(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ドーパント及び導体材料
(51)【国際特許分類】
C07C 211/56 20060101AFI20240906BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240906BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C07C211/56 CSP
H01B1/12 Z
C08G61/12
(21)【出願番号】P 2020074089
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】岡本 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 忠法
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】池田 大次
(72)【発明者】
【氏名】横尾 健
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-197942(JP,A)
【文献】Nature,2019年,572,634-638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1’)で表されるラジカルカチオンと、対アニオンとを含むドーパント。
【化1】
[式(1’)中、R
1
、R
2
は同一又は異なって、置換基を有していても良いフェニル基を示し
、R
3
は下記式(sb-1
’)で示され
る基を
示す]
【化2】
(式(sb-1
’)中、
Ar
1
は1,4-ビフェニレン基を示し、Ar
13、Ar
14は同一又は異なって、置換基を有していても良いフェニル基を示す)
【請求項2】
前記対アニオンが、窒素アニオン、ホウ素アニオン、リンアニオン、又はアンチモンアニオンである、請求項1に記載のドーパント。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドーパントが、共役系高分子化合物にドープした構成を有する導体材料。
【請求項4】
共役系高分子化合物に、請求項1又は2に記載のドーパントをドープして、前記ドーパントが、共役系高分子化合物にドープした構成を有する導体材料を得る、導体材料の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の導体材料を備えた、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規のドーパント、及び前記ドーパントを用いて得られる導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
共役系高分子化合物は、軽量且つ成形性に優れる点を活かして様々な電子デバイス材料として利用されている。また、共役系高分子化合物は、ドーパントをドーピングすることで、高い導電性が付与される。
【0003】
ドーパントには、キャリアとしての電子を注入するドナー(すなわち、N型ドーパント)と、電子を引き抜き、ホール(正孔)を形成するアクセプター(すなわち、P型ドーパント)が存在する。
【0004】
代表的なアクセプターとしては、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)が挙げられる。例えば、非特許文献1には、F4-TCNQを、共役系高分子化合物としてのPBTTT-C16(ポリ[2,5-ビス(3-ヘキサデシルチオフェン-2-イル)チエノ[3,2-b]チオフェン])にドーピングして、P型導体性高分子を調製した例が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】R. Fujimoto et al. Org. Electron. 47(2017), 139-146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、F4-TCNQはドーピング効率が低いことがわかった。具体的には、F4-TCNQは、PBTTT-C16から電子を引き抜く力(つまり、酸化力)が弱く、その上、F4-TCNQはPBTTT-C16から引き抜いた電子を得てアニオンとなっても、当該アニオンは不安定であり、脱ドープしやすいことがわかった。
【0007】
また、ドーピング効率が低いドーパントは、多量に使用することでドーピング効率の低さをカバーできるが、ドーパントを多量に使用すると、導電パスが阻害される問題が新たに生じる。
【0008】
従って、F4-TCNQでは、高い導電性を有する導体材料を形成することが困難であることがわかった。
【0009】
従って、本開示に係る発明の目的は、高い導電性を有する導体材料を形成可能なドーパントを提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、前記ドーパントを用いて得られる、高い導電性を有する導体材料を提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、前記ドーパントを用いて、高い導電性を有する導体材料を製造する方法を提供することにある。
