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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物、電線、及びケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20240910BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20240910BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K5/13
C08K3/20
H01B7/295
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021016503
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119412
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中山 明成
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】中村 孔亮
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正智
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108250599(CN,A)
【文献】特開2020-077634(JP,A)
【文献】特開平04-233977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
C08K 5/13
C08K 3/20
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン系ポリマーと、
(B)金属水酸化物と、
(C)没食子酸が有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基がアルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物を含む樹脂組成物において、
前記(C)成分が、3,4,5-トリメトキシ安息香酸(オイデスミン酸)及びそのアルキルエステルのうち少なくとも一つを含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記(A)成分100質量部に対して、前記(C)成分を2質量部以上30質量部以下含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
導体と、前記導体を被覆する被覆層と、を備える電線であって、
前記被覆層が、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物で形成されている、電線。
【請求項4】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物で形成されたシースを備えるケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、電線、及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電線は、導体と、導体の周囲に設けられる被覆層とを備えている。また、ケーブルは、例えば、このような電線を撚り合わせた撚り線と、撚り線の周囲に設けられたシースとを備えている。電線の被覆層及びケーブルのシースは、一般的に、ゴム、樹脂等を主原料とした電気絶縁性材料で形成される。
【0003】
電線の被覆層及びケーブルのシースには、用途に応じた様々な特性が要求される。例えば、電子機器用及び鉄道車両用の電線及びケーブルには、燃焼時における毒性ガス、腐食性ガス等の発生が抑えられたハロゲンフリーの材料で形成されること、かつ高い難燃性を有すること等が要求される。
【0004】
このような要求を満たす材料として、特許文献1には、エチレン系ポリマーをベースポリマーとする樹脂成分に、難燃剤として水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-2062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、より高い難燃性が要求される場合には、特許文献1に記載されている樹脂組成物では十分でない場合があった。
一方、本発明者らは、没食子酸エステル等の、分子内に複数のフェノール性水酸基を有する化合物を併せて添加することで、フェノール性水酸基が有する高いラジカルトラップ効果により、大幅に難燃性が向上することを見出した。ラジカルトラップ効果とは、生じたラジカルをフェノール性水酸基が補足する効果のことをいう。これにより、燃焼時に燃焼物から生じるラジカルを難燃剤が補足して樹脂組成物と酸素との反応を抑制することができる。
