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特許7550423食肉様食品を含有する液状調味料とその製造方法、並びに肉質感が向上している食肉様食品とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】食肉様食品を含有する液状調味料とその製造方法、並びに肉質感が向上している食肉様食品とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20240906BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240906BHJP
   A23J 3/14 20060101ALN20240906BHJP
   A23J 3/16 20060101ALN20240906BHJP
   A23J 3/00 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
A23L27/10 Z
A23L13/00 Z
A23J3/14
A23J3/16 501
A23J3/00 502
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020569555
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002287
(87)【国際公開番号】W WO2020158562
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019014310
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(73)【特許権者】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛田 実穂
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149967(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013146(WO,A1)
【文献】特開2013-066441(JP,A)
【文献】特開2006-020592(JP,A)
【文献】特開2014-100108(JP,A)
【文献】特開2013-034424(JP,A)
【文献】特公平03-008742(JP,B2)
【文献】特開2016-116494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
A23L 13/00
A23J 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、天然に水溶性多糖を含有する食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を、乳化した状態で前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理して解乳化させることを特徴とする、食肉様食品を含有する液状調味料の製造方法であって、
前記液状調味料における前記天然に水溶性多糖を含有する食材の配合量が0.02質量%以上0.9質量%以下であり、食品衛生法に定められる指定添加物および既存添加物である増粘剤を含有しない、液状調味料の製造方法
【請求項2】
調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、天然に水溶性多糖を含有する食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を、乳化した状態で前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理して解乳化させることを特徴とする、食肉様食品を含有する液状調味料の製造方法であって、
前記液状調味料における前記天然に水溶性多糖を含有する食材の配合量が0.02質量%以上0.9質量%以下である、液状調味料(但し、食品衛生法に定められる指定添加物および既存添加物である増粘剤を含有する液状調味料を除く)の製造方法。
【請求項3】
前記調味液が、酢酸及び/又はエタノールを含有する、請求項1又は2に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項4】
前記酢酸の調味液中の含有量が1.0質量%以下である、請求項に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項5】
前記エタノールの調味液中の含有量が5.0質量%以下である、請求項に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥組織状植物性たん白質が、乾燥組織状大豆たん白質である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項7】
前記乳化作用を有する食材が、前記加熱処理により乳化作用を失う非耐熱性乳化食材である、請求項1~6のいずれか1項に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項8】
100℃未満の温度下での非耐熱性乳化食材が、味噌、卵黄、豆板醤、醤油、豆乳から選ばれる1種以上である請求項7に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項9】
前記天然に水溶性多糖を含有する食材が、コンニャクイモ粉、コンブ抽出物、ナガイモ類粉末から選ばれる1種以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の液状調味料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法によって得られる、食肉様食品を含有する液状調味料。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法によって食肉様食品を含有する液状調味料を製造し、得られる液状調味料から、含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とする、食肉様食品の製造方法。
【請求項12】
肉質感が向上している食肉様食品を製造するにあたり、
調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、天然に水溶性多糖を含有する食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を、乳化した状態で前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理して解乳化させることにより、食肉様食品を含有する液状調味料を製造し、得られる液状調味料から、その中に含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とする、肉質感が向上している食肉様食品の製造方法であって、