本開示に係る発明の他の目的は、高い導電性を有する導体材料を備えた電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表されるラジカルカチオンと対アニオンとで構成されたイオン化合物は、高い酸化力を有すること、前記ラジカルカチオンが共役系高分子化合物から電子を引き抜いた後は、前記対アニオンは、ラジカルカチオンとのイオン結合から解放され、共役系高分子化合物の結晶構造の隙間に安定的に格納されるため脱ドープし難いこと、対アニオンを格納することで共役系高分子化合物の結晶性が高められることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は下記式(1)で表されるラジカルカチオンと、対アニオンとを含むドーパントを提供する。
【化1】
[式(1)中、R
1~R
3は同一又は異なって、1価の芳香族基、又は下記式(r)で示される基を示す。尚、R
1~R
3の少なくとも1つは下記式(r)で示される基である。nはラジカルカチオンの価数を示し、式中の窒素原子の個数(n)に等しい]
【化2】
(式(r)中、Ar
1、Ar
2、Ar
3は同一又は異なって、2価の芳香族基を示し、Ar
4、Ar
5、Ar
6、Ar
7は同一又は異なって、下記式(sb)で表される置換基を有していてもよい1価の芳香族基を示す。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手が式(1)中の窒素原子に結合する)
【化3】
(式(sb)中、Ar
8、Ar
9は同一又は異なって、2価の芳香族基を示し、Ar
10、Ar
11、Ar
12、Ar
13は同一又は異なって、1価の芳香族基を示す。s、tは同一又は異なって、0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手が1価の芳香族基に結合する)
【0012】
本発明は、また、前記対アニオンが、窒素アニオン、ホウ素アニオン、リンアニオン、又はアンチモンアニオンである前記ドーパントを提供する。
【0013】
本発明は、また前記ドーパントが、共役系高分子化合物にドープした構成を有する導体材料を提供する。
【0014】
本発明は、また、共役系高分子化合物に、前記ドーパントをドープして、前記ドーパントが、共役系高分子化合物にドープした構成を有する導体材料を得る、導体材料の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、また、前記導体材料を備えた電子デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示のドーパントは酸化力に優れ、且つ脱ドープし難い。そのため、本開示のドーパントを共役系高分子化合物にドープすれば、伝導度が高い導電材料が得られる。
また、前記ドーパントを共役系高分子化合物にドープすると、共役系高分子化合物の結晶性が高められ、高い安定性(熱、水、電気等に対する安定性)を有する導体材料が得られる。
従って、本開示のドーパントによれば、高い導電性と高い安定性を兼ね備える導体材料が実現できる。
本開示のドーパントを用いて得られる導体材料は、高い導電性と高い結晶性とを兼ね備える。また、前記導体材料は柔軟性に富む。そして、簡便な方法で成膜することができ、大面積化も容易である。従って、前記導体材料を使用すれば、コストを抑制しつつ、軽量、薄型、フレキシブル性、大面積等を兼ね備える電子デバイスが実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例及び比較例で得られた導体材料の紫外可視近赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ドーパント]
本開示のドーパントは、下記式(1)で表されるラジカルカチオンと、対アニオンとを含むイオン化合物(塩、若しくはイオン対ともいう)である。前記ドーパントは金属化合物又は金属錯体であってもよい。
【0019】
前記ドーパントはP型ドーパントとして作用する。そして、前記ドーパントは、複数のラジカルカチオンを含むため酸化力に優れ、共役系高分子化合物から電子を引き抜きやすい。すなわち、ドーピング効率に優れる。
【0020】
また、前記ラジカルカチオンが共役系高分子化合物から電子を引き抜いて中性の化合物に変換されると、前記対アニオンは、ラジカルカチオンとのイオン結合から解放される。そして、対アニオンは、共役系高分子化合物の結晶構造の隙間に格納される。これにより、共役系高分子化合物の結晶性が高められ、安定性が向上する。
【0021】
(ラジカルカチオン)
前記ラジカルカチオンは、下記式(1)で表される。
【化4】
[式(1)中、R
1~R
3は同一又は異なって、1価の芳香族基、又は下記式(r)で示される基を示す。尚、R
1~R
3の少なくとも1つは下記式(r)で示される基である。nはラジカルカチオンの価数を示し、式中の窒素原子の個数(n)に等しい]
【化5】
(式(r)中、Ar
1、Ar
2、Ar
3は同一又は異なって、2価の芳香族基を示し、Ar
4、Ar
5、Ar
6、Ar
7は同一又は異なって、1価の芳香族基を示す。前記1価の芳香族基は、下記式(sb)で表される置換基を有していてもよい。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手が式(1)中の窒素原子に結合する)
【化6】
(式(sb)中、Ar
8、Ar
9は同一又は異なって、2価の芳香族基を示し、Ar
10、Ar
11、Ar
