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特許7551534インターポレータを備えたレーザー干渉測長器及びインターポレート方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】インターポレータを備えたレーザー干渉測長器及びインターポレート方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 9/02 20220101AFI20240909BHJP
【FI】
G01B9/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021027221
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128800
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】高久 正和
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-288159(JP,A)
【文献】特開2013-257158(JP,A)
【文献】特開平02-122966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/02ー 9/029
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が等しい同周期の互いに90°位相の異なる2相信号である二光波間の干渉信号をインターポレータに入力して、位相と比例関係にある被測定対象の変位を求めるレーザー干渉測長器において、
前記2相信号の絶対値電圧を出力する絶対値回路と、該絶対値回路の出力電圧の位相をφだけ回転させて出力するφ(位相)回転回路と、をオペアンプで構成された前記インターポレータと、
前記インターポレータの出力をグレイコードとして2進数に変換するロジック回路と、
を備えたことを特徴とするレーザー干渉測長器。
【請求項2】
前記絶対値回路と、前記φ(位相)回転回路と、を多段に使用したことを特徴とする請求項1に記載のレーザー干渉測長器。
【請求項3】
前記インターポレータは、
前記2相信号のA相とB相とが電圧信号A1、B1として前記インターポレータへそれぞれ入力され、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換し、前記ロジック回路のビットG0、G1に入力する第1ブロックと、
nを2以上の整数として、第n―1ブロックから出力されるAn―1、Bn―1の電圧信号が入力され、前記電圧信号のそれぞれに対応する前記絶対値回路を通して、前記φ(位相)回転回路であるπ/2回転回路に入力し、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換して前記ロジック回路のビットGnに入力する第nブロックと、
を備え、得られた前記ビットG0、G1、……Gnはn+1ビットのグレイコードを構成することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー干渉測長器。
【請求項4】
前記インターポレータは、少なくとも8ビットのグレイコードを出力することを特徴とする請求項3に記載のレーザー干渉測長器。
【請求項5】
周波数が等しい同周期の互いに90°位相の異なる2相信号をインターポレータへ入力して内挿分割するインターポレート方法であって、
前記2相信号の絶対値電圧を出力する絶対値回路と、該絶対値回路の出力電圧の位相をφだけ回転させて出力するφ(位相)回転回路と、をオペアンプで構成し、前記φ(位相)回転回路の出力をグレイコードとして2進数に変換することを特徴とするインターポレート方法。
【請求項6】
前記絶対値回路と、前記φ(位相)回転回路と、を多段に使用したことを特徴とする請求項5に記載のインターポレート方法。
【請求項7】
前記インターポレータは、
前記2相信号のA相とB相とが電圧信号A1、B1として前記インターポレータへそれぞれ入力され、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換し、ロジック回路のビットG0、G1に入力する第1ブロックと、
nを2以上の整数として、第n―1ブロックから出力されるAn―1、Bn―1の電圧信号が入力され、前記電圧信号のそれぞれに対応する前記絶対値回路を通して、前記φ(位相)回転回路であるπ/2回転回路に入力し、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換して前記ロジック回路のビットGnに入力する第nブロックと、
