(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】情報処理システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20240906BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20240906BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240906BHJP
G06F 113/10 20200101ALN20240906BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/27
B33Y50/00
G06F113:10
(21)【出願番号】P 2020168284
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】野口 学
(72)【発明者】
【氏名】早房 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】高桑 諒
(72)【発明者】
【氏名】阪口 隼夫
(72)【発明者】
【氏名】金 原徳
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128770(JP,A)
【文献】特開2017-211977(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189639(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B33Y 50/00 -50/02
B29C 64/00 -64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定部と、
前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定部と、
を備え、
前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、
前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係である
情報処理システム。
【請求項2】
前記決定されたサポート部材の密度または前記決定されたオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを用いて、造形レシピを決定する造形レシピ決定部を備える
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
材料の少なくとも一つの物性値を用いて溶融池解析することによって、材料レシピを決定する材料レシピ決定部と、
前記材料レシピと前記造形レシピを用いて、当該造形対象物が変形しないかどうか解析する変形解析部と、
を備える請求項2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記オーバーハング部分の形状に関するパラメータは、オーバーハングの角度、長さ及び/または厚みである
請求項1から3のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項5】
材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定手順、
前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定手順、
を含む方法であって、
前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、
前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係である方法。
【請求項6】
コンピュータに、
材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定手順、
前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定手順、
を実行させるためのプログラムであって、
前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、
前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係であるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属積層技術を用いた3次元積層装置(いわゆる3Dプリンタ)で積層して造形することにより、複雑で精緻な形状を有する造形物を作成することが可能になりつつある。金属積層造形技術は大きな注目を集めており、基本的には殆どの金属材料がビームで溶融できるにも拘らず、現状では限られた金属材料しか扱えない。金属材料を使用可能にするには、金属を溶融するビームの操作条件(以下、材料レシピともいう)を開発する必要がある。また実際の造形においては変形を防止するためのサポート部材(支持部といわれることもある)を同時に造形する必要があり、造形方向やサポート条件など(以下、造形レシピともいう)を開発する必要がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11は、新材料の検討から造形品を完成するまでの一般的なプロセスを示す図である。先ず材料を試作し(ステップS910)、続いて試作材料の評価を行う(ステップS920)。トライ&エラーの結果、十分な材料特性が得られた場合、積層造形向けの材料レシピ開発に着手する(ステップS930)。ここでも再びトライ&エラーを繰り返し、場合によっては材料成分を再調整する事により材料レシピが開発され造形材料として使用可能になる。
【0005】
続いて、実造形物の造形レシピ開発を行う(ステップS940)が、材料レシピ開発時は小型の試験片を造形しながら溶融条件を最適化するのに対し、実造形物は複雑でより大きな形状である事が一般的である。そのため、材料レシピの改良が必要になるケースが少なくない。
