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特許7552578非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用セパレータおよび非水系二次電池
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  • 特許-非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用セパレータおよび非水系二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用セパレータおよび非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/414 20210101AFI20240910BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M50/414
H01M50/449
H01M50/443 B
H01M50/443 C
H01M50/443 E
H01M50/489
H01M50/443 M
H01M50/434
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021501815
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2020003946
(87)【国際公開番号】W WO2020175025
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019033225
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 一輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 慶一朗
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098203(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043729(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180472(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094252(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/151144(WO,A1)
【文献】特開2017-152268(JP,A)
【文献】特開2014-056813(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131348(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221056(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017066(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152026(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/005145(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状重合体および溶媒を含む非水系二次電池機能層用スラリー組成物であって、
前記非水系二次電池機能層が、多孔膜層および接着層の少なくとも一方であり、
前記粒子状重合体が、コア部および前記コア部の外表面の少なくとも一部を覆うシェル部を備えるコアシェル構造を有し、
そして、前記粒子状重合体は、ガラス転移温度が20℃以上であり、表面酸量が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下であり、
前記コア部が、芳香族モノビニル単量体単位を30質量%以上85質量%未満の割合で含み、ニトリル基含有単量体単位を1質量%以上20質量%以下の割合で含む重合体からなり、
前記シェル部が、芳香族モノビニル単量体単位を85質量%以上99質量%以下の割合で含む重合体からなる、非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項2】
前記粒子状重合体は、
測定用電解液中に72時間浸漬した際の膨潤度が、質量基準で1.0倍以上4.0倍以下であり、
測定用電解液中に240時間浸漬した際の膨潤度が、質量基準で8.0倍以上20倍以下であり、
ここで、前記測定用電解液は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびビニレンカーボネートを、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5の体積比で混合して得られる混合溶媒に、LiPFを1mol/リットルの濃度で溶かした溶液である、
請求項1に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項3】
更に機能層用結着材を含み、前記機能層用結着材のガラス転移温度が20℃未満である、請求項1または2に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項4】
前記機能層用結着材が、芳香族モノビニル単量体単位を含む重合体からなる、請求項に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項5】
セパレータ基材と、請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成される機能層とを備える、非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記セパレータ基材が、非導電性粒子と結着材を含む多孔膜層を備える、請求項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
正極、負極、セパレータおよび電解液を備え、
前記セパレータが、請求項またはに記載の非水系二次電池用セパレータである、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用セパレータおよび非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。
【0003】
ここで、二次電池は、一般に、電極(正極、負極)、および、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータなどの電池部材を備えている。そして、電極および/またはセパレータの表面には、耐熱性および強度を向上させるための多孔膜層や、電池部材間の接着性の向上を目的とした接着層など(以下、これらを総称して「機能層」と称する場合がある。)が設けられることがある。具体的には、集電体上に電極合材層を設けてなる電極基材上にさらに機能層を形成してなる電極や、セパレータ基材上に機能層を形成してなるセパレータが電池部材として使用されている。
例えば、特許文献1では、(メタ)アクリロニトリル単量体単位および架橋性単量体単位をそれぞれ所定の割合で含む粒子状重合体と、結着材とを含むスラリー状の組成物(スラリー組成物)を用いて接着層を形成することが記載されている。そして、特許文献1によれば、粒子状重合体の電解液中における接着性および二次電池の低温出力特性(レート特性)の両方を効果的に高める観点から、粒子状重合体は、イオン伝導性に優れる重合体からなるコア部と、電解液中における接着性に優れる重合体からなるシェル部とで構成されたコアシェル構造を有することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/094252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、二次電池の製造においては、通常、組み立てた二次電池に対し、充電後、所定の温度下において所定時間保存する処理(エージング処理)が施される。このエージング処理においては、電解液および水分の分解によりガス(例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素)が発生することがあり、このようなガスは、二次電池内部に可能な限り残存しないことが求められる。そのため、エージング処理において発生するガスを二次電池外部へ排出するべく、エージング処理後の二次電池の電池容器を一部開封する操作(ガス抜き操作)が、従来から行われている。
【0006】
しかし、上記従来のコアシェル構造を有する粒子状重合体を含むスラリー組成物を用いて機能層を形成しても、当該機能層を備える電池部材を有する二次電池内部には、ガス抜き操作後も上述したガスが多く残存してしまうことがあった。即ち、上記従来の技術には、電解液浸漬後の機能層に優れた接着性を発揮させることや、二次電池に求められる電池特性(特には、レート特性およびサイクル特性)を十分に確保することのみならず、二次電池内部に残存するガスの量を低減することが求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させる一方で二次電池内部に残存するガスの量を低減しうり、且つ電解液浸漬後の接着性に優れる機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させる一方で二次電池内部に残存するガスの量を低減しうり、且つ電解液浸漬後に隣接する電池部材と良好に接着し得る非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
そして、本発明は、レート特性およびサイクル特性に優れると共に、内部に残存するガスの量が低減された非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行い、機能層の形成に用いる、コアシェル構造を有する粒子状重合体の性状に着目した。そして、コアシェル構造を有する粒子状重合体のガラス転移温度が所定の値以上であり、且つ表面酸量が所定の範囲内であれば、当該粒子状重合体を含むスラリー組成物を用いて、電解液浸漬後に優れた接着性を発揮しうる機能層を形成しうり、また、当該機能層によれば、二次電池のレート特性およびサイクル特性の向上、並びに二次電池の内部に残存するガスの量(以下、「残存ガス量」と称する場合がある。)の低減を実現しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、粒子状重合体および溶媒を含む非水系二次電池機能層用スラリー組成物であって、前記粒子状重合体が、コア部および前記コア部の外表面の少なくとも一部を覆うシェル部を備えるコアシェル構造を有し、そして、前記粒子状重合体は、ガラス転移温度が20℃以上であり、表面酸量が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下である、ことを特徴とする。このように、コアシェル構造を有すると共に、ガラス転移温度が上記値以上であり且つ表面酸量が上記範囲内である粒子状重合体を含むスラリー組成物を用いて形成される機能層は、電解液浸漬後に優れた接着性を発揮することができる。そして、当該機能層を有する電池部材を二次電池の作製に用いれば、当該二次電池のレート特性およびサイクル特性を向上させつつ、残存ガス量を低減することができる。
なお、本発明において、「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
また、本発明において、「表面酸量」とは、重合体の表面部分に存在する酸の量であって、重合体の固形分1g当たりの酸量を指す。そして、表面酸量は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0010】
そして、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物において、前記粒子状重合体は、測定用電解液中に72時間浸漬した際の膨潤度が、質量基準で1.0倍以上4.0倍以下であり、測定用電解液中に240時間浸漬した際の膨潤度が、質量基準で8.0倍以上20倍以下であることが好ましい。ここで、前記測定用電解液は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびビニレンカーボネートを、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5の体積比で混合して得られる混合溶媒に、LiPFを1mol/リットルの濃度で溶かした溶液である。上述した所定の測定用電解液中に72時間浸漬した際の膨潤度(以下、「電解液膨潤度(72時間)」と称する場合がある。)と、240時間浸漬した際の膨潤度(以下、「電解液膨潤度(240時間)」と称する場合がある。)の値が、それぞれ上述した範囲内であれば、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させつつ、残存ガス量を一層低減することができる。加えて、二次電池の保存特性を向上させることができる。
なお、本発明において、「膨潤度」は、上述した所定の測定用電解液中に所定時間浸漬させた後の膨潤度合い(質量基準)を意味し、具体的には、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0011】
