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特許7552028ポリアミド系樹脂フィルムおよび該フィルムを用いた包装体
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  • 特許-ポリアミド系樹脂フィルムおよび該フィルムを用いた包装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ポリアミド系樹脂フィルムおよび該フィルムを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20240910BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240910BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240910BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20240910BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20240910BHJP
   C08J 5/18 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B7/022
B32B27/28 102
B65D65/02 E
B29C55/12
C08J5/18 CFG
C08J5/18 CET
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020026515
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130770
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】西田 良平
(72)【発明者】
【氏名】大橋 暁弘
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123216(JP,A)
【文献】特開2020-183521(JP,A)
【文献】特開2010-131950(JP,A)
【文献】特開2010-023242(JP,A)
【文献】特開2020-111045(JP,A)
【文献】特開2013-166530(JP,A)
【文献】特開2015-20393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/12
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリアミド樹脂(a1)とスチレン系ブロック共重合体(a2)とを含むA層、及びガスバリア性樹脂を含むB層の少なくとも2層を有するフィルムであって、
A層を100質量%としたときスチレン系ブロック共重合体(a2)の含有率が1~20質量%であり、
スチレン系ブロック共重合体(a2)が、スチレン単量体単位とイソブチレン単量体単位とを共重合成分として含み、スチレン単量体単位の含有率が5質量%以上30質量%未満であり、かつ重量平均分子量が2.0万以上13.0万以下であり、
フィルムのヘーズが10%以下、且つ
温度5℃、相対湿度50%、屈曲500回のゲルボフレックス試験においてピンホール数が15.0個/481cm以下である
ことを特徴とするポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項2】
3℃相対湿度50%、屈曲3000回のゲルボフレックス試験条件においてピンホール数が4.0個/481cm未満である請求項1に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記B層のガスバリア性樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)であり、前記B層が前記スチレン系ブロック共重合体(a2)を含み、B層を100質量%としたとき前記スチレン系ブロック共重合体(a2)の含有率が1~20質量%である請求項2に記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記スチレン系ブロック共重合体(a2)が、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体である請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項5】
フィルムの流れ方向(MD)または幅方向(TD)に平行な断面観察において、MDまたはTDの前記A層における前記スチレン系ブロック共重合体(a2)の分散粒子の水平方向の最大直径が3.0μm以下である請求項1~4の何れかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項6】
前記A層が最外層に配される請求項1~5のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド系樹脂フィルムを用いた包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食料品、医薬医療品、工業部品等の包装に用いるポリアミド系樹脂フィルムおよび該フィルムを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂からなるフィルムは、耐衝撃性、強度などの機械的特性、耐熱性、さらには二軸延伸などの成形加工性に優れていることから、様々な用途として用いられている。
【0003】
また、ポリアミド系樹脂フィルムは、他の樹脂に比べ耐衝撃性、機械強度等が優れるが、低温輸送や包装材料の薄肉化が進んだ現在の市場では、流通時の搬送、運送や、他材料との摩擦や衝撃によるピンホール発生をより一層低減させることが、喫緊の課題となっており、食品包装市場・産業から、ポリアミド系樹脂フィルムの更なる強靭性の向上、特にピンホールが発生しやすい低温環境下から、常温環境下までの広い温度域に対する耐屈曲ピンホール性の改良が強く望まれている。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1には、最外層となるポリアミド6層に柔軟改質剤を配合し、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層と、柔軟改質剤を含まないポリアミド6層を共押出した二軸延伸ポリアミド系積層フィルムが開示されており、柔軟改質剤としては、ポリオレフィン類、ポリアミドエラストマー類、ポリエステルエラストマー類が例示されている。
また、特許文献2には、脂肪族ポリアミドを含有するA層、及び、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物を55~95質量%、軟質重合体を5~45質量%含有するB層、及び、脂肪族ポリアミドを含有するC層がこの順で積層されたポリアミド系多層フィルムが開示され、軟質重合体としては、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアミド系エラストマー、(メタ)アクリル系エラストマー、スチレン系エラストマーが例示されている。
しかしながら、これらの技術だけでは、近年一層強まっている耐屈曲ピンホール性に関する市場要求を満たすことはできず、また透明性の兼備も十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-023242号公報
