(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】水性顔料分散体及び水性インクの製造方法、並びに水性顔料分散体及び水性インクの設計方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240910BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20240910BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240910BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/037
C09D11/322
(21)【出願番号】P 2020078664
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】川原田 雪彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 隆二
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/186267(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03608670(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/119085(WO,A1)
【文献】特開2017-226760(JP,A)
【文献】特開2006-328119(JP,A)
【文献】特開2001-303887(JP,A)
【文献】特開2017-141315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09D 11/037
C09D 11/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体の製造方法であって、
第1の顔料と第1の顔料分散剤としてのポリビニルピロリドンと第1の水性媒体とを含有し、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成比率が異なる複数の評価用分散体を用意する工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、前記T2緩和時間の逆数に基づいて親水化度の指標を得る工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、粒子の体積平均粒径の測定を行い、前記粒子の総表面積の指標を得る工程と、
前記親水化度の指標を横軸とし、前記粒子の総表面積の指標を縦軸としたときの、前記親水化度の指標、前記粒子の総表面積の指標、及び前記組成比率の関係を示すグラフにおいて前記粒子の総表面積の指標が極大値をとるときの、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成質量比率(R/P)の±0.2以下の範囲を、前記水性顔料分散体における前記第2の顔料に対する前記第2の顔料分散剤の組成質量比率として決定する工程と、
前記決定した組成質量比率に従って前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体とを混合する工程と、
を含み、
前記第2の顔料のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±
5(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下であ
り、
前記第2の顔料分散剤と前記第1の顔料分散剤とは異なるものであり、
前記第2の水性媒体と前記第1の水性媒体とが同一である、
ことを特徴とする水性顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
前記親水化度の指標を得る工程が、前記複数の評価用分散体の中の1つの評価用分散体における前記第1の顔料分散剤と前記第1の水性媒体との組成比率と同じ組成比率を有しかつ前記第1の顔料を含有しないブランク溶液について、前記パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、前記1つの評価用水分散体の前記T2緩和時間の逆数及び前記ブランク溶液の前記T2緩和時間の逆数から、下記式(1)により、前記親水化度の指標である親水化度の指標(R
sp)を得ることを、前記複数の評価用分散体のそれぞれについて行う処理を含む、
請求項1に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【数1】
前記式(1)中、R
avは、前記1つの評価用水分散体の前記T2緩和時間の逆数を表し、R
bは、前記ブランク溶液の前記T2緩和時間の逆数を表す。
【請求項3】
前記粒子の総表面積の指標が、前記粒子の体積平均粒径の逆数と正比例する値である請求項1~2のいずれかに記載の水性顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
前記粒子の総表面積の指標を得る工程が、前記粒子の体積平均粒径から、下記式(2)により、前記粒子の総表面積の指標である粒子の総表面積値(TSA)を得ることを、前記複数の評価用分散体のそれぞれについて行う処理を含む、
請求項1~3のいずれかに記載の水性顔料分散体の製造方法。
【数2】
前記式(2)中、M
vは、前記粒子の体積平均粒径を表す。
前記式(2)中、Ψ
pは、粒子体積比を意味し、下記式(3)で表される。
【数3】
前記式(2)及び式(3)中、ρ
pは、前記第1の顔料の密度を表す。
前記式(3)中、C
pは、前記評価用分散体における前記第1の顔料の濃度を表す。
前記式(3)中、ρ
wは、前記第1の水性媒体の密度を表す。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の水性顔料分散体の製造方法により水性顔料分散体を製造する工程と、
前記水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体とを混合する工程と、
を含むことを特徴とする水性インクの製造方法。
【請求項6】
第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体における前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体との組成比率を決定する水性顔料分散体の設計方法であって、
第1の顔料と第1の顔料分散剤としてのポリビニルピロリドンと第1の水性媒体とを含有し、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成比率が異なる複数の評価用分散体を用意する工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、前記T2緩和時間の逆数に基づいて親水化度の指標を得る工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、粒子の体積平均粒径の測定を行い、前記粒子の総表面積の指標を得る工程と、
前記親水化度の指標を横軸とし、前記粒子の総表面積の指標を縦軸としたときの、前記親水化度の指標、前記粒子の総表面積の指標、及び前記組成比率の関係を示すグラフにおいて前記粒子の総表面積の指標が極大値をとるときの、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成質量比率(R/P)の±0.2以下の範囲を、前記水性顔料分散体における前記第2の顔料に対する前記第2の顔料分散剤の組成質量比率として決定する第1の工程と、
前記決定した組成質量比率に従って前記水性顔料分散体における前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体との組成比率を決定する第2の工程と、
を含み、
前記第2の顔料のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±
5(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下であ
り、
前記第2の顔料分散剤と前記第1の顔料分散剤とは異なるものであり、
前記第2の水性媒体と前記第1の水性媒体とが同一である、
ことを特徴とする水性顔料分散体の設計方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水性顔料分散体の設計方法を用いて前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体を設計する工程と、
前記設計された水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体との組成比率を決定する工程と、
を含むことを特徴とする水性インクの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散体及び水性インクの製造方法、並びに水性顔料分散体及び水性インクの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水性インクは、その安全性と環境負荷が少ないこととから、幅広い分野で有機溶剤系インクに取って代わってきている。特に、水性インクは臭いもほとんどないことから、オフィス等の閉めきられた空間でも使用できるインクとして、需要がますます高まってきている。
【0003】
水性インクは、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、及びインクジェット記録方式等の様々な印刷方式に適用される。それらの中でも、インクジェット記録方式はオンデマンド印刷が可能なことから、オフィス等で使用される電子写真(トナー)方式の代替を目的とし現在数多くの検討がなされている。
【0004】
水性インクは、例えば、顔料分散剤を用いて予め顔料を水性媒体に分散して得られる水性顔料分散体に、必要に応じてバインダー樹脂、及び水性媒体等を供給し混合することによって製造される。そのため、水性インクをインクジェット記録方式で用いる際には、良好な吐出安定性を付与するために、水性インク吐出ノズルの目詰まりの原因となりうる、例えば顔料に起因する粗大粒子の発生を低減でき、また、顔料等の経時的な沈降を防止可能な水性顔料分散体を使用することが重要である。
【0005】
