(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】SiC基板の評価方法、SiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240910BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/66 N
(21)【出願番号】P 2020175604
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 拓真
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131350(JP,A)
【文献】特開2020-063186(JP,A)
【文献】特許第7318424(JP,B2)
【文献】特開2020-031076(JP,A)
【文献】特開2020-040853(JP,A)
【文献】特開2021-038106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
H01L 21/66
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の種結晶から成長したインゴットから切り出された複数のSiC基板のうちの2以上のSiC基板のフォトルミネッセンス像を取得する画像取得工程と、
前記2以上のSiC基板のそれぞれにおける欠陥の位置を抽出する抽出工程と、
前記2以上のSiC基板の間で、欠陥の位置及び前記フォトルミネッセンス像における前記欠陥のS/N比を比較し、前記欠陥が貫通欠陥であるか否かを判定する判定工程と、を有し、
前記判定工程は、
前記2以上のSiC基板のうち最も前記種結晶側の基板を基準ウェハとし、比較する比較ウェハの欠陥の位置が前記基準ウェハにおける欠陥の位置に対して所定の範囲内にあるかを判定する第1判定工程と、
前記第1判定工程で、位置が前記所定の範囲内にあると判定された前記基準ウェハの欠陥と前記比較ウェハの欠陥において、前記比較ウェハの欠陥のS/N比が前記基準ウェハの
欠陥のS/N比以下であるかを判定する第2判定工程と、を有する、SiC基板の評価方法
であり、
前記欠陥のS/N比は、前記フォトルミネッセンス像において、その周囲と比べ輝度が高い点として現れる欠陥の場合は欠陥の中心と欠陥の周囲との輝度の比率(S/N比)は1.5以上であり、その周囲と比べ輝度が低い点として現れる欠陥の場合は欠陥の中心と欠陥の周囲との輝度の比率(S/N比)は0.75以下である、SiC基板の評価方法。
【請求項2】
前記種結晶がオフセット角を有さず、
前記第1判定工程は、比較する比較ウェハの欠陥が前記基準ウェハにおける欠陥に対して一致するか否かを判定する、請求項1に記載のSiC基板の評価方法。
【請求項3】
前記画像取得工程において、前記2以上のSiC基板のそれぞれに、200nm以上380nm以下の波長の励起光を照射して前記フォトルミネッセンス像を取得する、請求項1又は2に記載のSiC基板の評価方法。
【請求項4】
前記画像取得工程において、600nm以上の波長を通過させるロングパスフィルターを介して前記フォトルミネッセンス像を取得する、請求項1~3のいずれか一項に記載のSiC基板の評価方法。
【請求項5】
前記判定工程で貫通欠陥であると判定された欠陥の前記基準ウェハ又は前記比較ウェハにおける位置を基に、同一の種結晶から成長したインゴットのその他のSiC基板における貫通欠陥の位置を推定する推定工程をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のSiC基板の評価方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のSiC基板の評価方法を用いたSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のSiC基板の評価方法を用いたSiCデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の評価方法、SiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC基板上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によってSiCデバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造される。
【0004】
