(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】試料検査装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/28 20060101AFI20240909BHJP
G01R 31/305 20060101ALI20240909BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
G01R31/28 L
G01R31/305
H01L21/66 B
G01R31/28 K
(21)【出願番号】P 2023522160
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019365
(87)【国際公開番号】W WO2022244235
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】嶋守 智子
(72)【発明者】
【氏名】奈良 安彦
(72)【発明者】
【氏名】布施 潤一
(72)【発明者】
【氏名】影山 晃
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-296314(JP,A)
【文献】特開2002-26100(JP,A)
【文献】特開2013-187510(JP,A)
【文献】特開2017-147274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0075287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/28
G01R 31/305
G01R 1/06
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子光学系と、
前記試料に接触される第1のプローブと、
前記第1のプローブがその入力端子に接続される増幅器と、
前記増幅器の出力信号が入力される位相検波部とを有し、
前記第1のプローブには交流電圧が印加され、前記位相検波部は前記増幅器の出力信号を、前記交流電圧と同期し、同じ周波数をもつ参照信号で位相検波する試料検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
システム制御部と、
前記試料に前記荷電粒子線が照射されることにより放出される二次粒子を検出する検出器を含む第1の検出系と、
前記荷電粒子光学系を制御する荷電粒子線制御部と、
前記第1の検出系、または前記第1のプローブ、前記増幅器及び前記位相検波部を含む第2の検出系からの出力信号が入力され、画像を形成する画像処理部とをさらに有し、
前記システム制御部は、前記荷電粒子線制御部に前記荷電粒子線を前記試料上で走査させる走査信号を出力し、
前記画像処理部は、前記システム制御部から前記走査信号に同期して入力される制御信号に基づき、前記第1の検出系または前記第2の検出系からの検出信号から1画素当たりの階調値を算出して前記画像を形成する試料検査装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記位相検波部は、前記増幅器の出力信号を極座標変換して振幅信号及び位相信号を出力し、
前記第2の検出系は、前記振幅信号または前記位相信号を前記画像処理部に出力する試料検査装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記位相検波部は、
前記増幅器の出力信号と前記参照信号が入力される第1の位相検波器と、
前記増幅器の出力信号と前記参照信号を90°位相シフトさせた信号が入力される第2の位相検波器と、
前記第1の位相検波器から出力される第1の直流信号と前記第2の位相検波器から出力される第2の直流信号から、前記振幅信号と前記位相信号とを演算する演算部とを備える試料検査装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記第2の検出系は、前記交流電圧を発生させる周波数発生器を備え、
前記システム制御部は、前記周波数発生器が発生させる前記交流電圧の電圧及び周波数を設定する試料検査装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第2の検出系は、前記試料に接触され、前記交流電圧が印加される第2のプローブをさらに備え、
前記増幅器は差動増幅器であり、
