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特許7552479識別媒体、製造方法、物品、及び識別媒体の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】識別媒体、製造方法、物品、及び識別媒体の使用方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240910BHJP
   B42D 25/36 20140101ALI20240910BHJP
【FI】
G02B5/30
B42D25/36
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021058414
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022155079
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原井 謙一
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/018560(WO,A1)
【文献】特開2010-113249(JP,A)
【文献】国際公開第2020/261923(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/004155(WO,A1)
【文献】特表2013-541735(JP,A)
【文献】特開2012-198316(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102402015(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0103633(US,A1)
【文献】特開2009-075169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B42D 15/02;25/00-25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射層と、パターン状位相差層とを備える識別媒体であって、
前記光反射層は、入射光を、円偏光または直線偏光として反射する層であり、
前記パターン状位相差層は、位相差を有する領域を含む層であり、かかる位相差を有する領域が、識別媒体の表示面の領域の一部を占めるよう、識別媒体に設けられる層であり、
前記識別媒体はさらに、
前記パターン状位相差層の、前記光反射層側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(A)、及び前記パターン状位相差層の、前記光反射層側とは反対側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(B)をさらに備え
前記パターン状位相差層が、孔を有する形状であり、
前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)が、これらを構成する材料が前記孔に充填された状態で設けられる、識別媒体。
【請求項2】
前記光反射層と前記熱可塑性樹脂層(A)との間に、基材層をさらに備える、請求項に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)を構成する熱可塑性樹脂の熱軟化温度が、70~100℃である、請求項1又は2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記パターン状位相差層の厚みDpに対する、前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)の合計の厚みDtが、Dt/Dp≧6を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項5】
前記パターン状位相差層が、前記光反射層より視認側の位置に設けられる、請求項1~のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記光反射層が、反射型円偏光子または反射型直線偏光子である、請求項1~のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項7】
前記光反射層が、前記反射型円偏光子である、請求項に記載の識別媒体。
【請求項8】
前記パターン状位相差層が、前記位相差を有する領域として、λ/4波長板又はλ/2波長板として機能する領域を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項9】
前記光反射層の一以上の領域において、前記領域に入射した非偏光の、前記光反射層による反射率が、波長領域420nm~650nmにおけるすべての波長において35~50%である、請求項1~のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項10】
前記光反射層の、視認側と反対側の位置に、光吸収層をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項11】
物品に装着するための装着部材をさらに備える、請求項1~10のいずれか1項に記載の識別媒体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の識別媒体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂層(A)原反と、前記パターン状位相差層と、熱可塑性樹脂層(B)原反とがこの順で重ねられた堆積物を用意する工程(1)と、
前記堆積物を加熱する工程(2)とを含み、
前記加熱の温度が、Tm-5℃以上、Tm+20℃以下であり、前記Tmは、前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)のうち最も高い熱軟化温度を有する樹脂についての熱軟化温度である製造方法。
【請求項13】
前記工程(2)を、前記堆積物の周囲の気体を除去し、前記堆積物に圧力を加えた状態において行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の識別媒体を備える物品。
【請求項15】
偏光子ビュワーをさらに備える、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の識別媒体の使用方法であって、
入射光を、前記識別媒体の表示面に入射させ、前記光反射層において反射させ反射光とし、前記反射光を観察することを含み、
前記入射光として非偏光を入射させ、且つ前記反射光の観察において、前記反射光の直線偏光成分、又は円偏光成分を選択的に観察する、使用方法。
【請求項17】
前記選択的な観察を、前記識別媒体から離隔した直線偏光子を介して、前記反射光を目視することにより行う、請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
前記直線偏光子が偏光サングラスである、請求項17に記載の使用方法。
【請求項19】
請求項1~11のいずれか1項に記載の識別媒体の使用方法であって、
入射光を、前記識別媒体の表示面に入射させ、前記光反射層において反射させ反射光とし、前記反射光を観察することを含み、
前記入射光として直線偏光、円偏光又は楕円偏光を入射させる、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別媒体、識別媒体の製造方法、識別媒体を備える物品、及び識別媒体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品が真正品であるか否かの判定を容易にするために、物品に識別媒体を設けることが一般的に行われている。識別媒体は、偽造防止性能を有し、且つ識別機能を有することが求められる。ここでいう識別媒体の偽造防止性能とは、識別媒体が一般的な印刷等の技術では容易に複製できないものである性能である。識別媒体の識別機能とは、真正な識別媒体が、一般的な技術で偽造した偽造識別媒体と、何らかの手段で、高い信頼度をもって識別しうる機能である。
【0003】
加えて、識別媒体は、その識別機能を有する箇所が隠されていること、即ち識別機能を有する箇所がそこに存在することを通常の観察では感知されないものであることが望まれる。つまり、通常の観察では識別機能を有する箇所の存在が感知されないものであれば、偽造者は、識別媒体を識別媒体として認識せず、通常の表示媒体としか認識しないので、その場合偽造者は識別媒体の識別機能を模倣すること自体に想到しない。そのため識別機能を有する箇所が隠された識別媒体は、識別機能を模倣した偽造品が製造される可能性が低くなる。
【0004】
識別媒体の真正性の判定は、多くの識別媒体の場合、円偏光子又は直線偏光子等の光学部材を含む、特殊な判定具を通した観察により行われる(例えば、特許文献1~3)。一方、特殊な判定具を必要としない肉眼での観察による判定が行える識別媒体もあり、例えば、所謂ホログラム等の、識別媒体上の模様の立体視が可能であるか否か等による判定が行える識別媒体がある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-221650号公報
【文献】特開2010-113249号公報(対応公報:米国特許出願公開第2010/119738号明細書)
【文献】国際公開第2005/059597号
【文献】特許第5915838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真正性の判定のために特殊な判定具が必要である識別媒体については、判定を行う者が限定されてしまう。即ち、税関係員等といった、特殊な判定具を所有している特殊な識別者のみしか判定を行うことができず、一方、物品を売買したり所持したり使用したりする一般の物品ユーザーは、かかる特殊な判定具を所有しないため判定を行うことができない。また、特許文献1及び2の識別媒体についての真正性の判定は、判定具を識別媒体に近接させるという特殊な操作を必要とする。
【0007】
所謂ホログラムにより特殊な判定具無しに判定が行える識別媒体の場合、判定を行う者の限定がより少なくなる一方、比較的類似の効果が得られるものを、既に一般的になったホログラムの技術により製造しうるため、偽造防止性能が不十分となる場合がある。ホログラムを特殊な判定具を通して観察する形態とする場合には、より偽造防止性能を高めた構成をとり得るが、その場合上記同様、判定を行う者が限定されてしまう。
【0008】
また、ホログラムを有する媒体は、そこにホログラムが存在すること自体は、通常の簡単な観察により感知されてしまうので、識別機能を有する箇所が隠されたものとすることは困難である。
【0009】
従って、本発明の目的は、偽造防止性能が高く、特殊な判定具を用いること無く識別機能を利用することができ、且つ識別機能を有する箇所を高度に隠すことができる、識別媒体、その製造方法、識別媒体を備える物品、及び識別媒体の使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決するための検討において、偏光サングラス、並びに液晶表示装置等の偏光を出射する装置等の一般的な器具を、その一般的な使用の態様で使用することにより識別機能を利用しうる識別媒体を構成することを着想した。当該着想に基づいてさらに検討を進めた結果、特定の識別媒体を構成した場合、かかる一般的な器具の使用により識別機能を利用可能であり、良好な偽造防止性能を得ることもでき、且つ識別機能を有する箇所を高度に隠すことが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0011】
〔1〕 光反射層と、パターン状位相差層とを備える識別媒体であって、
前記光反射層は、入射光を、円偏光または直線偏光として反射する層であり、
前記パターン状位相差層は、位相差を有する領域を含む層であり、かかる位相差を有する領域が、識別媒体の表示面の領域の一部を占めるよう、識別媒体に設けられる層であり、
前記識別媒体はさらに、
前記パターン状位相差層の、前記光反射層側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(A)、及び前記パターン状位相差層の、前記光反射層側とは反対側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(B)をさらに備える、識別媒体。
〔2〕 前記パターン状位相差層が、孔を有する形状であり、
前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)が、これらを構成する材料が前記孔に充填された状態で設けられる、〔1〕に記載の識別媒体。
〔3〕 前記光反射層と前記熱可塑性樹脂層(A)との間に、基材層をさらに備える、〔1〕又は〔2〕に記載の識別媒体。
〔4〕 前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)を構成する熱可塑性樹脂の熱軟化温度が、70~100℃である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔5〕 前記パターン状位相差層の厚みDpに対する、前記熱可塑性樹脂層(A)及び(B)の合計の厚みDtが、Dt/Dp≧6を満たす、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔6〕 前記パターン状位相差層が、前記光反射層より視認側の位置に設けられる、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔7〕 前記光反射層が、反射型円偏光子または反射型直線偏光子である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔8〕 前記光反射層が、前記反射型円偏光子である、〔7〕に記載の識別媒体。
〔9〕 前記パターン状位相差層が、前記位相差を有する領域として、λ/4波長板又はλ/2波長板として機能する領域を含む、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔10〕 前記光反射層の一以上の領域において、前記領域に入射した非偏光の、前記光反射層による反射率が、波長領域420nm~650nmにおけるすべての波長において35~50%である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔11〕 前記光反射層の、視認側と反対側の位置に、光吸収層をさらに備える、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔12〕 物品に装着するための装着部材をさらに備える、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の識別媒体。
〔13〕 〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の識別媒体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂層(A)原反と、前記パターン状位相差層と、熱可塑性樹脂層(B)原反とがこの順で重ねられた堆積物を用意する工程(1)と、
前記堆積物を加熱する工程(2)とを含む製造方法。
〔14〕 前記工程(2)を、前記堆積物の周囲の気体を除去し、前記堆積物に圧力を加えた状態において行う、〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕 〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の識別媒体を備える物品。
〔16〕 偏光子ビュワーをさらに備える、〔15〕に記載の物品。
〔17〕 〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の識別媒体の使用方法であって、
