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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】フォトダイオード及び赤外線センサー
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020215819
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101305
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2022-10-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 治彦
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/100330(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/115297(WO,A1)
【文献】特開2006-269818(JP,A)
【文献】特開2017-204617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0047886(US,A1)
【文献】鵜殿治彦,“赤外センサ用Mg2Si結晶の融液成長”,日本結晶成長学会誌,2018年11月01日,第45巻, 第3号,pp. 1-7,DOI: 10.19009/jjacg.33-45-3-03
【文献】御殿谷真, 外3名,“Mg2Sn単結晶のp形不純物添加と電気特性評価”,第56回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集,第3号,2009年03月30日,p. 1423
【文献】鵜殿治彦,“マグネシウムシリサイドを用いた環境調和型赤外フォトダイオード”,応用物理,2019年12月10日,第88巻, 第12号,pp. 797-801,DOI: 10.11470/oubutsu.88.12_797
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08-31/119
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体、n型半導体、前記p型半導体に電気的に接続された第1電極、及び、前記n型半導体に電気的に接続された第2電極を備えたフォトダイオードであって、
前記p型半導体は、p型不純物としてAl、In、Ag、Cu及びAuからなる群から選択される1種または2種以上を有し、Znを含まないMg2Sn半導体であり、
前記n型半導体は、n型不純物を有し、Znを含まないMg2Sn半導体であり、
前記n型半導体が、前記n型不純物としてBi、P及びAsからなる群から選択される1種または2種以上をMg 2 Snに対して、0.0005~1.0at%有するMg 2 Sn半導体であるフォトダイオード。
【請求項2】
前記p型半導体が、前記p型不純物としてAlまたはInを有するMg2Sn半導体である請求項1に記載のフォトダイオード。
【請求項3】
前記p型半導体及び前記n型半導体におけるMg2Sn半導体のSb濃度が0.01at%以下である請求項1または2に記載のフォトダイオード。
【請求項4】
pn接合またはpin接合フォトダイオードである請求項1~のいずれか一項に記載のフォトダイオード。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のフォトダイオードを備えた赤外線センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトダイオード及び赤外線センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
人工知能(AI)等に関する近年の飛躍的な技術革新に伴って、人の目や手に代わって自動で監視、制御を行うシステムの研究開発も精力的に行われている。このような自動監視、自動制御システムにおいては、光、温度、音声等の様々な入力情報を基に適切な応答動作が決定されるため、入力信号を感知するためのハードウェアがシステム全体の中でも重要な役割を果たす一つのキーデバイスとなる。
【0003】
光の入力信号に感応するデバイスとしては、光の信号を電子的に処理することが可能な電気信号に変換する素子を有するものが挙げられる。その基本的な素子の例として、半導体材料を用いた光検出素子がある。
【0004】
光検出素子に利用される半導体材料として、マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)とから構成される化合物半導体であるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)の結晶性材料が提案されており、これまでに所定の成果が得られている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Akiyama et al., Proc. Asia-Pacific Conf. Semicond. Silicides Relat. Mater. 2016, JJAP Conf. Proc. Vol. 5, 2017, pp. 011102-1-011102-5