前記第1のプローブ及び前記第2のプローブは、前記差動増幅器の入力端子のそれぞれに接続される試料検査装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記第2のプローブは、位相シフト器を介して前記周波数発生器に接続され、
前記システム制御部は、前記第2のプローブに印加される前記交流電圧の位相が前記第1のプローブに印加される前記交流電圧の位相と同位相あるいは逆位相となるように、または前記第2のプローブに印加される前記交流電圧を遮断するよう、前記位相シフト器を制御する試料検査装置。
【請求項8】
請求項5において、
前記周波数発生器は、矩形波である前記交流電圧を発生させる試料検査装置。
【請求項9】
請求項2において、
矩形波である周波数信号を発生させるパルス発生器を備え、
前記荷電粒子線制御部は、前記周波数信号に基づき、前記荷電粒子線をパルス化して前記試料に照射するよう前記荷電粒子光学系を制御し、
前記第1のプローブには、前記周波数信号と同期し、同じ周波数をもつ前記交流電圧が印加され、前記位相検波部は前記増幅器の出力信号を前記周波数信号と同期し、同じ周波数をもつ前記参照信号で位相検波する試料検査装置。
【請求項10】
試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子光学系と、
前記試料に接触される第1のプローブと、
前記第1のプローブがその入力端子に接続される増幅器と、
参照信号を発生させる周波数発生器と、
前記増幅器の出力信号を、前記周波数発生器が発生させる前記参照信号で位相検波する位相検波部と、
システム制御部と、
前記荷電粒子光学系を制御する荷電粒子線制御部と、
前記位相検波部からの出力信号が入力され、画像を形成する画像処理部とを有し、
前記システム制御部は、前記荷電粒子線制御部に前記荷電粒子線を前記試料上で走査させる走査信号を出力し、
前記画像処理部は、前記システム制御部から前記走査信号に同期して入力される制御信号に基づき、前記位相検波部からの検出信号から1画素当たりの階調値を算出して前記画像を形成し、
前記システム制御部は、前記周波数発生器が発生させる前記参照信号の周波数を、前記画像の1画素あたりの電子線照射時間の逆数であるサンプリングレート以上の値に設定する試料検査装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記試料に接触される第2のプローブをさらに有し、
前記増幅器は差動増幅器であり、
前記第1のプローブ及び前記第2のプローブは、前記差動増幅器の入力端子のそれぞれに接続される試料検査装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記差動増幅器の入力端子間に所定の直流電圧が印加される試料検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路が形成された半導体その他の試料に対し、少なくとも1本のプローブを接触させつつ、試料に荷電粒子線を照射して、プローブの接触により特定される回路における不良の解析を行う試料検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体表面に回路が形成された半導体試料の不良解析においては、不良箇所の特定が重要である。その一方で、昨今におけるデバイスの微細化に伴い、不良箇所の特定が難しくなっている。その結果、不良解析に膨大な時間が必要になっている。現在では、OBIRCH(Optical Beam Induced Resistance Change)やEB(Electron Beam)テスタその他の解析装置が、この種の不良解析に用いられている。
【0003】
その中でも、配線の不良解析に関する分野では、電子線に代表される荷電粒子線を半導体試料に照射するとともに、試料にプローブ(探針)を接触させて、配線により吸収される電流や半導体試料から放出された二次的な信号(二次電子や反射電子など)を解析して画像化する技術が注目されている。配線により吸収された電流(吸収電流)に基づいて得られる信号(吸収電流信号)の分布像は、電子線吸収電流像(EBAC(Electron Beam Absorbed Current)像)と呼ばれる。
【0004】