を備え、得られた前記ビットG0、G1、……Gnをn+1ビットのグレイコードとすることを特徴とする請求項5又は6に記載のインターポレート方法。
【請求項8】
前記インターポレータは、少なくとも8ビットのグレイコードを出力することを特徴とする請求項7に記載のインターポレート方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて被測定物の変位を測定するレーザー干渉測長器に係り、特に、インターポレータを備えたレーザー干渉測長器及びインターポレート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周波数が等しい同周期の互いに90°位相の異なる2相信号である二光波間の干渉信号をインターポレータ(内挿分割器)に入力して、位相と比例関係にある被測定対象の変位を高分解で求めるホモダイン型レーザー干渉測長器が知られている。そして、通常、インターポレータは、2相信号をA/D変換器でデジタル信号に変換し、二つのデジタル信号で作られるリサージュ内の角度を数値計算、あるいは角度データルックアップテーブルを用いて角度データを高分解で算出することが知られている。また、特許文献1、2は、アナログ信号をデジタルサンプリングしたデジタル信号の内挿分割処理を行うインターポレータについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-333156号公報
【文献】特開2005-136910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
A/D変換器で構成したインターポレータを用いた場合、レーザー干渉測長器の限界応答速度は、インターポレータを構成するA/D変換器の処理速度により決定される。原理的には、インターポレータに入力されるリサージュ信号の周波数が、A/D変換器のサンプリングレートの半分を超えると、インターポレータは位相の変化を判別できなくなる。そして、1周期以上で干渉信号が変化した場合、何周期変化したかの情報は、保持できない。
【0005】
実用的には、リサージュ信号の周波数が、A/D変換器のサンプリングレートに対して1/4程度を超えた場合に、位相判別エラーを出力する機構を設ける必要がある。そのため、限界応答速度を向上させるためには、A/D変換器のサンプリングレートを速くせざるを得ない。しかし、サンプリングレートの速いA/D変換器は、非常に高価である。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、A/D変換器のサンプリングレートの向上に頼ることなく、限界応答速度を向上させる。そして、応答速度に対する測定値の継続性及び信頼性を保つレーザー干渉測長器及びインターポレート方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、周波数が等しい同周期の互いに90°位相の異なる2相信号である二光波間の干渉信号をインターポレータに入力して、位相と比例関係にある変位を求めるレーザー干渉測長器において、前記2相信号の絶対値電圧を出力する絶対値回路と、該絶対値回路の出力電圧の位相をφだけ回転させて出力するφ(位相)回転回路と、をオペアンプで構成した前記インターポレータと、前記インターポレータの出力をグレイコードとして2進数に変換するロジック回路と、を備えたものである。
【0008】
また、上記のレーザー干渉測長器において、前記絶対値回路と、前記φ(位相)回転回路と、を多段に使用したことが望ましい。
【0009】
さらに、上記のレーザー干渉測長器において、前記インターポレータは、前記2相信号のA相とB相とが電圧信号A1、B1として前記インターポレータへそれぞれ入力され、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換し、前記ロジック回路のビットG0、G1に入力する第1ブロックと、nを2以上の整数として、第n―1ブロックから出力されるAn―1、Bn―1の電圧信号が入力され、前記絶対値回路10―n2、10―n3を通して、前記φ(位相)回転回路であるπ/2回転回路10―n1に入力し、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換して前記ロジック回路のビットGnに入力する第nブロックと、を備え、得られた前記ビットG0、G1、……Gnはn+1ビットのグレイコードを構成することが望ましい。
【0010】
