(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂、ジヒドロキシ化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 64/00 20060101AFI20240910BHJP
C08G 63/64 20060101ALI20240910BHJP
C07D 493/18 20060101ALI20240910BHJP
C07D 519/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08G64/00
C08G63/64
C07D493/18 CSP
C07D519/00
(21)【出願番号】P 2020147040
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 篤
(72)【発明者】
【氏名】藤 通昭
(72)【発明者】
【氏名】上原 久俊
(72)【発明者】
【氏名】林 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 智子
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098898(WO,A1)
【文献】特開2014-169396(JP,A)
【文献】特開2020-089981(JP,A)
【文献】特開平08-311191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00
C08G 63/64
C07D 493/18
C07D 519/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に下記式(1)で表される構造単位Aを含み、該式(1)におけるXが下記式
(3)で表される構造である、熱可塑性樹脂。
【化1】
【化2】
(
前記式(3)において、R
3、R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。Zは、2価の有機基を表し、前記
式(3)中の*は、結合部位を示す。)
【請求項2】
前記式(3)において、Zが2価の炭化水素基である、請求項
1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記式(3)において、Zが炭素数1~6の2価の炭化水素基である、請求項
1又は2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記式(3)において、R
3、R
4が、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である、請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項5】
前記式(3)が、下記式(4)又は下記式(5)である、請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【化3】
【化4】
(前記式(4)~(5)中の*は、結合部位を示す。)
【請求項6】
ガラス転移温度が100℃以上、200℃以下である、請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、前記式(1)で表される構造単位を1重量%以上、99重量%以下含有する、請求項
1乃至6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
さらに、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、複素脂環式ジヒドロキシ化合物、及び芳香族ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、請求項
1乃至7のいずか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、前記脂肪族ジヒドロキシ化合物、前記脂環式ジヒドロキシ化合物、及び前記複素脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(但し、前記構造単位Aを除く。)を1重量%以上、95重量%以下含有する、請求項
8に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び前記複素脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の少なくも一方と、前記式(1)で表される構造単位とを含む、請求項
8又は9に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項11】
さらに、脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物、複素脂環式ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸化合物に由来する構造単位を含む、請求項
1乃至10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、下記式(6)で表される構造単位を1重量%以上、95重量%以下含有する、請求項
1乃至11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【化5】
【請求項13】
熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、下記式(7)で表される構造単位を1重量%以上、95重量%以下含有する、請求項
1乃至12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【化6】
(前記式(7)中、R
21~R
24は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数5~炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6~炭素数20のアリール基を表す。)
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、下記式(8)~(10)から選ばれる少なくとも1つの構造単位を1重量%以上、70重量%以下含有する、請求項
1乃至13のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【化7】
(前記式(8)中、R
5~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6~20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2~10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6~20のシクロアルキレン基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6~20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~5の整数である。)
【化8】
【化9】
(前記式(9)及び前記式(10)中、R
9~R
11は、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキレン基であり、R
12~R
17は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4~10のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のビニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基である。ただし、R
12~R
17のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項15】
ポリカーボネート又はポリエステルカーボネートである、請求項
1乃至14のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項16】
下記式(12)で表されるジヒドロキシ化合物。
【化10】
(前記式(12)において、R
3、R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表し、Zは2価の有機基を表す。)
【請求項17】
前記式(12)において、Zが2価の炭化水素基である、請求項
16に記載のジヒドロキシ化合物。
【請求項18】
前記式(12)において、Zが炭素数1~6の2価の炭化水素基である、請求項
17に記載のジヒドロキシ化合物。
【請求項19】
前記式(12)において、R
3、R
4が、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である、請求項
16乃至18のいずれか1項に記載のジヒドロキシ化合物。
【請求項20】
前記式(12)が、下記式(13)又は下記式(14)である、請求項
16乃至19のいずれか1項に記載のジヒドロキシ化合物。
【化11】
【化12】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱可塑性樹脂、及びジヒドロキシ化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ、光学フィルム、光学記録媒体といった光学用途に使用される透明樹脂の需要が増大している。その中でも特に、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに代表される薄型の平面パネルディスプレイ(FPD)の普及が顕著であり、コントラストや色つきの改善、視野角拡大、外光反射防止等の表示品質を向上させる目的で各種の光学フィルムが開発され、利用されている。
【0003】
例えば、有機ELディスプレイにおいては、外光の反射を防止するための1/4波長板が用いられている。1/4波長板に用いられる位相差フィルムは、色つきを抑え、きれいな黒表示を可能とするため、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得ることができる、広帯域の波長分散特性が求められている。これに相当するものとして、例えば、フルオレン環を側鎖に有するビスフェノール構造を含むポリカーボネート共重合体よりなり、短波長ほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示す位相差フィルムが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、従来のポリカーボネート樹脂は主にビスフェノールAをモノマーに用いられてきたが、近年、イソソルビド(ISB)をモノマー成分としたポリカーボネート樹脂が開発されている。ISBを用いたポリカーボネート樹脂は耐熱性や光学特性等の諸特性に優れており、位相差フィルム等の光学用途やガラス代替用途等への利用が検討されている(例えば、特許文献3、4参照)。また、ISBはバイオマス資源から得られるジヒドロキシ化合物であり、焼却処分しても二酸化炭素の排出量増加に寄与しないカーボンニュートラルな材料であることにも興味が持たれている。
【0005】
また、イノシトールはバイオマス資源から得られる環状多価アルコールであり、ヒドロキシ基と反応する化合物で連結させることにより、ポリマーを形成することが期待される。非特許文献1~4には、イノシトールの誘導体からポリウレタンを合成し、耐熱性の向上が見られたことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3325560号公報
【文献】特許第5119250号公報
【文献】特許第5346449号公報
【文献】特開2012-214666号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】”ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science)”、パート・エー(PartA) 51.3956、2013年
【文献】須藤篤、柴田佳哉、宮本彩野、立岡優佳、「myo-イノシトールを原料とした主鎖に縮環系をもつ高分子の合成」、高分子学会予稿集、日本、高分子学会、2013年、62巻、1号、P.396
【文献】沖世修平、須藤篤「myo-イノシトールを原料としたネットワークポリウレタンの合成」、高分子学会予稿集、日本、高分子学会、2013年、62巻、1号、p.397
【文献】佐野太一、原田誠人、須藤篤「myo-イノシトールの位置選択的なウレタン化によるテトラオールへの誘導とこれをモノマーとするネットワークポリウレタンの合成」、高分子学会予稿集、日本、高分子学会、2013年、62巻、1号、p.398
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、位相差フィルムをはじめとした光学フィルムの用途では、偏光板やディスプレイ組み立て工程中の加熱を伴うプロセスや、高温高湿度の使用環境下等において、フィルムの光学物性や寸法が変化しないように、材料への耐熱性向上の要求がある。またそれに加えて、さらなる光学特性や品質の向上や、コストダウン、製膜や延伸、積層等の各工程における生産性の向上といった要求もあり、これらの要求を満たすために、種々の優れた特性を兼ね備えた材料が望まれている。具体的には、ガラス転移温度を向上させることで耐熱性を向上させることと、位相差の波長分散性、光弾性係数等の光学物性、フィルムの靱性等の機械物性、溶融加工性等の物性バランスを高いレベルで優れたものにした材料の開発が求められている。このような諸物性に優れた新規な材料の開発が求められている。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、新規な熱可塑性樹脂、及び該熱可塑性樹脂の製造に用いられる新規なジヒドロキシ化合物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を含有する熱可塑性樹脂が、耐熱性、機械物性、光学特性、低吸水性、耐湿熱性等の物性に優れることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1]分子内に下記式(1)で表される構造単位Aを含み、該式(1)におけるXが下記式(2)又は下記式(3)で表される構造である、熱可塑性樹脂。
【化1】
【化2】
【化3】
【0012】
前記式(2)において、R1は水素原子又は有機基を表し、R2は直接結合又は2価の有機基を表し、前記式(3)において、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。Zは、2価の有機基を表し、前記式(2)及び前記(3)中の*は、結合部位を示す。
【0013】
[2]前記式(1)中のXが前記式(3)で表される構造である、[1]に記載の熱可塑性樹脂。
[3]前記式(3)において、Zが2価の炭化水素基である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂。
[4]前記式(3)において、Zが炭素数1~6の2価の炭化水素基である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0014】
[5]前記式(3)において、R
3、R
4が、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
[6]前記式(3)が、下記式(4)又は下記式(5)である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
【化5】
【0015】
前記式(4)~(5)中の*は、結合部位を示す。
【0016】
[7]ガラス転移温度が100℃以上、200℃以下である、[1]乃至[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
[8]前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、前記式(1)で表される構造単位を1重量%以上、99重量%以下含有する、[1]乃至[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
[9]さらに、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、複素脂環式ジヒドロキシ化合物、及び芳香族ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[1]乃至[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0017】
[10]前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、前記脂肪族ジヒドロキシ化合物、前記脂環式ジヒドロキシ化合物、及び前記複素脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(但し、前記構造単位Aを除く。)を1重量%以上、95重量%以下含有する、[9]に記載の熱可塑性樹脂。
[11]前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び前記複素脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の少なくも一方と、前記式(1)で表される構造単位とを含む、[9]又は[10]に記載の熱可塑性樹脂。
【0018】
[12]さらに、脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物、複素脂環式ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸化合物に由来する構造単位を含む、[1]乃至[11]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
[13]前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、下記式(6)で表される構造単位を1重量%以上、95重量%以下含有する、[1]乃至[12]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化6】
【0019】
[14]熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、下記式(7)で表される構造単位を1重量%以上、95重量%以下含有する、[1]乃至[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化7】
前記式(7)中、R
21~R
24は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数5~炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6~炭素数20のアリール基を表す。
【0020】
[15]前記熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、下記式(8)~(10)から選ばれる少なくとも1つの構造単位を1重量%以上、70重量%以下含有する、[1]乃至[14]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化8】
【0021】
前記式(8)中、R5~R8はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6~20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2~10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6~20のシクロアルキレン基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6~20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~5の整数である。
【0022】
【0023】
【化10】
前記式(9)及び前記式(10)中、R
9~R
