IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

特許7550243マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット及びマグネトロンスパッタリング装置
<>
  • 特許-マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット及びマグネトロンスパッタリング装置 図1
  • 特許-マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット及びマグネトロンスパッタリング装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット及びマグネトロンスパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C23C14/35 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022573318
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012539
(87)【国際公開番号】W WO2022244443
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2021086124
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】青柳 利哉
(72)【発明者】
【氏名】新井 真
(72)【発明者】
【氏名】高澤 悟
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/60470(US,A1)
【文献】特表2011-508076(JP,A)
【文献】特表2020-527652(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192209(WO,A1)
【文献】特開2008-163451(JP,A)
【文献】米国特許第06495009(US,B1)
【文献】特開2011-179068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/65525(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内を臨む姿勢で設置されるターゲットのスパッタ面と背向する側に配置され、このスパッタ面と直交する方向にのびる軸線回りに夫々回転駆動される第1及び第2の各磁石ユニットを備え、
第1の磁石ユニットは、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第1の漏洩磁場を、ターゲット中心を内方に含むスパッタ面の前方空間に作用させるように構成され、
第2の磁石ユニットは、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第2の漏洩磁場を、ターゲット中心とターゲットの外縁部との間に位置するスパッタ面の前方空間に局所的に作用させるように構成され、
前記ターゲットのスパッタ面に近接離間する方向に前記第1の磁石ユニットと前記第2の磁石ユニットとを夫々移動させる駆動ユニットを備え、
前記駆動ユニットは、第1の磁石ユニットと第2の磁石ユニットとのいずれか一方をターゲットのスパッタ面に近接した位置に移動させるとき、いずれか他方を、磁場干渉が生じないターゲットのスパッタ面から離間した位置に移動させるように構成されることを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット。
【請求項2】
前記第1の磁石ユニットは、前記第1の漏洩磁場で封じ込められるプラズマの低圧力下での自己保持放電を不能にするように構成され、
前記第2の磁石ユニットは、前記第2の漏洩磁場で封じ込められるプラズマの低圧力下での自己保持放電を可能にするように構成されることを特徴とする請求項1記載のマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットと、カソードユニットのターゲットがその内部を臨む姿勢で設置されると共に被処理基板が配置される真空チャンバと、ターゲットに電力投入するスパッタ電源と、真空雰囲気中の真空チャンバ内へのスパッタガスの導入を可能とするガス導入手段と、真空チャンバ内でターゲットの前方を囲繞するように設置されて所定の電位が印加されるシールド板とを備えることを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項4】
