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特許7552579電気化学素子機能層用組成物、電気化学素子用機能層及び電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電気化学素子機能層用組成物、電気化学素子用機能層及び電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/443 20210101AFI20240910BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240910BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M50/443 B
H01M50/443 C
H01M50/443 E
H01M50/443 M
H01M50/414
H01M50/42
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/449
H01M50/489
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021502112
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006633
(87)【国際公開番号】W WO2020175292
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019036908
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】安中 浩二
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098203(JP,A)
【文献】特開2017-152268(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043729(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180472(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094252(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/151144(WO,A1)
【文献】特開2014-056813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、又はフッ素原子含有単量体単位のうち少なくとも一種類の単量体単位を含む粒子状重合体、結着材及び無機粒子を含む電気化学素子機能層用組成物であって、
前記電気化学素子はリチウムイオン二次電池であり、
前記機能層は耐熱性と接着性とを同時に発現させることが可能な単一の層であり、
前記粒子状重合体のガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、
前記粒子状重合体の平均円形度が0.90以上0.99未満であり、且つ、
前記粒子状重合体の体積平均粒子径が1.0μm以上10.0μm以下である、電気化学素子機能層用組成物。
【請求項2】
前記粒子状重合体の粒径分布が1.10以上1.50以下である、請求項1に記載の電気化学素子機能層用組成物。
【請求項3】
前記無機粒子と前記粒子状重合体との混合比率が、体積比で、95:5~55:45である、請求項1または2に記載の電気化学素子機能層用組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の電気化学素子機能層用組成物を用いて形成した電気化学素子用機能層。
【請求項5】
請求項に記載の電気化学素子用機能層を備える、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子機能層用組成物、電気化学素子用機能層及び電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。
【0003】
ここで、例えばリチウムイオン二次電池は、一般に、正極、負極、及び、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータなどの電池部材を備えている。
【0004】
そして近年では、リチウム二次電池の更なる高性能化を目的として、セパレータの更なる改良が検討されている。
具体的には、例えば特許文献1では、セパレータ基材の上に、非導電性粒子及びバインダーを含有する耐熱層を形成するとともに、この耐熱層上に、所定の粒子状重合体を含有する接着剤層を更に設けてなるセパレータが提案されている。そして、特許文献1では、耐熱層の上に接着剤層を有するセパレータを使用することで、セパレータと電極とを良好に接着させ、二次電池の電池特性を向上させられることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/151144号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、耐熱層及び接着剤層を備える上記従来のセパレータは、その製造に際し、セパレータ基材上への耐熱層の形成と、耐熱層上への接着剤層の形成とを順次実施する必要があり、製造工程が煩雑である。
【0007】
そこで、このような問題に対し、例えば、個別に設けられた耐熱層及び接着剤層に替えて、耐熱性と接着性とを同時に発現させることが可能な単一の層(以下、このような層を「機能層」と称する。)をセパレータ基材に形成することで、セパレータの製造工程を簡素化し、生産性を高めることが考えられる。
【0008】
そこで、本発明者らは、耐熱性に寄与する成分と、接着性に寄与する成分とを含む組成物を用いれば、得られる機能層において耐熱性及び接着性を同時に発現させ得ることに着目した。しかし、本発明者らが検討したところ、耐熱性に寄与する成分と、接着性に寄与する成分とを単に混合してなる組成物を用いて形成された機能層では、機能層を構成する成分が脱落(以下、「粉落ち」と称する。)してしまうことが明らかとなった。また、耐熱性と接着性はトレードオフの関係にあるため、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る機能層を形成することは困難であることが明らかになった。
【0009】
そこで、本発明は、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を効率的に形成することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、所定の平均円形度及び所定の体積平均粒子径を有する粒子状重合体と、結着材と、無機粒子とを含有する組成物を用いれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る機能層を効率的に形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子機能層用組成物は、粒子状重合体、結着材及び無機粒子を含む電気化学素子機能層用組成物であって、前記粒子状重合体の平均円形度が0.90以上0.99未満であり、且つ、前記粒子状重合体の体積平均粒子径が1.0μm以上10.0μm以下であることを特徴とする。このように、所定の平均円形度及び所定の体積平均粒子径を有する粒子状重合体を、結着材及び無機粒子と組み合わせて用いれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を効率的に形成することができる。
なお、本発明において、「平均円形度」及び「体積平均粒子径」は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
ここで、本発明の電気化学素子機能層用組成物は、前記粒子状重合体の粒径分布が1.10以上1.50以下であることが好ましい。粒子状重合体の粒径分布が上記範囲内であれば、電気化学素子機能層用組成物を用いて形成した電気化学素子用機能層を、電気化学素子の変化に追従させることができる。また、当該電気化学素子用機能層を介して部材同士を接着した後の電気化学素子用機能層のばらつきを抑制して、電気化学素子の電気化学特性を向上させることができる。
なお、本発明において、「粒径分布」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0013】
また、本発明の電気化学素子機能層用組成物は、前記無機粒子と前記粒子状重合体との混合比率が、体積比で、95:5~55:45であることが好ましい。無機粒子と粒子状重合体との混合比率が体積比で上記範囲内であれば、電気化学素子機能層用組成物を用いて形成した電気化学素子用機能層において、耐熱性と接着性とのバランスが良好となる。
【0014】
更に、本発明の電気化学素子機能層用組成物は、前記粒子状重合体のガラス転移温度が10℃以上90℃以下であることが好ましい。粒子状重合体のガラス転移温度が上記範囲内であれば、電気化学素子機能層用組成物を用いて形成した電気化学素子用機能層において、良好な接着性を確保しつつ、電気化学素子用機能層のブロッキングを抑制することができる。
なお、本発明において、「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0015】
そして、本発明の電気化学素子機能層用組成物は、前記粒子状重合体が芳香族ビニル単量体単位を含むことが好ましい。粒子状重合体が芳香族ビニル単量体単位を含むことにより、電気化学素子機能層用組成物を用いて形成した電気化学素子用機能層の、基材に対する密着性を向上させることができる。また、粒子状重合体の電解液中への溶出量を少なくすることができ、もって電気化学素子の出力特性を優れたものとすることができる。
なお、本発明において、重合体が「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用機能層は、上述したいずれかの電気化学素子機能層用組成物を用いて形成したことを特徴とする。このように、本発明の電気化学素子機能層用組成物を用いれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を提供することができる。
【0017】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用機能層を備えることを特徴とする。このように、本発明の電気化学素子用機能層を備えることにより、優れた電気化学特性を発揮し得る電気化学素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を効率的に形成可能な電気化学素子機能層用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を提供することができる。
そして、本発明によれば、優れた電気化学特性を発揮し得る電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子機能層用組成物(以下、単に「機能層用組成物」とも称する。)は、本発明の電気化学素子用機能層(以下、単に「機能層」とも称する。)を形成する際の材料として用いられる。そして、本発明の電気化学素子用機能層は、本発明の電気化学素子機能層用組成物を用いて形成される。また、本発明の電気化学素子は、少なくとも本発明の電気化学素子用機能層を備える電気化学素子である。
【0020】
(電気化学素子機能層用組成物)
本発明の電気化学素子機能層用組成物は、所定の粒子状重合体と、結着材と、無機粒子とを含有し、任意に、その他の成分を更に含み得る。そして、本発明の機能層用組成物を用いることで、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を形成することができる。
【0021】
<粒子状重合体>
機能層用組成物中に含まれる粒子状重合体は、以下に詳述するように、所定の平均円形度及び所定の体積平均粒子径を有しており、機能層用組成物中で粒子状の形状を有する重合体である。なお、粒子状重合体は、機能層用組成物を用いて形成した機能層を介して部材同士を接着した後は、粒子状であってもよいし、その他の任意の形状であってもよい。更に、粒子状重合体は、結晶性高分子重合体であっても、非結晶性高分子重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0022】
<<粒子状重合体の平均円形度>>
そして、粒子状重合体は、平均円形度が0.90以上であることが必要であり、0.94以上であることが好ましく、0.99未満であることが必要であり、0.98以下であることが好ましい。粒子状重合体の平均円形度が上記下限以上であることにより、機能層用組成物を用いて形成した機能層において、粒子状重合体と無機粒子との接着点が多くなるため、粉落ちを抑制することができる。一方、粒子状重合体の平均円形度が上記上限以下であることにより、機能層中で粒子状重合体の状態が安定するため、粉落ちを抑制することができる。
【0023】
<<粒子状重合体の体積平均粒子径>>
