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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240910BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240910BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240910BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240910BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240910BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G02B5/28
B32B7/023
B32B27/20 A
B32B27/34
G02B5/22
G02B5/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020188117
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077314
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】折田 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】長田 崇
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/138976(WO,A1)
【文献】特開2019-049586(JP,A)
【文献】特開2019-200399(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151348(WO,A1)
【文献】特開2019-066746(JP,A)
【文献】国際公開第2014/088063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
B32B 7/023
B32B 27/20
B32B 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、色素(IR)と樹脂とを含む樹脂膜を有し、
前記光学フィルタが下記光学特性(i-1)~(i-10)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)前記光学フィルタの少なくとも一方の面において、波長450~500nm、入射角5度での平均反射率R450-500(5deg)AVEが3%以下、かつ、入射角40度での平均反射率R450-500(40deg)AVEが5%以下
(i-2)前記光学フィルタの少なくとも一方の面において、波長500~580nm、入射角5度での平均反射率R500-580(5deg)AVEが2.5%以下、かつ、入射角40度での平均反射率R500-580(40deg)AVEが4%以下
(i-3)前記光学フィルタの少なくとも一方の面において、前記R 450-500(5deg)AVE >前記R 500-580(5deg)AVE かつ、前記R 450-500(40deg)AVE >前記R 500-580(40deg)AVE の関係を満たす
(i-4)前記光学フィルタの少なくとも一方の面において、波長450~580nm、入射角5度での最大反射率R 450-580(5deg)MAX が4%以下、かつ、入射角40度での最大反射率R 450-580(40deg)MAX が6%以下
(i-5)波長450~500nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が6%以下
(i-6)波長500~580nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が5%以下
(i-7)波長450~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率T450-580(0deg)AVEが88%以上
(i-8)波長600~800nmにおいて、入射角0度で透過率が20%になる波長と、入射角40度で透過率が20%になる波長との差の絶対値が10nm以下
(i-9)波長600~800nmにおいて、入射角0度で透過率が20%になる波長が640~690nmの範囲にある
(i-10)波長750~1000nmにおいて、入射角0度での最大透過率T750-1000(0deg)MAXが1%以下、かつ、入射角40度での最大透過率T750-1000(40deg)MAXが1%以下
【請求項2】
前記樹脂膜が下記光学特性(ii-1)~(ii-6)をすべて満たす、請求項に記載の光学フィルタ。
(ii-1)波長450~580nmにおける平均内部透過率T450-580AVEが88%以上
(ii-2)波長600~700nmにおいて、内部透過率が20%になる波長が640~690nmの範囲にある
(ii-3)波長700nmにおける内部透過率T700が1%以下
(ii-4)波長750nmにおける内部透過率T750が10%以下
(ii-5)波長800nmにおける内部透過率T800が20%以下
(ii-6)波長950nmにおける内部透過率T950が60%以上95%以下
【請求項3】
前記誘電体多層膜が下記光学特性(iv-1)~(iv-8)をすべて満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(iv-1)波長450~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率T450-580(0deg)AVEが90%以上、かつ、入射角40度での平均透過率T450-580(40deg)AVEが90%以上
(iv-2)波長450~500nmにおいて、入射角0度での平均透過率と入射角40度での平均透過率との差の絶対値が3%以下
(iv-3)波長500~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率と入射角40度での平均透過率との差の絶対値が2%以下
(iv-4)波長450~500nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が6%以下
(iv-5)波長500~580nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が5%以下
(iv-6)波長600~800nmにおいて、入射角0度での透過率が20%になる波長が720~770nmの範囲にある
(iv-7)波長780~850nmにおいて、入射角0度での最大透過率T780-850(0deg)MAXが4%以上10%未満
(iv-8)波長900~980nmにおいて、入射角40度での最大透過率T900-980(40deg)MAXが1%以上5%未満
【請求項4】
前記色素(IR)は、
ジクロロメタン中で波長690nm以上735nm未満に最大吸収波長を有する化合物(A)、
ジクロロメタン中で波長735nm以上835nm未満に最大吸収波長を有する化合物(B)、
ジクロロメタン中で波長900nm以上1000nm以下に最大吸収波長を有する化合物(C)からそれぞれ1種類以上ずつ選ばれる化合物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記化合物(A)の最大吸収波長と前記化合物(B)の最大吸収波長との差の最大値が40nm以上である、請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記色素(IR)は、前記樹脂膜を構成する樹脂中で最大吸収波長における内部透過率が10%となるように、前記樹脂に前記色素(IR)を溶解して測定される分光内部透過率曲線において、下記特性(iii-1)を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii-1)前記樹脂中における最大吸収波長をD[nm]、450~580nmにおける平均内部透過率をEとしたとき、E>100-(D/100)である
【請求項7】
前記化合物(A)はスクアリリウム化合物またはシアニン化合物のいずれかから1種類以上ずつ選ばれ、前記化合物(B)はスクアリリウム化合物またはシアニン化合物のいずれかから1種類以上ずつ選ばれ、前記化合物(C)はスクアリリウム化合物、シアニン化合物、およびイモニウム化合物のいずれかから1種類以上ずつ選ばれる、請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記基材は支持体と前記樹脂膜を含み、前記樹脂膜は前記支持体の少なくとも一方の主面に積層される、請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記樹脂はポリイミド樹脂である、請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光学フィルタを備える情報取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視波長領域の光を透過し、近赤外波長領域の光を遮断する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し、紫外波長領域の光(以下「紫外光」ともいう)や近赤外波長領域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。
【0003】
このような光学フィルタは、例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層(誘電体多層膜)し、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタ等、様々な方式が挙げられる。
【0004】
誘電体多層膜を有する光学フィルタは、光の入射角により誘電体多層膜の光学膜厚が変化するために、入射角に依存した分光透過率曲線の変化や、高入射角において高反射率を得るべき近赤外光が高透過率化する光抜け、誘電体多層膜が反射した近赤外光によるノイズの発生が問題である。このようなフィルタを使用すると、固体撮像素子の分光感度が入射角の影響を受けるおそれがある。特に、近年のカメラモジュール低背化に伴い高入射角条件での使用が想定される。
【0005】
また、誘電体多層膜では、多層膜の積層数に応じて各層界面の反射光に起因する干渉により透過率の激しい変化(リップル)が生じうる。また、リップルは入射角が大きいほど大きく発生する。可視波長領域の光を透過し、近赤外波長領域の光を遮断する光学フィルタに用いられる誘電体多層膜は、可視光を透過し、近赤外光以降の長波長の光を遮断するよう設計される。ここで従来の誘電体多層膜は、近赤外光領域の光抜けを抑制するよう設計される一方、可視光領域でリップルが生じ、しかも、考慮される入射角は30度程度までであった。
