(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240906BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240906BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2021545180
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2020030957
(87)【国際公開番号】W WO2021049253
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019164951
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】谷口 恵
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-121641(JP,A)
【文献】特開2009-260236(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0071631(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、
前記水溶性高分子として、分子内にベタイン構造を有する水溶性高分子を含
み、
前記砥粒としてシリカ粒子を含み、
pHが8.0以上である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒の平均二次粒子径は60nm以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒としてコロイダルシリカを含む、請求項1
または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記分子内にベタイン構造を有する水溶性高分子の含有量は、前記砥粒の含有量100重量部に対して0.001重量部以上である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記塩基性化合物として水酸化第四級アンモニウム類を含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
さらに塩を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記塩として弱酸塩を含む、請求項
6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
さらにキレート剤を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
シリコンウェーハの予備研磨工程で用いられる、請求項1から
8のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。本出願は、2019年9月10日に出願された日本国特許出願2019-164951号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
従来、金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して研磨用組成物を用いた精密研磨が行われている。例えば、半導体製品の構成要素等として用いられるシリコンウェーハの表面は、一般的にラッピング工程やポリシング工程を経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、例えば、予備ポリシング工程(予備研磨工程)とファイナルポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。上記予備ポリシング工程は、例えば粗研磨工程(一次研磨工程)および中間研磨工程(二次研磨工程)を含み得る。上記研磨用組成物に関する技術文献としては、例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2008-235481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、シリコンウェーハ等の半導体基板その他の基板について、スクラッチの低減など、より高品位の表面が要求されるようになってきている。基板表面の検査精度も向上しており、従来は問題視されなかったレベルの微細なスクラッチを検出し、その低減が検討されている。また、最終製品でより高品位の表面を実現するためには、最終研磨工程は勿論のこと、より上流の研磨工程、例えば中間研磨工程や粗研磨工程においても、基板の表面品質改善を見据えた工夫が求められるようになってきている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、スクラッチ低減性に優れる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によると研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、上記水溶性高分子として、分子内にベタイン構造を有する水溶性高分子を含む。上記組成の研磨用組成物を用いた研磨によると、研磨後の基板表面のスクラッチを低減することができる。
【0007】
なお、本明細書における「スクラッチ」とは、特に限定されるものではないが、典型的には、後述の実施例で用いられる光学検査機(例えば、ケーエルエー・テンコール社製「Surfscan SP2」)による観察で検出され得るスクラッチをいう。
【0008】
好ましい一態様では、前記砥粒の平均二次粒子径は60nm以上である。一般に、砥粒の粒子径が大きいとスクラッチは発生しやすいが、ここに開示される技術によると、上記平均二次粒子径を有する砥粒を用いる態様であっても、分子内にベタイン構造を有する水溶性高分子の存在により、スクラッチ低減を好ましく実現することができる。
【0009】
好ましい一態様では、前記砥粒としてシリカ粒子を含む。シリカ粒子を砥粒として用いることにより、高い面品質が得られやすい。また、砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨において、ここに開示される技術によるスクラッチ低減効果が好ましく発揮され得る。
【0010】
