(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20240906BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G01N35/00 F
G01N30/86 V
(21)【出願番号】P 2023517057
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2022004104
(87)【国際公開番号】W WO2022230282
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021074742
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】野上 真
(72)【発明者】
【氏名】田村 陸
(72)【発明者】
【氏名】西木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉目 和之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】片野 敏明
(72)【発明者】
【氏名】杉山 益之
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-525798(JP,A)
【文献】特開2011-53229(JP,A)
【文献】特開2005-283332(JP,A)
【文献】国際公開第2020/84886(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/2431(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111312(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/245089(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
G01N 30/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の測定対象物質を検出する検出部を有する分析部と、
前記分析部の動作を制御する制御部とを備えた自動分析装置において、
前記制御部は、
前記分析部における前記試料の少なくとも1つの分析項目の検出結果を格納するデータアラームデータベースと、
前記検出結果が正常状態か否かを判定するための少なくとも基準データを含む情報を格納する正常用データアラームデータベースと、
前記基準データに基づき異常状態であると判定された検出結果にデータアラームを付与するデータアラーム判定部と、
前記分析部に設けられた少なくともセンサの検出結果を含む情報を格納するシステムアラームデータベースと、
前記センサの検出結果が正常状態である否か判定するための基準システム出力情報を格納する正常用システムアラームデータベースと、
前記基準システム出力情報に基づき異常状態であると判定されたセンサ検出結果にシステムアラームを付与するシステムアラーム判定部とを有し、
更に、測定対象である試料の測定前に行うメンテナンス時に装置チェックを実施し、その装置チェック時に出力される装置のシステムアラーム、および測定対象である試料の測定前に行う内部標準物質の測定結果を指標としたデータアラーム情報の経時変化情報を解析することで、前記自動分析装置の故障状態の予兆診断を実施することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に係る自動分析装置において、
前記制御部が前記システムアラームデータベースに格納する情報は、
測定対象物質と内部標準物質のピーク面積比、
測定対象物質と内部標準物質のピーク強度比、
測定対象物質のピーク面積、
測定対象物質のピーク強度、
測定対象物質の保持時間、
測定対象物質のピーク幅、
測定対象物質の半値幅、
測定対象物質のピーク強度とバックグラウンドの比であるS/N比、
測定対象物質のリーディングファクタ、
測定対象物質のテーリングファクタ、
内部標準物質のピーク面積、
内部標準物質のピーク強度、
内部標準物質の保持時間、
内部標準物質のピーク幅、
内部標準物質の半値幅、
内部標準物質のピーク強度とバックグラウンドの比であるS/N比、
内部標準物質のリーディングファクタ、
内部標準物質のテーリングファクタ
の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記制御部が前記データアラームデータベースに格納する情報は、
内部標準物質シグナル値、
内部標準物質同定チェック(内部標準物質の保持時間、ピーク幅、半値幅、S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)、
測定対象物質シグナル値、
測定対象物質同定チェック(内部標準物質の保持時間、ピーク幅、半値幅、S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)、
HPLC性能チェック(HPLCの圧力カーブ、ESIスプレ電流、内部標準物質のピーク幅、ピーク対称性、保持時間)、
MS性能チェック(ピークパラメータ、バックグラウンド強度、ノイズ値、コンタミネーションの情報)、
キャリブレーションカーブ情報、
QCチェック
の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記メンテナンス時に行う装置チェックは、キャリブレーション試薬、QC試薬および検体のいずれも使用せずに実施することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
試料中の測定対象物質を検出する検出部を有する分析部と、
前記分析部の動作を制御する制御部とを備えた自動分析装置の故障状態の予兆診断方法であって、
前記分析装置の前記試料に対する検出結果から生成された少なくとも1つの項目を含むデータ出力情報をデータアラームデータベースに格納する工程と、
前記データアラームデータベースの前記データ出力情報と予め定めた基準データ出力情報とを比較し、異常状態であると判定した前記データアラームデータベースの前記データ出力情報の項目にデータアラームを付与する工程と、
前記分析装置に設けられたセンサの検出結果から生成された少なくとも1つの項目を含むシステム出力情報をシステムアラームデータベースに格納する工程と、
前記システムアラームデータベースの前記システム出力情報と予め定めた基準システム出力情報とを比較し、異常状態であると判定した前記システムアラームデータベースの前記データ出力情報の項目にシステムアラームを付与する工程と、
内部標準物質を試料として前記分析装置で得られて前記データアラームデータベースに格納されたデータ出力情報の経時変化と、前記システムアラームデータベースのシステム出力情報の経時変化とに基づいて故障状態の予兆診断を行う工程と
