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特許7552126海洋浮体型構造物及び海洋浮体型構造物を用いて海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。
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  • 特許-海洋浮体型構造物及び海洋浮体型構造物を用いて海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。 図1
  • 特許-海洋浮体型構造物及び海洋浮体型構造物を用いて海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。 図2
  • 特許-海洋浮体型構造物及び海洋浮体型構造物を用いて海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】海洋浮体型構造物及び海洋浮体型構造物を用いて海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/32 20060101AFI20240910BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20240910BHJP
   F25B 21/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B63B35/32 C
B63B35/00 T
B63B35/32 Z
F25B21/02 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020130577
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026899
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大坪 才華
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大橋 三千
(72)【発明者】
【氏名】松本 絢
(72)【発明者】
【氏名】孫 香姫
(72)【発明者】
【氏名】中根 晃平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 式子
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0060919(KR,A)
【文献】特開2020-006765(JP,A)
【文献】特開2013-063360(JP,A)
【文献】特開2017-105423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/32
B63B 35/00
F25B 21/02
H10N 10/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水冷却装置海表面および海中のプラスチックに対する回収装置、回収プラスチック
を貯える貯蔵装置、並びに発電装置を備えるエネルギー自立型海洋浮体型構造物を用いて
、海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法であって
該海水冷却装置は、給水管から取り込んだ海水を、冷却材料を介して冷却し、冷却され
た海水が排水管を通って排出される装置であって、
該回収装置は、海表面に浮遊するプラスチックを回収するベルトコンベアーと、海中の
プラスチックを回収する処理膜とを有する装置であって、
該エネルギー自立型海洋浮体型構造物を海流の発端に設置して、海流の流れに沿って構
造物を移動させることにより、海流の力を用いてプラスチックを回収する、方法
【請求項2】
前記回収装置は、前記海水冷却装置に備えた前記給水管周辺のプラスチックを回収する
装置である請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記海水冷却装置が、32℃未満まで海水を冷却可能な装置である請求項1または2に記
載の方法
【請求項4】
前記発電装置として、熱電変換材料を有する熱電変換型発電装置を備える請求項1~
のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
前記発電装置として、前記熱電変換型発電装置を備えるともに、再生可能エネルギー型
発電装置をさらに備える請求項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水の冷却と海洋プラスチックの回収を同時に行う海洋浮体型構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大豪雨などの異常気象や感染症により、世界各地で大きな被害が発生している。その発生原因としては、人間活動を起因とする、地球温暖化があげられている (非特許文献1、2)。また、地球温暖化により地球上の水循環が激しくなり、巻雲などの薄い雲ができやすくなった結果、温暖化を更に加速しているという「地球温暖化の負のスパイラル」についての報告もある (非特許文献3)。
【0003】
その為、地球温暖化に対処することは、人類が地球上にこれからも生存するには不可欠なことである。例えば、温室効果ガスの排出低減が地球規模で呼びかけられ、二酸化炭素 (CO2) については長期的な低減目標が立てられている (非特許文献4)。
【0004】
一方、海洋プラスチック問題は、プラスチック製品やその粉砕物が海洋生態系を脅かしている問題である (非特許文献5)。また、プラスチックが分解する時にメタンやエチレン等の温室効果ガスを発生するので、地球温暖化にも関係している問題でもある (非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「1.5℃特別報告書」 (IPCC 2018)
【文献】「地球温暖化と感染症~いま何がわかっているのか?~」(環境省 2007)
【文献】Journal of Advances in Modeling Earth Systems, 2019, 11, 2980-2995.