入射光を、前記識別媒体の表示面に入射させ、前記光反射層において反射させ反射光とし、前記反射光を観察することを含み、
前記入射光として非偏光を入射させ、且つ前記反射光の観察において、前記反射光の直線偏光成分、又は円偏光成分を選択的に観察する、使用方法。
〔18〕 前記選択的な観察を、前記識別媒体から離隔した直線偏光子を介して、前記反射光を目視することにより行う、〔17〕に記載の使用方法。
〔19〕 前記直線偏光子が偏光サングラスである、〔18〕に記載の使用方法。
〔20〕 〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の識別媒体の使用方法であって、
入射光を、前記識別媒体の表示面に入射させ、前記光反射層において反射させ反射光とし、前記反射光を観察することを含み、
前記入射光として直線偏光、円偏光又は楕円偏光を入射させる、使用方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、偽造防止性能が高く、特殊な判定具を用いること無く識別機能を利用することができ、且つ識別機能を有する箇所を高度に隠すことが可能である、識別媒体、その製造方法、識別媒体を備える物品、及び識別媒体の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の識別媒体の一例を概略的に示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示す識別媒体を線X1に沿った平面で切断した切断面を示す縦断面図である。
図3図3は、図1に示した座標軸を、Z軸方向から観察した状態を示す上面図である。
図4図4は、製造方法の工程(1)で用意する堆積物の一例を概略的に示す縦断面図である。
図5図5は、図4に示す堆積物を用いて製造した樹脂-位相差層複合体の一例を概略的に示す縦断面図である。
図6図6は、本発明の識別媒体の別の一例を概略的に示す縦断面図である。
図7図7は、本発明の識別媒体のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、例示物及び実施形態を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す例示物及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0015】
以下の説明において、別に断らない限り、「(メタ)アクリル基」とは、「アクリル基」、「メタクリル基」及びこれらの組み合わせを包含する用語である。「(チオ)エポキシ基」「イソ(チオ)シアネート基」といった表現も同様の意味を表す用語である。
【0016】
以下の説明において、ある層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。レターデーションの測定波長は、別に断らない限り、590nmである。また、ある波長(単位nm)において測定したReを、Re(450)といった数字を伴う表記にて示す。例えばRe(450)は、波長450nmの光についてのReを示す。面内レターデーションReは、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて測定できる。
【0017】
以下の説明において、ある層の遅相軸の方向とは、別に断らない限り、面内方向の遅相軸の方向をいう。
【0018】
以下の説明において、部材の方向が「平行」及び「垂直」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±4°、好ましくは±3°、より好ましくは±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0019】
以下の説明において、説明の便宜上、「右円偏光」及び「左円偏光」は、光の出射元から光の出射先を観察した場合における円偏光の回転方向に基づき定義する。即ち、光の出射元から光の出射先を観察した場合において、光の進行に従って偏光方向が時計回りに回転する偏光を右円偏光とし、その反対の方向に回転する偏光を左円偏光とする。
【0020】
以下の説明においては、別に断らない限り、識別媒体は、表示面を上向きにして水平に載置した状態で説明する。したがって、識別媒体を視認する側を単に「上」側、その反対側を「下」側という場合がある。例えば、ある層の一方の表面及び他方の表面のうち識別媒体の表示面に近い側の面を「上側」の表面と表現する場合がある。また、かかる「上」「下」方向に垂直な方向を「水平」方向という場合がある。
【0021】
本発明の識別媒体は、
・識別媒体に非偏光を入射させ、識別媒体からの反射光を通常の態様(特段の偏光成分の選択を伴わない態様)で観察する
・識別媒体に非偏光を入射させ、識別媒体からの反射光のうちの偏光成分を選択的に観察する
・識別媒体に偏光を入射させ、識別媒体からの反射光を通常の態様で観察する
といった観察態様で観察しうる。説明の便宜のため、以下の説明においては、前記3つの態様のうちの第1のものを「通常観察」、第2のものを「非偏光-偏光観察」、第3のものを「偏光-非偏光観察」という場合がある。
【0022】
〔識別媒体の概要〕
本発明の識別媒体は、光反射層と、パターン状位相差層とを備える。本発明の識別媒体はさらに、パターン状位相差層の光反射層側の面に直接接して設けられた熱可塑性樹脂層(A)、及びパターン状位相差層の光反射層側とは反対側の面に直接接して設けられた熱可塑性樹脂層(B)をさらに備える。
【0023】
図1は、本発明の識別媒体の一例を概略的に示す分解斜視図であり、図2は、図1に示す識別媒体を線X1に沿った平面で切断した切断面を示す縦断面図である。
【0024】
図1及び図2において、識別媒体100は、下側から順に、光吸収層111及び光反射層112(R)を備える複層物110、熱可塑性樹脂層131、ガラス板141、熱可塑性樹脂層132、パターン状位相差層120、熱可塑性樹脂層133、及びガラス板142を備える。図1においてこれらの構成要素の一部は離隔した状態で示されているが、実際の識別媒体において、これらは図2に示す通り、直接接した状態としうる。
【0025】
パターン状位相差層は、通常、光反射層より視認側の位置に設けられる。したがって、識別媒体の表示面は、通常、識別媒体の、パターン状位相差層側の面である。図1及び図2の例では、ガラス板142の上側の面142Uが、識別媒体100の表示面となる。即ち、識別媒体100の面142Uに入射した光の一部が、識別媒体100内において反射して、面142Uから出射し、それを観察者が観察することにより、識別媒体としての機能が発現される。
【0026】
各構成要素は、いずれも矩形の平面形状を有し、その全領域が、表示面に対応する領域である。但し、パターン状位相差層120は、表示面領域の一部において、孔121を有し、従って表示面の一部のみを占めている。
【0027】
説明の便宜のため、図1図2及び図4図7においては、空間における方向を、共通の三次元の座標軸により示す。矢印X、Y及びZにより示される座標軸において、矢印Xと並行な方向、矢印Yと並行な方向、及び矢印Zと並行な方向をそれぞれ単にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向という。図1図2及び図4図7において、識別媒体は、その表示面が、XY平面と平行な方向となるよう位置決めされる。
【0028】
図3は、図1に示した座標軸を、Z軸方向から観察した状態を示す上面図である。本願においては、XY平面の面内の方向のうち、矢印X及び矢印Yと45°の角度をなす方向(即ち図3における矢印XYと並行な方向)をXY方向という。同様に、矢印Xと45°の角度をなし矢印Yと135°の角度をなす方向(即ち図3における矢印Xyと並行な方向)を、Xy方向という。
【0029】
〔光反射層の光学的性質の概要〕
光反射層は、入射光を、円偏光または直線偏光として反射する層である。具体的には、光反射層は、様々な偏光成分を含む非偏光が入射した場合に、その中のある偏光成分を円偏光または直線偏光として反射する層である。光反射層は、通常、反射型偏光子である。即ち、光反射層は、入射光のうちのある波長における偏光成分の一部または全部を透過させ、他の偏光成分の一部または全部を反射させる。光反射層としては、反射型円偏光子または反射型直線偏光子を用いうる。
【0030】
反射型円偏光子とは、ある波長の入射光の、右円偏光成分及び左円偏光成分のうちの一方を透過させ、他の一方を反射する光学素子である。反射型直線偏光子とは、ある波長の入射光の、ある直線偏光成分及び当該成分と垂直な直線偏光成分のうちの一方を透過させ、他の一方を反射する光学素子である。
【0031】
図1及び図2の例においては、光反射層112(R)として、右反射型円偏光子(即ち、入射光のうち右円偏光成分を選択的に反射する反射型円偏光子)を採用している。光偏光層の例及びそれらを構成する材料の、より具体的な説明については後に別途述べる。
【0032】
〔パターン状位相差層の光学的性質の概要〕
パターン状位相差層とは、位相差を有する領域を含む層であり、かかる位相差を有する領域が、識別媒体の表示面の領域の一部を占めるよう、識別媒体に設けられる層である。以下の説明において、パターン状位相差層のうちの、位相差を有する領域にかかる部分を、単に「位相差層」という場合がある。
【0033】
パターン状位相差層は、その全面において一様の位相差層を有する位相差層であってもよく、その一部の面と他の一部の面において異なる位相差を有する層であってもよい。製造の容易性の観点からは、パターン状位相差層は、延伸樹脂フィルム等の、全面において一様の位相差層を有する位相差層としうる。より具体的には、樹脂フィルムを延伸する等して位相差を有するフィルムとし、それを所望の形状に裁断することにより、パターン状位相差層を構成しうる。
【0034】
位相差を有する領域の例としては、λ/4波長板として機能する領域、及びλ/2波長板として機能する領域が挙げられる。λ/4波長板として機能する領域とは、光反射層が機能する波長帯域内の少なくとも一の波長λにおいて、その面内レターデーションReが、λ/4又はそれに近い値となる領域である。例えば、Reが((λ/4)×0.6)nm~((λ/4)×1.4)nmの領域、好ましくは((λ/4)×0.8)nm~((λ/4)×1.2)nmの領域を、位相差を有する領域として使用しうる。同様に、λ/2波長板として機能する領域とは、その面内レターデーションReがλ/2又はそれに近い値、例えば((λ/2)×0.6)nm~((λ/2)×1.4)nmである領域、好ましくは((λ/2)×0.8)nm~((λ/2)×1.2)nmである領域である。
【0035】
図1及び図2の例においては、パターン状位相差層120は、その全面がλ/4波長板として機能する層である。但し、パターン状位相差層120は、表示面領域の一部において孔121を有するので、表示面領域の全面では無く一部のみを占めている。したがって、識別媒体100の表示面は、パターン状位相差層120に占められる領域R11と、パターン状位相差層120に占められる領域以外の領域R12とを含む。この例では孔121は文字の形状を有しパターン状位相差層120を貫通する孔である。この例において、パターン状位相差層120は、Xy方向、即ち矢印A120(Xy)で示す方向に遅相軸を有する。パターン状位相差層の例及びそれらを構成する材料の、より具体的な説明については後に別途述べる。
【0036】
〔熱可塑性樹脂層(A)及び(B)〕
熱可塑性樹脂層(A)は、パターン状位相差層の光反射層側の面に直接接して設けられる層であり、一方熱可塑性樹脂層(B)は、パターン状位相差層の光反射層側とは反対側、即ち視認側の面に直接接して設けられる層である。図1及び図2の例では、熱可塑性樹脂層132及び133が、それぞれ、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)に対応する。
【0037】
本発明の識別媒体では、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)がパターン状位相差層の両面に直接接して設けられることにより、識別機能を有する箇所を高度に隠すことが可能となる。具体的には、パターン状位相差層が、表示面領域内において孔等の段差を伴う形状を有する場合、表示面内におけるパターン状位相差層の形状が、通常観察においても容易に視認可能な状態となり得る。例えばパターン状位相差層が孔を有する形状であり、当該孔により表示面に文字、記号、及びその他の図形を表示する場合、通常観察においてそれらの図形が孔の輪郭として薄くスジ状に視認されうる。ここで、パターン状位相差層の両面に熱可塑性樹脂層(A)及び(B)を設けた場合、これらを高度に一体化させた形態を容易に構成することができる。そのような構成を得ることにより、表示面内におけるパターン状位相差層の形状を、通常観察において視認することが非常に困難な状態とすることができ、その結果、識別機能を有する箇所を高度に隠すことが可能となる。
【0038】
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂から形成される層である。熱可塑性樹脂としては、硬化した状態において、光学部材として使用しうる通常の透明度を有する一般的なものを適宜選択して使用しうる。熱可塑性樹脂の具体例としては、国際公開第2014/077267号に記載される樹脂組成物、及び国際公開第2019/151079号に記載される熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0039】
熱可塑性樹脂の他の具体例としては、所謂ホットメルト接着剤層として市販されているものを使用しうる。そのような市販品の例としては、商品名「Kuran Seal GL」(倉敷紡績株式会社製)が挙げられる。
【0040】
熱可塑性樹脂層(A)及び(B)を構成する熱可塑性樹脂は、その熱軟化温度Tmが特定の範囲であることが、容易な成形で良好な品質の製品を得ることができるため好ましい。熱軟化温度Tmは、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、さらにより好ましくは80℃以上であり、一方好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、さらにより好ましくは90℃以下である。
【0041】
〔樹脂-位相差層複合体;及び製造方法〕
本発明の識別媒体においては、パターン状位相差層が、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)と直接接して設けられるので、これら三者が組み合わされた構造物は、本発明の識別媒体の構成要素となる。以下において、当該構造物を、樹脂-位相差層複合体という場合がある。図1及び図2の例においては、パターン状位相差層120と、その下側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層132と、パターン状位相差層120の上側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層133との組み合わせが、樹脂-位相差層複合体300を構成する。以下において、樹脂-位相差層複合体のより具体的な構造及びその製造方法について説明する。
【0042】
樹脂-位相差層複合体は、下記工程(1)及び(2)を含む製造方法により製造しうる。したがって、本発明の識別媒体も、下記工程(1)及び(2)を含む製造方法により製造しうる。
工程(1):熱可塑性樹脂層(A)原反と、パターン状位相差層と、熱可塑性樹脂層(B)原反とがこの順で重ねられた堆積物を用意する工程。
工程(2):堆積物を加熱する工程。
【0043】
工程(1)及び(2)及びそれにより製造される樹脂-位相差層複合体の例を、図4及び図5を参照して説明する。図4は、製造方法の工程(1)で用意する堆積物の一例を概略的に示す縦断面図である。図5は、図4に示す堆積物を用いて製造した樹脂-位相差層複合体の一例を概略的に示す縦断面図である。図5に示す樹脂-位相差層複合体300は、図1及び図2に示す識別媒体100の構成要素としうるものである。
