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  • 特許-銀付皮革様シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】銀付皮革様シート
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
D06N3/14 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021567144
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045140
(87)【国際公開番号】W WO2021131590
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019236450
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】割田 真人
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-264663(JP,A)
【文献】特表平08-504230(JP,A)
【文献】特開昭49-042801(JP,A)
【文献】特開昭50-154401(JP,A)
【文献】特開2006-124888(JP,A)
【文献】特開2019-019304(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125797(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101235195(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00- 43/00
C09J 11/00- 11/08,
175/00-175/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、前記繊維基材の一面に接着されたポリウレタン表皮層と、前記繊維基材と前記ポリウレタン表皮層とを接着するポリウレタン接着層とを備える銀付皮革様シートであって、
前記ポリウレタン接着層は、
水系ポリウレタンを主体として含み、硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種を、硫黄原子換算で合計0.01~0.45質量%含有し、且つ、
BCG(ブロモクレゾールグリーン)液による呈色がpH4.8以下相当である銀付皮革様シート。
【請求項2】
前記ポリウレタン接着層は、ナトリウム含有割合が0.1質量%以下である請求項1に記載の銀付皮革様シート。
【請求項3】
前記硫酸塩またはアルキル硫酸エステル塩が、硫酸またはアルキル硫酸エステルとアンモニアまたは揮発性アミンとの塩である請求項1または2に記載の銀付皮革様シート。
【請求項4】
前記硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種が、硫酸アンモニウムを含有する請求項1または2に記載の銀付皮革様シート。
【請求項5】
前記硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種が、ラウリル硫酸アンモニウムを含有する請求項1または2に記載の銀付皮革様シート。
【請求項6】
前記水系ポリウレタンは、アニオン性自己乳化型ポリウレタンである請求項1~5の何れか1項に記載の銀付皮革様シート。
【請求項7】
前記アニオン性自己乳化型ポリウレタンは、親水性カルボキシル基または親水性スルホ基を含有する請求項6に記載の銀付皮革様シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐黄変性に優れた銀付皮革様シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なプラスチック製品において、酸化による樹脂劣化を防止するために、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)等のフェノール系酸化防止剤が配合されている。
【0003】
ポリウレタン製品においては、例えば、プラスチック製梱包材(ポリエチレンやポリプロピレン等)や紙製梱包材(段ボール等)と接する環境下で、これらに配合されているフェノール系酸化防止剤がポリウレタン製品に昇華移行し、フェノール系酸化防止剤が大気中のNOx(酸化窒素,亜酸化窒素,過酸化窒素)ガスと反応することによってキノン構造を有するように変化して黄変する現象が知られていた。このような現象は、フェノリック黄変と称される。ポリウレタン製品のフェノリック黄変は、淡色や白色の製品において外観の変色を感じさせる原因になっていた。
【0004】
ポリウレタン製品のフェノリック黄変を抑制する技術はいくつか提案されている。例えば、下記特許文献1は、ポリウレタンエラストマーを主体とする重合体からなるポリウレタン製品を、有機酸または無機酸で処理し、ポリウレタンのpHを6.9~3.5の範囲にしたポリウレタン製品を開示する。また、特許文献1には、フェノリック黄変がアルカリ性において引き起こされやすいことが記載されている。また、酸化防止剤や耐光安定剤を添加するとポリウレタンがアルカリ性になりやすいことが記載されている。
【0005】
また、下記特許文献2は、白色のキャンバス(繊維)又は合成樹脂で構成する胛皮及び靴紐及びポリウレタンからなる靴底よりなる白色靴において、リンゴ酸水溶液を塗布することにより、黄変が抑制されることを開示する。
【0006】
また、下記特許文献3は、ポリオールとポリイソシアネートとを、水,アミン触媒の存在下で反応させて得られたポリウレタンフォームであって、その配合原料成分であった加水分解性エステルが加水分解してなる酸成分を含み、かつ酸性域のpHを示すことを特徴とする難黄変ポリウレタンフォームを開示する。
【0007】
ところで、近年、環境への負荷低減,労働衛生環境の改善,有害物質排出の低減化等の要求の高まりに応じるために、従来広く使用されてきた溶剤系ポリウレタンの有機溶剤溶液に代えて、水を媒体とする、水系ポリウレタンのエマルジョンや水系ディスパージョン等のポリウレタン水性液の使用が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭63-264663号公報