特許文献1は、電子線の走査時に2本の探針から出力される吸収電流を、電子線の走査に連動させて吸収電流像を出力する試料検査装置を用いて、2つの探針が電気的に接続された試料の配線区間のうち不良箇所に電子線が照射された際に起こる抵抗値の変化を、正常箇所と不良箇所の抵抗値の比率の変化として検出することにより、不良箇所を特定する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、回路が形成された試料に少なくとも1本の探針を接触させ、探針を介して、探針の接触により特定される回路に電力を供給しながら、荷電粒子線により試料を走査し、荷電粒子線により局所的に加熱された不良の抵抗値変化を、探針を介して測定することで、不良箇所を特定しやすくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-033604号公報
【文献】国際公開第2017/038293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のEBAC像では、どのような材料でショートしているのか、また不良部の抵抗値の大きさといった試料状態によっては、不良箇所と正常箇所との区別がつきにくい場合があった。発明者らは、特に抵抗値の変化としてほとんど現れないような不良部に着目した。このような不良のEBAC信号はバイアス電流のノイズ成分に埋もれてしまい、不良箇所を検知することが困難なものである。
【0008】
図2を用いてEBAC像を形成する原理について説明する。
図2は導電体20a、20bが表面に形成された半導体試料に対して電子線3を照射している様子を示している。差動増幅器23のプラス入力端子とマイナス入力端子にはそれぞれ、プローブ21a、21bが接続され、プローブ21aは導電体20aに、プローブ21bは導電体20bに接触している。
【0009】
試料の表面を走査中の電子線3が導電体20aに照射されると、電子線3からの電荷がプローブ21aを伝わり差動増幅器23のプラス端子に入力される。ここで、ある抵抗値をもった不良部22が導電体20aと導電体20bとに接していると、不良部22を介して導電体20bに電荷が流れ、プローブ21bを伝わり差動増幅器23のマイナス入力端子に入力される。これにより、導電体20bの電位は、導電体20aの電位から不良部22による電圧降下分だけ低下した値になる。
【0010】
不良部22の抵抗値が低い場合は、不良部22を介した電流が流れることによって不良部22をショート不良として認識できる。一方、不良部22の抵抗値が高い場合、例えば差動増幅器23の入力インピーダンス27a、27bより大きい場合、不良部22を介した電流が流れにくくなる。したがって不良部22がない状態との区別がつきにくくなる。
【0011】
図3に、
図2の試料について得られる像を示す。第1段目の像101は、SEM像の模式図である。二次電子は試料などの端部から多く生成されるため、導電体20やプローブ21の輪郭が強調された像が得られる。このため、不良部22が試料の内部に埋まっている場合、内部に埋まっていなくとも周囲と高さの差がないような場合、非常に微細なものであるような場合などには、不良部22はSEM像にほとんど現出しない場合がある。
【0012】
第2段~第4段目の像102~104はEBAC像の模式図である。EBAC像102は、不良が存在しない場合の像である。導電体20aと導電体20bの間に導通がないため、電子線3が導電体20a上に照射されることによって、導電体20aと導電体20bの間には電位差が生じる。このため、EBAC像102では、導電体20aと導電体20bとの間に明確なコントラストが生じている。
【0013】
EBAC像103は、不良部22がショート不良(低抵抗不良)であった場合の像である。不良部22がSEM像に現出しないようなものであっても、電子線3からの電荷は不良部22を通って導電体20bに流れる。このため、EBAC像103には、不良部22の存在箇所にグラデーションを持ったコントラストが生じる。これにより、SEM像では特定することができなかった不良部22を特定することができる。なお、このグラデーションの具合は、導電体20a、20bや不良部22の長さや、不良部22の抵抗値などによって異なる。
【0014】
EBAC像104は、EBAC像として不良位置の特定が難しい一例であり、例えば、不良部22が高抵抗不良であった場合の像である。不良部22の抵抗が高い場合は、導電体20aと導電体20bの間にほとんど導通がない。すなわち、不良部22を介した電流がほとんど流れない。このため、不良部22が存在するにもかかわらず、EBAC像104には不良がない場合のEBAC像102とほぼ同様のコントラストが生じる。さらに、不良部22の抵抗値によっては、不良箇所における輝度もその周囲の輝度とほとんど同程度となる。こうなると、EBAC像から不良の位置を特定することは困難になる。