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物において、前記コア部が、芳香族モノビニル単量体単位を30質量%以上85質量%未満の割合で含む重合体からなり、前記シェル部が、芳香族モノビニル単量体単位を85質量%以上100質量%以下の割合で含む重合体からなることが好ましい。コア部の重合体とシェル部の重合体に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合が、それぞれ上述した範囲内であれば、例えば機能層を備える電池部材を捲き取った状態で保存および運搬する際の、電池部材同士の膠着を抑制することができ(即ち、耐ブロッキング性を高めることができ)、また、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。また、本発明において、重合体に含まれる各単量体単位(各繰り返し単位)の「含有割合(質量%)」は、1H-NMRや13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0012】
また、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、更に機能層用結着材を含み、前記機能層用結着材のガラス転移温度が20℃未満であることが好ましい。スラリー組成物が、上記値未満であるガラス転移温度を有する重合体からなる機能層用結着材を更に含めば、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させつつ、二次電池のレート特性を一層高めることができる。
【0013】
そして、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物において、前記機能層用結着材が、芳香族モノビニル単量体単位を含む重合体からなることが好ましい。機能層用結着材として、芳香族モノビニル単量体単位を含む重合体を用いれば、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに、二次電池のレート特性およびサイクル特性をバランス良く向上させることができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用セパレータは、セパレータ基材と、上述した何れかの非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成される機能層とを備えることを特徴とする。このように、セパレータ基材と、上述した何れかのスラリー組成物から形成される機能層とを備えるセパレータは、機能層を介して、電解液浸漬後に隣接する電池部材(例えば、電極)と良好に接着し得る。そして、当該電池部材を二次電池の作製に用いれば、当該二次電池のレート特性およびサイクル特性を向上させつつ、残存ガス量を低減することができる。
【0015】
そして、本発明の非水系二次電池用セパレータは、前記セパレータ基材として、非導電性粒子と結着材を含む多孔膜層を備えるセパレータ基材を用いてもよい。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレータおよび電解液を備え、前記セパレータが、上述した何れかの非水系二次電池用セパレータであることを特徴とする。このように、上述したセパレータの何れかを備える二次電池は、レート特性およびサイクル特性に優れ、また、残存ガス量が少ない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させる一方で二次電池内部に残存するガスの量を低減しうり、且つ電解液浸漬後の接着性に優れる機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させる一方で二次電池内部に残存するガスの量を低減しうり、且つ電解液浸漬後に隣接する電池部材と良好に接着し得る非水系二次電池用セパレータを提供することができる。
そして、本発明によれば、レート特性およびサイクル特性に優れると共に、内部に残存するガスの量が低減された非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】非水系二次電池機能層用スラリー組成物に含まれている粒子状重合体の一例の構造を模式的に示す断面図である。
図2】重合体の表面酸量を算出する際に作成する塩酸添加量-電気伝導度曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、セパレータまたは電極等の電池部材が備える機能層を調製する際の材料として用いられる。そして、本発明の非水系二次電池用セパレータは、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成された機能層を備える。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用セパレータを備える。
【0020】
(非水系二次電池機能層用スラリー組成物)
本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、粒子状重合体および溶媒を含有し、任意に、機能層用結着材、その他の成分を更に含有しうる。
ここで、本発明のスラリー組成物に含まれる粒子状重合体は、コアシェル構造を有し、ガラス転移温度が20℃以上であり、そして表面酸量が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下であることを特徴とする。
【0021】
そして、本発明のスラリー組成物は、コアシェル構造を有し、ガラス転移温度が20℃以上であり、そして、表面酸量が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下である粒子状重合体を含有するため、当該スラリー組成物から形成される機能層は、電解液浸漬後における接着性に優れ、また、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させると共に、二次電池の内部に残存するガスの量を低減することができる。
【0022】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、上述したように、コアシェル構造を有し、ガラス転移温度が20℃以上であり、そして表面酸量が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下である。
なお、粒子状重合体は、非水溶性であることが好ましい。ここで、本発明において、重合体が「非水溶性」であるとは、温度25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
【0023】
<<コアシェル構造>>
ここで、粒子状重合体は、コア部と、コア部の外表面を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有している。コアシェル構造を有する粒子状重合体を用いることで、電解液浸漬後における機能層の接着性を向上させることができ、また、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性を確保することもできる。
ここで、シェル部は、コア部の外表面を全体的に覆っていても、部分的に覆っていてもよい。なお、外観上、コア部の外表面がシェル部によって完全に覆われているように見える場合であっても、シェル部の内外を連通する孔が形成されていれば、そのシェル部はコア部の外表面を部分的に覆うシェル部である。従って、例えば、シェル部の外表面(即ち、粒子状重合体の周面)からコア部の外表面まで連通する細孔を有するシェル部を備える粒子状重合体は、シェル部がコア部の外表面を部分的に覆う粒子状重合体に該当する。
【0024】
シェル部がコア部の外表面を部分的に覆う場合の粒子状重合体について、その断面構造の一例を図1に示す。図1において、粒子状重合体100は、コア部110およびシェル部120を備えるコアシェル構造を有する。ここで、コア部110は、この粒子状重合体100においてシェル部120よりも内側にある部分である。また、シェル部120は、コア部110の外表面110Sを覆う部分であり、通常は粒子状重合体100において最も外側にある部分である。そして、シェル部120は、コア部110の外表面110Sの全体を覆っているのではなく、コア部110の外表面110Sを部分的に覆っている。
【0025】
なお、粒子状重合体は、所期の効果を著しく損なわない限り、上述したコア部およびシェル部以外に任意の構成要素を備えていてもよい。具体的には、例えば、粒子状重合体は、コア部の内部に、コア部とは別の重合体で形成された部分を有していてもよい。具体例を挙げると、粒子状重合体をシード重合法で製造する場合に用いたシード粒子が、コア部の内部に残留していてもよい。ただし、所期の効果を顕著に発揮する観点からは、粒子状重合体はコア部およびシェル部のみを備えることが好ましい。
【0026】
<<ガラス転移温度>>
粒子状重合体は、ガラス転移温度が、20℃以上であることが必要であり、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、54℃以上であることが更に好ましく、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが更に好ましい。粒子状重合体のガラス転移温度が20℃未満であると、粒子状重合体が熱により溶融し易くなり二次電池内部でフィルム化するためと推察されるが、内部抵抗が上昇して二次電池のレート特性を確保することができない。また、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性も低下する。一方、粒子状重合体のガラス転移温度が150℃以下であれば、二次電池を作製する際のプレス時等における粒子状重合体の変形性が十分確保されるため、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。
なお、粒子状重合体のガラス転移温度は、例えば、粒子状重合体の調製に用いる単量体の種類および割合を変更することにより調整することができる。より具体的には、粒子状重合体の調製に用いる芳香族モノビニル単量体の割合を増加させることで、粒子状重合体のガラス転移温度を高めることができる。
【0027】
<<表面酸量>>
粒子状重合体は、表面酸量が、0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下であることが必要であり、0.08mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.15mmol/g以上であることが更に好ましく、0.40mmol/g以下であることが好ましく、0.30mmol/g以下であることがより好ましい。粒子状重合体の表面酸量を0.05mmol/g以上とすることで、粒子状重合体表面の極性が高まり、エージング処理の際に発生する極性の低いガスと粒子状重合体との相互作用が低下するためと推察されるが、当該ガスがセパレータと電極の間隙(例えば、機能層)に滞留し難い。そのため、ガス抜き操作を経ることで、二次電池の残存ガス量を低減することができる。換言すると、粒子状重合体の表面酸量が0.05mmol/g未満であると、二次電池の残存ガス量を十分に低減することができない。一方、粒子状重合体の表面酸量が0.50mmol/g超であると、粒子状重合体により二次電池内部に持ち込まれる水分量が増加するためと推察されるが、二次電池のサイクル特性が低下する。
なお、粒子状重合体の表面酸量は、例えば、粒子状重合体の調製に用いる単量体の種類および割合を変更することにより調整することができる。より具体的には、粒子状重合体の調製に用いる酸性基含有単量体の割合を増加させたり、酸性基含有単量体としてイタコン酸などの複数の酸性基を有する単量体を用いたりすることで、粒子状重合体の表面酸量を高めることができる。また、粒子状重合体(特には、シェル部の重合体)の調製に用いるニトリル基含有単量体の割合を増加させることで、粒子状重合体の表面酸量を高めることができる。
【0028】
<<電解液膨潤度>>
粒子状重合体は、所定の測定用電解液中に72時間浸漬した際の膨潤度が、1.0倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることが更に好ましく、2.4倍以上であることが特に好ましく、4.0倍以下であることが好ましく、3.5倍以下であることがより好ましく、3.0倍以下であることが更に好ましい。粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)が1.0倍以上であれば、電解液との親和性が十分に確保され、二次電池のレート特性を更に向上させることができる。一方、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)が4.0倍以下であれば、粒子状重合体が電解液中に溶出して粒子形状が過度に損なわれるといったこともなく、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させつつ、二次電池の残存ガス量を一層低減することができる。
また、粒子状重合体は、所定の測定用電解液中に240時間浸漬した際の膨潤度が、8.0倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、20倍以下であることが好ましく、18倍以下であることがより好ましく、15倍以下であることが更に好ましい。粒子状重合体の電解液膨潤度(240時間)が8.0倍以上であれば、粒子状重合体の電解液保液性が高まり、二次電池の保存特性を向上させることができる。一方、電解液膨潤度(240時間)が20倍以下であれば、粒子状重合体の過度な膨潤に起因するフィルム化が抑制され、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0029】