そして造形レシピ開発の肝は、サポート部材の密度の決定である。強固なサポートを高密度で付ける事により変形は防止できるが、サポート部材は後々除去が必要となるため、変形を抑えられかつできるだけ除去が容易なサポート部材を設計する必要がある。造形レシピが完成した後に、実際の造形となる(ステップS960)が、現状では、変形するたびに、変形しないように造形レシピの改良を頻繁に繰り返し、造形レシピ開発に至る。この造形のトライ&エラーを減らすため、変形解析(ステップS950)などが用いられる場合がある。
【0006】
一連のプロセスにおいて、新材料を利用する場合、各プロセスでのトライ&エラーが必要になり、材料開発から造形品の開発までに多大な労力と時間が要求される。そのため、積層造形において、本来は多種多様な材料が使用できる筈だが、使用可能な材料が限定されている。また積層造形の売りは金型製造などが不要で短時間での製品製造にあるが、特に複雑形状品においては、造形レシピの開発に時間が掛かり、結果として製品製造に多大な時間を要する場合がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することを可能とする情報処理システム、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る情報処理システムは、材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定部と、前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定部と、を備え、前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係である。
【0009】
この構成によれば、対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度、またはオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータが自動的に決定されるので、実際に造形することなしにサポート部材の密度またはオーバーハング部分の形状が決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る情報処理システムは、第1の態様に係る情報処理システムであって、前記決定されたサポート部材の密度または前記決定されたオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを用いて、造形レシピを決定する造形レシピ決定部を備える。
【0011】
この構成によれば、造形レシピが自動的に決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る情報処理システムは、第1または2の態様に係る情報処理システムであって、材料の少なくとも一つの物性値を用いて溶融池解析することによって、材料レシピを決定する材料レシピ決定部と、前記材料レシピと前記造形レシピを用いて、当該造形対象物が変形しないかどうか解析する変形解析部と、を備える。
【0013】
この構成によれば、造形対象物が変形しないかどうか自動的に解析されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る情報処理システムは、第1から3のいずれかの態様に係る情報処理システムであって、前記オーバーハング部分の形状に関するパラメータは、オーバーハングの角度、長さ及び/または厚みである。
【0015】
この構成によれば、オーバーハングの角度、長さ及び/または厚みを自動的に決定することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る情報処理システムは、サポート部材が除去可能な限界サポート条件を受け付ける受付部と、限界サポート条件と造形難易度との対応関係に対して、当該受け付けられたサポート部材が除去可能な限界サポート条件を適用して造形可能な造形難易度を決定し、当該決定した造形難易度と対象の材料の物性値それぞれを用いた最適化解析により、造形難易度に対する少なくとも一つの物性値の値または範囲を決定する材料物性値決定部と、を備える。
【0017】
この構成によれば、物性値の値または範囲を自動的に決定することができるので、実際に造形することなしに材料の物性値の範囲を明らかにする事ができ、新材料の選定およびその造形トライ&エラーの回数を大幅に削減する事ができる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る情報処理システムは、第5の態様に係る情報処理システムであって、前記受付部は、設計要求から定まる第1の物性値の上限及び/または下限を受け付け、前記材料物性値決定部は、造形難易度が前記決定した造形難易度である条件下における第1の物性値及び第2の物性値の関係を用いて、前記受付部によって受け付けられた第1の物性値の上限及び/または下限の範囲に第1の物性値が収まる第2の物性値の値または範囲を決定する。
【0019】
この構成によれば、材料強度など設計要求から必要な物性値が存在しても、これらの条件を考慮し、設計要求を満たしかつ造形可能な物性値の値または範囲を求める事ができる。
【0020】
本発明の第7の態様に係る情報処理システムは、第5または6の態様に係る情報処理システムであって、前記材料物性値決定部によって決定された各物性値の値または範囲を用いて、材料組成を決定する材料組成決定部を更に備える。
【0021】
この構成によれば、決定された材料物性値に対して、マテリアルズインフォマティクスの手法と組み合わせる事により、積層造形に向けた材料組成の提案を自動で行うことができる。
【0022】
本発明の第8の態様に係る情報処理システムは、第7の態様に係る情報処理システムであって、前記材料組成決定部は、前記材料物性値決定部によって決定された物性値を、材料物性値を入力とし材料組成を出力とする学習済みの機械学習モデルに入力して、材料組成を出力する。
