有する液晶ポリエステルが挙げられる。
【0079】
本実施形態の液晶ポリエステルにおいて、芳香族ヒドロキシカルボン酸(I)に由来する繰返し単位の割合は、本実施形態の液晶ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、30~80モル%であることが好ましく、40~70モル%であることがより好ましく、50~65モル%であることがさらに好ましい。
【0080】
本実施形態の液晶ポリエステルにおいて、芳香族ジオール(II)に由来する繰返し単位の割合は、本実施形態の液晶ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~25モル%であることがさらに好ましい。
【0081】
本実施形態の液晶ポリエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸(III)に由来する繰返し単位の割合は、本実施形態の液晶ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~25モル%であることがさらに好ましい。
【0082】
以上説明した本実施形態の液晶ポリエステルは、窒素の含有量が15~100質量ppmである。そのため、滞留安定性に優れる。この理由は定かではないが、上述した(N)成分のような窒素原子を有する化合物が、液晶ポリエステルの末端を封止することにより、滞留状態の液晶ポリエステルにおいて、該液晶ポリエステル同士が結合して増粘することを防止するためであると推測される。また、液晶ポリエステルの窒素の含有量が、上記範囲内であれば、窒素原子を有する化合物が重合反応を阻害することなく、所望の特性の液晶ポリエステルを得ることができる。
【0083】
本発明は以下の側面を有する。
【0084】
「1」窒素の含有量が15~100質量ppmであり、好ましくは15~50質量ppmであり、より好ましくは15~40質量ppmであり、さらに好ましくは15~35質量ppmであり、特に好ましくは15~30質量ppmであり、
350℃で30秒間滞留させた後の溶融粘度が、好ましくは350Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは400Pa・s以上500Pa・s以下、さらに好ましくは440Pa・s以上500Pa・s以下である、液晶ポリエステル。
【0085】
「2」流動開始温度が、好ましくは200℃以上、より好ましくは270℃以上400℃以下、さらに好ましくは280℃以上380℃以下、特に好ましくは300℃以上350℃以下である、「1」に記載の液晶ポリエステル。
【0086】
「3」下記式(1)で表される構成単位(以下、構成単位(1)ともいう)、下記式(2)で表される構成単位(以下、構成単位(2)ともいう)、および下記式(3)で表される構成単位(以下、構成単位(3)ともいう)を含み、主鎖末端に、窒素原子を含む化合物が結合している、「1」又は「2」に記載の液晶ポリエステル。
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-O-Ar2-O-
(3)-CO-Ar3-CO-
[式(1)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
式(2)中、Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。Ar2に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
式(3)中、Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。Ar3に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。]
【0087】
「4」「1」~「3」のいずれか1つに記載の液晶ポリエステルであって、熱プレスすることにより作製した、直径1cm、厚さ2.5mmの錠剤状の成形体を、350℃で溶融させ、30秒間滞留させた後の溶融粘度と、10分間滞留させた後の溶融粘度を、それぞれレオメーター(BOHLIN INSTRUMENTS社製、商品名:CVOレオメータ)を用いて、測定した際、粘度比(30秒間滞留させた後の溶融粘度/10分間滞留させた後の溶融粘度)が、好ましくは1.4未満、より好ましくは1.3以下、さらに好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.2未満となる特性を有する、液晶ポリエステル。
【0088】
(成形品)
本実施形態の成形品は、上述した液晶ポリエステルを形成材料とする。
上述した液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステル組成物により作製されているため、滞留安定性が高く、成形不良の発生が抑制されている。なお、該液晶ポリエステル組成物としては、上述した液晶ポリエステルと、タルクフィラー、酸化チタンフィラー、顔料、ガラス繊維等の無機フィラーとを含むものが好ましい。
【0089】
本実施形態の成形品の成形法としては、溶融成形法が好ましく、例えば、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形が挙げられる。その中でも、射出成形法が好ましい。
【0090】
成形品の製品・部品の例としては、光ピックアップボビン、トランスボビン等のボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品;RIMM、DDR、CPUソケット、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクター等のコネクター;ランプリフレクター、LEDリフレクター等のリフレクター;ランプホルダー、ヒーターホルダー等のホルダー;スピーカー振動板等の振動板;プリント配線板、プリント回路基板;コピー機用分離爪、プリンター用分離爪等の分離爪;カメラモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェア等の食器;車両部品;航空機部品;および半導体素子用封止部材、コイル用封止部材等の封止部材が挙げられる。
