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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/10 20060101AFI20240910BHJP
   C08F 212/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08F220/10
C08F212/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020107296
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022001627
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】葉 信甫
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154754(JP,A)
【文献】特開昭62-079446(JP,A)
【文献】特開2020-086063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/10
C08F 212/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される単量体(a)と、下記式(II)で表される単量体(b)と、界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合する工程を含む、共重合体の製造方法。
【化1】
〔式(I)中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基又はハロゲン化アルキル基であり、Rは、フッ素原子の数が3以上10以下の有機基である。
式(II)中、Rは、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基又はハロゲン化アルキル基であり、Rは、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又はハロゲン化アルキル基であり、pは、0以上5以下の整数であり、Rが複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
【請求項2】
前記式(I)中、Xは塩素原子であり、前記式(II)中、Rはアルキル基である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記共重合を10℃以上90℃以下の重合温度で行う、請求項1又は2に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
得られる共重合体の重量平均分子量が200000以上700000以下である、請求項1~3の何れかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記単量体組成物が、反応助剤を含まない、請求項1~4のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記単量体組成物中の緩衝剤の量が前記界面活性剤水溶液の質量に対して0.2質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記単量体組成物中の重合開始剤の量が0.005当量以下である、請求項1~6のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体の製造方法に関し、特には、ポジ型レジストとして好適に使用し得る共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造等の分野において、電子線などの電離放射線や紫外線などの短波長の光(以下、電離放射線と短波長の光とを合わせて「電離放射線等」と称することがある。)の照射により主鎖が切断されて現像液に対する溶解性が増大する重合体が、主鎖切断型のポジ型レジストとして使用されている。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1には、耐熱性に優れ、且つ、解像度及び明瞭性に優れるレジストパターンの形成が可能な主鎖切断型のポジ型レジストとして、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とα-メチルスチレン単位とを含有する共重合体よりなるポジ型レジストが開示されている。
【0004】
そして、特許文献1では、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチルと、α-メチルスチレンと、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリルとを含む単量体組成物を反応させて上記共重合体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/066806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、電離放射線等が照射された部分と未照射部分との現像液に対する溶解度の差を大きくし、得られるレジストパターンの明瞭性を高める観点から、主鎖切断型のポジ型レジストとして用いられる共重合体としては、高分子量の共重合体が求められている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法により得られる共重合体は、分子量が低いという点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の単量体と界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合させれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の共重合の製造方法は、下記式(I)で表される単量体(a)と、下記式(II)で表される単量体(b)と、界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合する工程を含むことを特徴とする。
【化1】
〔式(I)中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基又はハロゲン化アルキル基であり、Rは、フッ素原子の数が3以上10以下の有機基である。
式(II)中、Rは、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基又はハロゲン化アルキル基であり、Rは、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又はハロゲン化アルキル基であり、pは、0以上5以下の整数であり、Rが複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
