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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】繊維強化複合材製フレーム
(51)【国際特許分類】
   B62D 29/04 20060101AFI20240909BHJP
   B60R 19/03 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
B62D29/04 A
B60R19/03 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021045403
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144407
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】河村 力
(72)【発明者】
【氏名】児玉 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】杉山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】服部 公一
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-200702(JP,A)
【文献】特開2015-193362(JP,A)
【文献】特開2014-004735(JP,A)
【文献】特開平09-254295(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0039574(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012014375(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08,25/14-29/04
B60R 19/03
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/24,39/38-39/44,
43/00-43/34,43/44-43/48,
43/52-43/58
B29C 41/00-41/36,41/46-41/52,
70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の角部を有する閉断面を構成するように所定方向に延設され、複数の樹脂層が積層された繊維強化複合材によって製造された繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記フレームは、
前記フレームの長手方向に直交する短手方向に向けて前記フレームを曲げる曲げ荷重が当該フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って圧縮応力が生じる圧縮面部と、
前記圧縮面部に隣接する前記角部から前記短手方向に延びる側面部と、
前記圧縮面部から離間した位置で前記長手方向に延び、前記曲げ荷重が前記フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って引張応力が生じる引張面部と、
を備え、
前記圧縮面部に隣接する前記角部の領域は、前記引張面部の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材を備えている、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記角部の領域における前記側面部と同一平面上に位置する部分は、前記高靭性繊維強化複合材によって形成されている、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項3】
複数の角部を有する閉断面を構成するように所定方向に延設され、複数の樹脂層が積層された繊維強化複合材によって製造された繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記フレームは、
前記フレームの長手方向に直交する短手方向に向けて前記フレームを曲げる曲げ荷重が当該フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って圧縮応力が生じる圧縮面部と、
前記圧縮面部に隣接する前記角部から前記短手方向に延びる側面部と、
前記圧縮面部から離間した位置で前記長手方向に延び、前記曲げ荷重が前記フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って引張応力が生じる引張面部と、
を備え、
前記側面部は、前記引張面部の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材を備えている、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記側面部の領域は、前記高靭性繊維強化複合材を備えている、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記圧縮面部の領域は、前記高靭性繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が低い低靭性繊維強化複合材によって構成されている、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記高靭性繊維強化複合材は、前記角部の厚さ方向における中央側に配置されている、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項7】
請求項1、2または4に記載の繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記高靭性繊維強化複合材の前記圧縮面部側および/または前記側面部側の端部は、当該端部の厚さが徐々に変わるテーパ形状を有する、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維強化複合材製フレームにおいて、
前記フレームが車両の車体を構成するセンターピラー、バンパービーム、サイドシル、ヒンジピラー、フロントピラー、およびクロスメンバからなる群から選択された少なくとも1つに適用される、