前記真空チャンバ内に前記被処理基板が設置されるステージが設けられ、ステージにバイアス電力を投入するバイアス電源を備えることを特徴とする請求項3記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット及びこのカソードユニットを備えるマグネトロンスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程の中には、例えば、表面にビアホールやトレンチといった凹部を形成したシリコンウエハを被処理基板(以下、単に「基板」という)とし、その凹部内面(内側壁及び底面)を含む基板表面に銅膜を成膜する工程があり、このような成膜工程には、一般に、マグネトロンスパッタリング装置が利用されている。この種のマグネトロンスパッタリング装置は、基板が配置される真空チャンバを有し、真空チャンバにはカソードユニットが設けられている。カソードユニットは、基板に正対させて真空チャンバ内を臨む姿勢で設置されるターゲットと、ターゲットのスパッタ面と背向する側に配置される磁石ユニットとを備える。
【0003】
磁石ユニットとしては、通常、円筒状の輪郭を持つ単一のまたは複数個の磁石片を環状やハート状に列設した第1磁石体と、等間隔で第1磁石体の周囲を囲うように複数個の磁石片を列設した第2磁石体とを有して、同磁化に換算したときの体積を第1磁石体と第2磁石体とで同等(1:1)に設計したもの(所謂バランスマグネット)が用いられる。この磁石ユニットによって磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる漏洩磁場がターゲット中心とターゲットの外縁部との間に位置するスパッタ面の前方空間に局所的に作用する(例えば、特許文献1参照)。そして、真空雰囲気中の真空チャンバ内に、アルゴンガスなどの希ガス(スパッタガス)を所定流量で導入し、例えば、ターゲットに負の電位を持つ直流電力を投入すると、スパッタ面の前方空間にターゲット中心から偏在して無端状のプラズマが発生する。これにより、プラズマで電離されたスパッタガスのイオンでターゲットのスパッタ面がスパッタリングされる。スパッタリング中には、ターゲット中心を通る軸線回りに磁石ユニットを所定の回転数で回転駆動させることで凹部内面を含め基板全面に亘って被覆性よく銅膜を成膜することができる。
【0004】
上記のようにしてターゲットをスパッタリングすると、ターゲットの中央領域に実質的にスパッタリングにより侵食されない非侵食領域が残ることになる。非侵食領域には、スパッタリングの進行に伴って、スパッタ粒子が再付着して所謂リデポ膜が形成され、リデポ膜は、例えば、パーティクルの発生源となって製品歩留まりの低下を招来する要因となる。このため、所定の厚さ以上のリデポ膜が形成される前にこれを効率よく除去しなければならないという問題がある。一方、近年、配線パターンの更なる微細化に伴い、成膜対象としての凹部もより高アスペクト比のものとなっている。このため、高アスペクト比の凹部内面を含む基板全面に亘って被覆性よく成膜すること、即ち、カバレッジの向上の要求を満たすことができるようにする必要もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-269952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ターゲットの中央領域に残る非侵食領域に形成されるリデポ膜を定期的に除去できるという機能を持ちながら、高アスペクト比の凹部を持つ基板全面に亘って被覆性よく成膜することができるマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット及びマグネトロンスパッタリング装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットは、真空チャンバ内を臨む姿勢で設置されるターゲットのスパッタ面と背向する側に配置され、このスパッタ面と直交する方向にのびる軸線回