なお、粒子状重合体の電解液膨潤度は、例えば、粒子状重合体の調製に用いる単量体の種類および割合を変更することにより調整することができる。より具体的には、粒子状重合体の調製に用いる架橋性単量体の割合を増加させることで、粒子状重合体の電解液膨潤度を低下させることができる。また、電解液と溶解度パラメーターが(比較的大きく)異なる単量体を使用することでも、粒子状重合体の電解液膨潤度を低下させることができる。
【0030】
<<体積平均粒子径>>
粒子状重合体は、体積平均粒子径が、0.10μm以上であることが好ましく、0.45μm以上であることがより好ましく、0.60μm以上であることが更に好ましく、0.70μm以上であることが特に好ましく、10μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、2.0μm以下であることが更に好ましい。粒子状重合体の体積平均粒子径が0.10μm以上であれば、機能層に微小な間隙が確保され易いためと推察されるが、二次電池の残存ガス量を一層低減することができる。一方、粒子状重合体の体積平均粒子径が10μm以下であれば、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「体積平均粒子径」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。また、粒子状重合体の体積平均粒子径は、例えば、粒子状重合体の調製に用いる単量体の種類および割合を変更すること、および/または粒子状重合体の重合条件(例えば、乳化剤の使用量)を変更することで、調整することができる。
【0031】
<<組成>>
粒子状重合体は、上述したコアシェル構造を備え、そして上述したガラス転移温度および表面酸量を有すれば、コア部とシェル部の組成は特に限定されない。以下に、コア部を形成する重合体およびシェル部を形成する重合体の組成について、例を挙げて説明する。
【0032】
[コア部]
コア部を形成する重合体に含まれる繰り返し単位は、特に限定されないが、芳香族モノビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位、架橋性単量体単位が好ましく挙げられる。なお、コア部の重合体は、単量体単位(繰り返し単位)を1種のみ含んでいてもよく、複数種類含んでいてもよい。
【0033】
―芳香族モノビニル単量体単位―
コア部の重合体の芳香族モノビニル単量体単位を形成しうる芳香族モノビニル単量体としては、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩(例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムなど)、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、4-(tert-ブトキシ)スチレンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、スチレンが好ましい。
【0034】
そして、コア部の重合体中に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合は、コア部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、85質量%未満であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。コア部の重合体中に占める芳香族モノビニル単量体単位の割合が30質量%以上であれば、コア部の重合体のガラス転移温度が高まり、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性を向上させることができる。一方、コア部の重合体中に占める芳香族モノビニル単量体単位の割合が85質量%未満であれば、二次電池を作製する際のプレス時等における粒子状重合体の変形性が十分確保されるため、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。
【0035】
また、コア部の重合体中に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。粒子状重合体中に占めるコア部の芳香族モノビニル単量体単位の割合が20質量%以上であれば、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性を向上させることができる。一方、粒子状重合体中に占めるコア部の芳香族モノビニル単量体単位の割合が60質量%以下であれば、二次電池を作製する際のプレス時等における粒子状重合体の変形性が十分確保されるため、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。
【0036】
―酸性基含有単量体単位―
コア部の重合体の酸性基含有単量体単位を形成しうる酸性基含有単量体としては、カルボン酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、リン酸基含有単量体などを挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
そして、カルボン酸基含有単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E一メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。さらに、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどが挙げられる。
【0038】
スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またメタクリルを意味する。
【0039】
リン酸基含有単量体としては、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0040】
これらの中でも、酸性基含有単量体としては、カルボン酸基含有単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0041】
そして、コア部の重合体中に含まれる酸性基含有単量体単位の割合は、コア部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、7.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが更に好ましい。コア部の重合体中に占める酸性基含有単量体単位の割合が1.0質量%以上であれば、粒子状重合体表面の極性を一層高めて、二次電池の残存ガス量を更に低減することができる。一方、コア部の重合体中に占める酸性基含有単量体単位の割合が7.0質量%以下であれば、粒子状重合体により二次電池内部に持ち込まれる水分量を低減して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0042】
また、コア部の重合体中に含まれる酸性基含有単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましく、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが更に好ましい。粒子状重合体中に占めるコア部の酸性基含有単量体単位の割合が0.5質量%以上であれば、粒子状重合体表面の極性を一層高めて、二次電池の残存ガス量を更に低減することができる。一方、粒子状重合体中に占めるコア部の酸性基含有単量体単位の割合が5.0質量%以下であれば、粒子状重合体により二次電池内部に持ち込まれる水分量を低減して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0043】
―架橋性単量体単位―
コア部の重合体の架橋性単量体単位を形成しうる架橋性単量体としては、特に限定されることなく、重合により架橋構造を形成し得る単量体が挙げられる。架橋性単量体の例としては、通常、熱架橋性を有する単量体が挙げられる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基および1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体;1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体が挙げられる。
【0044】
熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N-メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋および架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0045】
そして、熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つ、オレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o-アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5-エポキシ-2-ペンテン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセンなどのアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル-4-ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル-4-メチル-3-ペンテノエート、3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4-メチル-3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0046】
また、熱架橋性の架橋性基としてN-メチロールアミド基を有し、且つ、オレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N-メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0047】
更に、熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つ、オレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3-((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3-((メタ)アクリロイルオキシメチル)-2-トリフロロメチルオキセタン、3-((メタ)アクリロイルオキシメチル)-2-フェニルオキセタン、2-((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタンおよび2-((メタ)アクリロイルオキシメチル)-4-トリフロロメチルオキセタンが挙げられる。
【0048】
また、熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つ、オレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリンおよび2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンが挙げられる。
【0049】
更に、1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン-トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン-ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミドおよびジビニルベンゼンが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0050】
架橋性単量体は、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体が好ましく、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレートがより好ましく、エチレングリコールジメタクリレートが更に好ましい。
【0051】
そして、コア部の重合体中に含まれる架橋性単量体単位の割合は、コア部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが更に好ましい。コア部の重合体中に占める架橋性単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)を良好に制御して、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0052】
また、コア部の重合体中に含まれる架橋性単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、4.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましい。粒子状重合体中に占めるコア部の架橋性単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)を良好に制御して、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0053】
―その他の単量体単位―