さらに、上記のレーザー干渉測長器において、前記インターポレータは、少なくとも8ビットのグレイコードを出力することが望ましい。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、周波数が等しい同周期の互いに90°位相の異なる2相信号をインターポレータへ入力して内挿分割するインターポレート方法であって、前記2相信号の絶対値電圧を出力する絶対値回路と、該絶対値回路の出力電圧の位相をφだけ回転させて出力するφ(位相)回転回路と、をオペアンプで構成し、前記φ(位相)回転回路の出力をグレイコードとして2進数に変換する。
【0012】
また、上記のインターポレート方法であって、前記絶対値回路と、前記φ(位相)回転回路と、を多段に使用したことが望ましい。
【0013】
また、上記のインターポレート方法であって、前記インターポレータは、前記2相信号のA相とB相とが電圧信号A1、B1として前記インターポレータへそれぞれ入力され、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換し、ロジック回路のビットG0、G1に入力する第1ブロックと、nを2以上の整数として、第n―1ブロックから出力されるAn―1、Bn―1の電圧信号が入力され、前記絶対値回路10―n2、10―n3を通して、前記φ(位相)回転回路であるπ/2回転回路10―n1に入力し、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換して前記ロジック回路のビットGnに入力する第nブロックと、を備え、得られた前記ビットG0、G1、……Gnをn+1ビットのグレイコードとすることが望ましい。
【0014】
また、上記のインターポレート方法であって、前記インターポレータは、少なくとも8ビットのグレイコードを出力することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、インターポレータを2相信号の絶対値電圧を出力する絶対値回路と、絶対値回路の出力電圧の位相を回転させて出力するφ(位相)回転回路と、をオペアンプで構成する。そして、インターポレータの出力をグレイコードとし、グレイコード2進数に変換する。これにより、A/D変換器の処理速度に依存することなく、レーザー干渉測長器の限界応答速度を向上させ、かつ、応答速度に対する測定値の継続性及び信頼性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による一実施形態に係るレーザー干渉測長器の主要部のブロック図
図2】一実施形態によるインターポレータからマイコン等へ変位データとして取り込むまでの概略ブロック図
図3】グレイコードと2進数との関係を示す表(4ビットの場合)
図4】一実施形態によるインターポレータを示す回路図
図5】一実施形態による絶対値回路の例を示す回路図
図6】一実施形態によるπ/2回転回路の例を示す回路図
図7】一実施形態による図5の絶対値回路と図6のφ回転回路とを一つに纏めた回路図
図8】実施例と比較例との応答性を示した表
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、レーザー干渉測長器の主要部のブロック図であり、光学系からインターポレータまでを示している。
【0018】
干渉計30の光学系の動作を説明する。レーザー光源50は、紙面に垂直な偏光成分を持つ縦偏光(P偏光)レーザー光が出射されている。1/4波長板31は、非等方性結晶でできおり、結晶軸(異方軸)は、紙面に対して45°傾いている様に配置されている。レーザー光源50からのレーザー光は、1/4波長板31を通過すると円偏光のレーザー光が出力される。すなわち、縦偏光と横偏光の合成のレーザー光が出力される。
【0019】
合成のレーザー光は、偏光ビームスプリッタ(PBS)32により、横偏光が直進し、縦偏光は90°曲げられる。そして、直進した横偏光は、干渉計30を抜け出し、被測定対象60に設置されたミラー61に反射し、矢視のように干渉計30に戻ってくる。戻ってきた横偏光と、偏光ビームスプリッタ32で90°曲げられた縦偏光は、ビームスプリッタ33で合成される。
【0020】
合成された光は、偏光や合成の状態を維持しながらビームスプリッタ34で半分に分けられ、一方は直接に偏光板35に、他方は、ミラー36、1/4波長板37を通って偏光板38に至る。1/4波長板37の速軸は紙面に対して垂直となるように配置されている。1/4波長板37を通った合成波のうち、横偏光のみが90°位相の遅れたレーザー光となる。
【0021】