【0023】
この構成によれば、学習済みの機械学習モデルを用いることにより、最適な材料組成の予測精度を向上させることができる。
【0024】
本発明の第9の態様に係る方法は、材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定手順、前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定手順、を含む方法であって、前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係である。
【0025】
この構成によれば、対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度、またはオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータが自動的に決定されるので、実際に造形することなしにサポート部材の密度またはオーバーハング部分の形状が決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0026】
本発明の第10の態様に係る方法は、サポート部材が除去可能な限界サポート条件を受け付ける受付手順、限界サポート条件と造形難易度との対応関係に対して、当該受け付けられたサポート部材が除去可能な限界サポート条件を適用して造形可能な造形難易度を決定し、当該決定した造形難易度と対象の材料の物性値それぞれを用いた最適化解析により、造形難易度に対する少なくとも一つの物性値の値または範囲を決定する材料物性値決定手順、を含む。
【0027】
この構成によれば、物性値の値または範囲を自動的に決定することができるので、実際に造形することなしに材料の物性値の範囲を明らかにする事ができ、新材料の選定およびその造形トライ&エラーの回数を大幅に削減する事ができる。
【0028】
本発明の第11の態様に係るプログラムは、コンピュータに、材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定手順、前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定手順、を実行させるためのプログラムであって、前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係であるプログラムである。
【0029】
この構成によれば、対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度、またはオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータが自動的に決定されるので、実際に造形することなしにサポート部材の密度またはオーバーハング部分の形状が決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0030】
本発明の第12の態様に係るプログラムは、コンピュータに、サポート部材が除去可能な限界サポート条件を受け付ける受付手順、限界サポート条件と造形難易度との対応関係に対して、当該受け付けられたサポート部材が除去可能な限界サポート条件を適用して造形可能な造形難易度を決定し、当該決定した造形難易度と対象の材料の物性値それぞれを用いた最適化解析により、造形難易度に対する少なくとも一つの物性値の値または範囲を決定する材料物性値決定手順、を実行させるためのプログラムである。
【0031】
この構成によれば、物性値の値または範囲を自動的に決定することができるので、実際に造形することなしに材料の物性値の範囲を明らかにする事ができ、新材料の選定およびその造形トライ&エラーの回数を大幅に削減する事ができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一態様によれば、対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度、またはオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータが自動的に決定されるので、実際に造形することなしにサポート部材の密度またはオーバーハング部分の形状が決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
本発明の別の態様によれば、物性値の値または範囲を自動的に決定することができるので、実際に造形することなしに材料の物性値の範囲を明らかにする事ができ、新材料の選定およびその造形トライ&エラーの回数を大幅に削減する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1の実施形態に係る情報処理システムの概略構成図である。
【
図2】造形物のオーバーハング部分を説明する模式縦断面図である。
【
図3】オーバーハング部分の形状に関するパラメータと造形難易度との関係の一例を示す3つのグラフである。
【
図5A】比較例に係る変形解析を使用するプロセスの模式図である。
【
図6】材料の第2の物性値の範囲を決定する処理を説明するための模式図である。
【
図7】データ科学的手法を用いる事により材料組成を決定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】材料組成の決定方法を説明するための模式図である。
【
図9】第2の実施形態に係る情報処理システムの概略構成図である。
【
図10】第2の実施形態に係るコンピュータシステムの概略構成図である。
【
図11】新材料の検討から造形品を完成するまでの一般的なプロセスを示す図である。
【
図12】最適化解析の一例が示されている図である。
【
図14】最適化解析の結果を応答曲面で表現した結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、各実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0035】
