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特許7550454BamAタンパク質を利用したサルモネラ属菌感染の検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】BamAタンパク質を利用したサルモネラ属菌感染の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20240906BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240906BHJP
   C07K 14/255 20060101ALN20240906BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240906BHJP
   C12R 1/42 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
G01N33/569 F ZNA
C12Q1/04
C07K14/255
C12N15/31
C12R1:42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021172590
(22)【出願日】2021-10-21
(65)【公開番号】P2023062550
(43)【公開日】2023-05-08
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 正浩
(72)【発明者】
【氏名】下地 善弘
(72)【発明者】
【氏名】アリバム スワルミスタ デビ
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】中山 ももこ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-503203(JP,A)
【文献】特表2012-509075(JP,A)
【文献】藤原ちさと、他,サルモネラ症における新規診断法(エライザ)の開発に向けて,All About Swine ,2019年,No. 54,13-14
【文献】MULLER Janine D., et al.,Improvement of a recombinant antibody-based serological assay for foot-and-mouth disease virus ,Journal of Immunological Methods,2010年,Vol. 352, No. 1-2,81-88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BamAタンパク質またはその機能的断片を抗原として試料中の抗サルモネラ抗体を免疫学的に検出することを含む、サルモネラ属菌感染の検出方法。
【請求項2】
BamAタンパク質またはその機能的断片を含む、サルモネラ属菌感染を免疫学的に検出するための抗原試薬。
【請求項3】
請求項2に記載の抗原試薬を含む、サルモネラ属菌感染を免疫学的に検出するのためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BamAタンパク質を利用したサルモネラ属菌感染の検出方法、ならびに当該検出方法に用いるための抗原試薬およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ属菌は、2,600種類以上の血清型に細分されるグラム陰性桿菌である。サルモネラ症(家畜・家禽)および家禽サルモネラ感染症は、それぞれ、家畜伝染病予防法に基づく届出伝染病および法定伝染病に指定されており、それらの感染予防対策が重要である。家畜や家禽にサルモネラ属菌が感染すると、発熱、食欲不振、元気消失を主徴として、急性敗血症や慢性的な下痢症を引き起こす。しかしながら、科学的手法の限界などから国内外の家畜や家禽のサルモネラ症の発生は、完全には抑制されていない。また、サルモネラ症が発生した農場では、菌の清浄化に難渋する場合がある。
【0003】
菌の清浄化に向けた取り組みとして、宿主からの菌の分離培養や血清中の抗体測定によるモニタリングが実施されている。血清中の抗体の定期的な測定によってサルモネラ属菌の感染時期を推定することにより、適切な感染対策措置を講じることが可能となる。
【0004】
一方、農場においてサルモネラ症が発生した場合、感染拡大の防止を目的として、ワクチンを投与する場合がある。現在、国内でウシおよびニワトリに接種されているサルモネラワクチンは、菌体をホルマリン処理により不活化したワクチンであり、感染防止対策として非常に有効な手段となっている。