【文献】「パリ協定」 (COP21 2015)
【文献】「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」 (環境省 2019)
【文献】国連環境計画 ニュースリリース (2018年8月24日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地球温暖化問題や海洋プラスチック問題は、早期に解決しなければならない人類の持続可能性に係わる問題であるが、従来の施策では十数年単位の時間がかかってしまう。例えば、地球温暖化に伴う、海水温の上昇を解決しなければ、海水からの水蒸気の発生が促進され、台風・サイクロン・ハリケーンや熱帯低気圧を活発化させてしまう。また、既に流出している海洋プラスチックを減らす実用的な回収方法はこれまで提案されていない。さらに、これらの問題は、従来は別々に解決策が考えられているが、いずれも海洋における問題であって、相互に影響し合いながら、悪化すると考えられる。例えば、海洋プラスチックが分解される時に発生する温室効果ガスは、地球温暖化を促進する。そして、海水温が高いほど、プラスチックの分解が加速する。このように、地球温暖化による海水温上昇と海洋プラスチック問題は、海洋において相互に影響し合い、負の方向へ増幅する問題である。
【0007】
以上により、本発明は、地球温暖化問題と海洋プラスチック問題を、これまでになく早期に効果的に解決するためのものであって、特には、海洋における海水温の上昇と海洋プラスチックの回収を同時に効果的に解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実情に鑑み鋭意検討の結果、本発明者らは、海水冷却装置と海洋プラスチックの回収装置を備える海洋浮体型構造物を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1]海水冷却装置、並びに海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置を備える海洋浮体型構造物。
[2]さらに、発電装置を備える[1]に記載の海洋浮体型構造物。
[3]前記海水冷却装置が、32℃未満まで海水を冷却可能な装置である[1]または[2]のいずれかに記載の海洋浮体型構造物。
[4]前記回収装置の一部に、処理膜を有する[1]~[3]のいずれかに記載の海洋浮体型構造物。
[5]前記発電装置として、熱電変換材料を有する熱電変換型発電装置を備える[2]~[4]のいずれかに記載の海洋浮体型構造物。
[6]前記発電装置として、前記熱電変換型発電装置を備えるともに、再生可能エネルギー型発電装置をさらに備える[5]に記載の海洋浮体型構造物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の海洋浮体型構造物を用いて、海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。
[8]前記海洋浮体型構造物を暖流の発端に設置する、[7]に記載の海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。
[9]前記海洋浮体型構造物は前記発電装置から得られるエネルギーで、[7]または[8]のいずれかに記載の海水を冷却するとともにプラスチックを回収する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る海洋浮体型構造物を用いることにより、海洋プラスチック回収装置によって、海水冷却装置の故障を引き起こす恐れがある周辺のプラスチックが回収され、冷却装置の運転安定性が向上し、効果的に海水を冷却することができる。また、海洋プラスチック回収装置周辺の海水温を低くしておけば、海洋プラスチックが温室効果ガスを発生されるまで分解することなく回収可能な形状を維持するので、プラスチックの回収率を向上することができる。このように、本発明によれば、地球温暖化問題と海洋プラスチック問題を、効率良く同時に解決することができる。また、本発明に係る海水の冷却方法においても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態としての海水冷却装置、並びに海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置を備える海洋浮体型構造物を模式的に表す図である。
図2】本発明の一実施形態としての海水冷却装置、海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置、並びに発電装置を備える海洋浮体型構造物を模式的に表す図である。