前記液状調味料における前記天然に水溶性多糖を含有する食材の配合量が0.02質量%以上0.9質量%以下であり、食品衛生法に定められる指定添加物および既存添加物である増粘剤を使用しない、肉質感が向上している食肉様食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食肉様食品を含有する液状調味料とその製造方法、並びに肉質感が向上している食肉様食品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向から、食肉の代用として、大豆たんぱく質等を原料とした食肉様食品が普及している。
【0003】
食肉様食品の製造に多く用いられる大豆たんぱく質は、大豆ミート(ソイミート)とも呼ばれ、多様な形態(ブロック状、スライス状(フィレタイプ)、ミンチ状、粒状等)のものが市販されている。
【0004】
これらを用いて、食肉の代替物を調製するに当たり、いくつかの問題点があった。問題としては、味が滲みていない、大豆の臭みがある、食感が柔らかすぎる、ボロボロと崩れてしまうこと等が挙げられる。
これらの解決手段としては、大豆の臭みについては、使用前に水に十分に浸漬、洗浄し、不快成分を抽出除去する方法、味滲みについては、洗浄後に十分な水切りを行う方法、食感については、米粉などをまぶし油で揚げる方法、崩壊の防止については、水きりの際に強い力で絞りすぎないという方法があった。
【0005】
しかしながら、これらの解決手段は、水浸漬のような前処理の手間のような煩雑さや、水切りの程度の調整のようなコツ、油揚げ等のようなメニューの限定を伴ってしまうなどという課題があり、食肉様食品の調製方法として必ずしも簡易で汎用的で有効な手段ではなかった。
【0006】
非特許文献1には、組織状大豆たん白質に関する開発例が記載されており、食肉様食品のベースとなる組織状大豆たん白質の製造方法には多種多様な例があることが分かる。
しかしながら、これら組織状大豆たん白質の製造方法は、これらの開発のみによって、食肉様食品の肉質感を向上したり、畜肉の代替品としてそのまま使用できる品質を実現したりすることができるものではなく、調理した畜肉の肉質感(食味や食感)に近似したものとするには、既存の組織状大豆たん白質の調味、調理加工等による工夫も必要であり、したがって、前記した課題は依然として組織状植物性たん白質の利用に共通した課題として残っていた。
【0007】
例えば、特許文献1には、弾力性があり、しなやかで食感の改良された,異臭の少ない大豆たん白食品が開示されている。
次に、特許文献2には、原料由来の植物性蛋白に特有の臭いが感じられず、しかも食した時の咀嚼によっても容易に味が抜けない、味の保持効果に優れた、本物の肉に近似した肉様蛋白食品が開示されている。
また、特許文献3には、大豆たん白特有のきな粉様の異味がなく良好な風味を有する粒状大豆たん白加工食品の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法によれば、加熱凝固性β-1,3-グルカンの水分散液を吸収させた後加熱することで、大豆たん白食品の食感や風味を改善できるとされているが、β-1,3-グルカンは加熱によるゲル化性を有し、可逆性を有さないことから、様々な調理加工による食肉と同様の食感(食肉の粒感や繊維感)の変化を示さないという課題があった。
次に、特許文献2の方法によれば、植物性蛋白を主体とした主原料に、調味成分を包接させたサイクロデキストリンを添加し、得られた混合物を加水下にエクストルーダーで処理して得られる加工物が、植物性蛋白臭が少なく、味の保持効果に優れ、風味の改良がなされるとされているものの、エクストルーダー処理という煩雑な工程を必要とすること、エクストルーダー処理であるが故に、そのまま用いることができたとしても調理加工直後のようなフレッシュな肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)に欠けるという課題があった。
また、特許文献3の方法によれば、糖アルコール及び味噌を含む粒状大豆たん白に、加熱処理を施すことで、風味の改善がなされるとされているものの、食感や食味全般の課題を解決できるものではなかった。
【0009】
また、既存の大豆たん白質素材は、食肉様の咀嚼時の物理的な抵抗による食感(食肉の粒感や繊維感)の実現にはほぼ完成された感があり、大豆たん白質のみを使用して食肉に近似した食肉様食品を調製するには、この食肉様の咀嚼時の物理的な抵抗による食感(食肉の粒感や繊維感)以外の上記課題の解決、具体的には例えば、味が滲みていない、大豆の臭みがある、咀嚼時の物理的抵抗による食感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)に欠ける、などの課題の解決が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平6-90686号公報
【文献】特開平6-98686号公報
【文献】特開2012-39953号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】組織状大豆たん白食品の歩み、調理科学、Vo1.20、No.4、(1987)、p42~52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示は、既存の大豆たん白質素材などの組織状植物性たん白質を用いて、しかも煩雑な前処理や特殊な原料や加工を必要としない。
本開示は、調理加工した食肉に近似した風味(十分に味滲みがある、植物性たん白質由来の異臭がない)と、咀嚼時の物理的抵抗による食感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)を付与した食肉様食品、を含有する液状調味料とその製造方法、並びに肉質感が向上している食肉様食品とその製造方法をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて鋭意研究した結果、従来の技術にない、乳化作用を有する食材および水溶性多糖含有食材の効果に着目し、上記課題を同時に簡易に解決できることを新規に知見した。そして、本発明者らは上記の知見に基づいてさらに鋭意研究を進めることにより、下記の発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本開示は、次の[1]~[13]を提供するものである。
[1]調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理することを特徴とする、食肉様食品を含有する液状調味料の製造方法。
[2]前記調味液が、酢酸及び/又はエタノールを含有する、[1]に記載の液状調味料の製造方法。
[3]前記酢酸の調味液中の含有量が1.0質量%以下である、[2]に記載の液状調味料の製造方法。
[4]前記エタノールの調味液中の含有量が5.0質量%以下である、[2]に記載の液状調味料の製造方法。
[5]前記水溶性多糖含有食材における水溶性多糖の前記調味液中の含有量が0.02質量%以上0.9質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の液状調味料の製造方法。