ことを特徴とする繊維強化複合材製フレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材製フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の車体などを構成するフレームでは、軽量かつ高剛性の繊維強化複合材で製造された繊維強化複合材製フレームが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の繊維強化複合材製フレームは、全方向からの入力荷重に対して耐えうるように疑似等方性を有する構造を有しており、具体的には、強化繊維の配向方向が異なる複数の繊維配向層を積層して成形した構造を有する。
【0004】
さらに、このフレームでは、フレーム角部の剛性を向上するために、フレーム断面の角部における繊維配向層の積層を増やして当該角部の肉厚を部分的に厚くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-193362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のフレームのように、角部における繊維配向層の積層を増やした構造であっても、角部で生じる層間剥離に起因する座屈という繊維強化複合材製フレーム固有の問題を防ぐことが困難である。
【0007】
すなわち、曲げ荷重が繊維強化複合材製フレームに入力した際、フレーム断面の角部では繊維配向層の間で層間剥離が生じ、角部の層間剥離した部分を起点として、フレームにおいて圧縮応力が作用する面(すなわち、曲げられたフレームにおける内側の湾曲面)およびそれに隣接する面のそれぞれの繊維配向層に亀裂が生じ、フレームの座屈が発生する。フレームの座屈が発生すれば、曲げ強度は大きく低下する。そのため、上記の特許文献1記載のフレームでは、このような現象の発生を防止することができない。
【0008】
そこで、フレームの座屈の発生を抑制するために、繊維配向層(樹脂層)間における靱性値が高い高靭性繊維強化複合材でフレーム全体を構成することが考えられるが、この場合、フレームの製造コストが増加するという問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、製造コストを低減しながら座屈の発生を抑制して曲げ強度を向上した繊維強化複合材製フレームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る繊維強化複合材製フレームは、複数の角部を有する閉断面を構成するように所定方向に延設され、複数の樹脂層が積層された繊維強化複合材によって製造された繊維強化複合材製フレームにおいて、前記フレームは、前記フレームの長手方向に直交する短手方向に向けて前記フレームを曲げる曲げ荷重が当該フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って圧縮応力が生じる圧縮面部と、前記圧縮面部に隣接する前記角部から前記短手方向に延びる側面部と、前記圧縮面部から離間した位置で前記長手方向に延び、前記曲げ荷重が前記フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って引張応力が生じる引張面部と、を備え、前記圧縮面部に隣接する前記角部の領域は、前記引張面部の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材を備えている、ことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、閉断面を構成するフレームに対して当該フレームの長手方向に直交する方向に曲げる曲げ荷重が入力されたときに、圧縮面部では、フレームの長手方向に沿って圧縮応力が生じる。圧縮面部に隣接する角部の領域は、引張面部の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材を備えている。この構成では、圧縮面部に隣接する角部の領域は、高靱性繊維強化複合材を備えているので、角部における層間剥離の発生タイミングを遅延することおよび層間剥離の進展スピードを低下することが可能である。その一方で、圧縮面部から離間した引張面部は曲げ強度に寄与しないため低靱性の廉価な繊維強化複合材を使用し、フレームの製造コストを低減することが可能である。その結果、フレームの製造コストを低減しながら、圧縮面部および側面部への層間剥離進展を抑制してフレームの座屈の発生を抑制し、フレームの曲げ強度を向上することが可能である。
【0012】
上記の繊維強化複合材製フレームにおいて、前記角部の領域における前記側面部と同一平面上に位置する部分は、前記高靭性繊維強化複合材によって形成されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、角部の領域における側面部と同一平面上に位置する部分は、高靭性繊維強化複合材によって形成されているので、フレームの曲げ変形の際に角部の層間剥離が側面部側へ進展することを抑制することが可能である。これにより、フレームの座屈をさらに抑制し、フレームの曲げ強度をさらに向上することが可能である。
【0014】
本発明の請求項3に係る繊維強化複合材製フレームは、複数の角部を有する閉断面を構成するように所定方向に延設され、複数の樹脂層が積層された繊維強化複合材によって製造された繊維強化複合材製フレームにおいて、前記フレームは、前記フレームの長手方向に直交する短手方向に向けて前記フレームを曲げる曲げ荷重が当該フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って圧縮応力が生じる圧縮面部と、前記圧縮面部に隣接する前記角部から前記短手方向に延びる側面部と、前記圧縮面部から離間した位置で前記長手方向に延び、前記曲げ荷重が前記フレームに入力されたときに前記長手方向に沿って引張応力が生じる引張面部と、を備え、前記側面部は、前記引張面部の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材を備えている、ことを特徴とする。
【0015】
上記のように、閉断面を構成するフレームに対して当該フレームの長手方向に直交する方向に曲げる曲げ荷重が入力されたときに、圧縮面部では、フレームの長手方向に沿って圧縮応力が生じる。この構成では、圧縮面部に隣接する角部から短手方向に延びる側面部は、引張面部の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材を備えているので、高靭性繊維強化複合材を備えた側面部によって、角部を補強することが可能である。これにより、角部における層間剥離の発生タイミングを遅延することおよび層間剥離の進展スピードを低下することが可能である。その一方で、圧縮面部から離間した引張面部は曲げ強度に寄与しないため低靱性の廉価な繊維強化複合材を使用し、フレームの製造コストを低減することが可能である。その結果、フレームの製造コストを低減しながら、圧縮面部および側面部への層間剥離進展を抑制してフレームの座屈の発生を抑制し、フレームの曲げ強度を向上することが可能である。
