(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】立毛人工皮革及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
D06N3/00
(21)【出願番号】P 2021567145
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045141
(87)【国際公開番号】W WO2021131591
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019234821
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】菱田 弘行
(72)【発明者】
【氏名】中山 公男
(72)【発明者】
【氏名】目黒 将司
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159728(WO,A1)
【文献】特公昭59-021903(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第102002867(CN,A)
【文献】特表2008-524453(JP,A)
【文献】特開2004-137619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00ー 7/06
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
D06P 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊度0.1~0.3dtexの極細繊維を絡合させてなる繊維絡合体と、前記繊維絡合体に含浸付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面に前記極細繊維を立毛させた立毛面を有する、立毛人工皮革であって、
前記極細繊維は、カーボンブラック0.2
~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを含み
、
前記有彩色顔料が、フタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含み、
前記有彩色顔料/前記カーボンブラックの質量比が0.1~2.0であり、
前記高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%であり、
前記高分子弾性体は着色されておらず、前記極細繊維は染色され
ておらず、
前記立毛面が、色座標空間(L
*
a
*
b
*
色空間)における、L
*
値が20~32、a
*
値が-2.5~2.5、b
*
値が-2.5~2.5の範囲である、立毛人工皮革。
【請求項2】
請求項
1に記載の立毛人工皮革の製造方法であって
、
前記カーボンブラッ
ク0.2~3質量%
と前記有彩色顔料0.1~5質量%とを
含み、前記有彩色顔料が、フタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含み、前記有彩色顔料/前記カーボンブラックの質量比が0.1~2.0である、非水溶性熱可塑性樹脂を島成分とし、水溶性熱可塑性樹脂を海成分とする海島型複合繊維の繊維絡合体を準備する工程と、
前記海島型複合繊維の繊維絡合体の空隙に無着色の水系高分子弾性体を形成させる水性液を含浸させた後、前記水性液の一部を搾液することにより除去する工程と、
前記海島型複合繊維の繊維絡合体の空隙に付与された前記水性液中の前記水系高分子弾性体を乾燥凝固させる工程と、
前記海島型複合繊維から前記水溶性熱可塑性樹脂を水系溶媒で溶解除去することにより、前記非水溶性熱可塑性樹脂の極細繊維の繊維絡合体を含む人工皮革生機を得る工程と、
前記人工皮革生機の少なくとも一面をバフィング処理して立毛する工程と、を少なくとも含み、前記人工皮革生機を染色する工程を含まない、立毛人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料,靴,家具,カーシート,雑貨製品等の表面素材として好ましく用いられる、スエード皮革のような立毛面を有する立毛人工皮革に関する。詳しくは、高い染色堅牢度を維持しながら、淡色から濃色までの幅広い色に着色される立毛人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
スエード皮革のような外観を有する立毛人工皮革は、極細繊維を絡合させてなる繊維絡合体の空隙に高分子弾性体を含浸付与して製造された人工皮革生機の表面を起毛処理することにより形成された、極細繊維を毛羽立たせた立毛面を有する。
【0003】
立毛人工皮革を着色するために、染色が広く行われている。染色を用いた場合には、淡色から濃色までの幅広い色に立毛人工皮革を着色することができる。しかし、染色された立毛人工皮革は摩擦堅牢度等の染色堅牢度が低いという問題があった。また、染色された立毛人工皮革においては、極細繊維に比べて高分子弾性体の染色堅牢度が低い。そのために、立毛面において高分子弾性体が露出した部分が白っぽくなることにより、極細繊維と高分子弾性体との色の違いによる色斑が目立って2色感が発現し、高級感のある立毛人工皮革が得られにくいという問題があった。
【0004】