【0044】
図4において、堆積物200は、パターン状位相差層120と、その下側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(A)原反232と、パターン状位相差層120の上側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(B)原反233とを備える。
【0045】
熱可塑性樹脂層(A)原反232及び熱可塑性樹脂層(B)原反233は、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)と同じ材料から構成された層である。但し、堆積物200において、熱可塑性樹脂層(A)原反232、パターン状位相差層120及び熱可塑性樹脂層(B)原反233は、この順に積み重ねられただけの状態であり、これらの界面は強固に接着された状態では無い。加えて、熱可塑性樹脂層(A)原反232及び熱可塑性樹脂層(B)原反233は、工程(2)に供される前の時点では、パターン状位相差層120の孔121付近において平坦な形状を有している。従って、孔121の領域には、空洞129が存在している。
【0046】
工程(2)における堆積物の加熱は、好ましくは堆積物の周囲の気体を除去し、堆積物に圧力を加えた状態において行う。気体の除去とは、気体を完全に除去する場合に限らず、常温1気圧における状態よりも気体分子の密度を低減するいずれの場合をも包含する。堆積物への圧力は、堆積物を構成する各層を互いに密着させるよう、堆積物の最外層を押す方向(図4の例では熱可塑性樹脂層(A)原反232の下側の面を上向きに押す方向及び熱可塑性樹脂層(B)原反233の上側の面を下向きに押す方向)への圧力としうる。
【0047】
このような態様の加熱は、典型的には、堆積物を真空包装した状態で加熱することにより達成しうる。真空包装は、堆積物を、適当な可撓性の包装体に入れ、包装体内の気体を吸引して包装体内を減圧した状態で包装体を封じることにより達成しうる。この状態の包装体を1気圧の環境下においても、1気圧の圧力により包装体中の堆積物には圧力が加わるが、必要に応じて包装体の外部の圧力をさらに高めた状態で加熱を行ってもよい。
【0048】
堆積物の周囲の気体を除去することにより、孔の領域の空洞、及びその他の、堆積物の熱可塑性樹脂層原反と他の層との隙間に存在する気体が堆積物の外部へ排出される。この状態を維持して加圧及び加熱を行うことにより、熱可塑性樹脂層原反の表面が変形し、熱可塑性樹脂が隙間に充填されることになる。その結果、熱可塑性樹脂層が、パターン状位相差層の孔等の凹凸構造に、介在する空気層等の空隙を伴わない状態で追随した形状で形成される。このような熱可塑性樹脂層を形成することにより、パターン状位相差層と熱可塑性樹脂層(A)及び(B)とを、さらに高度に一体化させた形態とすることができ、その結果、識別機能を有する箇所をさらに高度に隠すことが可能となる。
【0049】
図5において、樹脂-位相差層複合体300は、パターン状位相差層120と、その下側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(A)132と、パターン状位相差層120の上側の面に直接接して設けられた、熱可塑性樹脂層(B)原反133とを備える。上に述べた工程(1)及び(2)を含む製造方法により樹脂-位相差層複合体300を製造した結果、熱可塑性樹脂層(A)132及び熱可塑性樹脂層(B)133の形状は、パターン状位相差層120の孔121に充填された突出部132F及び133Fを有する形状となっている。充填部132F及び133Fは、界面139において互いに密着している。このような形状を形成することにより、パターン状位相差層120と熱可塑性樹脂層(A)132及び熱可塑性樹脂層(B)133とが、高度に一体化している。
【0050】
工程(2)における堆積物の加熱の温度は、熱可塑性樹脂一部又は全部の溶融が達成される温度としうる。具体的には、熱可塑性樹脂の熱軟化温度Tmを基準にして、Tm-5℃以上、Tm+20℃以下の温度としうる。堆積物が複数種類の熱可塑性樹脂を含む場合、それらのうち最も高い熱軟化温度を有する樹脂についての熱軟化温度Tmを基準にした加熱の温度が、上記範囲内であることが好ましい。
【0051】
一般的に、位相差層等の光学的特性を有するフィルムについては、その光学特性の変質を極力低減する観点から、このように熱可塑性樹脂層原反を接触させた状態で加熱するということは行われない。しかしながら、識別媒体に関しては、光学特性の厳密性よりも、パターン状位相差層の輪郭を容易に視認できない状態とすることが重要であるため、このような構成及び製造方法は有用なものとなる。
【0052】
本発明の識別媒体及びそれを構成する樹脂-位相差層複合体においては、パターン状位相差層の厚みDpに対する、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)の合計の厚みDtの割合が、特定の範囲内の値であることが好ましい。具体的には、Dt/Dpは、好ましくは6以上、より好ましくは7以上であることが好ましい。Dt/Dpの割合が前記下限以上であることにより、パターン状位相差層が、孔121により例示するような貫通孔を有している場合であっても、良好な一体化を容易に達成しうる。Dt/Dpの上限は、特に限定されないが、例えば10以下としうる。識別媒体が複数枚のパターン状位相差層を有する場合は、それらの合計厚みを上記Dpとしうる。パターン状位相差層並びに熱可塑性樹脂層(A)及び(B)のそれぞれの厚みは、孔を有する部分以外の厚みとしうる。図5の例では、パターン状位相差層120の厚みD120、熱可塑性樹脂層(A)の厚みD132及び熱可塑性樹脂層(B)の厚みD133は、孔121の領域以外の部分の厚みとしうる。
【0053】
図4図5に示す例では、パターン状位相差層120、熱可塑性樹脂層(A)原反232及び熱可塑性樹脂層(B)原反233のみからなる堆積物200を構成し、これを元に、パターン状位相差層120、熱可塑性樹脂層(A)132及び熱可塑性樹脂層(B)133のみからなる樹脂-位相差層複合体300を製造している。この場合、得られた樹脂-位相差層複合体300に、さらに光反射層及びその他の任意の構成要素をさらに組み合わせることにより、本発明の識別媒体を製造しうる。但し本発明の識別媒体の製造方法はこれには限られない。
【0054】
例えば、堆積物として、パターン状位相差層、熱可塑性樹脂層(A)原反及び熱可塑性樹脂層(B)原反に加えて、識別媒体を構成する他の層を、熱可塑性樹脂層を介して重ね合わせ、工程(2)において併せてこれらを接着してもよい。但しその場合、堆積物において、熱可塑性樹脂層(A)原反、パターン状位相差層及び熱可塑性樹脂層(B)原反は直接接してこの順に堆積される。より具体的な例として、図1図2に示す識別媒体100を製造するために、光吸収層111及び光反射層112(R)を備える複層物110、熱可塑性樹脂層131の原反、ガラス板141、熱可塑性樹脂層132の原反、パターン状位相差層120、熱可塑性樹脂層133の原反、及びガラス板142をこの順に重ねられた堆積物を用意し、これを工程(2)において接着し、これらの全てが接着された識別媒体を得うる。
【0055】
〔識別媒体の任意の構成要素〕
本発明の識別媒体は、光反射層、熱可塑性樹脂層(A)、パターン状位相差層、及び熱可塑性樹脂層(B)に加えて、任意の構成要素を備えうる。例えば、光反射層と熱可塑性樹脂層(A)との間に、基材層をさらに備えうる。
【0056】
基材層を間に介せず、(光反射層)/(熱可塑性樹脂層(A))/(パターン状位相差層)/(熱可塑性樹脂層(B))の層構成を有する場合において、パターン状位相差層が孔等の段差を有する構造を有している場合、かかる段差による影響が、熱可塑性樹脂層(A)を介して容易に光反射層に伝達しやすい。具体的には、光反射層が液晶化合物の硬化により得られた層であり、且つ光反射層の硬度が低い場合、かかる段差により伝達する圧力のムラが、容易に、配向の乱れなどの不具合を起こしやすい。ここで、光反射層と熱可塑性樹脂層(A)との間に基材層が介在している場合、かかる不具合を抑制しうるという観点から有利である。基材層の典型的な例としては、図1図2の例に示すガラス板が挙げられるが、これに限られず、例えば熱可塑性樹脂層(A)よりも硬度が高い樹脂の層を好ましく用いうる。識別媒体がそのような基材層を有する場合、基材層とパターン状位相差層とは、熱可塑性樹脂層(A)を介して接着しうる。一方、基材層と光反射層とを接着させた状態の識別媒体を構成する場合、図1図2の例に示す熱可塑性樹脂層131のように、追加的に熱可塑性樹脂層を介在させ、これらを接着しうる。
かかる基材層は、任意の構成要素であるので、本発明の識別媒体は、光反射層と熱可塑性樹脂層(A)との間に、基材層を備えていなくてもよい。この場合、識別媒体の可撓性を高める観点及び厚みを薄くするという観点から有利である。
基材層は、識別媒体の製造の工程において、識別媒体の構成要素を支持するために使用し、その後剥離して除去してもよい。例えば、ガラス板である基材の上に、熱可塑性樹脂層(A)のうちの一方、パターン状位相差層、及び熱可塑性樹脂層(B)のうちのもう一方をこの順に設け、(熱可塑性樹脂層(B))/(パターン状位相差層)/(熱可塑性樹脂層(A))/(ガラス板)の層構成を有する積層体(i)を調製し、かかる積層体(i)から(熱可塑性樹脂層(B))/(パターン状位相差層)/(熱可塑性樹脂層(A))の層構成を有する積層体(ii)を剥離し、積層体(ii)を光反射層と貼合するといった操作により、識別媒体の製造を行ってもよい。
【0057】
本発明の識別媒体はまた、熱可塑性樹脂層(B)よりも視認側に、基材層を備えうる。かかる視認側の基材層を有することにより、識別媒体の表示面の耐擦傷性等の機械的特性を向上させることができる。そのような視認側の基材層を有する場合、基材層とパターン状位相差層とは、熱可塑性樹脂層(B)を介して接着しうる。
【0058】
本発明の識別媒体が備えうるその他の任意の構成要素の例としては、光吸収層、拡散層、装飾部材、及び装着部材が挙げられる。
【0059】
光吸収層は、入射した光を吸収する層である。光吸収層は、黒色の層としうる。光吸収層の材料は、どのような材料であってもよいが、例えば、黒色の着色がなされたフィルムとしうる。光吸収層は、光反射層の裏側、即ち、光反射層の視認側と反対側の位置に設けうる。光反射層が反射型円偏光子及び反射型直線偏光子のいずれかである場合、入射した光のうち、反射されなかった光の多くは透過する。光反射層の裏側に光吸収層を設けると、透過光が吸収され、その結果、反射光による効果をより鮮明に視認することができる。一方、光反射層の裏側に光吸収層を設けない場合、光反射層の裏側が視認されることになり、反射光による効果が不鮮明となるが、識別媒体をシースルーの物体とすることができるという意匠的効果が得られる。
【0060】
拡散層は、入射した光を拡散させた状態で透過する層である。拡散層は、パターン状位相差層より視認側の位置に設けうる。拡散層を設けることにより、潜像(通常の観察では観察されず、識別媒体の特定の観察においてだけ観察される像)が視認される視野角を広げることができる。拡散層としては、既知の拡散層として機能しうる各種の層状の構造物を用いうる。具体的には、光拡散性の微粒子を含む樹脂の硬化物の層を用いうる。このような層は、透明なフィルムの表面上に形成し、透明なフィルムとの複合フィルムとした状態で、本発明の識別媒体に設けうる。
【0061】
装飾部材は、識別媒体の機能発現には寄与しないが、識別媒体の意匠的効果に寄与しうる部材である。装飾部材の一例としては、ラメと呼ばれる、金属的な光沢を有する切片が挙げられる。かかる切片を、例えば光反射層の切片と並べて設けたり、光反射層の上面に重ねて設けたりしうる。装飾部材の別の例としては、識別媒体の表示面を覆うカバーガラス等の透明な部材、識別媒体の周囲を装飾したり保護したりするためのトレー等の筐体、等の部材が挙げられる。
【0062】
装着部材とは、識別媒体を、物品に装着する際に機能する部材である。装着部材は、その一部又は全部が装飾部材を兼ねるものであってもよい。装着部材の例としては、識別媒体の周囲から延長した、リング、クラスプ、フック、ワイヤー、チェーン、紐等の部材、並びに装飾部材を兼ねたトレーなどの筐体が挙げられる。装着部材は、識別媒体の必須の構成要素である光反射層及び/又はパターン状位相差層に直接付着していてもよく、それ以外の任意の部材を介して結合していてもよい。装着部材との結合は、接着剤による付着、ウェルダー加工による付着、ねじ止め又は結紮等の機械的結合等のいずれであってもよい。
【0063】
〔識別媒体の使用方法:概要〕
本発明の識別媒体の使用方法においては、入射光を、識別媒体の表示面に入射させ、光反射層において反射させ反射光とし、反射光を観察する。その具体的な態様としては、
・通常観察(識別媒体に非偏光を入射させ、識別媒体からの反射光を通常の態様即ち特段の偏光成分の選択を伴わない態様で観察する)、
・非偏光-偏光観察(識別媒体に非偏光を入射させ、識別媒体からの反射光のうちの偏光成分を選択的に観察する)、及び
・偏光-非偏光観察(識別媒体に偏光を入射させ、識別媒体からの反射光を通常の態様で観察する)
が挙げられる。
【0064】
識別媒体に入射させる光の例としては、非偏光、及び偏光が挙げられ、偏光の例としては、直線偏光、円偏光、及び楕円偏光が挙げられる。入射させる光が非偏光である場合、反射光の観察においては、反射光の直線偏光成分または円偏光成分を選択的に観察することにより、識別媒体を使用しうる。
【0065】
入射させる光が非偏光である場合、かかる非偏光としては、太陽光及び室内照明光等の、一般的な環境光を使用しうる。
【0066】
入射させる偏光が直線偏光である場合、かかる直線偏光としては、直線偏光子に非偏光を透過させることにより得られる直線偏光を使用しうる。直線偏光を供給する装置は、本発明の使用方法のための専用品であってもよいが、他の用途に用いる一般的な光源及び一般的な直線偏光子を組み合わせて用いてもよい。または、他の用途に用いる一般的な、光源及び直線偏光子が組み合わされた状態の装置を用いてもよい。
【0067】
入射させる偏光が円偏光である場合、かかる円偏光としては、非偏光を、円偏光子に非偏光を透過させることにより得られる円偏光を使用しうる。円偏光を供給する装置は、本発明の使用方法のための専用品であってもよいが、他の用途に用いる一般的な光源及び一般的な円偏光子を組み合わせて用いてもよい。または、他の用途に用いる一般的な、光源及び円偏光子が組み合わされた状態の装置を用いてもよい。
【0068】
入射させる偏光が楕円偏光である場合、かかる楕円偏光としては、非偏光を、適切な光学素子に非偏光を透過させることにより得られる楕円偏光を使用しうる。楕円偏光を供給する装置は、本発明の使用方法のための専用品であってもよいが、他の用途に用いる一般的な光源及び一般的な直線偏光子又は円偏光子を組み合わせて用いてもよい。または、他の用途に用いる一般的な、光源及び直線偏光子又は円偏光子が組み合わされた状態の装置を用いてもよい。
【0069】
例えば、一般的な液晶表示画面付きのパーソナルコンピューター及びスマートフォン等の、表示画面を備えた電子機器の多くは、表示画面からの出射光として直線偏光を出射するので、そのような電子機器を、直線偏光を供給する装置として使用しうる。より具体的には、そのような電子機器を識別媒体に近接させる等の操作により、非偏光の環境光の入射が少なく、相対的に当該電子機器からの出射光の入射が多い環境下に識別媒体を位置させ、直線偏光の供給を達成しうる。
【0070】
他の例として、一般的な液晶表示画面付きのパーソナルコンピューター及びスマートフォン等の、表示画面を備えた電子機器の一部は、表示画面からの出射光として円偏光を出射するので、そのような電子機器を、円偏光を供給する装置として使用しうる。より具体的には、そのような電子機器を識別媒体に近接させる等の操作により、非偏光の環境光の入射が少なく、相対的に当該電子機器からの出射光の入射が多い環境下に識別媒体を位置させ、円偏光の供給を達成しうる。
