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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】共振器特性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20240906BHJP
   G01R 27/26 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G01R27/02 R
G01R27/26 T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020169744
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061671
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】戸村 崇
(72)【発明者】
【氏名】廣川 二郎
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
(72)【発明者】
【氏名】木寺 信隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 大輔
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0243762(US,A1)
【文献】TOMURA, Takashi; HIROKAWA, Jiro,“Anisotropic Conductivity Measurements by Two Kinds of Multimode Rectangular Plate-Laminated Cavities”,IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES,2020年09月10日,pp. 170-178,DOI: 10.1109/TMTT.2020.3019401
【文献】米田諭;白木康博;佐々木雄一;岡尚人;大橋英征,“2.4GHz帯向けFQ-SIW共振器装荷非接触型電磁波シールド構造”,電子情報通信学会論文誌B 早期公開論文 2017WFP0002 [online] ,電子情報通信学会,2018年04月04日,pp. 1-9,DOI:10.14923/transcomj.2017WFP0002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器寸法に対する感度係数および不確かさを評価し、前記感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する第1のステップと、
前記第1のステップで決定された前記共振器寸法を有する共振器の通過特性を測定し、前記共振器の共振周波数と無負荷Q値を算出する第2のステップと、
前記第2のステップで算出された前記共振周波数と前記共振器寸法の実測値とを用いて、前記共振器の比誘電率を算出する第3のステップと、
前記第2のステップで算出された前記無負荷Q値と、前記第3のステップで算出された前記比誘電率と、前記共振器寸法の実測値と、を用いて、前記共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出する第4のステップと、を備える、
共振器特性測定方法。
【請求項2】
前記共振器は直方体状の共振器であり、前記共振器の幅方向の寸法をa、厚さ方向の寸法をb、長手方向の寸法をdとした場合、
前記第1のステップにおいて、比誘電率と寸法aの感度係数式、比誘電率と共振周波数の感度係数式、寸法dと寸法aの感度係数式、及び寸法dと共振周波数の感度係数式を作成し、
前記無負荷Q値の標準不確かさ、前記寸法a、b、dの標準不確かさ、前記共振周波数の標準不確かさ、及び前記比誘電率の標準不確かさを仮定し、
前記寸法a、b、dを変化させたときの感度係数を算出する、
請求項1に記載の共振器特性測定方法。
【請求項3】
前記第1のステップにおいて、前記無負荷Q値の誤差が所定の値以下になるように隣接共振周波数の間隔を設定した後、前記感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する、請求項1または2に記載の共振器特性測定方法。
【請求項4】
前記隣接共振周波数の間隔の設定は、
二共振器以上の共振器並列回路を仮定し、
共振周波数と無負荷Q値Quを与えて通過特性を計算し、
前記通過特性から無負荷Q値Qumを計算し、
前記Quと前記Qumの差が所定の値以下になるように隣接共振周波数の間隔を設定することで実施される
