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特許7550602樹脂成形品の残留応力測定方法および破壊部位を特定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】樹脂成形品の残留応力測定方法および破壊部位を特定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
G01L1/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020178081
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069103
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特許第6944090(JP,B1)
【文献】特開2010-243335(JP,A)
【文献】特開2020-046379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26
G01L 5/00-5/28
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる樹脂成形品に穿孔部を設け、前記穿孔部をフラットドリルで穿孔する本穿孔工程の際に解放される解放歪量を測定し、得られる前記解放歪量から前記樹脂成形品の内部における残留応力を求める、穿孔法による残留応力測定方法。
【請求項2】
前記フラットドリルは、先端角が160~180度の切刃である請求項1の残留応力測定方法。
【請求項3】
前記樹脂成形品及び/又は前記フラットドリルの温度を計測して穿孔を行い、前記フラットドリルの穿孔中の温度及び前記樹脂成形品の表面温度が、穿孔前の温度+0.5℃以下となるよう前記フラットドリルの回転数および送り速度のうち少なくとも1方の条件を設定する請求項1または2記載の残留応力測定方法。
【請求項4】
前記樹脂成形品の穿孔工程において、温度制御装置を用いて所定温度になるように制御する請求項1~3いずれかに記載の残留応力測定方法。
【請求項5】
樹脂成形品が使用される温度範囲について、請求項1~4いずれかに記載の残留応力測定方法により残留応力を測定し、該温度範囲での残留応力値から破壊部位を特定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の内部の残留応力を測定する樹脂成形品の残留応力測定方法および破壊部位を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品の内部における残留応力を測定する方法としては、樹脂成形品を破壊しながら測定する方法である穿孔法や表層逐次除去法のほか、樹脂成形品を破壊しない方法である光弾性法などが知られている。
【0003】
このうち、穿孔法は、測定対象である樹脂成形品のうち、歪量を測定する部分の周辺に予め歪ゲージを貼り付け、樹脂成形品を厚さ方向に沿って穿孔した際の歪量の変化を測定して残留応力を測定する方法であり、板状製品もしくは3次元立体形状製品の平面部分における残留応力の測定に主に用いられている。しかし、穿孔部と歪量を測定する歪ゲージとの間には距離が生じるため、成形加工時に発生する残留応力を正確に測定することができない。
【0004】
表層逐次除去法は、板状の樹脂成形品の一方の面に歪ゲージを貼り付け、他方の面を薄く層状に除去しながら歪量を測定して、残留応力を求める方法である。この方法では、樹脂成形品の面内だけでなく、肉厚方向の残留応力を測定することができる。
【0005】
しかし、表層逐次除去法では、測定対象となる樹脂成形品が、板状、パイプ状などの簡単な形状に限定される。また、表層逐次除去法は、歪ゲージが樹脂成形品に完全に接着しない場合には適用できないこと、測定に手間と時間がかかることが、欠点として挙げられる。
【0006】
光弾性法は、偏光板で偏光させた光を透明な樹脂成形品に当てて、透過光の縞模様から残留応力を評価する方法であり、面内の残留応力を簡単に測定することができる。しかし、光弾性法は、肉厚方向についての残留応力を測定できないこと、不透明な樹脂成形品には適用できないことが、欠点として挙げられる。
