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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】トリプターゼ活性測定用基質
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20240906BHJP
   C07K 5/083 20060101ALI20240906BHJP
   C07K 5/09 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C12Q1/37
C07K5/083
C07K5/09
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021544044
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033556
(87)【国際公開番号】W WO2021045182
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019161824
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504196610
【氏名又は名称】有限会社ペプチドサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩珍
(72)【発明者】
【氏名】西野 憲和
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-024581(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0197661(US,A1)
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1990年,Vol. 265, No. 23, p.13969-13973
【文献】Biochemistry,2006年,Vol.45, p.5964-5973
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2001年,Vol. 276, No. 37, p.34941-34947
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1992年,Vol.267, No.19,pp.13573-13579
【文献】The Journal of Histochemistry and Cytochemistry ,1989年,Vol.37, No.4,pp.415-421
【文献】Biochemical Pharmacology,2003年,Vol.65, p.1171-1180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)~(3)から選択される、C末端に色素標識がペプチド結合したトリペプチド(トリペプチド-X)を含むトリプターゼ活性測定用基質であって、分子量5,000以上のポリアミノ酸に前記トリペプチド-XのN末端が結合したことを特徴とする、前記トリプターゼ活性測定用基質
(1)Lys-Ala-Arg-X
(2)Ala-Ala-Arg-X
(3)Abu-Ala-Arg-X
(式中、Xは、Argとのペプチド結合が切断されることにより蛍光特性又は発色特性が変化する色素標識であり、Abuは2-アミノ酪酸である)
【請求項2】
血液試料中のトリプターゼ活性の直接測定用であることを特徴とする請求項1に記載のトリプターゼ活性測定用基質。
【請求項3】
ポリアミノ酸が、ポリ(L-リジン)、樹枝状ポリ(L-リジン)、ポリ(D-リジン)、樹枝状ポリ(D-リジン)、ポリ(L-オルニチン)及びポリ(D-オルニチン)から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリプターゼ活性測定用基質。
【請求項4】
色素標識が、MCA基、ANS基、CMCA基、FMCA基、AMP基、ローダミン110基、ローダミン110モノアミド基、ローダミン6G基及びローダミンB基から選択される蛍光色素標識であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のトリプターゼ活性測定用基質。
【請求項5】
以下のステップ(A)及び(B)を備えたことを特徴とする血液試料中のトリプターゼ活性の測定方法。
(A)請求項1~のいずれかに記載のトリプターゼ活性測定用基質と、血液試料とを接触させるステップ;
(B)前記ステップ(A)後に、色素標識の蛍光特性又は発色特性の変化量を測定することにより、前記血液試料中のトリプターゼ活性の程度を算出するステップ;
【請求項6】
血液試料が、血清であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のトリプターゼ活性測定用基質を含むことを特徴とする血液試料中のトリプターゼ活性測定用キット。
【請求項8】
血液試料が、血清であることを特徴とする請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C末端に色素標識がペプチド結合した所定のトリペプチドを含む、前記トリペプチドのC末端ペプチド結合が切断されることにより前記色素標識の蛍光特性又は発色特性が変化することを特徴とするトリプターゼ活性測定用基質や、該基質を用いた血液試料中のトリプターゼ活性の測定方法や、該基質を含む血液試料中のトリプターゼ活性測定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患や腫瘍、未熟児網膜症等、特にマスト細胞が病勢に関与する疾患は、マスト細胞活性化症候群として診断されている。病勢評価には、マスト細胞から放出される多種多様なメディエーターの中で、その特異性からタンパク質分解酵素であるトリプターゼが用いられている。現在、その定量化には、世界的に特異抗体を利用した免疫反応(ELISA)が用いられている。しかしながら、トリプターゼは酵素として機能し生体に影響を及ぼすことから、病勢の判断には酵素活性を測定することが重要であるため、抗原たるトリプターゼ関連タンパク質の存在量のみしか判定することができないELISAでは不十分である。