【0015】
本発明では、従来のEBAC像では特定が困難であった、抵抗値変化が低い容量結合に起因する不良箇所の検出や、電気的には正常であるが、空間的に近接しており、電気的に裕度が低い箇所を潜在不良箇所として検出することを目的とする。
【0016】
また、EBAC信号という微弱な信号を増幅して画像化することから、EBAC像にあらわれる装置からの電気的なノイズを低減することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一実施形態である試料検査装置は、試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子光学系と、試料に接触される第1のプローブと、第1のプローブがその入力端子に接続される増幅器と、増幅器の出力信号が入力される位相検波部とを有し、第1のプローブには交流電圧が印加され、位相検波部は増幅器の出力信号を、交流電圧と同期し、同じ周波数をもつ参照信号で位相検波する。
【発明の効果】
【0018】
これまで検知が困難であった容量性の不良や電気的な裕度の低い潜在的な不良箇所の特定が可能な試料検査装置を提供する。
【0019】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1の試料検査装置の基本構成の概略図である。
【
図2】EBAC像を形成する原理を説明するための図である。
【
図3】
図2の試料について得られるSEM像及びEBAC像の模式図である。
【
図4】第2の検出系による不良検出原理を説明するための図である。
【
図5】位相検波部の概略構成を説明するための図である。
【
図6】演算器における極座標変換を説明するための図である。
【
図7】第2の検出系(第1の変形例)の概略構成図である。
【
図8】第2の検出系(第2の変形例)の概略構成図である。
【
図9】トランジスタの動特性を検出するプローブ接触の様子を示す図である。
【
図10】第2の検出系(第3の変形例)の概略構成図である。
【
図11】実施例2の試料検査装置の基本構成の概略図である。
【
図12】実施例3の試料検査装置の基本構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本実施例に係る試料検査装置の基本的構成の概略図である。この試料検査装置は、荷電粒子線である電子線3を、試料19に照射するためのSEMカラム1、試料19を載置するための試料ステージ10、試料19上の銅やアルミを主成分とする導電体20a、20bに接触させ、導電体20a、20bから電位を取り出すためのプローブ21a、21bなどを備える。ここではプローブを2本備えるものとしたが、たとえば導電体20bが接地されているような場合は、プローブ21aの1本とすることができる。さらに、3本以上のプローブを備えてもよい。
【0023】
SEMカラム1は、電子線3を試料に照射する電子光学系を内蔵する。電子源2から放出された電子線3は、電子光学系を構成する第1集束レンズ5、第2集束レンズ6、偏向コイル7、電気的視野移動コイル8、対物レンズ9などを経由し、試料19上に集束され、試料19の任意の位置を走査する。電子線3の走査は、システム制御部14から電子線制御部12のうちの偏向コイル駆動部12aに走査信号を出力し、偏向コイル駆動部12aが走査信号に応じて偏向コイル7による電子線3の偏向量を変化させることによって行う。
【0024】
試料検査装置は、SEM像を形成する第1の検出系とEBAC像を形成する第2の検出系を備えている。第1の検出系は、電子線3が試料19やプローブ21a、21bなどに照射されることで、試料19またはプローブ21a、21bなどの最表面から放出される二次粒子を検出する検出器4を備える。第2の検出系は、詳細については後述するが、プローブ21a、21b、差動増幅器23、位相検波部40、周波数発生器41などを備える。
【0025】
制御部11は、電子光学系を構成する各光学要素を制御する電子線制御部12、第1の検出系または第2の検出系からの検出信号からSEM像またはEBAC像を形成する画像処理部13、試料検査装置全体を制御するシステム制御部14を備える。
【0026】