11は、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキレン基であり、R
12~R
17は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4~10のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のビニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基である。ただし、R
12~R
17のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0024】
[16]ポリカーボネート又はポリエステルカーボネートである、[1]乃至[15]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0025】
[17]下記式(11)で表されるジヒドロキシ化合物。
【化11】
前記式(11)において、R
1は水素原子又は有機基を表し、R
2は直接結合又は2価の有機基を表す。
【0026】
[18]下記式(12)で表されるジヒドロキシ化合物。
【化12】
前記式(12)において、R
3、R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表し、Zは2価の有機基を表す。
【0027】
[19]前記式(12)において、Zが2価の炭化水素基である、[18]に記載のジヒドロキシ化合物。
[20]前記式(12)において、Zが炭素数1~6の2価の炭化水素基である、[19]に記載のジヒドロキシ化合物。
[21]前記式(12)において、R3、R4が、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基である、[18]乃至[20]のいずれか1項に記載のジヒドロキシ化合物。
【0028】
[22]前記式(12)が、下記式(13)又は下記式(14)である、[18]乃至[21]のいずれかに記載のジヒドロキシ化合物。
【化13】
【化14】
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、新規な熱可塑性樹脂、及び該熱可塑性樹脂の製造に用いられる新規なジヒドロキシ化合物を提供することができる。また、熱可塑性樹脂は、耐熱性、機械物性、低吸水性、耐湿熱性、光学特性等の物性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、実施例1の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図2】
図2は、実施例2の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、実施例6の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、実施例10の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図5】
図5は、実施例11の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図6】
図6は、実施例12の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図7】
図7は、実施例13の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図8】
図8は、実施例14の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図9】
図9は、実施例15の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【
図10】
図10は、実施例16の熱可塑性樹脂のNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0032】
尚、本明細書において、「構造単位」とは、重合体において隣り合う連結基に挟まれた部分構造、及び、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合反応性基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造をいう。又、「繰り返し構造単位」とは構造単位と隣り合う1つの連結基とからなる部分構造をいう。なお、例えば後述のカーボネート系樹脂では、連結基は、カルボニル基である。
【0033】
また、本明細書において、各種の置換基の炭素数は、当該置換基が更に置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた合計の炭素数をさす。本明細書において、特に断らない限り「重量%」と「質量%」は同義である。
【0034】
[カーボネート系樹脂]
(構造単位A)
熱可塑性樹脂は、下記式(1)で表される構造単位(適宜、構造単位Aと称する。)を少なくとも含む。熱可塑性樹脂は、式(1’)で表される繰り返し構造単位を有することが好ましい。この場合には、熱可塑性樹脂は、カーボネート結合を有する樹脂となる。本明細書では、カーボネート結合を有する熱可塑性樹脂のことを、適宜「カーボネート系樹脂」という。カーボネート系樹脂としては、カーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂、カーボネート結合とエステル結合とを有するポリエステルカーボネート樹脂等が挙げられる。本明細書における熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、例えばカーボネート系樹脂である。
【0035】
【0036】
【0037】
前記式(1)中のXは、下記式(2)又は下記式(3)で表される構造を示す。
【0038】
【0039】
【0040】
前記式(2)において、R1は水素原子、又は有機基を表す。R2は直接結合、又は2価の有機基を表す。前記式(3)において、R3,R4はそれぞれ独立に、水素原子、又は有機基を表す。Zは、2価の有機基を表す。R1~R4及びZの有機基は置換基を有していてもよい。前記式(2)~(3)中の*は、結合部位を示す。結合部位は、式(1)において、Xと結合した2つの酸素原子にそれぞれ結合する部位である。
【0041】
式(2)、式(3)は前記式(1)の部分構造を表す部分構造式であるといえる。また、本明細書中において、前記式(2)、式(3)で表される構造単位をそれぞれ構造単位B、構造単位Cと称することがある。構造単位B、構造単位Cは、構造単位Aの部分構造であるといえる。また、式(2)、式(3)における結合部位にそれぞれ-O-が結合した構造を構造単位としてとらえることもできる。
【0042】
前記式(2)において、R1は水素原子、又は有機基を表す。本明細書において、有機基とは、炭素原子を少なくとも一つ有する官能基である。R1の有機基は、置換基を有していてもよい。
【0043】
有機基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~30であることが好ましい。炭素数1~20であることがより好ましく、炭素1~16であることがさらに好ましい。有機基の炭素数が前記範囲内であることにより、ガラス転移温度が高くなり、耐熱性の点で優れる。
【0044】
R1の有機基としては、特に限定されないが、具体的には、炭素数1~16の炭化水素基、炭素数1~10のアシル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数3~14のアリールオキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、シリル基、スルフィニル基、スルホ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チエニル基、ピリジル基、フリル基等が挙げられる。
【0045】
炭素数1~16の炭化水素基としては、具体的には、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~14のアリール基、炭素数4~16のアラルキル基が挙げられる。
【0046】
炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等の鎖状アルケニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基が挙げられる。炭素数2~10のアルキニル基としては、エチニル基、メチルエチニル基、1-プロピオニル基、アセチレン基、プロピニル基が挙げられる。炭素数3~14のアリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基が挙げられる。炭素数4~16のアラルキル基としては、フェニルメチル基、フェニルエチル基が挙げられる。
【0047】
炭素数1~10のアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基が挙げられる。炭素数1~10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。炭素数3~14のアリールオキシ基としては、フェノキシ基が挙げられる。炭素数1~10のアシルオキシ基としては、メトキシアセチル基、フェノキシアセチル基が挙げられる。シリル基としては、トリメチルシリル基が挙げられる。有機スルホ基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等のアルキルスルホ基が挙げられる。スルフィニル基としては、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基が挙げられる。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基が挙げられる。アリールチオ基としては、フェニルチオ基が挙げられる。有機アミノ基としては、ジメチルアミノ基が挙げられる
【0048】
これらの内、ポリマー自体の安定性の観点から、R1は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~16の炭化水素基が好ましく、同様の観点から、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~14のアリール基、又は炭素数4~16のアラルキル基がより好ましい。ポリマーの光学特性や耐候性、耐熱性と機械物性のバランスの観点からは、水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基がさらに好ましく、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基が特に好ましく、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基が最も好ましい。具体的には、水素原子、メチル基が挙げられる。
【0049】
また、これらの有機基は、置換基を有することができる。熱可塑性樹脂の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、特に制限はないが、当該置換基としては前記有機基に加えて、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert-ブトキシ基等)、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R1の有機基はこれらの置換基を1つ有していても、2以上有していてもよい。2以上有する場合、同じ置換基を含んでいてもよく、異なる置換基を含んでいてもよい。尚、本明細書において、各種の置換基(具体的には、R1~R4、及びZ)の炭素数は、当該置換基が更に置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた合計の炭素数をさす。
【0050】
前記式(2)において、R2は直接結合、又は2価の有機基を表す。R2の2価の有機基は、置換基を有していてもよい。
【0051】
R2の2価の有機基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~30であることが好ましい。炭素数1~20であることがより好ましく、炭素1~16であることがさらに好ましい。2価の有機基の炭素数が前記範囲内であることにより、ガラス転移温度が高くなり、耐熱性の点で優れる。
【0052】
R2の2価の有機基としては、特に限定されないが、炭素数1~16の2価の炭化水素基であることが好ましい。この場合には、ガラス転移温度が高くなり、熱可塑性樹脂の耐熱性が向上する。炭素数1~16の2価の炭化水素基としては、具体的には、炭素数1~12のアルキレン基、炭素数2~10のアルケニレン基、炭素数2~10のアルキニレン基、炭素数3~14のアリーレン基、炭素数4~16のアラルキレン基が挙げられる。
【0053】
ガラス転移温度が高くなり、耐熱性が向上するという観点からは、R2は直接結合、又は炭素数1~12のアルキレン基であることが特に好ましい。
【0054】
R2の2価の有機基は、置換基を有することができる。置換基については、上述のR1の有機基の場合と同様である。
【0055】
構造単位Bの具体例は、例えば下記[I群]に示される。
【0056】
【0057】
好ましい構造単位Bは、下記[II]群に示される。構造単位Bが[II]群から選ばれる少なくとも1種である場合には、耐熱性と機械物性、低吸水性、耐湿熱性のバランスに優れる。
【化20】
【0058】
より好ましい構造単位Bは、下記[III]群に示される。構造単位Bが[III]群から選ばれる少なくとも1種である場合には、耐熱性と機械物性、低吸水性、耐湿熱性をより高いレベルでバランスよく兼ね備えた樹脂が得られる。
【化21】
【0059】
次に、前記式(3)において、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は有機基を表す。R3,R4の有機基は、置換基を有していてもよい。R3、R4の有機基の詳細は、式(2)におけるR1の場合と同様である。
【0060】
ポリマー自体の安定性の観点から、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~16の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基がより好ましい。同様の観点から、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~14のアリール基、又は炭素数4~16のアラルキル基がさらに好ましい。ポリマーの光学特性、耐候性、耐熱性と機械物性とのバランスの観点からは、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基がさらにより好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基がさらにより一層好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基が特に好ましい。具体的には、水素原子、メチル基が挙げられる。
【0061】
前記式(3)において、Zは2価の有機基を表す。Zの2価の有機基は、置換基を有していてもよい。Zは、2価の炭化水素基であることが好ましい。この場合には、比較的合成が容易であり、かつ耐熱性に優れた樹脂が得られる。
【0062】
Zの2価の有機基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~30であることが好ましい。炭素数1~20であることがより好ましく、炭素1~16であることがさらに好ましく、炭素数1~6であることがさらにより好ましい。2価の有機基の炭素数が前記範囲内であることにより、ガラス転移温度が高くなり、耐熱性の点で優れる。
【0063】
Zの2価の有機基としては、特に限定されないが、炭素数1~16の2価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~6の2価の炭化水素基であることがより好ましい。この場合には、ガラス転移温度が高くなり、耐熱性点で優れる。炭素数1~16の2価の炭化水素基としては、具体的には、炭素数1~12のアルキレン基、炭素数2~10のアルケニレン基、炭素数2~10のアルキニレン基、炭素数3~14のアリーレン基、炭素数4~16のアラルキレン基が挙げられる。
【0064】
ポリマー自体の安定性の観点から、Zは炭素数1~12のアルキレン基、炭素数1~14のアリーレン基、又は炭素数4~16のアラルキレン基であることが好ましい。ポリマーの光学特性、耐候性、耐熱性と機械物性とのバランスの観点からは、炭素数1~12のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1~6のアルキレン基がさらに好ましく、メチレン基、エチレン基、又はn-プロピレン基等の炭素数1~3のアルキレン基が特に好ましい。
【0065】
構造単位Cの具体例は、例えば、下記[IV群]に示される。
【0066】
【0067】
好ましい構造単位Cは、下記[V]に示される。構造単位Cが[V]群から選ばれる少なくとも1種である場合には、耐熱性と機械物性、低吸水性、耐湿熱性をより高いレベルでバランスよく兼ね備えた樹脂が得られる。
【化23】
【0068】
カーボネート系樹脂は、構造単位Bのみを有していてもよく、構造単位Cのみを有していてもよく、構造単位Bと構造単位Cの両方を有していてもよい。また、カーボネート系樹脂が有する構造単位B及び構造単位C中において、各構造中のR1~R4はそれぞれ同一であってもよく、異なるものであってもよい。構造単位B及び構造単位Cは、その剛直な分子構造をポリマー鎖に導入することで、主にカーボネート系樹脂の優れた耐熱性を担う構造単位である。
【0069】
カーボネート系樹脂は、前記式(3)で表される構造単位Cを含むことが、樹脂の耐熱性や光学特性の観点から好ましい。すなわち、カーボネート系樹脂が、式(1)で表される構造単位Aを含み、式(1)中のXが前記式(3)で表される構造であることが好ましい。とりわけ前記式(3)において、R3及びR4が置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基であり、かつZが置換基を有していてもよい炭素数1~12の2価のアルキレン基であることが特に好ましい。
【0070】
カーボネート系樹脂は、下記式(4)で表される構造単位、又は、下記式(5)で表される構造単位を有していることが特に好ましい。つまり、式(3)が式(4)又は式(5)であることが好ましい。この場合には、得られる樹脂が光学特性や耐熱性、溶融加工性にバランスよく優れる。
【化24】
【化25】
前記式(4)~(5)中の*は、結合部位を示す。
【0071】
カーボネート系樹脂において、上述した構造単位Aの重量比率に特段の限定はないが、樹脂の耐熱性に極めて優れるという観点からは、樹脂を構成する全ての構造単位が構造単位Aであるホモポリカーボネート樹脂であることが好ましい。この場合には、後述の通り、ガラス転移温度が高く、極めて優れた耐熱性を有する樹脂が得られることがFlory-Foxの式から予測される。
【0072】
樹脂の耐熱性と機械物性のバランスに優れるという観点では、樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、前記式(1)で表される構造単位Aの含有量は1重量%以上、99重量%以下が好ましい。この割合は、10重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、30重量%以上が特に好ましい。この割合は、85重量%以下がより好ましく、80重量%以下がさらに好ましく、75重量%以下が特に好ましい。構造単位Aの含有量が前記範囲内にある場合、樹脂の耐熱性と機械物性とのバランスに優れる。
【0073】
一方、カーボネート系樹脂中の構造単位B、構造単位Cの含有量に着目すると、樹脂の耐熱性と機械物性のバランスに優れるという観点では、樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、構造単位Bと構造単位Cの合計含有量は1重量%以上、95重量%以下が好ましい。この割合は、10重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、30重量%以上が特に好ましい。この割合は、85重量%以下がより好ましく、80重量%以下がさらに好ましく、75重量%以下が特に好ましい。構造単位Bと構造単位Cの合計含有量が前記範囲内にある場合、樹脂の耐熱性と機械物性とのバランスに優れる。