上述したように、金属積層造形においては、原理的に幅広い材料が使用できるにも関わらず、限られた材料しか実用化されていない。その要因として、材料毎に造形の難易度が変わり、材料毎の造形条件を確立する必要があるが、この実用化に必要な検討において、それぞれの段階で、上記のようにトライ&エラーを繰り返す必要があり、作業が煩雑である事が挙げられる。これに対して、本実施形態では、材料の造形難易度を指標化する事により、必要なトライ&エラー回数を低減し、新たな材料の造形プロセスを簡便に構築する手法を提供する。
【0036】
<用語の定義>
材料レシピとは、材料を健全に溶融・造形できる造形時のビーム条件であり、材料毎に適切な範囲が存在する。ビーム出力、スキャン速度、ビームスポット径など。例えるなら、溶接条件のようなもの。装置のタイプにより材料レシピが異なる。一般的には様々なビーム条件で試験片を造形し、造形物の評価をして適切なビーム条件範囲を求める。
造形レシピとは、造形物毎に決める造形方法である。造形物の配置およびサポート条件を決めたもので、積層造形特有のノウハウである。変形リスクが高い部位にサポートが必要となるが、刃物が届かない部位やサポートを強固にし過ぎると除去ができなくなる。変形せず、かつ除去可能なサポートを設計することが必要である。
【0037】
各実施形態では、以下の具体的な課題も解決する。
<課題1:造形レシピの開発のトライ&エラーの削減>
材料毎に造形の難易度が異なるため、例えば同じ形状の製品でも、材料を変える事により造形レシピを作り直す必要がある。このため、造形レシピの開発のトライ&エラーが必要になるが、このトライ&エラーの削減を課題とする。
【0038】
<課題2:材料を変更した造形のトライ&エラーの繰り返しの削減>
積層造形プロセスにおいては、圧延や機械加工などによる従来製法では加工が難しいTi合金などが頻繁に使用されている。使用される理由の一つに、Ti合金が積層造形では造形し易い事が挙げられる。このように従来製法と積層造形では、造形に適する材料が異なる。現状では、造形に適するか否か、原料を作成し、実際に造形するなどのトライが必要になる。一般的に金属積層造形機は異なる原料を使用するとコンタミが生じるため、原料を交換する度に装置類の清掃が必要になる。そのため、材料を変更した造形のトライ&エラーを繰り返すのが極めて困難である。そのため、実際の造形トライをせずに、造形可否を判断する方法が望まれている。
【0039】
<課題3:造形に適した材料の開発>
従来の板材、鍛造材、鋳造材などは、圧延性、鍛造性、鋳造性に加え、機械加工性、曲げ性、溶接性など、様々な特性が要求され、使用できる材料組成に限りがあった。一方、積層造形の大きな特徴は、粉末原料から、製品最終形状に近い造形物を造る事ができる事である。言い換えると、加工性などに縛られる事無く、使用する材料を選ぶことができる。また原料となる金属粉末は、成分調整が容易であり、自由に合金成分を調整する事ができる。しかし、前述したとおりの新材料をトライする事に多大な手間が掛かり、積層造形向け新材料の開発に対し大きな足枷になり、積層造形の可能性を制限する大きな一因となっている。
【0040】
<本実施形態に係る特殊用語>
造形難易度とは、材料の造形難しさ(造形時の変形し易さ)を表現した指数である。造形プロセス(レーザーと電子ビーム)が異なると同じ材料でも造形難易度が異なる。造形時の変形は「溶融→凝固→冷却」時の収縮が主な原因である。この時の変形を防止するため、変形リスクが高い部位にはサポート部材を設置する。変形が大きいとサポート部材が千切れ、造形物全体の大変形に至り、結果として造形失敗となる。例えば線膨張係数が大きな材料は変形し易く、造形が難しい。
【0041】
造形時の変形程度は材料の物性値(以下、材料物性値ともいう)により決まるので、理論的に変形による発生する応力が、サポートの引張強度以下であればサポートが千切れることなく、健全な造形が可能である。変形量を物性値から予測可能にし、指標化したものが造形難易度である。
【0042】
サポート条件は、サポート部材の要否、位置、幅、厚み及び/または密度などのサポート部材に関する条件である。
【0043】
限界サポート条件とは、変形せずに造形可能なサポートの条件で、オーバーハング角度、長さ、厚みなどの造形物の形状に対する変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値(限界密度ともいう)もしくは範囲、またはサポート部材の密度を一定とした場合の、変形せずに造形可能なオーバーハング角度などの造形物条件である。限界サポート条件は、材料および造形装置機種により異なる。造形物条件は、具体的には例えば、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値もしくは範囲である。
【0044】
<基本的な考え方>
複数種類の材料を使い、通常使用するサポート部材を用いて実際に造形を行い、造形形状に対して造形可能なサポート部材の限界密度を予め求めておく。もしくはサポート部材の密度を一定にして変形せずに造形可能なオーバーハング角度などの造形物条件を予め求めておく。そして、サポート部材の限界密度と造形難易度の関係性、もしくは造形物条件と造形難易度の関係性を予め求めておく。これにより、求めた関係性から、造形難易度が分かれば、サポート部材の限界密度もしくは造形物条件を求めることが可能になる。
【0045】
図1は、第1の実施形態に係る情報処理システムの概略構成図である。第1の実施形態に係る情報処理システムS1は、一例として情報処理装置1と当該情報処理装置1に接続されたディスプレイ17とを備える。情報処理装置1は、例えば、入力インタフェース11と、通信モジュール12と、ストレージ13と、メモリ14と、出力インタフェース15と、プロセッサ16とを備える。
入力インタフェース11は、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じた入力信号をプロセッサ16へ出力する。本実施形態では入力インタフェース11は一例としてキーボート及びマウスである。