また、粒子状重合体は、体積平均粒子径が1.0μm以上であることが必要であり、1.5μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましく、3.0μm以上であることが更に好ましく、5.0μmを超えることが最も好ましく、10.0μm以下であることが必要であり、9.0μm以下であることが好ましく、8.0μm以下であることがより好ましい。粒子状重合体の体積平均粒子径が上記下限以上であることにより、機能層組成物を用いて形成した機能層の厚み方向表面において、無機粒子に対して粒子状重合体が突出しやすくなるため、より良好な接着性を得ることができる。加えて、機能層用組成物を用いて形成した機能層の耐熱性が向上する。一方、粒子状重合体の体積平均粒子径が上記上限以下であることにより、機能層用組成物を基材に塗布する際に粒子状重合体が脱落することを抑制して、均一な機能層を形成することができる。加えて、機能層の単位面積当たりの粒子状重合体の数が増えるため、被接着物と機能層との接着点が多くなり、接着強度が高くなる。ここで、上述したように機能層の耐熱性が向上する理由は明らかではないが、次のように推察される。即ち、機能層の耐熱性を高めるためには、機能層中の無機粒子の割合が高い必要がある。そして、機能層の厚み方向表面において、無機粒子に対して粒子状重合体が突出することにより、見かけ上、機能層を構成する無機粒子層中の無機粒子の割合が高くなるため、耐熱性が高くなると考えられる。また、機能層の熱収縮は、無機粒子層中で粒子状重合体の周囲に存在する無機粒子によって抑制されると考えられる。そして、粒子状重合体の体積平均粒子径が上記上限以下であることにより、無機粒子層中で、無機粒子が粒子状重合体の周囲にバランス良く存在することができるため、機能層の熱収縮を良好に抑えることができると推察される。なお、上述した無機粒子層については、詳しくは後述する。
そして、粒子状重合体の体積平均粒子径は、粒子状重合体を調製する際に用いる金属水酸化物の種類や量によって調整することができる。金属水酸化物については詳しくは後述する。
【0024】
<<粒子状重合体の粒径分布>>
そして、粒子状重合体の粒径分布は、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.20以上であり、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.40以下である。粒子状重合体の粒径分布が上記下限以上であれば、電極、特に負極の膨張収縮に追従できる機能層を形成することができる。一方、粒子状重合体の粒径分布が上記上限以下であれば、機能層を介して部材同士を接着した際に、接着後の機能層の厚みのばらつきが低減されるため、電気化学素子の電気化学特性が向上する。また、粉落ちを良好に抑制することができる。
【0025】
<<粒子状重合体のガラス転移温度>>
また、粒子状重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。粒子状重合体のガラス転移温度が上記下限以上であれば、例えば機能層を備えた電気化学素子を保管している間などに、機能層のブロッキングが発生することを抑制することができる。一方、粒子状重合体のガラス転移温度が上記上限以下であれば、機能層を介して部材同士をプレスして接着した際にも、機能層の良好な接着性を得ることができる。
【0026】
<<粒子状重合体の融点>>
更に、粒子状重合体の融点(Tm)は、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上である。粒子状重合体の融点が上記下限以上であれば、粒子状重合体が結晶性高分子重合体を含む場合であっても、機能層の良好な接着性を確保することができる。
なお、粒子状重合体がガラス転移温度及び融点の双方を有する場合には、機能層の接着性をより向上させる観点からは、粒子状重合体の融点が上記下限以上であることが好ましい。
【0027】
<<粒子状重合体の電解液膨潤度>>
更に、粒子状重合体の電解液膨潤度は、好ましくは1.0倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上であり、好ましくは15倍以下、より好ましくは10倍以下、更に好ましくは7倍以下、特に好ましくは5以下である。粒子状重合体の電解液膨潤度が上記下限以上であれば、電解液中での機能層の接着力を強固なものとすることができる。一方、粒子状重合体の電解液膨潤度が上記上限以下であれば、電解液中で機能層の抵抗が小さくなるため、機能層を備えた電気化学素子の電気化学特性を向上させることができる。
なお、本発明において、「電解液膨潤度」は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
<<粒子状重合体の組成>>
そして、粒子状重合体としては、少なくとも平均円形度及び体積平均粒子径が上述した範囲内であれば、特に限定されることはなく、例えば機能層を形成する際に結着材として使用し得る既知の重合体を用いることができる。
【0029】
ここで、粒子状重合体を構成する単量体単位としては、例えば、芳香族ビニル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フッ素原子含有単量体単位などが挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。そして、機能層と基材との密着性を高める観点から、粒子状重合体は、芳香族ビニル単量体単位を含むことが好ましい。
【0030】
-芳香族ビニル単量体単位-
ここで、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体の例としては、特に限定されることなく、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、スチレンスルホン酸、ブトキシスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられ、中でも、スチレンが好ましい。
なお、これらの芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0031】
そして、粒子状重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、粒子状重合体中の全単量体単位を100質量%とした場合に、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは89.9質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記下限以上であれば、粒子状重合体の弾性が向上し、得られる機能層の強度が確保され、機能層と基材との密着性を高めることができる。一方、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記上限以下であれば、粒子状重合体の柔軟性が高まり、機能層用組成物の乾燥の際における成膜性が向上する。そのため、機能層と基材との密着性を高めることができる。
なお、本発明において、各「単量体単位の含有割合」は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0032】
-(メタ)アクリル酸エスエル単量体単位-
そして、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート及びt-ブチルアクリレートなどのブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどのオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート及びt-ブチルメタクリレートなどのブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートなどのオクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。中でも、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート及びメチルメタクリレートが好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
なお、これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
そして、粒子状重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、粒子状重合体の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは10質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは64.9質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上記下限以上であれば、粒子状重合体のガラス転移が過度に低下することを回避して、得られる機能層の耐ブロッキング性を向上させることができる。一方、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上記上限以下であれば、機能層と基材との密着性を良好なものとすることができる。
【0034】
-フッ素原子含有単量体単位-
そして、フッ素原子含有単量体単位を形成し得るフッ素原子含有単量体の例としては、特に限定されることなく、例えば、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三フッ化塩化ビニル、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。中でも、フッ化ビニリデンが好ましい。
なお、これらのフッ素原子含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ここで、粒子状重合体がフッ素原子含有単量体単位を含む場合には、機能層のより良好な接着性を確保できる観点から、粒子状重合体は、フッ素原子含有単量体としてフッ化ビニリデンを用いたフッ素原子含有重合体であることが好ましい。中でも、フッ素原子含有重合体としては、(i)フッ化ビニリデンの単独重合体、(ii)フッ化ビニリデンと、当該フッ化ビニリデンと共重合可能な他のフッ素原子含有単量体との共重合体、(iii)フッ化ビニリデンと、当該フッ化ビニリデンと共重合可能な他のフッ素原子含有単量体と、これらと共重合可能な単量体との共重合体が好ましい。そして、フッ素原子含有重合体の中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、ポリフッ化ビニル、並びに、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体が好ましい。
【0036】
更に、粒子状重合体は、上記単量体単位に加え、架橋性単量体単位を含んでいてもよい。ここで、架橋性単量体単位とは、加熱またはエネルギー線の照射により、重合中または重合後に架橋構造を形成しうる単量体である。
【0037】
-架橋性単量体単位-
そして、架橋性単量体単位を形成し得る単量体としては、例えば、当該単量体に2個以上の重合反応性基を有する多官能単量体が挙げられる。このような多官能単量体としては、例えば、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステル化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸エステル化合物;アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を含有するエチレン性不飽和単量体;などが挙げられる。中でも、エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。
なお、これらの架橋性単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
そして、粒子状重合体中の架橋性単量体単位の含有割合は、粒子状重合体の全単量体単位の量を100質量%とした場合に、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。架橋性単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、粒子状重合体の電解液中への溶出を十分に抑制することができる。
【0039】
-その他の単量体単位-
そして、粒子状重合体は、芳香族ビニル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フッ素原子含有単量体単位、及び架橋性単量体単位以外のその他の単量体単位を含んでいてもよい。ここで、その他の単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、ニトリル基含有単量体単位、及び後述の「結着材」の項で説明する酸基含有単量体単位などが挙げられる。
【0040】
-ニトリル基含有単量体単位-
ここで、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体の例としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。
なお、これらのニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
