IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特許7550818電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法
<>
  • 特許-電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法 図1
  • 特許-電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20240906BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240906BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240906BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240906BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240906BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240906BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240906BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240906BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240906BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/426
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/403 D
H01G11/52
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022122587
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2020542319の分割
【原出願日】2019-09-16
(65)【公開番号】P2022140606
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0109238
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ア-ヨン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-スン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン-シク・ペ
(72)【発明者】
【氏名】ビ-オ・リュ
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183212(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021398(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/058371(WO,A1)
【文献】特開2018-133244(JP,A)
【文献】特開2017-208338(JP,A)
【文献】特開2016-189261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0164059(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0026009(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0108686(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0069386(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0037556(KR,A)
【文献】特表2021-512462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の気孔を有する多孔性基材と、
前記多孔性基材の少なくとも一面に位置し、多数の無機物粒子と、前記無機物粒子の表面の一部または全部に位置し、前記無機物粒子同士を連結及び固定するバインダー高分子と、を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含み、
前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンであり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレンであり、
前記第1バインダー高分子が45~70cpの粘度を有し、
前記第2バインダー高分子が600~800cpの粘度を有し、
前記粘度が、第1バインダー高分子または第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部、及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部を常温で混合するスラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値であり、
前記第1バインダー高分子が、無機物粒子100重量部を基準にして5~50重量部の量で含まれ、
前記第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との重量比が、50:50~85:15であり、
前記第1バインダー高分子が10,000~1,500,000の範囲の重量平均分子量を有し、
前記第2バインダー高分子が10,000~1,500,000の範囲の重量平均分子量を有し、
前記第1バインダー高分子であるポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンが、ビニリデン由来の反復単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位を含み、前記ヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位を全体反復単位(ビニリデン由来の反復単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位)の個数を基準で15%以下有し、
前記第2バインダー高分子であるポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレンが、ビニリデン由来の反復単位及びテトラフルオロエチレン由来の反復単位を含み、前記テトラフルオロエチレン由来の反復単位を全体反復単位(ビニリデン由来の反復単位及びテトラフルオロエチレン由来の反復単位)の個数を基準で24%以下有することを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
前記第1バインダー高分子が130~135℃の融点を有し、前記第2バインダー高分子が135~140℃の融点を有することを特徴とする、請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
前記第1バインダー高分子が50~70cpの粘度を有し、
前記第2バインダー高分子が600~800cpの粘度を有し、
前記粘度が、第1バインダー高分子または第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部、及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部を常温で混合するスラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値であることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
前記多孔性コーティング層の表面には、無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数個のノードと、前記ノードのバインダー高分子から糸のような形状に形成されて出た一つ以上のフィラメントと、を含み、前記フィラメントは、前記ノードから延びて他のノードを連結するノード連結部を備えることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
前記多孔性コーティング層の内部には、前記無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数のノードが相互密接に接触した状態でインタースティシャルボリュームを形成し、前記インタースティシャルボリュームが空き空間になって形成された気孔は、全て前記無機物粒子の直径よりも小さい大きさを有することを特徴とする、請求項4に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項6】
(S1)溶媒、無機物粒子及びバインダー高分子を含み、前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含む多孔性コーティング層用スラリーを準備する段階と、
(S2)前記多孔性コーティング層用スラリーを多孔性基材の少なくとも一表面に塗布する段階と、