【文献】特開平8-140711号公報
【文献】特開2000-273136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリウレタンのフェノリック黄変はアルカリ性において引き起こされやすいことが知られていた。従来、固体のポリウレタンに酸を浸透させたり添加したりすることにより、ポリウレタンを中和して酸性化させる技術は知られていた。しかし、コーティング等の用途に用いられるポリウレタン水性液に直接適用することはできなかった。エマルジョンに酸を直接添加した場合には、エマルジョンが破壊されてポリウレタンが析出してしまう等の問題が生じるためである。
【0010】
特許文献1は、溶剤系ポリウレタンの有機溶剤溶液からポリウレタンを湿式凝固させた後に、有機酸または無機酸で処理することによりポリウレタンのpHを6.9~3.5の範囲に調整してポリウレタン製品を製造することを開示する。しかしながら、このような方法は、固体のポリウレタンに適用される技術である。そのために、ポリウレタン水性液を塗布して乾燥させることによりポリウレタン接着層を形成し、ポリウレタン接着層に他の基材を貼りあわせて接着する場合、ポリウレタン接着層の内部まで有機酸や無機酸を浸透させることは困難であった。
【0011】
また、特許文献2は、白色のキャンバス又は合成樹脂で構成する胛皮及び靴紐及びポリウレタンからなる靴底よりなる白色靴において、リンゴ酸水溶液を塗布する方法を開示する。しかしながら、このような方法は、ポリウレタン製品にリンゴ酸水溶液を直接塗布するために、ポリウレタン製品がリンゴ酸に侵されて変色を生じる懸念があった。また、ポリウレタン水性液を塗布して乾燥させることによりポリウレタン接着層を形成し、ポリウレタン接着層に他の基材を貼りあわせて接着するような工程には適用できなかった。
【0012】
また、特許文献3は、ポリオールとポリイソシアネートとを、水,アミン触媒の存在下で反応させて得られたポリウレタンフォームであって、その配合原料成分であった加水分解性エステルが加水分解してなる酸成分を含み、かつ酸性域のpHを示すことを特徴とする難黄変ポリウレタンフォームを開示する。しかしながら、このような方法も、適用できるプロセスが限定されており、ポリウレタン水性液を塗布して乾燥させることによりポリウレタン接着層を形成し、ポリウレタン接着層に他の基材を貼りあわせて接着するような工程には適用できなかった。
【0013】
このように、コーティングやラミネート接着剤の用途に用いられる水系ポリウレタンのフェノリック黄変を効果的に抑制する手段は提案されていなかった。
【0014】
本発明は、ポリウレタン水性液を使用して形成される水系ポリウレタンを主体として含むポリウレタン接着層を有する銀付皮革様シートにおいて、ポリウレタン接着層のフェノリック黄変を抑制できる、銀付皮革様シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一局面は、繊維基材と、繊維基材の一面に接着されたポリウレタン表皮層と、繊維基材とポリウレタン表皮層とを接着するポリウレタン接着層とを備える銀付皮革様シートであって、ポリウレタン接着層は、水系ポリウレタンを主体として含み、硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種を、硫黄原子換算で合計0.01~0.45質量%含有し、且つ、BCG(ブロモクレゾールグリーン)液による呈色がpH4.8以下相当である銀付皮革様シートである。
【0016】
水系ポリウレタンは、ポリウレタンのエマルジョンや水性分散液等のポリウレタン水性液を乾燥凝固させて形成されるポリウレタンである。このようなポリウレタン水性液に硫酸塩またはアルキル硫酸エステル塩(以下、単に、硫酸塩化合物とも称する)を添加した場合、ポリウレタン水性液から乾燥凝固された水系ポリウレタンは酸性を帯びる。そして、銀付皮革様シートを形成するポリウレタン接着層がBCG液による呈色がpH4.8以下相当になるように硫酸塩化合物を含む場合、アルカリ性において引き起こされやすいポリウレタンのフェノリック黄変を抑制することができる。なお、硫酸塩及ぶアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種を、硫黄原子換算で合計0.45質量%を超えて含有した場合には、吸水しやすくなり、耐水性が低下して接着強度が低下する。
【0017】
また、ポリウレタン接着層のナトリウム含有割合は0.1質量%以下であることが好ましい。ポリウレタン接着層に含まれるナトリウムは、ポリウレタン接着層の塩基性度を高め、フェノリック黄変を引き起こす。ポリウレタン接着層のナトリウムの含有割合が0.1質量%以下である場合には、塩基性度を高めにくくしてポリウレタンのフェノリック黄変が抑制される。
【0018】
また、水系ポリウレタンは、アニオン性自己乳化型ポリウレタンであることが、ナトリウム含有割合を少なくしやすく、水系ポリウレタンがより酸性を帯びやすくなる点から好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水系ポリウレタンを主体として含むポリウレタン接着層を有する銀付皮革様シートにおいて、ポリウレタン接着層のフェノリック黄変を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態の銀付皮革様シート10の積層構造を説明する断面模式図である。
図2】実施形態の銀付皮革様シート10の製造方法の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る銀付皮革様シートの一実施形態を詳しく説明する。本実施形態の銀付皮革様シート10は、図1を参照すれば、繊維基材1と、繊維基材1の一面に接着されたポリウレタン表皮層2と、繊維基材1とポリウレタン表皮層2とを接着するポリウレタン接着層3とを備える。そして、ポリウレタン接着層3は、水系ポリウレタンを主体として含み、硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種を、硫黄原子換算で0.01~0.45質量%含有し、且つ、BCG(ブロモクレゾールグリーン)液による呈色がpH4.8以下相当である。また、好ましくは、ナトリウム含有割合が0.1質量%以下である。