【0016】
上記の請求項1に係る繊維強化複合材製フレームにおいて、前記側面部の領域は、前記高靭性繊維強化複合材を備えているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、フレームの曲げ変形の際に圧縮面部に隣接する角部に層間剥離が生じても、層間剥離は、高靭性繊維強化複合材によって構成された側面部へ進展せずに低靭性繊維強化複合材によって構成された圧縮面部へ進展するように誘導される。これにより、側面部への亀裂進展をさらに抑制することが可能になり、フレームの座屈をさらに抑制し、フレームの曲げ強度をさらに向上することが可能になる。
【0018】
上記の繊維強化複合材製フレームにおいて、前記圧縮面部の領域は、前記高靭性繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が低い低靭性繊維強化複合材によって構成されているのが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、圧縮面部に隣接する角部が備える高靭性繊維強化複合材によってフレームの座屈の発生を抑制するとともに、圧縮面部を廉価な低靱性繊維強化複合材で構成することによってフレームの製造コストをさらに低減することが可能である。
【0020】
上記の繊維強化複合材製フレームにおいて、前記高靭性繊維強化複合材は、前記角部の厚さ方向における中央側に配置されているのが好ましい。
【0021】
フレームに曲げ荷重が入力されたときには、角部の厚さ方向における中央の位置に近いほど層間剥離が生じやすい傾向がある。したがって、上記の構成のように、高靭性繊維強化複合材が角部の厚さ方向における中央側に配置されていることにより、少ない高靭性繊維強化複合材であっても層間剥離の発生タイミングを遅延することおよび層間剥離の進展スピードを低下することが可能である。その結果、フレームの製造コストをさらに低減しながら、フレームの座屈の発生を抑制し、フレームの曲げ強度を向上することが可能である。
【0022】
上記の請求項1に係る繊維強化複合材製フレームにおいて、前記高靭性繊維強化複合材の前記圧縮面部側および/または前記側面部側の端部は、当該端部の厚さが徐々に変わるテーパ形状を有するのが好ましい。
【0023】
フレームに曲げ荷重が入力されたときには、高靭性繊維強化複合材とそれよりも靭性の低い他の繊維強化複合材との境界面において層間剥離が生じやすくなる傾向がある。そこで、上記の構成では、高靭性繊維強化複合材の圧縮面部側および/または側面部側の端部が当該端部の厚さが徐々に変わるテーパ形状を有することにより、高靭性繊維強化複合材の端部付近における靭性の急激な変化を緩和する。これによって、当該端部付近における応力集中を緩和して層間剥離を抑制することが可能である。その結果、フレームの座屈をさらに抑制し、フレームの曲げ強度をさらに向上することが可能である。
【0024】
上記の繊維強化複合材製フレームにおいて、前記フレームが車両の車体を構成するセンターピラー、バンパービーム、サイドシル、ヒンジピラー、フロントピラー、およびクロスメンバからなる群から選択された少なくとも1つに適用されるのが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、上記のフレームが車両の車体を構成するセンターピラー、バンパービーム、サイドシル、ヒンジピラー、フロントピラー、およびクロスメンバのうちの少なくとも1つに適用されることにより、車両衝突時において、車体の上記の各部分を構成するフレームに対して曲げ荷重が入力されたときには、フレーム全体の座屈を回避してフレームが曲げ荷重に耐えることが可能になる。これによって、車体の剛性を向上することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の繊維強化複合材製フレームによれば、フレームの製造コストを低減しながら、フレームの座屈の発生を抑制して曲げ強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る繊維強化複合材製フレームの全体構成を示す概略斜視図である。
図2図1の繊維強化複合材製フレームの端面を示す正面図である。
図3図2の繊維強化複合材製フレームの積層構造を部分的に示す分解斜視図である。
図4】靭性値の説明図であって、(a)は繊維強化複合材の層間の剥離方向に関する靭性値(GIC)を説明するための図、(b)は繊維強化複合材の層間のせん断方向に関する靭性値(GIIC)を説明するための図である。
図5図2の繊維強化複合材製フレームの断面構造を示す断面説明図である。
図6】I:本実施形態のフレーム、II:本発明の変形例1のフレーム、III:比較例1である高靭性繊維強化複合材のみで構成されたフレーム、およびIV:比較例2である低靭性繊維強化複合材のみで構成されたフレームにおける、各フレームの断面構造および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図7】V:本発明の変形例2である側面部のみが高靭性繊維強化複合材で構成されたフレーム、ならびにIII~IV:比較例1~2のフレームにおける、各フレームの断面構造および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図8】VI:比較例4である圧縮面部のみが高靭性繊維強化複合材で構成されたフレーム、ならびにIII~IV:比較例1~2のフレームにおける、各フレームの断面構造および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図9】VII:比較例5である引張面部のみが高靭性繊維強化複合材で構成されたフレーム、ならびにIII~IV:比較例1~2のフレームにおける、各フレームの断面構造および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図10】VIII(1):本発明の変形例3の第1段階である角部の表層部から小程度の深さまでの範囲に高靭性繊維強化複合材が配置されたフレーム、ならびにIII~IV:比較例1~2のフレームにおける、各フレームの断面構造および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図11】VIII(2):本発明の変形例3の第2段階である角部の表層部から中程度の深さまでの範囲に高靭性繊維強化複合材が配置されたフレーム、ならびにIII~IV:比較例1~2のフレームにおける、当該変形例3のフレームの断面構造、および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図12】VIII(3):本発明の変形例3の第3段階である角部の表層部から大程度の深さまでの範囲に高靭性繊維強化複合材が配置されたフレーム、ならびにIII~IV:比較例1~2のフレームにおける、当該変形例3のフレームの断面構造、および曲げ荷重が各フレームに入力されたときの荷重分布を示す説明図である。