[6]前記乾燥組織状植物性たん白質が、乾燥組織状大豆たん白質である、[1]~[5]のいずれかに記載の液状調味料の製造方法。
[7]前記乳化作用を有する食材が、前記加熱処理により乳化作用を失う非耐熱性乳化食材である、[1]~[6]のいずれかに記載の液状調味料の製造方法。
[8]100℃未満の温度下での非耐熱性乳化食材が、味噌、卵黄、豆板醤、醤油、豆乳から選ばれる1種以上である[7]に記載の液状調味料の製造方法。
[9]水溶性多糖含有食材が、コンニャクイモ粉、コンブ抽出物、ナガイモ類粉末から選ばれる1種以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の液状調味料の製造方法。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の方法によって得られる、食肉様食品を含有する液状調味料。
[11][1]~[9]のいずれかに記載の方法によって食肉様食品を含有する液状調味料を製造し、得られる液状調味料から、含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とする、食肉様食品の製造方法。
[12][11]に記載の方法によって得られる、肉質感が向上している食肉様食品。
[13]肉質感が向上している食肉様食品を製造するにあたり、
調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理して、食肉様食品を含有する液状調味料を製造し、得られる液状調味料から、その中に含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とする、肉質感が向上している食肉様食品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
以下に詳しく述べる第1の実施形態~第5の実施形態によれば、既存の大豆たん白質素材などの組織状植物性たん白質を用いて、しかも煩雑な前処理や特殊な原料や加工を必要とせずに、調理加工した食肉に近似した風味(十分に味滲みがある、植物性たん白質由来の異臭がない)と咀嚼時の物理的抵抗による食感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)を付与した食肉様食品とこれを含有する液状調味料、並びに、肉質感が向上している食肉様食品とその製造方法が提供される。
第1の実施形態~第5の実施形態により提供される食肉様食品は、食肉を用いて調理加工した食肉メニューに極めて近いものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施の形態(第1の実施形態~第5の実施形態)に束縛されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0017】
<第1の実施形態;食肉様食品を含有する液状調味料の製造方法>
第1の実施形態は、調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理することを特徴とする、食肉様食品を含有する液状調味料の製造方法に関する。
【0018】
第1の実施形態における「調味液」とは、その原料の種類や配合量、組み合わせ、具材の有無、濃度等を含めて、何ら制限されるものではなく、組織状植物性大豆たんぱく質に付与する所望の風味やその強弱に合わせて適宜選択、調整すればよい。
調味液の原料として具体的には例えば、砂糖、醤油、食塩などの他、味付けのための生姜(冷凍みじん切り生姜など)、にんにく(冷凍すりにんにくなど)、唐辛子(唐辛子パウダーなど)等が含まれる。
尚、調味液に、前記[2]に示すように、酢酸及び/又はエタノールを含有させると、水溶性多糖由来の粘稠性による違和感を調整でき、また、組織状植物性たん白質が有する不快臭や不快味をより強く抑制でき、好ましい。酢酸やエタノールは、これらを含有する食酢やみりん、酒などとして配合してもよく、その由来は何ら制限されない。
以下、「調味液中の含有量」の表記の意味としては、調味液が具材などの固形物も含んだ状態を指す。
【0019】
酢酸の調味液中の含有量としては、本開示の効果を奏するためには、必ずしも含有する必要はないが、より強く組織状植物性たん白質由来の異臭を抑制するためには、調味液中の濃度として0.05質量%以上であれば好ましい。一方上限としては、酢酸による水溶性多糖類への影響(加熱下で緩慢な加水分解作用を有すると思われる)の観点から、前記[3]に示すように、1.0質量%以下であることが好ましく、中でも0.75質量%以下であることが好ましく、さらには0.5質量%以下であることが好ましく、中でも0.35質量%以下であることが好ましい。
【0020】
エタノールの調味液中の含有量としては、本開示の効果を奏するためには、必ずしも含有する必要はないが、より強く組織状植物性たん白質由来の異臭を抑制するためには、調味液中の濃度として0.5質量%以上であれば好ましい。一方上限としては、エタノールによる水溶性多糖類への影響(水溶性多糖の粘稠性を抑制すると思われる)の観点から、前記[4]に示すように、5.0質量%以下であることが好ましく、中でも4.0質量%以下であることが好ましく、さらには3.0質量%以下であることが好ましく、中でも2.0質量%以下であることが好ましい。
【0021】
次に、第1の実施形態における「乳化作用を有する食材」としては、食品添加物である乳化剤(例えば、大豆レシチン等)や、これ以外の乳化作用を有する食品(例えば、味噌や卵黄、豆板醤、醤油、豆乳等)等が挙げられる。
尚、乳化作用を有する食材が、前記[7]に示すように、「前記加熱処理により乳化作用を失う非耐熱性乳化食材」(以下、「加熱処理下での非耐熱性乳化性食材」と称することがある。)であれば、第1の実施形態で行われる70℃以上100℃未満の加熱処理後に調味液の油水分離が生じることになる。従って、このときに第1の実施形態で製造される食肉様食品を含有する液状調味料から、その中に含有されている食肉様食品を分離使用する態様において、過剰な油溶性成分又は水溶性成分を食肉様食品に付着させることなく分離可能となり、即ち分離した水層や油層を吸い除いた後、食肉様食品を取り出すことが可能となり、好ましい。
従って、第1の実施形態における「乳化作用を有する食材」としては、前記[7]に示すように、「前記加熱処理により乳化作用を失う非耐熱性乳化食材」、即ち、「加熱処理下での非耐熱性乳化性食材」を用いることが好ましい。このような「加熱処理下での非耐熱性乳化性食材」として具体的には、前記[8]に示すように、味噌、卵黄、豆板醤、醤油、豆乳が挙げられ、これらの中から選ばれる1種以上のものを用いることが好ましい。
【0022】
また、第1の実施形態における「乾燥組織状植物性たん白質」とは、乾燥状態の組織状植物性たん白質を指し、豆類(例えば大豆)や穀類(例えば小麦)由来のたん白質をエクストルーダー等で組織化した物であって、粉末状以外の固形状(例えば、粒状、ミンチ状、ブロック状、スライス状等)を保っており、乾燥した状態のものであれば何ら制限されない。尚、本開示において、乾燥組織状植物性たん白質は、何ら前処理することなくそのまま(乾燥状態のまま)使用することができる。