【文献】特開2010-131950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記実情に鑑みて、本発明の課題は、低温環境下から常温環境下までの幅広い温度域における耐屈曲ピンホール性と透明性に優れるポリアミド系樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、脂肪族ポリアミド樹脂(a1)と、特定の組成と分子量のスチレン系ブロック共重合体(a2)とを含むA層を少なくとも1層有するフィルムとすることにより上述の課題を解決することを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0008】
第1の本発明は、脂肪族ポリアミド樹脂(a1)とスチレン系ブロック共重合体(a2)とを含むA層を少なくとも1層有するフィルムであって、A層を100質量%としたときスチレン系ブロック共重合体(a2)の含有率が1~20質量%であり、スチレン系ブロック共重合体(a2)が、スチレン単量体単位とイソブチレン単量体単位とを共重合成分として含み、スチレン単量体単位の含有率が5質量%以上30質量%未満であり、かつ重量平均分子量が2.0万以上13.0万以下であり、フィルムのヘーズが10%以下、且つ温度5℃、相対湿度50%、屈曲500回のゲルボフレックス試験においてピンホール数が15.0個/481cm以下であることを特徴とするポリアミド系樹脂フィルムである。
【0009】
第1の本発明のフィルムは、前記A層、及びガスバリア性樹脂を含むB層の少なくとも2層を有する二軸延伸フィルムであって、23℃相対湿度50%、屈曲3000回のゲルボフレックス試験条件においてピンホール数が4.0個/481cm未満であることが好ましい。
【0010】
第1の本発明において、前記B層のガスバリア性樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)であることが好ましく、前記B層が前記スチレン系ブロック共重合体(a2)を含み、B層を100質量%としたとき前記スチレン系ブロック共重合体(a2)の含有率が1~20質量%であることが好ましい。
【0011】
第1の本発明において、前記スチレン系ブロック共重合体(a2)が、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体であることが好ましい。
【0012】
第1の本発明において、フィルムの流れ方向(MD)または幅方向(TD)に平行な断面観察において、MDまたはTDの前記A層における前記スチレン系ブロック共重合体(a2)の分散粒子の水平方向の最大直径が3.0μm以下であることが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、前記A層が最外層に配されることが好ましい。
【0014】
第2の本発明は、第1の本発明のポリアミド系樹脂フィルムを用いた包装体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、透明性、耐屈曲ピンホール性のバランスに優れる。特に、低温から常温までの温度領域において、良好な耐屈曲ピンポール性を有し得ることから、本発明のフィルムを用いた包装体とすることで、包装品の保管、流通、陳列、消費者使用開始までの間で、包装品の品質を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は、A層のTDに平行かつフィルム厚み方向に垂直な断面(以下、TD平行方向断面という場合がある。)の模式図であり、図1(b)は、A層のMDに平行かつフィルム厚み方向に垂直な断面(以下、MD平行方向断面という場合がある。)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
本発明のポリアミド系樹脂フィルム(以下、「本発明のフィルム」と称することがある)は、脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)とスチレン系ブロック共重合体(a2)とを含むA層を少なくとも1層有する。
【0018】
<A層>
(脂肪族ポリアミド系樹脂(a1))
本発明に用いる脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)としては、下記環状ラクタムの開環重合物が好ましく使用できる。具体的には、アセトラクタム(ポリアミド2)、プロピオラクタム(ポリアミド3)、ブチロラクタム(ポリアミド4)、バレロラクタム(ポリアミド5)、カプロラクタム(ポリアミド6)、エナントラクタム(ポリアミド7)、カプリロラクタム(ポリアミド8)、ペラルゴラクタム(ポリアミド9)、カプリノラクタム(ポリアミド10)、ラウロラクタム(ポリアミド12)等である。
また、下記アミノカルボン酸の重縮合物も好適に使用できる。具体的には、アミノプロピオン酸(ポリアミド3)、アミノブチル酸(ポリアミド4)、アミノバレリアン酸(ポリアミド5)、アミノカプロン酸(ポリアミド6)、アミノエナント酸(ポリアミド7)、アミノカプリル酸(ポリアミド8)、アミノペラルゴン酸(ポリアミド9)、アミノカプリン酸(ポリアミド10)、アミノラウリン酸(ポリアミド12)等である。
【0019】
さらに、下記ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物も好適に使用できる。具体的には、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリテトラメチレンドデカミド(ポリアミド412)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)等である。これらは、1成分単独もしくは多成分を組み合わせて共重合しても良い。また、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等いずれの共重合手法を用いても良い。
これらの脂肪族ポリアミド系樹脂の中でも、耐熱性、成形性、吸水性、機械強度のバランスに優れることから、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6,66が好ましく、汎用性、経済性の高いポリアミド6が特に好ましい。
【0020】
(スチレン系ブロック共重合体(a2))
本発明に用いるスチレン系ブロック共重合体(a2)は、スチレン単量体単位とイソブチレン単量体単位とを共重合成分として含み、スチレン単量体単位の含有率が5質量%以上30質量%未満であり、かつ重量平均分子量が2.0万以上13.0万以下である。
【0021】
スチレン系ブロック共重合体(a2)は、分子中に少なくとも1個のスチレンブロックと、少なくとも1個のイソブチレンブロックを有していればよく、その構造は特に限定されない。例えば、直鎖状のABA型トリブロック構造、AB型ジブロック構造や、2以上に枝分かれした分岐鎖状または星型(ラジアル型)のいずれの分子鎖形態を有していてもよい。中でも、脂肪族ポリアミド樹脂(a1)との海/島相間の密着性や、他層との密着性の観点から、直鎖状のABA型トリブロック構造、AB型ジブロック構造、およびその混合物が好ましく、直鎖状のABA型トリブロック構造がより好ましい。
【0022】
スチレンブロックを構成するモノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t-ブトキシスチレン等のスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などを挙げることができる。スチレンブロックを構成するモノマー単位は1種のみでもよく、2種類以上であってもよいが、中でもスチレンまたはスチレンから誘導される単位からなっているものが特に好ましい。
【0023】