このように、所定の単量体と界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合させれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
【0011】
ここで、本発明の共重合体の製造方法において、前記式(I)中、Xは塩素原子であり、前記式(II)中、Rはアルキル基であることが好ましい。このような単量体を使用すれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造しやすい。
【0012】
また、本発明の共重合体の製造方法は、前記共重合を10℃以上90℃以下の重合温度で行うことが好ましい。このように、所定の単量体を10℃以上90℃以下の重合温度で共重合させれば、反応効率を高めることができる。
【0013】
そして、本発明の共重合体の製造方法は、得られる共重合体の重量平均分子量が200000以上700000以下であることが好ましい。重量平均分子量が200000以上700000以下の共重合体であれば、主鎖切断型のポジストとしての有用性が向上する。なお、共重合体の重量平均分子量は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0014】
さらに、本発明の共重合体の製造方法は、前記単量体組成物が、反応助剤を含まないことが好ましい。反応助剤を含まない単量体組成物を用いれば、得られる共重合体に含まれ得る金属の量を低減することができる。
【0015】
また、本発明の共重合体の製造方法は、前記単量体組成物中の緩衝剤の量が前記界面活性剤水溶液の質量に対して0.2質量%以下であることが好ましい。緩衝剤の量が界面活性剤水溶液の質量に対して0.2質量%以下であれば、得られる共重合体に含まれ得る金属の量をより低減することができる。
【0016】
そして、本発明の共重合体の製造方法は、前記単量体組成物中の重合開始剤の量が0.005当量以下であることが好ましい。重合開始剤の量が0.005当量以下であれば、得られる共重合体に含まれ得る金属の量を更に低減することができる。
なお、本発明において、「当量」とは、単量体(a)の量に対するモル当量を指す。
【発明の効果】
【0017】
本発明の共重合体の製造方法によれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
ここで、本発明の共重合体の製造方法に従い製造される共重合体は、電子線などの電離放射線や紫外線などの短波長の光の照射により主鎖が切断されて低分子量化する、主鎖切断型のポジ型レジストとして良好に使用することができる。
【0020】
(共重合体の製造方法)
本発明の共重合体の製造方法は、下記式(I)で表される単量体(a)と、下記式(II)で表される単量体(b)と、界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合する工程(共重合工程)を含み、任意に、得られた共重合体を回収する工程(回収工程)を更に含み得る。また、本発明の共重合体の製造方法は、回収した共重合体を精製する工程(精製工程)を更に含んでいてもよい。
【化2】
〔式(I)中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基又はハロゲン化アルキル基であり、Rは、フッ素原子の数が3以上10以下の有機基である。
式(II)中、Rは、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基又はハロゲン化アルキル基であり、Rは、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又はハロゲン化アルキル基であり、pは、0以上5以下の整数であり、Rが複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
【0021】
<共重合工程>
共重合工程では、所定の単量体と界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合し、共重合体を合成する。そして、共重合工程では、所定の単量体と界面活性剤水溶液とを含む単量体組成物を共重合しているので、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
【0022】
[単量体組成物]
ここで、単量体組成物は、単量体(a)、単量体(b)及び界面活性剤水溶液を含む。
【0023】
〔単量体(a)〕
単量体(a)は、上記式(I)で表される構造を有する化合物である。そして、単量体組成物に含まれている全単量体中の単量体(a)の割合は、特に限定されることなく、例えば30mоl%以上とすることができ、40mоl%以上であることが好ましく、45mоl%以上であることがより好ましく、70mоl%以下とすることができ、60mоl%以下であることが好ましく、55mоl%以下であることがより好ましい。
【0024】
ここで、式(I)中のXを構成し得るハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はアスタチン原子などが挙げられる。また、式(I)中のXを構成し得るアルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基又はエチルスルホニル基などが挙げられる。さらに、式(I)中のXを構成し得るアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基などが挙げられる。また、式(I)中のXを構成し得るアシル基としては、ホルミル基、アセチル基又はプロピオニル基などが挙げられる。さらに、式(I)中のXを構成し得るアルキルエステル基としては、メチルエステル基又はエチルエステル基などが挙げられる。そして、式(I)中のXを構成し得るハロゲン化アルキル基としては、例えば、ハロゲン原子の数が1個以上3個以下のハロゲン化メチル基などが挙げられる。
中でも、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、Xは、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
【0025】
また、式(I)中のRは、フッ素原子の数が3以上10以下の有機基であることが必要であり、Rに含まれるフッ素原子の数は、3以上8以下であることが好ましい。R中に含まれるフッ素原子の数が上記下限値以上であれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体が得られる。また、R中に含まれるフッ素原子の数が上記上限値以下であれば、高分子量の共重合体の製造効率が高まる。
【0026】