図3】本発明の一実施形態としての海水冷却装置、海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置、並びに複数の発電装置を備える海洋浮体型構造物を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これら説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0014】
<1.海洋浮体型構造物1>
図1および2を参照しつつ、本開示の海洋浮体型構造物について説明する。
【0015】
本開示の海洋浮体型構造物1は、海洋からの水蒸気の過剰な発生を抑制すること、海表面および/または海中のプラスチックが海洋生態系を脅かすことを防ぐこと、および該プラスチックから温室効果ガスの発生を防ぐこと等を目的として、図1に示すように海水冷却装置2と、海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置3を備えている。また、エネルギー自立型構造物であれば、外部からエネルギーを供給するが必要なく、どのような海域でも浮遊できるので、図2に示すように、さらに発電装置4も備えることが好ましい。
【0016】
具体的には、発電装置4で得た電気エネルギーで動く、海水冷却装置2と、該プラスチック回収装置3を備える。ただし、後述するように、該プラスチック回収装置3は必ずしも電気エネルギーで動く必要はない。
【0017】
<1.1.海洋浮体型構造物の設置場所>
本発明の海洋浮体型構造物は、海水を冷却することと、海表面および/または海中のプラスチックを回収することが同時に行えれば、設置場所は海洋である限り、さらには限定されない。しかしながら、一ヶ所に固定されれば、回収プラスチックやメンテンナンス作業者の運搬などでコストがかかるので好ましくはない。その為、いつでも設置場所を変更できるように、海洋を浮遊できることが好ましい。
【0018】
海洋プラスチックの集積場所のひとつとして、海流の発端が知られている。海流の発端のひとつに該構造物を設置し、海流の流れに沿って構造物を移動させることにより、海流の力を用いて海洋プラスチックが回収でき、かつ海流が陸上に近づいた段階で回収プラスチックを構造物から陸上へ運搬すれば、運搬コストも低減することが可能である。それゆえ、本発明の海洋浮体型構造物は、海流の発端に設置することが好ましい。なお、海流の発端とは、本明細書中では、海における海流の発生場所を意味する。
【0019】
なかでも、本発明の海洋浮体型構造物は、北緯40度~南緯40度の間に存在する海流の発端に設置することがより好ましく、北緯20度~南緯20度の間に存在する海流の発端に設置することがさらに好ましく、赤道周辺の海流の発端に設置することがもっとも好ましい。海流の発端がより暖かければ、水蒸気の抑制効果が大きいからである。
【0020】
また、海流としては、暖流が寒流よりも総じて暖かいので、本発明の海洋浮体型構造物は、暖流の発端に設置することが好ましい。水蒸気の抑制効果が大きいからである。
【0021】
<1.2.海洋浮体型構造物の母体材料>
本開示の海洋浮体型構造物の母材となる材料は、既存の海洋浮体型風力発電装置で用いられている材料を用いることができる。材料は特段限定されないが、なかでも炭素繊維強化プラスチック (CFRP) を用いることが好ましい。CFRPは、軽量、強靭、錆びない、低熱膨張などの特徴があるので、メンテナンスを極力必要としないからである。
【0022】
<1.3.海洋浮体型構造物のサイズ>
本開示の海洋浮体型構造物は、海洋を浮遊するので、船舶や鯨などの大型海洋生物の妨げになるサイズであることは好ましくはない。よって、海洋浮体型構造物が海表面で占める面積は通常10,000m2以下であり、好ましくは5,000m2以下、より好ましくは3,000m2、さらに好ましくは1,000m2、もっとも好ましくは、500m2以下である。一方、ある程度の大きさが無ければ、海水を効率よく冷やすことができず、またプラスチックも効率良く回収することができない。そこで、通常10m2以上であり、好ましくは30m2以上、より好ましくは50m2以上、さらに好ましくは100m2以上、もっとも好ましくは200m2以上である。なお、構造物の海表面の高さは、海表面で占める面積や重量によるので、任意である。
【0023】
<2.海水冷却装置2>
本開示における海洋浮体型構造物が備える海水冷却装置として、例えば、給水管から取り込んだ海水を、冷却材料を介して冷却し、冷却された海水が排水管を通って排出される装置が挙げられる。なお、給水管と排水管とは最終的にはつながっていればよいので、別々の管でもよく、各々、ひとつの管、または複数の管で構成されてもよい。