そして、粒子状重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合は、粒子状重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。ニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記下限以上であれば、粒子状重合体の結着力を向上させ、機能層のピール強度を高めることができる。一方、ニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記上限以下であれば、粒子状重合体の柔軟性を高めることができる。
【0042】
そして、粒子状重合体中のニトリル基含有単量体単位を除くその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは0質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。その他の単量体単位の含有割合が10質量%以下であれば、機能層用組成物の安定性が低下するのを抑制することができる。
【0043】
また、機能層用組成物中の粒子状重合体の含有割合は、粒子状重合体、結着材、及び無機粒子の合計量(100質量%)に対して、1質量%以上12質量%以下であることが好ましい。
【0044】
[粒子状重合体の調製]
粒子状重合体は、上述した単量体を含む単量体組成物を、例えば水などの水系溶媒中で重合することにより調製することができる。ここで、単量体組成物中の各単量体の割合は、通常、粒子状重合体中の各単量体単位の割合と同様とする。
【0045】
そして、重合様式は、特に限定されず、例えば、懸濁重合法、乳化重合凝集法、粉砕法などのいずれの方法も用いることができる。中でも、粒子状重合体を本発明で規定する所定の平均円形度に調整しやすいという観点から、懸濁重合法及び乳化重合凝集法が好ましく、懸濁重合法がより好ましい。また、重合反応としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
【0046】
[その他の配合剤]
また、粒子状重合体を調製する際に用いる単量体組成物には、連鎖移動剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、反応性流動化剤、充填剤、難燃剤、老化防止剤、着色料などのその他の配合剤を任意の配合量で配合することができる。
【0047】
ここで、一例として、懸濁重合法による粒子状重合体の調製方法について説明する。
【0048】
[懸濁重合法による粒子状重合体の調製]
(1)単量体組成物の調製
はじめに、所望の粒子状重合体を構成する単量体、及び必要に応じて添加されるその他の配合剤を混合し、単量体組成物の調製を行う。
(2)液滴の形成
次に、単量体組成物を、水中に分散させ、重合開始剤を添加した後、単量体組成物の液滴を形成する。ここで、液滴を形成する方法は特に限定されず、例えば、単量体組成物を含む水を、乳化分散機などの分散機を用いて剪断撹拌することにより形成することができる。
【0049】
その際、用いる重合開始剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性重合開始剤が挙げられる。なお、重合開始剤は、単量体組成物が水中に分散された後、液滴を形成する前に添加してもよく、水中に分散される前の単量体組成物に添加してもよい。
【0050】
そして、形成された単量体組成物の液滴を水中で安定化させる観点からは、分散安定剤を水中に添加して単量体組成物の液滴を形成することが好ましい。その際、分散安定剤としては、例えば、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物や、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0051】
(3)重合
そして、単量体組成物の液滴を形成後、当該形成された液滴を含む水を昇温して重合を開始することで、水中に粒子状重合体が形成される。その際、重合の反応温度は、好ましくは50℃以上95℃以下である。また、重合の反応時間は、好ましくは1時間以上10時間以下であり、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0052】
(4)洗浄、濾過、脱水及び乾燥工程
重合終了後、粒子状重合体を含む水を、常法に従い、洗浄、濾過、及び乾燥を行うことで、粒子状重合体を得ることができる。
【0053】
<結着材>
機能層用組成物中に含まれる結着材は、本発明の機能層用組成物を用いて形成した機能層に含まれる粒子状重合体などの成分が機能層から脱落するのを抑制するために用いられる。
【0054】
そして、結着材としては、特に限定されることなく、非水溶性で、水などの分散媒中に分散可能な既知の重合体、例えば、熱可塑性エラストマーなどの結着樹脂が挙げられる。そして、熱可塑性エラストマーとしては、共役ジエン系重合体、及びアクリル系重合体が好ましく、アクリル系重合体がより好ましい。
【0055】
ここで、共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含む重合体を指す。そして、共役ジエン系重合体の具体例としては、特に限定されることなく、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル単量体単位及び脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体、ブタジエンゴム(BR)、アクリルゴム(NBR)(アクリロニトリル単位及びブタジエン単位を含む共重合体)、並びに、それらの水素化物などが挙げられる。
また、アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体を指す。
なお、これらの結着材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0056】
そして、結着材として好ましく使用し得るアクリル系重合体としては、特に限定されることなく、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、架橋性単量体単位と、以下に説明する酸基含有単量体単位とを含有する単量体などが挙げられる。
【0057】
-酸基含有単量体単位-
ここで、酸基含有単量体単位を形成し得る酸基含有単量体としては、例えば、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、及び、水酸基を有する単量体が挙げられる。
【0058】
そして、カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸などが挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
また、スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アリル」とは、アリル及び/またはメタリルを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル及び/またはメタクリルを意味する。
更に、リン酸基を有する単量体としては、例えば、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/またはメタクリロイルを意味する。
また、水酸基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
なお、これらの酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0059】
なお、アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは58質量%以上であり、好ましくは98質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは96質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記下限以上にすることにより、機能層のピール強度をより高くすることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記上限以下にすることにより、機能層を備える電気化学素子の電気化学特性をより高めることができる。
【0060】
また、アクリル系重合体における架橋性単量体単位の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。架橋性単量体単位の割合を上記下限以上にすることにより、機能層を備える電気化学素子の電気化学特性を更に高めることができる。また、架橋性単量体単位の割合を上記上限以下にすることにより、機能層のピール強度をより一層高くすることができる。
【0061】
そして、アクリル系重合体における酸基含有単量体単位の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。酸基含有単量体単位の割合を上記下限以上にすることにより、機能層用組成物中及び機能層中における結着材の分散性を高め、機能層を備える電気化学素子の電気化学特性を十分に高めることができる。また、酸基含有単量体単位の割合を上記上限以下にすることにより、機能層の残存水分量を低減して電気化学素子の電気化学特性を十分に高めることができる。
【0062】
さらに、アクリル系重合体は、その他の単量体単位を含んでいてもよい。そして、アクリル系重合体に含まれ得るその他の単量体単位を形成し得る、その他の単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン等の脂肪族共役ジエン単量体;「粒子状重合体の組成」の項で説明した芳香族ビニル単量体およびニトリル基含有単量体、エチレン、プロピレン等のオレフィン単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン単量体;並びに、N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体が挙げられる。中でも、その他の単量体としては、アクリロニトリルが好ましい。
なお、これらその他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、アクリル系重合体におけるその他の単量体単位の含有割合は、適宜調整すればよい。
【0063】
<<結着材のガラス転移温度>>
そして、結着材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-100℃以上であり、より好ましくは-90℃以上であり、更に好ましくは-80℃以上であり、好ましくは30℃未満であり、より好ましくは20℃以下であり、更に好ましくは15℃以下である。結着材のガラス転移温度が上記下限以上であれば、結着材の接着性及び強度を高めることができる。一方、結着材のガラス転移温度が上記上限以下であれば、機能層の柔軟性をより高めることができる。
【0064】
<<結着材の体積平均粒子径>>
また、結着材は、体積平均粒子径が、0.1μm以上であることが好ましく、0.4μm以下であることが好ましい。結着材の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、機能層中のイオン伝導性が低下するのをより抑制して、電気化学素子の電気化学特性(特に、出力特性)を向上させることができる。一方、結着材の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、機能層のピール強度を十分に高めることができる。
なお、結着材の体積平均粒子径は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0065】
[結着材の含有量]
そして、機能層中の結着材の含有量は、無機粒子と粒子状重合体との合計100質量部あたり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。機能層中の結着材の含有量が上記下限以上であれば、粒子状重合体が機能層から脱落するのを十分に防止するとともに、機能層のピール強度を十分に高めることができる。一方、機能層中の結着材の含有量が上記上限以下であれば、機能層のイオン伝導性が低下するのを抑制し、電気化学素子の電気化学特性が低下するのを抑制することができる。
【0066】
なお、結着材は、特に限定されることなく、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、例えば水などの水系溶媒中で重合することにより調製することができる。ここで、単量体組成物中の各単量体の割合は、通常、結着材中の各単量体単位の割合と同様とする。
【0067】
そして、重合方法及び重合反応としては、特に限定されず、例えば、上述した粒子状重合体の重合方法で挙げた重合方法及び重合反応を用いることができる。
【0068】
また、結着材の形状は、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよいが、機能層に含まれる成分が脱落することを良好に抑制する観点からは、結着材の形状は粒子状であることが好ましい。