図13】本発明の種々の変形例として、フレームにおける高靭性繊維強化複合材の断面内の材料配置および積層構成をそれぞれ変更した場合の各フレームの断面構造を示す断面説明図である。
図14】本発明の他の変形例として、フレームの角部および側面部の内部に高靭性繊維強化複合材が配置され、高靭性繊維強化複合材における圧縮面部側の端部がテーパ状の凸部を有する構造の断面説明図である。
図15】本発明のさらに他の変形例として、フレームの角部の内部に高靭性繊維強化複合材が配置され、高靭性繊維強化複合材における圧縮面部側の端部がテーパ状の凸部を有するとともに側面部側の端部がテーパ状の凹部を有する構造の断面説明図である。
図16図1の繊維強化複合材製フレームが車両における車体各部の構成部材に適用された例を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0029】
図1~2に示されるように、繊維強化複合材製フレーム1(以下、フレーム1と呼ぶ)は、複数の角部5を有する閉断面1bを構成するように所定方向(図1の長手方向D)に延設され、複数の繊維配向層(樹脂層)11~14(図3参照)が積層された繊維強化複合材で製造された高強度の部材である。フレーム1は、後述の車両の車体121(図16参照)などの各部を構成する部材などに用いられる。
【0030】
具体的には、フレーム1は、基本的な構成として、フレーム1の長手方向Dに延びる4つの面を構成する部分、すなわち、圧縮面部2と、圧縮面部2の幅方向両側に互いに離間する一対の側面部3と、圧縮面部2から対向した状態で離間する引張面部4とを備えている。
【0031】
これら圧縮面部2、一対の側面部3、および引張面部4によって、4つの角部5を有する矩形の閉断面1bが形成されている。角部5は、図2に示されるように直線状に面取りしてもよいし、または、図5に示されるように円弧状に面取りしてもよい。
【0032】
圧縮面部2は、フレーム1の長手方向Dに直交する(すなわち、長手方向Dに90度傾斜した)短手方向Dに向けてフレーム1を曲げる曲げ荷重Fが当該フレーム1に入力されたときに長手方向Dに沿って圧縮応力σ1が生じる面を構成する部分である。すなわち、圧縮面部2は、曲げられたフレーム1における内側の湾曲面になる。
【0033】
ここで、曲げ荷重Fは、フレーム1の長手方向Dに直交する短手方向Dに向けてフレーム1を曲げる荷重であればよく、例えば、車両の車体121(図16参照)が外部の障害物(自動車や路上設置物等)に衝突したときに、図1に示されるように、フレーム1が両端支持された状態(例えば、図1の簡略化されたモデルではフレーム1が一対の支点Sで両端支持された状態)で圧縮面部2が圧縮荷重(衝突荷重)Fを短手方向D(すなわち、図1の圧縮面部2の法線方向)に向けて受けたときに生じる曲げ荷重が想定される。この場合、圧縮荷重Fは、フレーム1の圧縮面部2で受ける。
【0034】
または、曲げ荷重Fは、フレーム1の長手方向Dの端部1aから長手方向Dに向けて圧縮荷重(衝突荷重)を受けたときに生じる曲げ荷重なども想定される(例えば、図16の車体121の側部から障害物が衝突したときに受けるクロスメンバ126の曲げ荷重など)。この場合には、圧縮荷重は、フレーム1の端部1aで受ける。
【0035】
一対の側面部3のそれぞれは、圧縮面部2に隣接する一対の角部5から短手方向Dに延びる面(具体的には、曲げ荷重Fまたは圧縮荷重Fと平行な方向に延びる面)を構成する部分である。側面部3は、フレーム1が曲げ荷重Fを受けたときには、図1の中立軸Nよりも圧縮面部2に近い範囲では圧縮応力が生じ、中立軸Nよりも引張面部4に近い範囲では引張応力が生じる。一対の側面部3のそれぞれと圧縮面部2とによって角部5が形成される。
【0036】
引張面部4は、圧縮面部2から離間した位置で長手方向Dに延び、曲げ荷重Fがフレーム1に入力されたときに長手方向Dに沿って引張応力σ2が生じる面の部分である。すなわち、引張面部4は、曲げられたフレーム1における外側の湾曲面になる。引張面部4と一対の側面部3のそれぞれとによって角部5が形成される。
【0037】
これら圧縮面部2、一対の側面部3、および引張面部4は、それぞれ複数の繊維配向層、例えば、図3に示される長手方向配向層11、短手方向配向層12、+45度配向層13、および-45度配向層14が積層して成形された積層体によって形成される。
【0038】
具体的には、圧縮面部2、一対の側面部3、および引張面部4は、それぞれ、例えば、図3に示されるように、疑似等方性を有するように、同一の積層構成を有している。すなわち、各面部2~4は、疑似等方性を有するように、複数の繊維配向層(樹脂層)として、長手方向配向層11、短手方向配向層12、+45度配向層13、および-45度配向層14がほぼ均等の割合になるように積層されて成形された積層体によって構成されている。
【0039】
長手方向配向層11は、具体的には、図3に示されるように、基材11bと、フレーム1の長手方向Dと同一の方向D(すなわち、長手方向Dに対する傾斜角度が0度)に配向された強化繊維11aとによって構成されている。
【0040】
基材11b(12b、13b、14b)とは、オートクレーブ成形やプレス成型で用いられる、強化繊維11a(12a、13a、14a)と樹脂からなるシート状の基材や、RTM成形などで使われる強化繊維11aを仮止めした基材を指す。基材11bは、例えば、耐熱性、強度および加工性にすぐれた樹脂製材料などからなり、例えばエポキシ樹脂などの樹脂によって構成されている。強化繊維11aは、軽量かつ高強度の繊維材料によって構成され、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、スチール繊維などの繊維によって構成されている。とくに、炭素繊維は、軽量かつ高強度のいずれの点においてもすぐれているので好ましい。
【0041】