【0003】
本発明者らは、未熟児網膜症の発症にはマスト細胞から放出されるトリプターゼが必須であることを報告している(非特許文献1)。この報告において、本発明者らはELISAを用いてトリプターゼの関与を判定しているが、上述のとおり新生児の病勢(失明するかどうか、治療法の選択)をいかに評価できるかを考えた場合、酵素活性を測定することが必須である。
【0004】
トリプターゼは肥満細胞の脱顆粒によって血液中に放出される酵素であり、血中濃度は往々10μg/L程度の低濃度となる(非特許文献2、3。非特許文献3では、1歳までの健康な幼児の血清中の存在量は4.67μg/Lと報告されている)。この濃度では従来のトリプターゼ基質では検出できないため、検体溶液を濃縮するか、又は反応時間を長くする必要があるが、その結果、正確、迅速な測定は困難であるのが現状である。また、簡便なトリプターゼ活性測定のためには、試料調製が容易な血清を直接測定に供することが望ましいが、血清中には血液凝固系のプロテアーゼであるトロンビンが存在しており、公知のプロテアーゼ基質を用いてトリプターゼの活性測定を行った場合、トロンビンがトリプターゼの活性よりも極めて大きな活性を示して測定を妨害する。
【0005】
1980年代以降のトリプターゼの酵素化学的研究においては、当時からトリプシンの蛍光性基質として市販されていたBoc-Phe-Ser-Arg-MCAやTos-Gly-Pro-Arg-MCA等が使われてきた。これら以外にも数種類のトリペプチド-MCAの基質特異性が調べられているが、上記2種類以外は一般には使われていない(非特許文献4~16)。トリプターゼはトリプシン様酵素であるので、C末端にArgを有するMCA基質であれば、感受性(サセスタビリティ)が高かれ低かれ、酵素活性を検出することができるため、トリペプチドのアミノ酸配列の最適化の試みは行われていないのが現状である。
【0006】
なお、近年、Ac-Lys-Pro-Arg-FMCA(7-amino-4-trifluoromethylcoumarin)がトリプターゼの良い基質であることが報告されている(非特許文献17)。この配列中のLysの存在は、トリプターゼの天然基質タンパク質に対する作用部位について貴重な示唆を与える。また、20年も前に、基板上にトリペプチドライブラリーを構築する手法によってプロテアーゼの基質特異性を調べる網羅的ライブラリー構築が行われ、ベータトリプターゼI及びIIに対して最も感受性が高いトリペプチド配列は、-Lys/Arg-Asn-Lys/Arg-であることが明らかにされていた(非特許文献18)。P位Asnは、P位Alaよりも2倍強の感受性を示し、更にP位においては側鎖に正電荷を帯びるアミノ酸がP位Alaよりも2倍程度感度が優れていた。しかし残念ながら2001年公表のこの優れた研究成果は、Boc-Arg-Asn-Arg-MCAのような使いやすい形で実用化されることはなかった。
【0007】
以上のように、トリプターゼの基質となり得るトリペプチドの報告はこれまでもなされてきたが、発明者の知る限り、該基質をプロテアーゼが夾雑した血液試料の直接測定に用いたとの報告はされておらず、さらに該基質はトロンビン等の他のプロテアーゼによっても切断され得ることから、プロテアーゼが夾雑した血液試料をも直接の測定対象とできるトリプターゼ活性測定用基質の合成においては、技術上の困難を排除できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】J Clin Invest.,127(11), 3987-4000, 2017.
【文献】サーモフィッシャー・サイエンティフィック社「Mast cell Tryptase For diagnosis andprediction」(http://www.phadia.com/Global/Market%20Companies/Finland/Mast%20Cell%20Tryptase%20for%20Diagnosis%20and%20Prediction.pdf)
【文献】Allergy Asthma Proc. 35, 404-408, 2014.
【文献】J. Biol. Chem., 258, 13552-13557, 1983.
【文献】J. Biol. Chem., 262, 1363-1373, 1987.
【文献】Biol. Chem. Hoppe-Seyler, 369, 617-625,1988.
【文献】J. Biol. Chem., 263, 18104-18107, 1988.
【文献】Biol. Chem. Hoppe-Seyler Suppl., 371,65-73, 1990.
【文献】J. Biol. Chem., 267, 13573-13579, 1992.
【文献】J. Biochem., 120, 856-864, 1996.
【文献】Peptides, 19, 437-443, 1998.
【文献】FEBS Lett., 408, 85-88, 1997.
【文献】British J. Pharm., 138, 959-967, 2003.
【文献】Allergology International, 57, 83-91, 2008.
【文献】Chemical Science, 6, 1792-1800, 2015.
【文献】IJC Metabolic & Endocrine, 10, 16-23, 2016.