【0074】
カーボネート系樹脂において、特に、構造単位B、構造単位C中のシクロヘキサン環は、好ましくは、イノシトールから誘導されるイノシトール残基である。そのイノシトールの具体例として、all-cis-イノシトール、epi-イノシトール、allo-イノシトール、muco-イノシトール、myo-イノシトール、neo-イノシトール、chiro-D-イノシトール、chiro-L-イノシトール、scyllo-イノシトールが挙げられるが、原料の入手が容易な観点から、myo-イノシトールから誘導されるイノシトール残基であること、即ち、カーボネート系樹脂における構造単位B、構造単位Cは、後述のポリカーボネート樹脂の製造方法において、myo-イノシトール、及び/又はその誘導体を原料ジヒドロキシ化合物として用いて導入されることが好ましい。
【0075】
(構造単位A以外の構造単位)
カーボネート系樹脂は、上述の通り、構造単位Aのみからなるホモポリカーボネート樹脂でもよいし、前記構造単位A以外の構造単位を有する共重合体であってもよい。カーボネート系樹脂は、構造単位Aに加えて、さらに脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、複素脂環式ジヒドロキシ化合物、及び芳香族ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む共重合体であることが好ましい。これらのジヒドロキシ化合物は柔軟な分子構造を有しているため、これらに由来する構造単位を含むことで樹脂の機械特性(特に、靭性)が向上し、耐熱性と機械物性にバランスよく優れた樹脂を得ることができる。また、カーボネート系樹脂は、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び複素脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の少なくも一方と、前記式(1)で表される構造単位とを含むことがより好ましい。
【0076】
本明細書において、脂環式ジヒドロキシ化合物とは、芳香族性を有しない炭素環式ジヒドロキシ化合物と定義する。また、本明細書における複素脂環式ジヒドロキシ化合物は、環を構成する原子としてヘテロ原子を1つ以上含む環式ジヒドロキシ化合物(但し、後述の式(11)、式(12)で表されるジヒドロキシ化合物を除く。)と定義する。本明細書における複素脂環式ジヒドロキシ化合物は、上述の脂環式ジヒドロキシ化合物を含まない概念である。
【0077】
脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、複素脂環式ジヒドロキシ化合物、及び芳香族ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の好ましい具体例としては、後述の構造単位D1~D4、構造単位D6~7等が挙げられる。
【0078】
カーボネート系樹脂は、構造単位Aに加えて、さらに脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物、複素脂環式ジカルボン酸化合物、及び芳香族ジカルボン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸化合物に由来する構造単位を含む共重合体であることが好ましい。この場合には、耐熱性と機械物性にバランスよくすぐれた樹脂が得られる。尚、カーボネート系樹脂が構造単位Aと、上述のジカルボン酸化合物に由来する構造単位とからなる場合、ポリエステルカーボネートとなる。
【0079】
本明細書において、脂環式ジカルボン酸化合物とは、芳香族性を有しない炭素環式ジカルボン酸化合物と定義する。また、本明細書における複素脂環式ジカルボン酸化合物は、環を構成する原子としてヘテロ原子を1つ以上含む環式ジカルボン酸化合物と定義する。本明細書における複素脂環式ジカルボン酸化合物は、上述の脂環式ジカルボン酸化合物を含まない概念である。
【0080】
脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物及び複素脂環式ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物からなる群より選ばれる1種以上のジカルボン酸化合物に由来する構造単位の好ましい具体例としては、後述の構造単位D5等が挙げられる。
【0081】
熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、及び複素脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(但し、前記構造単位Aを除く。)を1重量%以上、95重量%以下含有することが好ましい。この場合には、高い耐熱性とその他の物性のバランスに優れた樹脂が得られる。脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、及び複素脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は、15重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましい。また、90重量%以下であることがより好ましく、80重量%以下であることがさらに好ましい。
【0082】
(構造単位D1)
カーボネート系樹脂は下記式(6)で表される構造単位D1を含有していることが好ましい。
【0083】
【0084】
前記構造単位D1の重量比率は、熱可塑性樹脂(具体的にはカーボネート系樹脂)を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、1重量%以上、95重量%以下が好ましい。この割合は、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上が特に好ましい。また、80重量%以下がより好ましく、70重量%以下が特に好ましい。
【0085】
前記構造単位D1の含有量が前記範囲より多い場合、耐熱性が過度に高くなり、機械特性や溶融加工性が悪化する。また、前記式(6)で表される構造単位は吸湿性の高い構造であるため、含有量が過度に多い場合には樹脂の吸水率が高くなり、高湿度の環境下において成形品の光学物性が変化したり、変形やひび割れ等が起こる懸念がある。一方、前記構造単位D1の含有量が前記範囲より少ない場合、耐熱性が不十分となったり、ポリカーボネート樹脂の特長である高透過率や低光弾性係数等の光学特性が得られなくなる。
【0086】
前記構造単位D1を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデット(以下、これらを「ジヒドロキシ化合物D1」と称することがある。)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、入手及び重合反応性の観点からISBを用いるのが特に好ましい。
【0087】
ジヒドロキシ化合物D1は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤又は熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。特に酸性下でジヒドロキシ化合物D1は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
【0088】
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩及び脂肪酸塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3-アミノ-1-プロパノール、エチレンジアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール及びアミノキノリン等;アミン系化合物、並びにジ-(tert-ブチル)アミン及び2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
【0089】
ジヒドロキシ化合物D1中のこれら塩基性安定剤の含有量に特に制限はないが、ジヒドロキシ化合物D1は酸性状態では不安定であるので、前記の安定剤を含むジヒドロキシ化合物D1の水溶液のpHが7付近となるように安定剤を添加することが好ましい。
【0090】
安定剤の量が少なすぎるとジヒドロキシ化合物D1の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎるとジヒドロキシ化合物D1の変性を招く場合があるので、ジヒドロキシ化合物D1に対して、0.0001重量%~0.1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001重量%~0.05重量%である。
【0091】
また、ジヒドロキシ化合物D1は吸湿しやすく、また、酸素によって徐々に劣化するため、保管又は製造時の取り扱いの際には水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
【0092】
(構造単位D2)
カーボネート系樹脂は下記式(7)で表される構造単位D2を含有していることが好ましい。
【0093】
【0094】
前記構造単位D2の重量比率は、カーボネート系樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、1重量%以上、95重量%以下が好ましい。この割合は、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上が特に好ましい。また、80重量%以下がより好ましく、70重量%以下が特に好ましい。
【0095】
前記構造単位D2の含有量が前記範囲より多い場合、耐熱性が過度に高くなり、機械特性や溶融加工性が悪化する。また、前記式(7)で表される構造単位は吸湿性の高い構造であるため、含有量が過度に多い場合には樹脂の吸水率が高くなり、高湿度の環境下において成形品の光学物性が変化したり、変形やひび割れ等が起こる懸念がある。一方、前記構造単位D2の含有量が前記範囲より少ない場合、耐熱性が不十分となったり、ポリカーボネート樹脂の特長である高透過率や低光弾性係数等の光学特性が得られなくなる。
【0096】
前記構造単位D2を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9-ビス(1,1-ジエチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9-ビス(1,1-ジプロピル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ジオキサングリコールなどが挙げられる。これらのうち、スピログリコールであることが、入手が容易で、樹脂のガラス転移温度が高くなるという観点から特に好ましい。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0097】
(フルオレン系構造単位)
カーボネート系樹脂は、下記式(8)~(10)で表される構造単位から選ばれる構造単位を含有してもよい。下記式(8)~(10)で表される構造単位をそれぞれ、構造単位D3、構造単位D4、構造単位D5と称する場合がある。また、下記式(8)~(10)で表される構造単位を総称して「フルオレン系構造単位」と呼ぶ場合があり、フルオレン系構造単位を含有する二官能性モノマーを「フルオレン系モノマー」と称することがある。下記式(9)及び(10)で表される構造単位を「オリゴフルオレン構造単位」と称することがある。
【0098】
【0099】
前記式(8)中、R5~R8はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6~20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2~10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6~20のシクロアルキレン基、又は、置換若しくは無置換の炭素数6~20のアリーレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立に0~5の整数である。
【0100】
【0101】
(式(9)及び(10)中、R9~R11は、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキレン基であり、R12~R17は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4~10のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のビニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基である。ただし、R12~R17のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0102】
前記フルオレン系構造単位を導入することで、位相差の波長分散性(波長依存性)を調整することが可能となる。多くのポリマーは位相差が短波長ほど大きくなる正の波長分散性を有しているが、前記フルオレン系構造単位は位相差が短波長ほど小さくなる逆波長分散性を有しているため、フルオレン系構造単位の含有量に応じてフラットな波長分散性から逆波長分散性へと調整することができる。
【0103】
前記式(8)~(10)で表されるフルオレン系構造単位による逆波長分散の発現性は構造により異なるが、位相差フィルムとして最適な波長分散特性を得るためには、前記フルオレン系構造単位の含有量は、熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、1重量%以上、70重量%以下含有することが好ましく、5重量%以上、60重量%以下とすることがより好ましく、10重量%以上、50重量%以下とすることが特に好ましい。
【0104】
樹脂中の前記フルオレン系構造単位の含有量が少な過ぎると、これらの構造単位を含有することによる前記効果を十分に得ることができないが、フルオレン系構造単位は負の複屈折を有しているため、樹脂中の含有量が前記範囲よりも多い場合、複屈折が小さくなりすぎて、所望の位相差が得られなくなるおそれがある。また、他の共重合成分の比率が少なくなるため、耐熱性や機械物性等の他の特性のバランスを調整することが難しくなるおそれがある。
【0105】
前記式(8)で表される構造単位D3を導入するために用いられるジヒドロキシ化合物として、具体的には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0106】
前記のジヒドロキシ化合物の中でも、耐熱性や光学物性、機械物性などの種々の特性が優れることと、入手のしやすさの観点から、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが特に好ましい。
【0107】
前記式(9)及び式(10)中のR9及びR10において、「置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキレン基」としては、例えば以下のアルキレン基を採用することができる。
メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基等の直鎖状のアルキレン基;メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、(1-メチルエチル)メチレン基、1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基、1-エチルエチレン基、2-エチルエチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基等の、分岐鎖を有するアルキレン基。ここで、R9及びR10における分岐鎖の位置は、フルオレン環側の炭素が1位となるように付与した番号により示した。
【0108】
R9及びR10の選択は、逆波長分散性の発現に特に重要な影響を及ぼす。フルオレン系モノマー構造中のフルオレン環が主鎖方向(延伸方向)に対して垂直に配向した状態において、最も強い逆波長分散性を示す。フルオレン環の配向状態を前記の状態に近づけ、強い逆波長分散性を発現させるためには、アルキレン基の主鎖上の炭素数が2~3であるR9及びR10を採用することが好ましい。炭素数が1の場合は意外にも逆波長分散性を示さない場合がある。この要因としては、オリゴフルオレン構造単位の連結基であるカーボネート基やエステル基の立体障害によって、フルオレン環の配向が主鎖方向に対して垂直ではない方向に固定化されてしまうこと等が考えられる。一方、炭素数が多すぎる場合は、フルオレン環の配向の固定が弱くなることで、逆波長分散性が弱くなるおそれがある。また、樹脂の耐熱性も低下する傾向にある。
【0109】
前記式(7)及び(8)に示すように、R9及びR10は、アルキレン基の一端がフルオレン環に結合し、他端が連結基に含まれる酸素原子、又はカルボニル炭素のいずれかに結合している。熱安定性、耐熱性及び逆波長分散性の観点からは、アルキレン基の他端がカルボニル炭素に結合していることが好ましい。後述するとおり、オリゴフルオレン構造を有するモノマーとして、具体的にはジオール若しくはジエステル(以下、ジエステルにはジカルボン酸も含むものとする)の構造が考えられるが、ジエステルを原料に用いて重合することが好ましい。また、製造を容易にする観点からは、R9及びR10に同一のアルキレン基を採用することが好ましい。
【0110】
R11において、「置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキレン基」としては、例えば以下のアルキレン基を採用することができる。
メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基等の直鎖状のアルキレン基;メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、(1-メチルエチル)メチレン基、1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基、1-エチルエチレン基、2-エチルエチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基等の分岐鎖を有するアルキレン基。
【0111】
R11は、アルキレン基の主鎖上の炭素数が1~2であることが好ましく、特に炭素数が1であることが好ましい。主鎖上の炭素数が多すぎるR11を採用する場合は、R9及びR10と同様にフルオレン環の固定化が弱まり、逆波長分散性の低下、光弾性係数の増加、耐熱性の低下等を招くおそれがある。一方、主鎖上の炭素数は少ない方が光学特性や耐熱性は良好であるが、二つのフルオレン環の9位が直接結合でつながる場合は熱安定性が悪化する。
【0112】
前記オリゴフルオレン構造単位に含まれるフルオレン環は、R12~R17の全てが水素原子である構成、或いは、R12及び/又はR17がハロゲン原子、アシル基、ニトロ基、シアノ基、及びスルホ基からなる群から選ばれるいずれかであり、かつ、R13~R16が水素原子である構成のいずれかであることが好ましい。前者の構成を有する場合には、前記オリゴフルオレン構造単位を含む化合物を、工業的にも安価なフルオレンから誘導できる。また、後者の構成を有する場合には、フルオレン環の9位の反応性が向上するため、前記オリゴフルオレン構造単位を含む化合物の合成過程において、様々な誘導反応が適応可能となる傾向がある。前記フルオレン環は、より好ましくは、R12~R17の全てが水素原子である構成、或いは、R12及び/又はR17がフッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びニトロ基からなる群から選ばれるいずれかであり、かつ、R13~R16が水素原子である構成のいずれかであることがより好ましく、R12~R17の全てが水素原子である構成が特に好ましい。前記の構成を採用することにより、フルオレン比率を高めることができ、かつ、フルオレン環同士の立体障害が生じにくく、フルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向もある。