【文献】K. Daitoku et al., Proc. Int. Conf. Summer School Adv. Silicide Technol. 2014, JJAP Conf. Proc. Vol. 3, 2015, pp. 011103-1-011103-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、赤外線センサーへの応用が期待される半導体として、Mg2Snに注目している。Mg2Snは、バンドギャップエネルギーが絶対零度でEg 0=0.36eV、300KでEg 300=0.23eVと報告されており、特に、中波長赤外域(波長λ=3~5μm)の赤外線センサーへの応用が期待される。
【0007】
しかしながら、高感度で、高速応答が可能なフォトダイオードは、Mg2Sn半導体では実用化できていない。そこで、本発明者は、熱型に比べると理論的に高感度及び高速応答が可能な光起電力型のフォトダイオードに着目した。
【0008】
本開示の技術は、上述した技術課題を解決しようとするものであり、Mg2Sn半導体を用いた光起電力型のフォトダイオードを提供することを一つの目的とするものであり、また当該フォトダイオードを用いた赤外線センサーを提供することを別の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、フォトダイオードにおいて、p型不純物としてAl、In、Ag、Cu及びAuからなる群から選択される1種または2種以上を有するMg2Sn半導体でp型半導体を構成し、さらにn型不純物を有するMg2Sn半導体でn型半導体を構成することで、Mg2Sn半導体を用いた光起電力型のフォトダイオードを提供することができることを見出した。
【0010】
このような知見と着想に基づき、本開示は以下の発明を提供するものである。
(1)p型半導体、n型半導体、前記p型半導体に電気的に接続された第1電極、及び、前記n型半導体に電気的に接続された第2電極を備えたフォトダイオードであって、
前記p型半導体は、p型不純物としてAl、In、Ag、Cu及びAuからなる群から選択される1種または2種以上を有するMg2Sn半導体であり、
前記n型半導体は、n型不純物を有するMg2Sn半導体である、フォトダイオード。
(2)前記p型半導体が、前記p型不純物としてAlまたはInを有するMg2Sn半導体である(1)に記載のフォトダイオード。
(3)前記n型半導体が、前記n型不純物としてBi、P及びAsからなる群から選択される1種または2種以上を有するMg2Sn半導体である(1)または(2)に記載のフォトダイオード。
(4)前記p型半導体及び前記n型半導体におけるMg2Sn半導体のSb濃度が0.01at%以下である(1)~(3)のいずれかに記載のフォトダイオード。
(5)pn接合またはpin接合フォトダイオードである(1)~(4)のいずれかに記載のフォトダイオード。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載のフォトダイオードを備えた赤外線センサー。
【発明の効果】
【0011】
本開示の技術によれば、Mg2Sn半導体を用いた光起電力型のフォトダイオードを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】p型半導体、n型半導体、p型半導体に電気的に接続された第1電極、及び、n型半導体に電気的に接続された第2電極を備えたpn接合フォトダイオードの接合形態を示す模式図である。
図2】p型半導体、n型半導体、p型半導体に電気的に接続された第1電極、及び、n型半導体に電気的に接続された第2電極を備えたpn接合フォトダイオードの接合形態を示す模式図である。
図3】本開示のフォトダイオードの作製手順を示す模式図である。
図4】本開示の実施例に係るフォトダイオードの電圧-電流特性を示すグラフである。
図5】本開示の実施例に係るn型Mg2Sn基板上に作製したpn接合フォトダイオードの受光感度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(フォトダイオード)
本開示の技術に係るフォトダイオードは、p型半導体、n型半導体、p型半導体に電気的に接続された第1電極、及び、n型半導体に電気的に接続された第2電極を備えている。
【0014】
本開示の技術に係るフォトダイオードのp型半導体は、p型不純物としてAl、In、Ag、Cu及びAuからなる群から選択される1種または2種以上を有するMg2Sn半導体である。Mg2Sn半導体において、p型不純物としてAl、In、Ag、Cu及びAuからなる群から選択される1種または2種以上を拡散させてp型半導体を構成することで、バンドギャップエネルギーが絶対零度でEg 0=0.36eV、300KでEg 300=0.23eVであるMg2Snのpn接合またはpin接合フォトダイオードを形成することができる。このため、当該フォトダイオードの感度が良好となり、高速応答が可能となる。
【0015】