【0007】
しかし、本発明者らの更なる検討の結果、分子内に複数のフェノール性水酸基を有する化合物を含む樹脂組成物を加熱老化させると、引張強さが増大すること等により、初期状態からの引張強さの変化率が大きくなってしまうことが新たに判明した。
【0008】
本開示の一局面は、難燃性に優れるとともに、加熱老化時の引張強さ変化が抑制された樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を用いて形成された電線及びケーブルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、樹脂組成物であって、(A)エチレン系ポリマーと、(B)金属水酸化物と、(C)没食子酸が有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基がアルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物、及び、没食子酸エステルが有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基が、アルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物、のうち少なくとも一つの化合物と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、難燃性に優れるとともに、加熱老化時の引張強さ変化が抑制された樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を用いて形成された電線及びケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る電線の構造を示す横断面図である。
図2】第2実施形態に係る電線の構造を示す横断面図である。
図3】ケーブルの一例の構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一態様の樹脂組成物は、(A)エチレン系ポリマーと、(B)金属水酸化物と、(C)没食子酸が有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基がアルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物、及び、没食子酸エステルが有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基が、アルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物、のうち少なくとも一つの化合物と、を含む。
【0013】
このような樹脂組成物は、以下に述べるように、難燃性に優れるとともに、加熱老化時の引張強さ変化が抑制される。また、加熱老化時の伸び変化も抑制される。
先に述べたとおり、本発明者らの検討によれば、没食子酸エステル等の、分子内に複数のフェノール性水酸基を有する化合物は、樹脂組成物の難燃性を向上することができる。しかし、このような化合物を含む樹脂組成物を加熱老化させると、初期状態からの引張強さが増大すると同時に伸びが低下することにより、これらの変化率が大きくなってしまう。このような事態は、比較的短時間の加熱条件では物性の変化は小さい方が良いという設計思想に反するため、好ましくない。
【0014】
このような現象が生じる理由は、フェノール性水酸基が、電線の被覆層及びケーブルのシースの製造時に生じ得るラジカルを補足し、補足されたラジカルを加熱老化時に放出することにより、ベースポリマーの架橋反応が促進されるためと考えられる。例えば、電線の被覆層及びケーブルのシースの耐熱性を高めるために樹脂組成物を架橋する場合があるが、この架橋時にラジカルが生じる可能性がある。
【0015】
本発明者らは、燃焼時におけるラジカル捕捉と加熱老化時におけるラジカル供与の抑制とを両立するには、フェノール性水酸基を保護することにより、フェノール性水酸基の反応性を一時的に低下させつつ燃焼時に元の水酸基に戻すことが有効であると考えた。すなわち、フェノール性水酸基の酸素を残したまま水素だけを別の構造で置き換えることにより、フェノール性水酸基の反応性が抑制されるため、加熱老化時の引張強さ等の変化が抑制されると考えられる。これに加え、置き換えた部分が燃焼時の高温環境で脱離して元の水酸基に戻ることによりラジカルトラップ効果が復活すれば、高い難燃性を維持することができると考えられる。そのため、本発明者らは、没食子酸エステル等の化合物が有する水酸基の保護を種々検討した。
【0016】
その結果、没食子酸又は没食子酸エステルが有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基を、アルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換することで、高い難燃性を維持しつつも、加熱老化時の引張強さ等の変化を抑えられることを見出した。