12、Ar
13は同一又は異なって、1価の芳香族基を示す。s、tは同一又は異なって、0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手が1価の芳香族基に結合する)
【0022】
m,n,s,tは、それぞれ0以上の整数を示し、例えば0~5の整数、好ましくは0~3の整数、特に好ましくは0~2の整数である。m,n,s,tの値が大きくなると、共役系高分子化合物へのドーピング効率が向上し、ドーピング後の共役系高分子化合物の結晶性が向上する傾向がある。
【0023】
m,n,s,tがそれぞれ2以上の整数である場合、カッコ内に示される基は複数個存在することになるが、これらの基はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
前記1価の芳香族基は、芳香族化合物の構造式から1個の水素原子を除いた基[より詳細には、芳香族化合物を構成する炭素原子(芳香族化合物が芳香族複素環の場合は、炭素原子或いはヘテロ原子)に結合する水素原子の1個を除いた基]である。
【0025】
また、前記2価の芳香族基は、芳香族化合物の構造式から2個の水素原子を除いた基[より詳細には、芳香族化合物を構成する炭素原子(芳香族化合物が芳香族複素環の場合は、炭素原子或いはヘテロ原子)に結合する水素原子の2個を除いた基]である。
【0026】
前記芳香族化合物には、芳香族炭化水素と芳香族複素環が含まれる。
【0027】
前記芳香族炭化水素には、例えば、ベンゼン、ナフタレン等の炭素数6~14の芳香族炭化水素環や、前記芳香族炭化水素環の2個以上が単結合又は連結基を介して結合した化合物が含まれる。
【0028】
前記連結基としては、例えば、C1-5アルキレン基、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-CONH-)、カーボネート結合(-OCOO-)等を挙げることができる。
【0029】
前記芳香族炭化水素としては、なかでも、下記式(ar-1)~(ar-6)で示される化合物から選択される少なくとも1種が好ましい。
【化7】
【0030】
前記芳香族複素環としては、例えば、環を構成する原子として、炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子、リン原子等)を有する単環の芳香族複素環や、前記単環の芳香族複素環に1個又は2個以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合環が挙げられる。具体的には、ピロール、フラン、チオフェン、ホスホール、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソインドール、イソベンゾフラン、ベンゾホスホール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイソオキサゾール、インダゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾトリアゾール、プリン、ピリジン、ホスフィニン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、1,2,4,5-テトラジン、1,2,3,4-テトラジン、1,2,3,5-テトラジン、ヘキサジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、フタラジン、アクリジン、4aH-フェノキサジン、カルバゾール等が挙げられる。
【0031】
前記1価の芳香族基及び2価の芳香族基は置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、C1-5アルキル基、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-5アルコキシ基、C1-5アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、C1-5アルコキシカルボニル基)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基(例えば、モノ又はジC1-5アルキルアミノ基、モノ又はジC1-5アシルアミノ基)等が挙げられる。前記置換基としては、なかでもハロゲン原子が好ましく、特に臭素原子が好ましい。
【0032】
また、1価の芳香族基は、前記置換基以外にも、例えば下記式(sb-1)で表される基を有していてもよい。下記式中のAr
13、Ar
14における1価の芳香族基としては上記と同様の例が挙げられる。
【化8】
[式中、Ar
13、Ar
14は同一又は異なって、1価の芳香族基を示す。式中の波線を付した結合手が芳香族化合物を構成する炭素原子(芳香族化合物が芳香族複素環の場合は、炭素原子或いはヘテロ原子)に結合する]
【0033】
(対アニオン)
前記対アニオンは、1価又は2価以上のアニオンであり、例えば、窒素アニオン、ホウ素アニオン、リンアニオン、アンチモンアニオン等が挙げられる。
【0034】
前記対アニオンとしては、なかでも1価の対アニオンが好ましい。また、前記対アニオンとしては、なかでも窒素アニオンが好ましい。
【0035】
従って、前記対アニオンとしては、下記式(2)で表されるアニオンが好ましい。
【化9】
(式中、R
6、R
7は同一又は異なって電子吸引性基を示す。R
6、R