を有することを特徴とする自動分析装置の故障状態の予兆診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置としては、例えば、液体クロマトグラフ(HPLC)による測定対象物質の化学的構造および物性に基づく分離と、質量分析計(MS)による測定対象物質の質量に基づく分離を組み合わせることで、試料中の各成分を定性・定量する液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS)が知られている。
【0003】
液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS)では、生体試料中の医薬品のように体内で代謝され多数の類似物質が混在しているような場合においても測定対象物質の定性・定量が可能であり、臨床検査分野への応用が期待されている。例えば、検査センタや大学病院等では、液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS)を用いて、免疫抑制剤、抗がん剤、新生児代謝異常検査およびTDM(Therapeutic Drug Monitoring)等の検査をおこなっている。
【0004】
このような、液体クロマトグラフ質量分析装置においては、前処理工程が煩雑であることから、前処理を行う場合には検査技師の熟練度によって検査結果のばらつきが生じる。また、前処理や液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS)の測定においては、ヒューマンエラーによる検査結果の不具合が生じる可能性がある。そのため、前処理から液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS)まで、全自動で一括工程を処理可能な自動分析装置の臨床検査分野への展開が求められている。
【0005】
一方で、自動分析装置では、早期に動作異常や故障状態を診断し、または、これらの予測を早期に実施し、自動分析装置や部品の調整や交換などの保守作業を行う予兆診断を実施することで、装置の堅牢制を担保する必要がある。このような予兆診断により、装置または部品の故障や不具合による突発停止や、機会損失による経済的な損害、または、作業者や製品の利用者への健康ないし人名の損害を最小限に抑えることができる。自動分析装置の予兆診断については、以下のような技術が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、臨床診断システム(100)であって、試料の自動調製のための試料調製モジュール(20)と、試料調製/LCインタフェース(40)により前記試料調製モジュール(20)に結合される液体クロマトグラフィー(LC)分離モジュール(30)と、LC/MSインタフェース(60)により前記LC分離モジュール(30)に結合される質量分析計(MS)モジュール(50)と、試料中に含まれ、前記LC分離モジュール(30)および前記MSモジュール(50)を通過させられる、対象の分析物または物質を識別および/または定量化するための結果計算モジュール(70)と、制御装置(80)とを備え、前記制御装置(80)は、前記臨床診断システム(100)の性能状態を示す動作パラメータ(1~n)の所定のセットを監視し、前記動作パラメータ(1~n)の所定のセットのうちの1つまたは複数のパラメータ(1~n)が仕様外である場合は必ず、品質管理処置および/または保守処置を作動させ、前記動作パラメータ(1~n)のセットが仕様内であり続ける限りは、品質管理および/または保守処置を最小化するようにプログラムされる、臨床診断システム(100)が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、外部に設置されたメンテナンス用管理装置にネットワークを介して接続可能な臨床検体処理装置であって、複数の機構の各々に所定の動作をさせることにより検体を処理する検体処理部と、前記各機構の所定の動作の動作検出信号に基づく数値と、前記所定の動作が正常状態であるか否かの基準となるしきい値とを比較する比較手段と、前記複数の機構のうちいずれかの機構の所定の動作の動作検出信号に基づく数値が前記しきい値を超えた場合に、その機構が正常状態に比べて将来故障する可能性の高い状態にあることを示す故障予知情報を、前記ネットワークを介して、前記メンテナンス用管理装置に送信する送信手段とを備えた、臨床検体処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2019/007868号
【文献】特開2008-89616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載の従来技術においては、1つ以上の所定のパラメータが仕様外の場合のQCおよびメンテンス動作をトリガーにして、いつでも、1つ以上の所定のパラメータが仕様外の場合のQCおよびメンテンス動作を仕様内に出来る限り最小化するために、1つ以上の所定のオペレーションパラメータのセットをモニターするプログラムを制御している。しかしながら、QCおよびメンテナンス動作をトリガーにしているため、所定のオペレーションパラメータのセットをモニターするためには、検体を使用した測定動作を実施する必要がある。また、測定ごとに仕様内に入るようにするプログラムが採用されているため、測定間にまたがる経時変化の情報を処理することができない。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の従来技術においては、各機構の所定の動作の動作検出信号に基づく数値と、所定の動作が正常状態であるか否かの基準となるしきい値とを比較する比較手段と、複数の機構のうちいずれかの機構の所定の動作の動作検出信号に基づく数値がしきい値を超えた場合に、その機構が正常状態に比べて将来故障する可能性の高い状態にあることを示す故障予知情報を報知している。しかしながら、装置内のセンサが出力する信号数値や処理終了の時間に基づいて、2段階の判断基準により、第1のしきい値を超えたときに「警告」を、第2のしきい値を超えたときに「異常状態」をメンテナンス用管理装置に送信している。すなわち、装置内の各センサの出力値のみを「警告」または「異常状態」の判断要素にしており、検出部(MS)からのデータの出力値に起因する情報を判断基準にしていないため、故障予知の精度について改善の余地が残されている。また、測定間にまたがる経時変化の情報を処理することができない。