【0017】
以下、本開示の一態様の樹脂組成物、電線及びケーブルについて詳細に説明する。
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、ハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物である。
以下、樹脂組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。なお、以下では、(B)成分と(C)成分とをまとめて難燃剤として説明する場合がある。
[(A)成分]
(A)成分のエチレン系ポリマーとしては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。(A)成分としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましい。また、(A)成分は、樹脂組成物中のベースポリマーであることが好ましい。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分の金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化カルシウム、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)等が挙げられる。(B)成分としては、水酸化マグネシウムを含むことが好ましい。
【0019】
水酸化マグネシウムとしては、例えば、表面無処理のものと、表面処理されているものとが挙げられる。表面無処理のものとしては、例えば、ブルーサイト鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、合成水酸化マグネシウム等が挙げられる。表面処理されているものとしては、シランカップリング剤、リン酸エステル、脂肪酸(例えば、ステアリン酸、オレイン酸等)、又は脂肪酸塩によって表面処理されているものが挙げられる。
【0020】
水酸化マグネシウムとしては、シランカップリング剤によって表面処理されているものが好ましい。シランカップリング剤によって表面処理された水酸化マグネシウムは、(A)成分との親和性が高いため、樹脂組成物の引張特性が良好になるからである。
【0021】
樹脂組成物中における(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、50質量部以上300質量部以下であることが好ましく、100質量部以上250質量部以下であることがより好ましい。(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して50質量部以上であると、得られる電線、ケーブル等においてより高い難燃性が得られる。また、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して300質量部以下であると、金属水酸化物の粒子同士の密着及び凝集が抑制されることにより樹脂組成物の流動性が低下しにくいため、樹脂組成物の加工性、例えば、押出成形による加工性等が良好である。
【0022】
[(C)成分]
(C)成分の化合物は、没食子酸が有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基がアルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物、及び、没食子酸エステルが有する三個の水酸基のうち少なくとも一つの水酸基が、アルコキシ基、フェノキシ基、又はシリルエーテル基で置換された化合物、のうち少なくとも一つの化合物である。なお、没食子酸は、下記式(1)で表される化合物である。
【0023】
【化1】
【0024】
没食子酸内のカルボン酸基は、水酸基側が保護されている限り、カルボン酸構造のままでもエステル化されていてもよい。エステルとしては、炭素数の小さいアルキルエステル、例えば炭素数1以上4以下の低級アルキルエステルが好ましい。没食子酸エステルとしては、特に、下記式(2)で表される没食子酸メチル、及び下記式(3)で表される没食子酸プロピルから選ばれる少なくとも一つが好ましい。
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
(C)成分の化合物において、三個の水酸基のうち少なくとも一つが置換されていればよい。また、置換基の位置は、3,4,5位のいずれでも構わない。加熱老化時におけるラジカル供与をより抑制する観点から、複数(すなわち、二個又は三個)の水酸基が置換されていることが好ましく、すべての水酸基が置換されていることがより好ましい。なお、必ずしもすべての水酸基が保護されていなくても、加熱老化時におけるラジカル供与の抑制効果が発揮される理由は不明であるが、立体障害のためラジカル捕捉力が低下することによると本発明者らは考えている。