また、試料検査装置はコンピュータ18を備えている。コンピュータ18は、入力装置であるキーボード15、ポインティング装置であるマウス16、画像表示器17と接続されている。ユーザは、コンピュータ18から試料検査装置に対する指示を与えるとともに、画像処理部13の形成した画像を画像表示器17に表示させることができる。
【0027】
以下では、本実施例の試料検査装置によるEBAC像の取得を中心に説明する。
【0028】
画像処理部13は、A/Dコンバータ24、画素積算部25、フレーム積算部26などを備える。第2の検出系は周波数発生器41を備え、プローブ21a、21b間に交流電圧を印加した状態で、プローブ21a、21b間の電圧を検出する。差動増幅器23から出力される検出信号は交流信号となるため、位相検波部40では差動増幅器23から出力される交流信号を直流信号に変換する。位相検波部40から出力される直流信号はA/Dコンバータ24によりデジタルデータに変換され、画素積算部25にてシステム制御部14から走査信号に同期して入力される電子線3の照射位置を示す制御信号に基づき、一画素当たりの階調値に換算する。フレーム積算部26では、取得する画像のSN比を高めるため、試料19上の同じ領域を複数回走査し、各走査から得られるフレーム画像を積算して画像データを形成する。形成された画像データはコンピュータ18に送信される。コンピュータ18は、受信した画像データをEBAC像として、画像表示器17に表示する。
【0029】
図4を用いて、第2の検出系による不良検出の原理について説明する。
図2で説明した従来のEBAC像の形成原理では不良部22の抵抗成分に着目したものであったのに対し、本実施例の不良検出原理では、不良部22が抵抗成分と容量成分とを含んでいることに着目する。導電体20aと導電体20bとは、本来電気的に絶縁されている。しかしながら、導電体20aと導電体20bを含んで構成される集積回路が高速に回路動作することによって、導電体20aと導電体20bに印加される電圧は周波数成分を含むことになる。このため、導電体20aと導電体20bとの間の絶縁性能が不十分である場合、不良部22にかかる電圧の周波数成分が、不良部22の容量成分を通過することでショート不良が生じる。第2の検出系は、抵抗値の変化が少なく、不良として従来検出困難であった、不良部22の容量成分に起因する不良個所、あるいは現時点では不良とまでは至らないが、将来不良になりえる電気的裕度の低い潜在不良個所を検出することができる。
【0030】
周波数発生器41は2つのプローブ21aと21bに接続され、プローブ21aを介して導電体20aに、プローブ21bを介して導電体20bに交流電圧を印加する。電子線3が不良部22に照射されると、その影響(例えば、温度上昇)により不良部22の誘電率が変化する。その変化をプローブ間の交流電圧の変化として差動増幅器23により検知する。周波数発生器41が発生させる電圧の大きさや周波数はシステム制御部14から設定され、不良を検出するために適切な値を選択することができる。
【0031】
図5に、位相検波部40の構成を示す。差動増幅器23の出力は、周波数発生器41が発生させた周波数成分を持っているため、そのまま、信号として画像化すると周波数成分を持った画像に変換されてしまう。このため、位相検波部40は、差動増幅器23の出力SIGを周波数発生器41が出力した周波数をもつ参照信号REFで検波することにより、直流成分を抽出する。ここでは周波数発生器41の発生させる交流電圧をそのまま参照信号REFとして使用しているが、位相検波部40は、別途周波数発生器を備え、周波数発生器41の発生させる交流電圧と同期させて参照信号REFを生成するようにしてもよい。
【0032】
位相検波部40は、位相検波器42、位相シフト器43、フィルター44、演算器45を備える。差動増幅器23の出力信号SIGは、印加した周波数frを基準として位相検波器42により検波され、直流信号に変換される。位相検波部40は、2系統の位相検波器42を備える。一方の位相検波器42aには、位相シフト器43により参照信号REFの位相を90°ずらした参照信号を入力し、他方の位相検波器42bには参照信号REFをそのまま入力することにより、位相検波器42a、42bは、互いに直交する参照信号SIN、COSにより位相検波を行う。位相検波器42により差動増幅器23の出力信号近傍のノイズ成分も直流成分近傍に変換されるため、フィルター44(通常はローパスフィルター)により雑音や検波で生じたリプルを除去する。演算器45は位相検波器42aからの直流信号Y、位相検波器42bからの直流信号Xを極座標変換し、振幅信号Rと位相信号θとを出力する。
