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特許7552584自己吸着性発泡シート用組成物および自己吸着性発泡積層シート
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  • 特許-自己吸着性発泡シート用組成物および自己吸着性発泡積層シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】自己吸着性発泡シート用組成物および自己吸着性発泡積層シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/30 20060101AFI20240910BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240910BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240910BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240910BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08J9/30
B32B27/00 Z
B32B27/30 A
B32B5/18
C08K5/00
C08L33/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021509393
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012727
(87)【国際公開番号】W WO2020196406
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019061147
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】芦田 真資
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-001741(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151274(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147680(WO,A1)
【文献】特開2006-176693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B32B 1/00- 43/00
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
301/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸単量体単位を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含む重合体と、
架橋剤と、
前記重合体100質量部当たり1.5質量部以上の高級脂肪酸塩と、
を含有し、
前記重合体がN-メチロール基を有さず、
前記不飽和カルボン酸単量体単位がイタコン酸単位、アクリル酸単位およびメタクリル酸単位から選択され、
前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤および/またはエポキシ系架橋剤であり、
前記高級脂肪酸塩がステアリン酸塩および/または牛脂脂肪酸塩である、自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項2】
前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤である、請求項1に記載の自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項3】
前記重合体が、更に(メタ)アクリレート単量体単位を35質量%以上99質量%以下の割合で含む、請求項1または2に記載の自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート単量体単位が、アルキル基の炭素原子数が1以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含む、請求項3に記載の自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリレート単量体単位が、アルキル基の炭素原子数が4以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含む、請求項3に記載の自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項6】
更に両性界面活性剤を含有する、請求項1~の何れかに記載の自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項7】
前記高級脂肪酸塩がステアリン酸塩である、請求項1~の何れかに記載の自己吸着性発泡シート用組成物。
【請求項8】
基材と、請求項1~の何れかに記載の自己吸着性発泡シート用組成物を用いて形成される自己吸着性発泡シートとを備える、自己吸着性発泡積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己吸着性発泡シート用組成物および自己吸着性発泡積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、窓ガラス等の平滑な被着体に貼り付けて使用する貼着シートとして、微細な空孔を多数有する発泡材料からなり、自己吸着性を有するシート状の部材、即ち自己吸着性発泡シート(以下、「発泡シート」と略記する場合がある。)が使用されている。自己吸着性発泡シートの接着様式は、糊接着ではなく、微細な空孔を利用した被着体への吸着である。従って、自己吸着性発泡シートは、従来の糊接着を採用した貼着シートに比べて貼り直しが容易であり、例えば、壁紙、ポスター、ステッカーといった用途に好適に使用される。そして、これらの用途に用いるに際し、自己吸着性発泡シートは、通常、基材と積層された自己吸着性発泡積層シート(以下、「積層シート」と略記する場合がある。)の形態で使用される。この自己吸着性発泡積層シートの基材側の表面に印刷等の装飾が施されることで、上述した用途に有利に使用することができる。
【0003】
そして、従来から、自己吸着性発泡積層シートの性能を高めるべく、当該積層シートを構成する発泡シートの調製に用いられる組成物(以下、「自己吸着性発泡シート用組成物」といい、「発泡シート用組成物」と略記する場合がある。)の改良が行われている。
例えば、近年、自己吸着性発泡積層シートは屋外で使用される場合が多い。そのため、自己吸着性発泡積層シートには、長時間日光や雨に曝された後であっても、被着体から剥がした際に、樹脂からなる発泡シートの一部が被着体表面に残存するのを抑制する(即ち、耐候後の被着体への樹脂残りを抑制する)ことが求められていた。
【0004】
このような課題に対し、特許文献1では、所定の性状を有する重合体と、架橋剤とを含む発泡シート用組成物が提案されている。そして、特許文献1の発泡シート用組成物から形成される発泡シートを備える積層シートによれば、耐候後であっても、被着体としてのガラスへの樹脂残りを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/151274号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、積層シートは、その用途の多様化により、ガラスのみならず金属に貼り付けて用いられる機会が増大している。そして、本発明者の検討によれば、上記従来の技術で得られる積層シートは、耐候後におけるガラスへの樹脂残りを抑制できる一方で、耐候後における金属(特には、ステンレス鋼(SUS))への樹脂残りを十分に抑制することについては、未だ改善の余地があった。
また、積層シートには、発泡シート側の面を被着体に吸着させる際に、発泡シートと被着体の間に残存する空気溜まりを容易に除去することができる性質(即ち、エア抜け性に優れること)が求められる。このエア抜け性についても、更なる改良の要望があった。
