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  • 特許-有機エレクトロニクス材料及びその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス材料及びその利用
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/10 20230101AFI20240910BHJP
   C08G 61/10 20060101ALI20240910BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20240910BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240910BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240910BHJP
   H10K 59/50 20230101ALI20240910BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20240910BHJP
【FI】
H10K85/10
C08G61/10
G02F1/13357
H10K50/10
H10K59/10
H10K59/50
H10K71/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020163862
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056069
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宮 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】加茂 和幸
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】田村 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 悟史
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066289(JP,A)
【文献】特開2013-124271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/10
H10K 59/10
H10K 59/50
H10K 71/12
H10K 85/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アミン構造及びカルバゾール構造の少なくとも一方を含み、かつ分岐部を構成する3価以上の構造単位と、芳香族アミン構造及びカルバゾール構造の少なくとも一方を含む2価の構造単位と、下式(IA-1)で表されるシリル基を有する構造を含み、かつ末端部を構成する1価の構造単位とを有し、3方向以上に分岐する構造を有する電荷輸送性ポリマーを含有する有機エレクトロニクス材料。
【化1】
[式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子であり、nは1~5の整数である。
【請求項2】
前記2価の構造単位が、下式(II)で表される構造単位を含む、請求項1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【化2】
[式中、置換基Raは、フッ素原子又はフルオロアルキル基である。]
【請求項3】
前記式(II)で表される構造単位において、置換基Raはフッ素原子である、請求項2に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項4】
前記3価以上の構造単位が、下式(III)で表される構造単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料
【化3】
【請求項5】
前記電荷輸送性ポリマーが、さらに重合性官能基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項6】
前記式(IA-1)で表されるシリル基を有する構造において、Rは、それぞれ独立してアルキル基であり、nは1又は2である、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項7】
前記1価の構造単位の全量を基準として、前記シリル基を有する構造の割合は、50モル%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は請求項8に記載のインク組成物を用いて形成された有機層。
【請求項10】
請求項9に記載の有機層を有する、有機エレクトロニクス素子。
【請求項11】
請求項9に記載の有機層を有する、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項12】
請求項11に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示装置。
【請求項13】
請求項11に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【請求項14】
請求項13に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一実施形態は、有機エレクトロニクス材料に関する。本開示の他の実施形態は、上記有機エレクトロニクス材料の利用に関する。より具体的には、上記有機エレクトロニクス材料を使用して形成した有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。有機エレクトロニクス素子の一例として、有機エレクトロルミネセンス素子(以下「有機EL素子」ともいう)、有機光電変換素子、有機トランジスタが挙げられる。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の中でも、有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、及びガス充填ランプの代替えとなる大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0004】
有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる湿式プロセスの2つに大別され、それぞれのプロセスに適した材料の開発が進められている。
【0005】
湿式プロセスは簡易成膜が可能であるため、今後の有機ELディスプレイの大画面化には不可欠な方法として期待されている。そのため、従来から、湿式プロセスで使用可能な有機エレクトロニクス材料の開発が進められている。例えば、重合性官能基を有する電荷輸送性ポリマーが報告されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2010/140553号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湿式プロセスによって作製した有機EL素子は、低コスト化及び大面積化が容易であるという特長を有する。しかし、湿式プロセスによって作製した有機EL素子は、駆動電圧、発光寿命、及び発光効率などの各種特性において未だ十分に満足できるものではなく、改善が求められている。特に、有機EL素子の低駆動電圧化及び長寿命化の観点から、優れた導電性を有する有機エレクトロニクス材料に対する要望がある。したがって、本開示の一実施形態は、上記に鑑み、優れた導電性を有する有機エレクトロニクス材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、シリル基を有する電荷輸送性ポリマーが優れた導電性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一実施形態は、下式(I)で表されるシリル基を有する電荷輸送性ポリマーを含有する、有機エレクトロニクス材料に関する。
