(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】非晶性樹脂延伸多孔体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEZ
(21)【出願番号】P 2020152335
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆敏
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-232044(JP,A)
【文献】特開2004-082372(JP,A)
【文献】国際公開第02/028949(WO,A1)
【文献】特開2009-104834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有
し、かつ、熱可塑性エラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる多孔層を少なくとも一層有する、延伸多孔体。
【請求項2】
前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の延伸多孔体。
【請求項3】
前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である、請求項2に記載の延伸多孔体。
【請求項4】
前記延伸多孔体の空孔率が15%以上80%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項5】
少なくとも一方の方向における、0℃~100℃の線膨張係数が70ppm/℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項6】
測定周波数10GHzにおける比誘電率が2.5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項7】
測定周波数10GHzにおける誘電正接が0.0060以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項8】
測定周波数28GHzにおける比誘電率が2.5以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項9】
測定周波数28GHzにおける誘電正接が0.0060以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項10】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、前記樹脂組成物中に、0.1質量%以上50質量%以下含有される、請求項
1~9のいずれか1項に記載の延伸多孔体。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の延伸多孔体を用いてなる電子部材。
【請求項12】
非晶性樹脂(A)を50質量%以上
含有し、かつ、熱可塑性エラストマー(B)を含有する樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化して、前記樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有する成形体に成形する工程(a)と、
前記工程(a)で成形した成形体を、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上低い温度で延伸する工程(b)と、をこの順で有する、延伸多孔体の製造方法。
【請求項13】
前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項
12に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項14】
前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である、請求項
13に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項15】
前記成形体は、シート状物、繊維状物、及び、中空状物からなる群から選ばれるいずれかである、請求項
12~
14のいずれか1項に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、前記樹脂組成物中に、0.1質量%以上50質量%以下含有される、請求項
12~15のいずれか1項に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項17】
前記工程(b)において、延伸温度が60℃以上160℃以下である請求項12~
16のいずれか1項に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項18】
前記工程(b)の後、さらに、工程(b)における延伸温度よりも高い温度で延伸する工程(c)を有する、請求項
12~
17のいずれか1項に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項19】
前記工程(c)における延伸温度が、前記工程(b)における延伸温度よりも高く、かつ、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)の±15℃以内である、請求項
18に記載の延伸多孔体の製造方法。
【請求項20】
前記工程(c)における延伸温度が、前記工程(b)における温度よりも高く、かつ、160℃以上260℃以下である、請求項
18または
19に記載の延伸多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶性樹脂を用いた延伸多孔体に関する。より詳細には、包装用、衛生用、畜産用、農業用、建築用、医療用、分離膜、水処理膜、光拡散板、断熱材、緩衝材、フォーム材、セパレータ、低誘電率部材として利用でき、特に、フレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板などの電子部材に用いられる低誘電率部材、及び、該低誘電率部材を用いてなる電子部材に好適に利用できる非晶性樹脂を用いた延伸多孔体、該延伸多孔体を用いた電子部材、及び該延伸多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の微細連通孔を有する高分子多孔体は、超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜、衣類・衛生材料などに使用する防水透湿性フィルム、アルカリ電池、ニッケル金属水素化物電池、リチウム電池、リチウムイオン二次電池といった電池や、電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ、リチウムイオンキャパシタといったコンデンサなどの電子部材に使用するセパレータ、モバイル機器などの電子部材に使用されるフォーム材、フレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板などの電子部材に用いられる低誘電率部材など、各種の分野で利用されている。
【0003】
分離膜に用いられる高分子多孔体においては、機械強度や透水性能と共に、次亜塩素酸耐性やアルカリ耐性などといった化学的耐久性が求められる。また、セパレータやフォーム材、低誘電率部材といった電子部材に用いられる高分子多孔体には、多孔性能と共に、高い耐熱性能が求められる。また、近年の電子部材では、多量の情報の高速処理化に対応するため、電気的特性として、さらなる低誘電率化、低誘電正接化が求められている。そのため、機械強度、化学的耐久性、耐熱性、電気特性において優れた特徴を有するポリフェニレンエーテル系樹脂を多孔化する試みがなされている。
【0004】
一方、高分子多孔体の製造方法としては、発泡法、湿式法、乾式法などが挙げられる。また、繊維の集合体として不織布状の多孔体を製造する方法が挙げられる。
【0005】
発泡法は、樹脂を押出機に供給して溶融混錬すると共に押出機内に揮発性発泡剤を圧入したり、樹脂を発泡剤と共に押出機にて溶融混錬したりすることで、口金から押出して発泡させる製造方法であり、例えば、特許文献1には、発泡法にて検討された変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の発泡シートを内部に有する自動車内装材用発泡シートが開示されている。
【0006】
また、湿式法は、樹脂を良溶媒に溶解し、溶液を流延した後、貧溶媒に接触させて多孔層を形成する製造方法であり、例えば、特許文献2には、150℃以上のガラス転移温度をもつ非晶性高分子からなる中央部に比べて孔径の小さい空孔を表面部に備えるセパレータが開示されており、実施例において、湿式法を用いたポリフェニレンエーテルの多孔化について記載されている。
また、特許文献3においても、融点が150℃以下の樹脂からなる多孔質膜Aとガラス転移温度が150℃よりも高い樹脂からなる多孔質膜Bとが一体化された複合多孔質膜が開示されており、該多孔質膜Bは、湿式法にて多孔化が検討されている。さらには、特許文献4には、ポリフェニレンエーテルを50質量%以上含んだ多孔性支持膜の表面に分離層を有する複合分離膜が開示されており、該多孔性支持膜は湿式法にて多孔化が検討されている。
【0007】
また、繊維の集合体として不織布状の多孔体を製造する方法としては、溶融または溶解によって紡糸された連続繊維を動くスクリーン上に積層し繊維を結合するスパンボンド法や、高分子溶液を電極間で形成された静電場中にノズル等を用いて吐出することで、静電気力にて溶液を細化・固化させて、極細繊維状物を堆積させる静電紡糸法などがある。
特許文献5には、熱可塑性樹脂からなる多孔層とポリフェニレンエーテルからなる多孔層を含む多層多孔膜が開示されており、該ポリフェニレンエーテルからなる多孔層は静電紡糸法にて検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-88873号公報
【文献】特開2000-138048号公報
【文献】特開2007-125821号公報
【文献】WO2014/054346国際公報
【文献】特開2009-104834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている発泡シートでは、多孔化に発泡剤を用いているため、孔径や孔径分布の制御が難しく多孔構造に不均一性が生じやすい。また、得られる多孔構造の孔径は、比較的大きく、分離膜や電子部材用多孔体に求められる緻密な多孔構造を形成しづらい。
【0010】
特許文献2~4に開示されているセパレータ、複合多孔質膜、多孔性支持膜などの多孔体では、湿式法により多孔化されているため、多量の良溶媒、貧溶媒を使用し、その他の成分を除去する工程を含むため、溶媒や添加剤の回収のための設備が必要となり、生産性を著しく低下させる。また、特許文献5に開示されている多層多孔膜においても、静電紡糸法にてポリフェニレンエーテルからなる多孔層を堆積させるため、湿式法同様、多量の溶媒が必要になると共に、ノズルとコレクター間に高電圧を掛け、溶媒を揮発させながら、繊維を堆積させるという特殊な工程から、ライン速度の増速などに困難が生じ、生産性を著しく低下させる。