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、異常処理が発生した場合に迅速に対処可能であり、異常状態の的確な把握を実施し、装置の早期異常診断および部品の調整や交換を行う頻度を抑えることができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、前処理を実施された測定対象である試料の分離を行う分離部と、前記分離部で分離された前記試料の測定対象物質を検出する検出部とを有する分析装置と、前記分析装置の動作を制御する制御装置とを備えた自動分析装置において、前記制御装置は、前記分析装置の前記試料に対する検出結果から生成された少なくとも1つの項目を含むデータ出力情報を格納するデータアラームデータベースと、前記データ出力情報が正常状態であるか異常状態であるかを判定するために予め定めた基準データ出力情報を格納する正常用データアラームデータベースと、前記データアラームデータベースの前記データ出力情報と前記正常用データアラームデータベースの前記基準データ出力情報とを比較し、異常状態であると判定した前記データアラームデータベースの前記データ出力情報の項目にデータアラームを付与するデータアラーム判定部と、前記分析装置に設けられたセンサの検出結果から生成された少なくとも1つの項目を含むシステム出力情報を格納するシステムアラームデータベースと、前記システム出力情報が正常状態であるか異常状態であるかを判定するために予め定めた基準システム出力情報を格納する正常用システムアラームデータベースと、前記システムアラームデータベースの前記システム出力情報と前記正常用システムアラームデータベースの前記基準システム出力情報とを比較し、異常状態であると判定した前記システムアラームデータベースの前記データ出力情報の項目にデータアラームを付与するシステムアラーム判定部とを有し、内部標準物質を試料として前記分析装置で得られて前記データアラームデータベースに格納されたデータ出力情報の経時変化と、前記システムアラームデータベースのシステム出力情報の経時変化とに基づいて、前記自動分析装置の故障状態の予兆診断を実施するものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、異常処理が発生した場合に迅速に対処可能であり、異常状態の的確な把握を実施し、装置の早期異常診断および部品の調整や交換を行う頻度を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】自動分析システムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【
図2】前処理部の構成の一例を模式的に示す上面図である。
【
図3】分離部の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図4】検出部の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図5】自動分析装置の分析動作の内容を示すフローチャートである。
【
図6】表示装置に表示される表示画面の一例を示す図である。
【
図7】表示装置に表示される表示画面の一例を示す図である。
【
図8】表示装置に表示される表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る自動分析システムの全体構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【0017】
図1において、自動分析装置100は、制御装置110と、分析装置120と、外部コンピュータ130とから概略構成されている。
【0018】
分析装置120は、前処理部(SP)121、分離部(HPLC)122、検出部(MS)123、及び、質量分析用解析処理部124を有している。
【0019】
図2は、前処理部の構成の一例を模式的に示す上面図である。
【0020】
図2において、前処理部(SP)121は、測定対象である試料(検体)を収容する複数の試料容器101aを搭載した試料容器ラック101を分注位置まで搬送する検体搬送ユニット1211と、測定対象物質を含む試料に磁性ビーズおよび試薬を添加して反応させる複数の反応容器1212aを配置した反応ディスクユニット1212と、分注位置まで搬送された試料容器ラック101の試料容器101aの試料を反応ディスクユニット1212の反応容器1212aに分注(吸引/吐出)する検体プローブ1213と、磁性ビーズおよび試薬を収容する試薬容器1214aを保持する試薬ディスクユニット1214と、磁性ビーズおよび試薬を反応ディスクユニット1212へ分注(吸引/吐出)する試薬分注ユニット1214bと、試薬容器を保持する試薬容器保持ユニット1215と、試薬容器保持ユニット1215の試薬を反応ディスクユニット1212へ分注(吸引/吐出)する試薬プローブ1215aと、反応ディスクユニット1212の反応容器1212aで反応させた測定対象物質を含む試料と磁性ビーズとを移送して磁性ビーズの洗浄等を行う洗浄ユニット1217と、反応ディスクユニット1212から試料と磁性ビーズとを洗浄ユニット1217へ分注(吸引/吐出)する洗浄プローブ1216と、検体を分離部(HPLC)122へ搬送する分離部搬送ユニット1218とを備えている。
【0021】
図3は、分離部の構成の一例を模式的に示す図である。
【0022】
分離部(HPLC)122には、スループット向上のために、HPLC1ストリーム1222、HPLC2ストリーム1223、HPLC3ストリーム1224等の複数(例えば、本実施の形態では3つ)のストリームが配置され、各ストリームを切り替えるために各ストリームの前段に位置する入力側ストリームセレクトバルブ1225と、各ストリームの後段に位置し、各ストリームから後段の検出部(MS)123に接続するストリームを切り換える出力側ストリームセレクトバルブ1226とを備えている。
【0023】
各ストリーム1222,1223,1224は流路へ溶媒試薬を送液するポンプユニット1222a,1223a,1224aと、前処理部(SP)121から移送されてきた試料を流路へ導入する試料導入ユニット1222b、1223b、1224bと、試料の分離を行う分離カラム1222c,1223c,1224cとを有している。また、入力側ストリームセレクトバルブ1225の上流側には、複数の試薬から使用する試薬を選択することができるシステム試薬ユニット1221が配置されている。
【0024】
ポンプユニット1222a,1223a,1224aは、設定流量を維持するために駆動する2つのシリンダ、流路内の空気を除去するために流路と廃液を切り替えるオートパージバルブ、流路内の圧力を監視するポンプ圧力センサを有する。
【0025】
試料導入ユニット1222b、1223b、1224bは、各ストリームに設置され、ポンプからの送液流路とシリンジから流路を切り替えるインジェクションバルブと、インジェクションバルブに接続されたサンプルループと、試料を吸引/吐出するシリンジと、シリンジの吸引/吐出状態を監視するシリンジ圧力センサを有する。前処理部(SP)121から搬送されてきた検体は分離部搬送ユニット1218内の各ストリームに設置される試料吸引位置に搬送され、試料が吸引された後に、各ストリームに共通の廃液吸引位置に搬送され、廃液プローブで検体容器に残存した溶液を吸引/吐出する。
【0026】
分離カラム1222c,1223c,1224cは、下方に伝熱ブロックを備えたカラムカートリッジ内に保持されている。各カラムカートリッジは、ヒータと、ヒートブロックと、温度をセンシングするサーミスタを有するカラムオーブン内で温調される。カラムカートリッジは、カラムオーブン内の定位置に固定され、ポジションセンサで監視される。