7は互いに結合して、隣接する窒素原子と共に環を形成していてもよい)
【0036】
前記電子吸引性基としては、例えば、ニトロ基、シアノ基、(C1-5)アシル基、カルボキシル基、(C1-5)アルコキシカルボニル基、ハロ(C1-5)アルキル基、スルホ基、(C1-5)アルキルスルホニル基、ハロスルホニル基、ハロ(C1-5)アルキルスルホニル基などが挙げられる。
【0037】
R6、R7としては、なかでも、ハロスルホニル基、ハロアルキルスルホニル基、又はR6とR7が互いに結合してスルホニル-ハロアルキレン-スルホニル基が好ましい。
【0038】
前記ハロスルホニル基としては、例えば、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基等が挙げられる。
【0039】
前記ハロアルキルスルホニル基としては、例えば、フルオロアルキルスルホニル基(例えば、フルオロメチルスルホニル基、トリフルオロエチルスルホニル基、トリフルオロプロピルスルホニル基、ペンタフルオロプロピルスルホニル基等のフルオロC1-5アルキルスルホニル基;トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、ペンタフルオロプロピルスルホニル基、ノナフルオロブチルスルホニル基などのパーフルオロC1-5アルキルスルホニル基)、クロロアルキルスルホニル基(例えば、クロロメチルスルホニル基等のクロロC1-5アルキルスルホニル基)などが挙げられる。
【0040】
前記R6とR7が互いに結合して形成するスルホニル-ハロアルキレン-スルホニル基におけるハロアルキレン基としては、例えば、フルオロアルキレン基(例えば、テトラフルオロエチレン基、ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジイル基、オクタフルオロブタン-1,4-ジイル基等のパーフルオロC1-5アルキレン基)、クロロアルキレン基(例えば、パークロロC1-5アルキレン基等)が挙げられる。
【0041】
前記対アニオンとしては、とりわけ、下記式(2a)で表されるアニオンが好ましい。
【化10】
(式中、R
8、R
9は同一又は異なってハロゲン原子、又はハロアルキル基を示す。R
8、R
9は互いに結合して、ハロアルキレン基を形成していてもよい)
【0042】
前記ハロアルキル基としては、例えば、フルオロアルキル基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基等のフルオロC1-5アルキル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基などのパーフルオロC1-5アルキル基)、クロロアルキル基(例えば、クロロメチル基等のクロロC1-5アルキル基)などが挙げられる。
【0043】
前記ハロアルキレン基としては、例えば、フルオロアルキレン基(例えば、テトラフルオロエチレン基、ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジイル基、オクタフルオロブタン-1,4-ジイル基等のパーフルオロC1-5アルキレン基)、クロロアルキレン基(例えば、パークロロC1-5アルキレン基等)が挙げられる。
【0044】
(ドーパントの製造方法)
式(1)で表されるラジカルカチオンと、対アニオンを含むドーパントは、例えば、下記工程を経て製造することができる。
[1] 下記式(1’)で表される化合物を酸化剤と反応させて、前記式(1)で表されるラジカルカチオンを含むイオン化合物(1)を形成する。
[2] イオン化合物(1)を、対アニオンを含むイオン化合物(2)と反応させる。
【化11】
[式(1’)中、R
1~R
3は同一又は異なって、1価の芳香族基、又は下記式(r’)で示される基を示す。尚、R
1~R
3の少なくとも1つは下記式(r’)で示される基である]
【化12】
(式(r’)中、Ar
1、Ar
2、Ar
3は同一又は異なって、2価の芳香族基を示し、Ar
4、Ar
5、Ar
6、Ar
7は同一又は異なって1価の芳香族基を示す。前記1価の芳香族基は、下記式(sb’)で表される置換基を有していてもよい。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手が式(1’)中の窒素原子に結合する)
【化13】
(式(sb’)中、Ar
8、Ar
9は同一又は異なって、2価の芳香族基を示し、Ar
10、Ar
11、Ar
12、Ar
13は同一又は異なって、1価の芳香族基を示す。s、tは同一又は異なって、0以上の整数を示す。式中の波線を付した結合手が1価の芳香族基に結合する)
【0045】
工程[1]の反応に付す、上記式(1’)で表される化合物は、例えば、トリアリールアミンのハロゲン化物を、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)等の酸化剤を使用してカップリング反応(例えば、Sholl型カップリング反応)を行うことによって製造することができる。
【0046】
前記酸化剤としては、例えば、NOPF6、三塩化鉄(FeCl3)、ヨウ素、TFSI(トリフルオロメタンスルホニルイミド)塩等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
前記酸化剤の使用量は、式(1’)で表される化合物1モルに対して、例えば1~5モル程度である。