【0022】
図2を参照して、銀付皮革様シート10の製造方法の一例を説明する。はじめに、図2(a)に示すように、離型紙R上にポリウレタン表皮層2を形成する。
【0023】
ポリウレタン表皮層(以下、単に表皮層とも称する)は、銀付皮革様シートの銀面調の表皮を形成するポリウレタン層である。表皮層を形成するためのポリウレタンの種類は特に限定されず、ポリウレタン水性液を塗布した後、乾燥凝固されて形成される水系ポリウレタンを主体とするポリウレタン層であっても、溶剤系ポリウレタンの有機溶剤溶液を塗布し、いわゆる湿式凝固によって形成される溶剤系ポリウレタンであってもよい。これらの中では、水系ポリウレタンが、環境への負荷が少ない点から好ましい。
【0024】
表皮層は、必要に応じて、着色顔料や、その他、添加剤を含んでもよい。表皮層の厚さは特に限定されないが、10~200μm、さらには、20~100μmであることが好ましい。また、表皮層は、単層構造であっても、別々の工程で積層形成された複数のポリウレタン層からなる多層構造であってもよい。
【0025】
次に、ポリウレタン接着層(以下、単に接着層とも称する)を形成する工程について説明する。接着層を形成する工程においては、図2(b)に示すように、離型紙R上に形成された表皮層2の表面に、硫酸塩化合物を添加されたポリウレタン水性液3aを塗工する。ポリウレタン水性液3aの塗工方法は特に限定されない。具体的には、例えば、ナイフコーター,バーコーター,ロールコーター等が適宜用いられる。そして、塗工されたポリウレタン水性液3aの塗膜を、赤外線乾燥機等を用いて乾燥することにより、接着層3が形成される。
【0026】
接着層の厚さも特に限定されないが、10~200μm、さらには20~100μmであることが好ましい。
【0027】
そして、図2(c)及び図2(d)に示すように、予め準備した繊維基材1の表面に、離型紙R上に形成された接着層3を貼り合せてプレスした後、接着層3を硬化させることにより表皮層2を繊維基材1に接着する。
【0028】
繊維基材としては、従来から人工皮革や合成皮革のような皮革様シートの製造に用いられている、不織布,織物,編物、またはそれらを組み合わせたシートを主体とし、必要に応じて、さらに高分子弾性体を含浸付与させた繊維基材が特に限定なく用いられる。これらの中では、不織布、とくには、高分子弾性体を含浸付与された繊度0.5dtex以下の極細繊維を含む不織布を含む繊維基材が、緻密で機械的強度の高い皮革様シートが得られやすい点から好ましい。
【0029】
繊維を形成する樹脂の種類も特に限定されない。繊維を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステルエラストマー等のポリエステル樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,芳香族ポリアミド,ポリアミドエラストマー等のポリアミド樹脂;アクリル樹脂;オレフィン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂等の合成繊維や、各種天然繊維や半合成繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、繊維基材は含浸付与された高分子弾性体を含んでもよい。 繊維基材に含浸付与される高分子弾性体の種類は特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリウレタン,アクリロニトリル-ブタジエン共重合体やアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの共重合体等のアクリル系弾性体,ポリアミド系弾性体,シリコーンゴム等の各種高分子弾性体が挙げられる。
【0031】
繊維基材が高分子弾性体を含有する場合、その含有割合は特に限定されないが、1~50質量%、さらには、5~30質量%であることが好ましい。
【0032】
また、繊維基材の厚さは特に限定されないが、0.3~2mm、さらには、0.5~1mm程度であることが好ましい。
【0033】
そして、図2(e)に示すように、ポリウレタン表皮層2の表面から離型紙Rを剥離することにより、本実施形態の銀付皮革様シート10が得られる。
【0034】
本実施形態における銀付皮革様シートの接着層を形成するための、水系ポリウレタンは、水を分散媒とするポリウレタンエマルジョンやポリウレタンサスペンジョン等のポリウレタン水性液から乾燥凝固されたポリウレタンである。なお、分散媒は、少量の水性溶剤を含むこともある。水系ポリウレタンを用いた銀付皮革様シートの製造は、有機溶剤の使用を低減できるために、地球環境や労働衛生環境への負荷が低い。
【0035】
ポリウレタン接着層は、水系ポリウレタンを主体とするポリウレタンを含む。なお、主体とするとは、含有されるポリウレタンの、80質量%以上、さらには90質量%以上、好ましくは100%が水系ポリウレタンであることを意味する。
【0036】
ポリウレタン水性液としては、カルボキシル基やスルホ基等のアニオン性親水基,アンモニウム基等のカチオン性親水基,または非イオン性親水基を含有する親水基含有モノマー単位を、ポリウレタンの構成単位として分子構造内に導入して自己乳化によりエマルジョン化させた自己乳化型ポリウレタンエマルジョン;非イオン性,カチオン性,またはアニオン性の界面活性剤を乳化剤として用いて強制乳化させてエマルジョン化させた強制乳化型ポリウレタンエマルジョン;ポリウレタンに導入されたイオン性基と乳化剤とを併用したポリウレタンエマルジョンが挙げられる。
【0037】
これらの中では、自己乳化型ポリウレタンエマルジョンが、乳化剤のブリードによる悪影響を起こしにくい点からとくに好ましい。また、自己乳化型ポリウレタンエマルジョンの中でも、親水基としてカルボキシル基やスルホ基等のアニオン性酸性官能基を親水基含有モノマー単位として含むアニオン性自己乳化型ポリウレタンのエマルジョンが、得られる水系ポリウレタンがより酸性を帯びやすい点からとくに好ましい。
【0038】