フッ素原子の数が3以上10以下の有機基としては、特に限定されることなく、例えば、以下の(a-1)~(a-30)等の、フッ素原子の数が3以上10以下のフルオロアルキル基;以下の(a-31)~(a-54)等の、フッ素原子の数が3以上10以下のフルオロアルコキシアルキル基;フルオロエトキシビニル基等の、フッ素原子の数が3以上10以下のフルオロアルコキシアルケニル基;下記式(A)で表される有機基(以下、「有機基(A)」という。);などが挙げられる。
-L-Ar ・・・(A)
〔有機基(A)中、Lは2価の連結基であり、Arは、置換基を有していてもよい芳香環基であり、有機基(A)中に含まれるフッ素原子の数は3以上10以下である。なお、本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、「無置換の、又は、置換基を有する」ことを意味する。〕
【0027】
【化3】
【化4】
【0028】
有機基(A)中のLを構成し得る、2価の連結基としては、特に限定されることなく、例えば、置換基を有していてよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基などが挙げられる。
【0029】
そして、置換基を有していてもよいアルキレン基のアルキレン基としては、特に限定されることなく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基などの鎖状アルキレン基、及び、1,4-シクロヘキシレン基などの環状アルキレン基が挙げられる。中でも、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基などの炭素数1~6の鎖状アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基などの炭素数1~6の直鎖状アルキレン基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1~3の直鎖状アルキレン基が更に好ましい。
【0030】
また、置換基を有していてもよいアルケニレン基のアルケニレン基としては、特に限定されることなく、例えば、エテニレン基、2-プロペニレン基、2-ブテニレン基、3-ブテニレン基などの鎖状アルケニレン基、及び、シクロヘキセニレン基などの環状アルケニレン基が挙げられる。中でも、アルケニレン基としては、エテニレン基、2-プロペニレン基、2-ブテニレン基、3-ブテニレン基などの炭素数2~6の直鎖状アルケニレン基が好ましい。
【0031】
上述した中でも、得られる共重合体の電離放射線等に対する感度を十分に向上させる観点からは、2価の連結基としては、置換基を有していてもよいアルキレン基が好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~6の鎖状アルキレン基がより好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状アルキレン基が更に好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~3の直鎖状アルキレン基が特に好ましい。
【0032】
また、得られる共重合体の電離放射線等に対する感度を更に向上させる観点からは、有機基(A)のLを構成し得る2価の連結基は、電子吸引性基を1つ以上有することが好ましい。中でも、2価の連結基が置換基として電子吸引性基を有するアルキレン基又は置換基として電子吸引性基を有するアルケニレン基である場合、電子吸引性基は、式(I)中のカルボニル炭素に隣接するOと結合する炭素に結合していることが好ましい。
【0033】
なお、電離放射線等に対する感度を十分に向上させ得る電子吸引性基としては、特に限定されることなく、例えば、フッ素原子、フルオロアルキル基、シアノ基およびニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。また、フルオロアルキル基としては、特に限定されることなく、例えば、炭素数1~5のフルオロアルキル基が挙げられる。中でも、フルオロアルキル基としては、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0034】
そして、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、有機基(A)中のLとしては、フッ素原子の含有数が3以上10以下の2価の連結基が好ましく、フッ素原子の含有数が3以上6以下の2価の連結基がより好ましく、トリフルオロメチルメチレン基、ペンタフルオロエチルメチレン基又はビス(トリフルオロメチル)メチレン基が更に好ましい。
【0035】
また、有機基(A)中のArとしては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基が挙げられる。
【0036】
そして、芳香族炭化水素環基としては、特に限定されることなく、例えば、ベンゼン環基、ビフェニル環基、ナフタレン環基、アズレン環基、アントラセン環基、フェナントレン環基、ピレン環基、クリセン環基、ナフタセン環基、トリフェニレン環基、o-テルフェニル環基、m-テルフェニル環基、p-テルフェニル環基、アセナフテン環基、コロネン環基、フルオレン環基、フルオラントレン環基、ペンタセン環基、ペリレン環基、ペンタフェン環基、ピセン環基、ピラントレン環基などが挙げられる。
【0037】
また、芳香族複素環基としては、特に限定されることなく、例えば、フラン環基、チオフェン環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアジン環基、オキサジアゾール環基、トリアゾール環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、チアゾール環基、インドール環基、ベンゾイミダゾール環基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール環基、キノキサリン環基、キナゾリン環基、フタラジン環基、ベンゾフラン環基、ジベンゾフラン環基、ベンゾチオフェン環基、ジベンゾチオフェン環基、カルバゾール環基などが挙げられる。
【0038】
さらに、Arが有し得る置換基としては、特に限定されることなく、例えば、アルキル基、フッ素原子及びフルオロアルキル基が挙げられる。そして、Arが有し得る置換基としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などの炭素数1~6の鎖状アルキル基が挙げられる。また、Arが有し得る置換基としてのフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基などの炭素数1~5のフルオロアルキル基が挙げられる。
【0039】
中でも、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、有機基(A)中のArとしては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基が好ましく、非置換の芳香族炭化水素環基がより好ましく、ベンゼン環基(フェニル基)が更に好ましい。