コア部を形成する重合体が、芳香族モノビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位、架橋性単量体単位以外に含み得る単量体単位(その他の単量体単位)としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位が挙げられる。
【0054】
コア部の重合体の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルアクリレートが好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
【0055】
そして、コア部の重合体中に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、コア部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。コア部の重合体中に占める(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の柔軟性を確保しつつ、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)を良好に制御することができる。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0056】
また、コア部の重合体中に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。粒子状重合体中に占めるコア部の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の柔軟性を確保しつつ、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)を良好に制御することができる。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0057】
コア部の重合体のニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0058】
そして、コア部の重合体中に含まれるニトリル基含有単量体単位の割合は、コア部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。コア部の重合体中に占めるニトリル基含有単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の強度を確保しつつ、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)を良好に制御することができる。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0059】
また、コア部の重合体中に含まれるニトリル基含有単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.5質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。粒子状重合体中に占めるコア部のニトリル基含有単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の強度を確保しつつ、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)を良好に制御することができる。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0060】
[シェル部]
シェル部を形成する重合体に含まれる繰り返し単位は、特に限定されないが、芳香族モノビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位が好ましく挙げられる。なお、シェル部の重合体は、単量体単位(繰り返し単位)を1種のみ含んでいてもよく、複数種類含んでいてもよい。
【0061】
―芳香族モノビニル単量体単位―
シェル部の重合体の芳香族モノビニル単量体単位を形成しうる芳香族モノビニル単量体としては、「コア部」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、スチレンが好ましい。
【0062】
そして、シェル部の重合体中に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合は、シェル部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。シェル部の重合体中に占める芳香族モノビニル単量体単位の割合が85質量%以上であれば、シェル部の重合体のガラス転移温度が高まり、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性を向上させることができる。なお、シェル部の重合体中に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合の上限は、100質量%以下であり、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
また、シェル部の重合体中に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。粒子状重合体中に占めるシェル部の芳香族モノビニル単量体単位の割合が10質量%以上であれば、シェル部の重合体のガラス転移温度が高まり、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性を向上させることができる。なお、粒子状重合体中に占めるシェル部の芳香族モノビニル単量体単位の割合の上限は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
―酸性基含有単量体単位―
シェル部の重合体の酸性基含有単量体単位を形成しうる酸性基含有単量体としては、「コア部」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、カルボン酸基含有単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0065】
そして、シェル部の重合体中に含まれる酸性基含有単量体単位の割合は、シェル部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが更に好ましい。シェル部の重合体中に占める酸性基含有単量体単位の割合が0.1質量%以上であれば、粒子状重合体表面の極性を一層高めて、二次電池の残存ガス量を更に低減することができる。一方、シェル部の重合体中に占める酸性基含有単量体単位の割合が5.0質量%以下であれば、粒子状重合体により二次電池内部に持ち込まれる水分量を低減して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0066】
また、シェル部の重合体中に含まれる酸性基含有単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましい。粒子状重合体中に占めるシェル部の酸性基含有単量体単位の割合が0.01質量%以上であれば、粒子状重合体表面の極性を一層高めて、二次電池の残存ガス量を更に低減することができる。一方、粒子状重合体中に占めるシェル部の酸性基含有単量体単位の割合が1.0質量%以下であれば、粒子状重合体により二次電池内部に持ち込まれる水分量を低減して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0067】
―その他の単量体単位―
シェル部を形成する重合体が、芳香族モノビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位以外の単量体単位に含み得る単量体単位(その他の単量体単位)としては、特に限定されないが、例えば、「コア部」の項で上述した架橋性単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、およびニトリル基含有単量体単位が挙げられる。そして、これらの中でも、シェル部の重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含むことが好ましい。
【0068】
シェル部の重合体のニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、「コア部」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0069】
そして、シェル部の重合体中に含まれるニトリル基含有単量体単位の割合は、シェル部の重合体中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、7.0質量%以下であることがより好ましい。シェル部の重合体中に占めるニトリル基含有単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の強度を確保しつつ、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)、並びに表面酸量を良好に制御することができる。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0070】
また、シェル部の重合体中に含まれるニトリル基含有単量体単位の割合は、粒子状重合体(すなわち、コア部の重合体とシェル部の重合体の合計)中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、0.3質量%以上であることが好ましく、0.6質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。粒子状重合体中に占めるシェル部のニトリル基含有単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、粒子状重合体の強度を確保しつつ、粒子状重合体の電解液膨潤度(72時間)および電解液膨潤度(240時間)、並びに表面酸量を良好に制御することができる。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに二次電池のレート特性およびサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、二次電池の残存ガス量を一層低減すると共に、二次電池の保存特性を高めることができる。
【0071】
<<調製方法>>
そして、上述したコアシェル構造を有する粒子状重合体は、例えば、コア部の重合体の単量体と、シェル部の重合体の単量体とを用い、経時的にそれらの単量体の比率を変えて段階的に重合することにより、調製することができる。具体的には、粒子状重合体は、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次に被覆するような連続した多段階乳化重合法および多段階懸濁重合法によって調製することができる。
【0072】
そこで、以下に、多段階乳化重合法により上記コアシェル構造を有する粒子状重合体を得る場合の一例を示す。
【0073】
重合に際しては、常法に従って、乳化剤として、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート等のノニオン性界面活性剤、またはオクタデシルアミン酢酸塩等のカチオン性界面活性剤を用いることができる。また、重合開始剤として、例えば、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、過硫酸カリウム、キュメンパーオキサイド等の過酸化物、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ハイドロキシエチル)-プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩等のアゾ化合物を用いることができる。
【0074】
そして、重合手順としては、まず、コア部を形成する単量体および乳化剤を混合し、一括で乳化重合することによってコア部を構成する粒子状の重合体を得る。さらに、このコア部を構成する粒子状の重合体の存在下にシェル部を形成する単量体の重合を行うことによって、上述したコアシェル構造を有する粒子状重合体を得ることができる。
【0075】
ここで、コア部の外表面がシェル部によって部分的に覆われた粒子状重合体を調製する場合は、シェル部の重合体を形成する単量体は、複数回に分割して、もしくは、連続して重合系に供給することが好ましい。シェル部の重合体を形成する単量体を重合系に分割して、もしくは、連続で供給することにより、シェル部を構成する重合体が粒子状に形成され、この粒子がコア部と結合することで、コア部を部分的に覆うシェル部を形成することができる。
【0076】
<機能層用結着材>
本発明のスラリー組成物は、上記コアシェル構造を有する粒子状重合体に加え、ガラス転移温度が20℃未満である重合体からなる機能層用結着材を更に含むことが好ましい。
なお、機能層用結着材は、非水溶性であることが好ましい。
【0077】
<<ガラス転移温度>>
機能層用結着材は、ガラス転移温度が、20℃未満であることが必要であり、15℃未満であることが好ましく、12℃以下であることがより好ましく、-40℃以上であることが好ましく、―20℃以上であることがより好ましい。上述した粒子状重合体に加え、ガラス転移温度が20℃未満である機能層用結着材を含むスラリー組成物を用いれば、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させつつ、二次電池のレート特性を一層高めることができる。一方、機能層用結着材のガラス転移温度が-40℃以上であれば、二次電池の保存特性を向上させることができる。