-SiR (I)
[式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子である。]
【0010】
上記有機エレクトロニクス材料において、上記電荷輸送性ポリマーは、上式(I)で表されるシリル基を末端に有することが好ましい。
【0011】
上記有機エレクトロニクス材料において、上記電荷輸送性ポリマーは、下式(IA)で表されるシリル基を有する末端構造を含有することが好ましい。
-Ar-(SiR)n (IA)
[式中、Arはアリーレン基であり、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子であり、nは1~20の整数である。]
【0012】
上記有機エレクトロニクス材料において、上記電荷輸送性ポリマーは、下式(IA-1)で表されるシリル基を有する末端構造を含有することが好ましい。
【化1】

[式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子であり、nは1~5の整数である。]
【0013】
上記有機エレクトロニクス材料において、上記電荷輸送性ポリマーは、さらに重合性官能基を有することが好ましい。
【0014】
上記有機エレクトロニクス材料において、上記電荷輸送性ポリマーは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゾチオフェン構造、ピリジン構造、フラン構造、キノリン構造、ベンゼン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される1種以上の構造を含むことが好ましい。
【0015】
上記有機エレクトロニクス材料において、上記電荷輸送性ポリマーは、3方向以上に分岐する構造を有することが好ましい。
【0016】
一実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物に関する。
【0017】
一実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて形成された有機層に関する。
【0018】
一実施形態は、上記実施形態の有機層を有する、有機エレクトロニクス素子に関する。
【0019】
一実施形態は、上記実施形態の有機層を有する、有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【0020】
一実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示装置に関する。
【0021】
一実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置に関する。
【0022】
一実施形態は、上記実施形態の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置に関する。
【発明の効果】
【0023】
本開示の一実施形態によれば、優れた導電性を有する有機エレクトロニクス材料を提供できる。また、上記有機エレクトロニクス材料を使用して、優れた導電性を有する有機層を形成することができ、そのことによって有機EL素子などの有機エレクトロニクス素子の低駆動電圧化及び長寿命化を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態である有機EL素子の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されず様々な実施形態を含む。
【0026】
<有機エレクトロニクス材料>
有機エレクトロニクス材料は、下式(I)で表されるシリル基を有する電荷輸送性ポリマーを含有する。
-SiR (I)
【0027】
上記式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子である。
アルキル基は、炭素数1~20であることが好ましく、1~15がより好ましく、1~12がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖構造、分岐構造、及び環状構造のいずれでもよい。一実施形態において、炭素数1~12の直鎖構造又は分岐構造のアルキル基が好ましい。溶解性の観点から、上記アルキル基は、炭素数2~10であることがより好ましく、3~8であることがさらに好ましい。 アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団であり、炭素数6~30であることが好ましい。一実施形態において、フェニル基、又はナフチレン基が好ましい。
ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団であり、炭素数2~30であることが好ましい。一実施形態において、トリフェニルアミン基、又はカルバゾール基が好ましい。
上記アルキル基は、さらにアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、さらに、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。
ハロゲン原子は、フッ素原子、臭素原子、又は塩素原子であってよい。一実施形態において、フッ素原子が好ましい。
【0028】
一実施形態において、上式(I)におけるRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましい。Si原子に結合する3つのRの少なくとも1つがアルキル基又はアリール基であることがより好ましい。一実施形態において、少なくとも2つのRがアルキル基又はアリール基であることがより好ましく、3つのRが全てアルキル基及び/又はアリール基であるトリ置換型のシリル基であることがさらに好ましい。一実施形態において、上式(I)で表される構造部位は、トリアルキルシリル基、アルキルアリールシリル基、トリアリールシリル基であることが好ましい。
【0029】
上記トリアルキルシリル基は、Si原子に結合する3つのRがアルキル基で置換された構造を有する。具体例として、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリプロピルシリル、トリイソプロピルシリル、トリn-ブチルシリル、トリs-ブチルシリル、トリt-ブチルシリル、エチルジメチルシリル、ジエチルメチルシリル、n-プロピルジメチルシリル、ジn-プロピルメチルシリル、エチルジn-プロピルシリル、ジエチルn-プロピルシリル、n-ブチルジメチルシリル、ジn-ブチルメチルシリル、n-ブチルエチルジシリル、n-ブチルジエチルシリル、n-ブチルジn-プロピルシリル、ジn-ブチルn-プロピルシリル、n-ブチルジイソプロピルシリル、ジn-ブチルイソプロピルシリル、s-ブチルジメチルシリル、ジs-ブチルメチルシリル、s-ブチルエチルジシリル、s-ブチルジエチルシリル、s-ブチルジn-プロピルシリル、ジs-ブチルn-プロピルシリル、s-ブチルジイソプロピルシリル、ジs-ブチルイソプロピルシリル、t-ブチルジメチルシリル、ジt-ブチルメチルシリル、t-ブチルジエチルシリル、ジt-ブチルエチルシリル、t-ブチルジn-プロピルシリル、ジt-ブチルn-プロピルシリル、t-ブチルジイソプロピルシリル、ジt-ブチルイソプロピルシリルが挙げられる。
【0030】
上記アルキルアリールシリル基は、Si原子に結合する3つのRがアルキル基及びアリール基で置換された構造を有する。具体例として、ジメチルフェニルシリル、メチルジフェニルシリル、ジエチルフェニルシリル、エチルジフェニルシリル、ジn-プロピルフェニルシリル、n-プロピルジフェニルシリル、ジイソプロピルフェニルシリル、イソプロピルジフェニルシリル、ジn-ブチルフェニルシリル、n-ブチルジフェニルシリル、ジs-ブチルフェニルシリル、s-ブチルジフェニルシリル、ジt-ブチルフェニルシリル、t-ブチルジフェニルシリルが挙げられる。