【0007】
特許文献1には、穿孔法を改良し、穿孔部を有する樹脂成形品の厚さ方向に、上記穿孔部を所定の第一穿孔深さまで穿孔したときの、上記樹脂成形品の歪量を測定し、得られた歪量から穿孔によって樹脂成形品に発生する第一応力を求め、次いで、穿孔部を上記厚さ方向に、所定の第二穿孔深さまで、さらに穿孔したときの、上記樹脂成形品の歪量を測定し、得られた歪量からこの穿孔により上記樹脂成形品に発生する第二応力を求め、その後、第二応力から第一応力を差し引くことにより得られる差分を、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの中間深さにおける、およその残留応力の値として算出する残留応力算出手法が開示されている。
【0008】
この残留応力算出手法では、使用する樹脂材料の種類によらず、より簡便に、所定の位置での残留応力を算出し、樹脂成形品内部の残留応力分布を求めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-243335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載される穿孔法においても、測定誤差やバラつきを低減させて、測定精度を高める点において、さらに改善の余地がある。特許文献1で使用するドリルは、正確に深さを穿孔する必要があるためエンドミルを使用するが、エンドミルは穿孔時に発熱が多かった。
【0011】
この発熱は、例えば、結晶性樹脂の成形品を穿孔する場合、樹脂を溶解する。すると溶解した樹脂が穿孔後に固化することから、固化時に結晶化して収縮するため、本来樹脂成形品に生じていた残留応力に加え、結晶化による応力(歪)も検出し、測定精度が低下してしまうという問題があった。
【0012】
ここで、樹脂成形品に残留応力が存在すると、製品寿命の低下や成形後の変形などの不具合が生じるため、残留応力を正確に把握し、適切な設計変更などの対策を施す必要がある。しかし、精度の高い測定を行うことができない場合には、適切な対策を行うことが困難となる。
【0013】
本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、樹脂成形品の所定の位置における内部の残留応力を、より精度よく測定することができるような残留応力測定方法および破壊部位を特定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上述の課題を解決すべく検討したところ、穿孔法により、フラットドリルを使用することで穿孔法の穿孔時における発熱を抑制することができ、上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
1. 測定対象となる樹脂成形品に穿孔部を設け、前記穿孔部をフラットドリルで穿孔する本穿孔工程の際に解放される解放歪量を測定し、得られる前記解放歪量から前記樹脂成形品の内部における残留応力を求める、穿孔法による残留応力測定方法。
2. 前記フラットドリルは先端角が160~180度の切刃である請求項1の残留応力測定方法。
3. 前記樹脂成形品及び/又は前記フラットドリルの温度を計測して穿孔を行い、前記フラットドリルの穿孔中の温度及び前記樹脂成形品の表面温度が、穿孔前の温度+0.5℃以下となるよう前記フラットドリルの回転数および送り速度のうち少なくとも1方の条件を設定する前記1または2記載の残留応力測定方法。
4. 前記樹脂成形品の穿孔工程において、温度制御装置を用いて所定温度になるように制御する前記1~3いずれかに記載の残留応力測定方法。
5. 樹脂成形品が使用される温度範囲について、前記1~4いずれかに記載の残留応力測定方法により残留応力を測定し、該温度範囲での残留応力値から破壊部位を特定する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂成形品の所定の位置における残留応力を、より精度よく測定することができる。このため、その影響を考慮した製品設計の変更を施すことが可能になり、それにより樹脂成形品の内部における残留応力の効果的な低減に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】インサート樹脂成形品の、歪測定部および穿孔部の位置関係を示す図である。