通信モジュール12は、通信回路網に接続されて、通信回路網に接続されている他のコンピュータと通信する。この通信は有線であっても無線であってもよい。
【0046】
ストレージ13には、プロセッサ16が読み出して実行するためのプログラム及び各種のデータが格納されている。
メモリ14は、データ及びプログラムを一時的に保持する。メモリ14は、揮発性メモリであり、例えばRAM(Random Access Memory)である。
出力インタフェース15は、外部のディスプレイ17に接続され、プロセッサ16の指令に従って、映像信号をディスプレイ17に出力する。
【0047】
プロセッサ16は、ストレージ13から第1の実施形態に係るプログラムをメモリ14にロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行することによって、造形難易度決定部160、材料レシピ決定部161、パラメータ決定部162、造形レシピ決定部163、変形解析部164、受付部165、材料物性値決定部166、材料組成決定部167として機能する。材料組成決定部167は、AI部168を有する。各部の処理の詳細については後述する。
【0048】
<実施例1>
実施例1では、上記課題1及び課題2を解決する手段を提供する。
【0049】
<造形難易度の算出について>
造形特性に影響を与える材料因子として、熱膨張係数、熱伝導率、降伏強度など様々な物性が影響している。そして造形難易度とは、言い換えると造形によりどれだけ変形するかである。そこで簡単なモデルの造形とその変形量を評価し、材料毎の造形難易度を評価・指標化することにより、新材料の造形難易度を推定可能にする。
【0050】
そこで、材料因子を様々に変化させた数値解析を行い各条件での変形量を求め、物性値と変形量の相関性を求める。その上で、変形量と材料物性値の重回帰分析などにより変形量を造形難易度として、例えば次の式1の形式で指標化する事が可能になる。この材料の造形特性は、熱源として用いるレーザーと電子ビームで異なるため、装置毎に求める必要がある。
【0051】
造形難易度=F(材料物性値、線膨張係数、ヤング率、降伏強度、比熱、密度、熱伝導率)…(式1)
【0052】
ここで、Fは関数である。
図2は、造形物のオーバーハング部分を説明する模式縦断面図である。
図2には、造形物Zのオーバーハング部分Pについて、オーバーハング部分と他の造形物とのなす角度であるオーバーハング角度θ、オーバーハング部分の長さであるオーバーハング長さL、オーバーハング部分Pの厚みDが示されている。
【0053】
図3は、オーバーハング部分の形状に関するパラメータと造形難易度との関係の一例を示す3つのグラフである。線W1は、オーバーハング角度θと造形難易度との関係を示し、線W1より上に該当する場合、サポート部材が不要であり、線W1より下に該当する場合、サポート部材が必要である。同様に、線W2は、オーバーハング長さLと造形難易度との関係を示し、線W2より上に該当する場合、サポート部材が不要であり、線W2より下に該当する場合、サポート部材が必要である。同様に、線W3は、オーバーハング部分Pの厚みDと造形難易度との関係を示し、線W3より上に該当する場合、サポート部材が必要であり、線W3より下に該当する場合、サポート部材が不要である。
【0054】
例えば、造形可能な材料を使用し、予め決められた標準的な材料で、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値を求める。具体的には例えばサポート部材が必要となる部位はオーバーハング部分であるが、例えば造形難易度が低い材料Aの場合、オーバーハング角度θは25°まで、造形難易度の高い材料Bの場合、オーバーハング角度θは40°までという関係性を求める。このサポート部材が必要な部位は、造形装置により異なるため、装置毎に求める必要がある。この造形難易度とオーバーハング角度の関係性を利用し、新材料Cを使用した場合のオーバーハング角度が直ちに算出可能となる。これにより必要なトライ&エラーを大幅に削減する事が可能になる。
【0055】
図4は、本実施形態のプロセスの一例である。材料を試作(ステップS10)した後に造形難易度を評価する事により(ステップS30)、困難な材料レシピ開発に取り組む前に、造形可否を判定可能になり、材料レシピ開発(ステップS40)に関わるトライ&エラーを大幅に削減する事が可能になる。
造形可否判断の具体例としては、試作合金の造形難易度を算出し、造形実績のある材料よりも造形難易度が低ければ造形可能と判断できる。過去に実績のない造形難易度の場合、例えば変形解析より求められる変形量を判断し、造形の可否を判断することができる。
但し、現在、溶融状態の数値解析技術が研究されており、将来的に材料レシピ開発の難易度が大幅に下がる可能性がある。その場合は本手順に必ずしも準拠する必要はなく、適宜プロセスを入れ替えても良い。
【0056】
次に、予め決められた標準的な材料で求めた造形難易度とサポート条件の関係性に、新材料の造形難易度を適用することにより、新材料で必要なサポート条件を決定する。必要なサポート部材が造形前に推定できるため、造形のトライ&エラーを繰り返す必要性が大幅に低減される。
【0057】
各造形プロセスを、情報処理装置上で再現する事により、机上での造形可否を検討可能にし、造形トライを大幅に削減する事を可能にする。変形解析は市販ソフトが開発されており、レシピ作成もMagicsなどのソフトが広く汎用的に使用されている。また材料レシピ開発(ステップS40)に称する溶融池解析(ステップS401)も現在広く開発されており、実用化が検討されている。
【0058】
本実施形態のポイントは、造形難易度計算とサポート解析部分である。材料物性値を入力し、造形難易度を求め(ステップS30)、造形難易度を用いて、上述した限界サポート条件を決定する(ステップS50)。その際に、それを元に造形レシピを開発する(ステップS60)。最終的に変形解析を行い(ステップS701)、造形レシピに問題が無いことを確認する。その後、造形し(ステップS70)、造形品が得られる。
【0059】
情報処理装置1では、以下の処理が実行される。