【0040】
そして、式(I)で表される単量体(a)としては、特に限定されることなく、例えば、α-クロロアクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、α-クロロアクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、α-クロロアクリル酸3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、α-クロロアクリル酸1H-1-(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル、α-クロロアクリル酸1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル、α-クロロアクリル酸1,2,2,2-テトラフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル、α-クロロアクリル酸2,2,3,3,4,4,4-へプタフルオロブチル等のα-クロロアクリル酸フルオロアルキルエステル;α-クロロアクリル酸ペンタフルオロエトキシメチルエステル、α-クロロアクリル酸ペンタフルオロエトキシエチルエステル等のα-クロロアクリル酸フルオロアルコキシアルキルエステル;α-クロロアクリル酸ペンタフルオロエトキシビニルエステル等のα-クロロアクリル酸フルオロアルコキシアルケニルエステル;α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチル、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルなどが挙げられる。そして、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより一層効率的に製造する観点からは、式(I)で表される単量体(a)としては、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチル、又は、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが好ましい。
【0041】
〔単量体(b)〕
単量体(b)は、上記式(II)で表される構造を有する化合物である。そして、単量体組成物に含まれている全単量体中の単量体(b)の割合は、特に限定されることなく、例えば30mоl%以上とすることができ、40mоl%以上であることが好ましく、45mоl%以上であることがより好ましく、70mоl%以下とすることができ、60mоl%以下であることが好ましく、55mоl%以下であることがより好ましい。
【0042】
ここで、式(I)中のR及びRを構成し得るアルキル基としては、特に限定されることなく、例えば非置換の炭素数1以上5以下のアルキル基が挙げられる。
【0043】
また、式(II)中のR及びRを構成し得るハロゲン原子及びハロゲン化アルキル基としては、特に限定されることなく、式(I)で説明したハロゲン原子及びハロゲン化アルキル基と同様のものが挙げられる。中でも、Rを構成し得るハロゲン化アルキルとしては、炭素数1以上5以下のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0044】
さらに、式(II)中のRを構成し得るシアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基としては、特に限定されることなく、式(I)で説明したシアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基と同様のものが挙げられる。
【0045】
そして、共重合体の調製の容易性及び電離放射線等を照射した際の主鎖の切断性を向上させる観点からは、式(II)中のRとしてはアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0046】
また、共重合体の調製の容易性及び電離放射線等を照射した際の主鎖の切断性を向上させる観点からは、式(II)中のpは、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0047】
そして、上述した式(II)で表される単量体(b)としては、特に限定されることなく、例えば、以下の(b-1)~(b-12)等のα-メチルスチレン及びその誘導体が挙げられる。
【化5】
【0048】
なお、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、単量体(b)は、α-メチルスチレン又は1-クロロ-4-(1-プロペン-2-イル)ベンゼンであることが好ましく、α-メチルスチレンであることがより好ましい。
【0049】
〔界面活性剤水溶液〕
界面活性剤水溶液は、界面活性剤が水に溶解又は分散してなる溶液である。本発明では、界面活性剤水溶液を含む単量体組成物を用いることで、単量体(a)と単量体(b)とを乳化重合することができ、その結果、高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
【0050】
ここで、界面活性剤水溶液に用いる界面活性剤としては、特に限定されることなく、例えば、親水基及び親油基を含有し、乳化重合のミセルを形成できる界面活性剤を用いることができ、具体的には、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができる。
【0051】
そして、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
【0052】
陽イオン性界面活性剤としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、モノメチルアミン、モノエチルアミン、及びモノステアリルアミンなどの1級アミンの塩酸塩;ジメチルアミン、ジエチルアミン、及びジステアリルアミンなどの2級アミンの塩酸塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びステアリルジメチルアミンなどの3級アミンの塩酸塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンなどのエタノールアミン類の塩酸塩;エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等のポリエチレンポリアミン類の塩酸塩;及び、ピリジン、モルホリン、及びヒドラジンなどのアミン類の塩酸塩などが挙げられる。
【0053】