りに夫々回転駆動される第1及び第2の各磁石ユニットを備え、第1の磁石ユニットは、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第1の漏洩磁場を、ターゲット中心を内方に含むスパッタ面の前方空間に作用させるように構成され、第2の磁石ユニットは、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第2の漏洩磁場を、ターゲット中心とターゲットの外縁部との間に位置するスパッタ面の前方空間に局所的に作用させると共に、第2の漏洩磁場で封じ込められるプラズマの低圧力下での自己保持放電を可能にするように構成されることを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記第1の磁石ユニットは、前記第1の漏洩磁場で封じ込められるプラズマの低圧力下での自己放電を不能にする構成を採用することができる。一方、前記ターゲットのスパッタ面に近接離間する方向に前記第1の磁石ユニットと前記第2の磁石ユニットとを夫々移動させる駆動ユニットを備える構成を採用することができる。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明のマグネトロンスパッタリング装置は、上記マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットと、カソードユニットのターゲットがその内部を臨む姿勢で設置されると共に被処理基板が配置される真空チャンバと、ターゲットに電力投入するスパッタ電源と、真空雰囲気中の真空チャンバ内へのスパッタガスの導入を可能とするガス導入手段と、真空チャンバ内でターゲットの前方を囲繞するように設置されて所定の電位が印加されるシールド板とを備えることを特徴とする。この場合、前記真空チャンバ内に前記被処理基板が設置されるステージが設けられ、ステージにバイアス電力を投入するバイアス電源を備える構成を採用することができる。
【0010】
以上によれば、ターゲットが真空チャンバ内を臨む姿勢でカソードユニットを設置した後、真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気する。真空雰囲気中の真空チャンバ内に、アルゴンガスなどの希ガス(スパッタガス)を所定流量で導入し、例えば、ターゲットに負の電位を持つ直流電力を投入する。すると、ターゲット中心を内方に含むスパッタ面の前方空間に無端状の第1のプラズマが発生すると共に、ターゲット中心とターゲットの外縁部との間に位置するスパッタ面の前方空間にターゲット中心から偏在して無端状の第2のプラズマが発生する。このとき、例えば、第1の磁石ユニットをプラズマの低圧力下での自己放電を不能にする構成としておけば、その後に、真空チャンバ内を真空排気した状態でスパッタガスの導入を停止すると、第1のプラズマが消失する一方で、第2のプラズマが低圧力下で自己保持放電する。そして、第2のプラズマ中のアルゴンイオンによって、第2のプラズマの投影面に略一致するスパッタ面の部分が主としてスパッタリングされ、スパッタリング中には、ターゲット中心を通る軸線回りに第2の磁石ユニットを所定の回転数で回転駆動させる(即ち、ターゲット中心を中心とする同一円周上を周回させる)ことで、成膜面がターゲット側を向く姿勢で配置された基板に、凹部内面を含めその全面に亘って被覆性よく成膜される(成膜工程)。なお、第2のプラズマの低圧力下で自己保持放電が安定するまでの間は、例えば、基板をシャッタなどで覆ってもよい。次に、ターゲットの中央領域に非侵食領域が残ることに起因して所定の厚さ以上のリデポ膜が形成されると、上記と同様、スパッタガスを所定流量で導入し、直流電力を投入して第1及び第2の各プラズマを発生させ、所定時間だけ維持する。これにより、第1のプラズマ中のアルゴンイオンによって、スパッタ面に形成されたリデポ膜もスパッタリングされることで除去される(除去工程)。
【0011】