図2図1のインサート樹脂成形品のサイズを示す図である。
図3】本発明の測定方法における歪量、温度挙動を示すグラフである。
図4】比較例の測定方法における歪量、温度挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<残留応力測定方法>
本実施の形態では、測定対象となる樹脂成形品に穿孔部を設け、前記穿孔部をフラットドリルで穿孔する本穿孔工程の際に解放される解放歪量を測定し、得られる前記解放歪量から前記樹脂成形品の内部における残留応力を求める、ことを特徴とする。
【0020】
<フラットドリル>
本実施の形態で使用するフラットドリルは、先端角が160~180度のものをいい、180度に近いほど好ましい。直径0.10~20mm、溝長0.6~90mm、首下1.0~95mm、シャンク径3~20mmのものを、樹脂成形品のサンプルの大きさに合わせて選択することができる。先端部がシンニング加工されていてもよい。
【0021】
本実施の形態で使用可能なフラットドリルは、無限フラットドリル(製品名、日進工具(株)製)、アクアドリルEXフラットシリーズ(製品名、(株)不二越)、超硬フラットドリルADFシリーズ、ADFOシリーズ(製品名、オーエスジー(株))等を市販品として入手することができる。
【0022】
<測定方法>
本実施の形態では、測定対象となる樹脂成形品に穿孔部を設け、穿孔部をドリルで穿孔した際に歪が解放されることで生じる、樹脂成形品の表面における歪量の変化(穿孔によって解放される歪量)を歪測定手段で測定し、この歪量の変化を応力に換算することで、樹脂成形品の内部における所定の位置での残留応力を求める。
【0023】
以下、標準的な測定方法の工程を示す。
1)測定する成形試料を作製する。
2)歪ゲージを、作製した成形品の穿孔予定箇所の周りに貼り付け、熱電対を配置する。
3)成形品を、所定の温度(23℃が好ましい)に温度制御する。
4)穿孔ドリルにより、所定の深さまで穿孔する。穿孔ドリルの温度は、非接触温度計でモニターする。
5)穿孔時の穿孔ドリルの温度及び/又は成形品の温度を計測しながら穿孔ドリルの穿孔条件を調整する。歪ゲージのデータは、データロガーなどを用いて計測する。
【0024】
≪樹脂成形品≫
本実施の形態の樹脂成形品(以下、単に「成形品」ともいう)は、残留応力の測定対象となるものであり、所定の厚さを有する。この樹脂成形品には、歪測定部および穿孔部を設ける。好ましくは、穿孔部および歪測定部は、それぞれ樹脂成形品の厚さ方向に対して垂直な面に設け、穿孔部は、樹脂成形品を厚さ方向に穿孔するように構成され、かつ、歪測定部は、この穿孔によって樹脂成形品内部の応力が解放されることにより生じる歪量(以下、「解放歪量」ともいう)を測定するように構成される。
【0025】
本実施の形態は、樹脂成形品が結晶性熱可塑性樹脂の射出成形品である場合に、特に効果的である。射出成形により熱可塑性樹脂を成形する際には、一般に成形品の表面付近では冷却が速く進み、成形品の内部では比較的冷却がゆっくり進むため、金型内に注入された溶融樹脂の固化が不均一に進行する。
【0026】
その結果、成形品の内部では、溶融樹脂が先に固化した成形品の表面付近の樹脂の収縮により引っ張られながら固化するため、引張応力が発生する。一方、成形品の表面付近では、固化した後の樹脂が、成形品の内部にある溶融樹脂が固化する際の収縮により引っ張られるため圧縮応力が発生する。
【0027】
実際の樹脂成形品においては、その形状や成形条件などによって応力分布は必ずしもはっきりした圧縮-引張の関係になるわけではないが、応力の種類や分布状態がどのようになっているのか、樹脂成形品の内部について、所定の領域での残留応力分布を正確に把握し、また、所定の位置での残留応力を正確に把握することができれば、それに起因する成形品の変形や破壊をより正確に予測することで、その対策に繋げることができる。
【0028】
本実施の形態に用いる樹脂成形品は、所定の厚さを有する。ここで、本実施の形態は、樹脂成形品の内部における、上記厚さ方向に関する所定の位置(便宜的には、後述する穿孔部と歪測定部により特定される領域を指す。すなわち、厚さ方向の位置は穿孔部における孔の底部により特定され、表面方向の位置は歪測定部、例えば歪測定手段の中心部により特定される)での残留応力と、厚さ方向に関する所定の領域での残留応力分布を求める。