【0033】
図6を用いて演算器45における極座標変換について説明する。差動増幅器23の出力はベクトル110で表される。Rcosθの大きさは位相検波器42bの出力信号X、Rsinθの大きさは位相検波器42aの出力信号Yとして検出されている。したがって、振幅信号Rと位相信号θは、(数1)により演算できる。
【0034】
【0035】
図5の位相検波部40が実行する位相検波処理は、2位相ロックインアンプの処理と同じである。したがって、位相検波部40としてロックインアンプを実装してもよい。振幅信号Rを画像処理部13に入力することにより、振幅信号Rに基づくEBAC像(以下、振幅像という)が、位相信号θを画像処理部13に入力することにより、位相信号θに基づくEBAC像(以下、位相像という)を得ることができる。
【0036】
以下に、第2の検出系の変形例について説明する。
【0037】
図7は、試料に印加する交流電圧の位相を変更できる構成例である(第1の変形例)。位相シフト器49を使用して、プローブ21aを介して導電体20aに印加する交流電圧とプローブ21bを介して導電体20bに印加する交流電圧との位相を変化させる。ここでは、位相シフト器49をプローブ21b側に設けているが、プローブ21a側に設けてもよい。システム制御部14は、位相シフト器49による遅延量を制御することにより、(1)同位相(0°)の交流電圧を印加する、(2)逆位相(180°)の交流電圧を印加する、さらに位相シフト器49からの出力を遮断することにより、(3)片側のプローブ(この場合はプローブ21aのみ)に交流電圧を印加するよう、切り替えることができる。
【0038】
(1)同位相の交流信号を印加する場合には、周波数発生器41で発生し、プローブ21a、21bを介して印加される同相のノイズが差動増幅器23でキャンセルすることができるため、不良部22の変化を高感度で検知できる利点がある。検出感度を上げることにより、不良部22が
図7に示されるように導電体20aと導電体20bとの間にはなかった場合にも不良部22を検出する可能性を高めることができる。
【0039】
通常、不良の生じている位置を推定し、プローブ21a、21bは推定した不良部22を挟むように接触位置が決定される。この推定に誤りがあり、例えば不良部22は導電体20aに接続しているが、導電体20bには接触していなかったとする。この場合、電子線3が不良部22に照射されることによる変化は、プローブ21aには表れるが、プローブ21bには表れない。このため、差動増幅器23に入力されるプローブ間の交流電圧の変化はプローブが正しく不良部を挟むように接触されている場合に比べて小さいものになる。しかしながら、高感度化により、このような場合でもあっても不良として検知できる可能性を高めることができる。
【0040】
(2)逆位相の交流信号を印加する場合は、同位相の交流信号を印加する場合に比べて、不良部22に対して最大で2倍の電圧を印加できるため、電子線3が照射されたときの変化が起きやすくなる可能性が高い。印加電圧が高くなるほど、不良が起こりやすい症状が生じている場合に有効である。
【0041】
(3)不良部22の片側のみに交流電圧を印加し、他方は無印加とした場合の変化を検出したい場合には、片側のプローブのみに交流電圧を印加する。不良部22がグランド電極(GND)にリークしているような場合には、不良部22の片側のみに交流電圧を印加する検出方法が有効である。
【0042】
このように不良部22に対して、印加する交流電圧の位相を切り替えて可能とすることにより、不良部の性質にあわせて、不良を最も検知し易い状態を設定することが可能になる。
【0043】
図8は、周波数発生器50を用いて、印加する交流電圧の波形を矩形波とする構成例である(第2の変形例)。ここでは
図7の回路構成に対して周波数発生器を変更した例を示しているが、
図5の回路構成に対しても適用可能である。特に適用回路を限定する言及のない場合、あるいは原理的に矛盾が生じない限り、実施例、変形例同士は組み合わせ、置換可能なものである。以下の実施例、変形例においても同様である。
【0044】
プローブ21に印加する交流電圧の波形を矩形波に変えることで不良部22に印加される周波数に高調波成分が多く含まれるようになる。正弦波の交流電圧の周波数を高くするよりも、高調波成分を多く含む矩形波を印加することにより、矩形波の基本周波数をそれほど高くすることなく、不良部22の存在を顕著化することができる。