【0006】
特許文献1には、誘電体多層膜を備え、高入射角において可視光領域のリップルが抑制された近赤外線カットフィルタが記載されている。
特許文献2には、種々の近赤外線吸収色素を組み合わせることにより、誘電体多層膜を備えることなく入射角依存性を低減した光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-120942号公報
【文献】特開2019-32371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1に記載の近赤外線カットフィルタは、高入射角において分光透過率曲線が変化し、近赤外光領域の遮蔽性が変化している。
特許文献2に記載の光学フィルタは、近赤外光領域の遮蔽性や入射角依存性を担保するために多量に用いられる色素によって可視光も吸収されてしまい、可視光領域の透過率が低い。
【0009】
本発明は、可視光の高い透過性と近赤外光の高い遮蔽性を有し、高入射角においてもリップルが抑制され、近赤外光の高入射角における遮蔽性の変化が抑制された光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、色素(IR)と樹脂とを含む樹脂膜を有し、
前記色素(IR)は、ジクロロメタン中で680~1000nmに最大吸収波長を有し、
前記光学フィルタが下記光学特性(i-1)~(i-10)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)波長450~500nmにおいて、入射角5度での平均反射率R450-500(5deg)AVEが3%以下、かつ、入射角40度での平均反射率R450-500(40deg)AVEが5%以下
(i-2)波長500~580nmにおいて、入射角5度での平均反射率R500-580(5deg)AVEが2.5%以下、かつ、入射角40度での平均反射率R500-580(40deg)AVEが4%以下
(i-3)前記R450-500(5deg)AVE>前記R500-580(5deg)AVEかつ、前記R450-500(40deg)AVE>前記R500-580(40deg)AVEの関係を満たす
(i-4)波長450~580nmにおいて、入射角5度での最大反射率R450-580(5deg)MAXが4%以下、かつ、入射角40度での最大反射率R450-580(40deg)MAXが6%以下
(i-5)波長450~500nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が6%以下
(i-6)波長500~580nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が5%以下
(i-7)波長450~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率T450-580(0deg)AVEが88%以上
(i-8)波長600~800nmにおいて、入射角0度で透過率が20%になる波長と、入射角40度で透過率が20%になる波長との差の絶対値が10nm以下
(i-9)波長600~800nmにおいて、入射角0度で透過率が20%になる波長が640~690nmの範囲にある
(i-10)波長750~1000nmにおいて、入射角0度での最大透過率T750-1000(0deg)MAXが1%以下、かつ、入射角40度での最大透過率T750-1000(40deg)MAXが1%以下
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視光の高い透過性と近赤外光の高い遮蔽性を有し、高入射角においてもリップルが抑制され、近赤外光の高入射角における遮蔽性の変化が抑制された光学フィルタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図3図3は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図4図4は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図5図5は例2-1の誘電体多層膜1の分光透過率曲線を示す図である。
図6図6は例2-2の誘電体多層膜2の分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(I)で示される化合物を化合物(I)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(I)からなる色素を色素(I)ともいい、他の色素についても同様である。また、式(I)で表される基を基(I)とも記し、他の式で表される基も同様である。
【0014】
本明細書において、内部透過率とは、{実測透過率/(100-反射率)}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。
本明細書において、基材の透過率、色素が樹脂に含有される場合を含む樹脂膜の透過率、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、誘電体多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
【0015】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率および平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率および内部透過率の相加平均である。
光学特性は、紫外可視分光光度計を用いて測定できる。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0016】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材と、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備え、後述する特定の光学特性を満たす光学フィルタである。
ここで、基材は、ジクロロメタン中で680~1000nmに最大吸収波長を有する色素(IR)と、樹脂とを含む樹脂膜を有する。色素(IR)はNIR色素である。基材が近赤外線を吸収する色素を含有することで、誘電体多層膜の高入射角における光学特性の低下、例えば、近赤外域における光抜けやノイズ等の発生を、基材の吸収特性によりカバーできる。各色素および樹脂については後述する。
【0017】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。図1~4は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す光学フィルタ1Aは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。なお、「基材の主面側に特定の層を有する」とは、基材の主面に接触して該層が備わる場合に限らず、基材と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。
【0018】
図2に示す光学フィルタ1Bは、基材10の両方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。
【0019】
図3に示す光学フィルタ1Cは、基材10が、支持体11と、支持体11の一方の主面側に積層された樹脂膜12とを有する例である。光学フィルタ1Cはさらに、樹脂膜12の上と、支持体11の樹脂膜12が積層されていない主面側に、誘電体多層膜30をそれぞれ有する。
【0020】
図4に示す光学フィルタ1Dは、基材10が、支持体11と、支持体11の両方の主面側に積層された樹脂膜12とを有する例である。光学フィルタ1Dはさらに、それぞれの樹脂膜12の上に、誘電体多層膜30を有する。
【0021】
本発明の光学フィルタは、下記光学特性(i-1)~(i-10)をすべて満たす。
(i-1)波長450~500nmにおいて、入射角5度での平均反射率R450-500(5deg)AVEが3%以下、かつ、入射角40度での平均反射率R450-500(40deg)AVEが5%以下
(i-2)波長500~580nmにおいて、入射角5度での平均反射率R500-580(5deg)AVEが2.5%以下、かつ、入射角40度での平均反射率R500-580(40deg)AVEが4%以下
(i-3)前記R450-500(5deg)AVE>前記R500-580(5deg)AVEかつ、前記R450-500(40deg)AVE>前記R500-580(40deg)AVEの関係を満たす
(i-4)波長450~580nmにおいて、入射角5度での最大反射率R450-580(5deg)MAXが4%以下、かつ、入射角40度での最大反射率R450-580(40deg)MAXが6%以下
(i-5)波長450~500nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が6%以下
(i-6)波長500~580nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が5%以下
(i-7)波長450~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率T450-580(0deg)AVEが88%以上
(i-8)波長600~800nmにおいて、入射角0度で透過率が20%になる波長と、入射角40度で透過率が20%になる波長との差の絶対値が10nm以下
(i-9)波長600~800nmにおいて、入射角0度で透過率が20%になる波長が640~690nmの範囲にある
(i-10)波長750~1000nmにおいて、入射角0度での最大透過率T750-1000(0deg)MAXが1%以下、かつ、入射角40度での最大透過率T750-1000(40deg)MAXが1%以下
【0022】
光学特性(i-1)~(i-10)を全て満たす本フィルタは、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性に優れ、かつ、40度という高い入射角におけるリップル発生と近赤外光の遮蔽性の変化が抑制された光学フィルタである。
【0023】
光学特性(i-1)、(i-2)および(i-4)を満たすことで、可視光領域の反射率が十分低いことを意味する。
光学特性(i-1)においてR450-500(5deg)AVEは好ましくは2.5%以下、R450-500(40deg)AVEは好ましくは4.5%以下である。