【0113】
前記式(7)及び(8)で表される2価のオリゴフルオレン構造単位のうち、好ましい構造としては具体的に下記[A]群に例示される式(A1)~(A6)で表される骨格を有する構造が挙げられる。
【0114】
【0115】
前記オリゴフルオレン構造単位を有するモノマーとしては、例えば、下記式(7A)で表される特定のジヒドロキシ化合物や下記式(8A)で表される特定のジエステルが挙げられる。
【0116】
【0117】
前記式(7A)及び(8A)中において、R9~R17はそれぞれ前記式(7)及び(8)におけると同義である。A1およびA2は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。
【0118】
前記2価のオリゴフルオレン構造単位を有するモノマーとしては、前記式(8A)で表される特定のジエステルを用いることが好ましい。前記特定のジエステルは、前記式(7A)で表される特定のジヒドロキシ化合物よりも熱安定性が比較的良好であり、また、ポリマー中のフルオレン環が好ましい方向に配向し、より強い逆波長分散性を示す傾向がある。尚、ポリカーボネート樹脂中にジエステルの構造単位を含有する場合、この樹脂をポリエステルカーボネート樹脂と称する。
【0119】
前記式(8A)のA1とA2が水素原子、又は、メチル基やエチル基等の脂肪族炭化水素基である場合、通常用いられるポリカーボネートの重合条件においては、重合反応が起こりにくいことがある。そのため、前記式(8A)のA1とA2は芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0120】
・構造単位D6/構造単位D7
樹脂に靭性を付与し、機械特性を改良できるという観点から、カーボネート系樹脂は、さらに、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位D6及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位D7を有することができる。なお、構造単位D6及びD7は、構造単位A及び構造単位D1~D5だけでなく、後述の構造単位D8も含まない概念である。脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物、分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられ、脂環式ジヒドロキシ化合物は含まない。
【0121】
直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリデカメチレングリコール等が挙げられる。
【0122】
分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0123】
カーボネート系樹脂に柔軟性を付与し、樹脂の靭性を向上させる観点から、構造単位D6を構成するジヒドロキシ化合物としては、1級水酸基を有する直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物が特に好ましい。1級水酸基を有する直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0124】
靱性等の機械物性をより向上させるという観点から、カーボネート系樹脂中の構造単位D6の含有量は、熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
耐熱性と機械強度の両立の観点から、カーボネート系樹脂中の構造単位D6の含有量は、熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましく、4質量%以上であることがさらにより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0125】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、及びリモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0126】
カーボネート系樹脂に柔軟性を付与し、樹脂の靭性を向上させる観点から、構造単位D7を構成するジヒドロキシ化合物としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等が好ましい。
【0127】
耐熱性と機械強度の両立の観点から、カーボネート系樹脂中の構造単位D7の含有量は、熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることがさらにより好ましく、40質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらにより好ましく、70質量%以下であることがさらにより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0128】
(構造単位D8)
ポリカーボネート樹脂においては、前述した構造単位D1~D7以外の構造単位を含んでいてもよい(以下、「構造単位D8」と称することがある。)。構造単位D8を含有するモノマーとしては、例えば、アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物、ジエステル化合物等が挙げられる。
【0129】
アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記構造式(15)で表されるジオキサングリコール等を用いることができる。
【0130】
【0131】
オキシアルキレングリコール類としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を用いることができる。
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール。
【0132】
芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を用いることができる。
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物。
【0133】
ジエステル化合物としては、例えば、以下に示すジカルボン酸等を用いることができる。
テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、デカリン-2,6-ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸。尚、これらのジカルボン酸成分はジカルボン酸そのものとしてポリエステルカーボネートの原料とすることができるが、製造法に応じて、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。
【0134】
光学特性の観点からは、前記に挙げたその他の構造単位として、芳香族成分を含有しないものを用いることが好ましいが、光学特性を確保しつつ、耐熱性や機械特性等とのバランスをとるために、ポリマーの主鎖や側鎖に芳香族成分を組み込むことが有効な場合もある。この場合には、例えば、芳香族構造を含有する前記その他の構造単位により、ポリマーに芳香族成分を導入することができるが、ポリカーボネート樹脂中のこれらの構造単位、即ち、前記式(6)~(8)で表される構造単位以外の芳香族構造単位の含有量は、熱可塑性樹脂を構成する全ての構造単位及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、5重量%以下が好ましい。芳香族構造を含有するその他の構造単位の量が多くなると光弾性係数が悪化する懸念がある。
【0135】
ジエステル化合物の重合反応性は比較的低いため、反応効率を高める観点からは、オリゴフルオレン構造単位を有するジエステル化合物以外のジエステル化合物は用いないことがより好ましい。
【0136】
構造単位D8を導入するためのジヒドロキシ化合物やジエステル化合物は、得られる樹脂の要求性能に応じて、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂中のその他の構造単位の含有量は、ポリカーボネート樹脂を構成する全ての構造単位、及び連結基の重量の合計量を100重量%とした際に、1重量%以上、95重量%以下が好ましく、10重量%以上がさらに好ましく、20重量%以上が特に好ましい。また、80重量%以下がさらに好ましく、70重量%以下が特に好ましい。その他の構造単位は主に樹脂の耐熱性の調整や、柔軟性や靱性の付与の役割を担うため、含有量が少なすぎると、樹脂の機械特性や溶融加工性が悪くなり、含有量が多すぎると、耐熱性や光学特性が悪化するおそれがある。
【0137】
(炭酸ジエステル)
ポリカーボネート樹脂に含有される前記の構造単位の連結基は、下記式(16)で表される炭酸ジエステルを重合することで導入される。
【0138】
【0139】
(式(11)中、A3およびA4は、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数1~18の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、A3とA4とは同一であっても異なっていてもよい。)
【0140】
A3およびA4は、置換又は無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基がより好ましい。尚、脂肪族炭化水素基の置換基としては、エステル基、エーテル基、アミド基、ハロゲン原子が挙げられ、芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0141】
前記式(16)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ-tert-ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0142】
炭酸ジエステルは、塩化物イオン等の不純物を含む場合があり、これらの不純物が重合反応を阻害したり、得られる樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留等により精製したものを使用することが好ましい。
【0143】
また、前記式(8A)で表されるジエステルモノマーと前記式(16)で表される炭酸ジエステルを両方用いて重合反応を行う場合には、前記式(8A)のA1、A2及び前記式(16)のA3、A4がすべて同じ構造であると、重合反応中に脱離する成分が同じであり、その成分を回収して再利用しやすい。また、重合反応性と再利用での有用性の観点から、A1~A4はフェニル基であることが特に好ましい。尚、A1~A4がフェニル基である場合、重合反応中に脱離する成分はフェノールである。
【0144】
樹脂の耐熱性に優れるという観点から、カーボネート系樹脂は、構造単位Aと、構造単位D1、構造単位D2、構造単位D3、構造単位D4、構造単位D5、構造単位D6、及び構造単位D7からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位を有する共重合体であることが好ましい。より優れた耐熱性を得られるという観点からは、カーボネート系樹脂は、構造単位Aと、構造単位D1、構造単位D2、構造単位D5、及び構造単位D7からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造単位を有する共重合体であることがより好ましく、同様の観点から、構造単位Aと、構造単位D1と構造単位D2の少なくとも一方を有することがさらに好ましい。カーボネート系樹脂は、構造単位Aと、構造単位D1、及び構造単位D7を有することが特に好ましい。この場合、耐熱性、光学特性、機械物性を高いレベルでバランスよく備えた樹脂が得られる。
【0145】
[ジヒドロキシ化合物A]
カーボネート系樹脂中の構造単位B、構造単位Cは、後述のカーボネート系樹脂の製造方法において、原料ジヒドロキシ化合物として、それぞれ、下記式(11)、式(12)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、これらを「ジヒドロキシ化合物A」と称することがある。)を用いることにより、カーボネート系樹脂中に導入することができる。
【0146】
【0147】
【0148】
前記式(11)~(12)中において、R1~R4及びZはそれぞれ前記式(2)~(3)におけるものと同義である。
【0149】
前記式(11)で表されるジヒドロキシ化合物の具体例は、例えば下記[VI]群に示される。
【0150】
【0151】
[VI]群のなかでも好ましいジヒドロキシ化合物は、下記[VII]群に示される。
【化38】
【0152】
[VII]群の中でも、より好ましいジヒドロキシ化合物は、下記[VIII]群に示される。
【化39】
【0153】
式(12)で表されるジヒドロキシ化合物の具体例は、例えば下記[IX]群に示される。
【0154】
【0155】
[IX]群の中でも、好ましいジヒドロキシ化合物は、下記[X]群に示される。
【化41】
【0156】
前記ジヒドロキシ化合物Aのうち、耐熱性と機械物性のバランスの観点からは、式(12)で表されるジヒドロキシ化合物が好ましい。とりわけ前記式(12)において、R3及びR4が置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基であり、かつZが置換基を有していてもよい炭素数1~12の2価のアルキレン基であることが特に好ましい。この場合には、これを重合して得られるカーボネート系樹脂が耐熱性に優れる。
【0157】
前記式(12)で表されるジヒドロキシ化合物のうち、下記式(13)又は式(14)で表されるジヒドロキシ化合物であることが特に好ましい。この場合、これを重合して得られるカーボネート系樹脂が耐熱性と機械物性にバランスよく優れる。
【0158】
【0159】
【0160】
前記式(13)及び式(14)で表されるジヒドロキシ化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、次の方法により製造することができる。
【0161】
【0162】
化合物3を原料として、酸触媒下、テトラメトキシプロパン又はテトラメトキシペンタンと縮合反応を行うことで、化合物4または化合物7へと変換させる。その後、塩基触媒下、エステル部を加水分解することにより、前記式13又は式14で表されるジヒドロキシ化合物とすることができる。
【0163】
なお、原料の化合物3の製造方法は何ら限定されないが、例えばmyo-イノシトール(1)に酸触媒下、オルト酢酸トリメチルを作用させる方法が知られている。具体的には、特開2017-110204号公報に開示の方法が知られている。
【0164】
[カーボネート系樹脂の製造方法]
ポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができる。例えば、ホスゲンやカルボン酸ハロゲン化物を用いた溶液重合法又は界面重合法や、溶媒を用いずに反応を行う溶融重合法を用いて製造することができる。これらの製造方法のうち、溶媒や毒性の高い化合物を使用しないことから環境負荷を低減することができ、また、生産性にも優れる溶融重合法によって製造することが好ましい。
【0165】
また、重合に溶媒を使用すると樹脂中に溶媒が残存する場合があり、その可塑化効果によって樹脂のガラス転移温度が低下することにより、後述する成形や延伸などの加工工程での品質変動要因となり得る。また、溶媒としては塩化メチレン等のハロゲン系の有機溶媒が用いられることが多いが、ハロゲン系溶媒が樹脂中に残存する場合、この樹脂を用いた成形体が電子機器等に組み込まれると金属部の腐食の原因ともなり得る。溶融重合法によって得られる樹脂は溶媒を含有しないため、加工工程や製品品質の安定化にとっても有利である。
【0166】
溶融重合法によりポリカーボネート樹脂を製造する際は、前述した構造単位を有するモノマーと、炭酸ジエステルと、重合触媒とを混合し、溶融下でエステル交換反応(又は重縮合反応とも称する。)を行い、脱離成分を系外に除去しながら反応率を上げていく。重合の終盤では高温、高真空の条件で目的の分子量まで反応を進める。反応が完了したら、反応器から溶融状態の樹脂を抜き出し、ポリカーボネート樹脂が得られる。
【0167】
重縮合反応は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物と全ジエステル化合物のモル比率を厳密に調整することで、反応速度や得られる樹脂の分子量を制御できる。ポリカーボネート樹脂の場合、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率を、0.90~1.10に調整することが好ましく、0.96~1.05に調整することがより好ましく、0.98~1.03に調整することが特に好ましい。ポリエステルカーボネート樹脂の場合は、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルと全ジエステル化合物との合計量のモル比率を、0.90~1.10に調整することが好ましく、0.96~1.05に調整することがより好ましく、0.98~1.03に調整することが特に好ましい。
【0168】
前記のモル比率が上下に大きく外れると、所望とする分子量の樹脂が製造できなくなる。また、前記のモル比率が小さくなりすぎると、製造された樹脂のヒドロキシ基末端が増加して、樹脂の熱安定性が悪化する場合がある。また、未反応のジヒドロキシ化合物が樹脂中に多く残存し、その後の成形加工工程で成形機の汚れや成形品の外観不良の原因となり得る。一方、前記のモル比率が大きくなりすぎると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下したり、製造された樹脂中の炭酸ジエステルやジエステル化合物の残存量が増加し、この残存低分子成分が同様に成形加工工程での問題を招く可能性がある。
【0169】
溶融重合法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。重縮合反応は、1つの重合反応器を用い、順次条件を変えて2段階以上の工程で実施してもよいし、2つ以上の反応器を用いて、それぞれの条件を変えて2段階以上の工程で実施してもよいが、生産効率の観点からは、2つ以上、好ましくは3つ以上の反応器を用いて実施する。重縮合反応はバッチ式、連続式、或いはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれでも構わないが、生産効率と品質の安定性の観点から、連続式が好ましい。
【0170】
重縮合反応においては、反応系内の温度と圧力のバランスを適切に制御することが重要である。温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが反応系外に留出してしまうおそれがある。その結果、ジヒドロキシ化合物とジエステル化合物のモル比率が変化し、所望の分子量の樹脂が得られない場合がある。
【0171】
また、重縮合反応の重合速度は、ヒドロキシ基末端と、エステル基末端或いはカーボネート基末端とのバランスによって制御される。そのため、特に連続式で重合を行う場合は、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を成形加工する際に、溶融粘度が変動し、均一な寸法の成形品が得られない等の問題を招くおそれがある。
【0172】
さらに、未反応モノマーが留出すると、末端基のバランスだけでなく、樹脂の共重合組成が所望の組成から外れ、機械物性や光学特性にも影響するおそれがある。ポリカーボネート樹脂から得られる位相差フィルムでは、位相差の波長分散性は樹脂中のフルオレン系モノマーとその他の共重合成分との比率によって制御されるため、重合中に比率が崩れると、設計どおりの光学特性が得られなくなるおそれがある。
【0173】
以下、溶融重縮合反応の工程を、モノマーを消費させてオリゴマーを生成させる段階(第1段目の反応)と、所望の分子量まで重合を進行させてポリマーを生成させる段階(第2段目の反応)に分けて述べる。
【0174】