【0045】
本変形例は、トランジスタの動特性をEBAC像として可視化することができる。この場合、
図9に模式的に示すようにトランジスタのゲートG、ドレインDに対して、プローブ21a、21bを接触させ、矩形波の交流電圧を印加する。交流電圧の基本周波数を高くするにつれて、動特性が不良のトランジスタは、ゲート電圧の変化に追随してドレイン電流を流すことができなくなる。プローブ21a、21bによりトランジスタのチャネル電流に起因する電圧変化を捉えることにより、トランジスタの動特性をEBAC像におけるコントラストとして可視化することができる。例えば、集積回路が並列接続されるトランジスタを含んでいる場合、並列接続されたトランジスタのゲート電極にプローブ21aを、ドレイン電極にプローブ21bを接触させることにより、トランジスタの動特性のばらつきをEBAC像から判断できる。
【0046】
図10は、差動増幅器23を使用しない場合の構成例である(第3の変形例)。第1の変形例に関して説明したように、不良部の両端に交流電圧を印加しなくとも、不良部の片側に交流電圧を印加するだけでも容量起因によるショート不良が発生する場合である。例えば、電圧印加しない端部が電気的にオープンになっている場合や、グランド電位(GND)に固定されている場合は、不良部の片側だけへの交流電圧印加により不良部22を検出可能である。この場合の増幅器51は、電圧変換型の増幅器であっても電流増幅型の増幅器であってもよい。必要に応じて、
図10に示すように、増幅器51に接続されない側のプローブ21bをグランド電位(GND)として、プローブ21aとは反対側の端部に接触させることでノイズを低減することも可能である。
【実施例2】
【0047】
実施例2の試料検査装置を
図11に示す。パルス発生器58によりパルス化した電子線3を試料に照射し、パルス発生器58からの周波数信号により差動増幅器23からの出力信号を同期検波するものである。電子線3をON/OFFするため、パルス発生器58から発する周波数信号は矩形波である。このように、電子線3をON/OFFしながらSEM像を取得する電子顕微鏡はパルスSEMとして知られている。
【0048】
実施例2では、このようなパルスSEMを使用してEBAC像を取得することにより、パルス電子線と同じ周波数特性をもつ容量性の不良を検出する。電子光学系は電子線3のブランキング機構を備えており、パルス発生器58からのON/OFF波形により、電子線制御部12は電子線3をブランキングし、電子線3をパルス化して試料に照射する。同じ周波数信号(ON/OFF波形)を不良部22に対して、プローブ21a、21bにより印加し、差動増幅器23の出力信号を同じ周波数信号で検波することにより、EBAC画像を取得する。パルス発生器58が発生する周波数信号の位相をずらしながら、複数のEBAC像を取得し、重畳することで、容量性の不良をS/Nよく取得することができる。例えば、パルス発生器58が発生する周波数信号のデューティ比が33%であれば、位相をずらしながら3回画像を取得することで、電子線3を連続ビームとして照射したときと同等のS/N比の像が得られる。
【0049】
ここではパルス発生器58が発生させる周波数信号をそのままプローブに印加する交流電圧や位相検波部に入力する参照信号として使用しているが、第2の検出系は、別途周波数発生器を備え、パルス発生器58の発生させる周波数信号と同期し、同じ周波数をもつ交流電圧や参照信号REFを生成するようにしてもよい。
【0050】
実施例1と同様、振幅信号Rを画像処理部13に入力することにより、振幅信号Rに基づくEBAC像(以下、振幅像という)が、位相信号θを画像処理部13に入力することにより、位相信号θに基づくEBAC像(以下、位相像という)を得ることができる。
【0051】
図11では、実施例1の第1の変形例と同様に、位相シフト器49により、プローブ21aを介して導電体20aに印加する交流電圧とプローブ21bを介して導電体20bに印加する交流電圧との位相を変化させる構成を示しているが、位相シフト器49を除いた構成も可能である。実施例1の第3の変形例のように不良部22に接触させるプローブは片側のみとし、差動増幅器23に代えて電圧変換型の増幅器や、電流増幅型の増幅器を用いることも可能である。
【実施例3】
【0052】
実施例3では、以上の実施例、変形例と異なりプローブ21に対して交流電圧の印加は行わない。差動増幅器23からは直流信号を出力するのは従来のEBAC像と同じであるが、位相検波処理を行うことにより、より鮮明なEBAC像を得ることを目的とする。