また、スチレンブロックは、芳香族環を水素化したものでもよく、一般には、ブロック共重合体を製造した後に、当該共重合体を水素化して得ることができる。芳香族環の水素化率は、本フィルムのガスバリア性向上の観点から、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。芳香族環の水素化方法や反応形態などは特に限定されないが、水素化率を高め、また重合体鎖切断反応の少ない方法が好ましい。
【0024】
イソブチレンブロックを構成するモノマーの例としては、イソブチレンである。
スチレンブロックとイソブチレンブロックとの共重合体の具体例としては、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(SIB)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、またこれらを組み合わせたSIBS/SIBなどが挙げられ、熱安定性に優れ好ましい。
【0025】
スチレン系ブロック共重合体(a2)は、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基及びエポキシ基から選ばれた少なくとも1種の官能基を含有させてなる官能基変性共重合体でもよい。また、変性共重合体と未変性共重合体との混合物を用いることもできる。
【0026】
スチレン系ブロック共重合体(a2)の共重合組成比率は、スチレン単量体単位5質量%以上30質量%未満である。その下限は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。上限は28質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
スチレン単量体単位が30質量%未満であると、ゴム硬度が低くなり、脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)にブレンドすると優れた耐衝撃性を付与することができる。一方、5質量%以上であると、スチレン系ブロック共重合体(a2)同士がブロッキングすることなくドライブレンドすることができるなど成形性に優れる。
また、イソブチレン単量体単位は70質量%以上95質量%未満が好ましく、下限は72質量%以上がより好ましく75質量%以上が更に好ましい。上限は90質量%以下が好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
なお、スチレンブロック、イソブチレンブロックを複数有する場合は、その総和としての組成比(質量%)である。
【0027】
スチレン系ブロック共重合体(a2)の重量平均分子量は2.0万以上13.0万以下である。下限は4.0万以上が好ましく、6.0万以上がより好ましい。上限は11.0万以下が好ましく、10.0万以下がより好ましい。
重量平均分子量が13.0万以下であると、スチレン系ブロック共重合体(a2)の流動性が良好となり、脂肪酸ポリアミド樹脂(a1)と混合した際のフィルムの成形性や加工性が良好となる。特に、スチレン系ブロック共重合体(a2)の微細な分散粒子を形成させることができるので、低温から常温の幅広い温度領域において耐屈曲ピンホール性を向上させることができる。一方、2.0万以上であると本フィルムの耐衝撃性などの機械的特性、成形性などが良好となる。
【0028】
スチレン系ブロック共重合体(a2)は、タイプAデュロメータ硬さが15以上50以下であることが好ましい。下限は18以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。上限は45未満がより好ましく、40未満が更に好ましい。
スチレン系ブロック共重合体(a2)のタイプAデュロメータ硬さは、共重合組成比率、分子量、ブロック構造に依存し、50以下によってフィルムに柔軟性を付与できる。またタイプAデュロメータ硬さが15以上であれば、スチレン系ブロック共重合体(a2)同士がブロッキングすることが少なく、生産性が良好となる。
タイプAデュロメータ硬さは、JIS K6253-3に記載の方法で、加圧板を試験片に接触させ15秒後の値を読み取り測定することができる。
【0029】
A層における脂肪族ポリアミド樹脂(a1)とスチレン系ブロック共重合体(a2)との合計量を100質量%とした場合、スチレン系ブロック共重合体(a2)の含有率は1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~12質量%が更に好ましい。1質量%以上であれば、十分な耐屈曲ピンホール性向上効果を得ることができる。20質量%以下であれば、本フィルムの酸素ガスバリア性や機械強度を十分に維持することが可能となる。
【0030】
本フィルムのA層は、脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)に対してスチレン系ブロック共重合体(a2)は粒子状に分散し、(a1)が海状、(a2)が島状の分散形態を為す(図1(a)(b)参照)。
本フィルムの流れ方向(MD)または幅方向(TD)に平行な断面観察において、MDまたはTDのA層におけるスチレン系ブロック共重合体(a2)の分散粒子の水平方向の最大直径は3.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましい。
水平方向の最大直径とは、フィルムを厚み方向に垂直に切断し、断面染色TEM法で倍率2000倍で観察した場合に観察される分散粒子の最大直径を意味する。3.0μm以下の粒子が多数分散することにより、フィルムの透明性と耐屈曲ピンホール性が共に良好となる。
【0031】
また、A層におけるスチレン系ブロック共重合体(a2)の分散粒子のフィルム厚み方向の長さ(短径)に対するフィルム水平方向の長さ(長径)のアスペクト比(長径/短径)は、2以上が好ましく、5以上がより好ましい。上限は特に制限はない。アスペクト比2以上で、粒子が水平方向に薄くなって多数分散することによりフィルム水平方向に全面的にスチレン系ブロック共重合体(a2)が存在することで、フィルム屈曲による応力の集中が発生してもピンホールが発生し難い。
特に、二軸延伸フィルムの形態で低温環境下において、上記の最大直径やアスペクト比を満たす場合に、耐ピンホール性の効果が顕著に現れる。
【0032】
また、A層におけるスチレン系ブロック共重合体(a2)の分散粒子の水平方向の最大直径が、本フィルムの流れ方向(MD)または幅方向(TD)の何れか一方向の観察において3.0μm以下であり、且つ、他方のフィルム方向の断面観察において直径が4.0μm以上、好ましくは5.0μm以上であると、当該他方のフィルム方向の直線カット性が良好となる。例えば、幅方向(TD)の分散粒子の最大直径が3.0μm以下、流れ方向(MD)の分散粒子の最大直径が4.0m以上であると、フィルムの耐ピンホール性および透明性と、フィルム流れ方向(MD)の直線カット性が良好となる(図1(a)(b)参照)。
特に、二軸延伸フィルムの形態で、耐ピンホール性、透明性、直線カット性を兼備することで、本フィルムを包装資材として用いた場合に、内容物の保存性、視認性向上の他、使用者の開封容易性が良好となり利便性が向上する。
【0033】
(その他成分)
A層は、上記した成分(a1)および成分(a2)を主成分とし、それ以外に、本発明のフィルムの特性を損なわない範囲で、芳香族ポリアミド系樹脂等の他の成分を含んでもよい。
ここで主成分とは、それを含む層を基準(100質量%)として、該成分を50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含むことをいう。
【0034】