【0029】
どのような樹脂成形品であっても、全ての方向について厚さを持つが、厚さ方向の決め方は特に限定されず、樹脂成形品内の所望の方向を上記厚さ方向に設定することができる。
【0030】
本実施の形態で使用する樹脂成形品に含まれる樹脂は、特に限定されず、従来公知の一般的な樹脂を用いることができる。また、樹脂成形品には、複数の樹脂が含まれていてもよい。また、樹脂成形品には、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料などの顔料や、ガラスファイバーなどの強化材、タルクなどの無機フィラー、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤などの添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物を成形してなる樹脂成形品も含まれる。
【0031】
このように、本実施の形態は、樹脂材料の種類によらず適用することができるため、候補となる複数の樹脂材料の中から適切な材料を選択する場合に好ましく用いることができる。また、複数の樹脂材料で同じ方法で残留応力を求めて比較することで、樹脂材料による残留応力の差をより正確に評価することができる。
【0032】
樹脂成形品は、どのような成形法で成形されていても、どのような使用履歴のものであってもよいが、残留応力が発生しやすい射出成形法により成形された樹脂成形品が、特に効果的である。また、本発明に用いる樹脂成形品は、所望の条件で成形されたものを用いることができる。
【0033】
樹脂成形品は、表面に穿孔部と歪測定部を設けられるものであればよく、単一の樹脂で作成されたものでも、複数の樹脂もしくは樹脂と他材質とで積層されていたり複合化されていたりしてもよい。また、樹脂成形品は、平面状、湾曲状、屈折状などの形状が組み合わさった形状であってもよく、どのような形状であってもよい。
【0034】
樹脂成形品は、歪測定手段によって、樹脂成形品の歪量を検出できるようにした後、後述する残留応力の測定において、穿孔部をドリルで穿孔するように構成される。その一例として、歪測定部に歪測定手段である歪ゲージを貼り付けた後、後述する残留応力の測定において、穿孔部をドリルで穿孔するように構成される。
【0035】
≪具体的な応力測定≫
本発明に用いる樹脂成形品としては、図1に示すように、厚さ方向と垂直な面に、樹脂成形品を厚さ方向に穿孔するための穿孔部と、穿孔したときにこの厚さ方向に垂直な面に発生する歪量を測定するための歪測定部、樹脂表面の温度を測定するセンサーA、ドリル表面の温度を測定するセンサーBとを備えたものを例示することができる。
【0036】
図1では、穿孔部は、上記厚さ方向と垂直な面の端部に設けられている。穿孔部は、穿孔部を有する上記厚さ方向と垂直な面から、厚さ方向に穿孔される。
【0037】
図1では、歪測定部は、上記穿孔部の周囲に三箇所設けられている(ch1~3)。上記穿孔部が、厚さ方向に沿って穿孔された際に、穿孔によって解放される応力により発生する歪の量を測定する。ここで、歪測定部の数は、特に限定されず、単数の歪測定部であってもよいし、複数の歪測定部を設けてもよい。
【0038】
穿孔部と歪測定部との位置関係は、特に限定されないが、上述のとおり穿孔によって解放される応力により発生する歪量を測定するものであるため、測定感度の面から、できるだけ穿孔部と歪測定部を近接させつつ、樹脂成形品の形状や穿孔に用いる装置や工具のサイズなどを考慮して、穿孔時の作業性を損なわない範囲で、穿孔部の周囲に歪測定部を配置すればよい。
【0039】
また、歪測定部の異方的な残留応力を定量的に評価でき、特に、最大主応力の値と方向、及び最小主応力の値と方向を評価できるという理由から、穿孔部を2箇所以上の歪測定部で囲うことが好ましく、歪測定の精度およびデータ処理の簡便さの点から、3箇所の歪測定部で囲うことがより好ましい。
【0040】
樹脂成形品の厚さは、穿孔径(孔の直径)の1.2倍以下であることが好ましい。これにより、測定される残留応力を、より正確にすることができる。
