(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】研磨砥石の製造方法、及び研磨砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 99/00 20100101AFI20240909BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240909BHJP
B24D 3/18 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
B24D99/00 E
B24D3/00 340
B24D3/00 350
B24D3/18
(21)【出願番号】P 2020099136
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】馬路 良吾
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-507241(JP,A)
【文献】特開平04-111777(JP,A)
【文献】特開2016-196050(JP,A)
【文献】特開2002-283244(JP,A)
【文献】特開平01-246076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185636(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 99/00
B24D 3/00
B24D 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨砥石の製造方法であって、
ガラス粒を型枠に供給するガラス粒供給ステップと、
該ガラス粒が収容された該型枠
(ただし、発泡剤が収容された場合を除く)を該ガラス粒の軟化点を超え融点未満の温度で加熱し、研磨砥石となるガラスブロックを形成する焼成ステップと、を備え、
該焼成ステップは、該ガラス粒間の隙間に気泡が分散して残存した状態で加熱を終了することを特徴とする研磨砥石の製造方法。
【請求項2】
該ガラス粒は、ソーダガラス、長石、または、ホウケイ酸ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の研磨砥石の製造方法。
【請求項3】
該焼成ステップ実施後の該ガラスブロックは、表面粗さ(Ra)が0.2μm以上1.5μm以下で気孔率が2%以上8%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨砥石の製造方法。
【請求項4】
該焼成ステップは、1時間以上2時間以内で実施されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の研磨砥石の製造方法。
【請求項5】
金属又はセラミックスの面を研磨するための研磨砥石であって、
表面粗さ(Ra)が0.2μm以上1.5μm以下であり、気孔率が2%以上8%以下であるガラスブロックで構成されたことを特徴とする研磨砥石。
【請求項6】
砥粒を含まないことを特徴とする請求項5に記載の研磨砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属またはセラミックスの面の研磨に使用される研磨砥石の製造方法と、研磨砥石と、に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やセラミックスの表面を加工すると、微小な凹凸やバリとよばれる微小な突起が該表面に生じることがある。そのような凹凸やバリを該表面から除去するために使用される研磨砥石として、アルカンサス砥石が知られている。アルカンサス砥石は、例えば、半導体ウェーハ等の被加工物を加工する加工装置において、該被加工物を保持するチャックテーブルを支持するテーブルベースの洗浄に使用される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルカンサス砥石は、アメリカ合衆国のアーカンソー州で産出される天然のオイルストーンである。アルカンサス砥石は、天然の産出物であるため、高価で貴重であり、また、性質が不均一となりやすく個体差も大きい。そこで、アルカンサス砥石の代用品として使用できる研磨砥石や、アルカンサス砥石よりもばらつきの少ない高品質な研磨砥石が求められている。