このように本発明では、高アスペクト比の凹部内面を含む基板全面に亘って、例えば銅膜を被覆性よく成膜するには、プラズマの高密度化を実現できる自己保持放電技術を利用することが有利であり、このときの磁石ユニットとしては、電子閉じ込め能力の高い漏洩磁場を発生させるために、従来例とは異なり、同磁化に換算したときの体積を第1磁石体と第2磁石体とで異ならせた所謂アンバランスマグネットが用いられることに着目し、上記構成を採用したことで、ターゲットの中央領域に残る非侵食領域に形成されるリデポ膜を定期的に除去できるという機能を持ちながら、高アスペクト比の凹部を持つ基板全面に亘って被覆性よく成膜することができる。しかも、第1及び第2の各磁石ユニットによってリデポ膜を除去する第1のプラズマと基板への成膜に利用する第2のプラズマとを分けて発生させ、成膜工程で利用される第2のプラズマは、常時、同一円周上に位置するスパッタ面の部分をスパッタリングするようにしたため、除去工程後にスパッタ粒子の飛散分布が大幅に変化するといった不具合も生じない。
【0012】
ところで、第1の磁石ユニットと第2の磁石ユニットとは、磁場干渉が生じないように互いに間隔を置いて配置され(例えば、回転軸線回りに180°位相をずらして配置され)、成膜工程、除去工程共、第1の磁石ユニットと第2の磁石ユニットとを互いに同期して回転軸線回りに夫々回転駆動させることが好ましい。然し、成膜しようとする基板のサイズや凹部のアスペクト比などによっては、凹部に被覆性よく成膜し、リデポ膜を確実に除去する上で、磁場干渉が生じる虞がある程、第1の磁石ユニットと第2の磁石ユニットとを近づけて配置せざるを得ない場合がある。このような場合には、ターゲットのスパッタ面に近接離間する方向に第1の磁石ユニットと第2の磁石ユニットとを夫々移動させる駆動ユニットを備える構成を採用しておけばよい。
【0013】
これによれば、成膜工程では、駆動ユニットにより第1の磁石ユニットをターゲットのスパッタ面から離間した位置に移動させると共に、磁場干渉が生じないように、第2の磁石ユニットをターゲットのスパッタ面に近接した位置に移動させる。一方、除去工程では、駆動ユニットにより第2の磁石ユニットをターゲットのスパッタ面から離間した位置に移動させると共に、磁場干渉が生じないように、第1の磁石ユニットをターゲットのスパッタ面に近接した位置に移動させる。これにより、磁場干渉の影響を受けることなく、ターゲットの中央領域に残る非侵食領域に形成されるリデポ膜を定期的に除去できるという機能を持ちながら、高アスペクト比の凹部を持つ基板全面に亘って被覆性よく成膜することができる。この場合、第1の磁石ユニットは、スパッタリングによりリデポ膜を除去できれば、バランスマグネットとアンバランスマグネットのいずれであってもよい。
【0014】
また、上記マグネトロンスパッタリング装置にて、真空チャンバ内でターゲットの前方を囲繞するように設置されて所定の電位(例えば、+5~200V)が印加されるシールド板を設けておけば、除去工程の際には、第1のプラズマが不安定になることが回避でき、成膜工程の際には、ターゲットから飛散するスパッタ粒子のイオン化を促進することができてよい。また、スパッタリング中に、ステージにバイアス電力を投入すれば、イオン化したスパッタ粒子が積極的に基板に引き込まれることで、より確実に高アスペクト比の凹部を持つ基板全面に亘って被覆性よく成膜することができる。また、高アスペクト比の凹部を持つ基板全面に亘って被覆性よく成膜するために、真空チャンバ内にターゲットと基板との間に位置させてコリメータを設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、第1実施形態のマグネトロンスパッタ装置の構成を説明する断面図、(b)は、第1実施形態のカソードユニットの平面図。
図2】(a)及び(b)は、第2実施形態のカソードユニットの構成を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、表面にビアホールやトレンチといった凹部を形成したシリコンウエハを成膜対象物としての被処理基板(以下、単に「基板Sw」という)とし、基板Swの表面に、銅膜を成膜する場合を例に本発明のマグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニットCU及びこのカソードユニットCUを備えるマグネトロンスパッタリング装置SMの実施形態を説明する。以下において、「上」、「下」といった方向を示す用語は、マグネトロンスパッタリング装置SMの設置姿勢で示す図1を基準にする。
【0017】