A層に含まれていてもよい芳香族ポリアミド樹脂や脂環族ポリアミド樹脂としては、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド M-5T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリメタキシリレンセバカミド(ポリアミドMXD10)、ポリパラキシリレンセバカミド(ポリアミドPXD6)等の半結晶性ポリアミド樹脂や、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)等の非晶性ポリアミド樹脂が好適に使用できる。これらは、1成分単独もしくは複数成分を組み合わせて共重合しても良い。また、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等いずれの共重合手法を用いても良い。
【0035】
また、A層は、本発明のフィルムの物性を損なわない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、フィラー、核剤、可塑剤、発泡剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、難燃剤、染料、顔料、安定剤、カップリング剤、耐衝撃改良材等の添加剤を含有することができる。
【0036】
<B層>
本発明のフィルムは、ガスバリア性樹脂からなるB層を設けることにより、ガスバリア性を付与することができ、包装用フィルムに用いた際に内容物の腐敗等を防ぎ、長期保管性を高めることに有用である。
ガスバリア性樹脂としては、公知の樹脂を使用できるが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)、メタキシリレンジアジパミド(MXD6ナイロン)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)が挙げられる。中でも、酸素ガスバリア性の点で、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)が好ましい。
【0037】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1))
本発明に使用されるエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)(EVOH)は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体をアルカリ触媒等によってケン化することによって得られる共重合体である。エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物中のエチレン含有率は、特に限定されるものではないが、フィルム製膜安定性の観点から、一般に20モル%以上が好ましく、より好ましくは24モル%以上である。一方、エチレン含有率の上限はガスバリア性の観点から、48モル%以下が好ましく、38モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。またエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)のケン化度は、96%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。本発明のフィルムにおいて、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)中のエチレン含有率、およびケン化度が上記範囲であることにより、製膜性とガスバリア性のバランスに優れたものとなる。そのため、脂肪族ポリアミド系樹脂との共押出や、二軸延伸などの成形加工が可能となる。
【0038】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)は、必要に応じて種々変性されていても良く、また変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物とエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物との混合物でも良い。変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物としては、例えば、プロピレン、イソブテン等による変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、炭素数3~30のα-オレフィンの少なくとも1種による変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、アクリル酸エステルをグラフト重合して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、(メタ)アクリル酸エステル-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体をケン化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物の水酸基をシアノエチル基により変性した変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリエステルをビニルアルコールと解重合反応させてなるポリエステルグラフト物を含有する変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、酢酸ビニル-エチレン-ケイ素含有オレフィン性不飽和単量体の共重合体をケン化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ピロリドン環含有単量体-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体をケン化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、アクリルアミド-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体をケン化して得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、酢酸アリル-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体をケン化して得られる変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、酢酸イソプロペニル-エチレン-酢酸ビニルからなる3元共重合体をケン化して得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリエーテル成分がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物の末端に付加している変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリエーテル成分がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物の枝ポリマーとしてグラフト状に付加している変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、アルキレンオキサイドがエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物に付加した変性エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物などが挙げられる。
【0039】
(その他の成分)
B層は、ガスバリア性樹脂を主成分とし、それ以外に、本発明のフィルムの特性を損なわない範囲で、他の樹脂や成分を含んでもよい。
ここで主成分とは、それを含む層を基準(100質量%)として、該成分を50質量%以上、好ましくは80質量%以上含むことをいう。
【0040】
・熱可塑性エラストマー(b2)