なお、機能層用結着材のガラス転移温度は、例えば、機能層用結着材の調製に用いる単量体の種類および割合を変更することにより調整することができる。より具体的には、粒子状重合体の調製に用いる芳香族モノビニル単量体の割合を増加させることで、機能層用結着材のガラス転移温度を高めることができる。
【0078】
<<表面酸量>>
機能層用結着材は、表面酸量が、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.08mmol/g以上であることがより好ましく、0.10mmol/g以上であることが更に好ましく、0.50mmol/g以下であることが好ましく、0.40mmol/g以下であることがより好ましく、0.30mmol/g以下であることが更に好ましい。機能層用結着材の表面酸量が0.05mmol/g以上であれば、二次電池の残存ガス量を一層低減することができる。一方、機能層用結着材の表面酸量が0.50mmol/g以下であれば、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、機能層用結着材の表面酸量は、例えば機能層用結着材の調製に用いる単量体の種類および割合を変更することにより調整することができる。より具体的には、機能層用結着材の調製に用いる酸性基含有単量体の割合を増加させたり、酸性基含有単量体としてイタコン酸などの複数の酸性基を有する単量体を用いたりすることで、機能層用結着材の表面酸量を高めることができる。
【0079】
<<体積平均粒子径>>
機能層用結着材は、体積平均粒子径が、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.14μm以上であることが更に好ましく、0.60μm未満であることが好ましく、0.45μm未満であることがより好ましい。機能層用結着材の体積平均粒子径が0.01μm以上であれば、二次電池の残存ガス量を一層低減することができる。一方、機能層用結着材の体積平均粒子径が0.60μm未満であれば、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。
なお、機能層用結着材の体積平均粒子径は、例えば機能層用結着材の調製に用いる単量体の種類および割合を変更すること、および/または機能層用結着材の重合条件(例えば、乳化剤の使用量)を変更することで、調整することができる。
【0080】
<<電解液膨潤度>>
機能層用結着材は、上述した所定の測定用電解液中に72時間浸漬した際の膨潤度が、5.0倍以下であることが好ましく、4.0倍以下であることがより好ましい。機能層用結着材の電解液膨潤度(72時間)が5.0倍以下であれば、機能層用結着材が電解液中に過度に溶出するといったこともなく、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させつつ、二次電池の残存ガス量を一層低減することができる。また、機能層用結着材の電解液膨潤度(72時間)の下限は特に限定されないが、通常、1.0倍以上である。
なお、機能層用結着材の電解液膨潤度(72時間)は、例えば機能層用結着材の調製に用いる単量体の種類および割合を変更することにより調整することができる。
【0081】
<<組成>>
機能層用結着材は、上述したガラス転移温度を有すれば、その組成は特に限定されないが、機能層用結着材(換言すると、機能層用結着材を構成する重合体)は、少なくとも、芳香族モノビニル単量体単位および酸性基含有単量体単位を含むことが好ましい。
【0082】
[芳香族モノビニル単量体単位]
機能層用結着材の芳香族モノビニル単量体単位を形成しうる芳香族モノビニル単量体としては、「粒子状重合体」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、スチレンが好ましい。
【0083】
そして機能層用結着材中に含まれる芳香族モノビニル単量体単位の割合は、機能層用結着材中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、15質量%以上であることが好ましく、23質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。機能層用結着材中に占める芳香族モノビニル単量体単位の割合が上述した範囲内であれば、機能層用結着材の柔軟性および剛直性のバランスが確保される。そのため、電解液浸漬後における機能層の接着性、並びに、二次電池のレート特性およびサイクル特性をバランス良く向上させることができる。
【0084】
[酸性基含有単量体単位]
機能層用結着材の酸性基含有単量体単位を形成しうる酸性基含有単量体としては、「粒子状重合体」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、カルボン酸基含有単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、イタコン酸が更に好ましい。
【0085】
そして機能層用結着材中に含まれる酸性基含有単量体単位の割合は、機能層用結着材中に含まれる全繰り返し単位を100質量%として、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、6.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。機能層用結着材中に占める芳香族モノビニル単量体単位の割合が1.0質量%以上であれば、二次電池の残存ガス量を更に低減することができ、6.0質量%以下であれば、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0086】
[その他の単量体単位]
機能層用結着材は、芳香族モノビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位)を含むことができる。そして、その他の単量体単位としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどの脂肪族共役ジエン単量体に由来する脂肪族共役ジエン単量体単位、2-ヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有単量体に由来する水酸基含有単量体単位や、「粒子状重合体」の項で上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位が挙げられる。
なお、機能層用結着材は、その他の単量体単位を、1種類のみ含んでいてもよく、2種類以上含んでいてもよい。
【0087】
<<調製方法>>
機能層用結着材の重合様式は、特に限定されることなく、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。そして、重合に使用され得る乳化剤、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とすることができる。
【0088】
<<配合量>>
本発明のスラリー組成物中に配合される機能層用結着材の量は、特に限定されないが、粒子状重合体100質量部当たり、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることが更に好ましく、20質量部以上であることが特に好ましく、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることが更に好ましい。機能層用結着材の配合量が粒子状重合体100質量部当たり1質量部以上であれば、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができ、50質量部以下であれば、機能層を備える電池部材の耐ブロッキング性を確保することができる。
【0089】
<溶媒>
本発明のスラリー組成物に含まれる溶媒としては、少なくとも上述した粒子状重合体の分散媒として使用可能な、既知の溶媒を用いることができる。中でも、溶媒としては、水を用いることが好ましい。なお、スラリー組成物の溶媒の少なくとも一部は、特に限定されることなく、粒子状重合体および/または機能層用結着材の調製に用いた重合溶媒とすることができる。
【0090】
<その他の成分>
本発明のスラリー組成物は、上述した成分以外にも、任意のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のものを使用することができる。また、これらのその他の成分は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
そして、その他の成分としては、非導電性粒子、濡れ剤(ポリエチレンオキサイド、およびポリプロピレンオキサイドなど)、水溶性重合体(カルボキシメチルセルロースおよびその塩、並びに、ポリビニルアルコールなど)が挙げられる。
なお、本発明において、重合体が「水溶性」であるとは、温度25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0質量%未満となることをいう。
【0091】
スラリー組成物に配合される非導電性粒子としては、特に限定されることなく、非水系二次電池に用いられる既知の非導電性粒子を挙げることができる。
具体的には、非導電性粒子としては、無機微粒子と、上述した粒子状重合体および機能層用結着材以外の有機微粒子との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子が用いられる。なかでも、非導電性粒子の材料としては、非水系二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定である材料が好ましい。このような観点から非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO3、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
また、非導電性粒子として有機微粒子を用いる場合、当該有機微粒子のガラス転移温度および/または融点は、通常150℃超であり、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。
なお、上述した非導電性粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、スラリー組成物中の非導電性粒子の配合量は、特に限定されないが、粒子状重合体100質量部当たり、300質量部以上1500質量部以下であることが好ましい。
【0092】
また、スラリー組成物中の濡れ剤の配合量は、特に限定されないが、粒子状重合体100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。濡れ剤の配合量が、粒子状重合体100質量部当たり0.5質量部以上であれば、スラリー組成物の十分均一な塗布が可能となるため、電解液浸漬後における機能層の接着性を更に向上させることができる。一方、濡れ剤の配合量が、粒子状重合体100質量部当たり5質量部以下であれば、低分子量成分の増大によるレート特性の低下を十分に抑制することができる。
【0093】
そして、スラリー組成物中の水溶性重合体の配合量は、特に限定されないが、粒子状重合体100質量部当たり、10質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましい。水溶性重合体の配合量が、粒子状重合体100質量部以下であれば、水溶性重合体のフィルム化によるレート特性の低下を十分に抑制することができる。
【0094】
<調製方法>
スラリー組成物の調製方法は、特に限定はされない。例えば、粒子状重合体と、溶媒とを、必要に応じて用いられる機能層用結着材および/またはその他の成分と混合して、スラリー組成物を調製することができる。混合方法は特に制限されないが、各成分を効率よく分散させるため、通常は混合装置として分散機を用いて混合を行う。
分散機は、上記成分を均一に分散および混合できる装置が好ましい。例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。また、高い分散シェアを加えることができる観点から、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置も挙げられる。
【0095】
(機能層)
上述した本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用い、適切な基材上に機能層を形成することができる。具体的には、スラリー組成物を適切な基材上で乾燥することにより、機能層を形成することができる。即ち、機能層は、上述したスラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、上述した粒子状重合体を含有し、任意に、上述した機能層用結着材および/またはその他の成分を含有する。なお、上述した粒子状重合体および/または機能層用結着材が架橋性単量体単位を含む場合には、粒子状重合体および/または機能層用結着材は、スラリー組成物の乾燥時、または、乾燥後に任意に実施される熱処理時に架橋されていてもよい(即ち、機能層は、上述した粒子状重合体および/または機能層用結着材の架橋物を含んでいてもよい)。なお、機能層中に含まれている各成分の好適な存在比は、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明のスラリー組成物を用いて形成される機能層は、電解液浸漬後に優れた接着性を発揮することができる。加えて、当該機能層を備える電池部材を用いれば、レート特性およびサイクル特性に優れると共に、残存ガス量が低減された二次電池を製造することができる。
【0096】
<基材>