水性顔料分散体における顔料の凝集及び沈降を制御し、高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を得るには、顔料、顔料分散剤、及び水性媒体の相互作用(言い換えれば、顔料界面近傍で起こっている現象)を定量化することが重要である。しかし、これらの相互作用は動的挙動であり、直接観察による定量化は困難である。
そのため、現在では、複数の分析方法の組み合わせにより、顔料界面近傍で起こっている現象を定性的に説明するに留まっている。
【0006】
そのような状況下、大型放射光施設(SPring8)を用いたインクの小角X線散乱の結果と、容易に測定できる水性顔料分散体の物性値(粘度、及び粒径等)とを組み合わせて、水性顔料分散体中の顔料界面近傍で起こっている現象を定量化する方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法については、顔料、顔料分散剤、及び水性媒体の相互作用の定量化、並びに顔料の分散状態の定量化に成功した点は評価される。しかし、日本国内に1つしかなく、超大型であり、かつ超高額である施設である大型放射光施設(SPring8)での測定を要するため、製品開発の場面、及びトラブル対応の場面などで都度に使用するには無理がある。
【0007】
他方、水性顔料分散体の顔料分散安定性の評価の簡便な方法としては、一般に、貯蔵試験が行われている。しかし、前記貯蔵試験を、例えば60℃の温度負荷を与えて促進的に行った場合であっても、前記顔料分散安定性の評価には、通常、1か月以上の期間を要する場合がある。そのため、従来の貯蔵試験は、製品開発の期間が長くなる要因となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】J.Jpn.SOC.Colour Mater.,92 213(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、大規模な設備を要さずに、かつ短期間で高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を製造することができる、水性顔料分散体の製造方法、及びその水性顔料分散体を用いた水性インクの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、大規模な設備を要さずに、かつ短期間で高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を設計することができる水性顔料分散体の設計方法、及びその設計方法を用いた水性インクの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を含有する評価用顔料分散体について、パルスNMR測定を用いて親水化度の指標を求め、また粒子の総表面積の指標を求め、求めたそれらの指標を用いて、評価用顔料分散体における顔料、顔料分散剤、及び水性媒体のそれぞれに近似する溶解度パラメータを有する顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を含有する水性顔料分散体における顔料及び顔料分散剤の組成比率を決定することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] 第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体の製造方法であって、
第1の顔料と第1の顔料分散剤としてのポリビニルピロリドンと第1の水性媒体とを含有し、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成比率が異なる複数の評価用分散体を用意する工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、前記T2緩和時間の逆数に基づいて親水化度の指標を得る工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、粒子の体積平均粒径の測定を行い、前記粒子の総表面積の指標を得る工程と、
前記親水化度の指標を横軸とし、前記粒子の総表面積の指標を縦軸としたときの、前記親水化度の指標、前記粒子の総表面積の指標、及び前記組成比率の関係を示すグラフにおいて前記粒子の総表面積の指標が極大値をとるときの、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成質量比率(R/P)の±0.2以下の範囲を、前記水性顔料分散体における前記第2の顔料に対する前記第2の顔料分散剤の組成質量比率として決定する工程と、
前記決定した組成質量比率に従って前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体とを混合する工程と、
を含み、
前記第2の顔料のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±10(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下である、
ことを特徴とする水性顔料分散体の製造方法。
[2] 前記親水化度の指標を得る工程が、前記複数の評価用分散体の中の1つの評価用分散体における前記第1の顔料分散剤と前記第1の水性媒体との組成比率と同じ組成比率を有しかつ前記第1の顔料を含有しないブランク溶液について、前記パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、前記1つの評価用水分散体の前記T2緩和時間の逆数及び前記ブランク溶液の前記T2緩和時間の逆数から、下記式(1)により、前記親水化度の指標である親水化度の指標(R
sp)を得ることを、前記複数の評価用分散体のそれぞれについて行う処理を含む、
前記[1]に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【数1】
前記式(1)中、R
avは、前記1つの評価用水分散体の前記T2緩和時間の逆数を表し、R
bは、前記ブランク溶液の前記T2緩和時間の逆数を表す。
[3] 前記粒子の総表面積の指標が、前記粒子の体積平均粒径の逆数と正比例する値である前記[1]~[2]のいずれかに記載の水性顔料分散体の製造方法。
[4] 前記粒子の総表面積の指標を得る工程が、前記粒子の体積平均粒径から、下記式(2)により、前記粒子の総表面積の指標である粒子の総表面積値(TSA)を得ることを、前記複数の評価用分散体のそれぞれについて行う処理を含む、
前記[1]~[3]のいずれかに記載の水性顔料分散体の製造方法。
【数2】
前記式(2)中、M
vは、前記粒子の体積平均粒径を表す。
前記式(2)中、Ψ
pは、粒子体積比を意味し、下記式(3)で表される。
【数3】
前記式(2)及び式(3)中、ρ
pは、前記第1の顔料の密度を表す。
前記式(3)中、C
pは、前記評価用分散体における前記第1の顔料の濃度を表す。
前記式(3)中、ρ
wは、前記第1の水性媒体の密度を表す。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の水性顔料分散体の製造方法により水性顔料分散体を製造する工程と、
前記水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体とを混合する工程と、
を含むことを特徴とする水性インクの製造方法。
[6] 第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体における前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体との組成比率を決定する水性顔料分散体の設計方法であって、
第1の顔料と第1の顔料分散剤としてのポリビニルピロリドンと第1の水性媒体とを含有し、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成比率が異なる複数の評価用分散体を用意する工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、前記T2緩和時間の逆数に基づいて親水化度の指標を得る工程と、
前記複数の評価用分散体のそれぞれについて、粒子の体積平均粒径の測定を行い、前記粒子の総表面積の指標を得る工程と、
前記親水化度の指標を横軸とし、前記粒子の総表面積の指標を縦軸としたときの、前記親水化度の指標、前記粒子の総表面積の指標、及び前記組成比率の関係を示すグラフにおいて前記粒子の総表面積の指標が極大値をとるときの、前記第1の顔料に対する前記第1の顔料分散剤の組成質量比率(R/P)の±0.2以下の範囲を、前記水性顔料分散体における前記第2の顔料に対する前記第2の顔料分散剤の組成質量比率として決定する第1の工程と、
前記決定した組成質量比率に従って前記水性顔料分散体における前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体との組成比率を決定する第2の工程と、
を含み、
前記第2の顔料のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±10(J/cm
3)
1/2以下であり、
前記第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータが、前記第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm
3)
1/2以下である、
ことを特徴とする水性顔料分散体の設計方法。
[7] 前記[6]に記載の水性顔料分散体の設計方法を用いて前記第2の顔料と前記第2の顔料分散剤と前記第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体を設計する工程と、
前記設計された水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体との組成比率を決定する工程と、
を含むことを特徴とする水性インクの設計方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大規模な設備を要さずに、かつ短期間で高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を製造することができる、水性顔料分散体の製造方法、及びその水性顔料分散体を用いた水性インクの製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、大規模な設備を要さずに、かつ短期間で高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を設計することができる水性顔料分散体の設計方法、及びその設計方法を用いた水性インクの設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】顔料と顔料分散剤との割合が異なる評価用分散体についてのR