偏光板35と偏光板38の透過軸は、紙面に対して45°傾けて配置されている。したがって、偏光板35に入る合成波は、何の位相ずれも生じていないので、縦偏光と横偏光の和が出力される。偏光板38に入る合成波は、横偏光のみが90°位相が遅れた光なので、縦偏光と90°ずれた横偏光の和が出力される。フォトデテクタ40、39は、光の強度に比例した電圧が出力されるので、フォトデテクタ40は、縦偏光と横偏光の和の強度の電圧を出力する。フォトデテクタ39は、縦偏光と90°位相が遅れた横偏光の和の強度の電圧を出力する。
【0022】
フォトデテクタ40の出力は、縦偏光と横偏光の光路差が波長の整数倍と一致するときに強度が増し、その中間で強度が低下する。すなわち、フォトデテクタ40は、光路差に対してcos関数の関係にある電圧を出力する。フォトデテクタ39の出力は、縦偏光と横偏光の光路差にレーザー光波長の1/4を加えた距離が、波長の整数倍と一致するときに強度が増し、その中間で強度が低下する。すなわち、光路差に対してsin関数の関係にある電圧を出力する。
【0023】
フォトデテクタ40の出力であるA相は、フォトデテクタ39の出力であるB相との位相が90°ずれた正弦波の関係にある信号である。したがって、被測定対象60の移動方向の判別を行うことができ、移動距離(変位)は、位相が90°(π/2)ずれたA相とB相の信号を整形してレーザー光波長の1/4分割で認識できる。
【0024】
また、光を干渉させて得られるA相とB相の信号は、完全に正弦波であることから、インターポレータ(内挿分割器)に入力して、その位相と比例関係にある被測定対象60の変位をさらに高分解で求めることができる。この検出原理は、温度・気圧・空気の乱れから生じる光路の変化をキャンセルし、繰返し精度が高く安定した測長システムを実現できる。
【0025】
図2は、インターポレータ10からマイコン等へ変位データとして取り込むまでの概略ブロック図である。インターポレータ10は、周波数が等しい同周期の互いに90°位相の異なるA相とB相の2相信号である二光波間の干渉信号が入力される。本実施形態によるインターポレータ10は、A/D変換器を用いない。そして、インターポレータ10は、2相信号の絶対値電圧を出力する絶対値回路と、その絶対値回路の出力電圧の位相をφだけさせて出力するφ(位相)回転回路と、をオペアンプで構成される。
【0026】
さらに、インターポレータ10は、絶対値回路とφ(位相)回転回路とをブロックとして多段に使用してA相とB相との2相信号を分割する。そして、インターポレータ10の出力は、ロジック回路11にグレイコード(Gray code)化して入力され、マイコン等に入力できる2進数(バイナリコード)に変換される。
【0027】
図3は、グレイコードと2進数との関係を示す表である。グレイコードは、2進数の表現で、隣り合う値でビットの変化が1ビットしかない。例えば、4桁の2進数(バイナリコード)で考えると、10進数の「7」から「8」に変化する場合、2進数では「0111」から「1000」となり、4桁すべてのビットが0から1又は、1から0へと変化する。
【0028】
この「7」から「8」に変化する場合、異なるビット間の回路遅延の差により、最悪「1111」又は「0000」の値として読み込む可能性がある。グレイコードの場合は、隣り合う数値で、ビットの変化が1ビットしかないので、異なるビット間の遅延の差という問題は、本質的に発生しない。
【0029】
図4は、本実施形態によるインターポレータ10を示す回路図である。2相信号のA相とB相は、インターポレータ10のA1、B1へそれぞれ入力される。A1に入力される信号をVA、B1に入力される信号をVBとすると、位相θと入力電圧の関係は、V0を定数として、
VA=V0・cosθ
VB=V0・sinθ
と表せる。
【0030】
図4の第1ブロック10―1は、インターポレータ10のA1、B1への入力電圧のゼロクロスをとる。ゼロクロスは、ゼロ電圧と大小比較した結果をデジタル値に変換したものであり、図4では全てのゼロクロス回路において、入力電圧が0より大きい場合にLo(0)を出力し、0より小さい場合Hi(1)を出力するように符号を反転している。また、その結果は、ロジック回路11の上位ビットG0、G1に入力する。
【0031】
図4の第2ブロック10―2は、A1、B1への入力電圧に対し、絶対値の電圧を出力する絶対値回路10―22、10―23を介して、入力電圧の位相をπ/4回転させた電圧を出力するφ(π/4)回転回路10―21が配置されている。ここで、π/4=φとして、φ回転回路は、出力X'、Y'が入力X、Yに対して、
X'=cosφ・X-sinφ・Y
Y'=sinφ・X+cosφ・Y
となる回路である。なお、φ(π/4)回転回路10―21のX、Yは、A1、B1への入力信号を絶対値回路10―22、10―23をそれぞれ通過したものが入力される。そして、φ(π/4)回転回路10―21の出力X'の電圧が0より大きい場合にLo(0)を出力し、0より小さい場合Hi(1)を出力するようにして、ロジック回路11のG1の下位ビットG2に入力する。