【0069】
<無機粒子>
機能層用組成物に含まれる無機粒子は、通常は、機能層の耐熱性を高くすることができる。ここで、無機粒子の材料としては、電気化学素子の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定であることが好ましい。このような観点から、無機粒子の好ましい材料として、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト(AlOOH))、ギブサイト(Al(OH3))、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化ジルコニウム(ZrO)、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト)、酸化チタン、及び硫酸バリウムがより好ましく、酸化アルミニウムが更に好ましい。また、これらの粒子は、必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
なお、これらの無機粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
<無機粒子の体積平均粒子径>
そして、無機粒子の体積平均粒子径(D50)は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.9μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。無機粒子の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、機能層中に無機粒子が密に充填される。そのため、機能層中のイオン伝導性が低下するのをより抑制して、電気化学素子の電気化学特性(特に、出力特性)を向上させることができる。また、無機粒子の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、機能層を薄くした場合でも、優れた耐熱性を機能層に発揮させることができるため、電気化学素子の容量を高めることができる。
【0071】
<無機粒子と粒子状重合体との混合比率>
そして、機能層用組成物中の無機粒子と粒子状重合体との混合比率は、体積比(無機粒子:粒子状重合体)で、95:5~55:45であることが好ましく、80:20~55:45であることがより好ましく、75:25~60:40であることが更に好ましく、70:30~65:35であることが特に好ましい。無機粒子と粒子状重合体との混合比率が体積比で上記範囲内であれば、機能層の耐熱性と接着性のバランスが良好になる。
【0072】
また、機能層用組成物中の無機粒子と粒子状重合体との混合比は、質量比(無機粒子:粒子状重合体)で、49:51~99:1であることが好ましく、58:42~94:6であることがより好ましく、64:39~91:9であることが更に好ましい。無機粒子と粒子状重合体との混合比率が質量比で上記範囲内であれば、機能層の耐熱性と接着性のバランスがより良好になる。
【0073】
<その他の成分>
機能層用組成物は、上述した成分以外に、任意のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は、電気化学素子における電気化学反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、例えば、分散剤、粘度調整剤、濡れ剤などの既知の添加剤が挙げられる。これらのその他の成分は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
<電気化学素子機能層用組成物の調製方法>
機能層用組成物の調製方法は、特に限定されることなく、例えば、上述した粒子状重合体と、結着材と、無機粒子と、分散媒としての水と、必要に応じて用いられるその他の成分とを混合することにより調製できる。なお、水系溶媒中で単量体組成物を重合して粒子状重合体や結着材を調製した場合には、粒子状重合体や結着材は、水分散体の状態でそのまま他の成分と混合してもよい。また、粒子状重合体や結着材を水分散体の状態で混合する場合には、水分散体中の水を分散媒として用いてもよい。
【0075】
ここで、上述した成分の混合方法は特に制限されないが、各成分を効率よく分散させるべく、混合装置として分散機を用いて混合を行うことが好ましい。そして、分散機は、上記成分を均一に分散及び混合できる装置が好ましい。分散機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。
【0076】
(電気化学素子用機能層)
電気化学素子用機能層は、上述した機能層用組成物を用い、例えば、適切な基材上に形成することができる。ここで、機能層には、少なくとも、上述した粒子状重合体、結着材、無機粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とが含まれている。なお、機能層中に含まれている各成分は、上記機能層用組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、機能層用組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0077】
ここで、機能層用組成物を用いて基材上に機能層を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、
1)機能層用組成物を基材の表面に塗布し、次いで乾燥する方法
2)機能層用組成物に基材を浸漬後、これを乾燥する方法
3)機能層用組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して機能層を形成し、得られた機能層を基材の表面に転写する方法
が挙げられる。なお、機能層は、基材の片面のみの上に形成してもよいし、基材の両面上に形成してもよい。
【0078】
これらの中でも、上記1)の方法が、機能層の厚みを制御し易いことから好ましい。そして、上記1)の方法は、例えば、機能層用組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布された機能層用組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(機能層形成工程)を含んでいてもよい。
【0079】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、機能層用組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0080】
[機能層形成工程]
また、機能層形成工程において、基材上の機能層用組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは50~150℃で、乾燥時間は好ましくは1~30分である。
【0081】
そして、基材に形成された機能層は、基材の耐熱性を高める耐熱層としての機能と、部材同士を強固に接着させる接着剤層としての機能とを同時に発現させる単一の層として、好適に使用することができる。
【0082】
また、上述のように機能層用組成物を用いて形成された機能層を備える基材(以下、「機能層付き基材」と称することもある。)は、従来の耐熱層及び接着剤層を備える基材に比べて、より短縮した工数及び時間で製作することができるため、生産性が高い。
【0083】
ここで、機能層用組成物を用いて形成した機能層において、通常、複数の無機粒子が機能層の厚み方向に積み重なるようにして配置されている。そして、無機粒子が機能層の厚み方向に積み重なってなる層(以下、「無機粒子層」ともいう。)の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは4μm以下である。無機粒子層の厚みが上記下限以上であれば、機能層の耐熱性が極めて良好となる。一方、無機粒子層の厚みが上記上限以下であれば、機能層のイオン拡散性を確保して、電気化学素子の電気化学特性(出力特性)を更に十分に高めることができる。
【0084】
[無機粒子層の厚みに対する粒子状重合体の体積平均粒子径の比]
また、上記無機粒子層の厚みに対する粒子状重合体の体積平均粒子径の比(粒子状重合体の体積平均粒子径/無機粒子層の厚み)は、好ましくは0.75以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.5以上であり、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下である。無機粒子層の厚みに対する粒子状重合体の体積平均粒子径の比が上記下限以上であれば、機能層の厚み方向表面において、無機粒子の表面に対して粒子状重合体が更に突出し易くなるため、更に良好な接着性が発揮され得る。また、無機粒子層の厚みに対する粒子状重合体の体積平均粒子径の比が上記下限以上であれば、機能層用組成物を基材に塗布する際に粒子状重合体が脱落することを更に抑制して、更に均一な機能層を形成することができる。
【0085】
[機能層の最大厚み]
更に、基材上に形成された機能層の最大厚みは、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは2.0μm以上であり、特に好ましくは2.5μm以上であり、最も好ましくは5.0μm以上であり、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは9.0μm以下、更に好ましくは8.0μm以下である。即ち、形成された機能層中で、上述した無機粒子層と、粒子状重合体とは、機能層の厚み方向において互いに重なっておらず、機能層の厚みは、機能層中に含まれる粒子状重合体の体積平均粒子径と等しいことが好ましい。そして、機能層の最大厚みが上記下限以上であれば、機能層の耐熱性が極めて良好となる。一方、機能層の最大厚みが上記上限以下であれば、機能層のイオン拡散性を確保して、電気化学素子の電気化学特性(出力特性)を更に十分に高めることができる。
なお、本明細書において、「機能層の最大厚み」は、例えば、電解放出型操作電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0086】
(電気化学素子)
本発明の機能層を備える電気化学素子は、少なくとも本発明の機能層を備えていればよく、従って、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明の機能層以外の構成要素を備えていてもよい。
【0087】
そして、本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、例えば、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0088】
ここで、以下では、本発明の電気化学素子の一例としてのリチウムイオン二次電池について説明する。本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上述した本発明の機能層を備えるものである。より具体的には、リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、本発明の機能層がセパレータ基材上に形成されてなるセパレータ(機能層付きセパレータ)と、電解液とを備えるものである。なお、機能層は、セパレータ基材の片面のみ上に形成されていてもよいし、セパレータ基材の両面上に形成されていてもよい。
【0089】
そして、本発明に係るリチウムイオン二次電池では、機能層により、正極とセパレータ基材、および/または、負極とセパレータ基材が、電解液中において強固に接着されている。そのため、充放電の繰り返しに伴う電極の極板間の距離の拡大も抑制されて、サイクル特性などの電池特性が良好なものとなっている。また、このリチウムイオン二次電池においては、機能層により、セパレータ基材の耐熱性が向上している。更に、このリチウムイオン二次電池は、従来の耐熱層及び接着剤層を備えるセパレータを使用する場合と比較し、セパレータの製造に要する時間を短縮して高い生産性で製造することができる。
【0090】
なお、上述した正極、負極及び電解液としては、リチウムイオン二次電池において用いられている既知の正極、負極及び電解液を使用することができる。
【0091】
<正極及び負極>
具体的には、電極(正極及び負極)としては、電極合材層を集電体上に形成してなる電極を用いることができる。なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。これらの中でも、負極用の集電体としては、銅からなる集電体を用いることが好ましい。また、正極用の集電体としては、アルミニウムからなる集電体を用いることが好ましい。更に、電極合材層としては、電極活物質とバインダーとを含む層を用いることができる。
【0092】
<機能層付きセパレータ>
機能層付きセパレータは、例えば、上述した「電気化学素子用機能層」の項で挙げた機能層を形成する方法を用いてセパレータ基材に機能層を形成することにより作製することができる。
【0093】