【0071】
さらに他の例として、上に述べた直線偏光又は円偏光を出射する電子機器の表示画面に、様々な目的で後付のフィルムが貼合されることがある。このような後付のフィルムの例としては、表示画面の保護、表示画面の視野角の調整、表示画面を偏光サングラスを介して観察した場合の視認性向上等様々な目的で貼合されるものが挙げられる。これらのフィルムの多くは、何らかの位相差を有するものが多く、そのため直線偏光を円偏光又は楕円偏光に変換したり、円偏光を直線偏光又は楕円偏光に変換したりする機能を発現しうる。このような態様の、後付フィルムを伴う電子機器を用いて、直線偏光、円偏光又はそれ以外の楕円偏光の供給を達成することも出来る。
【0072】
反射光の直線偏光成分の選択的な観察は、観察用直線偏光子を介して、反射光を目視することにより行いうる。反射光の円偏光成分の選択的な観察は、観察用円偏光子を介して、反射光を目視することにより行いうる。環境光の入射の妨げとなることを避けるため、観察用直線偏光子及び観察用円偏光子は、通常、識別媒体から離隔した状態で使用しうる。離隔の距離の下限は、識別媒体及び観察用直線偏光子の寸法等に応じて適宜調整しうるが、通常、100mm以上としうる。一方離隔の距離の上限は、識別媒体の反射光が観察できる範囲内で適宜調整しうるが、通常30m以下としうる。
【0073】
このように、識別媒体から離隔した位置において使用する観察用直線偏光子は、本発明の使用方法のための専用品であってもよいが、他の用途に用いる一般的な直線偏光子であってもよい。例えば、市販の偏光サングラスの多くは直線偏光子として機能しうるので、そのような市販の偏光サングラスを観察用直線偏光子として用いてもよい。観察用円偏光子の例としては、直線偏光子と位相差フィルムとの組み合わせにより構成された円偏光子、及びコレステリック材料の層を含む円偏光子(例えば、国際公開第2020/121791号に記載されるもの)が挙げられる。
【0074】
〔識別媒体の使用方法:第1の具体例〕
本発明の識別媒体の使用方法の第1の具体例として、図1及び図2に示す識別媒体100からの反射光を、観察用直線偏光子を介して観察し、非偏光-偏光観察を行う場合について説明する。
【0075】
以下の例では、光の明るさの指標として、入射光の明るさを100%とした場合における各段階の光の明るさの理論値を例示する。ここで理論値とは、偏光子による偏光の分離が完全に行われ(図2の例では、光反射層112(R)に入射した光のうちの右円偏光成分が全て反射され、左円偏光成分が全て透過し、且つ、観察用直線偏光子に入射した光のうちの透過軸方向の直線偏光成分が全て透過し、それ以外の直線偏光成分が全て吸収又は反射され遮られた状態)、且つその他の層における光の吸収が無い場合における値である。
【0076】
まず、具体例(1-X)として、観察用直線偏光子を、XYZ座標軸のX軸方向に透過軸を有するよう、識別媒体100との相対的な角度を位置決めした偏光観察を行う場合について説明する。この場合、領域R11に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層120(Xy方向に遅相軸を有するλ/4波長板)を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され領域R11から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と直交するので、観察される領域R11の明るさの理論値は0%となる。
【0077】
領域R12に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R12から出射する。右円偏光成分の半分は、X軸方向の振動方向を有する直線偏光成分に分離されうるので、観察される領域R12の明るさの理論値は25%となる。
【0078】
次に、具体例(1-Y)として、観察用直線偏光子を、XYZ座標軸のY軸方向に透過軸を有するよう、識別媒体100との相対的な角度を位置決めした偏光観察を行う場合について説明する。この場合、領域R11に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層120(Xy方向に遅相軸を有するλ/4波長板)を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され領域R11から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と平行であるので、観察される領域R11の明るさの理論値は50%となる。
【0079】
領域R12に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R12から出射する。右円偏光成分の半分は、Y軸方向の振動方向を有する直線偏光成分に分離されうるので、観察される領域R12の明るさの理論値は25%となる。
【0080】
結果として、具体例(1-X)では、領域R11は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、一方、領域R12は、入射光の1/4の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察される。一方、具体例(1-Y)では、領域R11は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、一方、領域R12は、入射光の1/4の明るさの反射光を有する領域として観察される。領域R12の明るさは、具体例(1-X)から変化は無いが、具体例(1-Y)では領域R12は領域R11よりも、相対的に暗い領域として観察される。したがって、識別媒体と観察用直線偏光子との相対的な角度関係を、具体例(1-X)における関係から具体例(1-Y)における関係に変更することにより、観察用直線偏光子を介して観察した場合における、複数の領域間の相対的な明るさが変化する。
【0081】
一方、非偏光が入射した状態の識別媒体100を、観察用直線偏光子を介さずに通常観察した場合は、領域R11の出射光及び領域R12の出射光は、それらの偏光状態は相違するものの、それらの明るさは共に50%である。人間の視覚では、この偏光状態の相違を認識することはできないので、観察者は、これらの相違を認識できない。
【0082】
この例の使用方法において、本発明の識別媒体は、観察用直線偏光子を介した場合にだけ相対的な明るさの変化が観察されるという、特殊な効果をもたらしうる。このような特殊な効果は、一般的な印刷等の技術で容易に得られる複製物では得られないものである。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い偽造防止性能を発揮する。
【0083】
このような非偏光-偏光観察は、環境光を入射光とし、識別媒体と、判定具である観察用直線偏光子とを離隔させた状態で、反射光を観察用直線偏光子を介して目視することにより達成しうる。さらに観察用直線偏光子としては、市販の偏光サングラス等の一般的な偏光子を用いうる。したがって、このような観察は、判定具を識別媒体に近接させるといった特殊な操作を伴わずに行うことができ、且つ、判定具として比較的容易に入手しうるものを使用することができる。例えば、観察者から離隔した位置に置かれた識別媒体を偏光サングラスをかけた状態で目視するといった容易な動作で識別を達成することができる。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い識別機能を発揮する。
【0084】
上に述べた例では、識別媒体と観察用直線偏光子とを離隔させた状態での観察を例示したが、観察における識別媒体と観察用直線偏光子との位置関係はこれに限定されない。例えば、観察用直線偏光子を識別媒体の上に載置する等してこれらを近接させた状態での観察を行っても、このような潜像を観察することができる。
【0085】
上に述べた例では、観察用の偏光子として直線偏光子を使用する例を示したが、本発明はこれに限られず、観察用の偏光子として直線偏光子以外の偏光子をも用いうる。
【0086】
ある例として、観察用の偏光子として、直線偏光子に代えて右円偏光子、左円偏光子又はこれらの組み合わせを用いうる。右円偏光を選択的に透過する右円偏光子を通して領域R11及びR12を観察した場合、これらの明るさはそれぞれ25%及び50%となり、領域R12が相対的に明るい領域として観察される。一方左円偏光を選択的に透過する左円偏光子を通して領域R11及びR12を観察した場合、これらの明るさはそれぞれ25%及び0%となり、領域R11が相対的に明るい領域として観察される。したがって、通常観察、右円偏光子を介した非偏光-偏光観察及び左円偏光子を介した非偏光-偏光観察のうちの2以上を対比することによる相対的な明るさの変化によっても、識別機能を発現することができる。
【0087】
〔識別媒体の使用方法:第2の具体例〕
本発明の識別媒体の使用方法の第2の具体例として、図1及び図2に示す識別媒体100に直線偏光を入射させ、偏光-非偏光観察を行う場合について説明する。
【0088】
まず、具体例(2-X)として、X軸方向の振動方向を有する偏光を識別媒体100に入射させた場合について説明する。この場合、領域R11に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層120(Xy方向に遅相軸を有するλ/4波長板)を透過し左円偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射する右円偏光成分が無いため、観察される領域R11の明るさの理論値は0%となる。
【0089】
領域R12に入射した入射光(偏光)は、偏光状態を維持して光反射層112(R)に到達する。直線偏光は右円偏光成分及び左円偏光成分に分離され、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R12から出射する。観察される領域R12の明るさの理論値は50%となる。
【0090】
次に、具体例(2-Y)として、Y軸方向の振動方向を有する偏光を識別媒体100に入射させた場合について説明する。この場合、領域R11に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層120(Xy方向に遅相軸を有するλ/4波長板)を透過し右円偏光に変換され、光反射層112(R)に到達し、光反射層112(R)において反射され、パターン状位相差層120においてY軸方向の振動方向を有する偏光に変換された後出射する。観察される領域R11の明るさの理論値は100%となる。
【0091】
領域R12に入射した入射光(偏光)は、偏光状態を維持して光反射層112(R)に到達する。直線偏光は右円偏光成分及び左円偏光成分に分離され、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R12から出射する。観察される領域R12の明るさの理論値は50%となる。
【0092】
結果として、具体例(2-X)では、領域R11は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、一方、領域R12は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察される。一方、具体例(2-Y)では、領域R11は、入射光の100%の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、一方、領域R12は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する領域として観察される。領域R12の明るさは、具体例(2-X)から変化は無いが、具体例(2-Y)では領域R12は領域R11よりも、相対的に暗い領域として観察される。したがって、識別媒体と入射する偏光の振動方向との相対的な角度関係を、具体例(2-X)における関係から具体例(2-Y)における関係に変更することにより、複数の領域間の相対的な明るさが変化する。
【0093】
一方、非偏光が入射した状態の識別媒体100を通常観察した場合は、第1の具体例において説明した通りの結果となり、領域R11の出射光及び領域R12の出射光は、それらの偏光状態は相違するものの、それらの明るさは共に50%である。
【0094】
この例の使用方法において、本発明の識別媒体は、入射光として直線偏光を入射させた場合にだけ相対的な明るさの変化が観察されるという、特殊な効果をもたらしうる。このような特殊な効果は、一般的な印刷等の技術で容易に得られる複製物では得られないものである。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い偽造防止性能を発揮する。
【0095】
加えて、このような特殊な効果は、直線偏光を入射光として観察した場合に得られる。このような観察は、スマートフォン等の直線偏光を出射する電子機器を表示媒体に近接させた状態で識別媒体を目視するといった容易な動作で達成することができる。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い識別機能を発揮する。
【0096】
上に述べた例では、入射光として直線偏光を用いる例を示したが、本発明はこれに限られず、入射光として直線偏光以外の偏光をも用いうる。
【0097】
ある例として、入射光として、直線偏光に代えて右円偏光、左円偏光又はこれらの組み合わせを用いうる。入射光として右円偏光を用いた場合、領域R11からの出射光及び領域R12からの出射光の明るさはそれぞれ50%及び100%となり、領域R12が相対的に明るい領域として観察される。
【0098】
一方、入射光として左円偏光を用いた場合、領域R11からの出射光及び領域R12からの出射光の明るさはそれぞれ50%及び0%となり、領域R11が相対的に明るい領域として観察される。
【0099】
したがって、通常観察、右円偏光を入射させた偏光-非偏光観察及び左円偏光を入射させた偏光-非偏光観察のうちの2以上を対比することによる相対的な明るさの変化によっても、識別機能を発現することができる。ある種の保護フィルムが設けられたスマートフォン等の一部の電子機器には、円偏光を出射するものがあるので、このような観察は、そのような円偏光を出射する電子機器を表示媒体に近接させた状態で識別媒体を目視するといった動作で、達成することができる。
【0100】
〔識別媒体の変形例及びその使用方法:第3及び第4の具体例〕
図1及び図2では、位相差層として、パターン状位相差層120のみを有する例を示したが、本発明はこれに限られず、識別媒体は位相差層としてパターン状位相差層とその他の位相差層とを組み合わせて備えてもよい。また識別媒体はパターン状位相差層として複数枚のものを組み合わせて備えてもよい。
【0101】
図6は、本発明の識別媒体の別の一例を概略的に示す縦断面図である。図6において、識別媒体400は、下側から順に、光吸収層111、光反射層112(R)、熱可塑性樹脂層131、ガラス板141、熱可塑性樹脂層432、位相差層150、熱可塑性樹脂層433、パターン状位相差層160、熱可塑性樹脂層434、及びガラス板142を備える。図6の例では、熱可塑性樹脂層433及び434が、それぞれ、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)に対応する。
【0102】
図6の例においては、位相差層150は、その全面がλ/4波長板として機能する層である。一方、パターン状位相差層160は、その全面がλ/2波長板として機能する層である。但し、パターン状位相差層160は、表示面領域の一部において孔を有するので、表示面領域の全面では無く一部のみを占めている。したがって、識別媒体400の表示面は、位相差層150及びパターン状位相差層160に占められる領域R41と、位相差層150に占められる領域であって且つパターン状位相差層160に占められていない領域である領域R42とを含む。この例では孔はパターン状位相差層160を貫通する孔である。この例において、位相差層150及びパターン状位相差層160はいずれも、Xy方向(図1の例における矢印A120(Xy)と同じ方向)で示す方向に遅相軸を有する。