本開示の技術に係るフォトダイオードは、Mg2Sn半導体において、p型不純物としてAlまたはInを拡散させて、p型半導体を構成することが好ましい。このような構成によれば、フォトダイオードの感度がより良好となり、より高速な応答が可能となる。
【0016】
本開示の技術に係るフォトダイオードのp型半導体におけるp型不純物の濃度(複数元素が含まれている場合は、それらの合計濃度)は、Mg2Snに対して、0.0005~0.5at%であるのが好ましい。当該p型不純物の濃度が、0.0005at%未満であると、光起電力や整流性が得られないおそれがある。また、当該p型不純物の濃度が、0.5at%超であると、p型不純物がMg2Sn中に固溶して存在することが難しくなり、固溶できないp型不純物が微小析出物として偏析するという問題が生じるおそれがある。本開示の技術に係るフォトダイオードのp型半導体におけるp型不純物の濃度は、Mg2Snに対して、0.01~0.5at%であるのがより好ましく、0.05~0.1at%であるのが更により好ましい。
【0017】
本開示の技術に係るフォトダイオードのn型半導体は、n型不純物としてBi、P及びAsからなる群から選択される1種または2種以上を有するMg2Sn半導体であることが好ましい。このような構成によれば、上述の、p型不純物としてAl、In、Ag、Cu及びAuからなる群から選択される1種または2種以上を有するMg2Sn半導体であるp型半導体と、pn接合またはpin接合したフォトダイオードを形成することができる。このため、当該フォトダイオードの感度がより良好となり、より高速な応答が可能となる。
【0018】
本開示の技術に係るフォトダイオードのn型半導体におけるn型不純物の濃度(複数元素が含まれている場合は、それらの合計濃度)は、Mg2Snに対して、0.0005~1.0at%であるのが好ましい。当該n型不純物の濃度が、0.0005at%未満であると、光起電力や整流性が得られないおそれがある。また、当該n型不純物の濃度が、1.0at%超であると、n型不純物がMg2Sn中に固溶して存在することが難しくなり、固溶できない型不純物が微小析出物として偏析するという問題が生じるおそれがある。本開示の技術に係るフォトダイオードのn型半導体におけるn型不純物の濃度は、Mg2Snに対して、0.01~0.5at%であるのがより好ましく、0.05~0.1at%であるのが更により好ましい。
【0019】
上述のpin接合フォトダイオードは、上述のp型半導体と、上述のn型半導体との間に、i型半導体を挟み込んだ構成を有している。当該i型半導体としては、フォトダイオードの使用温度において電子濃度が1×1014cm-3以下のn型半導体もしくは正孔濃度が1×1014cm-3以下のp型半導体を用いることができる。
【0020】
本開示の技術に係るフォトダイオードのp型半導体及びn型半導体におけるMg2Sn半導体は、Sb濃度が0.01at%以下であるのが好ましい。Mg2Sn半導体にSb濃度が0.01at%超含まれていると、フォトダイオードの酸化による劣化の問題が生じる。本開示の技術に係るフォトダイオードのp型半導体及びn型半導体におけるMg2Sn半導体は、Sb濃度が0.001at%以下であるのがより好ましく、2ppm以下であるのが更により好ましい。
【0021】
本開示の技術に係るフォトダイオードのp型半導体に電気的に接続された第1電極(正極:p側電極)、及び、n型半導体に電気的に接続された第2電極(負極:n側電極)としては、それぞれ、Al、In、Ag、Cu、Au、Ti、Ni、W、Fe、Mo、Ta等で構成された電極を用いることができる。また、当該第1電極及び第2電極としては、それぞれ、Al、Au、TiまたはNiで構成された電極を用いることが好ましい。
【0022】
(電子濃度、正孔濃度)
図1及び図2は、それぞれ、本開示の技術に係る、p型半導体、n型半導体、p型半導体に電気的に接続された第1電極、及び、n型半導体に電気的に接続された第2電極を備えたpn接合フォトダイオードの接合形態を示す模式図である。
【0023】
図1に示すフォトダイオードは、n型半導体(n-Mg2Sn)がp型半導体(p-Mg2Sn)より1~1000倍だけ厚く形成されている。このとき、n型半導体(n-Mg2Sn)は、100Kでの電子濃度が1×1014~1×1018cm-3であり、p型半導体(p-Mg2Sn)は、100Kでの正孔濃度が1×1015~1×1020cm-3であるのが好ましい。このような構成によれば、当該pn接合フォトダイオードの感度が良好となり、高速応答が可能となる。また、図1に示すフォトダイオードにおいて、n型半導体(n-Mg2Sn)は、100Kでの電子濃度が1×1014~1×1017cm-3であるのがより好ましく、1×1014~1×1016cm-3であるのが更により好ましい。また、p型半導体(p-Mg2Sn)は、100Kでの正孔濃度が1×1016~1×1019cm-3であるのがより好ましく、1×1018~1×1019cm-3であるのが更により好ましい。
【0024】