光学特性(i-2)においてR500-580(5deg)AVEは好ましくは2%以下、R500-580(40deg)AVEは好ましくは3.5%以下である。
光学特性(i-4)においてはR450-580(5deg)MAX好ましくは3.5%以下、R450-580(40deg)MAXは好ましくは5.5%以下である。
【0024】
光学特性(i-3)を満たすことで、撮像装置のセンサの視認性において特に重要な緑帯域の反射率が低いことを意味する。
【0025】
光学特性(i-7)を満たすことで、可視光領域の透過率が高く、また、光学特性(i-1)、(i-2)および(i-4)~(i-6)を満たすことで高入射角においてもリップルが抑制されたことを意味する。
【0026】
光学特性(i-5)は、好ましくは5.5%以下、より好ましくは5%以下である。
光学特性(i-6)は、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0027】
450-580(0deg)AVEは、好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上である。
【0028】
光学特性(i-8)を満たすことで、波長600~800nmの近赤外光吸収帯域において、高い入射角度でもシフト(すなわち近赤外光の遮蔽性の変化)が少なく色再現性に優れることを意味する。
光学特性(i-8)は、好ましくは8nm以下、より好ましくは6nm以下である。
【0029】
光学特性(i-9)を満たすことで、赤外帯域を遮光して効率的に可視透過光を取り込めることを意味する。光学特性(i-9)は好ましくは645~685nmの範囲、より好ましくは650~680nmの範囲にある。
【0030】
光学特性(i-10)を満たすことで、入射角0度においても40度の高入射角においても波長750~1000nmの近赤外光~長波長領域における遮光性に優れることを意味する。T750-1000(0deg)MAXは好ましくは0.95%以下、より好ましくは0.9%以下である。T750-1000(40deg)MAXは好ましくは0.95%以下、より好ましくは0.9%以下である。
【0031】
<誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層される。
【0032】
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、下記光学特性(iv-1)~(iv-8)をすべて満たすことが好ましい。
(iv-1)波長450~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率T450-580(0deg)AVEが90%以上、かつ、入射角40度での平均透過率T450-580(40deg)AVEが90%以上
(iv-2)波長450~500nmにおいて、入射角0度での平均透過率と入射角40度での平均透過率との差の絶対値が3%以下
(iv-3)波長500~580nmにおいて、入射角0度での平均透過率と入射角40度での平均透過率との差の絶対値が2%以下
(iv-4)波長450~500nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が6%以下
(iv-5)波長500~580nmにおいて、入射角0度での透過率と入射角40度での透過率との差の最大値が5%以下
(iv-6)波長600~800nmにおいて、入射角0度での透過率が20%になる波長が720~770nmの範囲にある
(iv-7)波長780~850nmにおいて、入射角0度での最大透過率T780-850(0deg)MAXが4%以上10%未満
(iv-8)波長900~980nmにおいて、入射角40度での最大透過率T900-980(40deg)MAXが1%以上5%未満
【0033】
光学特性(iv-1)を満たすことで、入射角0度においても40度の高入射角においても可視光域の透過性に優れることを意味する。
450-580(0deg)AVEは、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上である。
450-580(40deg)AVEは、好ましくは90.5%以上、より好ましくは91%以上である。
【0034】
光学特性(iv-2)~(iv-5)を満たすことで、40度の高入射角においても可視光領域のリップル発生が抑制されていることを意味する。
光学特性(iv-2)は、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2%以下である。
光学特性(iv-3)は、好ましくは1.6%以下、より好ましくは1.2%以下である。
光学特性(iv-4)は、好ましくは5.5%以下、より好ましくは5%以下である。
光学特性(iv-5)は、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0035】
光学特性(iv-6)を満たすことで、赤色帯域の透過率に優れ、波長770nm以降の近赤外光領域において遮光性に優れることを意味する。光学特性(iv-6)は、好ましくは725~765nmの範囲、より好ましくは730~760nmの範囲にある。
【0036】
光学特性(iv-7)~(iv-8)は、近赤外光領域における光抜けの許容範囲を規定している。
780-850(0deg)MAXは好ましくは4~9%、より好ましくは4~8%である。
900-980(40deg)MAXは好ましくは1~4.5%、より好ましくは1~4%である。
【0037】
本発明における誘電体多層膜は、光学特性(iv-2)~(iv-5)に示すように、40度の高入射角においても可視光領域のリップル発生が抑制されている。
一方、上記光学特性(iv-7)~(iv-8)に示すように、入射角0度および40度、780nm以降の近赤外光波長領域において光抜けが発生してもよい。かかる波長領域は、後述する樹脂膜のNIR色素の吸収によってカバーされるため、光抜けが生じても光学フィルタ全体としては遮光される。
【0038】
本発明の光学フィルタは、かかる誘電体多層膜と後述する樹脂膜とを組み合わせることで、光学特性(i-7)に示した高い可視光透過性、光学特性(i-10)に示した近赤外光の高い遮蔽性を有し、光学特性(i-1)~(i-2)および(i-4)~(i-6)に示すように高入射角においてもリップルが抑制され、光学特性(i-8)に示すように近赤外光の高入射角における遮蔽性の変化が抑制された光学フィルタである。
【0039】
本フィルタにおいて、誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層(以下、NIR反射層とも記載する。)として設計されることが好ましい。誘電体多層膜の他方はNIR反射層、近赤外域以外の反射域を有する反射層、または反射防止層として設計されることが好ましい。
【0040】
NIR反射層は、近赤外域の光を遮蔽するように設計された誘電体多層膜である。NIR反射層としては、例えば、可視光を透過し、吸収層である樹脂膜の遮光域以外の近赤外域の光を主に反射する波長選択性を有する。なお、NIR反射層の反射領域は、樹脂膜の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。NIR反射層は、NIR反射特性に限らず、近赤外域以外の波長域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0041】
NIR反射層は、例えば、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa、TiO、Nbが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。
【0042】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO、SiO等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0043】
高入射角でもリップルが抑制される代わりに780nm以降の近赤外光波長領域において光抜けが発生してもよい多層膜とするには、例えば多層膜の層数を少なくすることが挙げられる。
【0044】
NIR反射層は、反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数が、近赤外光波長領域における遮光性の観点から好ましくは20層以上、より好ましくは25層以上、さらに好ましくは30層以上である。ただし、合計積層数が多くなると、リップルや反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。
また、反射層の膜厚は、光学フィルタの反り低減の観点から全体として2~10μmが好ましい。
【0045】
また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0046】
NIR反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の光学特性を与えたり、2層で所定の光学特性を与えたりしてもよい。2層以上有する場合、各反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。反射層を2層以上有する場合、通常、反射帯域の異なる複数の反射層で構成される。2層の反射層を設ける場合、一方を、近赤外域のうち短波長帯の光を遮蔽する近赤外反射層とし、他方を、該近赤外域の長波長帯および近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。
【0047】
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。反射防止層は、反射層と同様に誘電体多層膜を交互に積層して得られる。
【0048】
<基材>
本発明の光学フィルタにおいて、基材は、後述のNIR色素(IR)および樹脂を含む樹脂膜を有する。
【0049】
<樹脂膜の光学特性>
樹脂膜は下記光学特性(ii-1)~(ii-6)をすべて満たすことが好ましい。
(ii-1)波長450~580nmにおける平均内部透過率T450-580AVEが88%以上
(ii-2)波長600~700nmにおいて、内部透過率が20%になる波長が640~690nmの範囲にある
(ii-3)波長700nmにおける内部透過率T700が1%以下
(ii-4)波長750nmにおける内部透過率T750が10%以下
(ii-5)波長800nmにおける内部透過率T800が20%以下
(ii-6)波長950nmにおける内部透過率T950が60%以上95%以下
【0050】
光学特性(ii-1)を満たすことで、可視光領域の透過性が高いことを意味する。
450-580AVEは、好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上である。