【0103】
識別媒体400は、上で述べた工程(1)及び工程(2)を含む方法により製造しうる。特に、識別媒体400を構成する熱可塑性樹脂層を構成しうる熱可塑性樹脂層原反と、その他の構成要素とを堆積物とし、真空包装した状態で加熱することにより製造しうる。
【0104】
本発明の識別媒体の使用方法の第3の具体例として、図6に示す識別媒体400からの反射光を、観察用直線偏光子を介して観察し、非偏光-偏光観察を行う場合について説明する。
【0105】
まず、具体例(3-X)として、観察用直線偏光子を、XYZ座標軸のX軸方向に透過軸を有するよう、識別媒体400との相対的な角度を位置決めした偏光観察を行う場合について説明する。この場合、領域R41に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、位相差層150を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R41から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と平行であるので、観察される領域R41の明るさの理論値は50%となる。
【0106】
領域R42に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、位相差層150を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R42から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と直交するので、観察される領域R41の明るさの理論値は0%となる。
【0107】
次に、具体例(3-Y)として、観察用直線偏光子を、XYZ座標軸のY軸方向に透過軸を有するよう、識別媒体400との相対的な角度を位置決めした偏光観察を行う場合について説明する。この場合、領域R41に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、位相差層150を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R41から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と直交するので、観察される領域R41の明るさの理論値は0%となる。
【0108】
領域R42に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、位相差層150を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R42から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と平行であるので、観察される領域R11の明るさの理論値は50%となる。
【0109】
結果として、具体例(3-X)では、領域R41は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、一方、領域R42は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察される。一方、具体例(3-Y)では、領域R41は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、一方、領域R42は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察される。したがって、識別媒体と観察用直線偏光子との相対的な角度関係を、具体例(3-X)における関係から具体例(3-Y)における関係に変更することにより、観察用直線偏光子を介して観察した場合における、複数の領域間の相対的な明るさが変化する。
【0110】
一方、非偏光が入射した状態の識別媒体400を、観察用直線偏光子を介さずに通常観察した場合は、領域R41の出射光及び領域R42の出射光は、それらの偏光状態は相違するものの、それらの明るさは共に50%である。人間の視覚では、この偏光状態の相違を認識することはできないので、観察者は、これらの相違を認識できない。
【0111】
この例の使用方法において、本発明の識別媒体は、観察用直線偏光子を介した場合にだけ相対的な明るさの変化が観察されるという、特殊な効果をもたらしうる。このような特殊な効果は、一般的な印刷等の技術で容易に得られる複製物では得られないものである。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い偽造防止性能を発揮する。
【0112】
識別媒体400はまた、識別媒体100の場合と同様に、識別媒体と、判定具である観察用直線偏光子とを離隔させた状態で使用することもでき、観察用直線偏光子を識別媒体の上に載置する等してこれらを近接させた状態で使用することもできる。また、観察用の偏光子として識別媒体100の場合と同様の各種の偏光子を用いうる。
【0113】
本発明の識別媒体の使用方法の第4の具体例として、図6に示す識別媒体400に直線偏光を入射させ、偏光-非偏光観察を行う場合について説明する。
【0114】
まず、具体例(4-X)として、X軸方向の振動方向を有する偏光を識別媒体400に入射させた場合について説明する。この場合、領域R41に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層160を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、位相差層150を透過し右円偏光に変換され、光反射層112(R)において反射される。反射光は、位相差層150を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換された後出射する。観察される領域R41の明るさの理論値は100%となる。
【0115】
領域R42に入射した入射光(偏光)は、位相差層150を透過し左円偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射する右円偏光成分が無いため、観察される領域R42の明るさの理論値は0%となる。
【0116】
次に、具体例(4-Y)として、Y軸方向の振動方向を有する偏光を識別媒体400に入射させた場合について説明する。この場合、領域R41に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、位相差層150を透過し左円偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射する右円偏光成分が無いため、観察される領域R41の明るさの理論値は0%となる。
【0117】
領域R42に入射した入射光(偏光)は、位相差層150を透過し右円偏光に変換され、光反射層112(R)において反射される。反射光は、位相差層150を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換された後出射する。観察される領域R41の明るさの理論値は100%となる。
【0118】
結果として、具体例(4-X)では、領域R41は、入射光の100%の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、一方、領域R42は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察される。一方、具体例(4-Y)では、領域R41は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、一方、領域R42は、入射光の100%の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察される。したがって、識別媒体と入射する偏光の振動方向との相対的な角度関係を、具体例(4-X)における関係から具体例(4-Y)における関係に変更することにより、複数の領域間の相対的な明るさが変化する。
【0119】
一方、非偏光が入射した状態の識別媒体400を通常観察した場合は、第3の具体例において説明した通りの結果となり、領域R41の出射光及び領域R42の出射光は、それらの偏光状態は相違するものの、それらの明るさは共に50%である。
【0120】
この例の使用方法において、本発明の識別媒体は、入射光として直線偏光を入射させた場合にだけ相対的な明るさの変化が観察されるという、特殊な効果をもたらしうる。このような特殊な効果は、一般的な印刷等の技術で容易に得られる複製物では得られないものである。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い偽造防止性能を発揮する。
【0121】
識別媒体400はまた、識別媒体100の場合と同様に、入射光として直線偏光以外の偏光を用いた場合でも使用することができる。また、観察用の変更の供給源として識別媒体100の場合と同様の各種の装置を用いうる。
【0122】
〔識別媒体の変形例及びその使用方法:第5及び第6の具体例〕
図7は、本発明の識別媒体のさらに別の一例を概略的に示す縦断面図である。図7において、識別媒体500は、下側から順に、光吸収層111、光反射層112(R)、熱可塑性樹脂層131、ガラス板141、熱可塑性樹脂層132、パターン状位相差層120、熱可塑性樹脂層533、パターン状位相差層160、熱可塑性樹脂層434、及びガラス板142を備える。識別媒体500は、2層のパターン状位相差層を有する。この例では、熱可塑性樹脂層132及び434が、それぞれ、熱可塑性樹脂層(A)及び(B)に対応し、且つ熱可塑性樹脂層533は、パターン状位相差層120についての熱可塑性樹脂層(B)と、パターン状位相差層160についての熱可塑性樹脂層(A)とを兼ねたものとなる。
【0123】
図7の例においては、パターン状位相差層120は、図1及び図2の例と同じく、その全面がλ/4波長板として機能する層であるが、表示面領域の一部において孔121を有するので、表示面領域の全面では無く一部のみを占めている。パターン状位相差層160は、図6の例と同じく、その全面がλ/2波長板として機能する層であるが、表示面領域の別の一部において孔を有するので、表示面領域の全面では無く一部のみを占めている。したがって、識別媒体500の表示面は、パターン状位相差層120及びパターン状位相差層160に占められる領域R51と、パターン状位相差層120に占められていない領域であって且つパターン状位相差層160に占められる領域である領域R52と、パターン状位相差層120に占められていない領域であって且つパターン状位相差層160に占められていない領域である領域R53と、パターン状位相差層120に占められる領域であって且つパターン状位相差層160に占められていない領域である領域R54とを含む。この例では孔はパターン状位相差層12又は160を貫通する孔である。この例において、パターン状位相差層120及びパターン状位相差層160はいずれも、Xy方向(図1の例における矢印A120(Xy)と同じ方向)で示す方向に遅相軸を有する。
【0124】
識別媒体500は、上で述べた工程(1)及び工程(2)を含む方法により製造しうる。特に、識別媒体500を構成する熱可塑性樹脂層を構成しうる熱可塑性樹脂層原反と、その他の構成要素とを堆積物とし、真空包装した状態で加熱することにより製造しうる。
【0125】
本発明の識別媒体の使用方法の第5の具体例として、図7に示す識別媒体500からの反射光を、観察用直線偏光子を介して観察し、非偏光-偏光観察を行う場合について説明する。
【0126】
まず、具体例(5-X)として、観察用直線偏光子を、XYZ座標軸のX軸方向に透過軸を有するよう、識別媒体500との相対的な角度を位置決めした偏光観察を行う場合について説明する。この場合、領域R51に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層120を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R51から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と平行であるので、観察される領域R51の明るさの理論値は50%となる。
【0127】
領域R52に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層160を透過し左円偏光に変換され、領域R52から出射する。左円偏光成分の半分は、X軸方向の振動方向を有する直線偏光成分に分離されうるので、観察される領域R52の明るさの理論値は25%となる。
【0128】
領域R53に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R53から出射する。右円偏光成分の半分は、X軸方向の振動方向を有する直線偏光成分に分離されうるので、観察される領域R53の明るさの理論値は25%となる。
【0129】
領域R54に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層120を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R54から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と直交するので、観察される領域R54の明るさの理論値は0%となる。
【0130】
次に、具体例(5-Y)として、観察用直線偏光子を、XYZ座標軸のY軸方向に透過軸を有するよう、識別媒体500との相対的な角度を位置決めした偏光観察を行う場合について説明する。この場合、領域R51に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層120を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R51から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と直交するので、観察される領域R51の明るさの理論値は0%となる。
【0131】
領域R52に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層160を透過し左円偏光に変換され、領域R52から出射する。左円偏光成分の半分は、Y軸方向の振動方向を有する直線偏光成分に分離されうるので、観察される領域R52の明るさの理論値は25%となる。
【0132】
領域R53に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R53から出射する。右円偏光成分の半分は、Y軸方向の振動方向を有する直線偏光成分に分離されうるので、観察される領域R53の明るさの理論値は25%となる。
【0133】
領域R54に入射した入射光(非偏光)は、非偏光の状態を維持して光反射層112(R)に到達する。ここで、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層120を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、領域R54から出射する。当該振動方向は観察用直線偏光子の透過軸と平行であるので、観察される領域R54の明るさの理論値は50%となる。
【0134】