具体的に、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温は、通常130℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、かつ、通常250℃以下、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す。)は、通常70kPa以下、好ましくは50kPa以下、より好ましくは30kPa以下、かつ、通常1kPa以上、好ましくは3kPa以上、より好ましくは5kPa以上の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、かつ、通常10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲で設定する。
【0175】
第1段目の反応は、発生するジエステル化合物由来のモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。例えば、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合には、第1段目の反応において反応系外へ留去されるモノヒドロキシ化合物はフェノールである。
【0176】
第1段目の反応においては、反応圧力を低くするほど重合反応を促進することができるが、一方で未反応モノマーの留出が多くなってしまう。未反応モノマーの留出の抑制と、減圧による反応の促進を両立させるためには、還流冷却器を具備した反応器を用いることが有効である。特に未反応モノマーの多い反応初期に還流冷却器を用いるのがよい。
【0177】
第2段目の反応は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力を5kPa以下、好ましくは3kPa以下、より好ましくは1kPa以下にする。また、内温は、通常210℃以上、好ましくは220℃以上、かつ、通常260℃以下、好ましくは255℃以下の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、かつ、通常10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲で設定する。着色や熱劣化、架橋などの副反応を抑制し、色相や熱安定性の良好な樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度を260℃以下、好ましくは255℃以下、さらに好ましくは250℃以下にするとよい。特にジヒドロキシ化合物Aは、過度に高温で重合反応を行うと、分解して分岐成分を発生させ、生成するポリマーが架橋、ゲル化する懸念がある。ゲルが発生すると、得られる樹脂の機械物性が低下するおそれがあり、また、光学用途で用いる場合は、異物となって製品の外観品質を低下させることになる。
【0178】
重合時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に「触媒」、又は「重合触媒」と言うことがある。)は、反応速度や重縮合して得られる樹脂の色調や熱安定性に非常に大きな影響を与え得る。触媒としては、製造された樹脂の透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されないが、長周期型周期表における1族又は2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは長周期型周期表第2族の金属およびリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が使用される。
【0179】
前記の1族金属化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外の1族金属化合物を採用することも可能である。
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩。
これらのうち、重合活性と得られる樹脂の色相の観点から、リチウム化合物を用いることが好ましい。
【0180】
前記の2族金属化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外の2族金属化合物を採用することも可能である。
水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム。
これらのうち、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物を用いることが好ましく、重合活性と得られる樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いることが更に好ましく、カルシウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0181】
尚、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、長周期型周期表第2族の金属およびリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を使用することが特に好ましい。
【0182】
前記重合触媒の使用量は、金属量として、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol~500μmol、好ましくは0.5μmol~300μmol、さらに好ましくは0.5μmol~100μmolである。前記重合触媒として、長周期型周期表第2族の金属およびリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合には、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上の前記重合触媒を使用する。また、前記重合触媒の使用量は、金属量として、300μmol以下がよく、好ましくは100μmol以下であり、さらに好ましくは50μmol以下であり、特に好ましくは30μmol以下である。
【0183】
また、モノマーにジエステル化合物を用いて、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する場合は、前記塩基性化合物と併用して、又は併用せずに、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、ジルコニウム化合物、鉛化合物、オスミウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物等のエステル交換触媒を用いることもできる。これらのエステル交換触媒の使用量は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1molに対して、金属量として、通常、1μmol~1mmolの範囲内であり、好ましくは5μmol~800μmolの範囲内であり、特に好ましくは10μmol~500μmolの範囲内である。
【0184】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量の樹脂を得ようとするにはその分だけ重合温度を高くせざるを得なくなる。そのために、得られる樹脂の色相が悪化する可能性が高くなり、また、未反応の原料が重合途中で揮発して、ジヒドロキシ化合物とジエステル化合物のモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られる樹脂の色相の悪化や成形加工時の樹脂の着色や分解を招く可能性がある。
【0185】
前記1族金属の中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。そして、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、樹脂中のこれらの金属の化合物の合計量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、2μmol以下がよく、好ましくは1μmol以下、より好ましくは0.5μmol以下である。
【0186】
ポリカーボネート樹脂は、前述のとおり重合させた後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化することができる。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終段の重合反応器からポリカーボネート樹脂を溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終段の重合反応器から溶融状態で一軸又は二軸の押出機にポリカーボネート樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終段の重合反応器から溶融状態でポリカーボネート樹脂を抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸又は二軸の押出機にポリカーボネート樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0187】
重縮合反応にジエステル化合物を用いる場合、未反応のジエステル化合物や副生したモノヒドロキシ化合物が樹脂中に残存するため、溶融加工の際に揮発し、臭気となって作業環境を悪化させたり、成形機を汚染し、成形品の外観を損ねるおそれがある。特に有用な炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(DPC)を用いる場合、副生するフェノールは比較的沸点が高く、減圧下での反応によっても十分に除去されず、樹脂中に残存しやすい。
【0188】
ポリカーボネート樹脂中に含まれる炭酸ジエステル由来のモノヒドロキシ化合物は1000重量ppm以下であることが好ましく、700重量ppm以下であることがより好ましく、500重量ppm以下であることが特に好ましい。また、ポリカーボネート樹脂中の炭酸ジエステルの残存量は300重量ppm以下が好ましく、200重量ppm以下がより好ましく、150重量ppm以下が特に好ましい。尚、モノヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、前記問題を解決するためには、含有量が少ないほどよいが、溶融重合法では樹脂中の残存量をゼロにすることは困難であり、除去のためには過大な労力が必要である。通常は、モノヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの含有量をそれぞれ1重量ppmまで低減することにより、前記の問題を十分に抑制することができる。
【0189】
樹脂中に残存する、炭酸ジエステル由来のモノヒドロキシ化合物や炭酸ジエステルをはじめとする低分子成分を低減するためには、樹脂を押出機で脱揮処理することや、重合終盤の圧力を3kPa以下、好ましくは2kPa以下、さらに好ましくは1kPa以下にすることが効果的である。
【0190】
重合終盤の圧力を低下させる場合には、反応の圧力を下げすぎると分子量が急激に上昇して、反応の制御が困難になる場合があるため、樹脂の末端基濃度をヒドロキシ基末端過剰かエステル基末端過剰にして、末端基バランスを偏らせて製造することが好ましい。末端基バランスは全ジヒドロキシ化合物と全ジエステル化合物の仕込みのモル比により調節することができる。
【0191】
ポリカーボネート樹脂の炭酸ジエステル由来のモノヒドロキシ化合物の含有量及び炭酸ジエステルの残存量の具体的な測定方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。
【0192】
[カーボネート系樹脂の物性]
カーボネート系樹脂の物性は特に限定されないが、以下の物性を有することが好ましい。
【0193】
・還元粘度
カーボネート系樹脂の分子量は還元粘度で表すことができる。樹脂の還元粘度が低すぎると得られる成形品の機械強度が小さくなる可能性がある。そのため、還元粘度は通常0.25dL/g以上であり、0.30dL/g以上であることが好ましい。一方、樹脂の還元粘度が大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性が低下する傾向がある。そのため、還元粘度は、通常.1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下であることが好ましく、0.80dL/g以下であることがより好ましい。尚、還元粘度は、フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの混合溶媒を用いた。フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの混合比は、質量比で1:1である。試料濃度を1.00g/dLに精密に調製し、温度30.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
【0194】
前記の還元粘度は樹脂の溶融粘度と相関があるため、通常は重合反応器の撹拌動力や、溶融樹脂を移送するギアポンプの吐出圧等を運転管理の指標に用いることができる。即ち、前記の運転機器の指示値が目標値に到達した段階で、反応器の圧力を常圧に戻したり、反応器から樹脂を抜き出すことで重合反応を停止させる。
【0195】
・ガラス転移温度
カーボネート系樹脂のガラス転移温度は、極めて高い耐熱性を要求される用途に用いる場合には、高いほど望ましい。一方、高い耐熱性と靭性、溶融加工性のバランスを要求される用途に用いる場合には、カーボネート系樹脂のガラス転移温度は、100℃以上、200℃以下であることが好ましい。この場合において、ガラス転移温度は120℃以上、180℃以下であることがより好ましく、130℃以上、170℃以下であることが特に好ましい。カーボネート系樹脂のガラス転移温度は、樹脂を構成する各種構造単位の比率によって調整される。例えば、構造単位A~C、構造単位D1~D7、その他の構造単位等の共重合比率によって調整することができる。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、使用環境下における成形品の諸物性(光学特性や機械物性、寸法等)の信頼性が悪化する可能性がある。一方、ガラス転移温度が上述の上限以下である場合には、耐熱性と靭性、溶融加工性にバランスよく優れる。
【0196】
・5%熱重量減少温度(Td5)
カーボネート系樹脂の5%熱重量減少温度が高いと、熱分解しにくいものとなる。カーボネート系樹脂の5%熱重量減少温度は、300℃以上が好ましく、340℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。なお、5%熱重量減少温度は、具体的には、実施例に記載される方法で測定される。
【0197】
・鉛筆硬度
カーボネート系樹脂の硬度が低いと、成形品が傷付きやすいものとなる。カーボネート系樹脂の鉛筆硬度は、B以上が好ましく、F以上がより好ましい。成形品の耐傷つき性をより高めるという観点から、カーボネート系樹脂の鉛筆硬度はH以上であることが更に好ましい。鉛筆硬度は、鉛筆硬度試験にて測定される。なお、鉛筆硬度は、より具体的には、実施例に記載される方法で測定される。カーボネート系樹脂の鉛筆硬度は、製造時に使用するモノマーの種類、その配合割合を調整したり、重合温度を調整したり、添加剤の添加量を調整することにより、前記範囲に調整される。
【0198】
・沸騰水試験
カーボネート系樹脂の耐湿熱性は、沸騰水試験による変形の有無で評価することができる。耐湿熱安定性に優れるという観点から、カーボネート系樹脂は、沸騰水試験による変形がないことが好ましい。
【0199】
カーボネート系樹脂の還元粘度、ガラス転移温度、5%熱重量減少温度の具体的な測定方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。
【0200】
・屈折率
カーボネート系樹脂は、ナトリウムd線(589nm)における屈折率(nD)が1.48~1.56であることが好ましい。また、前記屈折率(nD)は、1.49~1.55であることがより好ましく、1.50~1.54であることが特に好ましい。前記屈折率が小さいほど、位相差フィルムの表面反射を抑制でき、全光線透過率を向上させることができ、光学補償効果が高まる。ポリカーボネート樹脂に、逆波長分散性を付与するために芳香族構造単位を含有させた場合、脂肪族構造単位のみで構成されるポリカーボネート樹脂と比較すると屈折率は高くなってしまうが、芳香族構造単位の含有量を必要最小限にすることで、屈折率を前記の範囲に収めることができる。
【0201】
・光弾性係数
カーボネート系樹脂の光弾性係数は30×10-12Pa-1以下であることが好ましく、20×10-12Pa-1以下であることがさらに好ましく、15×10-12Pa-1以下であることが特に好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、例えば、カーボネート系樹脂を位相差フィルム用途に用いる場合には、位相差フィルムを偏光板と貼り合わせた際に、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。特に大型の表示装置やフレキシブルディスプレイなどに用いられる場合にはこの問題が顕著に現れる。カーボネート系樹脂の光弾性係数は、位相差フィルム用途に用いる場合には、カーボネート系樹脂の他の物性を制御する際の自由度を高めるという観点から、7×10-12Pa-1以上であることが好ましい。一方、カーボネート系樹脂を低位相差が要求される光学フィルム用途に用いる場合には、光弾性係数は、7×10-12Pa-1以下であることが好ましい。
【0202】
カーボネート系樹脂は、例えば前記式(1)~(3)のいずれかで表される構造単位と脂肪族の構造単位とで構成し、その他の芳香族構造単位を用いないようにすることで、前記の通り、光弾性係数を低く抑えることが可能になる。
【0203】
・飽和吸水率
カーボネート系樹脂の飽和吸水率が高いと、高湿度下で樹脂の物性が変化するため、成形品の信頼性が低下するおそれがある。したがって、カーボネート系樹脂の飽和吸水率は4wt%以下が好ましく、3.5wt%以下がより好ましく、3wt%以下がさらに好ましく、2.8wt%以下がさらにより好ましく、2.5wt%以下が特に好ましい。なお、カーボネート系樹脂の飽和吸水率は、例えば実施例に記載の方法で測定される。カーボネート系樹脂の飽和吸水率は、製造時に使用するモノマーの種類、その配合割合を調整したり、重合温度を調整したり、添加剤の添加量を調整することにより、前記範囲に調整される。
【0204】
ポリカーボネート樹脂の屈折率(nD)、光弾性係数、吸水率の具体的な測定方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。
【0205】
[樹脂組成物]
ポリカーボネート樹脂には本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる熱安定剤、酸化防止剤、触媒失活剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、染顔料、衝撃改良剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、核剤、難燃剤、無機充填剤、発泡剤等が含まれても差し支えない。
【0206】
(熱安定剤)
ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて、溶融加工時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。かかる熱安定剤としては、通常知られるヒンダードフェノール系熱安定剤および/又はリン系熱安定剤が挙げられる。
【0207】
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。
2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(6-シクロヘキシル-4-メチルフェノール)、2,2’-エチリデン-ビス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]-メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等。中でも、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]-メタン、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンを用いることが好ましい。