【0005】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属やセラミックスの表面の研磨に使用できる新たな研磨砥石の製造方法及び研磨砥石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、研磨砥石の製造方法であって、ガラス粒を型枠に供給するガラス粒供給ステップと、該ガラス粒が収容された該型枠(ただし、発泡剤が収容された場合を除く)を該ガラス粒の軟化点を超え融点未満の温度で加熱し、研磨砥石となるガラスブロックを形成する焼成ステップと、を備え、該焼成ステップは、該ガラス粒間の隙間に気泡が分散して残存した状態で加熱を終了することを特徴とする研磨砥石の製造方法が提供される。
【0007】
好ましくは、該ガラス粒は、ソーダガラス、長石、または、ホウケイ酸ガラスである。
【0008】
また、好ましくは、該焼成ステップ実施後の該ガラスブロックは、表面粗さ(Ra)が0.2μm以上1.5μm以下で気孔率が2%以上8%以下である。
【0009】
さらに、好ましくは、該焼成ステップは、1時間以上2時間以内で実施される。
【0010】
また、本発明の他の一態様によれば、金属又はセラミックスの面を研磨するための研磨砥石であって、表面粗さ(Ra)が0.2μm以上1.5μm以下であり、気孔率が2%以上8%以下であるガラスブロックで構成されたことを特徴とする研磨砥石が提供される。
【0011】
好ましくは、砥粒を含まない。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る研磨砥石の製造方法では、ガラス粒を型枠に供給し、該ガラス粒の軟化点を超え融点未満の温度の加熱により研磨砥石となるガラスブロックが形成される。このとき、ガラス粒間の隙間に気泡が分散して残存した状態で加熱が終了される。そして、本発明の一態様に係る研磨砥石は、気孔が適度に存在する状態であり、性質が均一で個体差も小さい。該研磨砥石は、アルカンサス砥石に代用して金属やセラミックスの表面の研磨に好適に使用できる。
【0013】
したがって、本発明の一態様により、金属やセラミックスの表面の研磨に使用できる新たな研磨砥石の製造方法及び研磨砥石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ガラス粒供給ステップを模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(A)は、研磨砥石の一例を模式的に示す斜視図であり、
図3(B)は、研磨砥石の他の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】研磨砥石の製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施形態について説明する。本実施形態に係る研磨砥石の製造方法で製造される該研磨砥石は、アルカンサス砥石の代用品として使用可能である。従来、アルカンサス砥石は、金属やセラミックスの表面を加工したときに生じる微小な凹凸やバリとよばれる微小な突起を該表面から除去するための研磨砥石として使用されてきた。
【0016】
金属やセラミックスの加工された表面を研磨するにあたり、該表面の微小な凹凸やバリを確実に除去したいとの要求がある一方で、研磨により過度に該表面を損耗させたり該表面に損傷を与えたりしないことが求められる。アルカンサス砥石は、石英を主成分とした比較的硬い砥石である一方で、研磨時に潤滑剤として使用される油(オイル)や水等を適度に保持できる気孔(気泡)を含み、金属やセラミックスの表面の研磨に好適である。
【0017】
しかしながら、アルカンサス砥石は天然の産出物であるため、埋蔵量には限りがあり貴重である上、品質が不均一となりやすく個体差も大きくなりやすい。そこで、アルカンサス砥石に代用できる人造研磨砥石が求められていた。ただし、硬い材料で形成される一方で気孔が適度に分散された良好な性質の人造研磨砥石の製造は容易ではなかった。
【0018】
本実施形態に係る研磨砥石の製造方法は、このような良好な性質の研磨砥石の製造を可能とした。以下、該製造方法の各ステップについて説明する。
図4は、各ステップの流れを示すフローチャートである。該製造方法では、まず、ガラス粒を型枠に供給するガラス粒供給ステップS10を実施し、次に、型枠を加熱して研磨砥石となるガラスブロックを形成する焼成ステップS20を実施する。
【0019】
図1は、ガラス粒供給ステップS10を模式的に示す断面図である。