【0011】
一方、多孔体の製造方法としては、乾式法が生産性の観点において好ましい。乾式法は、樹脂組成物の成形を行い、その後、延伸にて、結晶-結晶ラメラ間や、無機充填剤-樹脂との界面といった構造的に弱い個所を開裂させ微細孔を形成する方法である。しかしながら、ポリフェニレンエーテル系樹脂などの非晶性樹脂の多孔化において、乾式法を用いる場合、延伸によって形成させたクラックの伝播を、成形体の流れ方向、幅方向、厚さ方向の成形体内で停止させる要素がないため、従来の乾式多孔化では延伸中に破断してしまい、良好な多孔体が得られなかった。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、高い生産性をもって、優れた多孔特性、透気特性、耐熱性、機械特性、電気特性を有する非晶性樹脂延伸多孔体、及び該延伸多孔体の製造方法を提供することを目的とする。また、該延伸多孔体を用いた電子部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記の課題を鑑みて鋭意検討を進めた結果、非晶性樹脂を50質量%以上含有する樹脂組成物からなる多孔層を少なくとも一層有する延伸多孔体が、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物からなる多孔層を少なくとも一層有する、延伸多孔体。
[2] 前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の延伸多孔体。
[3] 前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である、[2]に記載の延伸多孔体。
[4] 前記延伸多孔体の空孔率が15%以上80%以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[5] 少なくとも一方の方向における、0℃~100℃の線膨張係数が70ppm/℃以下である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[6] 測定周波数10GHzにおける比誘電率が2.5以下である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[7] 測定周波数10GHzにおける誘電正接が0.0060以下である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[8] 測定周波数28GHzにおける比誘電率が2.5以下である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[9] 測定周波数28GHzにおける誘電正接が0.0060以下である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[10] 前記樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー(B)を含有する、[1]~[9]のいずれか一つに記載の延伸多孔体。
[11] 前記熱可塑性エラストマー(B)が、前記樹脂組成物中に、0.1質量%以上50質量%以下含有される、[10]に記載の延伸多孔体。
[12] [1]~[11]のいずれか一つに記載の延伸多孔体を用いてなる電子部材。
[13] 非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化して、前記樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有する成形体に成形する工程(a)と、前記工程(a)で成形した成形体を、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上低い温度で延伸する工程(b)と、をこの順で有する、延伸多孔体の製造方法。
[14] 前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[13]に記載の延伸多孔体の製造方法。
[15] 前記非晶性樹脂(A)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂である、[14]に記載の延伸多孔体の製造方法。
[16] 前記成形体は、シート状物、繊維状物、及び、中空状物からなる群から選ばれるいずれかである、[13]~[15]のいずれか一つに記載の延伸多孔体の製造方法。
[17] 前記樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー(B)を含有する、[13]~[16]のいずれか一つに記載の延伸多孔体の製造方法。
[18] 前記熱可塑性エラストマー(B)が、前記樹脂組成物中に、0.1質量%以上50質量%以下含有される、[17]に記載の延伸多孔体の製造方法。
[19] 前記工程(b)において、延伸温度が60℃以上160℃以下である、[13]~[18]のいずれか一つに記載の延伸多孔体の製造方法。
[20] 前記工程(b)の後、さらに、工程(b)における延伸温度よりも高い温度で延伸する工程(c)を有する、[13]~[19]のいずれか一つに記載の延伸多孔体の製造方法。
[21] 前記工程(c)における延伸温度が、前記工程(b)における延伸温度よりも高く、かつ、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)の±15℃以内である、[20]に記載の延伸多孔体の製造方法。
[22] 前記工程(c)における延伸温度が、前記工程(b)における温度よりも高く、かつ、160℃以上260℃以下である、[20]または[21]に記載の延伸多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた多孔構造、透気特性、耐熱性、機械特性、電気特性を有する非晶性樹脂延伸多孔体を高い生産性をもって提供することができる。特にこの延伸多孔体は、優れた機械特性および電気特性を両立しているため、電子部材としての利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】走査型電子顕微鏡による、実施例1で作製した延伸多孔フィルムの表面、及び断面観察写真である。
【
図2】走査型電子顕微鏡による、実施例1で作製した延伸多孔フィルムの拡大した表面、及び断面観察写真である。
【
図3】走査型電子顕微鏡による、実施例2で作製した延伸多孔フィルムの表面、及び断面観察写真である。
【
図4】走査型電子顕微鏡による、実施例2で作製した延伸多孔フィルムの拡大した表面、及び断面観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例としての非晶性樹脂延伸多孔体(以下、「本多孔体」ともいう。)について詳細に説明する。但し、本発明の範囲は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
なお、本明細書において、「主成分」とは、構成する成分の合計を100質量%したとき、もっとも多い質量%を占める成分であることを示し、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
また、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0019】
<本多孔体>
本多孔体は、非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある。)からなる多孔層を少なくとも一層有する、延伸多孔体である。ここで、「延伸多孔体」とは、少なくとも一軸方向に延伸されている多孔体をいう。
【0020】
本多孔体の形状としては特に制限はないが、シート状物、繊維状物、及び中空状物からなる群より選ばれる一種の成形物が挙げられる。「シート状物」とは、厚い(mmオーダー)プレートから薄い(μmオーダー)フィルムまでを含み、また、「繊維状物」とは、太いロッドから細い糸までを含み、また「中空状物」とは、太いパイプから細いチューブ、中空繊維、インフレーションフィルム等を意味する。勿論、インフレーションフィルムをカットしたシート状物も含む。
【0021】
本多孔体は、後述する樹脂組成物からなる多孔層を少なくとも一層有していればよい。すなわち、本多孔体は前記樹脂組成物からなる多孔層のみで形成しても良く、他の層と積層して形成しても良い。
また、本多孔体がシート状物の場合は、シート状物の厚さ方向に積層された積層シート状多孔体でもよく、繊維状物の場合は、いわゆる芯鞘構造状多孔体でもよく、中空状物の場合は、中空体の径方向に積層された多孔体でもよい。特に、本多孔体を電子部材に用いる場合、シート状物が好ましい。
【0022】
さらに、本多孔体において樹脂組成物からなる多孔層は、少なくとも一軸方向に延伸されていることが重要である。好ましい態様としては、樹脂組成物からなる多孔層が少なくとも一軸方向、好ましくは二軸方向に延伸されることによって、当該層が多孔化し、本多孔体が優れた多孔特性を有するものである。
【0023】
本多孔体を電子部材として用いる場合、シート状物としての本多孔体の厚さは、1μm~400μmが好ましく、5μm~300μmがより好ましく、10~200μmがさらに好ましい。電子部材として使用する場合、厚さが1μm以上であれば、実質的に必要な電気絶縁性を得ることができ、例えば大きな電圧がかかった場合にも短絡しにくく安全性に優れる。
また、厚さが400μm以下、好ましくは300μm以下であれば、電子部材の薄膜軽量化などを確保しやすい。
【0024】
本多孔体の透気度は、1秒/100mL以上60,000秒/100mL以下が好ましく、1秒/100mL以上40,000秒/100mL以下がより好ましく、1秒/100mL以上10,000秒/100mL以下がさらに好ましい。透気度が1秒/100mL以上60,000秒/100mL以下であれば、多孔体に連通性があることを示し、優れた透気特性を示すことができるため好ましい。
透気度は厚さ方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mLの空気が当該多孔体を通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方が厚さ方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方が厚さ方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは厚さ方向の孔のつながりである。本多孔体の透気度が低ければ様々な用途に使用することができる。なお、透気度は後述の実施例の項に測定方法が記載されている。
【0025】
本多孔体の空孔率は15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。空孔率が15%以上であれば、連通性を確保し透気特性に優れた多孔体とすることができる。また、本多孔体の比誘電率や誘電正接を小さくすることができ、伝送損失を低下させることができるため好ましい。