【0031】
上記トリアリールシリル基は、Si原子に結合する3つのRがアリール基で置換された構造を意味する。具体例として、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基が挙げられる。
【0032】
なお、上記アルキルアリールシリル基又は上記トリアリールシリル基におけるアリール基は、アルキル基等の置換基でさらに置換されていてもよい。上記アリール基は、例えば、トリル置換(o-、m-、p-メチルフェニル)、キシリル置換(ジメチルフェニル)、メシチル置換(トリメチルフェニル)などの構造を有してもよい。
【0033】
一実施形態において、シリル基は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、トリt-ブチルシリル、ジメチルフェニルシリル、メチルジフェニルシリル、ジt-ブチルフェニルシリル、t-ブチルジフェニルシリル、及びトリフェニルシリルからなる群から選択されるトリ置換型のシリル基であることが好ましい。
【0034】
上記有機エレクトロニクス材料は、上記式(I)で表されるシリル基を有する電荷輸送性ポリマーの2種以上を含有しても、さらに他の電荷輸送性ポリマーを含有してもよい。以下、電荷輸送性ポリマーについてより具体的に説明する。
【0035】
[電荷輸送性ポリマー]
上記有機エレクトロニクス材料を構成する電荷輸送性ポリマーは、上記式(I)で表されるシリル基を有する構造部位を有し、かつ、電荷を輸送する能力を有していればよい。一実施形態において、輸送する電荷としては、正孔が好ましい。正孔輸送性の化合物であれば、例えば有機EL素子の正孔注入層や正孔輸送層として用いることができる。また、電子輸送性の化合物であれば、電子輸送層や電子注入層として用いることができる。また、正孔と電子の両方を輸送する化合物であれば、発光層の材料などに用いることができる。一実施形態において、上記電荷輸送性ポリマーは、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方の材料として好適に使用することができる。
【0036】
上記電荷輸送性ポリマーは、1つ又は2つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、上記構造単位の少なくとも1つが上記式(I)で表されるシリル基を有する。電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含むことが好ましく、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bをさらに含んでもよい。
【0037】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと電荷輸送性を有する3価以上の構造単位Bとを含むことが好ましい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0038】
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0039】
直鎖状の電荷輸送性ポリマーの例
【化2】
【0040】
分岐構造を有する電荷輸送性ポリマーの例
【化3】



【化4】

【0041】
上記式(I)で表されるシリル基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。ポリマーの溶解性の観点からは、末端部に導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、上記式(I)で表されるシリル基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0042】
このような観点において、上記電荷輸送性ポリマーは、下式(IA)で表されるシリル基を有する構造部位を含有することが好ましい。
-Ar-(SiR)n (IA)
式中、Arはアリーレン又はヘテロアリーレン基である。Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子であり、詳細は先に説明した通りである。nは、Arの構造によって変化する1以上の整数である。一実施形態において1~20の整数であることが好ましく、1~10の整数であることがより好ましく、1~5の整数であることがさらに好ましい。以下、各構造単位についてより具体的に説明する。
【0043】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、フェノキサジン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。上記芳香族アミン構造は、アニリン構造であってもよいが、トリアリールアミン構造が好ましく、トリフェニルアミン構造がより好ましい。
【0044】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゾチオフェン構造、ピリジン構造、フラン構造、キノリン構造、ベンゼン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される1種以上の構造を含むことが好ましい。
一実施形態において、ベンゼン構造は、例えば、トリフェニルアミン構造のように、芳香族アミン構造の一部を構成しても、またはピロール構造との組合せにおいてベンゾポルフィリン構造を形成してもよい。構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。
【0045】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【0046】
【化5】
【0047】
【化6】
【0048】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rが置換基である場合、置換基は、それぞれ独立に、-R、-OR、-SR、-OCOR、-COOR、-SiR、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基、からなる群から選択されることが好ましい。一実施形態において、上記式(IA)で表されるシリル基又は(IA)で表される構造部位を導入する観点から、Rは-SiRであってよい。
~Rは、それぞれ独立に、水素原子(但し、Rの場合は除く);炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数2~30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。
アルキル基は、さらに、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、さらに、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。
【0049】
Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基であることが好ましい。Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。Arは、アリーレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0050】
一実施形態において、構造単位Lは、芳香族アミン構造及びカルバゾール構造の少なくとも一方を含むことが好ましい。芳香族アミン構造は、トリフェニルアミン構造であることが好ましい。トリフェニルアミン構造において、少なくとも1つのフェニル基は置換基を有してもよい。一実施形態において、置換基は、フッ素原子又はフルオロアルキル基といった電子吸引性基であることが好ましい。フルオロアルキル基の炭素数は1~4が好ましく、1又は2であることがより好ましい。フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であってもよい。一実施形態において、構造単位Lは、以下の構造を有することが好ましい。式中、置換基Raは、フッ素原子又はフルオロアルキル基であり、詳細は上記のとおりである。特に限定するものではないが、トリフェニルアミン構造が、上記の構造を有する場合、優れた導電性を得ることが容易となる傾向があるため好ましい。