【0091】
また、これら以外の例としては、分離爪、ヒーターホルダー等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品、ケース等の機械部品;自動車用機構部品、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、排気ガス、冷却水、油温系各種センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ECUコネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材等の断熱もしくは防音用材料、梁もしくは柱等の支持材料、屋根材等の建築資材または土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材;海洋施設部材;洗浄用治具;光学機器部品;バルブ類;パイプ類;ノズル類;フィルター類;膜;医療用機器部品および医療用材料;センサー類部品;サニタリー備品;スポーツ用品;レジャー用品等が挙げられる。
【0092】
本実施形態の成形品は、滞留安定性が高い上述した液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステル組成物により作製されているため、成形不良の発生が抑制されている。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
<液晶ポリエステルの製造>
(実施例1)
工程(i):
撹拌装置、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた3Lの反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸 828.7g(6.0mol)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 372.4g(2.0mol)、テレフタル酸 249.2g(1.5mol)、イソフタル酸 83.1g(0.5mol)、無水酢酸 1123.0g(11mol)を仕込んだ。その後反応器内に、1-メチルイミダゾール 0.920g(p-ヒドロキシ安息香酸及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルの総質量に対して766ppm)を酢酸希釈した状態で添加した。その後、窒素ガス気流下で140℃まで昇温し、温度を保持して、60分間還流させた。
【0095】
工程(ii):
上記工程(i)の後、酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら4時間8分かけて300℃まで昇温して、300℃到達時点で溶融重合体Aを取り出した。
得られた溶融重合体A(樹脂)を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から240℃まで1時間かけて昇温し、240℃から285℃まで7時間30分かけて昇温し、285℃で5時間保持して、固相で重合反応を進めた。その結果、実施例1の液晶ポリエステルが得られた。
実施例1の液晶ポリエステルについて、偏光顕微鏡により液晶性を測定したところ、光学異方性を有する溶融相を形成する液晶ポリエステルであった。
【0096】
(実施例2)
酢酸希釈した1-メチルイミダゾールの添加量を、1.53g(p-ヒドロキシ安息香酸及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルの総質量に対して1274ppm)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様の方法で、実施例2の液晶ポリエステルを得た。
実施例2の液晶ポリエステルについて、偏光顕微鏡により液晶性を測定したところ、光学異方性を有する溶融相を形成する液晶ポリエステルであった。
【0097】
(実施例3)
酢酸希釈した1-メチルイミダゾールの添加量を、0.612g(p-ヒドロキシ安息香酸及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルの総質量に対して510ppm)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様の方法で、実施例3の液晶ポリエステルを得た。
実施例3の液晶ポリエステルについて、偏光顕微鏡により液晶性を測定したところ、光学異方性を有する溶融相を形成する液晶ポリエステルであった。
【0098】
(比較例1)
工程(a):
撹拌装置、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた3Lの反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸 828.7g(6.0mol)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 372.4g(2.0mol)、テレフタル酸 249.2g(1.5mol)、イソフタル酸83.1g(0.5mol)、無水酢酸 1123.0g(11mol)を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で140℃まで昇温し、温度を保持して、60分間還流させた。
【0099】
工程(b):
上記工程(a)の後、酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら4時間8分かけて300℃まで昇温し、300℃到達時点で溶融重合体Bを取り出した。
得られた溶融重合体B(樹脂)を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から240℃まで1時間かけて昇温し、240℃から281℃まで6時間50分かけて昇温し、281℃で5時間保持して、固相で重合反応を進めた。その結果、比較例1の液晶ポリエステルが得られた。