ここで、セパレータ基材としては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、機能層付きセパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという観点から、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0094】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLi等が挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すことから、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0095】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(エチルメチルカーボネート(EMC))、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;等が好適に用いられる。
【0096】
またこれら有機溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いことから、カーボネート類が好ましい。通常、用いる有機溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、有機溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0097】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、例えば、上述した正極と負極とを機能層付きセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折る等して電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。ここで、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、リード板等を入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型等、何れであってもよい。
【実施例
【0098】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される構造単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
【0099】
実施例及び比較例において、ガラス転移温度、体積平均粒子径、粒径分布、電解液膨潤度、平均円形度、無機粒子層の厚み、及び、無機粒子と粒子状重合体の混合比率は、下記の方法で測定した。また、プロセス接着性、機能層の耐ブロッキング性、機能層の耐熱性、電解液注液性、二次電池のサイクル特性、二次電池の出力特性、及び機能層の耐粉落ち性は、下記の方法で測定及び評価した。
【0100】
<ガラス転移温度>
実施例及び比較例で調製した粒子状重合体及び結着材を測定試料とした。測定試料10mgをアルミパンに計量し、示差熱分析測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「EXSTAR DSC6220」)にて、リファレンスとして空のアルミパンを用い、測定温度範囲-100℃~500℃の間で、昇温速度10℃/分で、JIS Z 8703に規定された条件下で測定を実施し、示差走査熱量分析(DSC)曲線を得た。この昇温過程で、微分信号(DDSC)が0.05mW/分/mg以上となるDSC曲線の吸熱ピークが出る直前のベースラインと、吸熱ピーク後に最初に現れる変曲点でのDSC曲線の接線との交点を、ガラス転移温度(℃)として求めた。
【0101】
<体積平均粒子径>
<<粒子状重合体の体積平均粒子及び粒径分布>>
実施例及び比較例で調製した粒子状重合体を測定試料とした。測定試料0.1g相当量を秤量し、ビーカーに取り、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸水溶液(富士フイルム社製、「ドライウエル」)0.1mLを加えた。上記ビーカーに、更に、希釈液(ベックマン・コールター社製、「アイソトンII」)を10~30mL加え、20W(Watt)の超音波分散機で3分間分散させた。その後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、「マルチサイザー」)を用いて、アパーチャー径:20μm、媒体:アイソトンII、測定粒子個数:100,000個の条件下で、測定試料の体積平均粒子径(Dv)を測定した。また、粒子状重合体については個数平均粒子径(Dn)も測定し、粒径分布(Dv/Dn)を算出した。
【0102】
<<結着材の体積平均粒子径>>
実施例で調製した結着材の体積平均粒子径は、レーザー回折法にて測定した。具体的には、調製した結着材を含む水分散溶液(固形分濃度0.1質量%に調整)を試料とした。そして、レーザー回折式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、「LS-230」)を用いて測定された粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径D50を、体積平均粒子径とした。
【0103】
<電解液膨潤度>
実施例及び比較例で調製した粒子状重合体を含む水分散液をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレに入れ、25℃、48時間の条件で乾燥して粉末を調製した。得られた粉末0.2g程度を、200℃、5MPaで、2分間プレスしフィルムを得た。そして、得られたフィルムを1cm角に裁断し、試験片を得た。この試験片の質量W0を測定した。
また、上述の試験片を、電解液に60℃で72時間浸漬した。その後、試験片を電解液から取り出し、試験片の表面の電解液を拭き取り、浸漬後の試験片の質量W1を測定した。
測定した質量W0及びW1を用いて、電解液膨潤度S(倍)を、S=W1/W0にて計算した。
なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、ビニレンカーボネート(VC)との混合溶媒(体積比:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5に、支持電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度で溶かしたものを用いた。
【0104】
<平均円形度>
実施例及び比較例で調製した粒子状重合体を測定試料とした。容器中に、予めイオン交換水10mLを入れ、その中に分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸)0.02gを加え、更に測定試料0.02gを加え、超音波分散機を用いて60W(Watt)で3分間、分散処理を行った。測定時の測定試料の濃度が3,000~10,000個/μLとなるように調整し、0.4μm以上の円相当径の測定試料1,000~10,000個についてフロー式粒子像分析装置(シメックス社製、「FPIA-3000」)を用いて測定した。なお、円形度は下記式(I)に示され、平均円形度は、その平均をとったものである。
円形度=粒子状重合体の投影面積に等しい円の周囲長/粒子状重合体の投影像の周囲長 ・・・(I)
【0105】
<無機粒子層の厚み>
機能層付きセパレータの断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて観察し、得られた画像から、無機粒子層の厚みを算出した。なお、無機粒子層の厚みは、機能層が形成された側のセパレータの表面から、機能層の表面を形成する無機粒子までの鉛直方向の距離とした。
【0106】
<無機粒子と粒子状重合体の混合比率>
スラリー組成物を調製した際の無機粒子(アルミナ)及び粒子状重合体の仕込量から、無機粒子(アルミナ)と粒子状重合体との混合比率(体積比)を求めた。なお、アルミナの密度は4g/cm3として計算した。
【0107】
<プロセス接着性>
実施例及び比較例で作製した正極及び機能層付きセパレータを、それぞれ幅10mm、長さ50mmに切り出し、正極及び機能層付きセパレータを積層させ、温度70℃、荷重10kN/m、プレス速度30m/分の条件で、ロールプレスを用いてプレスし、正極と機能層付きセパレータとを一体化させた一体化物を得た。
得られた一体化物を、正極の集電体側の面を下にして、正極の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、機能層付きセパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。
また、実施例及び比較例で作製した負極に対しても、正極を用いた場合と同様の操作を行い、応力を測定した。
上述した応力の測定を、正極及び機能層付きセパレータの一体化物、並びに、負極及び機能層付きセパレータの一体化物でそれぞれ3回、合計6回行い、応力の平均値を求めて、得られた平均値をピール強度(N/m)とした。
そして、算出されたピール強度を用いて、以下の基準により電極と機能層付きセパレータとのプロセス接着性を評価した。ピール強度が大きいほど、プロセス接着性(電池の性製造プロセス中における電池部材の接着性)が高いことを意味する。
A:ピール強度が3N/m以上
B:ピール強度が2N/m以上3N/m未満
C:ピール強度が1N/m以上2N/m未満
D:ピール強度が1N/m未満
【0108】
<機能層の耐ブロッキング性>
実施例及び比較例で作製した機能層付きセパレータを幅4cm×長さ4cmのサイズに2枚切り出して試験片とした。得られた2枚の試験片を、機能層側が対向するようにして重ね合わせた後に、温度40℃、圧力5MPaの加圧下で、2分間プレスしてプレス体を得た。得られたプレス体の一方端を固定し、プレス体の他方端を引張速度50mm/分で鉛直上方に引っ張って剥がしたときの応力を測定し、得られた応力をブロッキング強度とした。そして、ブロッキング強度を、以下の基準で評価した。ブロッキング強度が小さいほど、機能層はブロッキングの発生を良好に抑制する、即ち、機能層の耐ブロッキング性が高いことを示す。
A:ブロッキング強度が4N/m未満
B:ブロッキング強度が4N/m以上6N/m未満
C:ブロッキング強度が6N/m以上8N/m未満
D:ブロッキング強度が8N/m以上10N/m未満
E:ブロッキング強度が10N/m以上
【0109】
<機能層の耐熱性>
実施例及び比較例で作製した機能層付きセパレータを、幅12cm×長さ12cmの正方形に切り出し、得られた正方形片の内部に1辺が10cmの正方形を描いて試験片とした。そして、試験片を150℃の恒温槽に入れて1時間放置した後、内部に描いた正方形の面積変化[={(放置前の正方形の面積-放置後の正方形の面積)/放置前の正方形の面積}×100%)]を熱収縮率として求め、以下の基準で評価した。熱収縮率が小さいほど、機能層付きセパレータの耐熱性が優れていることを示す。
A:熱収縮率が3%未満
B:熱収縮率が3%以上5%未満
C:熱収縮率が5%以上10%未満
D:熱収縮率が10%以上
【0110】
<電解液注液性>
実施例及び比較例で作製した、電解液を注液する前のリチウムイオン二次電池に電解液を注液した。そして、リチウムイオン二次電池の内部を-100kPaまで減圧しその状態で1分間保持した。その後ヒートシールを実施した。そして10分後に電極(正極)を解体し、電極における電解液の含浸状態を目視で確認した。そして以下の基準により評価した。電極において、電解液が含浸されている部分が多いほど、電解液注液性が高いことを示す。
A:電解液が電極のすべての面に含浸されている。
B:電極において、電解液が含浸されていない部分が、1cm2未満残っている(すべての面に含浸されていることを除く)
C:電極において、電解液が含浸されていない部分が、1cm2以上残っている
【0111】
<二次電池のサイクル特性>
実施例及び比較例で作製したリチウムイオン二次電池を、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い、0.2Cの定電流法にて3.00VまでCC放電した。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。
その後、温度25℃の環境下、セル電圧4.20-3.00V、1.0Cの充放電レートにて充放電の操作を100サイクル行った。その際、第1回目のサイクルの放電容量をX1,第100回目のサイクルの放電容量をX2と定義した。
そして、放電容量X1及び放電容量X2を用いて、容量維持率ΔC´=(X2/X1)×100(%)を求め、以下の基準により評価した。容量維持率ΔC´の値が大きいほど、二次電池はサイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率ΔC´が93%以上
B:容量維持率ΔC´が90%以上93%未満
C:容量維持率ΔC´が87%以上90%未満
D:容量維持率ΔC´が87%未満
【0112】
<二次電池の出力特性>
実施例及び比較例で作製したリチウムイオン二次電池を、温度25℃の雰囲気下で、4.3Vまで定電流定電圧(CCCV)充電し、セルを準備した。準備したセルを、0.2C及び1.5Cの定電流法によって、3.0Vまで放電し、電気容量を求めた。そして、電気容量の比[=(1.5Cでの電気容量/0.2Cでの電気容量)×100(%)]で表わされる放電容量維持率を求めた。この測定を、リチウムイオン二次電池5セルについて行なった。そして、各セルの放電容量維持率の平均値を求め、以下の基準で評価した。放電容量維持率の平均値が大きいほど、二次電池は出力特性に優れていることを示す。