spと、TSAとの関係をプロットした図である。
【
図2】顔料と顔料分散剤との割合が異なる評価用分散体についてのK
aと、TSAとの関係をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の水性顔料分散体及び水性インクの製造方法、並びに水性顔料分散体及び水性インクの設計方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0015】
(水性顔料分散体の製造方法、及び水性顔料分散体の設計方法)
本発明の水性顔料分散体の製造方法は、複数の評価用分散体を用意する工程と、親水化度の指標を得る工程と、粒子の総表面積の指標を得る工程と、決定する工程と、混合する工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
水性顔料分散体の製造方法は、第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを含有する水性顔料分散体を製造する方法である。
なお、第2の顔料、第2の顔料分散剤、及び第2の水性媒体の詳細については、後述する。
本発明の水性顔料分散体の設計方法は、複数の評価用分散体を用意する工程と、親水化度の指標を得る工程と、粒子の総表面積の指標を得る工程と、決定する第1の工程と、決定する第2の工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0016】
本発明者らは、大規模な設備を要さずに、かつ短期間で高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を製造することができる、水性顔料分散体の製造方法、及びその水性顔料分散体を用いた水性インクの製造方法を提供することを目的とし、鋭意検討を行った。
また、本発明者らは、大規模な設備を要さずに、かつ短期間で高い顔料分散安定性を有する水性顔料分散体を製造することができる、水性顔料分散体の設計方法、及びその設計方法を用いた水性インクの設計方法を提供することを目的とし、鋭意検討を行った。
そのところ、水性顔料分散体のパルスNMR測定により得られる親水化度の指標と、粒子の総表面積の指標とから、水性顔料分散体における顔料分散安定性に効果的な顔料と顔料分散剤との比率を見つけることができた。また、その比率は、測定に用いた顔料、顔料分散剤、及び水性媒体のそれぞれとハンセン溶解度パラメータが近似する顔料、顔料分散剤、及び水性媒体にも適用できることを見出した。
その結果、顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を含有する評価用顔料分散体について、パルスNMR測定を用いて親水化度の指標を求め、また粒子の総表面積の指標を求め、求めたそれらの指標を用いて、評価用分散体における顔料、顔料分散剤、及び水性媒体のそれぞれに近似する溶解度パラメータを有する顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を含有する水性顔料分散体における顔料及び顔料分散剤の組成比率を決定することで、本発明の課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
具体的には、本発明者らは、評価用分散体について求めた親水化度の指標を横軸とし、粒子の総表面積の指標を縦軸としたグラフに、顔料に対する顔料分散剤の組成比率をプロットした際に、極大値をとる組成比率が、顔料分散安定性に優れる組成比率であることを見出した。
【0017】
<複数の評価用分散体を用意する工程>
複数の評価用分散体を用意する工程としては、第1の顔料と第1の顔料分散剤としてのポリビニルピロリドンと第1の水性媒体とを含有し、第1の顔料に対する第1の顔料分散剤の組成比率が異なる複数の評価用分散体を用意する工程であれば、特に限定されない。評価用分散体は、通常、第1の顔料と第1の顔料分散剤と第1の水性媒体とを混合して得られる。
【0018】
第1の顔料分散剤は、ポリビニルピロリドンであることが、単純な組成であり、標準的な顔料分散剤である点、及び広範囲の顔料に対して親和性が高い点で好ましい。ただし、第1の顔料分散剤として、他の顔料分散剤を用いてもよい。
ポリビニルピロリドンの分子量としては、特に限定されないが、顔料分散剤として標準的な分子量という点で、重量平均分子量80,000~120,000が好ましい。
第1の顔料、その他の第1の顔料分散剤、及び第1の水性媒体の詳細については、後述する。
【0019】
評価用分散体における第1の顔料の濃度(含有量)としては、特に限定されないが、例えば、1~40質量%であってもよいし、5~30質量%であってもよいし、10~25質量%であってもよい。
評価用分散体における第1の水性媒体の含有量としては、特に限定されないが、例えば、50~99質量%であってもよいし、60~95質量%であってもよいし、75~90質量%であってもよい。
複数の評価用分散体における第1の顔料に対する第1の顔料分散剤の組成質量比率としては、特に限定されないが、例えば、0.01~0.99であってもよいし、0.05~0.80であってよいし、0.10~0.70であってもよい。
ただし、評価用分散体における第1の顔料、第1の顔料分散剤、及び第1の水性媒体の
合計含有量は、100質量%を超えない。
【0020】
複数の評価用分散体を用意する際、第1の顔料に対する第1の顔料分散剤の組成質量比率の違いとしては、特に限定されないが、例えば、0.05刻みで変化させてもよいし、0.1刻みで変化させてもよい。
【0021】
評価用分散体の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)第1の顔料分散剤及び第1の水性媒体を含有する混合物に、第1の顔料を添加した後、撹拌分散装置を用いて第1の顔料を混合物中に分散させることにより評価用分散体を調製する方法。
(2)第1の顔料及び第1の顔料分散剤を2本ロールやミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、第1の水性媒体に添加し、撹拌分散装置を用いて評価用分散体を調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水と相溶性を有する有機溶剤中に第1の顔料分散剤を溶解して得られた溶液に第1の顔料を添加した後、撹拌分散装置を用いて第1の顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、有機溶剤を留去し評価用分散体を調製する方法。
【0022】
混練機としては、特に限定されることなく、例えば、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、プラネタリーミキサー、バタフライミキサーなどが挙げられる。
【0023】
撹拌分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0024】
<親水化度の指標を得る工程>
親水化度の指標を得る工程としては、複数の評価用分散体のそれぞれについて、パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、T2緩和時間の逆数に基づいて親水化度の指標を得る工程であれば、特に限定されない。
【0025】
パルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance)は、分子運動性の評価指標である1H核の緩和時間(スビン-格子緩和時間:T1緩和時間)及びスピン-スピン緩和時間(T2緩和時間)を取得することに特化した手法である。
パルスNMR測定は、以下の特徴を有する。
・試料の状態(個体材料の硬さ、液体試料の分子運動など)に非常に敏感
・乾燥や脱気などの前処理が不要
・濃度の上限は原理根本的に無制限、濃度の下限は、1%~2%
・測定時間は最初から最後まで僅か5分程度
・再現性が良好
【0026】
一般に粒子表面に吸着している液体分子の運動は制限を受けるが、バルク液中の液体分子は自由に動くことができる。その結果、粒子表面に吸着している液体分子のNMR緩和時間(T2緩和時間)は、バルク液中の分子のT2緩和時間よりも短時間であり、桁違いに異なる場合もある。そして、T2緩和時間の逆数は、粒子分散液における粒子の親水化度と関連する。
【0027】
パルスNMR測定は、例えば、以下の条件で行うことができる。
・測定装置:Acron Area(XiGo Nanotools社製)
・パルス系列:CPMG法
・共鳴周波数:13MHz
・測定温度:30℃
・測定試料:1.0cm3
【0028】
親水化度の指標は、評価用分散体のT2緩和時間の逆数と、ブランク溶液のT2緩和時間の逆数とから算出されることが好ましい。
すなわち、親水化度の指標を得る工程においては、複数の評価用分散体の中の1つの評価用分散体における第1の顔料分散剤と第1の水性媒体との組成比率と同じ組成比率を有しかつ第1の顔料を含有しないブランク溶液について、パルスNMR測定によりT2緩和時間を求め、1つの評価用水分散体のT2緩和時間の逆数及びブランク溶液のT2緩和時間の逆数から、下記式(1)により、前記親水化度の指標である親水化度の指標(Rsp)を得ることを、複数の評価用分散体のそれぞれについて行う処理を含むことが好ましい。
【数4】
式(1)中、R
avは、1つの評価用水分散体のT2緩和時間の逆数を表し、R
bは、ブランク溶液のT2緩和時間の逆数を表す。
ただし、本発明において、式(1)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、変形がされていてもよい。例えば、式(1)の右辺に、右辺の(R
av-R
b)/R
bを整数倍するような係数aが付されていてもよい。その場合、求められるR
spは、係数aがない場合と比べてa倍大きい値である。しかし、粒子の総表面積の指標と組み合わせて顔料と顔料分散剤との組成比率の最適範囲を求める際には、その値の変化は、求められる最適範囲には、影響しない。そのような変形された式(1)も前記式(1)に含まれる。
【0029】
<粒子の総表面積の指標を得る工程>