比較例1の液晶ポリエステルについて、偏光顕微鏡により液晶性を測定したところ、光学異方性を有する溶融相を形成する液晶ポリエステルであった。
【0100】
(比較例2)
酢酸希釈した1-メチルイミダゾールの添加量を、0.383g(p-ヒドロキシ安息香酸及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルの総質量に対して319ppm)に変更したこと以外は、上記実施例1における溶融重合体Aと同様の方法で、溶融重合体Cを得た。
得られた溶融重合体C(樹脂)を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から240℃まで1時間かけて昇温し、240℃から283℃まで7時間10分かけて昇温し、283℃で5時間保持して、固相で重合反応を進めた。その結果、比較例2の液晶ポリエステルが得られた。
比較例2の液晶ポリエステルについて、偏光顕微鏡により液晶性を測定したところ、光学異方性を有する溶融相を形成する液晶ポリエステルであった。
【0101】
(比較例3)
工程(c):
撹拌装置、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた3Lの反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸 828.7g(6.0mol)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル 372.4g(2.0mol)、テレフタル酸 249.2g(1.5mol)、イソフタル酸83.1g(0.5mol)、無水酢酸 1123.0g(11mol)を仕込んだ。その後反応器内に、1-メチルイミダゾールを0.153g(p-ヒドロキシ安息香酸及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルの総質量に対して127ppm)酢酸希釈した状態で添加した。その後、窒素ガス気流下で140℃まで昇温し、温度を保持して、60分間還流させた。
【0102】
工程(d):
上記工程(c)の後、1-メチルイミダゾールを0.765g(p-ヒドロキシ安息香酸及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルの総質量に対して637ppm)酢酸希釈した状態で添加した。酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら4時間8分かけて300℃まで昇温し、300℃到達時点で溶融重合体Dを取り出した。
得られた溶融重合体D(樹脂)を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から240℃まで1時間かけて昇温し、240℃から283℃まで7時間10分かけて昇温し、283℃で5時間保持して、固相で重合反応を進めた。その結果、比較例3の液晶ポリエステルが得られた。
比較例3の液晶ポリエステルについて、偏光顕微鏡により液晶性を測定したところ、光学異方性を有する溶融相を形成する液晶ポリエステルであった。
【0103】
上述した各例の液晶ポリエステルにおける、(N)成分の添加量を表1及び表2に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
[樹脂中の窒素の含有量の評価]
各例の液晶ポリエステルについて、JIS-2609:原油及び石油製品―窒素分試験方法、化学発光法に準拠して、微量全窒素分析装置(三菱化学アナリテック社製、TN-2100H)を用いてアルゴンガスの流通下、液晶ポリエステルを熱分解した後に酸素ガスにより燃焼酸化して生成する一酸化窒素を、脱水分条件下でオゾンガスと酸化反応させて検出される波長590~2500nmにおける発光強度を測定し、その発光強度の面積値から窒素の含有量(窒素量)を求めた。その結果を表3に示す。
【0107】
[流動開始温度の評価]
各例の液晶ポリエステルについて、フローテスター(島津製作所社製、CFT-500型)を用いて、流動開始温度を評価した。具体的には、各例の液晶ポリエステル約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填した。次いで、充填された各例の液晶ポリエステルについて、昇温速度4℃/分で、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下で、該レオメーターのノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。その結果を表3に示す。
【0108】
[溶融粘度の評価]
各例の液晶ポリエステルを熱プレスすることにより、直径1cm、厚さ2.5mmの錠剤状の成形品を得た。該錠剤状の成形品について、レオメーター(BOHLIN INSTRUMENTS社製、商品名:CVOレオメータ)を用いて、350℃で溶融させ、30秒間滞留させた後の溶融粘度と、10分間滞留させた後の溶融粘度をそれぞれ測定した。その結果を表3に示す。
【0109】
【0110】
表3に示す結果から、窒素の含有量が15~100質量ppmである実施例の液晶ポリエステルは、比較例の液晶ポリエステルに比べて、粘度比(10分後/30秒後)の値が小さく、滞留安定性に優れていることが確認できる。
【0111】
比較例3の液晶ポリエステルは、工程(d)(本実施形態における工程(ii)に相当するエステル交換反応の工程)での(N)成分の添加量は多いが、窒素の含有量は、15質量ppm未満であった。これは、工程(d)において、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物を蒸発させて系外へ留去する際に、(N)成分も同時に系外へ留去されたためであると推測される。
【0112】
以上より、本実施形態の液晶ポリエステルは、滞留安定性に優れることが確認できる。
【0113】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。