図1(a)及び(b)を参照して、第1実施形態のカソードユニットCUを備える本実施形態のマグネトロンスパッタリング装置SMは、真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1には排気口11が開設され、排気管21の一端が接続されている。排気管21の他端は、ロータリーポンプ、クライオポンプやターボ分子ポンプ等で構成される真空ポンプ2に接続され、真空チャンバ1内を所定圧力に真空排気することができる。真空チャンバ1にはまた、ガス導入口12が開設され、ガス導入管31の一端が接続されている。ガス導入管31の他端は、マスフローコントローラなどで構成される流量調整弁32を介して図外のガス源に連通し、流量制御されたスパッタガスとしてのアルゴンガス(希ガス)を真空チャンバ1内に導入することができる。本実施形態では、ガス導入管31と流量調整弁32とでガス導入手段が構成される。
【0018】
真空チャンバ1の下部には、基板Swがその成膜面(凹部が形成された面)を上に向けた姿勢で設置されるステージ4が絶縁体4aを介して配置されている。ステージ4は、筒状の輪郭を持つ金属製の基台41と、基台41の上面に接着されるチャックプレート42とで構成され、スパッタリングによる成膜中、基板Swを静電チャックにより吸着保持することができる。静電チャックとしては、単極型や双極型等の公知のものが利用される。この場合、基台41に冷媒循環用の通路やヒータを組付け、成膜中、基板Swを所定温度に制御することができるようにしてもよい。ステージ4にはまた、バイアス電源43からの出力が接続され、スパッタリングによる成膜中、ステージ4にバイアス電力を投入することができる。なお、特に図示して説明しないが、後述の第2のプラズマの低圧力下で自己保持放電が安定するまでの間、基板Swへのスパッタ粒子の付着を防止するシャッタを設けるようにしてもよい。そして、真空チャンバ1の上部には、第1実施形態のカソードユニットCUが、ターゲット中心Tcと基板Swの中心Scとが同一の軸線Cl上に位置するようにステージ4上の基板Swに正対させて着脱自在に取付けられている。ターゲット5と基板Swとの間の距離(T-S間距離)は、スパッタ粒子の直進性を考慮して、200~1000mmの範囲に設定される。
【0019】
カソードユニットCUは、真空チャンバ1内を臨む姿勢で設置される銅製のターゲット5と、真空チャンバ1外に位置する、ターゲット5のスパッタ面51と背向する上側に配置される第1及び第2の各磁石ユニット6,6と、ターゲット5のスパッタ面51と直交する回転軸線Cl回りに第1の磁石ユニット6と第2の磁石ユニット6とを夫々回転駆動する駆動ユニット7とを備える。ターゲット5は、公知の方法で基板Swの輪郭に応じて平面視円形に製作されたものであり、ターゲット5の上面には、スパッタリングによる成膜中、ターゲット5を冷却するバッキングプレート52が接合されている。そして、ターゲット5をバッキングプレート52に接合した状態で絶縁体13を介して真空チャンバ1の上部に取り付けられる。ターゲット5としては、銅の他、アルミニウム、タンタル、チタンといった金属製のものを利用することもできる。また、ターゲット5には、公知のスパッタ電源Psからの出力が接続され、スパッタリングによる成膜時、例えば、負の電位を持つ直流電力(例えば、5kW~50kW)やパルス状の直流電力を投入することができる。
【0020】
図1(b)も参照して、第1の磁石ユニット6は、円板状のヨーク61aを備え、ヨーク61aの下面には、複数個の永久磁石片を円形やハート形の輪郭の環状に列設した第1磁石体61bと、等間隔で第1磁石体61bを囲うように複数個の永久磁石片を環状に列設した第2磁石体61cとがターゲット5側(それらの下面側)の極性を互いに変えて設けられている。この場合、第1磁石体61bと第2磁石体61cとは、同磁化に換算したときの体積を同等(1:1)に設計したものが用いられる(所謂バランスマグネット)。そして、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第1の漏洩磁場Mf1を、ターゲット中心Tcを内方に含むスパッタ面51の前方空間に作用させると共に、後述するように、第1の漏洩磁場Mf1で封じ込めたプラズマの低圧力下での自己放電を不能にするようにしている。一方、第2の磁石ユニット6は、円板状のヨーク62aを備え、ヨーク62aの下面には、円筒状の輪郭を持つ永久磁石片である第3磁石体62bと、径方向に等間隔を存して第3磁石体62bを囲うように複数個の永久磁石片を環状に列設した第4磁石体62cとがターゲット5側(それらの下面側)の極性を互いに変えて設けられている。この場合、第3磁石体62bは、第4磁石体62cと比較して同磁化に換算したときの体積が小さくなるように(例えば、1:4)に設計したものが用いられ(所謂アンバランスマグネット)、磁場の垂直成分がゼロとなる位置が無端状に閉じる第2の漏洩磁場Mf2を、ターゲット中心Tcとターゲット5の外縁部との間に位置するスパッタ面51の前方空間に局所的に作用させると共に、第2の漏洩磁場Mf2で封じ込めたプラズマの低圧力下での自己放電を可能にするようにしている。