【0032】
絶対値回路10―22の出力を横軸、絶対値回路10―23の出力を縦軸にとって変位に対する変化をみると、1周期の間に、位相0からπ/2の間を2往復することになる。よって、φ(π/4)回転回路10―21の出力A2を横軸、B2を縦軸にとって変位に対する変化をみると、位相π/4から3π/4の間を2往復することになる。よって、このA2のゼロクロスは、最初の位相π/4までに相当する変位ではLo、その後π/2に相当する変位ごとに、HiとLoを繰り返し、最後のπ/4に相当する変位でLoとなる。これは、3ビットのグレイコードの最下位ビットを表す。
【0033】
図4の第1ブロック、第2ブロックの構成により、出力されるG0、G1、G2は、1周期360°を8等分した3ビットのグレイコードとなる。3ビットのグレイコードは、それぞれの状態が位相情報と結びついている。また、このグレイコードにより、被測定対象60の変位により、このグレイコードが1周期以上した場合、それをカウントすれば何周期分の変位が発生したが分かる
【0034】
これにより、オペアンプのスルーレート相当で変化する干渉信号がインターポレータ10へ入力されても、インターポレータ10は、1周期以上に相当する変位に追随することができる。
【0035】
図4の第3ブロック10―3以降、第4ブロック10―4……、第nブロック10―nは、第2ブロックを多段に使用した構成することにより、1ビットずつグレイコードを増やしていく。例えば、第3ブロック10―3は、第2ブロックから出力されるA2、B2の電圧信号が入力され、それぞれ絶対値回路10―32、10―33を通して、絶対値を取る。そして、その信号の組み合わせ信号は、φ(π/8)回転回路10―31に入力されて、位相がπ/8回転される。さらに、インターポレータ10は、φ(π/8)回転回路10―31の出力X'の電圧が0より大きい場合にLo(0)を出力し、0より小さい場合Hi(1)を出力し、ロジック回路11のG2の下位ビットG3に入力する。
【0036】
nを2以上の整数として、第nブロック10―nは、第n―1ブロックから出力されるAn―1、Bn―1の電圧信号が入力され、絶対値回路10―n2、10―n3を通して、それぞれ絶対値を取る。そして、その信号は、φ(π/2)回転回路10―n1に入力されて、位相がπ/2回転される。さらに、その信号は、ゼロ電圧と大小比較されて、結果は、デジタル値に変換される。例えば、インターポレータ10は、φ(π/2)回転回路10―n1の出力X'の電圧が0より大きい場合にLo(0)を出力し、0より小さい場合Hi(1)を出力し、ロジック回路11のビットGnに入力する。
【0037】
ここで第n―1ブロックの出力Anー1を横軸、Bn―1を縦軸にとって変位に対する変化をみると、1周期の間に、位相π/2-π/2n-1からπ/2+π/2n-1の間を2n-2往復すると考えられる。このとき、絶対値回路10―n2の出力を横軸、10―n3の出力を縦軸にとって変位に対する変化をみると、1周期の間に、位相π/2-π/2n-1からπ/2の間を2n-1往復すると考えられる。よって、φ(π/2)回転回路10―n1の出力Anを横軸、Bnを縦軸にとって変位に対する変化をみると、位相π/2-π/2からπ/2+π/2の間を2n-1往復すると考えられる。よって、このAnのゼロクロスは、最初の位相π/2までに相当する変位ではLo、その後π/2n-1に相当する変位ごとに、HiとLoを繰り返し、最後のπ/2に相当する変位でLoとなる。これは、nビットのグレイコードの最下位ビットを表す。
【0038】
得られたビットG0、G1、G2、G3……Gnは、n+1ビットのグレイコードを構成する。このグレイコードは、360°を2n+1等分に内挿分割(インターポレート)したことになる。また、本実施の形態は、構成されたグレイコードが1周期以上した場合、それをカウントするので、さらなる上位カウントと内挿分割とを有効に両立させることができる。なお、インターポレータ10は、少なくとも8ビットのグレイコードを出力することが望ましい。当該ビットおよびそれより上位のビット全ての排他的論理和をとることにより、グレイコードからバイナリコードへ変換することができる。
【0039】
図5は、絶対値回路10―n2、10―n3の例を示す回路図であり、2つの汎用オペアンプと少数のディスクリート素子(2つのスイッチングダイオード、負帰還の倍率を決める少数の抵抗素子)のみで構成される。図6は、φ(π/2)回転回路10―n1の例を示す回路図である。
【0040】