【0007】
そこで、本発明は、優れたエア抜け性を有しつつ、耐候後における金属への樹脂残りが抑制される自己吸着性発泡積層シート、および当該自己吸着性発泡積層シートを得るために用いうる自己吸着性発泡シート用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の重合体と、架橋剤と、所定量以上の高級脂肪酸塩とを含有する発泡シート用組成物を用いて発泡シートを形成すれば、当該発泡シートを備える積層シートのエア抜け性を高めつつ、耐候後における金属への樹脂残りを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物は、不飽和カルボン酸単量体単位を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含む重合体と、架橋剤と、前記重合体100質量部当たり1.5質量部以上の高級脂肪酸塩と、を含有することを特徴とする。このように、不飽和カルボン酸単量体単位を上述した割合で含む重合体と、架橋剤と、高級脂肪酸塩とを含有し、重合体対比の高級脂肪酸塩の配合量が上述した値以上である発泡シート用組成物を用いて発泡シートを形成すれば、当該発泡シートを備える積層シートに、優れたエア抜け性を発揮させることができ、また、当該積層シートが長時間日光や雨に曝された後であっても、金属への樹脂残りを抑制することができる。
なお、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
また、本発明において、「高級脂肪酸塩」とは、炭素原子数が8以上の高級脂肪酸アニオンと、対カチオンとで形成される塩を意味する。
【0010】
ここで、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物において、前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤であることが好ましい。架橋剤としてカルボジイミド系架橋剤を含む発泡シート用組成物を用いれば、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。
【0011】
また、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物において、前記重合体が、更に(メタ)アクリレート単量体単位を35質量%以上99質量%以下の割合で含むことが好ましい。(メタ)アクリレート単量体単位を上述した割合で含む重合体を含有する発泡シート用組成物を用いれば、良好な自着力(被着体に対する密着力)を保持しつつ、耐候後における金属への樹脂残りが一層抑制された積層シートを得ることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0012】
そして、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物において、前記(メタ)アクリレート単量体単位が、アルキル基の炭素原子数が1以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含むことが好ましい。アルキル基の炭素原子数が1以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位(以下、「C1-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位」と略記する場合がある。)を含有する重合体を含む発泡シート用組成物を用いれば、積層シートの自着力を向上させることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
また、本発明おいて、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の「アルキル基の炭素原子数」とは、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素原子の数を意味する。
【0013】
ここで、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物において、前記(メタ)アクリレート単量体単位が、アルキル基の炭素原子数が4以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含むことが好ましい。アルキル基の炭素原子数が4以上14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位(以下、「C4-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位」と略記する場合がある。)を含有する重合体を含む発泡シート用組成物を用いれば、積層シートの自着力を更に向上させることができる。
【0014】
また、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物において、前記重合体がN-メチロール基を有さないことが好ましい。N-メチロール基を有さない重合体を含む発泡シート用組成物を用いれば、当該発泡シート用組成物を発泡および硬化する際のホルムアルデヒドの生成を十分に抑制することができる。
【0015】
そして、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物は、更に両性界面活性剤を含有することが好ましい。両性界面活性剤を含む発泡シート用組成物を用いれば、耐候後であっても積層シートの自着力が過度に高まることもなく、被着体から積層シートを十分容易に剥離することができる。加えて、積層シートのエア抜け性を更に向上させることができる。
【0016】
ここで、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物において、前記高級脂肪酸塩がステアリン酸塩であることが好ましい。高級脂肪酸塩としてステアリン酸塩を含むシート用組成物を用いれば、得られる積層シートのエア抜け性を更に向上させることができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の自己吸着性発泡積層シートは、基材と、上述した何れかの自己吸着性発泡シート用組成物を用いて形成される自己吸着性発泡シートとを備えることを特徴とする。上述した発泡シート用組成物により形成される発泡シートを基材上に備える積層シートは、優れたエア抜け性を有し、また、長時間日光や雨に曝された後であっても、金属への樹脂残りが抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れたエア抜け性を有しつつ、耐候後における金属への樹脂残りが抑制される自己吸着性発泡積層シート、および当該自己吸着性発泡積層シートを得るために用いうる自己吸着性発泡シート用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る自己吸着性発泡積層シートを製造する方法の一例を説明するフローチャートである。
図2】実施例および比較例において自己吸着性発泡積層シートのエア抜け性の評価に用いた評価装置の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物は、本発明の自己吸着性発泡積層シートの構成要素である自己吸着性発泡シートを得る際に好適に用いることができる。また、本発明の自己吸着性発泡積層シートは、本発明の自己吸着性発泡シート用組成物を用いて形成された自己吸着性発泡シートを備える。
【0021】
(自己吸着性発泡シート用組成物)
本発明の発泡シート用組成物は、不飽和カルボン酸単量体単位を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含む重合体と、架橋剤と、高級脂肪酸塩とを含有し、任意に、溶媒と、その他の添加剤を更に含有する。ここで、本発明の発泡シート用組成物は、高級脂肪酸塩の配合量が、上述した重合体100質量部当たり1.5質量部以上である。
そして、本発明の発泡シート用組成物を用いて基材上に発泡シートを形成することで、優れたエア抜け性を有しつつ、耐候後における金属への樹脂残りが抑制された積層シートを得ることができる。