(ステップS301)造形難易度決定部160は、材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する。
【0060】
(ステップS401)材料レシピ決定部161は、材料の少なくとも一つの物性値を用いて溶融池解析することによって、材料レシピを決定する。
【0061】
(ステップS501)パラメータ決定部162は、ステップS301で決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定する。あるいはステップS301で決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定する。
【0062】
ここで、前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係である。また前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係である。
また、オーバーハング部分の形状に関するパラメータは、オーバーハングの角度、長さ及び/または厚みである。
【0063】
(ステップS601)造形レシピ決定部163は、ステップS501で決定されたサポート部材の密度またはステップS501決定されたオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを用いて、造形レシピを決定する。これにより、造形レシピが自動的に決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0064】
(ステップS701)変形解析部164は、前記材料レシピと前記造形レシピを用いて、当該造形対象物が変形しないかどうか解析する。解析の結果、変形しなければ、造形形状が決定される。これにより、造形対象物が変形しないかどうか自動的に解析されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0065】
図5A、
図5Bを用いて、比較例に係る変形解析を使用するプロセスと、本実施形態のプロセスの違いを説明する。
図5Aは、比較例に係る変形解析を使用するプロセスの模式図である。
図5Bは、本実施形態のプロセスの模式図である。
図5Aに示すように、比較例の変形解析の使用方法は、サポート形状(造形レシピ)と材料物性値を入力データとし、造形後の形状を計算する。変形が生じる場合は、サポート形状(造形レシピ)を修正するトライ&エラーを繰り返す。
【0066】
一方、本実施形態では、
図5Bに示すように、造形難易度から必要なサポート条件を決定する事ができるため、変形解析を造形レシピの確認として使用する事ができ、変形解析のトライ&エラーが大幅に削減可能になる。
【0067】
本実施形態のポイントは、材料物性値から、変形防止に必要なサポート条件が提案可能なことである。本発明者は、一つの材料の複数の材料物性値(複数の因子)からダイレクトに、サポート部材との関係を把握することは困難なところ、複数の材料物性値を、一旦一つの因子である造形難易度に変換し、サポート部材との関係を把握することを着想した。
【0068】
<実施例2:最適材料の提案>
実施例2では、上記課題3を解決する。実施例2では、本実施形態の概念を使用して、材料物性値を提案する。サポート部材の除去は一般的に工具を用いるため、流路内部などの工具が届かない範囲にサポートを付けた場合、除去できなくなり、結果として造形ができなくなる。このような構造的な観点などから、除去可能なサポート範囲が求められる。
【0069】
図6は、材料の第2の物性値の範囲を決定する処理を説明するための模式図である。
図6において、縦軸が限界サポート条件(例えばオーバーハング角度の限界値など)で横軸が造形難易度であるグラフにおいて、限界サポート条件と造形難易度との間の対応関係を示す曲線W11が示されている。ここでの限界サポート条件は例えば、サポート部材の密度を一定にした場合において変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値(例えば、オーバーハング角度の限界値)である。対象の造形物の形状によって、サポート部材が除去可能な限界サポート条件を、人が判断して決める。
【0070】
ここで受付部165は、このサポート部材が除去可能な限界サポート条件を受け付ける。そして、材料物性値決定部166は、この限界サポート条件(例えばオーバーハング角度など)と造形難易度との間の対応関係に対して、当該受け付けられたサポート部材が除去可能な限界サポート条件を適用して造形可能な造形難易度を決定する。
材料物性値決定部166は、当該決定した造形難易度と対象の材料の物性値それぞれを用いた最適化解析により、当該造形難易度に対する各物性値の値または範囲を決定する。具体的には例えば材料物性値決定部166は、パレート解(非劣解)を決定する。
図12には、最適化解析の一例が示されている図である。説明の都合上二つの物性値で説明しているが、実際は多次元の物性値を用いて解析を行う場合がある。物性値AおよびBを任意に設定し、造形難易度を算出する。そして設定した物性値範囲において、物性値と造形難易度の関係性(
図12の各曲線の関係性)を求め、例えば造形難易度X1、X2などとなるそれぞれの物性値の範囲を算出する。限界サポート条件を限界サポート条件と造形難易度の関係(
図6参照)に適用することにより求められる造形難易度の値、例えばX3が材料物性値決定部166によって選定され、この造形難易度の値(例えばX3)を、上記求められた物性値と造形難易度の関係性に適用することにより各物性値の取り得る範囲が材料物性値決定部166により求められる。
最適化解析で設定する物性値の範囲であるが、任意に設定しても良いし、実験計画法などを活用して数値を決定しても良い。更にmodeFRONTIERなどに代表される市販の最適化解析ソフトを活用し、応答曲面を求めるなどの手法でも良い。
これにより、各物性値の値または範囲を自動的に決定することができるので、実際に造形することなしに材料の物性値の範囲を明らかにする事ができ、新材料の選定およびその造形トライ&エラーの回数を大幅に削減する事ができる。