【文献】シグマ・アルドリッチ社「N-Acetyl-Lys-Pro-Arg-7-Amino-4-Trifluoromethylcoumarin」(製品番号:C6608)製品情報(https://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/Sigma/Datasheet/3/c6608dat.pdf)
【文献】J. Biol. Chem., 276, 34941-34947, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、マスト細胞が病勢に関与する疾患の病勢を正確に評価するために、簡便な操作で、正確、迅速に血液試料中のトリプターゼ活性を測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述のとおり、トリプターゼの酵素化学的研究においては、当時からトリプシンの蛍光性基質として市販されていたBoc-Phe-Ser-Arg-MCAやTos-Gly-Pro-Arg-MCAなどが使われてきた。これらの基質は、精製したトリプターゼの活性測定をするうえでは十分な活性を示すものであったが、本発明者らは、血清中のトリプターゼ活性を測定するという観点からはこれらの基質は感受性が低く、また上述のとおりトロンビンによる妨害を受けるため、血清中トリプターゼの活性測定に使用することができないという問題点があることを認識するに至った。本発明者らは、かかる問題点を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、Boc-Ala-Ala-Arg-MCA、Boc-Lys-Ala-Arg-MCA、Boc-Abu-Ala-Arg-MCA、Boc-Lys-Pro-Arg-MCAが、トリプターゼに対する感受性が極めて高く、低濃度のトリプターゼによっても切断を検知しうることを見いだした。さらに、本発明者らは、上記トリペプチド-MCAを、コハク酸を介してポリ(L-リジン)に結合させてなる高分子基質が、α2マクログロブリンとの反応後のトロンビンの共存下においても、複合体中のトロンビンによる作用を受けず、血清中のトリプターゼ活性を特異的に測定できることを見いだした。本発明は、これらの知見により完成したものである。
【0011】
すなわち本発明は以下に記載の事項により特定されるとおりのものである。
〔1〕以下の式(1)~(3)から選択される、C末端に色素標識がペプチド結合したトリペプチド(トリペプチド-X)を含むトリプターゼ活性測定用基質。
(1)Lys-Ala-Arg-X
(2)Ala-Ala-Arg-X
(3)Abu-Ala-Arg-X
(式中、Xは、Argとのペプチド結合が切断されることにより蛍光特性又は発色特性が変化する色素標識であり、Abuは2-アミノ酪酸である)
〔2〕血液試料中のトリプターゼ活性の直接測定用であることを特徴とする上記〔1〕に記載のトリプターゼ活性測定用基質。
〔3〕分子量5,000以上のトリプターゼ難消化性水溶性ポリマーにトリペプチド-XのN末端が結合したことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のトリプターゼ活性測定用基質。
〔4〕トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーが、ポリアミノ酸であることを特徴とする上記〔3〕に記載のトリプターゼ活性測定用基質。
〔5〕ポリアミノ酸が、ポリ(L-リジン)、樹枝状ポリ(L-リジン)、ポリ(D-リジン)、樹枝状ポリ(D-リジン)、ポリ(L-オルニチン)及びポリ(D-オルニチン)から選択されることを特徴とする上記〔4〕に記載のトリプターゼ活性測定用基質。
〔6〕色素標識が、MCA基、ANS基、CMCA基、FMCA基、AMP基、ローダミン110基、ローダミン110モノアミド基、ローダミン6G基及びローダミンB基から選択される蛍光色素標識であることを特徴とする上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のトリプターゼ活性測定用基質。
〔7〕以下のステップ(A)及び(B)を備えたことを特徴とする血液試料中のトリプターゼ活性の測定方法。
(A)上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のトリプターゼ活性測定用基質と、血液試料とを接触させるステップ;
(B)前記ステップ(A)後に、色素標識の蛍光特性又は発色特性の変化量を測定することにより、前記血液試料中のトリプターゼ活性の程度を算出するステップ;
〔8〕血液試料が、血清であることを特徴とする上記〔7〕に記載の方法。
〔9〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のトリプターゼ活性測定用基質を含むことを特徴とする血液試料中のトリプターゼ活性測定用キット。