【0028】
置換基のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1以上4以下のアルコキシ基が好ましく、入手容易性の点からメトキシ基がより好ましい。
アルコキシ基で置換された化合物としては、例えば、3,4,5-トリメトキシ安息香酸(別称:オイデスミン酸)及びそのアルキルエステル、3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ安息香酸(別称:シリング酸)及びそのアルキルエステル等が挙げられる。オイデスミン酸のアルキルエステルとしては、例えば、オイデスミン酸メチル、オイデスミン酸プロピル等の炭素数1以上4以下のアルキルエステル等が挙げられる。シリング酸のアルキルエステルとしては、例えば、シリング酸メチル等の炭素数1以上4以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0029】
アルコキシ基で置換された化合物としては、加熱老化時におけるラジカル供与をより抑制する観点から、オイデスミン酸及びそのアルキルエステルが好ましく、オイデスミン酸がより好ましい。
フェノキシ基で置換された化合物としては、例えば、3,4,5-トリフェノキシ安息香酸及びそのアルキルエステル、4-フェノキシ-3,5-ジヒドロキシ安息香酸及びそのアルキルエステル、3-フェノキシ-4,5-ジヒドロキシ安息香酸及びそのアルキルエステル、3,4-ジフェノキシ-5-ジヒドロキシ安息香酸及びそのアルキルエステル等が挙げられる。これらの場合において、アルキルエステルとしては、炭素数1以上4以下のアルキルエステルが好ましい。
【0030】
置換基のシリルエーテル基としては、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリt-ブチルシリルオキシ等の、炭素数1以上4以下のトリアルキルシリルオキシ基が挙げられる。シリルエーテル基としては、燃焼時に脱保護しやすいことからトリメチルシリルオキシ基がより好ましい。
【0031】
シリルエーテル基は、シラン化合物を用いて水酸基をシリルエーテル化することにより化合物に導入することができる。シリルエーテル化のために使用するシラン化合物としては、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリt-ブチルクロロシラン等のクロロシラン化合物等が挙げられる。シリルエーテル基による保護は、例えば、没食子酸又は没食子酸エステルを塩基と共に溶解した溶液に、クロロシラン化合物を滴下して反応させることにより容易にできる。
【0032】
(A)成分のエチレン系ポリマーとしてエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用した場合、置換基はシリルエーテル基であることが好ましい。燃焼時における酢酸の脱離により酸性となった環境では、シリルエーテル基が速やかに脱保護されることにより化合物が元の没食子酸又は没食子酸エステルへ速やかに戻るため、難燃性が維持されやすいからである。
【0033】
シリルエーテル基で置換された化合物としては、例えば、3,4,5-トリス(トリメチルシリルオキシ)安息香酸及びそのアルキルエステル、3,5-ジ(トリメチルシリルオキシ)-4-ヒドロキシ安息香酸及びそのアルキルエステル、3-トリメチルシリルオキシ-4,5-ジヒドロキシ安息香酸及びそのアルキルエステル、3,4,5-トリス(トリt-ブチルシリルオキシ)安息香酸及びそのアルキルエステル等が挙げられる。3,4,5-トリス(トリメチルシリルオキシ)安息香酸のアルキルエステルとしては、3,4,5-トリス(トリメチルシリルオキシ)安息香酸プロピル等の炭素数1以上4以下のアルキルエステル等が挙げられる。3,5-ジ(トリメチルシリルオキシ)-4-ヒドロキシ安息香酸のアルキルエステルとしては、3,5-ジ(トリメチルシリルオキシ)-4-ヒドロキシ安息香酸プロピル等の炭素数1以上4以下のアルキルエステル等が挙げられる。3-トリメチルシリルオキシ-4,5-ジヒドロキシ安息香酸のアルキルエステルとしては、3-(トリメチルシリルオキシ)-4,5-ジヒドロキシ安息香酸プロピル等の炭素数1以上4以下のアルキルエステル等が挙げられる。3,4,5-トリス(トリt-ブチルシリルオキシ)安息香酸のアルキルエステルとしては、3,4,5-トリス(トリt-ブチルシリルオキシ)安息香酸プロピル等の炭素数1以上4以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0034】
置換基としては、加熱老化時におけるラジカル供与をより抑制する観点から、アルコキシ基、フェノキシ基、及びシリルエーテル基のうち、アルコキシ基及びシリルエーテル基が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