例えば、B層の柔軟性を向上させ、フィルムの耐ピンホール性を向上させるために、熱可塑性エラストマー(b2)を混合することができる。例えば、公知のポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、(メタ)アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマーや、それらの変性物を挙げることができ、それらの群から1種類以上用いるとよい。変性成分としては、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸および/またはその無水物、グリシジル酸、アミン、エポキシ、イソシアネート等が挙げられ、変性率は0.01~10質量%が好ましい。また、ポリアミド系エラストマーやポリエステル系エラストマーのソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールを用いたブロック共重合体が好ましい。
【0041】
また、スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-イソブチレンブロック共重合体(SIB)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)などが挙げられる。
【0042】
B層のエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)との相溶性が良く微分散して、フィルムの透明性低下が少なく、耐衝撃性、耐ピンホール性を向上させる観点において、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールを用いたポリアミド系ブロック共重合体及びポリエステル系ブロック共重合体、またそれらの無水マレイン酸変性物、SIB、SIBSが好ましい。
中でも、B層のエラストマー(b2)として、A層に用いるスチレン系ブロック共重合体(a2)の特性を有するSIB、SIBSを用い、A層とB層に同一種のスチレン系ブロック共重合体(a2)を配合すると、A層とB層を配する共押出フィルムの生産性の点で好ましい。
【0043】
B層におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)と熱可塑性エラストマー(b2)との合計量を100質量%とした場合、熱可塑性エラストマー(b2)の含有率は1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。1質量%以上によって耐屈曲ピンホール性向上が図られる。20質量%以下によって、本フィルムのガスバリア性や透明性の低下を抑えられる。また、含有率が少ないと、フィルム製膜におけるゲル発生が抑制されフィルム生産性の点で好ましい。
【0044】
本フィルムのB層において、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)に対して熱可塑性エラストマー(b2)は粒子状に分散し、(b1)が海状、(b2)が島状の分散形態を為す。
分散形態は、(b2)粒子の水平方向の最大直径が3.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下がより好ましく、1.0μm以下が更に好ましい。最大直径とは、フィルムを厚み方向に垂直に切断し、断面染色TEM法で倍率2000倍で観察した場合に観察される分散粒子の最大直径を意味する。
B層中において熱可塑性エラストマー(b2)は粒子が最大直径3.0μm以下で分散していることにより、柔軟性や耐衝撃性の乏しいエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)を主成分とするB層の柔軟性や耐衝撃性、耐屈曲ピンホール性等の機械強度を大幅に向上させ、また透明性も兼ね備えることができる。
【0045】
また、延伸フィルムを作製した場合でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)中の熱可塑性エラストマー(b2)は強く延伸がかかることはなく、分散粒子のフィルム厚み方向の長さ(短径)に対するフィルム水平方向の長さ(長径)のアスペクト比(長径/短径)は、好ましくは1~3である。
本フィルムがA層とB層を有する場合、A層の脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)におけるスチレン系ブロック共重合体(a2)の分散と、B層のエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)における熱可塑性エラストマー(b2)の分散が相まって、透明性を有した状態で柔軟性を向上させると共に、屈曲による局所的な応力集中に対する耐屈曲ピンホール性を増大させ、低温下の過酷な環境においても良好な所物性を発現させ得るものである。
【0046】
・汎用樹脂、添加剤等
B層は、上記した成分(b1)および成分(b2)以外に、本発明のフィルムの特性を損なわない範囲で、汎用樹脂、添加剤などの他の成分を含んでいてもよい。
主成分の定義、添加剤などは、A層と同様である。
【0047】
<層構成>
本フィルムは、脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)とスチレン系ブロック共重合体(a2)とを含むA層を少なくとも1層有すればよく、他の層を有してもよい。例えば、上記したガスバリア性樹脂を含むB層や、スチレン系ブロック共重合体(a2)を含まない脂肪族ポリアミド系樹脂層(C層)などを配することも可能である。
【0048】
例えば、A層とB層とを有するフィルム構成の場合、A層/B層/A層等の3層構成が挙げられ、さらにC層を有する場合は、A層/B層/C層/A層等の4層構成、A層/C層/B層/C層/A層、C層/A層/B層/A層/C層等の5層構成が好ましく挙げられる。
また、スチレン系ブロック共重合体(a2)の種類や含有率の異なる複数のA層、及び又は熱可塑性エラストマー(b2)の種類や含有率の異なる複数のB層を配設する、A層/B層/B層/B層/A層、A層/A層/B層/A層/A層等の5層構成、C層/A層/B層/B層/B層/A層/C層、C層/A層/A層/B層/A層/A層/C層等の7層構成が好ましく挙げられるが、これら例示されたものに限定されるものではない。
また、各層の間に更に接着層やその他の層を設けたものであってもよい。なお、上記層構成のうち、フィルムの耐屈曲性向上、リサイクル生産効率の観点から、最外層にA層を有する層構成とすることが好ましい。
【0049】
また、各層厚は、耐屈曲ピンホール性と酸素ガスバリア性の点から、フィルム総厚に対するA層の厚比は30~90%、B層の厚比は10~70%とすることが好ましい。なお、これらは、A層および/またはB層が複数ある場合は、A層および/またはB層ごとに合計した厚みの総厚に対する比率である。
A層、B層、C層の各層厚は、特に限定されるものではないが、それぞれ1~15μmが好ましい。より好ましくは2~10μm、更に好ましくは3~8μmである。A層、B層、C層がそれぞれ複数ある場合は、1層ごとに異なる層厚であってもよいし、同じ層厚であってもよい。
また本フィルムの総厚は、特に限定されるものではないが、例えば加工性、実用性を考慮した場合、下限値は10μm以上であることが好ましく、12μm以上がより好ましい。上限値としては50μm以下であることが好ましく、30μm以下がより好ましい。本フィルムの総厚が上記範囲内であれば、フィルムの剛性は十分であり、耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性などの機械特性にも優れ、さらにはガスバリア性にも優れたフィルムとなる。
【0050】
本フィルムは、機械特性やガスバリア性の観点から、二軸延伸フィルムであることが望ましい。二軸延伸の方法としては、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等、従来公知の延伸方法がいずれも採用できる。