【0022】
<重合体>
本発明の発泡シート用組成物に用いられる重合体は、不飽和カルボン酸単量体単位を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含む重合体である。そして、重合体は、発泡シート用組成物を発泡および架橋することで、得られる発泡シートにおいて樹脂マトリックスを形成する。
【0023】
<<重合体の組成>>
ここで、重合体は、不飽和カルボン酸単量体単位を上述した割合で含み、一種または二種以上の不飽和カルボン酸単量体単位以外の単量体単位を含む。このような不飽和カルボン酸単量体単位以外の単量体単位としては、好ましくは、(メタ)アクリレート単量体単位、アルケニル芳香族単量体単位が挙げられる。また、重合体は、不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリレート単量体単位、アルケニル芳香族単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位)を含むことができる。
【0024】
[不飽和カルボン酸単量体単位]
不飽和カルボン酸単量体単位は、不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位である。
不飽和カルボン酸単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸;イタコン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノプロピル等のα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル;などを挙げることができる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの、加水分解などによりカルボン酸基に誘導することができる基を有するものも同様に使用することができる。これらの中でも、後述する架橋剤との反応性、重合体ラテックスの安定性、およびコストの観点で、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、イタコン酸がより好ましい。
なお、不飽和カルボン酸単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0025】
そして、重合体中における不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、0.1質量%以上20質量%以下であることが必要であり、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましい。重合体中における不飽和カルボン酸単量体単位の割合が0.1質量%以上であることにより、後述する架橋剤による架橋反応を十分に進行させることができる。その結果、得られる発泡シートに十分な強度を付与しつつ、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを抑制することができる。一方、重合体中における不飽和カルボン酸単量体単位の割合が20質量%以下であることにより、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことが容易になり、また、重合体の架橋が過度に進行して積層シートの自着力が損なわれるといったこともない。
【0026】
[(メタ)アクリレート単量体単位]
(メタ)アクリレート単量体単位は、(メタ)アクリレート単量体に由来する構造単位である。重合体が(メタ)アクリレート単量体単位を含むことにより、得られる発泡シートに柔軟性を付与し、良好な自着力を有する積層シートを得ることができる。
【0027】
(メタ)アクリレート単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;などを挙げることができる。
なお、(メタ)アクリレート単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
ここで、(メタ)アクリレート単量体としては、発泡シートの柔軟性を更に高めて、積層シートの自着力を一層良好に確保する観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が好ましく、C1-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体がより好ましく、C4-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が更に好ましい。
【0029】
なお、C1-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ドデシルが挙げられる。
また、C4-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ドデシルが挙げられる。
【0030】
これらの中でも、自着力およびコストの観点で、アクリル酸n-ブチルが好ましい。
【0031】
そして、重合体中における(メタ)アクリレート単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。重合体における(メタ)アクリレート単量体単位の割合が35質量%以上であれば、積層シートの自着力を十分に確保することができる。一方、重合体における(メタ)アクリレート単量体単位の割合が99質量%以下であれば、積層シートの自着力が過度に高まることもない。そのため、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。
【0032】
加えて、重合体におけるC4-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更に好ましく、62質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましい。重合体におけるC4-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位が35質量%以上であることにより、積層シートの自着力を十分に確保すると共に、積層シートの耐水性を高めることができる。そのため、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。一方、重合体におけるC4-14(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の割合が90質量%以下であれば、積層シートの自着力が過度に高まることもない。そのため、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。
【0033】
[アルケニル芳香族単量体単位]
アルケニル芳香族単量体単位は、アルケニル芳香族単量体に由来する構造単位である。
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、などが挙げられる。これらの中でも、重合性やコストの観点で、スチレンが好ましい。
なお、アルケニル芳香族単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0034】
そして、重合体中におけるアルケニル芳香族単量体単位の割合は、重合体に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、12質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。重合体中におけるアルケニル芳香族単量体単位の割合が1質量%以上であれば、アルケニル芳香族単量体単位の疎水性に基づいて発泡シートへの水の浸入を防ぐことができ、積層シートの耐水性を高めることができる。そのため、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。一方、重合体中におけるアルケニル芳香族単量体単位の割合が50質量%以下であれば、得られる発泡シートの柔軟性を十分に確保して、良好な自着力を有する積層シートを得ることができる。
【0035】
[その他の単量体単位]