【0027】
システム試薬ユニット1221は、各試薬ボトルを正常位置に設置するためのリフタと、各試薬ボトル内の試薬量を監視する重量センサを有する。システム試薬ユニット1221は試薬ボトルを設置するためのリフタと、試薬ボトル内の試薬量を監視する重量センサを有する。
【0028】
図4は、検出部の構成の一例を模式的に示す図である。
【0029】
検出部(MS)123は、イオン源ユニット1231と、質量分析計1232とから構成されている。
【0030】
ここで、質量分析計1232で生成されるデータおよび算出方法について説明する。質量分析計1232では、特定のm/z(質量/荷数)が検出器でカウントされた信号強度(面積)のデータが生成される。前処理部(SP)121で、測定対象物質を含む試料に内部標準物質が添加されており、測定対象物質のm/zおよび内部標準物質のm/zに対する信号強度のデータが生成される。事前に、幾つかの既知濃度の測定対象物質に既知の内部標準物質を質量分析計1232で測定することで、横軸に測定対象物質濃度を、縦軸に測定対象物質および内部標準物質の信号強度(面積)に対応する信号強度(面積)比をプロットした検量線を作成しておく。事前に作成した検量線と、質量分析計1232から生成された測定対象物質のm/zおよび内部標準物質のm/zに対する信号強度(面積)のデータに対応する信号強度(面積)比から測定対象物質の濃度を算出する。
【0031】
また、検出部(MS)123の出力は、質量分析用解析処理部124に送られ、特定のm/z(質量/荷数)が検出器でカウントされた信号強度(面積)の情報からピークフィッティングが実施され、データ出力情報が生成される。質量分析用解析処理部124の機能は、例えば、検出部(MS)123上で動作するソフトウェア等により実現される。
【0032】
<データ出力情報>
ここで、質量分析計1232及び質量分析用解析処理部124で生成されるデータ出力情報について説明する。データ出力情報には、以下のものが含まれている。
1)測定対象物質の定量用m/zと内部標準物質の定量用m/zのピーク面積比
2)測定対象物質の定量用m/zと内部標準物質の定量用m/zのピーク強度比
3)測定対象物質の定量用m/zのピーク面積
4)測定対象物質の定量用m/zのピーク強度
5)測定対象物質の定量用m/zの保持時間
6)測定対象物質の定量用m/zのピーク幅
7)測定対象物質の定量用m/zの半値幅
8)測定対象物質の定量用m/zのS/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)
9)測定対象物質の定量用m/zのリーディングファクタ
10)測定対象物質の定量用m/zのテーリングファクタ
11)測定対象物質の定性用m/zのピーク面積
12)測定対象物質の定性用m/zのピーク強度
13)測定対象物質の定性用m/zの保持時間
14)測定対象物質の定性用m/zのピーク幅
15)測定対象物質の定性用m/zの半値幅
16)測定対象物質の定性用m/zのS/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)
17)内部標準物質の定量用m/zのピーク面積
18)内部標準物質の定量用m/zのピーク強度
19)内部標準物質の定量用m/zの保持時間
20)内部標準物質の定量用m/zのピーク幅
21)内部標準物質の定量用m/zの半値幅
22)内部標準物質の定量用m/zのS/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)
23)測定対象物質の定量用m/zのリーディングファクタ
24)測定対象物質の定量用m/zのテーリングファクタ
25)内部標準物質の定性用m/zのピーク面積
26)内部標準物質の定性用m/zのピーク強度
27)内部標準物質の定性用m/zの保持時間
28)内部標準物質の定性用m/zのピーク幅
29)内部標準物質の定性用m/zの半値幅
30)内部標準物質の定性用m/zのS/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)
なお、データ出力情報は、上記したものに限定されるものではない。
【0033】
また、
図1において、制御装置110は、分析装置120の動作を制御するものであり、分析装置120で生成された「データ出力情報」を格納するデータアラームデータベース114と、正常状態のデータ情報を格納する正常用データアラームデータベース115と、データアラーム判定部116と、分析装置120で生成された「システム出力情報」を格納するシステムアラームデータベース111と、正常状態のシステムアラーム情報を格納する正常用システムアラームデータベース112と、システムアラーム判定部113とを有している。
【0034】
分析装置120からのデータ出力情報が制御装置110へ移行され、データアラーム判定部116において正常用データアラームデータベース115と比較され、しきい値外のデータ出力情報が異常値と判断され、データアラームデータベース114に格納される。データアラームは検査結果に添付され、ユーザに報知される。このとき、ユーザはデータを確認し、再検査が必要かどうかを判断する。データアラームによっては自動的に再測定を実施する項目もある。
【0035】
また、分析装置120からのシステム出力情報が制御装置110に移行され、システムアラーム判定部113において正常状態のシステムアラーム情報を格納する正常用システムアラームデータベース112と比較され、しきい値外のシステム出力情報が異常値と判断され、システムアラームデータベース111に格納される。システムアラームは、ユーザに報知される。
【0036】
外部コンピュータ130は、制御装置110で異常と判断されたシステムアラームデータベース111およびデータアラームデータベース114の情報から異常状態の的確な把握を実施し、装置の早期異常診断、部品調整および部品交換を判断することができる。また、外部コンピュータ130は、ユーザ先で構築された、各種の臨床検査機器が接続される統合プラットフォーム131を有し、装置の早期異常診断、部品調整および部品交換に関する情報は共有される。
【0037】
<データアラーム>
ここで、データアラーム判定部116における判定項目および判定方法について説明する。異常であると判定された判定項目には、データアラームデータベース114においてデータアラームが付与される。
1)内部標準物質シグナルチェック(下限値):内部標準物質ピークのピーク強度が下限値以下である場合に異常状態であると判定する。
2)内部標準物質シグナルチェック(上限値):内部標準物質のピーク強度が最大値以上である場合に異常状態であると判定する。
3)内部標準物質同定チェック:ピークパラメータ(例えば、内部標準物質の保持時間、ピーク幅、半値幅、S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比))のチェックを実施して範囲外である場合に異常状態であると判定する。
4)測定対象物質シグナルチェック(下限値)