粒子の総表面積の指標を得る工程としては、複数の評価用分散体のそれぞれについて、粒子の体積平均粒径の測定を行い、粒子の総表面積の指標を得る工程であれば、特に限定されない。
【0030】
粒子の体積平均粒径は、例えば、以下の条件で測定することができる。
・測定装置:マイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル社製)
・測定溶媒:水
・溶媒屈折率:1.333
・存在比率:体積基準
・粒子透過性:透過
・粒子形状:非球形
・粒子屈折率:1.81
・解析モード:ロジン・ラムラー分布(±2σ)(装置付属ソフト:DMS ver.11.0.0-246V)
【0031】
粒子の総表面積の指標としては、粒子の体積平均粒径の逆数と正比例する値であることが好ましい。
更に、粒子の総表面積の指標を得る工程は、粒子の体積平均粒径から、下記式(2)により、前記粒子の総表面積の指標である粒子の総表面積値(TSA)を得ることを、複数の評価用分散体のそれぞれについて行う処理を含むことが好ましい。
【数5】
式(2)中、M
vは、粒子の体積平均粒径を表す。
式(2)中、Ψ
pは、粒子体積比を意味し、下記式(3)で表される。
【数6】
式(2)及び式(3)中、ρ
pは、第1の顔料の密度を表す。
式(3)中、C
pは、評価用分散体における第1の顔料の濃度を表す。
式(3)中、ρ
wは、第1の水性媒体の密度を表す。
なお、本発明において、式(2)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、変形がされていてもよい。例えば、式(2)の右辺に、右辺の〔6/(ρ
p×M
v)〕×Ψ
pを整数倍するような係数bが付されていてもよい。その場合、求められるTSAは、係数bがない場合と比べてb倍大きい値である。しかし、親水化度の指標と組み合わせて顔料と顔料分散剤との組成比率の最適範囲を求める際には、その値の変化は、求められる最適範囲には、影響しない。そのような変形された式(2)も前記式(2)に含まれる。
【0032】
<決定する(第1の)工程>
水性顔料分散体の製造方法における組成質量比率を決定する工程、及び水性顔料分散体の設計方法における組成質量比率を決定する第1の工程としては、親水化度の指標を横軸とし、粒子の総表面積の指標を縦軸としたときの、親水化度の指標、粒子の総表面積の指標、及び組成比率の関係を示すグラフにおいて粒子の総表面積の指標が極大値をとるときの、第1の顔料に対する第1の顔料分散剤の組成質量比率(R/P)の±0.2以下の範囲を、水性顔料分散体における第2の顔料に対する第2の顔料分散剤の組成質量比率として決定する工程であれば、特に限定されない。
評価用分散体の顔料分散安定性は、前記グラフにおける極大値においてもっとも安定化する。そして、前記グラフにおいて粒子の総表面積の指標が極大値をとるときの組成質量比率(R/P)の±0.2以内の範囲であれば、顔料分散安定性は他の範囲と比べ優れたものとなる。
ここで、最大値ではなく、極大値を採用した理由は次の通りである。顔料表面は界面化学的には広い分布を有しており、マクロに見て均一な顔料分散系であっても、ミクロに見るとその顔料表面において溶剤や樹脂とおそらく不均一な吸着が生じていると予想される。また、当該界面化学的な分布も、顔料種によっては複数のピークを有する場合もある。このため、前記グラフにおいて極大値ではなく最大値を採用してしまうと、最適な値を見落とす懸念があるからである。
【0033】
組成質量比率(R/P)の±0.2以内の範囲は、更に、極大値におけるTSAの±10%以内、かつ極大値におけるRspの±5%以内における組成質量比率(R/P)であることが好ましい。
【0034】
<混合する工程>
混合する工程としては、決定した組成質量比率に従って第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを混合する工程であれば、特に限定されない。
ここで、決定した組成質量比率に従って第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体とを混合する際、決定した組成質量比率と全く同じであってもよいし、顔料分散安定性を損なわない範囲で少し組成質量比率を変えてもよい。例えば、製造される水性顔料分散体における第2の顔料の濃度は、決定した組成質量比率における水性顔料分散体の第2の顔料の濃度と、±2質量%変わっていてもよい。例えば、製造される水性顔料分散体における第2の顔料分散剤の濃度は、決定した組成質量比率における水性顔料分散体の第2の顔料分散剤の濃度と、±2質量%変わっていてもよい。例えば、製造される水性顔料分散体における第2の水性媒体の濃度は、決定した組成質量比率における水性顔料分散体の第2の水性媒体の濃度と、±2質量%変わっていてもよい。
【0035】
混合方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)第2の顔料分散剤及び第2の水性媒体を含有する混合物に、第2の顔料を添加した後、撹拌分散装置を用いて第2の顔料を混合物中に分散させることにより水性顔料分散体を調製する方法。
(2)第2の顔料及び第2の顔料分散剤を2本ロールやミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、第2の水性媒体に添加し、撹拌分散装置を用いて水性顔料分散体を調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水と相溶性を有する有機溶剤中に第2の顔料分散剤を溶解して得られた溶液に第2の顔料を添加した後、撹拌分散装置を用いて第2の顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、有機溶剤を留去し水性顔料分散体を調製する方法。
【0036】
混練機及び撹拌分散装置としては、例えば、前述の評価用分散体の製造方法において挙げた混練機及び撹拌分散装置が挙げられる。
【0037】
<決定する第2の工程>
水性顔料分散体の設計方法における決定する第2の工程としては、決定した組成質量比率に従って水性顔料分散体における第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体との組成比率を決定する工程であれば、特に限定されない。
ここで、決定した組成質量比率に従って第2の顔料と第2の顔料分散剤と第2の水性媒体との組成比率を決定する際、決定した組成質量比率と全く同じであってもよいし、顔料分散安定性を損なわない範囲で少し組成比率を変えてもよい。例えば、設計される水性顔料分散体における第2の顔料の濃度は、決定した組成質量比率における水性顔料分散体の第2の顔料の濃度と、±2質量%変わっていてもよい。例えば、設計される水性顔料分散体における第2の顔料分散剤の濃度は、決定した組成質量比率における水性顔料分散体の第2の顔料分散剤の濃度と、±2質量%変わっていてもよい。例えば、設計される水性顔料分散体における第2の水性媒体の濃度は、決定した組成質量比率における水性顔料分散体の第2の水性媒体の濃度と、±2質量%変わっていてもよい。
【0038】
第2の顔料のハンセン溶解度パラメータは、第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm3)1/2以下である。
第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータは、第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±10(J/cm3)1/2以下である。
第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータは、第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm3)1/2以下である。
ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter, HSP)は、物質の溶解性の予測に用いられる値である。HSPは「分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすい」との考えに基づいている。HSP〔単位:(J/cm3)1/2〕は以下の3つのパラメータで構成されている。
・δd:分子間の分散力によるエネルギー
・δp:分子間の双極子相互作用によるエネルギー
・δh:分子間の水素結合によるエネルギー
これら3つのパラメータは、3次元空間(ハンセン空間)における座標とみなすことができる。そして2つの物質のHSPをハンセン空間内に置いたとき、2点間距離が近ければ近いほど互いに溶解しやすいことを示している。すなわち、2つの物質のハンセン溶解度パラメータの差は、それら2つの物質の親水性及び疎水性の状態が似ていることを示している。
【0039】
第2の顔料のハンセン溶解度パラメータが、第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm3)1/2以下であれば、2つの顔料は、顔料分散安定性の観点において、親水性及び疎水性の状態が似ているということができる。
第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータが、第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±10(J/cm3)1/2以下であれば、2つの顔料分散剤は、顔料分散安定性の観点において、親水性及び疎水性の状態が似ているということができる。
第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータが、第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±3(J/cm3)1/2以下であれば、2つの水性媒体は、顔料分散安定性の観点において、親水性及び疎水性の状態が似ているということができる。
そのため、これらの範囲内であれば、評価用分散体で得られた顔料分散安定性に優れる顔料と顔料分散剤との組成比率を、水性顔料分散体における顔料と顔料分散剤との組成比率に適用しても、顔料分散安定性に優れる水性顔料分散体が得られる。
なお、第1の顔料と第2の顔料とは同じであってもよい。第1の顔料分散剤と第2の顔料分散剤とは同じであってもよい。第1の水性媒体と第2の水性媒体とは同じであってもよい。
【0040】
第2の顔料のハンセン溶解度パラメータは、第1の顔料のハンセン溶解度パラメータの±2.5(J/cm3)1/2以下であることが好ましく、±2(J/cm3)1/2以下であることがより好ましく、±1.5(J/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。