【0048】
工程[1]の反応は溶媒の存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;1,2-ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;酢酸エチルなどのエステル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
工程[1]の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0050】
工程[1]の反応温度は、例えば-5~30℃程度である。反応時間は、例えば0.5~5時間程度である。
【0051】
工程[2]の反応は、イオン化合物(1)を構成するアニオンを、所望の対アニオン(例えば、窒素アニオン)に交換する反応である。
【0052】
対アニオンを含むイオン化合物(2)としては、例えば、対アニオン(X-)と1価の金属イオンとを含むイオン化合物が挙げられる。また、前記金属イオンとしては、例えば、Li+、Na+等のアルカリ金属;Mg2+、Ca2+等のアルカリ土類金属;Cu+、Ag+、Au+などの遷移金属が挙げられる。
【0053】
工程[2]の反応は溶媒の存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;水;メタノール等のアルコール系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;THF等のエーテル系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素系溶媒等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
工程[2]の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0055】
工程[2]の反応温度は、例えば0~30℃程度である。反応時間は、例えば0.5~10時間程度である。
【0056】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0057】
[導体材料]
本開示の導体材料は、上記ドーパントが、共役系高分子化合物(好ましくは、結晶化した共役系高分子化合物)にドープした構成を有する。
【0058】
前記導体材料は、好ましくはp型導体材料である。また、前記導体材料は、好ましくは、上記ドーパントの対アニオン(X-)が、共役系高分子化合物の結晶構造の隙間に格納された構成を有する、導電性複合材料である。
【0059】
上記ドーパントの式(1)で表されるラジカルカチオンは酸化力に優れ、共役系高分子化合物から電子を引き抜きやすい。そして、結晶構造を有する共役系高分子化合物に上記ドーパントをドープすると、結晶構造を有する共役系高分子化合物から電子が引き抜かれ、荷電担体としてのホールが発生する。これにより、導電性が発現する。そして、前記ラジカルカチオンは共役系高分子化合物から引き抜かれた電子を得て、中性の化合物に変換される。この中性の化合物は、共役系高分子化合物の系外に除かれる。
【0060】
一方、上記ドーパントの対アニオンは、式(1)で表されるラジカルカチオンが中性の化合物に変換されると、前記ラジカルカチオンとのイオン結合から解放され、共役系高分子化合物の結晶構造の隙間に安定的に格納される。これにより、脱ドープが抑制され、共役系高分子化合物の結晶性が高められる。
【0061】
前記導体材料は、高い導電性と高結晶性を示す。前記導体材料の導電度は、例えば500S/cm以上、好ましくは1000S/cm以上、特に好ましくは1200S/cm以上、最も好ましくは1500S/cm以上である。そのため、電子デバイス材料や、二次電池の電極材料として好適に使用することができる。
【0062】
また、前記導体材料は柔軟性に富む。そして、簡便な方法で成膜することができ、大面積化も容易である。
【0063】
従って、前記導体材料は、コストを抑制しつつ、軽量、薄型、フレキシブル性、大面積等を備える電子デバイスの製造に好適に使用することができる。
【0064】
前記導体材料は、共役系高分子化合物に上記ドーパントをドープすることにより製造することができる。
【0065】
前記共役系高分子化合物(オリゴマーを含む)は、好ましくはπ共役系高分子化合物であり、例えば、ポリアセチレン類(trans-ポリアセチレンなど);ポリパラフェニレン類(ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンなど);ポリピロール類(ポリ(ピロール-2,5-ジイル)など);ポリチオフェン類[例えば、ポリ(3-メチルチオフェン-2,5-ジイル)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)、ポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-5,5-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT)、ポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-3,6-ビス(チオフェン-5-イル)-2,5-ジオクチル-2,5-ジヒドロピロロ[3,4]ピロール-1,4-ジオン](PCBTDPP)、ポリ[2,6-(