陰イオン性界面活性剤としては、混合脂肪酸ソーダ石けん、半硬化牛脂脂肪酸ソーダ石けん、ステアリン酸ソーダ石けん、半硬化牛脂脂肪酸カリ石けん、オレイン酸カリ石けん、ヒマシ油カリ石けん、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルリン酸カリウム塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、アルコキシアルキルホスフェート、アルキルホスフェート、アルキルリン酸ジエタノールアミン塩、アルキルスルホン酸ナトリウム特殊芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、及び特殊カルボン酸型界面活性剤などが挙げられる。
【0054】
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどが挙げられる。
【0055】
ここで、界面活性剤水溶液は、上述した界面活性剤と水とを公知の方法により混合して調製することができる。その際、界面活性剤水溶液中の界面活性剤の濃度は、特に限定されず、例えば、0.1質量%以上10質量%以下とすることができ、0.5質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0056】
本発明の共重合体の製造方法で用いる単量体組成物は、上述した単量体(a)、単量体(b)及び界面活性剤水溶液を含んでいればよいが、単量体組成物は、任意に、その他の成分を更に含んでいてもよい。そして、その他の成分としては、特に限定されることなく、例えば、その他の単量体、その他の溶媒、反応助剤、緩衝剤及び重合開始剤などが挙げられる。
【0057】
〔その他の単量体〕
その他の単量体としては、単量体(a)及び単量体(b)と共重合可能な任意の単量体が挙げられる。ただし、単量体組成物に含まれている全単量体中のその他の単量体の割合は、10mоl%以下であることが好ましく、0mоl%である(すなわち、単量体組成物は単量体として単量体(a)及び単量体(b)のみを含む)ことがより好ましい。
【0058】
〔その他の溶媒〕
その他の溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、シクロペンタノンなどを用いることができる。
【0059】
〔反応助剤〕
本発明の共重合体の製造方法によれば、単量体組成物中に反応助剤が含まれていない場合でも、単量体(a)と単量体(b)との共重合反応を十分に進行させて高分子量の共重合体を製造することができるが、必要に応じて、単量体組成物中に反応助剤が含まれていてもよい。
【0060】
ここで、単量体組成物中に含まれ得る反応助剤としては、特に限定されることなく、例えば亜二チオン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム三水和物、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、クメンハイドロパーオキサイドなどを用いることができる。
【0061】
なお、単量体組成物中の反応助剤の量は、特に限定されることなく、0.008当量以下であることが好ましく、0.006当量以下であることがより好ましく、0.004当量以下であることが更に好ましい。反応助剤の量が上記上限値以下であれば、得られる共重合体に含まれ得る金属の量を低減することができる。
【0062】
そして、好ましくは、本発明の共重合体の製造方法で用いる単量体組成物は、上述した反応助剤を含まないことである。反応助剤を含まない単量体組成物を用いれば、金属の量が効果的に低減された共重合体を得ることができる。
【0063】
〔緩衝剤〕
本発明の共重合体の製造方法によれば、単量体組成物中に緩衝剤が含まれていない場合でも、単量体(a)と単量体(b)との共重合反応を十分に進行させて高分子量の共重合体を製造することができるが、必要に応じて、単量体組成物中に緩衝剤が含まれていてもよい。
【0064】
ここで、単量体組成物中に含まれ得る緩衝剤としては、特に限定されることなく、例えば炭酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0065】
なお、単量体組成物中の緩衝剤の量は、上述した界面活性剤水溶液の質量に対して、0.2質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましい。単量体組成物中の緩衝剤の量が界面活性剤水溶液の質量に対して上記上限値以下であれば、得られる共重合体に含まれ得る金属の量を更に低減することができる。
【0066】
〔重合開始剤〕
本発明の共重合体の製造方法によれば、単量体組成物中に重合開始剤が含まれていない場合でも、単量体(a)と単量体(b)との共重合反応を十分に進行させて高分子量の共重合体を製造することができるが、必要に応じて、単量体組成物中に重合開始剤が含まれていてもよい。
【0067】
ここで、単量体組成物中に含まれ得る重合開始剤としては、特に限定されることなく、例えば過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリルなどのラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0068】
なお、単量体組成物中の重合開始剤の量は、特に限定されることなく、0.005当量以下であることが好ましく、0.002当量以下であることがより好ましい。重合開始剤の量が上記上限値以下であれば、得られる共重合体に含まれ得る金属の量をより一層低減することができる。
【0069】
[重合温度]
共重合工程において単量体組成物を共重合させる際の重合温度は、特に限定されることなく、10℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることが更に好ましく、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。重合温度が10℃以上であれば、単量体の凍結を防止して、反応効率を高めることができる。また、重合温度が90℃以下であれば、反応効率と得られる共重合体の分子量とのバランスを良好にすることができる。
【0070】
[その他の重合条件]
また、単量体組成物を共重合させる時間(反応時間)は、特に限定されることなく、4時間以上であることが好ましく、5時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、24時間以下であることが好ましく、20時間以下であることがより好ましい。反応時間が上記下限値以上であれば、得られる共重合体を十分に高分子量化することができる。また、反応時間が上記上限値以下であれば、共重合体の合成に要する時間を十分に短くすることができる。
【0071】
[共重合体]
共重合工程で得られる共重合体は、下記式(III)で表される、単量体(a)に由来する繰り返し単位と、下記式(IV)で表される、単量体(b)に由来する繰り返し単位とを含み、任意に、その他の単量体に由来する繰り返し単位を更に含有する。
【化6】
〔式(III)中、X及びRは、式(I)と同様であり、式(IV)中、R及びRは、式(II)と同様である。〕