請求項3に記載の共振器特性測定方法。
【請求項5】
前記第2のステップにおいて、互いに対向するように配置された第1及び第2の導体基板と、前記第1の導体基板と前記第2の導体基板との間に配置された金属ビアと、を備え、前記第1の導体基板と前記第2の導体基板と前記複数の金属ビアとで囲まれた空間が導波路として機能する共振器の通過特性を測定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の共振器特性測定方法。
【請求項6】
前記第3のステップにおいて、
誘電率εを未知数とし、共振器寸法a、b、d、共振周波数fmnl、共振モード次数m、l、透磁率μを既知数とし、
前記共振器寸法の実測値と下記の一次方程式とを用いて前記共振器の比誘電率を算出する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の共振器特性測定方法。
【数1】
ただし、前記共振器は直方体状の共振器であり、aは前記共振器の幅方向の寸法、bは厚さ方向の寸法、dは長手方向の寸法であり、n=0であり、、x、x、xを下記のように定義する。
【数2】
【請求項7】
前記第4のステップにおいて、
前記共振器の広壁面の導電率σ、狭壁面の導電率σr,t、及び誘電正接tanδを未知数とし、共振器寸法a、b、d、透磁率μ、波数k、自由空間のインピーダンスη、角周波数ω、無負荷Q値Qu、及び共振モード次数lを既知数とし、
下記の一次方程式を用いて、前記共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の共振器特性測定方法。
【数3】
ただし、前記共振器は直方体状の共振器であり、aは前記共振器の幅方向の寸法、bは厚さ方向の寸法、dは長手方向の寸法であり、d+ad )×[2π /{(kad) bη}]×(ωμ/2) 1/2 、a2lb+2bd )×[2π /{(kad) bη}]×(ωμ/2) 1/2 であり、x、x、xを下記のように定義する。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共振器特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯などの高周波帯で用いられる共振器の一つとして導波管励振共振器がある。導波管励振共振器は、例えば、高周波帯におけるアンテナや導波路として使用できる。特許文献1には、積層型導波管線路に関する技術が開示されている。また、特許文献2には、被測定導体板の導電率を容易に測定できる高周波導電率測定装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-34826号公報
【文献】特開2015-227850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定のデバイスに適用可能な共振器を設計する際は、高周波帯における共振器の導電率や誘電正接を求める必要がある。例えば、直方体状の共振器の場合は、広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を求める必要がある。しかしながら、特許文献2に開示されている技術では、これらの値を一度に求めることができないため、共振器の特性を求める際に煩雑になるという問題がある。
【0005】
上記課題に鑑み本発明の目的は、共振器の特性を容易に求められる共振器特性測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる共振器特性測定方法は、
共振器寸法に対する感度係数および不確かさを評価し、前記感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する第1のステップと、
前記第1のステップで決定された前記共振器寸法を有する共振器の通過特性を測定し、前記共振器の共振周波数と無負荷Q値を算出する第2のステップと、
前記第2のステップで算出された前記共振周波数と前記共振器寸法の実測値とを用いて、前記共振器の比誘電率を算出する第3のステップと、
前記第2のステップで算出された前記無負荷Q値と、前記第3のステップで算出された前記比誘電率と、前記共振器寸法の実測値と、を用いて、前記共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出する第4のステップと、を備える。
【0007】
上述の共振器特性測定方法において、
前記共振器は直方体状の共振器でもよく、前記共振器の幅方向の寸法をa、厚さ方向の寸法をb、長手方向の寸法をdとした場合、