【0051】
光学特性(ii-2)を満たすことで、赤色帯域の透過率に優れ、波長700nm以降の近赤外光領域において遮光性に優れる誘電体多層膜の斜入射シフトを補えることを意味する。
光学特性(ii-2)は、好ましくは645~685nm、より好ましくは650~680nmの範囲にある。
【0052】
光学特性(ii-3)~(ii-5)を満たすことで、誘電体多層膜において光抜けが生じやすい波長範囲を吸収により遮光できることを意味する。
700は好ましくは0.9%以下である。
750は好ましくは9.5%以下、より好ましくは9%以下である。
800は好ましくは18%以下、より好ましくは16%以下である。
【0053】
光学特性(ii-6)は、長波長領域において許容される透過率の範囲を規定する。
950は好ましくは60%以上92.5%以下、より好ましくは60%以上90%以下である。
【0054】
<NIR色素>
NIR色素(IR)は、ジクロロメタン中で680~1000nmに最大吸収波長を有するNIR色素である。かかる色素を含有することで、近赤外光を効果的にカットできる。
【0055】
色素(IR)は、樹脂膜を構成する樹脂中で最大吸収波長における内部透過率が10%となるように、樹脂に色素(IR)を溶解して測定される分光内部透過率曲線において、下記特性(iii-1)を満たすことが好ましい。
(iii-1)前記樹脂中における最大吸収波長をD[nm]、450~580nmにおける平均内部透過率をEとしたとき、E>100-(D/100)である
【0056】
色素(IR)は、近赤外光領域に最大吸収波長を有するが、最大吸収波長が大きいほど可視光も吸収しやすいため、可視光領域の透過率が低下する傾向がある。特性(iii-1)は、最大吸収波長と、可視光透過率の下限値の関係を規定している。したがって、特性(iii-1)を満たす色素(IR)であれば、可視光透過率が十分に高いことを意味する。
特性(iii-1)は、より好ましくはE>101.5-(D/100)である。
【0057】
NIR色素(IR)としては、1種類の化合物からなってもよく、2種以上の化合物を含んでもよい。波長700~1000nmの波長範囲の光を幅広く吸収するという上記樹脂膜の光学特性(ii-3)~(ii-6)を満たしやすい観点から、ジクロロメタン中で680~1000nmに最大吸収波長を有する3種以上の化合物を含むことが好ましく、特に、下記特性の化合物(A)~(C)からそれぞれ1種類以上ずつ選ばれる化合物を含むことがより好ましい。
化合物(A):ジクロロメタン中で波長690nm以上735nm未満に最大吸収波長を有する化合物
化合物(B):ジクロロメタン中で波長735nm以上835nm未満に最大吸収波長を有する化合物
化合物(C):ジクロロメタン中で波長900nm以上1000nm以下に最大吸収波長を有する化合物
【0058】
また、化合物(A)の最大吸収波長と化合物(B)の最大吸収波長との差の最大値が好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上である。これにより、誘電体多層膜の光抜けが生じやすい波長範囲を効率的に吸収により遮光できる。
【0059】
化合物(A)はスクアリリウム化合物またはシアニン化合物のいずれかから1種類以上ずつ選ばれ、化合物(B)はスクアリリウム化合物またはシアニン化合物のいずれかから1種類以上ずつ選ばれ、化合物(C)はスクアリリウム化合物、シアニン化合物、およびイモニウム化合物のいずれかから1種類以上ずつ選ばれることが、可視光域の透過性、樹脂への溶解性、耐久性の観点から好ましい。
【0060】
<スクアリリウム化合物>
スクアリリウム化合物は、下記式(I)で示される化合物、後述の式(II)で示される化合物、または後述の式(V)で示される化合物であることが好ましい。
なお、スクアリリウム化合物中に同一の記号が2以上存在する場合、それらの記号は同一でも異なっていてもよい。シアニン化合物についても同様である。
【0061】
<スクアリリウム化合物(I)>
【0062】
【化1】
【0063】
ただし、上記式中の記号は以下のとおりである。
24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基、-NR2728(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)、-NHR30、または、-SO-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0064】
【化2】
【0065】
21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X-Y-および-X-Y-(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0066】
【化3】
【0067】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または-NR3839(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、R21、R22、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、または、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基を示す。
【0068】
化合物(I)としては、例えば、式(I-1)~(I-3)のいずれかで示される化合物が挙げられ、樹脂への溶解性、樹脂中での耐熱性や耐光性、これを含有する樹脂層の可視光透過率の観点から、式(I-1)で示される化合物が特に好ましい。
【0069】
【化4】
【0070】
式(I-1)~式(I-3)中の記号は、式(I)における同記号の各規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0071】
化合物(I-1)において、Xとしては、基(2x)が好ましく、Yとしては、単結合または基(1y)が好ましい。この場合、R31~R36としては、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。なお、-Y-X-として、具体的には、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0072】
-C(CH-CH(CH)- …(11-1)
-C(CH-CH- …(11-2)
-C(CH-CH(C)- …(11-3)
-C(CH-C(CH)(nC)- …(11-4)
-C(CH-CH-CH- …(12-1)
-C(CH-CH-CH(CH)- …(12-2)
-C(CH-CH(CH)-CH- …(12-3)
【0073】
また、化合物(I-1)において、R21は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4-1)または(4-2)で示される基がより好ましい。
【0074】
【化5】
【0075】
式(4-1)および式(4-2)中、R71~R75は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0076】
化合物(I-1)において、R24は-NR2728が好ましい。-NR2728としては、樹脂と塗工溶媒への溶解性の観点から-NH-C(=O)-R29または-NH-SO-R30が好ましい。
【0077】
化合物(I-1)において、R24が-NH-C(=O)-R29の化合物を式(I-11)に示す。
【0078】
【化6】
【0079】
23およびR26は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0080】
29としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基、または置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基が好ましい。置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフロロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0081】
29としては、直鎖状、分岐鎖状、環状の炭素数1~17のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基、および炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基から選ばれる基が好ましい。
【0082】
29としては、独立して1つ以上の水素原子が水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい、少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5~25の炭化水素基である基も好ましく使用できる。
【0083】
化合物(I-11)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0084】
【表1】
【0085】
化合物(I-11)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(I-11-11)~(I-11-15)、(I-11-26)~(I-11-30)等が好ましい。
【0086】
化合物(I-1)において、R24が-NH-SO-R30の化合物を式(I-12)に示す。
【0087】
【化7】
【0088】
23およびR26は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0089】
30は耐光性の点から、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6~16の炭化水素基が好ましい。不飽和の環構造としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。R30は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基がより好ましい。なお、R30を示す各基において、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、特にはフッ素原子に置換されていてもよい。
【0090】
化合物(I-12)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0091】
【表2】
【0092】
化合物(I-12)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(I-12-11)~(I-12-15)、(I-12-26)~(I-12-30)等が好ましい。