染色堅牢度に優れ、2色感を抑制し、鮮明色から無彩色,淡色から濃色までの幅広い色調に調色される立毛人工皮革を製造する方法も提案されている。例えば、下記特許文献1は、繊維及び高分子弾性体の両方を顔料で着色することにより、繊維の色と高分子弾性体の色とを混色させて幅広い色調に調整することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
立毛人工皮革を着色するために、高分子弾性体を顔料で着色した場合、高分子弾性体の凝固工程で顔料の一部が脱落して生産品に色バラつきを生じさせたり、生産工程において別の色に色変えする際に原料の切り替えロスが大きくなったりする問題があった。一方、高分子弾性体を着色しない場合には、上述のように、立毛面において高分子弾性体が露出した部分が白くなることにより、極細繊維と高分子弾性体との色の違いによる色斑が目立って2色感が発現するという問題があった。
【0007】
本発明は、摩擦堅牢度に優れ、淡色から濃色までの幅広い色調の範囲で白けた色目でない着色が可能であり、高分子弾性体を着色しなくても立毛面に2色感を与えにくい立毛人工皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面は、平均繊度0.1~0.3dtexの極細繊維を絡合させてなる繊維絡合体と、繊維絡合体に含浸付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面に極細繊維を立毛させた立毛面を有する、立毛人工皮革であって、極細繊維は、カーボンブラック0.2~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを含み、有彩色顔料が、フタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含み、有彩色顔料/カーボンブラックの質量比が0.1~2.0であり、高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%であり、高分子弾性体は着色されておらず、極細繊維は染色されておらず、立毛面が、色座標空間(L
*
a
*
b
*
色空間)における、L
*
値が20~32、a
*
値が-2.5~2.5、b
*
値が-2.5~2.5の範囲である、立毛人工皮革である。このような立毛人工皮革は、染色されていないために摩擦堅牢度に優れる。また、高分子弾性体が着色されていないために、顔料で高分子弾性体を着色する場合に生じる工程を汚染する問題が発生しない。また、高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%であることにより、立毛面に高分子弾性体が露出しにくくなるため色斑が目立ちにくく、2色感が発現しにくくなる。さらに、極細繊維が、カーボンブラック0.2~3質量%とフタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含む有彩色顔料0.1~5質量%とで着色されていることにより、幅広い色調の範囲で白けた色目でない着色が可能であり、また、立毛面に2色感が発現しにくくなる。
【0009】
そして、有彩色顔料/カーボンブラックの質量比が、0.1~2.0であることにより、2色感が充分に発現しにくくなる。
【0010】
また、立毛面が、色座標空間(L*a*b*色空間)における明度L*値が20~32であり、a*値が-2.5~2.5の範囲であり、b*値が-2.5~2.5の範囲であることにより、色斑が目立ちにくい効果が顕著になり、また、濃色であっても高い摩擦堅牢度が維持される。
【0011】
また、上述した立毛人工皮革の製造において、海島型複合繊維の一成分を有機溶剤で除去したり、有機溶剤を含む凝固液で高分子弾性体を湿式凝固させたりするような、有機溶剤を用いる工程を含む場合があった。このような立毛人工皮革の製造においては、有機溶剤を用いる工程において、島成分に配合された有機顔料が溶解されて溶出する問題があった。
【0012】
本発明の他の一局面は、上述した立毛人工皮革の製造方法であって、カーボンブラック0.2~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを含み、有彩色顔料が、フタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含み、有彩色顔料/カーボンブラックの質量比が0.1~2.0である、非水溶性熱可塑性樹脂を島成分とし、水溶性熱可塑性樹脂を海成分とする海島型複合繊維の繊維絡合体を準備する工程と、海島型複合繊維の繊維絡合体の空隙に無着色の水系高分子弾性体を形成させる水性液を含浸させた後、水性液の一部を搾液することにより除去する工程と、海島型複合繊維の絡合体の空隙に付与された水性液中の水系高分子弾性体を乾燥凝固させる工程と、海島型複合繊維から水溶性熱可塑性樹脂を水系溶媒で溶解除去することにより、非水溶性熱可塑性樹脂の極細繊維の繊維絡合体を含む人工皮革生機を得る工程と、人工皮革生機の少なくとも一面をバフィング処理して立毛する工程と、を少なくとも含み、人工皮革生機を染色する工程を含まない立毛人工皮革の製造方法である。