測定対象物質ピークのピーク強度が下限値以下である場合に異常状態であると判定する。
5)測定対象物質シグナルチェック(上限値):測定対象物質のピーク強度が最大値以上である場合に異常状態であると判定する。
6)測定対象物質同定チェック:ピークパラメータ(例えば、内部標準物質の保持時間、ピーク幅、半値幅、S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比))のチェックを実施して範囲外である場合に異常状態であると判定する。
7)HPLC性能チェック:HPLCの圧力カーブ、ESIスプレ電流、内部標準物質のピークパラメータ(ピーク幅、ピーク対称性、保持時間等)を実施して範囲外である場合に異常状態であると判定する。
8)MS性能チェック:ピークパラメータ、例えばバックグラウンド強度およびまたはノイズ値が範囲外である場合に異常状態であると判定する。コンタミネーションの情報も出力する。
9)キャリブレーションカーブチェック:キャリブレーションカーブのチェックを実施して範囲外である場合に異常状態であると判定する。
10)QCチェック:QCチェックを実施して範囲外である場合に異常状態であると判定する。
なお、判定項目および判定方法は、上記したものに限定されるものではない。
【0038】
次に、本実施の形態における自動分析装置100の分析動作について説明する。
【0039】
図5は、自動分析装置の分析動作の内容を示すフローチャートである。
【0040】
図5に示すように、自動分析装置100は、まず、電源をONにして各装置を立ち上げ、分析装置120と制御装置110の通信確認、及び、各センサや各消耗品の状態確認を実施する「立上げ工程」を行う(ステップS100)。
【0041】
続いて、ユーザまたはサービスパーソンがメンテナンス項目を選択し実施する「測定前準備工程」を行い(ステップS110)、測定前準備工程が終了したら、キャリブレーション測定、QC測定および検体測定を実施する「本測定工程」を行う(ステップS120)。本測定工程の終了後、断続的に本測定を継続する場合には、本測定工程の次回の開始まで待機する「待機工程」を行う(ステップS121)。
【0042】
また、ステップS120の本測定工程が終了した後に、自動分析装置100をOFFにする場合には、装置OFFにするための準備を実施する「測定後準備工程」を行い(ステップS130)、続いて、電源をOFFにして各装置を立ち下げる「立下げ工程」を行う(ステップS140)。
【0043】
ここで、「本測定工程」(
図5のステップS120参照)で実施されるキャリブレーション測定、QC測定および検体測定について説明する。
【0044】
まず、キャリブレーション測定について説明する。
キャリブレーション測定では、測定対象物質のm/zおよび内部標準物質のm/zに対する信号強度のデータが生成される。事前に、幾つかの既知濃度の測定対象物質に既知の内部標準物質を質量分析計で測定することで、 横軸に測定対象物質濃度、縦軸に測定対象物質および内部標準物質の信号強度(面積)に対応する信号強度(面積)比をプロットした検量線を作成しておく。事前に作成した検量線と、質量分析計から生成された測定対象物質のm/zおよび内部標準物質のm/zに対する信号強度(面積)のデータに対応する信号強度(面積)比から測定対象物質の濃度を算出する。
【0045】
続いて、QC(Quality Control)測定について説明する。
QC測定は、精度管理のために実施するものであり、測定結果が正しく報告されていること(正確性)および検体に変化がない限り繰り返し測定される結果に大きな変化がないこと(精密性)を保証するために実施する。精度管理を行う目的は、測定結果が正確であることを保証すること、および測定方法とその管理方法の妥当性を測定結果の記録から証明することである。具体的にはQC測定は、既知濃度のQC試料を用いて、測定を実施し、生成された結果を事前に取得しておいたキャリブレーション測定の検量線を用いて濃度を算出し、算出された濃度が規定値以内におさまっているかを評価する。その一連の工程では、算出された濃度値が有効であるかの妥当性検証が実施される。
【0046】
続いて、検体測定について説明する。
キャリブレーション測定およびQC測定で装置状態の有効性が確認された後に検体測定を開始することができる。検体測定で出力されたデータ出力情報はキャリブレーション測定で生成した検量線と、質量分析計から生成された測定対象物質のm/zおよび内部標準物質のm/zに対する信号強度(面積)のデータに対応する信号強度(面積)比から測定対象物質の濃度を算出する。また、データ出力情報が制御装置110へ移行され正常用データアラームデータベース115と比較され、しきい値外のデータ出力情報が異常値と判断され、データアラームデータベース114に格納される。データアラームは検査結果に添付され、ユーザに報知される。ユーザはデータを確認し、再検査が必要かどうかを判断する。
【0047】
<システム出力情報>
続いて、分析装置120の前処理部(SP)121、分離部(HPLC)122、検出部(MS)123で生成されて出力されるシステム出力情報について説明する。自動分析装置100では、測定を開始してから各センサまたはソフトウェアカウントにより出力した情報により、試薬不足、試料の詰まり、RFIDの読取り不良などの異常検知を行う。
【0048】
まず、前処理部(SP)121のシステム出力情報について説明する。
前処理部(SP)121のシステム出力情報としては、検体プローブ1213、試薬分注ユニット1214b、洗浄プローブ1216の駆動中に発生するポジションセンサ異常による吸引位置エラー、試料または試薬の吸引/吐出時に発生する圧力センサ異常により詰まり検知エラーなどがある。他にも、検体搬送ユニット1211、反応ディスクユニット1212、洗浄ユニット1217および分離部搬送ユニット1218の駆動中に発生するポジションセンサ異常により吸引/吐出位置エラー、反応ディスクユニットの温度センサ異常による温度異常エラーなどがある。これらの異常が生じた場合において、例えば、各プローブのポジションセンサのポジションセンサ異常のときは検体吸引位置、検体吐出位置、原点位置、原点外し位置等、複数の異なる種類のアラームが出力される。
【0049】
続いて、分離部(HPLC)122のシステム出力情報について説明する。
分離部(HPLC)122のシステム出力情報としては、ポンプのシリンダ、インジェクションバルブ、オートパージバルブ、入力側ストリームセレクトバルブ1225、出力側ストリームセレクトバルブ1226などの駆動中に発生するポジションセンサ異常によるポンプシリンダ位置およびバルブ位置エラーがある。ポンプユニット1222a,1223a,1224aには、流路内の圧力を監視するポンプ圧力センサが設けられており、流路の詰まり、リークなどを検知する圧力異常の検知がある。システム試薬ユニット1221には、リフタの異常位置を検知するポジションセンサ異常がある。システム試薬ユニット1221に架設される各試薬ボトル下部には重量センサが設置されており、各試薬ボトルの試薬量の監視を実施し、試薬が規定値より少なくなると試薬不足を検知する重量センサ異常がある。ヒータと、ヒートブロックと、分離カラムの表面温度をサーミスタでセンシングし、温度がしきい値以上のときに、温度異常を検知する温度異常がある。カラムオーブン内のカラムカートリッジの位置を検知するポジションセンサ異常によるカラム位置エラーがある。試料の吸引/吐出のシリンジ駆動中のシリンジ圧力の変動を監視し、圧力異常時にシリンジ内のつまり異常およびリーク異常がある。