短手方向配向層12は、具体的には、図3に示されるように、基材12bと、フレーム1の短手方向D、すなわち、長手方向Dと直交する方向D(傾斜角度が90度)に配向された強化繊維12aとによって構成されている。短手方向配向層12の基材12bおよび強化繊維12aについても、上記の長手方向配向層11の基材11bおよび強化繊維11aと同様の材料が用いられるが、他の材料が用いられてもよい。
【0042】
+45度配向層13は、強化繊維13aが長手方向Dを基準として当該配向層13の面内方向で反時計方向に45度旋回した方向に配向された層である。同様に、-45度配向層14は、強化繊維14aが長手方向Dを基準として当該配向層14の面内方向で時計方向に45度(反時計方向を正方向とすれば-45度)旋回した方向に配向された層である。
【0043】
+45度配向層13は、具体的には、図3に示されるように、基材13bと、長手方向Dに対して+45度傾斜した方向Dに配向された強化繊維13aとによって構成されている。同様に、-45度配向層14は、具体的には、図3に示されるように、基材14bと、長手方向Dに対して-45度傾斜した方向Dに配向された強化繊維14aとによって構成されている。これらの基材13b、14bおよび強化繊維13a、14aについても、上記の長手方向配向層11の基材11bおよび強化繊維11aと同様の材料が用いられるが、他の材料が用いられてもよい。
【0044】
上記のように、本実施形態のフレーム1を構成する圧縮面部2、側面部3、および引張面部4のそれぞれは、繊維配向層(樹脂層)11~14を積層して成形された繊維強化複合材によって構成されている。
【0045】
ここで、繊維強化複合材として、上記の繊維配向層(樹脂層)11~14の間における靭性値(剥離困難性の度合い)が高いものを採用すれば、層間剥離が生じにくくなると考えられる。
【0046】
樹脂層間の靭性値は、2種類あり、具体的には、図4(a)、(b)に示されるように、互いに接合された2つの樹脂層A1、A2間に関する剥離方向(厚さ方向Dに樹脂層同士が離間する方向)における靭性値(GIC)と、樹脂層A1、A2間に関するせん断方向Dに関する靭性値(GIIC)とがある。
【0047】
本発明者らは、樹脂層の層間剥離に大きい影響を与えるせん断方向に関する靭性値(GIIC)に着目し、フレーム1における層間剥離の起点になる圧縮面部2に隣接する角部5において部分的にせん断方向に関する靭性値(GIIC)が高い繊維強化複合材(図5の高靭性繊維強化複合材21)を配置することにより、フレーム1の製造コストの増加を抑えつつ層間剥離の進展の抑制を可能にした本実施形態のフレーム1を創作するに至った。
【0048】
すなわち、本実施形態のフレーム1では、図5に示されるように、圧縮面部2に隣接する角部5の領域は、引張面部4の領域を構成する繊維強化複合材(図5の低靭性繊維強化複合材22)よりも各繊維配向層(樹脂層)11~14間におけるせん断方向に関する靱性値(GIIC)が高い高靭性繊維強化複合材21を備えている。
【0049】
言い換えれば、図5に示されるフレーム1では、圧縮面部2に隣接する角部5は、高靭性繊維強化複合材21によって構成され、一方、角部5以外の部位、すなわち、圧縮面部2、および一対の側面部3と引張面部4の一連の部分とが低靭性繊維強化複合材22によって構成されている。高靭性繊維強化複合材21は、低靭性繊維強化複合材22よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靭性値(GIIC)が高い特性を有する。
【0050】
本実施形態では、高靭性繊維強化複合材21は、剥離方向に関する靭性値(GIC)は低靭性繊維強化複合材22と同等である一方、せん断方向に関する靭性値(GIIC)は低靭性繊維強化複合材22より大きい特性(例えば、0.65程度大きい特性)を有している。
【0051】
図5に示されるフレーム1では、圧縮面部2の領域は、高靭性繊維強化複合材21よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が低い低靭性繊維強化複合材22によって構成されている。
【0052】
また、図5に示されるフレーム1では、角部5は、円弧状に面取りされた円弧状部分(R部分)5aと、円弧状部分5aの端部であって側面部3と同一平面上に位置するRどまり部分5bとを有する。これら円弧状部分5aおよびRどまり部分5bは、高靭性繊維強化複合材21によって形成されている。
【0053】
上記のように構成された本実施形態のフレーム1は、車両衝突時などにおいて高い曲げ強度が要求される車両の車体121を構成する種々の部材、例えば、図16に示されるように、センターピラー120、バンパービーム122、サイドシル123、ヒンジピラー124、フロントピラー125、およびクロスメンバ126からなる群から選択された少なくとも1つに適用される。
【0054】
これらの群のうち、センターピラー120、バンパービーム122、サイドシル123、ヒンジピラー124、フロントピラー125に上記実施形態のフレームを適用する場合には、車体121の外側を向く面に圧縮面部2(すなわち、衝突荷重が入力される面)が配置されるようにすればよい。この場合、圧縮面部2に隣接する角部5(高靭性繊維強化複合材21で構成されている)は、圧縮面部2と同様に、車体121の外側に位置している。
【0055】
また、クロスメンバ126については、上側または下側を向く面に圧縮面部2が配置されるようにすればよい。この場合、圧縮面部2に隣接する角部5(高靭性繊維強化複合材21の構成)は、圧縮面部2と同様に、クロスメンバ126における上側または下側に位置している。
【0056】
ここで、センターピラー120は、車体121の側端のフロントドアとリヤドアとの間において上下方向に延びる部材である。バンパービーム122は、車体121の前端において車体121の幅方向に延び、バンパーを構成する部材である。サイドシル123は、車体121の車体121の側端下部において車体121の前後方向に延びる部材である。ヒンジピラー124は、車体121の側端前側において上下方向に延び、車体121におけるフロントドアがヒンジ結合される部材である。フロントピラー125は、車体121の前側でフロントガラスの両側において上方かつ後方(斜め後方)に向けて略円弧状に延びる部材である。クロスメンバ126は、車体121の床部において車体121の幅方向に延びる部材である。
【0057】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のフレーム1は、図1~2に示されるように、複数の角部5を有する閉断面1bを構成するように所定方向に延設され、複数の樹脂層が積層された繊維強化複合材によって製造されている。フレーム1は、フレーム1の長手方向Dに直交する短手方向Dに向けてフレーム1を曲げる曲げ荷重Fが当該フレーム1に入力されたときに長手方向Dに沿って圧縮応力σ1が生じる圧縮面部2と、圧縮面部2に隣接する角部5から短手方向Dに延びる側面部3と、圧縮面部2から離間した位置で長手方向Dに延び、曲げ荷重Fがフレーム1に入力されたときに長手方向Dに沿って引張応力σ2が生じる引張面部4と、を備える。