一方、空孔率の上限については80%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。空孔率が80%以下であれば、微細孔が増えすぎて本多孔体の強度が低下しすぎる問題もなくなり、ハンドリングの観点からも好ましい。なお、空孔率は後述の実施例の項に測定方法が記載されている。
【0026】
本多孔体において、少なくとも一方の方向における、引張破断応力Eは5MPa以上100MPa以下が好ましく、8MPa以上90MPa以下がより好ましく、11MPa以上80MPa以下が更に好ましい。引張破断応力についての説明を以下に詳述する。
本多孔体において、例えば、流れ方向(以下「MD」と記載する場合がある。)の引張破断応力EMDは5MPa以上100MPa以下が好ましく、8MPa以上90MPa以下がより好ましく、11MPa以上80MPa以下が更に好ましい。前記EMDが5MPa以上100MPa以下であれば、種々の用途での使用において多孔体が破断することを抑制することができる。
また、本多孔体がシート状物である場合、前記シート状物の幅方向(以下「TD」と記載する場合がある。)の引張強度ETDは5MPa以上100MPa以下が好ましく、8MPa以上90MPa以下がより好ましく、11MPa以上80MPa以下が更に好ましい。また、EMDとETDとの比(EMD/ETD)が0.2以上5以下であることが好ましく、0.3以上3以下がより好ましい。前記EMD/ETDを上記範囲に調整することで、多孔体の引き裂きによる破損を抑制することができる。
【0027】
また、本多孔体において、少なくとも一方の方向における、0℃~100℃の線膨張係数は70ppm/℃以下であることが好ましく、65ppm/℃以下であることがより好ましく、60ppm/℃以下であることがさらに好ましい。線膨張係数についての説明を以下に詳述する。
本多孔体において、例えば、流れ方向(MD)における、0℃~100℃の線膨張係数は70ppm/℃以下であることが好ましく、65ppm/℃以下であることがより好ましく、60ppm/℃以下であることがさらに好ましい。流れ方向(MD)における、0℃~100℃の線膨張係数が70ppm/℃以下であることにより、本多孔体を高温雰囲気下で使用する際の寸法安定性に優れるため好ましい。特に、本多孔体を電子部材用途に用いる際、銅箔などの金属と積層させる場合、加熱時におけるカールや剥離といった積層対象物との線膨張係数の差による不具合を抑制できるため好ましい。
また、本多孔体がシート状物である場合、前記シート状物の幅方向(TD)における、0℃~100℃の線膨張係数は70ppm/℃以下であることが好ましく、65ppm/℃以下であることがより好ましく、60ppm/℃以下であることがさらに好ましい。幅方向(TD)における、0℃~100℃の線膨張係数が70ppm/℃以下であることにより、本多孔体を高温雰囲気下で使用する際の寸法安定性に優れるため好ましい。特に、本多孔体を電子部材用途に用いる際、銅箔などの金属と積層させる場合、加熱時におけるカールや剥離といった積層対象物との線膨張係数の差による不具合を抑制できるため好ましい。
ここで線膨張係数は、以下のようにして測定する。
引張プローブを用いて、-10℃から5℃/分にて300℃まで昇温した時のMD、及びTDにおける寸法変化を確認する。その後、得られた寸法変化のプロファイルより、0℃~100℃における寸法変化量ΔL(mm)と、初期寸法L(mm)より算出した歪(=ΔL/L)を、温度変化量(ΔT=100℃)にて割った値を0℃~100℃における線膨張係数として算出する。
【0028】
本多孔体の測定周波数10GHzにおける比誘電率は2.5以下であることが好ましく、2.4以下であることがより好ましく、2.3以下であることがさらに好ましい。
本多孔体をフレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板などの電子部材に用いる場合、情報処理の高速化のため、信号伝播速度を高速にすることが求められる。信号伝播速度Vは、比例定数k1、光速c、及び基板材料の比誘電率εrより、V=k1×c/εr
1/2で表される。したがって、本多孔体の測定周波数10GHzにおける比誘電率が2.5以下であることにより、本多孔体を電子部材に用いたときの信号伝播速度の高速化が可能となるため好ましい。
【0029】
また、本多孔体の測定周波数10GHzにおける誘電正接は0.0060以下であることが好ましく、0.0055以下であることがより好ましく、0.0050以下であることがさらに好ましい。
本多孔体をフレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板などの電子部材に用いる場合、情報処理量の増大や、使用周波数帯の高周波数化に伴い、信号は電子部材中において熱エネルギーに変換されやすくなり、信号の伝送損失が大きくなる。信号の伝送損失αは、比例定数k2、周波数f、及び基板材料の比誘電率εr、基板材料の誘電正接tanδより、α=k2×f×εr
1/2×tanδで表される。したがって、本多孔体の測定周波数10GHzにおける誘電正接が0.0060以下であることにより、本多孔体を電子部材に用いたときの伝送損失の低減が可能となるため好ましい。
【0030】
本多孔体の測定周波数28GHzにおける比誘電率は2.5以下であることが好ましく、2.4以下であることがより好ましく、2.3以下であることがさらに好ましい。
上述の通り、比誘電率を小さくすることにより、信号伝播速度を向上させ、伝送損失を抑制することが可能となる。一方で、近年の通信量の増大、情報処理速度の向上の要求より、従来使用されてきた周波数2GHz以下の極超短波UHF帯から、3~30GHzのマイクロ波SHF帯などの高周波数域の情報通信利用がなされてきている。上述の伝送損失の式に示すように、周波数が高くなると伝送損失も大きくなる。したがって、本多孔体の測定周波数28GHzにおける比誘電率が2.5以下であることにより、本多孔体を電子部材に用いたときの高周波数の使用においても伝送損失の低減が可能となるため好ましい。
【0031】
また、本多孔体の測定周波数28GHzにおける誘電正接が0.0060以下であることが好ましく、0.0055以下であることがより好ましく、0.0050以下であることがさらに好ましい。上述の通り、周波数が高くなると伝送損失も大きくなる。本多孔体の測定周波数28GHzにおける誘電正接が0.0060以下であることにより、本多孔体を電子部材に用いたときの高周波数の使用においても伝送損失の低減が可能となるため好ましい。
ここで、比誘電率、及び、誘電正接は、JIS R1641(2007年)に準拠し、室温26℃、湿度40%にて、AET社製空洞共振器(TEモード)を用いて、それぞれの測定周波数にて測定したものである。
【0032】
なお、本多孔体の構造的特徴について、後述する本多孔体を構成する樹脂組成物や本多孔体の製造方法によっても変化するが、本多孔体の特徴的な多孔構造として、内部構造にクレーズを有することが挙げられる。クレーズは、本多孔体を構成する樹脂組成物を延伸によって塑性変形する際に生じたものと考えられており、微視的損傷として観察される。
後述する本多孔体の製造方法によれば、延伸方向と直交する方向へクレーズが伝播した構造形態が見られることが、本多孔体の多孔構造の特徴として挙げられる。
例えば、本多孔体がシート状物であり、流れ方向(MD)に延伸された延伸多孔体である場合、該シート状物の表面においては、シート状物の幅方向(TD)にクレーズが伝播した構造形態が確認される場合が多い。また、延伸方向と平行する該シート状物の断面(MD断面)においても、シート状物の厚さ方向(以下、「THD」と記載する場合がある。)にクレーズが伝播した構造形態が確認される場合が多い。
クレーズは走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などにより確認することができる。
【0033】
以下に、本多孔体を構成する樹脂組成物の各成分について説明する。
【0034】
<非晶性樹脂(A)>
本多孔体を構成する樹脂組成物は、非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有することが重要である。前記樹脂組成物に含まれる非晶性樹脂(A)は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0035】
本発明に用いる非晶性樹脂(A)としては、非晶性であれば特に限定されず、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂などが好適に挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの非晶性樹脂(A)のうち、誘電特性の観点からポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましい。
【0036】
本発明に好適に用いられるポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を主たる繰り返し単位とする単独重合体、または、共重合体である。ここで、主たる繰り返し単位とは、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂を構成する全繰り返し単位のうち、50モル%以上の割合で含まれる繰り返し単位をいう。また、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上のポリフェニレンエーテル系樹脂をブレンドしてもよい。
【0037】
【0038】
一般式(1)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1~4の置換基を有していてもよいアルキル基、炭素数6~12のアリール基、ハロゲン原子及び水素原子からなる群から選ばれる一価の残基である。置換基としては、水酸基、ハロゲン原子などが挙げられる。
また、R3及びR4は水素原子が好ましく、したがって、ポリフェニレンエーテル系樹脂(A)は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を主たる繰り返し単位とすることが好ましい。
【0039】
【0040】
なお、一般式(2)において、R1、R2は上記と同じである。
中でも、一般式(2)においてR1及びR2は炭素数1~4の置換基を有していてもよいアルキル基、炭素数6~8のアリール基、ハロゲン原子が好ましい。
【0041】
本発明に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂の単独重合体を例示すると、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジブロモ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-クロロ-6-メチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-ブロモ-6-メチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-クロロ-6-ブロモ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-クロロ-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-ブロモ-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレン)エーテル等が挙げられる。中でも、原料入手の容易性及び加工性の観点から、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルが好ましい。