SiC基板は、SiCインゴットを切り出して作製する。SiC基板に欠陥があると、SiCエピタキシャルウェハ及びSiCデバイスに悪影響を及ぼす。貫通欠陥は、SiCエピタキシャルウェハ及びSiCデバイスへの影響が大きい欠陥の一つである。また、貫通欠陥を有するSiCデバイスは、耐圧不良を引き起こす場合がある。
【0005】
特許文献1には、貫通欠陥の一つであるマイクロパイプを欠陥の座標位置から特定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、貫通欠陥はサイズが小さいものもあり、光学顕微鏡による表面像では検出できない場合がある。また座標位置がたまたま一致している場合もあり、貫通欠陥の識別精度が低い。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、貫通欠陥を低コストかつ効率的に識別できるSiC基板の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかるSiC基板の評価方法は、同一の種結晶から成長したインゴットから切り出された複数のSiC基板のうちの2以上のSiC基板のフォトルミネッセンス像を取得する画像取得工程と、前記2以上のSiC基板のそれぞれにおける欠陥の位置を抽出する抽出工程と、前記2以上のSiC基板の間で、欠陥の位置及び前記フォトルミネッセンス像における前記欠陥のS/N比を比較し、前記欠陥が貫通欠陥であるか否かを判定する判定工程と、を有し、前記判定工程は、前記2以上のSiC基板のうち最も前記種結晶側の基板を基準ウェハとし、比較する比較ウェハの欠陥の位置が前記基準ウェハにおける欠陥の位置に対して所定の範囲内にあるかを判定する第1判定工程と、前記第1判定工程で、位置が前記所定の範囲内にあると判定された前記基準ウェハの欠陥と前記比較ウェハの欠陥において、前記比較ウェハの欠陥のS/N比が前記基準ウェハのS/N比以下であるかを判定する第2判定工程と、を有する。
【0011】
(2)上記態様にかかるSiC基板の評価方法において、前記種結晶がオフセット角を有さず、前記第1判定工程は、比較する比較ウェハの欠陥の位置が前記基準ウェハにおける欠陥の位置に対して一致するか否かを判定してもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかるSiC基板の評価方法の前記画像取得工程において、前記2以上のSiC基板のそれぞれに、200nm以上380nm以下の波長の励起光を照射して前記フォトルミネッセンス像を取得してもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかるSiC基板の評価方法の前記画像取得工程において、600nm以上の波長を通過させるロングパスフィルターを介して前記フォトルミネッセンス像を取得してもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかるSiC基板の評価方法は、前記判定工程で貫通欠陥であると判定された欠陥の前記基準ウェハ又は前記比較ウェハにおける位置を基に、同一の種結晶から成長したインゴットのその他のSiC基板における貫通欠陥の位置を推定する推定工程をさらに備えてもよい。
【0015】
(6)第2の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、上記態様にかかるSiC基板の評価方法を有する。
【0016】
(7)第3の態様にかかるSiCデバイスの製造方法は、上記態様にかかるSiC基板の評価方法を有する。
【発明の効果】
【0017】
上記態様にかかるSiC基板の評価方法、SiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCデバイスの製造方法は、貫通欠陥を低コストかつ効率的に識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態にかかるSiC基板の評価方法のフロー図である。
【
図2】種結晶から結晶成長したインゴットの模式図である。
【
図3】SiC基板から欠陥の位置を抽出する際の座標系の一例を示す。
【
図4】フォトルミネッセンス像における欠陥を拡大した像である。
【
図5】
図4の欠陥と同一の貫通欠陥であって、
図4の欠陥より種結晶から遠い位置にある欠陥のフォトルミネッセンス像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
図1は、本実施形態にかかるSiC基板の評価方法のフロー図である。SiC基板の評価方法は、例えば、準備工程S0と画像取得工程S1と抽出工程S2と判定工程S3とを有する。SiC基板の評価方法は、例えば、準備工程S0、画像取得工程S1、抽出工程S2、判定工程S3の順で行われる。画像取得工程S1と抽出工程S2との順番は反対でもよい。