好ましい一態様では、前記砥粒としてコロイダルシリカを含む。ここに開示される技術によると、コロイダルシリカを含む組成で生じ得る微細なスクラッチを低減することができる。すなわち、砥粒としてコロイダルシリカを用いる研磨において、スクラッチ低減効果を効果的に発揮することができる。
【0011】
好ましい一態様では、前記分子内にベタイン構造を有する水溶性高分子の含有量は、前記砥粒の含有量100重量部に対して0.001重量部以上である。所定量以上のベタイン構造含有ポリマーを用いることで、スクラッチ低減効果は好ましく実現される。
【0012】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、前記塩基性化合物として水酸化第四級アンモニウム類を含む。塩基性化合物として水酸化第四級アンモニウム化合物を用いることで、好ましい研磨レートを保ちながらスクラッチを低減することができる。
【0013】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、さらに塩を含む。上記塩基性化合物と塩とを組み合わせて含むことにより、研磨用組成物のpHの緩衝作用を利用して、研磨レートを維持しやすい。前記塩として弱酸塩を含有させることがより好ましい。
【0014】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、さらにキレート剤を含む。研磨用組成物にキレート剤を含有させることにより、研磨対象物の金属汚染を抑制することができる。
【0015】
ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウェーハの予備研磨工程に好ましく用いられ得る。上記研磨用組成物を用いて予備研磨を行うことにより、従来あまり着目されてこなかった予備研磨後のスクラッチを低減することができ、それにより次工程の中間研磨工程や最終研磨工程における研磨効率を向上させ、最終研磨工程後の研磨面を、より高品質なものにすることができる。ここに開示される研磨用組成物を予備研磨工程に用いることは、より高品質な研磨面を仕上げ研磨後に付与し得る点で有意義である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は砥粒を含有する。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。
【0018】
砥粒の材質や性状は特に制限されず、使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子等のシリコン化合物粒子や、ダイヤモンド粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。なかでも無機粒子が好ましい。
【0019】
ここに開示される技術において特に好ましい砥粒として、シリカ粒子が挙げられる。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0020】
シリカ粒子の種類は特に制限されず、適宜選択することができる。シリカ粒子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。シリカ粒子の例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な研磨性能(表面粗さを低下させる性能等)を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。また、ここに開示される技術によると、コロイダルシリカを原因として生じるスクラッチを低減することができる。コロイダルシリカの種類は特に制限されず、適宜選択することができる。コロイダルシリカは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。コロイダルシリカの例としては、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。ここでアルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカである。
【0021】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大により、研磨レートは高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が2.0以上(例えば2.1以上)のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、例えば2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0022】
砥粒の平均一次粒子径は特に限定されず、例えば10nm~200nm程度の範囲から適宜選択し得る。研磨レート向上の観点から、平均一次粒子径は20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は、例えば40nm超であってよく、45nm超でもよく、50nm超でもよい。また、スクラッチの発生防止の観点から、平均一次粒子径は、通常、150nm以下であることが有利であり、120nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は75nm以下でもよく、60nm以下でもよい。
【0023】
この明細書において、砥粒の平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、平均一次粒子径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、平均一次粒子径(nm)=2727/BET値(m2/g)により平均一次粒子径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0024】
砥粒の平均二次粒子径は特に限定されないが、例えば15nm以上、さらには30nm以上、50nm以上が適当であり、高い研磨レートを得る観点から、上記平均二次粒子径は60nm以上であることが好ましい。ここに開示される技術によると、上記平均二次粒子径を有する砥粒を用いる態様であっても、スクラッチ低減を好ましく実現することができる。したがって、上記平均二次粒子径は80nm以上であってもよく、100nm以上でもよい。また、スクラッチ低減効果および保存安定性等の観点から、砥粒の平均二次粒子径は、300nm以下が適当であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下であり、例えば130nm以下であってもよい。