【0042】
本発明に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂の共重合体を例示すると、例えば、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体、2,6-ジメチルフェノールとo-クレゾールとの共重合体、及び2,3,6-トリメチルフェノールとo-クレゾールとの共重合体といった、ポリフェニレンエーテル構造を主体とするものが挙げられる。中でも、原料入手の容易性及び加工性の観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂の共重合体を用いる場合は、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体を用いることが好ましい。
【0043】
また、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、上記一般式(1)以外の他の種々のフェニレンエーテル単位を含んでいてもよい。一般式(1)以外の他の種々のフェニレンエーテル単位としては、以下に限定されるものではないが、例えば、特開平01-297428号公報又は特開昭63-301222号公報に記載されている、2-(ジアルキルアミノメチル)-6-メチルフェニレンエーテル単位や、2-(N-アルキル-N-フェニルアミノメチル)-6-メチルフェニレンエーテル単位等が挙げられる。前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリフェニレンエーテルの主鎖中にジフェノキノン等に由来する繰り返し単位が少量結合していてもよい。
【0044】
また、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリフェニレンエーテルを構成する構成単位の一部又は全部を官能化剤と反応(変性)させた官能化ポリフェニレンエーテルを含んでいてもよいし、官能化ポリフェニレンエーテルであってもよい。上記官能化ポリフェニレンエーテルの官能基としては、アシル基(例えば、カルボキシル基、酸無水物基、酸アミド基、イミド基、カルボン酸アンモニウム塩に由来する基等)、アミド基、オルトエステル基、及びヒドロキシ基などが挙げられる。
【0045】
上記官能化ポリフェニレンエーテルとしては、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸又は酸無水物との混合物を溶融混練することにより得られる官能化ポリフェニレンエーテルが好ましく、ポリフェニレンエーテルと無水マレイン酸との混合物を溶融混練することにより得られる無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテルがより好ましい。上記無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテルは、例えば、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.1~5質量部の無水マレイン酸を二軸押出機に投入し、270~335℃の温度で溶融混練して得ることができる。
【0046】
前記非晶性樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、40,000以上400,000以下が好ましく、50,000以上300,000以下がより好ましく、60,000以上200,000以下がさらに好ましい。また、前記非晶性樹脂(A)の数平均分子量Mnは、5,000以上200,000以下が好ましく、10,000以上150,000以下がより好ましく、20,000以上100,000以下がさらに好ましい。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn値)は、成形加工性の観点から、1.0以上が好ましく、機械的物性の観点から、5.5以下が好ましく、より好ましくは1.5~4.5、更に好ましくは2.0~4.5である。なお、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による、ポリスチレン換算分子量から得られる。
【0047】
前記非晶性樹脂(A)の還元粘度は、機械的物性の観点から、0.25dL/g以上であることが好ましく、成形加工性の観点から0.65dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.27~0.63dL/gであり、更に好ましくは0.30~0.60dL/g、特に好ましくは0.33~0.55dL/gである。なお、還元粘度は、0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管を用いて測定することができる。
【0048】
前記非晶性樹脂(A)のガラス転移温度は、構成される単量体比率に応じて決定され得るものであるが、本多孔体を電子部材に用いる場合は、必要とされる耐熱性の観点から、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。
ここで、ガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)を用いて、樹脂約10mgを加熱速度10℃/分で0℃~280℃まで昇温し、280℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で280℃まで再昇温したときに測定されたサーモグラムプロファイルのベースラインシフト部の中間温度(℃)である。
【0049】
本多孔体を構成する樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂に代表される非晶性樹脂(A)以外に含まれるものとして後述する、熱可塑性エラストマー(B)、ポリスチレン系樹脂(C)、難燃剤(D)が挙げられる。また、前記非晶性樹脂(A)に含有可能なその他の添加剤として、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線(UV)吸収剤、界面活性剤、滑剤、充填剤、ポリマー添加剤、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、ヒドロパーオキサイド、パーオキシケタール、無機充填材(タルク、カオリン、ゾノトライト、ワラストナイト、酸化チタン、チタン酸カリウム、炭素繊維、ガラス繊維等)、無機充填材と樹脂との親和性を高める為の公知のシランカップリング剤、滴下防止効果を示すフッ素系ポリマー、可塑剤(オイル、低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)及び、三酸化アンチモン等の難燃助剤、カーボンブラック等の着色剤、帯電防止剤、各種過酸化物、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の金属系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤、光安定剤等も挙げられる。また、前記非晶性樹脂(A)に熱可塑性エラストマー(B)や、上記添加剤が含有された市販の樹脂組成物(例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物)を用いることもできる。
【0050】
<熱可塑性エラストマー(B)>
本多孔体を構成する樹脂組成物は、熱可塑性エラストマー(B)を含有することが好ましい。また、前記熱可塑性エラストマー(B)の含有率は、本多孔体を構成する樹脂組成物100質量%に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
前記樹脂組成物に、前記熱可塑性エラストマー(B)が0.1質量%以上含まれることにより、前記樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸して孔構造を形成させる際に、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂等の非晶性樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との界面への応力集中が生じ、孔の起点(クレーズ)を発生させやすくなるため好ましい。また、前記熱可塑性エラストマー(B)は、生じたクレーズの伝播を樹脂組成物内で停止する役割を果たし、本多孔体の製造において破断などのトラブルを生じにくくするため好ましい。また、前記熱可塑性エラストマー(B)が50質量%以下含まれることにより、得られる多孔体の耐熱性を維持しやすいため好ましい。
【0051】
また、前記熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量Mwは、150,000以上が好ましく、160,000以上1,000,000以下がより好ましく、170,000以上800,000以下がさらに好ましく、180,000以上600,000以下が特に好ましい。
また、熱可塑性エラストマー(B)の数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(分子量分布)Mw/Mnは、1.00以上2.00以下が好ましく、1.00以上1.80以下がより好ましく、1.00以上1.50以下がさらに好ましい。
【0052】
前記熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量Mwは、150,000以上であることが好ましい理由としては、前記非晶性樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)を含む樹脂組成物からなる層を少なくとも一軸方向に延伸して多孔化する際、延伸前の樹脂組成物において、前記非晶性樹脂(A)を主成分としてなるマトリックスに対し、前記熱可塑性エラストマー(B)が、粒子状のドメインとして存在しやすくなり、均一な多孔構造と優れた透気特性を有する多孔体を得やすくなる為である。
【0053】
一般に、マトリックス/ドメインの海島構造を有する樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化させる場合、口金、もしくはノズル等の賦形設備より押し出されて流れる樹脂組成物を、キャストロール(冷却ロール)や空冷、水冷等の冷却固化設備により冷却固化する。その際、賦形設備と冷却固化設備の間のギャップ(間隙)において樹脂組成物が溶融伸長するため、ドメインである熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量Mwが小さい場合、ドメインが流れ方向(押出方向)に伸長した樹脂組成物が得られやすい。