【0093】
<スクアリリウム化合物(II)>
【0094】
【化8】
【0095】
ただし、上記式中の記号は以下のとおりである。
環Zは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を環中に0~3個有する5員環または6員環であり、環Zが有する水素原子は置換されていてもよい。
とR、RとR、およびRと環Zを構成する炭素原子またはヘテロ原子は、互いに連結して窒素原子とともにそれぞれヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1を形成していてもよく、その場合、ヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1が有する水素原子は置換されていてもよい。ヘテロ環を形成していない場合のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子間に不飽和結合、ヘテロ原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。Rおよびヘテロ環を形成していない場合のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよく、置換基を有してもよいアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0096】
化合物(II)としては、例えば、式(II-1)~(II-3)のいずれかで示される化合物が挙げられ、樹脂への溶解性、樹脂中での可視光透過性の観点から、式(II-3)で示される化合物が特に好ましい。
【0097】
【化9】
【0098】
式(II-1)、式(II-2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、R~Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基を示す。
【0099】
式(II-3)中、R、R、およびR~R12は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。
【0100】
化合物(II-1)および化合物(II-2)におけるRおよびRは、樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数7~15のアルキル基がより好ましく、RとRの少なくとも一方が、炭素数7~15の分岐鎖を有するアルキル基がさらに好ましく、RとRの両方が炭素数8~15の分岐鎖を有するアルキル基が特に好ましい。
【0101】
化合物(II-3)におけるRは、透明樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、エチル基、イソプロピル基が特に好ましい。
【0102】
は、可視光透過性、合成容易性の観点から、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、水素原子が特に好ましい。
およびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、メチル基がより好ましい。
【0103】
~R12は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
-CR10-CR1112-として、下記基(13-1)~(13-5)で示される2価の有機基が挙げられる。
-CH(CH)-C(CH- …(13-1)
-C(CH-CH(CH)- …(13-2)
-C(CH-CH- …(13-3)
-C(CH-CH(C)- …(13-4)
-CH(CH)-C(CH)(CH-CH(CH)-…(13-5)
【0104】
化合物(II-3)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0105】
【表3】
【0106】
化合物(I)~(II)は、それぞれ公知の方法で製造できる。化合物(I)については、米国特許第5,543,086号明細書、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号に記載された方法で製造可能である。化合物(II)については、国際公開第2017/135359号に記載された方法で製造可能である。
【0107】
<シアニン化合物>
シアニン化合物は、下記式(III)、または式(IV)で示される化合物であることが好ましい。
【0108】
<シアニン化合物(III)、(IV)>
【0109】
【化10】
【0110】
ただし、上記式中の記号は以下のとおりである。
101~R109およびR121~R131は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。R110~R114およびR132~R136は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~15のアルキル基を示す。
は一価のアニオンを示す。
n1およびn2は0または1である。-(CHn1-を含む炭素環、および、-(CHn2-を含む炭素環に結合する水素原子はハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基または炭素数5~20のアリール基で置換されていてもよい。
【0111】
上記において、アルキル基(アルコキシ基が有するアルキル基を含む)は直鎖であってもよく、分岐構造や飽和環構造を含んでもよい。アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基における置換基としては、ハロゲン原子および炭素数1~10のアルコキシ基が挙げられる。
【0112】
式(III)、式(IV)において、R101およびR121は、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基が好ましく、樹脂中で高い可視光透過率を維持する観点から分岐を有する炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。
【0113】
式(III)、式(IV)において、R102~R105、R108、R109、R122~R127、R130およびR131はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または炭素数5~20のアリール基が好ましく、高い可視光透過率が得られる観点から水素原子がより好ましい。
【0114】
式(III)、式(IV)において、R110~R114およびR132~R136はそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1~15のアルキル基が好ましく、高い可視光透過率が得られる観点から水素原子がより好ましい。
【0115】
106、R107、R128およびR129は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R106とR107、R128とR129は、同じ基が好ましい。
【0116】
としては、I、BF 、PF 、ClO 、式(X1)、および(X2)で示されるアニオン等が挙げられ、好ましくは、BF 、またはPF である。
【0117】
【化11】
【0118】
以下の説明において、化合物(III)における、R101~R114を除く部分を骨格(III)ともいう。化合物(IV)においても同様である。
【0119】
式(III)において、n1が1の化合物を下式(III-1)に、n1が0の化合物を下式(III-2)に示す。
【0120】
【化12】
【0121】
式(III-1)および式(III-2)において、R101~R114およびXは、式(III)の場合と同様である。R115~R120は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。R115~R120はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R115~R120は、同じ基であることが好ましい。
【0122】
式(IV)において、n2が1の化合物を下式(IV-1)に、n2が0の化合物を下式(IV-2)に示す。
【0123】
【化13】
【0124】
式(IV-1)および式(IV-2)において、R121~R136およびXは、式(IV)の場合と同様である。R137~R142は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。R137~R142はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R137~R142は、同じ基であることが好ましい。
【0125】
式(III-1)、式(III-2)、式(IV-1)、式(IV-2)でそれぞれ示される化合物としては、より具体的には、それぞれ、各骨格に結合する原子または基が、以下の表に示される原子または基である化合物が挙げられる。下記表に示す全ての化合物において、R101~R109は式の左右で全て同一である。下記表に示す全ての化合物において、R121~R131は式の左右で同一である。
【0126】
下記表におけるR110-R114および下記表におけるR132-R136は、各式の中央のベンゼン環に結合する原子または基を示し、5個全てが水素原子の場合「H」と記載した。R110-R114のうち、いずれかが置換基であり、それ以外が水素原子の場合、置換基である符号と置換基の組合せのみを記載した。例えば、「R112-C(CH」の記載はR112が-C(CHであり、それ以外は水素原子であることを示す。R132-R136についても同様である。
【0127】
表4におけるR115-R120および表6におけるR137-R142は、式(III-1)、式(IV-1)における中央のシクロヘキサン環に結合する原子または基を示し、6個全てが水素原子の場合「H」と記載した。R115-R120のうち、いずれかが置換基であり、それ以外が水素原子の場合、置換基である符号と置換基の組合せのみを記載した。R137-R142についても同様である。
【0128】
表5におけるR115-R118および表7におけるR137-R140は、式(III-2)、式(IV-2)における中央のシクロペンタン環に結合する原子または基を示し、4個全てが水素原子の場合「H」と記載した。R115-R118のうち、いずれかが置換基であり、それ以外が水素原子の場合、置換基である符号と置換基の組合せのみを記載した。R137-R140についても同様である。
【0129】
下記表には、Xを示さないが、いずれの化合物においてもXはBF またはPF である。