【0041】
樹脂成形品の厚さを所定の厚さ以下にすることで、得られる残留応力の値は、より正確なものになる。なお、厚さ方向(z方向)の中央を対象軸とする線対称な形状を有し、厚さ方向の長さがLzの樹脂成形品であれば、表面から(1/2)Lzの厚さ位置までの残留応力分布を求めることで、厚さ方向の長さLzの全体についての残留応力分布を求めてもよい。これは、樹脂成形品が厚さ方向(z方向)の中央を対象軸とする線対称な形状を有していれば、残留応力分布も同様に線対称になるためである。
【0042】
本発明では、樹脂表面の温度を測定するセンサーAによって、穿孔時の樹脂表面温度の変化を記録することができ、それによってドリルの回転数または送り速度の少なくとも一方を調整することにより、穿孔時の温度上昇を抑えることができる。このセンサーAとしては、熱電対型のセンサーを使用することができる。
【0043】
さらに本発明では、樹脂表面温度だけでなく、ドリル表面の温度を測定するセンサーBによっても、穿孔時の発熱状況を記録することができ、樹脂表面の温度を測定するセンサーAとともに使用することにより、より正確なドリルの回転数または送り速度の調整が可能となる。ドリル表面の温度を測定するセンサーBは、非接触型のサーモグラフィを使用することができる。
【0044】
歪測定手段としては、歪ゲージを用いることが好ましく、2軸以上の多軸ゲージ(例えばロゼットタイプの3軸歪ゲージなど)を用いることがより好ましい。歪測定手段は、歪測定部のそれぞれに貼り付けることが好ましい。
【0045】
本発明の残留応力測定方法は、解放歪量を測定するために穿孔部をドリルで穿孔する本穿孔工程の前に、樹脂成形品の穿孔部を、表面から穿孔深さ0.2mmまでドリルを一定の送り速度で前進させて穿孔した後、送り速度と同じ速度でドリルを後退させて樹脂成形品から抜去する予備穿孔工程を設けても良い。
【0046】
厚さが大きいものであっても、樹脂成形品が厚さ方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力も厚さ方向(z方向)に対称になるため、樹脂成形品が厚さ方向(z方向)の中央を対象軸とする線対称な形状を有していれば、厚さ方向の長さ(Lz)の半分(Lz/2)までの残留応力を測定することで、対象軸の反対側にある、より深い位置の残留応力を推定することができる。
【0047】
<成形材料の検討>
本実施の形態の残留応力測定方法により導出される残留応力を用いれば、任意の樹脂材料を成形してなる樹脂成形品において、樹脂成形品の内部にある所定の位置での残留応力を導出できる。さらに、異方性のある材料を成形してなる樹脂成形品においても、3方向の歪量を算出することで、残留応力の異方性を、より高い精度で定量的に評価できる。
【0048】
ここで、樹脂成形品は、着色剤を含む着色品であっても、着色剤を含まない無着色品であってもよい。異なる樹脂材料からなる樹脂成形品の残留応力を比較することで、樹脂材料の違いによる残留応力の発生しやすさを比較することができるため、樹脂材料(成形材料)の変更による残留応力の低減の検討に繋げることができる。
【0049】
<成形条件の検討における効果>
本実施の形態の残留応力測定方法によって導出される残留応力の分布を用いれば、好ましい射出成形の条件を容易に決定することができる。即ち、本発明を用いることで、残留応力の少ない成形条件を容易に決定することができる。本発明の残留応力測定方法を用いて決定される成形条件は、樹脂成形品の内部の残留応力に影響を与えるものが好ましい。ここで、樹脂成形品の内部の残留応力に影響を与える成形条件としては、射出速度、金型温度などが挙げられる。
【0050】
<成形品の形状の検討における効果>
射出成形は、複雑な形状の成形品を作製する際に好適な成形方法である。このため、複雑な形状の射出成形品は多く存在する。特に、偏肉部やウェルド部などがある樹脂成形品では、その形状によって成形収縮が促進あるいは抑制されるため、複雑な形状を持つ場合、複雑な形状の部分は、他の部分と残留応力分布が異なる。
【0051】
