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特許7552498誘導加熱コイル及びこれを用いた単結晶製造装置及び単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル及びこれを用いた単結晶製造装置及び単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 13/20 20060101AFI20240910BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20240910BHJP
   H05B 6/36 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C30B13/20
C30B29/06 501A
H05B6/36 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021083852
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177529
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】松島 直輝
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105154967(CN,A)
【文献】特公平06-002636(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 13/20
C30B 29/06
H05B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FZ法による単結晶の製造において原料ロッドを加熱する誘導加熱コイルであって、
中央に開口部を有する円環状のコイル導体と、
前記開口部から半径方向に延在して前記コイル導体の一方の端部と他方の端部とを分離するスリットと、
前記コイル導体の上面に形成された半径方向の段差とを備え、
前記コイル導体の前記上面は、前記開口部を取り囲むように前記段差が平面視で円弧状に設けられた段差形成領域と、前記段差が設けられていない段差非形成領域とを有し、
前記段差非形成領域は、前記スリットに隣接するスリット近傍領域を含み、
前記段差形成領域は、前記段差非形成領域よりも前記スリットから離れた領域であり、
前記段差は、前記原料ロッドの直胴部の外周端の近傍であって前記外周端よりも半径方向の内側に設けられており、
前記原料ロッドの半径と前記段差の半径との差は2mm以上8mm以下であることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記段差の高さは0.5mm以上1.5mm以下である、請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記段差非形成領域は、前記スリットの両側に広がる中心角が45度以上90度以下の扇状の領域である、請求項1又は2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記コイル導体の前記一方の端部側に設けられた前記段差非形成領域の広さと前記他方の端部側に設けられた前記段差非形成領域の広さが異なる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
FZ法による単結晶の製造において原料ロッドを加熱する誘導加熱コイルであって、
中央に開口部を有する円環状のコイル導体と、
前記開口部から半径方向に延在して前記コイル導体の一方の端部と他方の端部とを分離するスリットと、
前記コイル導体の上面に形成された半径方向の段差とを備え、
前記コイル導体の前記上面は、前記開口部を取り囲むように前記段差が平面視で円弧状に設けられた段差形成領域と、前記段差が設けられていない段差非形成領域とを有し、
前記段差非形成領域は、前記スリットに隣接するスリット近傍領域を含み、
前記段差形成領域は、前記段差非形成領域よりも前記スリットから離れた領域であり、
前記段差は、前記原料ロッドの直胴部の外周端の近傍であって前記外周端よりも半径方向の内側に設けられており、
前記コイル導体の前記一方の端部側に設けられた前記段差非形成領域の広さと前記他方の端部側に設けられた前記段差非形成領域の広さが異なることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項6】
前記段差の高さは0.5mm以上1.5mm以下である、請求項5に記載の誘導加熱コイル。
【請求項7】
前記段差非形成領域は、前記スリットの両側に広がる中心角が45度以上90度以下の扇状の領域である、請求項5又は6に記載の誘導加熱コイル。
【請求項8】
FZ法による単結晶の製造に用いられる単結晶製造装置であって、
前記原料ロッドを回転可能及び昇降可能に支持する上軸と、
前記上軸の下方に配置され、種結晶を回転可能及び昇降可能に支持する下軸と、