その他の単量体単位は、上述した単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構造単位である。
ここで、その他の単量体としては、例えば、共役ジエン単量体、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル単量体、シアン化ビニル単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体、オレフィン系単量体、その他官能基を有する単量体などを挙げることができる。これらの単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。そして、このようなその他の単量体の具体例としては、特に限定されず、例えば国際公開第2018/151274号に記載されたものを用いることができる。
【0036】
なお、重合体は、発泡シート用組成物を発泡および硬化する際のホルムアルデヒドの生成を十分に抑制する観点から、N-メチロール基を有さないことが好ましい。より具体的には、重合体は、N-メチロール基を有する単量体単位を含まないことが好ましい。
ここで、N-メチロール基を有する単量体としては、例えば、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドが挙げられる。
【0037】
<<重合体の調製方法>>
重合体を得る際の重合方法は、特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などのいずれであってもよく、これら以外の方法でもよい。重合に用いる重合開始剤、乳化剤、分散剤等の種類や量にも特に制限はない。重合に際して、単量体、重合開始剤、乳化剤、分散剤等の添加方法にも特に制限はない。また、重合温度や圧力、撹拌条件等にも制限はない。
なお、重合体は、固体状で用いることもできるが、乳化重合で得たラテックスや、重合体を後乳化して得たラテックスなど、重合体を含むラテックス(重合体ラテックス)の状態で使用すると、架橋剤や高級脂肪酸塩等と混合する上で操作が容易であり、また、得られる発泡シート用組成物を発泡させるにも都合がよい。
【0038】
<<重合体の性状>>
ここで、重合体の溶解パラメータ(SP値)は、9.7(cal/cm1/2(19.9(MPa)1/2)以下であることが好ましく、9.6(cal/cm1/2(19.7(MPa)1/2)以下であることがより好ましく、9.0(cal/cm1/2(18.4(MPa)1/2)以下であることが更に好ましい。重合体の溶解パラメータが9.7(cal/cm1/2以下であれば、適切な自着力を有する積層シートを作製し易くなる。更に、積層シートの耐水性を高めることができ、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。
また、重合体の溶解パラメータの下限値は、特に限定されるものではないが、通常、8.5(cal/cm1/2(17.4(MPa)1/2)以上である。
なお、重合体の溶解パラメータは、Hoyの原子団寄与法を用いて計算することができる。
【0039】
また、重合体のガラス転移温度は、-10℃以下であることが好ましく、-13℃以下であることがより好ましく、-17℃以下であることが更に好ましく、-20℃以下であることが特に好ましい。重合体のガラス転移温度が-10℃以下であれば、積層シートの自着力を十分に確保しつつ、積層シートが被着体と良好に密着することで被着体と積層シートの層間に水分が侵入するのを防ぐことができる。そのため、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。
また、重合体のガラス転移温度の下限値は、特に限定されないが、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを十分に抑制する観点から、-40℃以上であることが好ましい。
【0040】
なお、重合体のガラス転移温度は、本明細書の実施例に記載された方法を用いて測定することができる。
【0041】
ここで、重合体は、特に限定されないが、上述した通り、重合体ラテックスの形態で発泡シート用組成物の調製に用いることができる。そして、重合体ラテックスの固形分濃度としては、得られる発泡シートの密度維持などの観点から、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、52質量%以上であることが特に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、58質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
<架橋剤>
架橋剤としては、上述した重合体(特には、上述した重合体の不飽和カルボン酸単量体単位)と架橋構造を形成しうるものであれば特に限定されない。このような架橋剤としては、例えば、カルボジイミド系架橋剤;エポキシ系架橋剤;オキサゾリン系架橋剤;トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート等の多官能性イソシアネート系架橋剤;金属塩系架橋剤;金属キレート系架橋剤;過酸化物系架橋剤;などが挙げられる。中でも、カルボジイミド系架橋剤が好ましく用いられ、特に、2以上のカルボジイミド基を一分子内に有する化合物が更に好ましく用いられる。
【0043】
そして、カルボジイミド系架橋剤は、既知の手法により合成してもよく、市販品を使用してもよい。市販品のカルボジイミド系架橋剤としては、例えば、DIC社製の「DICNAL(登録商標) HX」、日清紡ケミカル製の「カルボジライト(登録商標)」などが挙げられる。カルボジイミド系架橋剤を合成する場合には、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下、ポリイソシアネートを脱炭酸縮合反応することで、カルボジイミド系架橋剤としてのポリカルボジイミド化合物を得ることができる。
カルボジイミド系架橋剤は、それが有するカルボジイミド基と上記重合体中の不飽和カルボン酸単量体単位との反応により、重合体の分子内又は分子間に架橋構造を形成する。カルボジイミド系架橋剤は、特に低温での架橋効果に優れ、適度な自着力を有し、強度に優れた発泡シートが形成することができる。そのため、架橋剤としてカルボジイミド系架橋剤を含む発泡シート用組成物を用いれば、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを一層抑制することができる。
【0044】
なお、本発明においては、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂等のホルムアルデヒドを発生する原因となる架橋剤は使用しないことが好ましい。
【0045】
ここで、発泡シート用組成物中の架橋剤の配合量は、上述した重合体100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることが更に好ましく、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。架橋剤の配合量が上述した範囲内であることにより、強度や弾性を適度に保った発泡シートを得ることができる。そして、積層シートの自着力を確保すると共に、(特に耐候後における)積層シートの金属への樹脂残りを十分に抑制することができる。
【0046】
<高級脂肪酸塩>
高級脂肪酸塩は、上述した通り炭素原子数が8以上の高級脂肪酸アニオンと、対カチオンとで形成される塩である。ここで、高級脂肪酸塩は、整泡剤として機能しうる物質である。そして、上述した重合体に対し高級脂肪酸塩を所定量以上配合された発泡シート用組成物を発泡剤および硬化して発泡シートを形成することで、発泡シートの連泡構造および耐水性が改善するためと推察されるが、当該発泡シートを備える積層シートのエア抜け性を向上させると共に、耐候後における金属への樹脂残りを抑制することができる。
なお、高級脂肪酸塩は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
高級脂肪酸塩を構成する高級脂肪酸アニオンは、炭素原子数が8以上の高級脂肪酸に由来するものである。