【0053】
EBAC像の取得において、電子線3のスキャン速度は、画質、及び不良の検出性能に大きな影響を与える。また、EBAC像の画像分解能はその画素数に依存する。したがって、EBAC像1画素あたりの電子線照射時間の逆数であるサンプリングレートが、EBAC像による不良の検出具合に大きな影響を与える。そのため、事前にサンプリングレートを変更しながら、複数回EBAC像を取得して、不良が顕著に見えるサンプリングレートを探索することが一般的である。
【0054】
吸収電流は微弱な電流であるため、差動増幅器23による増幅率も大きく、このため、同時に試料検査装置で発生する様々なノイズも一緒に増幅されてしまうため、差動増幅器23からの出力信号はノイズに埋もれた状態にある。位相検波により単一周波数の信号を抽出できるので、吸収電流に起因する微小信号を、位相検波に用いる周波数を適切に選択して抽出することにより、より鮮明なEBAC像を得ることができる。
【0055】
図12に、不良ごとに適正なサンプリングレートを探索し、さらにサンプリングレートに基づき、位相検波のために周波数発生器41が発生させる周波数を自動で設定可能な試料検査装置を示している。
【0056】
ユーザがEBAC画像を取得する条件を決定すると、コンピュータ18はその取得条件に基づきサンプリングレートを計算する。システム制御部14は、電子線制御部12に走査信号を出力し、計算されたサンプリングレートで電子線3をスキャンさせる。また、システム制御部14は、計算されたサンプリングレートに基づき定められた位相検波に用いる周波数をもつ参照信号REFの生成を周波数発生器41に指示し、位相検波部40は周波数発生器41からの参照信号REFを受けて差動増幅器23の出力を検波する。
【0057】
システム制御部14は、位相検波に用いる周波数はサンプリングレート以上の値となるように設定する。これは以下の理由による。位相検波に用いる周波数をサンプリングレート以下とする場合には、サンプリングレートよりも低周波数のノイズが画素値にそのまま反映されることになる。サンプリングレートよりも高い周波数で位相検波することにより、1画素あたりに複数回の周期変動をもつ信号が検波されることにより、画素ごとにノイズが平均化される。
【0058】
他の実施例と同様、振幅信号Rを画像処理部13に入力することにより、振幅信号Rに基づくEBAC像(以下、振幅像という)が、位相信号θを画像処理部13に入力することにより、位相信号θに基づくEBAC像(以下、位相像という)を得ることができる。
【0059】
位相検波することで、検出される信号は空間的周波数が狭い帯域に限定される。このため、通常、EBAC像における輝点(信号が大きい、または小さい箇所)が現れた場合、その周囲にも明るい部分が表れるところ、本実施例では位相検波に用いる周波数以外の周波数帯の信号は抑制されることにより、EBAC像に示される不良箇所のサイズを縮小化させることが可能である。すなわち、不良部の絞りだし、つまり極小化ができるようになる。
【0060】
図12の例では、差動増幅器23として、2つの入力端子の間に電圧源55から所定の電圧が印加されている電圧印加タイプの差動増幅器が使用している。これに限らず、電圧源55の設けられていない差動増幅器を使用してもよく、さらには使用するプローブが1つである場合には、差動増幅器に代えて、
図10に示したような電圧変換型の増幅器や、電流増幅型の増幅器を使用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…SEMカラム、2…電子源、3…電子線、4…検出器、5…第1集束レンズ、6…第2集束レンズ、7…偏向コイル、8…電気的視野移動コイル、9…対物レンズ、10…試料ステージ、11…制御部、12…電子線制御部、12a…偏向コイル駆動部、13…画像処理部、14…システム制御部、15…キーボード、16…マウス、17…画像表示器、18…コンピュータ、19…試料、20a,20b:導電体、21a,21b…プローブ、22…不良部、23…差動増幅器、24…A/Dコンバータ、25…画素積算部、26…フレーム積算部、27a,27b…入力インピーダンス、40…位相検波部、41…周波数発生器、42…位相検波器、43…位相シフト器、44…フィルター、45…演算器、49…位相シフト器、50…周波数発生器、51…増幅器、55…電圧源、58…パルス発生器、101…SEM像、102,103,104…EBAC像、110…ベクトル。