前記第1のステップにおいて、比誘電率と寸法aの感度係数式、比誘電率と共振周波数の感度係数式、寸法dと寸法aの感度係数式、及び寸法dと共振周波数の感度係数式を作成し、
前記無負荷Q値の標準不確かさ、前記寸法a、b、dの標準不確かさ、前記共振周波数の標準不確かさ、及び前記比誘電率の標準不確かさを仮定し、
前記寸法a、b、dを変化させたときの感度係数を算出してもよい。
【0008】
前記第1のステップにおいて、前記無負荷Q値の誤差が所定の値以下になるように隣接共振周波数の間隔を設定した後、前記感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定してもよい。
【0009】
前記隣接共振周波数の間隔の設定は、
二共振器以上の共振器並列回路を仮定し、
共振周波数と無負荷Q値Quを与えて通過特性を計算し、
前記通過特性から無負荷Q値Qumを計算し、
前記Quと前記Qumの差が所定の値以下になるように隣接共振周波数の間隔を設定することで実施されてもよい。
【0010】
前記第2のステップにおいて、互いに対向するように配置された第1及び第2の導体基板と、前記第1の導体基板と前記第2の導体基板との間に配置された金属ビアと、を備え、前記第1の導体基板と前記第2の導体基板と前記複数の金属ビアとで囲まれた空間が導波路として機能する共振器の通過特性を測定してもよい。
【0011】
前記第3のステップにおいて、
誘電率εを未知数とし、共振器寸法a、b、d、共振周波数fmnl、共振モード次数m、l、透磁率μを既知数とし、
前記共振器寸法の実測値と下記の一次方程式とを用いて前記共振器の比誘電率を算出してもよい(ただし、前記共振器は直方体状の共振器であり、aは前記共振器の幅方向の寸法、bは厚さ方向の寸法、dは長手方向の寸法であり、n=0であり、、x、x、xを下記のように定義する)。
【数1】
【数2】
【0012】
前記第4のステップにおいて、
前記共振器の広壁面の導電率σ、狭壁面の導電率σr,t、及び誘電正接tanδを未知数とし、共振器寸法a、b、d、透磁率μ、波数k、自由空間のインピーダンスη、角周波数ω、無負荷Q値Qu、及び共振モード次数lを既知数とし、
下記の一次方程式を用いて、前記共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出してもよい(ただし、前記共振器は直方体状の共振器であり、aは前記共振器の幅方向の寸法、bは厚さ方向の寸法、dは長手方向の寸法であり、d+ad )×[2π /{(kad) bη}]×(ωμ/2) 1/2 、a2lb+2bd )×[2π /{(kad) bη}]×(ωμ/2) 1/2 であり、x、x、xを下記のように定義する)。
【数3】
【数4】
【発明の効果】
【0013】
本発明により、共振器の特性を容易に求められる共振器特性測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態にかかる共振器の一例を示す斜視図である。
図2】実施の形態にかかる共振器の構成例を示す斜視図である。
図3】実施の形態にかかる共振器の構成例を示す上面図である。
図4】実施の形態にかかる共振器特性測定方法を説明するためのフローチャートである。
図5図4のステップS1の動作の詳細を説明するためのフローチャートである。
図6図4のステップS2における通過特性の測定結果の一例を示すグラフである。
図7図4のステップS2におけるQ値の算出方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
まず、本実施の形態にかかる共振器特性測定方法を適用する共振器について説明する。図1は、本実施の形態にかかる共振器の一例を示す斜視図である。図1に示すように、共振器1は直方体状の共振器であり、x軸方向の長さがa、y軸方向の長さがb、z軸方向の長さがdの構造体である。
【0016】
共振器1のxz面には結合スロット11、12が形成されている。具体的には、結合スロット11は、共振器1のz軸方向マイナス側に設けられており、結合スロット12は、共振器1のz軸方向プラス側に設けられている。結合スロット11、12のサイズは、x軸方向の長さがl、z軸方向の長さがwである。例えば、共振器1の内部は空洞であり、結合スロット11から導入された高周波は、共振器1の内部を伝搬した後、結合スロット12から導出される。
【0017】