そして、高級脂肪酸アニオン(および高級脂肪酸)の炭素原子数は、上述の通り8以上であることが必要であり、10以上であることが好ましく、14以上であることが更に好ましく、16以上であることが特に好ましく、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。高級脂肪酸アニオンの炭素原子数が8未満であると、積層シートの耐候後における金属への樹脂残りを抑制することができない。一方、高級脂肪酸アニオンの炭素原子数が25以下であることで、積層シートのエア抜け性を更に向上させることができる。
【0048】
ここで、炭素原子数が8以上の高級脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、カプロレイン酸、ウンデシレン酸、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、トリデカン酸、テトラメチルノナン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンドイン酸、エルカ酸、セラコレイン酸、リノール酸、エライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、2-ヘキシルデカン酸、ヤシ油脂肪酸(硬化物、半硬化物を含む)、パーム油脂肪酸(硬化物、半硬化物を含む)、パーム核油脂肪酸(硬化物、半硬化物を含む)、牛脂脂肪酸(硬化物、半硬化物を含む)などが挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
高級脂肪酸塩を構成する対カチオンとしては、特に限定されないが、アンモニウムイオン(NH4+)、カルシウムイオン(Ca2+)、カリウムイオン(K)、ナトリムイオン(Na)などが挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
ここで、高級脂肪酸塩としては、積層シートのエア抜け性の向上および耐候後における金属への樹脂残り抑制を一層バランス良く達成する観点からは、ステアリン酸塩、牛脂脂肪酸塩が好ましい。更に、積層シートのエア抜け性を一層向上させる観点から、ステアリン酸塩がより好ましく、ステアリン酸アンモニウムが更に好ましい。
【0051】
そして、発泡シート用組成物中の高級脂肪酸塩の配合量は、上述した重合体100質量部当たり、1.5質量部以上であることが必要であり、2.0質量部以上であることが好ましく、3.0質量部以上であることがより好ましく、3.6質量部以上であることが更に好ましく、10.0質量部以下であることが好ましく、7.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以下であることが更に好ましい。高級脂肪酸塩の配合量が、重合体100質量部当たり1.5質量部未満であると、積層シートのエア抜け性が低下し、また、耐候後における金属への樹脂残りを十分に抑制することができない。一方、高級脂肪酸塩の配合量が、重合体100質量部当たり10.0質量部以下であれば、積層シートのエア抜け性を更に向上させることができる。
【0052】
<溶媒>
本発明の発泡シート用組成物が任意に含みうる溶媒としては、特に限定されないが、水が好ましい。ここで、溶媒として水を用いる場合、発泡シート用組成物に含まれる水は、例えば、重合体ラテックス由来の水とすることができる。
【0053】
<その他の添加剤>
本発明の発泡シート用組成物は、任意に、発泡シートおよび積層シートの製造工程における加工性向上や、得られる発泡シートおよび積層シートの性能向上のために、各種添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば、上述した高級脂肪酸以外の整泡剤(その他の整泡剤)、発泡助剤、増粘剤、充填材、防腐剤、防かび剤、ゲル化剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与剤、導電性化合物、耐水剤、耐油剤などを挙げることができる。なお、上述したその他の添加剤の具体例としては、特に限定されることなく、既知の添加剤、例えば国際公開第2016/147679号に記載されているものを用いることができる。
【0054】
ここで、本発明の発泡シート用組成物は、その他の整泡剤として、両性界面活性剤を含むことが好ましい。そして、両性界面活性剤としては、カルボン酸型両性界面活性剤が好ましく、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインがより好ましく、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインが更に好ましい。両性界面活性剤を含む発泡シート用組成物を用いれば、耐候後に積層シートの自着力が過度に高まることもなく、被着体から積層シートを十分容易に剥離することができる。加えて、積層シートのエア抜け性を更に向上させることができる。
なお、両性界面活性剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
そして、発泡シート用組成物中の両性界面活性剤の配合量は、上述した重合体100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.9質量部以上であることが更に好ましく、5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることが更に好ましい。両性界面活性剤の配合量が、重合体100質量部当たり0.1質量部以上であれば、耐候後に積層シートの自着力が過度に高まることを十分に抑制すると共に、積層シートのエア抜け性をより一層向上させることができる。一方、両性界面活性剤の配合量が、重合体100質量部当たり5.0質量部以下であれば、積層シートの耐水性が確保され、耐候後に積層シートが被着体から意図せず剥がれることを十分に防ぐことができる。
【0056】
また、本発明の発泡シート用組成物中に含まれる両性界面活性剤の配合量と、高級脂肪酸塩の配合量の比率は、特に限定されないが、両性界面活性剤の配合量を高級脂肪酸塩の配合量で除した値(両性界面活性剤/高級脂肪酸塩)が、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.2以上であることが更に好ましく、0.25以上であることが特に好ましく、1以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。両性界面活性剤/高級脂肪酸塩の値が上述した範囲内であれば、耐候後における積層シートの自着力が更に良好に制御されると共に、積層シートのエア抜け性をより一層良好なものとすることができる。
【0057】
(自己吸着性発泡積層シート)
本発明の積層シートは、上述した本発明の発泡シート用組成物を用いて得られる発泡シートからなる発泡層と、当該発泡層を支持する支持体層としての基材とを有するものである。なお、発泡シートは、基材上に直接形成されていてもよいし、基材上に任意の層を介して形成されていてもよい。
【0058】
<自己吸着性発泡シート>
本発明の積層シートにおける発泡層を形成する自己吸着性発泡シートは、本発明の発泡シート用組成物を架橋および発泡することで形成される。
ここで、自己吸着性発泡シートの密度としては、特に限定されないが、0.1g/cm以上1.0g/cm以下であることが好ましく、0.3g/cm以上0.8g/cm以下であることがより好ましく、0.5g/cm以上0.7g/cm以下であることが更に好ましい。発泡シートの密度が0.1g/cm以上であれば、発泡シートの強度が確保され、1.0g/cm以下であれば、積層シートのエア抜け性を十分に確保しつつ、金属への樹脂残りを十分に抑制することができる。
なお、発泡シートの密度は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
また、発泡シートの厚みは、0.03mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましく、0.2mm以下であることが特に好ましい。発泡シートの厚みが0.03mm以上であれば、発泡シートおよび積層シートの機械強度を十分に確保することができる。一方、発泡シートの厚みが3mm以下であれば、エア抜け性と繰り返しの貼り付け性(リワーク性能)に優れた積層シートを得ることができる。