【0024】
また、本開示における冷却装置は、電気エネルギーで動く装置であれば、海洋浮体型構造物がエネルギー自立型構造物になり得るので好ましい。なかでも、後述するように、海水の熱を電気エネルギーに変換することと海水を冷却することの両方を同一動作で行える装置であることが好ましい。なお、本開示における海洋浮体型構造物が備える海水冷却装置は一つであっても、複数であってもよく、また一種であっても、複数種であってもよい。
【0025】
本開示における冷却装置が有する冷却材料は、海水を冷却できるものであれば限定されない。例えば、天然ガス気化装置のようなヒートポンプで用いる冷媒や、ペルチェ装置のような熱電変換材料が挙げられる。そのうち、漏洩によって海洋環境に悪影響を及ぼすリスクがない点から、熱電変換材料がより好ましい。そのなかでも、スピンペルチェ効果や異常エッチングスハウゼン効果を示す量子マテリアル (量子状態を精密制御することで機能を発現する材料)は、エネルギー変換効率がさらに高く、海水を冷却することができるので、さらに好ましい。なお、本開示における海水冷却装置が有する冷却材料は一つであっても、複数であってもよく、また一種であっても、複数種であってもよい。
【0026】
<2.1.冷却後の海水温>
水蒸気は32℃を境に飛躍的に増加する。つまり32℃以上であれば、水蒸気が活発に発生し、雲となり温暖化を加速する要因となる。その為、本開示における海水冷却装置で冷却後の海水温、特に海表面の水温 (海面水温) は32℃未満であることが好ましい。温度が下がれば下がるほど、水蒸気は発生しにくいので、30℃未満がより好ましく、28℃未満がさらに好ましい。27℃を超えると台風・サイクロン・ハリケーンや熱帯低気圧が発生しやすいので、27℃未満がもっとも好ましい。一方、海水が凍るほどの温度であれば、海洋浮体型構造物の浮揚に影響を及ぼすので、0℃以上であることが好ましい。5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましい。台風・サイクロン・ハリケーンが発生しやすい北緯40度~南緯40度の平均海面水温は15℃よりも高いので、海洋環境に悪影響を与えないためにも15℃以上であることがもっとも好ましい。
【0027】
冷却後の海水温を上述の範囲とするために、冷却装置はエネルギー変換効率に優れるものが好ましく、熱電変換効果を示す量子マテリアルを有する装置であることがもっとも好ましい。
【0028】
冷却後の海水温は、例えば、冷却装置に備える排水管を通過する海水の温度を測定することにより、特定できる。なお、海水の温度を測定するには、温度計・温度センサーを用いればよい。温度計・温度センサーに特段の限定はなく、熱電対やサーミスタなどの接触式の温度計・温度センサー、および放射温度計や赤外線サーモグラフィなどの非接触式の温度計・温度センサーがあげられる。
【0029】
<2.2.冷却前後の海水の温度差>
海水の温度差を少しでも変化させると、水蒸気の発生抑制やプラスチックの分解抑制に効果があるので、温度差の下限についての限定はない。一方、冷却しすぎると海洋浮体型構造物周辺の海洋環境に悪影響を与えるので、温度差の上限は通常15℃未満であり、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、3℃以下がさらに好ましく、1℃以下がもっとも好ましい。1℃以下であれば、電気エネルギーで海水を冷却することが容易である。なお、冷却前の海水温は、例えば、冷却装置に備える給水管を通過する海水の温度を測定することにより、特定できる。
【0030】
<3.海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置3>
本開示における海洋浮体型構造物が備える海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置は、特段の限定はなく、一つであっても、複数であってもよく、また一種であっても、複数種であってもよい。例えば、海表面に浮遊する大きなプラスチックは、ベルトコンベアー、ロボットアーム等で回収すればよい。また、海中のプラスチック、特にマイクロメートルサイズのプラスチック(マイクロプラスチック)等は、処理膜を用いて回収すればよい。
【0031】
処理膜は、有機膜、無機膜、又はそれらを組み合わせたもののいずれであってもよい。有機膜の具体例としては、PTF (ポリテトラフルオロエチレン) 膜、PVD (ポリフッ化ビニリデン) 膜等のフッ素樹脂膜、ポリアミド膜、酢酸セルロース膜、ポリイミド膜、及びポリエチレン膜、ポリプロピレン膜等のポリオレフィン膜等の高分子膜からなるものがあげられる。有機膜としての形状に、特段の制限はなく、例えば中空糸膜でよい。無機膜の具体例としては、ゼオライト膜、シリカ膜、アルミナ膜、ジルコニア膜、及びチタニア膜等のセラミックス膜並びに炭素膜からなるものがあげられる。