【0023】
尚、上記したように、本開示で用いる「乾燥組織状植物性たん白質」とは、乾燥状態の組織状植物性たん白質を指しており、この「乾燥組織状植物性たん白質」としては、前記したように特に制限されるものではないが、調達容易性、油脂との親和性の観点から、前記[6]に示すように、大豆由来の乾燥組織状大豆たん白質である、「乾燥組織状大豆たん白質」が好ましい。ここで、「乾燥状態」とは、そのまま常温で流通できる程度の水分活性、水分含量を有することを指す。
【0024】
従来、乾燥組織状植物性たん白質は、素材由来の不快臭や不快味を有するため、温水浸漬などの前処理による、脱臭脱味が必要とされてきた。しかしながら、水切りをしたとしても、この前処理を行っていることで、乾燥組織状植物性たん白質が吸水膨潤しているため、その後に調味液に浸漬しても、調味液が水と十分に置換されず、味滲みが弱い等の問題が生じていた。一方で、前処理を行わないと不快風味が感じられる問題があった。しかしながら、第1の実施形態の製造方法を用いることで、当初から濃厚な調味液が乾燥組織状植物性たん白質に十分に含浸するため、不快風味がマスキングされ異臭が感じられなくなるとともに、味滲みが非常に強いという相反する課題を一度に解決できることとなった。
【0025】
次に、第1の実施形態における「水溶性多糖含有食材」としては、水溶性多糖を含有する食材であれば特に制限されるものではないが、食品添加物(食品衛生法に定められる指定添加物、および既存添加物)である増粘剤を含有するものでなく、天然に水溶性多糖を含有する食材であればよい。
ここで水溶性多糖含有食材の具体的な例としては、植物類としては、コンニャクイモ(Amorphophallus konjac)、ヤマイモ(ジネンジョ、ジネンジョウ、ヤマノイモ)(Dioscorea japonica)、ナガイモ(ヤマトイモ、ツクネイモ)(D. opposita(D. polystachya))、ヤムイモ、キクイモ、タロイモ(サトイモ、エビイモ、エグイモ、カラノイモ、タケノコイモ、タイモ)、レンコン等のイモ類、オクラ、モロヘイヤ、ツルムラサキ、アシタバ、キンジソウ、ジュンサイ、オカワカメ、アロエベラ、サボテン類等の野菜類、ナメコ等のキノコ類、コンブ類(特にはトロロコンブ、ガゴメコンブ等)、ワカメ類(特にはメカブ等)、モズク、アカモク、クロメ、テングサ、オゴノリ等の藻類、ナットウ等の豆類加工品、タマリンド、ジャックフルーツ、ヤドリギ、サボテン類等の果実類や種実類が挙げられる。動物性食品類としては、カスピ海ヨーグルト、その他粘質発酵乳等の乳類加工品等が挙げられる。
水溶性多糖含有食材としては、これらの中でも、乾燥のしやすさの観点から、植物類が好ましく、さらには、夾雑成分の少なさから、イモ類、藻類が好ましい。特には、前記[9]に示すように、コンニャクイモ粉、コンブ抽出物、ナガイモ類粉末(特にヤマトイモ粉)が好ましく、これらの中から選ばれる1種以上のものを用いることが好ましい。但し、これらの中でも、本開示の効果の奏効の観点、及び、液状調味料の風味に影響を与えない観点から、コンニャクイモ粉が特に好ましい。なお、上記「ヤマトイモ」とは、ナガイモ(D. opposita(D. polystachya))の一種であり、ツクネイモと称することもある。
【0026】
さらに、第1の実施形態における「食用油脂」としては、その種類や配合量も含めて、何ら制限されるものではなく、前記した乾燥組織状植物性たん白質に付与する所望の風味やその強弱に合わせて適宜選択、調整すればよい。20℃で固体状である固体脂であっても、20℃で液体状である液状油であってもよく、これらが液状になるように調味液を加熱して用いればよく、これらを併用してもよい。
尚、喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)をより強く付与する観点から、20℃で固体状であるラード等と、20℃で液体状であるキャノーラ油やゴマ油等を併用することが好ましい。
【0027】
第1の実施形態においては、上記した如き、調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用いる。
なお、これら必須原料成分の他に、必要に応じて、野菜類や豆類や香辛料類などの風味づけのための具材等や、調味、調色のための各種食品素材や調味料類等を用いることもできる。
【0028】
第1の実施形態においては、上記必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させる(混合・乳化工程)。このようにして得られたものを、以下、「乳化調味液」という。この乳化調味液には、微細粒状となった油溶性成分と水溶性成分とが存在する。
なお、この混合・乳化の際には、ブレンドタンクなどを用い、このブレンドタンクなど、前記調味液と前記乳化作用を有する食材と前記乾燥組織状植物性たん白質とを投入し、前記水溶性多糖含有食材を投入し、さらに前記食用油脂をこれに投入し、混合し、撹拌すればよい。
【0029】
前記乳化作用を有する食材の配合量としては、前記調味液を乳化させることができる量であればよく、前記乳化作用を有する食材の持つ乳化力によっても異なるため、一義的に定めることはできない。例えば、大豆レシチンの場合には、液状調味料全量中、通常、0.1~2.0質量%程度である。また、味噌の場合には、これより多く、通常、1.0~10.0質量%程度である。但し、これらの量に限定されるものではない。
【0030】
また、液状調味料全量中における水溶性多糖含有食材の配合量としては、通常、0.02質量%以上であればよいが、下記する如き本開示の効果の奏効の観点から、0.025質量%以上が好ましく、中でも0.035質量%以上が好ましく、さらには0.05質量%以上が好ましい。一方で上限としては、過剰な粘稠性による違和感の観点から、通常0.9質量%以下であればよいが、良好な肉質感の観点から、0.75質量%以下が好ましく、中でも0.5質量%以下が特に好ましい。従って、液状調味料全量中における水溶性多糖含有食材の配合量としては、前記[5]に示すように、0.02質量%以上0.9質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
上記混合・乳化工程とほぼ時を同じくして、ほぼ同時的に上記のようにして得られた乳化調味液を、前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させる工程(含浸工程)が行われる。
第1の実施形態においては、このように、上記のようにして得られた乳化調味液を用い、これを前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させているため、微細粒状となった油溶性成分と水溶性成分とが同時に乾燥組織状植物性たん白質に、より含浸しやすくなり、食肉様食品として必須である油脂感、肉汁感を強く付与することができる。
【0032】
第1の実施形態においては、最後の工程として、加熱処理工程を行う。