4,4-ビス-(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b;3,4-b’]ジチオフェン)-alt-4,7-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)、PBTTT-C16(ポリ[2,5-ビス(3-ヘキサデシルチオフェン-2-イル)チエノ[3,2-b]チオフェン]、PBTTT-C14(ポリ[2,5-ビス(3-テトラデシルチオフェン-2-イル)チエノ[3,2-b]チオフェン]など];ポリトリアリールアミン類[例えば、ポリ[ビス(フェニル-4-イル)-(2,4,6-トリメチルフェニル)-アミン](PTAA)、ポリ[ビス(フェニル-4-イル)-(4-ブチルフェニル)-アミン](PolyTPD)など];ポリフルオレン類[例えば、ポリ[9,9-ジオクチルフルオレン-co-ビス-N,N’-(4-ブチルフェニル)-ビス-N,N’-フェニル-1,4-フェニレンジアミン](PFB)など]などの有機材料;炭素材[例えば、フラーレン類(例えば、C60フラーレン、C70フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C84フラーレンなど)、グラフェン類(グラフェン、酸化グラフェンなど)、カーボンナノチューブ類(単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)など)など]などの無機材料が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】
前記共役系高分子化合物としては、なかでも、複素環式共役系高分子化合物が、高い結晶性を備える点において好ましく、特にヘテロ原子として窒素原子、又は硫黄原子を含む複素環式共役系高分子化合物が好ましく、特に硫黄原子を含む複素環を含む式共役系高分子化合物が好ましく、とりわけ、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、チエノチオフェン環などのチオフェン環構造を含む共役系高分子化合物が好ましい。
【0067】
更に、前記共役系高分子化合物としては、側鎖を備える複素環式共役系高分子化合物が好ましい。そして、前記側鎖としては、なかでも、直鎖又は分岐鎖状のC6-18アルキル基を有することが、上記ドーパントの対アニオンを安定的に格納することができ、結晶性を一層向上させる効果が得られる点で好ましい。
【0068】
前記共役系高分子化合物としては、下記式(3)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物がとりわけ好ましい。
【化14】
(式中、R
a~R
dは同一又は異なって、水素原子又は炭素数6~18のアルキル基を示す)
【0069】
共役系高分子化合物に、上記ドーパントをドープする方法としては、特に制限がないが、例えば、共役系高分子化合物表面(例えば、共役系高分子化合物からなる、厚み10~500nm程度のフィルム、シート、塗膜等)に、上記ドーパントを含む塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0070】
前記ドーパントを含む塗膜を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などのドライプロセスによる方法や、ドーパントを溶媒に溶解及び/又は分散させた組成物を共役系高分子化合物の表面に塗布し、その後、乾燥することにより溶媒を除去する、ウェットプロセスによる方法が挙げられる。
【0071】
前記ウエットプロセスにおいて使用できる溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;水;メタノール等のアルコール系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;THF等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
前記ウエットプロセスにおける組成物中のドーパント濃度(固形分濃度)は、例えば0.001~20重量%、好ましくは0.1~5重量%、特に好ましくは0.6~2重量%である。
【0073】
前記ウエットプロセスにおける組成物の塗布方法は特に制限されず、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、キャスト法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等が採用できる。
【0074】
前記ウエットプロセスにおける乾燥方法としては、自然乾燥、加熱乾燥等を採用できる。また、必要に応じて、減圧下で乾燥してもよい。
【0075】
また、乾燥後、必要に応じてアニール処理を施してもよい。
【0076】
[電子デバイス]
本開示の電子デバイスは、上記導体材料を備えるものである。
【0077】
前記電子デバイスには、例えば、スイッチング素子、ダイオード、トランジスタ、光電変換デバイス、太陽電池、及び光電変換素子(例えば、太陽電池素子、有機エレクトロルミネッセンス素子など)等が挙げられる。
【0078】
前記電子デバイスは上記導体材料を備えるため、高導電性及び高安定性(熱、水、電気等に対する安定性)を兼ね備える。また、軽量化、フレキシブル化、薄型化、大面積化を安価に実現可能である。