【化7】
【0051】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、6価以下が好ましく、3価又は4価がより好ましい。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び縮合多環式芳香族炭化水素構造が好ましい。
【0052】
構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Bは、以下に限定されない。
【化8】
【0053】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、アリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、上記式(IA)で表される構造部位、及び重合性官能基を除く)のうち水素原子を1個以上有する基から、さらに1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。
Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、構造単位LにおけるRが挙げられる。一実施形態において、構造単位Bは、置換基として、上記式(I)で表される構造部位を有してもよい。
一実施形態において、構造単位Bは、芳香族アミン構造及びカルバゾール構造の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0054】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。構造単位Tは構造単位Lと同じ構造を有していてもよい。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。
【0055】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは構造単位Tとして、下式で表されるシリル基を有する末端構造T1を含有することが好ましい。
-Ar-(SiR)n (IA)
式中、Arはアリーレン基であり、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子であり、nは1~20の整数である。詳細は先に説明したとおりである。
【0056】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、構造単位Tとして、下式(IA-1)で表されるシリル基を有する末端構造(構造単位T1)を含有することがより好ましい。
【化9】

式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はハロゲン原子である。詳細は先に説明した通りである。nは1~5の整数であり、1又は2が好ましい。*は他の構造単位との結合部位を表す。
【0057】
シリル基を有する構造単位T1の具体例として、以下が挙げられる。
【化10】
特に限定するものではないが、一実施形態において、構造単位T1としては、式(a)又は(c)で表される構造が好ましい。
【0058】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの導電性を高める観点から、構造単位Tの全量を基準として、シリル基を有する構造単位T1の割合は、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましい。一実施形態において、上記構造単位T2の割合は、100モル%とすることもできる。
【0059】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、硬化性を高める観点から、末端部に重合性官能基を有することが好ましい。したがって、電荷輸送性ポリマーは、構造単位T2として、下式(II)で表される構造部位を末端に有することが好ましい。式中、Ar、X、Yは先に説明したとおりである。
-Ar-X-Y (II)
【0060】
上記式(II)において、Arは炭素数2~30のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子を2個取り除いた構造を有する基を意味する。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子を2個取り除いた構造を有する基を意味する。芳香族炭化水素及び芳香族複素環は、それぞれ、例えばベンゼンのような単環構造であってもよく、例えばナフタレンのように環が互いに縮合してなる縮合環構造であってもよい。
芳香族炭化水素の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、及びフェナントレンが挙げられる。芳香族複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ピロール、チオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、及びベンゾチオフェンが挙げられる。
芳香族炭化水素及び芳香族複素環は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環構造であってもよい。このような多環構造を有する芳香族炭化水素の一例として、ビフェニル、ターフェニル、トリフェニルベンゼンが挙げられる。芳香族炭化水素及び芳香族複素環は、それぞれ、非置換であるか、又は1以上の置換基を有してよい。置換基は、例えば、炭素数1~22の直鎖、環状又は分岐のアルキル基であってよい。炭素数は、1~15であることが好ましく、1~12であることがより好ましく、1~6であることがさらに好ましい。一実施形態において、Arは、フェニレン基又はナフチレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
【0061】
上記式(II)において、Xは、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基から誘導される2価の基(連結基)である。上記連結基は、直鎖、分岐、環状、又はこれらを組合せた構造を有してよい。上記連結基は、飽和であっても、不飽和であってもよい。一実施形態において、モノマー入手が容易な観点から、上記連結基は、直鎖構造が好ましい。また飽和の直鎖構造であることがより好ましい。
【0062】
上記の観点から、上記式(II)において、Xは、-(CH)n-であることが好ましく、式中、nは、1~10の整数であることが好ましく、1~8の整数であることがより好ましく、1~7の整数であることがさらに好ましい。一実施形態において、溶解性の観点から、nは、炭素数2~10であることがより好ましく、3~8であることがさらに好ましい。
【0063】
上記式(II)において、Yは、重合性官能基を表す。「重合性官能基」とは、熱、及び光の少なくとも一方を加えることにより、結合を形成し得る官能基をいう。重合性官能基Yは、非置換であっても、置換基を有してよい。
【0064】
重合性官能基Yの具体例として、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。
【0065】
一実施形態において、重合性官能基Yは、置換又は非置換の、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、及びメタクリロイル基のいずれかであってよい。反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、置換又は非置換の、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましい。これらの重合性官能基が置換基を有する場合、置換基は、炭素数1~22の直鎖、環状、又は分岐の飽和アルキル基が好ましい。上記炭素数は1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。置換基は、1~4の直鎖の飽和アルキル基であることが最も好ましい。