結果として、具体例(5-X)では、領域R51は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、領域R54は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、領域R52及びR53はそれらの中間の明るさを有する領域として観察される。一方、具体例(5-Y)では、領域R51は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、領域R54は、入射光の1/2の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、領域R52及びR53はそれらの中間の明るさを有する領域として観察される。したがって、識別媒体と観察用直線偏光子との相対的な角度関係を、具体例(5-X)における関係から具体例(5-Y)における関係に変更することにより、観察用直線偏光子を介して観察した場合における、複数の領域間の相対的な明るさが変化する。領域R52及びR53は明るさの変化を生じないが、直線偏光子を介した観察の他に円偏光子を介した観察を行った場合、明るさの相違が観察される。
【0135】
一方、非偏光が入射した状態の識別媒体500を、観察用直線偏光子を介さずに通常観察した場合は、領域R51~R54の出射光は、それらの偏光状態は相違するものの、それらの明るさは共に50%である。人間の視覚では、この偏光状態の相違を認識することはできないので、観察者は、これらの相違を認識できない。
【0136】
この例の使用方法において、本発明の識別媒体は、観察用直線偏光子又は観察用円偏光子を介した場合にだけ相対的な明るさの変化が観察されるという、特殊な効果をもたらしうる。このような特殊な効果は、一般的な印刷等の技術で容易に得られる複製物では得られないものである。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い偽造防止性能を発揮する。
【0137】
識別媒体500はまた、識別媒体100の場合と同様に、識別媒体と、判定具である観察用直線偏光子とを離隔させた状態で使用することもでき、観察用直線偏光子を識別媒体の上に載置する等してこれらを近接させた状態で使用することもできる。また、観察用の偏光子として識別媒体100の場合と同様の各種の偏光子を用いうる。
【0138】
本発明の識別媒体の使用方法の第6の具体例として、図7に示す識別媒体500に直線偏光を入射させ、偏光-非偏光観察を行う場合について説明する。
【0139】
まず、具体例(6-X)として、X軸方向の振動方向を有する偏光を識別媒体500に入射させた場合について説明する。この場合、領域R51に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層160を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層120を透過し右円偏光に変換され、光反射層112(R)において反射される。反射光は、パターン状位相差層120を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換された後出射する。観察される領域R51の明るさの理論値は100%となる。
【0140】
領域R52に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層160を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。直線偏光は右円偏光成分及び左円偏光成分に分離され、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層160を透過し左円偏光に変換された後出射する。観察される領域R52の明るさの理論値は50%となる。
【0141】
領域R53に入射した入射光(偏光)は、偏光状態を維持して光反射層112(R)に到達する。直線偏光は右円偏光成分及び左円偏光成分に分離され、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R53から出射する。観察される領域R53の明るさの理論値は50%となる。
【0142】
領域R54に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層120を透過し左円偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射する右円偏光成分が無いため、観察される領域R54の明るさの理論値は0%となる。
【0143】
次に、具体例(6-Y)として、Y軸方向の振動方向を有する偏光を識別媒体500に入射させた場合について説明する。この場合、領域R51に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層120を透過し左円偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射する右円偏光成分が無いため、観察される領域R51の明るさの理論値は0%となる。
【0144】
領域R52に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、光反射層112(R)に到達する。直線偏光は右円偏光成分及び左円偏光成分に分離され、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、パターン状位相差層160を透過し左円偏光に変換された後出射する。観察される領域R52の明るさの理論値は50%となる。
【0145】
領域R53に入射した入射光(偏光)は、偏光状態を維持して光反射層112(R)に到達する。直線偏光は右円偏光成分及び左円偏光成分に分離され、右円偏光成分は反射し、一方左円偏光成分は光反射層112(R)を透過した後光吸収層111により吸収される。反射した右円偏光成分は、領域R53から出射する。観察される領域R53の明るさの理論値は50%となる。
【0146】
領域R54に入射した入射光(偏光)は、パターン状位相差層120を透過し右円偏光に変換され、光反射層112(R)において反射される。反射光は、パターン状位相差層120を透過しY軸方向の振動方向を有する偏光に変換され、パターン状位相差層160を透過しX軸方向の振動方向を有する偏光に変換された後出射する。観察される領域R54の明るさの理論値は100%となる。
【0147】
結果として、具体例(6-X)では、領域R51は、入射光の100%の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、領域R54は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、領域R52及びR53はそれらの中間の明るさを有する領域として観察される。一方、具体例(6-Y)では、領域R51は、反射光の無い、相対的に暗い領域として観察され、領域R54は、入射光の100%の明るさの反射光を有する、相対的に明るい領域として観察され、領域R52及びR53はそれらの中間の明るさを有する領域として観察される。したがって、識別媒体と入射する偏光の振動方向との相対的な角度関係を、具体例(6-X)における関係から具体例(6-Y)における関係に変更することにより、複数の領域間の相対的な明るさが変化する。領域R52及びR53は明るさの変化を生じないが、直線偏光を入射させた観察の他に円偏光を入射させた観察を行った場合、明るさの相違が観察される。
【0148】
一方、非偏光が入射した状態の識別媒体500を通常観察した場合は、第5の具体例において説明した通りの結果となり、領域R51~R54の出射光は、それらの偏光状態は相違するものの、それらの明るさは共に50%である。
【0149】
この例の使用方法において、本発明の識別媒体は、入射光として直線偏光又は円偏光を入射させた場合にだけ相対的な明るさの変化が観察されるという、特殊な効果をもたらしうる。このような特殊な効果は、一般的な印刷等の技術で容易に得られる複製物では得られないものである。したがって、本発明の識別媒体は、このような使用において、高い偽造防止性能を発揮する。
【0150】
識別媒体500はまた、識別媒体100の場合と同様に、入射光として直線偏光以外の偏光を用いた場合でも使用することができる。また、観察用の変更の供給源として識別媒体100の場合と同様の各種の装置を用いうる。
【0151】
〔光反射層の具体例〕
光反射層は、入射光を、円偏光または直線偏光として反射する層である。光反射層の例としては、上に述べた光反射層112(R)で例示される、反射型円偏光子、及び反射型直線偏光子が挙げられる。また、光反射層は、1層のみの層によりかかる機能を発現するものであってもよく、複数の層の組み合わせによりかかる機能を発現するものであってもよい。
【0152】
反射型円偏光子の例としては、コレステリック規則性を有する材料の層が挙げられる。コレステリック規則性とは、材料内部のある平面上では分子軸が一定の方向に並んでいるが、それに重なる次の平面では分子軸の方向が少し角度をなしてずれ、さらに次の平面ではさらに角度がずれるというように、重なって配列している平面を順次透過して進むに従って当該平面中の分子軸の角度がずれて(ねじれて)いく構造である。即ち、ある材料の層の内部の分子がコレステリック規則性を有する場合、分子は、層の内部のある第一の平面上では分子軸が一定の方向になるように並ぶ。層の内部の、当該第一の平面に重なる次の第二の平面では、分子軸の方向が、第一の平面における分子軸の方向と、少し角度をなしてずれる。当該第二の平面にさらに重なる次の第三の平面では、分子軸の方向が、第二の平面における分子軸の方向から、さらに角度をなしてずれる。このように、重なって配列している平面において、当該平面中の分子軸の角度が順次ずれて(ねじれて)いく。このように分子軸の方向がねじれてゆく構造は、通常はらせん構造であり、光学的にカイラルな構造である。
【0153】
コレステリック規則性を有する材料のより具体的な例としては、コレステリック樹脂層が挙げられる。コレステリック樹脂層とは、硬化性の液晶性化合物であってコレステリック液晶相を呈したものを硬化させることにより得られる層である。コレステリック樹脂層は、例えば、重合性の液晶化合物を、コレステリック液晶相を呈した状態で重合させることにより得うる。より具体的には、重合性の液晶化合物を含む液晶組成物を、適切な基材に塗布する等して層の状態とし、コレステリック液晶相に配向させ、硬化させることにより、コレステリック樹脂層を得うる。
【0154】
重合性の液晶化合物としては、光重合性液晶化合物が好ましい。光重合性液晶化合物としては、活性エネルギー線を照射することによって重合しうる光重合性の液晶化合物を用いうる。活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、及び赤外線等の広範なエネルギー線の中から、光重合性液晶化合物の重合反応を進行させうるエネルギー線を採用しうるが、特に、紫外線等の電離放射線が好ましい。中でも、コレステリック液晶組成物に好適に用いられる光重合性液晶化合物としては、1分子中に2つ以上の反応性基を有する棒状液晶化合物が好ましく、式(1)で表される化合物が特に好ましい。
3-C3-D3-C5-M-C6-D4-C4-R4 式(1)
【0155】
式(1)において、R3及びR4は、反応性基であり、それぞれ独立して、(メタ)アクリル基、(チオ)エポキシ基、オキセタン基、チエタニル基、アジリジニル基、ピロール基、ビニル基、アリル基、フマレート基、シンナモイル基、オキサゾリン基、メルカプト基、イソ(チオ)シアネート基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びアルコキシシリル基からなる群より選択される基を表す。これらの反応性基を有することにより、液晶組成物を硬化させた際に、機械的強度の高い液晶組成物硬化層を得ることができる。
【0156】
式(1)において、D3及びD4は、それぞれ独立して、単結合、炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、及び炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンオキサイド基からなる群より選択される基を表す。
【0157】
式(1)において、C3~C6は、それぞれ独立して、単結合、-O-、-S-、-S-S-、-CO-、-CS-、-OCO-、-CH2-、-OCH2-、-CH=N-N=CH-、-NHCO-、-O-(C=O)-O-、-CH-(C=O)-O-、及び-CHO-(C=O)-からなる群より選択される基を表す。
【0158】
式(1)において、Mは、メソゲン基を表す。具体的には、Mは、非置換又は置換基を有していてもよい、アゾメチン類、アゾキシ類、フェニル類、ビフェニル類、ターフェニル類、ナフタレン類、アントラセン類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類からなる群から選択された互いに同一又は異なる2個~4個の骨格が、-O-、-S-、-S-S-、-CO-、-CS-、-OCO-、-CH2-、-OCH2-、-CH=N-N=CH-、-NHCO-、-O-(C=O)-O-、-CH2-(C=O)-O-、及び-CH2O-(C=O)-等の結合基によって結合された基を表す。
【0159】
前記メソゲン基Mが有しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1個~10個のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-O-R5、-O-C(=O)-R5、-C(=O)-O-R5、-O-C(=O)-O-R5、-NR5-C(=O)-R5、-C(=O)-NR5、または-O-C(=O)-NR5が挙げられる。ここで、R5及びRは、水素原子又は炭素数1個~10個のアルキル基を表す。R及びRがアルキル基である場合、当該アルキル基には、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR6-C(=O)-、-C(=O)-NR6-、-NR6-、または-C(=O)-が介在していてもよい(ただし、-O-および-S-がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、R6は、水素原子または炭素数1個~6個のアルキル基を表す。
【0160】
前記「置換基を有してもよい炭素数1個~10個のアルキル基」における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、炭素原子数1個~6個のアルコキシ基、炭素原子数2個~8個のアルコキシアルコキシ基、炭素原子数3個~15個のアルコキシアルコキシアルコキシ基、炭素原子数2個~7個のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2個~7個のアルキルカルボニルオキシ基、炭素原子数2~7個のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0161】
また、前記の棒状液晶化合物は、非対称構造であることが好ましい。ここで非対称構造とは、式(1)において、メソゲン基Mを中心として、R3-C3-D3-C5-M-と-M-C6-D4-C4-R4とを対比すると、これらが異なる構造のことをいう。棒状液晶化合物として非対称構造のものを用いることにより、配向均一性をより高めることができる。
【0162】
棒状液晶性化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物(B1)~(B10)が挙げられる。ただし、棒状液晶性化合物は、下記の化合物に限定されるものではない。
【0163】
【化1】
【0164】
【化2】
【0165】
液晶組成物が上述した棒状液晶化合物を含む場合、当該液晶組成物は、棒状液晶化合物に組み合わせて、配向助剤として、式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
1-A1-B-A2-R2 (2)
【0166】
式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンオキサイド基、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、任意の結合基が介在していてもよい(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基、及びシアノ基からなる群より選択される基である。