【0058】
図5に示されるように、圧縮面部2に隣接する角部5の領域は、引張面部4の領域を構成する低靭性繊維強化複合材22よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材21を備えている。
【0059】
かかる構成によれば、閉断面1bを構成するフレーム1に対して当該フレーム1の長手方向Dに直交する方向に曲げる曲げ荷重Fが入力されたときに、圧縮面部2では、フレーム1の長手方向Dに沿って圧縮応力σ1が生じる。圧縮面部2に隣接する角部5の領域は、引張面部4の領域を構成する繊維強化複合材よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が高い高靭性繊維強化複合材21を備えている。この構成では、圧縮面部2に隣接する角部5の領域は、高靭性繊維強化複合材21を備えているので、角部5における層間剥離の発生タイミングを遅延することおよび層間剥離の進展スピードを低下することが可能である。その一方で、圧縮面部2から離間した引張面部4は曲げ強度に寄与しないため低靱性の廉価な繊維強化複合材を使用し、フレーム1の製造コストを低減することが可能である。その結果、フレーム1の製造コストを低減しながら、圧縮面部2および側面部3への層間剥離進展を抑制してフレーム1の座屈の発生を抑制し、フレーム1の曲げ強度を向上することが可能である。
【0060】
(2)
本実施形態のフレーム1では、図5に示されるように、角部5の領域における側面部3と同一平面上に位置するRどまり部分5bは、円弧状部分(R部分)5aと同様に、高靭性繊維強化複合材21によって形成されている。
【0061】
かかる構成によれば、角部5の領域における側面部3と同一平面上に位置するRどまり部分5bは、高靭性繊維強化複合材21によって形成されているので、フレーム1の曲げ変形の際に角部5の層間剥離が側面部3側へ進展することを抑制することが可能である。これにより、フレーム1の座屈をさらに抑制し、フレーム1の曲げ強度をさらに向上することが可能である。
【0062】
(3)
本実施形態のフレーム1では、圧縮面部2の領域は、高靭性繊維強化複合材21よりも樹脂層間におけるせん断方向に関する靱性値が低い低靭性繊維強化複合材22によって構成されている。かかる構成によれば、圧縮面部2に隣接する角部5が備える高靭性繊維強化複合材21によってフレーム1の座屈の発生を抑制するとともに、圧縮面部2を廉価な低靭性繊維強化複合材22で構成することによってフレーム1の製造コストをさらに低減することが可能である。
【0063】
(4)
本実施形態のフレーム1では、図16に示されるように、フレーム1が車両の車体を構成するセンターピラー120、バンパービーム122、サイドシル123、ヒンジピラー124、フロントピラー125、およびクロスメンバ126からなる群から選択された少なくとも1つに適用される。
【0064】
かかる構成によれば、上記のフレーム1が車両の車体を構成するセンターピラー120、バンパービーム122、サイドシル123、ヒンジピラー124、フロントピラー125、およびクロスメンバ126のうちの少なくとも1つに適用されることにより、車両衝突時において、車体の上記の各部分を構成するフレーム1に対して曲げ荷重Fが入力されたときには、フレーム1全体の座屈を回避してフレーム1が曲げ荷重Fに耐えることが可能になる。これによって、車体の剛性を向上することが可能である。
【0065】
(実施例1)
つぎに、図5に示される本実施形態のフレーム1の曲げ強度について本発明の変形例1および比較例と対比しながら説明する。
【0066】
本実施形態のフレーム1は、一辺50mmの正方形断面を有し、角部5は半径10mmの円弧状の面取り部を有する。フレーム1の各面の厚さは3.42mmである。
【0067】
曲げ強度を調べる場合、フレーム1は、一般的な曲げ試験の手順に基づいて、図1の2つの支点S(300mm間隔)で両端支持された状態で、圧縮面部2の長手方向Dの中点Cに圧子を当てて圧子を下向きに変位させていき、フレーム1を曲げていく。これにより、図6のグラフの曲線Iのように、圧子の下方向の変位Xとフレーム1の曲げ荷重P(すなわち、圧子がフレーム1から受ける反力)との関係を調べた。
【0068】
図5~6に示される本実施形態のフレーム1は、圧縮面部2に隣接する角部5が高靭性繊維強化複合材21で構成され、角部5以外の圧縮面部2、一対の側面部3および引張面部4が低靭性繊維強化複合材22で構成されている。
【0069】
また、本発明の変形例1として図6に示されるフレーム31は、上記の図5~6の本実施形態のフレーム1と比較して、圧縮面部2に隣接する角部5および側面部3の両方が高靭性繊維強化複合材21で構成された点で異なっており、その他の構成は共通する。すなわち、図6に示される変形例1のフレーム31は、圧縮面部2に隣接する角部5および一対の側面部3が高靭性繊維強化複合材21で構成され、圧縮面部2および引張面部4が低靭性繊維強化複合材22で構成されている。
【0070】
上記のような図6に示される変形例1のフレーム31についても、フレーム1と同様の手順で曲げ強度を調べた結果が、図6のグラフの曲線IIに示される。
【0071】
一方、比較例1~2として、図6に示されるフレーム41、51を用意する。
【0072】
比較例1のフレーム41は、全体的に、高靭性繊維強化複合材21で構成されており、断面形状はフレーム1と共通である。図6に示される比較例1のフレーム41についても、フレーム1と同様の手順で曲げ強度を調べた結果が、図6のグラフの曲線IIIに示される。
【0073】
また、比較例2のフレーム51は、全体的に、低靭性繊維強化複合材22で構成されており、断面形状はフレーム1と共通である。図6に示される比較例2のフレーム51についても、フレーム1と同様の手順で曲げ強度を調べた結果が、図6のグラフの曲線IVに示される。
【0074】
図6のグラフにおいて、まず、全体的に高靭性繊維強化複合材21で構成された比較例1のフレーム41の曲げ荷重Pを示す曲線IIIは、全ての変位Xにおいて高い曲げ荷重を示している。一方、全体的に低靭性繊維強化複合材22で構成された比較例2のフレーム51の曲げ荷重Pを示す曲線IVは、全ての変位Xにおいて低い曲げ荷重を示している。この点を見れば、フレームを高靭性繊維強化複合材21で構成すれば、層間剥離進展を抑制してフレーム1の座屈の発生を抑制し、フレーム1の曲げ強度を向上することが可能であることが分かる。ただし、比較例1のフレーム41のように、高靭性繊維強化複合材21で全体を構成すれば、製造コストが増加することが懸念される。