前記原料ロッドを加熱する請求項1乃至7のいずれか一項に記載の誘導加熱コイルとを備えることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の誘導加熱コイルを使用して、FZ法により単結晶を製造することを特徴とする単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ法(Floating Zone法)による単結晶の製造に用いられる誘導加熱コイル及びこれを用いた単結晶製造装置及び単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造方法としてFZ法が知られている。FZ法は、多結晶シリコンからなる原料ロッドの一部を加熱して溶融帯を生成し、溶融帯の上方及び下方にそれぞれ位置する原料ロッド及び種結晶を徐々に降下させることにより、種結晶の上方に大きな単結晶を成長させる方法である。FZ法ではCZ法(Czochralski法)のように石英ルツボを使用しないため、酸素濃度が低い単結晶を製造することができる。
【0003】
FZ法において多結晶シリコン原料の加熱には誘導加熱方式が用いられる。誘導加熱コイルに高周波電流を流したときに発生する磁界をシリコン原料に印加したとき、シリコン原料中には電磁誘導によって渦電流が流れ、渦電流によるジュール熱が発生する。誘導加熱方式ではこのジュール熱を利用してシリコン原料を加熱する。
【0004】
誘導加熱コイルを用いてシリコン原料を加熱する方法に関し、例えば特許文献1には、誘導加熱コイルの裏面側において、スリットを中心とした20度以上80度以下の領域の形状を平坦とし、それ以外の領域には中心から外周に向けて厚くなるテーパー形状を設けることが記載されている。
【0005】
また特許文献2には、主誘導加熱コイルと原料及び/又は単結晶の間であって、主コイルの電極(スリット)とは反対側に副誘導加熱コイルを設置し、浮遊帯域の状態を確認しながら副誘導加熱コイルの位置を移動させることにより、有転位化の発生に影響を与え得る浮遊帯域の状態を調整することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、誘導加熱コイルの上下いずれかまたは両方にハロゲンランプヒーターによる補助加熱ヒーターを原料または単結晶を囲むように配置することが記載されている。補助加熱ヒーターによれば、原料を効率的に加熱することが可能である。しかし、ハロゲンランプヒーターによる加熱では誘導加熱コイルも同時に加熱してしまうため、コイルに流れる冷却水の冷却限界を超え、冷却水の沸騰によりコイルが破裂するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-168345号公報
【文献】特開2015-218076号公報
【文献】特開2016-141612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
FZ法では単結晶の歩留まり向上のため原料ロッドの大口径化が求められている。しかしながら、原料ロッドの直径が大きくなると、原料ロッドの周方向全体を均一に加熱することが困難となり、原料の融解量が局所的に増える部位が発生することで、原料ロッドの融解面の周方向の高さばらつきが大きくなり、この不均一な融解面が最終的にコイル面と接触することにより、製造工程の中止を余儀なくされていた。
【0009】
したがって、本発明の目的は、原料ロッドの融解面の高さばらつきを抑えて単結晶を安定的に製造することが可能な誘導加熱コイル及びこれを用いた単結晶製造装置及び単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による誘導加熱コイルは、FZ法による単結晶の製造において原料ロッドを加熱する誘導加熱コイルであって、中央に開口部を有する円環状のコイル導体と、前記開口部から半径方向に延在して前記コイル導体の一方の端部と他方の端部とを分離するスリットと、前記コイル導体の上面に形成された半径方向の段差とを備え、前記コイル導体の前記上面は、前記開口部を取り囲むように前記段差が平面視で円弧状に設けられた段差形成領域と、前記段差が設けられていない段差非形成領域とを有し、前記段差非形成領域は、前記スリットに隣接するスリット近傍領域を含み、前記段差形成領域は、前記段差非形成領域よりも前記スリットから離れた領域であり、前記段差は、前記原料ロッドの直胴部の外周端の近傍であって前記外周端よりも半径方向の内側に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による単結晶製造装置は、FZ法による単結晶の製造に用いられる単結晶製造装置であって、原料ロッドを回転可能及び昇降可能に支持する上軸と、前記上軸の下方に配置され、種結晶を回転可能及び昇降可能に支持する下軸と、前記原料ロッドを加熱する誘導加熱コイルとを備え、前記誘導加熱コイルが上記特徴を備えることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、本発明による単結晶の製造方法は、上記特徴を備える誘導加熱コイルを使用して、FZ法により単結晶を製造することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、スリット近傍領域とスリット遠方領域との間の加熱量のばらつきを小さくして原料ロッドの外周部の周方向全体を均一に加熱することができる。したがって、原料ロッドの融解面の高さばらつきを抑えて単結晶を安定的に育成することができる。