【0130】
【表4】
【0131】
化合物(III-1)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(III-1-1)~(III-1-5)等が好ましい。
【0132】
【表5】
【0133】
化合物(III-2)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(III-2-1)~(III-2-5)等が好ましい。
【0134】
【表6】
【0135】
化合物(IV-1)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(IV-1-1)~(IV-1-5)等が好ましい。
【0136】
【表7】
【0137】
化合物(IV-2)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(IV-2-1)~(IV-2-5)等が好ましい。
【0138】
化合物(III)と化合物(IV)においては、上記のとおり骨格が異なり、それにより、吸収極大の波長領域が異なる。化合物(III)においては、骨格に結合する原子や基の種類や組み合わせにもよるが、最大吸収波長が概ね760~830nmの波長領域にある。化合物(IV)においては、骨格に結合する原子や基の種類や組み合わせにもよるが、最大吸収波長が概ね800~900nmの波長領域にある。
【0139】
さらに、化合物(III)においては、骨格のn1が1の場合とn1が0の場合で最大吸収波長が異なる。骨格に結合する原子や基の種類や組み合わせにもよるが、n1が1の場合、最大吸収波長が概ね760~800nmの波長領域にあり、n1が0の場合、最大吸収波長が概ね800~830nmの波長領域にある。
【0140】
同様に、化合物(IV)においても、n2が1の場合とn2が0の場合で最大吸収波長が異なる。骨格(IV-1)に結合する原子や基の種類や組み合わせにもよるが、n2が1の場合、最大吸収波長が概ね800~830nmの波長領域にあり、n2が0の場合、最大吸収波長が概ね830~900nmの波長領域にある。
【0141】
化合物(III)、化合物(IV)は、例えば、Dyes and pigments 73(2007) 344-352やJ.Heterocyclic chem,42,959(2005)に記載された方法で製造可能である。
【0142】
<スクアリリウム化合物(V)>
【0143】
【化14】
【0144】
式(V)中、R51~R54は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基、アリール基またはアルアリール基である。
アルキル基、アリール基またはアルアリール基は、置換基を有してもよい。
また、アルキル基、アリール基またはアルアリール基は、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、エステル結合、アミド結合、もしくはチオアミド結合を含んでよい。
さらに、アルキル基、アリール基またはアルアリール基は、チオフェン環と結合する末端に酸素原子、エステル結合、アミド結合、もしくはチオアミド結合を有してもよい。
51とR52、R52とR53、および、R53とR54は、それぞれ互いに連結して単環または2~4の環が縮環した多環を形成してもよく、その場合、該環に結合する水素原子は置換基で置換されていてもよい。
【0145】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0146】
51~R54がアルキル基の場合、炭素数は1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~12がさらに好ましい。
51~R54がアリール基の場合、炭素数は4~20が好ましく、4~17がより好ましく、4~14がさらに好ましい。
51~R54がアルアリール基の場合、炭素数は5~20が好ましく、5~18がより好ましく、5~15がさらに好ましい。
51~R54が置換基を有する場合、上記炭素数には置換基の炭素数が含まれる。
【0147】
51~R54における置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、アミノ基、N-置換アミノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、N-置換カルバモイル基、イミド基、炭素数1~10のアルコキシ基が挙げられる。R51~R54がアリール基またはアルアリール基の場合、置換基は、芳香環に結合する水素原子またはこれらが有するアルキル基の水素原子を置換する基であり、上記置換基の他にさらにアリール基を含む。
【0148】
51とR52、R52とR53、および、R53とR54は、それぞれ互いに連結して単環または2~4の環が縮環した多環を形成してもよく、その場合、該環に結合する水素原子は置換基で置換されていてもよい。
【0149】
52とR53が連結した場合、スクアリリウム化合物(V)は、2個のチオフェン環の間に環が形成されて少なくとも3つの環が縮環した構造を含む。R52とR53が連結して形成される環に結合する水素原子は置換基で置換されていてもよい。
52とR53が連結した環に結合する水素原子を置換する置換基としては、R51~R54における置換基と同様の基、および、置換基を有してもよいフェニル基が挙げられる。フェニル基が有する置換基としてはR51~R54における置換基と同様の基が挙げられる。
【0150】
55およびR56は、それぞれ独立して、置換基を有してもよく炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子もしくは窒素原子を含んでよいアルキル基、またはアルアリール基である。または、R55およびR56は、互いに連結して窒素原子とともに員数が5~10のシクロヘテロ環を形成してもよく、その場合、該環に結合する水素原子は置換基で置換されていてもよい。
【0151】
55およびR56における置換基としては、R51~R54における置換基と同様の置換基が挙げられる。R55およびR56がアルアリール基の場合、これらが有するアルキル基はさらにアリール基で置換されていてもよい。
【0152】
55およびR56が、アルキル基の場合、炭素数は1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましい。R55およびR56は、可視光透過性や、樹脂および溶媒への溶解性の観点からは、炭素-炭素原子間に酸素原子を含んでよい炭素数3~20の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、直鎖状の場合、3~12がより好ましく、分岐鎖状の場合、3~10がより好ましく、環状の場合、5~10がより好ましい。R15およびR16が置換基を有する場合、上記炭素数には置換基の炭素数が含まれる。
55およびR56は、例えば、基(1a)~(15a)から選ばれる基がさらに好ましく、基(1a)が特に好ましい。
【0153】
【化15】
【0154】
55およびR56は、互いに連結して窒素原子とともに員数が5~10のシクロヘテロ環を形成していてもよい。シクロヘテロ環は環構成元素として窒素原子以外に酸素原子を含んでいてもよい。シクロヘテロ環の員数は5または6が好ましく、5が特に好ましい。シクロヘテロ環に結合する水素原子が置換されている場合、水素原子を置換する置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~10のアルキル基、またはアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数7~20のアルアリール基が挙げられる。
【0155】
55およびR56が結合した2価の基を-Q-で示した場合、-Q-として具体的には以下の基(11)~(14)が挙げられる。
【0156】
-(CH- …(11)
-(CH- …(12)
-C(CH(CHC(CH- …(13)
-C(CH(CHC(CH- …(14)
【0157】
スクアリリウム化合物(V)としては、例えば、以下の式(V-1)で示される化合物または、式(V-2)で示される化合物が好ましい。スクアリリウム化合物(V-1)は、スクアリリウム化合物(V)において、R52とR53が連結してシクロペンタジチオフェン環を形成してなる化合物である。スクアリリウム化合物(V-2)は、スクアリリウム化合物(V)において、R52とR53が連結せず、2個のチオフェン環が結合した構造を含む化合物である。
【0158】
【化16】
【0159】
51、R54、R55およびR56は、式(V)におけるR51、R54、R55およびR56と好ましい態様も含めて同様である。
52bおよびR53bは、互いに連結して環を形成しない点を除き、式(V)におけるR52およびR53と好ましい態様も含めて同様である。
【0160】
52aおよびR53aは、可視光透過性や、耐光性や、樹脂および溶媒への溶解性の観点からは、炭素-炭素原子間に酸素原子を含んでよい炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、直鎖状の場合、1~12がより好ましく、分岐鎖状の場合、3~10がより好ましく、環状の場合、5~10がより好ましい。R52aおよびR53aは、例えば、基(1a)~(15a)から選ばれる基がさらに好ましく、基(1a)または、基(3a)または、基(9a)が特に好ましい。
【0161】
52aおよびR53aは、可視光域の透過率、耐光性の観点からは、1~5個の置換基を有してもよいフェニル基または、1~7個の置換基を有してもよいナフチル基または、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。フェニル基およびナフチル基の置換基としては、炭素-炭素原子間に不飽和結合または酸素原子を含んでよい炭素数1~12のアルキル基、もしくはアルコキシ基、またはアルキルアミノ基(アルキル基の炭素数は1~12)が挙げられ、特に、メチル基、ターシャリーブチル基、ジメチルアミノ基、メトキシ基等が好ましい。フェニル基およびナフチル基は、非置換または、水素原子が1~3個置換されているのが好ましい。
【0162】
1~5個の置換基を有してもよいフェニル基として、具体的には、基(P1)~(P9)が挙げられる。
【0163】
【化17】
【0164】
1~7個の置換基を有してもよいナフチル基として、具体的には、基(N1)~(N9)が挙げられる。
【0165】
【化18】
【0166】
化合物(V-1)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0167】
【表8】
【0168】
化合物(V-1)としては、これらの中でも、可視光域の透過性、樹脂への溶解性の点から、化合物(V-1―5)、(V-1―12)等が好ましい。