【0167】
前記アルキル基及びアルキレンオキサイド基は、置換されていないか、若しくはハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。さらに、前記ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基、及びシアノ基は、炭素原子数1個~2個のアルキル基、及びアルキレンオキサイド基と結合していてもよい。
【0168】
1及びR2として好ましい例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基、及びシアノ基が挙げられる。
【0169】
また、R1及びR2の少なくとも一方は、反応性基であることが好ましい。R1及びR2の少なくとも一方として反応性基を有することにより、前記式(2)で表される化合物が硬化時に液晶組成物硬化層中に固定され、より強固な層を形成することができる。ここで反応性基とは、例えば、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、及びアミノ基を挙げることができる。
【0170】
式(2)において、A1及びA2はそれぞれ独立して、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキセン-1,4-イレン基、4,4’-ビフェニレン基、4,4’-ビシクロヘキシレン基、及び2,6-ナフチレン基からなる群より選択される基を表す。前記1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキセン-1,4-イレン基、4,4’-ビフェニレン基、4,4’-ビシクロヘキシレン基、及び2,6-ナフチレン基は、置換されていないか、若しくはハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、炭素原子数1個~10個のアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の置換基で1つ以上置換されていてもよい。A1及びA2のそれぞれにおいて、2以上の置換基が存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0171】
1及びA2として特に好ましいものとしては、1,4-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、及び2,6-ナフチレン基からなる群より選択される基が挙げられる。これらの芳香環骨格は脂環式骨格と比較して比較的剛直であり、棒状液晶化合物のメソゲンとの親和性が高く、配向均一性がより高くなる。
【0172】
式(2)において、Bは、単結合、-O-、-S-、-S-S-、-CO-、-CS-、-OCO-、-CH-、-OCH-、-CH=N-N=CH-、-NHCO-、-O-(C=O)-O-、-CH2-(C=O)-O-、及び-CHO-(C=O)-からなる群より選択される。
Bとして特に好ましいものとしては、単結合、-O-(C=O)-及び-CH=N-N=CH-が挙げられる。
【0173】
式(2)で表される化合物として特に好ましい具体例としては、下記の化合物(A1)~(A10)が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0174】
【化3】
【0175】
上記化合物(A3)において、「*」はキラル中心を表す。
【0176】
(式(2)で表される化合物の合計重量)/(棒状液晶化合物の合計重量)で示される重量比は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.05以上であり、好ましくは1以下、より好ましくは0.65以下である。前記の重量比を前記下限値以上にすることにより、液晶組成物の層において配向均一性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、配向均一性を高くできる。また、液晶組成物の液晶相の安定性を高くできる。さらに、液晶組成物の屈折率異方性Δnを高くできるので、例えば、円偏光の選択反射性能等の所望の光学的性能を有する液晶組成物硬化層を安定して得ることができる。ここで、式(2)で表される化合物の合計重量とは、式(2)で表される化合物を1種類のみ用いた場合にはその重量を示し、2種類以上を用いた場合には合計の重量を示す。同様に、棒状液晶化合物の合計重量とは、棒状液晶化合物を1種類のみ用いた場合にはその重量を示し、2種類以上を用いた場合には合計の重量を示す。
【0177】
また、式(2)で表される化合物と棒状液晶化合物とを組み合わせて用いる場合、式(2)で表される化合物の分子量が600未満であることが好ましく、棒状液晶化合物の分子量が600以上であることが好ましい。これにより、式(2)で表される化合物が、それよりも分子量の大きい棒状液晶化合物の隙間に入り込むことができるので、配向均一性を向上させることができる。
【0178】
コレステリック樹脂層を形成するための液晶組成物は、さらに、コレステリック樹脂層を構成する任意成分、及び液晶組成物の取り扱いを容易とするための溶媒を含みうる。任意成分の例としては、カイラル剤、重合開始剤、及び界面活性剤が挙げられる。任意成分及び溶媒の具体例としては、特開2019-188740号公報に記載されるものが挙げられる。
【0179】
反射型直線偏光子の例としては、多層の薄膜を積層したフィルム(例えば商品名「DBEF」、3M社製)、及びワイヤーグリッド偏光子が挙げられる。
【0180】
光反射層が反射型円偏光子及び反射型直線偏光子のいずれである場合においても、光反射層に入射した非偏光の、光反射層による反射率は最大で50%となる。反射の帯域及び反射率に応じて、光反射層は視覚的に様々な色を呈する。光反射層に入射した非偏光の、光反射層による反射率が、波長領域420nm~650nmにおけるすべての波長において35~50%である場合、光反射層は銀色の層として観察される。35~50%の反射がなされる帯域がこれより狭い場合、光反射層は、帯域に応じて様々な色を呈しうる。例えば、反射帯域が450nm付近にある場合、550nm付近にある場合、及び650nm付近にある場合で、それぞれ、青、緑、赤といった色を呈しうる。
【0181】
本発明の識別媒体は、光反射層として1枚の層のみを有していてもよく、多数枚の層を有していてもよい。識別媒体はまた、光反射層として1種類の層のみを有していてもよく、反射光の偏光状態が異なる複数種類の層を有していてもよい。例えば、識別媒体は、光反射層として、赤、緑、青、及び銀色といった複数種類の色を呈する複数種類の反射型偏光子の切片を、水平方向に多数敷き詰められて配置された状態で有しうる。このように光反射層として多数の切片を有する場合、光反射層は反射型円偏光子であることが好ましい。図1図7に示した原理で反射型円偏光子を使用する場合、反射型円偏光子は、その向きをある一の向きに揃える必要が無く、位相差層の遅相軸のみによって、明るくなる向きが規定されるので、反射型円偏光子を微細な切片とし、識別媒体内で向きを統一せずに配置しても、容易に本発明の効果を奏する識別媒体を構成することができる。
潜像の視認を明確にするという観点からは、光反射層は、銀色のもの、又は銀色のものとその他の色のものとの組み合わせであることが好ましい。
【0182】
〔パターン状位相差層の具体例〕
パターン状位相差層は、位相差を有する領域を含む層である。位相差を有する領域は、識別媒体において、その表示面の領域の一部を占める。
【0183】
位相差層(パターン状位相差層のうちの、位相差を有する領域にかかる部分)の例としては、上に述べた層120及び150で例示される、λ/4波長板として機能する領域、及び上に述べた層160で例示される、λ/2波長板として機能する領域が挙げられる。
【0184】
位相差層を構成する材料としては、各種の、光学異方性を有する固体の材料が挙げられる。その一例としては、透明な材料を延伸して得られる延伸フィルムが挙げられる。より具体的には、光学的に等方なフィルムを延伸し、λ/4波長板又はλ/2波長板として機能しうる面内レターデーションReを付与したフィルムが挙げられる。延伸フィルムは、比較的安価に得られ、所望の値のReの付与及び所望の任意の形状への成形が容易である観点から好ましい。
【0185】
位相差層を構成する材料の別の一例としては、液晶性化合物の硬化物が挙げられる。具体的には、硬化性の液晶性化合物であって、λ/4波長板又はλ/2波長板として機能しうる位相差を呈する液晶状態に配向したものを硬化させることにより得られる層である。そのような層及びその製造方法の例としては、例えば国際公開第2019/116995号に記載されるものが挙げられる。液晶性化合物の硬化物は、一枚のフィルムであってそのある部分と他のある部分とで異なる位相差を有するものを容易に形成することができるので、パターン状位相差層として一枚のフィルムを形成することが求められる場合には特に好ましい。
【0186】
好ましい例として、識別媒体は、パターン状位相差層として、単独パターン状位相差層を一以上備えうる。ここで、単独パターン状位相差層とは、識別媒体の表示面より小さい寸法を有し、ある位相差を有する一の領域からなる部材である。単独パターン状位相差層を、識別媒体の表示面内に配置することにより、当該層が存在する領域を、位相差を有する領域として機能させ、その他の領域を、等方な領域として機能させうる。
【0187】
一の識別媒体の表示面内において、パターン状位相差層の位相差を有する領域は、一のみであってもよく、複数であってもよい。複数の領域を備える場合、それらの遅相軸方向は、同じ方向であってもよく、異なる方向であってもよい。
【0188】
識別媒体が、位相差を有する領域として、遅相軸の向きが異なる複数の領域を備える場合、それによる意匠的効果が得られる。具体的には、識別媒体と観察用直線偏光子との相対的な角度関係又は識別媒体と入射直線偏光の振動方向との相対的な角度関係を変更させると、複数の領域が一つずつ順次明るくなるという意匠的効果が得られる。また、多数の向きにおいて、複数の領域のいずれかが最も明るくなるよう識別媒体を構成しうるので、識別媒体の向きや観察用直線偏光子の向きに制限なく、どの角度からも潜像を観察する識別媒体を構成することができる。このような効果は、一般的な印刷等の技術では容易に複製できるものでは得られないものであり、且つ真正な識別媒体の性質として特徴的に視認しうるので、このような場合、識別媒体の偽造防止性能及び識別機能を特に高めうる。複数の領域の遅相軸の向きは、規則的に異なる状態としてもよいが、不規則に異なる状態としてもよい。
【0189】
位相差を有する領域として、遅相軸の向きが異なる複数の領域を構成する方法の例として、複数枚の単独パターン状位相差層を用意し、これを、一の識別媒体の表示面内において、遅相軸方向が互いに異なる状態となるよう配置する方法が挙げられる。このような方法により、遅相軸の向きが異なる複数の領域を容易に構成することができる。また、このような方法により、複数の領域の遅相軸の向きを、容易に、不規則に異なる状態としうる。より具体的には、単独パターン状位相差層を多数用意し、これを、光反射層上にランダムに載置したり播いたりすることにより、そのような不規則に異なる遅相軸の配置を達成しうる。このような不規則に異なる遅相軸の配置を構成することにより、識別媒体と観察用直線偏光子との相対的な角度関係又は識別媒体と入射直線偏光の振動方向との相対的な角度関係を変更させると、複数の領域が一つずつランダムな順序で順次明るくなるという意匠的効果が得られる。これにより、識別媒体の偽造防止性能及び識別機能、並びに意匠的な価値を、さらに高めることができる。
【0190】
位相差を有する領域として、遅相軸の向きが異なる複数の領域を構成する場合、光反射層とパターン状位相差層との組み合わせは、反射型円偏光子と、λ/4波長板又はλ/2波長板として機能する領域を含む位相差層との組み合わせであることが好ましい。この場合、パターン状位相差層の遅相軸方向の、光反射層との相対的な向きを調整する必要が無いため、複数の領域の遅相軸の向きを、容易に自由な方向に設定することができる。
【0191】
〔物品〕
本発明の物品は、前記本発明の識別媒体を備える。
物品の例としては、衣類、靴、帽子、装身具、宝飾品、日用品等の様々な物品が挙げられる。本発明の物品は、識別媒体を備えることにより、識別機能を有するものとしうる。かかる識別機能を有することにより、識別媒体及び物品が、偽造品でない真正なものであることの識別を行いうる。加えて、識別媒体が、物品に意匠的効果を付与することができる。識別媒体は、タグ、チャーム、ワッペン、ステッカー等の、物品の装飾品、部品又は付属物として、物品に設けうる。
本発明の物品は、前記本発明の識別媒体に加えて、偏光子ビュワーをさらに備えうる。偏光子ビュワーとしては、上に述べた観察用直線偏光子又は観察用円偏光子等の観察用偏光子を備え、かかる観察用偏光子を介して識別媒体を観察しうるよう物品に備えられたものが挙げられる。偏光子ビュワーは、例えばタグの形状とし、紐等を介して物品本体に備え付けられた態様としうる。このように、識別媒体に加えて偏光子ビュワーをさらに備えることにより、一般の物品使用者が、簡単に識別媒体の識別を行うことができる。
【実施例
【0192】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0193】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中において行った。
【0194】
〔製造例1:コレステリック材料(R)(G)(B)〕
液晶性化合物(商品名「Paliocolor LC242」、BASF社製)、カイラル剤(商品名「Paliocolor LC756」、BASF社製)、光重合開始剤(商品名「Irgacure OXE02」、BASF社製)、レベリング剤(商品名「サーフロンS420」、AGCセイミケミカル社製)及び溶媒(メチルエチルケトン)を、下記表1に示す割合で混合し、液晶組成物(R)、(G)及び(B)を得た。
【0195】
【表1】
【0196】
原反基材(PETフィルム、東洋紡社製、商品名「A4100」)の表面にラビング処理を施した。当該表面に、液晶組成物(R)、(G)及び(B)のそれぞれを、バーコーターにて塗布し、液晶組成物の層を形成した。液晶組成物の層の厚さは最終的に得られるコレステリック材料層の厚みが3.5μmとなるよう調整した。これを、オーブンにおいて100℃で2分間加熱させ、液晶組成物の層を乾燥及び配向させた。続いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度400ppm以下)にて、乾燥させた液晶組成物の層に、紫外線を照射した。照射には、高圧水銀ランプを用い、365nm(i線)における照度280mW/cm、露光量2000mJ/cmとなるよう照射条件を調整した。この結果、残留モノマー割合が2重量%程度となる重合が達成され、液晶組成物の層が硬化し、コレステリック材料層が形成された。これにより、原反基材及びコレステリック材料層を含む原反シートを得た。
【0197】
〔製造例2:コレステリック材料(S)〕
液晶性化合物(前記式(B3)で示される化合物)14.63重量部、配向助剤(前記式(A2)で示される化合物)3.66重量部、カイラル剤(商品名「Paliocolor LC756」、BASF社製)1.09重量部、レベリング剤(商品名「サーフロンS420」、AGCセイミケミカル社製)0.02重量部、光重合開始剤(商品名「Irgacure OXE02」、BASF社製)0.60重量部、及び溶媒(メチルエチルケトン)80.00重量部を混合し、液晶組成物(S)を得た。
【0198】