第2の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータは、第1の顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータの±8(J/cm3)1/2以下であることが好ましく、±5(J/cm3)1/2以下であることがより好ましく、±3(J/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。
第2の水性媒体のハンセン溶解度パラメータは、第1の水性媒体のハンセン溶解度パラメータの±2.5(J/cm3)1/2以下であることが好ましく、±2(J/cm3)1/2以下であることがより好ましく、±1.5(J/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。
【0041】
顔料のハンセン溶解度パラメータは、例えば、以下の方法により求めることができる。
透明スクリュー管瓶(ねじ口瓶、容量:20cm3)に、被測定対象たる顔料10mg(0.01g)と有機溶剤9.99gとを仕込み(顔料濃度:0.1質量%)、高速振とう機(キュートミキサー)で30分間振盪混合した後、多検体・分散性評価粒子径分布測定装置であるLUMiSizerで4000rpm×30分間遠心処理(25℃)する。その後、透過光量が20%未満である場合に、顔料分散性良好として、その有機溶剤を「良溶媒」と判定し、透過光量が20%以上である場合にその有機溶剤を「貧溶媒」と判定する。
有機溶剤と、それに対応する判定結果「良溶媒」あるいは「貧溶媒」を、コンピュータソフトウェアであるHansen Solubility Parameters in Practice 4th Edition 4.1.07(HSPiP)に入力して、被測定対象たる顔料のハンセン溶解度パラメータを算出する。
なお、使用する有機溶剤のハンセン溶解度パラメータは、上記コンピュータソフトウェアであるHansen Solubility Parameters in Practice 4th Edition 4.1.07(HSPiP)に収録された値をそのまま使用することができる。
【0042】
顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータは、例えば、以下の方法により求めることができる。
透明スクリュー管瓶(ねじ口瓶、容量:20cm3)に、被測定対象たる顔料分散剤50mg(0.05g)と有機溶剤9.95gとを仕込み(顔料分散剤濃度:0.5質量%)、高速振とう機(キュートミキサー)で30分間振盪混合した後、25℃の環境下で24時間静置する。
24時間静置後の目視観察により、顔料分散剤の全量溶解が確認できた場合にはその有機溶剤を「良溶媒」と判定し、溶解残があるなど全量溶解が確認できなかった場合にはその有機溶剤を「貧溶媒」と判定する。
有機溶剤と、それに対応する判定結果「良溶媒」あるいは「貧溶媒」を、コンピュータソフトウェアであるHansen Solubility Parameters in Practice 4th Edition 4.1.07(HSPiP)に入力して、被測定対象たる顔料分散剤のハンセン溶解度パラメータを算出する。
なお、使用する有機溶剤のハンセン溶解度パラメータは、上記コンピュータソフトウェアであるHansen Solubility Parameters in Practice 4th Edition 4.1.07(HSPiP)に収録された値をそのまま使用することができる。
【0043】
水性媒体のハンセン溶解度パラメータは、上記Hansen Solubility Parameters in Practice 4th Edition 4.1.07(HSPiP)に収録された値をそのまま使用することができる。また、水性媒体のハンセン溶解度パラメータは、公知の値を用いてもよい。水性媒体の一例のハンセン溶解度パラメータは、以下のように知られている。
【0044】
【0045】
<顔料>
第1の顔料及び第2の顔料(以下、単に「顔料」と称することがある。)としては、特に限定はなく、例えば、従来のスクリーン捺染や水性インクジェット記録用インクにおいて通常使用される有機顔料または無機顔料を使用することができる。
【0046】
また、顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができ、ドライパウダー及びウェットケーキ状のどちらであっても使用することができる。
【0047】
無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法またはサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用することができる。
【0048】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0049】
顔料の具体例としては、黒インクに使用される顔料の具体例としては、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.980、No.960、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等のカーボンブラックを使用することができる。
【0050】
イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0051】
マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209及びこれらの顔料から選ばれる少なくとも2種以上の顔料の混合物もしくは固溶体が挙げられる。
【0052】
シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0053】
レッドインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド17、49:2、112、149、150、177、178、179、188、254、255及び264からなる群から選ばれる1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0054】
オレンジインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63、64、71、73、81等が挙げられる。
【0055】
グリーンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、10、36、58、59等が挙げられる。
【0056】
バイオレットインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0057】
また、白インクに使用可能な顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。これらは、表面処理されていてもよい。
【0058】
顔料としては、前記したものを単独または2種類以上を組み合わせ使用することができる。
【0059】
<顔料分散剤>
第1の顔料分散剤及び第2の顔料分散剤(以下、単に「顔料分散剤」と称することがある)としては、例えば、ポリビニルアルコール類;ポリビニルピロリドン類;アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂;スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、水性樹脂の塩を使用することができる。顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズやJONCRYLシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
【0060】
顔料分散剤としては、粗大粒子を著しく低減でき、その結果、インクをインクジェット方式で吐出する場合に求められる良好な吐出安定性を付与するうえで、後述するポリマー(G)を使用することが好ましい。
【0061】
ポリマー(G)としては、アニオン性基を有するものを使用することができ、なかでも、水への溶解度が0.1g/100mL以下であり、かつ、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成可能な、数平均分子量が500~30000の範囲内のポリマーを使用することが好ましい。
【0062】
前記アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、前記カルボキシル基やスルホン酸基の一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散安定性を付与するうえで好ましい。
【0063】
このようなアニオン性基を有するポリマーは、公知の方法で製造して用いても良いし、市販品を用いても良い。市販品の具体例としては、アクリディックWML-542(DIC株式会社製)、ユニディックEMG-1015(DIC株式会社製)等が挙げられる。
【0064】
ポリマー(G)の水への溶解度は、次のように定義した。すなわち、目開き250μmおよび90μmの篩を用い250μm~90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー(E)0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mLに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに撹拌放置した。24時間浸漬後、ポリマー(E)を封入した400メッシュ金網を110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させた。ポリマー(E)を封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の重量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
【0065】
【0066】
また、本発明において、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成するか否かは、次のように判断した。