【0071】
ここで、
図6には、造形難易度と第1の物性値との関係を示す曲線W12、造形難易度と第2の物性値との関係を示す曲線W13、造形難易度と第3の物性値との関係を示す曲線W13が示されている。材料物性値決定部166は、当該決定された造形難易度を、造形難易度と第1の物性値との関係、造形難易度と第2の物性値との関係、造形難易度と第3の物性値との関係に適用することによって、第1の物性値、第2の物性値、第3の物性値を決定してもよい。
【0072】
例えば、当該決定した造形難易度である条件下における第1の物性値及び第2の物性値の関係が
図6の曲線W15で表されている。材料強度など、設計要求から必要な物性値が存在する。例えば、第1の物性値の設計要求からの上限が与えられた場合、第2の物性値の範囲は、B1以上となる。この場合、受付部165は、設計要求から定まる第1の物性値の上限及び/または下限を受け付ける。材料物性値決定部166は、そして、造形難易度が当該決定した造形難易度である条件下における第1の物性値及び第2の物性値の関係を用いて、受付部165によって受け付けられた第1の物性値の上限及び/または下限の範囲に第1の物性値が収まる第2の物性値の値または範囲を決定してもよい。これにより、材料強度など設計要求から必要な物性値が存在しても、これらの条件を考慮し、設計要求を満たしかつ造形可能な物性値の値または範囲を求める事ができる。
【0073】
以上より、実際に造形することなしに材料物性値の範囲を明らかにする事ができ、新材料の選定およびその造形トライ&エラーの回数を大幅に削減する事ができる。
【0074】
<実施例3:データ科学との組み合わせ>
続いて実施例3では、上記課題3を解決する手段を提供する。現在マテリアルズインフォマティクスに関する研究開発が材料分野で大きなトピックスになっている。実施例3では、材料開発にデータ科学を取り入れる事により、効率的な材料開発を可能にする。材料組成を入力し、材料物性を計算するのが一般的な計算手法であるが、本実施例では、データ科学的手法を用いる事により材料物性から材料組成を計算する。
【0075】
図7は、データ科学的手法を用いる事により材料組成を決定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。本手法を取り入れたプロセスが
図7になる。材料組成から材料物性値を計算するプロセスを組合せ、かつ全体をデータ科学的手法と組み合わせる事により、造形に最適な材料組成を提案する事が可能になり、材料開発から造形までのプロセスの検討時間を大幅に短縮する事ができ、結果として積層造形向けの新材料の開発を容易にする。
【0076】
(ステップS310)上述したように、材料物性値決定部166は、限界サポート条件と造形難易度との対応関係に対して、当該受け付けられたサポート部材が除去可能な限界サポート条件を適用して造形可能な造形難易度を決定し、当該決定した造形難易度と対象の材料の物性値それぞれを用いた最適化解析により、造形難易度に対する少なくとも一つの物性値の値または範囲を決定する。
図13は、最適化解析の例を示す図である。線膨張係数、ヤング率、降伏強度、密度、比熱、熱伝導率の6つの材料物性値からなるデータセットを作成し、それぞれのデータセットに対して材料難易度を計算した例である。材料物性値決定部166は、要求される材料難易度の上限より低い材料難易度を示すデータセットから、採用可能なデータセットを決定することができる。
図14は、上記の結果を応答曲面で表現した結果の図である。説明の都合上、2つの物性値を用いて説明する。造形難易度に対する物性値1と物性値2の影響度を表し、要求される材料難易度が特定のレベルであり
図14の黒色で示される領域の場合、材料物性値決定部166は、これらの領域から物性値1と2の範囲を決定することができる。
【0077】
(ステップS320)次に材料組成決定部167は、材料物性値決定部166によって決定された物性値の値または範囲を用いて、材料組成を決定する。
【0078】
図8は、材料組成の決定方法を説明するための模式図である。材料組成決定部167が有するAI部168は、予め材料物性値を入力とし材料組成を出力とする学習データセットによって機械学習を実行し、実行の結果、得られた学習済みの機械学習モデルに関する情報をストレージ13に保存する。これにより、AI部168は、学習済みの機械学習モデルを読み出して実行可能である。ここで、材料物性値は、実験データ及び/または物性計算値であってもよい。この場合において、材料組成決定部167が有するAI部168は、材料物性値決定部166によって決定された物性値を、材料物性値を入力とし材料組成を出力とする学習済みの機械学習モデルに入力して、材料組成を出力する。これにより、学習済みの機械学習モデルを用いることにより、最適な材料組成の予測精度を向上させることができる。
【0079】
実施例2の手法を使うことにより、材料物性値決定部166によって、要求される材料物性値が決定される。決定された材料物性値に対して、マテリアルズインフォマティクスの手法と組み合わせる事により、積層造形に向けた材料組成の提案を自動で行うことができる。
なお、学習データセットの入力に、更に使用環境及び/または耐食性データが追加されてもよい。これにより、さらに使用環境と耐食性データなどを取り込むことにより、耐食特性までも満たす材料組成の提案が可能になる。
【0080】