第1の実施形態における加熱処理温度としては、本開示の効果の奏効に影響を及ぼさなければ何ら制限されないが、具材や調味液に対する熱負荷による風味や物性の劣化が生じる虞の観点から、加熱処理温度は通常、70℃以上100℃未満であればよく、処理時間は適宜調整すればよい。
なお、加熱処理温度を70℃以上100℃未満とすると、前記したように、「乳化作用を有する食材」として「この加熱処理により乳化作用を失う非耐熱性乳化食材」を用いることにより、70℃以上で行われる加熱処理後に調味液の油水分離が生じることになる。従って、このときに第1の実施形態で製造される食肉様食品を含有する液状調味料から、その中に含有されている食肉様食品を分離使用する態様において、過剰な油溶性成分又は水溶性成分を食肉様食品に付着させることなく分離可能となり、即ち分離した水層や油層を吸い除いた後、食肉様食品を取り出すことが可能となり、好ましい。
【0033】
このようにして、第1の実施形態において目的とする、食肉様食品を含有する液状調味料が製造される。
ここで得られる「食肉様食品」は、原料成分として用いた乾燥組織状植物性たん白質に、濃厚な油溶性成分や水溶性成分が含浸されることとなり、必ずしも動物性原料を用いずとも、意外にも食肉に極めて近い食肉様食品として十分かつ良好な風味が付与されたものである。
【0034】
第1の実施形態において、調味液に水溶性多糖を含有する食材を混合することで、調味液中に分散した水溶性多糖が(乾燥)組織状植物性たん白質に付着する。水溶性多糖は、その高い吸水膨潤性により、少量で強い粘稠性を生じ、調味された(乾燥)組織状植物性たん白質の表面あるいはその内部まで入り込み、組織化された植物性たん白質の緻密な構造を補強し、ボロボロと崩れやすい物性を改善するばかりでなく、調味された組織状植物性たん白質の表面をコートする働きを有する。
水溶性多糖によるコートによって、調味された(乾燥)組織状植物性たん白質は内部に含浸された油溶性成分と水溶性成分からなる調味液を内部に保持することが可能になり、喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)を有するものとなる。尚、調味液中に含有された状態においても効果を奏するが、水溶性多糖によってコートされる作用を介して、調味済み(乾燥)組織状植物性たん白質は、そのものを調味液中から分離しても、その表面が、滑らかな食肉感を奏し、食肉メニューに極めて近似した食肉様食品として美味しく摂取可能である。
【0035】
<第2の実施形態;食肉様食品を含有する液状調味料>
第2の実施形態は、前記[10]に示すように、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法によって得られる、食肉様食品を含有する液状調味料である。
前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法の詳細については、前記第1の実施形態において説明したとおりである。
【0036】
なお、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法によって得られる、第2の実施形態に示される液状調味料は、製造方法によって定義された液状調味料に関するものである。
第2の実施形態に示される液状調味料は、調理加工した食肉に近似した風味(十分に味滲みがある、植物性たん白質由来の異臭がない)と咀嚼時の物理的抵抗による食感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)が付与された、食肉様食品を含有する液状調味料であるが、調理加工した食肉に近似した風味[十分に味滲みがある、植物性たん白質由来の異臭がない)や、咀嚼時の物理的抵抗による食感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)]を数値的に表現するには、様々な含有成分を測定したり、機械的な物性を測定したりする必要があり、そのため高価な機器を用いる必要があり、それらの全てについて、出願前に調べることは、不可能かつ非現実的である。
以上のことから、第2の実施形態に示される液状調味料について、製造方法により定義せざるを得ない事情が存在することが明らかである。
【0037】
前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法によって得られる、第2の実施形態に示される液状調味料によれば、調理加工した食肉に近似した風味(十分に味滲みがある、植物性たん白質由来の異臭がない)と咀嚼時の物理的抵抗による食感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)が付与された、食肉様食品を含有する液状調味料が提供される。
【0038】
<第3の実施形態;食肉様食品の製造方法>
第3の実施形態は、前記[11]に示すように、食肉様食品の製造方法に関し、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法によって食肉様食品を含有する液状調味料を製造し、得られる液状調味料から、含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とするものである。
【0039】
第3の実施形態において、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法の詳細については、前記第1の実施形態において説明したとおりである。
【0040】
第3の実施形態においては、上記したように、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法によって食肉様食品を含有する液状調味料を製造する。
次いで、このようにして得られる液状調味料から、含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とする。
液状調味料中に含有されている食肉様食品は、用いる乾燥組織状植物性たん白質の種類や、水溶性多糖を含有する食材などの種類等により、そぼろ状となったり、ひき肉状となったりして、食肉様となっているため、これを液状調味料中から、適宜手段により取り出せばよい。
【0041】
第3の実施形態において、食肉様食品を含有する液状調味料や食肉様食品を製造するに当たっては、例えば、ブレンドタンクなどの混合容器を用い、これに調味液、乳化作用を有する食材、水溶性多糖を含有する食材を投入し、次いで乾燥組織状植物性たん白質をかご状などの容器に入れて投入し、さらに食用油脂を投入し、混合し乳化させて、乾燥組織状植物性たん白質に調味液中に分散した水溶性多糖を含浸、付着させ、さらに加熱処理する。加熱処理後の液性は、油水分離により、二液(油水分離型)となっているため、表層の油相を吸い出した後、かご状などの容器ごと、水溶性多糖が含浸、付着した組織状植物性たん白質(食肉様食品)を取り出せばよい。
このようにして、第3の実施形態により、食肉様食品が得られる。
【0042】
<第4の実施形態;肉質感が向上している食肉様食品>
第4の実施形態は、前記[12]に示すように、前記[11]に記載の方法によって得られる、肉質感が向上している食肉様食品に関する。
【0043】