図2に示すフォトダイオードは、p型半導体(p-Mg2Sn)がn型半導体(n-Mg2Sn)より1~1000倍だけ厚く形成されている。このとき、p型半導体(p-Mg2Sn)は、100Kでの電子濃度が1×1014~1×1018cm-3であり、n型半導体(n-Mg2Sn)は、100Kでの正孔濃度が1×1015~1×1020cm-3であるのが好ましい。このような構成によれば、当該pn接合フォトダイオードの感度が良好となり、高速応答が可能となる。また、図2に示すフォトダイオードにおいて、p型半導体(p-Mg2Sn)は、100Kでの電子濃度が1×1014~1×1017cm-3であるのがより好ましく、1×1014~1×1016cm-3であるのが更により好ましい。また、n型半導体(n-Mg2Sn)は、100Kでの正孔濃度が1×1016~1×1019cm-3であるのがより好ましく、1×1018~1×1019cm-3であるのが更により好ましい。
【0025】
(赤外線センサー)
本開示の技術に係るフォトダイオードを用いて赤外線センサーを作製することができる。本開示の技術に係る赤外線センサーによれば、バンドギャップエネルギーが絶対零度でEg 0=0.36eV、300KでEg 300=0.23eVであるMg2Snのpn接合またはpin接合フォトダイオードを形成することができる。このため、中波長赤外域(波長:λ=3~5μm)の赤外線センサーへの応用が可能となる。また、当該フォトダイオードを用いた赤外線センサーの感度が良好となり、高速応答が可能となる。それに伴い、メタンガスや窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素などのガスの流れの可視化、発熱、発火現象などの画像分析、画像診断等の技術、さらにはそれらを利用した自動監視、自動制御技術と、それらの技術を用いた産業分野等にも大きな貢献が期待できる。
【0026】
(フォトダイオードの製造方法)
本開示の技術に係るフォトダイオードの製造方法は、特に限定されないが、下記の方法が好ましく使用できる。
【0027】
1.Mg2Sn半導体の準備
まず、Mg2Sn半導体を準備する。Mg2Sn半導体は、下記工程(1)~(5)を含む溶融法によって製造することができる。
(1)少なくともMg及びSnを含む高純度原料を調製する原料調製工程、
(2)工程(1)で調製した原料を、グラファイト、BN(窒化ホウ素)またはpBN(熱分解窒化ホウ素)製のるつぼ中に充填する原料充填工程、
(3)前記るつぼ全体を加熱して、工程(2)で前記るつぼ中に充填した原料を溶融化学反応させる合成工程、
(4)工程(3)で生成した融液を冷却してMg2Sn結晶体を育成する工程、
(5)工程(4)で育成したMg2Sn結晶体を前記るつぼから取り出す工程。
【0028】
上述のMg2Sn結晶体の製造方法は、特に限定されないが、効率的に高純度の結晶体を製造できることから、VB(垂直ブリッヂマン)法、VGF(垂直温度傾斜凝固)法などのボート法によることが好ましい。また、製造装置は、公知の構成を採用することができる。
【0029】
上記工程(1)で調整する高純度原料のMg、Snとしては、高純度に精製した純度4N(99.99%)以上、より好ましくは純度5N(99.999%)以上、より好ましくは純度6N(99.9999%)以上の平均粒径が約2~3mmのチャンク状の粒子を好ましく使用できる。通常は原料のMg粒子とSn粒子の合計は元素比が2:1となるように混合する。
【0030】
ここで、n型半導体となるMg2Sn結晶体を作製する場合は、n型不純物の元素を、上記工程(1)の原料調製工程で原料に添加しておく。また、p型半導体となるMg2Snn結晶体を作製する場合は、p型不純物の元素を、上記工程(1)の原料調製工程で原料に添加しておく。
【0031】
上記工程(2)で使用するるつぼは、グラファイト、BN(窒化ホウ素)またはpBN(熱分解窒化ホウ素)製が、結晶への不純物の混入を避ける観点から好ましい。
【0032】
上記工程(3)の合成工程における加熱時の圧力は大気圧でも良いが3気圧程度のArガス中での加熱が望ましい。加熱温度は778℃(Mg2Snの融点)~850℃であり、例えば合計で約15分~14時間程度熱処理する。778℃以上の温度で加熱することで、MgとSnが溶融したMg-Sn融液になる。
【0033】
上記工程(3)の合成工程では、VB法においては、るつぼを軸方向下側に向けて移動させることにより、VGF法においてはヒータの温度を調節することにより、るつぼの軸方向においてMg2Sn種結晶側の温度が相対的に低く、Mg2Sn原料側の温度が相対的に高い温度勾配を形成する。これにより、溶融していたMg2Sn原料は、Mg2Sn種結晶側から順に凝固することによりMg2Sn結晶が成長する。結晶成長部の円錐部および直胴部内の溶融していたMg2Sn原料がこの順にすべて凝固することによりMg2Sn結晶体が形成される。また、上記(1)の工程で、p型不純物を添加していた場合は、当該p型不純物が熱拡散したp型のMg2Sn半導体が得られる。また、上記(1)の工程で、n型不純物を添加していた場合は、当該n型不純物が熱拡散したn型のMg2Sn半導体が得られる。
【0034】
2.フォトダイオードの作製
次に、得られたMg2Sn結晶体に、pn接合またはpin接合、及び、p側電極及びn側電極を形成して、フォトダイオードを作製することができる。当該フォトダイオードの作製は、公知の作製工程によって実施することができるが、具体例として、pn接合フォトダイオードの製造方法を以下に示す。
【0035】
図3に示すように、まず、n型のMg2Sn半導体(基板)を準備する。