A:放電容量維持率の平均値が90%以上
B:放電容量維持率の平均値が85%以上90%未満
C:放電容量維持率の平均値が75%以上85%未満
D:放電容量維持率の平均値が75%未満
【0113】
<機能層の耐粉落ち性>
実施例及び比較例で作製した機能層付きセパレータを5cm×5cmに切り出し、得られた機能層付きセパレータ片の質量(a)を測定した。次に、機能層付きセパレータ片を500mlのガラス瓶に入れ、振とう機を用いて、300rpmの回転数にて3時間振とうさせた。そして、振とう後の機能層付きセパレータ片の質量(b)を測定し、下記式(II)に従って、粉落ち率を算出した。
粉落ち率(質量%)=[(a-b)/a]×100 ・・・(II)
そして、機能層の耐粉落ち性を以下の基準により評価した。粉落ち率の値が小さいほど、機能層から粒子状重合体などの機能層を構成する成分が脱落することがなく、耐粉落ち性に優れていることを示す。
A:粉落ち率が1質量%未満
B:粉落ち率が1質量%以上3質量%未満
C:粉落ち率が3質量%以上5質量%未満
D:粉落ち性が5質量%以上
【0114】
(実施例1)
<粒子状重合体(A)の調製>
[単量体組成物(A)の調製]
芳香族ビニル単量体としてのスチレン81.9部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート18部、及び架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を混合して、単量体組成物(A)を調製した。
【0115】
[金属水酸化物の調製]
イオン交換水200部に塩化マグネシウム8部を溶解してなる水溶液(A1)に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム5.6部を溶解してなる水溶液(A2)を撹拌下で徐々に添加して、金属水酸化物としての水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)を調製した。
【0116】
[懸濁重合法]
懸濁重合法により粒子状重合体(A)を調製した。具体的には、上記水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)に、上述のようにして得た単量体組成物(A)を投入し、更に撹拌した後、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油社製、「パーブチル(登録商標)O」)2.0部を添加して混合液を得た。得られた混合液を、インライン型乳化分散機(太平洋機工社製、「キャビトロン」)を用いて15,000rpmの回転数で1分間高剪断撹拌して、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)中に、単量体組成物(A)の液滴を形成した。
【0117】
上記単量体組成物(A)の液滴が形成された、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)を反応器に入れ、90℃に昇温して5時間重合反応を行ない、粒子状重合体(A)を含む水分散液を得た。
上記粒子状重合体(A)を含む水分散液を用いて、粒子状重合体(A)の体積平均粒子径、粒径分布、及び電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
【0118】
更に、上記粒子状重合体(A)を含む水分散液を撹拌しながら、室温(25℃)下で硫酸を滴下し、pHが6.5以下となるまで酸洗浄を行った。次いで、濾過分離を行い、得られた固形分にイオン交換水500部を加えて再スラリー化させて、水洗浄処理(洗浄、濾過及び脱水)を数回繰り返し行った。それから、濾過分離を行い、得られた固形分を乾燥器の容器内に入れ、40℃で48時間乾燥を行い、乾燥した粒子状重合体(A)を得た。
得られた粒子状重合体(A)のガラス転移温度及び平均円形度を測定した。結果を表1に示す。
【0119】
<結着材(α)を含む水分散液の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、「エマール(登録商標)2F」)0.15部、及び重合開始剤としての過流酸アンモニウム0.5部を供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器で、イオン交換水50部、分散安定剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート94部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸2部、及びニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル2部、並びに架橋性単量体としてのアリルメタクリレート1部及びアリルグリシジルエーテル1部を混合して、単量体組成物(α)を調製した。
得られた単量体組成物(α)を4時間かけて上述した撹拌機を備えた反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、更に70℃で3時間撹拌してから反応を終了し、アクリル系重合体としての粒子状の結着材(α)を含む水分散液を得た。得られた粒子状の結着材(α)は、体積平均粒子径が0.25μmであり、ガラス転移温度は-40℃であった。
【0120】
<スラリー組成物の調製>
無機粒子としてのアルミナ(住友化学社製、「AKP3000」、体積平均粒子径:0.7μm)100部に分散剤としてのポリアクリル酸0.5部を添加し、結着材(α)を含む水分散液を固形分相当で6部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1.5部とを添加し、固形分濃度が55%となるようにイオン交換水を加え、ボールミルを用いて混合し、混合前スラリーを得た。
粒子状重合体(A)100部に対して、界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王ケミカル社製、「ネオペレックスG―15」)0.2部を添加し、固形分濃度が40%となるように混合し、得られた混合液を、上記のようにして得た混合前スラリーに加えた。更に固形分濃度が40%となるようにイオン交換水を添加して、無機粒子(アルミナ)と粒子状重合体(A)との混合比率が表1に示す混合比率となるスラリー組成物(機能層用組成物)を得た。
【0121】
<機能層付きセパレータの作製>
ポリエチレン製の微多孔膜(厚み:12μm)をセパレータ基材として用意した。このセパレータ基材の一方の面に、上述のようにして得たスラリー組成物をバーコーター法により塗布した。次に、スラリー組成物が塗布されたセパレータ基材を50℃で1分間乾燥し、機能層を形成した。同様の操作をセパレータ基材の他方の面に対しても行い、セパレータ基材の両面にそれぞれ機能層を備える機能層付きセパレータを作製した。なお、それぞれの機能層における無機粒子層の厚みは2.0μmとした。
【0122】
<正極の作製>
正極活物質としてのLiCoO2(体積平均粒子径:12μm)を100部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、「HS-100」)を2部、正極合材層用結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、「#7208」)を固形分相当で2部、及び溶媒としてのN-メチルピロリドンを混合し、全固形分濃度を70%とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
上記正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体としての厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、プレス前の正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層(厚さ:60μm)を備えるプレス後の正極を得た。
【0123】
<負極の作製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、スチレン63.5部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却して反応を停止し、負極合材層用結着材(SBR)を含む混合物を得た。この負極合材層用結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の負極合材層用結着材を含む水分散液を得た。
負極活物質(1)としての人造黒鉛(体積平均粒子径:15.6μm)80部、負極活物質(2)としてシリコン系活物質SiOx(体積平均粒径:4.9μm)16部を配合し、粘度調整剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で2.5部、及びイオン交換水を混合して固形分濃度68%に調整した後、25℃で60分間更に混合した。更にイオン交換水で固形分濃度を62%に調整した後、25℃で15分間更に混合し、混合液を得た。この混合液に、上記負極合材層用結着材を含む水分散液を固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が52%となるように調整し、更に10分間混合し、混合液を得た。この混合液を減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
上記負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体としての厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、プレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層(厚さ:80μm)を備えるプレス後の負極を得た。
【0124】
上述のようにして得た機能層付きセパレータ、正極、及び負極を用いて、プロセス接着性、機能層の耐ブロッキング性、機能層の耐熱性、及び機能層の耐粉落ち性を評価した。結果を表1に示す。
【0125】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上述のようにして作製したプレス後の正極を49cm×5cmの長方形に切り出して、正極合材層側の表面が上側になるように置き、その正極合材層上に、120cm×5.5cmに切り出した上記機能層付きセパレータを、正極が機能層付きセパレータの長手方向の一方側に位置するように配置した。更に、上述のようにして作製したプレス後の負極を50cm×5.2cmの長方形に切り出し、機能層付きセパレータ上に、負極合材層側の表面が機能層付きセパレータに対向し、且つ、負極が機能層付きセパレータの長手方向の他方側に位置するように配置した。そして、得られた積層体を捲回機によって捲回し、捲回体を得た。この捲回体を70℃、1MPaでプレスし、扁平体とした後、電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液[溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ビニレンカーボネート(体積比)=68.5/30/1.5、電解質:濃度1MのLiPF6)]を空気が残らないように注入した。そして、アルミ包材外装の開口を温度150℃でヒートシールして閉口して、容量800mAhの捲回型リチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池を用いて二次電池の電解液注液性、サイクル特性及び二次電池の出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例2)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
<粒子状重合体(B)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、金属水酸化物としての水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)に替えて、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(B)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(B)を調製した。
なお、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(B)は、イオン交換水200部に塩化マグネシウム10.0部を溶解してなる水溶液(B1)に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム7.0部を溶解してなる水溶液(B2)を撹拌下で徐々に添加することにより調製した。
【0128】