【0005】
しかしながら、ワクチン接種個体の血清中の抗サルモネラ抗体を測定すると、サルモネラ属菌の感染個体と同様に、陽性反応を示してしまう。すなわち、ワクチン接種により、サルモネラ属菌の感染個体と非感染個体の区別がつかなくなるといった科学的瑕疵が生じてしまう。このためサルモネラ属菌の感染個体とワクチン接種個体とを識別できる検査法の開発が望まれている。
【0006】
このような識別が可能な検査法としては、例えば、サルモネラ属菌のべん毛抗原を構成するタンパク質を利用した検査法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2004/055045号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、不活化ワクチンを接種した個体と識別して、サルモネラ属菌に感染した個体を検出することが可能な新たな方法を提供することにある。また、本発明は、この検出に用いるための試薬およびキットを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、サルモネラ属菌の菌体膜タンパク質であるBamAタンパク質が、不活化ワクチンを接種した個体で生産される抗サルモネラ抗体よりも、サルモネラ属菌に感染した個体で生産される抗サルモネラ抗体に対して高い親和性を有し、当該タンパク質を抗サルモネラ抗体の検出のための抗原として用いることにより、高い精度でサルモネラ属菌の感染を検出することが可能であることを見出した。その一方、サルモネラ属菌のIII型分泌装置より菌体外へ分泌されるタンパク質(SseGタンパク質やSseFタンパク質)、菌体膜タンパク質(LptDタンパク質)、およびLPS(Lipopolysaccharide)を抗原として用いた場合には、上記2つの抗サルモネラ抗体への親和性に有意な差異が認められなかった。以上から、BamAタンパク質が示した特異性は、サルモネラ属菌を構成する分子に共通の事象ではないことが判明した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づく、BamAタンパク質を利用したサルモネラ属菌感染の検出方法、当該検出方法に用いるための試薬およびキットに関し、より詳しくは、以下を提供するものである。
【0011】
(1)BamAタンパク質またはその機能的断片を抗原として試料中の抗サルモネラ抗体を免疫学的に検出することを含む、サルモネラ属菌感染の検出方法。
【0012】
(2)BamAタンパク質またはその機能的断片を含む、サルモネラ属菌感染を免疫学的に検出するための抗原試薬。
【0013】
(3)(2)に記載の抗原試薬を含む、サルモネラ属菌感染を免疫学的に検出するのためのキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、BamAタンパク質を利用して、簡便かつ高い精度で、サルモネラ属菌感染を検出することが可能となった。サルモネラ属菌は、家畜や家禽に感染して、その生産性に影響を与え、経済的な損失を生じさせるばかりでなく、ヒトにおいて食中毒を引き起こす人獣共通感染症の原因菌である。本発明を利用すれば、家畜や家禽などの動物やヒトにおいて、効率的にサルモネラ属菌の感染予防を行うことが可能となる。特に、ニワトリにおいては、ワクチン接種個体の血清が、ひな白痢(家禽サルモネラ感染症)の診断に使用する、ひな白痢急速凝集診断液に対して偽陽性を示す場合があり、ワクチン接種がひな白痢の診断を困難にしている。本発明は、こうした既存の診断の補助としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】サルモネラ属菌に感染したニワトリおよび不活化ワクチンを接種したニワトリのそれぞれの血清中の抗サルモネラ抗体を、BamAタンパク質を抗原としたELISAにより検出した結果を示すグラフである。
図1B】サルモネラ属菌に感染したニワトリおよび不活化ワクチンを接種したニワトリのそれぞれの血清中の抗サルモネラ抗体を、SseFタンパク質を抗原としたELISAにより検出した結果を示すグラフである。
図1C】サルモネラ属菌に感染したニワトリおよび不活化ワクチンを接種したニワトリのそれぞれの血清中の抗サルモネラ抗体を、SseGタンパク質を抗原としたELISAにより検出した結果を示すグラフである。
図1D】サルモネラ属菌に感染したニワトリおよび不活化ワクチンを接種したニワトリのそれぞれの血清中の抗サルモネラ抗体を、LptDタンパク質を抗原としたELISAにより検出した結果を示すグラフである。