(1)ポリマー(G)の酸価を予め、JIS試験方法K 0070-1992に基づく酸価測定方法により測定する。具体的には、テトラヒドロフランにポリマー(G)0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定し酸価を求める。
(2)水50mLに対して、ポリマー(G)を1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とする。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US-102、38kHz自励発振)中で超音波を照射させた後24時間室温放置する。
【0067】
24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認する。
【0068】
ポリマー(G)が形成する微粒子の水中で安定をより一層向上させるために、微粒子の粒子径は、5nm~1000nmの範囲であることが好ましく、7nm~700nmの範囲であることがより好ましく、10nm~500nmの範囲であることが最も好ましい。また、微粒子の粒度分布は、狭いほうがより分散安定性に優れる傾向にあるが、粒度分布が広い場合であっても、従来よりも優れた分散安定性を備えたインクを得ることができる。なお、粒子径及び粒度分布は、微粒子の測定方法と同様に、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い測定した。
【0069】
ポリマー(G)の数平均分子量は500~30000の範囲のものを使用することが好ましく、1000~6000であることがより好ましく、1300~5000であることが更により好ましく、1500~4500であることが水性媒体(C)中における顔料の凝集等を効果的に抑制でき、顔料の良好な分散安定性を備えたインクを得るうえで特に好ましい。
【0070】
なお、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とし、具体的には以下の条件で測定した値とする。
【0071】
(数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
【0072】
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0073】
ポリマー(G)としては、それを含むインクの表面張力が30dyn/cm以上であることが好ましく、40dyn/cm以上であることがより好ましく、水の表面張力に近い65dyn/cm~75dyn/cmであるものを使用することが特に好ましい。なお、表面張力は、ポリマー(G)1gを水に添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和したポリマー溶液について測定した値である。
【0074】
ポリマー(G)の中和率は、以下の式により決定した。
【0075】
【0076】
また、ポリマー(G)の酸価は、JIS試験方法K 0070-1992に基づいて測定した。具体的には、テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めた。
なお、本明細書における他のポリマーの酸価の測定方法も、JIS試験方法K 0070-1992に準拠している。
【0077】
ポリマー(G)の酸価は20mgKOH/g~400mgKOH/gの範囲のものを使用することが好ましく、30mgKOH/g~300mgKOH/gであることがより好ましく、40mgKOH/g~190mgKOH/gであることが水性媒体(C)中における顔料の凝集等を効果的に抑制でき、顔料の良好な分散安定性を備えたインクを得るうえで更により好ましい。
【0078】
ポリマー(G)としては、水に対し、未中和の状態では不溶もしくは難溶性であり、且つ100%中和された状態では微粒子を形成するポリマーを使用することができ、親水性基であるアニオン性基のほかに疎水性基を1分子中に有するポリマーであるならば、特に限定はされない。
【0079】
このようなポリマーとして、疎水性基を有するポリマーブロックとアニオン性基を有するポリマーブロックとを有するブロックポリマーが挙げられる。ポリマー(G)において、アニオン性基の数と水への溶解度は、必ずしも酸価や、ポリマー設計時のアニオン性基の数で特定されるものではなく、例えば同一の酸価を有するポリマーであっても、分子量の低いものは水への溶解度が高くなる傾向にあり、分子量の高いものは水への溶解度は下がる傾向にある。
【0080】
ポリマー(G)は、ホモポリマーでも良いが、共重合体であることが好ましく、ランダムポリマーであってもブロックポリマーであっても、交互ポリマーであっても良いが、なかでもブロックポリマーであることが好ましい。また、ポリマーは分岐ポリマーであっても良いが、直鎖ポリマーであることが好ましい。
【0081】
また、ポリマー(G)は設計の自由度からビニルポリマーであることが好ましく、本発明において所望される分子量や、溶解度特性を有するビニルポリマーを製造する方法としては、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合といった、「リビング重合」を用いることにより製造することが好ましい。
【0082】
なかでも、ポリマー(G)は(メタ)アクリレートモノマーを原料の1つとして用い製造されるビニルポリマーであることが好ましく、そのようなビニルポリマーの製造方法としては、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合が好ましく、さらにブロックポリマーの分子量や各セグメントをより精密に設計できる観点からリビングアニオン重合が好ましい。
【0083】
<水性媒体>
第1の水性媒体及び第2の水性媒体(以下、単に「水性媒体」又は「水性媒体(C)」と称することがある。)としては、水を単独、または、水と後述する有機溶剤(F)との混合溶媒を使用することができる。
【0084】
水としては、具体的にはイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を使用することができる。
【0085】
有機溶剤(F)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、および、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールや2-ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などを、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0086】
また、有機溶剤(F)としては、前記したものの他に、沸点が100℃以上200℃以下であり、かつ、20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤(f1)を使用することが、吐出液滴が記録媒体の表面に着弾した後、記録媒体上で素早く乾燥する速乾効果を得るうえで好ましい。
【0087】
水溶性有機溶剤(f1)としては、例えば3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらのものを2種以上組み合わせ使用することができる。
【0088】
なかでも、水溶性有機溶剤(f1)としては、インクの良好な分散安定性の維持や、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制するうえで、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δHが6~20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
【0089】
前記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤としては、具体的には、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、より好ましくは3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールである。
【0090】
水性媒体(C)と組み合わせ使用可能な有機溶剤としては、前記した水溶性有機溶剤(f1)のほかに、または、水溶性有機溶剤(f1)とともに、プロピレングリコール(f2)と、グリセリン、グリセリン誘導体、ジグリセリン及びジグリセリン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の有機溶剤(f3)とを組み合わせ使用することが、記録媒体上でのインク速乾効果と、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を両立するうえで好ましい。
【0091】
有機溶剤(f3)としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、下記一般式(1)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0092】
なかでも、有機溶剤(f3)としては、グリセリン及びn=8~15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルを使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0093】
【0094】
一般式(1)及び一般式(2)中のm、n、o及びpは、各々独立して1~10の整数を示す。
【0095】
有機溶剤(F)は、水性顔料分散体全量に対し0.5質量%~30質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%~20質量%の範囲で使用することが、当該水性顔料分散体から得た水性インクの画像濃度不足となることがなく、顔料の分散安定性低下も回避できるため、特に好ましい。
【0096】
(水性インクの製造方法、及び水性インクの設計方法)
本発明の水性インクの製造方法は、水性顔料分散体を製造する工程と、混合する工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の水性インクの設計方法は、水性顔料分散体を設計する工程と、組成比率を決定する工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
水性顔料分散体を製造する工程は、本発明の水性顔料分散体の製造方法により水性顔料分散体を製造する工程である。
水性顔料分散体を設計する工程は、本発明の水性顔料分散体の設計方法により水性顔料分散体を設計する工程である。