【0208】
リン系化合物としては、例えば、以下に示す亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等を採用することができるが、これらの化合物以外のリン系化合物を採用することも可能である。
トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル。
【0209】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0210】
かかる熱安定剤は、溶融重合時に反応液に添加してもよく、押出機を用いて樹脂に添加し、混練してもよい。溶融押出法によりフィルムを製膜する場合、押出機に前記熱安定剤等を添加して製膜してもよいし、予め押出機を用いて、樹脂中に前記熱安定剤等を添加して、ペレット等の形状にしたものを用いてもよい。
【0211】
これらの熱安定剤の配合量は、樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部以上が好ましく、0.0005重量部以上がより好ましく、0.001重量部以上がさらに好ましく、また、1重量部以下が好ましく、0.5重量部以下がより好ましく、0.2重量部以下がさらに好ましい。
【0212】
(ポリマーアロイ)
ポリカーボネート樹脂は、機械特性や耐溶剤性等の特性を改質する目的で、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の合成樹脂やゴム等の1種又は2種以上と混練してなるポリマーアロイとしてもよい。
【0213】
前記の添加剤や改質剤は、樹脂に前記成分を同時に、又は任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができるが、中でも押出機、特には二軸押出機により混練することが、分散性向上の観点から好ましい。
【0214】
[透明フィルム及び位相差フィルム]
透明フィルムは、熱可塑性樹脂(具体的には、ポリカーボネート樹脂などのカーボネート系樹脂)を成形してなるものである。
また、位相差フィルムは、透明フィルムを少なくとも一方向に延伸してなるものである。
以下、透明フィルムを「未延伸フィルム」と称す場合がある。
【0215】
(未延伸フィルムの製造方法)
ポリカーボネート樹脂を用いて、未延伸フィルムを製膜する方法としては、樹脂を溶媒に溶解させてキャストした後、溶媒を除去する流延法や、溶媒を用いずに樹脂を溶融させて製膜する溶融製膜法を採用することができる。溶融製膜法としては、具体的にはTダイを用いた溶融押出法、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出法、共溶融法、多層押出法、インフレーション成形法等がある。未延伸フィルムの製膜方法は特に限定されないが、流延法では残存溶媒による問題が生じるおそれがあるため、好ましくは溶融製膜法、中でも後の延伸処理のし易さから、Tダイを用いた溶融押出法が好ましい。
【0216】
(位相差フィルムの製造方法)
前記未延伸フィルムを少なくとも一方向に延伸配向させることにより、位相差フィルムを得ることができる。延伸方法としては縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸等、公知の方法を用いることができる。延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続で行うことが生産性において好ましい。さらにバッチ式に比べて、連続の方がフィルム面内の位相差のばらつきの少ない位相差フィルムが得られる。
【0217】
[用途]
透明フィルムの用途には特に制限はないが、耐熱性、光学特性、溶融加工性等の物性に優れるという特長を生かして、各種の液晶用ディスプレイ機器やモバイル機器等に用いられる位相差フィルム等の光学フィルムに好適である。
【0218】
例えば、透明フィルムを延伸して得られる前記位相差フィルムは、公知の偏光フィルムと積層貼合し、所望の寸法に切断することにより円偏光板となる。かかる円偏光板は、例えば、各種ディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED電界放出表示装置、SED表面電界表示装置)の視野角補償用、外光の反射防止用、色補償用、直線偏光の円偏光への変換用等に用いることができる
【実施例】
【0219】
以下、実施例、及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。樹脂の特性評価は次の方法により行った。尚、特性評価手法は以下の方法に限定されるものではなく、当業者が適宜選択することができる。
【0220】
(1)還元粘度の測定
溶媒を用いてポリカーボネート樹脂を溶解させ濃度1.00g/dlのポリカーボネート溶液を作製した。溶媒としては、フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの混合溶媒を用いた。フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの混合比は、質量比で1:1である。混合溶媒への溶解は、110℃で攪拌しながら、30分かけて行った。冷却後のポリカカーボネート溶液を還元粘度の測定に用いた。還元粘度の測定は、中央理化社製のウベローデ型粘度計「DT-504型自動粘度計」を用い、温度30.0℃±0.1℃で行った。溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tとから、次式(α)により相対粘度ηrelを算出し、相対粘度ηrelから次式(β)より比粘度ηsp(単位:g・cm-1・sec-1)を算出した。なお、式(β)中のη0は溶媒の粘度である。そして、比粘度ηspをポリカーボネート溶液の濃度c(g/dL)で割って、還元粘度η(η=ηsp/c)を算出した。この値が高いほど、分子量が大きいことを意味する。
ηrel=t/t0 ・・・(α)
ηsp=(η-η0)/η0=ηrel-1 ・・・(β)
【0221】
(2)ガラス転移温度(Tg)の測定
ガラス転移温度は、エスアイアイナノテクノロジー社製の示差走査熱量計「EXSTAR 6220」を用いて測定した。JISK7121:1987に準拠して測定した。具体的には、昇温速度10℃/minで測定試料約10mgを加熱し、250℃まで昇温したサンプルを液体窒素で急冷し、再度昇温速度10℃/min250℃まで昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより低温側のベースラインと高温側のベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる温度から、中間点ガラス転移開始温度を求める。この中間点ガラス転移開始温度をガラス転移温度Tgとして扱う。高いガラス転移温度を有する樹脂は、耐熱性の観点で優れている。
【0222】
(3)プレスフィルム作成
ポリカーボネート樹脂のペレットを90℃で5時間以上、真空乾燥した。外側の幅が縦10cm横10cm厚さ0.5mmの金属板(SUS)を1cmの幅を残して内側の幅が縦8cm、横8cmをくりぬいたスペーサーを用意した。このスペーサーを2枚の鏡面加工した縦10cm横10cm厚さ1.5mmのSUS板の間に挟み、スペーサーの枠内にペレット約4gをのせて熱プレスを行った。熱プレス温度は、200~230℃であり、予熱時間は5-7分であり、成形時の圧力は40MPaで行った。成形時の加圧時間は1分間である。熱プレス後、鏡面板とスペーサーごとシート状の試料を取り出し、水管冷却式プレスで、圧力20MPaで3分間加圧冷却した。厚さ400から500μmのフィルムを作製した。
【0223】
(4)屈折率の測定
(3)の方法で作成したフィルムから、長さ10mmから20mm、幅8mmの長方形の試験片を切り出して測定試料とした。アッベ屈折計(アタゴ社製「DR-M4」)で、波長656nm(C線)、589nm(D線)、546nm(e線)、486nm(F線)の干渉フィルターを用いて、各波長の屈折率、nC、nD、ne、nFを測定した。測定は、界面液として1-ブロモナフタレンを用い、20℃で行った。
アッベ数νdは次の式で計算した。
νd=(1-nD)/(nC-nF)
アッベ数が大きいほど、屈折率の波長依存性が小さくなり、例えば単レンズにした際の波長による焦点のずれが小さくなる。
【0224】
(5)光弾性係数の測定
He-Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE-3)を組み合わせた装置を用いて、以下の通り測定した(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93-97(1991)を参照。)。光弾性係数の低い樹脂は、温度変化や湿度変化などによるフィルムの形状変化の、光学特性への影響が小さく、環境に対する性能安定性の観点で優れている。
【0225】
(3)の方法で作成したフィルムから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
【0226】
(6)飽和吸水率
(3)の方法で作成したフィルムを縦約40mm、横約40mmの形に切り出して、測定試料を作製した。測定試験片(フィルム)を真空乾燥機で90℃真空下5時間以上乾燥させたのち、真空を保ったまま、室温まで冷却した。乾燥空気を導入して、常圧まで戻し、手早く、測定試験片(フィルム)の乾燥重量W0を測定した。
測定試験片(フィルム)を室温(23℃)純水500ccに浸漬して、96時間放置した。96時間後に測定試験片(フィルム)を取り出し、測定試験片(フィルム)に表面に付着した水分を布でふき取ったのち、素早く吸水後の重量W1を測定した。以下の式で飽和吸水率を算出した。
飽和吸水率(%)=((W1-W0)/W0)×100
【0227】
(7)沸騰水試験(耐湿熱性の評価)
(3)の方法で作成したフィルムを縦約40mm、横約40mmの形に切り出して、測定試料を作製した。
試験片(フィルム)を100℃に加熱した水槽の中に網かごに入れて浸漬し、3時間放置した。3時間経過後、網かごを取り出し、冷却後、試験片の外観の観察を行った。試験片(フィルム)が変形していないものを合格(○)、変形があるものを不合格(×)とした。
【0228】
(8)鉛筆硬度
(3)の方法で作成したフィルムを用いて、鉛筆硬度試験機(株式会社マイズ試験機社製、No.601-B)により、JIS K5600-5-4:1999に準拠して、鉛筆硬度を測定した。条件としては荷重750g、測定スピード60mm/minで行った。
(9)5%熱重量減少温度(Td5)
エスアイアイナノテクロノジ社製TG/DTA7200を用い、試料約10mgを容器に載せ、窒素雰囲気下(窒素流量50ml/分)で昇温速度10℃/分で40℃から500℃まで測定し、5%重量が減少した際の温度(Td5)を求めた。この温度が高いほど、熱分解しにくい。
(10)NMR
合成例1と合成例2の測定は、溶媒として、各合成例に記載した溶媒を用い、合成例3と合成例4は溶媒として重クロロホルムを用い、合成例5と合成例6は溶媒として重ジメチルスルホキシドを用い、ブルカー・バイオスピン社製「AVANCE」にて、共鳴周波数400MHz、測定温度室温にて、1H-NMRを測定した。
実施例1、実施例2、実施例6、実施例10から実施例16の測定は、外径5mmのNMR試料管に試料約30mgを入れ、重クロロホルム(0.03v/v%テトラメチルシラン含有)0.7mlに溶解した。Bruker社製「AVANCE III 950」にて、共鳴周波数950.3MHz、フリップ角30°、測定温度25℃にて、1H-NMRを測定した。
【0229】
[ホモポリマーのTgの計算例]
種々のモノマーからなる非晶性ポリマー共重合体のTgは該ポリマーを構成する各モノマーの単独重合体(ホモポリマー)のTgおよび該モノマーの重量分率(重量基準の共重合割合)に基づいてFlory-Foxの式から求められる。
Flory-Foxの式は以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
なお、前記Flory-Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。ホモポリマーのTgとしては、公知資料に記載の値や実測値を採用してもよい。
この式を利用すると、例えば、2つのモノマーM1とM2の構成成分からなる共重合体で1つのモノマー構成成分M1のホモポリマーのTg1が分かっていると2つ目の構成成分M2との共重合体において、組成比の異なる1種類以上の共重合体のTgが測定できると、2つ目の構成成分M2のホモポリマーのTg2を計算により推定することができる。2成分のモノマーから構成される場合はFlory-Foxの式は以下の式にとなる。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2
W1+W2=1
ここでTg:共重合体のTg、Tg1:M1ホモポリマーのTg、Tg2:M2ホモポリマーのTg、W1:M1ホモポリマー成分の重量分率、W2:M2ホモポリマー成分の重量分率である。
これを変形すると
1/Tg=(1/Tg1-1/Tg2)W1+1/Tg2
y軸に1/Tgをとり、x軸にW1をとったグラフから最小二乗法を用いてy軸の切片を計算するとその値からTg2が求められることになる。
【0230】
[モノマーの合成例]
IN88の合成;
【0231】
<合成例1-1>化合物2の合成
【化45】
2Lの4口フラスコに、myo-イノシトール(1)125g(694mmol)、オルト酢酸トリメチル122g(1015mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド1L、p-トルエンスルホン酸9.56g(55.5mmol)を添加し、内温100℃で3時間、加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略す)で原料myo-イノシトールの消失を確認した後、反応液を0℃まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整した。pH調整した反応液を減圧濃縮して溶媒を留去した後、メタノール2.5Lを添加して懸濁液として十分撹拌した後、濾過して、化合物2を白色固体として104g(509mmol、収率73%)取得した。
【0232】
化合物2のケミカルシフトを以下に示す。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ=5.40(s,2H),5.20(brd,J=4.4Hz,1H),4.23(t,J=4.0Hz,2H),4.03-3.98(m,1H),3.97-3.91(m,3H),1.28(s,3H).
【0233】
<合成例1-2>化合物3の合成
【化46】
3Lの4口フラスコに、60%水素化ナトリウム64.6g(1.62mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド1.5Lを添加した後、窒素下で、合成例1-1と同様の方法で得られた化合物2(150g、735mmol)を少量ずつ添加した。反応液を0℃で30分撹拌した後、この反応液にピバロイルクロリド97.4g(808mmol)をゆっくり滴下し、19℃で16時間撹拌した。TLCで原料である化合物2の消失を確認した後、酢酸を添加して反応液をpH7に調整した。反応液を減圧濃縮して、溶媒を留去した後、酢酸エチル2.5Lを添加して懸濁液として十分撹拌した後、固形分を濾過して取り除き、得られた濾液を減圧濃縮して溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、化合物3を白色固体として146g(506mmol、収率69%)取得した。
【0234】
化合物3のケミカルシフトを以下に示す。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ=5.57(d,J=6.0Hz,2H),5.15(s,1H),4.35-4.22(m,2H),4.16-4.02(m,3H),1.30(s,3H),1.19(s,9H).
【0235】
<合成例1-3>化合物4の合成
【化47】
2Lの4口フラスコに、合成例1-2と同様の方法で得られた化合物3(52.5g、182mmol)、トルエン750mL、10-カンファースルホン酸水和物 1.14g(4.55mmol)、マロンジアルデヒドビス(ジメチルアセタール)15.0g(91.1mmol)を添加し、4Aモレキュラーシーブを充填した還流管をセットして、窒素下、120℃のオイルバスで12時間加熱撹拌した。TLCで原料の消失を確認した後、減圧濃縮して溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、化合物4を灰色固体として53.0g(86.5mmol、収率95%)取得した。
【0236】
化合物4のケミカルシフトを以下に示す。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=5.41-5.33(m,4H),4.91-4.87(m,2H),4.74(t,J=4.8Hz,4H),4.32-4.29(m,4H),1.85-1.80(m,1H),1.83(t,J=5.2Hz,2H),1.46-1.44(m,6H),1.28-1.27(m,18H).
【0237】
<合成例1-4>IN88の合成
【化48】
1Lの4口フラスコに、合成例1-3と同様の方法で得られた化合物4(53.0g、86.5mmol)、テトラヒドロフラン300mL、メタノール300mL、水酸化ナトリウム10.4g(260mmol)を添加し、30℃で12時間撹拌した。TLCで原料の消失を確認した後、脱塩水300mLを添加し、析出した白色固体を濾過した。得られた固体に脱塩水360mLを添加し、100℃で4時間加熱撹拌した後、濾過し、得られた固体を減圧乾燥して、IN88を38.1g(85.7mmol、収率99%)取得した。
【0238】
IN88のケミカルシフトを以下に示す。
1H NMR:(400MHz,DMSO-d6)δ=5.29(t,J=5.2Hz,2H),5.22(d,J=7.6Hz,2H),5.05(brt,J=4.8Hz,2H),4.59(t,J=4.8Hz,4H),4.09-4.06(m,1H),4.10-4.05(m,1H),4.03-4.00(m,4H),1.59(t,J=5.2Hz,2H),1.31(s,6H).
13C NMR(400MHz,DMSO-d6)δ=107.29,88.95,72.35,65.56,61.12,58.99,24.13.
【0239】
IN88のLC-MSのデータを以下に示す。
LC-MS(ESI)m/z:445.2[M+H]
【0240】
IN89の合成;
<合成例2-1>化合物6の合成
【化49】
500mLの4口フラスコに、グルタルアルデヒド233g(1.16mol)、メタノール200mL、p-トルエンスルホン酸4.0g(23.3mmol)を添加し、65℃で96時間加熱撹拌した。反応液を減圧濃縮して得られた黄色油状物質の化合物6(220g)は特段の精製をすることなく、次の工程に使用した。
【0241】
<合成例2-2>化合物7の合成
【化50】
1Lの4口フラスコに、トルエン600mL、合成例2-1と同様の方法で得られた化合物6(22.3g、116mmol)、合成例1-2と同様の方法で得られた化合物3(50.0g、173mmol)、10-カンファースルホン酸水和物2.17g(8.67mmol)を添加し、4Aモレキュラーシーブを充填した還流管をセットして、窒素下、120℃のオイルバスで2時間加熱撹拌した。TLCで原料の消失を確認した後、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、化合物7を灰色固体として26.7g(41.6mmol、収率36%)取得した。
【0242】
化合物7のケミカルシフトを以下に示す。
1H NMR(400MHz,CHLOROFORM-d)δ=5.40(t,J=2.0Hz,2H),5.21(t,J=4.4Hz,2H),4.87(brt,J=4.4Hz,2H),4.73(t,J=4.8Hz,4H),4.34-4.28(m,4H),1.58-1.49(m,4H),1.45(s,8H),1.28(s,18H).