【0032】
処理膜は、さらにプレフィルターを設けるなどして複数設置することができる。さらに、複数の処理膜を設置する場合は、上流側に目の粗い膜を設置し、下流側に目の細かい膜を設置することが好ましい。これによれば、処理膜の目詰まりを防ぎ、耐久性を付与することができる。プレフィルターとしては、特に限定されないが、例えば、不織布、活性炭、またはそれらと上記処理膜との組み合わせなどが挙げられる。
【0033】
該プラスチック回収装置は、必ずしも電気エネルギーを用いる必要はない。例えば、処理膜を海流の流れに沿って設置することにより、電気エネルギーを用いることなく、マイクロプラスチックを含んだ海水が処理膜を通過するので、マイクロプラスチックを回収することができる。
【0034】
<3.1.海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置の補助装置>
本開示の海洋浮体型構造物において、該プラスチック回収装置の補助装置として、回収プラスチックを貯える貯蔵装置を備えてもよい。また、海洋プラスチックは水分を含んでいるので、脱水装置をさらに備えてもよい。脱水装置に特段の限定はないが、回収プラスチックの嵩を小さくし、かつ脱水する装置として、圧搾装置が好ましい。なお、圧搾装置は既存の装置でよいが、海洋浮体型構造物に積載するので、軽量かつサイズが小さいことがより好ましい。
【0035】
また、該プラスチック回収装置の補助装置としてプラスチック分解装置を備えてもよい。プラスチック分解装置を備えることで、回収プラスチックを単に貯蔵するだけでなく、分解できるので、嵩を小さくすることができる。該プラスチック分解装置として、例えば、微生物生分解型プラスチック分解装置、溶解型プラスチック分解装置、焼却型プラスチック分解装置などがあげられる。
【0036】
該プラスチック分解装置から出るプラスチック分解物は、廃棄しても再利用(リサイクル)してもよい。リサイクルする場合は、リサイクルプラスチックは製品の状態でも、原料の状態どちらでもよい。また、リサイクルは、該構造物外で行ってもよく、該構造物内で行ってもよい。該構造物内で行う場合は、該構造物はプラスチックリサイクル装置をさらに備えていることが好ましい。
【0037】
該プラスチック分解装置を備える場合には、分解で発生する温室効果ガスを該構造物から外気に出さないように、CO2回収装置、メタン回収装置、アンモニア回収装置、脱硝装置、脱湿装置などの温室効果ガス回収装置をさらに備えていることが好ましい。なお、該温室効果ガス回収装置は、該回収プラスチック貯蔵装置から自然分解で発生する温室効果ガスの回収にも有効であるので、プラスチック分解装置と一緒でなく、単独で備えていてもよい。
【0038】
また、回収プラスチックにおける、プラスチックの種類やその比率、および重量などのデータを取得する為に、プラスチック分別装置、プラスチック分析装置、および計量装置などを備えてもよい。なお、回収プラスチックにおけるデータは、そのプラスチックの流出元の特定や海洋プラスチックの季節別・海域別変化の解析などに利用することができる。
【0039】
<4.発電装置>
本開示の一形態における、海洋浮体型構造物が備える発電装置は、電気エネルギーを発生する装置であれば、特段の限定はなく、一つであっても、図3のように複数であってもよい。また一種であっても、複数種であってもよい。なかでも、発電装置を複数備える場合は、以下の熱電変換材料を有する発電装置と風力発電装置の両方を含んで備えていることが好ましい。
【0040】
<4.1.熱電変換型発電装置>
本開示の一形態における発電装置は、熱電変換材料を有する熱電変換型発電装置であることが好ましい。具体的には、海水の熱を電気エネルギーに変換する発電装置であって、熱電変換材料を有する熱電変換素子を有することがより好ましい。該発電装置を用いれば、発電する際に熱発電装置周辺を冷却し、さらに得られた電気エネルギーを用いて海水を冷却することが可能である。
【0041】
海水の熱を電気エネルギーに変換する発電装置としては、海洋温度差発電装置が知られている。しかしながら、海洋温度差発電装置は、熱媒体を用いるヒートポンプ型発電装置であるので、温かい海表面水と装置の下の海水との温度差が最低15℃は必要である。また、水よりも沸点の低い熱媒体としてアンモニア、フッ素系炭化水素 (フロン) 等を用いるので、漏洩した際の環境汚染のリスクが存在している。
【0042】