【0025】
この明細書において、砥粒の平均二次粒子径とは、動的光散乱法に基づく体積平均粒子径(体積平均径D50)をいう。砥粒の平均二次粒子径は、市販の動的光散乱法式粒度分析計を用いて測定することができ、例えば、大塚電子社製の型式「FPAR-1000」またはその相当品を用いて測定することができる。
【0026】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。
【0027】
砥粒の平均アスペクト比は特に限定されない。砥粒の平均アスペクト比は、原理的に1.0以上であり、1.05以上、1.1以上とすることができる。平均アスペクト比の増大により、研磨性能は概して向上する傾向にある。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減や研磨の安定性向上等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下である。いくつかの態様において、砥粒の平均アスペクト比は、例えば1.5以下であってよく、1.4以下でもよく、1.3以下でもよい。
【0028】
上記砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0029】
砥粒の含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜設定し得る。研磨用組成物の全重量に対する砥粒の含有量は、例えば0.01重量%以上であってよく、0.05重量%以上でもよく、0.1重量%以上でもよい。研磨レート向上等の観点から、いくつかの態様において、砥粒の含有量は、0.2重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、0.6重量%以上でもよい。また、スクラッチ防止や砥粒の使用量節約の観点から、いくつかの態様において、砥粒の含有量は、例えば10重量%以下であってよく、5重量%以下でもよく、3重量%以下でもよく、2重量%以下でもよく、1.5重量%以下でもよく、1.2重量%でもよく、1.0重量%以下でもよい。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0030】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、砥粒の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、50重量%以下であることが適当であり、40重量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、砥粒の含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。
【0031】
<塩基性化合物>
ここに開示される研磨用組成物は塩基性化合物を含む。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働きをし、研磨レートの向上に寄与し得る。
【0032】
塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウム等の第四級アンモニウム類、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。第四級アンモニウム類の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。
【0033】
表面品質改善等の観点から好ましい塩基性化合物として、水酸化第四級アンモニウム類が挙げられる。水酸化第四級アンモニウム類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましく用いられるものとして水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。
【0034】
研磨用組成物全量に対する塩基性化合物の含有量は、研磨レート向上等の観点から、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.03重量%以上である。塩基性化合物の含有量の増加によって、安定性も向上し得る。上記塩基性化合物の含有量の上限は、1重量%以下とすることが適当であり、表面品質等の観点から、好ましくは0.5重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.06重量%以下である。なお、2種以上の塩基性化合物を組み合わせて用いる場合は、上記含有量は2種以上の塩基性化合物の合計含有量を指す。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0035】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、塩基性化合物の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は10重量%以下であることが適当であり、5重量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、塩基性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは0.9重量%以上である。
【0036】
<塩>
いくつかの態様において、研磨用組成物は塩を含有することが好ましい。塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。塩としては、例えば無機酸の塩または有機酸の塩を用いることができる。無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、ホスホン酸、硝酸、ホスフィン酸、ホウ酸等が挙げられる。有機酸としては、酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、ヒドロキシエチリデン二リン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンリン酸)(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)等が挙げられる。上記塩は、例えば、上記無機酸または有機酸のナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩等であり得る。