図1E】サルモネラ属菌に感染したニワトリおよび不活化ワクチンを接種したニワトリのそれぞれの血清中の抗サルモネラ抗体を、LPSを抗原としたELISAにより検出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、BamAタンパク質またはその機能的断片を抗原として試料中の抗サルモネラ抗体を免疫学的に検出することを含む、サルモネラ属菌感染の検出方法を提供する。
【0017】
本発明の検出方法において感染を検出する「サルモネラ属菌」としては、例えば、Salmonella enterica subsp. entericaに属するSalmonella Typhimurium、Salmonella Choleraesuis、Salmonella Dublin、Salmonella Enteritidis、Salmonella Gallinarum、Salmonella Pullorumなどの各血清型のサルモネラ属菌が挙げられるが、これらに制限されない。
【0018】
本発明においてサルモネラ属菌感染の検出に用いる「試料」としては、抗サルモネラ抗体が存在し得る試料である限り特に制限はない。一般的には、サルモネラ属菌が感染し得る個体から採取された血清、血漿、および全血などの血液試料である。試料の由来する生物としては、サルモネラ属菌が感染し得る生物であれば特に制限はなく、ヒトおよび他の動物が挙げられる。動物は、家畜であってもよく、愛玩動物(ペット)であっても、実験動物であっても、それ以外の用途の動物であってもよい。動物としては、例えば、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、カモ、ウズラ、キジ、ハト、七面鳥、ホロホロ鳥、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0019】
これらの試料は、必要に応じて希釈液で希釈または懸濁したものであってもよい。前記希釈液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液、コハク酸緩衝液、フタル酸緩衝液などの緩衝液が挙げられる。また、本発明における試料は、必要に応じて適宜前処理が施されたものであってもよい。前処理としては、例えば、凍結、濃縮、分画、精製などの処理や、pH調整剤、安定化剤、保存剤、防腐剤などの添加処理などが挙げられ、これら処理のうちの1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
本発明においては、サルモネラ属菌感染の指標として、試料中の抗サルモネラ抗体を検出する。「抗サルモネラ抗体」は、前記サルモネラ属菌に特異的に結合可能な抗体であり、より具体的には、試料の由来する個体の体内において産生された抗体である。抗サルモネラ抗体のアイソタイプは、生物種により変動し得るが、例えば、IgY、IgG、IgM、IgAのうちのいずれであってもよく、これらのうちの2種以上の組み合わせであってもよい。また、アイソタイプとしては、それぞれ、いずれのサブクラスであってもよい。サルモネラ属菌感染後の個体の体内における抗サルモネラ抗体の出現時期および持続時間は、抗体の種類により変動し得る。従って、本発明において検出するサルモネラ属菌感染には、サルモネラ属菌の現在および過去の感染が含まれる。
【0021】
本発明においては、抗サルモネラ抗体の検出のための抗原として、BamAタンパク質またはその機能的断片を用いることを特徴とする。「BamAタンパク質」は、サルモネラ属菌の菌体膜タンパク質であるである。BamAタンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:2に、当該タンパク質をコードするDNAの典型的な塩基配列を配列番号:1に示す。但し、自然界においては、遺伝子の変異により当該タンパク質のアミノ酸配列が変化しうることは理解されたい。抗原としては、BamAタンパク質の「機能的断片」を用いることもできる。ここで機能的断片とは、抗サルモネラ抗体に対して結合活性を有するBamAタンパク質の断片を意味する。BamAタンパク質の断片の抗サルモネラ抗体への結合活性は、後述する免疫学的手法により評価することができる。BamAタンパク質またはその機能的断片は、抗サルモネラ抗体への結合活性を損なわない限り、変異導入などの修飾を行ってもよい。
【0022】