原反基材(PETフィルム、東洋紡社製、商品名「A4100」)の表面にラビング処理を施した。当該表面に、液晶組成物(S)を、バーコーターにて塗布し、液晶組成物の層を形成した。液晶組成物の層の厚さは最終的に得られるコレステリック材料層の厚みが約5μmとなるよう調整した。これを、オーブンにおいて140℃で2分間加熱させ、液晶組成物の層を乾燥及び配向させた。
【0199】
続いて、広帯域化処理を行った。広帯域化処理は、大気雰囲気下で、乾燥させた液晶組成物の層に弱い紫外線を照射し、その後加熱することにより行った。紫外線の照射には、高圧水銀ランプを用い、365nm(i線)における照度25mW/cmで0.3秒の照射を行った。その後の加熱は90℃1分間とした。
【0200】
続いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度400ppm以下)にて、乾燥させた液晶組成物の層に、硬化のための紫外線を照射した。照射には、高圧水銀ランプを用い、365nm(i線)における照度280mW/cm、露光量2000mJ/cmとなるよう照射条件を調整した。この結果、液晶組成物の層が硬化し、コレステリック材料層(S)が形成された。これにより、原反基材及びコレステリック材料層(S)を含む原反シートを得た。
【0201】
〔製造例3:コレステリック材料の顔料(S)(R)(G)(B)〕
製造例1及び製造例2のそれぞれで得られた、コレステリック材料層を含む原反シートを折り曲げ、空気を吹き付けることにより、コレステリック材料層を剥離させ、剥離片を得た。剥離片を、カッターミルで粉砕し、51μmの篩に通し、篩を通過した粒子を回収し、コレステリック材料の顔料(S)(R)(G)(B)を得た。レーザー回折・散乱法により顔料の粒度分布を、粒子径分布測定装置(製品名「LA-960」、堀場製作所製)で測定し、顔料の粒子の平均粒径を求めたところ、30μmであった。
【0202】
〔製造例4:矩形のλ/4位相差層及びパターン状λ/4位相差層〕
延伸され位相差を有する樹脂フィルム(商品名「ゼオノアZD-12」、日本ゼオン株式会社製、厚み55μm、Re(450)141nm、Re(550)140nm、Re(650)140nm)を切り出し、50mm×50mmの矩形のλ/4位相差層を得た。レーザーカット装置で、矩形のλ/4位相差層の一部を切り抜き、所望の意匠的形状を有する孔を形成した。これにより、パターン状λ/4位相差層を得た。
【0203】
〔製造例5:パターン状λ/2位相差層〕
延伸され位相差を有する樹脂フィルム(商品名「ゼオノアZD-12」、日本ゼオン株式会社製、厚み110μm、Re(450)271nm、Re(550)270nm、Re(650)270nm)を切り出し、50mm×50mmの矩形のλ/2位相差層を得た。レーザーカット装置で、矩形のλ/2位相差層の一部を切り抜き、所望の意匠的形状を有する孔を形成した。これにより、パターン状λ/2位相差層を得た。
【0204】
〔製造例6:ホットメルト層(1)を備える複層フィルム〕
国際公開第2014/077267号の参考例1に記載された方法に従って、スチレン25部、イソプレン50部及びスチレン25部をこの順に重合して、トリブロック共重合体水素化物(ia1)(重量平均分子量Mw=48,200;分子量分布Mw/Mn=1.04;主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率≒100%)を製造した。さらに、国際公開第2014/077267号の参考例1に記載された方法に従って、前記のトリブロック共重合体水素化物(ia1)100部に、ビニルトリメトキシシラン1.8部を結合させて、トリブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル変性物(ia1-s)のペレットを製造した。
【0205】
サイドフィーダー及び幅400mmのTダイを備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)、並びに、キャストロール及び離形フィルム供給装置を備えたシート引取機を使用し、下記の方法で、ホットメルト層(1)を製造した。
【0206】
アルコキシシリル変性物(ia1-s)を、二軸押出機に供給した。このアルコキシシリル変性物(ia1-s)100部に対して水素化ポリブテン(日油社製「パールリーム(登録商標) 24」)20部の割合となるように、サイドフィーダーから水素化ポリブテンを連続的に供給して、前記のアルコキシシリル変性物(ia1-s)及び水素化ポリブテンを含む溶融樹脂を得た。そして、この溶融樹脂をTダイからキャストロール上に押し出し、フィルム状に成形した。この押し出しは、溶融樹脂温度180℃、Tダイ温度180℃、キャストロール温度40℃の成形条件にて行った。押し出された溶融樹脂はキャストロールによって冷却されて、厚み100μmのホットメルト層(1)を得た。アルコキシシリル変性物(ia1-s)の熱軟化温度は89℃であった。
【0207】
キャストロール上に押し出したホットメルト層(1)の片面に、離形用のPETフィルム(厚さ50μm)を供給し、ホットメルト層(1)とPETフィルムとを重ねてロール状に巻き取り、回収した。これにより、ホットメルト層(1)及びPETフィルムを備える複層フィルムのロールを得た。
【0208】
〔実施例1〕
(1-1.光反射層)
製造例3で得られた顔料(S)を用いて、塗料を調製した。50mm×50mmの矩形の光吸収層(黒色のPETフィルム;以下において同じ)を水平に載置し、その上面に、塗料で模様を描き、乾燥させることにより、顔料(S)の層である光反射層を形成した。これにより、光吸収層と、その上面の一部の領域に設けられた光反射層とを備える複層物を得た。
【0209】
(1-2.識別媒体)
製造例6で得た複層フィルムのロールから複層フィルムを引き出し、50mm×50mmの矩形に裁断し、PETフィルムを剥離して、矩形のホットメルト層(1)を得た。ガラス板(50mm×50mmの矩形、厚さ0.7mm、以下において同じ)を用意した。(1-1)で得た光吸収層及び光反射層の複層物、矩形のホットメルト層(1)、ガラス板及び製造例4で得たパターン状λ/4位相差層を、(光吸収層)/(光反射層)/(ホットメルト層(1))/(ガラス板)/(ホットメルト層(1))/(ホットメルト層(1))/(パターン状λ/4位相差層)/(ホットメルト層(1))/(ホットメルト層(1))/(ガラス板)の順に重ね、堆積物とした。堆積物を真空包装パックに入れて、真空包装し、包装物を得た。包装物をオートクレーブ装置に入れて、加熱加圧条件下におくことにより、堆積物を構成する各層の貼合を実施した。貼合条件は、100℃、0.8MPa及び15分間とした。かかる貼合により、ホットメルト層(1)で各層が貼合された識別媒体を得た。得られた識別媒体においては、パターン状λ/4位相差層の上下に位置するホットメルト層(1)が溶融し、ホットメルト層を構成する熱可塑性樹脂が孔に充填された状態となっていた。
【0210】
(1-3.観察)
観察者が、識別媒体を、水平に載置された状態を維持して、方位角を360°回転させ、垂直方向から観察を行った。観察としては、裸眼での観察及び偏光サングラスの直線偏光子を介した観察の両方を行った。観察は、蛍光灯を光源とした明るい室内において行った。
【0211】
裸眼での観察では、表示面内において、顔料(S)の反射による銀色、及び顔料(S)による模様が付されていない部分における光吸収層の黒色が視認された。パターン状λ/4位相差層は、透明の部材として視認され、孔の形状は視認されなかった。パターン状位相差層の存在する部分と、孔の部分との明るさの差は視認されず、それは回転に応じても変化しなかった。
【0212】
一方、偏光サングラスを介した観察では、光反射層とパターン状λ/4位相差層とが重なっている部分において、パターン状λ/4位相差層の形状が視認された。パターン状λ/4位相差層の存在する部分と、孔の部分との、光反射層からの光の反射による明るさの差は、回転に応じて変化した。加えて、顔料(S)により自由に模様を描くことができたため、高い意匠的自由度が得られた。
【0213】
〔実施例2〕
ホットメルト層(1)に代わるホットメルト層として、ホットメルト層(2)(倉敷紡績株式会社、商品名:Kuran Seal GL、厚み400μm、熱軟化温度83℃)を用意し、50mm×50mmの矩形に裁断した。
実施例1の(1-1)で得た光吸収層及び光反射層の複層物、ホットメルト層(2)、ガラス板及び製造例4で得たパターン状λ/4位相差層を、(光吸収層)/(光反射層)/(ホットメルト層(2))/(ガラス板)/(ホットメルト層(2))/(パターン状λ/4位相差層)/(ホットメルト層(2))/(ガラス板)の順に重ね、堆積物とした。堆積物を真空包装パックに入れて、真空包装し、包装物を得た。包装物をオートクレーブ装置に入れて、加熱加圧条件下におくことにより、堆積物を構成する各層の貼合を実施した。貼合条件は、100℃、0.8MPa及び15分間とした。かかる貼合により、ホットメルト層(2)で各層が貼合された識別媒体を得た。得られた識別媒体においては、パターン状λ/4位相差層の上下に位置するホットメルト層(2)が溶融し、ホットメルト層を構成する熱可塑性樹脂が孔に充填された状態となっていた。得られた識別媒体を、実施例1の(1-3)と同じ操作により観察し評価した。
【0214】
裸眼での観察では、表示面内において、顔料(S)の反射による銀色、及び顔料(S)による模様が付されていない部分における光吸収層の黒色が視認された。パターン状λ/4位相差層は、透明の部材として視認され、孔の形状は視認されなかった。パターン状λ/4位相差層の存在する部分と、孔の部分との明るさの差は視認されず、それは回転に応じても変化しなかった。
【0215】
一方、偏光サングラスを介した観察では、光反射層とパターン状λ/4位相差層とが重なっている部分において、パターン状λ/4位相差層の形状が視認された。パターン状λ/4位相差層の存在する部分と、孔の部分との、光反射層からの光の反射による明るさの差は、回転に応じて変化した。加えて、顔料(S)により自由に模様を描くことができたため、高い意匠的自由度が得られた。
【0216】
〔実施例3〕
(3-1.光反射層)
顔料(S)に代えて、製造例3で得られた顔料(G)を用いた他は、実施例1の(1-1)と同じ操作により光反射層を形成し、光吸収層と、その上面の一部の領域に設けられた光反射層とを備える複層物を得た。
【0217】
(3-2.識別媒体)
製造例6で得た複層フィルムのロールから複層フィルムを引き出し、50mm×50mmの矩形に裁断し、PETフィルムを剥離して、矩形のホットメルト層(1)を得た。(3-1)で得た光吸収層及び光反射層の複層物、矩形のホットメルト層(1)、ガラス板、矩形のλ/4位相差層(製造例4における孔を形成する前の状態のもの)、及び製造例5で得たパターン状λ/2位相差層を、(光吸収層)/(光反射層)/(ホットメルト層(1))/(ガラス板)/(ホットメルト層(1))/(ホットメルト層(1))/(矩形のλ/4位相差層)/(ホットメルト層(1))/(ホットメルト層(1))/(パターン状λ/2位相差層)/(ホットメルト層(1))/(ホットメルト層(1))/(ガラス板)の順に重ね、堆積物とした。堆積物を真空包装パックに入れて、真空包装し、包装物を得た。包装物をオートクレーブ装置に入れて、加熱加圧条件下におくことにより、堆積物を構成する各層の貼合を実施した。貼合条件は、100℃、0.8MPa及び15分間とした。かかる貼合により、ホットメルト層(1)で各層が貼合された識別媒体を得た。得られた識別媒体においては、パターン状λ/2位相差層の上下に位置するホットメルト層(1)が溶融し、ホットメルト層を構成する熱可塑性樹脂が孔に充填された状態となっていた。得られた識別媒体を、実施例1の(1-3)と同じ操作により観察し評価した。
【0218】
裸眼での観察では、表示面内において、顔料(G)の反射による緑色、及び顔料(G)による模様が付されていない部分における光吸収層の黒色が視認された。パターン状λ/2位相差層は、透明の部材として視認され、孔の形状は視認されなかった。パターン状λ/2位相差層の存在する部分と、孔の部分との明るさの差は視認されず、それは回転に応じても変化しなかった。
【0219】
一方、偏光サングラスを介した観察では、光反射層とパターン状λ/2位相差層とが重なっている部分において、パターン状λ/2位相差層の形状が、実施例1~2よりもさらに明瞭に視認された。パターン状λ/2位相差層の存在する部分と、孔の部分との、光反射層からの光の反射による明るさの差は、回転に応じて変化した。加えて、顔料(G)により自由に模様を描くことができたため、高い意匠的自由度が得られた。
【0220】
〔実施例4〕
(4-1.光反射層)
顔料(S)に代えて、製造例3で得られた顔料(R)及び顔料(B)を混合して用い、マゼンダ色の塗料を調製した他は、実施例1の(1-1)と同じ操作により、光反射層を得た。
【0221】
(4-2.識別媒体)
光吸収層及び光反射層の複層物として、(1-1)で得たものに代えて(4-1)で得たものを用いた他は、実施例1の(1-2)以降と同じ操作により、識別媒体を得て観察を行った。得られた識別媒体においては、パターン状λ/4位相差層の上下に位置するホットメルト層(1)が溶融し、ホットメルト層を構成する熱可塑性樹脂が孔に充填された状態となっていた。
【0222】
裸眼での観察では、表示面内において、顔料(R)と顔料(B)の混色によるマゼンダ色、及び顔料による模様が付されていない部分における光吸収層の黒色が視認された。パターン状λ/4位相差層は、透明の部材として視認され、孔の形状は視認されなかった。パターン状λ/4位相差層の存在する部分と、孔の部分との明るさの差は視認されず、それは回転に応じても変化しなかった。
【0223】
一方、偏光サングラスを介した観察では、光反射層とパターン状λ/4位相差層とが重なっている部分において、パターン状λ/4位相差層の形状が視認された。パターン状λ/4位相差層の存在する部分と、孔の部分との、光反射層からの光の反射による明るさの差は、回転に応じて変化した。加えて、顔料により自由に模様を描くことができたため、高い意匠的自由度が得られた。
【0224】
〔比較例1〕
実施例1の(1-1)で得た複層物の光反射層側の表面に、製造例4で得たパターン状λ/4位相差層を接着剤を介して貼合し、積層物を得た。
【0225】
この積層物を、パターン状λ/4位相差層側の面を上に向けて水平に載置し、その上に、アクリル樹脂液(市販の紫外線硬化型アクリル樹脂液)を注ぎ、樹脂液を層状に盛り付けた。紫外線発光LEDにより樹脂液に紫外線を2分間照射し、樹脂液を硬化させた。これにより、光吸収層、光反射層及びパターン状λ/4位相差層を、アクリル樹脂中に包埋された状態で備える識別媒体を得た。得られた識別媒体を、実施例1の(1-3)と同じ操作により観察し評価した。
【0226】
裸眼での観察では、表示面内において、顔料(S)の反射による銀色、及び顔料(S)による模様が付されていない部分における光吸収層の黒色が視認された。パターン状λ/4位相差層は、概ね透明の部材として視認されたが、パターン状λ/4位相差層と孔との境界の形状が明瞭に視認された。
【符号の説明】
【0227】
100:識別媒体
110:複層物
111:光吸収層
112(R):光反射層
120:パターン状位相差層
121:孔
129:空洞
131:熱可塑性樹脂層
132:熱可塑性樹脂層
132F:突出部
133:熱可塑性樹脂層
133F:突出部
139:界面
141:ガラス板
142:ガラス板
142U:ガラス板の上側の面
150:位相差層
160:パターン状位相差層
200:堆積物
232:熱可塑性樹脂層(A)原反
233:熱可塑性樹脂層(B)原反
300:樹脂-位相差層複合体
400:識別媒体
432:熱可塑性樹脂層
433:熱可塑性樹脂層
434:熱可塑性樹脂層
500:識別媒体
533:熱可塑性樹脂層
A120(Xy):矢印
D120:パターン状位相差層の厚み
D132:熱可塑性樹脂層(A)の厚み
D133:熱可塑性樹脂層(B)の厚み
R11:領域
R12:領域
R41:領域
R42:領域
R51:領域
R52:領域
R53:領域
R54:領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7