【0035】
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、2質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して1質量部以上であると、得られる電線、ケーブル等において高い難燃性が得られる。また、(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して50質量部以下であると、樹脂組成物の引張強さが向上する。
【0036】
[他の成分]
樹脂組成物は、上記成分以外にも必要に応じて他の成分を上記特性に影響が出ない範囲で含有してもよい。他の成分としては、例えば、上記以外の難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、加工助剤、カップリング剤、表面処理剤、着色剤、滑剤、相溶化剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属キレーター、軟化剤、可塑剤等が挙げられる。
【0037】
<電線>
[第1実施形態]
図1に示す電線10は、第1実施形態に係るハロゲンフリーの難燃性絶縁電線である。電線10は、導体1と、導体1を被覆する被覆層としての絶縁層2と、導体1と絶縁層2との間に設けられたセパレータ3と、を備える。
【0038】
導体1としては、通常用いられる金属線、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム線、金線、銀線等を用いることができる。また、導体1として、金属線の周囲に、錫、ニッケル等の金属めっきを施したものを用いてもよい。また、導体1として、金属線を撚り合わせた撚り線を用いてもよい。撚り線としては、同心撚り線、集合撚り線、これらを更に同心撚りした複合撚り線等を用いることができる。また、導体1として、撚り線を圧縮した圧縮導体を用いてもよい。圧縮導体は、電線を細径化できるため好ましい。
【0039】
絶縁層2は、上記樹脂組成物で形成されている。絶縁層2の厚さは特に限定されないが、0.15mm以上2mm以下が好ましい。
セパレータ3は、例えばポリエステルテープ等で形成される。セパレータ3を設けることにより、導体1として撚り導体を使用した場合には、樹脂組成物の押出し時、すなわち、絶縁層2の形成時に、導体1の内部への樹脂組成物の潜り込みを抑制することができる。なお、電線10はセパレータ3を備えていなくてもよい。
【0040】
電線10は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記(A)~(C)成分、及び他の成分を含む材料を溶融混練し、樹脂組成物を得る。混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、加圧ニーダ等のバッチ式混練機、二軸押出機等の連続式混練機等、公知の混練装置を採用することができる。
【0041】
そして、導体1を準備し、導体1の周囲にセパレータ3を巻装する。その後、押出成形機により、セパレータ3の周囲を樹脂組成物で被覆する。これにより、所定厚さの絶縁層2を形成することができる。
【0042】
そして、絶縁層2を、例えば電子線架橋法、化学架橋法等により架橋処理する。架橋処理は必須ではないが、絶縁層2に架橋処理を施すことにより、絶縁層2の耐熱性が向上するため、絶縁層2を架橋処理することが好ましい。電子線架橋法を用いる場合には、絶縁層2に対して、例えば1Mrad以上30Mrad以下(0.01MGy以上0.3MGy以下)の電子線を照射する。化学架橋法を用いる場合には、例えば、樹脂組成物にあらかじめ架橋剤を添加しておき、樹脂組成物を電線10の絶縁層2として成形した後に絶縁層2を熱処理する。なお、後述の実施例では、電子線架橋法を用いている。
【0043】
[第2実施形態]
図2に示す電線20は、第2実施形態に係るハロゲンフリーの難燃性絶縁電線である。電線20は、絶縁層2が2層で構成されている点及びセパレータ3を備えていない点で、第1実施形態に係る電線10と異なる。具体的には、電線20は、導体1と、導体1の周囲に設けられた絶縁内層2aと、絶縁内層2aの周囲に設けられた絶縁外層2bと、を備える。絶縁内層2aは、ポリエチレン等の絶縁性樹脂で形成されている。絶縁外層2bは、上記樹脂組成物で形成されている。なお、絶縁外層2bが被覆層に相当する。
なお、電線20は、電線10と同様にセパレータ3を備えてもよい。また、絶縁層2は3層以上であってもよい。
【0044】
<ケーブル>
図3に示すケーブル30は、ハロゲンフリーの難燃性ケーブルである。ケーブル30は、コア4と、コア4を被覆する被覆層としてのシース5と、コア4とシース5との間に設けられたセパレータ6及びシールド編組7と、を備える。
【0045】