BamAタンパク質またはその機能的断片は、当技術分野で周知の方法により、組換えタンパク質または天然タンパク質として調製することができる。組換えタンパク質は、例えば、BamAタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1記載の塩基配列を含むDNA)または当該タンパク質の断片をコードするDNAを適切な発現ベクターに挿入し、このベクターを適切な宿主細胞に導入し、当該宿主細胞の抽出物または培養上清から精製することにより調製することができる。精製手段としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過などが挙げられるが、これらに制限されない。また、BamAタンパク質またはその断片を宿主細胞(例えば、大腸菌など)で、複数のヒスチジンが付加された組換えタンパク質として、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として発現させる場合、発現させた組換えタンパク質は、それぞれニッケルカラムまたはグルタチオンカラムを用いて、アフィニティー精製することができる。融合タンパク質の精製後に、トロンビンまたは第Xa因子で必要に応じて切断することにより、目的のタンパク質や断片以外の領域を除去することができる。天然のタンパク質は、当業者に公知の方法、例えば、BamAタンパク質に対する抗体が結合したアフィニティカラムに、サルモネラ属菌の抽出物を接触させることにより、調製することができる。
【0023】
本発明に用いる免疫学的測定法の検出原理としては、高感度な検出システムを構築することができる点で、サンドイッチ法が好適である。サンドイッチ法においては、固相化した捕捉用分子で抗サルモネラ抗体を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用分子に認識させ、洗浄後、標識物質の種類に応じた検出を行う。固相としては、例えば、プラスチックプレートなどのプレート、ニトロセルロースなどの繊維状物質、磁性粒子やラテックス粒子などの粒子を用いることができる。
【0024】
サンドイッチ法においては、抗サルモネラ抗体の捕捉用分子および検出用分子の少なくとも一方の分子に、抗原としてのBamAタンパク質またはその機能的断片を用いる。他の一方の分子は、抗サルモネラ抗体に結合し得る限り特に制限はないが、例えば、抗サルモネラ抗体に対する抗体(二次抗体)やその他抗サルモネラ抗体に結合するタンパク質を用いることができる。
【0025】
検出用分子には、通常、標識物質が結合されている。標識物質としては、検出可能な物質であれば特に制限はないが、例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光色素、アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE)などの蛍光蛋白質、125Iなどの放射性同位元素、金粒子、アビジン、ビオチン、ラテックスなどが挙げられる。標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、発色基質、蛍光基質、あるいは化学発光基質などを添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。
【0026】
試料中の抗サルモネラ抗体を定量する場合には、ELISAなどの、マイクロプレートのウェルやビーズを固相とするサンドイッチ法が好ましい。得られた測定値からの抗サルモネラ抗体量の特定は、一般的に、標準試料による測定値との比較により行うことができる。この場合、例えば、標準試料による測定値に基づいて作成された標準曲線上のどの位置に、実際の測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中の抗サルモネラ抗体量を求めることができる。
【0027】
一方、簡便かつ迅速に抗サルモネラ抗体を検出するには、イムノクロマトグラフィーが好適である。イムノクロマトグラフィーのデバイスの一態様について説明すると、当該デバイスは、ニトロセルロース膜のような多孔性素材からなるマトリックス上に、捕捉用分子をライン状に固相化した検出ゾーンと、その上流側に、標識した検出用分子を担持した標識試薬ゾーンを含む。通常、標識試薬ゾーンは、標識した検出用分子を担持した多孔性のパッドにより構成される。マトリックスの上流端には、展開液を貯蔵した展開液槽が設けられている。さらに、通常、前記検出ゾーンの下流に、標識した検出用分子の展開を確認するために当該検出用分子を捕捉する分子をライン状に固相化した展開確認部と、さらにその下流に、展開液を吸収するための多孔性の吸収パッドが設けられた展開液吸収ゾーンが設けられている。さらに、標識が酵素標識である場合には、標識試薬ゾーンよりも上流に、標識酵素の基質を担持した基質ゾーンが設けられる。
【0028】