(実施例3)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(C)を用いた。また、乳化剤として用いたドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を、粒子状重合体及びアルミナの合計100部に対して0.2部となる量に調整した。それ以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
<粒子状重合体(C)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、金属水酸化物としての水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)に替えて、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(C)を得た。
【0130】
(実施例4)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(D)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
<粒子状重合体(D)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、金属水酸化物としての水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)に替えて、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(D)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(D)を調製した。
なお、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(D)は、イオン交換水200部に塩化マグネシウム6.0部を溶解してなる水溶液(D1)に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム4.2部を溶解してなる水溶液(D2)を撹拌下で徐々に添加することにより調製した。
【0132】
(実施例5)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、乳化重合凝集法を用いて以下のようにして調製した粒子状重合体(E)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
<粒子状重合体(E)の調製>
(1)樹脂微粒子の調製
フラスコ内で、芳香族ビニル単量体としてのスチレン81.9部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート18部、及び架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を混合して、単量体組成物(E)を調製した。
一方、セパラブルフラスコ中で、アニオン性界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7部をイオン交換水373部に溶解して、界面活性剤溶液を調製した。
上記界面活性剤溶液に、上述のようにして得た単量体組成物(E)を添加し、乳化分散機(エムテクニック製、「クレアミックス」)を用いて分散させて、単量体組成物(E)の乳化分散液を調製した。
得られた乳化分散液にイオン交換水400部を添加した後、重合開始剤としての過硫酸カリウム2.1部を含む水溶液(過硫酸カリウム2.1部をイオン交換水39.6部に溶解させてなる水溶液)と、分子量調整剤としてのn-オクチルメルカプタン1.9部とを添加し、80℃で3時間、重合(一段目の重合)を行った。
さらに、重合開始剤としての過硫酸カリウム3.2部を含む水溶液(過硫酸カリウム3.2部をイオン交換水61.3部に溶解させてなる水溶液)を添加した後、芳香族ビニル単量体としてのスチレン81.1部、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてのメタクリル酸12.0部及びn-ブチルアクリレート36.8部、並びに分子量調整剤としてのn-オクチルメルカプタン2.1部を滴下することにより添加した。滴下後、2時間の間そのままの温度(80℃)に保持することで重合(二段目の重合)を行った。
重合後、反応液を水冷し、樹脂微粒子を含む分散液を得た。
【0134】
(2)樹脂粒子の調製
上述のようにして得た樹脂微粒子を含む分散液を固形分相当で150部、イオン交換水645部をフラスコに入れて、撹拌した。得られた分散液の温度を30℃に調整した後、pHが10になるまで水酸化ナトリウム水溶液(濃度:5mol/L)を加えた。
次いで、上記分散液に、塩化マグネシウム・6水和物32部をイオン交換水32部に溶解してなる水溶液を、撹拌下、30℃で10分間かけて添加した。その後、この分散液を60分間で90℃まで昇温し、撹拌及び加熱を続けながら、樹脂微粒子同士の塩析による凝集と加熱による融着を行い、樹脂粒子を形成した。
そして、撹拌及び加熱を継続しながら、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、「マルチサイザー」)を用いて樹脂粒子の粒径を測定し、形成された樹脂粒子の体積平均粒径が3μmになった時点で、塩化ナトリウム8.8部をイオン交換水57.7部に溶解してなる水溶液を添加して、塩析及び融着を停止させた。加熱及び撹拌を90℃で3時間継続して、粒子形状の制御を行い、粒子状重合体(E)を含む分散液を得た。
上記粒子状重合体(E)を含む分散液を脱水し、イオン交換水を用いて水洗浄を行った後、真空乾燥機を用いて、圧力30torr、温度50℃で1日間、乾燥して、粒子状重合体(E)を得た。
【0135】
(実施例6)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、粉砕法を用いて以下のようにして調製した粒子状重合体(F)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0136】
<粒子状重合体(F)の調製>
芳香族ビニル単量体としてのスチレン81.9部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート18部、及び架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部をトルエン中に混合した。重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5部を添加して、70℃で10時間反応させた。反応後、メタノールにて沈殿生成を行い、真空乾燥を経て、重合体(F)を得た。次いで、得られた重合体(F)を、ジェットミルを用いて粉砕した。得られた粉砕物を気流分流機(ホソカワミクロン社製、「100ATP」)で分級した。
その後、分級した粉砕物に対して熱球形化処理を施して、粒子状重合体(F)を得た。なお、熱球形化処理は、温度270℃の雰囲気下、熱球形化装置(日本ニューマチック社製、「SFS3型」)を用いて行った。
【0137】
(実施例7)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(G)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0138】
<粒子状重合体(G)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、単量体組成物(A)に替えて、単量体組成物(G)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(G)を調製した。
単量体組成物(G)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20.9部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのメチルメタクリレート59部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を混合して調製した。
【0139】
(実施例8)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(H)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0140】
<粒子状重合体(H)の調製>
粒子状重合体を調製するに当たり、単量体組成物(A)に替えて、単量体組成物(H)を使用するとともに、得られた粒子状重合体に対し、更に微粉及び粗粉カット処理を施したした以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(H)を調製した。
具体的には、単量体組成物(H)は、芳香族ビニル単量体としてのスチレン60部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート39.9部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を混合して調製した。
そして、単量体組成物(H)を用いて得られた粒子状重合体に対して、分級機(ホソカワホソカワミクロン社製、「アルピネ」)を用いて微分及び粗粉カット処理を施し、粒子状重合体(H)を得た。
【0141】
(実施例9)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(I)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0142】
<粒子状重合体(I)の調製>
懸濁重合法を行うにあたり、高剪断撹拌を行う時間を10秒間に替えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(I)を得た。
【0143】
(実施例10)
スラリー組成物を調製するにあたり、スラリー組成物中のアルミナと粒子状重合体(A)との混合比率が、体積比[アルミナ:粒子状重合体(A)]で80:20になるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0144】
(実施例11)
スラリー組成物を調製するにあたり、スラリー組成物中のアルミナと粒子状重合体(A)との混合比率が、体積比[アルミナ:粒子状重合体(A)]で55:45になるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0145】
(実施例12)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(J)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0146】
<粒子状重合体(J)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、単量体組成物(A)に替えて、単量体組成物(J)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(J)を調製した。
単量体組成物(J)は、芳香族ビニル単量体としてのスチレン35部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート64.9部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を混合して調製した。
【0147】
(実施例13)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(K)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0148】
<粒子状重合体(K)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、単量体組成物(A)に替えて、単量体組成物(K)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(K)を調製した。
単量体組成物(K)は、芳香族ビニル単量体としてのスチレン89.9部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート10部、及び架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を混合して調製した。
【0149】
(実施例14)
スラリー組成物を調製するにあたり、結着材(α)を含む水分散液に替えて、以下のようにして調製した結着材(β)を含む水分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0150】
<結着材(β)を含む水分散液の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)120」)0.15部、及び重合開始剤としての過流酸アンモニウム0.5部を供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器で、イオン交換水50部、乳化剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)120」)0.5部、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート70部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン25部、架橋性単量体としてのアリルグリシジルエーテル1.7部及びアリルメタクリレート0.3部、並びに酸基含有単量体としてのアクリル酸3部を混合して、単量体組成物(β)を調製した。