【0051】
本フィルムは一般にポリエチレン等のポリオレフィン系のシーラントフィルムと積層されて使用することができる。この場合、上記の本フィルムの層構成中の最外層側に位置する層にコロナ処理などの表面処理を施してラミネートすることもできる。また、粘着層、金属箔、紙なども積層可能である。積層には既存のラミネート法を用いることが可能で、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法などが挙げられる。また本フィルムは必要に応じて、コロナ処理の他、印刷、コーティング、蒸着などの表面処理や表面加工を行うこともできる。
【0052】
本発明のフィルムは、内容物の品質保持や腐敗防止の観点から、更にガスバリア性樹脂層を積層する、あるいは、アルミニウム等の金属や、酸化珪素、アルミナ等の金属酸化物を蒸着加工する、ポリビニルアルコール(PVA)などのガスバリア性コート剤を塗布する等により、さらにガスバリア性や防湿性を向上させることができる。
【0053】
<製造方法>
本フィルムは、種々の方法で製造可能であるが、例えば、以下の方法により製造することが好ましい。
脂肪族ポリアミド系樹脂(a1)及びエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(b1)は、いずれも吸湿性が大きく、吸湿したものを使用すると原料を熱溶融し押出す際に水蒸気やオリゴマーが発生しフィルム化を阻害する。そのため、原材料の準備において、事前に乾燥して水分含有率を0.1質量%以下とするのが好ましい。また、フィルムの性質に影響を与えない範囲において、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、安定剤、染料、顔料、無機質微粒子などの各種添加剤を適宜用いることが出来る。
【0054】
そして、多層フィルムの場合は、各層の原材料をそれぞれ異なる押出機によって溶融押出を行い、共押出法により実質的に無定型で配向していないフィルム(以下「未延伸フィルム」という)を製造する。この未延伸フィルムの製造は、例えば、上記原料を原料の種類に対応する数の台の押出機により溶融した樹脂をフィードブロック、またはマルチマニホールドのフラットダイ、または環状ダイで合流させてから、多層フィルムとして押出した後、急冷することによりフラット状、または環状の未延伸フィルムとする共押出法を採用することができる。単層フィルムの場合は、公知のフラットダイ、環状ダイを用いて押出し、未延伸フィルムを製造することが可能である。
【0055】
次に、上記の未延伸フィルムを、フィルムの流れ方向(縦方向、MD)、およびこれと直角な幅方向(横方向、TD)において、好ましくは一方向に通常2.0~5.0倍、より好ましくは縦横二軸方向に各々2.0~5.0倍、さらに好ましくは縦横二軸方向に各々2.5~4.5倍の範囲で延伸する。縦方向、および横方向の二軸延伸方向の延伸倍率が各々2.0倍より小さい場合は、延伸による配向の効果が少なく、フィルムの強度など機械物性が劣り、また二軸延伸方向の延伸倍率が各々5.0倍より大きい場合は、延伸時に多層フィルムが破断し易い。
【0056】
二軸延伸の方法としては、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等、従来公知の延伸方法がいずれも採用できる。例えば、テンター式逐次二軸延伸方法の場合には、未延伸フィルムを40~100℃の温度範囲に加熱し、ロール式縦延伸機によって縦方向に2.0~5.0倍に延伸し、続いてテンター式横延伸機によって60~140℃の温度範囲内で横方向に2.0~5.0倍に延伸することにより製造することができる。また、テンター式同時二軸延伸やチューブラー式同時二軸延伸方法の場合は、例えば、60~200℃の温度範囲において、縦横同時に各軸方向に2.0~5.0倍に延伸することにより製造することができる。
【0057】
引き続き、寸法安定性を付与するために得られた二軸延伸フィルムを熱固定する。熱固定温度は、200℃~225℃が好ましく、205~220℃の範囲がさらに好ましい。これにより、常温寸法安定性のよい、任意の熱収縮率を持った延伸フィルムを得ることが出来る。熱処理操作により、充分に熱固定された二軸延伸フィルムは、常法により冷却し巻き取ることが出来る。
熱固定温度が上記範囲内にあれば、熱固定が十分に行われ、ラミネート強度が維持される。また、十分な耐衝撃性、耐屈曲ピンホール性を有するフィルムが得られ、破断やフィルム表面の白化などのトラブルがない優れたフィルムが得られる。
【0058】
本発明においては、熱固定による結晶化収縮の応力を緩和させるために、熱固定中に幅方向に0~15%、好ましくは3~10%の範囲で弛緩を行うことで、フィルムの収縮に追従した弛緩が十分に行われ、フィルムの幅方向に均一に弛緩するため、幅方向の収縮率が均一になり常温寸法安定性に優れたフィルムが得られる。
【0059】
本発明においては、上記弛緩の後、さらに140℃~200℃の温度で、2~9%、好ましくは3~7%、更に好ましくは4~7%の範囲で再横延伸を行うことができる。再横延伸温度が上記範囲内にあれば、適度な延伸時の応力が得られ、均一な延伸が可能となるため、幅方向の横収縮率が均一になる。また、延伸後に熱固定がかからず、横収縮率が発現しやすい。また、再横延伸倍率が上記範囲内にあれば、シーラントの固化収縮に追従するのに十分な横収縮率が得られ、シール部分の外観が良好であり、また適度な収縮率が得られ、印刷やラミネートの工程で、シワや柄ズレ等のトラブルの発生を防止できる。上記方法で製膜された延伸フィルムは、常法により冷却し巻きとられる。
【0060】
<フィルム物性>
(酸素ガスバリア性)
本フィルムは、23℃、相対湿度50%の条件下での酸素透過率が2.0cc/m/24h/atm以下であることが好ましく、1.5cc/m/24h/atm以下であることがより好ましく、1.0cc/m/24h/atm以下であることが更に好ましく、より低い値であることが望まれる。酸素透過率が2.0cc/m/24h/atm以下であれば、包装用フィルムとして、内容物の変質を防止し、新鮮に保つのに十分な酸素ガスバリア性を維持することができるため好ましい。
【0061】
(耐ピンホール性(耐屈曲ピンホール性))
本フィルムは、ゲルボフレックステスターを用い、23℃相対湿度50%下で3000回、5℃相対湿度50%下で500回、5℃相対湿度50%下で3000回の各条件で屈曲試験を行い、発生したピンホール数を計測した。各条件で3回試験しその平均値を算出した。ピンホール数は、何れの条件においても、15.0個/481cm以下が好ましく、13.0個/481cm以下がより好ましく、4.0個/481cm未満がさらに好ましく、3.0個/481cm以下がさらに好ましく、1.0個/481cm以下が特に好ましく、少ないほど好ましい。また、環境温度が低いほどフィルムの柔軟性が失われるので、低温条件下でのピンホール数が少ないことは、より耐ピンホール性が良好であることを意味する。15.0個/481cm未満であれば、食品包装フィルムとして運搬している際の屈曲や、フィルム同士の衝突によるピンホールが発生しにくく、ガスバリア性の低下による内容物の酸化劣化を抑え易い。
【0062】
なお、本フィルムが、B層を含む多層の場合は、ピンホール数は、何れの条件においても、4.0個/481cm未満が好ましく、3.0個/481cm以下がより好ましく、1.0個/481cm以下がさらに好ましく、少ないほど好ましい。
【0063】
(透明性)
本発明のフィルムは、JIS K7136に基づき測定されるヘーズの値が10%以下であり、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、小さい値であるほどが好ましい。全ヘーズの値が係る範囲であれば、本フィルムは透明性に優れ、意匠性や、包装フィルムとして用いた際に内容物の視認性が良好である。