【0050】
続いて、検出部(MS)123のシステム出力情報について説明する。
検出部(MS)123のイオン源ユニット1231には、エレクトロースプレーイオン化法(ESI)が用いられ、分離部(HPLC)122からの送液流路は、イオン源ユニット1231の溶液内の直径数百μmの配管を送液しながら、高温、高電圧、高電流が印加される。プローブ配管は2重配管になっており、中心は溶液が送液されており、外側の配管内および配管の外側には窒素ガスが噴霧されイオン化効率を向上させている。それぞれの温度、電圧値、電流値は監視されており、しきい値以上のときに、温度異常、電圧値異常、電流値異常を検知する。窒素ガスの流路も監視されており、しきい値を外れると異常を検知する。
【0051】
質量分析計1232には、三連四重極質量分析計が用いられ、イオン源でイオン化されたイオンを収束させ、不純物を分離するフィルタQ0と、特定のm/zの質量数のみを追加させるイオンフィルタであるフィルタQ1と、イオンにガスを衝突させフラグメントイオンを生成するフィルタQ2と、特定のフラグメントイオンのみを追加させるフィルタQ3と、検出部とから構成される。各フィルタQ0,Q1,Q2,Q3の内部の電圧および電流は、突入電圧、内部電圧、出口電圧は監視されており、しきい値を外れると異常を検知する。
【0052】
<システムアラーム>
ここで、システムアラーム判定部113における判定項目について説明する。異常であると判定された判定項目には、システムアラームデータベース111においてシステムアラームが付与される。
1)検体プローブ1213のポジションセンサ異常
2)試薬分注ユニット1214bのポジションセンサ異常
3)洗浄プローブ1216のポジションセンサ異常
4)検体プローブ1213の圧力センサ異常
5)試薬分注ユニット1214bの圧力センサ異常
6)洗浄プローブ1216の圧力センサ異常
7)反応ディスクユニット1212の温度センサ異常
8)検体搬送ユニット1211のポジションセンサ異常
9)反応ディスクユニット1212のポジションセンサ異常
10)洗浄ユニット1217のポジションセンサ異常
11)分離部搬送ユニット1218のポジションセンサ異常
12)ポンプシリンダ位置のポジションセンサ異常
13)インジェクションバルブのポジションセンサ異常
14)オートパージバルブのポジションセンサ異常
15)入力側ストリームセレクトバルブ1225のポジションセンサ異常
16)出力側ストリームセレクトバルブ1226のポジションセンサ異常
17)ポンプ、流路の圧力センサ異常
18)システム試薬ユニット1221、リフタのポジションセンサ異常
19)システム試薬ユニット1221の重量センサ
20)シリンジ圧力センサの圧力センサ異常
21)カラムオーブン、ヒータの温度異常
22)カラムオーブン、ヒートブロックの温度異常
23)カラムオーブン、分離カラム表面の温度異常
24)イオン源の温度異常
25)イオン源の電圧異常
26)イオン源の電流異常
27)Q0(突入、内部、出口)の電圧/電流異常
28)Q1(突入、内部、出口)の電圧/電流異常
29)Q2(突入、内部、出口)の電圧/電流異常
30)Q3(突入、内部、出口)の電圧/電流異常
なお、判定項目および判定方法は、上記したものに限定されるものではない。
【0053】
制御装置110は、システム出力情報を経時的に取得し、経時変化のシステム出力情報を図示しない表示装置に表示する。表示装置に表示される表示画面では、横軸に経時変化情報を、縦軸にシステム出力情報をプロットしてグラフ表示する。例えば、縦軸には、正常用システムアラームデータベース112とシステム出力情報とを比較した場合の偏差の割合が示される。
【0054】
図6~
図8は、表示装置に表示される表示画面の一例を示す図である。
図6は、経時変化情報とシステム出力情報の関係であって横軸(時間軸)を1時間単位で設定した場合を、
図7は横軸(時間軸)を1日単位で設定した場合を、
図8は横軸(時間軸)を1月単位で設定した場合を示している。
図6~
図8においては、一例として、シリンジ圧力センサの圧力センサ異常について示している。なお、横軸のプロット間隔は、例えば全データ、日毎、月毎のデータで表示することができ、シリンジ圧力センサの状態を確認することができる。
【0055】
シリンジ圧力センサでは、正常用システムアラームデータベース112と比較したシステム出力情報の偏差が±20%が正常範囲のしきい値であり、このしきい値を外れるとシステム出力情報が異常値と判断され、システムアラームデータベース111に格納される。システムアラームが発行され、ユーザがシステムアラームと同時に発行される処置方法にしたがい対応することになる。他のシステム出力情報においても、同様に他のシステム出力情報に関しても縦軸に正常用システムアラームデータベース112と比較したシステム出力情報の偏差の割合、横軸に経時変化情報をプロットしたシステム出力情報を表示する画面を表示することができ、各システム出力情報の状態を経時変化を把握することができる。
【0056】
従来技術に自動分析装置における予兆診断では、各センサのある時間のシステム出力情報の値を正常用システムアラームデータベースと比較し異常を検知していた。また、経時変化の情報に,基づいて部品の調整、部品の交換タイミングを適切に実施し、装置故障による装置ダウンタイムの低減をはかっていた。
【0057】
これに対して、本実施の形態においては、分析装置120で生成されたシステム出力情報を格納するシステムアラームデータベース111に加えて、分析装置120で生成されたデータ出力情報を格納するデータアラームデータベース114の各情報または組み合わせた情報に基づいて、部品の調整、部品の交換タイミングおよび装置内の不具合箇所の把握し、予兆診断を実施することで、装置故障による装置ダウンタイムの低減をはかることができる。
【0058】
ここで、システム出力情報およびデータ出力情報を用いて、どのように部品の調整、部品の交換タイミングおよび装置内の不具合箇所の把握し、予兆診断を実施するかをより具体的に説明する。
【0059】
<A:圧力センサ(上昇)、圧力センサ(圧力カーブ)、保持時間>