図1には、研磨砥石となるガラスブロックの原料となるガラス粒1が収容された容器2の側面図と、型枠4の断面図と、が模式的に示されている。型枠4は、後述の焼成ステップS20における加熱温度に耐えられるセラミックス等で形成された本体6を有する。本体6の上面の中央には、ガラス粒1が投入される凹状の収容部8が設けられている。ガラス粒供給ステップS10では、容器2の供給口2aから収容部8にガラス粒1が投入される。
【0020】
収容部8に投入されたガラス粒1は、高温で焼成されてガラスブロックとなる。形成されたガラスブロックは、そのまま研磨砥石として使用されてもよく、所定の形状に整形されて研磨砥石として使用されてもよい。ガラスブロックの形状は、収容部8の形状が反映された形状となる。そのため、ガラスブロックをそのまま研磨砥石とする場合、ガラス粒供給ステップS10では、製造しようとする研磨砥石の形状に合った形状の収容部8を有する型枠4を選択して使用するとよい。
【0021】
ガラス粒1の材質は、例えば、ソーダガラス、長石、または、ホウケイ酸ガラス等である。また、ガラス粒1は、φ50μm~φ150μm程度の粒径のものを使用するよい。ただし、収容部8に収容される一部のガラス粒1の粒径がこの範囲から外れていてもよく、主要なガラス粒1の粒径がこの範囲を満たしていればよい。
【0022】
例えば、主要なガラス粒1の粒径がφ50μm未満であると、ガラス粒1の取り扱いが難しくなり、ガラス粒1が型枠4の収容部8に収まりにくくなる。その一方で、主要なガラス粒1の粒径がφ150μmより大きいと、形成されるガラスブロックに適度な大きさで適度に分散された気孔が形成されにくくなる。例えば、ガラスブロック中で気孔が互いに接続されて、被研磨物の研磨を実施する際に研磨砥石に供給された油や水等の潤滑剤が内部に浸透し、被研磨物に接触する面に十分に潤滑剤が保持されなくなる場合がある。
【0023】
ガラス粒供給ステップS10では、形成しようとする体積に対応した量でガラス粒1を型枠4の収容部8に供給する。このとき、収容部8に収容されたガラス粒1の上面を平坦にならしつつ余分な空間が残らないように、型枠4に振動を与えるとよい。例えば、振動を1分間未満の時間で型枠4に与えるとよい。振動は、均質な研磨砥石の製造に寄与する要素の一つとなる。
【0024】
ガラス粒供給ステップS10の次に、焼成ステップS20を実施する。
図2は、焼成ステップS20を模式的に示す断面図である。
図2に示す通り、収容部8にガラス粒1を収容する型枠4は、加熱炉10の内部空間12に収容され、加熱される。加熱炉10に収容される際、型枠4の上部には、型枠4の収容部8を閉じるための蓋体14が載せられる。蓋体14は、例えば、型枠4と同様の材料で構成され、ガラス粒1を焼成する際の加熱温度に耐えられる。
【0025】
加熱炉10は、内部空間12を所定の温度に加熱するための電熱線等の熱源(不図示)を備える。焼成ステップS20では、ガラス粒1が収容された型枠4をガラス粒1の軟化点を超え融点未満の温度で加熱し、研磨砥石となるガラスブロックを形成する。ここで、ガラス粒1の軟化点とは、温度を上昇させていったときに該ガラス粒1が変形し始める際の温度をいう。軟化点は、ガラス粒1の材質や構造等の性質により異なり、融点よりも低い温度である。
【0026】
焼成ステップS20では、ガラス粒1がソーダガラスである場合、720℃より高く1000℃未満の温度で型枠4を加熱する。また、ガラス粒1が長石である場合、900℃より高く1350℃未満の温度で型枠4を加熱する。さらに、ガラス粒1がホウケイ酸ガラスである場合、820℃より高く1250℃未満の温度で型枠4を加熱する。
【0027】
そして、焼成ステップS20では、ガラス粒1間の隙間に気泡が分散して残存した状態で加熱を終了する。例えば、ガラス粒1の温度が融点を超えると、ガラス粒1が液化してガラス粒1間の隙間の気泡が抜けてしまう。この場合、形成されるガラスブロックを研磨砥石として使用しようとしても、潤滑剤を該研磨砥石が保持しなくなるため、被研磨物を適切に研磨できない。
【0028】
また、ガラス粒1の温度が融点を超えない場合においても、ガラス粒1が軟化点よりも高い温度に長期間曝されると、同様にガラス粒1間の気泡が抜けてしまう。そこで、焼成ステップS20では、1時間以上2時間以内の時間でガラス粒1が加熱されるのが好ましい。焼成ステップS20を実施すると、研磨砥石として使用できるガラスブロックが形成される。その後、型枠4が加熱炉10から取り出され、ガラスブロックが型枠4から取り出される。
【0029】