図2図3は、本実施の形態にかかる共振器の構成例を示す斜視図および上面図である。図2図3に示す共振器2は、導波管励振SIW(Substrate Integrated Waveguide)共振器であり、2枚の導体基板31、32と複数の金属ビア(貫通導体)33とを用いて構成されている。導体基板31は上側(y軸方向プラス側)に配置されており、導体基板32は下側(y軸方向マイナス側)に配置されている。導体基板31と導体基板32との間には、複数の金属ビア33が導波路を形成するように配置されている。つまり、図2図3に示す共振器2は、導体基板31と導体基板32と複数の金属ビア33とで囲まれた空間が導波路として機能する。なお、2枚の導体基板31、32で挟まれる空間は空洞であってもよく、また誘電体材料が配置されていてもよい。
【0018】
共振器2の導体基板32側の面には結合スロット21、22が形成されている。具体的には、結合スロット21は、共振器2のz軸方向マイナス側に設けられており、結合スロット22は、共振器2のz軸方向プラス側に設けられている。結合スロット21には導波管35が接続されており、結合スロット22には導波管36が接続されている。導波管35、36のy軸方向マイナス側は、ネットワークアナライザ(不図示)と接続されている。例えば、ネットワークアナライザで生成された高周波は、導波管35および結合スロット21を介して共振器2に導入される。共振器2に導入された高周波は、共振器2を通過した後、結合スロット22および導波管36を介してネットワークアナライザへと伝達される。以下で説明する図4のステップS2では、このような構成を備える共振器2を用いて、共振器の通過特性を測定する。
【0019】
次に、本実施の形態にかかる共振器特性測定方法について説明する。図4は、本実施の形態にかかる共振器特性測定方法を説明するためのフローチャートである。本実施の形態にかかる共振器特性測定方法は、下記の第1のステップから第4のステップを備える。
【0020】
第1のステップは、共振器寸法に対する感度係数および不確かさを評価し、感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定するステップである(図4のステップS1)。
第2のステップは、第1のステップで決定された共振器寸法を有する共振器の通過特性を測定し、共振器の共振周波数と無負荷Q値を算出するステップである(図4のステップS2)。
第3のステップは、第2のステップで算出された共振周波数と共振器寸法の実測値とを用いて、共振器の比誘電率を算出するステップである(図4のステップS3)。
第4のステップは、第2のステップで算出された無負荷Q値と、第3のステップで算出された比誘電率と、共振器寸法の実測値と、用いて、共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出するステップである(図4のステップS4)。
【0021】
以下、本実施の形態にかかる共振器特性測定方法について、図4に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。なお、以下では、図1に示した構造を備える共振器1の特性を測定する方法について説明する。
【0022】
図4のステップS1では、共振器寸法に対する感度係数および不確かさを評価し(ステップS1-1)、感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する(ステップS1-2)。具体的には、仮定条件を定めて、図1に示した構造を備える共振器1に対する感度係数および不確かさを評価する。
【0023】
図5は、図4のステップS1の動作の詳細を説明するためのフローチャートである。図5に示すように、ステップS1では、まず、感度係数式を作成する(ステップS11)。
【0024】
下記の式は合成不確かさの一般式であり、ufiは、fの合成不確かさであり、uxjは、xの不確かさである。∂f/∂xは感度係数である。また、a、b、dは図1に示した共振器1の寸法であり、εは比誘電率であり、σは広壁面の導電率、σr,tは狭壁面の導電率であり、tanδは誘電正接であり、Qは無負荷Q値である。
【0025】
【数5】
【0026】
また、下記の式は感度係数の一般式である。
【0027】
【数6】
【0028】
ステップS11では、上述の合成不確かさの一般式と感度係数の一般式とを用いて、各パラメータの感度係数式を作成する。
【0029】
具体的には、比誘電率εと寸法aの感度係数式は下記の通りである。
【数7】
【0030】
また、比誘電率εと共振周波数fの感度係数式は下記の通りである。
【数8】
【0031】
また、寸法dと寸法aの感度係数式は下記の通りである。
【数9】
【0032】
また、寸法dと共振周波数fの感度係数式は下記の通りである。
【数10】
【0033】