【0014】
本発明において、前記原料ロッドの半径(r)と前記段差の半径(r)との差(Δr=r-r)は2mm以上8mm以下であることが好ましい。原料ロッドと段差との半径差が2~8mmの範囲内であれば、原料ロッドの外周部の周方向全体を均一に加熱することができる。
【0015】
本発明において、前記段差の高さ(h)は0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。段差の高さが0.5~1.5mmの範囲内であれば、段差形成領域付近の電流密度を高めて適切な発熱量の増加をもたらすことができる。
【0016】
本発明において、前記段差非形成領域は、前記スリットの両側に広がる中心角が45度以上90度以下の略扇状の領域であることが好ましい。この場合において、前記コイル導体の前記一方の端部側に設けられた前記段差非形成領域の広さと前記他方の端部側に設けられた前記段差非形成領域の広さは均等であってもよく、異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原料ロッドの融解面の高さばらつきを抑えて単結晶を安定的に製造することが可能な誘導加熱コイル及びこれを用いた単結晶製造装置及び単結晶の製造方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す模式図である。
図2図2(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態による誘導加熱コイルの構成を示す図であって、(a)は略上面図、(b)は(a)のX-X'線に沿った略断面図である。
図3図3は、誘導加熱コイル内の電流の流れを説明する図である。
図4図4(a)及び(b)は、従来の誘導加熱コイルを用いて加熱したときの原料ロッドの発熱量分布のシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は半径方向の発熱量分布、(b)は周方向の発熱量分布を示している。
図5図5(a)~(e)は、誘導加熱コイルの上面の段差形状有無と発熱量との関係を説明する図である。
図6図6(a)及び(b)は、本実施形態による誘導加熱コイルを用いて加熱したときの原料ロッドの発熱量分布のシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は半径方向の発熱量分布、(b)は周方向の発熱量分布を示している。
図7】本発明の第2の実施の形態による誘導加熱コイルの構成を示す略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す模式図である。
【0021】
図1に示すように、この単結晶製造装置1は、FZ法によりシリコン単結晶を育成するための装置であって、原料ロッド2、種結晶3及び種結晶3上に成長するシリコン単結晶4が収容される反応炉10と、原料ロッド2を回転可能及び昇降可能に支持する上軸11と、種結晶3及びシリコン単結晶4を回転可能及び昇降可能に支持する下軸12と、原料ロッド2の下端部を加熱する誘導加熱コイル20と、結晶成長が進んで大型化したシリコン単結晶4のテーパー部4aに当接してシリコン単結晶4の重量を支える単結晶重量保持具14と、原料ロッド2とシリコン単結晶4との間の溶融帯5(溶融シリコン)にドープガスを供給するガスドープ装置15とを備えている。
【0022】
原料ロッド2はモノシランやトリクロロシラン等のシリコン原料を精製して得られた高純度多結晶シリコンからなり、原料ロッド2の上端部は原料保持具16を介して上軸11の下端部に取り付けられている。種結晶3の下端部は種結晶保持具17を介して下軸12の上端部に取り付けられている。上軸11及び下軸12は、図示しない駆動機構によってそれぞれ回転及び昇降駆動される。
【0023】
通常、FZ法により育成されるシリコン単結晶4の直径Rは原料ロッド2の直径Rよりも大きい。例えば、直径R=200mmのシリコン単結晶4を育成する場合、直径R=150~160mmの原料ロッド2が好ましく使用される。なおシリコン単結晶4の直径Rとはシリコン単結晶4の直胴部4bの直径であって、シリコン単結晶4の最大直径である。また原料ロッド2の直径Rも、原料ロッド2の直胴部の直径であって、原料ロッド2の最大直径である。
【0024】