前記[11]に記載の方法については、前記第3の実施形態において説明したとおりである。
前記[12]に示される、前記[11]に記載の方法によって得られる、第4の実施形態の食肉様食品は、肉質感が向上している。
ここで「肉質感」とは、喫食時の肉質感、即ち、滑らかな舌触りや肉汁の放出感を指し、咀嚼時の物理的抵抗による食感、即ち、粒感や繊維感以外の肉質感を指している。
【0044】
<第5の実施形態;肉質感が向上している食肉様食品の製造方法>
第5の実施形態は、前記[13]に示すように、
肉質感が向上している食肉様食品の製造方法に関し、
肉質感が向上している食肉様食品を製造するにあたり、
調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とを、必須原料成分として用い、これら必須原料成分を混合し、前記調味液を乳化させ、得られた乳化調味液を前記乾燥組織状植物性たん白質に含浸させた後、70℃以上100℃未満で加熱処理して、食肉様食品を含有する液状調味料を製造し、得られる液状調味料から、その中に含有されている食肉様食品を取り出すことを特徴とするものである。
【0045】
第5の実施形態において、必須原料成分である、調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とについては、第1の実施形態などにおいて説明したとおりである。
また、各工程については、第1の実施形態や第3の実施形態などにおいて説明したとおりである。
このようにして、第5の実施形態により、肉質感が向上している食肉様食品が得られる。
ここで「肉質感」とは、第4の実施形態において説明したように、喫食時の肉質感、即ち、滑らかな舌触りや肉汁の放出感を指し、咀嚼時の物理的抵抗による食感、即ち、粒感や繊維感以外の肉質感を指している。
【実施例
【0046】
[実施例1]そぼろ状食肉様食品含有液状調味料の調製
ここでは、第1の実施形態に示される、食肉様食品を含有する液状調味料の調製について検討した。
必須原料成分として、下記に示す調味液と、乳化作用を有する食材と、乾燥組織状植物性たん白質と、水溶性多糖含有食材と、食用油脂とを用いた。
【0047】
乾燥組織状植物性たん白質の代表として、乾燥粒状大豆たん白質(直径約2.5mmの粒状)を選択し、水溶性多糖含有食材の代表としてコンニャクイモ粉(グルコマンナン含量:47.5質量%)を選択した。
次に、乳化作用を有する食材として味噌を選択した。また、食用油脂として、キャノーラ油とラードを選択した。
なお、調味液の各原料、配合量は表1に示したとおりである。即ち、調味液として、砂糖、醤油、ワキシーコーンスターチ(生でんぷん)、食塩、冷凍みじん切り生姜、冷凍すりにんにく、唐辛子パウダー、さらに処方に応じて、醸造酢(酢酸含量15質量%)、みりん(エタノール含量25質量%)を用いた。
【0048】
これらの内、砂糖、醤油、ワキシーコーンスターチ、食塩、(処方に応じて醸造酢又はみりん)、冷凍みじん切り生姜、冷凍すりにんにく、唐辛子パウダーを60℃の温水を入れたブレンドタンク内に投入し、さらに、乳化作用を有する食材である味噌を混合し、次に、乾燥組織状植物性たん白質として乾燥粒状大豆たん白質を投入し、水溶性多糖含有食材としてコンニャクイモ粉を混合し、さらに食用油脂であるキャノーラ油とラードを混合し乳化させ、調味液を乾燥粒状大豆たん白質に含浸させた。その後、定量になるまで加水調整した。十分に攪拌した後、95℃で加熱処理した。
このようにして、そぼろ状の食肉様食品を含有する液状調味料(そぼろ状食肉様食品含有液状調味料)を調製し、さらに調製されたそぼろ状食肉様食品含有液状調味料から、そぼろ状の食肉様食品(そぼろ状となった大豆たんぱく質)を取り出し、食肉様の風味(味滲みの有無、大豆たん白質由来の異臭の有無)及び喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感の有無)を確認、評価した。
【0049】
結果を試験例1~3として、表1(表1-1と表1-2。以下同様)に示す。
なお、比較のために、表1に示す手法により行った結果(比較例1~5)を合わせて表1に示す。
ここで比較例1~4は、乾燥粒状大豆たん白質について、表1に示す組成で、表1に示す前処理を行った結果を示している。また、比較例5は、前処理は行わず、かつ、水溶性多糖含有食材としてコンニャクイモ粉を用いなかった結果を示している。
【0050】
評価は、以下の評価基準によって、1~5の評点を付け、その平均値(小数点以下四捨五入)として示した。尚、備考として官能検査員の見解をまとめたものを記した。詳細は後述する。
【0051】
<評価基準1:味滲み>
5:味滲みが強く、食肉調理品様の風味を十分に感じ、優れる
4:味滲みがやや強く、食肉調理品様の風味を感じ、やや優れる
3:味滲みがあり、食肉調理品様の風味を感じ、許容範囲
2:味滲みがやや弱く、食肉調理品様の風味に乏しく、やや劣る
1:味滲みが弱く、食肉調理品様の風味に極めて乏しく、劣る
【0052】
<評価基準2:植物性たん白質由来の異臭の有無>
5:異臭がなく、食肉調理品様の風味を十分に感じ、優れる
4:異臭がほとんどなく、食肉調理品様の風味を感じ、やや優れる
3:異臭を若干感じるものの、食肉調理品様の風味を感じ、許容範囲
2:異臭がややあり、食肉調理品様の風味にやや違和感を覚え、やや劣る
1:異臭があり、食肉調理品様の風味に違和感を覚え、劣る
【0053】
<評価基準3:滑らかな舌触り>
5:食肉様の滑らかな舌触りを有し、肉質感として優れる
4:食肉様の滑らかな舌触りをやや有し、肉質感としてやや優れる
3:食肉様の滑らかな舌触りをわずかに有し、肉質感として許容範囲
2:食肉様の滑らかな舌触りにやや乏しく、肉質感としてやや劣る
1:食肉様の滑らかな舌触りに乏しく、肉質感として劣る
【0054】
<評価基準4:肉汁の放出感>
5:咀嚼とともに肉汁様の調味液が多量に放出され、肉質感として優れる
4:咀嚼とともに肉汁様の調味液がやや多く放出され、肉質感としてやや優れる
3:咀嚼前から肉汁様の調味液がわずかにしみ出しているが、肉質感として許容範囲
2:咀嚼前からやや肉汁様の調味液がしみ出しており、肉質感としてやや劣る
1:咀嚼前から肉汁様の調味液がしみ出しており、肉質感として劣る
【0055】
<評価基準5:総合評価>
5:食肉様食品として食肉メニューに極めて近似しており、優れる
4:食肉様食品として食肉メニューに近似しており、優れる
3:食肉様食品として食肉メニューにやや近似しており、許容範囲
2:食肉様食品として食肉メニューとはやや違和感を覚え、やや劣る
1:食肉様食品として食肉メニューとは違和感を覚え、劣る
【0056】
尚、官能検査員としては、下記A)~C)の識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味や食感といった品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜した。
【0057】
A)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
B)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