【0059】
<基材>
本発明の積層シートにおける基材としては、上述した発泡シートを支持しうるものであれば特に限定されず、紙基材、合成紙基材、プラスチックシート基材などの既知の基材を用いることができる。
なお、基材の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上200μm以下とすることができる。
【0060】
<<紙基材>>
紙基材としては、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、クラフト紙、これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙が挙げられる。
【0061】
<<合成紙基材>>
合成紙基材としては、例えば、熱可塑性樹脂と無機充填剤との組み合わせにより表層を紙化してなるシート状基材が挙げられる。
【0062】
<<プラスチック基材>>
プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;およびこれらの樹脂の混合物又は積層物からなるシート状基材が挙げられる。
【0063】
<自己吸着性発泡積層シートの製造方法>
以下、本発明の積層シートを製造する方法の一例について説明する。
【0064】
図1に、積層シートを製造する方法S10(以下、「製造方法S10」と略記することがある。)の一例を説明するフローチャートを示す。図1に示すように、製造方法S10は、組成物作製工程S1と、発泡工程S2と、シート化工程S3とをこの順に含む。以下、各工程について説明する。
【0065】
<<組成物作製工程S1>>
組成物作製工程S1は、自己吸着性発泡シート用組成物を作製する工程である。
【0066】
具体的には、組成物作製工程S1においては、必須成分である所定の重合体、架橋剤、および高級脂肪酸塩を含み、所望により用いられる溶媒およびその他の添加剤を、任意の方法で混合することにより、発泡シート用組成物を作製することができる。
【0067】
例えば、発泡シート用組成物の調製に重合体ラテックスを用いる場合には、この重合体ラテックスに、架橋剤と、高級脂肪酸塩と、任意に用いられるその他の添加剤とを添加して既知の方法で混合すればよい。
【0068】
なお、発泡シート用組成物の調製に溶媒を使用せず、固形状の重合体を用いる場合には、固形状の重合体と、架橋剤と、高級脂肪酸塩と、任意に用いられるその他の添加剤とを既知の方法(例えば、既知のロール、ヘンシェルミキサー、ニーダー等を使用)で混合すればよい。
【0069】
ここで、溶媒を含む発泡シート用組成物(例えば、エマルションまたはディスパージョンの形態をとる。)の粘度は、1,000mPa・s以上10,000mPa・s以下とするのが好ましく、2,000mPa・s以上10,000mPa・s以下とするのがより好ましく、3,500mPa・s以上5,500mPa・s以下とするのがより好ましい。発泡シート用組成物の粘度が1,000mPa・s以上であれば、発泡シート用組成物から形成される発泡体を基材上にコーティングして発泡シートを形成する際に液ダレが生じて厚みの制御が困難になるのを防止することができる。一方、発泡シート用組成物の粘度が10,000mPa・s以下であれば、発泡シートを形成する際に機械発泡による発泡倍率の制御が困難になることもない。
なお、発泡シート用組成物の粘度は、本明細書の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0070】
<<発泡工程S2>>
発泡工程S2は、発泡シート用組成物を発泡させ、発泡シート用組成物の発泡体を得る工程である。
【0071】
具体的には、発泡工程S2においては、上記組成物作製工程S1で作製した発泡シート用組成物を発泡させることにより、未固化(未架橋)状態の発泡体を得ることができる。ここで、発泡シート用組成物がエマルション又はディスパージョンの形態である場合には、発泡エマルション又は発泡ディスパージョンが得られる。
【0072】
発泡の方法としては、通常、機械発泡を採用する。発泡倍率は、適宜、調整すればよいが、通常1.2倍以上5倍以下、好ましくは1.5倍以上4倍以下である。機械発泡の方法は、特に限定されないが、発泡シート用組成物のエマルジョン又はディスパージョン中に一定量の空気を混入しオークスミキサー、ホイッパー等により連続的又はバッチ式に撹拌することにより行うことができる。こうして得られた発泡エマルジョン又は発泡ディスパージョンはクリーム状になる。
上記機械発泡により細孔を形成することで、更に後述のシート化工程S3を経て、エア抜け性に優れた発泡シートが得られる。なお、発泡倍率が、1.2倍以上であると、エア抜け性が低下するのを防止することができ、5倍以下であると、発泡シートの強度が低下するのを防止することができる。
【0073】
<<シート化工程S3>>
シート化工程S3は、発泡体をシート状に成形した後、発泡体の架橋反応を行うことで、発泡シートを作製する工程である。
【0074】
シート化工程S3において、上記発泡工程S2で作製した発泡体をシート状に成形する方法は特に限定されない。好適な方法としては、例えば、所望の基材の上に発泡体をコーティングしてシート状に成形する方法が挙げられる。このように、所望の基材上へ発泡体のコーティングを行い、架橋反応を進行させれば、基材上に直接発泡シートが設けられた積層シートを得ることができる。
【0075】
なお、発泡体のコーティングは、上記基材に替えて、離型性シート(離型性を有する工程紙など)の上に行うこともできる。離型性シートの上へ発泡体のコーティングを行い、架橋反応を進行させれば、離型性シートの上に直接発泡シートが設けられた積層体を得ることができる。そして、この積層体の発泡シートから離型性シートを剥離させることで、発泡シートを単独で(独立膜として)得ることができる。
【0076】
発泡体を基材または離型性シート(以下、これらを纏めて「基材等」という場合がある。)の上へコーティングする方法としては、アプリケーター、バーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、スクリーンコーター、ドクターナイフコーター、コンマナイフコーター等の一般に知られているコーティング装置が使用することができる。
【0077】
基材等の上で、シート状にコーティングされた発泡体を架橋する方法としては、発泡体を加熱乾燥する方法が好ましい。加熱乾燥の方法としては、基材等の上にコーティングされた発泡体を乾燥、架橋させることができる方法であれば特に限定されず、既知の乾燥炉(例えば、熱風循環型のオーブン、熱油循環熱風チャンバー、遠赤外線ヒーターチャンバー)を使用することができる。乾燥温度は、例えば60℃以上180℃以下とすることができる。また、乾燥を一定温度で実施するのではなく、乾燥初期には低温で内部から乾燥させ、乾燥後期に、より高温で十分乾燥させるような多段階乾燥を行うことが好ましい。
【0078】
なお、発泡シートの性状(密度、厚み、硬度等)は、例えば、気泡の混入比率、発泡シート用組成物の組成、固形分濃度、乾燥および架橋の条件等を変更することにより、調整することができる。
【0079】
上述した工程S1~S3を経て得られた積層シートは、特に限定されないが、例えば、自己吸着性を有する面(即ち、発泡シート側の面)にセパレーターフィルムが貼られた後、巻取機によって巻き取られ、プレス裁断、スリッター等により裁断されて使いやすいサイズに加工することができる。
【0080】
<積層シートの用途>
本発明の積層シートは、その基材面に、たとえば、オフセット印刷、シール印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、レーザープリンター、熱転写プリンター、インクジェットプリンター等による印刷を施すことができる。
基材面に印刷を施した積層シートは、例えば、販売促進カード、いわゆるPOPカード(ポスター、ステッカー、ディスプレイ等)、園芸用POP(差しラベル等)、ロード・サイン(葬式・住宅展示場所等)、表示板(立ち入り禁止、林道作業等の)等の屋外での用途に、有利に使用することが可能である。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、ここで用いる「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