このような製造方法によれば、有機溶剤で海島型複合繊維の一成分を除去する工程や、溶剤に溶解した高分子弾性体を有機溶剤を含む液で湿式凝固する工程を含まないために、島成分に配合された有彩色顔料が溶出する問題が生じない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摩擦堅牢度に優れた立毛人工皮革であって、淡色から濃色までの幅広い色調の範囲で白けた色目でない着色が可能であり、高分子弾性体を着色しなくても立毛面に2色感を与えにくい立毛人工皮革が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の立毛人工皮革は、極細繊維を絡合させてなる繊維絡合体と、繊維絡合体に含浸付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面に極細繊維を立毛させた立毛面を有する、立毛人工皮革であって、極細繊維は、カーボンブラック0.2~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを含み、有彩色顔料が、フタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含み、高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%であり、高分子弾性体は着色されておらず、極細繊維は染色されていない立毛人工皮革である。そして、立毛面が、色座標空間(L
*
a
*
b
*
色空間)における、L
*
値が20~32、a
*
値が-2.5~2.5、b
*
値が-2.5~2.5の範囲の色を有する。本実施形態の立毛人工皮革を、その製造方法の一例に沿って詳しく説明する。
【0015】
本実施形態の立毛人工皮革は、例えば、上述したような、カーボンブラック0.2~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを含む非水溶性熱可塑性樹脂を島成分とし、水溶性熱可塑性樹脂を海成分とする海島型複合繊維の繊維絡合体を準備する工程と、海島型複合繊維の繊維絡合体の空隙に無着色の水系高分子弾性体を形成させる水性液を含浸させた後、水性液の一部を搾液することにより除去する工程と、海島型複合繊維の繊維絡合体の空隙に付与された水性液中の水系高分子弾性体を乾燥凝固させる工程と、海島型複合繊維から水溶性熱可塑性樹脂を水系溶媒で溶解除去することにより、非水溶性熱可塑性樹脂の極細繊維の繊維絡合体を含む人工皮革生機を得る工程と、人工皮革生機の少なくとも一面をバフィング処理して立毛する工程と、を少なくとも含み、人工皮革生機を染色する工程を含まない製造方法により製造される。なお、本実施形態における極細繊維とは、海島型複合繊維から島成分を除去して得られる島成分からなる繊維を意味するものとする。
【0016】
はじめに、カーボンブラック0.2~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを含む非水溶性熱可塑性樹脂を島成分とし、水溶性熱可塑性樹脂を海成分とする海島型複合繊維の繊維絡合体を準備する工程について説明する。
【0017】
海島型複合繊維の絡合体の製造方法としては、海島型複合繊維を溶融紡糸してウェブを製造し、ウェブを絡合処理する方法が挙げられる。海島型複合繊維のウェブを製造する方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した長繊維の海島型複合繊維をカットせずにネット上に捕集して長繊維のウェブを形成する方法や、溶融紡糸された長繊維をステープルにカットして短繊維のウェブを形成する方法等が挙げられる。これらの中では、絡合状態を調整しやすく、高い充実感が得られる点から長繊維のウェブを用いることがとくに好ましい。また、形成されたウェブには、その形態安定性を付与するために融着処理が施されてもよい。また、海島型複合繊維の海成分を除去して極細繊維を形成するまでの何れかの工程において、水蒸気あるいは熱水あるいは乾熱による熱収縮処理等の繊維収縮処理を施して海島型複合繊維を緻密化させてもよい。
【0018】
なお、長繊維とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、連続的な繊維であることを意味する。具体的には、例えば、繊維長が3~80mm程度になるように意図的に切断された短繊維ではない、フィラメントまたは連続繊維を意味する。極細繊維化する前の海島型複合繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、製造工程において不可避的に切断されない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0019】
海島型複合繊維において島成分を形成する非水溶性熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET等の変性PET,カチオン可染性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル;ナイロン6,ナイロン66,ナイロン10,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン6-12等のナイロン;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の立毛人工皮革の製造方法においては、極細繊維を着色するために、島成分の樹脂にカーボンブラック0.2~3質量%と有彩色顔料0.1~5質量%とを配合する。
【0021】
カーボンブラックの具体例としては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サマールブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0022】