【0037】
上記塩としては、例えば弱酸塩を用いることができ、弱酸塩としては、第四級アンモニウム化合物との組合せで所望の緩衝作用を発揮し得るものを適宜選択することができる。このような緩衝作用が発揮されるように構成された研磨用組成物は、研磨中における研磨用組成物のpH変動が少なく、研磨能率の維持性に優れたものとなり得る。このことによって、研磨レートの維持をより好適に実現することができる。
【0038】
弱酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。弱酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、オルト珪酸ナトリウム、オルト珪酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト等が挙げられる。アニオン成分が炭酸イオンまたは炭酸水素イオンである弱酸塩が好ましく、アニオン成分が炭酸イオンである弱酸塩が特に好ましい。また、カチオン成分としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンが好適である。
【0039】
基板(例えばシリコン基板)の研磨に適したpH域において良好な緩衝作用を示す研磨用組成物を得る観点から、酸解離定数(pKa)値の少なくとも一つが8.0~11.8(例えば、8.0~11.5)の範囲にある弱酸塩が有利である。好適例として、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、リン酸塩およびフェノール塩が挙げられる。特に好ましい弱酸塩として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムが挙げられる。なかでも炭酸カリウム(K2CO3)が好ましい。pKaの値としては、公知資料に記載された25℃における酸解離定数の値を採用することができる。
【0040】
塩(例えば弱酸塩)の含有量は、第四級アンモニウム化合物との関係で緩衝作用が好適に発揮されるように設定することができる。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、塩(例えば弱酸塩)の含有量は、研磨用組成物の全重量に対して、例えば0.0001重量%以上であってよく、0.0005重量%以上でもよく、0.001重量%以上でもよく、0.005重量%以上でもよい。また、より高い研磨レートを得やすくする観点から、いくつかの態様において、上記含有量は、例えば5重量%以下であってよく、2重量%以下でもよく、1重量%以下でもよく、0.7重量%以下でもよく、0.5重量%以下でもよい。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0041】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、塩(例えば弱酸塩)の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、15重量%以下であることが適当であり、10重量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、塩(例えば弱酸塩)の含有量は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.0125重量%以上、さらに好ましくは0.03重量%以上である。
【0042】
<水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子として、分子内にベタイン構造を有する水溶性高分子(ベタイン構造含有ポリマー)を含む。ベタイン構造含有ポリマーを含む研磨用組成物によると、研磨面のスクラッチの発生を抑制する性能が向上しやすい。ここに開示される技術を実施するにあたり、ベタイン構造含有ポリマーが研磨面のスクラッチの減少に寄与するメカニズムを解明することは必要とされないが、研磨対象物の表面において、砥粒や研磨対象物表面がベタイン構造含有ポリマーによって保護されることで、それらの間で起こる摩擦や衝突(フリクション)が抑制され、研磨面のスクラッチが減少することが考えられる。ただし、このメカニズムのみに限定解釈されるものではない。
【0043】
ここに開示される研磨用組成物におけるベタイン構造含有ポリマーとしては、典型的には側鎖にベタイン構造を有する繰り返し単位を含むポリマーである。ベタイン構造含有ポリマーを研磨組成物に含有させることにより、研磨後の研磨表面のスクラッチが減少することが後述する実施例により確認されている。なお、本願において、ベタイン構造とは、正電荷と負電荷とを同一分子内に持ち、電荷が中和されている構造を示す。前記ベタイン構造は、前記正電荷と負電荷とを隣り合わない位置に持つ化合物である。前記ベタイン構造は、好ましくは、正電荷と負電荷とを2つ以上の原子を介する位置に持つ。正電荷をもつ原子(カチオン)としては、例えば、第四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム等が挙げられ、好ましくは第四級アンモニウムが用いられる。負電荷をもつ原子団(アニオン)としては、カルボン酸陰イオン、スルホン酸陰イオン、リン酸陰イオン、硝酸陰イオン等が挙げられ、好ましくはカルボン酸陰イオン(カルボキシベタイン)やスルホン酸陰イオン(スルホベタイン)等が用いられる。
【0044】
また、「ベタイン構造を有する繰返し単位」とは、ベタイン構造含有ポリマーを構成している繰返し単位であってベタイン構造を有するものをいう。換言すれば、ベタイン構造含有ポリマー中においてベタイン構造を有している繰返し単位をいう。以下、このような繰返し単位を「繰返し単位b」ということがある。繰返し単位bの有するベタイン構造は、ベタイン構造を有する単量体に由来するものであってもよく、ポリマーを変性することにより導入されたベタイン構造であってもよい。繰返し単位bに含まれるベタイン構造の数は、1であってもよく2以上であってもよい。また、ベタイン構造含有ポリマーは、一種の繰返し単位bを単独で含んでいてもよく、二種以上の繰返し単位bを組み合わせて含んでいてもよい。
【0045】