【0021】
準備工程S0では、まずインゴットを準備する。
図2は、種結晶から結晶成長したインゴットIgの模式図である。
図2においてインゴットIgの高さ方向をz方向、z方向と直交する一方向をx方向、x方向及びz方向と直交する方向をy方向と称する。インゴットIgは、同一の種結晶から結晶成長したSiC単結晶である。
【0022】
種結晶は、原料に対向する成長面が結晶面に対してオフセット角を有するものでも、オフセット角を有さないものでもよい。オフセット角を有する場合は、そのオフセット角は例えば2°以上6°以下である。インゴットは、例えば、昇華法によって種結晶の成長面上に成長する。
【0023】
インゴットIgは、内部に貫通欠陥1を有する場合がある。貫通欠陥1は、インゴットIgの結晶成長方向に延びる欠陥である。貫通欠陥1は、インゴットIgからSiC基板Wを切り出した後に、SiC基板Wの表面から裏面に向かって貫通する。貫通欠陥1には、種結晶との界面を起点に生じる種結晶由来の貫通欠陥と、SiCインゴットの内部の点(種結晶との界面以外の点)を起点に生じるバルク成長由来の貫通欠陥とがあるが、種結晶由来の貫通欠陥の割合が高い。
【0024】
貫通欠陥1は、結晶成長方向に沿って形成される場合が多い。例えば、オフセット角を有する種結晶を用いた場合、貫通欠陥1はインゴットIgのz方向に対して傾斜する場合が多い。貫通欠陥1のインゴットIgのz方向に対する傾斜角θは、例えば、オフセット角と一致する。種結晶がオフセット角を有さない場合、傾斜角θは、例えば、0°となる。
【0025】
次いでインゴットIgからSiC基板Wを切り出す。SiC基板Wは、xy平面と平行に切り出しても、xy平面に対して傾斜させて切り出してもよい。例えば、貫通欠陥1と直交するようにSiC基板Wを切り出してもよい。インゴットIgを切り出すことで、複数のSiC基板Wが得られる。
【0026】
次いで、画像取得工程S1を行う。画像取得工程S1では切り出した複数のSiC基板のうちの2以上のSiC基板Wに対してフォトルミネッセンス検査を行う。フォトルミネッセンス検査を行うことで、フォトルミネッセンス像が得られる。フォトルミネッセンス検査は、切り出したすべてのSiC基板に対して行ってもよいし、切り出した複数のSiC基板のうちの一部に対して行ってもよい。
【0027】
フォトルミネッセンス法は、物質に励起光を照射し、励起された電子が基底状態に戻る際に発光する光を測定する方法である。SiC基板Wの第1面に、SiCのバンドギャップより大きなエネルギーを有する励起光を照射し、SiC基板Wから発光されるフォトルミネッセンスの強度を測定する。フォトルミネッセンス法をSiC基板Wに適用することで、SiC基板Wの欠陥、不純物の凝集箇所等を特定する。フォトルミネッセンス検査は、例えば、レーザーテック株式会社製のSICA88を用いて行うことができる。
【0028】
フォトルミネッセンス検査において、SiC基板に照射する励起光は、例えば、波長が200nm以上380nm以下であり、好ましくはその波長は313nmである。またフォトルミネッセンス像を得る際には、600nm以上の波長を通過させるロングパスフィルターを介して、SiC基板Wで発光した光を検出することが好ましい。
【0029】
次いで、抽出工程S2を行う。抽出工程S2では、2以上のSiC基板Wのそれぞれにおける欠陥の位置を抽出する。欠陥の位置は、例えば、共焦点顕微鏡によって測定される。抽出工程S2は、例えば、画像取得工程S1で検出したフォトルミネッセンス像から欠陥の位置を抽出してもよいし、フォトルミネッセンスとは別に実施する欠陥測定(例えば顕微鏡を用いた表面検査)によって欠陥の位置を抽出してもよい。またフォトルミネッセンス像とフォトルミネッセンスとは別の欠陥検査の結果とを組み合わせて、欠陥の位置を抽出してもよい。抽出工程S2に、フォトルミネッセンス像を利用しない場合は、画像取得工程S1と抽出工程S2との順番を反対にできる。
【0030】
図3は、SiC基板Wから欠陥の位置を抽出する際の座標系の一例を示す。
図3に示すSiC基板Wは、オリエンテーションフラットOFを有する。例えば、オリエンテーションフラットOFと平行な方向をx方向、x方向と直交する方向をy方向として欠陥Dの位置を抽出する。x方向は、例えば、[11-20]であり、y方向は、例えば、[1-100]である。[11-20]および[1-100]がSiC基板Wの主面方向と相違する場合、x成分を[11-20]の正射影方向成分、y成分を[1-100]の正射影方向成分としてもよい。
【0031】