スラリー組成物を塗布して、その上に機能層を形成するための基材としては、特に限定されない。例えばセパレータの一部を構成する部材として機能層を使用する場合には、基材としてはセパレータ基材を用いることができ、電極の一部を構成する部材として機能層を使用する場合には、基材としては集電体上に電極合材層を形成してなる電極基材を用いることができる。また、基材上に形成した機能層の用法に特に制限は無く、例えばセパレータ基材等の上に機能層を形成してそのままセパレータ等の電池部材として使用してもよいし、電極基材上に機能層を形成して電極として使用してもよいし、離型基材上に形成した機能層を基材から一度剥離し、他の基材に貼り付けて電池部材として使用してもよい。
しかし、機能層から離型基材を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材としてセパレータ基材または電極基材を用いることが好ましい。
【0097】
<<セパレータ基材>>
セパレータ基材としては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
なお、セパレータ基材は、本発明のスラリー組成物から形成される機能層以外の、所期の機能を発揮し得る任意の層をその一部に含んでいてもよい。例えば、セパレータ基材は、非導電性粒子と結着材を含み、上述したコアシェル構造を有する粒子状重合体を含まない多孔膜層を、その一部に含んでいてもよい、より具体的には、セパレータ基材は、上述したポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜の片面または両面に、非導電性粒子と結着材を含む多孔膜層を備えていてもよい。なお、多孔膜層中の「非導電性粒子」としては、例えば、「非水系二次電池機能層用スラリー組成物」の項で例示したものを用いることができる。また、多孔膜層中の「結着材」としては、例えば、「非水系二次電池機能層用スラリー組成物」の項で「機能層用結着材」として例示したものや、既知の結着材を用いることができる。
【0098】
<<電極基材>>
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、集電体上に電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
ここで、集電体、電極合材層中の成分(例えば、電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用結着材(正極合材層用結着材、負極合材層用結着材)など)、並びに、集電体上への電極合材層の形成方法は、既知のものを用いることができ、例えば特開2013-145763号公報に記載のものを用いることができる。
なお、電極基材は、本発明のスラリー組成物から形成される機能層以外の、所期の機能を有する任意の層(例えば、「セパレータ基材」の項で上述した、非導電性粒子と結着材を含む多孔膜層)をその一部に含んでいてもよい。
【0099】
<<離型基材>>
離型基材としては、特に限定されず、既知の離型基材を用いることができる。
【0100】
<機能層の形成方法>
上述したセパレータ基材、電極基材などの基材上に機能層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。:
1)スラリー組成物をセパレータ基材または電極基材の表面(電極基材の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)スラリー組成物にセパレータ基材または電極基材を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)スラリー組成物を、離型基材上に塗布、乾燥して機能層を製造し、得られた機能層をセパレータ基材または電極基材の表面に転写する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、機能層の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。該1)の方法は、詳細には、スラリー組成物をセパレータ基材または電極基材上に塗布する工程(塗布工程)と、セパレータ基材または電極基材上に塗布された機能層用組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(乾燥工程)を備える。
【0101】
塗布工程において、スラリー組成物をセパレータ基材または電極基材上に塗布する方法は、特に制限は無く、例えば、スプレーコート法、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0102】
また乾燥工程において、基材上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは30~80℃で、乾燥時間は好ましくは30秒~10分である。
【0103】
なお、基材上に形成された機能層の厚みは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。機能層の厚みが、0.1μm以上であることで、機能層の強度を十分に確保することができ、3.0μm以下であることで、二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。
【0104】
(非水系二次電池用セパレータ)
本発明のセパレータは、セパレータ基材と、セパレータ基材の少なくとも一方の表面上に、本発明のスラリー組成物から形成された機能層を備える。なお、セパレータを構成するセパレータ基材と機能層は、何れも「機能層」の項で上述したものと同様である。
【0105】
そして、本発明のセパレータは、本発明のスラリー組成物を用いて形成される機能層を備えているので、電解液浸漬後において、隣接する他の電池部材(例えば、電極)と、機能層を介して良好に接着することができる。加えて、本発明のセパレータは、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させると共に、二次電池の残存ガス量を低減することができる。
【0106】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、上述した本発明の非水系二次電池用セパレータを備えるものである。より具体的には、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備え、前記セパレータが、セパレータ基材と機能層を備える本発明の非水系二次電池用セパレータである。
本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用セパレータを備えているので、レート特性およびサイクル特性に優れ、また、残存ガス量が少ない。
【0107】
<正極および負極>
本発明の二次電池において、少なくともセパレータが機能層を有するが、正極および負極もそれぞれ機能層を有していてもよい。機能層を有する正極および負極としては、集電体上に電極合材層を形成してなる電極基材の上に機能層を設けてなる電極を用いることができる。なお、電極基材およびセパレータ基材としては、「機能層」の項で挙げたものと同様のものを用いることができる。
また、機能層を有さない正極および負極としては、特に限定されることなく、上述した電極基材よりなる電極を用いることができる。
【0108】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0109】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0110】
<非水系二次電池の製造方法>
二次電池は、例えば、正極と負極とを本発明の非水系二次電池用セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。ここで、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0111】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例および比較例において、粒子状重合体および機能層用結着材のガラス転移温度、表面酸量、電解液膨潤度、および体積平均粒子径、機能層の電解液浸漬後における接着性、セパレータの耐ブロッキング性、並びに、リチウムイオン二次電池のレート特性、サイクル特性、保存特性、および残存ガス量の低減は、下記の方法で測定および評価した。
【0112】
<ガラス転移温度>
測定対象である重合体(粒子状重合体、機能層用結着材)の水分散液を、温度25℃で48時間乾燥し、粉末状の測定試料を得た。
測定試料10mgをアルミパンに計量し、示差熱分析測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、製品名「EXSTAR DSC6220」)にて、測定温度範囲-100℃~200℃の間で、昇温速度20℃/分で、JIS Z8703に規定された条件下で測定を実施し、示差走査熱量分析(DSC)曲線を得た。なお、リファレンスとして空のアルミパンを用いた。この昇温過程で、微分信号(DDSC)がピークを示す温度をガラス転移温度(℃)として求めた。なお、ピークが複数測定された場合は、変位の大きいピークの示す温度を、その重合体のガラス転移温度とした。
<表面酸量>
蒸留水で洗浄したガラス容器に、測定対象である重合体(粒子状重合体、機能層用結着材)の水分散液を入れ、溶液電導率計をセットして撹拌した。なお、撹拌は、後述する塩酸の添加が終了するまで継続した。
重合体の水分散液の電気伝導度が2.5~3.0mSになるように、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を、重合体の水分散液に添加した。その後、6分経過してから、電気伝導度を測定した。この値を測定開始時の電気伝導度とした。
さらに、この重合体の水分散液に0.1規定の塩酸を0.5mL添加して、30秒後に電気伝導度を測定した。その後、再び0.1規定の塩酸を0.5mL添加して、30秒後に電気伝導度を測定した。この操作を、30秒間隔で、重合体の水分散液の電気伝導度が測定開始時の電気伝導度以上になるまで繰り返し行った。
得られた電気伝導度のデータを、電気伝導度(単位「mS」)を縦軸(Y座標軸)、添加した塩酸の累計量(単位「mmol」)を横軸(X座標軸)としたグラフ上にプロットした。これにより、図2のように3つの変曲点を有する塩酸添加量-電気伝導度曲線が得られた。3つの変曲点のX座標および塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP1、P2、P3およびP4とした。X座標が零から座標P1まで、座標P1から座標P2まで、座標P2から座標P3まで、および、座標P3から座標P4まで、の4つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L1、L2、L3およびL4を求めた。近似直線L1と近似直線L2との交点のX座標をA1(mmol)、近似直線L2と近似直線L3との交点のX座標をA2(mmol)、近似直線L3と近似直線L4との交点のX座標をA3(mmol)とした。
そして、重合体1g当たりの表面酸量Sは、下記の式から、塩酸換算した値(mmol/g)として算出した。
重合体1g当たりの表面酸量S=(A2-A1)/重合体の水分散液中の固形分量
<電解液膨潤度>
<<電解液膨潤度(72時間)>>
測定対象である重合体(粒子状重合体、機能層用結着材)の水分散液を、ポリテトラフルオロエチレン製のシャーレに入れた。シャーレに入った水分散液を、温度25℃で48時間乾燥し粉末状試料を得た。得られた試料0.2gを、温度200℃、圧力5MPaで2分間プレスすることにより試験片を得た。得られた試験片の重量を測定し、W0とした。
次に、得られた試験片を、温度60℃の測定用電解液中に72時間浸漬した。ここで、測定用電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびビニレンカーボネート(VC)の混合溶媒(体積比:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5)に、LiPF(支持電解質)を1mol/リットルの濃度で溶かした溶液を用いた。
浸漬後の試験片を測定用電解液から取り出し、試験片の表面の測定用電解液を拭き取った。当該浸漬後の試験片の重量を測定し、W1とした。測定したW0およびW1を用いて、電解液膨潤度(72時間)=W1/W0を算出した。
<<電解液膨潤度(240時間)>>
試験片を測定用電解液中に浸漬する時間を72時間から240時間に変更した以外は、電解液膨潤度(72時間)と同様にして、電解液膨潤度(240時間)を算出した。なお、電解液膨潤度(240時間)は、粒子状重合体についてのみ測定し、機能層用結着材については測定しなかった。
<体積平均粒子径>
重合体(粒子状重合体、機能層用結着材)の体積平均粒子径は、レーザー回折法にて測定した。具体的には、固形分濃度0.1質量%に調整した重合体の水分散液を試料とした。そして、レーザー回折式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、製品名「LS-13 320」)を用いて測定された粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径D50を、体積平均粒子径とした。
<電解液浸漬後における接着性>
湿式法により製造された単層のポリエチレン製セパレータ(厚み:9μm)を、セパレータ基材として準備した。このセパレータ基材の一方の面に、非水系二次電池機能層用スラリー組成物を塗布し、セパレータ基材上のスラリー組成物を50℃で10分間乾燥して、機能層(厚み:1.0μm)を形成した。この機能層を片面に備えるセパレータを評価用セパレータとした。