(S3)前記(S2)段階の結果物を、非溶媒を含む凝固液に浸漬する段階と、を含み、
前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンであり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレンであり、
前記第1バインダー高分子が45~70cpの粘度を有し、
前記第2バインダー高分子が600~800cpの粘度を有し、
前記粘度が、第1バインダー高分子または第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部、及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部を常温で混合するスラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値であり、
前記第1バインダー高分子が、無機物粒子100重量部を基準にして5~50重量部の量で含まれ、
前記第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との重量比が、50:50~85:15であり、
前記第1バインダー高分子が10,000~1,500,000の範囲の重量平均分子量を有し、
前記第2バインダー高分子が10,000~1,500,000の範囲の重量平均分子量を有し、
前記第1バインダー高分子であるポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンが、ビニリデン由来の反復単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位を含み、前記ヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位を全体反復単位(ビニリデン由来の反復単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位)の個数を基準で15%以下有し、
前記第2バインダー高分子であるポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレンが、ビニリデン由来の反復単位及びテトラフルオロエチレン由来の反復単位を含み、前記テトラフルオロエチレン由来の反復単位を全体反復単位(ビニリデン由来の反復単位及びテトラフルオロエチレン由来の反復単位)の個数を基準で24%以下有することを特徴とする、電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記第1バインダー高分子が130~135℃の融点を有し、前記第2バインダー高分子が135~140℃の融点を有することを特徴とする、請求項6に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記多孔性コーティング層用スラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値が100~400cpであることを特徴とする、請求項6に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記第1バインダー高分子が50~70cpの粘度を有し、
前記第2バインダー高分子が600~800cpの粘度を有し、
前記粘度が、第1バインダー高分子または第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部、及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部を常温で混合するスラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値であることを特徴とする、請求項6に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項10】
正極、負極及び正極と負極との間に挟まれたセパレータを含む電気化学素子であって、
前記セパレータが、請求項1から5のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータである、電気化学素子。
【請求項11】
前記電気化学素子が二次電池であることを特徴とする、請求項10に記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極接着力が改善された電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法に関し、より詳しくは、電極への接着力と多孔性基材への接着力が改善し、電気化学素子用に要求される抵抗及び通気度を共に満たす電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2018年9月12日出願の韓国特許出願第10-2018-0109238号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
最近、電気化学素子分野においては、その安全性の確保が大きく注目されている。特に、リチウム二次電池のような二次電池は、正極、負極及びセパレータを備えた電極組立体を有し、このような電極組立体は、正極と負極との間にセパレータが挟まれた構造で製作され得る。
【0004】
リチウム二次電池に使用されるセパレータは、多孔性の織布または不織布の形態であるか、または、フィルムまたは膜の形態の場合、乾式法または湿式法によって気孔を形成した多孔性セパレータである。しかし、これらの多孔性セパレータは、電極との結合のためにバインダーを使用するが、このようなバインダーは、多孔性高分子基材の表面にコーティングされてしまうだけでなく、前記多孔性高分子基材の気孔内にも浸透してセパレータのイオン通路としての機能を損なうという問題点がある。
【0005】
このうち、積層型または積層/折畳み型リチウム二次電池は、製造が容易であり、空間を効率的に活用できる構造を有し、電極活物質の含量を極大化することができることから、高い集積度の電池を具現することができる。
【0006】
特に、積層/折畳み構造においてセパレータと電極とを接合する目的でバインダーを用いており、このためにTが140℃以下であるバインダーが好まれている。セパレータのコーティング時において相分離によって塗布されたバインダーに気孔を形成する方式を活用しているが、相分離キネティクスが速すぎると、多くのバインダーがコーティング層の表面で大きい気孔を形成するという問題があり、原反とコーティング層との接着力が不足となり、相分離キネティクスが遅すぎると、多くのバインダーがコーティング層の底面で小さい気孔や気孔構造なく形成されるという問題があり、電極との接着層が形成されなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、詳しくは、電極への接着力と多孔性基材への接着力が改善し、電気化学素子用に要求される抵抗及び通気度を共に満たす電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記電極接着力が改善したセパレータを備えるリチウム二次電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、下記の具現例の電気化学素子用セパレータが提供される。
【0010】
第1具現例によれば、
多数の気孔を有する多孔性基材と、
前記多孔性基材の少なくとも一面に位置し、多数の無機物粒子と、前記無機物粒子の表面の一部または全部に位置し、前記無機物粒子同士を連結及び固定するバインダー高分子と、を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含み、
前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(poly(vinylidene fluoride-hexafluoropropylene);PVdF-HFP)であり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン(poly(vinylidenefluoride-tetrafluoroethylene);PVdF-TFE)であり、
前記第1バインダー高分子が80~165%の電解液含浸率(uptake)を有し、
前記第2バインダー高分子が20~40%の電解液含浸率を有する、電気化学素子用セパレータが提供される。
【0011】
第2具現例によれば、第1具現例において、
前記第1バインダー高分子が130~135℃の融点を有し、前記第2バインダー高分子が135~140℃の融点を有し得る。
【0012】
第3具現例によれば、第1具現例または第2具現例において、
前記第1バインダー高分子が50~70cpの粘度を有し、
前記第2バインダー高分子が600~800cpの粘度を有し、
前記粘度が、第1バインダー高分子または第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部からなるスラリーのせん断速度(shear rate)100/sで測定された粘度値であり得る。
【0013】
第4具現例によれば、第1具現例から第3具現例のうちいずれか一具現例において、
前記第1バインダー高分子が90~130%の電解液含浸率(uptake)を有し、
前記第2バインダー高分子が25~35%の電解液含浸率を有し得る。
【0014】
第5具現例によれば、第1具現例から第4具現例のうちいずれか一具現例において、