【0097】
<混合する工程>
混合する工程としては、水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体とを混合する工程であれば、特に制限されず、一般的な水性インクを製造する際の混合方法を用いることができる。
【0098】
<組成比率を決定する工程>
組成比率を決定する工程としては、設計された水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体との組成比率を決定する工程であれば、特に限定されない。
【0099】
<水性インク>
本発明で製造される水性インクは、本発明の水性顔料分散体の製造方法で製造される水性顔料分散体と、バインダー樹脂と、第3の水性媒体とを含有する。
水性インクは、更に、添加剤等を含有していてもよい。
【0100】
<<バインダー樹脂>>
バインダー樹脂(A)は、例えば、顔料を被記録媒体上に固着するためのものである。
【0101】
バインダー樹脂(A)としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸;アクリル酸-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム-アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのアクリル共重合体;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのスチレン-アクリル酸樹脂;スチレン-マレイン酸;スチレン-無水マレイン酸;ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体;酢酸ビニル-エチレン共重合体、酢酸ビニル-脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びこれらの塩を使用することができる。
【0102】
なかでも、バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂またはアクリル樹脂を使用することが、入手しやすく、かつ、印刷物の耐摩擦性を向上させるうえで好ましい。
【0103】
ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオールと、アニオン性基、カチオン性基、ポリオキシエチレン基またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基である親水性基を有するポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂などが挙げられる。
【0104】
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、印刷物の耐摩擦性をより一層向上させるうえで、5000~200000のものを使用することが好ましく、20000~150000がより好ましい。
【0105】
インクには、耐摩擦性をより一層向上することを目的として、架橋剤を使用することができる。架橋剤を使用する場合、ウレタン樹脂としては、架橋剤の有する官能基と架橋反応しうる官能基を有するものを使用することが好ましい。
【0106】
官能基としては、親水性基として使用可能なカルボキシル基やカルボキシレート基等が挙げられる。カルボキシル基等は、水性媒体中においてウレタン樹脂の水分散安定性に寄与し、それらが架橋反応する際には、官能基としても作用し、架橋剤の一部架橋反応しうる。
【0107】
架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、メラミン架橋剤等を用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ウレタン樹脂が有する水酸基と反応し、3次元架橋を形成することにより、良好な機械的強度、段差追従性、基材密着性、シート保持性、及び耐汚染性が得られる点から、ポリイソシアネート架橋剤を用いることが好ましい。
【0108】
架橋剤の使用量としては、段差追従性、基材密着性及びシート保持性を高いレベルで両立できる点から、ウレタン樹脂(固形分)100質量部に対して0.01~20質量部の範囲であることが好ましく、0.05~15質量部の範囲がより好ましく、0.1~10質量部の範囲がさらに好ましい。
【0109】
ウレタン樹脂は、例えば、ポリオールとポリイソシアネートと、必要に応じて鎖伸長剤とを反応させることによって製造することができる。
【0110】
鎖伸長剤としては、ポリアミンや、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0111】
鎖伸長剤は、例えば、鎖伸長剤の有するアミノ基及び活性水素原子含有基の当量が、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られたウレタンプレポリマーの有するイソシアネート基の当量に対して、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.0~1.0(当量比)の範囲で使用することがより好ましく、0.5質量%で使用することがさらに好ましい。
【0112】
鎖伸長剤は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際、または、反応後に使用することができる。また、得られたウレタン樹脂を水性媒体中に分散させ水性化する際に、鎖伸長剤を使用することもできる。
【0113】
バインダー樹脂(A)に使用可能なアクリル樹脂としては、特に制限はなく、(メタ)アクリレートの単独重合または共重合、及び(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーとを共重合させた樹脂が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、メタクリル酸またはアクリル酸を指し、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートまたはアクリレートを指し、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルまたはアクリロイルを指す。
【0114】
(メタ)アクリレートや(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2-ヒドロドキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキルポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;スチレン、スチレン誘導体(p-ジメチルシリルスチレン、(p-ビニルフェニル)メチルスルフィド、p-ヘキシニルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0115】
アクリル樹脂は、上記モノマーの他に特定の官能基を有するモノマーを共重合させて得られたものを使用することが、印刷物の風合い等を向上させるうえで好ましい。このような官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基を有するモノマーや、エポキシ基を有するモノマー、加水分解性シリル基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー等が挙げられる。
【0116】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等を用いることができる。
【0117】
加水分解性シリル基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン化合物などを用いることができる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0118】
アミド基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物;等を用いることができる。
【0119】
アクリル樹脂の水中での分散形態は特に限定はなく、例えば、乳化剤で強制乳化させたエマルジョンや、樹脂中にノニオン性基または中和されたイオン性基を有したディスパージョン等が挙げられる。特に上記アクリル樹脂としては、カルボキシル基を有するアクリル樹脂を、塩基性化合物で中和して得たディスパージョンが好ましい。塩基性化合物は、ウレタン樹脂が有するカルボキシル基等の中和に使用可能なものとして例示した塩基性化合物と同様のものを使用することができる。
【0120】
<<水性媒体>>
第3の水性媒体としては、水性顔料分散体の説明において挙げた水性媒体が挙げられる。
【0121】
第3の水性媒体は、インク全量に対し1質量%~50質量%の範囲で使用することが好ましく、10質量%~30質量%の範囲で使用することが、インクジェット方式で吐出する場合に求められる高い吐出安定性を備えた、鮮明な印刷物を製造可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0122】
有機溶剤(F)としては、インク全量に対し1質量%~30質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%~25質量%の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0123】
水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[水溶性溶剤(f1)/プロピレングリコール(f2)]が1/25~1/1の範囲で使用することが好ましく、1/20~1/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0124】
また、水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[プロピレングリコール(f2)/有機溶剤(f3)]が1/4~8/1の範囲で使用することが好ましく、1/2~5/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0125】
<<添加剤>>
添加剤としては、例えば、界面活性剤(E)、糖類、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0126】