誘導加熱コイル20は、溶融帯5又は原料ロッド2を取り囲む略1ターンの高周波コイルであり、図示しない高周波発振器に接続されている。誘導加熱コイル20は主に銅又は銀からなることが好ましい。誘導加熱コイル20に高周波電流を流すことにより、原料ロッド2の下端部は誘導加熱されて溶融帯5が生成される。こうして生成された溶融帯5に種結晶3を融着させた後、原料ロッド2及びシリコン単結晶4を回転させながら下降させることにより、溶融帯5からシリコン単結晶4を成長させることができる。
【0025】
図2(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態による誘導加熱コイル20の構成を示す図であって、(a)は略上面図、(b)は(a)のX-X'線に沿った略断面図である。
【0026】
図2(a)及び(b)に示すように、誘導加熱コイル20は、略扁平円環状のコイル導体21と、コイル導体21の中央に設けられた開口部22と、開口部22から外周端に向かって半径方向に延在してコイル導体21の一方の端部と他方の端部とを分離するスリット23と、コイル導体21の一方及び他方の端部にそれぞれ接続された一対の端子電極24A,24Bとを備えている。コイル導体21は、一対の端子電極24A,24Bを介して高周波発振器に接続されている。
【0027】
通常、コイル導体21の外径Raは原料ロッド2の直径R=2×rよりも大きく、コイル導体21の内径Rb(開口部22の直径)は原料ロッド2の直径Rよりも小さい。例えば直径R=160mmの原料ロッド2を使用する場合、コイル導体21の外径Raは160mmよりも大きく、コイル導体21の内径Rbは160mmよりも小さい。
【0028】
コイル導体21の上面21Aは内周側から外周側に向かって上りの傾斜面であってもよく、水平面であってもよい。コイル導体21の下面21Bは内周側から外周側に向かって下りの傾斜面であることが好ましいが、水平面であってもよい。
【0029】
コイル導体21の上面21Aには原料ロッド2の半径に応じた半径を持つ段差25が設けられている。段差25よりも半径方向の内側の領域は下段面26Aであり、外側の領域は下段面26Aよりも高い上段面26Bである。コイル導体21の下面21Bの形状は特に限定されず、段差のない平坦面であってもよい。
【0030】
図2(a)に示すように、段差25は、開口部22を取り囲むように平面視で円弧状に形成されており、特に原料ロッド2の直胴部の外周端2eよりも半径方向の内側に設けられている。原料ロッド2の直胴部の半径をrとし、段差25の半径をrとするとき、rとrとの差Δr=r-rは2mm以上8mm以下であることが好ましい。段差25の位置が原料ロッド2の外周端2eに近すぎるか、或いは原料ロッド2の外周端2eよりも外側にある場合には発熱量を補う効果が小さく、段差25が原料ロッド2の内周側過ぎる場合には発熱量の極小位置への影響が小さいからである。
【0031】
例えば、直径160mmの原料ロッド2を使用する場合、段差25は、コイル導体21の中心から半径方向に72~78mmの範囲内に設けられる。また、直径150mmの原料ロッド2を使用する場合、段差25は、コイル導体21の中心から半径方向に67~73mmの範囲内に設けられる。コイル導体21の中心から半径方向に72~73mmの範囲内に段差25を設ける場合には、直径150~160mmの原料ロッド2に広く対応することができる。
【0032】
段差25の高さhは0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。段差25の高さhが低すぎる場合には段差25の効果が見られず、また段差25の高さhが高すぎる場合にも段差25の形成位置付近の電流密度を高める効果が逆に弱くなるからである。
【0033】
段差25は、コイル導体21の上面21Aのうちスリット近傍領域27Aを除いたコイル導体21の周方向の全体に設けられており、スリット近傍領域27Aには設けられていない。ここで、スリット近傍領域27Aは、スリット23の両側に広がる中心角θが45度以上90度以下(±22.5度以上±45度以下)の扇状の領域として定義される。
【0034】
図2(a)に示すように、平面視で円弧状の段差25の終端部は、コイル導体21の外周端まで引き出されて終端される。この段差25の半径方向に延在する部分は、原料ロッド2の加熱分布の調整に寄与する部分ではないため、段差面は緩やかに傾斜していてもよい。
【0035】
コイル導体21の上面21Aは、スリット23に隣接するスリット近傍領域27Aと、スリット近傍領域27Aよりもスリット23から離れた領域であるスリット遠方領域27Bに大別され、段差25はスリット遠方領域27Bに設けられる。すなわち、開口部22を取り囲むように段差25が設けられた段差形成領域28は、スリット遠方領域27Bに設けられている。また、スリット近傍領域27Aは、段差25のない段差非形成領域29を構成している。段差形成領域28は下段面26Aと上段面26Bからなるのに対し、段差非形成領域29は下段面26Aのみからなり、全面が平坦面である。
【0036】