また、有彩色顔料は、黒色,灰色及び白色である無彩色以外の有彩色を発色する顔料であり、主に有機顔料である。そして、有彩色顔料が、フタロシアニン系顔料及びジオキサジン系顔料を少なくとも含む。有彩色顔料の具体例としては、例えば、銅フタロシアニンβ結晶である Pigment Blue 15:3等のフタロシアニン系顔料,アントラキノン系顔料,キナクリドン系顔料,ジオキサジン系顔料,イソインドリノン系顔料,イソインドリン系顔料,インジゴ系顔料,キノフタロン系顔料,ジケトピロロピロール系顔料,ペリレン系顔料,ペリノン系顔料等の縮合多環系有機顔料や、ベンズイミダゾロン系顔料,縮合アゾ系顔料,アゾメチンアゾ系顔料等の不溶性アゾ系顔料等の有機顔料;酸化チタン,べんがら,クロムレッド,モリブデンレッド,リサージ,群青,紺青,酸化鉄,等の無機着色顔料が挙げられる。これらの有彩色顔料は、青,赤,緑,黄等の有彩色を呈する。
【0023】
また、極細繊維は、カーボンブラックと有彩色顔料の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の顔料や、紫外線吸収剤,熱安定剤,消臭剤,防かび剤,各種安定剤等が配合されてもよい。
【0024】
島成分の樹脂にカーボンブラックと有彩色顔料とを配合する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、極細繊維となる島成分を形成するための非水溶性熱可塑性樹脂とカーボンブラックと有彩色顔料とを上記含有割合になるように押出機などのコンパウンド設備を用いて混練する方法が挙げられる。
【0025】
形成される極細繊維に含まれるカーボンブラックの割合は0.2~3質量%であり、1~3質量%であることが、濃色の立毛人工皮革が得られやすい点から好ましい。極細繊維中のカーボンブラックの含有割合が0.2質量%未満である場合には、発色性が劣って白けた色目となって高級感に劣る発色になる。また、カーボンブラックの含有割合が3質量%を超える場合には、有彩色顔料による有彩色の発色が目立ちにくくなり、2色感を低減させる効果が小さくなり、また、紡糸性や物性が著しく低下しやすくなる。
【0026】
また、形成される極細繊維に含まれる有彩色顔料の割合は0.1~5質量%であり、0.5~4質量%、さらには、1~3質量%であることが、立毛人工皮革を淡色から濃色までの幅広い色に調色できるとともに、2色感を低減させやすい点から好ましい。極細繊維に含まれる有彩色顔料の含有割合が0.1質量%未満である場合には有彩色顔料による有彩色の発色が得られにくいために、2色感が低減しにくくなる。また、極細繊維に含まれる有彩色顔料の含有割合が5質量%を超える場合には、有彩色顔料が多くなりすぎることにより、紡糸安定性が低下しやすくなる。
【0027】
また、形成される極細繊維に含まれる、カーボンブラックと有彩色顔料との合計割合が10質量%を超える場合には、溶融紡糸性が低下して生産性が低下する。また、カーボンブラックと有彩色顔料との合計割合が0.3質量%未満の場合には、着色性が低下する。
【0028】
また、形成される極細繊維に含まれるカーボンブラックと有彩色顔料との比率は、有彩色顔料/カーボンブラックの質量比が0.1~2.0であり、0.25~1.0であることが好ましい。有彩色顔料/カーボンブラックの質量比が0.1未満の場合には有彩色顔料による有彩色の発色が得られにくいために、2色感が低減しにくくなる。また、有彩色顔料/カーボンブラックの質量比が2.0を超える場合には、発色性が劣る傾向が有る。
【0029】
また、海島型複合繊維の海成分となる水溶性熱可塑性樹脂としては、島成分の樹脂よりも溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が高い水溶性熱可塑性樹脂が選ばれる。また、島成分となる非水溶性熱可塑性樹脂との親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が非水溶性熱可塑性樹脂よりも小さい水溶性熱可塑性樹脂が海島型複合繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような水溶性熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)が、有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能である点から好ましい。
【0030】
海島型複合繊維の繊度は特に限定されない。また、海島型複合繊維の断面における海成分と島成分との平均面積比(海成分/島成分)は5/95~70/30、さらには10/90~50/50であることが好ましい。また、海島型複合繊維の断面における島成分のドメインの数は特に限定されないが、工業的な生産性の観点からは5~1000個、さらには、10~300個程度であることが好ましい。
【0031】
絡合処理は、ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする処理や、高圧水流絡合処理するような方法が挙げられる。なお、海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、ウェブに油剤や帯電防止剤を付与してもよい。
【0032】
そして、必要に応じて、絡合処理したウェブを水蒸気あるいは熱水あるいは乾熱による熱収縮処理等の繊維収縮処理を行ったり、熱プレス処理して、ウェブの絡合状態や平滑化状態を整えたりすることにより、海島型複合繊維の絡合体である不織布が得られる。
【0033】