〔10〕血液試料が、血清であることを特徴とする上記〔9〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、血液試料に対する精製、濃縮等の前処理なしに、血液試料中のトリプターゼ活性を直接測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、以下の式(1)~(3)から選択される、C末端に色素標識がペプチド結合したトリペプチド(トリペプチド-X)を含むトリプターゼ活性測定用基質(以下、「本発明の基質」ということがある)、並びに、本発明の基質を用いた血液試料中のトリプターゼ活性の測定方法(以下、「本発明の測定方法」ということがある)や、本発明の基質を含む血液試料中のトリプターゼ活性測定用キット(以下、「本発明のキット」ということがある)に関する。
(1)Lys-Ala-Arg-X
(2)Ala-Ala-Arg-X
(3)Abu-Ala-Arg-X
(式中、Xは、Argとのペプチド結合が切断されることにより蛍光特性又は発色特性が変化する色素標識であり、Abuは2-アミノ酪酸である)
本発明の基質は、血液試料中のトリプターゼ活性を直接測定する用途に好適に使用することができるものである。
【0014】
本明細書において、ペプチドに関する「切断」との用語は「加水分解」と同義に用いられるものとする。本発明の基質によれば、トリプターゼが約10μg/Lの極低濃度であっても活性を検出することができるため、血液試料中のトリプターゼであっても、測定開始後、2分間酵素反応が定常状態になるのを待ち、その後測定開始後2分間から3分間までの1分間に得られる蛍光強度の増大を酵素活性として記録する等の方法により、活性を評価することができる。
【0015】
上記色素標識としては、ペプチド結合の切断によって色素標識の蛍光特性又は発色特性が変化するものであれば制限されないが、検出の簡便さ及び感度の観点から、蛍光標識であることが好ましく、例えばMCA(4-メチル-クマリル-7-アミド)基、ANS(2-アミノナフタレン-6-スルホン酸)基、CMCA(7-アミノ-4-クロロメチルクマリン)基、FMCA(7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン)基、AMP(2-アミノ-7-メチルプリン-6-チオール)基、ローダミン110基、ローダミン110モノアミド基、ローダミン6G基、ローダミンB基等を挙げることができる。
【0016】
上記蛍光特性の変化の有無や変化量は、公知の蛍光強度測定機等を用いて検出や定量することができ、上記発色特性の変化の有無や変化量は、分光光度計等を用いて検出や定量することができる。その際、上記色素標識の吸収波長や蛍光波長を解析し、当該色素標識を特異的に検出・定量し得るような励起波長及び蛍光波長を選択することが好ましい。本発明の基質における色素標識としてMCA基を用いている場合に、1)AMC(7-アミノ-4-メチルクマリン)を特異的に測定するときは、MCA基を励起せずAMCを励起する波長(例えば360nm~400nm)を照射し、AMCが発する蛍光波長(例えば400nm~500nm)を検出・測定することが好ましく、2)MCA基を特異的に測定するときは、AMCを励起せずMCA基を励起する波長(例えば260nm~350nm)を照射し、MCA基が発する波長(例えば350nm~385nm)を検出・測定することが好ましい。
【0017】
本明細書における血液試料としては、被検者から採取した血液試料であればよく、例えば全血、血漿、血清を挙げることができるが、血漿又は血清が好ましく、測定の簡便性及び試料調製の容易さから、血清がさらに好ましい。また、上記血液試料は、任意で血液凝固阻害剤を添加してもよい。本発明のトリプターゼ活性測定用基質は、血液中に存在するトロンビンによる認識配列を含むため、上記血液試料は、トロンビンによる妨害を防ぐためにアンチトロンビンIII、ヒルジン、ヘパリンコファクターII、アプロチニン等のトロンビン阻害剤を含んでいてもよいが、好ましい態様において、上記血液試料はトロンビン阻害剤を含まない。上記被検者としては、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類、さらに好ましくはヒトを挙げることができる。
【0018】
本発明の基質は、トリペプチドに重量平均分子量が5,000以上、より好ましくは6,000以上、さらに好ましくは7,000以上、さらにより好ましくは8,000以上のトリプターゼ難消化性水溶性ポリマーを結合していてもよい。本態様において、本発明の基質は血液試料中に共存するトロンビンによる切断を受けないため、血液試料に対してトロンビン阻害剤の添加、トロンビンの除去等の前処理を行わなくても、トリプターゼ活性を精度よく測定することができる。この理由は、重量平均分子量5,000以上のトリプターゼ活性測定用基質は、血液試料中でα2マクログロブリン四量体により捕捉されているトロンビンの活性中心に到達しないからと考えられる。なお、本態様におけるトリペプチドとしては、式(1)~(3)から選択されるトリペプチドに加え、トリプターゼに対する感受性が式(1)~(3)から選択されるトリペプチドと同等又はより高い既知のトリペプチド(Lys-Pro-Arg、式(1)~(3)から選択されるトリペプチドにおいて、P位がAsnであるトリペプチド、Lys/Arg-Asn-Lys/Arg等)を使用することができる。