界面活性剤(E)は、インクの表面張力を低下させるなどすることでインクのレベリング性を向上させるうえで使用することができる。さらに、界面活性剤(E)は、インクジェットヘッドの吐出口から吐出されたインクが記録媒体に着弾後、表面で良好に濡れ広がらせることで、印刷物のスジ発生を防止することができる。
【0127】
界面活性剤(E)としては、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを使用することができ、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0128】
界面活性剤(E)としては、水を主溶媒とするインクに界面活性剤(E)が溶解した状態を安定的に維持するうえで、HLBが4~20の範囲であるものを使用することが好ましい。
【0129】
界面活性剤(E)としては、インクの全量に対し、0.001質量%~2質量%の範囲で使用することが好ましく、0.001質量%~1.5質量%の範囲で使用することがより好ましく、0.5質量%~1.5質量%の範囲で使用することがさらに好ましい。上記範囲の界面活性剤(E)を含有するインクジェットインクは、吐出液滴の記録媒体表面での濡れ性良好であり、記録媒体上で十分な濡れ広がりを有し、印刷物のスジ発生を防止する効果を奏するうえで好ましい。更に、上記範囲の界面活性剤(E)を含有するインクは、記録媒体への濡れ性、レベリング性を向上させる効果を奏する。
【0130】
水性インクのpHは、インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させ、インク易吸収性または難吸収性の布帛に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、耐水堅牢性を向上させるうえで、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、更により好ましくは8.0以上である。前記インクのpHの上限は、インクの塗布または吐出装置を構成する部材(例えば、インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制し、かつ、インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくするうえで、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更により好ましくは9.5以下である。
【実施例】
【0131】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0132】
(評価用顔料分散体の調製)
以下の原材料を用いて、評価用顔料分散体を調製した。
【0133】
<原材料>
・顔料:三菱カーボンブラック「#960」(製品名、三菱ケミカル(株))
・顔料分散剤:ポリビニルピロリドン(PVP)「K-30」(製品名、日本触媒(株)製)
・水性媒体:「イオン交換水」
【0134】
上記の顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を、以下の表2に記載の配合組成で混合した後、分散を行い、評価用顔料分散体を得た。
具体的には、50mLポリエチレン製密閉容器に、所定量の顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を、表2の配合組成(g)で仕込んだ後、直径0.5mmのZrビーズYTZ-0.5(製品名、(株)ニッカトー製)10gを更に加え、ペイントコンディショナーにより分散した。分散時間は一律2時間とした。
なお、表2の配合組成(g)の数値は実際の仕込み量(g)である。
・No.1-1~No.1-9(顔料濃度10質量%)の材料仕込み量は合計10.00g
・No.2-1~No.2-9(顔料濃度15質量%)の材料仕込み量は合計6.67g
・No.3-1~No.3-9(顔料濃度20質量%)の材料仕込み量は合計5.00g
【0135】
(体積平均粒径の測定)
得られた評価用顔料分散体の体積平均粒径を以下の方法により測定した。結果を表2に示した。
・測定装置:マイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル社製)
・測定溶媒:水
・溶媒屈折率:1.333
・存在比率:体積基準
・粒子透過性:透過
・粒子形状:非球形
・粒子屈折率:1.81
・解析モード:ロジン・ラムラー分布(±2σ)(装置付属ソフト:DMS ver.11.0.0-246V)
【0136】
<粒子の表総面積値(TSA)の計算>
得られた体積平均粒径の値を用い、以下の式(2)により、粒子の表総面積値(TSA)を求めた。結果を表2に示した。
【数9】
式(2)中、M
vは、粒子の体積平均粒径を表す。
式(2)中、Ψ
pは、粒子体積比を意味し、下記式(3)で表される。
【数10】
式(2)及び式(3)中、ρ
pは、第1の顔料の密度(三菱カーボンブラック「#960」の場合、1.8g/cm
3)を表す。
式(3)中、C
pは、評価用分散体における第1の顔料の濃度を表す。
式(3)中、ρ
wは、第1の水性媒体の密度(イオン交換水の場合、1.0g/cm
3)を表す。
【0137】
<パルスNMR測定、及びRspの計算>
得られた評価用顔料分散体について、パルスNMR測定を以下の条件で行った。また、以下の式(1)により、Rspを求めた。結果を表2に示した。
【0138】
<<パルスNMR測定条件>
・測定装置:Acron Area(XiGo Nanotools社製)
・パルス系列:CPMG法
・共鳴周波数:13MHz
・測定温度:30℃
・測定試料:1.0cm3
【0139】
【数11】
式(1)中、R
avは、1つの評価用水分散体のT2緩和時間の逆数を表し、R
bは、ブランク溶液のT2緩和時間の逆数を表す。
ここで、顔料を含有しないブランク溶液は、以下の方法で調製した。
以下の表2に記載の配合組成で顔料分散剤と水性媒体とを混合し、顔料分散剤を水性媒体に溶解させることで、顔料を含有しないブランク溶液を得た。
【0140】
また、以下の式により、水和層の厚さ指標である分散性指標K
aを求めた。結果を表2に示した。
【数12】
【0141】
【0142】
顔料濃度ごとに、R
spを横軸にし、TSAを縦軸にしたグラフを作成し、
図1に示した。
表2及び
図1の結果から、顔料濃度10質量%では、組成質量比(R/P)が0.3の時にTSAは極大値を示した。顔料濃度15質量%では、組成質量比(R/P)が0.3の時にTSAは極大値を示した。顔料濃度20質量%では、組成質量比(R/P)が0.4の時にTSAは極大値を示した。
【0143】
一方、顔料濃度ごとに、K
aを横軸にし、TSAを縦軸にしたグラフを作成し、
図2に示した。
図2では、
図1のような、山形の曲線は得られなかった。このことから、組成質量比を求める際に、親水化度の指標と、粒子の総表面積の指標とを用いることが適当であることが確認された。
【0144】
<顔料分散安定性評価>
評価用分散体の顔料分散安定性を以下の評価方法で評価した。結果を表3に示した。
供試サンプルをポリエチレン容器に密封し、60℃雰囲気下に30日間保存し、保存前と保存後の平均粒子径(D50)を、以下の平均粒子径測定方法に従って測定した。また同様に、保存前と保存後の評価用分散体の粘度を、以下の粘度測定方法に従って測定した。
【0145】
粘度は、ViscometerTV-20(東機産業社製)を用いて、測定(供試サンプル温度25℃)した。
動的光散乱式ナノトラック粒度分析計UPA-150EX(日機装株式会社製)用いて、測定(供試サンプル温度25℃)した。粒子径の値として、体積平均粒子径(Mv)、50%粒子径(D50)を用いた。
【0146】
粘度の変化は、以下の式で求めた。
保存前後の変動比(=(保存後の測定値)/(保存前の測定値)×100(%))
【0147】
以下の評価基準で評価した。結果を表3に示した。
<<評価基準>>
・〇:保存前後の平均粒子径(D50)および粘度の変化が、両方とも20%未満
・×:保存前後の平均粒子径(D50)および粘度の変化が、少なくとも一方が20%以上
【0148】
【0149】
(ハンセン溶解度パラメータ)
以下の材料について、本明細書に記載の方法でハンセン溶解度パラメータを求めた。結果を表4に示した。
<材料>
・顔料:三菱カーボンブラック「#960」(製品名、三菱ケミカル(株))
・顔料:三菱カーボンブラック R(製品名、三菱ケミカル(株))
・顔料分散剤:ポリビニルピロリドン(PVP)「K-30」(製品名、日本触媒(株)製)
・顔料分散剤:アクリディックWML542(製品名、DIC株式会社、スチレンアクリル樹脂、酸価=170mgKOH/g)
・顔料分散剤:ARFON UH-2170(製品名、東亜合成株式会社)
【0150】
【0151】
(水性顔料分散体の調製1)
以下の原材料を用いて、水性顔料分散体を調製した。
【0152】
<原材料>
・顔料:三菱カーボンブラック「#960」(製品名、三菱ケミカル(株))
・顔料分散剤:アクリディックWML542(製品名、DIC株式会社、スチレンアクリル樹脂、酸価=170mgKOH/g)の理論値100%中和物(中和剤:水酸化カリウム)
・水性媒体:「イオン交換水」
【0153】
上記の顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を、以下の表5に記載の配合組成で混合した後、分散を行い、水性顔料分散体を得た。
具体的には、50mLポリエチレン製密閉容器に、所定量の顔料、顔料分散剤、及び水性媒体を、表5の配合組成(g)で仕込んだ後、直径0.5mmのZrビーズYTZ-0.5(製品名、(株)ニッカトー製)10gを更に加え、ペイントコンディショナーにより分散した。分散時間は一律2時間とした。
【0154】
得られた水性顔料分散体について、体積平均粒径、及び顔料分散安定性を、前述の方法で評価した。結果を表5に示した。
【0155】
【0156】
表2、表3、及び
図1より、顔料濃度20.0質量%の場合、質量比(R/P)は、0.4が最適範囲である。そのため、上記で調製した水性顔料分散体における質量比(R/P)は、0.2~0.6が好適範囲となる。表5の結果は、その結果と対応している。
【0157】
(水性顔料分散体の調製2)
以下の原材料を用いて、水性顔料分散体の調製1と同様の方法で水性顔料分散体を調製しようとしたが、分散不良のため、分散体が得られなかった。
【0158】
<原材料>
・顔料:三菱カーボンブラック R(製品名、三菱ケミカル(株))
・顔料分散剤:ARFON UH-2170(製品名、東亜合成株式会社)
・水性媒体:「イオン交換水」