【0075】
一方、圧縮面部2に隣接する角部5および一対の側面部3が高靭性繊維強化複合材21で構成された本発明の変形例1のフレーム31の曲げ荷重Pを示す曲線IIは、上記の曲線IIIに次いで、ほぼ全ての変位Xにおいて高い曲げ荷重を示している。
【0076】
その次に、圧縮面部2に隣接する角部5のみが高靭性繊維強化複合材21で構成された本実施形態のフレーム1の曲げ荷重Pを示す曲線Iについても、上記の曲線IIに次いで、ほぼ全ての変位Xにおいて高い曲げ荷重を示している。
【0077】
したがって、図6のグラフの曲線Iを見れば、本実施形態のフレーム1のように圧縮面部2に隣接する角部5のみを高靭性繊維強化複合材21で構成しても、層間剥離進展を抑制してフレーム1の座屈の発生を抑制し、フレーム1の曲げ強度を向上する効果を十分に得られることが分かる。しかも、高靭性繊維強化複合材21が圧縮面部2に隣接する角部5のみで構成しているので、フレーム1の製造コストを低減しながら、フレーム1の座屈の発生を抑制して曲げ強度を向上することができる。
【0078】
また、図6のグラフの曲線IIを見れば、本発明の変形例1のフレーム31のように圧縮面部2に隣接する角部5および一対の側面部3を高靭性繊維強化複合材21で構成すれば、フレーム31の製造コストを低減しながらも、上記の実施形態1のフレーム1よりも、層間剥離進展をさらに抑制してフレーム1の座屈の発生を抑制し、フレーム1の曲げ強度をさらに向上していることが分かる。
【0079】
すなわち、本発明の変形例1のフレーム31では、圧縮面部2に隣接する角部5だけでなく、側面部3の領域も、高靭性繊維強化複合材21を備えている。かかる構成によれば、フレーム1の曲げ変形の際に圧縮面部2に隣接する角部5に層間剥離が生じても、層間剥離は、高靭性繊維強化複合材21によって構成された側面部3へ進展せずに低靭性繊維強化複合材22によって構成された圧縮面部2へ進展するように誘導される。これにより、側面部3への亀裂進展をさらに抑制することが可能になり、フレーム1の座屈をさらに抑制し、フレーム1の曲げ強度をさらに向上することが可能になる。
【0080】
つぎに、図7~9には、本発明の変形例2および23つのさらなる比較例として、それぞれ、本発明の変形例2比較例3のフレーム61(側面部3のみが高靭性繊維強化複合材21)、比較例4のフレーム71(圧縮面部2のみが高靭性繊維強化複合材21)、および比較例5のフレーム81(引張面部4のみが高靭性繊維強化複合材21)についての断面構造と、これらフレーム61~81についての曲げ強度を示す曲線V~VIIにそれぞれ示されている。
【0081】
図7に示されるように、本発明の変形例2のフレーム61のように側面部3のみが高靭性繊維強化複合材21で構成された場合には、曲線Vに示されるように、比較例1のフレーム41(全て高靭性繊維強化複合材21)の場合の曲線IIIよりは低いが、比較例2のフレーム51(全て低靭性繊維強化複合材22)の場合の曲線IVよりも高い曲げ強度が得られている。したがって、この図7のグラフから、本発明の変形例2のフレーム61の側面部3を構成する高靭性繊維強化複合材21が曲げ強度の向上にある程度寄与していることが分かる。すなわち、本発明の変形例2のように、角部5に隣接する側面部3のみが高靭性繊維強化複合材21を備えている構成では、高靭性繊維強化複合材21を備えた側面部3によって、角部5を補強することが可能である。これにより、角部5における層間剥離の発生タイミングを遅延することおよび層間剥離の進展スピードを低下することが可能である。その一方で、圧縮面部2から離間した引張面部4は曲げ強度に寄与しないため低靱性の廉価な繊維強化複合材を使用し、フレーム61の製造コストを低減することが可能である。その結果、フレーム61の製造コストを低減しながら、圧縮面部2および側面部3への層間剥離進展を抑制してフレーム61の座屈の発生を抑制し、フレーム1の曲げ強度を向上することが可能である。
【0082】
しかし、図8に示される比較例4のフレーム71のように圧縮面部2のみが高靭性繊維強化複合材21で構成された場合には、曲線VIに示されるように、比較例2のフレーム51(全て低靭性繊維強化複合材22)の場合の曲線IVよりもわずかに高い曲げ強度しか得られず、圧縮面部2を構成する高靭性繊維強化複合材21が曲げ強度の向上への寄与度が低いことが分かる。
【0083】
さらに、図9に示される比較例5のフレーム81のように引張面部4のみが高靭性繊維強化複合材21で構成された場合には、曲線VIIに示されるように、比較例2のフレーム51(全て低靭性繊維強化複合材22)の場合の曲線IVとほぼ同等の曲げ強度しか得られず、引張面部4を構成する高靭性繊維強化複合材21が曲げ強度の向上に寄与していないことが分かる。
【0084】
上記の図6~9の曲げ強度のグラフの結果を見れば、図6の本実施形態のフレーム1および変形例1のフレーム31のように、圧縮面部2に隣接する角部5が高靭性繊維強化複合材21で構成されている場合には、当該角部5の層間剥離進展抑制効果によって曲げ強度を大きく向上していることが分かる。さらに、圧縮面部2に隣接する角部5の次に、側面部3が高靭性繊維強化複合材21で構成されている場合も、曲げ強度向上への寄与度が高いことが分かる。
【0085】
一方、上記の図6~9のグラフの結果から、圧縮面部2および引張面部4を高靭性繊維強化複合材21で構成しても、曲げ強度向上への寄与度が低いことが分かる。したがって、圧縮面部2および引張面部4については、廉価な低靭性繊維強化複合材を適用してフレームの製造コストの低減を図ることが好ましいことが導き出される。
【0086】
(実施例2)
上記実施形態のフレーム1は、図5に示されるように、圧縮面部2に隣接する角部5が厚さ方向全体において高靭性繊維強化複合材21で構成されているが、図10~12に示される本発明の変形例3のフレーム91のように、角部5の表層部からある程度の深さの範囲に高靭性繊維強化複合材21が配置され、角部5の中央側に低靭性繊維強化複合材22が配置された構成であってもよい。
【0087】
上記の変形例3のフレーム91は、図10~12のそれぞれにおいて、角部5の表層部から小程度、中程度、大程度の範囲にそれぞれ高靭性繊維強化複合材21が配置され、角部5の厚さ方向中央側に低靭性繊維強化複合材22が配置された構造を有する。
【0088】