図3の矢印で示すように、誘導加熱コイル20に流れる電流は、一対の端子電極24A,24B間の距離が最短となる経路を流れる。そのため、スリット近傍領域27Aでは電流密度が高くなり、発熱量が多くなる。一方、スリット遠方領域27Bでは、電流はコイル導体21の内周端(開口部22)の近傍を多く流れるため、原料ロッド2の外周端近傍での発熱量は少ない。そのため原料ロッド2の外周部では周方向の加熱が不均一となり、周方向に均一に原料ロッド2を融解させることが困難である。
【0037】
しかし、スリット近傍領域27Aを除いたコイル導体21の上面21Aに半径方向の段差25を設けた場合には、段差25の形成位置付近の電流密度を高めて発熱量を増やすことができ、これにより原料ロッド2の外周部を周方向に均一に加熱することができる。したがって、融解面の一部の垂れ下がりを防止することができる。
【0038】
図4(a)及び(b)は、従来の誘導加熱コイルを用いて加熱したときの原料ロッドの発熱量分布のシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は半径方向の発熱量分布、(b)は周方向の発熱量分布を示している。
【0039】
図4(a)に示すように、誘導加熱コイル20のスリットと反対側(0度の位置)で加熱されるときには発熱量の半径方向のばらつきは小さいが、スリット側(180度の位置)で加熱されるときには、半径方向の内側と外側の発熱量の差が非常に大きくなることが分かる。また図4(b)に示すように、誘導加熱コイルの周方向の発熱量分布は、スリット近傍において最大となり、スリットの反対側の位置ではスリット近傍よりも少なくなる。
【0040】
このように、原料ロッドの発熱量分布は周方向に均一でないため、原料ロッドを周方向に均一に融解できず、融解面の一部が垂れ下がった状態となったり、つらら状の溶け残りが発生したりすることで、誘導加熱コイル20との接触や放電の危険がある。
【0041】
そこで本実施形態では、原料ロッド2の外周部近傍の直下に位置する誘導加熱コイルの上面に段差を設ける。誘導加熱コイルの上面に段差があれば、段差の側面に電流が流れ、段差25の形成位置付近の電流密度が高くなるため、段差の周囲では加熱効果が高まる。ただし、スリット近傍領域27Aでは発熱効果を増やしたくないため、段差は設けられていない。そのため、図2に示すようなコイル形状となる。
【0042】
図5(a)~(e)は、誘導加熱コイル20の上面21Aの段差形状と発熱量との関係を説明する図である。
【0043】
図5(a)は、原料ロッド2と誘導加熱コイル20との位置関係を示しており、図5(b)~(d)は、図5(a)の破線Eで囲んだ原料ロッド2の外周部付近におけるコイルの形状を拡大して示したものである。図5(b)の形状1は、コイルの上面が平坦且つ原料ロッドとの距離が遠い場合、図5(c)の形状2は、コイルの上面が平坦且つ原料ロッドとの距離が近い場合、図5(d)の形状3は、コイルの上面に段差が設けられている場合である。さらに図5(e)は、図5(b)~(d)に示した形状1~3のコイルを使用したときの原料ロッド2の径方向の発熱量分布を示すグラフであり、横軸は原料ロッドの中心からの距離(mm)、縦軸は発熱量(規格値)を示している。
【0044】
図5(b)及び(c)のようにコイルの上面が平坦である場合、原料ロッドの外周部近傍における径方向の発熱量分布は原料ロッドの外周端(80mm)よりも少し内側の75mmの位置で極小となる。そして、図5(b)のように原料ロッドとコイルの上面との距離が遠い形状1の場合にはそのような発熱量分布が全体的に低くなり、図5(c)のように原料ロッドとコイルの上面との距離が近い形状2の場合にはそのような発熱量分布が全体的に高くなる。そのため、原料ロッドに対するコイル上面の距離を変えても発熱量のばらつきを小さくすることができない。
【0045】
しかし、図5(d)の形状3のように、発熱量が極小となる75mmの位置に段差を設けた場合には、当該位置での発熱量が局所的に増加するので、図5(e)に示すように発熱量分布の偏差を小さくすることができる。
【0046】
図6(a)及び(b)は、本実施形態による誘導加熱コイルを用いて加熱したときの原料ロッドの発熱量分布のシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は半径方向の発熱量分布、(b)は周方向の発熱量分布を示している。
【0047】
図6(a)と図4(a)との比較から明らかなように、本実施形態による誘導加熱コイル20を用いた場合、スリット側(180度の位置)で加熱したときの半径方向の内側と外側の発熱量の差が小さくなっていることが分かる。また図6(b)と図4(b)との比較から明らかなように、誘導加熱コイルの周方向の発熱量分布は、スリットの両側における急峻なピークが抑制され、発熱量のばらつきが小さくなることが分かる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態による誘導加熱コイル20は、コイル導体21の上面21Aのスリット近傍を除いた領域に半径方向の段差25が設けられており、段差25の径方向の位置は、原料ロッド2の外周端よりも少し内側に設定されているので、原料ロッド2の周方向の発熱量分布を均一にすることができる。したがって、原料ロッドの融解面の周方向の高さばらつきを小さくすることができ、単結晶の無転位成功率を向上させることができる。