ここに開示される研磨用組成物におけるベタイン構造含有ポリマーは、例えば、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ビニルアルコール系ポリマー、アクリル系ポリマー等であり得る。これらのうち好ましいベタイン構造含有ポリマーとして、アクリル系ポリマーが例示される。このようなベタイン構造含有ポリマーを含む研磨用組成物は、より優れたスクラッチ低減性を発揮することができる。ベタイン構造含有ポリマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
アクリル系ポリマーは、典型的には(メタ)アクリロイル型の繰返し単位を含むポリマーである。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。ベタイン構造含有ポリマーとしてのアクリル系ポリマーは、繰返し単位bとして、例えば、ベタイン構造を有する(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位を含むものであり得る。ベタイン構造を有する(メタ)アクリロイル型モノマーの具体例としては、スルホベタインメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、およびカルボキシベタインメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のモノマーに由来する繰返し単位が挙げられ、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびカルボキシベタインメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のモノマーに由来する繰返し単位が好ましく、不飽和モノマーの入手性およびモノマーの重合性の観点からは、スルホベタインメタクリレートおよびカルボキシベタインメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のモノマーに由来する繰返し単位が好ましい。
【0047】
ベタイン構造含有ポリマーの非限定的な例としては、ベタイン構造を有する(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。ベタイン構造を有する(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。ベタイン構造含有ポリマーとしては、例えば、ポリメタクリロイルエチルジメチルベタイン、メタクリロイルアミノプロピルジメチルスルホベタイン等が挙げられる。
【0048】
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。研磨対象物の表面をより均一に保護する観点から、いくつかの態様において、ランダム共重合体を好ましく採用し得る。特に、水溶性高分子として共重合体を用いる場合、該共重合体としてランダム共重合体を好ましく用いることができる。ベタイン構造含有ポリマーとして共重合体を使用する態様において、当該共重合体における「ベタイン構造を有する繰返し単位」となる単量体単位(繰返し単位b)の共重合割合は、特に限定されず、10モル%以上が適当であり、30モル%以上であってもよく、50モル%以上でもよく、70モル%以上(例えば90モル%以上)でもよい。
【0049】
ここに開示される技術においてベタイン構造含有ポリマーの分子量は特に限定されない。例えば、ベタイン構造含有ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、凡そ200×104以下とすることができ、100×104以下が適当である。研磨振動や表面欠陥を抑制する観点から、上記Mwは、好ましくは凡そ50×104以下であり、より好ましくは凡そ10×104以下であり、例えば凡そ5×104以下でもよい。また、スクラッチ低減の観点から、上記Mwは、凡そ0.2×104以上(凡そ0.5×104以上)が適当であり、好ましくは凡そ0.8×104以上、より好ましくは凡そ1.2×104以上であり、凡そ1.5×104以上(例えば凡そ2.0×104以上)であってもよい。
【0050】
ここに開示される研磨用組成物における水溶性高分子としてのベタイン構造含有ポリマーの含有量は、特に限定されず、スクラッチ低減の観点から、凡そ1×10-5重量%以上(例えば凡そ1×10-4重量%以上)とすることが適当であり、好ましくは凡そ2×10-4重量%以上である。上記研磨用組成物におけるベタイン構造含有ポリマーの含有量の上限は、例えば凡そ1重量%以下とすることができる。研磨効果や洗浄性等の観点から、水溶性高分子の含有量は、好ましくは凡そ0.1重量%以下、より好ましくは凡そ0.05重量%以下、さらに好ましくは凡そ0.01重量%以下(例えば凡そ0.005重量%以下)である。これらの含有量は、例えば、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)における含有量に好ましく適用され得る。
【0051】
ベタイン構造含有ポリマーの含有量(二種以上のベタイン構造含有ポリマーを含む場合にはそれらの合計量)は、砥粒との相対的関係によっても特定され得る。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対するベタイン構造含有ポリマーの含有量は、例えば0.0001重量部以上とすることができ、研磨表面保護等の観点から0.0005重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.001重量部以上、より好ましくは0.005重量部以上、さらに好ましくは0.01重量部以上(例えば0.03重量部以上)である。また、砥粒100重量部に対するベタイン構造含有ポリマーの含有量は、例えば50重量部以下であってもよく、30重量部以下でもよい。研磨用組成物の分散安定性等の観点から、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対するベタイン構造含有ポリマーの含有量は、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下であり、1重量部以下(例えば0.3重量部以下)でもよい。
【0052】
ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子として、分子内にベタイン構造を有しない水溶性高分子(ベタイン構造非含有ポリマー)をさらに含んでいてもよい。ベタイン構造非含有ポリマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて、ベタイン構造含有ポリマーとともに用いることができる。ベタイン構造非含有ポリマーの例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体(例えばジブロック共重合体やトリブロック共重合体)、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン等が挙げられる。なかでも、ポリビニルピロリドン等の窒素原子を含有するポリマー(例えば窒素原子含有環を有するポリマー)が好ましい。
【0053】
水溶性高分子としてベタイン構造非含有ポリマーを用いる場合、その含有量(二種以上のベタイン構造非含有ポリマーを含む場合にはそれらの合計量)は、砥粒との相対的関係によっても特定され得る。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対するベタイン構造非含有ポリマーの含有量は、例えば0.0001重量部以上とすることができ、研磨表面保護等の観点から0.0005重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.001重量部以上、より好ましくは0.005重量部以上、さらに好ましくは0.01重量部以上(例えば0.03重量部以上)である。また、砥粒100重量部に対するベタイン構造非含有ポリマーの含有量は、例えば50重量部以下であってもよく、30重量部以下でもよい。研磨用組成物の分散安定性等の観点から、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対するベタイン構造非含有ポリマーの含有量は、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下であり、1重量部以下(例えば0.3重量部以下)でもよい。
【0054】
水溶性高分子としてベタイン構造非含有ポリマーを用いる場合、その含有量は、ベタイン構造含有ポリマーとの相対的関係によっても特定され得る。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨用組成物中の前記ベタイン構造含有ポリマーと前記ベタイン構造非含有ポリマーとの含有量の比(ベタイン構造含有ポリマー/ベタイン構造非含有ポリマー)は、スクラッチ低減の観点から、重量基準で、好ましくは10/90以上、より好ましくは25/75以上、さらに好ましくは40/60以上であり、例えば60/40以上であってもよく、75/25以上でもよく、90/10以上でもよい。上記比(ベタイン構造含有ポリマー/ベタイン構造非含有ポリマー)は、親水性の観点から、重量基準で、好ましくは95/5以下、より好ましくは80/20以下、さらに好ましくは60/40以下であり、50/50以下でもよく、25/75以下(例えば10/90以下)でもよい。
【0055】
ここに開示される技術においてベタイン構造非含有ポリマーの分子量は特に限定されない。例えば、ベタイン構造非含有ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、凡そ200×104以下とすることができ、150×104以下が適当である。研磨振動や表面欠陥を抑制する観点から、上記Mwは、凡そ100×104以下であってもよく、凡そ50×104以下でもよく、凡そ20×104以下でもよく、凡そ10×104以下(例えば凡そ3×104以下)でもよい。また、基板表面の保護性の観点から、上記Mwは、通常、凡そ0.2×104以上であり、凡そ0.5×104以上であることが適当であり、凡そ0.8×104以上(例えば凡そ1.2×104以上)であってもよい。
【0056】
ここに開示される技術において水溶性高分子の平均分子量は特に限定されない。例えば、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、凡そ200×104以下とすることができ、150×104以下が適当である。研磨振動や表面欠陥を抑制する観点から、上記Mwは、凡そ100×104以下であってもよく、凡そ50×104以下であってもよい。また、基板表面の保護性の観点から、上記Mwは、通常、凡そ0.2×104以上であり、凡そ0.5×104以上であることが適当であり、凡そ0.8×104以上であってもよい。
【0057】
なお、本明細書において、水溶性高分子のMwとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。
【0058】
<水>
ここに開示される研磨用組成物は水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(例えば99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0059】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、酸、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0060】
界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の例としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤(典型的には、分子量0.2×104未満の水溶性有機化合物)の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。
界面活性剤のMwとしては、GPCにより求められる値(水系、ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される値を採用することができる。
【0061】
酸は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記酸の例としては、塩酸、リン酸、硫酸、ホスホン酸、硝酸、ホスフィン酸、ホウ酸等の無機酸;酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、ヒドロキシエチリデン二リン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンリン酸)(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)等の有機酸;等が挙げられる。