【0019】
上記トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーは、本発明の基質におけるArg残基-色素標識間のペプチド結合の、トリプターゼによる切断を妨げないものであればよく、重量平均分子量の上限としては、例えば5,000,000以下、1,000,000以下、500,000以下、100,000以下、50,000以下等を挙げることができる。また、トリプターゼ難消化性とは、本発明の基質において、トリプターゼ難消化性水溶性ポリマー中の結合が、Arg残基-色素標識間のペプチド結合と比較してトリプターゼにより切断されにくいことを意味し、例えば、トリプターゼに対するトリプターゼ難消化性水溶性ポリマーの感受性が、トリプターゼに対するArg残基-色素標識間ペプチド結合の感受性の1/10以下、好ましくは1/50以下、より好ましくは1/100以下、さらに好ましくは1/500以下、さらにより好ましくは1/1000以下であることを意味する。ここで、トリプターゼに対する感受性が高いと、反応中に水溶性ポリマーが消化されてしまい、α2マクログロブリン四量体により捕捉されているトロンビンの活性中心に到達できる分子サイズにまで小さくなってしまうため望ましくない。理論に拘束されるものではないが、トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーの性状の要点は、担持したトリペプチド-MCA基質を、α2マクログロブリン四量体にトラップされたトロンビン等妨害酵素の活性中心に送達することができないほどの大きな分子量にある。トリプターゼは分子量31乃至33kDaの四量体(135kDa)で機能するためα2マクログロブリンによる阻害を受けないと考えられる。
【0020】
上記トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーとしては、ポリアミノ酸が好ましく、中でもポリ(L-リジン)、樹枝状ポリ(L-リジン)、ポリ(D-リジン)、樹枝状ポリ(D-リジン)、ポリ(L-オルニチン)及びポリ(D-オルニチン)を好適に例示することができる。上記トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーは、トリペプチドのN末端に結合することが好ましく、PEG(ポリエチレングリコール)やコハク酸等のリンカーを介してトリペプチドに結合してもよい。
【0021】
本発明の基質は、本発明の基質と血液試料とを接触させるステップ(A)、及び前記ステップ(A)後に、色素標識の蛍光特性又は発色特性の変化量を測定することにより、前記血液試料中のトリプターゼ活性の程度を算出するステップ(B)を順次備えた血液試料中のトリプターゼ活性の測定方法(本発明の測定方法)に好適に使用することができる。ステップ(A)における接触時間や、血液試料に対する基質添加量は、血液試料中のトリプターゼ活性によって適宜設定することができ、ステップ(B)における、血液試料中のトリプターゼ活性の程度を算出する方法としては、例えば精製トリプターゼ及び本発明の基質を用いてあらかじめ作成した検量線に基づいて、血液試料中のトリプターゼ活性を算出する方法を挙げることができる。本発明の測定方法は、ステップ(A)に先立って、トロンビンによる妨害を防ぐために、上記トロンビン阻害剤を測定対象の血液試料に添加してもよいが、本発明の基質が、分子量5,000以上のトリプターゼ難消化性水溶性ポリマーが結合したものである場合、トロンビン阻害剤は添加しなくてもよい。疾患の判定基準としての血液試料中のトリプターゼ活性は、疾患に応じて適宜設定してもよく、一般に血中トリプターゼ濃度が10μg/L以上である場合に高値であると考えられていることから、トリプターゼ濃度が10μg/Lである場合の活性に基づいて、病態の判定基準を設定してもよい。
【0022】
一態様において、本発明の基質は、血液試料中のトリプターゼ活性測定用キット(本発明のキット)として保存、流通及び使用されてよい。本発明のキットは、本発明の測定方法に用いられる。本発明のキットは、本発明の基質に加え、血液試料採取用の容器、血液試料の前処理剤、反応用バッファー、保存料、取扱説明書等を含んでもよい。血液試料の前処理剤としては、上記トロンビン阻害剤や血液凝固阻害剤を例示することができるが、本発明の基質として、分子量5,000以上のトリプターゼ難消化性水溶性ポリマーが結合したものを用いる場合、トロンビン阻害剤は含まなくてもよい。
【0023】