【0049】
図7は、本発明の第2の実施の形態による誘導加熱コイルの構成を示す略上面図である。
【0050】
図7に示すように、本実施形態による誘導加熱コイル20の特徴は、スリット23の近傍に設けられた段差非形成領域29がスリット23を中心に左右非対称に形成されている点にある。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。本実施形態では、コイル導体21の一方の端部側(第1の端子電極24A側)に広がる段差非形成領域29のほうが、他方の端部側(第2の端子電極24B側)に広がる段差非形成領域29よりも広く設定されているが、逆に設定することも可能である。
【0051】
図6(b)に示したように、コイル導体21の上面21Aのスリット近傍を除いた領域に半径方向の段差25を設けた場合には、周方向の発熱分布を改善することができるが、スリット近傍での発熱量は未だに大きい状態である。しかし、図7に示すように、スリットよりも原料ロッドの回転方向の上流側の段差非形成領域29を狭くした場合には、スリットよりも上流側のスリット近傍領域において原料の融解量を多くすることができる。その結果、上流側と下流側で段差非形成領域29の広さが同じ場合と比べて、スリット近傍での発熱量を少なくすることができる。したがって、スリット近傍で原料が過度に融解されてしまうことを回避することができる。
【0052】
このように、本実施形態による誘導加熱コイル20は、スリット23の両側に広がる段差非形成領域29の広さが左右非対称であるが、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0054】
例えば、上記実施形態においては、一段の段差を設けているが、二段以上の段差を設けることも可能である。また下りの段差と上りの段差との組み合わせからなる溝や突起を設けることも可能である。
【0055】
また上記実施形態ではシリコン単結晶を製造する場合について説明したが、本発明は、FZ法により製造される種々の単結晶の製造に採用することができる。
【実施例
【0056】
FZ法によるシリコン単結晶の製造歩留まりの向上を目的としてコイル形状の検討を行った。シリコン単結晶の育成に用いる原料ロッドは直径160mmのシリコン多結晶を用い、直径200mmのシリコン単結晶の育成を行った。
【0057】
<コイルの段差の高さの検討>
誘導加熱コイルの上面に形成する段差の高さhについて検討を行った。段差はコイル導体の上面のうちスリット近傍領域を除いた領域に設け、段差の半径方向の位置はコイルの中心から75mmとした。スリットを中心としてその両側に広がる中心角が60度(±30度)の扇状の領域をスリット近傍領域とし、このスリット近傍領域を段差非形成領域とした。段差の高さhは、0mm(段差なし)、0.5mm、1.0mm、2.0mm、4.0mmの5通りとし、各コイルを用いてそれぞれ5本ずつ結晶育成を試みた。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、従来の段差がない上面がフラットなコイルの無転位成功回数は3回であった。これに対し、段差の高さh=0.5mm、1.0mm、及び1.5mmでは無転位成功回数が4回以上となり、従来の上面がフラットなコイルよりも無転位成功率の向上が見られた。特に、段差の高さh=1.0mmでは無転位成功回数が5回となり、最も良い結果となった。
【0060】
一方、段差の高さh=2.0mmでは無転位成功回数が3回となり、従来の段差のないコイルと変わらない無転位成功回数となった。h=2.0mmのときにはスリットと反対側の位置での原料の融解量が増加し、h=1.0mmと比較すると原料の融け方に周方向の不均一性が見られた。段差の高さh=4.0mmでは原料の融け方の周方向の不均一性がさらに大きくなり、原料とコイルとの接触の危険性から育成工程を中止し、2回の育成で打ち切りとした。そのため、無転位成功回数は0回となった。
【0061】
以上の結果から、段差の高さhは0.5~1.5mmの範囲内が良く、1.0mmが望ましいことが分かった。
【0062】
<段差非形成領域の広さの検討>
スリットの近傍に設けられる段差非形成領域の広さについて検討を行った。結晶育成条件は、上述したコイルの段差の高さの検討のときと同一とし、段差の高さh=1.0mmとした。
【0063】
スリットを中心としてその両側に広がる中心角θの扇状の領域を段差非形成領域とした。中心角θは、0度(コイル全周に段差有り)、45度、60度、90度、180度の5通りとし、各コイルを用いてそれぞれ5本ずつ結晶育成を試みた。その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、中心角θ=45度、60度、及び90度では、無転位成功回数が4回以上となり、従来よりも無転位成功率の向上が見られた。特に、中心角θ=60度では無転位成功回数が5回となり、最も良い結果となった。