【0062】
上記キレート剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0063】
上記防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0064】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が供給されることで基板表面(例えばシリコンウェーハ表面)が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここで、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。好ましい一態様に係る研磨用組成物は酸化剤を含有しない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをいずれも含有しない態様で好ましく実施され得る。
【0065】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば該研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、希釈(例えば、水により希釈)して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられるワーキングスラリーと、かかるワーキングスラリーの濃縮液(原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍~140倍程度であってよく、通常は5倍~80倍程度が適当である。
【0066】
研磨用組成物のpHは、例えば8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。pHが高くなると、研磨レートが向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨液のpHは、通常、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましい。これらのpHは、研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)およびその濃縮液のpHのいずれにも好ましく適用され得る。
【0067】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0068】
<研磨用組成物中に含まれる粒子>
ここに開示される研磨用組成物には、粒子として、砥粒単体のものや、砥粒と水溶性高分子とが吸着してなるもの等が含まれ得る。上記粒子は、例えば、砥粒粒子や、1個の砥粒粒子の表面に高分子の1分子または複数分子が吸着した形態、1分子の高分子に2個以上の砥粒粒子が吸着した形態、2個以上の砥粒粒子と2分子以上の高分子とが吸着した形態、砥粒および水溶性高分子に研磨用組成物中の他の成分(例えば界面活性剤)がさらに吸着した形態、等であり得る。研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物中には、一般に、上記で例示したような複数の形態の粒子が混在していると考えられる。砥粒と水溶性高分子とが吸着してなる粒子が研磨用組成物中に存在することは、該研磨用組成物中の粒子の平均粒子径を測定した場合、その値が砥粒粒子の平均粒子径の値より大きくなることによって把握され得る。
【0069】
研磨対象物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)中における粒子のサイズは、例えば、この研磨液を測定サンプルに用いて動的光散乱法に基づく粒子径測定を行うことによって把握することができる。この粒子径測定は、例えば、大塚電子社製の型式「FPAR-1000」を用いて行うことができる。上記粒子径測定により得られる体積平均粒子径DAが所定値以下(具体的には350nm以下)である研磨液を用いることにより、よりDAが大きい研磨液を用いた場合に比べて、スクラッチを低減でき保存安定性を向上することができる。また、スクラッチ低減効果および保存安定性等の観点から、上記体積平均粒子径DAは、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下であり、例えば130nm以下である。
【0070】
上記体積平均粒子径DAの下限は、スクラッチ低減の観点からは特に制限されない。研磨レートの観点からは、DAは15nm以上が適当であり、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。スクラッチの低減と研磨レートとをより高レベルで両立させる観点から、DAは50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、70nm以上がさらに好ましい。ここに開示される技術の好ましい一態様として、DAが80nm以上(例えば、100nm以上)である態様が挙げられる。かかるDAを満たす研磨液によると、スクラッチの低減と研磨レートとが特に高レベルで両立され得る。
【0071】
DAの測定は、上述のように、実際に研磨対象物に供給される濃度の研磨用組成物を測定サンプルとして行うことができる。一般的に、研磨用組成物の各成分の比率を維持したまま、その固形分含量(non-volatile content;NV)を0.05~5質量%程度の範囲で異ならせてもDAの値はそれほど変動しない。そのため、例えば砥粒の含有量が0.2質量%となる濃度において測定されるDAの値が上記範囲内であれば、この研磨用組成物を他の砥粒濃度(例えば、0.05~5質量%程度の範囲であって0.2質量%とは異なる濃度)で用いる場合にも上述の効果を得ることができる。
【0072】
測定サンプルのpHは、実際に研磨対象物に供給される研磨用組成物(研磨液)のpHと著しく異ならないpHとすることが望ましい。例えば、pH8.0~12.0(より好ましくはpH9.0~11.0、典型的にはpH10.0~10.5程度)の測定サンプルについてDAを測定することが好ましい。上記pHの範囲は、例えば、シリコンウェーハの予備研磨工程に好ましく適用され得る。