なお、実施例および比較例において、重合体の溶解パラメータおよびガラス転移温度、発泡シート用組成物の粘度、発泡シートの密度、並びに、積層シートのエア抜け性、ガラスに対する自着力(初期および耐候後)、SUSに対する自着力(初期および耐候後)、耐候後におけるガラスへの樹脂の残り、および耐候後におけるSUSへの樹脂の残りは、下記の方法で測定または評価した。
【0082】
<重合体の溶解パラメータ>
重合体の溶解パラメータ(SP値)は、Hoyによる原子団寄与法を用いて計算した。
<重合体のガラス転移温度>
重合体ラテックスを厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に250μmのアプリケーターで塗布し、常温下で24時間乾燥させて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成されたフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム以外)をサンプルとして、JIS K 7121に準じて、測定温度-50℃以上160℃以下、昇温速度10℃/分の条件で、示差走査熱量分析計(日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7000X」)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
<発泡シート用組成物の粘度>
B型粘度計(リオン社製、「VISCOTESTER VT-06」)を用いて、23℃で発泡シート用組成物の粘度を測定した。
<発泡シートの密度>
積層シートを作製後、20cm×20cmのサイズに切り出した試験片を用意した。切り出した試験片の質量:Xgを精秤し、また、20cm×20cmに切り出した基材の質量:Ygを精秤した。その後、作製した積層シートおよび基材の厚みを厚み計にてそれぞれ計測し、積層シートの厚みから基材の厚みを差し引くことで、発泡シートの厚み:Tcmを得た。このとき、厚みの値は5点測定した際の平均値より算出した。測定したX、Y、およびTの値を次式に代入することにより、発泡シートの密度を算出した。
密度(g/cm)=(X-Y)/(T×20×20)
<積層シートのエア抜け性>
<<評価装置>>
エア抜け性の評価は、図2で示される評価装置100を用いて行った。図2に示す評価装置100は、発泡シート51と基材52が積層してなる積層シート50のエア抜け性を評価する装置であり、貫通孔11を有する試料固定板10と、試料固定板10の他方の表面側(図2では上側)から一方の表面側(図2では下側)へと貫通孔11を介して気体としての空気を一定の圧力で圧送する気体圧送機構40とを備えている。
ここで、気体圧送機構40は、試料固定板10の他方の表面側で試料固定板10の貫通孔11に先端が接続されたシリンジ20と、錘30とを有している。そして、シリンジ20は、先端を鉛直方向下側(図2では下側)に向けて試料固定板10に接続されており、試料固定板10の貫通孔11に挿入および固定された針21と、先端(図2では下側端)が針21を介して貫通孔11に接続されている円筒状の外筒22と、外筒22の後端側から外筒22内に挿通されるピストン23とを備えている。
なお、錘30は、ピストン23の後端(図2では上側端)に設けられたフランジ上に取り付けられている。
また、上述した構成を有する気体圧送機構40では、ピストン23および錘30の自重によりピストン23が外筒22内へと押し込まれ、外筒22内の空気が針21および貫通孔11を介して試料固定板10の一方の表面側(発泡シート51)へと一定の圧力で圧送される。
そして、上述した構成を有する評価装置100では、例えば、針21が固定された試料固定板10の一方(針21側とは反対側)の表面に、積層シート50を貫通孔11を覆うように貼り付けた後(工程(A))、錘30を取り付けたピストン23を先端からの距離がLとなる位置まで挿入した外筒22を針21に接続し、ピストン23および錘30の自重でピストン23が距離Lを進むまでに要する時間を測定することにより(工程(B))、積層シート50のエア抜け性を評価することができる。即ち、外筒22内の空気はピストン23および錘30の自重により一定の圧力で貫通孔11から押し出されるところ、距離Lを一定とし、外筒22内から押し出される空気の量を一定にすれば、エア抜け性が低い積層シート50ほど距離Lを進むまでの時間が長くなり、エア抜け性が高い積層シート50ほど距離Lを進むまでの時間が短くなる。従って、ピストン23が距離Lを進むまでに要する時間によって積層シート50のエア抜け性を定量的に評価することができる。また、圧送される空気の量および圧力が一定の条件下で評価することができるので、高い繰り返し精度でエア抜け性を評価することができる。更に、積層シート50を試料固定板10に貼り付けた状態で評価することができるので、被着体に貼り付けた状態における積層シート50のエア抜け性を正確に評価することができる。
なお、試料固定板10としては厚さ1mmの透明なポリカーボネート板(50mm×50mm)を使用し、シリンジ20としては直径2mmの金属製シリンジ針を有する容量2mLのガラス製シリンジを使用し、錘30としてはピストン23に両面テープで取り付けられた重さ30gの錘を用いた。
<<評価手順>>
積層シートを作製後40mm×40mmのサイズにカットし、評価対象の試料とした。
そして、準備した試料の発泡シート側の面を、針21が固定された試料固定板10の一方(針21側とは反対側)の表面に、貫通孔11を覆うように且つ空気が入らないように貼り付けた後(工程(A))、錘30を取り付けたピストン23を目盛が2mLとなる位置まで挿入した外筒22を針21に接続した。その後、錘30およびピストン23から手を離し、ピストン23および錘30の自重で落ち切るまで(即ち、2mLの空気が圧送されるまで)に要する時間を測定した(工程(B))。この測定操作を3回繰り返し、測定した時間の平均値を算出した。この値が小さいほど、積層シートがエア抜け性に優れることを示す。
<積層シートのガラスに対する自着力(初期)>
積層シートを作製後、125mm×25mmのサイズに切り出した試験片を用意した。表面の平滑なガラス板に試験片の発泡シート側の面を貼り合わせ、試験片の上から2kgfの荷重ローラーで圧着し、23℃、50%RH環境下にて1時間放置した。その後、試験片の端部をオートグラフ(島津製作所社製、「AG-IS」)の上側チャックに固定し、ガラス板を下側チャックに固定し、23℃、50%RH環境下にて180度剥離試験を300mm/分の速度で実施した。この時の試験力(N/cm)をガラスに対する自着力(初期)とした。
<積層シートのガラスに対する自着力(耐候後)>
積層シートを作製後、125mm×25mmのサイズに切り出した試験片を用意した。表面の平滑なガラス板に試験片の発泡シート側の面を貼り合わせ、試験片の上から2kgfの荷重ローラーで圧着した。その後、試験片を貼り合わせたガラス板を試験片ホルダにつけ、サンシャインカーボンアーク(ウルトラロングライフカーボン4対)光源を有するサンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験機社製、「WEL-SUN-HC・B型」)で放電電圧50V、放電電流60Aに設定し、試験片表面への水のスプレー(模擬降雨)を実施しつつ光の照射を行い、ブラックパネル温度63℃の条件下、500時間の耐候促進処理を行った。表面スプレー(模擬降雨)時間は、18分間/2時間(表面スプレー有り18分と表面スプレー無し102分のサイクルの繰り返し)とした。耐候促進処理した試験片は、ガラス板に貼り合わせた状態で23℃、50%RH環境下にて一日放置した。その後、試験片の端部をオートグラフ(島津製作所社製、「AG-IS」)の上側チャックに固定し、ガラス板を下側チャックに固定し、23℃、50%RH環境下にて180度剥離試験を300mm/分の速度で実施した。この時の試験力(N/cm)をガラスに対する自着力(耐候後)とした。
<積層シートのSUSに対する自着力(初期)>
ガラス板に替えて、SUS板(「SUS304BA」。以下同じ。)を用いた以外は、「積層シートのガラスに対する自着力(初期)」と同様の操作を行い、SUSに対する自着力(初期)を測定した。