【0064】
(熱水収縮率)
本フィルムは、95℃5分間の熱水収縮率が流れ方向(MD)、幅方向(TD)ともに0.1%以上15%以下であることが好ましい。下限は0.3%以上がより好ましく、0.5%以上が更に好ましい。上限は10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。127℃5分間の熱水収縮率が縦方向(MD)、横方向(TD)ともに1%以上30%以下であることが好ましい。下限は3%以上がより好ましく、5%以上が更に好ましい。上限は25%以下がより好ましく、23%以下が更に好ましい。
熱水収縮率が上記範囲未満の場合は、熱固定温度が高すぎる可能性があり、二軸延伸フィルムの耐衝撃性、耐屈曲ピンホール性が低下し易い。また、熱水収縮率が上記範囲を超える場合は、熱固定が不十分である可能性があり、印刷、ラミネート、製袋加工などの後加工で施される熱で収縮を起こし、印刷時のずれやラミネート時のしわ、製袋品の歪みの原因となる。
熱水収縮率は高い方が、低温耐ピンポール性には有利であるが、フィルム機械強度や上述の後加工性は不十分となりやすい。本発明では、低い熱水収縮率でも、十分なフィルム機械強度が得られるという効果がある。
【0065】
(引張破断応力、引張破断伸び)
本フィルムは機械強度に優れるものであり、JIS K7127:1999に基づき測定される試験速度200mm/min、-10℃、23℃条件での引張破断応力が、縦方向(MD)、横方向(TD)とも100~400MPaの範囲であることが好ましく、下限は150MPa以上がより好ましく、200MPa以上が更に好ましい。係る範囲の引張破断応力のフィルムであれば、内容物を包装した際に、フィルムの剛性を維持しつつ、屈曲によるピンホールや破断が生じにくい。
また、JIS K7127:1999に基づき測定される試験速度200mm/min、-10℃、23℃条件での引張破断伸びが、縦方向(MD)、横方向(TD)の何れかが50%以上300%以下が好ましく、下限は60%以上がより好ましく、75%以上が更に好ましい。また、縦方向(MD)、横方向(TD)の両方が係る範囲であるとフィルムが強靭性に優れ、特に好ましい。
【0066】
(耐衝撃性)
本フィルムは耐衝撃性に優れるものであり、ASTM D3763に基づき測定される-10℃、23℃条件でのハイドロショット高速試験機による破壊エネルギーが0.3J以上であることが好ましく、0.5J以上がより好ましい。係る範囲の破壊エネルギーを有するフィルムであれば、内容物を包装し、例えば輸送の際に生じる衝撃によっても、破断やピンホールが生じにくい。
【0067】
(直線カット性)
本フィルムの流れ方向(MD)にマジックペンで直線を記し、該直線に沿ってフィルムを200mm引き裂いたときの直線からのズレ量の絶対値が5.0mm以下であることが好ましい。
【実施例
【0068】
以下に本発明は実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、得られたフィルムの評価は次の方法により行った。
【0069】
(1)酸素ガスバリア性
酸素ガスバリア性は、JIS K7126 B法に準拠して23℃、50%RHでの酸素透過率(単位:cc/m/24h/atm)を測定した。
【0070】
(2)耐ピンホール性(耐屈曲性)
20cm×28cmの大きさに切断したフィルムを、以下の示す所定の温度、相対湿度50%の条件下に、24時間以上静置して調温湿し、MIL-B-131Cの規格に準拠した理学工業社製ゲルボフレックステスターNo.901型を使用して、次のように屈曲テストを繰り返し、481cm当たりのピンホール数を計測した。フィルムを長さ20cm、円周28cmの円筒状にし、当該巻架した円筒状フィルムの一端を上記テスターの円盤状固定ヘッドの外周に、他端を上記テスター円盤状可動ヘッドの外周に、円周5mm分を重ね合わせて、それぞれ固定した。固定ヘッドと可動ヘッドとは17.5cm隔てて対向している。
【0071】
次いで、上記可動ヘッドを上記固定ヘッドの方向に、平行に対向した両ヘッドの軸に沿って8.8cm接近させる間に440゜回転させ、続いて回転させることなしに6.3cm直進させ、その後、これらの動作を逆に行わせ、上記可動ヘッドを最初の位置に戻すまでの行程を1回とする屈曲テストを、1分あたり40回の速度で、連続して所定の回数行った。その後、固定ヘッドと可動ヘッドとの間の長さ17.5cmと、円筒とした際に重ね合わせ分を除いた円周27.5cmとの部分の面積481cm内に生じたピンホール数(単位:個数/481cm)を、サンコー電子研究所製ピンホールテスターTRD型により1kVの電圧を印加して、計測した。
温度、湿度、屈曲試験回数は、(i)温度5℃相対湿度50%、屈曲500回、(ii)温度5℃相対湿度50%、屈曲3000回、(iii)温度23℃相対湿度50%、屈曲3000回の3条件で行った。各条件で3回試験しその平均値を算出した。
【0072】
(3)透明性
透明性は、JIS K7136に準拠してヘーズ(単位:%)を測定して評価した。
【0073】
(4)熱水収縮率
フィルムの両端部および中央の三点から、縦方向120mm×横方向120mmに切り出し、このサンプルの縦横方向(MD方向およびTD方向)にそれぞれ100mm超の基準線を三本引いた。このサンプルを23℃相対湿度50%雰囲気下に24時間静置して基準線を測長した。測長した熱処理前の長さをFとする。このサンプルを95℃の熱水中に5分間浸した後、あるいは、127℃5分間のオートクレーブ試験後に取り出した。更に、23℃相対湿度50%雰囲気下に30分静置した後、前記の基準線を測長し、熱処理後の長さをGとする。以下の式を使用して、縦方向、横方向の三本の熱水収縮率(単位:%)の平均値を算出した。
(式) (F-G)/F×100 (%)
【0074】
(5)引張破断応力、引張破断伸び
JIS K7127:1999に基づき、試験速度200mm/minでの縦方向、横方向(MD方向、TD方向)への引張破断応力(単位:MPa)、引張破断伸び(単位:%)を-10℃と23℃の条件下で測定した。
【0075】
(6)耐衝撃性
ASTM D3763に基づき測定されるハイドロショット高速試験機による破壊エネルギー(単位:J)を-10℃と23℃の雰囲気下で測定した。
【0076】
(7)直線カット性
得られたフィルムの両端部、及び中央の三点から、MDに300mm×TDに180mmに、各2枚ずつ切り出し、MDと正確に平行な直線を、30mm間隔でマジックペンで記す、次にこの線の上にフェザー刃を用いて端から50mmのところまで切れ目を入れ、短冊状にし、試験片を作製する。次に、試験片を測定者の正面に、MDが真っ直ぐ前を向く方法に、平らな擦りガラスの上に置く。ここで、右手引きの場合は右手で試験片の右端の短冊部分を持ち、左手はその隣の短冊部分を押さえる。短冊部分を持った右手を、ゆっくり、真っ直ぐに手前に引く。この動作を右端から順に5回行う。左引きの場合は逆の動作を行う。
引裂き始めから200mmのところでの、予めMDに平行に記した直線からずれた幅、すなわち、MDに直線を記し、200mm引き裂いたときの直線からのズレ量の絶対値をL(mm)とし、直線カット性の指標とした。
以上の試験を、右手引き、左手引きそれぞれについて試験を行い、平均値(平均値の少数第2位を四捨五入)を取り、両端部、及び中央の6点のうち、最大値を用いて以下の評価を行った。
〇; L(mm)が5.0mm以下の場合
×; L(mm)が5.0mmを超えた場合
【0077】
(8)エラストマーの分散形態
フィルムの流れ方向(MD)と幅方向(TD)についてそれぞれ平行に、フィルム厚み方向に垂直に切断し、A層について、断面染色TEM法、倍率2000倍で視野角8×8μmを3箇所ずつそれぞれ観察し、観察された分散粒子の水平方向の最大直径(単位:μm)を計測した。また、分散粒子のフィルム厚み方向の長さ(短径)に対するフィルム水平方向の長さ(長径)のアスペクト比(長径/短径)を算出した。