このような複雑な形状(歪測定部に対し形状が変化する部位)を除去した切削片を用いる場合であっても、厚さ方向の収縮による残留応力と成形品形状による残留応力とを区別して測定することができ、かつ残留応力分布の測定方向を様々な方向に設定することができる。そのため、本発明の方法によることで、複雑な形状の部分と、それ以外の部分とを分けて残留応力分布を導出したり、成形品厚さによる残留応力分布の差を求めたりすることができる。
【0052】
したがって、本実施の形態は、成形品の設計などにおいて形状を検討する段階でも有用であり、上記射出成形条件の検討と併せて、所望の材料のデータを組み合わせることで、残留応力の予測技術として用いることも可能であり、成形品の使用される温度範囲、使用時間について、成形品の複数個所のデータを総合的に参酌して、将来発生するであろう破壊部位の特定をすることができる。
【0053】
ここでいう二次加工とは、樹脂成形品の内部における残留応力を緩和するための加工である。樹脂成形品の内部における残留応力を緩和するための方法として、アニーリング処理が挙げられる。
【0054】
本発明によれば、アニーリング処理の効果の有用性を定量的に評価することができ、さらに、アニーリング処理の際の好ましい処理条件も容易に決定することができる。このように、本発明の残留応力測定方法によることで、樹脂成形品の二次加工の有用性についても、定量的に評価することができる。
【0055】
また、本発明の残留応力測定方法によることで、樹脂成形品を使用するにあたり、残留応力が問題にならない、もしくは極力小さくなるように、使用する材料、形状、成形条件、成形品の二次加工などの樹脂成形品にかかわる設定を行うといった製品設計を、精度良く行うことが可能となる。また、製品を使用するにあたり、製品の残留応力をもとに短期的または長期的な破壊解析を行うことにより、精度良く故障を未然に防ぐことが可能となる。
【実施例
【0056】
以下、実施例を示し、本実施の形態を具体的に説明するが、この実施例に限定されるものではない。測定は、23℃50%RHの雰囲気下(所定温度)で行った。
【0057】
<樹脂成形品の準備>
樹脂成形品としては、ポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂DURACON(登録商標)M90-44を材料として、標準的な成形条件にて射出成形を行い、90mm×24mm×6mmの平板状の樹脂成形品(インサート金属 90mm×20mm×2mm)を作製し、これを測定対象として用いた。
【0058】
<応力測定装置の設定>
この樹脂成形品の100mm×100mmの片面の中央部に、フラットドリル(アクアドリルフラットEX型番AQDEXZ0106、不二越社製)を穿孔機(マシニングセンタDT-30N、静岡鐵工社製)に備え、穿孔機を穿孔部に配置した。歪測定手段として、穿孔部を囲むように設けられた三つの歪ゲージを一枚の基材に設けた3軸歪ゲージ(ひとつのゲージ長2mm(歪ゲージ全体の半径D=5.13mm)、型番「FRS-2-11」、東京測器研究所社製)を貼付した。歪ゲージは、これにより検出された歪量を記録する記録手段である、データロガー(「UCAM-60B」、共和電業社製)に接続した。
【0059】
樹脂表面温度センサー熱電対(BBC製microbit付きKFGT-2-120、共和電業社製)を樹脂表面に配し、ドリル温度センサー非接触温度センサモジュール(BBC製micro:bit付きXML90614、SODIA社製)をドリル近傍に配した。ドリルの回転数を50rpm、送り速度を0.2mm/minとし、ドリルを回動させつつ前進させて、樹脂成形品の2.0mmの深さまで穿孔部を穿孔した。その際の、歪曲線、温度上昇曲線を図2に示す。Xはドリルによる穿孔を終了した時間を示す。
【0060】
比較として、エンドミル(TSC-PEM4LB1.6、ミスミ社製)を使用して、同様の穿孔を行った歪曲線、温度上昇曲線を図3に示す。
【0061】
図2図3の温度上昇曲線および歪曲線を比較して判るように、本発明のフラットドリルによる穿孔での温度上昇は極めて小さく、そして穿孔を終了したX時点からの歪ゲージの値が非常に安定しており、本発明の効果が顕著に示されている。
【符号の説明】
【0062】
1 ゲート(インサート樹脂成形品)
2 ドリル
3 穿孔部
4 ドリル温度センサーB
5 樹脂表面温度センサーA
6 3軸ひずみゲージ(短辺側ch1、中央ch2、長辺側ch3)

X 穿孔終了時点

図1
図2
図3
図4