【0072】
そして、共重合体は、上記式(III)で表される繰り返し単位及び上記式(IV)で表される繰り返し単位の双方を含んでいるので、電離放射線等(例えば、電子線、KrFレーザー、ArFレーザー、EUVレーザーなど)が照射された際に主鎖が切断されやすい(すなわち、電離放射線などに対する感度が高い。)したがって、共重合体は、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用である。
【0073】
なお、共重合工程で得られる共重合体の重量平均分子量は、200000以上であることが好ましく、250000以上であることがより好ましく、300000以上であることが更に好ましく、700000以下であることが好ましく、500000以下であることがより好ましく、400000以下であることが更に好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であれば、共重合体を主鎖切断型のポジ型レジストとして用いた際に、得られるレジストパターンの明瞭性を高めることができる。また、重量平均分子量が上記上限値以下であれば、共重合体の合成に要する時間を十分に短くすることができる。
【0074】
<回収工程>
任意に実施し得る回収工程では、共重合工程で得られる共重合体を含む重合体溶液から共重合体を回収する。
【0075】
具体的には、回収工程では、例えば、共重合体を含む重合体溶液にテトラヒドロフラン等の良溶媒を添加した後、良溶媒を添加した溶液をメタノール等の貧溶媒中に滴下して共重合体を凝固させることにより、共重合体を回収することができる。
【0076】
<精製工程>
任意に実施し得る精製工程では、特に限定されることなく、再沈殿法やカラムクロマトグラフィー法などの既知の精製方法を用いて共重合体を精製し得る。再沈殿法やカラムクロマトグラフィー法はどの既知の精製方法による精製を行うことにより、共重合体に含まれ得る金属の量をより一層低減することができる。中でも、容易性の観点からは、精製方法としては、再沈殿法を用いることが好ましい。なお、共重合体の精製は、複数回繰り返して実施してもよい。
【0077】
そして、再沈殿法による共重合体の精製は、例えば、得られた共重合体をテトラヒドロフラン等の良溶媒に溶解した後、得られた溶液を、テトラヒドロフラン等の良溶媒とメタノール等の貧溶媒との混合溶媒に滴下し、共重合体の一部を析出させることにより行うことが好ましい。このように、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に共重合体の溶液を滴下して精製を行えば、良溶媒及び貧溶媒の種類や混合比率を変更することにより、得られる共重合体の分子量分布、重量平均分子量及び数平均分子量を容易に調整することができる。具体的には、例えば、混合溶媒中の良溶媒の割合を高めるほど、混合溶媒中で析出する共重合体の分子量を大きくすることができる。
【0078】
なお、再沈殿法により共重合体を精製する場合、共重合体としては、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中で析出した共重合体を用いてもよいし、混合溶媒中で析出しなかった共重合体(すなわち、混合溶媒中に溶解している共重合体)を用いてもよい。ここで、混合溶媒中で析出しなかった共重合体は、濃縮乾固などの既知の手法を用いて混合溶媒中から回収することができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例及び比較例において、共重合体の重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布、並びに、溶液中の金属量は、以下の方法で測定及び評価した。また、実施例及び比較例で使用した半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液は、以下のようにして調製した。
【0080】
<重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布>
実施例、比較例で得られた共重合体について、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算値として求めた。そして、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0081】
<溶液中の金属量>
実施例及び比較例で得られた共重合体を含む重合体溶液、又は、実施例及び比較例で得られた共重合体を用いて調製した共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液をフード付きヒーターの上で加熱して、試料が乾固した後、電気炉で灰化処理した。放冷後、灰分を酸で完全に溶解させたものを検液として、適宜希釈してICP質量分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、「Agilent7900 ICP-MS」)で測定した。検量線は絶対検量線法を使用し、測定モードはクールモードとした。そして、重合体溶液、及び、共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液それぞれに含まれる金属量を、以下の基準に従って評価した。
A:溶液中の金属量が1ppb超10ppb以下
B:溶液中の金属量が10ppb超100ppb以下
C:溶液中の金属量が100ppb超1000ppb以下
D:溶液中の金属量が1000ppb超10000ppb以下
E:溶液中の金属量が10000ppb超
【0082】
<半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液の調製>
イオン交換水100gを用意し、攪拌しながら70℃まで昇温して、水酸化カリウム(49%水溶液)を8.40g添加した。次に、牛脂45°硬化脂肪酸HFA(日油株式会社製)19.6gを1.28g/分のレートで添加して、その後にケイ酸カリウムを0.126g添加した。そして80℃で2時間以上撹拌して、半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液を得た。
【0083】
(実施例1)
<乳化重合による共重合体の調製>
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、下記式で表される単量体(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル3.0000g(1.0000当量)と、単量体(b)としてのα-メチルスチレン2.7120(2.5444当量)gと、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.0114g(0.0047当量)と、界面活性剤水溶液としての半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液0.5463g及びイオン交換水6.7708gと、緩衝剤としての炭酸ナトリウム0.0073gとを含む単量体組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