本発明の基質、測定方法又はキットを用いることにより、マスト細胞活性化症候群の病勢評価を行うことができる。ここで、マスト細胞活性化症候群としては、例えばアレルギー、アトピー性皮膚炎、腫瘍、未熟児網膜症等、全身性肥満細胞症、慢性リンパ性白血病(CLL)等を挙げることができる。本発明によれば、トリプターゼタンパク質関連抗原の存在量だけではなく、血液中のトリプターゼ活性を直接測定することができるため、従来のELISAを用いた方法と比べ正確に病勢の評価(ステージ等の評価)を行うことができる。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
1.トリプターゼ基質のスクリーニング
トリプターゼに対して使用されたことがある既報のトリペプチド-MCA基質のアミノ酸配列に関する文献情報及び簡易的ライブラリーの手法も取り入れて、全17種類のMCA基質を化学合成し、ヒト肺から分離された市販のトリプターゼに対して、最も感受性と物性が優れたBoc-Ala-Ala-Arg-MCAを見いだすに至った。Boc-Ala-Ala-Arg-MCA_Pmcsの合成は、以下の手順で行った。
(1)氷冷下、Fmoc-Arg(Pmc)-OH(渡辺化学工業株式会社製,4mmol)のジクロロメタン(DCM)溶液に、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(450mg,2.2mmol)を加えて、1時間撹拌した。生成した対称酸無水物にAMC(東京化成工業株式会社製,400mg,2.2mmol)を加えて室温で1夜反応させ、Fmoc-Arg(Pmc)-MCAを得た。
(2)Boc-Ala-OH(自家製,1.89g,10mmol)とH-Ala-OBzl_HCl(自家製,2.12g,10mmol)とを定法で縮合してBoc-Ala-Ala-OBzlを調製した。更に5%Pd-Cを用いてメタノール中で接触還元して、Boc-Ala-Ala-OHを得た[収量2.08g(80%)]。
(3)Fmoc-Arg(Pmc)-MCA(1.0mmol)を20%ピペリジン(5mL)に溶かして、室温で2時間反応させた。溶媒を留去し、残渣をN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かして、これにBoc-Ala-Ala-OH(260mg,1.0mmol)を加え、HBTU/HOBt法で縮合した。生成物Boc-Ala-Ala-Arg(Pmc)-MCAをシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、420mg(50%)の白色の結晶を得た。
(4)Boc-Ala-Ala-Arg(Pmc)-MCA(400mg,0.45mmol)をトリフルオロ酢酸(TFA)(5mL)に溶解し、室温で2時間反応させた。TFAを留去し、残渣にジエチルエーテルを加えてPmcs塩を結晶状の粉末として得た[収量365mg(91%)]。
【0026】
上記のような過去の文献を参考にする以外に、ペプチドライブラリー的アプローチとしてP位及びP位に嵩高さが異なる、Gly、Ala、Abu、Val、Pro、Phe又は親水性のLysを導入したBoc-Y-X-Arg-MCAを表1に列挙するように合成し、活性測定を行った。なお、Abu(2-アミノ酪酸)は非タンパク質性アミノ酸であるが、最適ペプチド配列探索ツールとして加えた。
【0027】
活性測定は、以下の方法で行った。
(1)基質溶液のストックを、2.0mMのDMSO溶液として用意した。
(2)基質溶液のストックを、50mM Tris-HCl(pH8.0)で20倍希釈して100μMの溶液を作製した。これの100μLをポリプロピレン製マイクロチューブに添加し、さらに市販のトリプターゼ溶液(Cappel社製)2μLを添加、軽くボルテックスにかけて混合した後、酵素活性測定装置(有限会社ペプチドサポート社製・試作品)を用いて、直ちに励起波長365nmにおける470nmの蛍光強度の変化を測定した。
【0028】
【表1】
【0029】
上記のスクリーニングにより、Boc-Ala-Ala-Arg-MCAよりトリプターゼ感受性が高いトリペプチド基質として、Boc-Abu-Ala-Arg-MCA、及びBoc-Lys-Ala-Arg-MCAを取得することができた。また、非特許文献15によってトリペプチド部分が既知のトリプターゼ基質であるBoc-Lys-Pro-Arg-MCAについても、Boc-Ala-Ala-Arg-MCAより2倍弱トリプターゼ感受性が高いことが確認できた。非特許文献18に記載のトリプターゼ基質である-Arg-Asn-Arg-配列も、P位AsnがP位Alaよりも2倍強の感受性を示し、更にP位においては側鎖に正電荷を帯びるアミノ酸がP位Alaよりも2倍程度感度が優れていることに鑑みると、-Ala-Ala-Arg-配列より、計算上であるが、約5倍高い感受性を有していると考えられた。
【0030】
上記トリペプチドの好適アミノ酸配列の探索の成果として、以下の知見が得られた。
タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)は、タンパク質に含まれるアミノ酸の側鎖原子団の構造によって、ペプチド結合の加水分解反応速度が異なることが、その特異性として良く知られている。トリプターゼは側鎖に正電荷を有するArgを第一義的に認識して、これのカルボキシル基側のペプチド結合を加水分解する。酵素が第一義的に認識するアミノ酸の位置をP1 位とし、これからN-末端側に離れるに従って、P位、P位と称する。これらの一のアミノ酸でも酵素反応の速度の相違に小さからざる影響を及ぼすことがある。一方、タンパク質中のアミノ酸の側鎖に注目すると、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、疎水性アミノ酸、中性親水性アミノ酸に大きく4分類される。それぞれをGlu、Arg、Phe、Serに代表させることもできる。そこで、P位アミノ酸として、Gluを除外し、Gly、Ala、Val,Phe,Ser,Proを導入することにした。P位にも同様に典型的なアミノ酸を導入した。P位にはLysも用いた。多数の化合物を合成する必要があったため合成中間体の精製方法を簡略化し、最終工程の保護基の除去において、トリフルオロ酢酸に対して安定なBoc基を用いた。また、Argの側鎖のPmc保護基はトリフルオロ酢酸で除去後、生成物がArgの側鎖と塩を形成するため、Boc-トリペプチド-MCAの化合物の殆どが良好な粉末状で得られた。
【0031】
表1の実験結果を検討して、トリプターゼの基質のアミノ酸配列の特徴を以下の5点にまとめることができた。(i)P位のGlyは適切ではないことが明白である。(ii)P位には側鎖が小さいメチル基のAlaが最適であり、ValやPheのように嵩高くなると感受性が減少した。大きな側鎖は酵素側のサブサイトS位に収容されにくいのであろう。Proは他のプロテアーゼの基質でもP位によく現れるアミノ酸である。(iii)非タンパク質性のAbuはAlaより少し低い感受性を示した。(iv)P位でもP位と同様に、AlaやAbuのような小さい側鎖が許容されて嵩高い疎水性側鎖は結合しにくくなっている。(v)一方、P位には、正電荷を有するLysが収容されることが明らかになった。将来、病理に関連してトリプターゼの天然基質タンパク質が同定されて、その作用点のアミノ酸配列が決定されれば、そのP位にLysが見いだされるであろう。
【実施例2】
【0032】
2.トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーにSuc-Ala-Ala-Arg-MCAを結合した高分子基質の合成
以下の方法により、トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーであるポリ(L-リジン)を結合したトリプターゼ活性測定用基質を合成した。
【0033】
(1)Fmoc-Arg(Pmc)-MCA(自家製,1.1mmol)を20%ピペリジン/DMF(10mL)に溶解し、90分間反応させた。DMFを留去して、フリーアミンを白色固体状で得た。これをDMF(5mL)に溶解し、Boc-Ala-Ala-OH(自家製,1.2mmol)を加えてHBTU/HOBt法で縮合した。4時間反応後、Boc-Ala-Ala-Arg(Pmc)-MCAを単離し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製した[収量505mg(62%)]。
(2)Boc-Ala-Ala-Arg(Pmc)-MCA(440mg)をTFA(5mL)に溶かして、10分間反応させた。速やかにTFAを留去し、ジエチルエーテルで結晶化した。
(3)TFA_H-Ala-Ala-Arg(Pmc)-MCA(390mg)をDMF(5mL)に溶かし、氷冷下でNEt(2.2eq.)及びコハク酸無水物(1.2eq.)を加え、一夜室温で反応させた。生成したSuc-Ala-Ala-Arg(Pmc)-MCAを抽出単離し、更にTFA(3mL)に溶解し、2時間反応させてPmc基を除去した。
(4)分子量8,000以上のポリ(L-リジン)塩酸塩(株式会社ペプチド研究所製,Lot.670515,165mg,1mmol)を水(5mL)に溶かし、Suc-Ala-Ala-Arg-MCA_Pmcs(164mg,0.2mmol)を加えNaHCO(21mg,0.5mmol)で塩酸塩を中和した。更にN-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu,23mg,0.2mmol)と1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド_HCl(EDC,MW191.7,96mg,0.5mmol)を加えてpH8~9に維持した。反応液が泡立つため、5時間後にエタノール(1mL)を消泡剤として加えた。2日間反応させた。
(5)反応液に少量の酢酸を加えて濃縮し、残ったシロップにエタノールを加えると固化した。翌日デカンテーションで溶媒を除き、再度蒸留水に溶かして、エタノールを消泡剤として濃縮し、残ったシロップにエタノールを加えて白色固体を得た。真空乾燥により220mgのSuc-Ala-Ala-Arg-MCAを結合したポリ(L-リジン)を得た。