前記第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との重量比が、50:50~85:15であり得る。
【0015】
第6具現例によれば、第1具現例から第5具現例のうちいずれか一具現例において、
前記多孔性コーティング層の表面には、無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数個のノード(node)と、前記ノードのバインダー高分子から糸(thread)のような形状に形成されて出た一つ以上のフィラメントと、を含み、前記フィラメントは、前記ノードから延びて他のノードを連結するノード連結部を備え得る。
【0016】
第7具現例によれば、第1具現例から第6具現例のうちいずれか一具現例において、
前記多孔性コーティング層の内部には、前記無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数のノードが相互密接に接触した状態でインタースティシャルボリューム(interstitial volume)を形成し、前記インタースティシャルボリュームが空き空間になって形成された気孔は、全て前記無機物粒子の直径よりも小さい大きさを有し得る。
【0017】
本発明の一面によれば、下記の具現例の電気化学素子用セパレータの製造方法が提供される。
【0018】
第8具現例によれば、
(S1)溶媒、無機物粒子及びバインダー高分子を含み、前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含む多孔性コーティング層用スラリーを準備する段階と、
(S2)前記多孔性コーティング層用スラリーを多孔性基材の少なくとも一表面に塗布する段階と、
(S3)前記(S2)段階の結果物を、非溶媒を含む凝固液に浸漬する段階と、を含み、
前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(poly(vinylidene fluoride-hexafluoropropylene);PVdF-HFP)であり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン(poly(vinylidenefluoride-tetrafluoroethylene);PVdF-TFE)であり、
前記第1バインダー高分子が80~165%の電解液含浸率を有し、
前記第2バインダー高分子が20~40%の電解液含浸率を有し、
前記多孔性コーティング層用スラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値が100~400cpである、電気化学素子用セパレータの製造方法が提供される。
【0019】
第9具現例によれば、第8具現例において、
前記第1バインダー高分子が130~135℃の融点を有し、前記第2バインダー高分子が135~140℃の融点を有し得る。
【0020】
第10具現例によれば、第8具現例または第9具現例において、
前記第1バインダー高分子が50~70cpの粘度を有し、
前記第2バインダー高分子が600~800cpの粘度を有し、
前記粘度が、第1バインダー高分子または第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部、及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部からなるスラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値であり得る。
【0021】
第11具現例によれば、第8具現例から第10具現例のうちいずれか一具現例において、
前記第1バインダー高分子が90~130%の電解液含浸率を有し、
前記第2バインダー高分子が25~35%の電解液含浸率を有し得る。
【0022】
第12具現例によれば、第8具現例から第11具現例のうちいずれか一具現例において、
前記第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子の重量比が50:50~85:15であり得る。
【0023】
本発明の一面によれば、下記の具現例の電気化学素子が提供される。
【0024】
第13具現例によれば、
正極、負極及び正極と負極との間に挟まれたセパレータを含む電気化学素子であって、
前記セパレータが、第1具現例から第7具現例のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータである、電気化学素子が提供される。
【0025】
第14具現例によれば、第13具現例において、
前記電気化学素子が二次電池であり得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一具現例によれば、電解液含浸率が各々相異なる特定範囲の値を有する二種のバインダー高分子として、ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)及びポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン(PVdF-TFE)の組合せを多孔性コーティング層に用いることで、各バインダー高分子の長所を全て備えてシナジー効果を発揮するようになり、電極への接着力及び多孔性基材への接着力が改善し、電気化学素子用に要求される低い抵抗と優れた通気度特性とを共に満たす電気化学素子用セパレータ及びこの製造方法を提供することができる。
【0027】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例1のセパレータの断面を観察した電子顕微鏡写真である。
図2】比較例1のセパレータの断面を観察した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0030】
本発明の一面によるセパレータは、多数の気孔を有する多孔性基材と、
前記多孔性基材の少なくとも一面に位置し、多数の無機物粒子と、前記無機物粒子の表面の一部または全部に位置し、前記無機物粒子同士を連結及び固定するバインダー高分子と、を含む多孔性コーティング層と、を備え、
前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含み、
前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(poly(vinylidene fluoride-hexafluoropropylene);PVdF-HFP)であり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン(poly(vinylidenefluoride-tetrafluoroethylene);PVdF-TFE)であり、
前記第1バインダー高分子が80~165%の電解液含浸率(uptake)を有し、
前記第2バインダー高分子が20~40%の電解液含浸率を有する。
【0031】
本発明のセパレータに使われる多孔性高分子基材においては、多様な高分子で形成された多孔性膜や不織布など、通常的に電気化学素子に使われる平面状の多孔性高分子基材であれば、全て使用可能である。例えば、電気化学素子、特に、リチウム二次電池のセパレータに使用されるポリオレフィン系多孔性膜や、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布などを用いることができ、その材質や形態は、目的によって多様に選択することができる。例えば、ポリオレフィン系多孔性膜(membrane)は、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;及びポリペンテン;からなる群より選択されたポリオレフィン系高分子一種または二種以上を混合した高分子から形成でき、不織布もポリオレフィン系高分子またはこれよりも耐熱性の高い高分子を用いた繊維で製造され得る。
【0032】
前記多孔性高分子基材は、1μm~30μmの範囲の厚さを有し得る。例えば、前記多孔性高分子基材は、1μm~20μmまたは5μm~20μmの範囲の厚さを有し得る。前記多孔性高分子基材の厚さが1μm未満であれば、機械的物性を維持しにくいことがあり、前記多孔性高分子基材の厚さが30μmを超過すれば、電池抵抗が増加し得る。
【0033】
前記多孔性高分子基材の気孔度は、30%~75%範囲であり得る。例えば、前記多孔性高分子基材の気孔度は、35%~65%範囲であり得る。前記気孔度がこのような範囲を満たすと、電池抵抗の増加を防止し、多孔性高分子基材の機械的物性を維持することができる。
【0034】
前記多孔性高分子基材の気孔サイズは、0.01μm~5.0μmの範囲であり得る。例えば、前記多孔性高分子基材の気孔サイズは、0.1μm~1.0μm範囲であり得る。前記気孔サイズがこのような範囲を満たすと、閉塞した気孔構造による電池抵抗の増加を防止することができ、通常のリチウム二次電池における自己放電特性を維持することができる。
【0035】
ポリビニリデンフルオライド(PVDF)ホモポリマーは、コモノマー由来の反復単位を持たずビニリデン由来の反復単位である-CH-CF-基が反復する形態を有しており、規則的な結合構造を備えて比較的高い結晶性を有しているため、有機溶媒に対して低い溶解性及び低い電解液含浸率といった短所を有している。
【0036】
このような問題点を補うための方法の一つが、共単量体を用いた共重合である。
【0037】
PVDFホモポリマーに他のコモノマー由来の反復単位を導入して得られたPVDFコポリマーは、PVDFホモポリマーに比べて結合構造が不規則な部分が発生して結晶性が低くなり、その結果、電解液含浸率が相対的に増加し得る。