【0066】
一実施形態において、保存安定性の観点から、重合性官能基Yは、下式(Y1)で示される置換又は非置換のオキセタン基であることが好ましい。式中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の飽和のアルキル基であってよい。Rは、メチル基、又はエチル基であることが特に好ましい。
【化11】
【0067】
上記式(II)で表される構造部位を少なくとも1つ有する電荷輸送性ポリマーは、その構造内に少なくとも1つの重合性官能基Yを含むことになる。重合性官能基を含む化合物は、重合反応によって硬化可能であり、硬化によって溶剤への溶解度を変化させることが可能である。そのため、上記式(II)で表される構造部位を少なくとも1つ有する電荷輸送性ポリマーは、優れた硬化性を有し、湿式プロセスに適した材料となる。
【0068】
上記構造単位T2を含む電荷輸送性ポリマーを使用することによって、優れた硬化性を得ることが容易となる。電荷輸送性ポリマーは、構造単位T2として、前述の式(II)で表される構造部位を有することがより好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの硬化性を高める観点から、構造単位Tの全量を基準として、上記式(II)で表される構造部位を有する構造単位T2の割合は、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましい。一実施形態において、上記構造単位T2の割合は、100モル%とすることもできる。
【0069】
一実施形態において、導電性及び硬化性に優れる電荷輸送性ポリマーを容易に得られる観点から、構造単位Tは、式(I)で表される構造部位を有する構造単位T1と式(II)で表される構造部位を有する構造単位T2とを含むことが好ましい。特に限定するものではないが、構造単位Tにおける構造単位T1と構造単位T2との割合(T1:T2)は、10:90~90:10であることが好ましい。上記割合は20:80~80:20であることがより好ましく、25:75~75:25であることがさらに好ましい。
【0070】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。
【0071】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下がさらに好ましい。
【0072】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて下記の条件で測定することができる。
送液ポンプ :L-6050 (株)日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器:L-3000 (株)日立ハイテクノロジーズ
カラム :Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成(株)
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業(株)
流速 :1mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0073】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、充分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましい。
【0074】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位Tの割合は、充分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。一実施形態において、構造単位Tの割合は、上記式(I)で表される構造部位を有する構造単位T1とT2とを合計した割合を意味する。
【0075】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、充分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0076】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~70が好ましく、100:3~50がより好ましく、100:5~30がさらに好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80がさらに好ましい。
【0077】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーのH NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、仕込み量を用いて求めた値を採用することが好ましい。
【0078】
電荷輸送性ポリマーが正孔輸送性化合物であるとき、高い正孔注入性及び正孔輸送性を得る観点から、正孔輸送性化合物は、芳香族アミン構造を有する単位及びカルバゾール構造を有する単位の少なくとも一方を主要な構造単位として有する化合物であることが好ましい。この観点から、電荷輸送性ポリマー中の全構造単位数(但し、末端の構造単位を除く。)に対する芳香族アミン構造を有する単位及びカルバゾール構造を有する単位の少なくとも一方の全構造単位数の割合は、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。芳香族アミン構造を有する単位及びカルバゾール構造を有する単位の少なくとも一方の全構造単位数の割合を100%とすることも可能である。
【0079】
上記式(I)で表される構造部位を有する電荷輸送性ポリマーは、分子内に重合性官能基を含む。重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。したがって、重合性官能基の含有量は、これらを考慮して、適宜設定することができる。
【0080】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基の数は、充分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。ここで、重合性官能基の数は、上記式(I)で表される構造部位に含まれる重合性官能基と、その他の置換基として存在する重合性官能基との合計を意味する。
【0081】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量の合計に対する、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。
また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーのH NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。
簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、仕込み量を用いて求めた値を採用することが好ましい。