使用時には、試料を標識試薬ゾーンに添加し、押し込み部を加圧して突起部を移動させることにより、展開液パッドを展開液槽に挿入し、展開液パッドを通じて展開液をマトリックスに供給する。展開液が基質ゾーンを通過する際に基質が展開液中に溶出され、基質を含む展開液が流動する。展開液が標識試薬ゾーンを通過する際に、標識した検出用分子と試料とが展開液中に溶出され、基質、標識した検出用分子および試料を含む展開液が流動する。試料中に抗サルモネラ抗体が含まれる場合には、抗サルモネラ抗体と標識した検出用分子とが結合して複合体を形成し、この複合体が検出ゾーンに到達すると、検出ゾーン上の捕捉用分子と複合体中の抗サルモネラ抗体とが結合する。その結果、抗サルモネラ抗体を介して標識した検出用分子が検出ゾーンに固定される。こうして検出ゾーンにおける標識を測定することにより、抗サルモネラ抗体が検出される。試料中に抗サルモネラ抗体が含まれていない場合には、標識した検出用分子は検出ゾーンに固定されず、さらに下流に移動するため、検出ゾーンにおいて標識は検出されない。なお、検出ゾーンの下流の展開液確認部には、検出用分子を捕捉する分子が固相化されているため、標識した検出用分子は展開液確認部に固定される。よって、展開液確認部に標識が検出された場合、展開液が正しく展開されたことを意味する。展開液は、最終的に、その下流の吸収パッドに吸収される。
【0029】
本発明の検出方法によれば、サルモネラ属菌に感染した個体と不活化したサルモネラ属菌をワクチンとして接種した個体を識別することができる。ワクチンとして使用する不活化したサルモネラ属菌は、例えば、サルモネラ属菌の加熱処理、化学消毒剤処理、放射線あるいは紫外線の照射、変異促進物質処理などにより調製することができる。不活化処理としては、好適には、加熱処理または化学消毒剤であるホルマリンによる処理が用いられる。不活化したサルモネラ属菌は、異なるサルモネラ属菌の混合物(例えば、異なる種や異なる血清型のサルモネラ属菌の混合物)であってもよい。
【0030】
本発明は、また、BamAタンパク質またはその機能的断片を含む、サルモネラ属菌感染を免疫学的に検出するための抗原試薬を提供する。当該抗原試薬は、抗原であるBamAタンパク質またはその機能的断片のみからなるものであっても、これに標識物質が結合したものであっても、これを固相化したものであってもよい。また、これらを含む組成物であってもよい。組成物に含まれる他の成分としては、特に制限されないが、例えば、滅菌水、生理食塩水、界面活性剤、保存剤などが挙げられ、これらのうちの1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0031】
本発明は、また、前記抗原試薬を含む、サルモネラ属菌感染を免疫学的に検出するためのキットを提供する。キットには、抗原試薬以外に、免疫学的検出法において備えるべき構成をさらに備えていてもよい。このような構成としては、例えば、標準試料(各濃度の抗サルモネラ抗体など)、対照試薬、反応用バッファー、希釈液、洗浄液などが挙げられるが、これらに制限されない。標識物質が酵素である場合には、標識物質の検出や定量に必要な基質や反応停止液などをさらに含んでいてもよい。
【0032】
検出にサンドイッチ法を採用する場合において、BamAタンパク質またはその機能的断片が結合した固相を抗サルモネラ抗体の捕捉用分子(本発明の抗原試薬の一態様)として用いる場合には、本発明のキットにおいては、さらに、抗サルモネラ抗体の検出用分子として標識物質が結合した二次抗体などを備えていてもよい。一方、標識されたBamAタンパク質またはその機能的断片を抗サルモネラ抗体の検出用分子(本発明の抗原試薬の一態様)として用いる場合には、本発明のキットにおいては、さらに、抗サルモネラ抗体の捕捉用分子として、二次抗体などが結合した固相を備えていてもよい。
【0033】
また、検出にイムノクロマトグラフィーを採用する場合には、抗サルモネラ抗体の捕捉用分子および/または標識した検出用分子を担持したゾーンを含むデバイスをさらに含んでいてもよい。デバイスは、展開液パッドや吸収パッドなど、イムノクロマトグラフィーに適したその他の構成を備えることができる。
【0034】
本発明のキットには、当該キットの使用説明書をさらに含んでいてもよい。
【実施例
【0035】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
A.材料および方法
(1)抗原の精製
抗原として利用したサルモネラ属菌由来の分子は、以下のとおりである。
【0037】
(a)実施例
BamAタンパク質(804アミノ酸,分子量90422,菌体膜タンパク質)(配列番号:1、2)
【0038】
(b)比較例
(i)SseGタンパク質(230アミノ酸、分子量24237、III型分泌装置より菌体外へ分泌されるタンパク質)(配列番号3、4)