【0073】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとを混合し、必要に応じて適切なタイミングで希釈することによって研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0074】
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0075】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含むワーキングスラリーを用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。例えば上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0076】
上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。また、上記研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。
【0077】
上記研磨用組成物は、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様(いわゆる「かけ流し」)で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨用組成物を循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。
【0078】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。
【0079】
ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウェーハ等の半導体基板の研磨に好適である。上記シリコンウェーハには、ここに開示される研磨用組成物を用いる研磨工程の前に、ラッピングやエッチング、HLM(ハードレーザーマーク)の付与等の、シリコンウェーハに適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。上記シリコンウェーハは、例えば、シリコンからなる表面を有する。このようなシリコンウェーハは、好適にはシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。
【0080】
また、ここに開示される研磨用組成物は、予備研磨工程、最終研磨工程のいずれにも用いることができ、予備研磨工程においては、例えば粗研磨工程(一次研磨工程)および中間研磨工程(二次研磨工程)のいずれにも用いることができる。いくつかの好ましい態様では、上記研磨用組成物は、予備研磨工程、より具体的には、ポリシング工程における最初の研磨工程である粗研磨工程(一次研磨工程)において特に好ましく使用され得る。上記研磨用組成物によるスクラッチ低減効果は、従来、スクラッチ低減があまり着目されてこなかった予備研磨において好適に発揮され得る。それにより、次工程の中間研磨工程や最終研磨工程における研磨効率を向上させ、最終研磨工程後の研磨面を、より高品質なものにすることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0082】
<実施例1および比較例1>
[研磨液の調製]
砥粒としてのコロイダルシリカ(平均一次粒子径:55nm、平均二次粒子径110nm)と、表1に示す水溶性高分子と、塩基性化合物としてのTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)と、塩としてのK2CO3と、イオン交換水とを混合することにより、実施例1および比較例1に係る研磨液(pH=10.4)をそれぞれ調製した。各例に係る研磨液の成分は表1に示すとおりである。なお、表1中のポリメタクリロイルエチルジメチルベタインのMwは約2.5万であり、PVP(ポリビニルピロリドン)のMwは約1.7万である。
【0083】
[スクラッチの測定]
(シリコンウェーハの研磨)
各例に係る研磨液をそのままワーキングスラリーとして使用して、研磨対象物(試験片)の表面を下記の条件で研磨した。試験片としては、砥粒約1%とTMAHとを含有したスラリー(pH約10.8)を用いて研磨した厚さ775μmの鏡面シリコンウェーハ(直径:300mm、伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を使用した。
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨装置、型式「20B-5P-4D」
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「SUBA800」(溝無し)
加工キャリア:SUS775μm
研磨圧力:14kPa
スラリー流量:4.5L/分(かけ流し使用)
上定盤回転数:21rpm
下定盤回転数:35rpm
インターナルギア:4.5rpm
サンギア:16.2rpm
研磨環境の保持温度:約25℃
研磨時間:5分
【0084】
(評価)
研磨後のシリコンウェーハについて、光学検査機(製品名「Surfscan SP2」、ケーエルエー・テンコール社製)を使用して、研磨後の研磨面のスクラッチを下記の条件で測定した。評価した3枚の12インチウェーハの研磨面に10cm以上の長さのスクラッチが1つでも観察された場合は「×」、1つも観察されなかった場合は「○」とした。得られた結果を表1の「スクラッチ」の欄に示す。
(測定条件)
ディフェクト検出条件
測定モード:暗視野での測定
受光チャンネル:Composite channel(Wide and narrow)
入射光アングル:Oblique入射
ディフェクト検出サイズ:>80nm
【0085】
【0086】
表1に示されるように、砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子および水を含み、水溶性高分子として、ベタイン構造含有ポリマーを含む研磨用組成物を用いた実施例1では、研磨後の表面に長さ10cm以上のスクラッチが観察されなかったのに対し、ベタイン構造含有ポリマーを含まない研磨用組成物を用いた比較例1では、研磨後表面に該スクラッチが多く観察された。これらの結果から、ベタイン構造含有ポリマーを含む研磨用組成物は、スクラッチ低減性に優れることがわかる。
【0087】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。