このドメインが流れ方向(押出方向)に伸長した樹脂組成物を延伸する際に、変形により付与される応力が樹脂組成物全体に均一に加わりやすくなり、マトリックス/ドメインの界面への応力集中を妨げやすい。これは、ドメインが予め伸長していることにより、応力を受ける界面の断面積が小さい為である。
【0054】
一方、ドメインの重量平均分子量Mwが大きい場合、ドメインが溶融伸長の影響を受け難く、得られる延伸前の樹脂組成物内のドメインは粒子状を保ちやすい。そのため、得られた樹脂組成物を延伸する際に、変形により付与される応力がマトリックス/ドメインの界面に集中しやすく、また、応力を受ける界面の断面積も大きくなるため、界面剥離が生じやすく、その結果として均一な多孔構造を形成しやすくなる。
【0055】
また、熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量Mwが150,000よりも小さい場合、得られる多孔体から、熱可塑性エラストマー(B)がブリードアウトしやすく、その結果、経時劣化が促進されやすい。
【0056】
また、熱可塑性エラストマー(B)の数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwの比(分子量分布)Mw/Mnが、前記好適範囲の場合、形成されるドメインの分散径が均一になりやすいため好ましい。
【0057】
なお、本発明において、熱可塑性エラストマー(B)の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、JIS K7252-1(2008年)に基づき、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による、ポリスチレン換算分子量から得られる。
【0058】
また、前記熱可塑性エラストマー(B)の温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、30g/10分以下が好ましく、10g/10分以下がより好ましく、5g/10分以下がさらに好ましく、1g/10分以下がさらに好ましく、流動しないことが最も好ましい。
【0059】
前述の通り、前記樹脂組成物に前記熱可塑性エラストマー(B)を含む場合、前記非晶性樹脂(A)を主成分としてなるマトリックスに対し、ドメインとして存在する前記熱可塑性エラストマー(B)が粒子状に存在することが、均一な多孔構造と優れた透気特性を有する多孔体を得るに当たり好ましい。
そのため、前記熱可塑性エラストマー(B)の温度230℃、荷重2.16kgにおけるMFRが、30g/10分以下の場合、ドメインである熱可塑性エラストマー(B)が流れ方向(押出方向)に伸張し難く、得られる延伸前の樹脂組成物内のドメインは粒子状を保ちやすいため、好ましい。
前記熱可塑性エラストマー(B)のMFRはJIS K7210-1(2014年)に基づき測定される。
【0060】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー(B)とは、アミド系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、動的加硫系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーや、アクリル系熱可塑性エラストマー、乳酸系熱可塑性エラストマー、ジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、アイオノマー、及び、これらのブレンドやアロイ、変性物、動的架橋物であり、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体、コアシェル型多層構造ゴムなども含まれる。
中でも、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ジエン系熱可塑性エラストマーが好ましく、特に、粘度や相溶性の観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ジエン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0061】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、スチレン系熱可塑性エラストマーである場合、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-(エチレン-プロピレン)-スチレン共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体、及び、これらの変性体や、水添体、側鎖にスチレン構造を有するグラフト共重合体、スチレン構造を有するコアシェル型多層構造ゴム等が好適に用いることができ、2種以上のブレンド物でもよい。中でも、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-(エチレン-プロピレン)-スチレン共重合体、スチレン構造を有するコアシェル型多層構造ゴムが好ましい。
【0062】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、スチレン系熱可塑性エラストマーである場合、前記スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は、1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。前記スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は、2質量%以上85質量%以下がより好ましく、3質量%以上80質量%以下がさらに好ましく、5質量%以上75質量%以下が最も好ましい。
なお、スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量とは、スチレン系熱可塑性エラストマーを構成する全構成単位(全原料モノマーに由来する構成単位)に占めるスチレンに由来する構成単位の割合であり、核磁気共鳴装置(NMR)による組成分析により求められる。
【0063】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、アクリル系熱可塑性エラストマーである場合、(メタ)アクリル酸エステル単量体を有する共重合体であることが好ましい。ここで(メタ)アクリル酸エステルとは、メタクリル酸エステル、及び/またはアクリル酸エステルを表す。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
アクリル系熱可塑性エラストマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-シリコーン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル-シリコーン共重合体、及び、これらの変性体や、水添体、側鎖に(メタ)アクリル酸エステル構造を有するグラフト共重合体、(メタ)アクリル酸エステル構造を有するコアシェル型多層構造ゴム等が好適に用いることができ、2種以上のブレンド物でもよい。中でも、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル構造を有するコアシェル型多層構造ゴムが好ましい。
【0064】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、アクリル系熱可塑性エラストマーである場合、前記アクリル系熱可塑性エラストマーのメタクリル酸メチル含有量は、1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。前記アクリル系熱可塑性エラストマーのメタクリル酸メチル含有量は、2質量%以上85質量%以下がより好ましく、3質量%以上80質量%以下がさらに好ましく、5質量%以上75質量%以下が最も好ましい。
なお、アクリル系熱可塑性エラストマーのメタクリル酸メチル含有量とは、アクリル系熱可塑性エラストマーを構成する全構成単位(全原料モノマーに由来する構成単位)に占めるメタクリル酸メチルに由来する構成単位の割合であり、核磁気共鳴装置(NMR)による組成分析により求められる。
【0065】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が1質量%以上90質量%以下であることが好ましい理由、及び、前記アクリル系熱可塑性エラストマーのメタクリル酸メチル含有量が1質量%以上90質量%以下であることが好ましい理由としては、前記樹脂組成物からなる層を少なくとも一軸方向に延伸して多孔化する場合、延伸前の樹脂組成物における前記非晶性樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との弾性率差を大きくすることができ、界面への応力集中による多孔化の起点(クレーズ)を形成しやすいためである。また、前記熱可塑性エラストマー(B)の衝撃吸収性を向上させることができ、前記樹脂組成物内に発生したクレーズの伝播抑制を効率的に行うことができるためである。
【0066】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、ジエン系熱可塑性エラストマーである場合、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレンなどの主鎖に炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性エラストマーを好適に用いることができる。また、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体など、他の共重合性単量体とのランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマーなども好適に用いることができ、共重合性単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンなどのビニル芳香族化合物、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸類およびこれらのエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン化合物を挙げることができる。また、これらの変性体や、部分水添体、炭素-炭素二重結合構造を有するコアシェル型多層構造ゴム等も好適に用いることができる。
【0067】
本多孔体を構成する樹脂組成物中には、上記の熱可塑性エラストマー(B)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0068】
<ポリスチレン系樹脂(C)>
本多孔体を構成する樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂(C)を含んでいても良い。本発明におけるポリスチレン系樹脂(C)とは、スチレン系単量体を樹脂中に90質量%を超えて100質量%以下含有する樹脂である。このポリスチレン系樹脂(C)は、スチレン系単量体の単独重合体でもよく、スチレン系単量体と他の単量体を含有する共重合体であってもよい。また、前記ポリスチレン系樹脂(C)の含有率は、本多孔体を構成する樹脂組成物100質量%に対して、0質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0069】