また、後述する実施例1と同様にして負極を作製し、評価用負極とした。
上記で得られた評価用負極と評価用セパレータを、それぞれ、10mm×100mmの長方形状に切り出した。そして、セパレータの機能層表面に負極の負極合材層を沿わせ試験片とし、電解液約400μlと共にラミネート包材に入れた。1時間経過後、試験片を、ラミネート包材ごと80℃、圧力1.0MPaで15分間プレスした。なお、電解液は、「電解液膨潤度」の測定に用いた測定用電解液と同じ組成のものを使用した。
その後、試験片を取り出し、表面に付着した電解液を拭き取った。次いで、この試験片を、負極の集電体側の表面を下にして、負極の集電体側の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしては、JIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは、水平な試験台に固定しておいた。そして、セパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を3回行い、応力の平均値をピール強度として求め、下記の基準で評価した。ピール強度が大きいほど、電解液浸漬後における機能層の接着性が優れており、電解液中でセパレータと電極(負極)が機能層を介して強固に接着しうることを示す。
A:ピール強度が5.0N/m以上
B:ピール強度が1.0N/m以上5.0N/m未満
C:ピール強度が1.0N/m未満
<耐ブロッキング性>
「電解液浸漬後における接着性」の評価時と同様にして得られた機能層を片面に備えるセパレータを、幅5cm×長さ5cmの正方形に切って、2枚の正方形片を得た。次に、2枚の正方形片を、セパレータ基材上に形成した機能層の面同士が向かい合うように重ね合わせ、更に、温度40℃、0.1MPaの加圧下に置き、24時間放置することにより、プレス状態の試験片(プレス試験片)を作製した。そして、24時間放置後のプレス試験片において、重ね合わされた2枚の正方形片同士の接着状態を目視で確認し、以下の基準に従って、耐ブロッキング性を評価した。なお、重ね合わされた2枚の正方形片同士が接着している場合は、2枚の正方形片のうち一方の全体を固定し、他方を0.3N/mの力で引っ張って正方形片同士を剥離することが可能かどうか確認した。重ね合わされた2枚の正方形片同士が接着していないほど、機能層を備えるセパレータが耐ブロッキング性に優れることを示す。
A:2枚の正方形片同士が接着していない
B:2枚の正方形片同士が接着しているが、引っ張って剥離可能である
C:2枚の正方形片同士が接着しており、引っ張って剥離することができない
<<レート特性>>
リチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.35V)を行い、0.2Cの定電流にてセル電圧3.00VまでCC放電を行った。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。
次に、温度25℃の環境下、セル電圧4.2-3.00V間で、0.2Cの定電流充放電を実施し、このときの放電容量をC0と定義した。その後、同様に0.2Cの定電流にてCC-CV充電し、温度-10℃の環境下において、0.5Cの定電流にて3.0Vまで放電を実施し、このときの放電容量をC1と定義した。そして、レート特性として、ΔC=(C1/C0)×100(%)で示される容量維持率を求め、以下の基準により評価した。この容量維持率ΔCの値は大きいほど、低温環境下、高電流での放電容量が高く、そして内部抵抗が低いことを示す。
A:容量維持率ΔCが70%以上
B:容量維持率ΔCが55%以上70%未満
C:容量維持率ΔCが55%未満
<<サイクル特性>>
リチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃にて、1Cの充電レートにて定電圧定電流(CC-CV)方式で4.2V(カットオフ条件:0.02C)まで充電し、1Cの放電レートにて定電流(CC)方式で3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C2を測定した。
さらに、45℃環境下で同様の充放電の操作を繰り返し、300サイクル後の容量C3を測定した。そして、容量維持率ΔC´=(C3/C2)×100(%)を算出し、下記の基準で評価した。この容量維持率の値が高いほど、放電容量の低下が少なく、サイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率ΔC´が85%以上
B:容量維持率ΔC´が75%以上85%未満
C:容量維持率ΔC´が75%未満
<<保存特性>>
リチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で、5時間静置した。25℃環境下で0.1Cの定電流法によって4.2Vまで充電した後、60℃で240時間保存した。60℃保存開始前の開路電圧(Open circuit voltage,以下、「OCV」と表記する。)と60℃で240時間保存後のセルのOCVを測定し、60℃保存開始前のOCVに対する60℃で240時間保存後のOCVの割合を算出してOCV維持率とし、以下の基準で評価した。OCV維持率が大きいほど、高温下での保存特性に優れる、すなわち寿命特性に優れることを示す。
A:OCV維持率が99.0%以上
B:OCV維持率が98.5%以上99.0%未満
C:OCV維持率が98.0%以上98.5%未満
D:OCV維持率が98.0%未満
<残存ガス量の低減>
リチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。その後、セルの電極部分(正極、セパレータ、および負極の積層体部分)を25kPaで1分間加圧したのち、超音波検査システム(ジャパンプローブ製「NAUT21」)を用いて電極上のガス滞留面積を測定した。ガス滞留面積を電極面積で除して、得られたガス滞留面積割合(%)を以下の基準で評価した。ガス滞留面積割合が小さいほど、二次電池の残存ガス量が低減されていることを示す。
A:ガス滞留面積割合が0%以上10%未満
B:ガス滞留面積割合が10%以上25%未満
C:ガス滞留面積割合が25%以上
【0113】
(実施例1)
<粒子状重合体の調製>
コア部の形成にあたり、撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族モノビニル単量体としてのスチレン37.6部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート23.2部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル7.0部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸2.1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、イオン交換水150部、並びに重合開始剤としての過硫酸カリウム0.3部を入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になるまで重合を継続させることにより、コア部を構成する粒子状の重合体を含む水分散液を得た。次いで、重合転化率が96%になった時点で、シェル部を形成するために、芳香族モノビニル単量体としてのスチレン28.2部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル1.5部、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸0.3部を連続添加して、70℃に加温して重合を継続し、転化率が96%になった時点で、冷却し反応を停止して、粒子状重合体の水分散液を得た。得られた粒子状重合体は、コア部の外表面がシェル部で部分的に覆われたコアシェル構造を有していた。
そして、得られた粒子状重合体のガラス転移温度、表面酸量、電解液膨潤度(72時間および240時間)、並びに体積平均粒子径を測定した、結果を表5に示す。
<機能層用結着材の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン33.0部、酸性基含有単量体としてのイタコン酸3.8部、芳香族モノビニル単量体としてのスチレン62.2部、水酸基含有単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150質量部および重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、重合体を含む混合物を得た。この重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって混合物から未反応の単量体を除去した。その後、その混合物を30℃以下まで冷却し、機能層用結着材の水分散液を得た。
そして、得られた機能層用結着材のガラス転移温度、表面酸量、電解液膨潤度(72時間)、および体積平均粒子径を測定した、結果を表5に示す。
<非水系二次電池用機能層用スラリー組成物の調製>
粒子状重合体の水分散液100部(固形分相当)と、機能層用結着材の水分散液を20部(固形分相当)と、濡れ剤としての「ノプテックス(登録商標)ED-052」(サンノプコ社製)2部(固形分相当)とを撹拌容器内で混合し、混合物を得た。
得られた混合物をイオン交換水で希釈してスラリー組成物(固形分濃度:10%)を得た。このスラリー組成物を用いて機能層を片面に備えるセパレータを作製して、機能層の電解液浸漬後における接着性、および機能層を備えるセパレータの耐ブロッキング性を評価した。結果を表5に示す。
<機能層を両面に備えるセパレータの作製>
ポリエチレン製の微多孔膜(旭化成社製、製品名「ND412」、厚さ:12μm)を用意した。用意した微多孔膜の表面に、セラミックススラリー(日本ゼオン社製、製品名「BM-2000M」、非導電性粒子としてのアルミナと、結着材を含む。)を塗布し、温度50℃下で3分間乾燥させ、片面に多孔膜層を備えるセパレータ基材(多孔膜層の厚み:3μm)を得た。
上述のセパレータ基材の多孔膜層側が設けられた面上に、上述の非水系二次電池用機能層用スラリー組成物を塗布し、温度50℃下で3分間乾燥させた。同様の操作を、セパレータ基材のもう一方の面にも施し、機能層を両面に備えるセパレータ(機能層の厚み:それぞれ0.6μm)を得た。
<負極の作製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン33部、酸性基含有単量体としてのイタコン酸3.5部、および芳香族モノビニル単量体としてのスチレン63.5部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部、並びに、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し重合反応を停止して、粒子状の結着材(スチレン-ブタジエン共重合体)を含む混合物を得た。上記混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、混合物を30℃以下まで冷却し、負極用結着材を含む水分散液を得た。
プラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)48.75部、天然黒鉛(理論容量:360mAh/g)48.75部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを固形分相当で1部とを投入した。さらに、イオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈し、その後、回転速度45rpmで60分混練した。その後、上述のようにして得られた負極用結着材を含む水分散液を固形分相当で1.5部投入し、回転速度40rpmで40分混練した。そして、粘度が3000±500mPa・s(B型粘度計、25℃、60rpmで測定)となるようにイオン交換水を加えることにより、負極合材層用スラリー組成物を調製した。
上記負極合材層用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の表面に、塗付量が11±0.5mg/cmとなるように塗布した。その後、負極合材層用スラリー組成物が塗布された銅箔を、400mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、集電体上に負極合材層が形成された負極原反を得た。
その後、作製した負極原反の負極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧11t(トン)の条件でロールプレスし、負極合材層密度が1.60g/cmの負極を得た。その後、当該負極を、温度25±3℃、相対湿度50±5%の環境下にて1週間放置した。
<正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物(セルシード(登録商標)、NMC111、LiNi1/3Co1/3Mn1/3)96部、導電材としてのアセチレンブラック2部(デンカ株式会社製、製品名「HS-100」)、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ化学製、製品名「KF-1100」)2部を添加し、さらに、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を全固形分濃度が67%となるように加えて混合し、正極合材層用スラリー組成物を調製した。
続いて、得られた正極合材層用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、塗布量が20±0.5mg/cmとなるように塗布した。