【化7】
次に、系内を30℃に加温し、6時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。それから、得られた重合体溶液中に良溶媒としてのテトラヒドロフラン10gを添加した後、良溶媒を添加した重合体溶液を貧溶媒としてのメタノール200g中に滴下して共重合体を析出させた。その後、析出した共重合体をろ過で回収し、得られた共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、分子量分布を求めた。結果を表1に示す。
さらに、得られた共重合体を用いて共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を調製し、酢酸イソアミル溶液中の金属量を測定した。結果を表1に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【0084】
(実施例2~5)
共重合体の調製時に、系内を加温する温度をそれぞれ40℃(実施例2)、50℃(実施例3)、60℃(実施例4)、70℃(実施例5)に変更した以外は、実施例1と同様にして重合体溶液、共重合体及び共重合体濃度1.5%酢酸イソアミル溶液を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
(実施例6)
共重合体の調製時に、重合開始剤としての過硫酸カリウム及び緩衝剤としての炭酸ナトリウムは使用せず、反応時間を13時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして重合体溶液、共重合体及び共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
(実施例7~10)
共重合体の調製時に、系内を加温する温度をそれぞれ40℃(実施例7)、50℃(実施例8)、60℃(実施例9)、70℃(実施例10)に変更した以外は、実施例6と同様にして重合体溶液、共重合体及び共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
(比較例1)
<溶液重合による共重合体の調製>
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、単量体(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル3.0000g(1.0000当量)と、単量体(b)としてのα-メチルスチレン2.4930g(2.3389当量)と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.0040g(0.0027当量)とを加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
次に、系内を78℃に加温し、3.5時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。それから、得られた共重合体溶液中に良溶媒としてのテトラヒドロフラン10gを添加した後、良溶媒を添加した重合体溶液を貧溶媒としてのメタノール200g中に滴下して共重合体を析出させた。その後、析出した共重合体をろ過で回収し、得られた共重合の重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、分子量分布を求めた。結果を表3に示す。
さらに、得られた共重合体を用いて共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を調製し、酢酸イソアミル溶液中の金属量を測定した。結果を表3に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【0090】
(比較例2)
<乳化重合による共重合体の調製>
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、単量体(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチルに替えて、α-クロロアクリル酸メチル3.0000g(1.0000当量)と、単量体(b)としてのα-メチルスチレン7.2267g(2.4568当量)と、反応助剤としての亜二チオン酸ナトリウム0.0027g、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム三水和物0.0010g、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物0.0025g、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0015g及びクメンハイドロパーオキサイド0.0052gと、界面活性剤水溶液としての半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液1.5000g及びイオン交換水18.3333gと、緩衝剤としての炭酸ナトリウム0.0200gとを含む単量体組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
次に、系内を5℃に冷却し、24時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。それから、得られた重合体溶液中に良溶媒としてのテトラヒドロフラン10gを添加した後、良溶媒を添加した重合体溶液を貧溶媒としてのメタノール400g中に滴下して共重合体を析出させた。その後、析出した共重合体をろ過で回収し、得られた共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、分子量分布を求めた。結果を表3に示す。
さらに、得られた共重合体を用いて共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を調製し、酢酸イソアミル溶液中の金属量を測定した。結果を表3に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸メチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【0091】
(比較例3)
共重合体の調製時に、反応時間を48時間に変更した以外は、比較例2と同様にして重合体溶液、共重合体及び共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を得た。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0092】
(比較例4)