【0038】
具体的に、PVDFホモポリマーに導入するコモノマー由来の反復単位の構造、含量、作用基の特性によって、PVDFコポリマーの電解液含浸率に影響を与え得る。
【0039】
本発明においては、前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2高分子バインダーが含まれた混合物からなり、ここで、前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(poly(vinylidene fluoride-hexafluoropropylene);PVdF-HFP)であり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン(poly(vinylidenefluoride-tetrafluoroethylene);PVdF-TFE)である。
【0040】
PVDF-HFP及びPVDF-TFEは両方ともPVDFホモポリマーにHFP及びTFE由来の反復単位を各々含ませた構造であり、HFPは、TFEよりも炭素数が一つ多いことから-CF基が枝の役割を果たし、PVDF-HFPの結晶化度はPVDF-TFEより小さい値を有するようになる。
【0041】
しかし、電解液含浸率がPVDFホモポリマーに比べて単に高い二種のバインダー高分子を多孔性コーティング層に共に使用するか、またはPVDF-HFPとPVDF-TFEとを共に使用するとしても、期待するセパレータの特性が全て改善されることではない。
【0042】
本発明の第1バインダー高分子が80~165%の電解液含浸率(uptake)を有するPVDF-HFPであり、前記第2バインダー高分子が20~40%の電解液含浸率を有するPVDF-TFEである場合のみが、セパレータの抵抗特性、通気度特性、原反接着力、電極接着力、密集したコーティング層構造などの全ての面で卓越した特性を発揮できる。以下、詳しく説明する。
【0043】
前記第1バインダー高分子であるPVDF-HFPは、80~165%の電解液含浸率を有し、本発明の一具現例によれば、90~130%、または100~120%、または105~120%、または105~115%の電解液含浸率を有し得る。このような範囲を満たす場合にバインダーの内部へ電解液が移動可能となり、バインダーと電解液との親和度を改善して電池特性を向上させることができる。
【0044】
また、前記第2バインダー高分子は、20~40%の電解液含浸率を有し、本発明の一具現例によれば、25~35%、または28~35%、または28~33%の電解液含浸率を有し得る。このような範囲を満たす場合、電解液が吸収されないためバインダー高分子の膨潤が小さいので、バインダー高分子によって多孔性高分子基材の気孔が閉塞することが防止され、気孔構造を維持することができ、その結果、抵抗が低くなって電池出力が改善される。
【0045】
本発明の一具現例によれば、バインダー高分子として電解液含浸率が各々相異なる特定の範囲の値を有する二種のバインダー高分子、即ち、80~165%の電解液含浸率を有する第1バインダー高分子であるPVdF-HFPと、20~40%の電解液含浸率を有する第2バインダー高分子であるPVDF-TFEとを共に使用することで、前述した各バインダー高分子の長所を全て備えてシナジー効果を発揮するようになり、電極への接着力及び多孔性基材への接着力が改善され、電気化学素子用に要求される低い抵抗、優れた通気度特性及び密集したコーティング層構造を全て満たす電気化学素子用セパレータを提供することができる。
【0046】
また、前記第1バインダー高分子であるPVDF-HFPは、高分子鎖に-CFの枝構造を有していることから、コモノマー由来の反復単位そのものを含まないPVDFホモポリマーは勿論、このような枝構造を有さない第2バインダー高分子であるPVDF-TFEに比べて結晶化度が相対的に小さいため、電解液の含浸のみならず非溶媒(例えば、水など)の高分子鎖内部への浸入が非常に容易である。したがって、前記第1バインダー高分子であるPVDF-HFPは、溶液状態で非溶媒と接すると、非常に速い相分離速度を示し得る。その結果、第1バインダー高分子であるPVDF-HFP及び第2バインダー高分子であるPVDF-TFEを溶媒に溶解して無機物粒子を分散させて準備した多孔性コーティング層形成用スラリーを、多孔性高分子基材にコーティングした後、これを非溶媒に浸漬すると、スラリーに含まれた第1バインダー高分子であるPVDF-HFPは、PVDF-TFEに比べてさらに速く非溶媒が接しているコーティング層の表面へ移動し、最終的に多孔性コーティング層の表面部にPVDF-TFEよりも豊かに(最初の投入時におけるPVDF-HFP及びPVDF-TFEの重量比よりもPVDF-HFPの含量が多く)位置できる。これに対し、第2バインダー高分子であるPVDF-TFEは、PVDF-HFPに比べて枝構造が少ないため、PVDF-TFEの高分子鎖内への電解液の浸透は勿論、非溶媒の浸透もより遅く進み、相分離速度も相対的に遅くなる。したがって、最終的に多孔性コーティング層の内部、即ち、多孔性高分子基材と無機物粒子との間にPVDF-TFEがより豊かに(最初の投入時におけるPVDF-HFP及びPVDF-TFEの重量比よりもPVDF-TFEの含量が多く)存在できる。
【0047】
バインダー高分子として第1バインダー高分子であるPVDF-HFPのみを単独で使用する場合には、相分離速度が速すぎて多孔性コーティング層の表面部に主にバインダー高分子が存在するようになり、多孔性コーティング層と多孔性高分子基材との接着力が大幅に低下する恐れがあり、逆に、バインダー高分子として第2バインダー高分子であるPVDF-TFEのみを単独で使用する場合には、相分離速度が遅すぎて多孔性コーティング層の内部に主にバインダー高分子が位置するようになり、多孔性高分子基材と無機物粒子との接着力を改善することはできるが、電極との接着力が大幅に低下する問題が発生し得る。
【0048】
本発明においては、バインダー高分子として第1バインダー高分子であるPVDF-HFPと第2バインダー高分子であるPVDF-TFEとを共に含むことで、PVDF-TFEは原反接着力、即ち、多孔性高分子基材と多孔性コーティング層との接着力を改善するのに寄与でき、PVDF-HFPは、多孔性コーティング層の表面部における電極との接着力を改善するのに寄与することにより、原反接着力と電極接着力とが共に優秀なセパレータを提供することができる。
【0049】
また、本発明の第2バインダー高分子であるPVDF-TFEは、電解液が吸収されないことからバインダー高分子の膨潤が少ないため、バインダー高分子によって多孔性高分子基材の気孔が閉塞することが防止され、多孔性コーティング層の内部で気孔構造を維持して通気度特性を改善することができる。このように多孔性コーティング層の内部に維持された気孔構造の上に、即ち、多孔性コーティング層の表面においては、含浸率が第2バインダー高分子よりも優秀な第1バインダー高分子であるPVDF-HFPが多く分布して電解液を充分吸収してバインダー高分子の内部とセパレータの多孔性高分子基材の方向へリチウムイオンを伝達する電解液の移動を円滑にして、電池特性を改善し、抵抗を低め、さらに電極との接着性を向上させることができる。このように本発明において第1バインダー高分子として80~165%の電解液含浸率を有するPVDF-HFPと、第2バインダー高分子として20~40%の電解液含浸率を有するPVDF-TFEと、を共に使用することによって発揮されるシナジー効果は、後述する表1から確認することができる。
【0050】
この際、PVDF-HFP及びPVDF-TFEの電解液含浸率は、HFP由来の反復単位及びTFE由来の反復単位の含量と、PVDF-HFP及びPVDF-TFEの重量平均分子量などを適切に制御することで調節することができる。
【0051】
前記バインダー高分子(具体的には、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子)の電解液含浸率(electrolyte uptake)は、次のような方法で測定可能である。
【0052】
先ず、バインダー高分子を用いて相分離方法でフィルムを製造した後、円形のフィルム(直径:1.8cm、面積:2.54cm、厚さ:16μm(偏差-0.5~+0.5μm))に切断した後、重さを測定した。具体的には、前記フィルムは、各々のバインダー高分子が溶解された溶液を非溶媒を用いて浸漬相分離して製造した。その後、1.0モルのリチウム塩(LiPF)が解けている電解質混合(EC/DEC=1/1またはEC/PC=1/1体積比)溶液に円形のバインダー高分子フィルムを入れて24時間後に取り出した後、バインダー高分子フィルムを垂直に立てて1分間放置してフィルムの表面についた液滴を除去した。このようにして得られた電解質混合溶液が含浸されたフィルムの重さを測定した。全ての実験は、アルゴンガスが満たされたグローブボックス(glove box)中で水分が1.0ppm未満である条件で行った。電解液含浸率(%)は、含浸後フィルムの重さから含浸前フィルムの重さを引いた値を含浸前フィルムの重さで割った後、100を掛けて計算した。
【0053】
本発明の一具現例によれば、前記第1バインダー高分子は50~70cpの粘度を有し得、詳しくは55~70cp、より詳しくは55~65cpの粘度を有し得る。このような範囲を満たす場合、非溶媒の拡散を速くして相分離速度を速くするという面で有利である。
【0054】