次に、海島型複合繊維の絡合体の空隙に水系高分子弾性体を形成する水性液を含浸させた後、水性液の一部を搾液して除去することにより、高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%になるように調整する工程について説明する。高分子弾性体は、立毛人工皮革に形態安定性を付与する成分である。
【0034】
本工程においては、水系高分子弾性体を形成する水性液を海島型複合繊維の絡合体の空隙に含浸させた後、例えば、ロールニップ処理することにより、水性液を適度に搾液する。ここで、水系高分子弾性体とは、水を主体とする水系媒体に、自己乳化,強制乳化,または懸濁等されることにより分散されてエマルジョン、ディスパージョン、サスペンション等の水性液に調製される高分子弾性体を意味する。
【0035】
水性液として調整される高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタンが好ましい。また、高分子弾性体は着色されないために、実質的に顔料を含まないが、工程に顔料のコンタミネーションによる影響を与えない範囲である高分子弾性体が実質的に着色されない範囲、具体的には、0~0.01質量%の範囲で顔料を含んでいてもよい。
【0036】
すなわち、高分子弾性体の顔料の含有割合は、0~0.01質量%、さらには0~0.005質量%、とくには0質量%であることが、高分子弾性体が実質的に着色されないために、工程にコンタミネーションによる影響を与えない点から好ましい。高分子弾性体中の顔料の含有割合が0.01質量%を超える場合には、高分子弾性体が着色されて、工程にコンタミネーションによる影響を与える顔料が残存するおそれがあり、その場合には、少量多銘柄生産の生産性が低下する傾向がある。
【0037】
高分子弾性体の水性液には、必要に応じて、ゲル化剤等の凝固調節剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,蛍光剤,防黴剤,浸透剤,消泡剤,滑剤,撥水剤,撥油剤,増粘剤,増量剤,硬化促進剤,発泡剤,ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物,無機微粒子,導電剤などが配合されてもよい。とくには、高分子弾性体の含有割合を0.1~15質量%に調整した場合において、起毛面に高分子弾性体を露出させにくくするために、高分子弾性体の水性液をゲル化させる感熱ゲル化剤を含むことがとくに好ましい。
【0038】
感熱ゲル化剤の具体例としては、例えば、酸化亜鉛,硫酸カリウム,硫酸ナトリウム,アルキルフェノールホルマリン縮合物のアルキレンオキシド付加物,ポリエーテルホルマール,ポリビニルメチルエーテル,ポリプロピレングリコール,ポリアルキレンオキシド変性ポリシロキサン,水溶性ポリアミド,デンプン,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,タンパク,炭酸塩,重炭酸塩,ポリリン酸塩,等が挙げられる。感熱ゲル化剤の含有割合としては、感熱ゲル化剤の種類にもよるが、例えば、高分子弾性体(固形分)100質量部に対して0.01~30質量部であることが好ましい。
【0039】
本工程においては、海島型複合繊維の絡合体の空隙に高分子弾性体の水性液を含浸させた後、例えば、ロールニップ処理することにより水性液を適度に搾液する。このようにして、得られる立毛人工皮革に含まれる高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%になるように調整される。立毛人工皮革に含まれる高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%になるように調整することにより、立毛人工皮革の立毛面に無着色の高分子弾性体が露出しにくくなり、色斑を目立ちにくくすることができる。立毛人工皮革に含まれる高分子弾性体の含有割合が15質量%を超える場合には、立毛人工皮革の立毛面に無着色の高分子弾性体が露出しやすくなり、色斑が目立って2色感が感じられやすくなる。
【0040】
そして、海島型複合繊維の絡合体の空隙に付与された水性液中の高分子弾性体を凝固させる。水性液から高分子弾性体を凝固させる方法としては、水性液を含浸させた海島型複合繊維の絡合体を120~170℃程度の温度で乾燥させる方法が挙げられる。また、水性液がエマルジョンである場合、水性液を湿熱処理することによりゲル化させた後、乾燥することにより、表層へのマイグレーションを抑制することが好ましい。
【0041】
そして、海島型複合繊維から海成分を除去することにより、極細繊維の繊維絡合体を含む人工皮革生機を生成させる。海島型複合繊維から海成分を除去する方法としては、海成分のみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で海島型複合繊維中の海成分を溶解除去または分解除去する方法が挙げられる。
【0042】
極細繊維は、平均繊度が0.1~0.3dtexである。極細繊維の平均繊度が高すぎる場合には、立毛面の緻密さが低下して高級感のある外観が得られなかったり、しなやかな風合いが低下したりする傾向がある。なお、繊度は、立毛人工皮革の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で3000倍に拡大撮影し、万遍なく選択された15本の繊維径から繊維を形成する樹脂の密度を用いて算出した平均値として求められる。
【0043】
このようにして得られる人工皮革生機は、極細繊維の繊維絡合体と、極細繊維の絡合体に含浸付与された高分子弾性体とを含む。人工皮革生機は、必要に応じて厚さ方向にスライスして厚さ調整されて、所定の厚さの人工皮革生機に仕上げられてもよい。