(6)Suc-Ala-Ala-Arg-MCAを結合したポリ(L-リジン)、3.81mgを50mLの蒸留水に溶かして、吸収スペクトルを測定すると、280nmでの吸光度は0.55であった。
【0034】
また、以下の方法により、トリプターゼ難消化性水溶性ポリマーであるポリ(D-リジン)を結合したトリプターゼ活性測定用基質を合成した。
【0035】
(7)上記(4)において、分子量4,000-15,000のポリ(D-リジン)臭化水素酸塩(シグマ・アルドリッチ社製、Lot.SLBZ6409、42mg、0.2mmol)、およびSuc-Ala-Ala-Arg-MCA_Pmcs(33mg、0.04mmol)を用いたほかは、上記(1)~(6)と同様の手順によりポリ(D-リジン)にトリペプチド-MCAを縮合した。 目的物38mgを得た。
【0036】
また、α2マクログロブリン四量体にトラップされたトロンビン等の血液凝固系プロテアーゼへのMCA基質のアクセスを抑制するための好適な高分子として、樹枝状ポリ(リジン)が考えられた。そこで、以下の方法により樹枝状ポリ(L-リジン)及び樹枝状ポリ(D-リジン)を調製した。
【0037】
(8)ヘキサメチレンジアミンにジ-Boc-L-リジン2分子を縮合した。TFAによる脱Boc基の後、遊離した4個のアミノ基にジ-Boc-L-リジン4分子を縮合した(第2世代K6B8。ここで、KはL-リジンの個数、BはBoc基の個数を表す)。これを繰り返して、第3世代K14B16、第4世代K30B32、更に第5世代K62B64まで樹枝を広げた(Chem. Commun., 1999, 2057-2058 (1999))。K14B16、K30B32、及びK62B64をTFA処理を行うことによって、K14A16(Aは、脱保護後のフリーのアミノ基(TFA塩)を表す)、K30A32、及びK62A64のTFA塩を白色粉末として得た(表2)。
(9)上記(8)において、ジ-Boc-L-リジンに代えてジ-Boc-D-リジンを用いたほかは同様の手順により、k14A16(kはD-リジンの個数を表す)、k30A32、及びk62A64のTFA塩を白色粉末として得た(表2)。
【0038】
【表2】
【0039】
得られた樹枝状ポリ(リジン)を、以下の方法によりSuc-Ala-Ala-Arg-MCAに結合した。
【0040】
(10)樹枝状ポリ(D-リジン)である5Gk62A64(316mg)を水(10mL)に溶かし、Suc-Ala-Ala-Arg-MCA_Pmcs(330mg,0.4mmol)を加え、NaHCO(43mg,1mmol)でトリフルオロ酢酸塩を中和した。さらにN-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu,50mg,0.4mmol)と1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド_HCl(EDC,200mg,1mmol)を加えて、上記(4)のように反応させた。343mgの5Gk62A64-Suc-Ala-Ala-Arg-MCA酢酸塩を得た。
【実施例3】
【0041】
3.本発明の基質を使用した血清中トリプターゼの活性測定
実施例2で調製したSuc-Ala-Ala-Arg-MCAを結合したポリ(L-リジン)を用い、血清中のトリプターゼ活性を特異的に測定できるかを試験した。
【0042】
(1)Suc-Ala-Ala-Arg-MCAを結合したポリ(L-リジン)20.0mgを50mM Tris-HCl(pH8.0)50mLに溶解した。
(2)市販ヒト血清2μL(BioWest社製)をPBS(-)(pH7.4)2μL(対照)又は10μMナファモスタット(トリプターゼ阻害剤,東京化成工業株式会社製)2μL又は10U/mLヒルジン(トロンビン阻害剤,シグマ・アルドリッチ社製)2μLと混合し、室温で10分経過後、それぞれの混合溶液を上記(1)で調製した溶液100μLに添加し、直ちに酵素活性を測定した。
【0043】
結果を、以下の表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3より、本発明の高分子基質で検出された血清中の酵素活性は、トリプターゼ阻害剤であるナファモスタットで完全に阻害されたのに対して、トロンビン阻害剤であるヒルジンでは阻害されなかった。ここでの結果より、本発明の高分子基質で検出された血清中の酵素活性は、トリプターゼによるものであり、トロンビン等の血液凝固系酵素がα2マクログロブリン四量体にトラップされた状態で存在している血清試料であっても、トリプターゼ活性を特異的に測定できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、血液試料に対する精製、濃縮等の前処理なしに、血液試料中のトリプターゼ活性を直接測定することができる。そのため、これまではトリプターゼタンパク質関連抗原の血中存在量のみにより判定していたマスト細胞活性化症候群を、病勢をより正確に反映するトリプターゼ活性により判定することが可能になるため、医療分野における産業上の利用可能性は高い。