次いで、判定工程S3を行う。判定工程S3では、異なるSiC基板Wの欠陥の位置及びフォトルミネッセンス像における欠陥のS/N比を比較する。判定工程は、例えば、第1判定工程S3aと第2判定工程S3bとを有する。
【0032】
第1判定工程S3aは、異なるSiC基板Wの欠陥の位置関係を比較する。まず欠陥位置を比較する複数のSiC基板Wのうち最も種結晶側のSiC基板を基準ウェハW1(
図2参照)とする。上述のように、貫通欠陥は、種結晶との界面を起点に生じる種結晶由来の貫通欠陥の割合が高く、また、成長途中で閉塞する場合もある。種結晶に近い側のSiC基板Wを基準ウェハW1とすることで、インゴットIg中に存在する貫通欠陥を見落とす確率を下げることができる。また、種結晶由来の貫通欠陥は、種結晶とインゴットIgに亘って連なるため、種結晶に近い側のSiC基板Wは貫通欠陥が存在する可能性の高い位置を予測しやすい。
【0033】
そして、基準ウェハW1より種結晶から離れた位置から切り出したSiC基板Wを比較ウェハW2とする。第1判定工程S3aでは、基準ウェハW1と比較ウェハW2の欠陥の位置を比較し、所定の範囲内にあるか否かを判定する。
【0034】
図2に示すように、貫通欠陥1は、結晶成長方向に連なる。したがって、抽出工程S2で位置を特定した欠陥が貫通欠陥1の場合、基準ウェハW1における欠陥位置と、比較ウェハW2における欠陥位置と、は略一致する。
【0035】
種結晶がオフセット角を有し、貫通欠陥1がz方向に対して傾斜角θを有する場合は、基準ウェハW1における貫通欠陥の位置と、比較ウェハW2における貫通欠陥の位置と、は僅かにずれる。種結晶がオフセット角を有さず、貫通欠陥1のインゴットIgのz方向に対する傾斜角θが0°の場合は、基準ウェハW1における欠陥位置と、比較ウェハW2における欠陥位置と、は一致する。
【0036】
2つの欠陥のずれ量は、インゴットIgにおける基準ウェハW1と比較ウェハW2とのz方向の距離hにtanθを乗じた値である。欠陥位置がずれる方向は、例えば、[11-20]方向である。
【0037】
基準ウェハW1の欠陥と比較ウェハW2の欠陥とのずれ量がhtanθ以上の場合は、これらの欠陥は連通する貫通欠陥1ではない可能性が高い。基準ウェハW1と比較ウェハW2とのz方向の位置関係によらず、2つの欠陥の位置のずれ量が0.6mm以上の場合、統計的にこれらの欠陥は連通する貫通欠陥1ではない可能性が高い。この場合、「所定の範囲」は、例えばhtanθ、又は、0.6mmである。
【0038】
これに対し、基準ウェハW1の欠陥と比較ウェハW2の欠陥とのずれ量がhtanθ以下の場合は、これらの欠陥は連通する貫通欠陥1の可能性がある。基準ウェハW1と比較ウェハW2とのz方向の位置関係によらず、2つの欠陥の位置のずれ量が0.2mm以下の場合、統計的にこれらの欠陥は連通する貫通欠陥1である可能性が高い。この場合、「所定の範囲」は、例えばhtanθ、又は、0.2mmである。
【0039】
第1判定工程S3aは、例えば、2つの欠陥の位置が所定の範囲外の場合に、これらの欠陥が同一の貫通欠陥1に伴うものではないと判断する。第1判定工程S3aは、同じ貫通欠陥1に伴う欠陥と、同じ貫通欠陥1に伴う欠陥ではない欠陥とを、大別的にスクリーニングする。
【0040】
次いで、第1判定工程S3aで位置関係が所定の範囲内と判定された欠陥に対して第2判定工程S3bを行う。第2判定工程S3bは、フォトルミネッセンス像における基準ウェハW1の欠陥のS/N比と比較ウェハW2の欠陥のS/N比とを比較する。S/N比を比較する欠陥は、第1判定工程S3aで位置関係が所定の範囲内と判定された欠陥である。
【0041】
図4は、フォトルミネッセンス像における欠陥を拡大した像である。
図5は、
図4の欠陥と同一の貫通欠陥であって、
図4の欠陥より種結晶から遠い位置にある欠陥のフォトルミネッセンス像である。貫通欠陥は、フォトルミネッセンス像において、その周囲と比べ輝度が異なる点として現れる。欠陥の輝度が周囲の輝度よりも高い場合もあるし、欠陥の輝度が周囲の輝度よりも低い場合もある。欠陥輝点の周囲の輝度に対する比(S/N比)は、例えば、1.5以上、もしくは0.75以下である。抽出工程S2では、欠陥の位置を抽出した欠陥のS/N比を測定する。S/N比は、欠陥の中心と欠陥の周囲との輝度の比率である。
【0042】
貫通欠陥1に起因した欠陥のS/N比は、結晶成長の初期(種結晶に近い)ほど大きく、結晶成長の後期(種結晶から遠い)ほど小さくなる傾向にある。
図5に示す欠陥は、
図4に示す欠陥と同一の貫通欠陥に起因するが、SiC基板Wの切り出し位置が異なるため、欠陥のS/N比が異なる。欠陥が貫通欠陥1の場合、比較ウェハW2の欠陥のS/N比は、基準ウェハW1の欠陥のS/N比以下となる。