水系ポリウレタンは、例えば、平均分子量200~6000の高分子ポリオール,有機ポリイソシアネート,及び鎖伸長剤に、必要に応じて、高分子ポリオールや鎖伸長剤の一部として、または末端封止基として、親水基含有モノマーを所定のモル比で配合して反応させることにより得られる。また、水系ポリウレタンは、必要に応じて、架橋構造を有する。
【0039】
高分子ポリオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオールおよびその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール,ポリブチレンセバケートジオール,ポリヘキサメチレンアジペートジオール,ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール,ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンセバケート)ジオール,ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオールおよびその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール,ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンカーボネート)ジオール,ポリペンタメチレンカーボネートジオール,ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオールおよびその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオール等が挙げられる。また、必要に応じて、3官能アルコールや4官能アルコールなどの多官能アルコール、又は、エチレングリコール等の短鎖アルコールを併用してもよい。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、有機ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,ノルボルネンジイソシアネート,4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート等の無黄変型ジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。また、必要に応じて、3官能イソシアネートなどの多官能イソシアネートを併用してもよい。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ヘキサメチレンジイソシアネートが耐黄変性と機械的特性とのバランスに優れることから好ましい。
【0041】
また、鎖伸長剤としては、例えば、ヒドラジン,エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジンおよびその誘導体,アジピン酸ジヒドラジド,イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;トリエチレンテトラミンなどのテトラミン類;エチレングリコール,プロピレングリコール,1,4-ブタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4-シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパンなどのトリオール類;ペンタエリスリトールなどのテトラオール類;アミノエチルアルコール,アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ヒドラジン,ピペラジン,エチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,イソホロンジアミンおよびその誘導体,ジエチレントリアミンなどのトリアミンの中から2種以上組み合わせて用いることが機械的特性に優れる点から好ましい。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン,プロピルアミン,ブチルアミンなどのモノアミン類;4-アミノブタン酸,6-アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
【0042】
また、自己乳化させるためのイオン性基をポリウレタンに導入するために用いられる親水基含有モノマー化合物としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸等のカルボキシル基含有ジオールや、ジヒドロキシアルキルスルホン酸等のスルホン酸基含有ジオールが挙げられる。
【0043】
なお、アニオン性の自己乳化型ポリウレタンは、親水基であるカルボキシル基やスルホ基等を中和して親水性を向上させるための塩基を中和剤として含有する。このような中和剤の具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の不揮発性塩基;トリメチルアミン,トリエチルアミン,ジメチルエタノールアミン,メチルジエタノールアミン,トリエタノールアミン等のアミン類やアンモニア等の揮発性塩基、が挙げられる。これらの中では、トリメチルアミン,トリエチルアミン等の沸点120℃以下の揮発性アミン類またはアンモニアが、水系ポリウレタンを凝固させるための加熱工程において、中和剤が揮発して水系ポリウレタンが酸性を帯びやすくなる点からとくに好ましい。
【0044】
自己乳化型ポリウレタンの酸価は親水基の含有量を表す指標になる。自己乳化型ポリウレタンの酸価としては、5~40mgKOH/g、さらには10~30mgKOH/gであることが、水分散性と耐水性のバランスに優れる点から好ましい。
【0045】