【0021】
駆動ユニット7は、互いに同心に配置した中実の第1回転軸71と中空の第2回転軸72とを備える。第1回転軸71の下端には第1の磁石ユニット6が設けられ、第2回転軸72の下端には回転軸線Clに直交する方向(スパッタ面51に平行にのびる方向)にのびる支持アーム71aを介して第2の磁石ユニット6が設けられている。この場合、ヨーク61aの中心から径方向にオフセットさせた位置に第1回転軸71の下端が連結され、支持アーム71aは、径方向でオフセットさせた方向と逆方向にのびるように設けられ(即ち、第1の磁石ユニット6と第2の磁石ユニット6との磁場干渉が可及的に生じないように、回転軸線Cl回りに180°位相をずらしている)、第1磁石体61bと第2磁石体61c及び第3磁石体62bと第4磁石体62cの下面が、スパッタ面51に平行な同一平面上に位置するように設定されている。特に図示して説明しないが、支持アーム71aにこれを径方向に伸縮する公知の機構を設け、第1の磁石ユニット6の回転軸線Clからの距離を可変としてもよい。また、駆動ユニット7は、第1回転軸71に連結したモータM1と、第2の回転軸72に連結したモータM2とを備え、第1回転軸71及び第2回転軸72を所定の速度で回転駆動することができる。このとき、磁場干渉が生じないように、第1の磁石ユニット6と第2の磁石ユニット6との回転軸線Cl回りの位相が常時一定となるようにそれらの回転速度が設定される。
【0022】
真空チャンバ1には、ターゲット5の前方を囲繞するようにシールド板8が設置され、スパッタリングによる成膜中、シールド板8には、直流電源8aにより所定の電位が印加される。これにより、後述の除去工程の際には、プラズマ中で電離した銅原子がシールド板8で反跳することで、第1のプラズマが不安定になることが回避でき、成膜工程の際には、ターゲット5のスパッタ面51から基板Swに向けて飛散するスパッタ粒子(銅原子)のイオン化を促進することができてよい。真空チャンバ1外にはまたコイル9が設けられ、コイル用電源9aによりコイル9に通電することでターゲット5から基板Swに向かう垂直磁場(図示せず)を発生させて、ターゲット5から飛び出した原子のイオン化をより促進するようにしている。また、真空チャンバ1内にターゲット5と基板Swとの間に位置させてコリメータCmが配置されている。コリメータCmとしては、公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。以下に、第1実施形態のカソードユニットCUを備えるスパッタリング装置SMを用いた銅膜の成膜を説明する。
【0023】
ステージ4上に基板Swを配置した後、真空ポンプ2により真空チャンバ1内を所定圧力(例えば、10-5Pa)まで真空排気する。真空雰囲気中の真空チャンバ内1に、その全圧が10-2~1Paの範囲となるようにアルゴンガスを所定流量で導入し、ターゲット5に負の電位を持つ直流電力(5~50kW)を投入する。すると、ターゲット中心Tcを内方に含むスパッタ面51の前方空間に無端状の第1のプラズマが発生すると共に、ターゲット中心Tcとターゲット5の外周縁部との間に位置するスパッタ面51の前方空間にターゲット中心Tcから偏在して無端状の第2のプラズマが発生する。その後に、真空チャンバ1内を真空排気した状態でアルゴンガスの導入を停止すると、第1のプラズマが消失する一方で、第2のプラズマが低圧力下で自己保持放電する。そして、第2のプラズマ中のアルゴンイオンによって、第2のプラズマの投影面に略一致するスパッタ面51の部分が主としてスパッタリングされ、スパッタリング中には、回転軸線Cl回りに第1及び第2の各磁石ユニット6,6が所定の回転数で回転駆動される。これにより、凹部内面を含め基板Swの表面全体に亘って銅膜が被覆性よく成膜される(成膜工程)。次に、ターゲット5の中央領域に非侵食領域が残ることに起因して所定の厚さ以上のリデポ膜(図示せず)が形成されると、上記と同様、スパッタガスを所定流量で導入し、直流電力を投入して第1及び第2の各プラズマを発生させ、所定時間だけ維持する。これにより、第1のプラズマ中のアルゴンイオンによって、スパッタ面51に形成されたリデポ膜もスパッタリングされることで除去される(除去工程)。