【0079】
以上、本開示に係る発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示に係る発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示に係る発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0081】
実施例1(ドーパントの調製)
N,N-ジメチルホルムアミドの存在下、トリフェニルアミン(0.25M)とN-ブロモスクシンイミド(2.0等量)を、0℃で4時間反応させて、下記式(I)で表される化合物を得た。
【0082】
【0083】
ジクロロメタン/メタンスルホン酸(9/1(v/v))の存在下、式(I)で表される化合物(0.25M)と、DDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン;1.5等量)を、0℃で30分反応させて、下記式(II)で表される化合物を得た(収率:78%)。
【0084】
【0085】
ジクロロメタンの存在下、式(II)で表される化合物(0.03M)と、ヘキサフルオロリン酸ニトロソニウム(2.0等量)を-40℃で混合し、その後、25℃まで自然昇温させ、25℃において1時間反応させて、下記式(III)で表される化合物を得た(収率:32%)。
【0086】
【0087】
アセトニトリルの存在下、式(III)で表される化合物(0.01M)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(100.0等量)を、25℃において1時間反応させて、下記式(IV)で表される化合物(以後、「化合物(IV)」と称する場合がある)を得た(収率:79%)。
【0088】
尚、得られた化合物の構造は、有機微量元素分析装置(商品名「MICRO CORDER JM10」、(株)ジェイ・サイエンス・ラボ製)を使用した元素分析により確認した。結果を以下に示す。
C:35.06%、H:1.93%、N:4.12%(測定値、試料重量:1.0266mg)
C:35.21%、H:1.77%、N:4.11%、F:16.71%(理論値)
【0089】
【0090】
実施例2(ドーパントが共役系高分子化合物にドープしてなる導体材料の調製)
濃度1質量%のPBTTT-C14(下記式で表される繰り返し単位を有する共役系高分子化合物)のo-ジクロロベンゼン溶液をガラス基板上にスピンコート(500rpm×5秒、その後、2000rpm×60秒)し、その後、180℃でアニール処理することで、平均厚み50nmの塗膜を得た。
【0091】
【0092】
得られた塗膜を、実施例1で得られた化合物(IV)のアセトニトリル溶液(濃度1.5ミリモル/L)に、60℃で10分間浸漬した。浸漬後、スピンドライ(1500rpm×30秒)し、更に80℃で10分乾燥させて、導体材料(1)を得た。
【0093】
比較例1(ドーパントが共役系高分子化合物にドープしてなる導体材料の調製)
トーパントとして、化合物(IV)に代えて、下記式で表されるF4-TCNQを使用した以外は実施例2と同様にして導体材料(2)を得た。
【0094】
【0095】
(ドーピング効率評価)
PBTTT-C14と、実施例及び比較例で得られた導体材料(1)、(2)について、紫外可視近赤外分光光度計(JASCO製)を用いて、200~2700nmの範囲で、1nm間隔で、紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)吸収スペクトルを測定した。結果を
図1に示す。
【0096】
図1より、導体材料(1)は導体材料(2)に比べて、PBTTT-C14(中性)に由来する500nm付近のピークが大きく減少し、PBTTT-C14カチオンに由来する1200~2500nm付近の吸収が大きく増大している。そのため、導体材料(1)は導体材料(2)に比べてドーピング効率が高いことがわかる。
【0097】
(結晶性評価)
PBTTT-C14と、実施例1で得られた導体材料(1)(=PBTTT-C14に化合物(IV)をドープして得られた導体材料)について、それぞれX線回折装置(商品名「SmartLab」、Rigaku製)を用いて、ポリマー主鎖間の距離(πスタック距離)を測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0098】
【0099】
表1より、導体材料(1)はPBTTT-C14に比べて、ポリマー主鎖間の距離(具体的には、隣接するチオフェン環の距離)が短縮されていることがわかる。このことから、PBTTT-C14は、化合物(IV)をドープすることで結晶性が高まることがわかる。
【0100】
(伝導度評価)
ガラス基板に代えて、4端子測定用近電極が付いたガラス板を用いた以外は実施例2と同様にして導体材料(1’)を得た。
また、ガラス基板に代えて、4端子測定用近電極が付いたガラス板を用いた以外は比較例1と同様にして導体材料(2’)を得た。
得られた導体材料(1’)、導体材料(2’)を、デジタルマルチメータ装置(商品名「Keiythley 2000 digital multimeter」、Keiythley社製)を用いて、測定条件:電流input 1μAで伝導度を測定した。
その結果、導体材料(1’)の伝導度は、1500S/cmであった。
また、導体材料(2’)の伝導度は、130S/cmであった。