水系ポリウレタンは、主としてポリオールから形成される凝集力が弱いソフトセグメントである海領域と、主としてウレタン結合やウレア結合から形成される凝集力が強いハードセグメントである島領域とを有する海島構造を有する。水系ポリウレタンには、繊維基材との高い接着性を維持するための高い凝集力が求められるために、ハードセグメントの割合を高めるウレタン結合やウレア結合を高い割合で含有することが好ましい。しかしながら、ウレタン結合やウレア結合は非共有電子対を有する窒素原子を含むために、ウレタン結合やウレア結合の割合が高すぎる場合には、ポリウレタンの塩基性度を高める。この場合には、フェノリック黄変を起こりやすくさせる傾向がある。また、ハードセグメントの割合が高く、凝集力が高すぎる場合には、水系ポリウレタンが硬くなるために繊維基材に対する接着性が低下したり、耐屈曲性が低下したりする傾向がある。そのためにハードセグメントの割合の指標となる水系ポリウレタンの窒素原子の割合としては、2.0~6.0質量%、さらには、2.5~5.0質量%であることが、水系ポリウレタンの凝集力と塩基性化を抑制することとのバランスに優れる点から好ましい。
【0046】
また、水系ポリウレタンは、耐水性,耐熱性,接着性,機械的特性等を向上されるために、架橋構造を有してもよい。水系ポリウレタンの架橋構造としては、内部架橋であっても外部架橋であっても、それらを組み合わせた架橋構造であってもよい。内部架橋の例としては、例えば、ポリイソシアネート系化合物,多官能ブロックイソシアネート系化合物等の多官能の自己架橋性の化合物を共重合成分として少量配合することにより形成される内部架橋構造が挙げられる。また、外部架橋の例としては、例えば、ポリウレタンを形成するモノマー単位が有するカルボキシル基等の官能基と反応し得る、官能基を分子内に2個以上含有する架橋剤を添加して架橋させる外部架橋構造が挙げられる。
【0047】
架橋剤の具体例としては、例えば、水酸基やアミノ基と架橋構造を形成する架橋剤である、2官能ポリイソシアネート化合物や、ビウレット型,アダクト型,イソシアヌレート型等の他官能イソシアネート化合物;カルボキシル基と架橋構造を形成する架橋剤である、カルボジイミド基,オキサゾリン基,エポキシ基,シクロカーボネート基,アジリジン基を有する化合物やヒドラジン誘導体又はヒドラジド誘導体などが挙げられる。これらの中では、反応性やポットライフ性に優れる、カルボジイミド基やオキサゾリン基を有する化合物である架橋剤がとくに好ましい。
【0048】
カルボジイミド基を有する架橋剤の具体例としては、例えば日清紡ケミカル(株)製「カルボジライトE-01」,「カルボジライトE-02」,「カルボジライトV-04」などの水分散カルボジイミド系化合物が挙げられる。また、オキサゾリン基を有する架橋剤の具体例としては、例えば日本触媒(株)製「エポクロスK-2010E」,「エポクロスK-2020E」,「エポクロスWS-500」などの水分散オキサゾリン系化合物を挙げることができる。架橋剤の配合割合は目的や樹脂の組成に応じて選択されるが、例えば、水系ポリウレタンに対して架橋剤の有効成分が3~15質量%であることが好ましく、5~12質量%であることがより好ましい。また、架橋剤を配合する場合には架橋促進剤を併用してもよい。水系ポリウレタンの架橋においては、例えば、ポリウレタン水性液から水系ポリウレタンを乾燥凝固させた後、好ましくは、熱処理による熟成処理を行うことにより架橋反応を完結させることが好ましい。
【0049】
また、強制乳化させるために配合される界面活性剤の具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム,ラウリル硫酸アンモニウム,ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム,ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム,アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム,ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンラウリルエーテル,ポリオキシエチレンステアリルエーテル,ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤などが挙げられる。また、反応性を有する、いわゆる反応性界面活性剤を用いてもよい。
【0050】
ポリウレタン水性液に分散された水系ポリウレタンの平均分散粒子径は特に限定されないが、0.01~1μm、さらには、0.01~0.2μm、とくには0.03~0.5μmであることが分散安定性の点から好ましい。
【0051】
そして、ポリウレタン水性液に、硫酸塩及び/またはアルキル硫酸エステル塩を添加することにより、乾燥凝固した後に形成されるポリウレタン接着層に硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種を、硫黄原子換算で合計0.01~0.45質量%含有させる。これらは、何れか一方を単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ポリウレタン水性液に配合される硫酸塩またはアルキル硫酸エステル塩としては、硫酸またはラウリル硫酸やラウレス硫酸等のアルキル硫酸エステルの塩、好ましくは、アンモニア塩、揮発性アミン塩、ナトリウム塩等が挙げられる。さらに具体的には、硫酸アンモニウムや、トリエチルアミン硫酸塩のような硫酸と揮発性アミンとの塩、ラウリル硫酸アンモニウムやラウレス硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエチルアミンやラウレス硫酸トリエチルアミンのようなアルキル硫酸と揮発性アミンとの塩、硫酸ナトリウムや、ラウリル硫酸ナトリウムやラウレス硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステルのナトリウム塩等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの硫酸塩またはアルキル硫酸エステル塩は、乾燥凝固した後に形成されるポリウレタン接着層に強い酸性を帯びさせる。また、ポリウレタン水性液を弱酸性にするために水系ポリウレタンの分散安定性を低下させにくい。
【0053】
上記硫酸塩またはアルキル硫酸エステル塩の中では、硫酸またはアルキル硫酸エステルとアンモニアまたは揮発性アミンとの塩が、水系ポリウレタンの加熱による乾燥凝固の際にアンモニアや揮発性アミンが揮発して除去されるために、より酸性を帯びやすい点から好ましい。硫酸ナトリウムや、不揮発性のアミン塩の場合には、水系ポリウレタンの加熱による乾燥凝固した後にも水系ポリウレタンに塩基成分が残るために、接着層の塩基性が高くなる傾向がある。