前記ポリスチレン系樹脂(C)が共重合体である場合、他の単量体成分を2種以上含有する多元共重合体でもよい。また、共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの共重合形態であってもよい。
【0070】
また、前記ポリスチレン系樹脂(C)は、線状ポリスチレン系樹脂であってもよく、多分岐状ポリスチレン系樹脂であってもよい。また、前記ポリスチレン系樹脂(C)は、1種類であってもよく、単量体成分の種類や組成比、物性等の異なるものの2種類以上を混合して用いてもよい。
【0071】
前記スチレン系単量体としては、スチレンおよびその誘導体が挙げられる。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン等のハロゲン化スチレン、ニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等が挙げられる。中でも、耐熱性と加工性の観点から、スチレン、α-メチルスチレンを用いることが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0072】
また、共重合体に用いられる他の単量体の例を挙げると、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリルや、ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、等のジエン系炭化水素、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィン等が挙げられる。
【0073】
また、前記ポリスチレン系樹脂(C)として、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂も好適に用いることができる。該耐衝撃性ポリスチレン系樹脂としては、前記ジエン系熱可塑性エラストマーに対して、スチレン系単量体をグラフト重合したもの(以下、「グラフト型HIPS」と表記する場合がある。)を用いることができる。グラフト型HIPSは、例えば、前記ジエン系熱可塑性エラストマーをスチレン系単量体に溶解した後、ジエン系熱可塑性エラストマーにスチレン系単量体をグラフト重合して形成することができ、得られる重合体は、ジエン系熱可塑性エラストマーがポリスチレン内に分散したサラミ構造を形成することが好ましい。サラミ構造内においては、ジエン系熱可塑性エラストマーとサラミ外のポリスチレンの一部とは結合している。
【0074】
また、前記耐衝撃性ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体を重合してなるポリスチレンと、ジエン系熱可塑性エラストマーとを、混練して得られるもの(ブレンド型HIPS)を用いることもできる。この場合のポリスチレンは、スチレン系単量体を塊状重合又は懸濁重合して得ることができる。また、混練方法としては、一軸又は多軸押出機またはバンバリーミキサーなどの汎用混練機を用いた加熱混練を採用することができる。
【0075】
(難燃剤(D))
本多孔体を構成する樹脂組成物には、難燃剤(D)が含まれていても良い。該難燃剤(D)は特に限定されるものではないが、芳香族リン酸エステル系難燃剤であることが好ましい。また、前記難燃剤(D)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて併用してもよい。本多孔体を構成する樹脂組成物に難燃剤(D)が含まれることにより、本多孔体に難燃性を付与できるとともに、本多孔体を構成する樹脂組成物の熱安定性を高めたり、溶融流動性を高めたりすることができる。
【0076】
芳香族リン酸エステル系難燃剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジキシレニルフェニルホスフェート、ヒドロキシノンビスフェノールホスフェート、レゾルシノールビスホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート等のトリフェニル置換タイプの芳香族リン酸エステル類、及び、上記芳香族リン酸エステル類の縮合物(芳香族縮合リン酸エステル)が好適に用いられる。中でもビスフェノールAビスホスフェートやビスフェノールAビスホスフェートの縮合物、トリキシレニルホスフェートやトリキシレニルホスフェートの縮合物がより好適に用いられる。
【0077】
本多孔体に難燃剤(D)が含まれる場合、前記難燃剤(D)の含有量は、本多孔体を構成する樹脂組成物100質量%に対して、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上20質量%以下である。難燃剤(D)の含有量が0.1質量%以上であれば、所望する難燃性を付与するために好ましい。また、30質量%以下であれば、本多孔体の耐熱性や寸法安定性を維持できるため好ましい。
【0078】
<本多孔層を構成する樹脂組成物>
本多孔層は、非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物からなる。
一方で、前記ポリフェニレンエーテル等の非晶性樹脂(A)は、予め種々の樹脂や添加剤が含有された状態で市販されていることも多く、添加された樹脂や添加剤の種類、添加量によって、前述した非晶性樹脂(A)の重量平均分子量、数平均分子量、還元粘度、ガラス転移温度などの物性値が変化することがある。そのため、本多孔層を構成する樹脂組成物において、各物性値の好ましい範囲などを説明する。
【0079】
本多孔層を構成する樹脂組成物の重量平均分子量Mwは、40,000以上400,000以下が好ましく、50,000以上300,000以下がより好ましく、60,000以上200,000以下がさらに好ましい。また、本多孔層を構成する樹脂組成物の数平均分子量Mnは、5,000以上200,000以下が好ましく、10,000以上150,000以下がより好ましく、20,000以上100,000以下がさらに好ましい。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn値)は、成形加工性の観点から、1.0以上が好ましく、機械的物性の観点から、5.5以下が好ましく、より好ましくは1.5~4.5、更に好ましくは2.0~4.5である。なお、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による、ポリスチレン換算分子量から得られる。また、樹脂組成物のGPC測定において、2つ以上のピークが得られる場合、それぞれのピークより重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを算出する。このとき、樹脂組成物の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnとは、樹脂組成物をGPC測定し、モノマー成分を除いたポリマー成分の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを意味する。また、モノマー成分とは、重量平均分子量Mwが900未満、かつ、数平均分子量Mnが900未満となるピークの低分子量成分である。
【0080】
本多孔層を構成する樹脂組成物の還元粘度は、機械的物性の観点から、0.25dL/g以上であることが好ましく、成形加工性の観点から0.65dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.27~0.63dL/gであり、更に好ましくは0.30~0.60dL/gであり、特に好ましくは0.33~0.55である。なお、還元粘度は、0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管を用いて測定することができる。
【0081】
本多孔層を構成する樹脂組成物のガラス転移温度は、本多孔体を電子部材に用いる場合は、必要とされる耐熱性の観点から、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物のガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、350℃である。
【0082】
本多孔層を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、前記非晶性樹脂(A)、前記熱可塑性エラストマー(B)、前記ポリスチレン系樹脂(C)以外の他の樹脂(以下、単に他の樹脂と記載することがある。)を含有することを許容することができる。
他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレンビニルアルコール系共重合体、エチレン酢酸ビニル系共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリケトン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0083】
また、本多孔層を構成する樹脂組成物には、前述した難燃剤(D)のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤を適宜添加できる。該添加剤としては、成形加工性、生産性および諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸アルミニウム、シリカ、マイカ、タルク、カオリン、クロライト、炭素繊維、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、酸化亜鉛などの添加剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。特に熱安定性と消臭の観点から酸化亜鉛が含まれていることが好ましい。
【0084】
<本多孔体の製造方法>
次に、本多孔体の製造方法について説明する。上記の通り、本多孔体は、非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物からなる多孔層を少なくとも一層有する。本多孔体の製造方法においては、該樹脂組成物からなる層が、少なくとも一軸方向に延伸されることにより多孔化されてなることが重要である。
本多孔体の製造方法の具体例としては、非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化して、前記樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有する成形体に成形する工程(a)と、該工程(a)で成形した成形体を、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上低い温度で延伸する工程(b)と、をこの順で有する、延伸多孔体の製造方法が挙げられる。
なお、非晶性樹脂(A)、樹脂組成物については、前述の通りである。
【0085】