共重合体の調製時に、反応助剤としての亜二チオン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム三水和物、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及びクメンハイドロパーオキサイド、並びに、緩衝剤としての炭酸ナトリウムを使用しなかったことと、系内を40℃に加温し、反応時間を13時間に変更したこと以外は比較例2と同様にして反応を行った。しかしながら、共重合体を含む重合体溶液を得ることができなかった。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
(実施例11)
<乳化重合による共重合体の調製>
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、下記式で表される単量体(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチル3.0000g(1.0000当量)と、単量体(b)としてのα-メチルスチレン3.4089g(2.5444当量)と、界面活性剤水溶液としての半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液0.6866g及びイオン交換水8.5107gとを含む単量体組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
【化8】
次に、系内を40℃に加温し、13時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。それから、得られた重合体溶液中に良溶媒としてのテトラヒドロフラン10gを添加した後、良溶媒を添加した重合体溶液を貧溶媒としてのメタノール200g中に滴下して共重合体を析出させた。その後、析出した共重合体をろ過で回収し、得られた共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、分子量分布を求めた。結果を表4に示す。
さらに、得られた共重合体を用いて共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を調製し、酢酸イソアミル溶液中の金属量を測定した。結果を表4に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【0095】
(実施例12)
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、下記式で表される単量体(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル3.0000g(1.0000当量)と、単量体(b)としてのα-メチルスチレン2.8671g(2.5444当量)と、界面活性剤水溶液としての半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液0.5775g及びイオン交換水7.1580gとを含む単量体組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
【化9】
【0096】
次に、系内を40℃に加温し、13時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。それから、得られた重合体溶液中に良溶媒としてのテトラヒドロフラン10gを添加した後、良溶媒を添加した重合体溶液を貧溶媒としてのメタノール200g中に滴下して共重合体を析出させた。その後、析出した共重合体をろ過で回収し、得られた共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、分子量分布を求めた。結果を表4に示す。
さらに、得られた共重合体を用いて共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を調製し、酢酸イソアミル溶液中の金属量を測定した。結果を表4に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【0097】
【表4】
【0098】
(実施例13)
<乳化重合による共重合体の調製>
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、実施例1で使用した単量体(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル3.0000g(1.0000当量)と、単量体(b)としての1-クロロ-4-(1-プロペン-2-イル)ベンゼン3.5024g(2.5444当量)と、界面活性剤水溶液としての半硬化牛脂脂肪酸カリ石けんの固形分18%の水溶液0.5463g及びイオン交換水6.7708gとを含む単量体組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
次に、系内を40℃に加温し、13時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。それから、得られた重合体溶液中に良溶媒としてのテトラヒドロフラン10gを添加した後、良溶媒を添加した重合体溶液を貧溶媒としてのメタノール200g中に滴下して共重合体を析出させた。その後、析出した共重合体をろ過で回収し、得られた共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を測定し、分子量分布を求めた。結果を表5に示す。
さらに、得られた共重合体を用いて共重合体濃度1.5%の酢酸イソアミル溶液を調製し、酢酸イソアミル溶液中の金属量を測定した。結果を表5に示す。
なお、得られた共重合体は、1-クロロ-4-(1-プロペン-2-イル)ベンゼン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とを50モルずつ含んでいた。
【0099】
【表5】
【0100】
表1~5より、実施例1~13の単量体組成物を用いた場合には、界面活性剤水溶液を含まない単量体組成物を使用した場合(比較例1)と比較して、高分子量の共重合体を製造することができたことがわかる。
また、実施例1~13の単量体組成物を用いた場合には、反応助剤を含む単量体組成物を使用した場合(比較例2及び比較例3)と比較して、得られる共重合体に含まれる金属の量を低減することができたことがわかる。
さらに、単量体(a)を含まない単量体組成物を使用した場合(比較例4)には、共重合体が得らなかったことがわかる。
さらに、実施例6~13から、単量体組成物に重合開始剤が含まれない場合にも、高分子量の共重合体が製造できたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の共重合体の製造方法によれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。