本発明の一具現例によれば、前記第1バインダー高分子は130~135℃、または130~133℃、または130~132℃の融点を有し得る。このような範囲を満たす場合、セパレータの安定性、特に、熱安定性を改善することができる。
【0055】
一方、前記第2バインダーは600~800cpの粘度を有し得、詳しくは600~750cp、より詳しくは650~750cpの粘度を有し得る。このような範囲を満たす場合、相分離速度を遅くして均一な気孔を形成する面で有利である。通常、粘度は立体障害(steric hindrance)の役割を果たし、セパレータのクエンチング(quenching)速度(凝固してフィルムを形成する速度)に影響を及ぼし得る。
【0056】
本発明の一具現例によれば、前記第2バインダー高分子は135~140℃、または135~138℃、または135~137℃の融点を有し得る。このような範囲を満たす場合、セパレータの安定性、特に、熱安定性を改善することができる。
【0057】
この際、前記第1バインダー高分子の粘度は、第1バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部で混合した後、ペイントシェーカー(paint shaker)を用いて常温で約90分以上混合してスラリーを製造し、このように製造されたスラリーをせん断速度100/sで測定した粘度値を意味する。また、前記第2バインダー高分子の粘度は、第2バインダー高分子35重量部、平均粒径(D50)500nmのAl 65重量部及びN-メチルピロリドン(NMP)400重量部で混合した後、ペイントシェーカーを用いて常温で約90分以上混合してスラリーを製造し、このように製造されたスラリーをせん断速度100/sで測定した粘度値を意味する。この際、ペイントシェーカーは、ツインアームペイントシェーカー(Twin-arm paint shaker)のMulti-dimensional mixing motionで、高粘度スラリー混合及び分散性の向上に有利である。このように、前記第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子の粘度測定時、無機物粒子である平均粒径(D50)500nmのAlを含むスラリーを用いる理由は、このような第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子は、追ってセパレータの多孔性コーティング層用スラリーを製造するために使われることから、無機物粒子を含むスラリー状態におけるバインダー高分子の粘度を予め把握し、スラリーコーティング等に適しているか否かなどを判断する基準にするためである。
【0058】
前記バインダー高分子(具体的に、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子)の融点Tは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter,DSC)装置を用いて-60~200℃でスキャンして測定した。
【0059】
本発明の一具現例によれば、前記第1バインダー高分子であるPVdF-HFPは、ビニリデン由来の反復単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位を含み、前記ヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位を全体反復単位(ビニリデン由来の反復単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の反復単位)の個数を基準で15%以下、詳しくは10~15%の置換率を有し得る。
【0060】
また、前記第2バインダー高分子であるPVdF-TFEは、ビニリデン由来の反復単位及びテトラフルオロエチレン由来の反復単位を含み、前記テトラフルオロエチレン由来の反復単位を全体反復単位(ビニリデン由来の反復単位及びテトラフルオロエチレン由来の反復単位)の個数を基準で、24%以下、詳しくは20~24%の置換率を有し得る。
【0061】
この際、置換率とは、高分子の全体反復単位の個数に対する特定のコモノマーから由来した反復単位個数の分率(%)を意味する。
【0062】
前記第1バインダー高分子は、10,000~1,500,000範囲の重量平均分子量Mを有し得る。例えば、前記バインダー高分子は10,000~600,000範囲または100,000~600,000範囲の重量平均分子量Mを有し得る。前記第1バインダー高分子の重量平均分子量が大きすぎると、溶媒に対する溶解度が低く、バインダー溶液の粘度が余りに高くなってコーティング(塗布)が困難になり、前記第1バインダー高分子の重量平均分子量が小さすぎると、均一なコーティング層が得られにくい。
【0063】
第1バインダー高分子は、無機物粒子100重量部を基準で5~50重量部または10~35重量部の量で含まれ得る。第1バインダーが前記範囲で使われる場合、多孔性高分子基材と多孔性コーティング層との接着力及び多孔性コーティング層と電極との接着力が共に適切な水準で提供される。
【0064】
前記第2バインダー高分子は、10,000~1,500,000範囲の重量平均分子量Mを有し得る。例えば、前記第2バインダー高分子は10,000~600,000範囲、または100,000~600,000範囲の重量平均分子量Mを有し得る。前記第2バインダー高分子の重量平均分子量が大きすぎると、溶媒に対する溶解度が低く、バインダー溶液の粘度が余りに高くなってコーティング(塗布)が困難になり、前記第2バインダー高分子の重量平均分子量が小さすぎると、均一なコーティング層が得られにくい。
【0065】
第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との重量比は、50:50~85:15、または50:50~80:20、または50:50~75:25であり得る。前記重量比がこのような範囲を満たす場合、コーティング時、塗布するのに適切な粘度を具現することができ、相分離速度が速すぎるか、または遅すぎる問題を防止することで相分離を容易に制御することができ、その結果、抵抗が低く、通気度特性が優秀であり、コーティング層の充填密度が高くて電極との接着力が改善した多孔性コーティング層の構造及び気孔を形成することができる。
【0066】
本発明の一具現例において、前記無機物粒子は、電気化学的に安定さえすれば、特に制限されない。即ち、本発明において使用可能な無機物粒子は、適用される電池の作動電圧範囲(例えば、Li/Liを基準で0~5V)で酸化及び/または還元反応が起こらないものであれば、特に制限されない。非制限的な例で、前記無機物粒子は、0.001~3μm範囲の平均粒径または0.001~2μm範囲の平均粒径を有し得る。前記無機物粒子の平均粒径がこのような範囲を満たす場合、分散性が改善し、過度なコーティング層の増加を防止することができる。この際、前記無機物粒子の平均粒径は、通常の粒度分布計によって分給後の粒子の粒度分布を測定し、その測定結果に基づいて算出される小さい粒径側からの積算値50%の粒度(D50)を意味する。
【0067】
前記無機物粒子の非制限的な例としては、Al、AlOOH、Al(OH)、AlN、BN、MgO、Mg(OH)、SiO、ZnO、TiO、BaTiOまたはこれらの二つ以上の混合物などが挙げられる。
【0068】
前記多孔性コーティング層で無機物粒子の含量は、多孔性コーティング層100重量%を基準で50重量%~80重量%範囲であり得る。
【0069】
本発明の一具現例によれば、前記多孔性コーティング層は、無機物粒子と、前記無機物粒子同士が相互結着した状態を維持するようにこれらを相互付着(即ち、バインダーが無機物粒子同士を連結及び固定)するバインダー高分子と、を含み、前記バインダーによって無機物粒子と多孔性高分子基材とが結着した状態を維持することができる。この際、前記多孔性コーティング層は、表面と内部とが相異なる気孔構造を有することを特徴とする。
【0070】
前記多孔性コーティング層の表面には、無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数個のノード(node)と、前記ノードのバインダー高分子から糸(thread)のような形状に形成されて出た一つ以上のフィラメントと、を含み、前記フィラメントは、前記ノードから延びて他のノードを連結するノード連結部を備え得る。
【0071】
前記コーティング層の表面におけるノード連結部分は、前記バインダー高分子から由来した複数のフィラメントが相互交差して不織布類似構造の三次元の網状構造体からなり得る。前記網状構造体内で、無機物粒子は、前記バインダー高分子のフィラメントに無機物粒子の少なくとも一部が埋め込められており、フィラメントを介して粒子同士が相互所定の間隔を隔てて分布し得る。前記ノード連結部分における無機物粒子は、高い気孔度の確保面で少なくとも無機物粒子の平均直径範囲以上に離隔していることが望ましい。本発明の一具現例において、前記フィラメントの直径は前記ノードの直径よりも小さいことが望ましい。
【0072】
本発明の一具現例において、前記多孔性コーティング層の内部では、前記無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数のノードが実質的に相互接触した状態でインタースティシャルボリューム(interstitial volume)を形成することができ、この際、インタースティシャルボリュームは、ノードによる充填構造(closed packed or densely packed)において実質的に接触するノードによって限定される空間を意味する。前記ノードの間のインタースティシャルボリュームは空き空間になって前記ノードで気孔を形成する。前記多孔性コーティング層の内部の気孔は、全て前記無機物粒子の直径よりも小さい大きさを有し得る。