(ii)SseFタンパク質(261アミノ酸、分子量26595、III型分泌装置より菌体外へ分泌されるタンパク質)(配列番号5、6)
(iii)LptDタンパク質(786アミノ酸、分子量89540、菌体膜タンパク質)(配列番号7、8)
(iv)LPS(Lipopolysaccharide)
【0039】
(2)抗原遺伝子のクローニング
Salmonella enterica serovar Typhimurium x3306株のDNAを鋳型に、表1に記載の各種プライマーを用いてPCR行った。
【0040】
【表1】
【0041】
次に、PCR産物をTOPOクローニング法を用いてクローニングし、その後、大腸菌内において、(1)に記載の各サルモネラタンパク質を高発現させた。タンパク質発現のためのプラスミドとしては、pET151/D-TOPOを使用した。このプラスミドを用いて発現させたタンパク質のN末側には、Hisタグ(6x)が付加される。
【0042】
(3)抗原の精製
5mLのLB培地(アンピシリン入り)中で、一晩、前記サルモネラ属菌を前培養(静置培養)した。次いで、100mLのLB培地にて吸光度(600nm)が0.3になるまで振盪培養し、Isopropyl-β-D-thiogalactopyranosideを加えて、さらに6時間培養した。培養後、菌体を回収し、超音波処理により菌体を破砕した。次いで、破砕した菌体をUrea lysisバッファーにて溶解し、ニッケルカラムを用いて各種タンパク質を捕捉して精製し、imidazole溶出バッファーにて溶出した。
【0043】
LPSは、5mlのLB培地中で37℃で一晩静置培養したサルモネラ属菌からLPS抽出キット(iNtRON社)を用いて精製した。
【0044】
(4)ニワトリ血清
ニワトリ(白色レグホン)に対して、生後1週間目と3週間目に、Salmonella enterica serovar Typhimuriumまたは不活化ワクチン(熱不活化した死菌)を2回接種し、2週間後に血清を採取した。
【0045】
サルモネラ属菌感染群においては、Salmonella enterica serovar Typhimurium aroA変異株(1x10 CFU/ml/200μl PBS)を静脈に2回接種した。
【0046】
ワクチン接種群においては、100度5分間の熱処理により不活化したSalmonella enterica serovar Typhimurium aroA変異株(1x10 CFU/ml/200μl PBS)を静脈に2回接種した。
【0047】
(5)エライザ法
0.5μg/mlに調整した抗原(組み換えサルモネラタンパク質)を37℃、1時間反応させ抗原を固相化した後、ブロッキングワン(ナカライテスク)を用いて室温で1時間ブロッキングした。次いで、固相化した各種タンパク質に対して、サルモネラ感染群およびワクチン接種群の血清をそれぞれ、37℃で1時間反応させ、さらに、2次抗体(HRP標識ウサギ抗ニワトリIgY抗体)を、37℃で1時間反応させた。次いで、基質としてのTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)を添加して、HRP標識を発色させ、吸光プレートリーダー(450nm)を用いて、ニワトリIgYを定量した。
【0048】
B.結果
(1)ニワトリにおける組換えBamAタンパク質を抗原としたエライザ法
菌体膜タンパク質であるBamAタンパク質を抗原として用いて、ニワトリ血清に対してエライザを行った結果、サルモネラ属菌感染群においては、ワクチン接種群と比較して、血清中の抗体価が高かった(図1A)。一方、III型分泌装置より分泌されるSseGタンパク質、SseFタンパク質、膜タンパク質であるLptDタンパク質、およびSalmonella enterica serovar Typhimurium x3306由来のLPSを、それぞれ抗原として用いた場合には、サルモネラ属菌感染群とワクチン接種群との間で血清中の抗体価に有意差は認められなかった(図1B~E)。以上の結果から、BamAタンパク質は、ワクチン接種個体とサルモネラ属菌感染個体とを区別できる抗原であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、不活化ワクチンを接種した個体と識別して、サルモネラ属菌に感染した個体を特定することができる。本発明は、特に、農業よび医療の分野において利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0050】
配列番号:9~16
<223> プライマー配列
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
【配列表】
0007550454000001.app