【0082】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーにおける重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上がさらに好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、全構造単位に対する重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0083】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、薗頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0084】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0085】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料は、ドーパントをさらに含有してもよい。ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得る化合物であればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0086】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl、PF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO、HSO、HClO等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、AlCl、NbCl、TaCl、MoF;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF (ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF (テトラフルオロホウ酸イオン)、PF (ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして上記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl、Br、I、ICl、ICl、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000-36390号公報、特開2005-75948号公報、特開2003-213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。上記の中でも、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等が好ましく、イオン化合物がより好ましく、オニウム塩がさらに好ましい。オニウム塩とは、ヨードニウム及びアンモニウム等のオニウムイオンを含むカチオン部と、対するアニオン部とからなる化合物を意味する。
【0087】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、LiF、CsCO等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩の少なくとも一方、金属錯体、電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0088】
有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして、重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質として、例えば、上記イオン化合物が挙げられる。
【0089】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性の低分子化合物、他のポリマー等をさらに含有してもよい。
【0090】
[含有量]
電荷輸送性ポリマーの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0091】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0092】
[重合開始剤]
上記有機エレクトロニクス材料は、重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。ドーパントとしての機能も備えたカチオン重合開始剤として、例えば、上記イオン化合物を好適に使用することができる。例えば、パーフルオロアニオンと、ヨードニウムイオン又はアンモニウムイオン等のカチオンとのオニウム塩が挙げられる。オニウム塩の具体例として、以下の化合物が挙げられる。
【化12】
【0093】
<インク組成物>
有機エレクトロニクス材料は、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料と該材料を溶解又は分散し得る溶媒とを含有するインク組成物であってもよい。インク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0094】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;
ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;
シクロヘキサン等の環状アルカン;
ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;
エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;
1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;
酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;
酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;
ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。
上記の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等が好ましい。一実施形態において、溶媒は、芳香族炭化水素が好ましく、なかでもトルエンが好ましい。
【0095】
[添加剤]
インク組成物は、さらに、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0096】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対する電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
また、溶媒の含有量は、溶媒に対する電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0097】
<有機層>
一実施形態において、有機層は、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された層である。上記実施形態の有機エレクトロニクス材料は、インク組成物として用いてもよい。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0098】
光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させてもよい。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0099】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、0.1nm以上が好ましく、1nm以上がより好ましく、3nm以上がさらに好ましい。
また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0100】
<有機エレクトロニクス素子>
一実施形態において、有機エレクトロニクス素子は、少なくとも上記実施形態の有機層を有する。有機エレクトロニクス素子として、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有することが好ましい。
【0101】
[有機EL素子]