以上、本実施形態に係る情報処理システムS1は、材料の少なくとも一つの物性値を予め決められた式に適用して造形難易度を決定する造形難易度決定部160と、前記決定された造形難易度と造形対象物の対象オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータとを、第1の対応関係に適用することによって、当該対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度を決定するか、または前記決定された造形難易度と対象オーバーハングにおけるサポート部材の密度とを、第2の対応関係に適用することによって、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータを決定するパラメータ決定部162と、を備える。前記第1の対応関係は、造形難易度と、オーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータと、変形せずに造形可能なサポート部材の密度の限界値との対応関係であり、前記第2の対応関係は、造形難易度と、サポート部材の密度と、変形せずに造形可能なオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータの限界値との対応関係である。
【0081】
この構成によれば、対象オーバーハングにおいて変形せずに造形可能なサポート部材の密度、またはオーバーハング部分の形状に関する少なくとも一つ以上のパラメータが、自動的に決定されるので、材料毎の造形条件に係る作業を軽減することができる。
【0082】
<第2の実施形態>
続いて第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、ユーザが使用する情報処理装置1によって処理を実行したが、第2の実施形態では、ユーザが使用する端末装置が通信回路網を介して接続されたコンピュータシステムによって実行される。
図9は、第2の実施形態に係る情報処理システムの概略構成図である。
図9に示すように、情報処理システムS2は一例として、端末装置3-1、…、3-N(Nは自然数)と、端末装置3-1~3-Nそれぞれと通信回路網NWを介して接続されたコンピュータシステム2を備える。コンピュータシステム2は、端末装置3-1、…、3-Nからの要求に応じて、処理を実行する。ここではコンピュータシステム2は一例として、一台のサーバであるものとして説明するが、これに限定されるものではなく、クラウドサービスのように複数のコンピュータで構成されてもよい。
【0083】
端末装置3-1~3-Nは、別々のユーザが使用する端末装置であり、例えば、多機能携帯電話(いわゆるスマートフォン)などの携帯電話、タブレット、電子書籍リーダー、ノートパソコンなどのモバイルデバイス、またはデスクトップパソコンなどである。端末装置3-1~3-Nは例えば、WEBブラウザを用いて、コンピュータシステム2から送信された情報を表示してもよいし、端末装置3-1~3-Nにインストールされたアプリケーションにおいて、コンピュータシステム2から送信された情報を表示してもよい。
【0084】
図10は、第2の実施形態に係るコンピュータシステムの概略構成図である。
図10に示すように、コンピュータシステム2は例えば、入力インタフェース21と、通信モジュール22と、ストレージ23と、メモリ24と、プロセッサ25とを備える。
入力インタフェース11は、コンピュータシステム2の管理者の操作を受け付け、受け付けた操作に応じた入力信号をプロセッサ25へ出力する。
通信モジュール22は、通信回路網NWに接続されて、通信回路網NWに接続されている端末装置3-1~3-Nと通信する。この通信は有線であっても無線であってもよい。
【0085】
ストレージ23には、プロセッサ16が読み出して実行するためのプログラム及び各種のデータが格納されている。
メモリ24は、データ及びプログラムを一時的に保持する。メモリ14は、揮発性メモリであり、例えばRAM(Random Access Memory)である。
【0086】
プロセッサ25は、ストレージ23から第1の実施形態に係るプログラムをメモリ24にロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行することによって、造形難易度決定部160、材料レシピ決定部161、パラメータ決定部162、造形レシピ決定部163、変形解析部164、受付部165、材料物性値決定部166、材料組成決定部167として機能する。材料組成決定部167は、AI部168を有する。これらの機能は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0087】
なお、コンピュータシステム2の一部の機能が、端末装置3-1~3-Nで実現されてもよい。
【0088】
なお、上述した実施形態で説明した情報処理装置1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、情報処理装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0089】
また、情報処理装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0090】
さらに、一つまたは複数の情報処理機器によって情報処理装置1を機能させてもよい。複数の情報処理機器を用いる場合、情報処理機器のうちの1つをコンピュータとし、当該コンピュータが所定のプログラムを実行することにより情報処理装置1の少なくとも1つの手段として機能が実現されてもよい。
【0091】
また、方法の発明においては、全ての工程(ステップ)をコンピュータによって自動制御で実現するようにしてもよい。また、各工程をコンピュータに実施させながら、工程間の進行制御を人の手によって実施するようにしてもよい。また、さらには、全工程のうちの少なくとも一部を人の手によって実施するようにしてもよい。
【0092】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 情報処理装置
11 入力インタフェース
12 通信モジュール
13 ストレージ
14 メモリ
15 出力インタフェース
16 プロセッサ
160 造形難易度決定部
161 材料レシピ決定部
162 パラメータ決定部
163 造形レシピ決定部
164 変形解析部
165 受付部
166 材料物性値決定部
167 材料組成決定部
168 AI部
17 ディスプレイ
2 コンピュータシステム
21 入力インタフェース
22 通信モジュール
23 ストレージ
24 メモリ
25 プロセッサ
3 端末装置
S1、S2 情報処理システム