【0054】
形成されるポリウレタン接着層に含有される硫酸塩及びアルキル硫酸エステル塩の合計割合としては、硫黄原子換算で0.01~0.45質量%であり、0.03~0.35質量%であることが好ましい。ポリウレタン接着層に含有されるこれらの硫酸塩化合物の含有割合が、硫黄原子換算で0.01質量%未満である場合には、ポリウレタン接着層が充分に酸性化しにくくなる。また、ポリウレタン接着層に含有されるこれらの硫酸塩化合物の含有割合が、硫黄原子換算で0.45質量%を超える場合には、ポリウレタン接着層の耐水性が低下する。
【0055】
また、形成されるポリウレタン接着層は、ナトリウム含有割合が0.1質量%以下、さらには0.07質量%以下であることが好ましい。水系ポリウレタンは、原料に由来するナトリウムを含むことがある。具体的には、例えば、アニオン性自己乳化型ポリウレタンの製造に用いられるジヒドロキシアルキルスルホン酸ナトリウム等の親水基含有モノマー化合物に含まれるナトリウム;ラウリル硫酸ナトリウム,ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム,ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム,アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム,ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の界面活性剤に含まれるナトリウム;ポリアクリル酸ナトリウム等の増粘剤に含まれるナトリウム;等のナトリウムを含むことがある。ポリウレタン接着層のナトリウムの含有割合が0.1質量%を超える場合には、硫酸塩化合物を含有することによる酸性度の向上効果が低下する。一方、ポリウレタン接着層のナトリウムの含有割合が少ない、または、ナトリウムを実質的に含有しない場合にはポリウレタン接着層が酸性化しやすくなり、ポリウレタン接着層のフェノリック黄変がより起こりにくくなる。そのために、ポリウレタン接着層にはナトリウムを含有しないこと(0質量%)が好ましく、不可避的に含有されるナトリウムによる含有割合としては0.1質量%以下、さらには0.07質量%以下であることが好ましい。
【0056】
このようにして形成されるポリウレタン接着層の酸性度は、後述するように評価されるBCG(ブロモクレゾールグリーン)液による呈色がpH4.8以下相当であり、pH3.8~4.7、さらにはpH3.9~4.6相当であることが好ましい。呈色がpH4.8相当を超える場合にはフェノリック黄変の抑制効果が不充分になる。また、呈色のpH相当が低すぎる場合には、ポリウレタン接着層が酸により劣化しやすくなる傾向がある。
【0057】
ポリウレタン水性液の固形分濃度は特に限定されないが、20~65質量%、さらには、30~60質量%であることが分散安定性と高濃度化のバランスに優れる点から好ましい。
【0058】
このようにして形成される本実施形態の銀付皮革様シートは、フェノリック黄変を起こしにくいポリウレタン接着層を備える。なお、ポリウレタン接着層は、上述した水系ポリウレタン、界面活性剤、架橋剤等の他、必要に応じて、酸化防止剤,紫外線吸収剤,顔料,染料,帯電防止剤,難燃剤,粘着防止剤,充填剤等の各種添加剤等を含有してもよい。
【実施例
【0059】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例に何ら限定されるものではない。はじめに、本実施例で用いた評価方法を以下にまとめて説明する。
【0060】
〈BCG液の呈色による相当pHの測定〉
BCG 0.1w/v%の水/エタノール=50/50(質量比)溶液を蒸留水で5倍希釈してBCG溶液を調製した。BCG溶液は、pH3.8~5.4の範囲で黄色~青色の呈色域を有する。そして、各例において製造された銀付皮革様シートから1cm角の試験片を切り出した。そして、試験片の重量:BCG溶液=1:100の浴比になるように試験片をBCG溶液に浸漬した。なお、ポリウレタン接着層の水膨潤性の違いにより着色に要する時間が異なるために、浸漬時間は着色状態を見ながら5~60分間の範囲で設定した。浸漬後の試験片を取り出して軽く水洗いして余分な水をふき取り、常温で24時間乾燥させた。そして、浸漬によって呈色した試験片の断面をマイクロスコープで観察した。そして、ポリウレタン接着層の色と、pHメータで測定されたBCG溶液の呈色とを対比することにより、ポリウレタン接着層の相当pHを特定した。
【0061】
〈フェノリック黄変による黄変度〉
ISO 105-x18:2007試験方法に基づき、フェノール系酸化防止剤を含む黄変試験紙((株)グロッツベッケルトジャパン製)を用いて、フェノリック黄変処理を実施した。そして、処理前後の試験片のL*a* b*表色系に基づくb*値の色差△b値を分光光度計で評価した。△b値が大きいほど黄変が強いことを示す。
【0062】
〈硫黄(S)、ナトリウム(Na)の含有割合の測定〉
各例において製造された銀付皮革様シートから所定の大きさの試験片を切り出した。そして、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM-IT500)を用いて試験片の断面のポリウレタン接着層のエネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析を行った。そして、EDS分析の任意に取得した5点の平均値から、ポリウレタン接着層に含まれていた硫黄(S)およびナトリウム(Na)の含有割合を算出した。
【0063】
〈湿潤に対する剥離強力保持率(耐水性評価)〉
各例において製造された銀付皮革様シートから、たて15cm×よこ3cmの試験片を切り出した。そして、たて15cm×よこ3cmのゴム板を準備した。そして、試験片のポリウレタン表皮層表面とゴム板の表面との両方に接着剤を均一に塗布し、100℃で2分間熱乾燥処理した後、試験片の表面の接着剤とゴム板の表面の接着剤とを貼り合わせた。その際、試験片の片方の端の接着面に3cm×3cmの紙を挟み込み、引張試験機での掴みシロを設けた。そして、室温で3kgf/cmの圧力で10秒間プレスした後、室温で24時間放置した。そして、試験片の両端を2.5mmずつトリミングし、よこ幅を2.5cmに調整した。同様にして、それぞれの銀付皮革様シートから各6つの試験片を作成した。