コア4は、上記電線10を3本撚り合わせた三芯撚り線4aと、三芯撚り線4aの周囲に設けられた介在4bと、を有する。介在4bは、スフ糸、紙テープ、ジュート等で構成されている。なお、コア4は、介在4bを有さなくてもよい。
【0046】
シース5は、上記樹脂組成物で形成されている。セパレータ6は、上記電線10におけるセパレータ3と同様である。シールド編組7は、セパレータ6の周囲に設けられ、電気的なシールド機能を有する。シールド編組7は、例えば、網状に編まれた金属テープ、銅線等で形成される。なお、シールド編組7はセパレータ6の内側に設けられてもよく、ケーブル30はシールド編組7を備えていなくてもよい。
【0047】
ケーブル30は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記と同様の方法により、電線10を3本製造する。その後、3本の電線10を、介在4bと共に撚り合わせてコア4を形成し、コア4の周囲にセパレータ6及びシールド編組7を設ける。その後、押出成形機により、これらの周囲を樹脂組成物で被覆する。これにより、所定厚さのシース5を形成することができる。
【0048】
そして、必要に応じ、上記と同様の方法によりシース5を架橋処理する。これにより、ケーブル30を製造することができる。
なお、電線10の代わりに他の電線を用いてもよい。また、三芯撚り線4aの代わりに、電線1本で構成されている単芯を用いてもよく、三芯撚り線以外の多芯撚り線を用いてもよい。また、コア4とシース5との間に、他の層、例えば他の絶縁層を設けてもよい。
【0049】
<樹脂組成物の他の用途>
上記樹脂組成物は、様々な用途及びサイズの電線及びケーブルに使用することができる。例えば、電線及びケーブルの用途としては、電子機器用、鉄道車両用、自動車用、盤内配線用、機器内配線用、ビル内配線用等が挙げられる。電子機器用又は鉄道車両用の電線及びケーブルには特に高い難燃性が要求されるため、樹脂組成物は、電子機器用又は鉄道車両用の電線及びケーブルに好適に使用することができる。また、ケーブルの種類も特に限定されず、例えば、電力ケーブル、信号ケーブル等であってもよい。
【0050】
また、上記樹脂組成物は、上記電線及びケーブルだけでなく、他の用途にも使用することができる。例えば、樹脂組成物は、フィルム、パネル、マット、パイプ、保護材、充填剤、繊維、樹脂成形品、樹脂基板、文具、建材、コネクタ、ブッシュ、グロメット、端子台、端子内部絶縁体等に使用することができる。
【実施例
【0051】
以下に、本開示の一態様について実施例を挙げて説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
<ケーブルのシース用の樹脂組成物の製造>
下記表1に示す実施例1~8及び比較例1~4に係る各材料を室温にてドライブレンドし、混合された材料を加圧ニーダにより取出温度190℃にて溶融混練することにより、ケーブルのシース用の樹脂組成物をそれぞれ製造した。なお、表1における各材料の含有量の単位は質量部である。
【0052】
実施例1,2,6~8に係る樹脂組成物では、(C)成分として、下記式(4)で表される(C1)オイデスミン酸を用いた。なお、実施例1,2,6~8に係る樹脂組成物では、(C1)オイデスミン酸の含有量を異ならせた。
【0053】
【化4】
【0054】
実施例3に係る樹脂組成物では、(C)成分として下記式(5)で表される(C2)シリング酸メチルを用いた。
【0055】
【化5】
【0056】
実施例4に係る樹脂組成物では、(C)成分として、(C3)シリル保護没食子酸プロピル1(下記式(6)で表される3,4,5-トリス(トリメチルシリルオキシ)安息香酸プロピル)を用いた。シリル保護没食子酸プロピル1は、以下のように合成した。没食子酸プロピルをアセトンに溶解し、没食子酸プロピルの水酸基1当量に対して5当量のトリエチルアミン、及び没食子酸プロピルの水酸基1当量に対して5当量のトリメチルクロロシランを添加して、これらを反応させた。その後、アセトン及びトリエチルアミンを除去することにより、シリル保護没食子酸プロピル1を得た。なお、得られたシリル保護没食子酸プロピル1において元の水酸基が保護されていることは、FT-IRを用いて確認した。
【0057】
【化6】
【0058】
実施例5に係る樹脂組成物では、(C)成分として、(C4)シリル保護没食子酸プロピル2(下記式(7)で表される3,4,5-トリス(トリt-ブチルシリルオキシ)安息香酸プロピル)を用いた。シリル保護没食子酸プロピル2は、シリル保護没食子酸プロピル1と同様の方法で、トリメチルクロロシランの代わりにトリt-ブチルクロロシランを用いて合成した。
【0059】
【化7】
【0060】
比較例1に係る樹脂組成物では、実施例1~8に係る樹脂組成物と異なり、(C)成分を用いなかった。比較例2~4に係る樹脂組成物では、(C)成分の代わりに、水酸基が一切保護されていない没食子酸プロピルを用いた。
【0061】