<積層シートのSUSに対する自着力(耐候後)>
ガラス板に替えて、SUS板を用いた以外は、「積層シートのガラスに対する自着力(耐候後)」と同様の操作を行い、SUSに対する自着力(耐候後)を測定した。
<耐候後におけるガラスへの樹脂残り>
「積層シートのガラスに対する自着力(耐候後)」測定後のガラス板(即ち、積層シートが剥離された後のガラス板)について、その表面に発泡シートの一部(樹脂)が残存していないか目視で確認し、下記基準で評価した。
A:ガラス板表面に樹脂残りが確認されない
B:ガラス板表面に樹脂残りが確認される
<耐候後におけるSUSへの樹脂残り>
「積層シートのSUSに対する自着力(耐候後)」測定後のSUS板(即ち、積層シートが剥離された後のSUS板)について、その表面に発泡シートの一部(樹脂)が残存していないか目視で確認し、下記基準で評価した。
A:SUS板表面に樹脂残りが確認されない
B:SUS板表面に樹脂残りが確認される
【0083】
(実施例1)
<重合体の調製>
脱イオン水29.0部と、(メタ)アクリレート単量体としてのアクリル酸n-ブチル70部およびメタクリル酸メチル14部、アルケニル芳香族単量体としてのスチレン14部、不飽和カルボン酸単量体としてのイタコン酸2部からなる単量体混合物と、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部(花王社製、「ネオペレックス(登録商標)G15」)と、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.5部(花王社製、「エマルゲン(登録商標)120」)とを混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。
次いで、上記とは別に、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、および撹拌機を備えたガラス製反応容器を準備し、このガラス製反応容器に、脱イオン水43.0部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.04部(花王社製、「ネオペレックスG15」)、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル0.06部(花王社製、「エマルゲン120」)を入れ、撹拌しながら、温度を80℃に昇温させた。そして、80℃を維持した状態で、脱イオン水5.7部に溶解させた過硫酸アンモニウム0.3部を添加し、続いて、上記にて得られた単量体乳化物を、4時間かけて徐々に添加した。添加終了後、さらに4時間撹拌を継続した後、冷却して反応を終了させ、反応混合物を得た。この時の重合転化率は、ほぼ100%(98%以上)であり、得られた反応混合物を、25%アンモニア水にてpH5.5に調整し、固形分濃度55%の重合体ラテックスを得た。得られた重合体ラテックスに含まれる重合体のガラス転移温度は-25℃であった。また、重合体ラテックスに含まれる重合体のSP値は9.6(cal/cm1/2であった。
<発泡シート用組成物の調製>
混合容器に、固形分換算で100部の上記重合体ラテックス(即ち、重合体ラテックスに含まれる重合体が100部)、固形分換算で2.2部のカルボジイミド系架橋剤(架橋剤、日清紡ケミカル社製、「カルボジライト E-02」)、および固形分換算で4.2部の酸化チタン水分散体(顔料、DIC社製、「DISPERSE WHITE HG-701」)を添加し、ディスパーで撹拌した。次に撹拌を継続しながら、固形分換算で1.6部のアクリル系共重合体(増粘剤、東亞合成社製、「アロン(登録商標)B-300K」)および固形分換算で3.6部のステアリン酸アンモニウム(整泡剤、サンノプコ社製、製品名「ノプコ(登録商標)DC-100-A」)をこの順に添加し、150メッシュでろ過した。最後に、アンモニアを添加して粘度を4,500mPa・sに調整して発泡シート用組成物を得た。
<積層シートの作製>
上記の通り得られた発泡シート用組成物を泡立て器で撹拌し、発泡倍率が1.6倍になるように泡立て、更に撹拌速度を落として5分間撹拌を続行した。
発泡済みの発泡シート用組成物(発泡体)を、基材(ポリエチレンテレフタレートからなる厚み50μmのシート状の基材)の上に、0.3mmのアプリケーターを用いてコーティングした。これを乾燥炉に入れ、80℃で1.33分間、120℃で1.33分間、140℃で1.33分間保持して、乾燥および架橋を実施して基材上に発泡シートを備える積層シートを得た。なお、乾燥後の発泡シートの厚みは0.133mmであった。得られた積層シートを用いて各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例2)
発泡シート用組成物の調製に際し、固形分換算で2.2部のカルボジイミド系架橋剤に替えて、固形分換算で7.3部のエポキシ系架橋剤(ジャパンコーティングレジン社製、「リカボンド(登録商標)EX-8」)を使用し、固形分換算で3.6部のステアリン酸アンモニウムに替えて、固形分換算で3.6部の半硬化牛脂脂肪酸カリウム(花王ケミカル社製、「KSソープ」)を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体、発泡シート用組成物および積層シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3)
発泡シート用組成物の調製に際し、ステアリン酸アンモニウムと同時に固形分換算で0.9部のラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(第一工業製薬社製、「アモーゲン(登録商標)SH」)を添加した以外は、実施例1と同様にして、重合体、発泡シート用組成物および積層シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
発泡シート用組成物の調製に際し、固形分換算で3.6部のステアリン酸アンモニウムに替えて、固形分換算で2.2部のアルキルベタイン両性化物・脂肪酸アルカノールアミド混合物(DIC社製、「DICNAL M-20」)、および固形分換算で1.9部のスルホン酸型アニオン界面活性剤(DIC社製、製品名「DICNAL M-40」)を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体、発泡シート用組成物および積層シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例2)
発泡シート用組成物の調製に際し、ステアリン酸アンモニウムの使用量を固形分換算で1.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体、発泡シート用組成物および積層シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1より、所定の重合体と、架橋剤と、高級脂肪酸塩を含み、高級脂肪酸塩の配合量が所定の値以上である発泡シート用組成物を用いた実施例1~3では、エア抜け性に優れると共に、耐候後であっても金属への樹脂残りが抑制された積層シートを得られていることが分かる。
一方、高級脂肪酸塩を含まない発泡シート用組成物を用いた比較例1では、積層シートのエア抜け性が低下し、また、耐候後における金属への樹脂残りを十分抑制できていないことが分かる。
また、高級脂肪酸塩を含むがその配合量が所定の値未満である発泡シート用組成物を用いた比較例2では、積層シートのエア抜け性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、優れたエア抜け性を有しつつ、耐候後における金属への樹脂残りが抑制される自己吸着性発泡積層シート、および当該自己吸着性発泡積層シートを得るために用いうる自己吸着性発泡シート用組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
S1 組成物作製工程
S2 発泡工程
S3 シート化工程
S10 積層シートを製造する方法
10 試料固定板
11 貫通孔
20 シリンジ
21 針
22 外筒
23 ピストン
30 錘
40 気体圧送機構
50 積層シート
51 発泡シート
52 基材
100 評価装置
図1
図2