前記工程(b)の後、さらに、工程(b)における延伸温度よりも高い温度で延伸する工程(c)を有する製造方法であることが好ましい。
以下に本多孔体の製造方法を具体的に説明するが、本多孔体の製造方法は後述される内容のものに限定されない。
【0086】
[工程(a)]
工程(a)は、非晶性樹脂(A)を50質量%以上含有する樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化して、前記樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有する成形体に成形する工程である。成形体は、シート状物、繊維状物、及び、中空状物からなる群より選ばれる一種が好ましい。
前記樹脂組成物を溶融押出し、前記樹脂組成物からなる実質的に無孔状の層を少なくとも一層有するシート状物、繊維状物、及び、中空状物からなる群より選ばれる一種の成形物に、冷却固化し成形する方法としては特に限定されず、公知の方法を用いてよい。例えば押出機を用いて前記樹脂組成物を溶融し、Tダイ、丸ダイ、ノズル、中空ノズル等の賦形設備より押出し、キャストロール(冷却ロール)や、空冷、水冷等の設備で冷却固化するという方法が挙げられる。また、インフレーション法や、チューブラー法により製造した膜状物を切り開いて平面状とする方法も適用できる。
なお、「実質的に無孔状の層」とは、前記樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化し成形する工程において、意図的に当該層に空孔を設けないことを意味し、当該工程における不測の要因で意図せず微細なピンホールが生じている場合は、「実質的に無孔状の層」に含むことを意味する。
【0087】
前記樹脂組成物の溶融押出において、押出加工温度は樹脂組成物の流動特性や成形性等によって適宜調整されるが、非晶性樹脂(A)としてポリフェニレンエーテル系樹脂を用いる場合は、その熱分解温度を鑑みると、概ね230~330℃が好ましく、240~320℃がより好ましく、250~310℃が更に好ましい。押出加工温度が上記下限以上の場合、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れ生産性が向上することから好ましい。一方、押出加工温度を上記上限以下にすることにより、樹脂組成物の劣化、熱分解、得られる本多孔体の機械的強度の低下を抑制できる。
また、冷却固化温度、例えばキャストロールの冷却固化温度は好ましくは20~200℃、より好ましくは40~190℃、更に好ましくは50~180℃である。冷却固化温度を上記下限以上とすることで、前記樹脂組成物を所定の形状に賦形・固化できるとともに、延伸時において多孔体を形成しやすいために好ましい。また、上記上限以下とすることで押出された溶融樹脂がキャストロールへ粘着し巻き付いてしまうなどのトラブルが起こりにくく、効率よく成形することが可能であるので好ましい。
【0088】
[工程(b)]
工程(b)は、前記工程(a)で成形した成形体を、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上低い温度で延伸する工程である(以下、この工程(b)を「低温延伸工程」と称す場合がある。)。工程(b)における延伸方法については、ロール延伸法、圧延法、テンター延伸法、同時二軸延伸法などの手法があり、これらは単独で行っても2つ以上組み合わせて行ってもよい。中でも、生産性の観点から、工程(a)における流れ方向(即ち、押出方向ないしは引き取り方向、以下「縦方向」又は「MD」と称す場合がある。)への延伸が好ましく、前記樹脂組成物内で多孔化の起点(クラック)を発生させる観点から、延伸速度を上げやすいロール延伸法が好ましい。
【0089】
延伸時の温度については、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上低い温度で延伸することが重要である。このような温度で延伸すると、樹脂組成物中の非晶性樹脂(A)の弾性率が低くなりすぎず、樹脂組成物内での応力集中が適度に発現し、前記樹脂組成物からなる層を容易に多孔化することができる。
例えば、非晶性樹脂(A)としてポリフェニレンエーテル系樹脂を用いる場合の上記ガラス転移温度(Tg)よりも10℃以上低い温度の具体例としては、60℃以上160℃以下であることが好ましい。60℃以上の温度で延伸することで、特殊な設備が不要であるため、生産上好ましい。また延伸雰囲気下における延伸応力が、ポリフェニレンエーテル系樹脂の引張破断応力よりも低く調整することができ、延伸に対して変形が追随でき、破断するおそれが小さい。一方、160℃以下の温度で延伸すると、ポリフェニレンエーテル系樹脂の弾性率が低くなりすぎず、樹脂組成物内での応力集中が適度に発現し、前記樹脂組成物からなる層を容易に多孔化することができる。低温延伸工程における温度は、用いるポリフェニレンエーテル系樹脂の種類や特性にもよるが、特に80℃以上160℃以下であることが好ましく、100℃以上160℃以下であることがさらに好ましい。
なお、非晶性樹脂(A)として、ポリフェニレンエーテル系樹脂以外の樹脂を用いる場合には、樹脂の種類に応じて、適宜低温延伸工程における温度を設定するとよい。
【0090】
また、この低温延伸工程における全延伸倍率は特に制限はないが1.15倍以上、4.00倍以下、特に1.25倍以上、3.00倍以下であることが好ましい。延伸倍率が上記下限以上であると、マトリックス/ドメインの界面に応力が集中し、変形に伴う界面の剥離により、多孔構造を形成しやすく、上記上限以下であると、形成された多孔構造が過度の変形により閉塞されることがなく、また、破断するおそれが小さいため好ましい。また、この低温延伸工程は、目的とする延伸倍率まで、多段的に延伸することが急激な変形を緩和し、破断を低減できる観点から好ましい。
【0091】
[工程(c)]
工程(c)は、工程(b)において延伸された前記成形物を、工程(b)における延伸温度よりも高い温度で延伸する工程である(以下、この工程(c)を「高温延伸工程」と称す場合がある。)。工程(c)における延伸方法については、上述の工程(b)と同様の方法を採用することができるが、中でも、ロール延伸法や、テンター延伸法が好ましく、特に、工程(b)により形成された孔を拡張する観点から、テンター延伸法等により縦方向と直交する方向(以下、「横方向」又は「TD」と称す場合がある。)に延伸(横延伸)することも好ましい。
高温延伸工程における温度としては、工程(b)における延伸温度よりも高く、かつ、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)の±15℃以内であることが好ましい、あるいは、工程(b)における延伸温度よりも高く、かつ、160℃以上260℃以下であることが好ましい。
ここで、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)の-15℃以上の温度で、または、160℃以上の温度で延伸することで、工程(b)で形成された孔を伸長し、孔径を拡大できる。一方、前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)の+15℃以下の温度で、または、260℃以下の温度で延伸することで、工程(b)で形成された孔の閉塞を抑制することができる。
【0092】
また、この高温延伸工程における延伸倍率は特に制限はないが1.25倍以上、6.00倍以下、特に1.40倍以上、5.00倍以下であることが好ましい。延伸倍率が上記下限以上であると、孔径の拡張や多孔構造の保持を行いやすく、上記上限以下であると、孔の閉塞を抑制することができ、好ましい。
【0093】
本多孔体の製造方法は、工程(a)、工程(b)の順に各工程を行うことが重要である。また、工程(c)を含む場合は、工程(a)、工程(b)、工程(c)の順に各工程を行うことが好ましい。ただし、工程(a)、工程(b)、工程(c)の各工程の間にそれ以外の工程を含んでも良い。また、工程(b)の後に、工程(c)以外の工程を含んでも良い。また、工程(c)を含む場合においても、工程(c)の後に、別の工程を含んでも良い。
【0094】
特に、工程(b)、または工程(c)の後には、寸法安定性向上の観点から、熱処理や弛緩処理を行うことが好ましい。また、さらなる寸法安定性の観点から、得られた多孔体を電子線架橋等により架橋させても良いし、後述するように他の多孔層等と積層する場合に密着性を向上する観点から、得られた多孔体にコロナ放電処理、プラズマ処理等を施して表面処理を行っても良い。
【0095】
また、本多孔体が、前記樹脂組成物からなる層以外の他の層を有する場合、前記工程(a)において、前記樹脂組成物からなる層と、他の層を構成する組成物の層とを、共押出法やラミネート法などによって積層し、実質的に無孔状の積層体を作製した後、工程(b)において延伸して多孔化することにより本多孔体を製造しても良く、前記樹脂組成物からなる層を、前記工程(a)、前記工程(b)を経て多孔化した後、他の層とラミネート法やコーティング法などによって積層して、本多孔体を製造しても良い。特に、本多孔体においては銅箔と積層させることが好ましい。
【0096】
<本多孔体を用いてなる電子部材>
本発明の延伸多孔体は電子部材に好適に使用される。本多孔体を好ましく使用できる電子部材としては、アルカリ電池、ニッケル金属水素化物電池、リチウム電池、リチウムイオン二次電池といった電池や、電解コンデンサ、電気二重層コンデンサ、リチウムイオンキャパシタといったコンデンサなどの電子部材、モバイル機器などの電子部材、フレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板などの電子部材が挙げられ、特に、前記回路基板や、前記回路用積層板などの電子部材であることが好ましい。
本発明の電子部材は、本多孔体を電子部材用セパレータや、回路用低誘電率部材として用いたものであれば、その他の構成部材は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
次に、実施例および比較例を示し、本多孔体について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本多孔体の実施形態として、シート状物を例とし、以下、本多孔体を延伸多孔フィルムと呼ぶ。また、延伸多孔フィルムの引き取り(流れ)方向を「MD」方向、その直角方向を「TD」方向、厚さ方向を「THD」方向と記載する。
【0098】
[評価方法]
(1)厚さ
実施例及び比較例で得られた延伸多孔フィルム(以下、単に「延伸多孔フィルム」という。)を1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定し、その平均を厚さとして算出した。なお、本評価方法において、延伸多孔フィルムには、比較例にて得られた未延伸フィルムも含む。
【0099】
(2)透気度
延伸多孔フィルムを透気度測定装置(旭精工社製王研式透気度測定機EGO1-55型)を用いて、JIS P8117(2009年)に準拠して透気度(秒/100mL)を測定した。測定は、延伸多孔フィルムの面内を不特定に5箇所測定し、その平均を透気度として算出した。
【0100】
(3)空孔率
延伸多孔フィルムを、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、延伸多孔フィルムの比重(W1)の測定を行った。