図10に示される変形例3のフレーム91のように、角部5の表層部から小程度の範囲に高靭性繊維強化複合材21が配置された場合には、曲線VIII(1)に示されるように、比較例2のフレーム51(全て低靭性繊維強化複合材22)の場合の曲線IVからわずかに高い曲げ強度しか得られず、曲げ強度の向上への寄与度が低い。しかし、図11に示される角部5の表層部から中程度の範囲に高靭性繊維強化複合材21が配置された場合の曲線VIII(2)、および図12に示される大程度の範囲に高靭性繊維強化複合材21が配置された場合の曲線VIII(3)を見れば、角部5の高靭性繊維強化複合材21が厚くなるにつれて、曲げ強度が若干向上していることが分かる。
【0089】
ただし、上記実施形態のフレーム1のように角部5が厚さ方向全体において高靭性繊維強化複合材21で構成されている場合の曲げ強度(図6の曲線I)と比較すれば、曲げ強度の向上が低いことが分かる。この点に基づいて考察すれば、フレーム1の角部5の厚さ方向中央側に高靭性繊維強化複合材21が配置されていれば、曲げ強度の向上が高くなることが導き出される。
【0090】
さらに考察すれば、フレーム1に曲げ荷重F図1参照)が入力されたときには、角部5の厚さ方向における中央の位置に近いほど層間剥離が生じやすい傾向がある。そのため、後述の図13~14のフレーム201~203のように、高靭性繊維強化複合材21が角部5の厚さ方向における中央側に配置されていることが好ましい。このように高靭性繊維強化複合材21が角部5の厚さ方向中央側に配置されていることにより、少ない高靭性繊維強化複合材21であっても層間剥離の発生タイミングを遅延することおよび層間剥離の進展スピードを低下することが可能である。その結果、フレーム1の製造コストをさらに低減しながら、フレーム1の座屈の発生を抑制し、フレーム1の曲げ強度を向上することが可能である。
【0091】
(実施例3)
以上の実施形態および実施例1~2を総合すれば、フレームにおける高靭性繊維強化複合材21の最適な配置は、図13の表に示されるように分類することができる。
【0092】
図13の表では、まず、「断面内の材料配置」の行(横のライン)では、高靭性繊維強化複合材21を断面内の材料配置、すなわち、少なくとも角部5の断面全体にわたって高靭性繊維強化複合材21が配置された3つの断面構造が示されている。具体的には、第1の断面構造として、曲げ強度を最も優先した場合の断面内の材料配置として、圧縮面部2、一対の角部5および一対の側面部3が高靭性繊維強化複合材21で一体形成されたフレーム101が示されている。第2の断面構造として、曲げ強度と高靭性材料の投入量のバランスをとった場合の断面内の材料配置として、一対の角部5および一対の側面部3が高靭性繊維強化複合材21で一体形成されたフレーム102が示されている。第3の断面構造として、高靭性材料の投入量を最小化した場合の断面内の材料配置として、一対の角部5のみが高靭性繊維強化複合材21で一体形成されたフレーム103が示されている。
【0093】
また、図13の表の「積層構成」の行では、高靭性繊維強化複合材21を積層構成、すなわち、少なくとも角部5の厚さ方向中央側に高靭性繊維強化複合材21が配置されるとともに角部5の表層側に低靭性繊維強化複合材22が配置された3つの断面構造が示されている。具体的には、第1の断面構造として、曲げ強度を最も優先した場合の積層構成として、圧縮面部2、一対の角部5および一対の側面部3の厚さ方向中央側に高靭性繊維強化複合材21が配置されたフレーム201が示されている。第2の断面構造として、曲げ強度と高靭性材料の投入量のバランスをとった場合の積層構成として、一対の角部5および一対の側面部3の厚さ方向中央側に高靭性繊維強化複合材21が配置されたフレーム202が示されている。第3の断面構造として、高靭性材料の投入量を最小化した場合の積層構成として、一対の角部5の厚さ方向中央側のみに高靭性繊維強化複合材21が配置されたフレーム203が示されている。
【0094】
ここで、図6のフレーム202、203のように、角部5の厚さ方向中央側に高靭性繊維強化複合材21が配置されている構成では、これらフレーム202、203に曲げ荷重が入力されたときには、高靭性繊維強化複合材21とそれよりも靭性の低い低靭性繊維強化複合材22との境界面において層間剥離が生じやすくなる傾向がある。
【0095】
そこで、このような層間剥離を抑制するために、図14~15に示されるように、高靭性繊維強化複合材21の圧縮面2側および/または側面部3側の端部21a、21bは、当該端部21a、21bの厚さが徐々に変わるテーパ形状を有する構成が好ましい。
【0096】
具体的には、図14~15に示されるように、高靭性繊維強化複合材21における圧縮面部2側の端部21aがテーパ状の凸部を有するようにしてもよい。また、図15に示されるように、高靭性繊維強化複合材21における側面部3側の端部21bがテーパ状の凹部(逆テーパ状の部分)を有するようにしてもよい。
【0097】
高靭性繊維強化複合材21で構成されたテーパ状の端部21aおよび逆テーパ状の端部21bを形成する方法については、本発明ではとくに限定しないが、例えば、高靭性繊維強化複合材21およびそれに隣接する低靭性繊維強化複合材22をそれぞれ構成する繊維配向層(樹脂層)11~14(図3参照)を圧縮面部2などの面に沿った方向にずらして配置することによって、これらテーパ状の端部21aおよび逆テーパ状の端部21bを形成することが可能である。
【0098】
以上の図14~15に示されるように、高靭性繊維強化複合材21の圧縮面部2側および/または側面部3側の端部21a、21bが当該端部21a、21bの厚さが徐々に変わるテーパ形状を有することにより、高靭性繊維強化複合材21の端部21a、21b付近における靭性の急激な変化を緩和することが可能である。これによって、当該端部21a、21b付近における応力集中を緩和して層間剥離を抑制することが可能である。その結果、フレーム1の座屈をさらに抑制し、フレーム1の曲げ強度をさらに向上することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 繊維強化複合材製フレーム
2 圧縮面部
3 側面部
4 引張面部
5 角部
5b Rどまり部分
11 長手方向配向層(樹脂層)
12 短手方向配向層(樹脂層)
13 +45度配向層(樹脂層)
14 -45度配向層(樹脂層)
11a~14a 強化繊維
21 高靭性繊維強化複合材
22 低靭性繊維強化複合材
120 センターピラー
121 車体
122 バンパービーム
123 サイドシル
124 ヒンジピラー
125 フロントピラー
126 クロスメンバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16