【0024】
以上によれば、プラズマの高密度化を実現できる自己保持放電技術を利用することで凹部内面を含む基板Sw全面に亘って銅膜を被覆性よく成膜でき、また、ターゲット5の中央領域に残る非侵食領域に形成されるリデポ膜を定期的に除去できる。しかも、リデポ膜を除去する第1のプラズマと、基板Swへの成膜に利用する第2のプラズマとを分けて発生させ、成膜工程で利用される第2のプラズマは、常時、同一円周上に位置するスパッタ面51の部分をスパッタリングするようにしたため、除去工程後にスパッタ粒子の飛散分布が大幅に変化するといった不具合も生じない。その上、所定の電位が印加されるシールド板8を設けたため、除去工程の際には、第1のプラズマが不安定になることが回避でき、成膜工程の際には、ターゲット5から飛散するスパッタ粒子(銅原子)のイオン化を促進することができてよい。また、スパッタリング中に、ステージ4にバイアス電力を投入したため、イオン化したスパッタ粒子が積極的に基板Swに引き込まれることで、より確実に高アスペクト比(例えば、2~10)の凹部を持つ基板Sw全面に亘って被覆性よく成膜することができる。
【0025】
ここで、上記第1実施形態とは異なり、凹部に被覆性よく成膜すると共にリデポ膜を確実に除去する上で、磁場干渉が生じる虞がある程、第1の磁石ユニット6と第2の磁石ユニット6とを近づけて配置せざるを得ない場合がある。そこで、第2の実施形態のカソードユニットCUでは、ターゲット5のスパッタ面51に近接離間する方向(図2中、上下方向)に第1の磁石ユニット6と第2の磁石ユニット6とを夫々移動させる駆動ユニット70を備える。以下に、同一の部材または要素に同一の符号を付した図2を参照して第2の実施形態のカソードユニットCUの構成を具体的に説明する。
【0026】
第2実施形態のカソードユニットCUは、図2(a)及び(b)に示すように、バッキングプレート52に設けた支持フレーム701を備える。スパッタ面51に平行に配置される支持フレーム701の第1支持板部702には、第1回転軸71と第2回転軸72とが挿通する取付開口703が形成されている。第2回転軸72から上方に突出する第1回転軸71の部分には、第1回転軸71を支承する軸受711を備える第1駆動板712が連結され、第1駆動板712が、第1支持板部702に設けたエアシリンダや直動モータなどの駆動手段713により上下動されるようにしている。また、第1回転軸71の上端部分714はスプライン軸部として形成され、第1支持板部702に平行に配置される支持フレーム701の第2支持板部703に取り付けられたスリーブ状の第1ボールスプラインナット704に係合している。第1ボールスプラインナット704の外周面には第1歯車705が形成され、第1歯車705には、モータM3の出力軸に設けた第2歯車706が噛み合わされている。これにより、モータM3を回転駆動することで第1回転軸71が所定の速度で回転駆動される。この場合、第1回転軸71を第2回転軸72の内面に設けた軸受707で支持するようにしてもよい。
【0027】
また、第2回転軸72には、これを支承する軸受721を備える第2駆動板722が連結され、第2駆動板722が、第1支持板部702に設けたエアシリンダや直動モータなどの駆動手段723により上下動されるようにしている。また、取付開口703から上方に位置する第2回転軸72の上端部分がスプライン軸部(図示せず)として形成され、取付開口703にその下端を挿設したスリーブ状の第2ボールスプラインナット724に係合している。第2ボールスプラインナット724の外周面には第1歯車725が形成され、第1歯車725には、モータM4の出力軸に設けた第2歯車726が噛み合わされている。これにより、モータM4を回転駆動することで第1回転軸71が所定の速度で回転駆動される。
【0028】