【0066】
一方、中心角θ=180度では無転位成功回数が3回となり、従来の段差のないコイルと変わらない無転位成功回数となった。中心角θ=0度では無転位成功回数が1回となった。中心角θ=0度、すなわちコイル全周に段差を設けた場合には、スリット近傍での発熱量の多さが強調され、原料の不安定な融解が見られた。
【0067】
<コイルの段差の径方向の位置の検討(原料直径160mm)>
直径160mmの原料ロッドに対して好適な段差の径方向の形成位置について検討を行った。上記結果から、段差の高さh=1.0mmとし、段差非形成領域の中心角θを60度とした。
【0068】
コイル導体の中心から段差の形成位置までの半径方向の距離L、すなわち円弧状の段差の半径r図2(a)参照)を70mm、72mm、75mm、78mm、80mm、82mmの6通りとし、それぞれ5本ずつシリコン単結晶の育成を試みた。原料ロッドの外周端からこれらの段差の形成位置までの距離Lは、-10mm、-8mm、-5mm、-2mm、0mm、+2mmの6通りとし、各コイルを用いてそれぞれ5本ずつ結晶育成を試みた。その結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示すように、段差までの距離Lが72mm、75mm及び78mmの場合、無転位成功回数は4回以上となり、従来よりも無転位成功率の向上が見られた。特に、距離L=75mmでは無転位成功回数が5回となり、最も良い結果となった。
【0071】
一方、段差までの距離Lが80mm及び82mmの場合、無転位成功回数は3回となり、従来の段差のないコイルと変わらない無転位成功回数となった。段差の位置が原料ロッドの外周端と同じかそれよりも外側にある場合、段差の効果は得られなかった。
【0072】
段差までの距離Lが70mmの場合、すなわち原料ロッドの外周端から内側に10mmの位置に段差が設けられている場合も、段差の効果はなく、無転位成功回数は逆に悪化した。これは原料ロッドの外周部ではなく内側に熱が集中して熱分布がさらに悪化したためと考えられる。
【0073】
以上の結果から、段差の径方向の位置は、原料ロッドの外周端から内側に2~8mmの範囲内が良く、5mmが望ましいことが分かった。
【0074】
<コイルの段差の径方向の位置の検討(原料直径150mm)>
直径150mmの原料ロッドに対して好適な段差の径方向の位置についても検討を行った。直径160mmの原料ロッドを用いたときと同様に、段差の高さを1.0mmとし、段差非形成領域の中心角θを60度とした。
【0075】
コイル導体の中心から段差の形成位置までの半径方向の距離Lを65mm、67mm、70mm、73mm、75mmの5通りとし、それぞれ5本ずつのシリコン単結晶の育成を試みた。原料ロッドの外周端からこれらの段差の形成位置までの距離はそれぞれ、-10mm、-8mm、-5mm、-2mm、0mmである。さらに、段差を設けない上面がフラットなコイルについても評価した。その結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示すように、直径150mmの原料ロッドに対して従来の段差がない上面がフラットなコイルを使用したときの無転位成功率は、直径160mmの原料ロッドに対して従来の段差がないコイルを使用したときよりも高くなり、5回中4回(80%)が成功であった。一方、段差の位置が65mmの場合、すなわち原料ロッドの外周端から内側に10mmの位置に段差が設けられている場合、無転位成功回数は3回となり、無転位成功率は悪化した。
【0078】
直径150mmの原料ロッドを用いた場合、無転位成功率が元々高いため、段差の効果が見えにくいが、原料ロッドの外周端から内側に2~8mmの範囲内が良く、5mmのときが最も良いという結果は、直径160mmの原料ロッドを用いたときと同じであった。
【符号の説明】
【0079】
1 単結晶製造装置
2 原料ロッド
2e 原料ロッドの外周端
3 種結晶
4 シリコン単結晶
4a シリコン単結晶のテーパー部
4b シリコン単結晶の直胴部
5 溶融帯
10 反応炉
11 上軸
12 下軸
14 単結晶重量保持具
15 ガスドープ装置
16 原料保持具
17 種結晶保持具
20 誘導加熱コイル
21 コイル導体
21A コイル導体の上面
21B コイル導体の下面
22 開口部
23 スリット
24A 第1の端子電極
4B 第2の端子電極
25 段差
26A 下段面
26B 上段面
27A スリット近傍領域
27B スリット遠方領域
28 段差形成領域
29 段差非形成領域
原料ロッドの直径
シリコン単結晶の直径
Ra コイル導体の外径
Rb コイル導体の内径
原料ロッドの半径
段差の半径
Δr 半径差
θ スリット近傍領域(段差非形成領域)の中心角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7