さらに、200mm/分の速度で、温度90℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、アルミニウム箔上のスラリー組成物を乾燥させ、集電体上に正極合材層が形成された正極原反を得た。
その後、作製した正極原反の正極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧14t(トン)の条件でロールプレスし、正極合材層密度が3.40g/cmの正極を得た。その後、当該正極を、温度25±3℃、相対湿度50±5%の環境下にて1週間放置した。
<二次電池の製造>
上述のようにして得られた機能層を両面に備えるセパレータ、負極および正極を用いて捲回セル(放電容量520mAh相当)を作製し、アルミ包材内に配置した。該捲回セルを加熱式平板プレス機にて、温度70℃、圧力1.0MPaでアルミ包材ごと8秒間プレスし、セパレータと電極(負極および正極)を接着させた。
その後、アルミ包材内に、電解液を充填した。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびビニレンカーボネート(VC)の混合溶媒(体積比:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5)に、LiPF(支持電解質)を1mol/リットルの濃度で溶かした溶液を用いた。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、温度150℃のヒートシールをしてアルミ包材を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。このリチウムイオン二次電池を用いて、レート特性、サイクル特性、保存特性、および残存ガス量の低減を評価した。結果を表5に示す。
【0114】
(実施例2~3)
粒子状重合体の調製に際し、シェル部形成用として用いる単量体の種類および使用割合を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。なお、得られた粒子状重合体は、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有していた。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表5に示す。
【0115】
(実施例4)
機能層用スラリー組成物の調製に際し、更にカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、製品名「D1220」)1部(固形分相当)を使用した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表5に示す。
【0116】
(実施例5)
機能層用スラリー組成物の調製に際し、機能層用結着材20部に代えて水溶性重合体であるポリビニルアルコール(クラレ社製、製品名「PVA110」)5部(固形分相当)を使用した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表5に示す。
【0117】
(実施例6)
粒子状重合体の調製に際し、コア部形成用として用いる単量体の種類および使用割合を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。なお、得られた粒子状重合体は、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有していた。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表5に示す。
【0118】
(実施例7)
粒子状重合体の調製に際し、コア部およびシェル部形成用として用いる単量体の種類および使用割合を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。なお、得られた粒子状重合体は、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有していた。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表5に示す。
【0119】
(実施例8~9)
機能層用スラリー組成物の調製に際し、機能層用結着材の固形分相当量をそれぞれ5部(実施例8)、42部(実施例9)に変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表5に示す。
【0120】
(実施例10)
機能層用スラリー組成物の調製に際し、以下のようにして調製した機能層用結着材を使用した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
<機能層用結着材の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、および過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、75℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、分散剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.8部、そして(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート71部、芳香族モノビニル単量体としてスチレン25.8部、酸性基含有単量体としてのアクリル酸3.0部、架橋性単量体としてアリルメタクリレート0.2部を混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、75℃で反応を行った。添加終了後、さらに80℃で3時間撹拌して反応を終了し、機能層用結着材の水分散液を得た。
【0121】
(実施例11)
機能層を両面に備えるセパレータの作製に際し、セパレータ基材としてポリエチレン製の微多孔膜(旭化成社製、製品名「ND412」、厚さ:12μm)を使用した以外は(即ち、微多孔膜表面に多孔膜層を形成しなかった以外は)、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
【0122】
(実施例12)
機能層用スラリー組成物の調製に際し、濡れ剤を使用しない一方、更にセラミックススラリー(日本ゼオン社製、製品名「BM-2000M」、非導電性粒子としてのアルミナと、結着材を含む。)400部(固形分相当量)を使用した。加えて、機能層を両面に備えるセパレータの作製に際し、セパレータ基材としてポリエチレン製の微多孔膜(旭化成社製、製品名「ND412」、厚さ:12μm)を使用し(即ち、微多孔膜表面に多孔膜層を形成しなかった)、そして、セパレータの両面に備えられる機能層の厚みをそれぞれ2.0μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ(セパレータ基材は多孔膜層を有していない)、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
【0123】
(実施例13)
粒子状重合体の調製に際し、コア部およびシェル部形成用として用いる単量体の種類および使用割合を表2のように変更した以外は、実施例10と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。なお、得られた粒子状重合体は、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有していた。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
【0124】
(比較例1)
粒子状重合体の調製に際し、コア部形成用として用いる単量体の種類および使用割合を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。なお、得られた粒子状重合体は、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有していた。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
【0125】
(比較例2)
コアシェル構造を有する粒子状重合体に代えて、以下のようにして得られたコアシェル構造を有さない粒子状重合体(非コアシェル構造の粒子状重合体)を使用した以外は、実施例1と同様にして、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
<非コアシェル構造の粒子状重合体の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族モノビニル単量体としてスチレン75.0部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20.0部、架橋性単量体としてエチレングリコールジメタクリレート1.0部、酸性基含有単量体としてのメタクリル酸4.0部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、イオン交換水150部、並びに重合開始剤としての過硫酸カリウム0.3部を入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になるまで重合を継続させることにより、粒子状重合体を含む水分散液を得た。得られた粒子状重合体は、コアシェル構造を有しないものであった。
【0126】
(比較例3~4)
粒子状重合体の調製に際し、コア部およびシェル部形成用として用いる単量体の種類および使用割合を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状重合体、機能層用結着材、機能層用スラリー組成物、機能層を両面に備えるセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造した。なお、得られた粒子状重合体は、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有していた。そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表6に示す。
【0127】
なお、以下に示す表1~6中、
「ST」は、スチレン単位を示し、
「EDMA」は、エチレングリコールメタクリレート単位を示し、
「AMA」は、アリルメタクリレート単位を示し、
「MAA」は、メタクリル酸単位を示し、
「2EHA」は、2-エチルヘキシルアクリレート単位を示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレート単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「MMA」は、メチルメタクリレート単位を示し、
「IA」は、イタコン酸単位を示し、
「BD」は、1,3-ブタジエン単位を示し、
「HEA」は、2-ヒドロキシエチルアクリレート単位を示し、
「CMC」は、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を示し、
「PVA」は、ポリビニルアルコールを示す。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
表5~6より、コアシェル構造を有し、ガラス転移温度が所定の値以上であり且つ表面酸量が所定の範囲内である粒子状重合体を含む機能層用スラリー組成物を用いた実施例1~13では、電解液浸漬後の接着性に優れる機能層、および耐ブロッキング性に優れるセパレータを作製することができ、また、レート特性およびサイクル特性に優れる一方で、内部に残存するガスの量が低減された二次電池が得られていることが分かる。更に、実施例1~6、8~12では、二次電池の保存特性も高めうることが分かる。
一方、表6より、ガラス転移温度が所定の値未満である粒子状重合体を含む機能層用スラリー組成物を用いた比較例1では、セパレータの耐ブロッキング性および二次電池のレート特性が低下することが分かる。
また、表6より、非コアシェル構造の粒子状重合体を含む機能層用スラリー組成物を用いた比較例2では、電解液浸漬後における機能層の接着性およびセパレータの耐ブロッキング性が低下することが分かる。
そして、表6より、表面酸量が所定の範囲の下限値を下回る粒子状重合体を含む機能層用スラリー組成物を用いた比較例3では、二次電池の残存ガス量が上昇してしまうことが分かる。
更に、表6より、表面酸量が所定の範囲の上限値を上回る粒子状重合体を含む機能層用スラリー組成物を用いた比較例4では、二次電池のサイクル特性が低下することが分かる。更に、比較例4では、電解液浸漬後における機能層の接着性が低下し、そして、二次電池の残存ガス量が上昇してしまうことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させる一方で二次電池内部に残存するガスの量を低減しうり、且つ電解液浸漬後の接着性に優れる機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、二次電池に優れたレート特性およびサイクル特性を発揮させる一方で二次電池内部に残存するガスの量を低減しうり、且つ電解液浸漬後に隣接する電池部材と良好に接着し得る非水系二次電池用セパレータを提供することができる。
そして、本発明によれば、レート特性およびサイクル特性に優れると共に、内部に残存するガスの量が低減された非水系二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0136】
100 粒子状重合体
110 コア部
110S コア部の外表面
120 シェル部
図1
図2