図3(A)は、直方体状のガラスブロックで構成された研磨砥石3を模式的に示す斜視図であり、
図3(B)は、円板状のガラスブロックで構成された研磨砥石5を模式的に示す斜視図である。本実施形態に係る研磨砥石の製造方法では、型枠4の収容部8の形状を変更することで自在な形状で研磨砥石を製造できる。
【0030】
ここで、焼成ステップS20の実施後のガラスブロック(研磨砥石3,5)の表面3a,5aの表面粗さ(Ra)を測定すると、0.2μm以上1.5μm以下となる。すなわち、表面3a,5aが非常に平坦であることが理解される。本実施形態に係る研磨砥石の製造方法では、砥粒をガラス粒1に混入させないため、砥粒を含まない研磨砥石3,5が得られる。そのため、表面3a,5aの平坦性が極めて高くなり、金属やセラミックスの表面を研磨砥石3,5で研磨してもスクラッチ等の損傷が被研磨面に生じることもない。
【0031】
また、製造された研磨砥石3,5の気孔率は、気孔率が2%以上8%以下とされる。ここで、気孔率とは、研磨砥石3,5の全体積中の気孔が占める体積の割合をいう。研磨砥石3,5の気孔率が2%未満であると、潤滑剤である油を適度に保持しにくくなる。その一方で、気孔率が8%を超えると、気孔同士が接続されて潤滑剤が研磨砥石3,5の内部に浸透しやすくなり、必要な量の油が表面に残りにくくなる。
【0032】
また、気孔率が高すぎて研磨砥石3,5の表面3a,5aに多くの気孔が露出するようになると、被研磨物の表面に生じているバリ等が気孔に当たりやすくなる。バリ等が気孔に当たると、その部分で被研磨物に欠け等の損傷が生じやすくなる。したがって、気孔が多すぎると加工品質を低下させる要因となる。
【0033】
なお、本実施形態に係る研磨砥石の製造方法では、焼成ステップS20を実施した後、形成されたガラスブロックの表面の平坦性をさらに高めるため、該表面を研磨する研磨ステップをさらに実施してもよい。製造された研磨砥石3,5の用途に応じた必要な平坦性を確保するために、表面3a,5aが適宜研磨されるとよい。
【0034】
さらに、焼成ステップS20を実施した後、ガラスブロックを所定の形状の研磨砥石に整形する整形ステップを実施してもよい。該整形ステップでは、例えば、ガラスブロックを円環状の切削ブレードで切削したり、円板状の研削砥石で研削したりすることでガラスブロックを整形する。これにより、用途に応じた様々な形状の研削砥石を製造できる。
【0035】
製造された研磨砥石を使用して金属やセラミックス等の被研磨物を研磨すると、生じた加工屑等が研磨砥石の表面に溜まり、目詰まりを生じさせる場合がある。この場合、研磨砥石の表面を研磨・研削して目詰まりした部分を除去し、新たな表面を露出させることで該研磨砥石の研磨能力を回復できる。
【0036】
以上に説明する通り、本実施形態に係る研磨砥石の製造方法によると、アルカンサス砥石の代用品として使用できる研磨砥石3,5を製造できる。形成された研磨砥石3,5は表面の平坦性が高く、適度な気孔率を有するため、加工された金属やセラミックスの表面の研磨に好適に使用できる。
【0037】
その上、製造された研磨砥石3,5は、天然の産出物であるアルカンサス砥石とは異なり均質であり、個体差のばらつきも小さくなる。特に、ガラス粒供給ステップで型枠4に供給されるガラス粒1にソーダガラスを使用すると、焼成ステップS20における型枠4の加熱温度を比較的低く抑えられるため、研磨砥石3,5を容易かつ安価に製造できる上、より性質が安定する。
【0038】
なお、上記実施形態では、研磨砥石3,5が金属やセラミックスの表面の研磨に用いられることについて説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、研磨砥石3,5は他の用途に使用されてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、ガラス粒供給ステップS10で型枠に振動を与えて気泡を抜いてガラス粒1の上面を平坦にならす場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、ガラス粒1の上面は他の方法で平坦にならされてもよく、平らな形状を有する治具でならされてもよい。
【0040】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0041】
1 ガラス粒
3,5 研磨砥石
3a,5a 表面
2 容器
2a 供給口
4 型枠
6 本体
8 収容部
10 加熱炉
12 内部空間
14 蓋体