φ回転回路は、単なる定数倍と加減算を実現すれば良く、2つの汎用オペアンプと少数のディスクリート素子のみで構成できる。図7は、図5の絶対値回路10―n2、10―n3と図6のφ回転回路とを一つに纏めた回路図例を示すもので実質的に同じものである。なお、図5、6、7の回路には、その動作を安定させるために素子を追加してもよい。
【0041】
従来のようにA/D変換器で構成したインターポレータ10は、被測定対象60の移動速度が速く、入力される信号の周波数がA/D変換器のサンプリングレートの半分を超えると、位相の変化を判別できなくなり、それにより示される位置情報は信頼できないものとなる。特に何周期変化したかの情報は保持できなくなり、それ以降の正確な測定が継続できない。
【0042】
一方、図4の実施形態では、入力される信号の周波数が、オペアンプや周辺のディスクリート素子の動作速度を上まらない限り、位置の情報を失わずに測定を継続することができる。特に、何周期変化したかの情報を維持するには、上位2ビットのみが入力信号に追随していればよい。つまり、応答速度に対する測定値の継続性及び信頼性を保つことができる。図4の回路図における動作速度上のボトルネックは、従来がA/D変換器であるのに対してオペアンプとなる。
【0043】
オペアンプは、1000V/μsを超えるスルーレートのものが安価に入手可能である。例えば、オペアンプは、3000V/μsのスルーレートであっても安価に入手可能である。なお、3000V/μsのスルーレートは、応答周波数で約3GHzに相当する。それに対して、A/D変換器は、サンプリングレートが1GHzのものは非常に高価格である。したがって、図4で示した実施形態によれば、A/D変換器のサンプリングレートを向上させるよりも、はるかに安価に応答速度の向上を達成することができる。
【0044】
また、本実施形態は、高速にA/D変換器を動作させるための周辺制御回路が不要である。そして、ロジック回路11の動作速度は、オペアンプに比べても遥かに速くかつ安価であり、事実上コスト上昇なしに、エラー判別回路も設けることが可能である。
【0045】
図8は、実施例と比較例との応答性を示した表である。実施例を比較例と対比して説明する。比較例は、従来品のA/D変換器で構成したインターポレータであり、レーザー干渉測長器に用いられるフォトデテクタ40、39(図1参照)の限界応答速度が500MHz、A/D変換器のサンプリングレートは40MHzである。
【0046】
したがって、レーザー干渉測長器の限界応答速度は、インターポレータを構成するA/D変換器の処理速度により決定される。例えば、1周期316.4nm=632.8nm(レーザー光波長)/2(往復のため経路2倍)のうちに最低4点のサンプリングが必要とすると、316.4nm×(40MHz÷4)=3164mm/sとなる。これにより、比較例における限界応答速度(応答性)の仕様は、1000mm/sとしている。
【0047】
実施例は、レーザー干渉測長器に用いられるフォトデテクタ40、39(図1参照)を受光応答性の高いアバランシェフォトダイオードとしている。その限界応答速度は、4GHzであり、一方、オペアンプのスルーレートは、3000V/μsであり、約3GHzに相当する。1周期以上のミスカウントを起こさない上位ビットの限界応答速度(何周期変化したかを示す上位ビット)は、3倍マージンをとって1GHzとしても、316.4nm×1GHz=316400mm/sとなる。
【0048】
したがって、比較例に比べて何周期変化したかを示す上位ビットの限界応答速度は、300倍程度に向上したことになる。また、実施例において8ビットのグレイコードを出力する場合、最下位ビットの限界応答速度は、91048mm/sとなる。したがって、この場合でも実施例の限界応答速度は、比較例に比べて、90倍程度に向上したことになる。
【符号の説明】
【0049】
10…インターポレータ
10―1…第1ブロック
10―2…第2ブロック
10―21…φ(π/4)回転回路、10―22、10-23…絶対値回路
10―3…第3ブロック
10―31…φ(π/8)回転回路、10―32、10-33…絶対値回路
10―4…第4ブロック
10―n…第nブロック
10―n1…φ(π/2)回転回路、10―n2、10-n3…絶対値回路
11…ロジック回路
30…干渉計
31、37…1/4波長板
32…偏光ビームスプリッタ
33、34…ビームスプリッタ
35、38…偏光板
36、61…ミラー
39、40…フォトデテクタ
50…レーザー光源
60…被測定対象
G0、G1、G2、G3、Gn…ビット
X、Y…入力
X'、Y'…出力
θ…位相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8