【0078】
<使用原料>
(脂肪族ポリアミド系樹脂)
N1:ポリアミド6(相対粘度(96%硫酸)3.34)
【0079】
(ガスバリア性樹脂)
V1:エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)(エチレン含有率25モル%、けん化度99%以上)
V2:エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)(エチレン含有率32モル%、けん化度99%以上)
【0080】
(熱可塑性エラストマー)
E1:スチレン系エラストマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)(スチレン含有率23質量%、重量平均分子量9.5万、タイプAデュロメータ硬さ33)
E2:スチレン系エラストマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)(スチレン含有率23質量%、重量平均分子量9.3万、タイプAデュロメータ硬さ33)
E3:スチレン系エラストマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)(スチレン含有率30質量%、重量平均分子量8.8万、タイプAデュロメータ硬さ45)
E4:スチレン系エラストマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)(スチレン含有率15質量%、重量平均分子量14.6万、タイプAデュロメータ硬さ25)
E5:スチレン系エラストマー、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)(スチレン含有率20質量%)
E6:ポリアミド系エラストマー、ポリアミド12-ポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体
E7:ポリオレフィン系エラストマー、無水マレイン酸変性-エチレン-ブテン1-4-メチルペンテン共重合体
【0081】
(実施例1~2、比較例1~4、参考例1~2)
上記略号で示す樹脂をφ40mm単軸押出機により配合して温度250℃で押出し、50μm厚の単層無延伸フィルムを作製し、評価結果を表1に示した。
【0082】
(実施例3~5、比較例5~7、参考例3~4)
原材料を表2に示す質量比で配合したA層の樹脂組成物をφ40mm単軸押出機に投入し、またB層の樹脂組成物をφ32mm単軸押出機に投入し、両押出機により溶融させた樹脂を分配ブロックで分割かつ共押出Tダイ内で多層化させ、A層/B層/A層の3層構成の溶融フィルムを押出し、30℃の冷却ロール上で急冷して未延伸多層フィルムを作製した。
次いで、得られた未延伸多層フィルムを55℃条件のロール式縦延伸機にて縦方向に3倍延伸し、更に120℃条件のテンター式横延伸機にて横方向に3.5倍延伸した。引き続き、得られた二軸延伸フィルムを220℃条件で熱固定した後、5%の横弛緩を行った。その後、室温まで冷却し、クリップの把持部に相当する両端部分はトリミングし、トリミング後の製品フィルムをロール状に巻き取り、A層/B層/A層の各層厚が5.5μm/4.0μm/5.5μm、総厚15.0μmの二軸延伸多層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0083】
(実施例6)
原材料を表2に示す質量比で配合したA層又はC層の樹脂組成物をφ65mmの押出機に投入し、A層の樹脂組成物をφ50mmの押出機に投入し、B層の樹脂組成物をφ50mmの押出機に投入し、それぞれ溶融させた樹脂組成物を分配ブロックで分配かつ共押出Tダイ内で多層化させ、(A層又はC層)/A層/B層/A層/(A層又はC層)の5層構成の溶融フィルムを押出し、30℃の冷却ロールの上で急冷して未延伸多層フィルムを作成した。
次いで、得られた未延伸多層フィルムを50℃条件のロール式縦延伸機を用いて縦方向に3倍延伸し、更に120℃条件のテンター式横延伸機にて横方向に3.5倍延伸した。引き続き、得られた二軸延伸フィルムを210℃条件で熱固定を行った。その後、室温まで冷却し、クリップに把持部に相当する両端部はトリミングし、トリミング後のフィルムをロール状に巻き取り、(A層又はC層)/A層/B層/A層/(A層又はC層)の各層厚が3.5/2.0/4.0/2.0/3.5μm、総厚15.0μmの二軸延伸多層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
(無延伸単層フィルム;実施例1~2、比較例1~4)
単層フィルムの実施例1、2は、脂肪族ナイロンであるナイロン6と、スチレン単量体単位の含有率が5質量%以上30質量%未満、かつ重量平均分子量が2.0万以上13.0万以下のSIBSとを含み、良好な透明性と低温耐屈曲性を両立することができた。
SIBSを含まない比較例1、スチレン単量体の含有率が30質量%以上のSIBSを用いた比較例2は、低温耐屈曲性が不良であった。重量平均分子量が13.0万超のSIBSを用いた比較例3、SEBSを用いた比較例4は、透明性が不良であった。
【0087】
(二軸延伸多層フィルム;実施例3~6、比較例5~7)
ガスバリア性樹脂であるEVOHを含むB層を配設した多層フィルムの実施例3~6は、ヘーズ10.0%以下、温度5℃相対湿度50%の耐屈曲ピンホール数は1.0個/481cm未満、酸素透過率1.0cc/m/24h/atm以下と、透明性、耐屈曲ピンホール性、酸素ガスバリア性を兼ね備え、更に引張特性、耐衝撃性、直線カット性も良好な物性バランスに優れるフィルムを得ることができた。
また、実施例3~6は、TDに平行かつフィルム厚み方向に垂直な断面のA層中のエラストマー分散粒子の水平方向の最大直径は3.0μm以下、アスペクト比2以上であり、MDに平行かつフィルム厚み方向に垂直な断面のA層中のエラストマー分散粒子の水平方向の最大直径は4.0μm以上であった。図1(a)に、A層のTD平行方向断面の模式図を、図1(b)にA層のMD平行方向断面の模式図を示す。
なかでも、実施例6は、温度5℃相対湿度50%、屈曲3000回という過酷な条件での耐屈曲ピンホール試験においても、ピンホール数が僅か0.2個/481cmであり、酸素ガスバリア性、透明性も兼ね備える大変優れたフィルムであった。なお、温度5℃相対湿度50%、屈曲500回の条件であれば、0.2個/481cm以下となることは自明である。
他方、比較例5~7に示す3層フィルムは、耐屈曲ピンホール性が劣っており、また、重量平均分子量が13.0万超のSIBSを用いた比較例7は、A層の分散状態が不良でブツが発生しフィルム外観が不良であった。
【0088】
(参考例1~4)
ポリアミド系エラストマーを用いた場合は、単層フィルムの参考例1は、ヘーズが高く透明性が悪かったが、多層フィルムの参考例3は、二軸延伸によるフィルムおよびエラストマーの薄化により、ヘーズが低下した。
ポリオレフィン系エラストマーを用いた場合は、単層フィルムの参考例2は、透明性と低温耐屈曲性とも良好であったが、脂肪族ナイロンとポリオレフィン系エラストマーとの親和性が低いため、多層フィルムの参考例4は、二軸延伸によりポリオレフィン系エラストマーの分散粒子(島)とナイロン6(海)との相界面にボイドが発生しヘーズが増大した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のフィルムは、透明性に優れ、かつ、低温環境下から常温環境下までの幅広い温度域における耐屈曲ピンホール性に優れるため、包装内容物の長期保存性を向上させることができ、包装内容物である食料品や工業部品などの品質保持、廃棄ロス低減に有効である。
【符号の説明】
【0090】
a1:脂肪族ポリアミド系樹脂
a2:スチレン系ブロック共重合体
図1