次に、不確かさを求めるために測定による値の標準不確かさを仮定する(ステップS12)。一例を挙げると、無負荷Q値Qの標準不確かさを0.3%、寸法a、b、dの標準不確かさを0.01%、共振周波数fの標準不確かさを0.01%、比誘電率の標準不確かさを0.3%と仮定する。
【0034】
そして、各パラメータを変化させたときの感度係数を算出する(ステップS13)。一例を挙げると、解析条件として、周波数を57~95GHz、比誘電率を2.18、誘電正接を0.001、広壁面の導電率を1.82×10S/m、狭壁面の導電率を1.12×10S/mと設定して感度係数を算出する。
【0035】
その後、感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する(図4のステップS1-2)。例えば、共振器寸法aは小さく設定する。共振器寸法bは、比誘電率εおよび寸法dには影響しないが、大きくすると狭壁面の導電率と誘電正接の不確かさが減少し、広壁面の導電率の不確かさが増加する。共振器寸法dは、大きくすると全てのパラメータで不確かさが減少する。しかし、共振器寸法dを大きくした場合はモード数が増加するので、共振周波数の差が小さくなり、隣の周波数の影響を受けてQ値が変化する。
【0036】
以下、感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する場合について、図5のステップS14~S19を用いて説明する。ステップS14~S19では、隣接共振周波数の間隔の無負荷Q値への影響を評価する。すなわち、共振器長dを大きくすると共振周波数の差が小さくなり、隣の共振周波数の影響を受けてQ値が変化してしまうため、隣接共振周波数の間隔の無負荷Q値への影響を評価する。
【0037】
まず、二共振器並列回路を仮定する(ステップS14)。次に、共振周波数と無負荷Q値Quを与え、通過特性を計算する(ステップS15)。そして、通過特性から無負荷Q値Qumを計算する(ステップS16)。その後、2つ以上の共振周波数の間隔Δfによる、QuとQumの差を評価する(ステップS17)。そして、所定の誤差範囲を満たすように共振周波数間隔Δfを設定する(ステップS18)。例えば、無負荷Q値Qu、Qumの誤差が0.1%以下になるように、共振周波数間隔Δfを設定する。上記条件では、無負荷Q値の誤差を0.1%以下にするには、共振周波数の間隔ΔfがΔf>0.02を満たすようにする。本実施の形態では、QuとQumの誤差が所定の誤差範囲を満たすように、ステップS15~S18の処理を繰り返す。その後、感度係数が小さくなるような共振器寸法を決定する(ステップS19)。なお、本実施の形態では、隣接共振周波数を評価するために、少なくとも二共振器並列回路を用いればよく、例えば二共振器よりも多い並列数、つまり二共振器以上の共振器並列回路としてもよい。
【0038】
次に、ステップS1で決定された共振器寸法を有する共振器の通過特性を測定し、共振器の共振周波数と無負荷Q値を算出する(図4のステップS2)。例えば、図2図3に示した構成を備える共振器2を準備する。このとき、ステップS1で決定された共振器寸法a、b、dを有するように共振器2を構成する。そして、共振器2の通過特性を測定する(ステップS2-1)。
【0039】
具体的には、共振器2が備える結合スロット21に導波管35を接続し、結合スロット22に導波管36を接続する。また、導波管35、36のy軸方向マイナス側にネットワークアナライザ(不図示)を接続する。そして、ネットワークアナライザで高周波を生成し、この高周波を導波管35および結合スロット21を介して共振器2に導入する。共振器2に導入された高周波は、共振器2を通過した後、結合スロット22および導波管36を介してネットワークアナライザへと伝達される。このような構成を備える共振器2を用いて、共振器の通過特性を測定する。
【0040】
次に、測定した共振器の通過特性を用いて、共振器の共振周波数と無負荷Q値を算出する(ステップS2-2)。図6は、ステップS2における通過特性の測定結果の一例を示すグラフである。図6に示すように、共振周波数は通過量S21がピークになる周波数である。
【0041】
図7は、ステップS2におけるQ値の算出方法を説明するためのグラフである。図7に示すように、共振周波数fのピーク値から3dB小さい値における、低周波側の周波数をf、高周波側の周波数をfとすると、負荷Q値Qは下記の式を用いて求められる。換言すると、3dB帯域幅の通過特性を用いて負荷Q値Qを求める。
【数11】
【0042】
また、結合スロット21、22と導波管35、36の挿入損失ILは下記の式を用いて求められる。
【数12】
【0043】
そして、無負荷Q値Qu,mは、負荷Q値Qと挿入損失ILを用いて、下記の式のように表せる。