【0073】
本発明の一具現例による多孔性コーティング層の気孔は、バインダー高分子の非溶媒拡散によって形成される指状(finger like)構造や、バインダー高分子からなる部分において、その一部が開裂して形成されるベナールセルのような気孔構造とは異なる、特有の気孔構造を有し得る。
【0074】
本発明の一具現例において、前記多孔性コーティング層の平均気孔サイズは、10nm~400nm、または20nm~100nmであり得る。前記気孔サイズは、SEMイメージによる形状分析から算出でき、バインダー糸(thread)が交差してなる閉曲線を気孔の形状にして気孔の大きさを算出することができる。本発明の一具現例おいて、前記多孔性コーティング層の気孔サイズは、キャピラリーフローポロメトリー(Capillary flow porometry)方法によって測定することができる。キャピラリーフローポロメトリー方法とは、厚さ方向における最小気孔の直径を測定する方式である。したがって、キャピラリーフローポロメトリー方法によって多孔性コーティング層のみの気孔サイズを測定するためには、多孔性コーティング層を多孔性基材から分離し、分離した多孔性コーティング層を支持できる不織布で囲んだ状態で測定すべきであり、ここで、前記不織布の気孔サイズはコーティング層の気孔サイズに比べて遥かに大きくすべきである。本発明の一具現例において、前記多孔性コーティング層の気孔度は、50%~85%であることが望ましい。気孔度が85%以下であれば、電極と接着させるプレス工程に耐えられる力学特性を確保することができ、また、表面開口率が過度に高くならず、接着力を確保するのに適している。一方、前記気孔度が50%以上であれば、ほとんどの多孔性基材の気孔度よりも高くてイオン透過性の観点で有利である。
【0075】
一方、本発明の一具現例において、気孔度は、窒素などの吸着気体を用いてBEL JAPAN社のBELSORP(BET装備)を用いて測定するか、または水銀圧入法(Mercury intrusion porosimetry)、キャピラリーフローポロメトリー法のような方法で測定することができる。または、本発明の一具現例において、得られた電極(電極活物質層)の密度(見掛け密度)、電極(電極活物質層)に含まれた材料の組成比及び各成分の密度から電極活物質の真密度を計算し、見掛け密度(apparent density)と真密度(true density)との差から電極活物質層の気孔度を計算することができる。
【0076】
前記多孔性コーティング層の厚さは、多孔性基材の片面で0.5μm~5μmであることが望ましい。前記厚さは0.5μm以上、望ましくは1μm以上にすることができ、前記数値範囲内で電極との接着力に優秀になり、その結果、電池のセル強度が増加する。これに対し、前記厚さが5μm以下であれば、電池のサイクル特性及び抵抗特性面で有利である。この観点では、前記厚さは4μm以下が望ましく、3μm以下がさらに望ましい。
【0077】
本発明の一具現例による電気化学素子用セパレータは、
(S1)溶媒、無機物粒子及びバインダー高分子を含み、前記バインダー高分子が、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含む多孔性コーティング層用スラリーを準備する段階と、
(S2)前記多孔性コーティング層用スラリーを多孔性基材の少なくとも一表面に塗布する段階と、
(S3)前記(S2)段階の結果物を、非溶媒を含む凝固液に浸漬する段階と、を含み、
前記第1バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)であり、前記第2バインダー高分子がポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン(PVdF-TFE)であり、
前記第1バインダー高分子が100~120%の電解液含浸率を有し、
前記第2バインダー高分子が25~35%の電解液含浸率を有し、
前記多孔性コーティング層用スラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値が、100~400cpである、電気化学素子用セパレータの製造方法に製造され得る。
【0078】
このような方法を詳しく説明すれば、次のようである。
【0079】
先ず、溶媒、無機物粒子及びバインダー高分子を混合して多孔性コーティング層用スラリーを準備し、前記バインダー高分子が第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含む。
【0080】
その後、多数の気孔を有する平面状の多孔性高分子基材を準備する。本発明で使用可能な多孔性高分子基材については、前記内容を参照する。
【0081】
前記多孔性高分子基材の少なくとも一表面上に、前記多孔性コーティング層の形成のためのスラリーを塗布する。前記スラリーの塗布は、メイヤーバーコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなどの本発明の技術分野における通常の塗工方式を適用することができる。前記多孔性コーティング層を多孔性基材の両面に形成する場合、塗工液を片面ずつ塗工してから、凝固、水洗及び乾燥することも可能であるが、塗工液を多孔性基材の両面に同時に塗工してから、凝固、水洗及び乾燥した方が、生産性の観点で望ましい。
【0082】
前記無機物粒子及びバインダー高分子については、前述の内容を参照する。
【0083】
前記多孔性コーティング層の形成のためのスラリーの溶媒としては、使用しようとするバインダー高分子と溶解度指数が類似であり、沸点が低いことが望ましい。これは、均一な混合と以後の溶媒除去を容易にするためである。
【0084】
前記溶媒は、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を合わせた100重量部を基準で300~2,000重量部または500~1,500重量部の量で使われ得る。その後、30センチポアズ(centipoise:cp)~500センチポアズ範囲の粘度を有するバインダー溶液を得ることができる。
【0085】
使用可能な溶媒の非制限的な例には、アセトン、メチルエチルケトン、テトラハイドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びシクロヘキサンからなる群より選択された一種または二種以上の混合物が挙げられる。
【0086】
前記多孔性コーティング層用スラリーのせん断速度100/sで測定された粘度値は100~400cpであり、本発明の一具現例によれば、100~300cp、または100~290cpであり得る。前記多孔性コーティング層用スラリーの粘度値がこのような範囲を満たす場合、多孔性基材へのコーティングが均一に行われ、抵抗及び通気度が一定の値を有する、安定性が改善したセパレータを提供することができる。
【0087】
その後、前段階の結果物を、非溶媒を含む凝固液に浸漬する段階を経る。
【0088】
前記非溶媒(non-solvent)とは、バインダー高分子を溶解させない溶媒を意味し、相分離を容易にするために使われた溶媒及び混和性のある液体であれば、特に制限されない。
【0089】
使用可能な非溶媒の非制限的な例として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはこれらの二種以上の混合物を含み得る。
【0090】
また、前記非溶媒を含む凝固液に浸漬する段階において相分離挙動が急激すぎる場合、溶媒を一部混合して相分離速度を調節し得る。この際、導入される溶媒の量は、非溶媒全体体積に対する体積比で30%以下であることが望ましい。
【0091】
前記非溶媒は、多孔性コーティング層の形成のためのスラリー内のバインダー高分子の相分離を促進するため、バインダー高分子が多孔性コーティング層の表面部により多く存在するようにする。これによって、後述する乾燥処理後のセパレータの電極に対する結着性が増大するため、ラミネーションが容易になる。
【0092】
本発明の一具現例において、前記凝固液は、二つ以上の複数の凝固液を準備し、スラリーが塗布されたセパレータを各々の凝固液に順次に所定時間浸漬する方式で行われ得る。この際、複数の凝固液は、非溶媒の濃度が前段階に比べて順次に高くなるように準備され得、少なくとも二次以後の凝固液中の非溶媒の濃度は、最初の凝固液中の非溶媒の濃度よりも高くてもよい。例えば、最初の凝固液の場合には、非溶媒の濃度が95wt%であり、以後段階における非溶媒の濃度は95%を超過するように調節され得る。
【0093】
前記非溶媒が過量である凝固液に浸漬され、無機物コーティング層内の溶媒と凝固液とが交換されながらコーティング層内における非溶媒の割合が次第に高くなるため、複数の凝固液を準備して固化を複数の段階にわたって行う場合、凝固液中の非溶媒の割合を順次に高めることが望ましい。一方、最初の凝固液における非溶媒の割合が100%である場合には、一回目以後の凝固液は非溶媒のみからなる。
【0094】
本発明の一具現例において、前記凝固液の温度は5℃以上20℃未満に維持され得る。これよりも低い温度では非溶媒の凝結が起こってしまい、望ましくなく、これよりも高い温度では相分離が急激に起こってしまい、コーティング層の構造が密になれず、本発明が意図するノード及びフィラメントからなる無機物コーティング層が形成されず、一部領域でバインダーが過度に密集した構造を有するようになり、抵抗特性及び接着力の具現に望ましくない。一方、前述したように、複数の凝固液を準備し、固化を複数の段階にわたって行う場合には、最初の凝固液の温度を5℃以上20℃未満に設定し、二回目以後の凝固液の温度は、乾燥段階前まで順次に高くすることができ、少なくとも一回目よりも高い温度で準備され得る。但し、二回目以後にも凝固液の温度は、40℃以下に制御することが望ましい。前記温度よりも高い温度では、非溶媒の蒸発が起こってしまって望ましくなく、これよりも低い温度範囲で乾燥炉に導入するとき、熱衝撃が発生して原反の幅が変化する恐れがある。