【0243】
<合成例2-3>IN89の合成例
【化51】
2Lの4口フラスコに、合成例2-1と同様の方法で得られた化合物7(56.0g、87.4mmol)、メタノール400mL、テトラヒドロフラン400mL、水酸化ナトリウム21.0g(524mmol)を添加し、7-18℃で40時間撹拌した。TLCで原料消失を確認した後、反応液に脱塩水1Lを添加し、析出した白色固体を濾過した。得られた固体に脱塩水300mLを添加し、100℃で4時間加熱撹拌した後、濾過して得られた固体を減圧乾燥し、IN89を40.5g(85.7mmol、収率98%)取得した。
【0244】
IN89のケミカルシフトを以下に示す。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ=5.25(t,J=4.0Hz,2H),5.20(d,J=7.6Hz,2H),5.06-4.96(m,2H),4.58(t,J=4.8Hz,4H),4.13-4.06(m,2H),4.05-3.98(m,4H),1.39(brdd,J=4.4,7.2Hz,4H),1.31(s,8H).
13C NMR(400MHz,DMSO-d6):107.25,91.53,72.45,65.44,61.32,58.99,33.70,24.11,17.32.
【0245】
IN89のLC-MSのデータを以下に示す。
LC-MS(ESI)m/z:473.4[M+H]
【0246】
DCMI、IN44、IN45、IN58はWO2016/098898公報に記載の方法に従い、以下のように合成した。
[合成例3:DL-2,3:5,6-ジ-O-シクロヘキシリデン-myo-イノシトール(以下「DCMI」と略記する。)の合成]
ジムロートを備えた500mlの反応容器を窒素置換した後、myo-イノシトール30g(167mmol)、DMF200mL、p-トルエンスルホン酸一水和物863mg、ジメトキシシクロヘキサン75mLを投入し、100℃で3時間撹拌した。40℃まで冷却した後、トリエチルアミン2.5mLを加え、反応溶媒であるDMFを減圧留去した。その後酢酸エチル250mLを加え、5%炭酸ナトリウム水溶液300mLで分液を実施した後、イオン交換水300mLで1回洗浄した。得られた有機相を減圧留去し、酢酸エチル50mL/n-ヘキサン70mLで晶析を実施し、得られた白色沈殿を濾過した。その後再び酢酸エチル50mL/n-ヘキサン70mLで晶析を実施した。得られた固体を60℃で真空乾燥5時間実施することで、目的化合物であるDCMIを9.8g(収率17.2%)得た。この化合物の1H-NMR分析を行い、目的化合物であること、ガスクロマトグラフ分析を行い、99.0面積%であることを確認した。
【0247】
[合成例4:DL-2-O-ベンジル-1,3,5-O-エチリデン-myo-イノシトール(以下、IN44と略記する)の合成]
【0248】
(合成例4-1)DL-1,3,5-O-エチリデン-myo-イノシトール(以下、OEMと略記する)の合成
ジムロート、Dean-Stark管を備えた反応容器を窒素置換した後、myo-イノシトール140g(777mmol)、DMF582g、p-トルエンスルホン酸一水和物11.8g(62.2mmol)、オルト酢酸トリメチル135g(1127mmol)を投入し、130℃の油浴に漬けて40分間撹拌した。その間、Dean-Stark管に留去された液は除去した。室温まで冷却した後、6.2重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液93.7gを添加し、DMFを減圧留去した。その後、得られた濃縮物にメタノール300mLを添加し加温溶解させ、その後冷却して晶析、濾過した。得られた固体を
50℃で真空乾燥8時間実施することで、目的化合物であるOEMを117.5g(収率74%)得た。この化合物の1H-NMR分析を行い、目的化合物であることを確認した。
【0249】
(合成例4-2)DL-2-O-ベンジル-1,3,5-O-エチリデン-myo-イノシトール(以下、IN44と略記する)の合成
1000mLの反応容器を窒素置換した後、60重量%水素化ナトリウム15.67g(391.8mmol)、DMF360mLを投入し、合成例8-1で合成したOEM80g(381.8mmol)をDMF360mLに溶解させた溶液を滴下した。その後、ベンジルブロミド67.02g(391.8mmol)を反応容器に滴下し、内温10~25℃の範囲内で1時間撹拌した。その後、イオン交換水80gを添加し、DMFを減圧留去した。酢酸エチル400mL、イオン交換水300mLを添加して抽出を行い、有機層を回収した。次に、イオン交換水300mLを添加して洗浄した後、分液して有機層を回収した。更に、イオン交換水300mLを添加して洗浄した後、分液して有機層を回収した。酢酸エチルを減圧留去した後、メタノール120mL、ヘプタン100mLを添加して撹拌後、分液してメタノール層を回収した。メタノールを減圧留去した後、tert-ブチルメチルエーテル100mLを添加して晶析を行い、得られた白色固体を濾過して回収した。更に、得られた白色固体を酢酸エチル80mL、ヘプタン80mLで再結晶を行い、得られた白色固体を濾過して回収した。得られた固体を50℃で8時間、真空乾燥し、目的化合物であるIN44を60g(収率52%)得た。この化合物の1H-NMR分析を行い、目的化合物であること、ガスクロマトグラフ分析を行い、99.7面積%であることを確認した。
【0250】
[合成例5:DL-2-O-ベンジル-1,3,5-O-メチリデン-myo-イノシトール(以下、IN45と略記する)の合成]
(合成例5-1)DL-1,3,5-O-メチリデン-myo-イノシトール(以下、OEHと略記する)の合成
ジムロート、Dean-Stark管を備えた反応容器を窒素置換した後、myo-イノシトール134.76g(748.0mmol)、DMF560g、p-トルエンスルホン酸一水和物11.38g(59.8mmol)、オルトギ酸トリメチル111.13g(1047.2mmol)を投入し、130℃の油浴に漬けて5間撹拌した。その間、Dean-Stark管に留去された液は除去した。室温まで冷却した後、7.7重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液72gを添加し、DMFを減圧留去した。その後、得られた濃縮物にメタノール500mLを添加し加温溶解させ、その後冷却して晶析、濾過した。得られた固体を50℃で真空乾燥8時間実施することで、目的化合物であるOEHを63.3g(収率45%)得た。この化合物の1H-NMR分析を行い、目的化合物であることを確認した。
【0251】
(合成例5-2)DL-2-O-ベンジル-1,3,5-O-メチリデン-myo-イノシトール(以下、IN45と略記する)の合成
200mLの反応容器を窒素置換した後、60重量%水素化ナトリウム2.73g(68.4mmol)、DMF65mLを投入し、合成例9-1で合成したOEH13g(68.4mmol)をDMF65mLに溶解させた溶液を滴下した。その後、ベンジルブロミド11.69g(68.4mmol)を反応容器に滴下し、内温9~12℃の範囲内で1時間撹拌した。その後、イオン交換水30gを添加し、DMFを減圧留去した。濃縮物に酢酸エチル100mL、イオン交換水100gを添加して抽出を行い、有機層を回収した。更に、イオン交換水100gを添加して洗浄した後、分液して有機層を回収した。酢酸エチルを減圧留去した後、メタノール50mL、ヘプタン50mLを添加して撹拌後、分液してメタノール層を回収し、メタノールを減圧留去した。濃縮物にtert-ブチルメチルエーテルを60mL添加して晶析を行い、得られた白色固体を濾過して回収した。更に、得られた白色固体を酢酸エチル40mL、ヘプタン40mLで再結晶を行い、得られた白色固体を濾過して回収した。得られた固体を50℃で8時間、真空乾燥し、目的化合物であるIN45を10.9g(収率57%)得た。この化合物の1H-NMR分析を行い、目的化合物であること、ガスクロマトグラフ分析を行い、99.8面積%であることを確認した。
【0252】
[合成例6:DL-2-O-シクロヘキシルメチル-1,3,5-O-エチリデン-myo-イノシトール(以下、IN58と略記する)の合成]
1000mLの反応容器を窒素置換した後、60重量%水素化ナトリウム14.7g(3367.3mmol)、DMF320mLを投入し、合成例8-1で合成したOEM 75g(367.3mmol)をDMF360mLに溶解させた溶液を滴下した。その後、シクロヘキシルメチルブロミド65.05g(367.3mmol)を反応容器に滴下し、内温80~90℃の範囲内で2時間撹拌した。室温まで冷却した後、60重量%水素化ナトリウム14.7g(3367.3mmol)を添加し、30分間室温で撹拌した後、その後、シクロヘキシルメチルブロミド65.05g(367.3mmol)を反応容器に滴下し、内温80~90℃の範囲内で2時間撹拌した。室温まで冷却した後、イオン交換水90gを添加し、DMFを減圧留去した。酢酸エチル400mL、イオン交換水300gを添加して抽出を行い、有機層を回収した。次に、イオン交換水300gを添加して洗浄した後、分液して有機層を回収した。更に、イオン交換水300gを添加して洗浄した後、分液して有機層を回収した。酢酸エチルを減圧留去した後、メタノール200mL、n-ヘキサン100mLを添加して撹拌後、分液してメタノール層を回収した。メタノールを減圧留去した後、tert-ブチルメチルエーテル50mL、n-ヘキサン100mLを添加して再結晶を行い、得られた白色固体を濾過して回収した。更に、得られた白色固体をtert-ブチルメチルエーテル100mL、n-ヘキサン100mLで晶析を行い、得られた白色固体を濾過して回収した。得られた固体を50℃で8時間、真空乾燥し、目的化合物であるIN58を29g(収率26%)得た。この化合物の1H-NMR分析を行い、目的化合物であること、ガスクロマトグラフ分析を行い、99.4面積%であることを確認した。
【0253】
[ポリカーボネート樹脂の合成例、及び特性評価]
以下の実施例、及び比較例で用いた化合物の略号等は以下の通りである。
・DCMI:DL-2,3:5,6-ジ-O-シクロヘキシリデン-myo-イノシトール
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB)
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(シス、トランス混合物、SKケミカル社製)
・TCDDM:トリシクロデカンジメタノール[オクセア社製]
・SPG:スピログリコール(三菱ガス化学(株)製)
・1,6-ヘキサンジオール(1,6-HD)(富士フイルム和光純薬社製)
・1,10-デカンジオール(1,10-DD)(東京化成工業社製)
・BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル製)
【0254】
[実施例1]
IN88 5.77g(0.0130モル)、イソソルビド(以下「ISB」と略記する)4.74g(0.0324モル)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」と略記する)2.81g(0.0195モル)、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記する。)14.18g(0.0662モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物1.14×10
-3g(6.49×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌を行い、60分で220℃まで常圧で昇温して原料を溶解させた。
反応の第1段目の工程として、220℃を保って、圧力を常圧から13.3kPaまで40分で減圧した後、13.3kPaで60分保持し、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。第2段目の工程として、加熱槽温度を240℃まで20分で上昇させ、かつ、30分で圧力を0.200kPa以下になるように制御しながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を反応容器から取り出して、ポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.547dl/g、ガラス転移温度Tgは179℃であった。5%熱重量減少温度Td5は351℃であった。屈折率を20℃で測定するとnC=1.502、nD=1.504、ne=1.507、nF=1.513であり、アッベ数νDは46であった。光弾性係数は11×10
-12Pa
-1だった。飽和吸水率は3.0%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図1に示す。得られたポリカーボネート樹脂のペレットを用いて、前述の各種評価を行った。評価結果を後述の表に示す。
【0255】
[実施例2]
IN88 3.31g(0.0074モル)、ISB 6.53g(0.0447モル)、CHDM3.22g(0.0223モル)、DPC16.28g(0.0760モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物3.28×10
-4g(1.86×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.756dl/g、ガラス転移温度Tgは158℃であった。5%熱重量減少温度Td5は345℃であった。屈折率を20℃で測定するとnC=1.517、nD=1.519、ne=1.522、nF=1.527であり、アッベ数νDは52であった。飽和吸水率は2.5%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図2に示す。
【0256】
[実施例3]
IN88 5.37g(0.0121モル)、スピログリコール(以下「SPG」と略記する) 8.59g(0.0282モル)、DPC8.80g(0.0411モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物7.10×10-4g(4.03×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.477dl/g、ガラス転移温度Tgは150℃であった。5%熱重量減少温度Td5は399℃であった。
【0257】
[実施例4]
IN88 8.26g(0.0186モル)、1,6-ヘキサンジオール(以下「1,6-HD」と略記する) 5.13g(0.0434モル)、DPC13.54g(0.0632モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物1.09×10-3g(6.20×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.408dl/g、ガラス転移温度Tgは88℃であった。
【0258】
[実施例5]
IN88 9.94g(0.0224モル)、1,10-デカンジオール(以下「1,10-DD」と略記する) 3.90g(0.0224モル)、DPC 9.77g(0.0456モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物7.88×10-3g(4.47×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.378dl/g、ガラス転移温度Tgは104℃であった。
【0259】
[実施例6]
IN88 7.68g(0.0173モル)、CHDM5.82g(0.0404モル)、DPC12.59g(0.0588モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物1.02×10
-3g(5.77×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.555dl/g、ガラス転移温度Tgは155℃であった。5%熱重量減少温度Td5は357℃であった。屈折率を20℃で測定するとnC=1.509、nD=1.513、ne=1.515、nF=1.522であり、アッベ数νDは39であった。飽和吸水率は1.5%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図3に示す。
【0260】
[実施例7]
IN88 6.80g(0.0153モル)、CHDM6.62g(0.0459モル)、DPC13.36g(0.0624モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物2.70×10-4g(1.53×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.720dl/g、ガラス転移温度Tgは141℃であった。5%熱重量減少温度Td5は357℃であった。屈折率を20℃で測定するとnC=1.500、nD=1.503、ne=1.505、nF=1.510であり、アッベ数νDは50であった。飽和吸水率は1.4%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。
【0261】
[実施例8]
IN88 5.79g(0.0130モル)、CHDM7.52g(0.0521モル)、DPC14.52g(0.0678モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物2.86×10-4g(1.62×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.963dl/g、ガラス転移温度Tgは127℃であった。5%熱重量減少温度Td5は358℃であった。飽和吸水率は1.1%で沸騰水試験では変形なく合格であった。
【0262】
[実施例9]
IN88 5.86g(0.0153モル)、トリシクロデカンジメタノール(以下「TCDDM」と略記する。)7.77g(0.0459モル)、DPC11.53g(0.0624モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物2.32×10-4g(1.32×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.501dl/g、ガラス転移温度Tgは144℃であった。5%熱重量減少温度Td5は364℃であった。屈折率を20℃で測定するとnC=1.520、nD=1.522、ne=1.525、nF=1.530であり、アッベ数νDは52であった。飽和吸水率は0.9%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。
【0263】
[実施例10]
IN88 2.86g(0.0064モル)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下「BPEF」と略記する。)11.30g(0.0258モル)、DPC7.04g(0.0329モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物5.68×10
-4g(3.22×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.740dl/g、ガラス転移温度Tgは175℃であった。5%熱重量減少温度Td5は381℃であったまた、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図4に示す。
【0264】
[実施例11]
IN89 3.47g(0.0073モル)、ISB 6.44g(0.0441モル)、CHDM 3.18g(0.0221モル)、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記する。)16.05g(0.0749モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物1.29×10