【0044】
そして、人工皮革生機の少なくとも一面をバフィング処理することにより、表面の極細繊維が立毛した立毛人工皮革が得られる。バフィングは、好ましくは、120~600番手、さらに好ましくは240~600番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いてバフィング処理する方法が挙げられる。このようにして、片面又は両面に立毛された極細繊維が存在する立毛面を有する立毛人工皮革が得られる。
【0045】
立毛人工皮革には、さらに風合いを調整するために柔軟性を付与する収縮加工処理や揉み柔軟化処理が施されたり、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃処理等の仕上げ処理が施されたりしてもよい。
【0046】
また、人工皮革生機の立毛面の表層に、立毛された繊維の素抜けを抑制し、立毛面の外観品位や表面物性を向上させることを目的として、必要に応じて、立毛の根元を拘束するように高分子弾性体をさらに付与してもよい。立毛の根元を拘束するように高分子弾性体を付与する方法としては、例えば、立毛面側から高分子弾性体水分散液や溶剤系高分子弾性体溶液をグラビアコーティングする方法が挙げられる。
【0047】
人工皮革生機の立毛面に高分子弾性体を付与する場合、その付与量としては、固形分として、0.2~4g/m2、さらには、0.5~3g/m2になるように付与することが、立毛面の外観の高級感と抗ピリング性とのバランスに優れる点から好ましい。立毛面に付与される高分子弾性体の付与割合としては、固形分として、0.1~1.0質量%、さらには0.15~0.8質量%であることが立毛面の外観の高級感と抗ピリング性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0048】
このようにして製造される本実施形態の立毛人工皮革は、極細繊維に配合されたカーボンブラック及び有彩色顔料により、淡色から濃色までの幅広い色の範囲で目的とする色に着色されている。また、本実施形態の立毛人工皮革は、立毛面に高分子弾性体が露出しにくいために色斑が目立ちにくく、着色の堅牢度も高く、生産性にも優れる。
【0049】
本実施形態の立毛人工皮革の立毛面の色は、立毛面の色座標空間(L*a*b*色空間)における明度L*値が20~32である。また、a*値が-2.5~2.5の範囲であり、b*値が-2.5~2.5の範囲である場合には、濃色であっても高い堅牢度が維持される点から好ましい。
【0050】
なお、従来の立毛人工皮革は、染色されて着色されることが多いが、本実施形態の立毛人工皮革は染色されていない、無染色の立毛人工皮革である。立毛人工皮革を染色しないために、染色工程を省略することができる。また、高分子弾性体を着色しないために、少量多銘柄の生産が求められる場合に、銘柄ごとに高分子弾性体の水性液中の顔料の濃度を切り替える作業を省略できる。また、高分子弾性体が着色されず、極細繊維は染色されていないために、他の布帛と擦れた場合に染料が他の布帛に色移りのしにくい、摩擦堅牢性に優れた立毛人工皮革が得られる。
【0051】
以上のようにして製造された立毛人工皮革の厚さは特に限定されないが、0.3~1.5mm、さらには、0.4~1.0mmであることが好ましい。また、立毛人工皮革の目付も特に限定されないが、150~600g/m2、さらには200~500/m2であることが好ましい。
【0052】
また、立毛人工皮革の見かけ密度も特に限定されないが、0.4~0.7g/cm3、さらには0.45~0.6g/cm3であることが充実感と柔軟な風合いとのバランスに優れた立毛人工皮革が得られる点から好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
海成分として熱可塑性水溶性ポリビニルアルコール(PVA)、島成分として、カーボンブラック1.5質量%と、フタロシアニン系青色有機顔料(銅フタロシアニンβ結晶 Pigment Blue 15:3)及びジオキサジン系紫色有機顔料を含む有彩色顔料を合計で1.0質量%添加したイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(IP変性PET)を準備し、海島型複合繊維1本あたりの島数が12島となるような溶融複合用口金を用い、海成分/島成分の質量比25/75となるように圧力調整して口金温度設定260℃で吐出させた。そして、吐出された溶融ストランドを延伸することにより、繊度3.3dtexの海島型複合繊維を紡糸した。
【0055】
そして、海島型複合繊維を可動型ネット上に連続的に堆積し、表面の毛羽立ちを抑えるために加熱した金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型複合繊維をネットから剥離し、加熱した金属ロールとバックロールとの間を押圧下で通過させた。このようにして、目付32g/m2のウェブを製造した。
【0056】
得られたウェブを、クロスラッパー装置を用いて総目付380g/m2になるように12層に重ねた積重ウェブを作製し、針折れ防止油剤をスプレーで均一に付与した。次いで、積重ウェブを、両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチして絡合ウェブを得た。絡合ウェブの目付は500g/m2であった。そして、絡合ウェブを70℃、50%RH湿度下で30秒間処理して湿熱収縮させた。このようにして海島型複合繊維の繊維絡合体を製造した。