一方、熱電変換型発電装置では、海水で溶け出すような熱電変換材料を用いなければ、環境汚染のリスクはない。また、温度差15℃未満の熱電変換材料を用いることができれば、平均海面水温が15℃より高いの北緯40度~南緯40度の海域で、海洋浮体型構造物に熱電変換型発電装置を備えることが可能である。
【0043】
温度差がなく発電可能であればあるほど、エネルギー変換効率に優れているので、温度差10℃以下の熱電変換材料が好ましく、温度差5℃以下の熱電変換材料がより好ましく、温度差3℃以下の熱電変換材料がさらに好ましく、温度差1℃以下の熱電変換材料が特に好ましく、温度差ゼロの熱電変換材料がもっとも好ましい。よりゼロに近い温度差で熱電変換可能な材料を有する発電装置であれば、発電する際に熱電変換材料を用いた発電装置周辺を高効率に冷却し、さらに得られた電気エネルギーも大きくなるので、電気エネルギーで海水をより冷却することが可能である。
【0044】
そのような熱電変換材料としては、例えば、Fe-Al-Si系材料 (クリーンエネルギー, 2019, 11-15.)、増感型熱電材料 (Journal of Materials Chemistry A, 2019, 7, 18249-18256.)、異方性磁気ペルチェ効果材料 (固体物理, 2019, 401-411.)などが挙げられる。
【0045】
なお、該発電装置が有する熱電変換材料は、一種であっても、複数種であってもよい。
【0046】
本開示における海洋浮体型構造物は、外部からエネルギーを供給する必要がないエネルギー自立型構造物であれば、どのような海域でも設置できるので好ましい。しかしながら、上述の熱電変換材料を有する発電装置だけでは電気エネルギーが足りない場合があるので、別の発電装置を備えていてもよい。
【0047】
<4.2.再生可能エネルギー型発電装置>
別の発電装置の例としては、例えば、海流発電装置、潮流発電装置、波力発電装置等の海洋エネルギーを用いた発電装置 (focus NEDO, 2017, No.66) 、風力発電装置、および太陽光発電装置、等の再生可能エネルギー型発電装置があげられる。
【0048】
再生可能エネルギー型発電装置は、なかでも、風力発電装置が好ましく、海洋浮体型風力発電装置がより好ましい。海洋浮体式洋上風力発電装置は、そのまま本開示における海洋浮体型構造物の母体として用いることが可能である。なお、従来の海洋浮体型洋上風力発電装置は、得られた電気エネルギーを地上で消費する為に、海底送電ケーブルを備える必要があった。一方、本発明では、得られた電気エネルギーを該構造物内で自己消費するので、そのようなものは必要ない。
【0049】
本発明において発電装置を備える場合、発電装置としては、熱電変換型発電装置や再生可能エネルギー型発電装置以外のものを使用することも可能である。また、熱電変換型発電装置や再生可能エネルギー型発電装置と、それ以外のものを併用することも可能である。
【0050】
<5.海洋浮体型構造物を構成するその他の装置類>
本開示の海洋浮体型構造物1は海水冷却装置2と、海表面および/または海中のプラスチックに対する回収装置3、および/または発電装置4以外にも装置を備えていてもよい。それら装置は複数備えてもよく、備えていなくてもよい。また、一種でも複数種でもよい。
【0051】
例えば、上述の回収装置の補助装置、該構造物全体の電気制御装置、送電網、蓄電装置、該構造物の自立航行の為の装置、水蒸気測定装置、CO2測定装置、海水塩分濃度測定装置などの該構造物周辺の外部環境測定装置、外部環境データの記録・分析装置、及び淡水生成装置などがあげられる。
【0052】
また、該構造物は常時有人である必要はないので、遠隔操作装置を備えていてもよい。その際、遠隔操作の対象は、全装置の全操作が対象であっても、一部の装置の一部操作が対象であってもよい。
【0053】
以上、本発明の実施形態の一例(代表例)として、実施可能な海水の冷却と海洋プラスチックの回収を同時に行う海洋浮体型構造物の例を示した。なお、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る構造物は、海水の冷却と海洋プラスチックの回収を同時に行う海洋浮体型構造物であり、地球温暖化問題と海洋プラスチック問題を、効率良く同時に解決することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 海洋浮体型構造物
2 海水冷却装置
3 プラスチック回収装置
3a 海表面のプラスチックに対する回収装置 (ベルトコンベアーなど)
3b 海中のプラスチックに対する回収装置 (処理膜含有装置など)
4 発電装置
4a 熱電変換材料を有する熱電変換型発電装置
4b 熱電変換材料を有する発電装置以外の発電装置 (風力発電装置など)
5 海水
図1
図2
図3