【0095】
一方、本発明の一具現例において、前記浸漬は、30~100秒間、または40~90秒間に制御され得る。浸漬時間がこのような範囲を満たす場合、相分離が過度に起こってしまい、多孔性基材と低抵抗コーティング層との接着力が低下してコーティング層の脱離が発生する問題を防止することができ、厚さ方向へ均一な気孔を形成することができる。一方、前述したように、複数の凝固液を準備して固化を複数の段階にわたって行う場合には、最初の凝固液中における浸漬時間は10秒間以上かつ30秒間以下に制御し得る。
【0096】
このように凝固液に浸漬された結果物を乾燥することで、多孔性基材の少なくとも一面上に多孔性コーティング層を形成することができる。前記乾燥は、乾燥チャンバ(drying chamber)で行われ得、この際、非溶媒の塗布のため乾燥チャンバの条件は特に制限されない。これによって、多孔性コーティング層の表面部がその下部よりもバインダー高分子をさらに含む状態になるので、前述した電極に対する結着力などが優秀になると共に、多孔性コーティング層は、電極接着力を示す部分が含まれるにもかかわらず、全体的に同じ高さに形成されるので、面方向において同じ抵抗を有するようになる。
【0097】
前述した方法によって製造されたセパレータを正極と負極との間に介在してラミネートすることで電気化学素子を製造することができる。電気化学素子は、電気化学反応をする全ての素子を含み、具体的な例としては、全種類の一次、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタなどのようなキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0098】
本発明のセパレータと共に適用される正極及び負極の電極は特に制限されず、当業界に知られた通常の方法によって電極活物質を電極電流集電体の少なくとも一面に結着した形態で製造され得る。
【0099】
前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例には、従来の電気化学素子の正極に使用できる通常の正極活物質が使用可能であり、特に、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらを組み合せたリチウム複合酸化物を用いることが望ましい。
【0100】
負極活物質の非制限的な例には、従来の電気化学素子の負極に使用できる通常の負極活物質が使用可能であり、特に、リチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コーク(petroleum coke)、活性炭素(activated carbon)、グラファイト(graphite)またはその他の炭素類などのようなリチウム吸着物質などであることが望ましい。
【0101】
正極電流集電体の非制限的な例には、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せによって製造されるホイルなどが挙げられ、負極電流集電体の非制限的な例には、銅、金、ニッケルまたは銅合金またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどが挙げられる。
【0102】
本発明の電気化学素子で使用可能な電解液は、Aのような構造の塩であって、Aは、Li、Na、Kのようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、Bは、PF 、BF 、Cl、Br、I、ClO 、AsF 、CHCO 、CFSO 、N(CFSO 、C(CFSO のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩が、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものがあるが、これらに限定されることではない。
【0103】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び要求物性に応じて、電池の製造工程中の適切な段階で行われ得る。即ち、電池の組立前または電池組立の最終段階などに適用できる。
【0104】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0105】
実施例1
セパレータの製造
バインダー高分子として、第1バインダー高分子であるPVdF-HFP (ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン)(Solvay社、Solef 21510、T(融点):132℃、電解液含浸率(uptake):110%、HFP置換率:15%)28重量部と、第2バインダー高分子であるPVdF-TFE(ポリビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン)(Daikin社、VT-475、T:138℃、電解液含浸率:30%、TFE置換率:24%)7重量部とを、N-メチルピロリドン(NMP)400重量部に添加し、50℃で約12時間以上溶解することでバインダー溶液を製造した。
【0106】
この際、第1バインダー高分子の粘度は60cpであり、第2バインダー高分子の粘度は700cpであった。この際、第1バインダー高分子の粘度及び第2バインダー高分子の粘度は、測定対象であるバインダー高分子35重量部と、平均粒径(D50)500nmのAl(日本軽金属株式会社、LS235)65重量部と、NMP 400重量部と、からなるスラリーに対し、レオメータ(Rheometer,TA instruments)装置を用いてせん断速度(shear rate)100/sで測定された粘度値である。
【0107】
その後、無機物粒子として、平均粒径(D50)500nmのAl(日本軽金属株式会社、LS235)65重量部を前記バインダー溶液に添加した後、ペイントシェーカーを用いて分散させて多孔性コーティング層形成用スラリーを製造した。
【0108】
この際、前記多孔性コーティング層形成用スラリーの粘度は、レオメータ(TA instruments)装置を用いてせん断速度100/sで測定した結果、110cpであった。
【0109】
その後、このように製造された多孔性コーティング層形成用スラリーをロッドコーティング法で、厚さ12μmのポリエチレン多孔性高分子基材(気孔度45%)にコーティングし、続いて、非溶媒である水に浸漬して相分離した。浸漬時間は40秒間であった。その後、オーブンを用いて75℃の温度条件で乾燥処理することで最終的に電気化学素子用セパレータを製造した。
【0110】
正極及び負極の製造
LiCoO 97重量%、導電材としてのカーボンブラック粉末 1.5重量%及びポリビニルリデンフルオライド(PVdF,Kureha)1.5重量%を混合してN-メチル-2-ピロリドン溶媒に投入した後、機械式撹拌機を用いて30分間撹拌して正極活物質スラリーを製造した。前記スラリーをドクターブレードを使って20μm厚さのアルミニウム集電体の上に約60μm厚さで塗布して100℃の熱風乾燥機で0.5時間乾燥した後、真空、120℃の条件でさらに4時間乾燥し、圧延(roll press)することで正極を製造した。
【0111】
平均粒径16μmの人造黒鉛粒子(LC1,Shanshan)96.5重量%、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)バインダー(ZEON)2.3重量%及びカルボキシメチルセルロース(CMC,Daicel)1.2重量%を混合した後、蒸溜水に投入して機械式撹拌機を用いて60分間撹拌することで負極活物質スラリーを製造した。前記スラリーをドクターブレードを用いて8μm厚さの銅集電体の上に約60μm厚さで塗布して100℃の熱風乾燥機で0.5時間乾燥した後、真空、120℃の条件で4時間さらに乾燥し、圧延することで負極を製造した。
【0112】
リチウム二次電池の製造
前記製造された正極と負極との間にセパレータを介在して、80℃で100kgfの荷重でラミネートして単位セルを製作した。これをパウチに挿入し、1MのLiPFがエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジエチレンカーボネート(DEC)の体積比が3/5/2である混合溶媒に溶解された有機電解液を注入した後、パウチを真空密封した後、活性化過程を経てリチウム二次電池を完成した。
【0113】
実施例2
実施例1で、PVdF-HFP(Solef 21510)の含量を17.5重量部、PVdF-TFE(VT-475)の含量を17.5重量部に変更し、多孔性コーティング層用スラリーの粘度がせん断速度100/sで209 cpであり、製造された多孔性コーティング層形成用スラリーを、ロッドコーティング法で厚さ12μmのポリエチレン多孔性高分子基材(気孔度45%)にコーティングし、続いて、非溶媒である水に浸漬して相分離させるときの浸漬時間が40秒間であることを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0114】