-3g(7.34×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌を行い、60分で220℃まで常圧で昇温して原料を溶解させた。
反応の第1段目の工程として、220℃を保って、圧力を常圧から13.3kPaまで40分で減圧した後、13.3kPaで60分保持し、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。第2段目の工程として、加熱槽温度を240℃まで20分で上昇させ、かつ、30分で圧力を0.200kPa以下になるように制御しながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を反応容器から取り出して、ポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.687dl/g、ガラス転移温度Tgは148℃であった。5%熱重量減少温度Td5は348℃であった。屈折率を20℃で測定するとnC=1.516、nD=1.518、ne=1.522、nF=1.526であり、アッベ数νDは52であった。光弾性係数は15×10
-12Pa
-1だった。飽和吸水率は2.4%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図5に示す。
【0265】
[実施例12]
IN89 6.01g(0.0129モル)、CHDM7.34g(0.0509モル)、DPC13.90g(0.0649モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物1.12×10
-3g(6.36×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例11と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.572dl/g、ガラス転移温度Tgは110℃であった。5%熱重量減少温度Td5は360℃であった。飽和吸水率は0.9%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度はHであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図6に示す。
【0266】
[実施例13]
IN89 7.91g(0.0167モル)、CHDM5.64g(0.0391モル)、DPC12.20g(0.0570モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物9.84×10
-4g(5.59×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例11と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.779dl/g、ガラス転移温度Tgは136℃であった。5%熱重量減少温度Td5は360℃であった。飽和吸水率は1.3%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図7に示す。
【0267】
[実施例14]
IN89 5.11g(0.0108モル)、TCDDM 8.49g(0.0433モル)、DPC11.186g(0.0551モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物9.52×10
-4g(5.40×10
-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例11と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.739dl/g、ガラス転移温度Tgは120℃であった。5%熱重量減少温度Td5は366℃であった。飽和吸水率は0.7%で沸騰水試験では変形なく合格であった。鉛筆硬度は2Hであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図8に示す。
【0268】
[実施例15]
IN88 1.65g(0.0037モル)、BPEF 6.52g(0.0149モル)、2Q 9.53g(0.0149モル) DPC 0.8g(0.0037モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物3.30×10
-2g(1.87×10
-4モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌を行い、60分で220℃まで常圧で昇温して原料を溶解させた。
反応の第1段目の工程として、220℃を保って、圧力を常圧から13.3kPaまで40分で減圧した後、13.3kPaで60分保持し、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。第2段目の工程として、加熱槽温度を240℃まで20分で上昇させ、かつ、30分で圧力を0.200kPa以下になるように制御しながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を反応容器から取り出して、ポリエステルカーボネート共重合体を得た。
得られたポリエステルカーボネート共重合体の還元粘度は0.289dl/g、ガラス転移温度Tgは154℃であった。5%熱重量減少温度Td5は396℃であった。鉛筆硬度はHであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図9に示す。
【0269】
[実施例16]
IN88 2.22g(0.0050モル)、ISB 4.38g(0.0300モル)、SPG 4.56g(0.0150モル) 2Q 3.84g(0.0060モル) DPC 9.51g(0.0444モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物6.60×10
-3g(3.75×10
-3モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例15と同様にしてポリエステルカーボネート共重合体を得た。
得られたポリエステルカーボネート共重合体の還元粘度は0.562dl/g、ガラス転移温度Tgは155℃であった。5%熱重量減少温度Td5は364℃であった。鉛筆硬度はHであった。また、このポリカーボネート共重合体のNMRスペクトルを
図10に示す。
【0270】
[比較例1]
DCMI 4.85g(0.0142モル)、ISB 5.21g(0.0357モル)、CHDM 3.08g(0.0214モル) DPC 15.89g(0.0742モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.14×10-4g(1.78×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.392dl/g、ガラス転移温度Tgは141℃であった。5%熱重量減少温度Td5は336℃であった。
【0271】
[比較例2]
DCMI 6.69g(0.0197モル)、CHDM 6.61g(0.0458モル)、DPC 14.59g(0.0681モル)、及び触媒として炭酸水素ナトリウム 5.50×10-5g(6.55×10-7モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.390dl/g、ガラス転移温度Tgは105℃であった。5%熱重量減少温度Td5は319℃であった。
【0272】
[比較例3]
DCMI 5.77g(0.0170モル)、TCDDM 7.76g(0.0395モル)、DPC 12.35g(0.0577モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 5.00×10-5g(2.84×10-7モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.275dl/g、ガラス転移温度Tgは100℃であった。
【0273】
[比較例4]
DCMI 4.88g(0.0143モル)、SPG 4.37g(0.0144モル)、DPC 6.40g(0.0299モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 6.02×10-5g(3.42×10-7モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入し、最終温度を250℃とした以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.201dl/g、ガラス転移温度Tgは136℃であった。5%熱重量減少温度Td5は346℃であった。
【0274】
[比較例5]
DCMI 3.52g(0.0103モル)、BPEF 10.58g(0.0241モル)、DPC 7.46g(0.0348モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 1.44×10-5g(8.17×10-8モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入し、最終温度を250℃とした以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.337dl/g、ガラス転移温度Tgは166℃であった。5%熱重量減少温度Td5は358℃であった。
【0275】
[比較例6]
DCMI 6.01g(0.0177モル)、1,10-DD 3.08g(0.0177モル)、DPC 7.64g(0.0357モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 1.56×10-4g(8.83×10-7モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.742dl/g、ガラス転移温度Tgは72℃であった。5%熱重量減少温度Td5は330℃であった。
【0276】
[比較例7]
DCMI 7.26g(0.0213モル)、1,6-HD 5.89g(0.0498モル)、DPC 15.40g(0.0719モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.13×10-4g(1.78×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は溶媒に溶けず測定できなかった。ガラス転移温度Tgは47℃であった。5%熱重量減少温度Td5は332℃であった。
【0277】
[比較例8]
IN44 3.41g(0.0116モル)、ISB 7.91g(0.0541モル)、CHDM 1.67g(0.0116モル)、DPC 17.22g(0.0804モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 1.70×10-3g(9.66×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.389dl/g、ガラス転移温度Tgは147℃であった。5%熱重量減少温度Td5は349℃であった。
【0278】
[比較例9]
IN45 3.29g(0.0117モル)、ISB 7.99g(0.0547モル)、CHDM 1.69g(0.0117モル)、DPC 17.41g(0.0813モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 1.72×10-3g(9.77×10-6モル)を0.2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.537dl/g、ガラス転移温度Tgは149℃であった。5%熱重量減少温度Td5は348℃であった。
【0279】
[比較例10]
IN58 10.249g(0.0341モル)、CHDM 3.28g(0.0227モル)、DPC 12.42g(0.0580モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 1.71×10-3g(1.71×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.393dl/g、ガラス転移温度Tgは143℃であった。5%熱重量減少温度Td5は367℃であった。
【0280】
[比較例11]
ISB 89.44g(0.612モル)、CHDM 37.63g(0.262モル)、DPC 191.05g(0.892モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.85×10-3g(2.19×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.615dl/g、ガラス転移温度Tgは121℃であった。
【0281】
[比較例12]
ISB 81.98g(0.561モル)、TCDDM 47.19g(0.240モル)、DPC 175.10g(0.817モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.53×10-3g(2.00×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.602dl/g、ガラス転移温度Tgは131℃であった。
【0282】
【0283】
【0284】
【0285】
【0286】
【0287】
表1~表5より理解されるように、構造単位Aを有する熱可塑性樹脂は、耐熱性と光学特性、機械物性、低吸水性、耐湿熱性にバランス良く優れている。例えば、実施例1と比較例1とを対比するに、各構造単位の含有比率が近いにもかかわらず、構造単位Aを有する実施例1の熱可塑性樹脂は際立って高いTgを有することがわかる。また、比較例1~10は、イノシトール誘導体に由来する構造単位を有する熱可塑性樹脂であるが、構造単位Aの部分構造である構造単位B又は構造単位Cを有していないため、耐熱性の点で構造単位Aを有する熱可塑性樹脂に劣る。
【0288】
[参考例1]
ISB 127.35g(0.612モル)、DPC 190.40g(0.892モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.84×10-3g(2.18×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入し、最終温度を250℃としたた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.538dl/g、ガラス転移温度Tgは164℃であった。
【0289】
[参考例2]
ISB 102.11g(0.6.99モル)、CHDM 25.19g(0.1.75モル)、DPC 190.83g(0.891モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.85×10-3g(2.18×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.585dl/g、ガラス転移温度Tgは133℃であった。
【0290】
[参考例3]
ISB 64.03g(0.6.99モル)、CHDM 63.199g(0.1.75モル)、DPC 191.48g(0.891モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.86×10-3g(2.19×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.605dl/g、ガラス転移温度Tgは100℃であった。
【0291】
[参考例4]
ISB 38.51g(0.264モル)、CHDM 88.66g(0.615モル)、DPC 191.91g(0.896モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.87×10-3g(2.20×10-5モル)を2質量%水溶液として反応容器に投入した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.566dl/g、ガラス転移温度Tgは74℃であった。
【0292】
[参考例5]
CHDM 127.09g(0.881モル)、DPC 192.56g(0.899モル)、及び触媒として酢酸カルシウム一水和物 3.88×10-3g(2.20×10-5モル)を2質量%水溶液とて反応容器に投入し、第一段の工程温度を210℃、最終温度を210℃とした以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体を得た。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.405dl/g、ガラス転移温度Tgは40℃であった。
【0293】
Flory-Foxの式に基づきホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した結果を表6に示した。
[計算例1]
Flory-Foxの式に基づき、実施例6~8、及び参考例5のデータをもとに、IN88のホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した。得られた計算値は、361℃であった。
【0294】
[計算例2]
Flory-Foxの式に基づき、実施例12、実施例13、及び参考例5のデータをもとに、IN89のホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した。得られた計算値は、271℃であった。
【0295】
[計算例3]
Flory-Foxの式に基づき、比較例11及び参考例2~5のデータをもとに、ISBのホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した。得られた計算値は、169℃であった。実際に、参考例1において製造したISBホモポリカーボネートのガラス転移温度を測定した結果、実測値は164℃であった。計算値と実測値とはよく一致しており、Flory-Foxの式に基づいて、ホモポリカーボネートのガラス転移温度を精度よく推定できることがわかる。
【0296】
[計算例4]
Flory-Foxの式に基づき、計算例1と同様の方法にてDCMIのホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した。得られた計算値は250℃であった。
【0297】
[計算例5]
Flory-Foxの式に基づき、計算例1と同様の方法にてIN44のホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した。得られた計算値は177℃であった。
【0298】
[計算例6]
Flory-Foxの式に基づき、計算例1と同様の方法にてIN45のホモポリカーボネートのガラス転移温度を推定した。得られた計算値は178℃であった。
【0299】
尚、表6において、各モノマーに由来する構造単位の重量割合は、1つのカルボニル基(連結基)を含む繰り返し構造単位として計算した。
【0300】
【0301】
【0302】
表6、表7より理解されるように、構造単位Aを有する熱可塑性樹脂のホモポリカーボネートのTgの計算値は、構造単位Aを有しない熱可塑性樹脂のホモポリカーボネートのTgの計算値に比べて際立って高い。構造単位Aを有する熱可塑性樹脂のホモポリカーボネートは極めて優れた耐熱性を有すると推測される。
また、本開示からわかるように、イノシトールは、6個の水酸基を持つ多価アルコールであるが、水酸基の立体配置や結合の仕方により、より高次の環状化合物が誘導される。その結果、非常に高い耐熱性を示すジヒドロキシ化合物が誘導されることがわかる。誘導されたジヒドロキシ化合物を適宜選ぶことにより、ポリカーボネート樹脂に代表される熱可塑性樹脂の耐熱性、吸水性、耐湿熱性などの物性を制御できる。このように、イノシトールは天然物モノマー原料としての応用性が広いことがわかる。