ポンプユニット1222a,1223a,1224aは、設定流量を維持するために駆動する2つのシリンダ、流路内の空気を除去するために流路と廃液を切り替えるオートパージバルブ、流路内の圧力を監視するポンプ圧力センサから構成され、ポンプユニット1222a,1223a,1224aから下流の流路の圧力異常を検知する。各シリンジに圧力センサは設置され、ポンプユニット1222a,1223a,1224a後段の流路およびバルブ等の構成部品のつまりを検知することができる。また、「測定準備動作」のポンプ送液のグラジエントプログラムにおける圧力カーブ情報を出力する。前者はポンプ内のポンプシールや、接続部の耐圧を超過すると、部品劣化やリークのリスクがあることから80MPaのしきい値を設け、超過するとシステムアラームを生成し、装置を停止する。後者は、圧力カーブが正常時と異なる場合、例えば圧力カーブ立ち上がりが早いである場合は流路、接続部またはカラム本体が詰まりかけている、もしくは立ち上がりが遅い場合は流路、接続部またはカラム劣化(デッドボリューム)のリークが疑われる。また、定常圧力が正常時の値より高い場合は、圧力つまりが疑われ、低い場合はリークが疑われる。この場合、データアラームが生成される。
【0060】
一方、内部標準物質の保持時間に着目すると、保持時間が正常時よりも早い場合は、ポンプの送液不良(設定より高流速の場合)が疑われ、保持時間が遅い場合は、ポンプ送液不良(設定よりも低流速の場合)や流路、接続部またはカラム劣化(デッドボリューム)が疑われる。この場合、データアラームが生成される。
【0061】
ポンプ圧力と保持時間の関係が相関することがある。この場合、不具合原因の特定が容易となる。圧力センサ値のシステムセンサ情報のみを抽出した場合は、ユーザは装置異常を認識することができる。しかしながら、その対処方法については特定箇所の選別は難しく、結局はサービスパーソンに依頼して対応することになるため、装置のダウンタイムが長くなる。一方、保持時間情報および圧力カーブ情報のデータアラームと関連づけて情報を抽出することで、対処方法の抽出が容易になる。つまり、システムアラーム情報である圧力超過、データアラーム情報である保持時間および圧力カーブ情報の経時変化の情報を抽出することで、日々の装置状態を把握することができる。
【0062】
具体的には以下のように推測することができる。
1)突然、圧力が変化して、かつ内部標準物質のピークが検出することができない場合、流路のつまりである可能性が高いと予測できる。
2)定期的に圧力カーブ情報と保持時間が経時変化している場合、カラム劣化(つまりも含む)である可能性が高いと予測できる。
【0063】
上記の1)の場合には、流路のつまりが高いと予測できるため、ユーザは圧力つまり箇所の予測されるためのメンテナンスメニューを実施する。圧力つまり箇所の特定後、ユーザが作業できる項目、例えばイオン源のプローブ交換等は部品交換を実施し、その他はサービスパーソンが部品交換を実施することができる。
また、上記の2)の場合には、ユーザはカラム交換のメンテナンスメニューを実施する。経時変化の情報が取得されているため、圧力カーブ情報と保持時間が経時変化している情報をGUI上に表示し、ユーザに明示することができる。
【0064】
<B:S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)、イオン源のプローブ印加電流値>
分離部(HPLC)122から内部標準物質が含まれる溶液が送液され、イオン源で高温、高電圧、高電流が印加され、イオン化される。内部標準物質が含まれる溶液には、ギ酸、酢酸アンモニウム、アンモニウム等の塩が含まれ、イオン化の過程で揮発性物質の酢酸アンモニウム塩および夾雑物が析出することがある。夾雑物は、HPLCの溶媒由来、流路部品の特にプラスチック部材由来、分離カラムで濃縮された成分由来が考えられる。イオン源のプローブは洗浄液で定期的に洗浄され、析出のリスクを軽減する。しなしながら、長期的な連続使用で塩が析出する場合がある。その際にはイオン源のプローブ表面または、イオン源入口のカウンタープレート上への塩および夾雑物の析出により、電圧印加が設定値に到達しない。この場合、析出した塩および夾雑物の影響により、検出部(MS)が出力する内部標準物質のm/zと同様のm/zをもつ塩および夾雑物由来の信号が検出される。内部標準物質のピークは分離部(HPLC)122の分離カラム1222c,1223c,1224cで濃縮され、同じHPLCグラジエントプログラムであれば、分離カラム1222c,1223c,1224cから溶出するタイミングは変化がない。つまり、決まった保持時間で内部標準物質のピークは検出される。析出した塩および夾雑物の影響により、内部標準物質のピークはイオン化阻害が生じ、本来のピーク強度より低くなる。検出部(MS)が出力する内部標準物質のm/zと同様のm/zをもつ塩および夾雑物由来の信号は保持時間に関係なく、常に一定量で検出され、一定量のバックグラウンドピークとして検出される。S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)の経時変化の情報を抽出することで、日々の装置状態を把握することができる。
【0065】
また、S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)とイオン源の電圧の関係が相関することがある。この場合、不具合原因の特定が容易となる。これまでのようにイオン源の電圧値のシステムセンサ情報のみを抽出した場合は、ユーザはイオン源の電圧異常を認識することができる。しかしながら、その対処方法については特定箇所の選別は難しく、結局はサービスパーソンに依頼して対応することになるため、装置のダウンタイムが長くなる。一方、S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)およびイオン源の電圧の関係情報のデータアラームと関連づけて情報を抽出することで、対処方法の抽出が容易になる。つまり、システムアラーム情報である圧力超過、データアラーム情報であるS/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)およびイオン源の電圧の関係情報の経時変化の情報を抽出することで、日々の装置状態をより詳細に把握することができる。
【0066】
具体的には、以下のように判断することができる。
1)突然、イオン源の電圧が変化して、かつ内部標準物質のピークが検出することができない場合、イオン源に電圧を印加するセンサ自体および電圧監視をしている部品そのもの不具合である可能性が高いと予測できる。
2)S/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)およびイオン源の電圧の関係情報が経時変化している場合、イオン源のプローブまたはイオン源入口のカーテンプレートが汚染された可能性が高いと判断できる。
【0067】
上記の1)の場合には、イオン源に電圧を印加するセンサ自体および電圧監視をしている部品の不具合の可能性が高いと予測できるため、サービスパーソンが部品交換を実施することになる。
また、上記2)の場合には、ユーザはイオン源のプローブまたはイオン源入口のカーテンプレートの汚染を除去するメンテナンスメニューを実施する。メンテナンス前後のイオン源の電圧値を比較する、メンテナンス前後のS/N(ピーク強度/バックグラウンドの比)を比較することで汚染源除去の状態を把握することができる。
【0068】
<C:シリンジ圧力センサの圧力値、内部標準物質のピーク強度(面積)>