【0043】
第2判定工程S3bは、例えば、比較ウェハW2の欠陥のS/N比が基準ウェハW1の欠陥のS/N比以下の場合に、当該欠陥が同一の貫通欠陥1に伴う欠陥であると判断する。またその逆に、第2判定工程S3bは、例えば、比較ウェハW2の欠陥のS/N比が基準ウェハW1の欠陥のS/N比より大きい場合に、当該欠陥が同一の貫通欠陥1に伴う欠陥ではないと判断する。
【0044】
上述のように、本実施形態にかかるSiC基板の評価方法によれば、SiC基板Wを破壊することなくキラー欠陥の一つである貫通欠陥1を簡便に推定することができる。
【0045】
また本実施形態にかかるSiC基板の評価方法は、SiCエピタキシャルウェハの製造方法及びSiCデバイスの製造方法の一工程として組み込むことができる。具体的には、インゴットIgからSiC基板Wを切り出した後であって、エピタキシャル膜を成膜する前に当該評価方法を用いた評価工程を行う。当該評価工程を行うことで、不良品となりうるSiC基板Wを早めに評価でき、製品の歩留まりを高めることができる。
【0046】
また基準ウェハW1と比較ウェハW2との比較から求められた結果から、同一の種結晶から成長したインゴットのその他のSiC基板における貫通欠陥の位置を推定することもできる。以下、当該工程を推定工程と称する。
【0047】
推定工程では、判定工程で貫通欠陥であると判定された欠陥の基準ウェハW1又は比較ウェハW2における位置を基に、同一の種結晶から成長したインゴットのその他のSiC基板における貫通欠陥の位置を推定する。
【0048】
推定工程では、基準ウェハW1又は比較ウェハW2における貫通欠陥の位置と、ステップフロー方向およびSiC基板のオフセット角を基に、他のSiC基板における貫通欠陥の位置を推定する。他のSiC基板における貫通欠陥の位置は、例えば、他のSiC基板と基準ウェハW1又は比較ウェハW2との厚み方向の距離Hと種結晶のオフセット角θとから基準ウェハW1又は比較ウェハW2における貫通欠陥の位置からHtanθだけずれた位置にあると推定できる。
【0049】
例えば、種結晶がオフセット角を有さず、貫通欠陥1のインゴットIgのz方向に対する傾斜角θが0°の場合は、基準ウェハW1及び比較ウェハW2における貫通欠陥の位置と略一致する位置に、その他のSiC基板における貫通欠陥があると推定できる。貫通欠陥のS/N比結晶の成長方向に向かってS/N比は小さくなっていく傾向があるが、S/N比が1に近くなり、画像取得工程S1での検出が難しくなった場合でも、推定工程により貫通欠陥の位置を推定できる。
【0050】
推定工程を行うことで、それぞれのSiC基板やSiCエピタキシャルウェハ、SiCチップ等を逐一確認せずに同じSiCインゴットから得られるSiC基板のデバイスキラー欠陥の存在し得る位置を特定できる。推定工程におけるスクリーニングによりSiCエピタキシャルウェハを作製するスループットが向上する。本実施形態に係るSiC基板の評価方法は、推定工程を高精度に行う観点から、用いるSiC基板の枚数は多い程好ましい。一方、観察する手間を考慮すると、用いるSiC基板の枚数は2枚に近い程好ましい。
【0051】
以上、本実施形態の一例を図示したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、それぞれの実施形態の特徴的な構成の組み合わせ、その他の構成の付加等を行ってよい。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
種結晶の異なる、10個のSiCインゴットを用意し、そのそれぞれのインゴットに対し、上述の判定方法を適用した。
欠陥位置が所定の範囲内、かつ比較ウェハの欠陥のS/N比が基準ウェハのS/N比以下であった欠陥は63個存在した。抽出された欠陥のそれぞれが貫通欠陥であるか否かをX線トポグラフィーにより調べたところ、60個の貫通欠陥が確認され、貫通欠陥である割合は95%であった。
【0053】
(比較例1)
比較例1は、上記インゴットに対し、S/N比によるスクリーニングを行なわずに、判定を行った。
欠陥位置が所定の範囲内である欠陥は75個存在した。すなわち、貫通欠陥である割合は80%であった。
【0054】
上述のように、実施例1は、比較例1より高い確率で貫通欠陥を抽出することができた。
【符号の説明】
【0055】
S0…準備工程、S1…画像取得工程、S2…抽出工程、S3…判定工程、S3a…第1判定工程、S3b…第2判定工程、Ig…インゴット、1…貫通欠陥、W…SiC基板、W1…基準ウェハ、W2…比較ウェハ、D…欠陥、OF…オリエンテーションフラット