本発明の延伸多孔体を形成する樹脂組成物の比重(W0)の測定においては、後述する比較例1で得られた未延伸フィルムを、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、前記未延伸フィルムの比重(W0)の測定を行った。
前記延伸多孔フィルムの比重(W1)、及び、前記樹脂組成物の比重(W0)から、以下の式より空孔率を算出した。
空孔率(%)=[1-(W1/W0)]×100
測定は、延伸多孔フィルム(比較例にて得られた未延伸フィルムも含む)の面内を不特定に3箇所測定し、その平均を空孔率として算出した。
【0101】
(4)引張破断応力
延伸多孔フィルムを、MD120mm、TD15mmの大きさに切り出し、JIS K7127に準拠し、チャック間40mm、引張速度200mm/分、測定方向MDで、雰囲気温度23℃における延伸多孔フィルムの引張試験を行い、3回の測定の引張破断応力の平均値をMDの引張破断応力として算出した。
また、延伸多孔フィルムを、MD15mm、TD120mmの大きさに切り出し、JIS K7127に準拠し、チャック間40mm、引張速度200mm/分、測定方向TDで、雰囲気温度23℃における延伸多孔フィルムの引張試験を行い、3回の測定の引張破断応力の平均値をTDの引張破断応力として算出した。
【0102】
(5)線膨張係数
日立ハイテクサイエンス社製TMA/SS7100にて、延伸多孔フィルムのMD、及びTDにおける線膨張係数を測定した。測定は、引張プローブを用いて、-10℃から5℃/分にて300℃まで昇温した時のMD、及びTDにおける寸法変化を確認した。その後、得られた寸法変化のプロファイルより、0℃~100℃における寸法変化量ΔL(mm)と、初期寸法L(mm)より算出した歪(=ΔL/L)を、温度変化量(ΔT=100℃)にて割った値を0℃~100℃における線膨張係数として算出した。
【0103】
(6)高周波誘電率測定
JIS R1641(2007年)に準拠し、室温26℃、湿度40%にて、AET社製空洞共振器(TEモード)を用いて、延伸多孔フィルムの測定周波数10GHzにおける比誘電率、及び、誘電正接を測定した。3回の測定の平均値を測定周波数10GHzにおける比誘電率、及び、誘電正接として算出した。
同様に、JIS R1641(2007年)に準拠し、室温26℃、湿度40%にて、AET社製空洞共振器(TEモード)を用いて、延伸多孔フィルムの測定周波数28GHzにおける比誘電率、及び、誘電正接を算出した。3回の測定の平均値を測定周波数28GHzにおける比誘電率、及び、誘電正接として算出した。
【0104】
(7)走査型電子顕微鏡(SEM)観察
実施例1で得られた延伸多孔フィルムのフィルム表面およびMD断面、TD断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。
また、実施例2で得られた延伸多孔フィルムのフィルム表面およびMD断面、TD断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。
【0105】
実施例、比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0106】
(樹脂組成物(X))
・ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル75~95質量%、アクリル系熱可塑性エラストマー1~10質量%、リン系難燃剤1~10質量%、カーボンブラック0.1~1質量%、及び酸化亜鉛0.1~1質量%からなる樹脂組成物、重量平均分子量Mw1=68,200、数平均分子量Mn1=27,600、Mw1/Mn1=2.47、Mw2=708、Mn2=678、Mw2/Mn2=1.04、Mw3=365、Mn3=354、Mw3/Mn3=1.03(GPC測定において3つのピークを有する。)、還元粘度0.49dL/g、ガラス転移温度Tg=174℃、以下、樹脂組成物(X)と称す。
【0107】
[実施例1]
樹脂組成物(X)を単軸押出機に投入し、設定温度280℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、140℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ200μmの未延伸シート状物を得た。上述の条件にて得られた未延伸シート状物を、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比15%(延伸倍率1.15倍)を掛け、次いで、上記ロール(Q)と120℃に設定したロール(R)間において、ドロー比15%(延伸倍率1.15倍)を掛け、上記ロール(R)と120℃に設定したロール(S)間において、ドロー比15%(延伸倍率1.15倍)を掛けて、3段の低温延伸(全延伸倍率1.52倍)を行い、MD延伸多孔性フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムの評価結果を表1にまとめた。また、得られた延伸多孔フィルムのフィルム表面およびMD断面、TD断面のSEM写真を
図1に示す。また、
図1に示す観察面の拡大写真を
図2に示す。
【0108】
[実施例2]
樹脂組成物(X)を単軸押出機に投入し、設定温度280℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、140℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ200μmの未延伸シート状物を得た。上述の条件にて得られた未延伸シート状物を、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比15%(延伸倍率1.15倍)を掛け、次いで、上記ロール(Q)と120℃に設定したロール(R)間において、ドロー比15%(延伸倍率1.15倍)を掛け、上記ロール(R)と120℃に設定したロール(S)間において、ドロー比15%(延伸倍率1.15倍)を掛けて、3段の低温延伸(全延伸倍率1.52倍)を行い、MD延伸多孔性フィルムを得た。その後、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度170℃で予熱した後、延伸温度170℃で2.00倍横方向に高温延伸した後、170℃で熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムの評価結果を表1にまとめた。また、得られた延伸多孔フィルムのフィルム表面およびMD断面、TD断面のSEM写真を
図3に示す。また、
図3に示す観察面の拡大写真を
図4に示す。
【0109】
[実施例3]
樹脂組成物(X)を単軸押出機に投入し、設定温度280℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、140℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ100μmの未延伸シート状物を得た以外は、実施例2と同様の条件にて低温延伸、並びに高温延伸を行い、二軸延伸多孔性フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムの評価結果を表1にまとめた。
【0110】
[比較例1]
樹脂組成物(X)を単軸押出機に投入し、設定温度280℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、140℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ175μmの未延伸シート状物を得た。得られた未延伸シートの評価結果を表1にまとめた。
【0111】
[比較例2]
樹脂組成物(X)を単軸押出機に投入し、設定温度280℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、140℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ175μmの未延伸シート状物を得た。その後、予熱温度170℃、延伸温度170℃、熱処理温度170℃に設定した京都機械社製フィルムテンター設備に通紙して、170℃に設定した延伸ゾーンで2.00倍横方向に高温延伸しようとしたが、延伸ゾーン内で破断が生じ、フィルムを得ることができなかった。
【0112】
【0113】
表1より、実施例1~3で得られた延伸多孔体は、優れた透気性と高い空孔率を有することが分かる。また、流れ方向(MD)における、0℃~100℃の線膨張係数が70ppm/℃以下となっており、高温雰囲気下での使用における優れた寸法安定性を有することが確認された。さらには、延伸多孔化することにより、測定周波数10GHz、28GHzともに、比誘電率、並びに誘電正接の低下が見られ、伝送損失の低い優れた延伸多孔体であることがわかる。
【0114】
一方、比較例1で得られた未延伸シートは、透気度において測定装置の測定限界を上回る99999秒/100mL以上となり、実質的に透気特性を有さないため、透気特性や厚さ方向の空孔連通性を必要とする用途に適さない。また、線膨張係数においても、MD、TDともに70ppmを超えるため高温雰囲気下での使用における寸法安定性が劣る結果となった。また、測定周波数10GHz、28GHzともに、比誘電率が2.5を上回り、誘電正接も0.0060を上回る結果となり、低誘電率部材に用いるには不十分であることがわかる。
【0115】
また、実施例1、2で得られた延伸多孔フィルムの走査型電子顕微鏡写真(
図1~4)からも、本発明の多孔体が、低温延伸時に生じたクレーズを起点とし、樹脂組成物全体を多孔化しているとともに、クレーズの伝播を内部で抑制しながら多孔構造を形成していることが確認される。また、低温延伸により形成された多孔構造は、延伸においても閉塞することなく、横方向に拡張され、空孔率や透気特性の向上をもたらしていることが確認される。
一方、比較例2は、本発明が規定する製造方法とは異なる。具体的には、工程(a)の後に、工程(b)が実施されていないため、延伸多孔体が得られていないことがわかる。
すなわち、従来、ポリフェニレンエーテル系樹脂に代表される非晶性樹脂の多孔化において、発泡法や湿式法、繊維の堆積など、生産性に課題を有していた製造方法と比較し、本発明の延伸多孔体は、優れた多孔構造を有しているとともに、本発明の製造方法は、生産性の高い乾式法にて製造することができ、ポリフェニレンエーテル系樹脂に代表される非晶性樹脂の延伸多孔体の成形において優れた製造方法であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の延伸多孔体は、多孔特性が要求される種々の用途に応用することができる。具体的には、包装用、衛生用、畜産用、農業用、建築用、医療用、分離膜、水処理膜、光拡散板、断熱材、緩衝材、フォーム材、セパレータ、低誘電率部材として利用でき、特に、フレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板などの電子部材に用いられる低誘電率部材、及び、該低誘電率部材を用いてなる電子部材に好適に利用でき有用である。