以上によれば、ステージ4上に基板Swを配置した後、真空ポンプ2より真空チャンバ1内を所定圧力まで真空排気する。このとき、駆動ユニット70により第1の磁石ユニット6がバッキングプレート52から離間した位置に上昇されると共に、第2の磁石ユニット6がバッキングプレート52に近接する位置まで下降され、スパッタ面51の前方(図2中、下方空間)には第2の漏洩磁場Mf2のみが作用した状態とする。そして、真空雰囲気中の真空チャンバ1内に、その全圧が10-2~1Paの範囲となるようにアルゴンガスを所定流量で導入し、ターゲット5に負の電位を持つ直流電力(5~50kW)を投入する。すると、ターゲット中心Tcとターゲット5の外縁部との間に位置するスパッタ面51の前方空間にターゲット中心Tcから偏在して無端状の第2のプラズマのみが発生する。その後に、真空チャンバ1内を真空排気した状態でスパッタガスの導入を停止すると、第2のプラズマが低圧力下で自己保持放電する。これにより、第2のプラズマ中のアルゴンイオンによって、第2のプラズマの投影面に略一致するスパッタ面51の部分が主としてスパッタリングされ、スパッタリング中には、回転軸線Cl回りに第2の磁石ユニット6を所定の回転数で回転駆動させる。このとき、回転軸線Cl回りに第1の磁石ユニット6を所定の回転数で回転駆動させる。また、上記同様、シールド板8には、所定の電位(例えば、+5~200V)が印加され、コイル9に通電し(例えば、0.5~15A)、スパッタ面51に対して垂直な磁界を発生させる。また、ステージ4には、10~1000Wの範囲のバイアス電力が投入される。これにより、基板Swに、凹部内面を含めその全面に亘って被覆性よく成膜される(成膜工程)。
【0029】
次に、ターゲット5の中央領域に非侵食領域が残ることに起因して所定の厚さ以上のリデポ膜が形成されると、駆動ユニット70により第2の磁石ユニット6がバッキングプレート52から離間した位置に上昇されると共に、第1の磁石ユニット6がバッキングプレート52に近接する位置まで下降され、スパッタ面51の前方(図1中、下方空間)には第1の漏洩磁場Mf1が作用した状態とする。そして、ステージ4上にダミー基板(図示せず)を設置した状態で、上記と同様、その全圧が10-2~1Paの範囲となるようにアルゴンガスを所定流量で導入し、ターゲット5に負の電位を持つ直流電力(5~50kW)を投入する。このとき、シールド板8には、放電の安定性を図るため、所定の電位(例えば、+5~200V)を印加することが好ましい。これにより、第1のプラズマ中のアルゴンイオンによって、リデポ膜がスパッタリングされて除去される(除去工程)。この場合、第1の磁石ユニット6としては、スパッタリングによりリデポ膜を除去できるものであればよく、バランスマグネットとアンバランスマグネットのいずれであってもよい。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、被処理基板を表面にビアホールやトレンチといった凹部を形成したシリコンウエハとしたものを例に説明したが、これに限定されず、被処理基板の表面に所定の金属膜を膜厚の面内均一性よく成膜する場合にも本発明を広く適用することができる。また、上記実施形態では、2個の磁石ユニット6,6を設けたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、磁石ユニットを3個以上設けるものにも本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、第1及び第2の各磁石ユニット6,6として、永久磁石片を用いるものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、永久磁石片の一部を電磁石として、電磁石への通電を適宜制御して、第1及び第2の各磁石ユニット6,6をバランスマグネットとアンバランスマグネットとの間で適宜切り換えることができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
CU,CU…マグネトロンスパッタリング装置用のカソードユニット、SM…マグネトロンスパッタリング装置、Sw…基板(被処理基板)、1…真空チャンバ、31…ガス導入管(ガス導入手段の構成要素)、32…流量調整弁(ガス導入手段の構成要素)、4…ステージ、43…バイアス電源、5…ターゲット、51…スパッタ面、Ps…スパッタ電源、6…第1の磁石ユニット、6…第2の磁石ユニット、Cl…軸線、Mf1…第1の漏洩磁場、Mf2…第2の漏洩磁場、7,70…駆動ユニット、8…シールド板。
図1
図2