<ケーブルの作製>
電線製造用の押出被覆装置である、東洋精機製作所製の「ラボプラストミル(登録商標)」の20mm単軸押出機を用いて押出成形することにより、断面積が0.5mm2の圧縮錫めっき銅撚り線の周囲に被覆厚0.2mmの絶縁層を形成した。絶縁層の形成には、表1に示す比較例1に係る各材料を上記シース用の樹脂組成物と同様の方法で溶融混練することにより製造した樹脂組成物を使用した。シリンダ温度は160℃、電線引取速度は4.0m/minであった。その後、作製した電線の絶縁層に対して7.5Mradの条件で電子線架橋法で架橋処理を行うことにより、絶縁層を構成する樹脂組成物を架橋した。
【0062】
得られた電線3本を撚り合わせ、セパレータとしてのポリエステルテープを巻装した後、その周囲にシールド編組を施した。
そして、60mm単軸押出機を用いて押出成形することにより、シールド編組の周囲に被覆厚0.45mmの、上記実施例1~8及び比較例1~4に係るシース用の樹脂組成物からなるシースを形成した。その後、シースに対して7.5Mradの条件で電子線架橋法で架橋処理を行うことにより、外径4.5mmのケーブルを作製した。
【0063】
【表1】
【0064】
<評価方法>
(1)初期引張試験
作製したケーブルからシースをはぎ取り、はぎ取ったシースからダンベル型試験片を打ち抜いた。ダンベル型試験片を用いて、JIS C3005:2000に準拠した引張試験を行い、引張強さ及び伸びをそれぞれ測定した。ただし、引張試験は250mm/minの引張速さで行った。
【0065】
(2)加熱老化試験
上記(1)の初期引張試験と同様にして作製したダンベル型試験片を、135℃で168時間ギヤオーブンにて加熱した。その後、加熱老化後のダンベル型試験片を用いて、初期引張試験と同様に引張試験を行い、引張強さ、及び伸びを測定した。加熱老化後の引張強さ及び伸びについて、加熱老化前(すなわち初期引張試験時)に対する変化率を算出した。
【0066】
(3)ケーブル燃焼試験
作製したケーブルから長さ600mm分を取り、試験用試料とした。試験用試料を用いて、IEC60332-1に準拠した燃焼試験を行い、上部支持材から焼損部までの距離を測定した。上部支持材から焼損部までの距離が長い方が、延焼距離が短く難燃性が高いといえる。試験用試料が全焼した場合は、上部支持材から焼損部までの距離が0mmとなる。
【0067】
(4)総合判定
初期引張試験の引張強さについては、8MPa以上のものを合格、8MPa未満のものを不合格と判定した。初期引張試験の伸びについては、125%以上のものを合格、125%未満のものを不合格と判定した。
【0068】
加熱老化試験の引張強さ及び伸びの変化率については、それぞれ、±30%以下のものを合格、±30%よりも大きいものを不合格と判定した。
燃焼試験については、IEC60332-1と同様に、上部支持材から焼損部までの距離が50mm以上のものを合格、50mm未満のものを不合格と判定した。
【0069】
そして、最終的に、初期引張試験の引張強さ及び伸び、加熱老化試験の引張強さ及び伸びの変化率、並びに燃焼試験のすべてで合格したものを合格、いずれかで不合格だったものを不合格とした。評価結果を表1に示す。表1中、合格のものは〇、不合格のものは×で表した。
【0070】
<評価結果>
表1に示すように、実施例1~8では、初期引張試験、加熱老化試験、及び燃焼試験のすべての項目で合格であった。
【0071】
一方、(C)成分が含まれていない比較例1では、燃焼試験で不合格であった。また、(C)成分の代わりに、水酸基が一切保護されていない没食子酸プロピルが含まれている比較例2~3では、初期引張試験及び燃焼試験で合格である一方、加熱老化試験で不合格であった。また、没食子酸プロピルを比較的少量しか含まない比較例4では、加熱老化試験に加え燃焼試験でも不合格であった。
【0072】
<考察>
比較例1~4に示すように、没食子酸エステルを樹脂組成物に配合することではじめて、燃焼試験で合格になるといえる。しかし、比較例2~4に示すように、没食子酸エステルでは水酸基が保護されていないため、加熱老化試験で不合格である。
【0073】
実施例1と比較例2とを比べると、没食子酸エステルと(C)成分とは、同等の難燃性効果を奏するといえる。すなわち、没食子酸エステルの水酸基が保護されているか否かで、難燃性にはほぼ影響がないといえる。これは、置換基が燃焼時に脱離している可能性を示している。
【0074】
また、実施例1,2,6,7と、実施例8とを比べると、初期引張試験における引張強さが高くなることから、樹脂組成物が、(C)成分を、(A)成分の総量100質量部に対して2質量部以上30質量部以下含む方が好ましいといえる。
【符号の説明】
【0075】
1…導体、2…絶縁層(被覆層)、2a…絶縁内層、2b…絶縁外層(被覆層)、3,6…セパレータ、4…コア、4a…三芯撚り線、4b…介在、5…シース、7…シールド編組、10,20…電線、30…ケーブル。
図1
図2
図3