C)メーカーA社醤油2つにメーカーB社醤油1つの計3つのサンプルからB社醤油を正確に識別する3点識別試験。
【0058】
また、前記の何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準サンプルの評価を行い、評価基準の各スコアについて標準化を行った上で、10名によって客観性のある官能検査を行った。各評価項目の評価は、各項目の5段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか一つ選択する方式で評価した。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値から算出した。
【0059】
【表1-1】
【0060】
【表1-2】
【0061】
その結果、従来の大豆たん白質を60℃の温水に浸漬した後、水切りをしない場合では、大豆たん白質由来の異臭が強く、味滲みも弱くなった(比較例1参照)。
また、水切りをしない場合に、水溶性多糖を含有するコンニャクイモ粉を配合すると、滑らかな舌触りと肉汁の放出感は改善される傾向にあったものの、味滲みが悪いせいか、その評価も大きくは向上されなかった(比較例2参照)。
これに対して、水切りをする方法では、味滲みや異臭は許容範囲程度に除去されたものの、肉質感に劣った(比較例3参照)。
また、水切りをする場合に、水溶性多糖を含有するコンニャクイモ粉を配合すると、滑らかな舌触りと肉汁の放出感は改善される傾向にあったものの、味滲みが悪いせいか、その評価も大きくは向上されなかった(比較例4参照)。
一方で、大豆たん白質を前処理することなく乾燥したままの状態で使用した場合は、調味液の十分な含浸により、異臭も改善された。しかしながら、この時、水溶性多糖を含有するコンニャクイモ粉を配合しないと、滑らかな舌触りと肉汁の放出感は改善されなかった(比較例5参照)。
【0062】
これに対して、大豆たん白を前処理することなく使用し、かつ、水溶性多糖を含有するコンニャクイモ粉を配合した場合には、食肉メニューとして、風味、肉質感ともに改善されることが分かった(試験例1参照)。
さらには、酢酸やエタノールを配合することで、異臭はさらに改善されることが分かった(試験例2と試験例3参照)。
尚、咀嚼時の物理的な抵抗による食感(粒感や繊維感)は、すべての調製例で、用いた大豆たん白由来により付与されていた。
また、上記試験例(試験例1~3)で調製されたそぼろ状食肉様食品含有液状調味料は、そのまま麻婆豆腐の素として使用でき、食肉を用いたものと比べて何ら遜色のない品質であった。
【0063】
[実施例2]青椒肉絲(チンジャオロースー)状食肉様食品の調製
ここでは、第3~第5の実施形態に示される、食肉様食品含有液状調味料から取り出した状態の食肉様食品の調製を検討した。
乾燥組織状植物性たん白質として、より大きなサイズのブロック状大豆たん白質(直径0.5mm、長さ約1.5cmのブロック状)を選択し、これをステンレスかごに入れてブレンドタンク中に浸漬した以外は、実施例1と同様の方法で、表2(表2-1と表2-2。以下同様)の処方に基づき、食肉様食品を含有する液状調味料を調製し、さらに調製された食肉様食品含有液状調味料から、食肉様食品を取り出した(食肉様食品の調製)。
【0064】
評価は、調味液が油水分離した後、表層の油分を吸い出したのち、ステンレスかごごと取り出した食肉様食品を、最終的に、食肉の代替として用い、青椒肉絲(チンジャオロースー)を調製した後に行った。評価は実施例1と同様に行った。
結果を試験例4~6として、表2に示す。
なお、比較のために、表2に示す手法により行った結果(比較例6~10)を合わせて表2に示す。
【0065】
尚、青椒肉絲(チンジャオロースー)は、以下の方法で調製した。
1)フライパンに油、にんにく、しょうがを入れて火にかけ、香りがたってきたら、上記調製した各調製例の食肉様食品を加えて軽く炒めた。
2)細切りにしたピーマン、赤ピーマン、たけのこを合わせ、炒めた。
3)めんつゆ:オイスターソース:料理酒=2:1:1で合わせた調味料を回し入れてからめ、塩、コショウを適量加え、仕上げにごま油をたらした。
【0066】
【表2-1】
【0067】
【表2-2】
【0068】
その結果、表2に示されるように、実施例1で調製した食肉様食品入り調味液中のそぼろ状食肉様食品と同様に、調味液から取り出した態様(第3~第5の実施形態に示される態様)においても、本開示の効果が奏されることが分かった。
【0069】
[実施例3]調味液中の水溶性多糖含有食材の至適濃度範囲の検証
ここでは、調味液中(液状調味料中)の水溶性多糖含有食材の至適濃度の範囲を検証した。
実施例1において、水溶性多糖含有食材の配合量を変えるなど、表3に示す処方としたこと以外は、実施例1と同様にして食肉様食品を含有する液状調味料を調製し、さらに調製された食肉様食品含有液状調味料から、食肉様食品を取り出し、実施例1と同様に評価を行った(試験例7~12及び比較例11~比較例12)。
なお、乳化作用を有する食材として味噌の代わりに、大豆レシチンを用いた。
結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
その結果、水溶性多糖含有食品の調味液中の濃度の下限としては、通常0.02質量%以上であればよいが、本開示の効果の奏効の観点から、0.025質量%以上が好ましく、さらには0.05質量%以上が好ましいことが分かった。一方で下限としては、過剰な粘稠性による違和感の観点から、通常0.9質量%以下であればよいが、良好な肉質感の観点から、0.75質量%以下が好ましく、中でも0.5質量%以下が好ましいことが分かった。
【0072】
[実施例4]調味液中の酢酸の至適濃度範囲の検証
ここでは、より強く組織状植物性たん白由来の異臭を抑制することから、本開示にて使用することが好ましい、酢酸の至適濃度の範囲を検証した。
実施例3において、表4に示す量の醸造酢(酢酸含量15質量%)を用い、表4に示す処方としたこと以外は、実施例3と同様にして食肉様食品を含有する液状調味料を調製し、さらに調製された食肉様食品含有液状調味料から、食肉様食品を取り出し、実施例3と同様に評価を行った(試験例13~22)。
結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
その結果、調味液中の酢酸含量の下限としては、本開示の効果を奏するためには、含有せずともよいが、より強く組織状植物性たん白質由来の風味を抑制するには、0.05質量%以上であればより好ましいことが分かった。一方で、調味液中の酢酸含量の上限としては、酢酸による水溶性多糖類への影響(加熱下で緩慢な加水分解作用を有すると思われる)の観点から、1.0質量%以下であることが好ましく、中でも0.75質量%以下であることが好ましく、さらには0.5質量%以下であることが好ましく、中でも0.35質量%以下であることが好ましいことが分かった。
【0075】
[実施例5]調味液中のエタノールの至適濃度範囲の検証
ここでは、より強く組織状植物性たん白由来の異臭を抑制することから、本開示にて使用することが好ましい、エタノールの至適濃度の範囲を検証した。