【0169】
化合物(V-2)としては、より具体的には以下の表に示す化合物が挙げられる。また、以下の表に示す化合物は、スクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。
【0170】
【表9】
【0171】
スクアリリウム化合物(V)は、公知の方法で製造できる。例えば国際公開第2019/230660号に記載された方法で製造可能である。
【0172】
<イモニウム化合物>
イモニウム化合物は、下記式(A1)、または式(A2)で示される化合物であることが好ましい。
【0173】
【化19】
【0174】
式(A1)および(A2)中の記号は以下のとおりである。
201~R206およびR221~R226はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、炭素原子間に酸素原子を有してもよく、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、置換されていてもよい、炭素数6~14のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、もしくは員数が3~14のヘテロ環基である。ただし、置換または非置換のアミノ基がフェニル基に結合した基は除く。さらに、R201~R206およびR221~R226において、同一の窒素原子に結合する2つの基は互いに結合して、前記窒素原子とともに員数3~8のヘテロ環を形成していてもよく、該環に結合する水素原子は、炭素数1~12のアルキル基に置換されていてもよい。
【0175】
207~R218およびR227~R238はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアミノ基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、または、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基である。R207~R218およびR227~R238において、互いにとなり合う2つの基は、互いに結合してフェニル基の2個の炭素原子とともに員数3~8の環を形成してもよく、該環に結合する水素原子は、炭素数1~12のアルキル基に置換されていてもよい。
【0176】
201~R206およびR221~R226において、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、置換されていてもよい、炭素数6~14のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、もしくは員数が3~14のヘテロ環基における置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、炭素数1~6のアシルオキシ基が挙げられる。
【0177】
環を形成していない場合のR207~R218およびR227~R238は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましい。アルキル基もしくはアルコキシ基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
【0178】
207~R218およびR227~R238において、互いにとなり合う2つの基が結合してフェニル基の2個の炭素原子とともに形成される環は、脂環であっても芳香環であってもよく、ヘテロ環であってもよい。ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。
【0179】
207~R218およびR227~R238において、互いにとなり合う2つの基が結合する組合せは、式(A1)、式(A2)において、中心の窒素原子に結合する3個の各フェニル基において2組ずつ計6組存在する。具体的には、式(A1)においては、R207とR208、R209とR210、R211とR212、R213とR214、R215とR216、R217とR218の6組である。式(A2)においては、R227とR228、R229とR230、R231とR232、R233とR234、R235とR236、R237とR238の6組である。
【0180】
式(A1)のR207~R218および式(A2)のR227~R238において、となり合う2つの基が結合する組数は1組であっても、2組以上であってもよく、最大6組全てが結合してもよい。3個のフェニル基について、各1組合計3組が結合するのが好ましい。
【0181】
上記となり合う2つの基が結合した2価の基として、具体的には、ヘテロ原子として窒素原子を1~2個含んでもよく、原子間に不飽和結合を有してもよい、炭素数1~6のアルキレン基が挙げられる。より具体的には、以下の基(X-1)~(X-4)が挙げられる。なお、これらの2価の基が有する水素原子は、炭素数1~12のアルキル基に置換されていてもよい。
【0182】
-(CH-(nは1~6の整数) …(X-1)
-CH=CH-CH=CH- …(X-2)
-CH-CH=CH- …(X-3)
-N=CH-NH- …(X-4)
【0183】
207~R218およびR227~R238は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、水素原子または炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましい。アルキル基もしくはアルコキシ基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
【0184】
また、R201とR207、R202とR210、R203とR211、R204とR214、R205とR215、R206とR218、R221とR227、R222とR230、R223とR231、R224とR234、R225とR235、R226とR238は、互いに結合して、フェニル基に結合する窒素原子および該フェニル基の2個の炭素原子とともに員数4~8のヘテロ環を形成してもよく、該環に結合する水素原子は、炭素数1~12のアルキル基に置換されていてもよい。
XaおよびXbはそれぞれ独立して一価の陰イオンを表す。
【0185】
上記において、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状またはこれらの構造を組み合わせた構造でもよい。また、以下のアリール基がアルキル基を有する場合のアルキル基、アラルキル基のアルキル基についても同様である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0186】
上記において、アリール基は芳香族化合物が有する芳香環(ただし、ヘテロ原子を含まない)、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。アリール基は該結合に寄与する炭素原子以外の環構成原子に結合する水素原子がアルキル基置換されている構造、例えば、トリル基、キシリル基を含む。
【0187】
上記において、アラルキル基は、芳香環(ただし、ヘテロ原子を含まない)にアルキル基が結合し、該アルキル基を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。アラルキル基は、該結合に寄与するアルキル基が結合する原子以外の環構成原子に結合する水素原子がアルキル基置換されている構造を含む。
【0188】
上記において、ヘテロ環基は、環を構成する原子が炭素原子と炭素原子以外の原子からなる脂環または芳香環を構成する原子を介して結合する基である。ヘテロ環基は該結合に寄与する原子以外の環構成原子に結合する水素原子がアルキル基置換されている構造を含む。ヘテロ環が有する炭素原子以外の原子としては、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子が挙げられ、個数としては1~2個が好ましい。
【0189】
XaおよびXbとしては、それぞれ独立して、Cl、Br、I、F、ClO 、BF 、PF 、SbF 、CFSO 、CHSO 、N[SO 、C[SO 等が挙げられる。
【0190】
ここで、Rは、炭素数1~4のフルオロアルキル基であり、炭素数1~2のフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1のフルオロアルキル基であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内であると、耐熱性、耐湿性等の耐久性、および後述する有機溶媒への溶解性が良好である。このようなRとしては、例えば、-CF、-C、-C、-C等のパーフルオロアルキル基、-CH、-CH、-CH等が挙げられる。
【0191】
耐湿性の観点からは、上記フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、トリフルオロメチル基であることがより好ましい。
【0192】
XaおよびXbとしては、それぞれ独立して、I、BF4-、SbF 、PF 、ClO 、N[SOCF 、C[SOCF 等が好ましく、ジクロロメタン溶液中と樹脂中との光学特性の差が小さい点で、SbF 、PF およびN[SOCF がより好ましく、SbF 、N[SOCF が特に好ましい。また、光耐久性の観点から、BF4-、PF 、N[SOCF が好ましい。
【0193】
樹脂膜におけるNIR色素(IR)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~25質量部、より好ましくは0.3~15質量部である。なお、2種以上の化合物を組み合わせる場合、上記含有量は各化合物の総和である。
また、NIR色素(IR)が化合物(A)~(C)を含む場合、化合物(A)の含有量は樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~5質量部、化合物(B)の含有量は好ましくは0.1~5質量部、化合物(C)の含有量は好ましくは0.1~5質量部である。
【0194】
<その他の色素>
樹脂膜は、NIR色素以外に、他の色素、例えばUV色素を含有してもよい。
UV色素は、具体例に、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。また、UV色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0195】
<基材構成>
本フィルタにおける基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また基材の材質としては400~700nmの可視光を透過する透明性材料であれば有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。