【数13】
【0044】
無負荷Q値Qu,mは、共振の鋭さを示す値であり、Qu,mが大きいほど損失が少ない。
【0045】
次に、ステップS2で算出された共振周波数と共振器寸法の実測値とを用いて、共振器の比誘電率を算出する(図4のステップS3)。具体的には、以下の方法を用いて共振器の比誘電率を算出する。
【0046】
前提条件として、共振器寸法a、b、d、及び比誘電率εを未知数とする。また、共振周波数fmnl、共振モード次数m、l、透磁率μを既知数とする。
【0047】
図1に示した構成の共振器1において、共振周波数fmnlは、下記の式で表される。なお、cは光速である。
【数14】
【0048】
上記式を下記の式のように変形する。
【数15】
【0049】
そして、x、x、x、xを次のように定義する。
【数16】
【0050】
すると、上記式は、x、x、x、xを用いて次のように表される。
【数17】
【0051】
ここで、n=0であるので上記式は下記のように表される。
【数18】
【0052】
ここで、共振器寸法a、b、dは、ステップS2で用いた共振器の寸法を機械的に測定することで求められる。よって、x、xは既知の値となる。したがって、上記式は連立一次方程式に帰着するので、N=2で厳密解を、N>2で最小二乗解を算出することができる。このようにステップS3では、共振器寸法の実測値と上述の一次方程式とを用いて共振器の比誘電率εを算出できる。
【0053】
次に、ステップS2で算出された無負荷Q値と、ステップS3で算出された比誘電率と、共振器寸法の実測値と、用いて、共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出する(図4のステップS4)。具体的には、以下の方法を用いて共振器の広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を算出する。
【0054】
前提条件として、共振器の広壁面の導電率σ、狭壁面の導電率σr,t、及び誘電正接tanδを未知数とする。また、共振器寸法a、b、d、透磁率μ、波数k、角周波数ω、無負荷Q値Qu、共振モード次数(z軸方向)lを既知数とする。
【0055】
図1に示した構成の共振器1において、無負荷Q値Qu、aは、下記の式で表される。下記の式より、共振器の壁面を流れる電流に応じて無負荷Q値が決定されるといえる。なお、kは波数、ηは自由空間のインピーダンスであり、Ri,j、σi,jは、i面内におけるj方向に流れる電流に対する表皮抵抗および導電率である。
【数19】
【0056】
また、無負荷Q値Qは、次の関係を有する。
【数20】
【0057】
また、1/Qは、次のように表される。
【数21】
【0058】
このとき、下記のようにx、xを定義し、(ld+ad×[2π /{(kad) bη}]×(ωμ/2) 1/2 をaとし、(2lb+2bd×[2π /{(kad) bη}]×(ωμ/2) 1/2 をaとしたので、結果として、1/Q=a+aとなる。

【0059】
また、1/Qは、次のように表される。
【数23】
【0060】
したがって、1/Qは結果的に次のような一次方程式で表される。
【数24】
【0061】
N個の共振モードを測定すると、N個の一次方程式が得られる。したがってこの場合は、未知数がx、x、xの3つなので、N=3で厳密解を、N>3で最小二乗解が得られる。また、共振モードを4以上測定して誤差を吸収できる。なお、xは広壁面の導電率σの逆数の平方根、xは狭壁面の導電率σr,tの逆数の平方根、xは誘電正接tanδである。
【0062】
以上で説明した本実施の形態にかかる共振器特性測定方法では、単一の共振器で、広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を一度に求められるため、共振器の特性を容易に求められる。すなわち、本実施の形態にかかる共振器特性測定方法では、複数の共振器を測定することなく、一度に広壁面の導電率、狭壁面の導電率、及び誘電正接を求められるので、共振器の特性を容易に求められる。また、本実施の形態にかかる共振器特性測定方法では、ステップS2において、図2図3に示した構成の共振器を用いて共振器の通過特性を測定しているので、実用形態に近い形で電気物性を評価できる。
【0063】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1、2 共振器
11、12 結合スロット
21、22 結合スロット
31、32 導体基板
33 金属ビア(貫通導体)
35、36 導波管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7