【0057】
そして、海島型複合繊維の繊維絡合体に、顔料を含まないポリウレタンのエマルジョンを含浸させた。ポリウレタンのエマルジョンは、100%モジュラスが3.0MPaの自己乳化型の非晶性ポリカーボネート系ポリウレタンを固形分として15質量%含有し、感熱ゲル化剤として硫酸アンモニウム2.5質量%を含むエマルジョンであった。そして、ポリウレタンのエマルジョンを含浸させた海島型複合繊維の繊維絡合体をニップロールのクリアランスを通過させることによりエマルジョンを搾液した。
【0058】
そして、海島型複合繊維の繊維絡合体に付与されたエマルジョンを湿熱処理することによりゲル化させた後、150℃で乾燥させて水系ポリウレタンを凝固させた。そして、水系ポリウレタンを凝固させた海島型複合繊維の繊維絡合体を95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理してPVAを溶解除去し、その後、乾燥した。このようにして、繊度0.2dtexの極細繊維を12本含む繊維束が3次元的に交絡した極細繊維の繊維絡合体を生成させた。このようにして、極細繊維の繊維絡合体の空隙に水系ポリウレタンを10質量%付与した人工皮革生機を得た。
【0059】
そして、人工皮革生機を厚み方向に2分割し、さらに、反スライス面をバフィングすることにより、立毛面を形成させた。そして、立毛面を形成された人工皮革生機にポリカーボネート系ポリウレタンの水分散液を固形分で付与割合0.7質量%になるようにグラビア塗布した後、135℃で乾燥した。そして、染料を含まない液流染色機で柔軟化処理を行い、さらに、乾燥及び整毛処理を行うことにより、スエード調の立毛人工皮革を得た。得られた立毛人工皮革は青みを帯びた黒色であり、目付け230g/m2、見かけ密度0.48g/cm3であった。
【0060】
そして、得られた立毛人工皮革を下記評価方法に従って評価した。
【0061】
〈色度〉
分光測色計(ミノルタ社製:CM-3700)を用いて、JISZ 8729に準拠して、切り出された立毛人工皮革の表面のL*a*b*表色系の色度を測定した。試験片から平均的な位置を万遍なく選択して測定された3点の色度の平均値を算出した。L*値が小さい程、濃色性が高い。
【0062】
〈色斑〉
有識評価者5名により、立毛人工皮革を50cm角に切出したサンプルを準備し、2色感の有無について判定させた。そして、2色感がないと判定した人数が多かった場合をA、2色感があると判定した人数が多かった場合をBとした。
【0063】
〈溶融紡糸性〉
A:溶融紡糸において、糸切れが少なく連続生産性があった。
B:溶融紡糸において、糸切れなどが頻発し、連続生産性がなかった。
【0064】
〈摩擦堅牢度〉
JIS L 0803 附属書 JAで規定された、綿,ナイロン,アセテート,毛,レーヨン,アクリル,絹,及びポリエステルの織布が並列するように織られた多繊交織布(交織1号)を準備した。そして、JIS L 0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に準じて、乾燥時及び湿潤時の摩擦堅牢度を測定した。
【0065】
具体的には、アトラスクロックメーター CM-5(ATLAS ELECTRIC DEVICES CO製)を用いて、次のようにして摩擦堅牢度を測定した。
【0066】
乾燥時の摩擦堅牢度の場合、乾燥した多繊交織布をガラス製の摩擦子に取り付けた。そして、摩擦子に取り付けられた多繊交織布を立毛人工皮革の断片の立毛面に荷重900gで接触させながら10往復させた。そして、多繊交織布を取り外して、多繊交織布の汚染された部分にセロテープ(登録商標)を貼り付け、1.5ポンドの円柱型荷重を1往復転がした後、多繊交織布からセロテープを剥がした。
【0067】
一方、湿潤時の摩擦堅牢度の場合、蒸留水に浸漬後余剰の水を除かれた、湿潤させた多繊交織布を、ガラス製の摩擦子に取り付けた。そして、摩擦子に取り付けられた多繊交織布を立毛人工皮革の断片の立毛面に荷重900gで接触させながら10往復させた。そして、多繊交織布を取り外して、60℃以下の環境で乾燥させた。そして、多繊交織布の汚染した部分にセロテープを貼り付け、1.5ポンドの円柱型荷重を1往復転がした後、多繊交織布からセロテープを剥がした。
【0068】
そして、乾燥時及び湿潤時の綿白布への色移りの変化を汚染用グレースケール(5級~1級)で判定した。各々の織布で汚染用グレースケールを用いて級数判定し、汚染の最も大きい素材の織布の級数を耐色移行性の級数とした。
【0069】
〈外観〉
立毛人工皮革から20cm×20cmの試験片を切りだした。そして、試験片の表面を目視したときの外観を以下の基準で判定した。
A:目視したときに高分子弾性体の粒状の白化した斑点、或いは黒い斑点が認められなかった。
B:目視したときに高分子弾性体の粒状の白化した斑点、或いは黒い斑点が認められた。
【0070】
〈触感〉
立毛人工皮革から20cm×20cmの試験片を切りだした。そして、試験片の表面の触感を以下の基準で判定した。
A:さらっとした触感であった。
B:表面がザラザラとした触感であった。
【0071】
結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
[実施例2]
実施例1において、島成分樹脂をカーボンブラック0.5質量%と有彩色顔料0.3質量%を添加した変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートに変更した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3(参考例)]