一実施形態において、有機EL素子は、少なくとも上記実施形態の有機層を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、有機層を発光層又は他の機能層として有することが好ましいく、機能層として有することがより好ましく、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有することがさらに好ましい。
【0102】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、上記実施形態の有機層からなる正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。以下、各層について説明する。
図1では、正孔注入層3及び正孔輸送層6が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であるが、本明細書に記載の有機ELはこのような構造に限らず、他の有機層が上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であってもよい。
【0103】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため、ポリマーが好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0104】
上記蛍光材料としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物などが挙げられる。
【0105】
上記燐光材料としては、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)(ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)Ir(acac)(ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、赤色発光を行うPtOEP(2、3、7、8、12、13、17、18-オクタエチル-21H、23H-フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0106】
発光層が上記燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、さらにホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、CBP(4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が挙げられる。
ポリマーとしては、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0107】
熱活性化遅延蛍光材料としては、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0108】
一実施形態において、上記有機EL素子は、燐光材料を含む発光層を有することが好ましい。他の実施形態において、上記有機EL素子は、熱活性化遅延蛍光材料を含む発光層を有することが好ましい。
【0109】
[正孔輸送層、正孔注入層]
図1では、正孔注入層3及び正孔輸送層6が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であってよいが、本実施形態の有機EL素子はこのような構造に限らない。正孔注入層及び正孔輸送層以外の有機層が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成されてもよい。
上記有機エレクトロニクス材料は、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一方として使用されることが好ましく、少なくとも正孔輸送層として使用されることがさらに好ましい。例えば、有機EL素子が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。また、例えば、有機EL素子が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、さらに正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。
正孔注入層及び正孔輸送層に用いることができる材料としては、芳香族アミン系化合物(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン(α-NPD)等の芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(チオフェン系導電性ポリマー(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)等)などが挙げられる。
【0110】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレン等の縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体(例えば、2,2’,2”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBi))、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体(例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノレート)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq))などが挙げられる。また、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料も使用できる。
【0111】
[陰極]
陰極材料としては、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0112】
[陽極]
陽極材料としては、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0113】
[基板]
一実施形態において、上記有機エレクトロニクス素子は、基板をさらに有することが好ましい。基板としては、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましい。また、フレキシブル性を有する基板(フレキシブル性基板)が好ましい。具体的には、石英ガラス、光透過性の樹脂フィルム等の基板が好ましい。
【0114】
樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0115】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0116】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0117】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組合せとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組合せ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組合せなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0118】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の実施形態である表示素子は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0119】