得られた単量体組成物(β)を4時間かけて上述した撹拌機を備えた反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、70℃で反応を行った。添加終了後、更に80℃で3時間撹拌してから反応を終了し、粒子状の結着材(β)を含む水分散液を得た。得られた粒子状の結着材(β)は、体積平均粒子径が0.3μmであり、ガラス転移温度は-35℃あった。
【0151】
(実施例15)
スラリー組成物を調製するにあたり、結着材(α)を含む水分散液に替えて、以下のようにして調製した結着材(γ)を含む水分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0152】
<結着材(γ)を含む水分散液の調製>
脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン33部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン62部、カルボン酸基含有単量体としてのイタコン酸4部、連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、及び乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.3部を含む混合物を容器Aに投入した。そして、容器A中の混合物を耐圧容器Bに添加することを開始すると同時に、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を耐圧容器Bに添加することを開始し、重合反応を開始した。その際、反応温度は75℃を維持した。
また、重合開始から4時間後(即ち、上記混合物の70%を耐圧容器Bへと添加した後)に、水酸基含有単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート(アクリル酸-2-ヒドロキシエチル)1部を1時間30分にわたって耐圧容器Bに加えた。
重合開始から5時間30分後に、上述した単量体の全量の添加が完了した。その後、更に85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し、反応を停止して、粒子状の重合体(γ1)を含む混合物を得た。得られた混合物に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。そして、冷却し、粒子状の結着材(γ)としてのスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)を含む水分散液(固形分濃度:40%)を得た。得られた粒子状の結着材(γ)は、体積平均粒子径が0.18μmであり、ガラス転移温度は15℃であった。
【0153】
(比較例1)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、シード重合法を用いて以下のようにして調製した粒子状重合体(V)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0154】
<粒子状重合体(V)の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン79.9部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート18部、酸基含有単量体単位としてのメタクリル酸2部、及びジ(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を含む単量体組成物(V1)、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、並びに重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が96%になった時点で、冷却し反応を停止して、シード粒子(VS1)を含む水分散液を得た。なお、シード粒子(VS1)の体積平均粒子径は500nmであった。
シード粒子(VS1)を含む水分散液に対し、更に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン2077.4部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート494部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸52部、及びジ(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート2.6部を含む単量体組成物(V2)を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が96%になった時点で、冷却し反応を停止して、シード粒子(VS2)を含む水分散液を得た。なお、シード粒子(VS2)の体積平均粒子径は1.5μmであった。
更に、シード粒子(VS2)を含む水分散液に対し、芳香族ビニル単量体としてのスチレン559.3部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート133部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸14部、及びジ(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.7部を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が96%になった時点で、冷却して反応を停止して、粒子状重合体(V)を含む水分散液を得た。
【0155】
(比較例2)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、シード重合法を用いて以下のようにして調製した粒子状重合体(W)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0156】
<粒子状重合体(W)の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニ単量体としてのスチレン75部、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸4部、及びジ(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1部を含む単量体組成物(W1)、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.2部、イオン交換水150部、並びに重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が96%になった時点で、冷却して反応を停止し、シード粒子(WS1)を含む水分散液を得た。
シード粒子(WS1)を含む水分散液に対し、更に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン75000部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20000部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸4000部、及びジ(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1000部を含む単量体組成物(W2)を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が96%になった時点で、冷却し反応を停止して、粒子状重合体(W)を含む水分散液を得た。
【0157】
(比較例3)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(X)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0158】
<粒子状重合体(X)の調製>
実施例5で作製した粒子状重合体(E)を粗粉砕した。得られた粗粉砕物を、ジェットミル(ホソカワミクロン社製、「200AFG」)を用いて、粉砕エア圧500(kPa)の下、ロータ回転数7000(rpm)で微粉砕することで、粒子状重合体(X)を得た。
【0159】
(比較例4)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(Y)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0160】
<粒子状重合体(Y)の調製>
粒子状重合体を調製するにあたり、実施例1で用いた水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(A)に替えて、以下のようにして調製した水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(Y)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状重合体(Y)を得た。
【0161】
[水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(Y)の調製]
イオン交換水200部に塩化マグネシウム4.0部を溶解してなる水溶液(Y1)に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム2.8部を溶解してなる水溶液(Y2)を撹拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムを含むコロイド分散液(Y)を調製した。
【0162】
(比較例5)
スラリー組成物を調製するにあたり、粒子状重合体(A)に替えて、以下のようにして調製した粒子状重合体(Z)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、機能層付きセパレータ、正極、及び負極を作製し、リチウムイオン二次電池を得た。そして、実施例1と同様にして、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0163】
<粒子状重合体(Z)の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン79.9部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート18部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸2部、及び架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.1部を含む単量体組成物(Z1)、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、並びに、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が96%になった時点で、冷却し反応を停止して、粒子状重合体(Z)を含む水分散液を得た。
【0164】
【表1】
【0165】
【表2】
【表3】
【0166】
なお、表1~3中、
「ST」は、スチレンを示し、
「2EHA」は、2-エチルヘキシルアクリレートを示し、
「EDMA」は、エチレングリコールジメタクリレートを示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレートを示し、
「AN」は、アクリロニトリルを示し、
「MAA」は、メタクリル酸を示し、
「MMA」は、メチルメタクリレートを示し、
「AGE」は、アリルグリシジルエーテルを示し、
「AMA」は、アリルメタクリレートを示し、
「AA」は、アクリル酸を示し、
「SBR」は、スチレン-ブタジエン共重合体を示す。
【0167】
表1~3より、平均円形度が0.90以上0.99未満であり、且つ、体積平均粒子径が1.0μm以上10.0μm以下である粒子状重合体と、結着材と、無機粒子とを含むスラリー組成物(機能層用組成物)を使用した実施例1~15により、粉落ちが抑制され、高い耐熱性を確保しつつ、セパレータと電極とを電解液中において強固に接着する機能層を形成することができることが分かる。そして、当該機能層を用いることで、良好な電気化学特性を有する二次電池が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明によれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を効率的に形成可能な電気化学素子機能層用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、粉落ちが抑制され、且つ、十分な耐熱性を確保しつつ、優れた接着性を発揮し得る電気化学素子用機能層を提供することができる。
そして、本発明によれば、優れた電気化学特性を発揮し得る電気化学素子を提供することができる。