実施例1において、島成分樹脂をカーボンブラック5質量%と有彩色顔料3.3質量%を添加した変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートに変更した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
実施例1において、有彩色顔料1.0質量%を0.3質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
実施例1において、有彩色顔料1.0質量%を3.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
実施例1において、繊維絡合体として、繊度0.1dtexの極細繊維を12本含む繊維束を含む繊維絡合体を用いた以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例7]
実施例1において、繊維絡合体として、繊度0.3dtexの極細繊維を12本含む繊維束を含む繊維絡合体を用いた以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例8]
実施例1において、繊維絡合体として、カーボンブラック0.5質量%と有彩色顔料0.3質量%を添加した変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを含む、繊度0.3dtexの極細繊維を12本含む繊維束を含む繊維絡合体を用いた以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例9(参考例)]
実施例1において、極細繊維の繊度を1.5dtexに変更した以外は、同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例10]
実施例1において、極細繊維の繊維絡合体の空隙に水系ポリウレタンを10質量%付与した代わりに、1質量%付与した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例11]
実施例1において、極細繊維の繊維絡合体の空隙に水系ポリウレタンを10質量%付与した代わりに、15質量%付与した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例1]
実施例1において、極細繊維に有彩色顔料を添加しなかった以外は同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例2]
実施例3において、極細繊維に有彩色顔料を3.3質量%添加した代わりに、6.0質量%添加した以外は同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例3]
実施例1において、極細繊維の繊維絡合体の空隙に水系ポリウレタンを付与しなかった以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例4]
実施例1において、極細繊維の繊維絡合体の空隙に水系ポリウレタンを10質量%付与した代わりに、20質量%付与した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例5]
実施例1において、極細繊維の繊維絡合体の空隙に含浸させる水系ポリウレタンにカーボンブラック5質量%を添加して着色した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例6]
実施例1において、有彩色顔料として、フタロシアニン系青色有機顔料(銅フタロシアニンβ結晶 Pigment Blue 15:3)を4.5質量%添加したイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートに変更した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得た。そして、得られた立毛人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0089】
表1を参照すれば、本発明に係る実施例1~11で得られた立毛人工皮革は何れも、摩擦堅牢度がdryで4-5級、wetで3-4級以上であり、また、L*値14~32のような幅広い色の着色が可能であり、また、立毛面に色斑が見られず、外観に2色感が発現しなかった。一方、有彩色顔料を含まない比較例1で得られた立毛人工皮革は、外観に2色感があった。また、カーボンブラックと有彩色顔料との合計割合が11質量%であった比較例2で得られた立毛人工皮革は、溶融紡糸性に劣っていた。また、水系ポリウレタンを含浸付与されなかった比較例3で得られた立毛人工皮革は、表面がザラザラとした触感であった。また、水系ポリウレタンを20質量%含浸付与された比較例4で得られた立毛人工皮革は、外観に2色感が発現した。また、カーボンブラック5質量%を添加した水系ポリウレタンを含浸付与された比較例5で得られた立毛人工皮革は、ポリウレタンの黒斑点による2色感が見られた。また、カーボンブラックを用いることなく有彩色顔料のみを4.5質量%添加したイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを用いた比較例6は、紡糸性が劣り、また、白けた色目であって高級感に劣り、摩擦堅牢性も劣っていた。