実施例3
非溶媒である水に浸漬する浸漬時間を90秒間にしたことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0115】
実施例4
実施例1のPVdF-HFPを、Arkema社のKynar 2500に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0116】
実施例5
実施例1のPVdF-HFPを、Arkema社のKynar 2751に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0117】
実施例6
実施例2のPVdF-HFPを、Arkema社のKynar 2500に変更したことを除いては、実施例2と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0118】
実施例7
実施例2のPVdF-HFPを、Arkema社 Kynar 2751に変更したことを除いては、実施例2と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0119】
比較例1
バインダー高分子としてPVdF-HFP(Solef 21510)を単独で35重量部、Alを65重量部使用し、多孔性コーティング層用スラリーの粘度がせん断速度100/sで60cpであることを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0120】
比較例2
バインダー高分子としてPVdF-HFP(Solef 21510)を単独で70重量部、Alを30重量部使用し、多孔性コーティング層用スラリーの粘度がせん断速度100/sで75cpであることを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0121】
比較例3
非溶媒である水に浸漬する浸漬時間を90秒間にしたことを除いては、比較例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0122】
比較例4
実施例1のPVdF-HFPをKureha社の8200に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0123】
比較例5
実施例1のPVdF-HFPをArkema社のLBGに変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0124】
比較例6
実施例1の第1バインダー高分子の代わりに同量の第2バインダー高分子を投入したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0125】
比較例7
実施例1の第2バインダー高分子を、PVdF-TFEの代わりに同量のPVdF-CTFE(Solvay社,Solef 32008)に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0126】
比較例8
実施例1の第1バインダー高分子を、PVdF-HFPの代わりに同量のPVdF-CTFE(Solvay社,Solef 32008)に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0127】
比較例9
実施例1の第2バインダー高分子を、PVdF-TFEの代わりに同量のPVdFホモポリマー(Kureha社,1100)に変更したことを除いては、実施例1と同様のセパレータ及びリチウム二次電池を製造した。
【0128】
評価例
セパレータの断面観察
走査電子顕微鏡(FE-SEM)(Hitachi S-4800 Scanning Electron Microscope)を用いて実施例1及び比較例1のセパレータの断面を観察した。その結果、実施例1のセパレータの断面を観察した電子顕微鏡写真は図1に、比較例1のセパレータの断面を観察した電子顕微鏡写真は図2に各々示した。
【0129】
図1を参照すれば、実施例1のセパレータの多孔性コーティング層の内部には、無機物粒子及び前記無機物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数のノードが密集している部分を備え、前記複数のノードが相互密接に接触した状態でインタースティシャルボリュームを形成し、前記インタースティシャルボリュームが空き空間になって形成された気孔は、全て無機物粒子の直径よりも小さい大きさを有することを確認することができた。これに対し、図2を参照すれば、比較例1のセパレータの多孔性コーティング層には、バインダー高分子として相分離速度が速いPVdF-HFPのみを単独で使用することで、前記バインダー高分子が非溶媒に速く拡散して気孔の大きさがかなり大きい指状(finger like)構造の気孔が多数存在する気孔構造を有することが分かった。
【0130】
バインダー高分子(第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子)の電解液含浸量(electrolyte uptake)の測定方法
バインダー高分子を用いて相分離方法でフィルムを製造した後、円形のフィルム(直径:1.8cm、面積:2.54cm、厚さ:16μm(偏差-0.5~+0.5μm))で切った後、重さを測定した。この際、前記フィルムは、各々のバインダー高分子が溶解された溶液を非溶媒を用いて浸漬相分離することで製造した。その後、1.0モルのリチウム塩(LiPF)が溶けている電解質混合(EC/DEC=1/1またはEC/PC=1/1の体積比)溶液に、円形のバインダー高分子フィルムを入れて24時間後に取り出した後、バインダー高分子フィルムを垂直に立てて1分間放置してフィルムの表面についた液滴を除去した。このように得られた電解質混合溶液が含浸されたフィルムの重さを測定した。全ての実験は、アルゴンガスが満たされたグローブボックス(glove box)の中で水分が1.0ppm未満である条件で行った。電解液含浸率(%)は、含浸後フィルムの重さから含浸前フィルムの重さを引いた値を含浸前フィルムの重さで割った後、100を掛けて計算した。
【0131】
抵抗の測定方法
実施例1~7及び比較例1~9で得たセパレータに対して次のような方法で抵抗を測定した。エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとプロピルプロピオネートとが25:10:65の割合(体積比)で混合された溶媒に、LiPFを1モル濃度で溶解して電解液を準備した。各セパレータを前記電解液に含浸した後にコインセルを製作し、EIS(Electrochemical impedance spectroscopy)装備を用いて抵抗を測定した。その結果を表1に示した。
【0132】
通気度の測定方法
実施例1~7及び比較例1~9で得たセパレータに対し、JIS P-8117に従ってガーレー(Gurley)式の空気透過度計を用いて測定した。
【0133】
この際、直径28.6mm、面積645mmを空気100mlが通過する時間を測定した。その結果を表1に示した。
【0134】
原反接着力(剥離力)
実施例1~7及び比較例1~9で得たセパレータを、100mm(長さ)×25mm(幅)の大きさで切断し、各々二つの試験片を準備した。このように準備した実施例1~7及び比較例1~9の各試験片二つを各々積層した後に100℃で10秒間加熱プレスして得られた積層物を接着強度測定器機(LLOYD Instrument,LF plus)に固定し、上部のセパレータ試験片を25℃で100mm/minの速度、角度180°で剥離し、この際の強度を測定した。その結果を表1に示した。
【0135】
セパレータと電極との接着力(電極接着力、Lami Strength)測定法
実施例1で製造されたアノードを25mm×100mmの大きさで裁断して準備した。実施例1~7及び比較例1~9で製造されたセパレータを、25mm×100mmの大きさで裁断して準備した。準備されたセパレータとアノードとを相互重ね、100μmのPETフィルムの間に介在した後、平板プレスを用いて接着した。この際、平板プレス機の条件は、70℃の600kgf(3.9MPa)の圧力で1秒間加熱した。接着されたセパレータ及びアノードの末端部を、UTM装備(LLOYD Instrument LF Plus)に固定した後、測定速度300mm/min、角度180°で力を加えてアノードとアノードに対向した多孔性コーティング層とが剥離するのに必要な力を測定した。
【0136】
【表1】
【0137】
前記表1を参照すれば、第1バインダー高分子が80~165%の電解液含浸率を有し、第2バインダー高分子が20~40%の電解液含浸率を有する実施例1~7のセパレータは、抵抗が小さく、通気度が優秀であり、電極接着力と原反接着力とが共に改善される卓越な結果を示すことが分かる。
【0138】
これに対し、第1バインダー高分子のみを使用した場合(比較例1~3)には、抵抗が増加し、剥離力及び電極接着力がかなり小さくなり、第2バインダー高分子のみを使用した場合(比較例6)には電極接着力が顕著に劣った。また、電解液の含浸率が相異なる二種のバインダー高分子を第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子として使用するとしても、本発明の各バインダー高分子の電解液含浸率の範囲である第1バインダー高分子の80~165%の電解液含浸率及び第2バインダー高分子の20~40%の電解液含浸率から外れる場合(比較例4、5、7~9)には、電極接着力が大幅低下するか、または抵抗が大きくなるという問題が発生した。
図1
図2