試料導入ユニット1222b,1223b,1224bは、検体を吸引/吐出するシリンジと、シリンジの吸引/吐出状態を監視するシリンジ圧力センサを有する。前処理部(SP)121での前処理中に磁性ビーズが処理溶液に残存する、検体中の粘性成分、たとえばフィブリンの除去が不十分な場合に、試料導入のため、シリンジ吸引/吐出時に圧力センサから出力される圧力値が正常システムアラームと比較し、異常であると判断される。この場合は、システムアラームを生成し、GUI上に表示し、ユーザに明示することができる。また、異常値とは判断されないが、定期的な経時変化の情報で段階的に圧力値のピークが変化している情報が抽出される場合がある。
【0069】
一方、内部標準物質のピーク強度(面積)の定期的な経時変化の情報で段階的に取得し、ピーク強度(面積)が正常データアラームと比較し、異常であると判断される場合ある。この場合は、データアラームを生成し、GUI上に表示し、ユーザに明示することができる。また、異常値とは判断されないが、定期的な経時変化の情報で段階的にピーク強度(面積)が変化している情報が抽出される場合がある。
【0070】
具体的には、以下のように判断することができる。
1)突然、シリンジ圧力センサから出力される圧力値が変化して、かつ内部標準物質のピーク強度(面積)が検出することができない場合、圧力センサ部品そのもの不具合である可能性が高いと判断できる。
2)定期的にシリンジ圧力センサおよび内部標準物質のピーク強度(面積)の関係情報が経時変化している場合、試料導入ユニット1222b,1223b,1224bを構成する流路の汚染による詰まりの可能性が高いと判断できる。
【0071】
上記の1)の場合には、シリンジ圧力センサの不具合の可能性が高いと判断できるため、サービスパーソンが部品交換を実施することができる。
また、上記の2)の場合には、ユーザは、メンテナンスメニューから試料導入ユニット1222b,1223b,1224bの洗浄のメンテナンス項目を実施し、その後、装置チェックを実施し、シリンジ圧力センサの値をモニタしながら、内部標準物質を測定し、内部標準物質のピーク強度(面積)の情報を正常値と比較することで装置状態の復帰作業を実施することができる。
【0072】
<D:重量センサ値(システム試薬ユニット)、圧力センサ(圧力カーブ)、保持時間>
試料導入ユニット1222b,1223b,1224bは、検体を吸引/吐出するシリンジと、シリンジの吸引/吐出状態を監視するシリンジ圧力センサを有する。システム試薬ユニット1221に架設される各試薬ボトル下部には重量センサが設置されており、各試薬ボトルの試薬量の監視を実施し、試薬が規定値より少なくなると試薬不足を検知する重量センサがある。検体を吸引/吐出中に、重量センサの検知により、試薬ボトルの試薬不足を検知する。試薬ボトルの試薬不足のしきい値は試薬ボトルの残量値が20%以下になると「警告」のシステムアラームを発行する。10%以下になると測定結果に影響があることからデータアラームを発行する。しかしながら、試薬ボトルからポンプ流路までの配管中には試薬が残存しているため、データアラームが発行されてから数測定の結果に影響しない可能性がある。つまり、試薬ボトル内の溶媒が10%以下になった場合でも、ポンプ以降の溶媒が残存していた場合は、測定結果に影響を与えない。
【0073】
ポンプユニット1222a,1223a,1224aは、流路内の圧力を監視するポンプ圧力センサを有し、ポンプユニット1222a,1223a,1224aから下流の流路の圧力異常を検知する。「測定準備動作」のポンプ送液のグラジエントプログラムにおける圧力カーブ情報を出力することができる。ポンプ内のポンプシールや、接続部の耐圧を超過すると、部品劣化やリークのリスクがあることから80MPaのしきい値を設け、超過するとシステムアラームを生成し、装置を停止する。また、圧力カーブが正常時と異なる場合、圧力カーブ立ち上がりが遅い場合は、試薬ボトルの試薬不足により、ポンプ以降の溶媒が不足していることが疑われる。一方、内部標準物質の保持時間に着目すると、保持時間が遅い場合は、試薬ボトルの試薬不足によりポンプ以降の溶媒が不足していることが疑われる。
【0074】
このように、重量センサ(システム試薬ユニット)の出力値が10%以下になると、該当検体以降の検体について、当該項目にデータアラームを発行するのではなく、圧力カーブが正常状態と異なる挙動をしめしたとき、保持時間のしきい値より遅い場合は、試薬ボトルの試薬不足によりポンプ以降の溶媒が不足していることが疑われ、該当検体以降の検体について、当該項目にデータアラームを発行する。
【0075】
以上のように、システム出力情報およびデータ出力情報について説明した。システム出力情報および内部標準物質を指標としたデータ出力情報の取得は、「本測定動作」で実施されるキャリブレーション測定、QC(Quality Control)測定および検体測定を実施しなくても、装置の異常状態を把握することができる。具体的には、「本測定動作」前に、ユーザまたはサービスパーソンがメンテナンス項目を選択し実施する「測定前準備」で装置チェックを一定期間ごとに実施する。好ましくは毎朝の立上げ時に装置チェックを実施し、その装置チェック時に出力される装置のシステムアラームおよび内部標準物質を指標としたデータアラーム情報の経時変化情報を解析することで、キャリブレーション試薬、QC試薬および検体を無駄に消費することなく、装置の予兆診断を実施することができる。
【0076】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0077】
100…自動分析装置、100…臨床診断システム、101…試料容器ラック、101a…試料容器、110…制御装置、111…システムアラームデータベース、112…正常用システムアラームデータベース、113…システムアラーム判定部、114…データアラームデータベース、115…正常用データアラームデータベース、116…データアラーム判定部、120…分析装置、121…前処理部(SP)、122…分離部(HPLC)、122a…ポンプユニット、123…検出部(MS)、124…質量分析用解析処理部、130…外部コンピュータ、131…統合プラットフォーム、1211…検体搬送ユニット、1212…反応ディスクユニット、1212a…反応容器、1213…検体プローブ、1214…試薬ディスクユニット、1214a…試薬容器、1214b…試薬分注ユニット、1215…試薬容器保持ユニット、1215a…試薬プローブ、1216…洗浄プローブ、1217…洗浄ユニット、1218…分離部搬送ユニット、1221…システム試薬ユニット、1222…HPLC1ストリーム、1222a…ポンプユニット、1222b…試料導入ユニット、1222c…分離カラム、1223…HPLC2ストリーム、1223a…ポンプユニット、1223b…試料導入ユニット、1223c…分離カラム、1224…HPLC3ストリーム、1224a…ポンプユニット、1224b…試料導入ユニット、1224c…分離カラム、1225…入力側ストリームセレクトバルブ、1226…出力側ストリームセレクトバルブ、1231…イオン源ユニット、1232…質量分析計