【0064】
・剥離強力(Dry)測定
得られた剥離試験片の試験片が接着されたゴム板の先端部を一方のチャックに、試験片のポリウレタン表皮層の先端部を他方のチャックに挟み、引張試験機で速度100mm/分の条件で引っ張って、ポリウレタン表皮層を繊維基材から剥離した。このとき、得られたSS曲線の初期ピークを除いた部分の引張応力の平均値を求めた。試験片3個の引張応力の平均値を1cm当たりに換算した値を剥離強力(Dry)とした。
・剥離強力(Wet)測定
一方、剥離強力の測定前に、試験片を60分間、蒸留水に浸漬した。そして、蒸留水から取り出した試験片の余分な水分をふき取り、剥離強力(Dry)と同様にして剥離強力を測定し、剥離強力(Wet)の値を得た。
【0065】
そして、上記のようにして得られた剥離強力(Dry)および剥離強力(Wet)の値から、以下の式により、Wet/Dry剥離強力保持率を算出した。耐水性評価の指標とした。
剥離強力保持率(%)=剥離強力(Wet)/剥離強力(Dry)×100
【0066】
また、本実施例で用いた水系ポリウレタンのエマルジョン、架橋剤及び助剤等を以下にまとめて説明する。
【0067】
(表皮層用ポリウレタンエマルジョン)
・ハイドランULK-190(DIC(株)製の固形分濃度35質量%のポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン)
【0068】
(接着層用ポリウレタンエマルジョン)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA:自己乳化型ポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度50質量%,親水性カルボキシル基含有,酸価23mgKOH/g,中和剤:トリエチルアミン)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンB:自己乳化型ポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度50質量%、親水性スルホ基含有、酸価4mgKOH/g、中和剤:ナトリウムイオン)
・強制乳化型ポリウレタンC:強制乳化型ポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度45質量%、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.75質量%を含有)
・強制乳化型ポリウレタンD:強制乳化型ポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度45質量%、乳化剤としてラウリル硫酸アンモニウム0.75質量%含有)
【0069】
(架橋剤)
・カルボジイミド系架橋剤:日清紡ケミカル(株)製のカルボジライトV-04
・イソシアネート系架橋剤:DIC(株)製のハイドランアシスターC5
【0070】
(助剤および顔料)
・消泡剤:SNデフォーマー1310(サンノプコ(株)製)
・レベリング剤:BKY-348(ビックケミー・ジャパン(株)製)
・増粘剤:アデカノールUH-541VF((株)ADEKA製)
・白顔料(酸化チタン水分散体、固形分濃度65%)
【0071】
(硫酸塩化合物)
・硫酸アンモニウム(10質量%水溶液)
・ラウリル硫酸アンモニウム(25質量%水溶液)
・ラウリル硫酸ナトリウム(30質量%水溶液)
(他の塩)
・ラウリン酸ナトリウム(20質量%)
【0072】
[実施例1]
各成分を以下の組成で混合して表皮層用塗液及び接着層用塗液1を調製した。
(表皮層用塗液)
・表皮層形成用のポリウレタンエマルジョン 100部(質量部、以下同様)
・消泡剤 0.3部
・レベリング剤 0.3部
・白顔料 10部
・増粘剤 2.0部
(接着層用塗液1)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・硫酸アンモニウム(10質量%水溶液) 4.6部
・増粘剤 0.8部
【0073】
そして、離型紙の離型面に、WET付着量120g/m2で表皮層用塗液を塗布し、90℃の乾燥機で5分間加熱して乾燥させることにより、厚み40μmの表皮層用フィルムを作成した。そして、表皮層用フィルムの表面に、WET付着量130g/m2で接着層用塗液1を塗布し、90℃の乾燥機で5分間加熱して乾燥させた後、繊維基材の表面に平板熱プレス機でプレスして貼り合わせた。なお、繊維基材は、0.1dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維の不織布と不織布に含浸付与されたポリウレタン(PU)とを含み、PET/PU比率が90/10で、目付530g/m2、厚み1mmの繊維基材であった。また、プレスは、温度100℃,圧力5kgf/cm,10秒間の条件で行った。プレスの後、さらに、70℃で72時間熟成を行うことにより、水系ポリウレタンAの架橋を進行させた。
【0074】
そして、離型紙を剥離することにより、厚さ1.1mmで目付640g/m2であった実施例1の銀付皮革様シートを得た。そして上記評価方法に従って評価した。結果を下記表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
[実施例2]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液2を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液2)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・ラウリル硫酸アンモニウム(25質量%水溶液) 4.0部
・増粘剤 0.8部
【0077】
[実施例3]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液3を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液3)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・硫酸アンモニウム(10質量%水溶液) 0.5部