基材が単層構造の場合、樹脂とNIR色素(IR)とを含む樹脂膜からなる樹脂基材が好ましい。
基材が複層構造の場合、支持体の少なくとも一方の主面にNIR色素(IR)を含有する樹脂膜を積層した複合基材が好ましい。このとき支持体は透明樹脂または透明性無機材料からなることが好ましい。
【0196】
樹脂としては、透明樹脂であれば制限されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等から選ばれる1種以上の透明樹脂が用いられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
樹脂膜の光学特性やガラス転移点(Tg)、密着性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0197】
NIR色素(IR)やその他の色素として複数の化合物を用いる場合、これらは同一の樹脂膜に含まれてもよく、また、それぞれ別の樹脂膜に含まれてもよい。
【0198】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
支持体に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等に銅イオンを含む吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。
ガラスとしては、赤外光(特に900~1200nm)を吸収できる観点から、リン酸塩系ガラス、フツリン酸塩系ガラスが好ましい。なお、「リン酸塩系ガラス」は、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
【0199】
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0200】
支持体に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0201】
支持体としては、光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等から、無機材料が好ましく、特にガラス、サファイアが好ましい。
【0202】
樹脂膜は、色素(IR)と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを支持体に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記支持体は、本フィルタに含まれる支持体でもよいし、樹脂膜を形成する際にのみ使用する剥離性の支持体でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0203】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を支持体上に塗工後、乾燥させることにより樹脂膜が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0204】
また、樹脂膜は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもある。基材が、色素(IR)を含む樹脂膜からなる単層構造(樹脂基材)である場合、樹脂膜をそのまま基材として用いてもよい。基材が、支持体と、支持体の少なくとも一方の主面に積層した色素(IR)を含む樹脂膜とを有する複層構造(複合基材)である場合、このフィルムを支持体に積層し熱圧着等により一体化させることにより基材を製造できる。
【0205】
樹脂膜は、光学フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。
【0206】
樹脂膜の厚さは、基材が、色素(IR)を含む樹脂膜からなる単層構造(樹脂基材)である場合、好ましくは20~150μmである。
基材が、支持体と、支持体の少なくとも一方の主面に積層した色素(IR)を含有する樹脂膜とを有する複層構造(複合基材)である場合、樹脂膜の厚さは、好ましくは0.3~20μmである。なお、光学フィルタが樹脂膜を2層以上有する場合は、各樹脂膜の総厚が上記範囲であることが好ましい。
【0207】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
また基材の厚さは、誘電体多層膜成膜時の反り低減、光学素子低背化の観点から、300μm以下が好ましく、基材が樹脂膜からなる樹脂基材である場合、好ましくは50~300μmであり、基材が支持体と樹脂膜を備える複合基材である場合、好ましくは50~300μmである。
【0208】
本フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【実施例
【0209】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
各光学特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いた。
なお、入射角度が特に明記されていない場合の光学特性は入射角0度(光学フィルタ主面に対し垂直方向)で測定した値である。
【0210】
各例で用いた色素は下記のとおりである。
化合物1(スクアリリウム化合物):米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号に基づき合成した。
化合物2(フタロシアニン化合物):特許第4081149号公報に基づき合成した。
化合物3(スクアリリウム化合物):国際公開第2017/135359号に基づき合成した。
化合物4~6(シアニン化合物):Dyes and pigments 73(2007) 344-352に基づき合成した。
化合物7(スクアリリウム化合物):国際公開第2019/230660号に基づき合成した。
化合物8(ジイモニウム化合物):特開2014-25016号公報に基づき合成した。
【0211】
【化20】
【0212】
【化21】
【0213】
<IR色素の光学特性>
ポリイミド樹脂(三菱ガス化学製C-3G30G)を8.5質量%の濃度で有機溶媒(シクロヘキサノン:γブチロラクトン=1:1質量比)に溶解した。
上記で調製したポリイミド樹脂の溶液に、樹脂100質量部に各色素化合物を6質量部になるように添加し、50℃に加熱しながら2時間攪拌した。色素含有樹脂溶液をガラス基板(アルカリガラス、Schott製D263)に塗布し、乾燥して膜厚1μmの樹脂膜(塗工膜)を得た。
この樹脂膜付きガラス板の分光透過率曲線と分光反射率曲線を用いて、分光内部透過率曲線を算出し、最大吸収波長における透過率が10%になるように規格化した。
光学特性を下記表に示す。
【0214】
【表10】
【0215】
<例1-1~例1-5:樹脂膜の光学特性>
ポリイミド樹脂(三菱ガス化学製C-3G30G)を8.5質量%の濃度で有機溶媒(シクロヘキサノン:γブチロラクトン=1:1質量比)に溶解した。
上記で調製したポリイミド樹脂の溶液に、樹脂100質量部に対して各化合物が下記表に記載の含有量(質量部)となるように添加し、50℃に加熱しながら2時間攪拌した。色素含有樹脂溶液をガラス基板(アルカリガラス、Schott製D263)に塗布し、乾燥して膜厚2μmの樹脂膜(塗工膜)を得た。
得られた樹脂膜について、波長350nm~1200nmの波長範囲で、0degの入射方向における透過分光、5degの入射方向における反射分光を測定した。透過率は下記式で表す内部透過率で示した。
内部透過率=実測透過率/(100-反射率)*100
光学特性を下記表に示す。
なお、例1-1~例1-5は参考例である。
【0216】
【表11】
【0217】
例1-1~例1-3は多層膜で光抜けが生じ得る近赤外光領域を吸収するのに必要な分のみ色素を配合しているため、可視光透過率が高い。
例1-4は配合する色素が少ないため多層膜で光抜けが生じ得る近赤外光領域を吸収しきれていない。
例1-5は近赤外光領域の吸収幅は広いが、可視光透過率が低い。色素の添加量を増やして吸収幅を広げた結果、可視光領域も吸収してしまったためと考えられる。
【0218】
<例2-1~例2-2:誘電体多層膜の光学特性>
TiO膜とSiO膜を交互に32層積層させた総膜厚3.94μmの誘電体多層膜1と、40層積層させた総膜厚4.94μmの誘電体多層膜2を設計した。
誘電体多層膜1と誘電体多層膜2それぞれの光学特性を下記表に示す。
また、誘電体多層膜1と誘電体多層膜2それぞれの分光透過率曲線を図5図6に示す。
なお、例2-1および例2-2は参考例である。
【0219】
【表12】
【0220】
誘電体多層膜1は、リップルが小さいが、780nm以降において光抜けが生じている。
誘電体多層膜2は、リップルが大きいが、780nm以降において光抜けがほとんど生じていない。
【0221】
<例3-1:光学フィルタの光学特性>
ガラス基板(アルカリガラス、Schott製D263)の主面に、例2-1の誘電体多層膜1を積層した。ガラス基板の他方の主面に、例1-1の樹脂膜をスピンコートにより成膜し、樹脂膜の上に、SiOとTiOとを交互に積層した誘電体多層膜(反射防止膜)を蒸着により成膜し、光学フィルタ1を作製した。
【0222】
<例3-2:光学フィルタの光学特性>
例2-1の誘電体多層膜1に替えて例2-2の誘電多層膜2を積層した以外は例3-1と同様に、光学フィルタ2を作製した。
【0223】
<例3-3:光学フィルタの光学特性>
例1-1の樹脂膜に替えて例1-5の樹脂膜を成膜した以外は例3-1と同様に、光学フィルタ3を作製した。
【0224】
光学フィルタ1~3の光学特性を下記表に示す。
なお、例3-1が実施例、例3-2および例3-3が比較例である。
【0225】
【表13】
【0226】
例3-1の光学フィルタは、可視光の透過率が高く、40度の高い入射角においてリップルが小さく、かつ、750~1000nmの近赤外光領域を含む長波長領域の遮光が両立できた。
例3-2の光学フィルタは、誘電体多層膜の入射角依存性が大きく、40度の高い入射角において低リップルを実現できなかった。
例3-3の光学フィルタは、色素による吸収が過剰であるため、可視光の透過率が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明の光学フィルタは、可視光の透過性に優れ、かつ、高入射角における近赤外光の遮蔽性の変化が抑制された良好な近赤外光遮蔽特性を有する。近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0228】
1A、1B、1C、1D…光学フィルタ、10…基材、11…支持体、12…樹脂膜、30…誘電体多層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6