実施例3において、表5に示す量のみりん(エタノール含量25質量%)を用い、表5に示す処方としたこと以外は、実施例3と同様にして食肉様食品を含有する液状調味料を調製し、さらに調製された食肉様食品含有液状調味料から、食肉様食品を取り出し、実施例3と同様に評価を行った(試験例23~31)。
結果を表5に示す。
【0076】
【表5】

【0077】
その結果、調味液中のエタノール含量の下限としては、本開示の効果を奏するためには、含有せずともよいが、より強く組織状植物性たん白質由来の風味を抑制するには0.5質量%以上であればより好ましいことが分かった。一方で調味液中のエタノール含量の上限としては、エタノールによる水溶性多糖類への影響(水溶性多糖の粘稠性を抑制すると思われる)の観点から、5.0質量%以下であることが好ましく、中でも4.0質量%以下であることが好ましく、さらには3.0質量%以下であることが好ましく、中でも2.0質量%以下であることが好ましいことが分かった。
【0078】
[実施例6]水溶性多糖含有食材の種類の検討
ここでは、水溶性多糖含有食材として、実施例1~5で選択したコンニャクイモ粉以外の水溶性多糖含有食材の種類を検討した。
実施例1において、コンニャクイモ粉の代わりに、表6に示す水溶性多糖含有食材を、表6に示す処方によって用いたこと、かつ、ブロック状の大豆たん白質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして食肉様食品を含有する液状調味料を調製し、さらに調製された食肉様食品含有液状調味料から、食肉様食品を取り出し、実施例1と同様に評価を行った(試験例32~34)。
なお、コンブ抽出物としては、コンブの熱水抽出物粉末(水溶性多糖含量:85質量%)を用いた。また、ナガイモ類粉末としては、ナガイモの一種であるヤマトイモの粉末(水溶性多糖含量:35質量%)を用いた。
結果を表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
その結果、コンニャクイモ粉以外の各水溶性多糖含有食材においても本開示の効果が奏されるものがあることが分かった。
具体的には、コンニャクイモ粉、コンブ抽出物、ナガイモ類粉末(ヤマトイモ粉)のいずれにおいても、風味、肉質感を有し、さらには、肉塊の崩壊性も良好な食肉様食品を調製できることが可能であり、本開示の効果を奏することが分かった。中でも、本開示の効果の奏効の観点、液状調味料の風味に影響を与えない観点から、コンニャクイモ粉が特に好ましいことが分かった。
一方で、食品添加物としての増粘剤である、キサンタンガム、ローカストビーンガム、加工澱粉では、水溶性多糖由来の異質な粘稠性が強く残り、逆に違和感を覚える肉質感となり、本開示の効果は奏されなかった(比較例13~15)。
【0081】
[実施例7]ハンバーグ状食肉様食品の調製
ここでは、実施例1~6の知見をもとに、ハンバーグ状食肉様食品の調製を試みた。
実施例1の試験例2で調製した、食肉様食品含有液状調味料から、実施例2と同様にして食肉様食品のみを分離し、ひき肉の代替物として使用した。
この食肉様食品300gに対して、パン粉を大さじ4杯、豆乳を大さじ4杯、にんにくすりおろしを1/2片分、塩を小さじ1/2杯、砂糖を大さじ1/2杯、こしょうを少々、ビーフエキスパウダー ANT-11(富士食品工業社製)を少々、炒めたみじん切りの玉ねぎを小さめ1個分を、それぞれ加えて材料を練り混ぜ、成型し、空気を抜き、手のひら大のハンバーグ状の食肉様食品を調製した。
次に、フライパンに薄く油をひいて、中火にかけハンバーグ状の食肉様食品を並べ入れた。火加減は弱めの中火にして2分ほど焼き、片面に焼き色をつけた。裏返したら火を弱火にして、蓋をして8分ほどじっくり蒸し焼きにした。ハンバーグ状の食肉様食品を取り出した後、フライパンにケチャップを大さじ3杯、ウスターソースを大さじ1と1/2杯、醤油を大さじ1杯を、それぞれ入れ、混ぜながら軽く煮詰めてソースを作り、先に盛り付けたハンバーグ状の食肉様食品にかけてハンバーグ状食肉様食品を調製した。
【0082】
これに対して、牛:豚(6:4)合びき肉を使用して、上記と同様にしてハンバーグを調製した。これを対照として、上記調製したハンバーグ状の食肉様食品について、実施例1と同様にして評価した(試験例35と比較例16)。
但し、評価基準として次の1項目(評価基準6)を加えた。結果を表7に示す。
【0083】
<評価基準6:肉塊の崩壊性>
5:食肉様食品がボロボロと崩壊しにくく、優れる
4:食肉様食品がややボロボロと崩壊しにくく、やや優れる
3:食肉様食品がわずかにボロボロと崩壊するが、許容範囲
2:食肉様食品がややボロボロと崩壊しやすく、やや劣る
1:食肉様食品がボロボロと崩壊しやすく、劣る
【0084】
【表7】
【0085】
その結果、調製したハンバーグ状食肉様食品(試験例35)は、牛:豚(6:4)の合びき肉を使用して調製したハンバーグに比べて、組織状たん白質由来の肉質感(粒感や繊維感)はもとより、本開示における味滲みや異臭のなさ等の風味、前記以外の肉質感(肉様の滑らかな舌触り、肉汁の放出感、肉塊の崩壊性)において、何ら遜色のない、極めて近似したものであり、本開示の効果が明確に奏されていた。
【0086】
[実施例8]加熱処理温度の検討
実施例1~7では、加熱処理温度の代表として、95℃を設定したが、ここでは、表8に示す各種温度にて加熱処理を行い、実施例1と同様にして食肉様食品を含有する液状調味料を調製し、実施例1と同様にして、評価を行った(試験例36~39)。結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
その結果、加熱処理温度が100℃の場合、肉質感の内の滑らかな舌触りに若干欠けたが、90℃の場合には全く問題がなく、しかも実施例1の試験例1~3では95℃で行っていてやはり全く問題がないことから、70℃~100℃未満の範囲において、調理加工した食肉に近似した風味(十分に味滲みがある、大豆たん白質由来の異臭がない)と咀嚼時の物理的抵抗による肉質感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)を付与することができるものと認められた。よって、加熱処理温度の範囲としては、70℃以上100℃未満であれば問題ないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
第1の実施形態~第5の実施形態によれば、既存の植物性たん白質素材を用いて、煩雑な前処理や特殊な原料や加工を必要とせずに、調理加工した食肉に近似した風味(十分に味滲みがある、植物性たん白質由来の異臭がない)と咀嚼時の物理的抵抗による肉質感(粒感や繊維感)以外の喫食時の肉質感(滑らかな舌触りや肉汁の放出感)を付与し、調理加工した食肉メニューに極めて近い食肉様食品とこれを含有する液状調味料が得られることから、食品分野での応用が期待される。
【関連出願の相互参照】
【0090】
本出願は、2019年1月30日に日本国特許庁に出願された特願2019-014310に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。