また、一実施形態において、照明装置は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。さらに、一実施形態において、表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして上記実施形態の照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とすることができる。
【実施例
【0120】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
<1>有機エレクトロニクス材料の調製
以下の実施例で使用する材料の合成例を以下に示す。
【0122】
1.Pd触媒の調製
(調製例1)
本工程は窒素雰囲気下のグローブボックス中で行った。室温下、ガラス製サンプルバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム73.2mg(80μmol)を秤取り、トルエンを15mL加え30分間撹拌した。同様に、ガラス製サンプルバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、トリス(t-ブチル)ホスフィン129.6mg(640μmol)を秤取り、トルエンを5mL加え5分間撹拌した。これらの溶液を混合し、80℃で2時間撹拌し、得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターで不溶物を除去した。このようにして得た溶液をPd触媒溶液として以下の電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した。全ての溶媒は30分以上窒素バブリングにより脱気したものを使用した。
【0123】
2.電荷輸送性ポリマーの合成
(電荷輸送性ポリマー1)
200mLの三口丸底ガラスフラスコに、下記モノマー1を2.58g(5.0mmol)、下記モノマー2を0.96g(2.0mmol)、下記モノマー3を0.54g(2.0mmol)、下記モノマー4を0.46g(2.0mmol)及びトルエンを48.3mL加え、1質量%トリオクチルメチルアンモニウムクロリドのトルエン溶液を3.9mL及び3M水酸化カリウム水溶液を7.2mL加えた。全ての溶媒は30分以上窒素バブリングにより脱気したものを使用した。反応液が入ったフラスコに還流冷却管及び窒素ガスフロー管取り付け、60℃に加熱したオイルバスにフラスコを浸し30分撹拌し、モノマーを溶解させた。次いで、調製例1で得たPd触媒溶液を1.0mL加え、オイルバスの温度を120℃にして反応を行った。反応液を2時間加熱還流した。反応は全て窒素気流下で行った。
【化13】
【0124】
反応終了後、有機層を水洗し有機層をメタノール-水(9:1)溶液に注いだ。生じた沈殿を濾別し、メタノールで洗浄した。得られた沈殿を酢酸エチルで洗浄し、溶出している固形物を真空乾燥した。乾燥した固形物をトルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、40℃で2時間撹拌した。撹拌終了後、溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通してろ過して金属吸着剤と固形不純物を取り除き、溶液をメタノールに注いだ。沈殿物を吸引ろ過して、得られた沈殿物をメタノールで洗浄した後、固形物を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。
【0125】
(電荷輸送性ポリマー2)
電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー5を用いて反応を行った以外は同様にして、電荷輸送性ポリマー2を合成した。
【化14】

【0126】
(電荷輸送性ポリマー3)
電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー6を用いて反応を行った以外は同様にして、電荷輸送性ポリマー3を合成した。
【化15】
【0127】
(電荷輸送性ポリマー4)
電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー7を用いて反応を行った以外は同様にして、電荷輸送性ポリマー4を合成した。
【化16】
【0128】
(電荷輸送性ポリマー5)
電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー8を用いて反応を行った以外は同様にして、電荷輸送性ポリマー5を合成した。
【化17】
【0129】
(電荷輸送性ポリマー6)
電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー9を用いて反応を行った以外は同様にして、電荷輸送性ポリマー6を合成した。
【化18】
【0130】
(電荷輸送性ポリマー7)
電荷輸送性ポリマー1の合成において、モノマー4の代わりに下記モノマー10を用いて反応を行った以外は同様にして、電荷輸送性ポリマー7を合成した。
【化19】
【0131】
3.イオン性化合物の合成
(イオン性化合物1)
200mL広口フラスコにフッ素樹脂コーティングされた磁気撹拌子を入れ、N,N-ジメチル-N-オクタデシルアミン(東京化成工業(株)製)1.8gを秤量し、アセトン15mL及び純水3mLを加えて10分間撹拌した。得られた溶液を撹拌しながら10質量%塩酸水溶液2.2g滴下した。その後、白色の沈殿物が析出するまでロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧した。得られた溶液(沈殿物含む)に、撹拌しながら10質量%テトラキス(ペンタフルオロフェニルボラート)ナトリウム塩水溶液46.5gを加えた後、30分間撹拌した。その後、有機層を純水で4回し、沈殿物を濾別した。得られた沈殿物を純水で洗浄後、真空下で乾燥した。乾燥した固体をメタノールに溶解し、0.2μmのメンブレンフィルターを用いて不溶物を除去した後、溶液を純水に注いで白色沈殿を濾別した。得られた白色沈殿物を真空乾燥して、イオン性化合物1を得た。イオン性化合物1の化学構造を下記式に示す。
【化20】
【0132】
<2>有機エレクトロニクス材料の評価
1.有機エレクトロニクス材料の調製
先に調製した電荷輸送性ポリマー1~7、及びイオン性化合物1を使用して有機エレクトロニクス材料(インク組成物)をそれぞれ調製した。より具体的には、電荷輸送性ポリマー(10.0mg)と、イオン性化合物1(0.1mg)と、トルエン(1.12ml)を混合し、インク組成物を調製した。
【0133】
2.有機HOD素子の作製
大気下で、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、先に調製したインク組成物を3000rpmでスピンコートすることによって、塗膜を形成した。次いで、窒素雰囲気に置換したグローブボックス内に入れ、塗膜(有機層)を有するガラス基板をホットプレートの上に置き、200℃の温度で、30分間加熱して、上記有機層を硬化させた。
【0134】
上述のようにして得た硬化塗膜からなる有機層(正孔注入層)を有する基板を、真空蒸着機中に移し、上記基板の有機層上にAl(100nm)を蒸着法で成膜し、次いで封止処理を行って、有機HOD(Hole Only Device)を作製した。
【0135】
3.有機HODの評価
作製した有機HODに電圧を印加したところ、電流が流れることが分かり、上記有機層は正孔注入性の機能を持つことが確認された。有機HODについて、駆動電圧0.5V時の電流密度を測定した。その結果を表1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
表1に示すように、シリル基を持たない電荷輸送性ポリマーを使用した比較例との対比において、シリル基を有する電荷輸送性ポリマーを使用した実施例では、より高い電流密度が得られ、導電性に優れることが分かる。したがって、電荷輸送性ポリマーにシリル基を導入することによって導電性を向上することができ、有機EL素子の低駆動電圧化及び長寿命化に有益な有機エレクトロニクス材料を実現可能となる。

図1