・増粘剤 0.8部
【0078】
[実施例4]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液4を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液組成物4)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・硫酸アンモニウム(10質量%水溶液) 9.5部
・増粘剤 1.2部
【0079】
[実施例5]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液5を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液5)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンB 100部
・イソシアネート系架橋剤 10部
・硫酸アンモニウム(10質量%水溶液) 0.5部
・増粘剤 0.8部
【0080】
[実施例6]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液6を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液6)
・強制乳化型ポリウレタンC 100部
・イソシアネート系架橋剤 10部
・増粘剤 0.8部
【0081】
[実施例7]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液7を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液7)
・強制乳化型ポリウレタンD 100部
・イソシアネート系架橋剤 10部
・増粘剤 0.8部
【0082】
[比較例1]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液8を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液8)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・ラウリン酸ナトリウム(20質量%) 3部
・増粘剤 0.8部
【0083】
[比較例2]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液9を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液9)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・増粘剤 0.8部
【0084】
[比較例3]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液10を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液10)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・硫酸アンモニウム(10質量%) 12部
・増粘剤 1.5部
【0085】
[比較例4]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液11を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液11)
・アニオン性自己乳化型ポリウレタンA 100部
・カルボジイミド系架橋剤 15部
・ラウリル硫酸ナトリウム(30質量%) 3.5部
・増粘剤 0.8部
【0086】
[比較例5]
接着層用塗液1に代えて、以下のように調製された接着層用塗液12を用いた以外は実施例1と同様にして銀付皮革様シートを作成して評価した。結果を表1に示す。
(接着層用塗液12)
・強制乳化型ポリウレタンC 100部
・イソシアネート系架橋剤 10部
・ラウリル硫酸ナトリウム(30質量%)1.0部
・増粘剤 0.8部
【0087】
表1を参照すれば、本発明に係る実施例1~7で得られた、硫黄原子換算で0.01~0.45質量%の範囲で硫酸塩化合物を含有し、ナトリウム含有割合が0.1質量%以下であり、BCG液による呈色がpH4.8以下相当である、水系ポリウレタンを主体として含むポリウレタン接着層を備える銀付人工皮革は、フェノリック黄変の評価において、△b値が何れも4以下であり、フェノリック黄変しにくいものであった。また、耐水性評価におけるWet/Dry剥離強力の保持率も70%以上であり、耐水性も維持されていた。
【0088】
一方、硫酸塩化合物ではないラウリン酸ナトリウムを塩として含有し、ナトリウム含有割合が0.1質量%である比較例1で得られたポリウレタン接着層を備える銀付人工皮革は、BCG液による呈色がpH5.1相当であり、フェノリック黄変の評価における△b値が10を超えており、フェノリック黄変が顕著であった。また、塩化合物を含有しない比較例2で得られたポリウレタン接着層を備える銀付人工皮革は、BCG液による呈色がpH4.9相当であり、フェノリック黄変の評価における△b値が4を超えており、フェノリック黄変が顕著であった。また、硫酸塩化合物の含有割合が、硫黄原子換算で0.5質量%である比較例3で得られたポリウレタン接着層を備える銀付人工皮革は、フェノリック黄変しにくかったが、Wet/Dry剥離強力の保持率が70%未満であり、耐水性が低かった。また、硫酸塩化合物としてラウリル硫酸ナトリウムを含み、ナトリウム含有割合が0.15質量%である比較例4で得られたポリウレタン接着層を備える銀付人工皮革は、BCG液による呈色がpH5.2相当であり、フェノリック黄変が顕著であった。また、乳化剤及び硫酸塩化合物としてラウリル硫酸ナトリウムを含み、ナトリウム含有割合が0.15質量%である比較例5で得られたポリウレタン接着層を備える銀付人工皮革は、BCG液による呈色がpH5.0相当であり、フェノリック黄変が顕著であった。
【符号の説明】
【0089】
1 繊維基材
2 ポリウレタン表皮層
3 ポリウレタン接着層
3a ポリウレタン水性液
10 銀付皮革様シート
R 離型紙
図1
図2