次に、n型のMg2Sn半導体上に、p型不純物拡散源(図3では、例としてAg)を設け、さらにp型不純物拡散源(Ag)の上にp側電極(図3では、例としてAu)を設け、それぞれ真空蒸着させて積層体を作製する。
次に、上述の積層体を、熱処理することで、n型のMg2Sn半導体(基板)にp型不純物が熱拡散して、p型のMg2Sn半導体となり、pn接合が形成される。このとき、p側電極は、p型のMg2Sn半導体上に電気的に接続されている。また、別途、n型のMg2Sn半導体の裏面側に、所定のn側電極を真空蒸着させる。
このようにして、本開示の技術に係るフォトダイオードを作製する。
【0036】
なお、上記実施形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するものではない。又、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【実施例
【0037】
以下、本開示の技術的内容を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例の記載は、あくまで本開示の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものでない。
【0038】
<実施例1>
(フォトダイオードの作製)
内径12mmφ長さ11cmのグラファイト製るつぼを用意し、るつぼ下部には種結晶となるMg2Sn単結晶を設置し、種結晶の上に、純度5NのMg粒子[大阪アサヒメタル、チャンク材(平均粒径2~3mm)]、純度6NのSn粒子[大阪アサヒメタル、チャンク材(平均粒径2~3mm)]、および赤リン[高純度化学研究所製、粒材(粒径0.5~2mm)、純度99.9999%]の原料混合物を仕込んだ。
【0039】
次に、るつぼを、560TorrのArガスと共に石英アンプルに封入し、これを電気炉(抵抗加熱炉)に入れて1時間かけて780℃(表示温度)に加熱した。ここで、るつぼ下部に設置した種結晶が融解しないように、炉内下方はMg2Snの融点以下となるように温度勾配を設け、種結晶部の温度制御を778℃~768℃に設定した。炉内中央部から上部にかけては原料を融解するように780℃で14時間加熱して、原料を融解し、融液が十分に溶けて安定させた後、炉内下方の低温領域に向けて、VB法により4mm/hの成長速度でるつぼを下げ、温度600℃付近まで降下させて、単結晶を成長させた。その後、自然冷却し、室温になった時点で電気炉からるつぼを取り出し、実施例1に係るn型半導体単結晶を得た。
【0040】
上記n型半導体の組成を、蛍光X線分析装置を用いて測定したところ、Mg2Sn・P0.01(すなわち、Mg2Snに対するPの含有量が0.01at%)であった。また、育成した単結晶中の不純物濃度をGDMS法で分析したところ、故意に添加したものではないが、Sb濃度は1.2×10-4at%(0.85wtppm)であった。また、同条件で他2回の単結晶育成を行い、Mg2Sn単結晶中のSb濃度が1.1×10-4at%(0.78wtppm)、2.5×10-4at%(1.80wtppm)の単結晶を育成した。
【0041】
次に、図3に示すように、上述のn型半導体(n-Mg2Sn)の基板を準備し、当該基板上に、厚さ100nmで直径0.6mmの円形のAg(p型不純物拡散源)、及び、当該Ag(p側電極)上に、厚さ100nmで直径0.6mmの円形のAuを、それぞれ真空蒸着させて積層体を作製した。
【0042】
次に、上記積層体に、380℃で10分間の熱処理を行い、Agをn型半導体(n-Mg2Sn)内に熱拡散させて、Au電極が電気的に接続されたp型半導体(p-Mg2Sn)を形成し、これによってpn接合を形成した。また、n型半導体(n-Mg2Sn)の裏面側にAlを真空蒸着させて、n側電極を形成し、これによってフォトダイオードを作製した。
【0043】
<実施例2>
純度6NのSb粒子[高純度化学研究所製、粒材(粒径0.5~2mm)]を0.01at%添加した以外は、実施例1と同様の条件でMg2Sn単結晶を育成した。その結果、Mg2Sn・P0.01・Sb0.01(すなわち、Mg2Snに対するPおよびSbの含有量が0.01at%)であった。
【0044】
(電圧電流測定)
実施例1のフォトダイオードについて、電圧電流測定(測定温度100K)を行い、図4に示す電圧-電流特性を示すグラフが得られた。これにより、pn接合フォトダイオードが得られていることが確認された。また、実施例2のn-Mg2Sn基板においても同様な結果が得られた。
【0045】
(分光感度測定)
実施例1のフォトダイオードについて、分光感度測定(ゼロバイアス時、測定温度100K)を行い、図5に示す分光感度特性のグラフが得られた。また、実施例2のn-Mg2Sn基板においても同様な結果が得られた。これにより、カットオフ波長約4500nm以下で感度を有する光起電力型のpn接合フォトダイオードとして機能していることが確認された。また、このように作製されたMg2Sn半導体を用いた光起電力型のフォトダイオードによって、熱型に比べて高感度及び高速応答のセンサーが得られると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5